説明

新規な海藻糖タンパク由来ペプチド及びプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤

【目的】海藻エキスから海藻糖タンパクを抽出し、更にこの海藻糖タンパクからプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有する新規なペプチドを提供する。
【構成】海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)の乾燥粉体を弱アルカリ水溶液で抽出した後、エタノール分画して海藻由来糖タンパクを得る。更に糖鎖とペプチド鎖に切断した後、逆相HPLCにて単離精製して得られる新規な海藻糖タンパク由来ペプチドはIle−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Valであり、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有し、かつ生体内での抗健忘症効果を有し、毒性も極めて低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な海藻糖タンパク由来ペプチド及びプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻糖タンパク由来ペプチドは、プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤及び抗健忘症剤としての利点を持つ。
【非特許文献1】Maruyama,S.等:Biosci.Biotech.Biochem.,60巻,358−359頁(1996年).
【非特許文献2】Kimura,K.等:Biosci.Biotech.Biochem.,61巻,1754−1756頁(1997年).
【非特許文献3】Amano,H.等:日水誌,58巻,291−299頁(1992年).
【非特許文献4】Yoshimoto,T.等:Biochem.Biophys.Acta,569巻,184−189頁(1979年).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
老人性痴呆症はアルツハイマー病と、脳血管痴呆症は脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血などが起因となる脳血管性痴呆との2種類に大別される。健忘症や痴呆症の患者の脳内では、プロリルエンドペプチダーゼという酵素の活性が亢進していると報告され、この酵素の働きを弱めれば健忘症や痴呆症の予防や治療が期待できる[非特許文献1][非特許文献2]。一方、海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)のタンパクは、窒素含量としては高く、量的には糖質に次ぐ成分であるにもかかわらず、ノリの色素タンパク質に関する研究[非特許文献3]があるだけで、海藻タンパク及び海藻糖タンパクに関する詳細は全く不明である。従って、海藻タンパク由来及び海藻糖タンパク由来のペプチドに関するプロリルエンドペプチダーゼ並びに経口投与による抗健忘症効果については未だ不明であり、未だ医薬品としての開発が進んでいるとの報告はない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意研究した結果、海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)の糖タンパクから得られた本発明に係る新規なペプチドが抗健忘症効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)の糖タンパク画分から薬理作用を有する物質を検索し、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドが強いプロリルエンドペプチダーゼ阻害作用を有することを見出した。そして、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドを医薬として実用化するための研究を鋭意行い、その結果、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドが抗健忘症効果を有し、天然物由来のプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤としての有用性を見出した。本発明は係る知見に基づくものである。本発明に係る海藻糖タンパク由来ペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであり、常温における性状は白色の粉末である。
【0005】
本発明に係る新規なペプチドは、化学的に合成する方法、又は海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)の糖タンパクから分離精製する方法をあげることができる。本発明に係る新規なペプチドを化学的に合成する場合には、液相法または固相法等の通常の合成方法によって行うことができるが、好ましくは、固相法によってポリマー性の固相支持体へ当該ペプチドのカルボキシル末端側からそのアミノ酸残基に対応したL体のアミノ酸を順次ペプチド結合によって結合して行くのが良い。そして、そのようにして得られた合成ペプチドは、トリフルオロメタンスルホン酸、フッ化水素などを用いてポロマー性の固相支持体から切断した後、アミノ酸側鎖の保護基を除去し、逆相系のカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する)などを用いた通常の方法で精製することができる。
【0006】
上記したように、本発明に係る新規なペプチドは、海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)から分離精製することができるが、その場合には、例えば以下のようにして行うことができる。採集してきた海藻(ワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、ノリ等)を、海水で良く洗浄後、天日乾燥後、高速粉砕器を用いて微粉砕化して海藻の乾燥粉体を得る。この乾燥粉体に水、塩水溶液又は弱アルカリ水溶液を加えて湿式磨砕しながら可溶性成分を抽出し、この抽出液から糖タンパク分離法により海藻由来糖タンパクを得る。本発明で用いる糖タンパク分離法としては、例えばエタノール、ポリエチレングリコールその他の有機溶剤や硫酸アンモニウムやトリクロロ酢酸を用いる糖タンパク沈殿法、イオン交換体吸着法、等電点沈殿法、膜分離法などがあり、これらを単独又は併用して行うことができる。更に海藻糖タンパクの抽出率を高めるために、予めアルギン酸リアーゼ等の酵素による分解や洗浄などにより粘質多糖類を除去しておくのもよい。このようにして分離精製された海藻糖タンパクはブロモシアン分解、プロテアーゼ消化の常法などにより糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相系のカラムを用いたHPLCでペプチドフラグメントに単離精製することにより、海藻糖タンパク由来ペプチドを得ることができる。
【0007】
本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドの製法において用いる海藻類としては、本発明の目的を達成できる限りいかなる海藻類を用いても良いが、好ましくは褐藻類としてワカメ、オキナワモズク、アラメ、コンブ、ヒジキ、ホンダワラ、アカモク、及び紅藻類としてノリを用いるのが良い。以上のようにして得られたこの新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、静脈内へ繰り返し投与を行った場合、抗体産生を惹起せず、アナフィラキシーショックを起こさせない。又、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドはL−アミノ酸のみの配列構造からなり、投与後、生体内のプロテアーゼにより徐々に分解される為、毒性は極めて低く、安全性は極めて高い(LD50>5000mg/kg;ラット経口投与)。この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、通常用いられる賦形剤等の添加物を用いて注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等に調整することができる。投与方法としては、通常は、ACEを有している哺乳類(例えば、ヒト、イヌ、ラット等)に注射すること、あるいは経口投与することがあげられる。投与量は、例えば、動物体重当たりこの新規な海藻糖タンパク由来ペプチド0.01〜100mgの量である。投与回数は、通常1日1〜4回程度であるが、投与経路によって、適宜、調整することができる。
【0008】
上記の各種製剤において用いられる賦形剤、結合剤、潤沢剤の種類は、とくに限定されず、通常の注射剤、散剤、顆粒剤、錠剤あるいはカプセル剤に用いられるものを使用することができる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤に用いる添加物としては、下記のものをあげることができる。賦形剤としては、結晶セルロース等の糖類、マンニトール等の糖アルコール類、デンプン類、無水リン酸カルシウム等;結合剤としてはでんぷん類、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ等;崩壊剤としてはカルボキシメチルセルロースおよびそのカリウム塩類;潤滑剤としてはステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類を挙げることができる。又、製剤の調整にあたっては必要に応じメントール、クエン酸およびその塩類、香料等の矯臭剤を用いることができる。注射用の無菌組成物は、常法により、本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドを、注射用水、生理食塩水およびキシリトールやマンニトールなどの糖アルコール注射液、プロピレングリコールやポリエチレングリコール等のグリコールに溶解または懸濁させて注射剤とすることができる。この際、緩衝液、防腐剤、酸化防止剤等を必要に応じて添加することができる。この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドを含有する製剤は凍結乾燥品又は乾燥粉末の形とし、用時、通常の溶解剤、例えば水または生理食塩液に溶解して用いることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、優れたプロリルエンドペプチダーゼ阻害作用を有し、抗健忘症効果、抗痴呆症効果を示す。従って、軽度から中程度のアルツハイマー型痴呆症、及び脳梗塞後遺症としての脳血管型痴呆症の痴呆症状の進行を遅らせることができることから、健忘症の予防剤又は症状改善剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態・実施例】
【0010】
本発明は、医薬品としての有用性を有する下記のアミノ酸の配列のペプチド構造を有するペプチド及びこのペプチドを有効成分とするプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤に関する。
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
(式中、アミノ酸残基を表す各記号は、アミノ酸化学において慣用の表示法によるものである)
以下に実施例として、製造例及び試験例を記載し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0011】
製造例1
ワカメ(褐藻綱、コンブ目、チガイソ科、ワカメ属)葉状体を乾燥させて調整した乾燥ワカメを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末40gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しワカメ糖タンパク含有溶液700mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してワカメ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してワカメ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてワカメ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、ワカメ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0012】
製造例2
オキナワモズク(褐藻綱、ナガマツモ目、ナガマツモ科、オキナワモズク属)を乾燥させて調製した乾燥オキナワモズクを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末35gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しオキナワモズク糖タンパク含有溶液630mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してオキナワモズク糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してオキナワモズク糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてオキナワモズク糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、オキナワモズク糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0013】
製造例3
アラメ(褐藻綱、コンブ目、コンブ科、アラメ属)を乾燥させて調製した乾燥アラメを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末32gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しアラメ糖タンパク含有溶液610mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してアラメ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してアラメ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてアラメ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学仕製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、アラメ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0014】
製造例4
コンブ(褐藻綱、コンブ目、コンブ科、コンブ属)を乾燥させて調製した乾燥コンブを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末42gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻上とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しコンブ糖タンパク含有溶液720mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してコンブ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してコンブ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてコンブ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、コンブ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0015】
製造例5
ヒジキ(褐藻綱、ヒバマタ目、ホンダワラ科、ヒジキ属)を乾燥させて調製した乾燥ヒジキを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末39gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しヒジキ糖タンパク含有溶液680mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してヒジキ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してヒジキ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてヒジキ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、ヒジキ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0016】
製造例6
ホンダワラ(褐藻綱、ヒバマタ目、ホンダワラ科、ホンダワラ属)を乾燥させて調製した乾燥ホンダワラを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末44gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しホンダワラ糖タンパク含有溶液740mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してホンダワラ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してホンダワラ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じてブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてホンダワラ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、ホンダワラ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0017】
製造例7
アカモク(褐藻綱、ヒバマタ目、ホンダワラ科、ホンダワラ属)を乾燥させて調製した乾燥アカモクを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末38gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しアカモク糖タンパク含有溶液710mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してアカモク糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してアカモク糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じたブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてアカモク糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、アカモク糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0018】
製造例8
ノリ(紅藻綱、ウシケノリ目、ウシケノリ科、アマノリ属)を乾燥させて調製した乾燥ノリを、高速粉砕器で30メッシュに微粉砕化した。この微粉砕粉末32gに0.1N水酸化ナトリウム溶液1L加えホモジナイズした。24時間、室温にて撹拌後、遠心分離(15000rpm、20分間)し、更に珪藻土とろ紙(東洋ろ紙No.2)を用いて吸引ろ過しノリ糖タンパク含有溶液620mLを得た。この溶液にエタノール6L添加し、低温室(−5℃)で18時間放置してノリ糖タンパク画分を沈殿させ、再度、遠心分離(15000rpm、20分間)してノリ糖タンパクの沈殿物を得た。この沈殿物を常法に準じたブロモシアン分解法又はプロテアーゼ消化法にてノリ糖タンパクの糖鎖とペプチド鎖を切断した後、逆相HPLCを行った。カラムとしては野村化学社製Develosil ODS−5(4.5mmID×25cmL)を使用し、移動相としては0.05%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと略記する)から25%アセトニトリル/0.05%TFAの濃度勾配法を行い、流速1.0mL/min検出波長220nmでHPLCを行い、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントを単離精製することにより、ノリ糖タンパク由来ペプチドを得ることができた。このようにして得られたプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロテインシークエンサー477A型を用いて決定された。その結果、本発明に係るペプチドは、次式、
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Val
で示されるL体のアミノ酸配列で表される新規なペプチドであることが確認された。常温における性状は白色の粉末である。
【0020】
尚、本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドをプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤として、例えば錠剤に製剤する場合には、常法に従って、例えば次のように処理すればよい:▲1▼海藻糖タンパク由来ペプチド12g、▲2▼乳糖86g、▲3▼コーンスターチ34g、▲4▼ステアリン酸マグネシウム1.7gを原料とし、先ず▲1▼、▲2▼及び16gのコーンスターチを混和し、7gのコーンスターチから作ったペーストとともに顆粒化し、この顆粒に11gのコーンスターチと▲4▼とを加え、得られた混合物を圧縮錠剤機で打錠し、錠剤1000個を製造する。
【0021】
製造例9
本例は、合成法による製造例である。
Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Valの合成法
アプライドバイオシステム社製のペプチド自動合成装置430A型を用いた固相法によって当該ペプチドを合成した。固相担体としては、スチレンジビニルベンゼン共重合体(ポリスチレン樹脂)をクロロメチル化した樹脂を使用した。まず、当該ペプチドのアミノ酸配列に従って、常法どおり、そのC末端側のバリンからクロロメチル樹脂に反応させペプチド結合樹脂を得た。この時のアミノ酸は、t−ブトキシカルボニル(以下、t−Bocと略記する)基で保護されたt−Bocアミノ酸を使用した。次に、このペプチド結合樹脂をエタンジチオールとチオアニソールからなる混合液に懸濁し、室温で10分間撹拌後、氷冷下でトリフルオロ酢酸を加え、更に10分間撹拌した。この混合液にトリフルオロメタンスルホン酸を滴下し、室温で30分間撹拌した後、無水エーテルを加えてその生成物を沈澱させて分離し、その沈澱物を無水エーテルで数回洗浄した後、減圧下で乾燥した。このようにして得られた未精製の合成ペプチドは蒸留水に溶解した後、逆相系のカラムC18(5μm)を用いたHPLCにより精製した。移動相として(A)0.1%TFA含有蒸留水、(B)0.1%TFA含有アセトニトリル溶液を使用し、(A)液が66分間で71%→44%の濃度勾配法により流速1.7mL/minでクロマトグラフィーを行った。紫外部波長2170mで検出し、最大の吸収を示した溶出画分を分取し、これを凍結乾燥することによって目的とする合成ペプチド(IVGGYVVAAAIKPGV)を得た。
【0022】
この合成ペプチドをアミノ酸分析により分析した結果、アミノ酸配列が前記で示したアミノ酸配列構造を有するペプチドであることが確認された。更に、この合成ペプチドのプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を測定したところ、IC50値;3.98μMであった。
このような合成によって得られた本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、以下に示す試験によって薬理効果が確認された。
【0023】
試験例1(プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性測定法)
酵素:プロリルエンドペプチダーゼ(生化学工業社製、酵素番号EC3.4.21.26)0.1U/mL、合成基質Z−Gly−L−Pro−pNA(生化学工業社製)2mMを用い、Yoshimoto等の方法[非特許文献4]に準じて測定した。すなわち、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)2000μL、被検液100μL、酵素溶液(40%ジオキサンを含む)100μLを順次加え、30℃で5分間プリインキュベーションした。更に、基質溶液100μLを加え、30℃で10分間インキュベーションした。その後、1N HCl 500μLを加えることにより反応を止め、410nmの吸光度を測定した。被検液での吸光度をEs、被検液の代わりに緩衝液を加えた時の値をEc、予め反応停止液を加えて反応させた時の値をEbとして次式から阻害率を求めた。
阻害率(%)=(Ec−Es)/(Ec−Eb)×100
プロリルエンドペプチダーゼ阻害剤の阻害活性IC50値は、プロリルエンドペプチダーゼの酵素活性を50%(阻害率)阻害するために必要な被検液の濃度(M)で示した。
【0024】
試験例2(ラットによる抗健忘症効果試験)
本発明による海藻糖タンパク由来の合成ペプチド(IVGGYVVAAAIKPGV)の抗健忘症効果試験は、ラットの受動的回避学習装置、すなわちフットショックストレス・システム(室町機械社製、MFS−01型)を用いて行った。実験動物は(株)九動より4週令雄性ラット(平均体重160g)3群各3匹を購入後、受動的回避学習試験を行った。インタクト・コントロールとして生理食塩水を経口投与したラット(生理食塩水群)、コントロールとして塩酸ドネペジル(エーザイ社製)を0.2mg/kg経口投与したラット(塩酸ドネペジル群)、及び海藻糖タンパク由来の合成ペプチドを200mg/kg経口投与したラット(合成ペプチド群:IVGGYVVAAAIKPGV群)を用いて実験を行った。これら3群のラット各々を台上に乗せ、床に降りた瞬間から電流を流し、電気ショックを避けるために台上に戻り、もはや床へ降りなくなるまでの受動的回避学習をさせる。次に、これら3群のラットに、痴呆症を引き起こすスコポラミンを20mg/kg投与すると、先の電気ショックを忘れ、床に降りるようになる。ラットが床へ降りるまでの滞在時間(秒)を測定することにより、学習前に投与した海藻糖タンパク由来ペプチド(IVGGYVVAAAIKPGV)がこの記憶喪失をどの程度予防するかをみた。
【表1】

以上の試験の結果、本発明に係る新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、in vitro(試験管内)においてプロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有し、in vivo(生体内)においても有意な抗健忘症効果を示すことが確認された。従って、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは痴呆症の治療又は予防薬として有用である。尚、この新規な海藻糖タンパク由来ペプチドは、構造的にそのアミノ酸配列を部分構造とするペプチドにおいて、構造中に採用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式;Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Valで示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規な海藻糖タンパク由来ペプチド。
【請求項2】
次式;Ile−Val−Gly−Gly−Tyr−Val−Val−Ala−Ala−Ala−Ile−Lys−Pro−Gly−Valで示されるL体のアミノ酸の配列によるペプチド構造を有する新規な海藻糖タンパク由来ペプチドを有効成分として含有することを特徴とするプロリルエンドペプチダーゼ阻害剤。

【公開番号】特開2007−126433(P2007−126433A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349912(P2005−349912)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(505447157)
【Fターム(参考)】