説明

断熱層付きタービン部品

本発明は、蒸気タービン構成要素上の断熱層(7)の利用に関し、その断熱層(7)は主に接着層および/又は浸食保護層(13)を有し、その浸食保護層(13)は母材(4)あるいはセラミックス断熱層(7)に比べて同等ないし同じ熱膨張係数を有し、主にクロム(Cr)を15重量%〜30重量%含有し、脆性化を減少するために保護層材料にアルミニウム(Al)が1.5重量%〜5重量%含有されている。また本発明は鉄基保護層の製造方法に関し、その保護層は溶射法によって設けられ、25重量%〜35重量%Cr含有の鉄基粉末が利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載の鉄基合金、請求項10に記載の保護層、請求項11に記載の保護層系および請求項16に記載の鉄基保護層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品の耐食性および/又は耐酸性を高めるための保護層は従来において数多く知られている。そのほとんどの保護層は総称MCrAlYとして知られている。ここで、Mは鉄、コバルト、ニッケルの群における少なくとも1つの元素であり、そのMCrAlYは他の元素としてクロム、アルミニウムおよびイットリウムを含んでいる。
【0003】
タービン部品上に被覆された断熱層は例えば特許文献1に記載されている。蒸気タービンにおける生蒸気(主蒸気)の入口温度は最良の熱効率を得るための重要な決定量となっているので、その生蒸気の入口温度を増大する努力は大きな意味を有する。熱的に大きく負荷されるタービン部品に対して特別に開発されたフェライト母材の採用によって、今日において約620℃の生蒸気温度が利用できる。その母材上における断熱層の被覆によって、生蒸気入口温度の増大が可能となり、あるいは生蒸気温度が同じである場合には安価な材料の利用が可能となる。
【0004】
フェライト母材の酸化と腐食に対する十分な耐性を得るためには、保護層に頼らざるを得ない。その保護層はその十分な化学的強度のほかに、とりわけ保護層と母材との機械的相互作用に関する良好な機械的特性も有していなければならない。その保護層は、場合により生じる母材の変形に追従でき割れが生じないようにするために、特に十分な延性を有していなければならず、このようにして、酸化と腐食の開始点の発生が防止される。
【0005】
蒸気タービン構成要素上に断熱層を利用する場合、母材と断熱層との間に接着層を配置することが有利である。その接着層は、一方では、断熱層の母材上への良好な接着を生じさせ、他方では、母材を酸化と腐食に対して防護する。
【0006】
断熱層を浸食と腐食に対して防護するために、断熱層上にトップコーティングと呼ばれるもう1つの保護層が配置される。蒸気タービン構造物に利用される母材に対して、Ni−Cr80/20および/又はMCrAlYから成る接着層および/又はトップコーティングが特に良好に採用できる。この上述の接着層は例えばNi基合金のような母材に特に適し、その場合、700℃以上での適用が可能と思われる。
【0007】
かかる接着層および/又はトップコーティングを利用する場合、その熱膨張係数が母材ないし断熱層に比べて非常に高いという欠点がある。このために、応力および/又は伸びが生じ、望ましくない割れが生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1541810号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、接着層および/又はトップコーティングに適した材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は請求項1に記載の合金、請求項10に記載の保護層および請求項11に記載の保護層系によって解決される。
【0011】
またその課題は請求項16及び/又は請求項19に記載の保護層の製造方法によっても解決される。
【0012】
従属請求項に記載された処置は、有利な様式で、任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は特に、接着層および/又はトップコーティングの化学的および物理的特性が主にクロム含有率に依存し、またアルミニウム含有率も大きな役割を演ずるという認識に基づいている。従って、各請求項に記載された解決策によって、その化学組成に基づいて耐酸性と耐食性に関する必要な諸特性を満たし、且つ、適切な熱膨張係数を有する接着層および/又はトップコーティングが得られる。
【0014】
本発明は主に、溶射法に対して25重量%〜35重量%Crのクロム含有率の溶射粒子が利用されることによって特徴づけられ、これによって、製造(溶射被覆)後に鉄基保護層内に15重量%〜30重量%Crのクロム含有率が得られる。実験の結果、溶射粒子のクロム含有率が製造(溶射被覆)中に最大で10重量%低下することが確認されている。
【0015】
この鉄基合金のシグマ(σ)相析出による脆性傾向が減少されるようにするために、溶射粒子にアルミニウム(Al)を1重量%〜5重量%含有することができる。シグマ(σ)相析出を一層減少するためには、けい素(Si)が0.2重量%未満だけ極微量添加される。
【0016】
耐酸性を向上するために、例えばCe(セリウム)、Y(イットリウム)および/又はHf(ハフニウム)を利用することができる。
【0017】
以下図に示した実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】部品における本発明に基づく保護層系の第1実施例の概略断面図。
【図2】部品における本発明に基づく保護層系の第2実施例の概略断面図。
【図3】部品における本発明に基づく保護層系の第3実施例の概略断面図。
【図4】部品における本発明に基づく保護層系の第4実施例の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1は本発明に基づいて形成された部品1の第1実施例を示している。この部品1は例えばタービン特に蒸気タービンの蒸気入口部位であり、母材(基材)4を有し、その上に断熱層7が設けられている。この断熱層7はセラミックス材料で形成することができる。即ち、例えば断熱層7は酸化ジルコニウムから成るセラミックス断熱層として形成することができるが、その酸化ジルコニウムは安定化されていないか、酸化イットリウムおよび/又は酸化マグネシウムによって部分安定化あるいは完全安定化されている。異なった実施例において、そのセラミックス断熱層は酸化チタンから成り、その厚さは0.1mm〜2mmである。
【0020】
セラミックス断熱層7を製造するために種々の被覆法が利用される。例えばセラミックス断熱層7は気中プラズマ溶射法(APS)のような溶射法並びに化学的蒸着法(CVD)や物理的蒸着法(PVD)によって設けることができる。
【実施例2】
【0021】
図2は本発明に基づいて形成された部品1の異なった実施例を示している。図1と図2の相違点は、母材4と断熱層7との間に、鉄基合金を含む少なくとも1つの接着層10が形成されていることにある。
【0022】
その接着層10は、一方では、母材を腐食および/又は酸化から防護するために用いられ、他方では、セラミックス断熱層7を母材4に良好に結合するために用いられる。これは特に、セラミックス断熱層と母材が金属から成っている場合に当てはまる。その鉄基接着層はクロム(Cr)を15重量%〜30重量%含んでいる。またその鉄基合金はアルミニウム(Al)を1.5重量%〜2.5重量%、けい素(Si)を0.2重量%未満含んでいる。さらに、この鉄基接着層はY(イットリウム)、Hf(ハフニウム)およびCe(セリウム)を、それぞれ0.1重量%〜0.7重量%Y、0.1重量%〜0.5重量%Ce、0.1重量%〜0.5重量%Hfの含有量で含むことができる。
【0023】
母材4を高温中に酸化と腐食と浸食に対して防護するための接着層10は、主に以下の元素から成っている。
【0024】
実施形態I:
15重量%〜30重量%Cr。
【0025】
実施形態II:
13重量%〜15重量%Crと1.5重量%〜5重量%Al。
【0026】
実施形態III:
15重量%〜30重量%Crと1.5重量%〜5重量%Alと0.2重量%未満のSi。
【0027】
これによって、母材4と接着層10の熱膨張係数は相互に非常に良好に同化されるか、それどころか同じにされ、これによって、母材4と接着層10との間に、接着層10あるいは断熱層に剥離および/又は割れを生じさせる熱応力は全く生じないかほんの僅かしか生じない。これは、フェライト材料では一般に拡散結合のための熱処理が実施できず、断熱層7は大部分が接着だけで母材に結合されるので特に重要である。母材4はフェライト基合金、鋼、特に1%CrMoV鋼あるいは9%〜13%Cr鋼である。部品1の他の有利なフェライト母材4は、軸に対しては例えば30CrMoNiV5−11あるいは23CrMoNiWV8−8のような1%〜2%Cr鋼から成り、車室(ハウジング)に対してはG17CrMoV5−10やG17CrMo9−10のような1%〜2%Cr鋼から成り、または軸に対してX12CrMoWVNbN10−1−1のような10%Cr鋼から成り、車室(ハウジング)に対してGX12CrMoWVNbN10−1−1やGX12CrMoVNbN9−1のような10%Cr鋼から成っている。
【0028】
部品1における保護層は特に溶射法によって作られ、その場合、クロムを25重量%〜35重量%含む鉄基粉末が利用される。かかる保護層製造の際、溶射過程中の酸素吸収によって多かれ少なかれかなりの酸化クロムが発生し、この酸化クロムが局所的なクロム濃度を12%以下まで大きく低下させる。本発明に基づく鉄基粉末の利用によって、鉄基合金が保護層製造後に15重量%〜30重量%Crのクロム含有率を有することが保証される。
【0029】
アルミニウムが粉末に1重量%〜5重量%Alの含有量で添加されることによって、その保護層製造法が改善される。溶射後に鉄基合金にアルミニウムが1.5重量%〜3重量%Alの含有量で残存する。
【0030】
異なった実施例において、保護層製造法において28重量%〜30重量%Crの粉末が利用され、その粉末にアルミニウムが2.5重量%〜3.5重量%Alの含有量で添加される。その粉末は0.2重量%未満のけい素(Si)を含んでいる。
【0031】
溶射法が利用される鉄基保護層の製造法は、鉄基粉末がクロムを25重量%〜35重量%含有していることにより改善することができる。
【0032】
その代わりに、その粉末がクロムを25重量%〜35重量%含有し、アルミニウムを1重量%〜5重量%含有することもできる。
【0033】
あるいはまた、鉄基粉末がクロムを28重量%〜30重量%、アルミニウムを2.5重量%〜3.5重量%、けい素を0.2重量%未満それぞれ含有することもできる。
【実施例3】
【0034】
図3は本発明に基づいて形成された部品1の異なった実施例を示している。
【0035】
ここでは、セラミックス断熱層7上に浸食保護層13が外側表面を形成している。その浸食保護層13はトップコーティングとも呼ばれる。これは特に1つの金属または1つの合金から成り、特に約50m/secの平均流速と350バールまでの圧力が生ずる高温蒸気領域でスケール(湯垢)が付着する蒸気タービン発電所において、部品を浸食および/又は摩耗から防護する。
【0036】
その浸食保護層13はほぼ接着層10と同じ化学元素を有することができる。これによって、断熱層と浸食保護層13との間の熱応力が最小となるという利点が得られる。
【実施例4】
【0037】
図3の実施例と比較してもう1つの接着層10が存在することができる(図4参照)。
【符号の説明】
【0038】
1 部品
4 母材
7 断熱層
10 接着層(鉄基合金)
13 浸食保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム(Cr)を15重量%〜30重量%含んでいることを特徴とする鉄基合金(10)。
【請求項2】
アルミニウム(Al)を1.5重量%〜5重量%含んでいることを特徴とする鉄基合金(10)。
【請求項3】
けい素(Si)を0.2重量%未満含んでいることを特徴とする請求項1に記載の鉄基合金(10)。
【請求項4】
イットリウム(Y)を特に0.1重量%〜0.7重量%含んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の鉄基合金(10)。
【請求項5】
セリウム(Ce)を特に0.1重量%〜0.5重量%含んでいることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の鉄基合金(10)。
【請求項6】
ハフニウム(Hf)を特に0.1重量%〜0.5重量%含んでいることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の鉄基合金(10)。
【請求項7】
15重量%〜30重量%Crから成っていることを特徴とする請求項1に記載の鉄基合金(10)。
【請求項8】
15重量%〜30重量%Crと1.5重量%〜5重量%Alから成っていることを特徴とする請求項2に記載の鉄基合金(10)。
【請求項9】
15重量%〜30重量%Crと1.5重量%〜5重量%Alと0.2重量%未満のSiから成っていることを特徴とする請求項3に記載の鉄基合金(10)。
【請求項10】
部品(1)を特に高温下において腐食および/又は酸化に対して防護する保護層であって、
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の合金の組成を有していることを特徴とする部品(1)の保護層。
【請求項11】
請求項10に記載の保護層を有していることを特徴とする保護層系。
【請求項12】
断熱層(7)が酸化ジルコニウム(ZrO2)を含んでいることを特徴とする請求項11に記載の保護層系。
【請求項13】
断熱層(7)が酸化チタン(TiO2)を含んでいることを特徴とする請求項11に記載の保護層系。
【請求項14】
母材(4)が鉄基合金で形成されていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1つに記載の保護層系。
【請求項15】
蒸気タービンの部品(1)に対して高温下において腐食、浸食および酸化に対して防護するために用いられることを特徴とする請求項10ないし14のいずれか1つに記載の保護層系。
【請求項16】
請求項10に記載の鉄基保護層の製造方法であって、
前記保護層が溶射法によって被着され、クロム(Cr)を15重量%〜30重量%含む鉄基粉末が利用されることを特徴とする鉄基保護層の製造方法。
【請求項17】
前記粉末が1重量%〜5重量%Alを含んでいることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記粉末が28重量%〜30重量%Crを含んでいることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記粉末が2.5重量%〜3.5重量%Alを含んでいることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記粉末が0.2重量%未満のSiを含んでいることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1ないし10のいずれか1つに記載の鉄基保護層の製造方法であって、
前記保護層が溶射法によって被着され、クロム(Cr)を25重量%〜35重量%含む鉄基粉末が利用されることを特徴とする鉄基保護層の製造方法。
【請求項22】
前記粉末が25重量%〜35重量%Crと1重量%〜5重量%Alを含んでいることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
28重量%〜30重量%Crと2.5重量%〜3.5重量%Alと0.2重量%未満のSiを含む鉄基粉末が利用されることを特徴とする請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−522823(P2010−522823A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553149(P2009−553149)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053021
【国際公開番号】WO2008/110607
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】