説明

新規な化合物、肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤

【課題】 有用な薬理作用を発揮可能な新規化合物、並びに、肥満改善作用を発揮する肥満改善剤、脂質代謝改善作用を発揮する脂質代謝改善剤、血糖降下作用を発揮する血糖降下剤、及び育毛改善作用を発揮する育毛改善剤を提供する。
【解決手段】 化合物は、下式(1)で表される1−O−グルコシルゲラニオール−10,5−オリド(1−O−glucosylgeraniol−10,5−olide)である。この化合物は、窄葉鮮卑を原料とする生薬である柳茶に含まれており、肥満改善作用、脂質代謝改善作用、血糖降下作用及び育毛改善作用を発揮する。肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤はいずれも、下式(1)で表される化合物を有効成分とする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、並びに、該化合物を有効成分とする肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満症とは、「肥満に起因し健康障害を合併するか、臨床的にその合併症が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態」と医学的に定義される。また、肥満は、生理学的には脂肪組織を体内に過剰に蓄積した状態であり、体格指数(BMI)を指標として定量的に把握することが可能である。例えば、BMIが25を超えると、合併症の発症頻度が高まり、動脈硬化、特にアテローム性動脈硬化の発症や進展に深い関わりを持つようになり、さらには動脈硬化に基づく諸疾患、例えば狭心症、心筋梗塞等の最大のリスクファクターとなり得ることが明らかにされている。肥満改善剤に関して、肥満症という病名で日本国(厚生労働省)から承認されている薬としては、マジンドールが挙げられるが、その薬の使用には高い規制(「BMIが35以上等の重症の患者への使用」、「使用期間は3ヶ月以内」等)がかけられている。よって、多くの患者向けに低い規制で利用可能な薬の開発が進められつつあるが、現状ではそのような薬が臨床に供されているという報告はない。
【0003】
高脂質血症は、血中の脂質、特にコレステロールが正常値を越えて高い濃度を示す症状であると定義され、臨床的には胆石症、急性膵炎、黄色爪等の横断疾患として知られている。さらに、疫学的調査によって、高脂質血症が動脈硬化、特にアテローム性動脈硬化の発症や進展に深い関わりを持つことが明らかになり、さらには動脈硬化に基づく諸疾患、例えば狭心症、心筋梗塞等の最大のリスクファクターとなり得ることが明らかにされている。脂質代謝改善剤としては、クロフィプレートを始めとして、ニコチン酸誘導体、ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG−CoA)還元酵素阻害剤のスタチン系製剤、タンパク同化ステロイド、植物ステロール等が臨床に供されている。
【0004】
糖尿病は、インスリンの作用の不足によって高血糖が持続し、様々な代謝異常をきたす症候群である。高血糖状態が持続すると、やがて腎症や網膜症等の網細血管症が出現したり、末梢血管傷害や自律神経障害が引き起こされたりする。その結果、腎不全や失明等が起こったり、定期的な人工透析を必要としたりして、生活の質を著しく低下させるおそれがある。さらには、高血糖状態の持続は、動脈硬化も促進させる可能性があるため、狭心症、心筋梗塞等のリスクファクターであることが明らかにされている。血糖降下剤としては、グリベンクラミドを始めとして、スルホニル尿素系製剤、α−グルコシダーゼ阻害剤、インスリン抵抗改善剤、ピグアナイド剤等が臨床に供されている。
【0005】
脱毛症の原因の一つとしては、血行障害が挙げられる。毛包周辺の血行が悪くなると、毛に栄養が送られず、脱毛する。現代の偏った食生活や不規則な生活習慣に起因する血行障害が脱毛の原因となることもあるが、ストレスに起因して頭皮の血行が悪くなって脱毛する場合もある。その他、遺伝、男性ホルモン、脱毛・染毛剤、喫煙、飲酒等、脱毛の原因は沢山存在し得る。育毛改善剤としては、副腎皮質ホルモン剤、塩化カルプトニウム、ミノキシジル、カプサイシン等が臨床に供されている。
【0006】
一方、特許文献1には、柳茶(生薬)を有効成分として含有する脂質代謝調節剤が開示されている。この脂質代謝調節剤は、血漿トリアシルグリセロール濃度を低下させ、かつ、遊離脂肪酸濃度を上昇させる作用を有しており、医薬製剤、食品又は飼料として利用可能である。この脂質代謝調節剤は、窄葉鮮卑(Sibiraea angustata(Rchd.)Hand.Mazz.)の枝や葉の水抽出物よりなり、低リポタンパク血症、高リポタンパク血症、糖尿病、高トリアシルグリセロール血症、高コレステロール血症、動脈硬化症、肥満のような脂質代謝に影響を及ぼす疾患の治療又は予防に利用可能である。
【0007】
なお、前記柳茶は、バラ科植物である窄葉鮮卑を原料とする生薬である。窄葉鮮卑は、中国の青海省、甘粛省、四川省、雲南省の標高3000〜4000mの潅木叢や砂利地区に分布している。窄葉鮮卑の枝や葉は、チベットの民間において消化不良の治療に使用され、よく飲用すると体が丈夫になり、家畜に食べさせると家畜が痩せると言われている。窄葉鮮卑の枝や葉には、ルピン酸(lupin acid)、ルピン酸エステル、2−ヒドロキシウルソーン、ウルソーン、オレアノール酸(oleanolic acid)、フェルラ酸(ferulic acid)、鮮卑花エステル等の化合物が含まれている。
【特許文献1】特開2001−2579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、様々な植物成分から有用な薬理作用を有する化合物を探索した。その結果、前記柳茶に含まれる新規な化合物の単離及び構造決定に成功した。さらに、本発明者らは、単離された化合物の薬理作用について検討した結果、該化合物に肥満改善作用、脂質代謝改善作用、血糖降下作用及び育毛改善作用があることを見出した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的とするところは、有用な薬理作用を発揮可能な化合物を提供することにある。本発明の別の目的とするところは、肥満改善作用を発揮する肥満改善剤、脂質代謝改善作用を発揮する脂質代謝改善剤、血糖降下作用を発揮する血糖降下剤、及び育毛改善作用を発揮する育毛改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の化合物は、下式(1)で表されることを要旨とする。
【0011】
【化1】

請求項2に記載の肥満改善剤は、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の脂質代謝改善剤は、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを要旨とする。
請求項4に記載の血糖降下剤は、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを要旨とする。
【0013】
請求項5に記載の育毛改善剤は、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有用な薬理作用を発揮可能な化合物を提供することができる。また、本発明によれば、肥満改善作用を発揮する肥満改善剤、脂質代謝改善作用を発揮する脂質代謝改善剤、血糖降下作用を発揮する血糖降下剤、及び育毛改善作用を発揮する育毛改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の化合物、肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態の化合物(以下、化合物(I)と記載する)は、下式(1)で表されるものである。
【0016】
【化2】

この化合物(I)は、分子量:344、分子式:C1624、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)の命名法では、1−O−グルコシルゲラニオール−10,5−オリド(1−O−glucosylgeraniol−10,5−olide)となる。
【0017】
この化合物(I)は、窄葉鮮卑を原料とする生薬である柳茶に含まれている。
この化合物(I)は、例えば、柳茶を水、低級アルコール又は含水低級アルコールで抽出することにより抽出物を得た後、該抽出物をさらに精製することにより得られる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等が使用可能である。含水低級アルコールには、50%以上の低級アルコールが含まれていることが好ましく、80%以上の低級アルコールが含まれていることがより好ましい。
【0018】
前記抽出物を精製する場合、活性炭やシリカゲル等の公知のクロマトグラフィー用担体が好適に使用される。活性炭を用いて精製する場合、化合物(I)を活性炭に吸着させ、水で十分に洗浄した後、20%程度の含水低級アルコールで溶出させることにより得られる溶出画分を回収することが好ましい。一方、シリカゲルを用いて精製する場合、化合物(I)をシリカゲルに吸着させた後、溶離液の疎水性を適宜低下させながら溶出画分を得ることにより、化合物(I)を回収することが好ましい。なお、化合物(I)は、シリカゲル薄層クロマトグラフィーを用い、クロロホルム:メタノール:水(70:30:4)で展開し、アニスアルデヒド硫酸試薬を噴霧して加熱するとき、Rf=0.6付近に濃青色のスポットとして確認される。このため、このような検出方法を利用して化合物(I)を精製することが最も簡便である。
【0019】
本実施形態の化合物(I)は、肥満改善作用、脂質代謝改善作用、血糖降下作用及び育毛改善作用を発揮する。
本実施形態の肥満改善剤は、化合物(I)を有効成分として含有し、体重減少作用(体重の増加抑制作用)や体脂肪低下作用(体脂肪の増加抑制作用)等の肥満改善作用を発揮する。本実施形態の脂質代謝改善剤は、化合物(I)を有効成分として含有し、血清コレステロール濃度や血清トリグリセリド濃度の低下作用等の脂質代謝改善作用を発揮する。本実施形態の血糖降下剤は、化合物(I)を有効成分として含有し、血糖降下作用を発揮する。本実施形態の育毛改善作用は、化合物(I)を有効成分として含有し、育毛改善作用を発揮する。
【0020】
肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤はいずれも、化合物(I)を公知の方法で製剤化することにより提供され、主として医薬品や健康食品等の用途で利用される。肥満改善剤、脂質代謝改善剤及び血糖降下剤はいずれも経口で投与されることが好ましく、育毛改善剤は経皮で投与されることが好ましい。経口で投与する場合の剤形としては、特に限定されないが、錠剤、顆粒、散剤、細粒剤、カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤等が挙げられる。経皮で投与する場合の剤形としては、特に限定されないが、ローション等が挙げられる。
【0021】
錠剤、顆粒、散剤、細粒剤等の剤形では、化合物(I)を通常の医薬添加物に混合した後、常法に従って製剤化される。医薬添加剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、結晶セルロース、無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム等の崩壊剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、アルギン酸ナトリウム等の賦形剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロビルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤が挙げられる。カプセル剤の場合、上記の顆粒剤、細粒剤、散剤等を適宜カプセルに充填することにより製剤化される。軟カプセル剤の場合、植物油、油性エマルジョン、グリコール等の脂質賦形剤に化合物(I)を溶解又は懸濁させることにより製剤化される。シロップ剤の場合、白糖やカルボキシメチルセルロース等を含む水溶液に、化合物(I)を溶解又は懸濁させることにより製剤化される。
【0022】
本実施形態の化合物(I)を経口で投与する場合、投与される人の状態(患者の病態)、年齢、体質等によって一定しないが、通常、成人に対して1日当り0.1〜100mg/kgの投与量を、1日1回又は1日2〜3回に分けて投与することが好ましい。また、本実施形態の育毛改善剤を経皮で投与する場合、投与される人の状態(患者の病態)、年齢、体質等によって一定しないが、通常、成人に対して1日当り化合物(I)として0.1〜100mg/kgの投与量を、1日1回又は1日2〜3回に分けて患部に塗布することが好ましい。
【0023】
なお、化合物(I)の1日当りの投与量が0.1mg/kg未満の場合、十分な薬理作用を発揮させることができず、逆に該投与量が100mg/kgを超える場合、十分な薬理作用を発揮させることが可能である一方で不経済となる。ちなみに、化合物(I)は、1日当り2500mg/kgの投与量で投与した場合でも副作用を認めることができなかった。
【0024】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の化合物(I)は、上式(1)で表される1−O−グルコシルゲラニオール−10,5−オリドである。この化合物(I)は、天然物由来、より具体的には生薬由来の新規な化合物であるうえ、肥満改善作用、脂質代謝改善作用、血糖降下作用、育毛改善作用等の様々な薬理作用を有している。このため、この化合物(I)は、肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤、育毛改善剤等の有効成分として利用することができるため、極めて有用である。
【0025】
・ 本実施形態の肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤はいずれも、化合物(I)を有効成分としているため、肥満改善作用、脂質代謝改善作用、血糖降下作用及び育毛改善作用をそれぞれ発揮することが可能である。このため、これら肥満改善剤、脂質代謝改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤はいずれも、医薬品や健康食品等の用途で利用することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例は、マウスを使用して得られた結果であるが、これらの結果は、ヒトを含む哺乳類のいずれにも適用可能である。
【0027】
<化合物(I)の単離及び構造決定>
窄葉鮮卑の乾燥枝25.5kgを粉砕後、水で抽出することにより、柳茶の水抽出液を得た。この柳茶の水抽出液を乾燥させることにより、柳茶の水抽出物3.0kgを得た。続いて、この柳茶の水抽出物を3Lのエタノールで3回加熱環流抽出することにより、柳茶のエタノール抽出物1.39kgを得た。
【0028】
エタノール抽出物中の化合物(I)は、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(MerckシリカゲルF254.5554)を用い、クロロホルム:メタノール:水(70:30:4)で展開し、アニスアルデヒド硫酸試薬を噴霧して加熱するとき、Rf=0.6付近に濃青色のスポットとして確認される。以下の分離は該スポットを指標に行った。
【0029】
エタノール抽出物1kgを活性炭(Charcoal Activated Lot.PKM0399,和光)1kgを充填したカラム(120×800mm)に付し、溶離液として精製水を用い、溶出物がほぼ無くなるまでカラムを洗浄した。その結果、精製水により約160gの溶質が溶出された。次いで20%エタノールを用いて溶出させたところ、アニスアルデヒド硫酸試薬によるRf=0.6付近の濃青色スポットが確認された。該スポットが確認されなくなるまで溶出を続けたところ、20%エタノール画分として98gの溶質が得られた。
【0030】
次に、該20%エタノール画分をシリカゲルカラム(Merck社製シリカゲル60、カラムクロマトグラフィー用、60×450mm)に付し、溶離液として酢酸エチルを用い溶出させた。アニスアルデヒド硫酸試薬による化合物(I)の濃青色のスポットを指標として、カラムから酢酸エチルにより溶出し始めてから、検出出来なくなるまでの溶離液を全て分取したところ、該画分中に含まれる溶質物はほぼ化合物(I)であった。化合物(I)の構造決定を行ったところ、図1〜8に示される結果が得られ、該化合物(I)は新規な化合物であり、上式(1)で表される1−O−グルコシルゲラニオール−10,5−オリドであることが確認された。
【0031】
<肥満改善作用、脂質代謝改善作用及び血糖降下作用の検討>
6週齢のddY系雄性SPFマウス(日本エスエルシー社、体重約30g)を1週間予備飼育した後、対照群及び投与群の二群(各群5匹ずつ)に分けた。両群のマウスをそれぞれ高脂肪食(ラード40%、コーンスターチ10%、グラニュー糖9%、ミネラルミックス4%、ビタミンミックス1%、カゼイン29%、セルロース5%、ラクトース2%)にて6週間飼育した。投与群のマウスには、高脂肪食での飼育期間中、化合物(I)を精製水に溶解させた検体溶解液を、1日1回、250mg/kgの投与量で6週間連続飲水投与するとともに、1週間に1回の割合で体重測定を行った。対照群のマウスには、前記検体溶解液の代わりに精製水を6週間飲水投与した。
【0032】
各群のマウスの体重の平均値及び標準誤差を求めるとともに、両群間で有意差検定(t−検定)を行った。結果を図9のグラフに示す。
図9に示すように、高脂肪食を摂取した対照群のマウスでは、体重の急激な増加が認められた。通常の食餌(高炭水化物食)で飼育したマウスについての予備試験の結果を参照すると、これら対照群のマウスでは、明らかに肥満が誘発されていることが確認された。これに対し、化合物(I)を同時に投与した投与群のマウスでは、体重が低い値で推移しており、対照群と比べると統計学的な有意差が認められた。よって、化合物(I)は体重の増加抑制作用を有することが示された。ちなみに、対照群のマウスと投与群のマウスとを比較した場合、飲水投与期間中の摂餌量及び摂水量はほぼ同様であった。
【0033】
一方、上記6週間の連続飲水投与の終了後、各マウスから血清を採取して血液生化学数値を測定するとともに、肝臓及び脂肪をそれぞれ摘出してそれらの重量をそれぞれ測定した。各測定結果を用いて、各群について平均値及び標準誤差を求めるとともに、両群間で有意差検定(t−検定)を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

表1に示すように、肝臓、腎周囲脂肪及び後腹壁周囲脂肪の重量をそれぞれ比較すると、対照群よりも投与群の方が低い値を示す傾向が見られた。副睾丸周囲脂肪の重量については、対照群よりも投与群の方が有意に低い値を示した。よって、化合物(I)は、体脂肪、特に内臓脂肪の低下作用又は増加抑制作用を有することが示された。従って、図9及び表1の結果より、化合物(I)は肥満改善作用を有することが示された。
【0035】
さらに、同表より、血清総コレステロール濃度及び血清トリグリセリド濃度に関して、対照群よりも投与群の方が有意に低い値を示した。従って、化合物(I)は脂質代謝改善作用を有することが示された。また、同表より、血糖値に関して、対照群よりも投与群の方が有意に低い値を示した。従って、化合物(I)は血糖降下作用を有することが示された。ちなみに、化合物(I)を精製水に溶解し、6週齢のICR系雄性マウス(体重約30g)10匹に1日当り2500mg/kgの投与量で2週間経口投与したところ、化合物(I)を投与していない対照群と比べて副作用は全く認められなかった。
【0036】
<育毛改善作用の検討>
6週齢のC3H系雄性マウス(日本エスエルシー社、体重約30g)を1週間予備飼育した後、対照群及び投与群の二群(各群4匹ずつ)に分けた。両群のマウスの背部の毛を電機シェーバーにてそれぞれ除毛し、育毛効果を検討した。投与群の各マウスには、化合物(I)を45%含水エタノールに溶解させた検体溶解液を、1日1回、0.1mL(化合物(I)の重量に換算すると10mg)の塗布量で、除毛されたマウスの背部の皮膚に2cm×2cmの正方形状に広げるように28日間経皮投与し、1日に1回の割合で発毛状態の観察を行った。対照群のマウスには、前記検体溶解液の代わりに45%含水エタノールを28日間経皮投与した。
【0037】
発毛状態の観察では、発毛スコア及び毛長をそれぞれ測定した。
発毛スコアの測定は、検体溶解液又は45%含水エタノールを塗布したマウスの背部を肉眼で観察し、除毛直後の状態に対して、変化がない場合は0点、背部中央部が青色に変化した場合は1点、背部中央部が青黒から灰色に変化した場合は2点、背部中央部に発毛が観察された場合は3点、背部中央部の約50%の面積が背毛で覆われ、背部中央部が除毛前の色に復帰した場合は4点のスコアをつけた。そして、各群のマウスのスコアの平均値及び標準誤差を求めた。また、対照群と投与群との間の発毛スコアにバラツキがほとんど見られなかったため、両群間の有意差検定としてMann−WhitneyのU−検定を行った。これらの結果の一部を図10のグラフに示す。
【0038】
図10に示すように、各群では、いずれも経皮投与7日目からマウスの背部に変化が見られ、18日目には全てのマウスの背毛が除毛前の色に復帰した。但し、経皮投与7〜17日まではいずれも、投与群の発毛スコアが対照群よりも高い傾向にあり、経皮投与13,15及び16日目では、いずれも投与群の発毛スコアが対照群よりも有意に高かった。よって、投与群では、発毛の開始時期は対照群とほとんど同じであったが、発毛が認められた後の毛の成長、即ち育毛を促進させる傾向が見られた。
【0039】
一方、毛長の測定は、1週間毎に毛の一部を採取した後、特に長いもの及び特に短いものをそれぞれ除きつつ、10本の毛を無作為に選び、それらの毛長を顕微鏡にて測定することにより行った。その結果、データは示さないが、投与群と対照群との間で有意差は見られなかったが、発毛が開始された後の投与群の毛長が対照群の毛長よりも常に長い傾向にあった。従って、化合物(I)は、育毛改善作用を有することが示された。
【0040】
<処方例>
(処方例1)細粒剤
化合物(I)4.10重量部、乳糖0.14重量部、トウモロコシデンプン1.30重量部、無水ケイ酸0.37重量部及びステアリン酸マグネシウム0.09重量部を十分に混合した。この混合物を圧縮形成剤により板状物とした後、オシレーターで粉砕して顆粒状とした。最後に、顆粒を識別することにより、1g中に化合物(I)683mgを含む細粒剤を得た。
【0041】
(処方例2)錠剤
化合物(I)3.00重量部、乳糖1.00重量部、トウモロコシデンプン0.50重量部、合成ケイ酸アルミニウム0.20重量部、カルボキシメチルセルロースカルシウム0.25重量部及びステアリン酸マグネシウム0.05重量部を十分に混合した。この混合物を1錠当り300mgが含まれるように打錠して、1錠中に化合物(I)180mgを含む錠剤を得た。
【0042】
(処方例3)カプセル剤
化合物(I)3.34重量部、合成ケイ酸アルミニウム0.18重量部及びステアリン酸マグネシウム0.18重量部を十分に混合した。この混合物370mgをカプセルに充填して、1カプセル中に化合物(I)334mgを含むカプセル剤を得た。
【0043】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 育毛改善剤をシャンプーやリンス等の医薬部外品として利用してもよい。
・ 化合物(I)を、パン、ケーキ、スナック菓子等の嗜好品、牛乳やヨーグルト等の乳製品、清涼飲料等の飲料品に含有させてもよい。
【0044】
・ 化合物(I)は、ヒト以外にも、ウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬や猫等のペット等に投与してもよい。
・ 柳茶の抽出物を有効成分とする育毛改善剤を提供することが可能である。柳茶の抽出物としては、上記実施形態の水、低級アルコール又は含水低級アルコール抽出物、あるいは該抽出物を活性炭やシリカゲル等で精製したものが挙げられる。このような柳茶の抽出物には、化合物(I)が含まれているため、育毛改善作用を発揮することができる。ちなみに、柳茶の抽出物を有効成分とする育毛改善剤は、医薬品、医薬部外品又は健康食品の原料として利用可能である。
【0045】
また同様に、柳茶の抽出物を有効成分とする肥満改善剤及び血糖降下剤を提供することも可能である。また、柳茶の粉砕物を含む肥満改善剤、血糖降下剤及び育毛改善剤を提供することも可能である。
【0046】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 請求項1に記載の化合物を含有する健康食品。請求項1に記載の化合物を有効成分とする医薬品。請求項1に記載の化合物を含有する医薬部外品。請求項1に記載の化合物を含有する飲食品。
【0047】
・ 柳茶又はその抽出物を含有する肥満改善剤であって、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを特徴とする肥満改善剤。柳茶又はその抽出物を含有する血糖降下剤であって、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを特徴とする血糖降下剤。柳茶又はその抽出物を含有する育毛改善剤であって、請求項1に記載の化合物を有効成分とすることを特徴とする育毛改善剤。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)はH−NMRにて化合物(I)を構造決定したときの結果を示し、(b)は13C−NMRにて化合物(I)を構造決定したときの結果を示す。
【図2】化合物(I)のマススペクトルの結果を示す。
【図3】化合物(I)のH−NMRスペクトルを示す。
【図4】(a)〜(j)は化合物(I)のH−NMRスペクトルの一部を拡大したものをそれぞれ示す。
【図5】化合物(I)の13C−NMRスペクトルを示す。
【図6】化合物(I)の同核種2次元NMRスペクトルを示す。
【図7】(a)及び(b)は化合物(I)の同核種2次元NMRスペクトルをそれぞれ示す。
【図8】(a)及び(b)は化合物(I)の異核種2次元NMRスペクトルをそれぞれ示す。
【図9】実施例の肥満改善作用の検討結果を示すグラフ。
【図10】実施例の育毛改善作用の検討結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の化合物を有効成分とする肥満改善剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を有効成分とする脂質代謝改善剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を有効成分とする血糖降下剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を有効成分とする育毛改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−77051(P2007−77051A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265430(P2005−265430)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(591082650)イスクラ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】