説明

放射線検査装置及びそれを用いた配管検査方法

【課題】放射線源と検出器が取り付けられたC型アームの回転角度に応じて生ずる透過像の位置ずれを補正して、分解能の高い検査画像を得る。
【解決手段】 放射線源101と検出器102との間に位置させて、校正ファントム104を支持構造部材103に着脱可能に取り付け、支持構造部材の予め設定された基準回転角度において検出器により取得された透過像を基準に、異なる回転角度における透過像の位置変化を求めて回転角度と透過像の位置ずれデータをデータベース115aに格納しておき、被検体の検査実行時に、画像処理手段115はデータベースに格納された位置ずれデータに基づいて被検体の透過データを補正して検査画像を再構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検査装置に係り、具体的には、プラントの配管又は機器などの被検体を非破壊で検査する放射線検査装置であって、特に、支持部材により支持された被検体を長手方向に沿って検査するのに好適な放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所等のプラントで長期間使用されている配管は、内部減肉が生じる。このような減肉は、配管内を流れる流体が配管壁面に繰り返し衝突することにより、表面が機械的に損傷を受け、その一部が脱離する現象(エロージョン)と化学的作用による腐食(コロージョン)との相互作用により発生する。特に、配管の曲がり個所、又はオリフィスなどの流体に乱れが生じる個所において、減肉が顕著に見られる。この減肉量が限界値を超えると、運転時の圧力に配管が耐えられず配管損傷が生じるおそれがある。そこで、配管の肉厚が許容範囲内であるか否かを検査する配管検査が定期的に実施されている。
【0003】
配管検査は、従来、超音波探傷器の探触子を配管に直接接触させて超音波の透過波又は反射波を計測して、肉厚等を非破壊で検査することが広く行われている。 しかし、超音波探傷によれば、配管が保温材にて被覆されている場合は、被覆材を外してから試験しなければならないから、被覆材の除去、及び保温材による再被覆作業に時間と費用がかかるだけでなく、除去被覆材の廃棄処理費用が必要になる。
【0004】
これに対し、特許文献1には、被検体の配管を挟んで対向して放射線源と被検体の放射線透過画像を計測する検出器を配置した放射線検査装置が提案されている。これによれば、保温材が被覆された状態でも配管の検査が可能であるので、検査の効率化に有効である。しかし、特許文献1のような放射線検査装置による検査方法では、三次元物体の情報が二次元平面上に投影されるために、減肉位置や形状の把握、及び減肉の定量評価が困難である。
【0005】
一方、被検体の内部情報を立体的に得るために有効な方法の一つとして、特許文献2に記載されているCT(Computed Tomography)法が知られている。CT法は、被検体を挟んで対向配置した放射線源と検出器を被検体の周囲で回転して、被検体の全周方向からの透過データを取得し、コンピュータによる画像再構成演算により被検体の断面像を得るものである。このCT法によれば、ミリメートル以下の分解能を持つ画像が得られる。
【0006】
しかし、発電所など実際のプラントにおいては、配管の周囲に放射線源と検出器を回転でき得る空間がない場合が多いから、CT法を適用できない場合が多い。
【0007】
そこで、放射線源と検出器を配管の延在方向に平行移動して被検体の断層像を求めることにより、立体情報を得るCL(Computed Laminography)法と称される検査手法が提案されている(非特許文献1)。このCL法は、放射線源と検出器を配管などの被検体の延在方向に並進させながら、被検体の放射線透過データを平面状に配列された複数の検出要素からなる検出器により取得する。ここで、被検体の任意の一点に注目し、放射線源からその注目点を通って検出器に至る放射線の直線を想定すると、その注目点における放射線の透過角度は、アームの並進位置によって変化し、注目点を透過した放射線を受ける検出素子の位置、つまり注目点に対応する検出器の座標位置が変わる。また、一般に、放射線源としてX線管を用いた場合、X線管の放射角度(立体角)は40度前後であり、上記の透過角度は+20度から−20度間の40度程度の変化となる。このようにして、並進により透過角度が変化する透過データに基づいて、注目点の2次元情報を獲得することにより2次元の検査画像を再構成することができる。
【0008】
【特許文献1】特開平9‐89810号公報
【特許文献2】特開2001‐61827号公報
【非特許文献1】S.Gondrom, S.Schropfer :"Digital computed laminography and tomosynthesis - functional principles and industrial applications" Proceedings BB 67-CD, Computerized Tomography for Industrial Applications and Image Processing in Radiography (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、CL方式を用いた非特許文献1においては、配管等のように支持部材を介して敷設された被検体の検査については配慮されていない。すなわち、通常、配管等は支持部材を介して敷設されているから、放射線検査装置を配管等の長手方向に沿って移動し、かつ支持部材を回避しながら検査する必要がある。
【0010】
このような支持部材を介して敷設された被検体を検査するためには、被検体の長手方向に沿って放射線源と検出器を同期して併進させ、かつ配管サポートなどの支持部材を避けて検査を実施する必要がある。そのために、放射線源と検出器を円環状の支持構造部材の一部を除去したC型アームの両端部に対向させて支持させ、C型アームを回転して配管サポートを避けながら配管に沿って移動させる必要がある。
【0011】
しかしながら、C型アームを被検体周りに回転した場合、回転角度位置によっては、アーム自体の変形あるいは放射線源や検出器の固定部の変形により、放射線源と検出器の相対位置が微小な位置ずれを生じることがある。
【0012】
一般のCT法では、放射線源と検出器を被検体周りに回転させ、その回転面における被検体の180度方向からの透過データを得て、その透過データに基づいて回転面における被検体の2次元情報を獲得して断層像を精度よく再構成することができる。
【0013】
しかし、CL法では、上述したように、透過角度が+20度から−20度間の限られた透過データしか取得できない。そこで、1回の並進により得られる透過データが、精密な検査画像を得るために十分でない場合は、C型アームの傾きを変化させて並進することにより、透過角度が異なる透過データを取得し、それぞれの透過データから得られる画像を合成することで画像精度を向上することが考えられる。
【0014】
ところで、複数の画像を合成して画像再構成を実施するためには、複数の画像の位置データを合わせる必要があるため、放射線源及び検出器の高精度な位置決め精度が必須である。例えば、0.5mmの画像分解能を得る場合、その分解能の1/10程度の位置決め精度が必要となる。したがって、C型アームを回転させて生じた位置ずれを補正しないまま画像再構成を実施した場合、所望の画像分解能が得られない問題が生じる。
【0015】
本発明は、放射線源と検出器が取り付けられたC型アームを回転させて生じた透過像の位置ずれを補正して、分解能の高い検査画像を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、放射線源と、放射線を検出する平面型の検出器と、被検体を挟んで前記放射線源と前記検出器を対向させて両端部に保持する二股状に形成された支持構造部材と、前記放射線源と前記検出器とを結ぶ線を前記被検体の周りに前記支持構造部材を二股によって形成される面に沿って回転可能に支持する支持架台と、該支持架台を前記支持構造部材の回転面の直交方向に併進させる走行台車と、前記支持構造部材を併進させて前記検出器により取得される前記被検体の放射線の透過データに基づいて前記被検体の検査画像を再構成する画像処理手段を備えなる放射線検査装置を対象とする。
【0017】
特に、上記の課題を解決するため、前記放射線源と前記検出器との間に位置させて前記支持構造部材に着脱可能に取り付けられ、放射線の透過率が異なる基準体が分布されてなる校正ファントムと、前記支持構造部材の回転角度と前記検出器により取得される前記校正ファントムの透過像の位置ずれとの関係を求める位置ずれ検出手段とを設け、該位置ずれ検出手段は、前記支持構造部材の予め設定された基準回転角度において前記検出器により取得された前記透過像を基準に、異なる回転角度における前記透過像の位置変化を求めて前記回転角度と前記透過像の位置ずれデータをデータベースに格納し、前記画像処理手段は、前記データベースに格納された前記位置ずれデータに基づいて前記透過データを補正して前記検査画像を再構成することを特徴とする。
【0018】
このように構成することにより、二股状の支持構造部材を二股によって形成される面に沿って回転した場合に、アーム自体の変形あるいは放射線源や検出器の固定部の変形によって、支持構造部材の両端部に固定された放射線源と検出器の相対位置が微小な位置ずれを起こすことがあっても、校正ファントムの透過像を基準にして、任意の回転角度における透過像の位置ずれデータがデータベースに格納される。その位置ずれデータに基づいて、任意の回転角度における透過像の位置ずれを、基準回転角度における透過データに補正することができる。その結果、支持構造部材を任意の回転角度に回転して並進させても、検出器により検出された放射線の透過データの高精度な位置決めが可能となり、その透過データに基づいて再構成して得られる被検体の検査画像の解像度を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、放射線源と検出器が取り付けられたC型アームを回転させて生じた透過像の位置ずれを補正して、分解能の高い検査画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1に、本発明の放射線検査装置の一実施形態の全体構成図を示す。同図に示すように、放射線源を構成するX線管球101と放射線を検出する平面型の検出器102は、二股状に形成されたC型アームの支持構造部材103の両端部に対向させて取り付けられている。支持構造部材103は、アーム可動部108を介してアーム支持架台109に支持されている。アーム可動部108は、X線管球101と検出器102とを結ぶ線を図示矢印117の方向に沿って回転可能に支持構造部材103を支持するようになっている。これにより、X線管球101と検出器102で挟まれる位置に設置される図示していない被検体を中心にして、アーム可動部108が回転可能に構成されている。アーム可動部108は、角度センサ118を有して形成され、角度センサ118により検出される回転角度に基づいて、アーム制御部113により任意の回転角度に制御されるようになっている。また、アーム支持架台109は、図示していない走行台車等の併進機構に固定して設けられ、支持構造部材103の回転面に直交する方向(図面に直角な方向)に並進されるようになっている。
【0021】
X線管球101は、高圧電源110と冷却器111に接続されており、X線管システム制御部112により常に安定した管電圧と管電流に制御されている。検出器102は、検出器制御部114に接続され、これより放射線の透過データの取り込みタイミングやデータ収集が行われる。X線管システム制御部112と、アーム制御部113と、検出器制御部114は、中央制御部115に接続されており、各機器の動作タイミング調整や、制御部内部にある演算装置にて画像処理などのデータ処理が実施される。装置の動作状態や、検査結果はモニタ116にて表示される。つまり、中央制御部115は、支持構造部材103を回転面に直交する方向に併進させて、検出器102により取得される被検体の放射線の透過データに基づいて、CL法により被検体のX線検査画像を再構成する画像処理手段を備えて構成されている。
【0022】
ここで、本実施形態の特徴に係る構成について説明する。図1に示すように、校正ファントム104は、X線管球101から検出器102に至る放射線の照射領域に合わせて、支持構造部材103に支持材105、106により着脱自在に取り付け可能となっている。校正ファントム104は、放射線の透過率が異なる基準体を分布して形成されている。したがって、校正ファントム104は支持構造部材103とともに傾斜するようになっている。
【0023】
一方、中央制御部115には、支持構造部材103の角度センサ118により検出された回転角度と、検出器102により取得される校正ファントム104の透過像の位置ずれとの関係を求める位置ずれ検出部115aを有して構成されている。位置ずれ検出部115aは、支持構造部材103の予め設定された基準回転角度において検出器102により取得された校正ファントム104の透過像を基準に、異なる回転角度における校正ファントム104の透過像の位置変化を求めて,回転角度と透過像の位置ずれデータをデータベースに格納するようになっている。
【0024】
また、中央制御部115の画像処理手段は、位置ずれ検出部115aのデータベースに格納された位置ずれデータに基づいて、検出器102により検出された透過データを補正して、被検体のX線検査画像を再構成するようになっている。
【0025】
次に、このように構成される実施形態の特徴部の詳細構成を動作とともに説明する。図2に、本実施形態の放射線検査装置を配管の非破壊検査に適用した場合の状態を示す。配管201は、X線管球101と検出器102を結ぶX線照射域107内に配置される。X線管球101と検出器102と配管201の配置は、配管201の透過像が全て検出器102に投影される位置に決定される。
【0026】
図3に、配管201が支持材301により支持されている場合の検査状態を示す。配管201には様々な方向から支持材301によってサポートされている。したがって、X線管球101と検出器102を結ぶ線を、図2で示すように鉛直にしたままでは、放射線検査装置を並進してCL法により検査することが困難になる。そこで、図3のように、支持構造部材103を回転することにより、支持材301を回避して放射線検査装置を並進させて、CL法による検査が可能となる。
【0027】
しかしながら、支持構造部材103を回転すると、各構成部材の重力の作用により、X線管球101と検出器102を支持する支持構造部材103が変形するのを避けることができない。例えば、図4に示すように、回転角度に応じて支持構造部材103の変形、X線管球101と検出器102の保持角度の変化が生ずる。これにより、X線管球101と検出器102の相対位置が変化し、当初の相対位置401から相対位置402に位置ずれを生ずる。この変化量は、実際には数mm以下のごく微小なものである。
【0028】
しかし、CL法により検査画像を取得する本実施形態の場合は、前述したように、透過角度が+20度から−20度間の限られた透過データしか取得できないから、1回の並進により得られる透過データが、精密な検査画像を得るために十分でない場合がある。この場合は、C型アームである支持構造部材103の傾きを変化させて並進することにより、透過角度が異なる透過データを取得し、それぞれの透過データから得られる画像を合成することで画像精度を向上することが必要になる。
【0029】
このように透過角度が異なる複数の透過画像のX線の透過データを演算処理して、被検体の断層像や内部立体像を構成するためには、複数の透過画像間で非常に高精度な位置情報を必要とする。例えば、分解能0.5mmの画像を得るためには、少なくとも0.1mm未満の位置ずれに抑えなくてはならない。しかし、支持構造部材103等の装置構造物の位置変化量を0.1mm未満に抑えることは困難である。支持構造部材103等の装置構造物を極めて堅牢に形成できれば可能性はあるが、そのためには装置の大形化を避けることができず、現実的には検査現場の状況から要求される小型化の要望に反することになる。
【0030】
そこで、本実施形態では、校正ファントム104と位置ずれ検出部115aを設けて、支持構造部材103の予め設定された基準回転角度における透過像を基準に、異なる回転角度における透過像の位置変化を求めて、回転角度と透過像の位置ずれとの関係データを作成しておき、実際のX線検査時における支持構造部材103の回転角度に対応する透過像の位置ずれを読み出して、検出器102により検出される放射線の透過データの位置情報を補正してCL法による画像再構成を行うようにしたのである。
【0031】
ここで、校正ファントム104の一実施例の構成を図5に示す。図示のように、校正ファントム104は、ステンレスやアルミニウムなどの金属にて形成されるフレーム501の内側に、アクリルなどのようなX線の減衰が小さく、かつ十分な強度をもつ薄板502が配置され、この薄板502上にタングステンなどの金属の細線503を等間隔で格子状に配置して構成されている。すなわち、校正ファントム104は、薄板502とは放射線の透過率が異なる基準体として、金属の細線503を格子状に分布して形成されている。
【0032】
このように構成される校正ファントム104を、検査の現地にて放射線検査装置を組立てた後、支持材105、106により支持構造部材103の所定の位置に取り付ける。この際、X線管球101と検出器102を結ぶ線が垂直になるように、支持構造部材103を二股脚によって形成される面に沿って回転し、回転角度θがθ=0の位置を基準回転角度として設定する。また、校正ファントム104は、放射線の透過面が水平になるように、支持材105、106により調整する。なお、基準回転角度は、透過像の位置ずれを相対的に計測できればよいことから、θ=0の位置に限らず、任意の角度に基準を設定することができる。
【0033】
検出器102により取得される校正ファントム104の透過像は、X線管球101と検出器102との間の距離と、X線管球101と校正ファントム104との距離の比により、細線503の間隔が拡大される。図6に、校正ファントム104の透過像の一例を模式図にて示す。
【0034】
まず、位置ずれ検出部115aは、X線管球101を動作させて校正ファントム104の基準回転角度における細線透過像602を検出器102により取得し、検出器102の各ピクセルと細線透過像602の位置関係をデータベースに保存する。
【0035】
次に、位置ずれ検出部115aは、アーム制御部113に指令を送って支持構造部材103を任意の回転角度θの位置に回転し、X線管球101を動作させて校正ファントム104の任意の回転角度θにおける細線透過像603を検出器102により取得し、検出器102の各ピクセルと細線透過像603の位置関係をデータベースに保存する。ここで、細線503により形成される各格子点Ki jの検出器102上の透過像データを、検出器102の座標(Xi j, Yi j)によりKi j=(Xi j, Yi j)で表す。そして、基準回転角θにおける各格子点Ki jの透過像データと、任意の回転角度θSにおける各格子点Ki jの透過像データとの位置ずれ量をピクセルごとに求めてデータベースに保存する。図6においては、位置ずれは図の横方向のみの場合を示しているが、実際には位置ずれはあらゆる方向に生じる。その場合には、各格子点Ki jの透過像の横(X)方向の位置変化と、縦(Y)方向の位置変化のベクトル和により位置ずれ量を表す。ここで、i,jは格子点に順番にふる番号を表している。
【0036】
いま、基準回転角θにおける各格子点Ki jの検出器上の座標が、
Ki j (θ) = (Xi j(θ), Yi j(θ))で、
回転角度θSにおける格子点Ki jの検出器上の座標が、
Ki j (θS) = (Xi j(θS), Yi j(θS)) となった場合、
格子点Ki jの位置ずれ量ΔKi j (θS)は、
ΔKi j (θS) ={(Xi j(θ)−Xi j(θS))
+ (Yi j(θ)−Yi j(θS))1/2
となり、位置ずれのベクトルは、
(Xi j(θ), Yi j(θ))−(Xi j(θS), Yi j(θS))
で表せる。
【0037】
なお、格子点の変位が大きくて検出器102に投影されない場合は、格子点が投影されている近隣のピクセルの位置ずれ情報を用いて格子点の位置ずれ量を求める。例えば、最も距離が近い順から選択した格子点4点の位置ずれ量を平均して、検出器102から外れた格子点の位置ずれ量とする。
【0038】
このようにして求めた各格子点の位置ずれ量を用いて、回転角度θSの透過像データを基準回転角θの透過像データに変換する。これにより、正確な幾何配置における透過像を得ることが可能となる。
【0039】
図7を参照して、本実施形態の放射線検査装置を用いて配管検査を実施する手順について説明する。放射線検査装置は、検査対象の現地プラントへ分解して運搬される。現地到着後、ステップ701において、放射線検査装置の組立てを行う。まず、X線管球101、検出器102を支持構造部材103に取り付け、次いで、アーム可動部108、アーム支持架台109を組上げ後に、電源や制御装置など他の構成機器とケーブルが接続される。配管検査が可能になった状態で、ステップ702において、校正ファントム104を支持材105、106により支持構造部材103に取り付け、校正ファントム104の位置、角度などを調整する。ステップ703において、X線管球101と検出器102が対向する向きが垂直となる基準回転角の位置に調整し、ファントム透過像を取得する。この場合、検出器102の各ピクセルの座標を基準に、ファントム透過像の各格子点の座標位置をデータベースに登録する。具体的には、ファントムの細線503は、あらかじめ本数が分かっているため、各細線503の格子点に番号を与えておき、2次元平面に分布するどの格子点の透過像が検出器102のどのピクセルにくるかを記憶する。
【0040】
次に、ステップ705において、支持構造部材103を任意の回転角度だけ回転する。そのときの回転角度は、角度センサ118により検出して中央制御部115に伝送される。その回転角度の位置において、ステップ706で、ファントム透過像を取得し、ステップ706で、ステップ703と同様に、検出器102の各ピクセルの座標を基準に、ファントム透過像の各格子点の座標位置をデータベースに登録する。そして、回転角度が設定角度αに達するまで回転角度を任意角度に変更して、ステップ705〜707の操作を繰返し、ファントム透過像の各格子点の座標位置をデータベースに登録する。傾斜角度の変更刻みは、例えば設定角度をαとした場合、α/10〜α/100程度とすることで十分な相関が得られる。
【0041】
設定角度αに達した場合は、ステップ709に進み、支持構造部材103と透過像の位置ずれ量の相関を導出し、位置ずれデータとしてデータベースに保存する。これらの支持構造部材103の回転とファントム透過像の撮像、並びにデータベースへの保存は中央制御部115の位置ずれ検出部115aにより自動的に制御される。ステップ709の作業終了後、ステップ710にて、校正ファントム104と支持材105、106を取り外す。
【0042】
次に、ステップ711にて、放射線検査装置を被検体の配管に設置する。そして、ステップ712にて、支持構造部材103が配管の支持構造物等と干渉しないように支持構造部材103の回転角度を調整し、このときの回転角度を実行回転角度として記憶する。例えば、支持構造部材103の回転角度を垂直方向に対して−90度〜90度まで変化することで、配管の支持構造物等との干渉を防ぐことができる。
【0043】
次いで、ステップ713において、走行台車等を走行させて、支持構造部材103を配管に対して並進移動しながら、検出器102の放射線の透過データを取得してX線撮像を実行する。撮像間隔は、走行台車等の移動機構と同期を取り、等距離間隔となるように中央制御部115により制御する。
【0044】
ステップ714にて、実行回転角度において取得された透過データを、データベースに保存されている位置ずれデータを参照して、基準回転角度における透過データに補正する。これにより補正された透過データに基づいて、ステップ715において、CL法の数値演算処理により配管の断層像を再構成する。これらの処理は、中央制御部115の数値演算処理により行われる。
【0045】
すなわち、本実施形態の放射線検査装置を用いた配管検査方法は、校正ファントム104を支持構造部材103の所定位置に、所定の姿勢で固定して、支持構造部材103の回転角度を基準回転角度に調整してX線管球101から放射線を照射し、検出器102により校正ファントム104の透過像を取得する。次いで、支持構造部材103の回転角度を変化させてX線管球101から放射線を照射し、検出器102により校正ファントム104の透過像を取得する。そして、基準回転角度における校正ファントム104の透過像を基準に、回転角度が異なる校正ファントム104の透過像の位置変化を求める。求めた位置変化に従って、支持構造部材103の回転角度に対応させた位置ずれデータをデータベースに格納する。その後、アーム支持架台109を移動してX線管球101と検出器102との間に被検体の配管201を位置させ、さらにアーム支持架台109を配管201の長手方向に併進したときに、支持構造部材103の二股部が配管201の支持部材301に当たらない位置に二股の開脚部がくるように、支持構造部材103の回転角度を調整する。その後、アーム支持架台109を併進しながらX線管球101を動作させ、検出器102により放射線の配管透過データを取得する。この取得した配管透過データを、データベースに格納されている位置ずれデータに基づいて補正し、補正した配管透過データに基づいて配管201の断層像を再構成する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、C型の支持構造部材103を任意の回転角度に変えて、アーム自体の変形あるいはX線管球101や検出器102の固定部の変形により、X線管球101と検出器102の相対位置が微小な位置ずれを起こしても、校正ファントム104の透過像を基準にして、支持構造部材103の任意の回転角度における透過像の位置ずれデータがデータベースに格納される。その位置ずれデータに基づいて、任意の回転角度における透過像の位置ずれを、基準回転角度における透過データに補正することができる。
【0047】
したがって、1回の並進により得られる透過データが、精密な検査画像を得るために十分でない場合に、C型の支持構造部材103の傾きを変化させて複数回並進することにより、透過角度が異なる透過データを取得し、それぞれの透過データから得られる画像を合成する場合でも、異なる回転角度位置において検出器102により検出された透過データの高精度な位置決めが可能となり、その透過データに基づいて再構成して得られる被検体の断層像等の検査画像の解像度を高めることができる。
(実施形態2)
図8に、本発明の実施形態の校正ファントム104の他の実施例の構成を示す。その他の放射線検査装置の構成は、実施形態1と同一であることから、本実施形態の校正ファントム104についてのみ説明する。
【0048】
本実施例の校正ファントム104は、図8に示すように、ステンレスやアルミニウムなどの金属にて形成されるフレーム801の内側に、アクリルなどのようなX線の減衰が小さく、かつ十分な強度をもつ薄板802が配置され、この薄板802上にタングステンなどの金属の細線803を等間隔に同心円状に配置して構成されている。すなわち、校正ファントム104は、薄板802とは放射線の透過率が異なる基準体として、金属の細線803を同心円状に等間隔に分布して形成されている。
【0049】
本実施例の校正ファントム104を用いて、支持構造部材103の回転角度に対するファントム透過像の位置ずれデータを取得する処理について説明する。まず、支持構造部材103を二股によって形成される面に沿って回転し、X線管球101と検出器102の中心を結ぶ線を鉛直方向に合わせて、基準回転角度を設定する。このとき、検出器102により取得されるファントムの透過像を評価して、透過像が真円状になるように、つまり透過像のX軸方向長さとY軸方向長さが等しくなるように、支持材105、106を調節して校正ファントム104の姿勢を調整する。そして、この基準回転角度における校正ファントム104の透過像を取得してデータベースに登録する。
【0050】
次いで、図7のステップ705〜708と同様に、支持構造部材103を所定の角度刻みで回転し、角回転角度における校正ファントム104の透過像を取得する。このとき取得される透過像の一例を図9に示す。同図に示すように、支持構造部材103の変形やX線管球101の取り付け部材等の変形により、X線管球101と検出器102の相対位置が変化し、その変化が基準回転角度における各円902の像に対し、任意の回転角度における破線で示す各円903の中心位置ずれ量、並びに円903の変形度に現れる。
【0051】
そこで、位置ずれ検出部115aは、検出器102により取得された透過像と、角度センサ118から入力される支持構造部材103の回転角度に基づいて、回転角度に対する位置ずれ量のデータを求めてデータベースに位置ずれデータとして格納する。すなわち、位置ずれ検出部115aは、円903の半径を全周方向に対して求め、支持構造部材103の回転角度に対する変化量を各円903について求める。そして、各円903の中心位置ずれ量、並びに円903の変形度などの変化量に基づいて、検出器102のピクセルごとに、基準回転角度の透過像に対する任意の回転角度に対する位置ずれ量を導出する。このようにして求めたピクセルごとの位置ずれ量を、回転角度に対応させてデータベースに位置ずれデータとして保存する。
【0052】
これにより、実施形態1と同様に、走行台車等を走行させて、支持構造部材103を配管に対して並進移動しながら、検出器102の放射線の透過データを取得してX線撮像を実行する。そして、検出器102により検出された配管の検査実行時の回転角度における透過データを、データベースに格納された位置ずれデータに基づいて、基準回転角度における透過データに補正することができる。その結果、検出器102により検出された透過データの高精度な位置決めが可能となり、その透過データに基づいて再構成して得られる被検体の断層像等の検査画像の解像度を高めることができる。
【0053】
以上説明したように、本発明は、放射線検査装置を用いた配管の非破壊検査に利用でき、プラントにおける配管の減肉検査や3次元形状データ取得に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の放射線検査装置の一実施形態の全体構成図である。
【図2】実施形態の放射線検査装置を用いて配管検査する場合の状態を示す模式図である。
【図3】配管検査の際に配管の支持材を避けるために放射線検査装置のC型アームを回転した状態を示す模式図である。
【図4】C型アームの回転によりX線管球と検出器との相対位置が変化して透過像の位置がずれることを説明する模式図である。
【図5】校正ファントムの一実施例の構成図である。
【図6】図5の実施例の校正ファントムの透過像を示す図である。
【図7】実施形態の放射線検査装置を用いて配管検査を実施する手順を示すフローチャートである。
【図8】校正ファントムの他の実施例の構成図である。
【図9】図8の実施例の校正ファントムの透過像を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
101 X線管球
102 検出器
103 支持構造部材
104 校正ファントム
105、106 支持部材
107 X線照射域
108 アーム可動部
109 アーム支持架台
113 アーム制御部
114 検出器制御部
115 中央制御部
115a 位置ずれ検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源と、放射線を検出する平面型の検出器と、被検体を挟んで前記放射線源と前記検出器を対向させて両端部に保持する二股状に形成された支持構造部材と、前記放射線源と前記検出器とを結ぶ線を前記被検体の周りに前記支持構造部材を二股によって形成される面に沿って回転可能に支持する支持架台と、該支持架台を前記支持構造部材の回転面の直交方向に併進させる走行台車と、前記支持構造部材を併進させて前記検出器により取得される前記被検体の放射線の透過データに基づいて前記被検体の検査画像を再構成する画像処理手段を備えてなる放射線検査装置において、
前記放射線源と前記検出器との間に位置させて前記支持構造部材に着脱可能に取り付けられ、放射線の透過率が異なる基準体が分布されてなる校正ファントムと、前記支持構造部材の回転角度と前記検出器により取得される前記校正ファントムの透過像の位置ずれとの関係を求める位置ずれ検出手段とを設け、
該位置ずれ検出手段は、前記支持構造部材の予め設定された基準回転角度において前記検出器により取得された前記透過像を基準に、異なる回転角度における前記透過像の位置変化を求めて前記回転角度と前記透過像の位置ずれデータをデータベースに格納し、
前記画像処理手段は、前記データベースに格納された前記位置ずれデータに基づいて前記透過データを補正して前記検査画像を再構成することを特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記校正ファントムは、放射線を透過する基板に前記基準体としての金属細線が格子状に配置されてなることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記位置ずれ検出手段は、前記透過像の位置ずれを格子状に配置された前記金属細線の縦方向の位置変化量と横方向の位置変化量のベクトル和により求めることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記校正ファントムは、放射線を透過する基板に前記基準体としての金属細線が同心円状に複数に配置されてなることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記位置ずれ検出手段は、前記透過像の位置ずれを同心円状に配置された前記金属細線の各円の中心位置の位置変化量及び各円の全周方向の半径の変化量から求めることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線検査装置を用いた配管検査方法において、
前記校正ファントムを前記支持構造部材に固定して、該支持構造部材の回転角度を基準回転角度に調整して前記放射線源から放射線を照射し、前記検出器により取得される前記校正ファントムの透過像を生成し、
前記支持構造部材の回転角度を変化させて前記放射線源から放射線を照射し、前記検出器により取得される前記校正ファントムの透過像を生成し、
前記基準回転角度における前記透過像を基準に、回転角度が異なる前記透過像の位置変化を求めて回転角度に対応させた位置ずれデータをデータベースに格納した後、
前記支持架台を移動して前記放射線源と前記検出器との間に被検体の配管を位置させ、
前記支持架台を併進したときに前記支持構造部材の二股部が前記配管の支持部材に当たらない位置に前記支持構造部材の回転角度を調整した後、
前記支持架台を併進しながら前記放射線源を動作させ、前記検出器により取得される放射線の配管透過データを前記位置ずれデータに基づいて補正し、補正した配管透過データに基づいて前記配管の断層像を再構成することを特徴とする放射線検査装置を用いた配管検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−47424(P2009−47424A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210750(P2007−210750)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】