説明

放射線検出器および放射線検査装置

【課題】発光量はさほど高くないが、サブナノ〜数ナノ秒という極めて短い蛍光寿命を示すシンチレータと、低発光量の光に対しても高い感度を有するとともに応答速度が速い受光素子とを組み合わせた高速応答の放射線検出器および放射線検査装置を提供する。
【解決手段】励起子発光シンチレータ22とガイガーモードAPD23とを組み合わせる。励起子発光シンチレータ22は、ZnO、Al:ZnO、Ga:ZnO、In:ZnO、Cd:ZnO、Mg:ZnO、RE:ZnO(RE=希土類元素:Sc、Y、ランタノイド)、ZrO2、HfO2、GaN、Si:GaN、Ge:GaN、Sn:GaN、Pb:GaN、In:GaN、Al:GaN、Yb:Y2O3、Gd2O3、Sc2O3、Lu2O3のうち、少なくともいずれか一種類を含み、励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器および放射線検査装置に関する。より詳細には、励起子発光シンチレータを用いる放射線検出器およびこれを用いる放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー物理やポジトロン放出型断層撮影(PET)イメージング・システムでは、シンチレータへの(核崩壊事象によって発生される)放射線の衝突に基づいて画像が作成される。被検体内に陽電子放出性医薬品が投与されると、ポジトロンと対応する電子との相互作用から、511keVのエネルギーを有する、2つの逆方向に向いたガンマ線が生じ、そのガンマ線がシンチレータ結晶の中へ入って、受光素子によって検出することのできるフォトンに変換される。被検体内の特定の位置から放出された光は、例えば、フォトダイオード(PD)、光電子増倍管(PMT)、または他の受光素子により電気信号に変換されて検出される。
【0003】
フォトダイオードは、特に放射線検出器やイメージング機器において、広範な用途を有している。現在、様々な公知のフォトダイオードが使用されている。その中で、ガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)と称される特定の形式のフォトダイオードでは、APDの逆バイアスを降伏電圧以上に設定することで内部電界が非常に高くなり、増倍率が10〜10倍と非常に大きくなる。このような状態で動作させることをガイガーモードといい、ガイガーモード時にフォトンの入射でアバランシェ層にキャリアが注入されると、非常に大きいパルスが発生する。このパルスを検出することによって、シングルフォトンの検出を行い、このフォトンがアレイに衝突する位置を突き止めることができる。このような用途での使用は、それらがアレイに衝突するフォトンの位置を検知する能力を持っているので、特に関心が持たれている。
【0004】
ところで、PETを用いた検査は、治療前の腫瘍悪性度診断、癌の浸潤範囲や転移病巣の検出などによる臨床病期の診断、治療中・治療直後の癌治療に対する反応の判定・評価、治療後の予後予測や再発診断など、癌診断について精度の高い情報を提供するものと期待され、癌臨床への応用が広まっている。しかし、癌浸潤範囲の正確な診断という観点では、PETにより得られる画像のみでは、生体臓器や組織の正確な位置情報が得にくいという欠点がある。
【0005】
一方、X線CT装置やMRI装置は、生体の解剖学的な詳細情報を正確に描出でき、医療分野において広く利用されているが、PETのような代謝機能に関する解析能は備わっていない。特にMRIは、患者または他のイメージング対象物において磁気共鳴を生成したり、空間的にエンコード化したりするものであり、高い磁場、磁場勾配及び高周波励起パルスを組み合わせている。磁気共鳴は、空間エンコードを復号し、対象物の再構成画像を生成するために、フーリエ変換又は他の再構成処理により処理される。
【0006】
このMRI装置やX線CT装置およびPET装置の互いの欠点を補い、両者の優れた特徴を利用した新しい癌診断装置として、近年、PET画像による代謝機能情報と磁気共鳴イメージングであるMRI画像による解剖学的位置情報とを同時期に収集し、両画像の重ね合わせによる診断を可能としたMRI付PET装置(MRI−PET)の開発が行われている。PETスキャナは、一般にガンマ線を光のバーストに変換するためにシンチレータを用い、そのシンチレータ事象を検出するために光電子増倍管を用いている。MRI−PETでは、強力な磁場を発するMRIを使用するため、光電子増倍管が使用できない。すなわち、光電子増倍管は、シンチレータに放射線が入射した際に発せられる蛍光を電気信号へと変換するものであるが、電子を加速して増幅する構造上、強力な磁場が存在する環境下では使用できない。このため、磁場の影響を受けず、シンチレータから発せられる蛍光を電気信号に変換可能な素子として、量子変換効率の高いモード型受光素子がMRI−PETに用いられる。
【0007】
ガイガーモードAPDは、電子の移動距離が数μmと短いので、強力な磁場が存在する環境下であっても使用することができるため、MRI−PET用の素子として適している。ガイガーモードAPDは安価で、他の受光素子と比較して低バイアス電圧動作での高い増幅率、高いフォトン検出効率、高速応答、高係数率、優れた時間分解能、広い感度波長範囲を有し、SN比が非常に優れている。さらに固体素子であるため、衝撃などに強く、入射光の飽和による焼つきがなく、冷却が不要で、常温動作でフォトカウンティングが可能であることから、フォトカウンティングに用いられてきた従来の検出器に代わる受光素子として期待されている。
【0008】
これまで、ガイガーモードAPDを利用した放射線検出器の開発がいくつか行われている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。また、特許文献1などで報告されている一般的なシンチレータ結晶は、蛍光寿命が数10nsである(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特表2008−536600号公報
【非特許文献1】E. Lorenz, I. Britvich, D. Ferenc, N. Otte, D. Renker, Z. Sadygovand A. Stoykov, “Some studies for a development of a small animal PET based onLYSO crystals and Geiger mode-APDs”, Nuclear Instruments and Methodsin Physics Research, 2007, A 572, p.259-261
【特許文献2】国際公開第2005/019862号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PET等に用いられる放射線検出器では、数え落としを少なくするため、応答速度の速いPET装置や放射線検出器が求められている。特に、PET装置では、検査時間を短くし、検査の対象となる被検体の負担を軽減する観点、及び、複数の蛍光が重なり合う現象、いわゆるパイルアップを防止して高い時間分解能を有する放射線検出器を構成する観点から、発光量が低くとも蛍光寿命が短いシンチレータと、その発光ピーク波長で量子変換効率が高く、時間応答性の速い受光素子とを組み合わせた、高速応答の放射線検出器が求められている。
【0011】
しかしながら、特許文献1などに記載の一般的なシンチレータ結晶は、蛍光寿命が数10nsであるため、例えば1ナノ秒以下の高速応答が可能なシンチレータを特定しない限り、1ナノ秒以下の応答を有する検出器の具現化は実現しない。特許文献1では、「1ナノ秒以下の時間分解能を有する」との記載があるにも関わらず、それを可能とするような具体的なシンチレータの構成や、時間応答に関するデータを一切示しておらず、高速応答の放射線検出器を実現することはできないという課題があった。また、サブナノ〜数ナノ秒の蛍光寿命を呈するシンチレータを、ガイガーモードAPDとアセンブリさせた放射線検出器に関するものは、これまで全く報告されていない。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、発光量はさほど高くないが、サブナノ〜数ナノ秒という極めて短い蛍光寿命を示すシンチレータと、低発光量の光に対しても高い感度を有するとともに応答速度が速い受光素子とを組み合わせた高速応答の放射線検出器および放射線検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
高速応答が期待される短い蛍光寿命の発光を持つ一方で、発光量があまり高くないシンチレータとして、励起子発光シンチレータがある。また、低発光量の光に対して高い感度を有し、且つ高速応答を有する受光素子として、ガイガーモードAPDがある。本発明者等は、ガイガーモードAPDと組み合わせることにより、特性の優れた高速応答の放射線検出器を具現化することができる励起子発光シンチレータを特定することに成功し、本発明に至った。
【0014】
本発明に係る放射線検出器および放射線検査装置は、高速応答性を有する励起子発光シンチレータを特定し、これとガイガーモードAPDとを組み合わせてサブナノ〜数ナノ秒の応答速度を具現化するものである。このような高速応答の放射線検出器および放射線検査装置を具現化するためには、高速応答性を有するシンチレータを新たに特定することが必要不可欠であり、既存の技術から実現することは不可能である。なお、「放射線」とは、原子、分子をイオン化させるのに十分なエネルギーをもった粒子線(α線、β線、γ線、X線、中性子線等)を示す。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る放射線検出器は、励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有する、直接遷移型半導体の励起子から発光する励起子発光シンチレータと、ガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)とを、有することを特徴とする。この場合、前記直接遷移型半導体は、ZnOまたはZnOのZnサイトの一部をAl、Ga、In、Cd、Mg、RE(希土類元素:Sc、Y、ランタノイド)のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成を有していてもよく、GaNまたはGaNのGaサイトの一部をSi、Ge、Sn、Pb、In、Al、のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成を有していてもよい。
【0016】
また、本発明に係る放射線検出器は、ZrO2、HfO2、Yb:Y2O3、Gd2O3、Sc2O3、Lu2O3のうち、少なくともいずれか一種類を含み、励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有する励起子発光シンチレータと、ガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)とを、有していてもよい。
【0017】
本発明に係る放射線検出器は、励起子発光シンチレータおよびガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)ともに、0.05ナノ秒〜10ナノ秒(サブナノ〜数ナノ秒)という極めて速い応答速度を有するため、時間分解能が高く、サブナノ〜数ナノ秒という高速応答性を備えることができる。また、ガイガーモードAPDが低発光量の光に対して高い感度を有するため、発光量があまり高くない励起子発光シンチレータと組み合わせても、高精度での放射線の検出が可能である。時間分解能が高くパイルアップを防止することができるため、数え落としが少なく、高精度で放射線を検出することができる。
【0018】
本発明に係る放射線検出器で、前記励起子発光シンチレータは270〜900nmに発光ピーク波長を有し、前記ガイガーモードAPDは270〜900nmに波長感度を有することが好ましい。特に、本発明に係る放射線検出器で、前記励起子発光シンチレータは300〜600nmに発光ピーク波長を有し、前記ガイガーモードAPDは300〜600nmの波長域で10%以上の量子変換効率を有することが好ましい。これらの場合、特に高精度で放射線を検出することができる。
【0019】
本発明に係る放射線検出器で、前記ガイガーモードAPDは1photonの発光を検出可能な感度を有していてもよい。この場合、ガイガーモードAPDの検出感度が高く、高精度で放射線を検出することができる。なお、現在のところ、1photonの発光を検出できる受光素子は、ガイガーモードAPDしか存在していない。このため、励起子発光シンチレータの発光量が1photon程度しかない場合でも、ガイガーモードAPDを使用することにより、特性の優れた放射線検出器を具現化することが可能となる。
【0020】
本発明に係る放射線検出器で、前記ガイガーモードAPDは、3.0eV以上のバンドギャップエネルギーを有する半導体を有していてもよい。この場合、3.0eV以上のバンドギャップエネルギーを有する半導体として、例えば、GaN、(In,Ga)N、(Al,Ga)N、(In,Al,Ga)N、ZnO、(Mg,Zn)O、ZnSe、Ga、SiC等の半導体を使用することができる。
【0021】
ここで、暗電流をI、バンドギャップエネルギーをE、ボルツマン定数をk、温度[K]をTとすると、下記のような関係がある。
I ∝ exp{−E/(2×k×T)}
上式から、温度Tが一定でバンドギャップエネルギーEが大きければ、暗電流は指数関数的に小さくなる。
【0022】
理論的には、バンドギャップエネルギーが3.0eV以上の半導体では、460℃の高温環境下においても、バンドギャップエネルギーが1.1eV程度のSi系半導体の室温時と同等の暗電流しか発生しない。したがって、バンドギャップエネルギーが3.0eV以上の半導体を有するガイガーモードAPDを使用することにより、高温での暗電流が小さくなり、放射線検出器の冷却機構を簡素化することができる。これにより、放射線検出器およびこれを備える放射線検査装置を小型化することができ、低価格化を図ることができる。
【0023】
本発明に係る放射線検出器で、前記ガイガーモードAPDは、Si、II−VI族化合物半導体、III族元素としてGa、AlまたはInを含むIII−V族窒化物半導体、有機半導体、またはダイヤモンド半導体を有していてもよい。この場合、高性能のガイガーモードAPDを形成することができ、高性能化を図ることができる。
【0024】
本発明に係る放射線検査装置は、本発明に係る放射線検出器を備えることを、特徴とする。
【0025】
本発明に係る放射線検査装置は、高速応答の放射線検出器を備えるため、データ取得時間を大幅に短縮することができる。このため、本発明に係る放射線検査装置を医療画像装置などに利用することにより、検査時間を短くすることができ、被検体の負担を大幅に軽減することができる。また、ガイガーモードAPDは強力な磁場が存在する環境下であっても使用することができるため、本発明に係る放射線検査装置をMRI−PET装置のPET装置として使用することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、発光量はさほど高くないが、サブナノ〜数ナノ秒という極めて短い蛍光寿命を示すシンチレータと、低発光量の光に対しても高い感度を有するとともに応答速度が速い受光素子とを組み合わせた高速応答の放射線検出器および放射線検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図13は、本発明の実施の形態の放射線検出器および放射線検査装置と、その特性とを示している。
図1に示すように、放射線検査装置10は、放射線検出器11とバイアス電源12と前置増幅器13と波形整形増幅器14とマルチチャンネルアナライザ15とパーソナルコンピュータ(PC)16とを有している。
【0028】
図1に示すように、放射線検出器11は、チャンバー21と励起子発光シンチレータ22とガイガーモードAPD23と反射材24とを有している。励起子発光シンチレータ22は、チャンバー21の内部に収納され、ZnO、ZnOのZnサイトの一部をAl、Ga、In、Cd、Mg、RE(希土類元素:Sc、Y、ランタノイド)のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成、GaN、GaNのGaサイトの一部をSi、Ge、Sn、Pb、In、Al、のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成、ZrO2、HfO2、Yb:Y2O3、Gd2O3、Sc2O3、または、Lu2O3のうちのいずれか一種類の化学組成を有している。励起子発光シンチレータ22は、励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有している。また、励起子発光シンチレータ22は、300nm〜600nmに発光ピーク波長を有している。
【0029】
図1に示すように、ガイガーモードAPD23は、チャンバー21の内部に収納され、励起子発光シンチレータ22に隣接して設置されている。ガイガーモードAPD23は、励起子発光シンチレータ22から発せられた蛍光を電気信号に変換可能に構成されている。ガイガーモードAPD23は、3.0eV以上のバンドギャップエネルギーを有するGaN、(In,Ga)N、(Al,Ga)N、(In,Al,Ga)N、ZnO、(Mg,Zn)O、ZnSe、Ga、SiC等のいずれかの半導体を有している。ガイガーモードAPD23は、励起子発光シンチレータ22の発光ピーク波長、すなわち300〜600nmの波長域で10%以上の量子変換効率を有している。また、ガイガーモードAPD23は、1photonの発光を検出可能な感度を有している。
【0030】
図1に示すように、反射材24は、チャンバー21の内部に収納され、励起子発光シンチレータ22の外面のうち、ガイガーモードAPD23で覆われている部分以外の部分を覆っている。
放射線検出器11は、線源1からの放射線が励起子発光シンチレータ22の内部に入ると、励起子発光シンチレータ22が蛍光を発し、その蛍光をガイガーモードAPD23が検出して電気信号に変換して出力するようになっている。
【0031】
放射線検出器11の励起子発光シンチレータ22の一例として、Ga:ZnOシンチレータ(Ga添加濃度26、53、550ppm)の蛍光強度を、ラジオルミネッセンスにより測定した結果を、図2に示す。図2に示すように、このGa:ZnOシンチレータの蛍光強度スペクトルにおける最大ピーク波長は、390nmである。なお、図2中の520nm付近に最大ピーク波長を有する発光は、蛍光寿命が長いため、放射線検出器11には利用しない。また、GaNシンチレータの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定した結果を、図3に示す。図3に示すように、このGaNシンチレータは、0.8nsという極めて短い蛍光寿命を有する。
【0032】
放射線検出器11のガイガーモードAPD23の一例として、市販されている3種類のガイガーモードAPD(浜松ホトニクス株式会社製)の200nm〜900nmの波長域における量子変換効率(検出効率;%)を、図4に示す。図4に示すように、これら3種類のガイガーモードAPDは、300nm〜600nmの波長域で量子変換効率が10%以上である。
【0033】
図1に示すように、バイアス電源12は、放射線検出器11に電力を供給可能に、ガイガーモードAPD23に接続されている。前置増幅器13は、ガイガーモードAPD23に接続され、ガイガーモードAPD23から出力された電気信号を増幅するようになっている。波形整形増幅器14は、前置増幅器13に接続され、前置増幅器13から出力された信号波形を整形し、さらに増幅するようになっている。マルチチャンネルアナライザ15は、波形整形増幅器14に接続され、波形整形増幅器14からの信号を入力して、サンプリング、データの保存、データの表示などを行うようになっている。パーソナルコンピュータ(PC)16は、マルチチャンネルアナライザ15に接続され、測定データに対して各種処理を実施可能になっている。これにより、放射線検査装置10は、線源1からの放射線を放射線検出器11で検出し、検出されたデータを保存・解析可能になっている。
【0034】
次に、作用について説明する。
放射線検出器11は、励起子発光シンチレータ22およびガイガーモードAPD23ともに、0.05ナノ秒〜10ナノ秒(サブナノ〜数ナノ秒)という極めて速い応答速度を有するため、時間分解能が高く、サブナノ〜数ナノ秒という高速応答性を備えることができる。また、ガイガーモードAPD23が低発光量の光に対して高い感度を有するため、発光量があまり高くない励起子発光シンチレータ22と組み合わせても、高精度での放射線の検出が可能である。時間分解能が高くパイルアップを防止することができるため、数え落としが少なく、高精度で放射線を検出することができる。
【0035】
また、励起子発光シンチレータ22の発光量が1photon程度しかない場合でも、ガイガーモードAPD23により検出することができ、高感度である。バンドギャップエネルギーが3.0eV以上の半導体を有するガイガーモードAPD23を使用しているため、高温での暗電流が小さくなり、放射線検出器11の冷却機構を簡素化することができる。これにより、放射線検出器11および放射線検査装置10を小型化することができ、低価格化を図ることができる。
【0036】
放射線検査装置10は、高速応答の放射線検出器11を備えるため、データ取得時間を大幅に短縮することができる。このため、放射線検査装置10を医療画像装置などに利用することにより、検査時間を短くすることができ、被検体の負担を大幅に軽減することができる。また、ガイガーモードAPD23は強力な磁場が存在する環境下であっても使用することができるため、放射線検査装置10をMRI−PET装置のPET装置として使用することもできる。
【0037】
放射線検査装置10は、例えば、PET、X線CT、SPECT(単一光子放射断層撮影)などから成っている。また、放射線検査装置10は、PETからなる場合、特に限定されることはないが、MRI−PET、CT−PET、2次元型PET、三次元型PET、TOF型PET、深さ検出(DOI)型PET、OPEN−PETから成ることが好ましい。さらに、放射線検査装置10は、これらの組み合わせから成っていてもよい。
【0038】
特に、現在実現が期待されている飛行時間陽電子放出装置(TOF型PET)では、従来の両検出器を結ぶ直線(LOR)上に等確率を付与する方法と異なり、対向する両検出器の計測時刻の差から放射線源の座標点を求め、LORに沿って検出器の時間分解能に相当するガウス関数でぼかした分布を位置情報とする。このため、従来のシンチレータ応答速度では、100センチ弱の位置特定能力しか有することができない。これに対して、励起子発光シンチレータ22を利用する放射線検査装置10を使用することにより、数センチメートルの位置特定能力を有することができ、高性能化を図ることができる。
【実施例1】
【0039】
励起子発光シンチレータ22としてGa:ZnO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を測定し、その結果を図5に示す。図5に示すように、熱電子ノイズ(図5中の黒線)に比較し有意に信号(図5中のグレーの線)を検出することができ、放射線検出器11として動作可能であることが確認できた。
【実施例2】
【0040】
励起子発光シンチレータ22としてGa:ZnO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定し、その結果を図6に示す。図6に示すように、実測値(図6中の黒点)に対して、二成分の蛍光時定数を持つものと仮定してフィッティングを行った結果(図6中の破線)、第一成分として9.2nsという結果が得られた。ここで、フィッティングに用いた関数はtを時間として、I = exp(-t/τ) 型の自然指数減少関数であり、強度Iが1/eになる時間τ を蛍光時定数と定義し、仮に一成分モデルが棄却された場合は複数の指数減少関数の和を仮定してフィッティングを行うものである。図6に示すように、放射線検出器11によれば、励起子発光シンチレータ22の10ns以下の高速な発光成分を、有意に検出可能であることが確認できた。
【実施例3】
【0041】
励起子発光シンチレータ22としてIn:ZnO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、荷電粒子として241Am線源からの5.5MeVのエネルギーをもつα線を検出したときのエネルギー波高分布を測定し、その結果を図7に示す。図7に示すように、熱電子ノイズ(図7中の黒線)に比較し有意に信号(図7中のグレーの線)を検出することができ、放射線検出器11として動作可能であることが確認できた。このように、荷電粒子を照射した場合でも、β線を照射したときと同様の結果が得られた。
【実施例4】
【0042】
励起子発光シンチレータ22としてIn:ZnO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、荷電粒子として241Am線源からの5.5MeVのエネルギーをもつα線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定し、その結果を図8に示す。図8に示すように、実測値(図8中の黒点)に対して、二成分の蛍光時定数を持つものと仮定して、実施例2と同様にフィッティングを行った結果(図8中の破線)、第一成分として9.5nsという結果が得られた。このように、放射線検出器11によれば、励起子発光シンチレータ22の10ns以下の高速な発光成分を、有意に検出可能であることが確認できた。このように、荷電粒子を照射した場合でも、β線を照射したときと同様の結果が得られた。
【実施例5】
【0043】
励起子発光シンチレータ22としてYb:Y23、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を測定し、その結果を図9に示す。図9に示すように、熱電子ノイズ(図9中の黒線)に比較し有意に信号(図9中のグレーの線)を検出することができ、放射線検出器11として動作可能であることが確認できた。
【実施例6】
【0044】
励起子発光シンチレータ22としてYb:Y23、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定し、その結果を図10に示す。図10に示すように、実測値(図10中の黒点)に対して、二成分の蛍光時定数を持つものと仮定して、実施例2と同様にフィッティングを行った結果(図10の破線)、第一成分として0.1ns という結果が得られた。このように、放射線検出器11によれば、励起子発光シンチレータ22の10ns以下の高速な発光成分を、有意に検出可能であることが確認できた。
【実施例7】
【0045】
励起子発光シンチレータ22としてHfO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を測定し、その結果を図11に示す。図11に示すように、熱電子ノイズ(図11中の黒線)に比較し有意に信号(図11中のグレーの線)を検出することができ、放射線検出器11として動作可能であることが確認できた。
【実施例8】
【0046】
励起子発光シンチレータ22としてHfO、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定し、その結果を図12に示す。図12に示すように、実測値(図12中の黒点)に対して、二成分の蛍光時定数を持つものと仮定して、実施例2と同様にフィッティングを行った結果(図12中の破線)、第一成分として1.4nsという結果が得られた。このように、放射線検出器11によれば、励起子発光シンチレータ22の10ns以下の高速な発光成分を、有意に検出可能であることが確認できた。
【実施例9】
【0047】
励起子発光シンチレータ22としてGaN、およびフォトダイオードとしてガイガーモードAPD23を用いた放射線検出器11を準備した。この放射線検出器11を用いて、70Vの高電圧を印加し、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を測定し、その結果を図13に示す。図13に示すように、熱電子ノイズ(図13中の黒線)に比較し有意に信号(図13中のグレーの線)を検出することができ、放射線検出器11として動作可能であることが確認できた。
【0048】
以上、実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、図面を参照して本発明の実施の形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、これら以外の様々な構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態の放射線検出器および放射線検査装置を示す全体構成図である。
【図2】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてGa:ZnOシンチレータを用いたときの蛍光強度を、ラジオルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図3】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてGaN、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図4】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置のガイガーモードAPDの、200nm〜900nmの波長域における量子変換効率を示すグラフである。
【図5】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてGa:ZnO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を示すグラフである。
【図6】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてGa:ZnO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図7】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてIn:ZnO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、荷電粒子である241Am線源からの5.5MeVのエネルギーをもつα線を検出したときのエネルギー波高分布を示すグラフである。
【図8】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてIn:ZnO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、荷電粒子である241Am線源からの5.5MeVのエネルギーをもつα線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図9】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてYb:Y23、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を示すグラフである。
【図10】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてYb:Y23、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図11】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてHfO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を示すグラフである。
【図12】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてHfO、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を照射したときの蛍光減衰時間を、フォトルミネッセンスにより測定したグラフである。
【図13】図1に示す放射線検出器および放射線検査装置の、励起子発光シンチレータとしてGaN、フォトダイオードとしてガイガーモードAPDを用いた場合の、90Sr線源からの1.8MeVのエネルギーをもつβ線を検出したときのエネルギー波高分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 線源
10 放射線検査装置
11 放射線検出器
12 バイアス電源
13 前置増幅器
14 波形整形増幅器
15 マルチチャンネルアナライザ
16 パーソナルコンピュータ(PC)
21 チャンバー
22 励起子発光シンチレータ
23 ガイガーモードAPD
24 反射材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有する、直接遷移型半導体の励起子から発光する励起子発光シンチレータと、
ガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)とを、
有することを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記直接遷移型半導体はZnOまたはZnOのZnサイトの一部をAl、Ga、In、Cd、Mg、RE(希土類元素:Sc、Y、ランタノイド)のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成を有することを、特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記直接遷移型半導体はGaNまたはGaNのGaサイトの一部をSi、Ge、Sn、Pb、In、Al、のいずれか1種以上の元素で置換した化学組成を有することを、特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
ZrO2、HfO2、Yb:Y2O3、Gd2O3、Sc2O3、Lu2O3のうち、少なくともいずれか一種類を含み、励起子による0.05ナノ秒〜10ナノ秒の蛍光寿命を有する励起子発光シンチレータと、
ガイガーモードAPD(ガイガーモードアバランシェフォトダイオード)とを、
有することを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
前記励起子発光シンチレータは270〜900nmに発光ピーク波長を有し、
前記ガイガーモードAPDは270〜900nmに波長感度を有することを、
特徴とする請求項1、2、3または4記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記励起子発光シンチレータは300〜600nmに発光ピーク波長を有し、
前記ガイガーモードAPDは300〜600nmの波長域で10%以上の量子変換効率を有することを、
特徴とする請求項1、2、3または4記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記ガイガーモードAPDは1photonの発光を検出可能な感度を有することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記ガイガーモードAPDは、3.0eV以上のバンドギャップエネルギーを有する半導体を有することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記ガイガーモードAPDは、Si、II−VI族化合物半導体、III族元素としてGa、AlまたはInを含むIII−V族窒化物半導体、有機半導体、またはダイヤモンド半導体を有することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の放射線検出器。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の放射線検出器を備えることを、特徴とする放射線検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−122166(P2010−122166A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298231(P2008−298231)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】