説明

新規アントラキノン誘導体

本発明は、2つの新規物質、具体的には(1R,2S,3S,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-y-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン(3-O-アセチル-アルテルソラノールM)(I)および8-(4,5,6-トリヒドロキシ-7-メチル-2-メトキシ-9,10-ジオキソ-9H,10H-アントラセン-1-イル)-(1S,2S,3R,4S)-1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H,10H-アントラセン-9,10-ジオン(アトロプ異性体のアルテルポリオールIおよびJ)(II):


抗感染薬または抗癌剤としてのこれらの使用、ならびにこれらの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アントラキノン誘導体、その製造方法、ならびに特に多剤耐性病原体に対する抗感染薬および抗癌剤としてのその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年代後半および1970年代初めには、抗菌薬の使用が非常に成功していたため、感染症は、もはや何ら危険性を構成するものではないと思われていた。しかしながら、これは誤認であることが判明し、微生物がかつてないほど大きな脅威となっている40年後はなおさらである。このため、新規抗菌剤が緊急に必要である。今日では、感染症は、米国において3番目に高頻度の死因となっており、世界的なレベルにおいては2番目に高頻度の死因となっている。無効な抗菌薬がこれらの場合の大部分の原因であり、こうした薬剤に対するある種の細菌および真菌の耐性により、我々の社会は深刻な問題に直面している。米国からの統計データによれば、病院内で接触した感染症(いわゆる院内感染症)の過半数は、少数の細菌種、すなわちエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumanii)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびエンテロバクター属(Enterobacter)菌種によって引き起こされ、これらは、その先頭文字に基づき、「ESKAPE」病原体と総称されている(Boucherら,「IDSA Report on Development Pipeline」, CID 2009:48, Infectious Disease Society of America, 2009年1月1日)。同時にこれは、これらの耐性病原体が、特に抗生物質に対する耐性として、分子レベルで、抗菌薬の効果を免れているという事実に言及している。これは、微生物が獲得した、抗菌物質の増殖阻害作用または殺菌作用に抵抗する能力にほかならない。このことは、該物質が、臨床的に無効となっていることを意味している。「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」(MRSAと略記されるが、この略語は、より一般的な「多耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」の意味でも使用される)は、β-ラクタムの使用は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の治療に無力であるが、グリコペプチドは、大抵は依然として効果を有することを意味している。したがって、グラム陽性細菌に対する薬剤がグラム陰性細菌に対して有効であるとは限らず、逆も同じであるのと同様、新規抗感染薬が、それに対して感受性の種および株に対して有効であったとしても、これが、新規抗感染薬が多耐性細菌に対しても有効であることを意味するわけではないので、新規抗感染薬が多耐性株に対して有する作用を試験することが絶対的に必要である(Boucherら, 上掲等を参照)。
【0003】
細菌および真菌に対する戦略とは別に、我々は現在、呼吸器系ウイルスに対する有効な戦略も欠いている。大抵の場合、ウイルス自体と戦うことなく、症状が治癒されるだけである。将来の解決策は、主として活性薬剤の組み合わせに存し得る。
【0004】
過去、微生物の増殖と戦う多数の物質が内部寄生真菌において見出された。多くの場合、これらの物質は非常に良好な抗菌活性、抗真菌活性および抗ウイルス活性を有し、多数の用途に使用することができる(G. A. Strobel, Crit. Rev. Biotechnol. 22, 315〜333(2002))。この分野の研究が主に学究的なレベルで行われ、新規活性薬剤の開発を直接的に目的としていなかったという事実に起因して、今日適切な薬物はほとんど市販されていない。特に、過去において、耐性微生物に対するスクリーニングが軽視されていた結果、薬剤耐性微生物に対抗する物質はごくわずかしか調べられていない。呼吸器系ウイルスの場合には状況はさらに悪く、これまで、呼吸器系ウイルスに対して効果的である物質はほとんどスクリーニングされていない。
【0005】
既に1969年に、A. Stoessl, Can. J. Chem. 47, 767(1969)は、ジャガイモに夏疫病と呼ばれる疾患を引き起こすカビ菌であるアルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani)から新規代謝性色素を単離したことを記載している。この色素は、アルテルソラノール(altersolanol)Aと命名され、その構造は、以下のようであると同定された:
【0006】
【化1】

【0007】
したがって、このアントラキノンの化学名は、7-メトキシ-2-メチル-(1R,2S,3R,4S)-1,2,3,4-テトラヒドロ-1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシ-アントラセン-9,10-ジオンである。
【0008】
その後、この色素ならびにそのいくつかの異性体および誘導体が、さらなるアルテルナリア属の種(アルテルナリア・ポリ(Alternaria porri)など)およびいくつかの他の真菌属において検出された(例えば、R. Suemitsuら, Agric. Biol. Chem. 45(10), 2363〜2364 (1981)を参照されたい)。大部分の異性体および誘導体は、以下の一般式(1)および(2):
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R1〜R4は、それぞれHまたはOHを表し得、式(2)のOHの場合、1個のキラル炭素原子を生じさせ、この炭素原子は、R-立体配置またはS-立体配置となり得る)のうち一方に対応している。
【0011】
その後、二量体、すなわちビスアントラキノンが、アルテルナリア(Alternariae)属の別の代表であるアルテルナリア・ポリ(Alternaria porri)において最初に代謝産物として発見された。アルテルナリア・ポリはとりわけ、タマネギにおいて黒斑病を引き起こす。これが、これらの二量体がアルテルポリオール(alterporriol)と命名された理由である。これらの二量体は、例えば以下の式(3):
【0012】
【化3】

【0013】
(ここで、芳香環の多様な置換および水和パターンのあり得る数は、「単量体」アルテルソラノールと同様である)
に対応する。アントラキノン母核間の化学結合の軸の周りの回転の自由が制限されるので、多数のアルテルポリオール誘導体が2種のアトロプ異性体の形態で存在する。
【0014】
アルテルソラノールおよびアルテルポリオールと称されるいくつかの化合物について、特定の微生物に対するその有効性に関する報告があるが、他の化合物は、抗感染効果を何ら有していないと記載されている。例えば、Alyら, Phytochemistry 69, 1716〜1725(2009)では、アンペロマイセス(Ampelomyces)属からの内部寄生真菌の生理活性代謝産物およびその抗感染作用を試験している。とりわけ、Alyらは、アルテルソラノールJ、アルテルポリオールDおよびE(アトロプ異性体)、ならびにアルテルソラノールと密接に関連している化合物アンペラノール(ampelanol)が、細菌および真菌に対して何ら活性を示さないことを見出したのに対して、アルテルソラノールAは、試験した物質の中で最も効果があることが判明した。さらに、例えばOkamuraら, Phytochemistry 42(1), 77〜80(1996)には、グラム陽性細菌およびグラム陰性の種である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対するテトラヒドロアルテルソラノールBの効果は何ら開示されていない。Yagiら, Phytochemistry 34(4), 1005〜1009(1993)では、アルテルソラノールA、B、CおよびEの抗菌活性が報告されているが、アルテルソラノールD、EおよびFは、同じ試験において全く効力がないことが判明した。一方、米国出願第2007/258913号は、口腔内のバイオフィルムの形成を防止するのに適した化合物としてアトロプ異性体のアルテルソラノールDおよびEを開示しているが、非常に一般的な方法で開示しているだけで、その有効性に関する具体的なデータを何ら収載していない。
【0015】
したがって、特定のアルテルソラノールまたはアルテルポリオールの異性体または誘導体が、抗感染効果を示すか否かを予測することは不可能であり、まして微生物のどの属または種に対して抗感染作用を示すかを予測することは不可能である。
【0016】
数年来、抗癌剤の分野において、既存の治療に対する耐性の絶え間ない増加という、抗感染薬の分野と同様の傾向が現れている。この場合、耐性の発生は主に、P-gpなどの膜内在性輸送体の過剰発現が癌細胞からの活性薬剤の流出をもたらし、その結果活性薬剤がもはや有効になり得ないという事実に起因する。今では、かかる多耐性(「多剤耐性(multiple drug resistant)」、MDR)細胞は、多数の構造的および機構的に異なった化学療法薬に対して耐性を発現している(例えば、E.L. Cooper, Evid. Based Complement. Alternat. Med. 1, 215〜217 (2004);M. D'Incalciら, J. Chemother. 16 (補遺4), 86〜89 (2004);Z. Shiら, Cancer Res. 67, 11012〜11020 (2007)を参照されたい)。したがって、病原体に対する新規抗感染物質の開発とは別に、耐性の発生を抑えるために、癌に対する新規活性薬剤の発見及び適用が望まれるようになっている。
【0017】
数十年来、とりわけアントラキノンは、癌治療における有効な化学療法剤として使用されてきた。様々な種類の癌に対して使用することができる、構造的に類似する活性薬剤ドキソルビシン(これを例示的に以下に示す)、ダウノルビシン、イダルビシンおよびエピルビシンは、このグループに由来する周知の薬物である。
【0018】
【化4】

【0019】
かかる活性薬剤は、所望の治療効果のほかに、スーパーオキシドラジカルを形成するという負の影響も示す。アントラキノンは、分子中のキノン基のラジカル安定化効果に起因して、かかるラジカルの形成をしばしば引き起こし、このことにより、かかる分子が治療目的で使用される場合、特に心毒性が生じることがある。キノン基の治療効果およびラジカル安定化効果はいずれも、置換基によって著しく影響される。例えば、Debbabら, J. Nat. Prod. 72(4), 626〜631 (2009)によるマウスリンパ腫細胞に対して行われた研究を参照されたい。
【0020】
アントラキノンの細胞傷害効果の作用機構は、主として、DNAの二重らせん中への分子のインターカレーションによると考えられ、このインターカレーションにより、DNAの複製およびDNAのRNAへの転写が共に適切に起こらなくなる。この効果に加えて、アントラキノンは、とりわけDNAの超らせん化の原因であるII型トポイソメラーゼを阻害し、アポトーシスを誘導することがあると考えられている。アントラキノン、または別の同様に作用する分子、すなわちインターカレート分子が二重らせん中へうまく取り込まれ得るかどうかは、前述のように、置換基の種類および位置に著しく依存する。種々のアントラキノン誘導体を用いた現在の研究(例えばJ. Zhangら, Mar. Drugs 8, 1469〜1481(2010)を参照)により、環置換基間の非常にわずかな相違により分子の細胞傷害活性が決まることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
この背景に対して、本発明の目的は、医薬組成物において抗感染薬または抗癌剤として使用される新規物質、特に多耐性(「多剤耐性」、MDR)の病原体および細胞に対して活性を示す化合物の同定、単離および製造に存するものであった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、その研究作業の過程で、微生物および呼吸器系ウイルス、特にMDR病原体に対して良好な活性を示すだけでなく、癌細胞に対しても良好な活性を示す、いくつかの物質(これらの中には、これまで未公開の構造を有するもの、すなわち新規化合物もある)を同定することができた。並行する、同時出願された出願番号A 843/09のオーストリア特許出願は、公知の構造のいくつかの化合物に関するが、その有効性はこれまで知られておらず、一方、本発明は、2つの新規化合物(1つはアルテルソラノール誘導体および1つはアルテルポリオール誘導体)を提供することに関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】測定結果は、細胞傷害剤が添加されていないブランクの蛍光と関連付けて、図1にグラフで示される。左から右へ、図は、ブランクコントロール(「neg.contr」)、漸増濃度の3-O-アセチルアルテルソラノールM(1、10及び50μg/ml)、並びにアルテルソラノールK、アルテルポリオールF、及びアルテルポリオールI+Jの結果を示す。
【図2】ブランク(即ち、細胞傷害剤を添加していない黒色腫細胞)、及び30、50又は3,000μg/mlの3-O-アセチルアルテルソラノールMと合わせた等量の黒色腫細胞を、マトリックスゲル中で37℃で120時間インキュベートした。0、24、48及び120時間後、試料の位相コントラスト画像を撮影した(図2及び3に示す)。
【図3】ブランク(即ち、細胞傷害剤を添加していない黒色腫細胞)、及び30、50又は3,000μg/mlの3-O-アセチルアルテルソラノールMと合わせた等量の黒色腫細胞を、マトリックスゲル中で37℃で120時間インキュベートした。0、24、48及び120時間後、試料の位相コントラスト画像を撮影した(図2及び3に示す)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の開示)
より具体的には、本発明者らは、以下の新規化合物:
式(4)に従う(1R,2S,3S,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン[これは、当初は本発明者らによって「アルテルソラノールM」と命名されたが、現在では「3-O-アセチルアルテルソラノールM」と新たに命名されている(なぜならば、国際的に共通のプラクティスによれば、この特徴的な文字が、非アセチル化形態を指すために使用されるからである)]:
【0025】
【化5】

【0026】
ならびに本発明者らによってアルテルポリオールIおよびアルテルポリオールJと命名された2つのアトロプ異性体の形態で存在する、式(5)に従う8-(4,5,6-トリヒドロキシ-7-メチル-2-メトキシ-9,10-ジオキソ-9H,10H-アントラセン-1-イル)-(1S,2S,3R,4S)-1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H,10H-アントラセン-9,10-ジオン:
【0027】
【化6】

【0028】
を製造し、単離し、特徴付けた。
【0029】
化合物(4)および(5)はいずれも、スクリーニング実験において、優れた抗菌効果、抗ウイルス効果、そして特に化合物(4)の場合には優れた抗癌効果を示すので、本発明の第二の態様は、好ましくはグラム陽性細菌及びグラム陰性細菌、真菌並びに呼吸器系ウイルスに対する抗感染薬としての、特に多剤耐性(MDR)病原体に対する抗感染薬としての、これらの新規化合物の使用、ならびに抗癌剤としてのこれらの化合物の使用にある。
【0030】
これらの2つの化合物は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)またはエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ属(Klebsiella)菌種、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アスペルギルス属(Aspergillus)菌種の多剤耐性菌株、ならびにヒトライノウイルスおよびRSウイルスの群からの呼吸器系ウイルスに対して使用されることが好ましく、このことは以下の例示的な実施態様によって詳細に証明されるであろう。
【0031】
さらに、アルテルソラノールMのアセチル化誘導体、すなわち4-O-アセチルアルテルソラノールMおよび5-O-アセチルアルテルソラノールMなどの別の位置にアセチル基が位置する3-O-アセチルアルテルソラノールMの異性体、ならびに3,4-ジ-O-アセチルアルテルソラノールMおよび3,5-ジ-O-アセチルアルテルソラノールMなどのいくつかのアセチル基を有する誘導体の両者もまた、予備実験において抗感染作用または細胞傷害作用について試験したが、部分的には、やはり優れた結果が得られた。したがって、本発明者らのさらなる研究作業は、これらの化合物の製造および調査に焦点を合わせることになろう。
【0032】
本発明はまた、式(4)および(5)に従う化合物の製造方法にも関し、この方法は、該化合物またはその前駆体の1つを産生する微生物を増殖条件下で発酵させること、および任意選択で収率を増大させるためにその微生物の細胞を破壊してから、培養物からそれぞれの化合物を得ること、にある。本発明者らはステムフィリウム・グロブリフェルム(Stemphylium globuliferum)を用いて最も高い収率を得ることができたので、かかる発酵方法ではこの種の純系を使用することが好ましい。あるいは、該新規化合物またはそれらの前駆体を産生することができる任意の他の微生物、例えばアルテルナリア属(Alternaria)菌種を発酵に使用することができる。発酵により前駆体が生じる場合、より高いエナンチオ選択性を得るために、酵素触媒の影響下で該方法のいくつかの工程を任意選択で行って、その前駆体を、有機合成の当業者に公知の任意の方法によって、式(4)および(5)の所望の新規化合物に変換することができる。
【0033】
例えば、発酵ブロスから、アルテルソラノールAまたはアルテルソラノールファミリーの別のメンバーを得るために、アルテルナリア属(Alternaria)菌種を培養することができ、このアルテルソラノールAまたは別のメンバーは、C3上のOH基をアセチル化することによって(任意選択で慣用の保護基を用いて他のOH基を保護して)、3-O-アセチルアルテルソラノールMまたはその立体異性体に変換することができる。別の合成経路は、C3とC4との間の二重結合、およびこれらの位置における2個のプロキラル中心を得るために、C3またはC4からOH基を、隣接する水素原子とともに切断すること(すなわち脱水による)にある。その後、この二重結合は酵素的に再水和させることができ、酵素(ヒドラターゼ、ペルオキシゲナーゼ(peroxygenase)など)の立体特異性が適切に選択された場合、所望のアルテルソラノールMが得られる。アルテルポリオールIおよびJは、例えば、対応するアントラキノン置換基をアルテルソラノールM(任意選択で予め誘導体化してもよい)の8位に化学的に(この場合も例えば酵素的に)結合させ、その後3位のOH基からアセチル基を加水分解的に切断することによって得ることができる。
【0034】
所望の化合物の前駆体を変換する合成工程に適した酵素は、場合によっては、発酵に使用される微生物、または別の微生物から単離することもできる。後者の場合は、例えば、微生物が所望の産生物を産生するが、少量だけしか産生しないまたは汚染された形態でしか産生しない場合に有用であり得る。経済的な観点からは、別の菌株(さらには別の菌種もしくは属)を培養することによって産生物の前駆体を得、この前駆体を目標化合物に変換するために酵素による合成を使用するほうがよい。
【0035】
最後に、本発明は、以下の合成経路A〜Cのいずれか1つに従う化学合成による、3-O-アセチルアルテルソラノールM、すなわち本発明の化合物(4)の製造方法に関する。
【0036】
A)syn-ジヒドロキシル化による
文献(Krohnら, Liebigs Ann. Chem. 1988, 1033〜1041)から公知の方法で得ることができる(1R,2R)-1,2,5-トリヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2-ジヒドロアントラセン-9,10-ジオン(6)から出発して、以下の工程によって、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得ることができる:
a)(6)をC3およびC4においてsyn-ジヒドロキシル化して、(1R,2S,3R,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン(7)を得る工程(Houben-Weyl, Handbuch der organischen Chemie, E21d巻, 「Stereoselektive Synthese」, 4581〜4587頁に従う):
【0037】
【化7】

【0038】
b)(7)を環状硫酸エステル(8)に変換する工程(Y. GaoおよびK.B. Sharpless, J. Am. Chem. Soc. 110, 7538〜7539 (1988)に従う):
【0039】
【化8】

【0040】
c)酢酸を用いて環状硫酸エステル(8)を酸分解して、式(4)に従う3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程(H.-S. Buynら, Tetrahedron 56, 7051〜7091 (2000)に従う):
【0041】
【化9】

【0042】
(とりわけ)Krohnら(上掲)によって記述されたアルテルソラノールAおよびアルテルソラノールMの製造方法とは対照的に、本発明の方法では、対応するエポキシドを得るために、メタ-クロロ過安息香酸を用いて化合物(6)のC3とC4との間の二重結合を酸化することはしない。なぜならば、この工程は、cis-エポキシアルコールおよびtrans-エポキシアルコールのジアステレオマー混合物を不可避的に生じさせ、これは所望の異性体の収率を著しく減少させるからである。本発明に従う工程a)においてsyn-ジヒドロキシル化を適用することによって、所望の異性体を選択的に得ることができ、次いでこれを、酢酸を用いる単純な酸分解によって、目標化合物3-O-アセチルアルテルソラノールMに変換することができる。
【0043】
B)ディールス・アルダー(Diels-Alder)付加およびエポキシド形成による
文献(Krohnら, Liebigs Ann. Chem. 1988, 1033〜1041)から公知の方法で得ることができる保護された5-ヒドロキシ-7-メトキシ-1,4-ナフトキノン(9)から出発して、以下の工程によって、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得ることができる:
a)ナフトキノン(9)とメチルブタジエン(10)(式中、Rは、独立して、同一であるかまたは異なるヒドロキシル保護基である)との間でディールス・アルダー付加をして、テトラヒドロアントラキノン(11)を得る工程:
【0044】
【化10】

【0045】
b)メタ-クロロ過安息香酸を用いてC2とC3との間の二重結合を酸化し(Krohnら(上掲)に従う)、C4において酸素官能基を反転させるためにその後またはその前の光延反応を行なって、エポキシド(12)を得る工程:
【0046】
【化11】

【0047】
c)酢酸を用いてエポキシド(12)を酸分解し、その後にまたは同時に保護基Rを切断して、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程。
【0048】
Krohnらによって記載されたディールス・アルダー反応とは対照的に、本発明の反応では、既に、2個の酸素官能基、すなわち保護されたヒドロキシル基を有するブタジエン(10)を使用しており、これらの基は、C1およびC4において同時にアントラキノン(11)中にジアステレオ選択的に組み込まれ、前記アントラキノン(11)は、C1およびC2における置換基が酸化指向効果を有するので、単一の酸化工程によってエポキシド(12)に変換できる。したがって、C4において酸素官能基を反転させる光延反応は、この酸化の後に行うことが好ましい。エポキシドの酸素の反対側からのC3におけるアセテートの求核攻撃が明らかに有利であるので、該酸化の後の酸分解もまた立体選択的に行なわれる。
【0049】
C)ディールス・アルダー付加およびsyn-ジヒドロキシル化による
3-O-アセチルアルテルソラノールMは、やはり保護された5-ヒドロキシ-7-メトキシ-1,4-ナフトキノン(9)から出発して、以下の工程によっても得ることができる:
a)方法B)について前述したように、ナフトキノン(9)とメチルブタジエン(10)(式中、Rは、独立して、同一であるかまたは異なるヒドロキシル保護基である)との間でディールス・アルダー付加をして、テトラヒドロアントラキノン(11)を得る工程:
【0050】
【化12】

【0051】
b)テトラヒドロアントラキノン(11)をsyn-ジヒドロキシル化し(Houben-Weyl, 上掲に従う)、C4において酸素官能基を反転させるためにその後またはその前の光延反応を行なって、テトラヒドロアントラキノン(13)を得る工程:
【0052】
【化13】

【0053】
c)(13)を環状硫酸エステル(14)に変換する工程(Y. GaoおよびK.B. Sharpless, 上掲に従う):
【0054】
【化14】

【0055】
d)酢酸を用いて環状硫酸エステル(14)を酸分解し(H.-S. Buynら, 上掲に従う)、その後にまたは同時に保護基Rを切断して、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程。
【0056】
方法B)とは対照的に、テトラヒドロアントラキノン(11)は、エポキシドを得るために酸化されないが、ジヒドロキシ誘導体(13)を得るためにジアステレオ選択的に酸化され、このジヒドロキシ誘導体は、方法A)について前述したように、容易に環状硫酸エステルに変換することができ、その後に3-O-アセチルアルテルソラノールMに変換することができる。
【0057】
上記ジオールは、環状硫酸エステルに代えて、環状オルトエステルなどの他の環状エステルに変換することもでき、これも本発明の方法の範囲に含まれる。
【0058】
本発明者らが収率を最適化するための進行中の実験を完成させれば、発酵方法と比較して、それにより得られる生成物の純度がより高く、単離性がより良好であるので、化学合成は確実に、3-O-アセチルアルテルソラノールMだけでなくアルテルポリオールIおよびJの製造のために選択される方法になるであろう。式(5)の化合物を生成させるための合成戦略は、本発明者らが現在開発している。
【0059】
現在のところは、本発明の化合物(4)または(5)はそれぞれ、依然として、好ましくは培養物の粗製抽出物からの抽出およびその後の単離によって、例えば分別晶出またはクロマトグラフィーの手順によって、より好ましくは最も高い収率および最も高い純度を同時にもたらす分取HPLCによって、得られる。もちろん、特により大規模の実験では、例えば粗製抽出物の直接的な分別晶出または吸収法による、他の単離方法も企図される。しかしながら、当業者は、過度の実験をすることなく、それぞれの培養(および/または合成もしくは部分的合成)工程に最も適した単離手順を決定することができるであろう。
【実施例】
【0060】
以下、具体的な例示的実施態様に言及して本発明をさらに詳細に説明するが、これは本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【0061】
ステムフィリウム・グロブリフェルム(Stemphylium globuliferum)を培養し、その後に抽出することによって、本発明の新規化合物を得た。
【0062】
微生物の単離
内部寄生真菌を単離するために、メグサハッカ(Mentha pulegium)(ペニーロイヤル)の新鮮な健常な茎を使用した。茎の表面を70%のエタノールを用いて1分間滅菌し、次いでアルコールを除去するために滅菌水ですすいだ。残存する着生真菌を内部寄生真菌と区別するために、有機麦芽エキス寒天上に茎表面の押印を得た。内部から小さな組織試料を無菌的に切り取り、細菌の増殖を抑制するために抗生物質を含む寒天プレート上に押し付けた。この単離用培地の組成は、次の通りであった:蒸留水中、麦芽エキス15 g/l、寒天15 g/lおよびクロラムフェニコール0.2 g/l、pH 7.4〜7.8。麦芽エキス寒天プレート上での接種を繰り返すことによって、培養物から純粋な真菌株を得た。
【0063】
DNAの増幅及びITS領域のシークエンシングによる分子生物学的プロトコルに従って、この真菌培養物はステムフィリウム・グロブリフェルム(Stemphylium globuliferum)であると同定された。配列データはアクセッション番号EU859960でGenBankに登録した。
【0064】
培養
ステムフィリウム・グロブリフェルム(Stemphylium globuliferum)を培養するために、それぞれコメ(rice)100 gおよび蒸留水100 mlを含む1リットルのErlenmeyerフラスコを、膨潤した固体コメ培地を含むようにオートクレーブした。純粋な真菌株を含む上記の単離用培地の一部を、滅菌条件下でこの固体コメ培地にアプライし、真菌を室温(20℃)で40日間培養した。
【0065】
抽出および単離
40日後、培養物を酢酸エチル(EtOAc)300 mlで2回抽出した。EtOAc抽出物は、水を用いて振盪することによって抽出した。水相を蒸発乾固させ、100%のメタノール(MeOH)を溶離液として用いて、残渣を、LH-20カラムでのカラムクロマトグラフィーに付すとともに、EtOAc/MeOH/H2O(77:13:10)を溶離液として用いて、シリカF245(Merck, Darmstadt, Germany)での薄層クロマトグラフィー(TLC)によって検出した。所望の化合物を含む画分を合わせ、Eurosphere 100-10 C18カラム(300×8 mm、長さ×内径)および線形の水-メタノールグラジエントを用いて、半分取HPLC(Merck, Hitachi L-7100)に付した。このようにして、本発明の新規化合物、すなわち(1R,2S,3S,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン(3-O-アセチルアルテルソラノールM)および8-(4,5,6-トリヒドロキシ-7-メチル-2-メトキシ-9,10-ジオキソ-9H,10H-アントラセン-1-イル)-(1S,2S,3R,4S)-1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H,10H-アントラセン-9,10-ジオン(アトロプ異性体アルテルポリオールIおよびJ)を、その純粋な形態で得た。
【0066】
分析
アルテルポリオールIおよびJ
【0067】
【化15】

【0068】
アルテルポリオールIおよびJのHRESI MSスペクトルに基づき、m/z 635,1406 [M+1]+に分子イオンが位置することが明らかになり、実験式C32H26O14および20%の不飽和度が得られた。1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルのデータならびにESI/MSスペクトルのデータ(m/z 634,9 [M+H]+)は、公知の関連するアントラキノンであるアルテルソラノールAおよび6-O-メチルアラテルニンのデータと類似している。2つのアントラキノン単位間の結合の種類は、COSYスペクトルおよびHMBCスペクトルの解釈、ならびに化合物アルテルソラノールAおよび6-O-メチルアラテルニンのNMRデータとの比較から明らかになる。以下の表1に収載した1H-NMRスペクトルは、δ 1.110(CH3-7')および1.114(CH3-7'*)における2つの第三級メチル基、δ 2.17(CH3-2)およびδ 2.16(CH3-2*)における2つの芳香族メチル基、ならびに部分的に重複する、δ 3.68、3.70および3.71において共鳴する4つのメトキシ基のシグナルを示している(積分から導出される)。また、δ 4.04(H-8'/H-8'*)における重複したシングレット、δ 4.45(H-5'/H-5’*)における重複したダブレット、およびδ 3.54(H-6’/H-6'*)における重複したダブレットが観察できる。芳香族領域は、δ 7.40、6.94、6.93、6.91および6.90における5つのプロトン共鳴を示している。また、アルテルポリオールの1H-NMRでは、メタカップリングプロトンは現れない。しかしながら、COSYスペクトルは、CH3-2とH-1との間の明らかな長範囲の相関を示しており、7-O-メチルアラテルニン部分がC-6またはC-8のいずれかでアルテルソラノールA部分に結合していることを立証している。やはり表1に収載したHMBCスペクトルの解釈により、δ 6.93/δ 6.94において観察された芳香族プロトン(H-6/H-6*)が、δ 165.1および165.6における2つの酸素保有炭素原子(C-5およびC-7)と強く相関していることが示されている。δ 6.90/δ 6.91において共鳴する芳香族プロトン(H-3'/H-3'*)は、δ 164.2および164.3(C-2'およびC-4')における2つの酸素保有炭素原子と相関しており、これは2つの単量体間の結合部としてC-8を示している。
【0069】
さらに、表1中のHMBCスペクトルの解釈により、H-1がC-9(δ 180.4)、C-4a(δ 129.0)およびC-3(δ 150.9)と相関し、一方H-6/6*がC-8(δ 123.0)およびC-10a(δ 109.3)と相関していることが示されている。それとは別に、H-3'は、炭素原子C-2'、C-4'(δ 164.2、164.3)、C-1'(δ 123.1)、C-4'a(δ 109.7)、並びにC-10'(δ 188.8)のケト基と強く相関することが見出された。後者の相関はWカップリングに起因する。
【0070】
脂肪族環におけるアルテルポリオールIおよびJの相対的立体配置を決定するために、ROESY測定を実施した。これについて、CH3-7'のシグナルは、H-6'、H-8'、OH-6'及びOH-8'と強い相関を示し、このことはCH3-7'がエクアトリアルであることを示している。さらに、プロトンH-8'はプロトンH-6'と相関し、後者はH-5'に対してジアキシアルな関係で存在している(これは、カップリング定数から導出され得る)。こうして、化合物アルテルポリオールIおよびアルテルポリオールJは、新規天然産物であると同定された。
【0071】
【表1】

【0072】
3-O-アセチルアルテルソラノールM
【0073】
【化16】

【0074】
3-O-アセチルアルテルソラノールMは赤褐色結晶の形態で単離された。HRESI-MSスペクトルは、アルテルソラノールAよりも高い42質量単位(即ち、1つのアセチル基)に対応するm/z 379([M+H]+)にメインピークを示し、実験式C18H18O9がもたらされる。1H-NMRスペクトルは、3つの交換可能なアルコール性ヒドロキシル基(δ 5.34及び5.98に2つのダブレット、及び4.86に1つのシングレット)を含み、これらはそれぞれ、4-OH、1-OH及び2-OHに割り当てられ得る。さらに、δ 1.13及び2.11の2つのシングレット(積分から導出される)が観察され得、これらは2つのメチル基に対応する。メタカップリングプロトンはδ 6.85(H-6)及びδ 7.04(H-8)で共鳴するが、芳香族メトキシ基はδ 3.91に位置する。COSYスペクトルにおいて、高磁場ダブレット(1-OH)は、脂肪族低磁場プロトンH-1と相関する;さらに、プロトンH-4がδ 4.68に現れ、これは、炭素原子C4上のヒドロキシル基(4-OH)とプロトンH-3とに相関する。全脂肪族スピン系は、H-1、H-3及びH-4に対して圧力を及ぼし、これらは、対応するヒドロキシル官能基と一緒になって、アセチル基がC3位に存在することを明らかに示す。さらに、HMBCスペクトルにおけるプロトン(即ち、H-1、H-3及びH4)に帰せられる(1, 2, 9, 9a, 2-Meとの)相関、及び芳香族プロトンの相関は、3-O-アセチルアルテルソラノールMの上記構造を完全に支持する。3-O-アセチルアルテルソラノールMの相対的立体化学が、1H-NMRスペクトルにおいて観察されたカップリング定数とROESYスペクトルにおいて検出された相関とから導出された。高い値のJ1-2(7.52 Hz)は、H-4とH-3とがジアキシアルな関係で存在することを示しており、これはROESYスペクトルによって確認される。さらに、メチル基は、δ 1.13においてH-1、1-OH、2-OH及びH-3との相関を示し、これは、そのエクアトリアルな位置によって説明され得る。最後に、プロトンH-1はプロトンH-1との明らかな相関を示し、これは、脂肪族環の相対的立体配置を示している。
【0075】
【表2】

【0076】
活性の決定−抗菌/抗真菌作用
新規化合物の活性を2つの異なるスクリーニング系で試験した。抗菌活性及び抗真菌活性はMIC試験によって試験した。MICとは、「最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration)」を示し、微生物の増殖が裸眼で観察できなくなる、物質の最低濃度をいう。MICは、いわゆる滴定法によって決定される。この方法では、物質が希釈され、その後病原体がそこに添加される。
【0077】
通常、この方法は、細菌株の増殖をかろうじて阻害するだけの抗生物質濃度を決定するために適用される。MICは、マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)で示され、希釈はlog2段階で従来どおりに実施される。ここでは、250 μg/mlの出発濃度を数回(各場合において2倍の体積に)希釈して、250μg/ml、125μg/ml、62.5μg/ml、31.2μg/ml、15.6μg/ml、7.8μg/mlなどの試験濃度とした。従って、より低い値は、抗感染薬としてのより良い活性を示す。
【0078】
EUCAST(欧州抗菌薬感受性試験法検討委員会(European Committee for Antimicrobial Susceptibility Testing))の基準及び欧州臨床微生物学及び感染症学会(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID))のAFSTプロトコル(「抗真菌薬感受性試験法(Antifungal Susceptibility Testing)」プロトコル)に従って試験を実施した。
【0079】
ウイルスのスクリーニングシステムは、in vitroでの宿主細胞の感染を含む感染システムであり、その活性を決定するために、試験物質が感染の前又は後に添加される。これらの試験は全て、上記抗菌/抗真菌試験と類似の希釈系列を使用して、SeaLife Pharmaの薬物スクリーニングのための内部標準プロトコルに従って実施した。
【0080】
以下の表3において、試験結果は、いくつかの多耐性の細菌及び真菌(これらは全て、Medical University of ViennaからGeorgopulos教授のご厚意により我々の管理下に置かれたものである))に対する、3-O-アセチルアルテルソラノールM、アルテルポリオールI及びJ、並びにいくつかの公知の構造的に類似の比較物質の抗感染作用を示す。データは、複数の試験実行で得られた値の平均を構成する。
【0081】
これらの新規化合物が、4つの細菌種(即ち、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)又はエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)及び表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermis))に対して優れた活性を示し、さらに、さらなる病原体に対しても有効であることが明らかになっており、この一連の試験において、3-O-アセチルアルテルソラノールMが、アルテルポリオールI及びJよりもより広い範囲の活性を示している。
【0082】
【表3】

【0083】
ATCCから取得した3つの異なる種の呼吸器系ウイルス(即ち、ヒトライノウイルス(hrv)、RSウイルス(rsv)及びパラインフルエンザ(paraflu))に対する本発明の新規化合物の活性を試験した結果、本発明者らは、既に0.1 μg/mlの濃度で、両方(又は3つ全ての)化合物が、細胞に100%の保護を提供したことを見出した。インフルエンザ及びアデノウイルスを用いたプレ試験でも、既に最初の有望な結果が得られていた。
【0084】
活性の決定-細胞傷害作用
アルテルポリオールI及びJ、並びに特に3-O-アセチルアルテルソラノールMを、いくつかの一連の試験において抗癌作用について試験した。試験シリーズは、2次元標準試験及び新たに開発された3次元腫瘍モデルの両方を含んだ。
【0085】
a)黒色腫細胞を使用したアラマーブルー(Alamar Blue)アッセイ
この試験では、色素レサズリンを、物質の細胞傷害性測定のための指示薬として使用する。青く着色したレサズリン水溶液を使用する。この溶液は、正常に機能している細胞(NADHを消費する)によって徐々にレゾルフィンに還元される。レゾルフィンは、ショッキングピンクの色で蛍光性である。それらの毒性の程度に応じて、細胞傷害剤はこの還元を減速又は停止させる。
【0086】
この実験の過程では、黒色腫細胞を、いくつかの濃度の3-O-アセチルアルテルソラノールM(即ち、1、10及び50μg/ml)、それぞれ10μg/mlの濃度のアルテルソラノールK及びアルテルポリオールF(比較物質として)並びにアルテルポリオールI+J(即ち、本発明の化合物(5))で処理し、48時間インキュベートし、その後、試料の蛍光を570/600nmで分光光度法によって決定した。蛍光は、試料中の生存細胞数と比例する。
【0087】
測定結果は、細胞傷害剤が添加されていないブランクの蛍光と関連付けて、図1にグラフで示される。左から右へ、図は、ブランクコントロール(「neg.contr」)、漸増濃度の3-O-アセチルアルテルソラノールM(1、10及び50μg/ml)、並びにアルテルソラノールK、アルテルポリオールF、及びアルテルポリオールI+Jの結果を示す。
【0088】
既にたった1μg/mlの濃度で、3-O-アセチルアルテルソラノールMが、生存細胞数を10%よりも高く阻害したことが、明らかに理解できる。これらの値は、アルテルソラノールK、アルテルポリオールF及びアルテルポリオールI/Jでは10μg/mlの濃度でのみ達成され、本発明のアルテルポリオールI/Jは、2つの比較例よりも僅かに良い結果を生じた。この10μg/mlの濃度で、3-O-アセチルアルテルソラノールMは既に、黒色腫細胞数を約50%減少させ、50μg/mlでは、生存細胞を検出することは殆どできなかった。このことは、この試験において、本発明の両化合物が細胞傷害活性を示したが、3-O-アセチルアルテルソラノールMが少なくとも10倍有効性が高いことを意味する。
【0089】
電気細胞-基質インピーダンス感知技術(Electrical Cell-Substrate Impedance Sensing Technology-(ECIS-))試験でも匹敵する結果(本明細書中には示していない)が得られ、3-O-アセチルアルテルソラノールMはここでも、アルテルポリオールI/Jよりも明らかに良い結果を達成した。
【0090】
b)3次元腫瘍試験
上記の2次元試験に加えて、3-O-アセチルアルテルソラノールMの細胞傷害作用を、革新的な3次元試験システムでも試験した。この試験では、小さい腫瘍をマトリックスゲル中で増殖させ、種々の濃度で抗癌剤を添加することによって、該抗癌剤の活性が直接試験できる。
【0091】
ブランク(即ち、細胞傷害剤を添加していない黒色腫細胞)、及び30、50又は3,000μg/mlの3-O-アセチルアルテルソラノールMと合わせた等量の黒色腫細胞を、マトリックスゲル中で37℃で120時間インキュベートした。0、24、48及び120時間後、試料の位相コントラスト画像を撮影した(図2及び3に示す)。
【0092】
図2は、一番上の並びにブランク(「n.c.」)を示しているが、これは、凝集した腫瘍における外膜の形成及び引き続くメラニン封入を明らかに示しており、この腫瘍が絶えず増殖していることを示している。3-O-アセチルアルテルソラノールMの3つ全ての濃度で、腫瘍は、24時間後に既に縮退の兆候を示し、120時間後には明らかにサイズが小さくなっている。3-O-アセチルアルテルソラノールMの縮退効果は、予測したとおり、図3に示される最も高い濃度(最低濃度よりも100倍高い)において最も顕著である。
【0093】
従って、本発明は、多剤耐性の細菌及び真菌病原体並びに呼吸器系ウイルス及び癌細胞の両方に対して有効性が高く、従って、広汎な適用において抗感染薬及び抗癌剤として使用され得る、新規化合物を提供することが明らかに示された。化合物(4)、3-O-アセチルアルテルソラノールMは特に、上記適用分野の全てについて、有望な薬剤を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1R,2S,3S,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン(3-O-アセチルアルテルソラノールM):
【化1】


【請求項2】
8-(4,5,6-トリヒドロキシ-7-メチル-2-メトキシ-9,10-ジオキソ-9H,10H-アントラセン-1-イル)-(1S,2S,3R,4S)-1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-9H,10H-アントラセン-9,10-ジオン(アトロプ異性体アルテルポリオールIおよびJ):
【化2】


【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の化合物の、抗感染薬としての使用。
【請求項4】
化合物が、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌、真菌並びに呼吸器系ウイルスに対して使用されることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
化合物が、多剤耐性(MDR)病原体に対する抗感染薬として使用されることを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
化合物が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)またはエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、大腸菌(Escherichia. coli)、クレブシエラ属(Klebsiella)菌種、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アスペルギルス属(Aspergillus)菌種の多剤耐性菌株、ならびにヒトライノウイルスおよびRSウイルスの群からの呼吸器系ウイルスに対して使用されることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の化合物の、抗癌剤としての使用。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の化合物の製造方法であって、該化合物を産生する微生物を増殖条件下で発酵させること、および任意選択で該微生物の細胞を破壊してから、培養物から該化合物を得ることを特徴とする、方法。
【請求項9】
微生物としてステムフィリウム・グロブリフェルム(Stemphylium globuliferum)が使用されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
化合物が、粗製抽出物からの抽出およびその後の単離によって得られることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
以下の工程:
a)(1R,2R)-1,2,5-トリヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2-ジヒドロアントラセン-9,10-ジオン(6)をC3およびC4においてsyn-ジヒドロキシル化して、(1R,2S,3R,4R)-3-アセトキシ-1,2,4,5-テトラヒドロキシ-7-メトキシ-2-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロアントラセン-9,10-ジオン(7)を得る工程
【化3】

b)(7)を環状硫酸エステル(8)に変換する工程
【化4】

c)酢酸を用いて環状硫酸エステル(8)を酸分解して、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程
を含む、請求項1に記載の化合物、すなわち3-O-アセチルアルテルソラノールMの製造方法。
【請求項12】
以下の工程:
a)ナフトキノン(9)とメチルブタジエン(10)(式中、Rは、独立して、同一であるかまたは異なるヒドロキシル保護基を表す)との間でディールス・アルダー付加をして、テトラヒドロアントラキノン(11)を得る工程
【化5】

b)メタ-クロロ過安息香酸を用いてC2とC3との間の二重結合を酸化し、C4において酸素官能基を反転させるためにその後又はその前の光延反応を行なって、エポキシド(12)を得る工程
【化6】

c)酢酸を用いてエポキシド(12)を酸分解し、その後にまたは同時に保護基Rを切断して、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程
を含む、請求項1に記載の化合物、すなわち3-O-アセチルアルテルソラノールMの製造方法。
【請求項13】
以下の工程:
a)ナフトキノン(9)とメチルブタジエン(10)(式中、Rは、独立して、同一であるかまたは異なるヒドロキシル保護基を表す)との間でディールス・アルダー付加をして、テトラヒドロアントラキノン(11)を得る工程
【化7】

b)テトラヒドロアントラキノン(11)をsyn-ジヒドロキシル化し、C4において酸素官能基を反転させるためにその後又はその前の光延反応を行なって、テトラヒドロアントラキノン(13)を得る工程
【化8】

c)(13)を環状硫酸エステル(14)に変換する工程
【化9】

d)酢酸を用いて環状硫酸エステル(14)を酸分解し、その後にまたは同時に保護基Rを切断して、3-O-アセチルアルテルソラノールMを得る工程
を含む、請求項1に記載の化合物、すなわち3-O-アセチルアルテルソラノールMの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−528080(P2012−528080A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512166(P2012−512166)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000190
【国際公開番号】WO2010/135759
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511289781)シーライフ ファルマ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】