説明

放電灯点灯装置、プロジェクタ及び放電灯点灯装置の制御方法

【課題】突入電流の発生を抑制し、点灯始動時における放電灯の電極の劣化を低減することにより放電灯の長寿命化を実現するための放電灯点灯装置を提供すること。
【解決手段】放電灯点灯装置10は、放電ランプ100に電流を供給し、放電ランプ100を駆動するインバータブリッジ20と、インバータブリッジ20を制御するブリッジドライバー30及びMCU40と、を含む。ブリッジドライバー30及びMCU40は、点灯信号12に基づいて、インバータブリッジ20が、放電ランプ100の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ放電ランプ100を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は放電ランプ100を直流駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯点灯装置、プロジェクタ及び放電灯点灯装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタの光源として高圧水銀ランプなどの放電ランプが使用されており、放電ランプの長寿命化が望まれている。放電ランプの長寿命化を実現するためには、放電ランプの点灯始動時における放電ランプの電極の劣化を極力少なくすることが重要な課題である。
【0003】
放電ランプの点灯始動時には、まず、数十kVの高電圧パルスが放電ランプの電極間に印加され、電極間が絶縁破壊されることにより放電路が形成される。その後、電極間が高インピーダンスの状態のグロー放電から、電極がある程度温まり電極間のインピーダンスが下がるとアーク放電に移行する。アーク放電に移行した後は、両電極が均等に消耗するように電極間に交流電流を流して放電ランプの交流駆動が行われる。
【0004】
ここで、グロー放電の期間は電極が劣化しやすいので、グロー放電の期間をできる限り短くしてアーク放電に移行させるのが長寿命化の鍵となる。従来、点灯始動時にできる限りはやく電極を温めるために、アーク放電に移行するまでは電極間の一方向のみに電流を流す直流起動方式の放電灯点灯装置が提案されている。
【特許文献1】特開平9−82480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、直流起動方式の放電灯点灯装置では、点灯始動後のグロー放電からアーク放電に移行するときの電極間インピーダンスが急激に低下する期間において放電ランプの電極間に突入電流と呼ばれる100A以上の大電流が流れてしまう。そのため、放電ランプの電極が劣化し、放電灯の寿命を短くする原因となっていた。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、突入電流の発生を抑制し、点灯始動時における放電灯の電極の劣化を低減することにより放電灯の長寿命化を実現するための放電灯点灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る放電灯点灯装置は、所与の点灯信号に基づいて放電灯を点灯させる放電灯点灯装置であって、前記放電灯に電流を供給し、前記放電灯を駆動する放電灯駆動部を含み、前記放電灯駆動部は、前記点灯信号に基づいて、前記放電灯の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように制御することを特徴とする。
【0008】
所与の点灯信号は、例えば、電源スイッチがONになったことを放電灯点灯装置の外部の装置(CPU等)が検出することにより発生させてもよい。
【0009】
放電灯は、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等であってもよい。
【0010】
定常点灯は、放電灯の電極間のインピーダンスが低下し、放電灯がアーク放電を継続する点灯状態である。
【0011】
放電灯駆動部は、例えば、専用の回路であってもよいし、汎用のマイクロコンピュータであってもよい。
【0012】
所定期間は、例えば、交流駆動により突入電流を分散させて放電灯の電極間に流れる電流のピーク値を十分小さくするのに必要な長さの時間(例えば、0.5ms〜20ms)であってもよい。また、所定期間は、例えば、制御信号により可変に設定可能であってもよい。さらに、所定のタイミングで放電灯の交流駆動を開始することもできる。所定のタイミングは、例えば、点灯始動期間において突入電流が発生する前の任意のタイミングであってもよく、突入電流が発生する直前がより好ましい。また、所定のタイミングは、例えば、制御信号により可変に設定可能であってもよい。
【0013】
交流駆動の周波数は、例えば、10kHz〜70kHz程度であってもよい。また、交流駆動の周波数は、例えば、制御信号により可変に設定可能であってもよい。
【0014】
本発明によれば、点灯始動期間における所定期間だけ放電灯を交流駆動し、点灯始動期間におけるその他の期間は放電灯を直流駆動する。さらに、所定のタイミングで放電灯の交流駆動を開始することもできる。従って、直流駆動により放電灯を温める時間を短縮しながらも交流駆動により突入電流を所定の期間において分散させることができるので、点灯始動期間における放電灯の電極の劣化を低減することができる。その結果、放電灯の長寿命化を実現することができる。
【0015】
(2)本発明に係る放電灯点灯装置は、前記放電灯が最後に消灯してから点灯を開始するまでの時間に関する点灯履歴情報を取得する点灯履歴取得部を含み、前記放電灯駆動部は、前記点灯履歴情報に基づいて、前記点灯始動期間において前記放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御することを特徴とする。
【0016】
点灯履歴情報は、例えば、放電灯が最後に消灯した時刻とその後点灯を開始した時刻の2つの時刻情報であってもよいし、放電灯が連続して消灯していた時間の情報であってもよい。
【0017】
点灯履歴取得部は、放電灯点灯装置の内部に存在し、バックアップ電池等で常に動作する時計から時刻情報(点灯履歴情報)を取得してもよい。また、点灯履歴取得部は、放電灯点灯装置がネットワークに接続されている場合には、ネットワークを介してタイムサーバから正確な時刻情報(点灯履歴情報)を取得してもよい。
【0018】
点灯履歴取得部は、例えば、専用の回路であってもよいし、汎用のマイクロコンピュータであってもよい。また、例えば、ブリッジドライバー制御部に相当するマイクロコンピュータが点灯履歴取得部を兼ねてもよい。
【0019】
放電灯点灯装置が点灯履歴情報を内部で記憶するような場合は、放電灯点灯装置の電源がOFFしても点灯履歴情報が消失しないようにするために、例えば、点灯履歴情報は不揮発性メモリに記憶させてもよい。
【0020】
本発明によれば、点灯履歴情報に基づいて、点灯始動期間において放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御する。一般に、放電灯内部の自由電子が少ないほど点灯に要する時間が長くなる。すなわち、放電灯が消灯していた時間が長いほど放電灯を点灯させるのに時間がかかり、突入電流が発生するタイミングも遅くなる。従って、点灯履歴情報から突入電流が発生するタイミングを推定し、放電灯の交流駆動を開始するタイミングが突入電流の発生直前になるように制御すれば、放電灯の電極の劣化をより効果的に低減することができる。
【0021】
(3)本発明に係る放電灯点灯装置は、前記放電灯の周囲温度を検出する温度検出部を含み、前記放電灯駆動部は、前記放電灯の周囲温度に基づいて、前記点灯始動期間において前記放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御することを特徴とする。
【0022】
温度検出部は、例えば、温度によって抵抗値が変化するサーミスタ等の感温素子を放電灯の周辺に設置して、放電灯の周囲温度を検出してもよい。
【0023】
本発明によれば、放電灯の周囲温度に基づいて、点灯始動期間において放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御する。一般に、放電灯の温度が低いほど点灯させるのに時間がかかり、突入電流が発生するタイミングも遅くなる。従って、放電灯の周囲温度に基づいて、突入電流が発生するタイミングを推定し、放電灯の交流駆動を開始するタイミングが突入電流の発生直前になるように制御すれば、放電灯の電極の劣化をより効果的に低減することができる。例えば、放電灯の周囲温度が所定のしきい値を超えたら交流駆動を開始するようにしてもよい。
【0024】
また、点灯履歴情報と放電灯の周囲温度の両方に基づいて、点灯始動期間において放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。点灯履歴情報と放電灯の周囲温度の両方から突入電流が発生するタイミングをより正確に推定することができるので、放電灯の電極の劣化をさらに効果的に低減することができる。
【0025】
(4)本発明に係る放電灯点灯装置は、前記放電灯駆動部は、前記放電灯の電力制御を行うダウンチョッパー回路の出力に基づいて前記放電灯に電流を供給するインバータブリッジ回路と、前記インバータブリッジ回路を制御するブリッジドライバー回路と、前記ブリッジドライバー回路を制御するブリッジドライバー制御部と、を含み、前記ブリッジドライバー制御部は、前記点灯信号に基づいて、前記インバータブリッジ回路が、前記点灯始動期間において前記所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように前記ブリッジドライバー回路を制御することを特徴とする。
【0026】
ダウンチョッパー回路は、例えば、商用電源を全波整流した後にさらにPFC(Power Factor Correction)で昇圧した直流電圧を入力とし、当該入力電圧を降圧して出力する回路であってもよい。ダウンチョッパー回路は、放電灯点灯装置の内部にあってもよいし、外部にあってもよい。
【0027】
ブリッジドライバー制御部は、例えば、専用の回路であってもよいし、汎用のマイクロコンピュータであってもよい。
【0028】
本発明によれば、インバータブリッジ回路のスイッチ素子のON/OFFを制御するだけで、放電灯の交流駆動と直流駆動を簡単に切り替えることができる。
【0029】
(5)本発明は、上記のいずれかに記載の放電灯点灯装置を含むプロジェクタである。
【0030】
本発明によれば、突入電流を所定の期間に分散することにより点灯始動期間における放電灯の電極の劣化を低減することができるので、放電灯を長期間交換する必要のないプロジェクタを提供することができる。
【0031】
(6)本発明は、放電灯に電流を供給し、前記放電灯を駆動する放電灯駆動部を含み、所与の点灯信号に基づいて前記放電灯を点灯させる放電灯点灯装置の制御方法であって、前記点灯信号に基づいて、前記放電灯駆動部が、前記放電灯の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように制御するステップを含むことを特徴とする。
【0032】
本発明によれば、点灯始動期間における所定期間だけ放電灯を交流駆動し、点灯始動期間におけるその他の期間は直流駆動するように放電灯点灯装置を制御する。さらに、所定のタイミングで放電灯の交流駆動を開始することもできる。従って、直流駆動により放電灯を温める時間を短縮しながらも交流駆動により突入電流を所定の期間に分散することができるので、点灯始動期間における放電灯の電極の劣化を効果的に低減することができる。その結果、放電灯の長寿命化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0034】
1.放電灯点灯装置
図1は、本実施の形態の放電灯点灯装置の回路図の一例である。
【0035】
放電灯点灯装置10は、インバータブリッジ20を含む。インバータブリッジ20は、後述するブリッジドライバー30、マイクロコンピュータユニット(MCU)40とともに、放電ランプ100(放電灯)に電流を供給し、放電ランプ100(放電灯)を駆動する放電灯駆動部として機能する。インバータブリッジ20は、ダウンチョッパー80の出力に基づいて放電ランプ100(放電灯)に電流を供給する。
【0036】
放電灯点灯装置10は、ブリッジドライバー30、マイクロコンピュータユニット(MCU)40を含む。
【0037】
ブリッジドライバー30及びMCU40は、インバータブリッジ20を制御する放電灯駆動制御部として機能する。ブリッジドライバー30及びMCU40は、点灯信号12に基づいて、インバータブリッジ20が、放電ランプ100(放電灯)の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ放電ランプ100(放電灯)を交流駆動し、点灯始動期間において所定期間以外の期間は放電ランプ100(放電灯)を直流駆動するように制御する。
【0038】
ここで、ブリッジドライバー30は、インバータブリッジ20を制御し、放電ランプ100の電極間に流れるランプ電流の方向を制御する。
【0039】
MCU40は、ブリッジドライバー30を制御するブリッジドライバー制御部として機能する。MCU40は、点灯信号12に基づいて、インバータブリッジ20が、点灯始動期間において所定期間だけ放電ランプ100(放電灯)を交流駆動し、点灯始動期間において所定期間以外の期間は放電ランプ100(放電灯)を直流駆動するようにブリッジドライバー30を制御する。
【0040】
放電灯点灯装置10は、点灯履歴取得部50を含んでもよい。点灯履歴取得部50は、複数の時刻情報14を取得する。
【0041】
ここで、複数の時刻情報14は、少なくとも放電ランプ100が最後に消灯した時刻及び点灯を開始した時刻を含んでいる。すなわち、時刻情報14は、放電ランプ100(放電灯)が最後に消灯してから点灯を開始するまでの時間に関する点灯履歴情報に相当する。点灯履歴取得部50は、取得した点灯履歴情報52をMCU40に供給する。
【0042】
ブリッジドライバー30及びMCU40(放電灯駆動制御部)は、点灯履歴情報52に基づいて、インバータブリッジ20が点灯始動期間において放電ランプ100(放電灯)の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。
【0043】
ここで、放電ランプ100が最後に消灯してから点灯を開始するまでの時間が短いほど放電ランプ100がアーク放電(定常点灯)に移行するのに必要な時間が短くなり、突入電流が発生するタイミングも早くなる。
【0044】
従って、MCU40は、点灯履歴情報52から突入電流が発生するタイミングを推定し、突入電流が発生する前から放電ランプ100の交流駆動を開始するようにブリッジドライバー30を制御することができる。
【0045】
放電灯点灯装置10は、温度検出部60を含んでもよい。温度検出部60は、放電ランプ100(放電灯)の周囲温度を検出する。例えば、温度検出部60はサーミスタ等の感温素子で構成されていてもよい。
【0046】
温度検出部60は放電ランプ100の周囲温度に関する情報62(アナログ値)を出力し、A/D変換器70を介してアナログ値62がデジタル値72に変換されてMCU40に供給される。
【0047】
ブリッジドライバー30及びMCU40(放電灯駆動制御部)は、放電ランプ100(放電灯)の周囲温度に基づいて、インバータブリッジ20が点灯始動期間において放電ランプ100(放電灯)の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。
【0048】
ここで、放電ランプ100の周囲温度が高いほど放電ランプ100がアーク放電(定常点灯)に移行するのに必要な時間が短くなり、放電ランプ100の周囲温度に応じて突入電流が発生するタイミングも早くなる。
【0049】
従って、MCU40は、放電ランプ100の周囲温度から突入電流が発生するタイミングを推定し、突入電流が発生する前から放電ランプ100の交流駆動を開始するようにブリッジドライバー30を制御することができる。
【0050】
MCU40は、例えば、ランプ100の周囲温度に関する情報(デジタル値72)から周囲温度が所定のしきい値を超えたと判断した時に交流駆動を開始するようにブリッジドライバー30を制御してもよい。
【0051】
ダウンチョッパー80は、直流電源110の電圧(例えば、DC380V)を所定の電圧(例えば、50V〜130V)に降圧してインバータブリッジ20に供給する。直流電源110は、例えば、商用電源を全波整流し、さらにPFCで昇圧した直流電圧であってもよい。
【0052】
ダウンチョッパー80は、例えば、トランジスタ等のスイッチ素子T1、ダイオードD1、コイルL1、コンデンサC1を含んで構成されている。スイッチ素子T1の一端は直流電源の+端子に接続されており、他端はダイオードD1のカソード端子及びコイルL1の一端に接続されている。スイッチ素子T1の制御端子には、所定の制御回路(例えば、MCU40であってもよい)からスイッチ素子T1のON/OFFを制御するための制御信号が供給される。コンデンサC1の一端はコイルL1に接続されており、他端はダイオードD1のアノード端子及び直流電源110の−端子に接続されている。コンデンサC1の両端にかかる電圧がダウンチョッパー80の出力電圧となり、インバータブリッジ20に供給される。
【0053】
ここで、スイッチ素子T1がONすると、コイルL1に電流が流れ、コイルL1にエネルギーが蓄えられる。その後、スイッチT1がOFFすると、コイルL1に蓄えられたエネルギーがコンデンサC1とダイオードD1とを通る経路で放出される。その結果、ダウンチョッパー80の入力電圧(直流電源110の出力電圧)が降圧され、コンデンサC1の両端にはスイッチ素子T1がONする時間の割合に応じた直流電圧(例えば、50V〜130V)が発生する。例えば、定常点灯時に放電ランプ100で消費される電力が一定になるように、放電ランプ100の電極間に流れる電流値に応じてスイッチ素子T1がONする時間の割合が調整される。
【0054】
なお、ダウンチョッパー80は、放電灯点灯装置10の必須の構成要素ではなく、放電灯点灯装置10の内部にあってもよいし、外部にあってもよい。
【0055】
イグナイタ回路90は、放電ランプ100の点灯始動直後に放電ランプ100の電極間を絶縁破壊して放電路を形成するために放電ランプ100の電極間に数十kV以上の高電圧を発生させる。放電ランプ100の電極間に放電路が形成されると、イグナイタ回路90は動作を停止し、インバータブリッジを介して放電ランプ100の電極間にランプ電流が供給される。
【0056】
インバータブリッジ20は、例えば、4つのスイッチ素子T2〜T5を含むフルブリッジ形のインバータ回路として構成される。スイッチ素子T2の一端とスイッチ素子T4の一端はダウンチョッパー80に含まれるコンデンサC1の一端に接続されている。スイッチ素子T3の一端とスイッチ素子T5の一端はコンデンサC1の他端に接続されている。スイッチ素子T2の他端とスイッチ素子T3の他端はイグナイタ回路90を介して放電ランプ100の陽極に接続されている。スイッチ素子T4の他端とスイッチ素子T5の他端はイグナイタ回路90を介して放電ランプ100の陰極に接続されている。
【0057】
ここで、スイッチ素子T2の制御端子とスイッチ素子T5の制御端子には、ブリッジドライバー30からスイッチ素子T2及びT5のON/OFFを共通に制御するための制御信号32が供給される。
【0058】
一方、スイッチ素子T3とスイッチ素子T4の制御端子には、ブリッジドライバー30からスイッチ素子T3及びT4のON/OFFを共通に制御するための制御信号34が供給される。
【0059】
ブリッジドライバー30は、スイッチ素子T2及びT5がONの時はスイッチ素子T3及びT4はOFFし、逆にスイッチ素子T3及びT4がONの時はスイッチ素子T2及びT5はOFFするように制御信号32及び34を生成する。従って、スイッチ素子T2及びT5がONの時はコンデンサC1の一端からスイッチ素子T2、放電ランプ100(陽極から陰極へ)、スイッチ素子T5の順に流れるランプ電流が発生する。一方、スイッチ素子T3及びT4がONの時はコンデンサC1の一端からスイッチ素子T4、放電ランプ100(陰極から陽極へ)、スイッチ素子T3の順に流れるランプ電流が発生する。
【0060】
ブリッジドライバー30は、放電ランプ100の点灯開始直後は、スイッチ素子T2及びT5がONし、スイッチ素子T3及びT4がOFFするように制御信号32及び34を生成する。すなわち、インバータブリッジ20によって放電ランプ100は点灯開始直後は直流駆動され、陽極から陰極にのみ電流が流れる。
【0061】
また、ブリッジドライバー30は、放電ランプ100の点灯始動期間において所定期間だけ、スイッチ素子T2及びT5のON/OFFとスイッチ素子T3及びT4のOFF/ONが比較的短い周期で繰り返されるように制御信号32及び34を生成する。すなわち、インバータブリッジ20によって放電ランプ100は比較的高い周波数(例えば、10kHz〜70kHz)で交流駆動される。
【0062】
また、ブリッジドライバー30は、その後の点灯始動期間において、再び、スイッチ素子T2及びT5がONし、スイッチ素子T3及びT4がOFFするように制御信号32及び34を生成する。すなわち、インバータブリッジ20によって放電ランプ100は直流駆動され、陽極から陰極にのみ電流が流れる。
【0063】
さらに、ブリッジドライバー30は、定常点灯状態に至るとスイッチ素子T2及びT5のON/OFFとスイッチ素子T3及びT4のOFF/ONが比較的長い周期で繰り返されるように制御信号32及び34を生成する。すなわち、定常点灯時には、インバータブリッジ20によって放電ランプ100は比較的低い周波数(例えば、100Hz〜200Hz)で交流駆動される。
【0064】
図2は、本実施の形態の放電灯点灯装置における点灯始動時のランプ電流の様子を説明するための図である。一方、図4は、比較例として従来の放電灯点灯装置における点灯始動時のランプ電流の様子を説明するための図である。以下、図1を参照しながら図2、図4における点灯始動時のランプ電流の様子を説明する。
【0065】
図2、図4に示す通り、点灯開始時にイグナイタ回路90が発生する数十kV以上の高電圧(イグニッション電圧)が放電ランプ100の電極間に印加される。
【0066】
この時、従来の放電灯点灯装置では、放電ランプ100を直流駆動するように、例えば、インバータブリッジ20のスイッチ素子T2及びT5がON、T3及びT4がOFFになっている。放電ランプ100はグロー放電状態のため、ダウンチョッパー80の出力電圧は例えば140V以上の電圧になっておりその電圧でダウンチョッパー80のコンデンサC1に電荷が蓄積される。
【0067】
そして、イグニッション電圧の印加後グロー放電からアーク放電への移行とともに放電ランプ100のインピーダンスが急激に低下し、例えば約10μs後に、コンデンサC1に蓄積された電荷がスイッチ素子T2及びT5を通して放電ランプ100の電極間に放出されるため、図4に示す通り、放電ランプ100の電極間に突入電流がそのまま流れていた。
【0068】
一方、図1で説明した本実施の形態の放電灯点灯装置でも、点灯開始時に放電ランプ100を直流駆動するように、例えば、インバータブリッジ20のスイッチ素子T2及びT5がON、T3及びT4がOFFになっている。そのため、イグニッション電圧の印加により発生する電荷の一部がスイッチ素子T2、T5を通してダウンチョッパー80のコンデンサC1に蓄積される。
【0069】
しかし、本実施の形態の放電灯点灯装置では、従来の放電灯点灯装置と異なり、MCU40がブリッジドライバー30に制御信号32、34を生成させ、インバータブリッジ20が点灯開始から約10μs後に放電ランプ100を交流駆動するように制御する。
【0070】
すなわち、T2、T5がONでT3、T4がOFFの状態とT2、T5がOFFでT3、T4がONの状態が周期的に繰り返されるように制御信号32、34が生成される。その結果、図2に示す通り、放電ランプ100のランプ電流は約0.5〜20msの間、約10kHz〜70kHzの周波数で交流駆動される。
【0071】
ここで、スイッチ素子T2及びT3(又はスイッチ素子T4及びT5)が同時にONする期間が存在するとコンデンサC1の両端がショートし、スイッチ素子T2及びT3(又はスイッチ素子T4及びT5)に大電流が流れるため破壊されてしまう危険性がある。
【0072】
そのため、スイッチ素子T2及びT5のON/OFFとスイッチ素子T3及びT4のOFF/ONが切り替わる時に、スイッチ素子T2〜T5がすべてOFFとなるデッドタイムと呼ばれる期間(例えば約400〜500ns)が挿入される。
【0073】
デッドタイムの期間はスイッチ素子T2〜T5がすべてOFFとなるので、放電ランプ100に電流が流れない。すなわち、デッドタイムの割合が大きくなるほどコンデンサC1に蓄積された電荷を放出するのに時間を要することになる。交流駆動の周波数が高いほどデッドタイムの割合が大きくなるので、交流駆動期間を長くする必要がある。
【0074】
一方、交流駆動期間が長くなるとアーク放電による定常点灯に至るまでのグロー放電の期間が長くなり、放電ランプの電極が劣化しやすくなる。
【0075】
従って、交流駆動周波数と交流駆動期間は、突入電流の分散と交流駆動期間の短縮のトレードオフを考慮して、ランプの電極の劣化が最も低減されるような最適値を選択するのが好ましい。コンデンサC1の容量値にもよるが、交流駆動期間は、例えば、約0.5〜20msであってもよい。また、交流駆動周波数は、例えば、約10kHz〜70kHzであってもよい。
【0076】
なお、交流駆動を開始するタイミング、交流駆動期間の長さ、交流駆動の周波数は、放電灯点灯装置の外部から供給される制御信号により、それぞれ独立して可変に設定可能にしてもよい。
【0077】
このように、点灯始動期間において、放電ランプ100を一時的に交流駆動することにより、コンデンサC1に蓄積された電荷の放出を分散させることができ、放電ランプ100の電極間に突入電流が瞬時に流れ込むのを効果的に防止することができる。従って、点灯始動期間における放電灯の電極の劣化を低減し、放電灯の長寿命化を実現することができる。
【0078】
さらに、図1で説明した本実施の形態の放電灯点灯装置では、交流駆動期間の経過後の点灯始動期間(例えば、約1〜3s)においては再び放電ランプ100を直流駆動する。放電ランプ100を直流駆動することにより、交流駆動の場合と比較してアーク放電による定常点灯に至るまでの時間を短縮することができるので、点灯始動期間における放電灯の電極の劣化をさらに低減し、放電灯の長寿命化を実現することができる。
【0079】
2.プロジェクタ
図3に、本実施の形態のプロジェクタの構成例を示す。プロジェクタ500は、画像信号変換部510、直流電源装置520、放電灯点灯装置530、放電ランプ540、ミラー群550、液晶パネル560R、560G、560B、画像処理装置570、CPU580、時計590を含んで構成されている。
【0080】
画像信号変換部510は、外部から入力された画像信号502(輝度-色差信号やアナログRGB信号など)をデジタルRGB信号に変換して画像信号512R、512G、512Bを生成し、画像処理装置570に供給する。
【0081】
画像処理装置570は、3つの画像信号512R、512G、512Bに対してそれぞれ画像処理を行い、液晶パネル560R、560G、560Bをそれぞれ駆動するための駆動信号572R、572G、572Bを出力する。
【0082】
直流電源装置520は、外部の交流電源600から供給される交流電圧を所定の直流電圧に変換し、各部に供給する。
【0083】
放電灯点灯装置530は、放電ランプ540の点灯状態を制御する。放電灯点灯装置530は、点灯信号582が入力されると放電ランプ540の電極間に高電圧を発生して電極間を絶縁破壊して放電路を形成する。その後、点灯始動期間を経て放電ランプ540が定常点灯状態に至ると放電ランプ540を交流駆動する。
【0084】
放電ランプ540が発する光線は、ミラー群550に含まれる2つのダイクロイックミラーを通してそれぞれR、G、Bのみの3つの光線に分離され、その他のミラーで反射されて、それぞれ液晶パネル560R、560G、560Bに透過される。液晶パネル560R、560G、560Bには、それぞれ駆動信号572R、572G、572Bによる画像が表示されており、それぞれR、G、Bのみの3つの光線が透過された後プリズムで合成された画像がスクリーン700に表示される。
【0085】
CPU580は、プロジェクタの点灯開始から消灯に至までの動作を制御する。プロジェクタの電源が投入され直流電源装置520の出力電圧が所定の値になると、点灯信号582を発生して放電灯点灯装置530に供給する。
【0086】
時計590は、例えば、プロジェクタ500の電源を切ってもバックアップ電池で動作してネットワークや電波を介して常に現在の時刻情報592を出力することができる。
【0087】
ここで、放電灯点灯装置530は、例えば、図1の構成の回路により構成されており、点灯始動期間における所定期間だけ放電ランプ540を交流駆動する。こうすることにより、放電ランプ540の電極間に突入電流が瞬時に流れ込むのを効果的に防止することができ、点灯始動期間における放電ランプ540の電極の劣化を低減することができる。
【0088】
また、放電灯点灯装置530は、点灯始動期間において所定期間以外の期間は放電ランプ540を直流駆動するので、アーク放電による定常点灯に至るまでの時間を短縮することができる。そのため、点灯始動期間における放電ランプ540の電極の劣化をさらに低減することができる。
【0089】
また、放電灯点灯装置530は、時計590から放電ランプ540が最後に消灯した時刻とその後点灯を開始した時刻の2つの時刻情報(点灯履歴情報)592を受け取り、点灯履歴情報592に基づいて、点灯始動期間において放電ランプ540の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。ここで、点灯履歴情報592に基づいて、突入電流が発生するタイミングを推定し、放電ランプ540の交流駆動を開始するタイミングが突入電流の発生直前になるように制御することにより、放電ランプ540の電極の劣化をより効果的に低減することができる。
【0090】
また、放電灯点灯装置530は、放電ランプ540の周囲温度を検出し、周囲温度に基づいて、点灯始動期間において放電ランプ540の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。ここで、周囲温度に基づいて、突入電流が発生するタイミングを推定し、放電ランプ540の交流駆動を開始するタイミングが突入電流の発生直前になるように制御することにより、放電ランプ540の電極の劣化をより効果的に低減することができる。
【0091】
さらに、放電灯点灯装置530は、点灯履歴情報592と周囲温度の両方に基づいて、点灯始動期間において放電ランプ540の交流駆動を開始するタイミングを制御するようにしてもよい。こうすることにより、突入電流が発生するタイミングをより正確に推定することができるので、放電ランプ540の電極の劣化をより効果的に低減することができる。
【0092】
プロジェクタ500は、放電灯点灯装置530を含むことにより放電ランプ540の長寿命化を実現することができるので、放電ランプ540を長期間交換する必要がない。
【0093】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0094】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本実施の形態の放電灯点灯装置の回路図の一例。
【図2】本実施の形態の放電灯点灯装置における点灯始動時のランプ電流の様子を説明するための図。
【図3】本実施の形態のプロジェクタの構成例を示す図。
【図4】従来の放電灯点灯装置における点灯始動時のランプ電流の様子を説明するための図。
【符号の説明】
【0096】
10 放電灯点灯装置、12 点灯信号、14 時刻情報、20 インバータブリッジ、30 ブリッジドライバー、32 制御信号、34 制御信号、40 MCU(マイクロコンピュータユニット)、50 点灯履歴取得部、52 点灯履歴情報、60 温度検出部、62 放電ランプの周囲温度に関する情報(アナログ値)、70 A/D変換器、72 デジタル値、80 ダウンチョッパー、90 イグナイタ回路、100 放電ランプ、110 直流電源、500 プロジェクタ、510 画像信号変換部、512R 画像信号(R)、512G 画像信号(G)、512B 画像信号(B)、520 直流電源装置、530 放電灯点灯装置、540 放電ランプ、550 ミラー群、560R 液晶パネル(R)、560G 液晶パネル(G)、560B 液晶パネル(B)、570 画像処理装置、572R 液晶パネル(R)駆動信号、572G 液晶パネル(G)駆動信号、572B 液晶パネル(B)駆動信号、580 CPU、582 点灯信号、590 時計、592 時刻情報(点灯履歴情報)、600 交流電源、700 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の点灯信号に基づいて放電灯を点灯させる放電灯点灯装置であって、
前記放電灯に電流を供給し、前記放電灯を駆動する放電灯駆動部を含み、
前記放電灯駆動部は、
前記点灯信号に基づいて、前記放電灯の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように制御することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記放電灯が最後に消灯してから点灯を開始するまでの時間に関する点灯履歴情報を取得する点灯履歴取得部を含み、
前記放電灯駆動部は、
前記点灯履歴情報に基づいて、前記点灯始動期間において前記放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記放電灯の周囲温度を検出する温度検出部を含み、
前記放電灯駆動部は、
前記放電灯の周囲温度に基づいて、前記点灯始動期間において前記放電灯の交流駆動を開始するタイミングを制御することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記放電灯駆動部は、
前記放電灯の電力制御を行うダウンチョッパー回路の出力に基づいて前記放電灯に電流を供給するインバータブリッジ回路と、
前記インバータブリッジ回路を制御するブリッジドライバー回路と、
前記ブリッジドライバー回路を制御するブリッジドライバー制御部と、を含み、
前記ブリッジドライバー制御部は、
前記点灯信号に基づいて、前記インバータブリッジ回路が、前記点灯始動期間において前記所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように前記ブリッジドライバー回路を制御することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の放電灯点灯装置を含むプロジェクタ。
【請求項6】
放電灯に電流を供給し、前記放電灯を駆動する放電灯駆動部を含み、所与の点灯信号に基づいて前記放電灯を点灯させる放電灯点灯装置の制御方法であって、
前記点灯信号に基づいて、前記放電灯駆動部が、前記放電灯の点灯を開始してから定常点灯に至るまでの点灯始動期間において所定期間だけ前記放電灯を交流駆動し、前記点灯始動期間において前記所定期間以外の期間は前記放電灯を直流駆動するように制御するステップを含むことを特徴とする放電灯点灯装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−16248(P2009−16248A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178429(P2007−178429)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】