説明

新規なピリジンアルカロイド、その調製方法およびピリジンアルカロイドの使用

【課題】新規なピリジンアルカロイド、その調製方法およびピリジンアルカロイドの使用法の提供。
【解決手段】式(I)のピリジンアルカロイド化合物、またはその薬学的に許容される誘導体、これを調製する方法およびこれを含む組成物。


PPARγの活性を増加させるための、インスリン抵抗性に関連している疾患または障害の予防および/または治療のための、ならびにメタボリックシンドロームまたはその合併症の予防および/または治療のための該ピリジン化合物の使用。さらに、紅麹菌発酵製品の抽出物、ならびにメタボリックシンドロームなどのインスリン抵抗性に関連している疾患または障害の予防および/または治療のためのそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なピリジンアルカロイドおよび同アルカロイドの調製方法に関する。本発明はさらに、ピリジン化合物を含む組成物、ならびにPPARγの活性化のためのピリジン化合物の使用およびメタボリックシンドロームなどのインスリン抵抗性に関連している疾患または障害の予防および/または治療のためのピリジン化合物の使用に関する。本発明はまた、メタボリックシンドロームなどのインスリン抵抗性に関連している疾患または障害の予防および/または治療のための紅麹菌発酵製品(red yeast-fermented product)の抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モナスカス属の種(Monascus spp.)は、何千年もの間、中国の発酵食品に使用されている。モナスカス属の種を用いて発酵させた紅麹米(red yeast rice)は、いくつかの色素に加えて、抗高血圧剤として使用されているγ-アミノ酪酸(GABA)(Tsuji, K.他、1992年、「Effects of two kinds of Koji on blood pressure in spontaneously hypertensive rats.」Nippon. Nogeikagaku Kaishi.、66: 1241〜1246頁を参照されたい)ならびにコレステロール低下薬として使用されているポリケチドであるモナコリンK(Endo, A.、1979年、「Monacolin K, a new hypocholesterolemic agent produced by a Monascus species.」J. Antbiot.、32: 852〜854頁、Endo, A.、1985年、「Compactin (ML-236B) and related compounds as potential cholesterol-lowering agents that inhibit HMG-CoA reductase.」J. Med. Chem.、28: 401〜405頁、およびMartinokova, L.他、1995年、「Biological activity of polyketide pigments produced by the fungus Monascus.」J. Appl. Bacteriol.、79: 609〜616頁を参照されたい)などの生物活性代謝物質を産生する。
【0003】
Chen, W-P.他(「Red mold rice prevents the development of obesity, dyslipidemia and hyperinsulinemia induced by high-fat diet.」International Journal of Obesity、2008年、32: 1694〜1704頁)は、紅麹米抽出物が、高脂肪食によって誘発される肥満、脂質代謝異常(dyslipidemia)および高インスリン血症の発症を予防することができることを報告している。その結果は、モナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)NTU 568によって発酵された紅麹米の水抽出物およびエタノール抽出物が、3T3-L1前脂肪細胞の増殖を阻害し、かつ3T3-L1前脂肪細胞から脂肪細胞への分化を阻害することを示している。これらの作用は、脂肪組織の脂肪分解活性の増加および食品/エネルギー消費の減少に起因する可能性が高いと結論付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tsuji, K.他、1992年、「Effects of two kinds of Koji on blood pressure in spontaneously hypertensive rats.」Nippon. Nogeikagaku Kaishi.、66: 1241〜1246頁
【非特許文献2】Endo, A.、1979年、「Monacolin K, a new hypocholesterolemic agent produced by a Monascus species.」J. Antbiot.、32: 852〜854頁
【非特許文献3】Endo, A.、1985年、「Compactin (ML-236B) and related compounds as potential cholesterol-lowering agents that inhibit HMG-CoA reductase.」J. Med. Chem.、28: 401〜405頁
【非特許文献4】Martinokova, L.他、1995年、「Biological activity of polyketide pigments produced by the fungus Monascus.」J. Appl. Bacteriol.、79: 609〜616頁
【非特許文献5】Chen, W-P.他、「Red mold rice prevents the development of obesity, dyslipidemia and hyperinsulinemia induced by high-fat diet.」International Journal of Obesity、2008年、32: 1694〜1704頁
【非特許文献6】Shi, Y.およびPan, T., J. 2010年、「Anti-diabetic effects of Monascus purpureus NTU 568 fermented products on streptozotocin-induced diabetic rats.」J. Agric. Food Chem.、58(13): 7634〜7640頁
【非特許文献7】Waki他、2007年、「The small molecule harmine is an antidiabetic cell-type-specific regulator of PPARγ expression.」Cell Metabolism、5(5): 357〜370頁
【非特許文献8】Huang他、2005年、「Herbal or natural medicines as modulators of peroxisome proliferator-activated receptors and related nuclear receptors for therapy of metabolic syndrome.」Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology、96: 3〜14頁
【非特許文献9】Mosman, T.、1983年、「Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: application to proliferation and cytotoxicity assays.」J. Immunol. Methods、65: 55〜63頁
【非特許文献10】Johansson, M.他、2002年、「Biologically active secondary metabolites from the ascomycete A111-95.」J. Antibiot.、55: 104〜106頁
【非特許文献11】Motai, T.およびKitanaka, S.、2005年、「Sesquiterpene chromones from Ferula fukanensis and their nitric oxide production inhibitory effects.」J. Nat. Prod.、68: 1732〜1735頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紅麹菌発酵製品の抗肥満作用も報告された(Shi, Y.およびPan, T., J. 2010年、「Anti-diabetic effects of Monascus purpureus NTU 568 fermented products on streptozotocin-induced diabetic rats.」J. Agric. Food Chem.、58(13): 7634〜7640頁を参照されたい)。しかし、抗肥満作用を有する紅麹菌発酵製品中の化合物およびそれらの薬理機序は知られていない。
【0006】
脂質代謝を調節することが、メタボリックシンドロームの治療戦略の1つである。チアゾリジンジオン(TZD)は、1980年代の初期に開発された2型糖尿病薬である。TZDの機序についての研究は、TZDが、PPARγを活性化することによって、インスリン感受性を増大させることを明らかにしている。PPARγを活性化するという特有の作用の1つが、脂肪細胞の分化を増加することである。それ故に、脂肪細胞の分化を増加させることが、PPARγを活性化し、かつインスリン抵抗性を低下させる潜在的可能性を有する薬剤をスクリーニングするための方法として普及している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的の1つは、式(I)の化合物
【0008】
【化1】

【0009】
またはその薬学的に許容される誘導体
[式中、R1はアルキルであり、R2はアルキルまたはアルケニルであり、R3はアルキルである]
を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される誘導体と、場合によって、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む組成物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される誘導体の調製方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、紅麹米抽出物を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、本発明の紅麹米抽出物と、場合によって、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む組成物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、PPARγの活性を増加させるための方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、対象におけるインスリン抵抗性に関連している疾患または障害を予防および/または治療する方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、メタボリックシンドロームまたはその合併症を予防および/または治療する方法を提供することである。
【0017】
本発明は、以下の項に詳しく記載される。本発明の他の特徴、目的および利点は、詳細な説明および特許請求の範囲内に、容易に見出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)モナスニコチネート(Monasnicotinate)A、(B)モナスニコチネートB、(C)モナスニコチネートCおよび(D)モナスニコチネートDの構造を示す図である。
【図2】モナスニコチネートAのカギとなる(A)NOESY相関および(B)HMBC相関を示す図である。
【図3】モナスニコチネートBのカギとなる(A)NOESY相関および(B)HMBC相関を示す図である。
【図4】モナスニコチネートCのカギとなる(A)NOESY相関および(B)HMBC相関を示す図である。
【図5】モナスニコチネートDのカギとなる(A)NOESY相関および(B)HMBC相関を示す図である。
【図6(A)−(B)】DMI分化モデルに帰着する倒立顕微鏡観察を示す図である。サンプル:(A)DMI対照、(B)モナスニコチネートA(5μg/ml)。
【図6(C)−(D)】DMI分化モデルに帰着する倒立顕微鏡観察を示す図である。サンプル:(C)モナスニコチネートB(5μg/ml)、(D)モナスニコチネートC(5μg/ml)。
【図6(E)】DMI分化モデルに帰着する倒立顕微鏡観察を示す図である。サンプル:(E)モナスニコチネートD(5μg/ml)。
【図7(A)】モナスニコチネートA〜Dが、インスリンモデル(A)において、3T3-L1脂肪細胞の細胞質内アディポネクチンの発現を増加させたことを示す図である。対照:培地のみ、Trog:200nMのトログリタゾン。最終サンプル濃度は、5μg/mLであった。
【図7(B)】モナスニコチネートA〜Dが、DMIモデル(B)において、3T3-L1脂肪細胞の細胞質内アディポネクチンの発現を増加させたことを示す図である。対照:培地のみ、Trog:200nMのトログリタゾン。最終サンプル濃度は、5μg/mLであった。
【図8】C57BL/6JNarlマウスに、紅麹米のエタノール抽出物を給餌した後の脂肪細胞のサイズ分布を示す図である。*は、試験群とHF/HS群との間の有意差(P<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、本発明の種々の実施形態の以下の詳細な説明、実施例ならびに化学構造式図(chemical drawing)および表を、それらの該当する説明とともに参照することによって、より容易に理解され得る。本化合物、組成物および/または方法が開示および記載されるに先立って、理解されるべきことは、特許請求の範囲によって他に特に明確に指示されない限り、本発明は、具体的な調製方法、担体もしくは製剤にまたは本発明の化合物を局所投与、経口投与または非経口投与を意図した製品もしくは組成物に製剤する特定の様式に限定されないということであり、これは、当業者として、そのようなものは言うまでもなく変化し得ることを十分承知しているためである。また、本明細書において使用されている専門用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、限定されるためのものではないということも理解されるべきである。
【0020】
定義
本開示に従って利用される場合、以下の用語は、他に特に指示されない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0021】
本明細書において使用される場合、「アルキル」および「アルケニル」という用語は、直鎖および分枝鎖を含む。
【0022】
「アルキル」は、アルカンから、直鎖状または分枝状の炭素鎖を有する非環状炭化水素の構造から水素を取り除き、その水素原子を別の原子または有機もしくは無機置換基に取り換えることによって、概念的に形成され得る炭化水素基を指す。本発明のいくつかの実施形態では、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、アミル、tert-アミル、ヘキシルなどの「C1〜C10アルキル」である。本発明の多くの実施形態は、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシルおよびヘプチル基を含む「C1〜C7アルキル」基を含む。
【0023】
「アルケニル」という用語は、構造的には、アルキル基または少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む残基に類似している。いくつかの実施形態では、アルケニル基は、ビニル、アリル、プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニルおよび6-ヘプテニルならびに直鎖および分枝鎖のジエンおよびトリエンによって例示される「C2〜C7アルケニル」である。他の実施形態では、アルケニルは、2個から4個までの炭素原子に限定される。
【0024】
本明細書において使用される「1つの薬学的に許容される誘導体」または「複数の薬学的に許容される誘導体」という用語は、本発明の化合物から修飾されるが、本発明の化合物のものと同一であるかまたはそれに比べてより良好な特性および有効性を有する化合物を表す。好ましくは、薬学的に許容される誘導体は、本発明の化合物の、薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグである。
【0025】
本発明の化合物のうちの1つまたは複数は、塩として存在し得る。「塩」という用語は、有機および無機のアニオンおよびカチオンとともに形成されているそれらの塩を包含する。さらに、その用語は、塩基性基と有機酸または無機酸との標準的な酸-塩基反応によって形成する塩を含む。そのような酸には、塩酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コール酸、パモン酸、粘液酸、D-グルタミン酸、D-ショウノウ酸、グルタル酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ソルビン酸、ピクリン酸、安息香酸およびケイ皮酸が含まれる。
【0026】
本発明の化合物は、溶媒和物および水和物としても存在することができる。したがって、これらの化合物は、例えば、水和水と一緒になってまたは母液溶媒の分子のうちの1つ、分子のうちの複数もしくは分子のうちのいずれかの部分と一緒になって結晶化され得る。そのような化合物の溶媒和物および水和物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0027】
本明細書において使用される「対象」という用語は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを表す。対象の例には、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯動物、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、雌牛、ウマ、イヌおよびネコが含まれる。
【0028】
本明細書において提供される化合物の「有効量」という用語は、遺伝子発現、タンパク質機能または特定のタイプの応答の誘導などの望ましい機能の望ましい調節をもたらすための、化合物の十分な量を意味する。以下に指摘されるように、正確な必要量は、対象の病状、健康状態、年齢、性別、種および体重、組成物の具体的な出所および剤形などによって、対象ごとに変化する。投与計画は、最適な治療応答を誘導するために調整され得る。例えば、数回に分割された用量が毎日投与され得るか、またはその用量が、治療状況の緊急性によって指示される場合には、比例的に減少され得る。したがって、正確な「有効量」を明記することは可能ではない。しかし、当業者が単なる通常の実験手順を使用するだけで、適切な有効量を決定することができる。
【0029】
「予防すること」または「予防」という用語は、当技術分野において認識されており、ある状態に関して使用される場合には、それは、薬剤を投与されていない対象と比較して、対象における病状の症状の、頻度を減少させ、もしくは重症度を軽減し、または発症を遅延させるために、薬剤を、その状態の発症前に投与することを含む。
【0030】
本明細書において使用される「治療すること」または「治療」という用語は、そのような用語が適用される障害もしくは状態の進行またはそのような障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状の進行を、後退させること、緩和すること、抑制すること、あるいはそのような障害もしくは状態またはそれらの症状を改善することを表す。
【0031】
本明細書において使用される「担体」または「賦形剤」という用語は、それ自体が治療薬ではなく、対象に治療薬を送達するための担体および/または賦形剤および/またはアジュバントまたは媒体として使用されるか、あるいはその取り扱いもしくは貯蔵特性を改良するためにまたは組成物の用量単位を経口投与に適したカプセル剤もしくは錠剤などの別個の物品に形成するのを可能にするもしくは容易にするために製剤に加えられる任意の物質を指す。適した担体または賦形剤は、医薬製剤または食品を製造する当業者によく知られている。担体または賦形剤は、説明のためであり、限定ではなく、緩衝剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、粘着剤、湿潤剤、ポリマー、滑沢剤、流動促進剤、嫌な味または臭いを遮蔽または中和するために加えられる物質、風味、色素、香料および組成物の外観を改良するために加えられる物質を含むことができる。許容される担体または賦形剤には、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、炭酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、アカシアゴム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、デキストリン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース、デンプン、ゼラチン、セルロース系材料(アルカン酸のセルロースエステルおよびセルロースアルキルエステルなど)、低融点ワックス、カカオバター、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(例えば、血清アルブミン)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化ナトリウムまたは他の塩、リポソーム、マンニトール、ソルビトール、グリセロールまたは粉末、ポリマー(ポリビニル-ピロリドン、ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールなど)ならびに他の薬学的に許容される材料が含まれる。担体は、治療薬の薬理活性を消失させるべきではなく、治療量の薬剤を送達するのに十分な用量で投与される場合に、非毒性であるべきである。
【0032】
多くの場合、範囲は、本明細書において、「約」1つの特定の値からおよび/または「約」もう1つの特定の値までとして表現されている。そのような範囲が表現されている場合、実施形態は、一方の特定の値からおよび/または他方の特定の値までの範囲を含む。同様に、値が近似値として表現されている場合、「約」という語を使用することによって、特定の値が別の実施形態を形成するということが理解される。範囲のそれぞれの端点は、他方の端点に大きく関係しており、また他方の端点と無関係でもあることがさらに理解される。
【0033】
「場合による」または「場合によって」は、その後に記載される事象または状況が起こり得るかまたは起こり得ないことを意味し、その記載には、前記事象または状況が起こる例およびそれが起こらない例が含まれることを意味する。例えば、「ある薬剤を場合によって含む」というフレーズは、その薬剤が存在し得るかまたは存在し得ないことを意味する。
【0034】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が他に特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことが留意されなければならない。したがって、文脈によって他に特に要求されない限り、単数の用語は複数の用語を含み、複数の用語は単数の用語を含むものとする。
【0035】
本発明の化合物
本発明は、ピリジンアルカロイドまたはその薬学的に許容される誘導体に関する。本発明のピリジンアルカロイドは、以下の式(I)
【0036】
【化2】

【0037】
[式中、R1はアルキルであり、R2はアルキルまたはアルケニルであり、R3はアルキルである]
を有する。
【0038】
式(I)の化合物のいくつかの実施形態では、R1は、C1〜C10アルキルであり、R2は、C1〜C6アルキルまたはC2〜C6アルケニルであり、R3は、C1〜C6アルキルである。
【0039】
好ましい実施形態では、R1はペンチルであり、R2はプロペニルであり、R3はメチルである。
【0040】
別の好ましい実施形態では、R1はペンチルであり、R2はプロペニルであり、R3はエチルである。
【0041】
別の好ましい実施形態では、R1はヘプチルであり、R2はプロペニルであり、R3はメチルである。
【0042】
別の好ましい実施形態では、R1はペンチルであり、R2はプロピルであり、R3はメチルである。
【0043】
最も好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートA)、エチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートB)、メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソウンデク-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートC)または(E)-メチル-4-(2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-プロピルニコチネート(モナスニコチネートD)である。
【0044】
本発明の化合物は、知られている任意の方法によって、薬学的に許容される塩、溶媒和物またはプロドラッグなどの薬学的に許容される誘導体にさらに変換することができる。
【0045】
本発明の組成物
本発明はまた、本発明の化合物またはその薬学的に許容される誘導体を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物であり得る。組成物において、本発明の式(I)の化合物は、紅麹米の抽出物または化合物の形で提供され得る。
【0046】
本発明の医薬組成物は、当技術分野において知られている任意の方法によって、局所投与または全身投与することができ、これには、筋肉内、皮内、静脈内、皮下、腹腔内、鼻腔内、経口、粘膜または外部経路が含まれるが、これらに限定されない。適切な経路、製剤、および投与日程は、当業者によって決定され得る。本発明において、医薬組成物は、対応する投与経路に従って、種々のやり方で製剤することができ、そのような医薬組成物には、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出製剤、散剤、顆粒剤、アンプル剤、注射剤、浸剤、キット、軟膏剤、ローション剤、リニメント剤、クリーム剤またはその組合せが挙げられる。必要ならば、医薬組成物は滅菌されるか、または薬学的に許容される任意の担体または賦形剤と混合され得る。そのような担体または賦形剤の多くは、当業者によって知られており、例えば「0031」段落を参照されたい。
【0047】
本発明の調製方法
本発明は、式(I)の化合物
【0048】
【化3】

【0049】
またはその薬学的に許容される誘導体
[式中、R1はアルキルであり、R2はアルキルまたはアルケニルであり、R3はアルキルである]
の調製方法を提供する。
【0050】
好ましい一実施形態では、本発明の方法は、
(a)モナスカス属の種の単離菌株を用いて米を発酵させて、紅麹米を得るステップと、
(b)紅麹米をメタノールまたはエタノールで抽出するステップと、
(c)ステップ(b)で得られた抽出物を、酢酸エチルないしH2O(between ethyl acetate and H2O)で抽出して、酢酸エチル可溶性画分を得るステップと、
(d)酢酸エチル可溶性画分を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムに通し、溶離液を用いて溶出するステップと、
(e)(d)の溶出画分を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムおよび/または分取用薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて精製して、化合物を得るステップと
を含む。
【0051】
本発明の方法によると、単離菌株は、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)、モナスカス・プルプレウスまたはモナスカス・ルバー(Monascus ruber)、好ましくはモナスカス・ピローサスまたはモナスカス・プルプレウス、より好ましくはモナスカス・ピローサスBCRC 930117(DSM 22351)またはモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)であり得る。
【0052】
本発明の方法によると、ステップ(b)の前に、紅麹米を乾燥することができる。
【0053】
本発明の方法によると、ステップ(c)における酢酸エチルとH2Oとの比は、約1:1である。
【0054】
本発明の方法によると、ステップ(d)は、酢酸エチル可溶性画分を、シリカゲルが装填されたクロマトグラフィーカラムに添加し、n-ヘキサン/酢酸エチル=12:1、10:1、8:1、6:1、4:1、2:1、1:1、EA、EA/メタノール=8:1、6:1、4:1、2:1、1:1およびメタノールを含む溶離液を用いてカラムを溶出して、32個の画分を得る工程を含む。ステップ(e)において使用される溶出画分は、画分10、11または14である。
【0055】
本発明の好ましい方法によると、ステップ(e)における精製方法は、溶媒としてn-ヘキサン/EtOAc=2:1を用いるTLCである。
【0056】
本発明の別の好ましい方法によると、ステップ(e)における精製方法は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、n-ヘキサン/EA=8:1、6:1、4:1、2:1、1:1およびEA(各500ml)で溶出して、7個の画分(画分14.1から14.7まで)を得る工程、および画分14.3を分取用TLC(n-ヘキサン/EtOAc=2:1)によって精製する工程である。
【0057】
本発明は、紅麹米抽出物の調製方法を提供する。好ましい一実施形態では、本方法は、
(a)モナスカス属の種の単離菌株を用いて米を発酵させて、紅麹米を得るステップと、
(b)紅麹米をメタノール、エタノールまたは酢酸エチルで抽出するステップと
を含む。
【0058】
本発明の紅麹米抽出物の調製方法によると、単離菌株は、モナスカス・ピローサス、モナスカス・プルプレウスまたはモナスカス・ルバー、好ましくはモナスカス・ピローサスまたはモナスカス・プルプレウス、より好ましくはモナスカス・ピローサスBCRC 930117(DSM 22351)またはモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)であり得る。
【0059】
本発明の紅麹米抽出物の調製方法によると、ステップ(b)の前に、紅麹米を乾燥することができる。
【0060】
有用性
本発明の治療方法の一態様は、PPARγ活性の調節を必要としている対象において、PPARγ活性を増加させることであって、これは、前記対象に、有効量の式(I)の化合物
【0061】
【化4】

【0062】
もしくはその薬学的に許容される誘導体
[式中、R1はアルキルであり、R2はアルキルまたはアルケニルであり、R3はアルキルである]
または紅麹米抽出物を投与することを含む。
【0063】
本発明の治療方法の別の態様は、対象におけるインスリン抵抗性に関連している疾患または障害を予防および/または治療することであり、これは、前記対象に、有効量の式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される誘導体または紅麹米抽出物を投与することを含む。
【0064】
ある特定の実施形態では、インスリン抵抗性に関連している疾患または障害は、アテローム形成性脂質代謝異常、高血圧、インスリン抵抗性もしくは耐糖能異常、2型糖尿病または心血管疾患などの、メタボリックシンドロームまたはその合併症である。
【0065】
本発明の方法によると、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される誘導体は、当技術分野において知られている任意の方法によって、局所投与または全身投与することができ、これには、筋肉内、皮内、静脈内、皮下、腹腔内、鼻腔内、経口、粘膜または外部経路が含まれるが、これらに限定されない。適切な経路、製剤、投与日程は、当業者によって決定され得る。
【0066】
本発明の方法によると、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される誘導体は、メタボリックシンドロームまたはその合併症を予防および/または治療するのに有効な第2の薬剤と組み合わせて投与することができ、それによって、本発明の化合物の治療効果を改善することができる。多くの薬剤が、メタボリックシンドロームまたはその合併症を予防および/または治療するのに有効であると、当技術分野において知られている。そのような薬剤の例には、スタチン、フィブラートまたはニコチン酸などのコレステロールレベルおよび脂質を制御する薬物、利尿剤またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤などの高血圧を制御する薬物、およびメトホルミン、インスリン、スルホニル尿素(SU)、ビグアニド、α-グルコシダーゼ阻害剤、チアゾリジンジオン(TZD)などの高血糖を制御する薬物が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
以下の実施例は、本発明を実施する際に、当業者を援助するために提供される。
【実施例】
【0068】
微生物
モナスカス・ピローサスは、2009年2月18日に、財團法人食品工業發展研究所(Food Industry Research and Development Institute (FIRDI))、331 Shih-Pin Road, 300, Hsinchu, Taiwan, R.O.C.の生物資源保存及研究中心(Bioresource Collection and Research Center (BCRC))に寄託され、受託番号BCRC 930117を割り当てられた。モナスカス・ピローサスはまた、ブダペスト条約に従って、2009年3月5日に、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSMZ), Mascheroder Weg 1b, D38124, Braunschweig, Germanyに寄託され、受託番号DSM 22351を割り当てられた。
【0069】
実施例7から10までにおいて使用されるモナスカス・プルプレウスM615は、2010年10月27日に、FIRDIのBCRCに寄託され、受託番号BCRC 930146を割り当てられた。モナスカス・プルプレウスM615はまた、ブダペスト条約に従って、2010年10月28日に、DSMZに寄託され、受託番号DSM 24162を割り当てられた。
【0070】
(実施例1)
酵母菌材料の調製
M.ピローサスBCRC 930117およびモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146をポテトデキストロース寒天(PDA)(Difco、USA)プレート上に接種し、30℃で7日間インキュベートした。滅菌水6mlを使用して、PDAプレートから胞子を洗い流し、この胞子懸濁液10mlを、GSP培地(グリセロール7%、小麦粉3%、ポリペプトン1.2%、大豆粉末3%、硫酸マグネシウム0.1%および硝酸ナトリウム0.2%を含有する)を含有する250mlエルレンマイヤーフラスコ中に接種し、振盪し、30℃、150rpmで3日間インキュベートして、酵母菌材料ストックを得た。
【0071】
(実施例2)
固体発酵
10本の450ml広口ガラス瓶のそれぞれに、在来米(長粒米)75gを入れておき、1瓶当たり0.2%酒石酸溶液75mlを加えた。米を4℃で一晩浸漬した。次いで、液体を排出し、米を滅菌した。実施例1で得られた酵母菌材料ストックの7.5mlのアリコートを各瓶に接種し、25℃で14日間インキュベートし(インキュベーションの7日目に、GSP培地7.5mlを培養物に加えた)、紅麹米を得た。
【0072】
(実施例3)
紅麹米からの新規化合物の抽出および単離
実施例2の紅麹米を乾燥し、乾燥紅麹米5kgを、室温にて95%EtOH(6L)で3回抽出した。エタノールシロップ抽出物を、EtOAcおよびH2O(1:1)(10L)の間で分配し、EtOAc可溶性画分(76g)を得た。
【0073】
EtOAc可溶性画分を、シリカゲル(75g、70〜230メッシュ)(Merck、Germany)クロマトグラフィーにかけ、n-ヘキサン/酢酸エチル=12:1、10:1、8:1、6:1、4:1、2:1、1:1、EA、EA/メタノール=8:1、6:1、4:1、2:1、1:1およびメタノール(各1L)で溶出して、32個の画分を得た。画分10を、分取用TLC(n-ヘキサン/EtOAc=2:1)によって精製して、新規化合物A(36.4mg)を得た。画分11を、分取用TLC(n-ヘキサン/EtOAc=2:1)によって精製して、新規化合物B(7.8mg)およびC(39.2mg)を得た。画分14を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、n-ヘキサン/EA=8:1、6:1、4:1、2:1、1:1およびEA(各500ml)で溶出することによってさらに精製して、7個の画分(画分14.1から14.7まで)を得た。化合物D(3.5mg)は、画分14.3から、分取用TLC(n-ヘキサン/EtOAc=2:1)によって得られた。
【0074】
(実施例4)
新規化合物の特性決定
M.ピローサスBCRC 930117から作製した紅麹米のEtOH抽出物のEtOAc可溶性画分を、徹底的にクロマトグラフィーで精製することによって、4つの新規化合物である化合物A、B、CおよびDを得た。新規化合物の特性決定を、以下のように行った。
【0075】
旋光度は、Jasco P-1020デジタル旋光計を用いて測定した。UVスペクトルは、MeOH中、Jasco UV-240分光光度計を用いて得られ、IRスペクトル(KBrまたはニート)は、Perkin-Elmer System 2000 FT-IR分光計を用いて取得した。CDCl3を溶媒として使用する1次元(1H、13C、DEPT)および2次元(COSY、NOESY、HSQC、HMBC)NMRスペクトルを、Varian Unity Plus 400(1H NMRについては400MHz、13C NMRについては100MHz)を用いて記録した。化学シフトは、内部標準としてTMSを用い、CDCl3の溶媒シグナル(1H(δ7.26)、13C(δ77.0))を内部基準とした。高解像度ESI-MSスペクトルは、Bruker Daltonics APEX II 30eスペクトロメーターを用いて得られた。シリカゲル(70〜230、230〜400メッシュ)(Merck)は、カラムクロマトグラフィーのために使用し、シリカゲル60 F-254(Merck)は、TLCおよび分取用TLCのために使用した。
【0076】
化合物Aの特性
新規化合物Aは、白色粉末として得られ、以下の特性を有する。
- 1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.88 (3H, t, J = 6.8 Hz, CH3-22)、1.27 (2H, m, CH2-21)、1.32 (2H, m, CH2-20)、1.59 (2H, m, CH2-19)、1.96 (3H, dd, J = 7.0, 1.8 Hz, CH3-9)、2.51 (3H, s, 15-COCH3)、2.54 (2H, d, J = 7.4 Hz, CH2-18)、3.27 (2H, s, CH2-16)、3.92 (3H, s, OCH3-12)、6.54 (1H, br d, J = 12.0 Hz, H-7)、6.93 (1H, m, H-10)、7.33 (1H, s, H-5)、8.13 (1H, s, H-13)、9.13 (1H, s, H-2);
- 13C NMR (CDCl3, 100 MHz): 13.9 (C-22)、18.6 (C-9)、22.4 (C-21)、23.4 (C-19)、25.4 (15-COCH3)、31.3 (C-20)、40.6 (C-16)、43.2 (C-18)、52.3 (C-12)、120.1 (C-5)、121.1 (C-3)、130.2 (C-7)、135.4 (C-8)、136.9 (C-14)、140.9 (C-13)、145.7 (C-4)、151.83 (C-2)、159.4 (C-6)、165.5 (C-10)、198.8 (C-15)、208.7 (C-17);
- IR (非希釈) cm-1: 1712、1668 (C=O);
- UVλmax (MeOH) nm (log ε): 253、280、330;
- ESI-MS m/z 380 [M+Na]+;
- HR-ESI-MS m/z 380.1837 [M+Na]+ (C21H27NO4Naの計算値, 380.1835)。
【0077】
化合物Bの特性
新規化合物Bは、黄色油状物として単離され、以下の特性を有する。
- 1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.87 (3H, t, J = 7.2 Hz, CH3-23)、1.32, 1.33, 1.59 (各2H, m, CH2-20〜22)、1.39 (3H, t, J = 7.2 Hz, CH3-13)、1.95 (3H, dd, J = 7.0, 2.0 Hz, CH3-9)、2.50 (3H, s, 16-COCH3)、2.54 (2H, d, J = 7.4 Hz, CH2-19)、3.27 (2H, s, CH2-17)、4.36 (2H, q, J = 7.2 Hz, CH2-12)、6.54 (1H, br d, J = 12.0 Hz, H-7)、6.92 (1H, m, H-8)、7.24 (1H, s, H-5)、8.12 (1H, s, H-14)、9.14 (1H, s, H-2);
- 13C NMR (CDCl3, 100 MHz): 13.9 (C-23)、14.2 (C-13)、18.6 (C-9)、22.4 (C-21)、23.4 (C-19)、25.4 (15-COCH3)、31.3 (C-21)、40.7 (C-17)、43.2 (C-19)、61.4 (C-12)、120.1 (C-5)、121.1 (C-3)、130.1 (C-7)、135.5 (C-8)、136.9 (C-15)、141.0 (C-14)、145.7 (C-4)、151.7 (C-2)、159.4 (C-6)、165.5 (C-10)、198.8 (C-16)、208.7 (C-18);
- IR (非希釈) cm-1: 1716、1676 (C=O);
- UVλmax (MeOH) nm (log ε): 248、275、338;
- ESI-MS m/z 394 [M+Na]+;
- HR-ESI-MS m/z 394.1994 [M+Na]+ (C22H29NO4Naの計算値, 394.1998)。
【0078】
化合物Cの特性
新規化合物Cは、黄色油状物として単離され、以下の特性を有する。
- 1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.87 (3H, t, J = 7.2 Hz, CH3-24)、1.26 (8H, br s, CH2-20〜23)、1.58 (2H, m, CH2-19)、1.95 (3H, dd, J = 7.0, 2.0 Hz, CH3-9)、2.50 (3H, s, 15-COCH3)、2.53 (2H, t, J = 7.2 Hz, CH2-18)、3.27 (2H, s, CH2-16)、3.92 (3H, s, OCH3-12)、6.54 (1H, br d, J = 12.0 Hz, H-7)、6.92 (1H, m, H-8)、7.24 (1H, s, H-5)、8.12 (1H, s, H-13)、9.14 (1H, s, H-2);
- 13C NMR (CDCl3, 100 MHz): 14.1 (C-24)、18.7 (C-9)、22.6 (C-21)、23.8 (C-19)、25.4 (15-COCH3)、29.1 (C-22)、31.6 (C-20)、40.7 (C-16)、43.3 (C-18)、52.4 (C-12)、120.2 (C-5)、121.1 (C-3)、130.2 (C-7)、135.6 (C-8)、137.0 (C-14)、140.9 (C-13)、145.8 (C-4)、151.8 (C-2)、159.4 (C-6)、165.6 (C-10)、198.8 (C-15)、208.7 (C-17);
- IR (非希釈) cm-1: 1724、1672 (C=O);
- UVλmax (MeOH) nm (log ε): 251、282、327;
- ESI-MS m/z 408 [M+Na]+;
- HR-ESI-MS m/z 408.2151 [M+Na]+ (C23H31NO4Naの計算値, 408.2153)。
【0079】
化合物Dの特性
新規化合物Dは、黄色油状物として単離され、以下の特性を有する。
- 1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.88 (3H, t, J = 7.2 Hz, CH3-22)、0.94 (3H, t, J = 7.2 Hz, CH3-9)、1.26 (4H, m, CH2-20, 21)、1.57 (2H, m, CH2-19)、1.75 (2H, 六重線, J = 7.2 Hz, CH3-8)、2.51 (3H, s, 15-COCH3)、2.52 (2H, t, J = 7.2 Hz, CH2-18)、3.26 (2H, s, CH2-16)、3.93 (3H, s, OCH3-12)、7.23 (1H, s, H-5)、8.13 (1H, s, H-13)、9.16 (1H, s, H-2);
- 13C NMR (CDCl3, 100 MHz): 13.7 (C-9)、13.9 (C-22)、22.4 (C-21)、22.7 (C-8)、23.4 (C-19)、25.4 (15-COCH3)、31.3 (C-20)、39.8 (C-7)、40.7 (C-16)、43.2 (C-18)、52.5 (C-12)、121.5 (C-3)、122.8 (C-5)、137.2 (C-14)、140.5 (C-13)、146.2 (C-4)、150.9 (C-2)、165.3 (C-10)、166.4 (C-6)、198.8 (C-15)、208.7 (C-17);
- IR (非希釈) cm-1: 1716、1665 (C=O);
- UVλmax (MeOH) nm (log ε): 245、271、328;
- ESI-MS m/z 382 [M+Na]+;
- HR-ESI-MS m/z 382.1994 [M+Na]+ (C21H29NO4Naの計算値, 382.1994)。
【0080】
化合物A、B、CおよびDの構造解明
化合物Aは、その1H-NMR、13C-NMRおよびDEPTと組み合わせて、HR-ESI-MSデータによって決定されるように、分子式C21H27NO4を有し、不飽和度9を必要とする。IRスペクトルによって、複数のカルボニルC=Oの存在(1712、1668cm-1)が明らかになり、このうちの1つは、UVスペクトル解析によると(λmax 253、280および330nm)、ピリジンと共役していた。式中の固有の不飽和度9のうち8は、13C-NMRによって、1個の共役カルボニル、1個のケトン、1個のエステルカルボニル、1組の二重結合および5個のオレフィン炭素とみなされた。よって、化合物Aは、単一のピリジン環を含有していた。
【0081】
1H-/13C-NMRスペクトルは、7個の第4級C原子、5個のCH基、5個のCH2基および4個のMe基を示した。1H-NMRスペクトルでは、δH 3.92(3H、s)に1個のOMe基の典型的なシグナル、δH 2.51(3H、s)に1個のアセチル部分、δH 2.54(2H、d、J=7.4Hz)および3.27(2H、s)にケトンのα-メチレンのプロトンのシグナル、δH 1.59(2H、m)にケトンの1個のβ-メチレン共鳴、δH 7.33(1H、s)および9.13(1H、s)にピリジンのオレフィンのプロトンの2個のシグナル、ならびにδH 6.54(1H、br d、J=12.0Hz)および6.93(1H、m)に1個の(E)-二重結合のシグナルが存在し、恐らく、化合物Aが共役カルボニルエステル基を所有するピリジン環部分であることを示していた。ピリジン誘導体の炭素は、13C-NMRおよびDEPT実験から割り当てられ、3個のC=O官能基[δC 198.8(α,β-不飽和C=O基)、165.5(エステルC=O基)および208.7(C=O)]、1個のC=C結合[δC 130.2、135.4]、1個のビニルメチル炭素[δC 18.6]、1個のメトキシ基[δC 52.3]、1個のアセチルのメチル部分[δC 25.4]ならびに3個の脂肪族メチレンC原子[δC 20.0、31.0、34.6]の共鳴が存在した。化合物Aの上記データは、類似の化合物のものが有するピロール環部分も示していた。
【0082】
化合物Aの構造を、13C NMR、DEPT、COSY、NOESY(図2Aを参照されたい)、HSQCおよびHMBC(図2Bを参照されたい)実験によって、さらに確認した。化合物Aの1H、1H-COSYおよびHMBCスペクトルを添えた上記所見は、化合物Aのピリジン骨格のための部分的な3個の置換基:フラグメント、1a (-CH3(CH2)4COCH2C(C=CH)(COCH3)-、(E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)、1b (-CH=CHCH3-、(E)-プロプ-1-エニル)および1c (-COOCH3-)の存在を確証した。化合物Aの完全な骨格は、HMBCスペクトルを用いて構築された。したがって、化合物Aの構造は、メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(図1Aを参照されたい)であると決定し、モナスニコチネートAと名付けた。
【0083】
化合物BからDまでの1H NMRスペクトルは、化合物AであるモナスニコチネートAに類似していたが、但しピリジン部分の置換基が異なっていた。構造を、13C NMR、DEPT、COSY、NOESY(図3A、4Aおよび5Aを参照されたい)、HSQCおよびHMBC(図3B、4Bおよび5Bを参照されたい)の実験によって、さらに確認した。したがって、化合物B、CおよびDの構造は、それぞれ、エチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(図1Bを参照されたい)、メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソウンデク-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(図1Cを参照されたい)、(E)-メチル-4-(2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-プロピルニコチネート(図1Dを参照されたい)であると決定し、モナスニコチネートB、CおよびDと名付けた。
【0084】
(実施例5)
モナスニコチネートA、B、CおよびDによって増進された、3T3-L1細胞における脂肪細胞の分化
3T3-L1前脂肪細胞の調製
前脂肪細胞の調製は、Waki他、(2007年、「The small molecule harmine is an antidiabetic cell-type-specific regulator of PPARγ expression.」Cell Metabolism、5(5): 357〜370頁)およびHuang他、(2005年、「Herbal or natural medicines as modulators of peroxisome proliferator-activated receptors and related nuclear receptors for therapy of metabolic syndrome.」Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology、96: 3〜14頁)によって記載されている方法に従って行った。前脂肪細胞を、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含有するDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地-高グルコース、Sigma D-7777)中で培養し、5%CO2インキュベーター中で、37℃にてインキュベートした。
【0085】
分化誘導実験前に、細胞を96または24ウェルプレート中に置いた(各ウェル中の細胞の濃度は、約2×104/cm2であった)。プレートを約2日間インキュベートし、細胞をコンフルエンス状態に増殖させ、次いで、さらに2日間維持した。培地は、異なる実験に応じて、異なる分化培地に変更した。分化培地に切り替える日を、0日目に指定した。
【0086】
DMI分化モデル
DMI分化モデルにおいて使用した分化培地は、3種が一体になった分化誘導剤(DMI):デキサメタゾン(Sigma D-4902、エタノールに溶解して0.25Mストック溶液を作る)、イソブチル-メチルキサンチン(Sigma I-5879、DMSOに溶解して0.5Mストック溶液を作る)およびインスリン(Sigma I-6634、0.01N HClに溶解して10mg/mlストック溶液を作る)を含んでいた。デキサメタゾン、イソブチル-メチルキサンチンおよびインスリンの最終濃度は、それぞれ0.25μM、0.5mMおよび5μg/mlであった。
【0087】
4種の試験化合物、すなわちモナスニコチネートA、B、CおよびDを、それぞれDMSOに溶解し、5mg/mlストック溶液を生成した。試験サンプルを含有する分化培地1mlを、24ウェル3T3-L1前脂肪細胞プレートの各ウェルに加えた(各ウェルにおけるサンプルの最終濃度は、5μg/mlであった)。対照群は、分化培地のみでサンプル無しの培養物であった。培養物を、5%CO2インキュベーター中で、37℃にて3日間インキュベートし、次いで、培地を10%FBS含有DMEMに取り換えた。培養物を9日目または10日目まで維持し、細胞中のトリグリセリドの量を分析した。分化の程度(油滴の量)も、倒立顕微鏡下で調べた。
【0088】
インスリン分化モデル
インスリン分化モデルにおいて使用した分化培地は、10μg/mlのインスリンを含む、10%FBS含有DMEMであった。4種の試験化合物、すなわちモナスニコチネートA、B、CおよびDのそれぞれを含有する分化培地を、24または96ウェル3T3-L1前脂肪細胞プレートの各ウェルに加えた(各ウェルにおける試験化合物の最終濃度は、2μg/mlである)。対照群は、分化培地のみでサンプル無しの培養物であった。培養物を、5%CO2インキュベーター中で、37℃にて7日間インキュベートし(期間中、分化培地およびサンプルを新鮮なものに2回取り換えた)、次いで、培地を10%FBS含有DMEMに取り換えた。培養物を9日目または10日目まで維持した。9日目または10日目に、実験群および対照群の細胞をAdipoRedで染色し、トリグリセリドの濃度を分析した。
【0089】
(1)AdipoRed染色
96ウェルプレートをPBSですすぎ、200μlのPBSおよび5μlのAdipoRed試薬(Lonze Walkersville, Inc.、Walkersville、MD、USA、カタログ番号PT-7009)を、各ウェルに加えた。10〜15分後、プレートを、励起波長485nmおよび発光波長572nmに設定した分光蛍光計(Infinite M200)で読み取った。実験群の蛍光データを対照群の蛍光データで割り、誘導活性の百分率を得た。
【0090】
(2)トリグリセリド濃度の測定
24ウェルプレートをPBSですすぎ、1ウェル当たり0.1mlの1%Triton X 100で、細胞を洗い流した。次いで、細胞を凍結させ、解凍し、遠心分離し(10,000rpm/5分)、上清を集めた。上清の0.05mlのアリコートを、トリグリセロールアッセイキット(Audit Diagnostics, Ltd.)を使用して分析した。
【0091】
タンパク質の量を、Bio-Rad Dc Proteinアッセイ試薬(Bio-Rad)を使用して分析した。トリグリセリド濃度を、Bio-Rad Dc Proteinアッセイを使用して得られたタンパク質濃度で割り、タンパク質1μg当たりのトリグリセリドの量(μg)を算出した。実験群のトリグリセリド量を、対照群のトリグリセリド量で割り、サンプルの分化誘導活性を決定した。
【0092】
結果
図6(A)から(E)までは、DMI分化モデルにおいて、モナスニコチネートA、B、CおよびDが3T3-L1前脂肪細胞の分化に及ぼす作用を示す、倒立顕微鏡下での観察図である。暗色は、分化した脂肪細胞中に存在する多数のトリグリセリドの小滴を示す。モナスニコチネートA、B、CおよびDで処理した培養物は、対照培養物に比べて多くのトリグリセリドの小滴を含有していたことが分かった。このことは、4種のすべての化合物が、3T3-L1前脂肪細胞の分化を著しく促進することができることを示している。
【0093】
試験化合物が3T3-L1分化に及ぼす増進の程度を、Table 1(表1)に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
4種の試験化合物、すなわちモナスニコチネートA、B、CおよびDのすべてが、DMIモデルおよびインスリンモデルの両方において、3T3-L1前脂肪細胞の分化を促進することが見出される。
【0096】
(実施例6)
NO産生の決定および細胞生存率アッセイ
96ウェル平底培養プレートを用いて、ネズミマクロファージ細胞系RAW264.7(BCRC 60001=ATCC TIB-71)を、加熱不活性化した10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco BRL Life Technologies, Inc.)中で培養し、5%CO2の加湿雰囲気中で、37℃にてインキュベートした。24時間後、馴化培地を新鮮なDMEMおよびFBSに取り換えた。次いで、3種の試験化合物、すなわちモナスニコチネートA、CおよびD(0、1、5、10および20μg/mL)を、それぞれリポ多糖(LPS、1μg/mL、Sigma、カタログ番号L-2654)の存在下に加え、プレートを同条件で24時間インキュベートした。
【0097】
次いで、培養細胞を遠心分離し、上清をNO産生測定に使用し、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを用いて、細胞生存率を決定した。上清を同量のGriess試薬(2.5%リン酸溶液中、1%スルファニルアミド、0.1% N-(1-ナフチル)エチル-エンジアミン二塩酸塩)と混合し、室温で10分間インキュベートした。亜硝酸塩濃度の決定は、ELISAプレートリーダー(μ Quant)を使用して、540nmで吸光度を測定することによって行った(Mosman, T.、1983年、「Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: application to proliferation and cytotoxicity assays.」J. Immunol. Methods、65: 55〜63頁を参照されたい)。MTT比色アッセイは、Mosmannのアッセイから変更した(Johansson, M.他、2002年、「Biologically active secondary metabolites from the ascomycete A111-95.」J. Antibiot.、55: 104〜106頁を参照されたい)。この試験は、生細胞が、黄色の可溶性塩であるMTTを減少させ、紫青色の不溶性ホルマザンを得る選択的能力に基づいている。MTT(Merck、リン酸緩衝生理食塩水中に5mg/mLで溶解した)溶液を、以上に言及されている付着細胞上に加え(100μl培養物当たり10μl)、37℃で4時間インキュベートした。次いで、DMSOを加え、形成された呈色ホルマザン代謝物質の量を、550nmでの吸光度によって決定した。対照(未処理)細胞において形成されたホルマザンの光学密度を、100%生存率とみなした。
【0098】
モナスニコチネートA、CおよびDが、LPSによって誘導されたNOの産生に及ぼす阻害作用を評価した。モナスニコチネートAおよびDは、阻害活性を示した。モナスニコチネートAのIC50は、5.72μg/mL(16.0μM)であり、モナスニコチネートDのIC50は、9.4μg/mL(24.8μM)である。モナスニコチネートAおよびDは、陽性対照として使用したケルセチン(IC50は26.4μMである)に比べて、NO産生により強力な阻害を示した。ケルセチンは、LPSに刺激されたマクロファージ細胞RAW264.7によるNOの産生に対して阻害作用を有する(IC50は26.8μMである)ことが報告されている(Motai, T.およびKitanaka, S.、2005年、「Sesquiterpene chromones from Ferula fukanensis and their nitric oxide production inhibitory effects.」J. Nat. Prod.、68: 1732〜1735頁を参照されたい)。これらの化合物の細胞毒性作用を、MTTアッセイを使用して測定した。モナスニコチネートA(1〜10μg/mL)およびD(1〜20μg/mL)は、24時間のLPS処理で、著しい細胞毒性を全く示さなかった。モナスニコチネートCは、10μg/mLで著しい細胞毒性作用を示した。
【0099】
(実施例7)
紅麹米抽出物によって増進された、3T3-L1細胞の分化
紅麹米の調製は、実施例1および2に記載されている方法に従って、モナスカス・ピローサスBCRC 930117(DSM 22351)およびモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)を使用して行った。
【0100】
有機溶媒抽出物の調製:固体の発酵紅麹米を50ml血清瓶に入れ(紅麹米を各1gずつ)、各瓶に25mlの有機溶媒(メタノール、エタノールまたは酢酸エチル)を加えた。懸濁混合機を用い、低速度で、室温にて一晩、瓶を回転させることによって、紅麹米を抽出した。抽出した流体を、ろ紙を用いてろ過し、ろ液中の溶媒を、真空乾燥器を使用して除去し、BCRC 930117-発酵米およびBCRC 930146-発酵米の乾燥メタノール、エタノールおよび酢酸エチル抽出物を得た。
【0101】
水抽出物の調製:固体の発酵紅麹米を500ml血清瓶に入れ(紅麹米を各5gずつ)、各瓶に250mlの脱イオン水を加えた。加熱撹拌機を用い、100℃で60分間、瓶を加熱することによって、紅麹米を抽出した。抽出した流体を、ろ紙を用いてろ過し、ろ液中の溶媒を、凍結乾燥器を使用して除去し、BCRC 930117-発酵米およびBCRC 930146-発酵米の乾燥水抽出物を得た。
【0102】
上記で調製した乾燥水抽出物を脱イオン水に溶解し、乾燥メタノール、エタノールおよび酢酸エチル抽出物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、2または5mg/mlのストックサンプルを得た。異なる濃度の抽出物を含む培地を、3T3-L1前脂肪細胞の分化アッセイ用に調製した。
【0103】
3T3-L1前脂肪細胞の分化アッセイは、実施例5に従って行った。結果をTable 2(表2)およびTable 3(表3)に示した。
【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
Table 2(表2)およびTable 3(表3)の結果は、BCRC 930117-発酵紅麹米およびBCRC 930146-発酵紅麹米のメタノール抽出物が、DMIモデルおよびインスリンモデルの両方において、3T3-L1前脂肪細胞の分化を著しく増進することができることを実証している。BCRC 930146-発酵紅麹米のエタノール抽出物および酢酸エチル抽出物も、3T3-L1前脂肪細胞の分化を著しく増進することができる。
【0107】
(実施例8)
モナスニコチネートA、B、CおよびDによる分化3T3-L1細胞におけるPPARγ発現およびアディポネクチン濃度の増加
実施例5に記載されているように、3T3-L1細胞をモナスニコチネートA、B、CおよびD(実施例3において調製済)で処理した。分化3T3-L1細胞の核内および細胞質内のタンパク質を抽出し、核内PPARγおよび細胞質内アディポネクチンの含量を、市販のキットを使用して分析した。
【0108】
(1)核内および細胞質内のタンパク質抽出
3T3-L1細胞をインキュベートし、ペトリ皿(9cm)上で9日間分化させ、PBSで洗浄した。1mlの緩衝剤A希釈標準溶液(Affymetrix(登録商標) Nuclear Extraction Kits、Panomics, Inc.、使用説明書に従って、新たに調製したもの)を、このペトリ皿に加え、このペトリ皿を氷上に置き、振盪機で10分間振盪した。ペトリ皿上の細胞を、1.5ml遠心管に移し、14,000rpmで3分間遠心分離した。上清である細胞質ゾル画分を、さらなる分析用に集めた。0.5mlの緩衝剤B希釈標準溶液(Affymetrix(登録商標) Nuclear Extraction Kits、Panomics, Inc.、使用説明書に従って、新たに調製したもの)を、この遠心管に加え、細胞ペレットを再懸濁させ、遠心管を氷上に置き、振盪機で2時間振盪した。次いで、遠心管を14,000rpmで5分間遠心分離した。上清である細胞核画分を、さらなる分析用に集めた。
【0109】
(2)核内PPARγELISA
細胞核画分中の核内PPARγを、Transcription Factor PPARγ ELISA Kit(Panomics, Inc.)を使用して、使用説明書に従って分析した。
【0110】
(3)細胞質内アディポネクチン(AdipoQ)ELISA
細胞質ゾル画分中の細胞質内アディポネクチンを、Quantikine Mouse Adiponectinイムノアッセイ(R&D systems)を使用して、使用説明書に従って分析した。
【0111】
結果は、モナスニコチネートA、B、CおよびDが、3T3-L1細胞における核内PPARγの発現(Table 4(表4)を参照されたい)および細胞質内アディポネクチンの濃度(図7(A)および(B)を参照されたい)を増加させることができることを示す。
【0112】
【表4】

【0113】
(実施例9)
モナスニコチネートA、B、CおよびDならびに紅麹米抽出物によるPPAR結合活性の実証
モナスニコチネートA、B、CおよびDを、実施例3に従って調製し、BCRC 930146-発酵米のエタノール抽出物および酢酸エチル抽出物を、実施例7に従って調製した。モナスニコチネートA、B、CおよびDならびにBCRC 930146-発酵米のエタノール抽出物および酢酸エチル抽出物のPPARγおよびPPARαへの結合活性を、競合結合アッセイキット(LanthaScreen TR-FRET PPARγ Binding AssayおよびInvitrogen PPARα Competitive Binding Assay)を使用して、それらの使用説明書に従って分析した。トログリタゾンおよびアラキドン酸を、それぞれPPARγおよびPPARαリガンド用の標準物質として使用した。
【0114】
Table 5(表5)は、モナスニコチネートA、B、CおよびDならびにBCRC 930146-発酵米のエタノール抽出物および酢酸エチル抽出物が、PPARγ結合活性を有し、BCRC 930146-発酵米のエタノール抽出物および酢酸エチル抽出物が、PPARα結合活性を有することを示している。
【0115】
【表5】

【0116】
(実施例10)
紅麹米抽出物が高脂肪/高スクロース食によって誘発された肥満および高血糖マウスに及ぼす作用
紅麹米エタノール抽出物の調製
紅麹米の調製は、実施例1および2に記載されている方法に従って、モナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)を使用して行った。BCRC 930146-発酵米2.4Kgを10Lステンレス製容器に入れ、95%エタノール溶液3Lをこの容器に加えた。混合物を室温で72時間インキュベートし、ろ紙を用いてろ過した。ろ液中の溶媒を、真空乾燥器を使用して除去し、濃縮液0.64Lを得た。2.5%メチルセルロース0.16Lを濃縮液に加え、混合物を凍結乾燥して、乾燥抽出物110gを得た。乾燥抽出物を粉砕し、動物試験用の粉末抽出物を得た。
【0117】
動物試験
雄C57BL/6JNarlマウスに、高脂肪/高スクロース食を4週間給餌し、肥満および高血糖症を誘発させた。HF/HSマウスの非空腹時の血漿中グルコース濃度は、正常マウスに比べて高い(128.9±10.4mg/dLに対して154.1±16.1mg/dL、p<10-3)。HF/HSマウスを4群(1つの対照群および異なる用量の紅麹米エタノール抽出物で処置した3つの試験群)に分けた。3つの試験群のマウスには、277mg/kg体重(低)、554mg/kg体重(中)および1108mg/kg体重(高)の紅麹米エタノール抽出物を投与した。対照群のマウスには、実施例1および2に記載されているものと同じ方法ならびに実施例7に記載されているものと同じ抽出方法によって、BCRC 930146無しで発酵させた米から調製したエタノール抽出物を投与した。マウスを10週間処置した。経口ブドウ糖負荷試験を8週目に行い、インスリン耐性試験を10週目に行った。マウスを11週目に絶食させた後、屠殺した。血液分析用に血液を採取し、精巣上体の脂肪組織を固定し、包埋して切片を作製し、脂肪細胞のサイズおよび数を算出した。
【0118】
結果
Table 6(表6)は、8週間の処置後の経口ブドウ糖負荷試験の結果を示す。結果は、3つの試験群の、30分および120分での血漿中グルコース濃度ならびにAUC120minが、HF/HS対照群のものに比べて有意に低かった(p<0.05)ことを示している。
【0119】
【表6】

【0120】
Table 7(表7)は、10週間の処置後のインスリン耐性試験の結果を示す。中用量群および高用量群の、15分および60分での血漿中グルコース濃度ならびにAUC60minが、HF/HS対照群のものに比べて有意に低かった(p<0.05)ことを示している。
【0121】
【表7】

【0122】
11週目の血液分析の結果をTable 8(表8)に示す。
【0123】
【表8】

【0124】
結果は、(1)3つの試験群のインスリン濃度が、HF/HS対照群のものに比べて有意に低かったこと、(2)中用量処置および高用量処置の両方が、空腹時血漿中グルコース濃度を有意に減少させることができること、(3)低用量群および高用量群の両方の血漿中HDL濃度が、HF/HS対照群のものに比べて有意に高かったこと、ならびに(4)3つの試験群のHDL/TC比が、有意に高められたことを示している。
【0125】
要約すると、紅麹米エタノール抽出物は、耐糖能異常およびインスリン抵抗性を改善することができ、血液中の脂質プロフィールを改善し、HDL/TC比を高めることができる。
【0126】
図8は、精巣上体の脂肪組織中の脂肪細胞のサイズ分布を示す。高用量群における大きい脂肪細胞(直径81〜110μm)の数は、対照群のものに比べて有意に少ない。中用量群および高用量群における、中位の脂肪細胞(直径41〜80μm)および小さい脂肪細胞(直径10〜40μm)の数は、対照群のものに比べて有意に多い。対照群および3つの試験群の脂肪細胞の総数は、有意に異なっていないが、高用量群は、大きい脂肪細胞がより少なく、それよりも中位のおよび小さい脂肪細胞を有している。インスリン抵抗性の改善に及ぼすPPARγアゴニストの作用の一部が、前脂肪細胞の分化を増進することによって達成されることは、当技術分野において知られている。本発明の結果は、紅麹米のエタノール抽出物が機能的な中位のおよび小さい脂肪細胞の増加に及ぼす作用が、PPAR結合活性を有するモナスニコチネートA、B、CまたはDによる前脂肪細胞の分化の増進を通じて達成され得ることを実証している。
【0127】
本発明は、以上に記述されている具体的な実施形態と併せて記載されているが、多くのその代替形態ならびにその変更形態および改変形態は、当業者には明らかである。そのような代替形態、変更形態および改変形態はすべて、本発明の範囲内に含まれるとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】

またはその薬学的に許容される誘導体
[式中、R1はアルキルであり、R2はアルキルまたはアルケニルであり、R3はアルキルである]。
【請求項2】
R1がC1〜C10アルキルであり、R2がC1〜C6アルキルまたはC2〜C6アルケニルであり、R3がC1〜C6アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1がペンチルであり、R2がプロペニルであり、R3がメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R1がペンチルであり、R2がプロペニルであり、R3がエチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R1がヘプチルであり、R2がプロペニルであり、R3がメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
R1がペンチルであり、R2がプロピルであり、R3がメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートA)、エチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートB)、メチル-4-((E)-2-アセチル-4-オキソウンデク-1-エニル)-6-((E)-プロプ-1-エニル)ニコチネート(モナスニコチネートC)または(E)-メチル-4-(2-アセチル-4-オキソノン-1-エニル)-6-プロピルニコチネート(モナスニコチネートD)またはその薬学的に許容される誘導体である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される誘導体と、場合によって、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む組成物。
【請求項9】
(a)モナスカス属の種(Monascus spp.)の単離菌株を用いて米を発酵させて、紅麹米を得るステップと、
(b)紅麹米をメタノールまたはエタノールで抽出するステップと、
(c)ステップ(b)で得られた抽出物を、酢酸エチルないしH2Oで抽出して、酢酸エチル可溶性画分を得るステップと、
(d)酢酸エチル可溶性画分を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムに通し、溶離液を用いて溶出するステップと、
(e)(d)の溶出画分を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムおよび/または分取用薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて精製して、前記化合物を得るステップと
を含む、請求項1から7のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される誘導体の調製方法。
【請求項10】
単離菌株が、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)またはモナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
単離菌株が、モナスカス・ピローサスBCRC 930117(DSM 22351)またはモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(a)モナスカス属の種の単離菌株を用いて米を発酵させて、紅麹米を得るステップと、
(b)紅麹米をメタノール、エタノールまたは酢酸エチルで抽出するステップと
を含む方法によって得られる紅麹米抽出物。
【請求項13】
単離菌株が、モナスカス・ピローサスまたはモナスカス・プルプレウスである、請求項12に記載の紅麹米抽出物。
【請求項14】
単離菌株が、モナスカス・ピローサスBCRC 930117(DSM 22351)またはモナスカス・プルプレウスM615 BCRC 930146(DSM 24162)である、請求項13に記載の紅麹米抽出物。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載の紅麹米抽出物と、場合によって、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む組成物。
【請求項16】
必要とされる対象においてPPARγの活性を増加させるための医薬品の製造における、請求項1から7のいずれかに記載の式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される誘導体、請求項12から14のいずれかに記載の紅麹米抽出物、または請求項8もしくは15に記載の組成物の使用。
【請求項17】
対象においてインスリン抵抗性に関連している疾患または障害を予防および/または治療するための医薬品の製造における、請求項1から7のいずれかに記載の式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される誘導体、請求項12から14のいずれかに記載の紅麹米抽出物、または請求項8もしくは15に記載の組成物の使用。
【請求項18】
対象においてメタボリックシンドロームまたはその合併症を予防および/または治療するための医薬品の製造における、請求項1から7のいずれかに記載の式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される誘導体、請求項12から14のいずれかに記載の紅麹米抽出物、または請求項8もしくは15に記載の組成物の使用。
【請求項19】
メタボリックシンドロームまたはその合併症が、腹部肥満、アテローム形成性脂質代謝異常、高血圧、インスリン抵抗性または耐糖能異常、2型糖尿病および心血管疾患からなる群から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
医薬品が、メタボリックシンドロームまたはその合併症を予防または治療するための第2の治療薬と組み合わせて使用されるためのものである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
第2の治療薬が、スタチン、フィブラート、ニコチン酸;利尿剤、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;メトホルミン、インスリン、スルホニル尿素(SU)、ビグアニド、α-グルコシダーゼ阻害剤およびチアゾリジンジオン(TZD)からなる群から選択される、請求項20に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(A)−(B)】
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【図6(C)−(D)】
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【図6(E)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144172(P2011−144172A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−173(P2011−173)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(595096431)財團法人食品工業發展研究所 (4)
【Fターム(参考)】