説明

放熱用基板およびその製造方法

【課題】 バインダがメッキ性に与える影響を軽減し、メッキ性の向上を図る。
【解決手段】 SiC,水,ボンコート水溶液,コロイダルシリカ水溶液が所定の割合で配合されたスラリーをカーボンケース3内に流し込んで平板状の予備成形体4を成形する。次に、この予備成形体4をその上下面に水の通過を規制する遮蔽物5を配置した状態で乾燥させる。これにより、予備成形体4内の含有水分を主に側面から蒸発させる。すると、水に溶けていたバインダが側面部に集中した多孔質体を得る。しかる後、この多孔質体にAl溶湯を含浸させる。これにより、メッキが施される上下面にバインダ凝集体が少量しか存在しない、メッキ性の良好な放熱用基板が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、MPUやパワーモジュール等の半導体から発生した熱を吸収・放熱する放熱用基板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、純アルミニウム若しくはアルミニウム合金(以下、単にAlという。)を母材として、これにSiCを主体とするセラミックスを分散させることにより、高熱伝導率を確保しつつ熱膨張係数を低減させた放熱用基板が多く提案されている。
【0003】また、この種放熱用基板の製造方法としては、SiCを主体としてこれをバインダで結合してなる多孔質体にAl溶湯を鋳造含浸させる方法が知られている。この製造方法の場合、多孔質体の結合強度が低いと、鋳造時に多孔質体が破壊してしまうことがあるため、多孔質体の成形時にバインダであるコロイダルシリカを添加することにより、結合強度を維持している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、添加されたコロイダルシリカは、多孔質体の全体に広く分布し、さらにAl鋳造後もそのままの状態で残存するため、表面に存在する、乾燥時に生成される粒径1μm以上のシリカの凝集体がメッキ性に悪影響をおよぼし、メッキ後の外観悪化を招くという問題が生じている。
【0005】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、バインダがメッキ性に与える影響を軽減し、メッキ性の向上を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、請求項1記載の放熱用基板は、熱膨張抑制材をバインダで結合させた多孔質体に、Al溶湯を含浸させてなる放熱用基板であって、前記バインダ凝集体が側面部に集中させられてなることを特徴とするものである。
【0007】この構成では、放熱用基板の側面部にバインダ凝集体が集中して分布するため、後工程でメッキが施される上下面のバインダ凝集体量が減少する。これにより、バインダ凝集体がメッキ性に与える影響が軽減し、メッキ性の向上が図られる。
【0008】このメッキ性をより有効に向上させるには、請求項2記載の放熱用基板のように、上下面の中央部においてバインダ凝集体が占める面積率を、0.1%以下に設定しておくのが好ましい。
【0009】請求項3記載の放熱用基板の製造方法は、熱膨張抑制材とバインダ水溶液とが配合されたスラリーを成形型内に流し込んで平板状の予備成形体を成形する工程と、この予備成形体をその上下面に水の通過を規制する遮蔽物を配置した状態で乾燥させることにより、含有水分を側面から蒸発させて多孔質体とする工程と、この多孔質体にAl溶湯を含浸させる工程とを備えることを特徴とするものである。
【0010】この構成によれば、予備成形体を乾燥させた際、その中に含まれる水分が上下面から蒸発できず、その全部または殆どが側面から蒸発することとなる。このとき、水に溶けていたバインダは水分の移動とともに予備成形体の側面に集中しそこで固化するため、側面部にバインダ凝集体の集中した多孔質体が得られる。よって、この多孔質体にAl溶湯を含浸させれば、メッキが施される上下面にバインダ凝集体が少量しか存在しない、メッキ性の良好な放熱用基板が得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る放熱用基板およびその製造方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。これらの図中、符号1は放熱用基板、2はバインダ凝集体、3はカーボンケース、4は予備成形体、5は遮蔽物、6はバインダ凝集体分布領域である。放熱用基板1は、熱膨張抑制材をバインダで結合させた多孔質体にAl溶湯を含浸させてなり、特にバインダ凝集体分布領域6が側面部に集中させられていることを特徴とするものである(図4参照)。
【0012】すなわち、放熱用基板1の上下面1a,1bについていえば、その中央部におけるバインダ凝集体2の占める面積率は外縁部に比して極端に少なく、例えば0.1%以下に設定されている。ちなみに、図2は放熱用基板の上下面中央部の内部組織を拡大した拡大図、図3は同放熱用基板の上下面外縁部の内部組織を拡大した拡大図である。
【0013】熱膨張抑制材は、例えば平均粒子径0.1〜10μm、SiC、AlN、C、BN、Al23、SiO2若しくはSi34等のセラミックス粉末,ファイバー,ウィスカ,又はこれらの混合物から構成されている。他方、Al溶湯には、例えばAl-0〜15%Si-0〜0.5%Mg-0〜0.5%Cu-0〜0.5%Fe-0〜0.5%Mn0〜0.5%Ni0〜0.5%Ti0〜0.1%Beを成分とした溶湯が用いられる。
【0014】放熱用基板1内での熱膨張抑制材の体積分率は、放熱用基板1が絶縁体を介して半導体に接合されることを考慮して、該絶縁体の熱膨張係数に近い値となるように設定しておくことが好ましい。例えば、絶縁体として窒化アルミニウムを用いた場合には、熱膨張抑制材の体積分率は約60〜80%に設定される。
【0015】次に、放熱用基板の製造方法について説明する。本製造方法は、予備成形体の成形工程と、予備成形体の乾燥工程と、多孔質体へのAl溶湯含浸工程とを主たる工程として構成される。以下、これらの工程について説明する。
【0016】予備成形体の成形工程では、、熱膨張抑制材,水,バインダ水溶液等を所定の割合で配合したスラリーをカーボンケース(成形型)3内に流し込み、平板状の予備成形体4を成形する。予備成形体4の乾燥工程では、カーボンケース3の上下面に水の通過を規制する遮蔽物5、例えば金属板を配置したうえで、予備成形体4を乾燥させる。
【0017】このとき、予備成形体4の上方および下方には遮蔽物5が配置されているため、予備成形体4中に含まれる水分はその上下面からは蒸発できず、その全部または殆どは、図1の矢印で示すように、強制的に側面から蒸発させられる。これにより、水に溶けていたバインダ2は水分の移動とともに予備成形体4の側面部に集中し、そこで固化するため、側面部にバインダ凝集体2の集中した多孔質体が得られることになる。
【0018】そして、Al溶湯含浸工程では、800℃に予備加熱した多孔質体を金型キャビティ内に配置した後、700〜750℃のAl溶湯を注湯し、これを多孔質体内に加圧含浸させる。しかるに、この多孔質体にAl溶湯を含浸させれば、後工程においてメッキが施されることとなる上下面1a,1bに、バインダ凝集体2が少量しか存在しない放熱用基板1が得られることになり、メッキ性が向上し、メッキ後の外観が良好となる。
【0019】次に、本発明の実施例について、比較例とともに図5から図7を参照しながら説明する。なお、これら図のうち、図5および図7は、製造方法の中間工程で得られる多孔質体を示すものである。
【0020】[実施例1]SiC(熱膨張抑制材),水,40%ボンコート水溶液,30%コロイダルシリカ(バインダ)水溶液を、100:30:3:6の割合で配合したスラリーを30分間混練し、均一な状態になったところでカーボンケース3に流し込み、予備成形体4を成形する。
【0021】そして、カーボンケース3内で成形した予備成形体4の上下に遮蔽物5を置き、100℃以下で乾燥後、100℃以上で予備焼成を行うと、図5に示すように、シリカ凝集体分布領域6が側面部に所定幅で集中させられて固化した多孔質体が得られる。
【0022】[比較例]これに対し、図6に示すように、カーボンケース3内で成形した予備成形体4の上下に何ら遮蔽物を置かずに上面部からの乾燥を容易にした状態で、100℃以下で乾燥後、100℃以上で予備焼成を行うと、図7に示すように、シリカ凝集体分布領域6が上面部全体に所定の幅で集中させられて固化した多孔質体が得られる。
【0023】これらの実施例を比較しても明らかなように、本実施形態の製造方法によれば、シリカ凝集体分布領域6が側面部に集中し、その結果、後工程でメッキが施される上下面1a,1bにおいてはその外縁部にバインダ凝集体2が集中分布した放熱用基板1が得られる。これにより、バインダ凝集体2がメッキ性に与える影響を軽減させ得て、メッキ性が向上するため、メッキ後の外観も良好になる。
【0024】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明に係る放熱用基板は、その側面部にバインダ凝集体を集中させる構成としたから、後工程でメッキが施される上下面のバインダ凝集体量を減少させ得てメッキ性の向上を図ることができ、メッキ後の外観が良好となる。
【0025】また、本発明に係る放熱用基板の製造方法は、予備成形体を乾燥させる際に、含有水分を上下面から蒸発させずに側面から蒸発させることにより、バインダ凝集体を側面部に集中させる構成としたから、後工程でメッキが施される上下面のバインダ凝集体量を減少させ得てメッキ性の向上を図ることができ、メッキ後の外観が良好な放熱用基板を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る放熱用基板の製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【図2】 図1に示す製造方法で製造した放熱用基板の上下面中央部の内部組織を拡大した拡大図である。
【図3】 図1に示す製造方法で製造した放熱用基板の上下面外縁部の内部組織を拡大した拡大図である。
【図4】 本発明に係る放熱用基板の一実施形態を示す斜視図である。
【図5】 本発明に係る製造方法の中間工程において作製される多孔質体の第一実施例を示す図である。
【図6】 予備成形体の上下に遮蔽物を配置しないで乾燥を行った場合の乾燥方向を示す図である。
【図7】 図6に示す方法で予備成形体を乾燥させて得られた多孔質体を示す図である。
【符号の説明】
1 放熱用基板
2 シリカ(バインダ)凝集体
3 カーボンケース(成形型)
4 予備成形体
5 遮蔽物
6 シリカ(バインダ)凝集体分布領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱膨張抑制材をバインダで結合させた多孔質体に、Al溶湯を含浸させてなる放熱用基板であって、前記バインダ凝集体が側面部に集中させられてなることを特徴とする放熱用基板。
【請求項2】 上下面中央部において前記バインダ凝集体の占める面積率が、0.1%以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載の放熱用基板。
【請求項3】 熱膨張抑制材とバインダ水溶液とが配合されたスラリーを成形型内に流し込んで平板状の予備成形体を成形する工程と、この予備成形体をその上下面に水の通過を規制する遮蔽物を配置した状態で乾燥させることにより、含有水分を側面から蒸発させて多孔質体とする工程と、この多孔質体にAl溶湯を含浸させる工程とを備えることを特徴とする放熱用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−243884(P2000−243884A)
【公開日】平成12年9月8日(2000.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−39240
【出願日】平成11年2月17日(1999.2.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】