放熱装置
【課題】絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置において、余剰ろう材による応力吸収空間の塞がりを防止する。
【解決手段】 絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が接合され、他面側に応力緩和材(20)を介してヒートシンク(13)が接合された放熱装置(1)であって、前記応力緩和材(20)は、絶縁基板(11)側およびヒートシンク(13)側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間(21)を有し、前記応力吸収空間(21)の内壁面(22)に、絶縁基板(11)側およびヒートシンク(13)側の両方の開口部に通じて、応力緩和材(20)と絶縁基板(11)との接合部の余剰ろう材をヒートシンク(13)側に誘導する案内部(23)が形成されている。
【解決手段】 絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が接合され、他面側に応力緩和材(20)を介してヒートシンク(13)が接合された放熱装置(1)であって、前記応力緩和材(20)は、絶縁基板(11)側およびヒートシンク(13)側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間(21)を有し、前記応力吸収空間(21)の内壁面(22)に、絶縁基板(11)側およびヒートシンク(13)側の両方の開口部に通じて、応力緩和材(20)と絶縁基板(11)との接合部の余剰ろう材をヒートシンク(13)側に誘導する案内部(23)が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子を搭載する絶縁基板の他方の面にヒートシンクが接合された放熱装置に関する。
【0002】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
電子素子を搭載するための放熱装置として、絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の金属回路層が接合され、他面側にヒートシンクを接合し、絶縁基板をヒートシンクに熱的に結合したものが知られている。かかる放熱装置において、セラミック製絶縁基板と金属製ヒートシンクとを直接ろう付すると通電時の発熱と非通電時の冷却による冷熱サイクルにおいて接合部の剥離やセラミック基板の割れが発生しやすいことから、これらの間に軟質の金属層を介在させて接合部に発生する熱応力を緩和することがある(特許文献1、2参照)。
【0004】
さらには、前記金属層のかわりに貫通穴や有底の穴による応力吸収空間を設けた応力緩和材の使用や、前記応力緩和材と金属層とを併用することが提案されている。図10に示した放熱装置(100)は、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)との間に介在させる応力緩和材(101)として、金属板に多数の円形の貫通穴(102)を設けたものを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【特許文献2】特開2006−294699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記放熱装置(100)は、応力緩和材(101)の一方の面が絶縁基板(11)にろう付され、他方の面がヒートシンク(13)にろう付される。このろう付時に余剰のろう材が接合界面から応力吸収空間である貫通穴(102)に流れ込んで貫通穴(102)を塞ぐことがある。応力吸収空間が塞がれて空間の容積が減少すると応力緩和効果が低下するので好ましくない。特に、セラミック製絶縁基板と金属製応力緩和材とは異種材料であり、これらの接合界面にはヒートシンクとの接合界面よりも大きい応力が発生するため、応力吸収空間が絶縁基板側で塞がれることは好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置において、余剰ろう材による応力吸収空間の絶縁基板側の塞がりを防止することを目的として、応力吸収空間の形状を提案するものである。
【0008】
即ち、本発明の放熱装置は下記[1]〜[12]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の回路層が接合され、他面側に応力緩和材を介してヒートシンクが接合された放熱装置であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側およびヒートシンク側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、前記応力吸収空間の内壁面に、絶縁基板側およびヒートシンク側の両方の開口部に通じて、応力緩和材と絶縁基板との接合部の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導する案内部が形成されていることを特徴とする放熱装置。
【0010】
[2]前記案内部は、応力吸収空間の内壁面が周方向に屈曲することによって形成された入隅部である前項1に記載の放熱装置。
【0011】
[3]前記入隅部の入隅角度が90°以下である前項2に記載の放熱装置。
【0012】
[4]前記案内部は応力吸収空間の内壁面に設けられた溝である前項1〜3のいずれかに記載の放熱装置。
【0013】
[5]前記溝は螺旋状の溝である前項4に記載の放熱装置。
【0014】
[6]前記溝の深さが0.01〜2mmである前項4または5に記載の放熱装置。
【0015】
[7]前記応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において応力吸収空間の断面積を拡大する凹部が前記案内部に連通して形成されている前項1〜6のいずれかに記載の放熱装置。
【0016】
[8]前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている前項7に記載の放熱装置。
【0017】
[9]前記凹部の内壁面とヒートシンクとの成す角度が10〜80°である前項8に記載の放熱装置。
【0018】
[10]前記凹部の内壁面に周方向に沿った溝が形成されている前項7〜9のいずれかに記載の放熱装置。
【0019】
[11]前記応力緩和材は複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、ヒートシンクとの接合面の外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きく形成されている前項7〜10のいずれかに記載の放熱装置。
【0020】
[12]前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている前項11に記載の放熱装置。
【発明の効果】
【0021】
上記[1]に記載の発明によれば、応力緩和材と絶縁基板との間のろう材のうちで、接合界面に供給されない余剰のろう材は毛細管力によって案内部の絶縁基板側の開口部から案内部内に引き込まれ、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れ、案内部内に溜まる。また、絶縁基板側の開口部から案内部内に引き込まれず応力吸収空間の内壁面に流れ出た余剰ろう材も、内壁面から案内部に引き込まれ、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れる。従って、余剰のろう材が応力吸収空間内に流れ込んで応力吸収空間の絶縁基板側の部分を塞ぐことが防がれる。絶縁基板側では応力吸収空間が確保されて応力緩和力が確保されるので、絶縁基板と応力緩和材との接合部の剥離を防止できる。
【0022】
上記[2]に記載の発明によれば、案内部として応力吸収空間の内壁面の屈曲によって形成された入隅部を利用して、絶縁基板側の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導することができる。また、前記案内部は応力吸収空間の形状をそのまま利用したものであるから、応力吸収空間を形成するための加工と同時に案内部を形成できる。
【0023】
上記[3]に記載の発明によれば、入隅部の入隅角度が90°以下に形成されているので、毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が強い。
【0024】
上記[4]に記載の発明によれば、応力吸収空間の内壁面に設けた溝を案内部として絶縁基板側の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導することができる。また、前記溝は、応力吸収空間を形成する加工に追加工することによって容易に形成することができる。
【0025】
上記[5]に記載の発明によれば、螺旋状の溝は応力吸収空間の内壁面を周方向に進みながらヒートシンク側に進んでいくので、内壁面の広い範囲から余剰ろう材を溝内に引き込むことができ、ひいては応力吸収空間内に流れ込む余剰ろう材量を減らすことができる。しかも、螺旋状の溝は縦溝よりも長さが長くより多くの余剰ろう材を溜めることができるので、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を防止する効果が大きい。
【0026】
上記[6]に記載の発明によれば、溝の深さが0.01〜2mmであるから毛細管力が強く、余剰ろう材を十分に引き込むことができる。
【0027】
上記[7]に記載の発明によれば、応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、断面積が拡大された凹部が案内部に連通して形成されているので、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れた余剰ろう材は凹部に流れ込み、凹部に誘導されて周方向に流れていく。凹部に流れ込んだ余剰ろう材は毛細管力によって凹部内に引き込まれるので、ろう材を応力吸収空間に流出させることなく凹部内に留まらせることができる。従って、案内部に加えてヒートシンク側に凹部を形成することによって余剰ろう材の収容量が増えるので、余剰ろう材が多い場合でも応力吸収空間による応力緩和力を確保できる。
【0028】
上記[8]に記載の発明によれば、凹部の断面積が開口面に向かって連続的に拡大され、かつ積層方向の断面においては、凹部の内壁面形状が直線または応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されているので、毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が大きい。
【0029】
上記[9]に記載の発明によれば、凹部の内壁面と絶縁基板またはヒートシンクとの成す角度が10°以上でかつ40°未満に形成されているので、特に毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が大きい。
【0030】
上記[10]に記載の発明によれば、凹部に引き込まれた余剰ろう材が溝に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。
【0031】
上記[11]に記載の発明は、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有し、これらの凹部の断面積は中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定され、外周側にいくほど凹部の容積が大きくなるように設定されている。このため、接合面のろう材が中心部から外周側に流れて外周側で余剰ろう材量が増えた場合においても凹部に余剰ろう材を溜めることができるので、外周側の応力吸収空間の塞がりを防止できる。
【0032】
上記[12]に記載の発明によれば、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定されているので、効率良く放熱でき、放熱装置の放熱性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の放熱装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図1B】図1Aにおける1B−1B線断面視図である。
【図2】応力緩和材における案内部の他の例を示す要部斜視図である。
【図3】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図4】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図5】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図6】応力吸収空間に凹部を有する応力緩和材を示す断面図である。
【図7】凹部の他の形状を示す断面図である。
【図8】溝を有する凹部を示す断面図である。
【図9A】応力緩和材における応力吸収空間の配置例を示す斜視図である
【図9B】図9Aの部分断面図である。
【図10】従来の放熱装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[放熱装置の構成]
図1Aは本発明の放熱装置の一実施形態を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。以下の説明において、構成部材が積層する方向を縦または縦方向、縦方向の断面を縦断面と称し、この縦断面と直交する面で切断した断面を横断面と称する。
【0035】
放熱装置(1)は、絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が接合され、他面側には応力緩和材(20)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(13)が接合されている。(14)は回路層に接合された電子素子である。前記放熱装置(1)において、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)とは応力緩和材(20)を介して熱的に結合され、電子素子(14)が発する熱はヒートシンク(13)に排熱される。
【0036】
前記放熱装置(1)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0037】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0038】
回路層(12)を構成する金属としては、導電性が高くかつ絶縁基板(11)とろう付またははんだ付が可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0039】
応力緩和材(20)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(15)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。
【0040】
ヒートシンク(13)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金やAl−Fe系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(13)は応力緩和材(20)側の外面がフラットであれば応力緩和材(20)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、応力緩和材(20)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0041】
前記放熱装置(1)は、各部材をろう材(図示省略)を介して重ねて仮組し、一括してろう付することによって作製することができる。ろう材はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。ろう材はろう材箔として層間に配置しても良いし、回路層(12)、応力緩和材(20)、ヒートシンク(13)を構成する金属と一体化したブレージングシートとして用いることもできる。
【0042】
[応力緩和材]
図1Aおよび図1Bに示した応力緩和材(20)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴(21)を有するパンチングメタルであり、前記貫通穴(21)は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口している。前記貫通穴(21)の内壁面(22)には、応力緩和材(20)を厚み方向(縦方向)に貫き、絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口する断面V字形の縦溝(23)が形成されている。前記縦溝(23)は本発明における案内部に対応し、貫通穴(21)にはかかる4本の縦溝(23)が周方向に等間隔で設けられている。
【0043】
前記放熱装置(1)のろう付時、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)との間に配置されたろう材のうちで、接合界面に供給されない余剰のろう材は毛細管力によって前記縦溝(23)の絶縁基板(11)側の開口部から縦溝(23)内に引き込まれ、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れ、縦溝(23)内に溜まる。また、絶縁基板(11)側の開口部から縦溝(23)内に引き込まれず貫通穴(21)の内壁面(22)に流れ出た余剰ろう材も、内壁面(22)から縦溝(23)に引き込まれ、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れる。従って、余剰のろう材が貫通穴(21)に流れ込んで応力吸収空間を塞ぐことが防がれ、本来の貫通穴(21)の容積、即ち縦溝(23)を含まない貫通穴(21)の容積を維持して貫通穴(21)による応力緩和力を確保できる。また、余剰ろう材の一部がヒートシンク(13)側の端部で縦溝(23)から溢れ出たとしても、絶縁基板(11)側では応力吸収空間が確保されているので応力緩和力を確保できる。絶縁基板(11)と応力緩和材(20)とはセラミックと金属という異種材料であり、これらの界面に発生する応力は金属同士であるヒートシンク(13)と応力緩和材(20)の間に発生する応力よりも大きいため、絶縁基板(11)側の空間を優先的に確保することで接合部の剥離を防止できる。
【0044】
本発明において、案内部は余剰ろう材をヒートシンク側に流すことができれば良いので、貫通穴に形成する溝は応力緩和材の両面に開口していれば良く、応力緩和材を厚み方向に最短距離で貫く縦溝に限定されるものではない。他の溝形状として螺旋状や蛇行状の溝を例示できる。図2の応力緩和材(25)は、貫通穴(21)の内壁面(22)に応力緩和材(25)の両面に開口し、内壁面(22)上を螺旋状に進んでいく螺旋状の溝(26)を形成した例である。螺旋状の溝(26)は、貫通穴(20)の内壁面(22)を周方向に進みながらヒートシンク(13)側に進んでいくので、図1の縦溝(23)よりも内壁面(22)の広い範囲から余剰ろう材を溝(26)内に引き込むことができ、ひいては応力吸収空間内に残る余剰ろう材量を減らすことができる。しかも、螺旋状の溝(26)は縦溝(23)よりも長さが長くより多くの余剰ろう材を溜めることができるので、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を防止する効果が大きい。なお、図2は応力緩和材(25)を透視した状態で貫通穴(21)および螺旋状の溝(26)のみを示した図であり、金属部分の図示を省略している。
【0045】
前記溝(23)(26)の深さ(t)は0.01〜2mmの範囲に設定することが好ましい。深さ(t)が0.01mm未満の浅い溝では毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が弱く、また容積が小さいので余剰ろう材の収容量が少ない。また、2mmあれば十分に余剰ろう材を誘導でき、かつ多くのろう材を溜めることができる。特に好ましい溝の深さは0.05〜1.5mmである。
【0046】
また、貫通穴(21)の内壁面(22)に設ける溝の数は限定されないが、余剰ろう材は貫通穴(21)の全周で生じるので、複数の溝を等間隔で設けることが好ましい。溝の断面形状も限定されず、図示例の断面V字形の溝の他、U字形の溝を例示できる。
【0047】
上述した応力緩和材(20)(25)は、例えば材料の平板を円形に打ち抜いて貫通穴(21)を形成し、この貫通穴(21)の内壁面(22)に追加工で溝(23)(26)を形成することによって作製できる。また、図1の貫通穴(21)と縦溝(23)であれば、これらを同時に打ち抜くこともできる。
【0048】
(案内部の他の形状例)
本発明においては、ろう材を誘導する案内部として応力吸収空間そのものの形状を利用することができる。
【0049】
図3〜5は応力緩和材(30)(40)(50)に設けた貫通穴(応力緩和空間)(31)(41)(51)の横断面図である。これらの貫通穴(31)(41)(51)は内壁面(32)(42)(52)が周方向に屈曲したものであり、屈曲によって複数の入隅部(33)(43)(44)(53)が形成されている。これらの入隅部の(33)(43)(44)(53)においては毛細管力によって余剰ろう材が入隅部(33)(43)(44)(53)の中心部に引き込まれ、入隅部(33)(43)(44)(53)が貫通穴(31)(41)(51)の貫通方向に形成されていることによって、余剰ろう材が入隅部(33)(43)(44)(53)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れていく。上述した全ての入隅部(33)(43)(44)(53)を案内部として利用できるが、毛細管力による引き込み力を得るには入隅角度が小さいことが好ましい。案内部として好適に利用できる入隅角度は90°以下であり、特に10〜70°が好ましい。図3の貫通穴(31)は横断面形状が正三角形であり、全ての入隅部(33)の入隅角度(α)が鋭角であって案内部として好適に利用できる。図4の貫通穴(41)は横断面形状が2本の対角線が異なる長さで形成された菱形であり、長い方の対角線の両端に形成された2つの入隅部(43)の入隅角度(α1)が鋭角であって、案内部として好適に利用できる。図5の貫通穴(51)は横断面形状が星形であり、全ての入隅部(53)の入隅角度(α)が鋭角であって案内部として好適に利用できる。
【0050】
前記入隅部(33)(43)(44)(53)による案内部は貫通穴(31)(41)(51)を形成する加工を行えば同時に形成されるので、追加工なしで案内部を形成できる。なお、余剰ろう材の誘導を促進するために、これらの貫通穴(31)(41)(51)の内壁面(32)(42)(52)にも図1および図2に示した溝(23)(26)を形成することができる。
【0051】
(応力吸収空間における凹部)
図6の応力緩和材(60)は、図1と同様の円形の貫通穴(21)の内壁面(22)に縦溝(23)を設け、さらに貫通穴(21)の穴径をヒートシンク(13)側の開口面に向かって連続的に拡大したものである。この穴径の拡大により、貫通穴(21)の開口縁部の全周において、貫通穴(21)の横断面積を拡大する凹部(61)が形成されている。縦断面において、前記凹部(61)の内壁面(62)の形状はヒートシンク(13)に対して一定の角度(θ)で傾斜する直線で表されるテーパー面である。また、前記縦溝(23)は凹部(61)に連通している。
【0052】
前記応力緩和材(60)を用いた放熱装置のろう付においては、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れたろう材は縦溝(23)から凹部(61)に流れ込み、さらに凹部(61)に誘導されて周方向に流れていく。凹部(61)に流れ込んだろう材は毛細管力によって凹部(61)内に引き込まれるので、ろう材を応力吸収空間に流出させることなく凹部(61)内に留まらせることができる。以上のように、貫通穴(21)のヒートシンク(13)側に凹部(61)を形成することによって余剰ろう材の収容量が増えるので、余剰ろう材が多い場合でも、本来の貫通穴(21)の容積、即ち凹部(61)および溝(23)を含まない貫通穴(21)の容積を維持して貫通穴(21)による応力緩和力を確保できる。
【0053】
前記ヒートシンク(13)に対する凹部(61)の内壁面(62)の傾斜角度(θ)は、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を効果的に防止できる角度として10〜80°の間に設定することが好ましい。前記傾斜角度(θ)が10°未満では余剰ろう材を溜めるための容量が小さくなるので、閉塞防止効果が小さくなる。一方、80°を超えると毛細管力が小さくなってろう材の引き込み力が低下するので、閉塞防止効果が小さくなる。また、前記凹部(61)の内壁面(62)は縦断面において直線で形成されたものであり、直線で表される内壁面(62)の傾斜角度(θ)は、強い引き込み力を得るために、上記範囲内でも特に角度の小さい範囲に設定することが好ましい。具体的には10〜40°が好ましく、特に15〜35°が好ましい。
【0054】
また、図7に示す応力緩和材(70)のように、応力吸収空間のヒートシンク(13)側に設ける凹部(71)は、縦断面において内壁面(72)の形状を貫通穴(21)内に突出する方向に湾曲する曲線で形成することもできる。内壁面(72)がこのような曲線で形成された凹部(71)は、直線で形成された図6の凹部(61)よりも毛細管力が高くろう材の引き込み力も強い。一方、図6の内壁面(62)が直線で形成された凹部(61)は曲線で形成された凹部(71)よりも容量が大きいので、余剰ろう材をより多く溜めることができる。
【0055】
図7の曲線で形成された凹部(32)において、絶縁基板(11)に対する内壁面(33)の傾斜角度(θ)を以下のとおりに定義する。
【0056】
前記凹部(71)の内壁面(72)を形成する曲線の両端点のうちのヒートシンク(13)から遠い方の端点をP1とする。この端点P1からヒートシンク(13)までの距離(h)を2等分する直線が内壁面(72)と交わる点をP2とし、交点P2における接線とヒートシンク(13)とが成す角度(θ)を内壁面(72)の傾斜角度とする。前記定義において、端点P1からヒートシンク(13)までの距離(h)は凹部(71)の高さである。曲線で形成された内壁面(72)についても前記傾斜角度(θ)の好ましい範囲は10〜80°である。曲線で表される内壁面(72)の場合は、強い引き込み力を得るために、傾斜角度(θ)を上記範囲内でも特に角度の大きい範囲に設定することが好ましい。具体的には、30〜80°が好ましく、特に40〜75°が好ましい。
【0057】
さらに、前記凹部(61)(71)に流入したろう材の周方向の流れを促す手段として、図8に示す応力緩和材(80)のように、凹部(61)の内壁面(62)に周方向に沿った環状の溝(81)を設ける方法がある。凹部(61)に引き込まれた余剰ろう材は溝(81)に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。また、溝(81)によって凹部(61)の容積が拡大するので、より多くの余剰ろう材を溜めることができる。溝(81)の数は限定されず、1本でも複数本であっても良い。また、溝は周方向で閉じられた環状溝である必要はなく、螺旋状の溝であっても良い。また、溝の断面形状も限定されず、図示例のV字形の溝(81)の他、U字形の溝を例示できる。
【0058】
図8は、図6の内壁面(62)と同じく縦断面において直線で形成された内壁面(62)に溝(81)を設けた例を示したものであるが、図7の曲線で形成された内壁面(72)にも溝を設けることができる。
【0059】
また、凹部の内壁面は図7および図8に示す傾斜面で形成されたものに限定されない。他の凹部形状として、内壁面が側面と底面との2つの面によって段状に形成されたものを例示できる。前記側面はヒートシンクに対して垂直な面であっても良いし、ヒートシンクに対して傾斜する面であっても良い。このような段状の凹部は容積が大きいので、多くの余剰ろう材を溜めることができる。
【0060】
ヒートシンク側に形成する凹部は、応力吸収空間(貫通穴)および案内部の形状に関わらず形成することができる。案内部として螺旋状の溝(26)を有する応力緩和材(25)(図2参照)や、案内部として貫通穴(31)(41)(51)の入隅部(33)(43)(44)(53)を利用した応力緩和材(30)(40)(50)においても凹部を形成することができる(図3〜5参照)。図9Aおよび図9Bは、横断面菱形の貫通穴(91)(92)(93)の入隅部を案内部とする応力緩和材(90)に凹部(94)(95)(96)を設けた例である。
【0061】
[応力緩和空間の配置]
本発明において、応力緩和材の応力吸収空間は、積層方向に貫通している限りその形状や数は限定されない。また、複数の応力吸収空間を有する応力緩和材においては、複数の応力吸収空間で形状および寸法、案内部の数および形状を変えることもできる。
【0062】
応力緩和材と絶縁基板との接合面において、溶融したろう材は中央部から外周側に向かって流れる傾向があり、余剰ろう材量は中心部で少なく外周側にいくほど増えていく。このため、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有する場合、外周側に位置する応力吸収空間ほど余剰ろう材によって塞がれ易いという状況がある。
【0063】
このような状況に対し、応力吸収空間に設ける案内部または凹部の容積を余剰ろう材量分布に対応させて、これらの容積を中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定して余剰ろう材の収容可能量を増大させることによって、どの位置にある応力吸収空間においても余剰ろう材が応力吸収空間を塞がないようにすることができる。
【0064】
外周側に行くほど余剰ろう材の収容量を増やす方法の一つとして、外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きくなるように設定する方法を推奨できる。凹部の断面積に差をつける方法として、外周側に位置する応力吸収空間の断面積を中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きくなるように形成する方法を推奨できる。凹部は応力吸収空間の開口周縁部に設けられるので、応力吸収空間の断面積が大きくなれば自ずと凹部の断面積も大きくすることができる。また、電子素子は応力緩和材の中心部上に取り付けられることが多く、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定した方が効率良く放熱できるので、放熱性能を維持するという観点から、中心側よりも外周側に位置する応力吸収空間の断面積を大きくすることが好ましい。
【0065】
図9Aおよび図9Bに示す応力緩和材(90)は、寸法の異なる3種類の第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)を有し、上述した凹部の断面積の大小差を実現したものである。前記第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の横断面形状はいずれも菱形であり、入隅部の角度が等しく対角線寸法(d1)(d2)(d3)が異なる相似形である。前記応力緩和材(90)において、中心に位置する1個の第1貫通穴(91)が最も小さく、この第1貫通穴(91)を取り囲んで第1貫通穴(91)よりも大きい4個の第2貫通穴(92)が位置し、さらにこれらの第2貫通穴(92)を取り囲んで最も大きい8個の第3貫通穴(93)が位置している。また、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)のヒートシンク(13)側の開口周縁部には、第1〜第3内壁面(97)(98)(99)がヒートシンク(13)に対して傾斜するテーパー面で形成された第1〜第3凹部(94)(95)(96)が設けられている。第1〜第3凹部(94)(95)(96)の高さ(h)および第1〜第3内壁面(97)(98)(99)の傾斜角度(θ)は共通であるが、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の対角線寸法(d1)(d2)(d3)の差に伴って第1〜第3凹部(94)(95)(96)の対角線寸法が異なり、これらの断面積は、第1凹部(94)が最も小さく、第2凹部(95)は第1凹部(94)よりも大きく、第3凹部(96)は第2凹部(95)よりもさらに大きく設定されている。
【0066】
また、凹部を設けずに外周側でより多くの余剰ろう材を収容するには、外周側の応力吸収空間で案内部の数や容積を増やせば良い。例えば、図1の円形の貫通穴(21)であれば外周側に配置した貫通穴で縦溝(23)の数を増やすか、あるいは縦溝(23)の深さを深くすることで余剰ろう材の収容量を増やすことができる。また、貫通穴の直径を拡大すればより多くの溝を設けることができるので、溝数を増やすために外周側ほど穴径を大きくすることは放熱性能を維持するという観点からも好ましい。
【0067】
本発明において応力吸収空間の形状は図1〜図9に示したものに限定されず、楕円形やスリット状の貫通穴等であっても良い。また、凹部は応力吸収空間の開口縁部の全周に形成することに限定されるものではなく、一部にのみ形成されている場合も本発明に含まれる。ただし、凹部を開口縁部の全周に形成すればより多くの余剰ろう材を引き込むことによって、余剰ろう材の応力吸収空間への流出を防ぐことができる。
【実施例】
【0068】
図1および図10に参照される積層構造の放熱装置(1)(100)において、応力吸収空間、案内部および凹部をの形状を変えた種々の応力緩和材を用いて製作した。
【0069】
応力緩和材を除く部材は各例で共通のものを用いた。絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。回路層(12)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの板である。ヒートシンク(13)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。ろう材はAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなる厚さ40μmの箔である。
【0070】
また、熱応力緩和材は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板に切削加工を施して貫通穴からなる応力吸収空間を形成したものである。応力吸収空間の数は13個であり、13個の応力吸収空間の位置は図9Aに参照される配置であって各例で共通である。各例の応力吸収空間はいずれも貫通穴であるが、貫通穴の形状、貫通穴に形成される案内部の形状、貫通穴のヒートシンク側に形成される凹部の有無が異なる。
【0071】
[実施例1]
図1に示す応力緩和材(20)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が直径(d):2mmの円形の貫通穴(21)である。案内部として、前記貫通穴(21)の内壁面(22)に、応力緩和材(20)を厚み方向に貫く断面V字形の4本の縦溝(23)が周方向に等間隔で設けられている。前記縦溝(23)の深さ(t)は0.3mmである。
【0072】
[実施例2]
図2に示す応力緩和材(25)を用いた。実施例1の応力緩和材(20)とは、前記貫通穴(21)の内壁面(22)に設けた案内部の形状のみが異なる。案内部は内壁面(22)に設けた4本の螺旋状の溝(26)であり、周方向に等間隔で設けられている。これらの螺旋状の溝(26)の両端は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口している。また、前記螺旋状の溝(26)の深さ(t)は実施例1と同じである。
【0073】
[実施例3]
図3に示す応力緩和材(30)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が一辺3mmの正三角形の貫通穴(31)である。案内部は、貫通穴(31)の屈曲する内壁面(32)によって形成される3個の入隅部(33)であり、これらの入隅部(33)の入隅角度(α)は60°である。
【0074】
[実施例4]
図4に示す応力緩和材(40)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が菱形の貫通穴(41)である。前記菱形の長い方の対角線(符号なし)は3mmであり、案内部は屈曲する内壁面(42)によって形成される4個の入隅部(43)(44)である。4個の入隅部(43)(44)のうち、前記長い方の対角線の両端の2つの鋭角の入隅部(43)の入隅角度(α1)は60°あり、他の2つの鈍角の入隅部(44)の入隅角度(α2)は120°である。
【0075】
[実施例5]
図5に示す応力緩和材(50)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が直径3mmの円に内接する星形の貫通穴(51)である。案内部は、屈曲する内壁面(52)によって形成される5つの入隅部(53)であり、これらの入隅部(53)の入隅角度(α)は36°である。
【0076】
[実施例6]
図6に示す応力緩和材(60)を用いた。この応力緩和材(60)は実施例1の応力緩和材(20)の貫通穴(21)のヒートシンク(13)側の開口縁部の全周に凹部(61)を設けたものである。前記凹部(61)は、内壁面(62)がヒートシンク(13)に対して傾斜角度(θ)が30°で傾斜するテーパー面であり、板厚方向の高さ(h)は0.2mmである。また、案内部としての4本の縦溝(23)は前記凹部(61)に連通している。
【0077】
[実施例7]
図7に示す応力緩和材(70)を用いた。この応力緩和材(70)は実施例6の応力緩和材(60)とはヒートシンク(13)側の開口縁部に設けた凹部(71)の形状のみが異なる。前記凹部(71)は、内壁面(72)が凹部(71)内に突出する方向に湾曲する曲線で構成されている。前記内壁面(72)のヒートシンク(13)に対する傾斜角度(θ)は60°である。
【0078】
[実施例8]
図8に示す応力緩和材(80)を用いた。この応力緩和材(80)は実施例6の応力緩和材(60)の凹部(61)の内壁面(62)に全周に亘って溝(81)を形成したものである。
【0079】
[実施例9]
図9Aおよび9Bに示す応力緩和材(90)を用いた。13個の応力吸収空間は横断面寸法の異なる3種類の菱形の第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)であり、これらの貫通穴のヒートシンク(13)側の開口縁部の全周に第1〜第3凹部(94)(95)(96)が形成されている。各貫通穴(91)(92)(93)の横断面形状は実施例4の貫通穴(41)と相似形の菱形であり、入隅部(符号なし)の入隅角度は実施例4と同じである。また、菱形の長い方の対角線寸法は第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)で差があり、中心に位置する最小の第1貫通穴(91)の対角線寸法(d1)が2mm、中間に位置する第2貫通穴(92)の対角線寸法(d2)が3mm、外周側に位置する最大の第3貫通穴(93)が対角線寸法が(d3)が4mmである。また、前記第1〜第3凹部(94)(95)(96)は、いずれも内壁面(97)(98)(99)がヒートシンク(13)に対して傾斜角度(θ)が30°で傾斜するテーパー面であり、板厚方向の高さ(h)は0.2mmである。また、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の案内部としての入隅部は前記凹部(94)(95)(96)に連通している。
【0080】
[比較例]
図10に示す応力緩和材(101)を用いた。この応力緩和材(101)は実施例1の応力緩和材(20)とは貫通穴(102)に縦溝(23)が設けられていないことのみが異なる。
【0081】
[ろう付]
実施例1〜9および比較例の応力緩和材を、図1および図10に示すように、回路層(12)、ろう材箔、絶縁基板(11)、ろう材箔、応力緩和材(20)(25)(30)(40)(50)(60)(70)(80)(90)(101)、ろう材箔、ヒートシンク(13)の順に積層した放熱装置(1)(100)を仮組みし、7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0082】
ろう付した放熱装置(1)(100)を切断して目視観察したところ、全ての放熱装置(1)(100)の全ての接合部分が良好にろう付されていた。また、実施例1〜9において、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)(25)(30)(40)(50)(70)(80)(90)の接合面の余剰ろう材は案内部としての溝または入隅部に誘導されてヒートシンク(13)側に流れ、これらの案内部内および凹部(61)(71)(94)(95)(96)内に溜まっており、貫通穴(21)(31)(41)(51)(91)(92)(93)が余剰ろう材によって塞がれることなく応力吸収空間の容積が確保されていた。一方、比較例は余剰ろう材が貫通穴(102)内に流れ込み、応力吸収空間の容積が減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、セラミック製の絶縁基板とアルミニウム製ヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1、100…放熱装置
11…絶縁基板
12…回路層
13…ヒートシンク
14…電子素子
20、25、30、40、50、60、70、80、90、101…応力緩和材
21、31、41、51、91、92、93、102…貫通穴(応力吸収空間)
23…縦溝(案内部)
26…螺旋状の溝(案内部)
33、43、44、53…入隅部(案内部)
61、71、94、95、96…凹部
62、72、97、98、99…凹部の内壁面
81…溝
θ…凹部の内壁面の傾斜角度
α、α1、α2…入隅部の入隅角度
h…凹部の高さ
d…円形の貫通穴の直径
d1、d2、d3…菱形の貫通穴の対角線寸法
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子を搭載する絶縁基板の他方の面にヒートシンクが接合された放熱装置に関する。
【0002】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
電子素子を搭載するための放熱装置として、絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の金属回路層が接合され、他面側にヒートシンクを接合し、絶縁基板をヒートシンクに熱的に結合したものが知られている。かかる放熱装置において、セラミック製絶縁基板と金属製ヒートシンクとを直接ろう付すると通電時の発熱と非通電時の冷却による冷熱サイクルにおいて接合部の剥離やセラミック基板の割れが発生しやすいことから、これらの間に軟質の金属層を介在させて接合部に発生する熱応力を緩和することがある(特許文献1、2参照)。
【0004】
さらには、前記金属層のかわりに貫通穴や有底の穴による応力吸収空間を設けた応力緩和材の使用や、前記応力緩和材と金属層とを併用することが提案されている。図10に示した放熱装置(100)は、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)との間に介在させる応力緩和材(101)として、金属板に多数の円形の貫通穴(102)を設けたものを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【特許文献2】特開2006−294699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記放熱装置(100)は、応力緩和材(101)の一方の面が絶縁基板(11)にろう付され、他方の面がヒートシンク(13)にろう付される。このろう付時に余剰のろう材が接合界面から応力吸収空間である貫通穴(102)に流れ込んで貫通穴(102)を塞ぐことがある。応力吸収空間が塞がれて空間の容積が減少すると応力緩和効果が低下するので好ましくない。特に、セラミック製絶縁基板と金属製応力緩和材とは異種材料であり、これらの接合界面にはヒートシンクとの接合界面よりも大きい応力が発生するため、応力吸収空間が絶縁基板側で塞がれることは好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置において、余剰ろう材による応力吸収空間の絶縁基板側の塞がりを防止することを目的として、応力吸収空間の形状を提案するものである。
【0008】
即ち、本発明の放熱装置は下記[1]〜[12]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の回路層が接合され、他面側に応力緩和材を介してヒートシンクが接合された放熱装置であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側およびヒートシンク側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、前記応力吸収空間の内壁面に、絶縁基板側およびヒートシンク側の両方の開口部に通じて、応力緩和材と絶縁基板との接合部の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導する案内部が形成されていることを特徴とする放熱装置。
【0010】
[2]前記案内部は、応力吸収空間の内壁面が周方向に屈曲することによって形成された入隅部である前項1に記載の放熱装置。
【0011】
[3]前記入隅部の入隅角度が90°以下である前項2に記載の放熱装置。
【0012】
[4]前記案内部は応力吸収空間の内壁面に設けられた溝である前項1〜3のいずれかに記載の放熱装置。
【0013】
[5]前記溝は螺旋状の溝である前項4に記載の放熱装置。
【0014】
[6]前記溝の深さが0.01〜2mmである前項4または5に記載の放熱装置。
【0015】
[7]前記応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において応力吸収空間の断面積を拡大する凹部が前記案内部に連通して形成されている前項1〜6のいずれかに記載の放熱装置。
【0016】
[8]前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている前項7に記載の放熱装置。
【0017】
[9]前記凹部の内壁面とヒートシンクとの成す角度が10〜80°である前項8に記載の放熱装置。
【0018】
[10]前記凹部の内壁面に周方向に沿った溝が形成されている前項7〜9のいずれかに記載の放熱装置。
【0019】
[11]前記応力緩和材は複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、ヒートシンクとの接合面の外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きく形成されている前項7〜10のいずれかに記載の放熱装置。
【0020】
[12]前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている前項11に記載の放熱装置。
【発明の効果】
【0021】
上記[1]に記載の発明によれば、応力緩和材と絶縁基板との間のろう材のうちで、接合界面に供給されない余剰のろう材は毛細管力によって案内部の絶縁基板側の開口部から案内部内に引き込まれ、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れ、案内部内に溜まる。また、絶縁基板側の開口部から案内部内に引き込まれず応力吸収空間の内壁面に流れ出た余剰ろう材も、内壁面から案内部に引き込まれ、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れる。従って、余剰のろう材が応力吸収空間内に流れ込んで応力吸収空間の絶縁基板側の部分を塞ぐことが防がれる。絶縁基板側では応力吸収空間が確保されて応力緩和力が確保されるので、絶縁基板と応力緩和材との接合部の剥離を防止できる。
【0022】
上記[2]に記載の発明によれば、案内部として応力吸収空間の内壁面の屈曲によって形成された入隅部を利用して、絶縁基板側の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導することができる。また、前記案内部は応力吸収空間の形状をそのまま利用したものであるから、応力吸収空間を形成するための加工と同時に案内部を形成できる。
【0023】
上記[3]に記載の発明によれば、入隅部の入隅角度が90°以下に形成されているので、毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が強い。
【0024】
上記[4]に記載の発明によれば、応力吸収空間の内壁面に設けた溝を案内部として絶縁基板側の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導することができる。また、前記溝は、応力吸収空間を形成する加工に追加工することによって容易に形成することができる。
【0025】
上記[5]に記載の発明によれば、螺旋状の溝は応力吸収空間の内壁面を周方向に進みながらヒートシンク側に進んでいくので、内壁面の広い範囲から余剰ろう材を溝内に引き込むことができ、ひいては応力吸収空間内に流れ込む余剰ろう材量を減らすことができる。しかも、螺旋状の溝は縦溝よりも長さが長くより多くの余剰ろう材を溜めることができるので、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を防止する効果が大きい。
【0026】
上記[6]に記載の発明によれば、溝の深さが0.01〜2mmであるから毛細管力が強く、余剰ろう材を十分に引き込むことができる。
【0027】
上記[7]に記載の発明によれば、応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、断面積が拡大された凹部が案内部に連通して形成されているので、案内部に誘導されてヒートシンク側に流れた余剰ろう材は凹部に流れ込み、凹部に誘導されて周方向に流れていく。凹部に流れ込んだ余剰ろう材は毛細管力によって凹部内に引き込まれるので、ろう材を応力吸収空間に流出させることなく凹部内に留まらせることができる。従って、案内部に加えてヒートシンク側に凹部を形成することによって余剰ろう材の収容量が増えるので、余剰ろう材が多い場合でも応力吸収空間による応力緩和力を確保できる。
【0028】
上記[8]に記載の発明によれば、凹部の断面積が開口面に向かって連続的に拡大され、かつ積層方向の断面においては、凹部の内壁面形状が直線または応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されているので、毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が大きい。
【0029】
上記[9]に記載の発明によれば、凹部の内壁面と絶縁基板またはヒートシンクとの成す角度が10°以上でかつ40°未満に形成されているので、特に毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が大きい。
【0030】
上記[10]に記載の発明によれば、凹部に引き込まれた余剰ろう材が溝に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。
【0031】
上記[11]に記載の発明は、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有し、これらの凹部の断面積は中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定され、外周側にいくほど凹部の容積が大きくなるように設定されている。このため、接合面のろう材が中心部から外周側に流れて外周側で余剰ろう材量が増えた場合においても凹部に余剰ろう材を溜めることができるので、外周側の応力吸収空間の塞がりを防止できる。
【0032】
上記[12]に記載の発明によれば、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定されているので、効率良く放熱でき、放熱装置の放熱性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の放熱装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図1B】図1Aにおける1B−1B線断面視図である。
【図2】応力緩和材における案内部の他の例を示す要部斜視図である。
【図3】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図4】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図5】応力吸収空間および案内部の他の形状例を示す横断面図である。
【図6】応力吸収空間に凹部を有する応力緩和材を示す断面図である。
【図7】凹部の他の形状を示す断面図である。
【図8】溝を有する凹部を示す断面図である。
【図9A】応力緩和材における応力吸収空間の配置例を示す斜視図である
【図9B】図9Aの部分断面図である。
【図10】従来の放熱装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[放熱装置の構成]
図1Aは本発明の放熱装置の一実施形態を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。以下の説明において、構成部材が積層する方向を縦または縦方向、縦方向の断面を縦断面と称し、この縦断面と直交する面で切断した断面を横断面と称する。
【0035】
放熱装置(1)は、絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が接合され、他面側には応力緩和材(20)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(13)が接合されている。(14)は回路層に接合された電子素子である。前記放熱装置(1)において、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)とは応力緩和材(20)を介して熱的に結合され、電子素子(14)が発する熱はヒートシンク(13)に排熱される。
【0036】
前記放熱装置(1)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0037】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0038】
回路層(12)を構成する金属としては、導電性が高くかつ絶縁基板(11)とろう付またははんだ付が可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0039】
応力緩和材(20)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(15)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。
【0040】
ヒートシンク(13)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金やAl−Fe系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(13)は応力緩和材(20)側の外面がフラットであれば応力緩和材(20)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、応力緩和材(20)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0041】
前記放熱装置(1)は、各部材をろう材(図示省略)を介して重ねて仮組し、一括してろう付することによって作製することができる。ろう材はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。ろう材はろう材箔として層間に配置しても良いし、回路層(12)、応力緩和材(20)、ヒートシンク(13)を構成する金属と一体化したブレージングシートとして用いることもできる。
【0042】
[応力緩和材]
図1Aおよび図1Bに示した応力緩和材(20)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴(21)を有するパンチングメタルであり、前記貫通穴(21)は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口している。前記貫通穴(21)の内壁面(22)には、応力緩和材(20)を厚み方向(縦方向)に貫き、絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口する断面V字形の縦溝(23)が形成されている。前記縦溝(23)は本発明における案内部に対応し、貫通穴(21)にはかかる4本の縦溝(23)が周方向に等間隔で設けられている。
【0043】
前記放熱装置(1)のろう付時、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)との間に配置されたろう材のうちで、接合界面に供給されない余剰のろう材は毛細管力によって前記縦溝(23)の絶縁基板(11)側の開口部から縦溝(23)内に引き込まれ、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れ、縦溝(23)内に溜まる。また、絶縁基板(11)側の開口部から縦溝(23)内に引き込まれず貫通穴(21)の内壁面(22)に流れ出た余剰ろう材も、内壁面(22)から縦溝(23)に引き込まれ、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れる。従って、余剰のろう材が貫通穴(21)に流れ込んで応力吸収空間を塞ぐことが防がれ、本来の貫通穴(21)の容積、即ち縦溝(23)を含まない貫通穴(21)の容積を維持して貫通穴(21)による応力緩和力を確保できる。また、余剰ろう材の一部がヒートシンク(13)側の端部で縦溝(23)から溢れ出たとしても、絶縁基板(11)側では応力吸収空間が確保されているので応力緩和力を確保できる。絶縁基板(11)と応力緩和材(20)とはセラミックと金属という異種材料であり、これらの界面に発生する応力は金属同士であるヒートシンク(13)と応力緩和材(20)の間に発生する応力よりも大きいため、絶縁基板(11)側の空間を優先的に確保することで接合部の剥離を防止できる。
【0044】
本発明において、案内部は余剰ろう材をヒートシンク側に流すことができれば良いので、貫通穴に形成する溝は応力緩和材の両面に開口していれば良く、応力緩和材を厚み方向に最短距離で貫く縦溝に限定されるものではない。他の溝形状として螺旋状や蛇行状の溝を例示できる。図2の応力緩和材(25)は、貫通穴(21)の内壁面(22)に応力緩和材(25)の両面に開口し、内壁面(22)上を螺旋状に進んでいく螺旋状の溝(26)を形成した例である。螺旋状の溝(26)は、貫通穴(20)の内壁面(22)を周方向に進みながらヒートシンク(13)側に進んでいくので、図1の縦溝(23)よりも内壁面(22)の広い範囲から余剰ろう材を溝(26)内に引き込むことができ、ひいては応力吸収空間内に残る余剰ろう材量を減らすことができる。しかも、螺旋状の溝(26)は縦溝(23)よりも長さが長くより多くの余剰ろう材を溜めることができるので、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を防止する効果が大きい。なお、図2は応力緩和材(25)を透視した状態で貫通穴(21)および螺旋状の溝(26)のみを示した図であり、金属部分の図示を省略している。
【0045】
前記溝(23)(26)の深さ(t)は0.01〜2mmの範囲に設定することが好ましい。深さ(t)が0.01mm未満の浅い溝では毛細管力による余剰ろう材の引き込み力が弱く、また容積が小さいので余剰ろう材の収容量が少ない。また、2mmあれば十分に余剰ろう材を誘導でき、かつ多くのろう材を溜めることができる。特に好ましい溝の深さは0.05〜1.5mmである。
【0046】
また、貫通穴(21)の内壁面(22)に設ける溝の数は限定されないが、余剰ろう材は貫通穴(21)の全周で生じるので、複数の溝を等間隔で設けることが好ましい。溝の断面形状も限定されず、図示例の断面V字形の溝の他、U字形の溝を例示できる。
【0047】
上述した応力緩和材(20)(25)は、例えば材料の平板を円形に打ち抜いて貫通穴(21)を形成し、この貫通穴(21)の内壁面(22)に追加工で溝(23)(26)を形成することによって作製できる。また、図1の貫通穴(21)と縦溝(23)であれば、これらを同時に打ち抜くこともできる。
【0048】
(案内部の他の形状例)
本発明においては、ろう材を誘導する案内部として応力吸収空間そのものの形状を利用することができる。
【0049】
図3〜5は応力緩和材(30)(40)(50)に設けた貫通穴(応力緩和空間)(31)(41)(51)の横断面図である。これらの貫通穴(31)(41)(51)は内壁面(32)(42)(52)が周方向に屈曲したものであり、屈曲によって複数の入隅部(33)(43)(44)(53)が形成されている。これらの入隅部の(33)(43)(44)(53)においては毛細管力によって余剰ろう材が入隅部(33)(43)(44)(53)の中心部に引き込まれ、入隅部(33)(43)(44)(53)が貫通穴(31)(41)(51)の貫通方向に形成されていることによって、余剰ろう材が入隅部(33)(43)(44)(53)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れていく。上述した全ての入隅部(33)(43)(44)(53)を案内部として利用できるが、毛細管力による引き込み力を得るには入隅角度が小さいことが好ましい。案内部として好適に利用できる入隅角度は90°以下であり、特に10〜70°が好ましい。図3の貫通穴(31)は横断面形状が正三角形であり、全ての入隅部(33)の入隅角度(α)が鋭角であって案内部として好適に利用できる。図4の貫通穴(41)は横断面形状が2本の対角線が異なる長さで形成された菱形であり、長い方の対角線の両端に形成された2つの入隅部(43)の入隅角度(α1)が鋭角であって、案内部として好適に利用できる。図5の貫通穴(51)は横断面形状が星形であり、全ての入隅部(53)の入隅角度(α)が鋭角であって案内部として好適に利用できる。
【0050】
前記入隅部(33)(43)(44)(53)による案内部は貫通穴(31)(41)(51)を形成する加工を行えば同時に形成されるので、追加工なしで案内部を形成できる。なお、余剰ろう材の誘導を促進するために、これらの貫通穴(31)(41)(51)の内壁面(32)(42)(52)にも図1および図2に示した溝(23)(26)を形成することができる。
【0051】
(応力吸収空間における凹部)
図6の応力緩和材(60)は、図1と同様の円形の貫通穴(21)の内壁面(22)に縦溝(23)を設け、さらに貫通穴(21)の穴径をヒートシンク(13)側の開口面に向かって連続的に拡大したものである。この穴径の拡大により、貫通穴(21)の開口縁部の全周において、貫通穴(21)の横断面積を拡大する凹部(61)が形成されている。縦断面において、前記凹部(61)の内壁面(62)の形状はヒートシンク(13)に対して一定の角度(θ)で傾斜する直線で表されるテーパー面である。また、前記縦溝(23)は凹部(61)に連通している。
【0052】
前記応力緩和材(60)を用いた放熱装置のろう付においては、縦溝(23)に誘導されてヒートシンク(13)側に流れたろう材は縦溝(23)から凹部(61)に流れ込み、さらに凹部(61)に誘導されて周方向に流れていく。凹部(61)に流れ込んだろう材は毛細管力によって凹部(61)内に引き込まれるので、ろう材を応力吸収空間に流出させることなく凹部(61)内に留まらせることができる。以上のように、貫通穴(21)のヒートシンク(13)側に凹部(61)を形成することによって余剰ろう材の収容量が増えるので、余剰ろう材が多い場合でも、本来の貫通穴(21)の容積、即ち凹部(61)および溝(23)を含まない貫通穴(21)の容積を維持して貫通穴(21)による応力緩和力を確保できる。
【0053】
前記ヒートシンク(13)に対する凹部(61)の内壁面(62)の傾斜角度(θ)は、余剰ろう材による応力吸収空間の閉塞を効果的に防止できる角度として10〜80°の間に設定することが好ましい。前記傾斜角度(θ)が10°未満では余剰ろう材を溜めるための容量が小さくなるので、閉塞防止効果が小さくなる。一方、80°を超えると毛細管力が小さくなってろう材の引き込み力が低下するので、閉塞防止効果が小さくなる。また、前記凹部(61)の内壁面(62)は縦断面において直線で形成されたものであり、直線で表される内壁面(62)の傾斜角度(θ)は、強い引き込み力を得るために、上記範囲内でも特に角度の小さい範囲に設定することが好ましい。具体的には10〜40°が好ましく、特に15〜35°が好ましい。
【0054】
また、図7に示す応力緩和材(70)のように、応力吸収空間のヒートシンク(13)側に設ける凹部(71)は、縦断面において内壁面(72)の形状を貫通穴(21)内に突出する方向に湾曲する曲線で形成することもできる。内壁面(72)がこのような曲線で形成された凹部(71)は、直線で形成された図6の凹部(61)よりも毛細管力が高くろう材の引き込み力も強い。一方、図6の内壁面(62)が直線で形成された凹部(61)は曲線で形成された凹部(71)よりも容量が大きいので、余剰ろう材をより多く溜めることができる。
【0055】
図7の曲線で形成された凹部(32)において、絶縁基板(11)に対する内壁面(33)の傾斜角度(θ)を以下のとおりに定義する。
【0056】
前記凹部(71)の内壁面(72)を形成する曲線の両端点のうちのヒートシンク(13)から遠い方の端点をP1とする。この端点P1からヒートシンク(13)までの距離(h)を2等分する直線が内壁面(72)と交わる点をP2とし、交点P2における接線とヒートシンク(13)とが成す角度(θ)を内壁面(72)の傾斜角度とする。前記定義において、端点P1からヒートシンク(13)までの距離(h)は凹部(71)の高さである。曲線で形成された内壁面(72)についても前記傾斜角度(θ)の好ましい範囲は10〜80°である。曲線で表される内壁面(72)の場合は、強い引き込み力を得るために、傾斜角度(θ)を上記範囲内でも特に角度の大きい範囲に設定することが好ましい。具体的には、30〜80°が好ましく、特に40〜75°が好ましい。
【0057】
さらに、前記凹部(61)(71)に流入したろう材の周方向の流れを促す手段として、図8に示す応力緩和材(80)のように、凹部(61)の内壁面(62)に周方向に沿った環状の溝(81)を設ける方法がある。凹部(61)に引き込まれた余剰ろう材は溝(81)に導かれて周方向に流れるので、周方向において均一に余剰ろう材を溜めことができる。また、溝(81)によって凹部(61)の容積が拡大するので、より多くの余剰ろう材を溜めることができる。溝(81)の数は限定されず、1本でも複数本であっても良い。また、溝は周方向で閉じられた環状溝である必要はなく、螺旋状の溝であっても良い。また、溝の断面形状も限定されず、図示例のV字形の溝(81)の他、U字形の溝を例示できる。
【0058】
図8は、図6の内壁面(62)と同じく縦断面において直線で形成された内壁面(62)に溝(81)を設けた例を示したものであるが、図7の曲線で形成された内壁面(72)にも溝を設けることができる。
【0059】
また、凹部の内壁面は図7および図8に示す傾斜面で形成されたものに限定されない。他の凹部形状として、内壁面が側面と底面との2つの面によって段状に形成されたものを例示できる。前記側面はヒートシンクに対して垂直な面であっても良いし、ヒートシンクに対して傾斜する面であっても良い。このような段状の凹部は容積が大きいので、多くの余剰ろう材を溜めることができる。
【0060】
ヒートシンク側に形成する凹部は、応力吸収空間(貫通穴)および案内部の形状に関わらず形成することができる。案内部として螺旋状の溝(26)を有する応力緩和材(25)(図2参照)や、案内部として貫通穴(31)(41)(51)の入隅部(33)(43)(44)(53)を利用した応力緩和材(30)(40)(50)においても凹部を形成することができる(図3〜5参照)。図9Aおよび図9Bは、横断面菱形の貫通穴(91)(92)(93)の入隅部を案内部とする応力緩和材(90)に凹部(94)(95)(96)を設けた例である。
【0061】
[応力緩和空間の配置]
本発明において、応力緩和材の応力吸収空間は、積層方向に貫通している限りその形状や数は限定されない。また、複数の応力吸収空間を有する応力緩和材においては、複数の応力吸収空間で形状および寸法、案内部の数および形状を変えることもできる。
【0062】
応力緩和材と絶縁基板との接合面において、溶融したろう材は中央部から外周側に向かって流れる傾向があり、余剰ろう材量は中心部で少なく外周側にいくほど増えていく。このため、応力緩和材が複数の応力吸収空間を有する場合、外周側に位置する応力吸収空間ほど余剰ろう材によって塞がれ易いという状況がある。
【0063】
このような状況に対し、応力吸収空間に設ける案内部または凹部の容積を余剰ろう材量分布に対応させて、これらの容積を中心部から外周側にいくほど大きくなるように設定して余剰ろう材の収容可能量を増大させることによって、どの位置にある応力吸収空間においても余剰ろう材が応力吸収空間を塞がないようにすることができる。
【0064】
外周側に行くほど余剰ろう材の収容量を増やす方法の一つとして、外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きくなるように設定する方法を推奨できる。凹部の断面積に差をつける方法として、外周側に位置する応力吸収空間の断面積を中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きくなるように形成する方法を推奨できる。凹部は応力吸収空間の開口周縁部に設けられるので、応力吸収空間の断面積が大きくなれば自ずと凹部の断面積も大きくすることができる。また、電子素子は応力緩和材の中心部上に取り付けられることが多く、熱の主たる伝達経路となる中心部よりも外周側の応力吸収空間の断面積が大きくなるように設定した方が効率良く放熱できるので、放熱性能を維持するという観点から、中心側よりも外周側に位置する応力吸収空間の断面積を大きくすることが好ましい。
【0065】
図9Aおよび図9Bに示す応力緩和材(90)は、寸法の異なる3種類の第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)を有し、上述した凹部の断面積の大小差を実現したものである。前記第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の横断面形状はいずれも菱形であり、入隅部の角度が等しく対角線寸法(d1)(d2)(d3)が異なる相似形である。前記応力緩和材(90)において、中心に位置する1個の第1貫通穴(91)が最も小さく、この第1貫通穴(91)を取り囲んで第1貫通穴(91)よりも大きい4個の第2貫通穴(92)が位置し、さらにこれらの第2貫通穴(92)を取り囲んで最も大きい8個の第3貫通穴(93)が位置している。また、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)のヒートシンク(13)側の開口周縁部には、第1〜第3内壁面(97)(98)(99)がヒートシンク(13)に対して傾斜するテーパー面で形成された第1〜第3凹部(94)(95)(96)が設けられている。第1〜第3凹部(94)(95)(96)の高さ(h)および第1〜第3内壁面(97)(98)(99)の傾斜角度(θ)は共通であるが、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の対角線寸法(d1)(d2)(d3)の差に伴って第1〜第3凹部(94)(95)(96)の対角線寸法が異なり、これらの断面積は、第1凹部(94)が最も小さく、第2凹部(95)は第1凹部(94)よりも大きく、第3凹部(96)は第2凹部(95)よりもさらに大きく設定されている。
【0066】
また、凹部を設けずに外周側でより多くの余剰ろう材を収容するには、外周側の応力吸収空間で案内部の数や容積を増やせば良い。例えば、図1の円形の貫通穴(21)であれば外周側に配置した貫通穴で縦溝(23)の数を増やすか、あるいは縦溝(23)の深さを深くすることで余剰ろう材の収容量を増やすことができる。また、貫通穴の直径を拡大すればより多くの溝を設けることができるので、溝数を増やすために外周側ほど穴径を大きくすることは放熱性能を維持するという観点からも好ましい。
【0067】
本発明において応力吸収空間の形状は図1〜図9に示したものに限定されず、楕円形やスリット状の貫通穴等であっても良い。また、凹部は応力吸収空間の開口縁部の全周に形成することに限定されるものではなく、一部にのみ形成されている場合も本発明に含まれる。ただし、凹部を開口縁部の全周に形成すればより多くの余剰ろう材を引き込むことによって、余剰ろう材の応力吸収空間への流出を防ぐことができる。
【実施例】
【0068】
図1および図10に参照される積層構造の放熱装置(1)(100)において、応力吸収空間、案内部および凹部をの形状を変えた種々の応力緩和材を用いて製作した。
【0069】
応力緩和材を除く部材は各例で共通のものを用いた。絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。回路層(12)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの板である。ヒートシンク(13)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。ろう材はAl−10質量%Si−1質量%Mg合金からなる厚さ40μmの箔である。
【0070】
また、熱応力緩和材は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板に切削加工を施して貫通穴からなる応力吸収空間を形成したものである。応力吸収空間の数は13個であり、13個の応力吸収空間の位置は図9Aに参照される配置であって各例で共通である。各例の応力吸収空間はいずれも貫通穴であるが、貫通穴の形状、貫通穴に形成される案内部の形状、貫通穴のヒートシンク側に形成される凹部の有無が異なる。
【0071】
[実施例1]
図1に示す応力緩和材(20)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が直径(d):2mmの円形の貫通穴(21)である。案内部として、前記貫通穴(21)の内壁面(22)に、応力緩和材(20)を厚み方向に貫く断面V字形の4本の縦溝(23)が周方向に等間隔で設けられている。前記縦溝(23)の深さ(t)は0.3mmである。
【0072】
[実施例2]
図2に示す応力緩和材(25)を用いた。実施例1の応力緩和材(20)とは、前記貫通穴(21)の内壁面(22)に設けた案内部の形状のみが異なる。案内部は内壁面(22)に設けた4本の螺旋状の溝(26)であり、周方向に等間隔で設けられている。これらの螺旋状の溝(26)の両端は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口している。また、前記螺旋状の溝(26)の深さ(t)は実施例1と同じである。
【0073】
[実施例3]
図3に示す応力緩和材(30)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が一辺3mmの正三角形の貫通穴(31)である。案内部は、貫通穴(31)の屈曲する内壁面(32)によって形成される3個の入隅部(33)であり、これらの入隅部(33)の入隅角度(α)は60°である。
【0074】
[実施例4]
図4に示す応力緩和材(40)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が菱形の貫通穴(41)である。前記菱形の長い方の対角線(符号なし)は3mmであり、案内部は屈曲する内壁面(42)によって形成される4個の入隅部(43)(44)である。4個の入隅部(43)(44)のうち、前記長い方の対角線の両端の2つの鋭角の入隅部(43)の入隅角度(α1)は60°あり、他の2つの鈍角の入隅部(44)の入隅角度(α2)は120°である。
【0075】
[実施例5]
図5に示す応力緩和材(50)を用いた。13個の応力吸収空間は同一形状であり、横断面形状が直径3mmの円に内接する星形の貫通穴(51)である。案内部は、屈曲する内壁面(52)によって形成される5つの入隅部(53)であり、これらの入隅部(53)の入隅角度(α)は36°である。
【0076】
[実施例6]
図6に示す応力緩和材(60)を用いた。この応力緩和材(60)は実施例1の応力緩和材(20)の貫通穴(21)のヒートシンク(13)側の開口縁部の全周に凹部(61)を設けたものである。前記凹部(61)は、内壁面(62)がヒートシンク(13)に対して傾斜角度(θ)が30°で傾斜するテーパー面であり、板厚方向の高さ(h)は0.2mmである。また、案内部としての4本の縦溝(23)は前記凹部(61)に連通している。
【0077】
[実施例7]
図7に示す応力緩和材(70)を用いた。この応力緩和材(70)は実施例6の応力緩和材(60)とはヒートシンク(13)側の開口縁部に設けた凹部(71)の形状のみが異なる。前記凹部(71)は、内壁面(72)が凹部(71)内に突出する方向に湾曲する曲線で構成されている。前記内壁面(72)のヒートシンク(13)に対する傾斜角度(θ)は60°である。
【0078】
[実施例8]
図8に示す応力緩和材(80)を用いた。この応力緩和材(80)は実施例6の応力緩和材(60)の凹部(61)の内壁面(62)に全周に亘って溝(81)を形成したものである。
【0079】
[実施例9]
図9Aおよび9Bに示す応力緩和材(90)を用いた。13個の応力吸収空間は横断面寸法の異なる3種類の菱形の第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)であり、これらの貫通穴のヒートシンク(13)側の開口縁部の全周に第1〜第3凹部(94)(95)(96)が形成されている。各貫通穴(91)(92)(93)の横断面形状は実施例4の貫通穴(41)と相似形の菱形であり、入隅部(符号なし)の入隅角度は実施例4と同じである。また、菱形の長い方の対角線寸法は第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)で差があり、中心に位置する最小の第1貫通穴(91)の対角線寸法(d1)が2mm、中間に位置する第2貫通穴(92)の対角線寸法(d2)が3mm、外周側に位置する最大の第3貫通穴(93)が対角線寸法が(d3)が4mmである。また、前記第1〜第3凹部(94)(95)(96)は、いずれも内壁面(97)(98)(99)がヒートシンク(13)に対して傾斜角度(θ)が30°で傾斜するテーパー面であり、板厚方向の高さ(h)は0.2mmである。また、第1〜第3貫通穴(91)(92)(93)の案内部としての入隅部は前記凹部(94)(95)(96)に連通している。
【0080】
[比較例]
図10に示す応力緩和材(101)を用いた。この応力緩和材(101)は実施例1の応力緩和材(20)とは貫通穴(102)に縦溝(23)が設けられていないことのみが異なる。
【0081】
[ろう付]
実施例1〜9および比較例の応力緩和材を、図1および図10に示すように、回路層(12)、ろう材箔、絶縁基板(11)、ろう材箔、応力緩和材(20)(25)(30)(40)(50)(60)(70)(80)(90)(101)、ろう材箔、ヒートシンク(13)の順に積層した放熱装置(1)(100)を仮組みし、7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0082】
ろう付した放熱装置(1)(100)を切断して目視観察したところ、全ての放熱装置(1)(100)の全ての接合部分が良好にろう付されていた。また、実施例1〜9において、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)(25)(30)(40)(50)(70)(80)(90)の接合面の余剰ろう材は案内部としての溝または入隅部に誘導されてヒートシンク(13)側に流れ、これらの案内部内および凹部(61)(71)(94)(95)(96)内に溜まっており、貫通穴(21)(31)(41)(51)(91)(92)(93)が余剰ろう材によって塞がれることなく応力吸収空間の容積が確保されていた。一方、比較例は余剰ろう材が貫通穴(102)内に流れ込み、応力吸収空間の容積が減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、セラミック製の絶縁基板とアルミニウム製ヒートシンクとが応力緩和材を介してろう付された放熱装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1、100…放熱装置
11…絶縁基板
12…回路層
13…ヒートシンク
14…電子素子
20、25、30、40、50、60、70、80、90、101…応力緩和材
21、31、41、51、91、92、93、102…貫通穴(応力吸収空間)
23…縦溝(案内部)
26…螺旋状の溝(案内部)
33、43、44、53…入隅部(案内部)
61、71、94、95、96…凹部
62、72、97、98、99…凹部の内壁面
81…溝
θ…凹部の内壁面の傾斜角度
α、α1、α2…入隅部の入隅角度
h…凹部の高さ
d…円形の貫通穴の直径
d1、d2、d3…菱形の貫通穴の対角線寸法
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の回路層が接合され、他面側に応力緩和材を介してヒートシンクが接合された放熱装置であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側およびヒートシンク側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、前記応力吸収空間の内壁面に、絶縁基板側およびヒートシンク側の両方の開口部に通じて、応力緩和材と絶縁基板との接合部の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導する案内部が形成されていることを特徴とする放熱装置。
【請求項2】
前記案内部は、応力吸収空間の内壁面が周方向に屈曲することによって形成された入隅部である請求項1に記載の放熱装置。
【請求項3】
前記入隅部の入隅角度が90°以下である請求項2に記載の放熱装置。
【請求項4】
前記案内部は応力吸収空間の内壁面に設けられた溝である請求項1〜3のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項5】
前記溝は螺旋状の溝である請求項4に記載の放熱装置。
【請求項6】
前記溝の深さが0.01〜2mmである請求項4または5に記載の放熱装置。
【請求項7】
前記応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において応力吸収空間の断面積を拡大する凹部が前記案内部に連通して形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項8】
前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている請求項7に記載の放熱装置。
【請求項9】
前記凹部の内壁面とヒートシンクとの成す角度が10〜80°である請求項8に記載の放熱装置。
【請求項10】
前記凹部の内壁面に周方向に沿った溝が形成されている請求項7〜9のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項11】
前記応力緩和材は複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、ヒートシンクとの接合面の外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きく形成されている請求項7〜10のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項12】
前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている請求項11に記載の放熱装置。
【請求項1】
絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の回路層が接合され、他面側に応力緩和材を介してヒートシンクが接合された放熱装置であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側およびヒートシンク側の両面に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、前記応力吸収空間の内壁面に、絶縁基板側およびヒートシンク側の両方の開口部に通じて、応力緩和材と絶縁基板との接合部の余剰ろう材をヒートシンク側に誘導する案内部が形成されていることを特徴とする放熱装置。
【請求項2】
前記案内部は、応力吸収空間の内壁面が周方向に屈曲することによって形成された入隅部である請求項1に記載の放熱装置。
【請求項3】
前記入隅部の入隅角度が90°以下である請求項2に記載の放熱装置。
【請求項4】
前記案内部は応力吸収空間の内壁面に設けられた溝である請求項1〜3のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項5】
前記溝は螺旋状の溝である請求項4に記載の放熱装置。
【請求項6】
前記溝の深さが0.01〜2mmである請求項4または5に記載の放熱装置。
【請求項7】
前記応力吸収空間のヒートシンク側の開口縁部に、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において応力吸収空間の断面積を拡大する凹部が前記案内部に連通して形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項8】
前記凹部の断面積は開口面に向かって連続的に拡大され、かつ前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向の断面において、前記凹部の内壁面形状が直線また応力吸収空間内に突出する方向に湾曲する曲線で形成されている請求項7に記載の放熱装置。
【請求項9】
前記凹部の内壁面とヒートシンクとの成す角度が10〜80°である請求項8に記載の放熱装置。
【請求項10】
前記凹部の内壁面に周方向に沿った溝が形成されている請求項7〜9のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項11】
前記応力緩和材は複数の応力吸収空間を有し、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、ヒートシンクとの接合面の外周側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の凹部の断面積よりも大きく形成されている請求項7〜10のいずれかに記載の放熱装置。
【請求項12】
前記複数の応力吸収空間は、前記絶縁基板、応力緩和材およびヒートシンクが積層する方向に直交する面で切断した断面において、外周側に位置する応力吸収空間の断面積が、中心側に位置する応力吸収空間の断面積よりも大きく形成されている請求項11に記載の放熱装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【公開番号】特開2012−227341(P2012−227341A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93206(P2011−93206)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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