説明

放射線検査装置

【課題】リファレンス検出部を検出部の近傍に設置し線量全体の補正のみならず、線源の放射分布変化に対してもリアルタイム補正を行うことで、より精度の高い測定を実現する。
【解決手段】放射状に発散角を持つ放射線源とライン状の放射線検出器を有する放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を放射線源と試料の間で且つ、測定用X線検出器に向かう放射線束を妨げない近傍に配置し、リファレンス用放射線検出器出力から線源の強度及び強度分布の変動分を検出し、測定用放射線検出器出力の補正を行うことで、線源の強度及び強度分布を補正した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線(例えばX線,ベータ線、ガンマ線等)を用いた検査装置に関し、特にリファレンス用検出素子が設けられており、このリファレンス用検出素子により検出した放射線源からの放射線の強度を基に当該放射線の強度分布や強度変動を補正する放射線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線(例えば軟X線を含むX線)検査は、様々な研究分野、検査分野(食品、工業、医療、セキュリティーなど)に用いられてきている。検査の分野では、検査物の比較的明瞭な濃淡画像から、対象物や欠陥の有無を判定している。特定の分野(医療、工業など)では極濃淡の薄い画像から関心のある部位の判断をする場合もあるが、医者や検査員などが表示モニタで画像を見て判定しているため、表示モニタの輝度ムラ、撮影系の輝度ムラ、対象物特有の傾向や見え方など様々な要素を考慮して総合的且つ選択的に判断している。
【0003】
一方、目視検査ではなく、自動検査により極濃淡の薄い画像から関心のある部位の判断をする場合は、撮影系の輝度ムラ補正、検出感度補正、対象物特有の傾向補正、濃淡の強調、関心のある部位の特徴を効果的に抽出する画像処理など様々な処理を行って、候補抽出、判定を行うことになるため、様々な補正が必要となる。
【0004】
放射線(以下X線という)を用いた検査では、X線源と検出器の間に試料(製品、人体など)を置き、その透過率からX線源の強度を検出して濃淡の画像を得るのが一般的である。このため、X線源の安定性は大変重要で、X線源の強度が変わったり、ばらついたりすると検出画像(検出精度)に直接影響する。
【0005】
このため、X線源を安定駆動するフィードバック制御や温度制御、X線量のモニタが行われている。また、X線管は比較的短寿命であり、使用中のX線量低下も無視できない。これらをモニタして測定系にフィードバックする方法として、特開2001−198119に開示されたものがある。
【0006】
図6(a)は特開2001−198119に開示されたリファレンス用検出素子の配置構造を示す図である。図6(a)において、X線源3からのX線の強度変動を補正するためにX線の強度を検出するリファレンス用検出素子12が設けられている。リファレンス用検出素子12は、X線源の焦点と回転部2の開口2hの外周を結ぶ線分上か、またはそれよりも外側に位置し且つ、X線検出器11における検出素子の配列円弧の延長円弧上に位置するようにされている。
【0007】
即ち、X線管装置3の焦点から引かれて回転部2の開口2hの外周に接する線分L上かまたはそれよりも外側にその左右各端部が位置するようにX線検出器11の長さを設定し、この線分L上かまたはその外側に位置する左右各端部にリファレンス用検出素子12を設けるようにしている。
【0008】
このような配置構造とすることで、リファレンス用検出素子12に入射するX線は開口2hの外側を通ることになり、したがってX線管装置3の焦点とリファレンス用検出素子12とのパス上に被検体がかかってリファレンス用検出素子12に対して干渉することを避けることができる。またリファレンス用検出素子12とX線検出器11の検出素子との間でX線管装置3の焦点からの距離に相違を生じることもなく、リファレンス用検出素子12に入射するX線とX線検出器11の検出素子に入射するX線の線質を同じにすることができる。
【0009】
図6(b)は特開平11−128217に開示されたリファレンス用検出素子の配置構造を示すブロック図である。図6(b)においては、X線管球1と、これに対向して配置されたX線検出部20によって構成されており、X線管球1からのX線を被検体9に照射しながら、X線管球1とX線検出部20を一体的に回転(スキャン)することで、略360°あるいは180°方向からの被検体9のX線透過データを得るように構成されている。
【0010】
X線検出部20は、入射X線をコリメートするコリメータ21と、X線を検出するX線検出器22を備えている。X線検出器22は、X線を光に変換するシンチレータ素子(図示せず)と、このシンチレータ素子で変換された光を検出し電気信号として出力するフォトダイオード(図示せず)とからなるX線検出素子を、X線管球1の焦点を中心として円弧状に約500〜1000チャンネル程度配列した構造となっており、その両端にそれぞれリファレンスチャンネル22bとモニタ用X線検出器22cが設けられている。
【0011】
リファレンスチャンネル22bは、X線管球1からのX線のうち被検体9を透過しないX線の強度を測定するためのチャンネルである。また、モニタ用X線検出器22cはX線管球1の焦点移動を検出するために設けられている
【0012】
計算機23は、X線検出部20からの検出値に基づいて、X線画像を作成するためのデータを得るとともに、X線制御機26への指令信号の供給など、X線CT装置の各部への指令信号を供給する。表示装置25はX線画像(断層像)を表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−198119
【特許文献2】特開平11−128217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上述の例ではいずれもX線CT装置を想定している。従って、線源から測定部への到達距離は同一であるが、工業用途でライン生産される幅の広い(数メートル)紙やシートなどでは、図7に示すようにX線源30からのX線をシート状の試料32を透過させて平面状に配置されたX線検出部(X線ラインセンサ)31で測定する場合も多い。
また、工業用途ではライン生産されるために試料が平面搬送されて前工程、検査工程、後工程に送られるために検査部のみ円弧状配列するのは困難である。
【0015】
平面状ラインセンサを用いた場合には、中央と周辺で、試料までの到達距離及び、試料から検出器までの到達距離が異なるため、特に軟X線では空気吸収や温度、湿度、気圧の影響があり、測定部から離れたリファレンス部と測定部の差が生じやすい。検出部の入射角度も差異を生じるという課題があった。
【0016】
また、線源からのX線は放射状に拡散しており、周囲の線量(リファレンス検出部)と中心の線量(測定部)が離れているため、必ずしも測定部の線量補正に適切であるとはいえない。
そのため線源の分布変化は無い前提で、両端のリファレンス検出部の変化から測定部の変化を推測して、全体的な測定系の補正を行う必要があるという課題もあった。
【0017】
したがって本発明の目的は、リファレンス検出部を検出部の近傍に設置することで、検出部と線源の間に設置することで線量全体の補正のみならず、必要に応じて、線源の放射分布変化に対してもリアルタイム補正を行うことで、より精度の高い測定を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の放射線検出装置の発明は、
放射状に発散角を持つ放射線源とライン状の放射線検出器を有する放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を放射線源と試料の間で且つ、測定用X線検出器に向かう放射線束を妨げない近傍に配置し、リファレンス用放射線検出器出力から線源の強度及び強度分布の変動分を検出し、測定用放射線検出器出力の補正を行うことで、線源の強度及び強度分布を補正したことを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1において、リファレンス用放射線検出器は、測定用放射線検出器と同じものを用いることを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1において、リファレンス用放射線検出器は、測定用放射線検出器とは検出素子サイズ、素子ピッチ、素子の長さが異なったライン状の放射線検出器であることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1乃至3のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器は、シンチレータを具備したフォトセンサであることを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1乃至4のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の時系列的な出力変動をリアルタイムに計算し、その計算結果を用いて測定用放射線検出器出力をリアルタイムに補正したことを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1乃至5のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の時系列的な出力変動の計算は常時に行わず、定期的な周期で計算し、その補正値により以降の補正が成されるまで一定期間同じ補正値で補正を行うことを特徴とする。
【0024】
請求項7記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1乃至6において、放射線源と試料の空間に空気吸収の少ないガスを充填した密閉構造体を介在させ、その密閉容器には1つの放射線源入射窓と測定検出用放射線を取り出す出射窓、及びリファレンス検出用放射線出射窓が設けられ、測定用およびリファレンス用のそれぞれの検出器に放射線の空気吸収を抑えて放射線束を導くことを特徴とする。
【0025】
請求項8記載の放射線検出装置の発明は、
請求項7において、測定用放射線束の出射窓から測定用放射線検出器までの距離と、リファレンス用放射線束の出射窓からリファレンス用放射線検出器までの距離とを同寸法としたことを特徴とする。
【0026】
請求項9記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1において、放射線源近傍にコリメータを配置し、該コリメータには、測定用放射線照射窓とリファレンス用放射線照射窓の2つの透過部を形成したことを特徴とする。
【0027】
請求項10記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1において、放射線源として反射型の放射線管を用い、試料としてシート状物体を用いる場合には、放射線のターゲットとなる反射面がシートの流れ方向と略平行となる様に配置することを特徴とする。
【0028】
請求項11記載の放射線検出装置の発明は、
請求項1乃至6のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を測定用放射線検出器もしくは、フォトダイオードの並び方向、もしくは試料の流れ方向と略直角となる様に移動させ、移動の度にリファレンス用放射線検出器出力のデータを記憶装置部に保存し、少なくとも2つ以上の測定データからリファレンス用放射線検出器の測定誤差を算出し、リファレンス用放射線検出器の出力からその測定誤差値を差し引いた結果として得られる、放射線源の分布データを基に、時系列的な分布変化が認められた場合は、その変化分を用いて測定用放射線検出器の出力に対し補正を行うことを特徴とする放射線検出装置。
【0029】
請求項12記載の放射線検出装置の発明は、
請求項11において、リファレンス用放射線検出器を移動させる手法は、間欠送りもしくは周期的な連続往復運動とし、比較的高速に移動させることで、ほぼ同時刻内にリファレンス用放射線検出器の異なる場所における少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の分布を測定することを特徴とする。
【0030】
請求項13記載の放射線検出装置の発明は、
請求項11または12の放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の移動回数を算出する位置は、機構的に停止ポジションを決めた有限な停止位置であって、その複数測定点で得られた少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の強度分布を算出することを特徴とする。
【0031】
請求項14記載の放射線検出装置の発明は、
請求項11または12の放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の移動回数を算出する位置は、機構的な制限は設けず常時往復移動を繰り返す機構とすることで、前回とは常時異なる測定点であって、制御処理的に所望する少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の強度分布を算出することを特徴とする。
【0032】
請求項15記載の放射線検出装置の発明は、
請求項11乃至14のいずれかの放射線検出装置において、少なくとも2つ以上の測定データの平均化方法は、最小二乗法、平均値、移動平均値、及びそれらの組み合わせなどにより、複数の値から偏差の少ない中心値を算出し、その中心値の連続的傾向から放射線源の分布を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1〜6、および9〜15によれば、放射線源の強度分布や強度変動に対して、放射分布変化(ユニフォーミティ)の検出が可能で、素子毎に検出部とリファレンスの差異を試料のX線吸収量として計算することがリアルタイムに可能となり、平面状の測定用センサを用いた場合の校正が可能となる。
請求項7によれば測定感度が向上し、温度、湿度、気圧変化に対してもその影響を排除することができ、安定した検出結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す正面図(a)、側面図(b)図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す側面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す側面図である。
【図4】図3における測定用X線ラインセンサ(a)とリファレンス用X線ラインセンサ(b)のラインセンサ出力とラインセンサの幅方向の関係を示す図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す斜視図である。
【図6】従来例におけるリファレンス用検出素子の配置構造を示す図である。
【図7】シート状の試料を平面状に配置されたX線ラインセンサで測定する場合を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す構成図で(a)は正面図、(b)は側面図である。
【0036】
図1において、X線源30に対し測定用X線ラインセンサ(以下測定用センサという)31が正対して設置してあり、試料32はX線源から離れた位置で且つ、測定用センサ31の近傍に置かれる。この試料をX線に対してほぼ直角方向(図では水平)に移動して測定用センサ31で検出すれば試料の測定(検査)が可能である。図1では線源30の直後にコリメータ34を設けている。このコリメータには一つの透過窓若しくは測定用放射線照射窓とリファレンス用放射線照射窓の2つの透過部が形成されているが、なくても良い。
【0037】
従来例と異なる点は、リファレンス用X線ラインセンサ(以下リファレンス用センサという)33は測定用センサ31とは別体として形成し、図1(b)に示すように試料32を透過する前にX線を検出する。即ち、測定用センサ31に入射するX線を遮らないように、且つ互いのセンサの入射窓31a,33aの中心間の距離d寸法が出来るだけ小さくなるようにX線源(P)から試料(P´)までの間に設置されている。
【0038】
なお、測定用センサ31とリファレンス用センサ33に用いる検出素子は入射窓31a,33aに沿って例えば500〜1000チャンネル程度配列するが、全く同じものであっても良いし、高感度のフォトダイオードにシンチレータを一体化したもの、もしくは別のシンチレータシートを具備したものでも良く、検出素子サイズを変えたり、素子数を変えるなどしたものであっても良い。なお、各位置における素子の出力の違いは予め校正してメモリ等の記憶媒体に記憶しておくものとする。
【0039】
リファレンス用センサは測定用センサの検出幅と同じ幅以上にわたって検出する必要があるが、図1のPやP’に示すように設置する場所により、設置位置によって所望する幅が異なるため短く安価なものを選ぶことも出来るし、高精度、高安定なのものを選ぶことも出来る。
【0040】
例えばP´で示した最も試料32に近い位置に測定用センサと同じリファレンス用センサを配置した場合では、測定用センサ31とリファレンス用センサ33の比が1対1近くで対応することから、線源分布(ユニフォーミティ)を求めることが可能で、素子毎に補正することが可能になる。
【0041】
図1では測定用センサ31の画素A、もしくは画素Bが、線源の放射中心に向かった法線とリファレンス用センサと交差する画素A´、B´に相当する画素でリファレンス用センサの出力を用いて測定用センサ出力の検出感度分布補正を行う。即ち、リファレンス用センサの出力値と測定用センサの出力値をリアルタイムに差異計算して線源の不安定成分を除去することで試料2の透過特性を高精度に測定が可能となる。
【0042】
差異計算は測定の常時に行わず、定期的な周期で計算し、その補正値により以降の補正が成されるまで一定期間同じ補正値で補正を行う。なお、補正のための装置や補正式は公知のものを用いるものとし、ここでの説明は省略する。
【0043】
上述の実施例によれば
1.X線源の放射分布に対して、放射分布変化(ユニフォーミティ)の検出が可能で、素子毎に検出部とリファレンスの差異を試料のX線吸収量として計算することがリアルタイムに可能である。
2.測定感度が向上する。
3.温度、湿度、気圧変化に対してもその影響を排除することができ、安定した検出結果が期待できる。
4.平面状の測定用センサを用いた場合の校正が可能である。
【0044】
図2は他の実施例を示す側面図である。
放射線として軟X線を含むX線やベータ線を用いる場合、空気による吸収が大きく遠距離からのX線、ベータ線照射は十分な線量が得られず放射線による検査が困難である。そこで、放射線の遮蔽構造を兼ねたヘリウム充填チャンバを線源と試料の間に介在させることで、放射線の空気吸収を抑え遠方からの照射が可能である。
図2は、図1に示す放射線検出装置にヘリウム(He)充填チャンバ35を併用した構成を示している。この例では、X線源30の出射口に近接してヘリウムチャンバ35を設け、そのチャンバの入射窓35aからX線を導入し、検査用として使用するためのX線の出射窓35bとリファレンス用X線の出射窓35cのそれぞれからX線を導く。
【0045】
空気吸収を極力抑えるために測定用センサの表面31aと出射窓35bまでの距離B寸法は最小にするのが好適である。このB寸法とリファレンス用センサの表面33aと出射窓35cまでの距離A寸法が同じになるようにリファレンス用センサ33を設置する。
このように設置することで、空気吸収量の影響を測定部とリファレンス部で揃えることが出来、温度、湿度、気圧、空気清浄度の影響をキャンセルすることが可能になる。
【0046】
図3は他の実施例を示す斜視図である。
この実施例ではリファレンス用センサ33を、例えばシリンダやモータなどのアクチュエータおよび偏芯カムや直線駆動変化機構(図示せず)を用いて試料の流れ方向Sと直角の矢印c方向に平行に駆動するようにしたものである。この場合、高さ変化や、振れなどが無いようにニアガイド等(図示せず)で規制し、再現性良くポジションA⇔Bの範囲で往復移動が可能とされている。
【0047】
リファレンス用センサを移動させる手法は、間欠送りもしくは周期的な連続往復運動とし、比較的高速、例えば数回/秒に移動させることで、ほぼ同時刻内にリファレンス用センサの異なる場所における少なくとも2つ以上の測定データからX源の分布を測定する。
【0048】
リファレンス用放射線検出器の移動回数を算出する位置は、機構的に停止ポジションを決めた有限な停止位置であって、その複数測定点で得られた少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の分布を算出する。
なお、リファレンス用放射線検出器の移動回数を算出する位置は、機構的な制限は設けず常時移動を繰り返す機構とすることで、前回とは常時異なる測定点であって、制御処理的に所望する少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の分布を算出するようにしても良い。
【0049】
少なくとも2つ以上の測定データの平均化方法は、最小二乗法、平均値、移動平均値、及びそれらの組み合わせなどにより、複数の値から偏差の少ない中心値を算出し、その中心値の連続的傾向から放射線源の分布を得る。
【0050】
そして、移動の度にリファレンス用センサ出力のデータを記憶装置部に保存し、少なくとも2つ以上の測定データからリファレンス用センサの素子感度誤差に起因する測定誤差を算出し、リファレンス用センサの出力からその測定誤差値を差し引いた結果として得られる、放射線源の分布データを基に、時系列的な分布変化が認められた場合は、その変化分を用いて測定用センサの出力に対し補正を行う
【0051】
図4(a,b)はこのように構成された検査装置における測定用センサの出力とリファレンス用センサの出力を示す説明図である。これらの図において、横軸はセンサの幅方向を示し、縦軸は各センサの出力を示している。
【0052】
図4(a)に示す測定用センサの出力において、試料32の外側を通ってセンサ31に到達したX線は試料による透過減衰が無いため、センサ出力は高くなる。即ち、測定用センサ出力eは試料の透過した領域が低く両端が突起した波形になる。この時試料32を透過した波形は、線源の分布(ユニフォーミティ)と試料の吸収特性(厚さムラ)を含んだ結果として出力されており、検査装置の校正時に予め測定した線源の分布に対して、経時変化の無いものとして測定される。
【0053】
そのため、途中で線源強度や強度の分布が変化した場合は、試料32の厚さを誤って測定してしまう。温度や気圧による線源やセンサ31の出力変化、感度変化は試料を透過していない両端の出力変動をモニタしていれば全体の補正係数をもって、フィードバック制御することも出来るが、線源の分布については管理できない。
従って、正確に測定できているのは、試料の両端つまり、急峻に波形が変化している変化分と言うことになる。
【0054】
次に、図4(b)に示すリファレンス用センサの出力を見ると、センサ33の個体(形状)は異なるものの、X線の分布を全域に渡って計測していることになり、その分布変化をモニタすれば線源の分布がリアルタイムで把握できる。
【0055】
その線源の変化分を測定用センサにフィードバックすれば線源の変化を補正した試料の透過特性をリアルタイムに測定することが可能である。但し、センサはそれぞれ別の個体であるために、リファレンス用センサの出力特性が変わった(シンチレータの部分劣化など)結果を線源の分布変化としてフィードバックする恐れは否めない。
【0056】
そこで、リファレンス用センサを試料32の流れ方向Sと直角の矢印c方向に平行移動させる(ポジションA⇔B)。その場合、センサの別の場所の受光素子を用いて、同じ線量を測ることになるので移動した分の変化量はセンサの感度誤差として切り分けることが可能である。
【0057】
同じX線量をセンサの場所を変えて測定するためには、比較的高速にセンサを移動するのが好適である。このようにして、センサの測定誤差成分を差し引いた比較的大きな分布が、X線源の分布として得られる。本実施例では、ポジションAからポジションBの2箇所移動として説明したが、更に多くの位置で多重的に測定すれば、センサの測定誤差を高精度に排除することが出来る。センサの読出し(露光時間)スピードは十分速い(例えば数千回/秒)ため、必ずしも間欠送りである必要が無いとともに、常時往復移動している形態も考えられる。
【0058】
図5はX線源として反射型のX線管を用い、試料としてシート状物体を用いる場合を示すものである。反射型のX線管を用いる場合には、X線のターゲットとなる反射面がシートの流れ方向と略平行となる様に配置するものとする。
【0059】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。実施例では放射線源としてX線を使用したが例えばβ線であっても良い。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0060】
1,3,30 放射線(X線)源
2 回転部
8 天板
9 被検体
11,22 X線検出器
12 リファレンス用検出素子
20 X線検出部
23 計算機
24 メモリ
25 表示装置
26 X線制御器
31 測定用X線ラインセンサ
32 試料
33 リファレンス用X線ラインセンサ
34 コリメータ(遮蔽板)
35 チャンバ
36 チューブ(X線管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に発散角を持つ放射線源とライン状の放射線検出器を有する放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を放射線源と試料の間で且つ、測定用X線検出器に向かう放射線束を妨げない近傍に配置し、リファレンス用放射線検出器出力から線源の強度及び強度分布の変動分を検出し、測定用放射線検出器出力の補正を行うことで、線源の強度及び強度分布を補正したことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
請求項1において、リファレンス用放射線検出器は、測定用放射線検出器と同じものを用いることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項3】
請求項1において、リファレンス用放射線検出器は、測定用放射線検出器とは検出素子サイズ、素子ピッチ、素子の長さが異なったライン状の放射線検出器であることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器は、シンチレータを具備したフォトセンサであることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の時系列的な出力変動をリアルタイムに計算し、その計算結果を用いて測定用放射線検出器出力をリアルタイムに補正したことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の時系列的な出力変動計算は常時に行わず、定期的な周期で計算し、その補正値により以降の補正が成されるまで一定期間同じ補正値で補正を行うことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの放射線検出装置において、放射線源と試料の空間に空気吸収の少ないガスを充填した密閉構造体を介在させ、その密閉容器には1つの放射線源入射窓と測定検出用放射線を取り出す出射窓、及びリファレンス検出用放射線出射窓が設けられ、測定用およびリファレンス用のそれぞれの検出器に放射線の空気吸収を抑えて放射線束を導くことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項8】
請求項7において、測定用放射線束の出射窓から測定用放射線検出器までの距離と、リファレンス用放射線束の出射窓からリファレンス用放射線検出器までの距離とを同寸法としたことを特徴とするX検出装置。
【請求項9】
請求項1において、放射線源近傍にコリメータを配置し、該コリメータには、測定用放射線照射窓とリファレンス用放射線照射窓の2つの透過部を形成したことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項10】
請求項1において、放射線源として反射型の放射線管を用い、試料としてシート状物体を用いる場合には、放射線のターゲットとなる反射面がシートの流れ方向と略平行となる様に配置することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかの放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を測定用放射線検出器もしくは、フォトダイオードの並び方向、もしくは試料の流れ方向と略直角となる様に移動させ、移動の度にリファレンス用放射線検出器出力のデータを記憶装置部に保存し、少なくとも2つ以上の測定データからリファレンス用放射線検出器の測定誤差を算出し、リファレンス用放射線検出器の出力からその測定誤差値を差し引いた結果として得られる、放射線源の分布データを基に、時系列的な分布変化が認められた場合は、その変化分を用いて測定用放射線検出器の出力に対し補正を行うことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項12】
請求項11の放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器を移動させる手法は、間欠送りもしくは周期的な連続往復運動送りとし、比較的高速に移動させることで、ほぼ同時刻内にリファレンス用放射線検出器の異なる場所における少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の強度分布を測定することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項13】
請求項11または12の放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の移動回数は、機構的に停止ポジションを決めた有限な停止位置であって、その複数測定点で得られた少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の強度分布を算出することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項14】
請求項11または12の放射線検出装置において、リファレンス用放射線検出器の移動回数は、機構的な制限は設けず常時移動を繰り返す機構とすることで、前回とは常時異なる測定点であって、制御処理的に所望する少なくとも2つ以上の測定データから放射線源の強度分布を算出することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれかの放射線検出装置において、少なくとも2つ以上の測定データの平均化方法は、最小二乗法、平均値、移動平均値、及びそれらの組み合わせなどにより、複数の値から偏差の少ない中心値を算出し、その中心値の連続的傾向から放射線源の分布を得ることを特徴とする検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−22030(P2011−22030A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167875(P2009−167875)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】