説明

新規な複合化成皮膜およびそれを用いた複層塗膜

【課題】電着塗装の下地処理として、従来の化成処理にくらべ、極少量で従来と同等以上の塗膜密着性と耐食性を有する新規な化成被膜を提供する。
【解決手段】希土類金属化合物の硝酸塩を含む水溶液に金属基材を浸漬し、陰極電解することにより、基材上に膜厚3〜200nmの、希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜を形成する。膜厚が非常に小さいため、処理材量が極少で、スラッジ発生もなく、緻密な連続化成被膜が形成されているため、従来の前処理と同等以上の優れた塗膜密着性と防錆性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素材、とりわけ未処理冷延鋼板に適合する塗装下地処理(前処理)皮膜および電着硬化塗膜からなる複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体は、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板等の金属素材を成形物とした後、塗装し、組み立て等を行うことにより製品化されている。このような金属成形物は、まず下地電着塗膜に対する密着性等を付与するために、従来、塗装工程において、リン酸亜鉛化成処理等の防錆処理が行われていた。
【0003】
また電着塗料は、耐食性、つきまわり性に優れており、均一な塗膜を形成させることができるため、自動車車体、部品用プライマーを中心に広く使用されている。但し、従来のカチオン電着塗料は、リン酸亜鉛などの前処理が完全になされている素材に対しては、十分な耐食性を発現することができるものの、前処理が不十分な素材に対しては、耐食性の確保が困難であった。
【0004】
特に、従来のリン酸亜鉛処理においては、十分な下地防錆効果を得るには、単位面積あたりの析出量を多く必要とするために不経済であり、更にスラッジが多く析出することから環境保全に悪影響を与えるなど実用上の課題があった。
【0005】
更に、電着塗料としては、前処理が不十分な素材に対しても、耐食性を確保することができる塗料を設計し、かつ適切な前処理方法との組み合わせによって、環境保全に配慮し、かつ経済的な最適下地防錆システムを構成する必要性がある。
【0006】
そこで特許文献1および2には、イットリウム(Y)イオン、ネオジム(Nd)イオン、サマリウム(Sm)イオンおよびプラセオジム(Pr)イオンからなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属イオン、硫酸イオン、および亜鉛イオンをそれぞれ0.05g/L以上含む水溶液中にて被処理金属を陰極として電解してなる金属素材の塗装下地処理に適用する有効な前処理方法が提供されている。
【0007】
また、特許文献3には、カチオン基を有する親水性フィルム形成性樹脂および硬化剤を、中和剤を含む水性媒体中に分散してなる陰極電着塗料組成物において、塗料固形分を基準にして、アルミニウム塩、カルシウム塩および亜鉛塩より選ばれた少なくとも1種のリンモリブデン酸塩を0.1〜20重量%、およびセリウム化合物を金属として0.01〜2.0重量%含むことを特徴とする陰極電着塗料組成物が提供されており、表面未処理冷延鋼板に対する耐食性を改良可能ならしめたものである。
【0008】
しかしながら、上記特許文献においては、それぞれに記載された前処理方法および電着塗料による塗装方法の組み合わせにおいても、達成レベルとしては、リン酸塩による従来化成処理と同等以上の下地密着性を発現させ、かつ電着塗装後における実用的な耐食性、とりわけ自動車用途の下地防錆性能を充分に発現する程には至らなかった。また、得られる処理皮膜の単位面積あたりの析出量を低減することによる経済性や環境保全性の向上についても更に改善の余地があった。
【特許文献1】特開平9‐249990号公報
【特許文献2】特開2000‐64090号公報
【特許文献3】特開平8‐53637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の現状に鑑み、従来の前処理によって得られる化成皮膜量と比べて、極めて少ない量により形成された皮膜ではあるが、従来と同等以上の塗膜密着性と耐食性とを有する新規な化成皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、金属基材上に形成された、希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜である。また、本発明の他の態様として、金属基材上に形成された希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜上に、非晶質の希土類金属化合物が存在する複合化成皮膜がある。本発明の更に他の態様として、金属基材上に形成された、膜厚3〜200nmの希土類金属化合物による結晶性連続皮膜からなる複合化成皮膜からなる複合化成皮膜がある。本発明の別の態様として金属基材上に形成された、皮膜量が1.5〜110mg/mの希土類金属化合物による結晶性連続皮膜からなる複合化成皮膜がある。
【0011】
本発明を好適に実施するためには、
上記結晶性連続皮膜が、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびプラセオジム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明の更に別の態様として、前記複合化成皮膜上に、膜厚5〜50μmの有機樹脂塗膜が塗装された複層塗膜がある。
【0013】
本発明を好適に実施するためには、
上記有機樹脂塗膜が、主成分としてカチオン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤による電着硬化塗膜であり;
上記有機樹脂塗膜が、さらに顔料を含む電着硬化塗膜である;
ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合化成皮膜は、前述のように、膜厚が非常に小さいため、従来の自動車下地防錆工程よりも処理剤量が極少で、スラッジ発生もなく画期的な前処理ができ、しかも金属基材上に形成された希土類金属化合物の連続した緻密な連続性化成皮膜が形成されているため、従来の化成皮膜と比較して非常に薄い化成皮膜にも拘わらず、従来の前処理/電着工程と同等以上の優れた塗膜密着性および防錆性を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の複合化成皮膜は、希土類金属化合物による緻密な結晶性連続皮膜であればよいが、結晶化した希土類金属化合物を金属基材上に連続で、均一かつ緻密に形成することは難しい。本発明では、結晶性の希土類金属化合物の層を予め形成し、結晶性であるが故に形成される結晶の隙間を非晶質の希土類金属化合物で埋める形で複合化している。従って、本発明の複合化成皮膜では、上記非結晶性の希土類金属化合物が上記結晶性皮膜の隙間に入り込んでいるため、連続で、均一かつ緻密な膜となり、防錆性が向上する。上記希土類金属化合物の結晶性皮膜は、希土類金属の硝酸塩を含む水溶液に未処理の金属基材を浸潰し、陰極電解によって形成することができる。本発明の複合化成皮膜は、上記結晶性皮膜の結晶の間にできた隙間を、上記非結晶性の希土類金属化合物によって埋める形で形成される。非結晶性の希土類金属化合物の皮膜は、種々な方法で形成できるが、後述の電着塗装による方法が好適である。勿論、このような方法以外に、希土類金属化合物から成る結晶性皮膜を形成した後、非結晶性の希土類金属化合物を塗布あるいは吹き付け等の方法を用いて形成することも可能である。しかしながら、そのような方法では、膜厚が非常に大きくなる傾向があるため、電着塗装が好ましい。
【0016】
本発明では、非結晶性の希土類金属化合物の皮膜は、特に陰極電着塗料中に希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩を導入することにより、陰極電着時に希土類金属イオンが先に析出する現象を利用することにより形成する。陰極電着を継続すると、陰極電着塗料の樹脂が析出してくる。本発明では、結晶性の希土類金属化合物の皮膜の隙間に陰極電着の初期に形成された結晶性の希土類金属化合物と、非結晶性の希土類金属化合物の混在した層が複合化成皮膜を形成するのである。その後に析出した樹脂層と一体化して複層塗膜になる。
【0017】
従って、本発明では、
(a)希土類金属の硝酸塩を含む水溶液に未処理の金属基材を浸潰し、陰極電解により希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜を形成する第1工程、および
(b)希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩を含む電着塗料を陰極電着塗装する第2工程
を含む方法により、複合化成皮膜を形成することが好ましい。上記のような方法を用いることによって、第2工程(b)では、電着塗料より希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩から生成する希土類金属イオンは、樹脂ビヒクル成分や顔料より析出性が高いために、優先的に第1工程(a)で形成された希土類金属化合物の結晶性連続皮膜上に析出して上記結晶性皮膜の隙間を埋めることによって、希土類金属化合物による複合化した緻密な連続性化成皮膜を形成する。従って、上記皮膜は、従来の化成皮膜と比較して非常に薄い化成皮膜にもかかわらず、従来の化成処理レベルと同等以上の優れた密着性および防錆性を有することができたものである。また、この第2工程(b)により複合化成皮膜が形成されるが、それと同時に有機樹脂塗膜がその化成皮膜上に形成される。
【0018】
本発明の複合化成皮膜について詳述する。本発明の複合化成皮膜(結晶性および非結晶性希土類金属化合物の混在した層)において、上記希土類金属化合物による結晶性連続皮膜は膜厚3〜200nm、好ましくは5〜100nmを有することを要件とする。上記結晶性連続皮膜の膜厚が、3nm未満であると前処理が不十分になり、塗膜密着性が低下する結果、防錆性が十分に得られなくなり、上記結晶性連続皮膜の膜厚が200nmを超えると、前処理後の基材表面粗度が大きくなる結果、電着塗膜のオーバコートによっても隠蔽が困難になり、複層塗膜の肌不良を招き塗膜外観が悪化する。
【0019】
また、上記希土類金属化合物による結晶性連続皮膜は、皮膜量1.5〜110mg/m、好ましくは6〜55mg/mを有することを要件とする。上記結晶性連続皮膜の皮膜量が、1.5mg/m未満では防錆性が十分に得られなくなり、110mg/mを超えると前処理後の基材表面粗度が大きくなる結果、電着塗膜のオーバーコートによっても隠蔽が困難になり、複層塗膜の肌不良を招き塗膜外観が悪化する。
【0020】
上記のように結晶性連続皮膜は希土類金属化合物から形成されることを要件とするが、上記希土類金属化合物としては、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびプラセオジム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む化合物がより好ましい。
【0021】
上記第1工程(a)では、通常、浴温15〜35℃に調整した上で、負荷電圧1〜20V、好ましくは1〜10Vで陰極電解を実施すれば、主に希土類金属化合物の硝酸塩を含む水溶液からの前駆皮膜を、上記金属基材上に極めて優先的に析出させることが可能であることを見出した。
【0022】
その際に、負荷電圧が1V未満では、上記複合金属水酸化物の析出が不充分となり、また負荷電圧が20Vを超えると、上記複合金属水酸化物の析出よりも、むしろ水の電気分解による水素ガスの発生が顕著化するので、前駆皮膜形成の目的に反するために好ましくない。
【0023】
通電時間は10〜300秒、好ましくは30〜180秒である。処理時間が10秒より短すぎる場合は皮膜生成しないか、生成しても厚みが不足している。処理時間が300秒より長すぎる場合は時として無光沢のヤケあるいはコゲと呼ばれる外観不良が発生する。また、過剰の処理時間は生産性を極端に低下させるので好ましくない。
【0024】
上記塗膜形成方法が適用される未処理の金属素材としては、例えば、冷延鋼板、高強度鋼、高張力鋼、鋳鉄、亜鉛および亜鉛メッキ鋼、アルミニウムおよびアルミニウム合金等が挙げられるが、特に防錆効果が顕著に見られる素材は、冷延鋼板である。
【0025】
希土類金属化合物の硝酸塩を含む水溶液に未処理の金属基材を浸潰し、陰極電解により希土類金属化合物からなる析出量を1〜100mg/m、好ましくは5〜50mg/mにすることによって、特異的に高い防錆皮膜を形成することができる。
【0026】
また上記第2工程(b)としては、主に陰極電着塗装を実施するために、上記電着塗料組成物の浴温を15〜35℃に維持しつつ、負荷電圧を50〜450V、好ましくは100〜400Vに設定することで、主に希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩からの析出物、塗料ビヒクルであるカチオン基を有する基体樹脂、硬化剤および顔料を優先的に析出させる。上記負荷電圧が50V未満では、上記電着塗料のビヒクル成分の析出性が不足し、また負荷電圧が450Vを超えると、上記ビヒクル成分が適正量を超えて析出する結果、実用に耐えない膜外観を呈する恐れがあるので好ましくない。
【0027】
通電時間は30〜300秒、好ましくは30〜180秒である。処理時間が30秒より短すぎる場合は、電着塗膜が生成しないか、生成しても厚みが不足しているために耐食性が劣る。また300秒を超える過剰の処理時間は生産性を極端に低下させるために好ましくない。
【0028】
本発明の別の態様である複層塗膜は、上記第2工程(b)により結果的に形成されるものであるが、有機樹脂塗膜を上記複合化成皮膜の上に膜厚5〜50μm、好ましくは10〜30μmでもって塗装されたものであることを要件としたものである。上記有機樹脂塗膜の膜厚が、5μm未満であると塗膜遮断性が低下する結果、防錆性が不十分になり、50μmを超えると、経済的にも好ましくない。
【0029】
上記第1工程(a)によって、前駆皮膜が得られる機構は以下のように考えられる。上記電解条件によって、陰極の金属表面では溶存酸素や水素イオン、水等の浴中化学種が還元を受け、水酸化物イオン(OH)が生成する。この被処理金属表面で生成した水酸化物イオンが、まず上記金属表面近傍の希土類金属イオンと反応することで、希土類金属の水酸化物の沈殿が生成し、皮膜として金属表面に析出する。
【0030】
但し、希土類金属の硝酸塩を含む水溶液に未処理の金属基材を浸潰し、希土類金属の硝酸塩の陰極電解により生成してなる皮膜は結晶性を有している。
【0031】
次の第2工程(b)によって、電着塗料より希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩から生成する希土類金属イオンは、樹脂ビヒクル成分や顔料より析出性が高いために優先的に第1工程(a)で形成された上記前駆皮膜上に析出する結果、図3(上段)に示されるような上記第1工程(a)で得られた上記結晶性皮膜の隙間を埋めた上で、図3(下段)に示されるような複合化した緻密な連続性化成皮膜、即ち、希土類金属化合物による結晶性連続皮膜からなる複合化成皮膜が形成される。従って、上記皮膜は、非常に薄い化成皮膜にもかかわらず、目標とする従来化成処理レベルと同等以上の従来にはなかった優れた密着性および電着塗装後の防錆性を示すようになると推定される。
【0032】
前述のような本発明の新規な複合化成皮膜の形成方法の1つの態様においては、希土類金属化合物に由来する処理皮膜として、かかる第1工程と第2工程の2段階にて膜厚の非常に小さい緻密な複合化成皮膜が形成されていることにより、従来の自動車下地防錆工程よりも処理剤量が極少で、スラッジ発生もなく画期的な前処理ができる。しかも電着塗料が化成処理機能の一部を有しているので、両工程の連続プロセス化により、従来の前処理/電着工程と同等以上の塗膜密着性および防錆性に優れた複合化成皮膜と電着塗膜による複層塗膜を得ることが可能である。
【0033】
前述のような本発明の新規な複合化成皮膜の形成方法の1つの態様において、(a)希土類金属の硝酸塩を含む水溶液に未処理の金属基材を浸漬し、陰極電解により希土類金属化合物からなる前駆皮膜を形成する第1工程において用いる上記水溶液を、「第1工程用水溶液」という。以下、そのような第1工程用水溶液について詳述する。上記第1工程用水溶液は、希土類金属に換算して、0.05〜5重量%、好ましくは、0.1〜3重量%の希土類金属の硝酸塩を含んでいる。これら硝酸塩は水溶性もしくは水分散性であり、所定量を容易に純水に溶解もしくは分散して本発明の実施に供給することができる。0.05重量%未満では、充分な下地密着性に基づく耐食性が得られない場合があり、5重量%を超えると、電着塗料組成物成分の分散安定性や複合化成皮膜の平滑性が低下する結果、電着後の肌不良を招く場合がある。
【0034】
また、希土類金属の硝酸塩としては、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびプラセオジム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む硝酸塩である。このうち特に好ましい希土類金属の硝酸塩としては、硝酸セリウム(Ce)および硝酸ネオジム(Nd)である。
【0035】
また第1工程用水溶液のpHは、4〜7、好ましくは4.5〜6.5の範囲内に調整する。上記pHが4未満であると、電解析出効率や皮膜外観が低下する。また上記pHが7を超えると、組成物中の希土類金属イオンの安定性が低下する傾向がある。pHの調整に用いる薬品は、pHが高い場合は硝酸などの無機酸、あるいは蟻酸、酢酸などの有機酸を、pHが低い場合はアミンなどの有機塩基、あるいはアンモニア、水酸化ナトリウムなどの無機塩基を添加すればよく、添加薬品を制限するものではない。
【0036】
上記第1工程用水溶液の適正な液伝導度は1〜100mS/cmである。伝導度が1mS/cm未満では、前処理が不充分になり、また複合化成皮膜や電着塗膜のつきまわり性が不足する恐れがある。また100mS/cmを超えると、複合化成皮膜の外観不良を招く恐れがあるので好ましくない。
【0037】
次に、上記複合化成皮膜を形成する方法であって2段階工程の第2工程で使用する電着塗料について詳述する。上記電着塗料は、希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩を含むものであって、更に配合する主成分として、カチオン基を有する基体樹脂、硬化剤および顔料がある。まず希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩としては、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびプラセオジム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含み、かつ酢酸、蟻酸、乳酸、スルファミン酸あるいは次亜リン酸より選択される少なくとも1種を含む有機酸あるいは無機酸塩化合物である。その中でも特に好ましいものは、酢酸、蟻酸あるいはスルファミン酸による塩化合物である。
【0038】
好ましい希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩としては、酢酸セリウム、酢酸イットリウム、酢酸ネオジム、酢酸サマリウム、酢酸プラセオジム、蟻酸セリウム、蟻酸イットリウム、蟻酸ネオジム、蟻酸サマリウム、蟻酸プラセオジム、乳酸セリウム、乳酸ネオジム、スルファミン酸セリウム、スルファミン酸ネオジム、スルファミン酸イットリウム、スルファミン酸サマリウム、スルファミン酸プラセオジム、次亜リン酸セリウム、次亜リン酸ネオジム、次亜リン酸イットリウム、次亜リン酸サマリウム、次亜リン酸プラセオジムなどを挙げることができる。これらの内、特に好ましい希土類金属としては、セリウム(Ce)およびネオジム(Nd)である。
【0039】
上記の水溶性の希土類金属塩を含む電着塗料は、希土類金属に換算して、塗料固形分に対して0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%の希土類金属化合物を含んでいる。希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩の塗料固形分中における含有量が0.005重量%未満では、充分な下地密着性に基づく耐食性が得られない場合があり、2重量%を超えると、電着塗料組成物成分の分散安定性や電着塗膜の平滑性および耐水性が低下する場合がある。
【0040】
第2工程における電着塗料からの希土類金属化合物の析出量は、0.5〜10mg/m、好ましくは1〜5mg/mの範囲が望ましい。0.5mg/m未満では、先に陰極電解による第1工程において得られた結晶性の前駆皮膜に対して、充分に上記結晶性皮膜の隙間を埋めることができず、複合化した皮膜の緻密性、連続性に欠けると推定される結果、密着性および防錆性が不足する。また、上記析出量が10mg/mを超えると、電着塗料組成物成分の分散安定性や電着塗膜の平滑性および耐水性が低下する場合があるので好ましくない。
【0041】
上記の好ましい析出量の制御は、上記の好ましい電解条件によって可能ならしめることができる。
【0042】
上記希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩の電着塗料用組成物への導入方法は、特に制限されるものではなく、通常の顔料分散法と同様にして行うことができ、例えば、分散用樹脂中に予め希土類金属化合物を分散させて分散ペーストを作製し、それを配合することができる。あるいは、塗料用樹脂エマルション作製後にそのまま分散あるいは溶解して配合することができる。なお、顔料分散用樹脂としては、カチオン電着塗料用の一般的なもの(エポキシ系スルホニウム塩型樹脂、エポキシ系4級アンモニウム塩型樹脂、エポキシ系3級アミン型樹脂、アクリル系4級アンモニウム塩型樹脂など)が用いられる。
【0043】
本発明の電着塗料組成物に用いられるカチオン基を有する基体樹脂は、樹脂骨格中のオキシラン環に対して有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂である。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5‐306327号公報に記載されたオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。このエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0044】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
【0045】
また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のエポキシ環に対して2‐エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0046】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N‐メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N‐ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンの様なケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0047】
上記カチオン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は1,500〜5,000、好ましくは1,600〜3,000の範囲である。数平均分子量が1,500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。反対に5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。更に高粘度であるがゆえに加熱、硬化時のフロー性が悪く塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
【0048】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗腹の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0049】
また、上記カチオン変性エポキシ樹脂は、アミン価が40〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が40未満では上記酸中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150を超えると硬化後塗膜中に過剰のアミノ基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0050】
本発明における電着塗料用途の硬化剤としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでもよいが、その中でも電着塗料の硬化剤として好適なブロックポリイソシアネートが推奨される。上記ブロックポリイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックポリイソシアネートを得ることができる。
【0051】
上記封止剤の例としては、n‐ブタノール、n‐ヘキシルアルコール、2‐エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2‐エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール等のジオール類とシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール;パラ‐t‐ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、およびε‐カプロラクタム、γ‐ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0052】
上記ブロックポリイソシアネートは、封止剤の単独あるいは複数種の使用によってあらかじめブロック化しておくことが望まれる。ブロック化率については、上記の各樹脂成分と変性反応する目的がなければ、塗料の貯蔵安定性確保のためにも100%にしておくことが好ましい。
【0053】
上記ブロックポリイソシアネートの上記カチオン基を有する基体樹脂に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や中塗り塗装適合性を考慮すると固形分量として、15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、中塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックポリイソシアネートは、塗膜物性、硬化度および硬化温度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
カチオン基を有する上記基体樹脂は、上記樹脂中のアミノ基を適当量の塩酸、硝酸、次亜リン酸等の無機酸、または蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルションとして水中に乳化分散させることによって調製される。また乳化分散する際には、通常、硬化剤をコアとし、基体樹脂をシェル(殼)として含むエマルション粒子を形成させる。
【0055】
本発明の第2工程で使用する電着塗料組成物においては、更に顔料を配合してもよい。顔料としては、通常、塗料に使用されるものならば特に制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、珪酸アルミ(クレー)、タルク、炭酸カルシウム、また無機コロイド(シリカゾル、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルなど)等の体質顔料、リン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、(ポリ)リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)やモリブデン酸系顔料(リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛など)等の重金属フリー型防錆顔料が挙げられる。
【0056】
これらの顔料の中でも、特に重要なものは、二酸化チタン、カーボンブラック、珪酸アルミ(クレー)、シリカ、リンモリブデン酸アルミ、ポリリン酸亜鉛である。とくに二酸化チタン、カーボンブラックは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。
【0057】
なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数種を使用するのが一般的である。
【0058】
上記電着塗料組成物中に含有される上記顔料(P)および樹脂固形分(V)の合計重量(P+V)に対する上記顔料の重量比{P/(P+V)}(以後、PWCと称する)が、5〜30重量%の範囲にあることが好ましい。上記重量比が5重量%未満では、顔料不足により塗膜に対する水、酸素などの腐食要因の遮断性が過度に低下し、実用レベルでの耐候性や耐食性を発現できないことがある。但し、そのような不都合を生じない場合は、顔料濃度を極力ゼロとし、クリア、もしくはクリアに近い電着塗料組成物をなして本発明に給してもかまわない。また、上記重量比が30重量%を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがあるので注意を要する。但し、上記樹脂固形分(V)とは、水性塗料の主樹脂である上記基体樹脂、および硬化剤の他、顔料分散樹脂をも含めた電着塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0059】
上記電着塗料組成物は、全固形分濃度が5〜40重量%、好ましくは10〜25重量%の範囲となるように調整する。全固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を用いる。
【0060】
更に塗料組成物中には少量の添加剤を導入してもよい。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化触媒(ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエートあるいはジオクチル錫ジベンゾエートなどの有機スズ化合物)、硬化促進剤(酢酸亜鉛)などを挙げることができる。
【0061】
上記の電着塗装後には、120〜200℃、好ましくは140〜180℃にて硬化反応を行うことによって、高い架橋度の電着硬化塗膜を得ることができる。但し、200℃を超えると、塗膜が過度に堅く、かつ脆くなり、一方120℃未満では硬化が充分でなく、耐溶剤性や膜強度等の膜物性が低くなるので好ましくない。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
製造例1(第1工程用希土類金属塩水溶液の製造例)
撹拌機、冷却管および温度計を備え付けた反応容器に所定量の希土類金属の炭酸塩または水酸化物をイオン交換水に分散させたのち、加熱、撹拌しながら金属塩の対イオンとなる硝酸や酢酸などの酸を添加して溶解させ、金属イオン濃度=5%の希土類金属塩水溶液を調製した。得られた上記溶液をアンモニア水溶液ないしは水酸化ナトリウム水溶液にて溶液pHを4〜7に調整した後、イオン交換水にて所定濃度に希釈することにより処理液とした。なお、試験に適用した希土類処理溶液、塩化合物の酸種および処理液の伝導度については以下の表2〜3に示した。
【0064】
製造例2(カチオン基を有する基体樹脂の製造)
撹拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER‐331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で撹拌し均一に溶解させた後、2,4‐/2,6‐トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N‐ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が500になるまで120℃で3時間反応を続けた。更に、メチルイソブチルケトン644部、ビスフェノールA341部、2‐エチルヘキサン酸413部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1070になるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)241部とN‐メチルエタノールアミン192部の混合物を添加し110℃で1時間反応させることによりカチオン変性エポキシ樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は2100、アミン価=74、水酸基価は160であった。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0065】
製造例3(電着塗料用硬化剤の製造)
撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n‐ブタノール43部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート硬化剤溶液(固形分70%)を得た。
【0066】
製造例4(顔料分散樹脂の製造)
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn‐ブチルエーテル1584.1を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
【0067】
上記反応物の製造と平行して、別の反応容器に2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間撹拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、更にエチレングリコールモノn‐ブチルエーテル47.0部を混合、30分撹拌し、4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.46部を先の反応物に加え酸価1になるまで混合物を85から95℃に保持し、顔料分散樹脂(平均分子量2200)の樹脂溶液(樹脂固形分56%)を得た。
【0068】
製造例5(電着塗料用顔料分散ペーストの製造)
サンドミルを用いて、製造例4で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表1に示す配合を有する顔料ペースト(固形分59%)を40℃において、粒度5μm以下となるまで分散し調製した。
【0069】
【表1】

【0070】
製造例6(第2工程で使用する電着塗料組成物の製造)
製造例2で得た基体樹脂350g(固形分)と、製造例3で得た硬化剤150g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次に氷酢酸を中和率40.5%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去した。このようにして得られたエマルション2000gに、製造例4で得られた種々の顔料ペースト460.0g、イオン交換水2252g、樹脂固形分に対して1重量%のジブチル錫オキサイドを加えて混合し、固形分が20.0重量%の電着塗料を調製した。
【0071】
希土類金属の有機酸あるいは無機酸塩は、直接に塗料へ加え、それ以外の場合は顔料ペースト中の二酸化チタンの一部を置き換えて、以下の表2〜3に示す金属としての添加量(重量%)に調節することによって、各電着塗料組成物を建浴した。
【0072】
(実施例1〜7)
製造例1記載の方法にて調製した表2〜3に示す各第1工程用水溶液に、陰極として表面未処理冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)をサーフクリーナーSC−53(日本ペイント社製)で脱脂、水洗したのち、同表に示す条件により電解処理した。処理皮膜の析出量については、電解処理後、水洗したのち乾燥させた処理板を蛍光X線測定により定量することにより求めた。その後、電解処理済の基材を純水にて十分に水洗し、次いで表2〜3に示す各電着塗料を同表の塗装条件で、電着工程における電着塗膜の乾燥膜厚が20μになるように塗装した後、170℃×20分で硬化し、塗膜を得た。
【0073】
(比較例1)
表面未処理冷延鋼板(JIS G3141、SPCC‐SD)をサーフダインSD‐5000(日本ペイント社製)で処理したリン酸亜鉛処理板を用いて、表3に示す電着塗料および塗装条件を用いて電着塗装した以外は、実施例1〜7と同様にして乾燥膜厚が20μになるように電着塗装して電着塗膜を得た。
【0074】
得られた塗膜について、塗膜試験項目として塩水噴霧試験(SST:Salt Spray Test)による防錆性、電解はくり試験による密着性および塗膜外観を評価し、その結果を表2〜3に示した。試験方法は以下の通りとした。
【0075】
(1)防錆性評価:塩水噴霧試験方法
硬化後の電着塗装板に対してクロスカットを行い、塩水噴霧試験を1000時間行った後、カット部からの片側さび膨れ幅にて評価した。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
◎:はくり幅3mm以下
○:はくり幅3mm〜4mm
△:はくり幅4mm〜6mm
×:はくり幅6mm以上
(試験方法)
【0076】
(2)密着性評価:電解はくり試験
硬化後の電着塗装板に対してカットを行い、0.1mAの電流値にて72時間電解後、テープはくりを行い、その両側はくり幅にて密着性を評価した。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
◎:はくり幅3mm以下
○:はくり幅3mm〜6mm
△:はくり幅6mm〜10mm
×:はくり幅10mm以上
【0077】
(3)塗膜外観
目視にて異常の有無を判断した。評価基準は以下の通りとした。
評価基準
○:問題なし
×:肌荒れ等外観不良
【0078】
(試験結果)
【表2】

【0079】
【表3】

:リン酸亜鉛処理により得られた皮膜の膜厚と皮膜重量
【0080】
表2〜3の結果から明らかなように、実施例1〜7の本発明の複合化成皮膜およびその皮膜を含む複層塗膜は、塗膜試験項目としての電解はくり試験による密着性、塩水噴霧試験(SST)による防錆性および塗膜外観については、その膜厚および皮膜重量が比較例1のリン酸亜鉛処理板と比べて約1/100であるにもかかわらず、比較例1とほぼ同等で、すべて優れていることがわかった。
【0081】
代表例として希土類金属がCeである本発明の複層塗膜の1つの態様について、透過電子顕微鏡(TEM)による膜断面観察を行い、構造、膜厚の解析およびエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析により分布状態を解析した。その分析結果について図1〜図4に示した。図4に示すように、本発明の第1工程/第2工程後の複層塗膜の基材表面部分のTEMによる高倍率写真(拡大写真)から、析出膜の断面観察より連続性および結晶性が確認された。更に、図3に示すように、本発明の第1工程後の基材表面部分のTEM写真およびEDX観察結果(上段)および前処理/電着塗装後の複層塗膜のTEMおよびEDX観察結果(下段)から、本発明の複合化成皮膜における元素の緻密性向上が確認された。また、Ce以外のY、Nd、Pr金属塩においても同様の結果が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の複合化成皮膜は、金属素材、とりわけ未処理冷延鋼板に適合する塗装下地処理(前処理)皮膜および電着塗膜からなる複層塗膜として有用である。本発明の複合化成皮膜は、優れた下地密着性、耐食性(防錆性)および塗膜外観を有し、自動車用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1工程後の前駆皮膜のTEM写真(皮膜部分を矢印で示す。皮膜厚:8nm)である。
【図2】本発明の第1工程/第2工程後の複合化成皮膜部分のTEM写真(皮膜部分を矢印で示す。皮膜厚:12nm)である。
【図3】本発明の第1工程後の基材表面部分のTEM写真およびEDX観察結果(上段)および第1工程/第2工程後の複層塗膜のTEMおよびEDX観察結果(下段)
【図4】本発明の第1工程/第2工程後の複層塗膜の基材表面部分のTEMによる高倍率写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に形成された、希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜。
【請求項2】
金属基材上に形成された希土類金属化合物からなる結晶性連続皮膜上に、非晶質の希土類金属化合物が存在する複合化成皮膜。
【請求項3】
金属基材上に形成された、膜厚3〜200nmの希土類金属化合物による結晶性連続皮膜からなる複合化成皮膜。
【請求項4】
金属基材上に形成された、皮膜量が1.5〜110mg/mの希土類金属化合物による結晶性連続皮膜からなる複合化成皮膜。
【請求項5】
前記結晶性連続皮膜が、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)およびプラセオジム(Pr)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類金属を含む化合物である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の複合化成皮膜。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載された、前記複合化成皮膜上に、膜厚5〜50μmの有機樹脂塗膜が塗装された複層塗膜。
【請求項7】
前記有機樹脂塗膜が、主成分としてカチオン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤による電着硬化塗膜である請求項6に記載の複層塗膜。
【請求項8】
前記有機樹脂塗膜が、さらに顔料を含む電着硬化塗膜である請求項7記載の複層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−238998(P2007−238998A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61381(P2006−61381)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】