説明

新規コーティング組成物

【課題】少量で十分な結合力を有し、しかも長期保存した場合でも、顆粒剤や錠剤の外観、強度とも変わらず、十分な溶出性を得ることができる、医薬、又は錠剤若しくは顆粒剤の結合剤を提供する。
【解決手段】平均重合度200以上1300以下のポリビニルアルコールと、不飽和カルボン酸、それらの塩、及び不飽和カルボン酸のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性ビニル単量体とを重量比で6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体を含むことを特徴とする医薬、又は錠剤若しくは顆粒剤の結合剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規樹脂組成物に関し、さらに詳しくはポリビニルアルコール共重合体を主剤とする、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等のコーティングに有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略称することがある)は、分散剤、接着剤、糊剤、フィルム、紙加工剤、コーティング剤等として各種の分野で多用されている。例えば、医薬品添加物辞典には、ポリビニルアルコールの部分けん化物は水溶性と造膜性を有することから、コーティング剤としての用途が収載されている。しかし通常のコーティング手段であるスプレー法によってこれを用いる場合には、著しい曳糸性(微粒化したミストにならず、くもの巣状になる)のために、コーティングは非常に困難であり、ほとんど実用化はされていない。
【0003】
本発明者等は、ポリビニルアルコール、特に部分けん化ポリビニルアルコールに重合性ビニル単量体、例えばアクリル酸とメタクリル酸メチルを共重合、例えば乳化重合して得られるポリビニルアルコール共重合体(以下、PVA共重合体と称することがある)が、容易に水に溶解し、曳糸性を示さずに、通常の2流体スプレーノズルによるコーティングが可能になることを見出した。こうして得られたPVA共重合体のフィルムは無色透明、無味無臭であり、強度、伸び率、付着性などの物理的特性に優れており、かつ酸素などの気体透過性が極めて低い特性を有しているために、酸化されやすい薬物の保護や、不快臭を有する医薬、農薬、食品のマスキング、昇華性を有する薬物のウイスカー生成の抑制、経口固形製剤の優れた結合剤としての使用、あるいは苦味を呈する医薬、食品のマスキング等に有用であることを見出した。
【0004】
またPVA共重合体の他の特徴としては、溶媒への溶解性に優れ、その溶液の粘着性が著しく小さいために、細粒剤や原薬などの微小粒子コーテイングが可能となり、このような優れた性質を利用することにより、他剤との配合変化防止や、原薬の表面改質、不快臭あるいは苦味マスキング、さらにコーティング時間が著しく短縮できる、高濃度コーティングへの展開が可能となったのである。
なお、難溶性薬効成分を溶解した溶液、または半固溶体をカプセル内充填して安定性に優れた、PVA共重合体を主体とする硬カプセルを得る発明が開示されている(特許文献1)が、PVA共重合体を医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等のコーティングに用いた例はこれまでにない。
【0005】
上述したように、PVA共重合体のコーティング剤としての適用範囲は、現在フィルムコーティング用ポリマーとして汎用されている他の公知コーティング剤に比べてはるかに広く優れた特性を有しており、将来的にはこれらに変わりうることが期待できる。なお、このPVA共重合体は、各種安全性試験の結果、現在まで安全性にかかわる問題は認められていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 02/17848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリビニルアルコールの部分けん化物は、水溶性と造膜性を有することから医薬品添加物辞典にはコーティング剤としての用途が収載されている。しかし通常のコーティング手段であるスプレー法によってこれを用いる場合には、著しい曳糸性(微粒化したミストにならず、くもの巣状になる)のために、コーティングは非常に困難であり、ほとんど実用化されていない。このような実情に鑑み、上記欠点を有しない優れた特性を有する、医薬、農薬、食品等のコーティング用組成物の開発が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール又はその誘導体に重合性ビニル単量体を共重合させて得られるポリビニルアルコール共重合体の水溶液は、曳糸性を示さずに、通常の2流体スプレーノズルによるコーティングが可能であることを見出した。こうして得られたPVA共重合体のフィルムは無色透明であり、強度、伸び率、付着性などの物理的特性に優れており、かつ酸素などの気体透過性が極めて低い特性を有しているために、酸化されやすい薬物の保護や、不快臭の医薬、動物薬、農薬、肥料、食品のマスキング、昇華性を有する薬物のウイスカー生成の抑制、経口固形製剤の優れた結合剤としての使用等に有用であることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)平均重合度1300以下のポリビニルアルコールと、少なくとも1以上の重合性ビニル単量体とを重量比で6:4〜9:1の割合で共重合させて得られることを特徴とする樹脂組成物、
(2)該ポリビニルアルコールが平均重合度900以下のものである上記(1)記載の樹脂組成物、
(3)該ポリビニルアルコールが平均重合度200〜600のものである上記(1)記載の樹脂組成物、
(4)該ポリビニルアルコールが部分けん化ポリビニルアルコールである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物、
(5)重合性ビニル単量体が、不飽和カルボン酸類、不飽和カルボン酸のエステル類、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類及びそれらの塩から選ばれるものであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物、
(6)2以上の重合性ビニル単量体を共重合させたものであり、少なくとも1つが不飽和カルボン酸類又はそれらの塩であり、少なくとも1つが不飽和カルボン酸のエステル類である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物、
(7)不飽和カルボン酸類又はそれらの塩類が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれるものであり、不飽和カルボン酸のエステル類がメチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル、ポリエチレングリコールとアクリル酸とのエステル、ポリプロピレングリコールとアクリル酸とのエステルからなる群から選ばれるものであることを特徴とする上記(6)に記載の樹脂組成物、
(8)不飽和カルボン酸類、それらの塩類及び不飽和カルボン酸のエステル類が、一般式[I]
C=C(R)−COOR [I]
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。)又はその塩であることを特徴とする上記(7)に記載の樹脂組成物、
(9)不飽和カルボン酸類又はそれらの塩が、アクリル酸又はその塩であり、不飽和カルボン酸のエステル類がメチルメタクリレートである、上記(8)に記載の樹脂組成物、
(10)共重合する際におけるアクリル酸又はその塩とメチルメタクリレートの重量比が3:7〜0.5:9.5であることを特徴とする上記(9)に記載の樹脂組成物、
(11)平均重合度300から500の部分けん化ポリビニルアルコールと、重合性ビニル単量体が重量比で6:4〜9:1の割合で共重合させて得られ、かつ当該重合性ビニル単量体がアクリル酸およびメチルメタクリレートであり、共重合する際における当該重合性ビニル単量体の重量比が3:7〜0.5:9.5であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物、
(12)平均重合度300から500の部分けん化ポリビニルアルコール、メチルメタクリレートおよびアクリル酸の共重合する際における重量比が60〜90:7〜38:0.5〜12であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物、
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の樹脂組成物からなるコーティング剤、
(14)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる医薬、動物薬、農薬、肥料又は食品用コーティング剤、
(15)上記(14)に記載のコーティング剤でコーティングした医薬、動物薬、農薬、肥料又は食品、
(16)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる結合剤
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコール共重合体を主剤とするコーティング用組成物は、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品の酸化防止効果、不快臭のマスキング効果、配合変化防止効果、苦味防止効果を有する。製剤に対する付着性の向上、微小粒子コーティング効果、高濃度でのコーティングの実施が容易である等の種々の優れた効果を有するので極めて有用である。すなわち、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品などを構成する成分の中に、酸化され易い成分、不快臭を有する成分、配合すれば保存安定性が損なわれる2種以上の成分、苦味等の不快な味を有する成分が含まれる場合は、これらの成分または製剤全体を本発明の樹脂組成物でコーティングすることにより、これら成分のもつ欠点を容易に除去することができる。
【0011】
また、昇華性を有する薬物(例えば、カフェイン、アスピリン)を含む製剤は、保存時にウイスカーを発生することが知られており、製剤そのものからウイスカーが発生して外観変化を起こす例や直接包装容器であるPTP包装やガラス瓶などの内面に曇りを発生して製品価値を著しく損なう例がみられる。これは通常のフィルムコーティングなどでは抑制できず、製剤研究者がその対策に苦慮する現象である。しかしながら、本発明に係るPVA共重合体は、昇華性薬物製剤にフィルムコートすることによって、ウイスカーの発生を抑制するという優れた効果を有している。ここに、ウイスカーとは、製剤表面や保存容器周辺に昇華によって結晶が析出する現象である。
【0012】
さらに、医薬品の製造にあたって特に経口固形剤(例えば、顆粒剤、錠剤)を製造する場合、種々の結合剤を用いることが知られている。しかし、これら既知の結合剤は多くの問題を有しており、必ずしも満足すべき機能を有していない。すなわち、ある種の結合剤は薬物と反応して着色したり、十分な顆粒強度や錠剤硬度を得ようとすると、多量の配合が必要になり、その結果として薬物の溶出速度が遅延するような結合剤、さらには経時的にその結合力が劣化したり、逆に増加するため、顆粒や錠剤の割れや欠けの発生、崩壊や溶出速度の遅延など製剤としては致命的な欠陥が発生するケースがみられる。しかしながら、本発明のPVA共重合体を結合剤として用いることによって、少量で十分な結合力を有し、しかも長期保存した場合でも、顆粒剤や錠剤の外観、強度とも変わらず、十分な溶出性をえることができた。
【0013】
さらに、本発明の樹脂組成物は、従来のものに比べて成分又は製剤に対する付着性優れ、成分又は製剤が微小粒子であっても容易にコーティングに際して高濃度でコーティングでき、しかも製剤に対する付着性に優れるという特長を有する。
このような効果は、発明者らの多くの試行錯誤の検討結果により得られた予想外の新知見である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】は、本発明の樹脂組成物でコーティングした刻印錠剤の刻印部の断面SEM写真を示す。
【図2】は、既存コーティング剤でコーティングした刻印錠剤の刻印部の断面SEM写真を示す。
【図3】は、本発明の樹脂組成物で被覆されたアセトアミノフェン粒子の断面SEM写真(×200)を示す。
【図4】は、本発明の樹脂組成物で被覆されたアセトアミノフェン粒子の表面SEM写真(×160)を示す。
【図5】は、本発明の樹脂組成物によるアスピリン顆粒に対する被覆率と臭い強度の関係を示す。
【図6】は、本発明の樹脂組成物によるアスコルビン酸の酸化分解防止効果を示す。
【図7】は、カフェインおよびグアヤコールスルホン酸カリウム含有錠剤を本発明の樹脂組成物で被覆した被覆錠剤と、未被覆錠剤とをガラス瓶密栓の状態で60℃に加温し、1ケ月保存した後のウイスカー発生によるガラス瓶の曇り具合の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のコーティング組成物で主剤として使用されるポリビニルアルコール共重合体は、ポリビニルアルコール又はその誘導体と少なくとも1種の重合性ビニル単量体とをそれ自体公知の方法で共重合させることにより製造することができる。
そのようなポリビニルアルコール共重合体を製造する方法としては、ラジカル重合、例えば溶液重合法、懸濁重合、乳化重合および塊状重合などのそれ自体公知の方法を挙げることができ、各々の通常の重合条件下で実施することができる。この重合反応は、通常、重合開始剤の存在下、必要に応じて還元剤(例えば、エリソルビン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸)、連鎖移動剤(例えば2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ラウリルメルカプタン)あるいは分散剤(例えばソルビタンエステル、ラウリルアルコールなどの界面活性剤)等の存在下、水、有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、セロソルブ、カルビトール)あるいはそれらの混合物中で実施される。また、未反応の単量体の除去方法、乾燥、粉砕方法等も公知の方法でよく、特に制限は無い。
【0016】
本発明のポリビニルアルコール共重合体の原料となるポリビニルアルコールとしては、平均重合度約200〜1500、好ましくは平均重合度約200〜1300、より好ましくは平均重合度約200〜900、さらに好ましくは平均重合度約200〜600、最も好ましいのは平均重合度約300〜500、けん化度約60〜100モル%、好ましくは78〜96モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである。このようなけん化ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルをラジカル重合し、得られた酢酸ビニルを適宜、けん化することによって製造することができ、所望のポリビニルアルコールを製造するためには、適宜、重合度、けん化度をそれ自体公知の方法で制御することによって達成される。
【0017】
なお、こうした部分けん化ポリビニルアルコールは、市販品を使用することも可能であり、好ましいポリビニルアルコールの市販品としては、例えばゴーセノールEG05、EG25(日本合成化学製)、PVA203(クラレ社製)、PVA204(クラレ社製)、PVA205(クラレ社製)、JP−04(日本酢ビ・ポバール製)、JP−05(日本酢ビ・ポバール製)等が挙げられる。なお、本発明組成物の主成分のポリビニルアルコール共重合体の製造においては、原料としてポリビニルアルコールを単独で使用するのみならず、重合度、けん化度の異なる2種以上のポリビニルアルコールを目的に応じて適宜併用することができる。例えば、平均重合度300のポリビニルアルコールと平均重合度1500のポリビニルアルコールとを混合して使用することが可能である。
【0018】
本発明においては、原料としてのポリビニルアルコールは各種変性ポリビニルアルコールを使用することができ、例えばアミン変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、チオール変性ポリビニルアルコール等をあげることができる。これらの変性ポリビニルアルコールは、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0019】
原料のポリビニルアルコールと重合させる重合性ビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類又はそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウ塩、アルキルアミン塩)、それらのエステル類(例えば置換又は非置換のアルキルエステル、環状アルキルエステル、ポリアルキレングリコールエステル)、不飽和ニトリル類、不飽和アミド類、芳香族ビニル類、脂肪族ビニル類、不飽和結合含有複素環類等を挙げることができる。具体的には、(1)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート(ポリエチレングリコールとアクリル酸とのエステル)、ポリプロピレングリコールアクリレート(ポリプロピレングリコールとアクリル酸とのエステル)などが、(2)メタクリル酸エステル類としては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート(ポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル)などが、(3)不飽和ニトリル類としては、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどが、(4)不飽和アミド類としては例えばアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどが、(5)芳香族ビニル類としてはスチレン、α−メチルスチレンなどが、(6)脂肪族ビニル類としては、酢酸ビニルなどが、(7)不飽和結合含有複素環類としては、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリンなどが例示される。
【0020】
これらの重合性ビニル単量体は、1種または2種以上を組み合わせてポリビニルアルコールと共重合させることができるが、好ましい組み合わせは、アクリル酸とメタクリル酸エステル(例えばメチルメタクリレート)との混合物をポリビニルアルコールと共重合させるのがよい。ここにポリビニルアルコールと重合性ビニル単量体との共重合する際のそれぞれの重量比は、約6:4から9:1、好ましくは約8:2である。また、重合性ビニル単量体としてアクリル酸とメチルメタクリレートを使用する場合には、その重量比は約3:7から約0.5:9.5、好ましくは約1.25:8.75である。本発明でコーティング組成物の主成分として使用する好ましいポリビニルアルコール共重合体は、ポリビニルアルコール(平均重合度約200〜1300)、メチルメタクリレート及びアクリル酸からなり、その重量比は約60〜90:7〜38:0.5〜12、好ましくは約80:17.5:2.5である。
なお、共重合する際におけるポリビニルアルコール、メチルメタクリレート及びアクリル酸のそれぞれの重量比は、共重合体中のポリビニルアルコール、メチルメタクリレート及びアクリル酸の重合比と同じであり、それぞれ60〜90:7〜38:0.5〜12である。この重合比は、NMRで測定が可能である。
【0021】
重合開始剤としては、当該分野で用いられているものを使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、過酢酸やターシャリ−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物、あるいは2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。
【0022】
本発明のコ−テイング組成物は、種々の形態を取りうるが、一般に医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等への実際の適用にあたっては、水性溶液、水性分散液、有機溶媒溶液あるいは有機溶媒分散液の形態で散布、噴霧等の手段により実施するのが好ましい。
本発明のコ−テイング組成物は、医薬、動物薬、農薬、肥料、食品等の不快臭のマスキング効果を有しているが、そのような不快臭としては、例えば医薬(例えばL−システイン、塩酸チアミン、メチオニン、消化酵素製剤、各種生薬類)あるいは農薬由来の独特な不快臭あるいは刺激臭、さらには各種食品由来の不快臭(例えば、魚臭、レトルト臭、獣肉臭など)等が挙げられ、こうした臭いの抑制に効果的である。また、医薬、食品等の苦味のマスキング効果も有しており、そのような苦味を呈する医薬としては、アセトアミノフェン、塩酸ピリドキシン、無水カフェイン、クロルプロマジン、エリスロマイシン、フェノバルビタール、塩酸プロメタジンが挙げられる。さらに、他剤との相互作用が懸念される不安定な医薬、例えば混合によって融点降下を生じるイソプロピルアンチピリンとアセトアミノフェンや、混合によって変色するフェニルプロパノールアミンとマレイン酸クロルフェニラミンなどに対して、本発明のコ−テイング組成物を適用することにより、そのような相互作用が防止できる。
さらにまた、本発明のコ−テイング組成物は、酸素透過防止効果をも有するので、酸化分解を受けやすい医薬(例えばアスコルビン酸、ビタミンA、ビタミンEなど)、動物薬、農薬、肥料、食品のコーティングに有用である。
【実施例】
【0023】
以下に、製造例、実施例及び比較例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら制限されるものではない。
【0024】
〔製造例〕
冷却還流管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにPVA(EG05、重合度500、けん化度88%、日本合成化学製)175.8g、イオン交換水582.3gを仕込み常温で分散させた後95℃で完全溶解させた。次いでアクリル酸5.4g、メチルメタクリレート37.3gを添加し、窒素置換後50℃まで昇温した後、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド8.5g、エリソルビン酸ナトリウム8.5gを添加し、4時間で反応を終了しPVA共重合体を得た。これを通常の方法により、乾燥・粉砕してPVA共重合体粉末を得た。
【0025】
〔実施例1〕 高濃度コーティング実施例
製造例で得たPVA共重合体を14重量%の水溶液とし、PVA共重合体水溶液を、2流体ノズルを有する通気式コーティング装置(ハイコーター フロイント産業製)を用いてφ7mm、重量130mgの素錠20,000錠に4mg/錠のコーティングを行った.この結果、被覆時間83分で良好な外観と水を試験液として2分50秒の崩壊性を示すフィルムコート錠が得られた。この時のコーティング液粘度は25℃で104mPa・sを示し、通常用いる2流体ノズルでコーティングに適した均一な微細ミストが得られた。さらに識別のために刻印を施した錠剤にこの処方例を適用するとき、断面SEM写真(図1及び図2参照)に示す通り、水溶性セルロース誘導体の水溶液でコーティングする際に、素錠表面との付着力不足時に見られるフィルムの収縮、浮き上がりに伴う刻印の不明瞭化(ブリッジング現象)(図2)はなく、本発明の良好な付着のために明瞭な刻印錠(図1)が得られた。両者の素錠表面に対するコーティング剤の付着力を島津オートグラフ(AG−500B)で測定した結果、水溶性セルロース誘導体の付着力は0.32Nを示したのに対し、本発明のコーティング剤の付着力は約3.4倍の1.10Nを示し、本発明のフィルムには明らかに素錠に対する強い付着性が認められた。
【0026】
得られたコーティング錠の崩壊特性は日本薬局方の第一液や第二液、水など試験液のpHにかかわらず同じ崩壊性を示し、さらに難溶性薬物製剤の溶出試験時に可溶化剤として添加するポリソルベートなどの界面活性剤の存在による影響も受ける事はない。コーティングされた製剤は包装工程や市場流通時のストレスに対しても十分な物理的強度を有している。なお、この処方例には一般的に製剤に用いられる着色剤や光沢化剤、遮光を目的とする添加剤などの配合も行うことができ、識別のための錠剤表面への印刷も可能である。
【0027】
〔比較例1〕
現在水溶性フィルムコーティング剤として最も汎用されているHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の液濃度を8重量%として調製した水溶液を、2流体ノズルを有する通気式コーティング装置(ハイコーター フロイント産業)を用いてφ7mm、重量130mgの素錠20,000錠に4mg/錠のコーティングを行った。この結果、このときのコーティング液粘度は実施例1の液濃度14重量%に対して8重量%と低濃度にもかかわらず25℃でほぼ同じ粘度の108mPa・sを示した。 コーティング錠の外観は良好で、水を試験液とする崩壊時間も3分といずれも実施例1と同等の結果であったが、この比較例の被覆時間は同じ被覆量4mg/錠を被覆するのに、低濃度と粘着性のためにその所要時間は実施例1の場合の約2倍の171分を要した。
【0028】
〔実施例2〕 微小粒子コーティング実施例
粒子径40〜300μm(平均135μm)のアセトアミノフェン結晶(岩城製薬製)800gを、内筒を有する流動層コーティング装置(FD−MP−01 パウレック社)に仕込んだ。上記製造例と同様に製造した重合度300のPVA共重合体水溶液(10重量%)を、円筒内を高速で移動する粒子に対し、内筒下部よりスプレーするボトムスプレー方式により以下のコーティング条件でスプレーして、アセトアミノフェンに対し10重量%被覆した。なお、スプレー液は室温で、コーティング途中のシェーキングは随時実施した。また、被覆の均一性を調べるために水溶液は黄色5号色素で着色した。
【0029】
なお、流動層造粒機コーティング条件は以下のとおりである。
給気温度:80℃; 給気風量:0.7m/分; 液供給量:8g/分; 排気温度:36〜37℃; アトマイズエアー:50NL/分; 内筒高さ:15mm; 後乾燥:15分; スプレー時間:96分
【0030】
上記条件で10重量%濃度のPVA共重合体水溶液をスプレーした結果、スプレー中の流動不良や結晶の凝集状態は認められず、常に良好な流動状態を示して、均一に着色、被覆されたアセトアミノフェンが得られた。この被覆されたアセトアミノフェンは、服用時に未被覆品に対し苦味が緩和され、明らかに苦味マスキングの効果が得られた。PVA共重合体を10重量%被覆したアセトアミノフェン結晶の断面および表面のSEM写真をそれぞれ図3及び図4に示すが、2次凝集した粒子は見られず、結晶粒子の表面はPVA共重合体によって均一に被覆されている。このPVA共重合体被覆アセトアミノフェンと未被覆のイソプロピルアンチピリンの同量混合物および対照としていずれも未被覆の両薬物を60℃密栓下で1週間保存した結果、未被覆品は融点降下を起こして溶融傾向がみられたのに対し、PVA共重合体被覆のアセトアミノフェンの混合品は異常が認められず、明らかに原薬被覆の効果がみられた。このことは、PVA共重合体被覆により製剤研究者に良く知られている薬物相互の接触によって発生する含量低下や、着色変化などの配合変化を防止し得ることを示している。 通常、 微粒子コーティングはタルクや油脂類などの付着防止剤を配合して2次凝集を防止するが、PVA共重合体の微粒子のコーティングにはそれらの配合は不要である。
【0031】
〔実施例3〕 臭いのマスキング実施例
アスピリン50重量%を含有する円柱顆粒を製造し、これに腸溶コーティングを施した。この腸溶コーテイング顆粒は、経時的に酢酸臭を発してくるが、それぞれ出発原料を変えて製造例と同様に製造したPVA共重合体(重合度300と500)の10重量%水溶液を、腸溶顆粒に対し10重量%スプレーコーティングし、酢酸臭のマスキングを試みた。合成二分子膜に臭い分子を吸着させて臭い強度を測定するニオイセンサーSF−105(相互薬工製)、センサー素子112AJにより試験した結果、図5に示す通り酢酸臭は著しく低減し、とくに重合度500のPVA共重合体で被覆した場合には官能的にも酢酸臭を感じなくなるまでマスキングできた。
また、特異な臭気を有するパンクレアチンを含む消化酵素製剤も、上記製造例と同様にして製造された重合度300と500のPVA共重合体水溶液をスプレーして臭気のマスキングを試みたが、アスピリン顆粒と同様に重合度500のPVA共重合体で被覆したとき、酵素に特有の臭いは明らかに減少した。
【0032】
〔実施例4〕 酸素透過防止効果の実施例
アスコルビン酸とその酸化分解を促進するために硫酸銅を配合した錠剤(直径:10.5mm、厚み:4.2mm)を調製し、酸素透過防止を目的として実施例3と同様にして製造した重合度500の10重量%PVA共重合体水溶液(粘度:26mPa・s)を用いて2流体ノズルを有する通気式コーティング機ハイコーター(フロイント産業製)で被覆した。40℃相対湿度70%にて、空気環境下(A)と窒素置換した無酸素環境下(B)の条件下にアスコルビン酸の経時による残存率変化を測定した。比較例として素錠(直径:10.5mm、厚み:4.2mm)およびそれに汎用水溶性フィルムコーティング剤のHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を同様に被覆したコーティング錠をそれぞれ上記A環境とB環境下で保存し、アスコルビン酸の安定性を比較検討した。なお、窒素置換した無酸素環境下で保存した素錠についても同様に試験した。錠剤組成と被覆条件を以下に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
コーティング条件:
コーティング機:ハイコーターHCT−48; スプレーガン:2流体;ノズル口径0.6mm; 錠剤仕込み量:10,000錠; パン回転数:24rpm; 噴霧空気:70L/分; 送風温度:60℃; 送風量:3m/分; 排気量:4.5m/分.
【0035】
図6に示した通り、汎用水溶性フィルムコート剤HPMCで被覆した製剤は素錠と同程度のアスコルビン酸残存率を示し、酸素透過防止効果は認められないのに対し、PVA共重合体で被覆した製剤はアスコルビン酸安定化効果において、無酸素下加温、加湿条件で保存した素錠と同程度の安定性を示し、高い酸素透過防止効果が認められた。
【0036】
〔実施例5〕 糖衣コーティング
乳糖、コーンスターチを成分とするφ8mm、重量167mg/錠の模擬素錠2万錠を通気式コーティング装置(ハイコーター48型フロイント産業)に仕込み、実施例2と同様にして製造したPVA共重合体(重合度500)を含む以下の組成のコーティング液1および2を製した。
このときPVA共重合体は白糖水溶液とよく相溶し、適度な粘性を有する澄明なシロップ液となった。自動糖衣コーティングの常法に従い、2流体ノズルによるこの液のスプレーと無風および乾燥を繰り返して、コーティング液1を90mg/錠まで、コーティング
液2を13mg/錠までそれぞれ被覆した。さらにこの錠剤を常法により、艶出しコーティングを行った。コーティング液組成を以下に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
得られた糖衣錠は、光沢を有する通常製剤と同等の外観を有し、かつ水で試験した崩壊時間は7〜8分と早い崩壊性を示した。
【0040】
[実施例6]ウイスカー抑制効果
1錠255mg中にカフェイン50mg、グアヤコールスルホン酸カリウム30mgを含む錠剤に、実施例3と同様にして製造した平均重合度500のPVA共重合体を含む13mgの下記フィルム組成物を被覆した。フィルム組成および被覆条件を以下に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
被覆条件:
コーティング機:ハイコーターHCT−48;スプレーガン:2流体;ノズル口径0.6mm;錠剤仕込み量:17000錠;パン回転数:20rpm;噴霧空気:70L/分;
送風温度:55℃;送風量:2.5m/分;排風量:4.5m/分
【0043】
図7に示した通り、得られたPVA共重合体被覆錠と未被覆錠をガラス瓶密栓の状態で60℃に加温した結果、未被覆錠を保存したガラス瓶は1ヶ月でウイスカーによる曇りを生じたが、PVA共重合体被覆錠は変化を認めなかった。
【0044】
[実施例7]顆粒剤、錠剤などの結合剤として用いる実施例
1.顆粒剤
製造例で得た重合度300のPVA共重合体を5重量%の水溶液にし、攪拌造粒機に仕込んだアセトアミノフェン1.5kg、サリチルアミド2.7kg、無水カフェイン0.6kg、他に崩壊剤と賦形剤を含む混合末合計7kgに5重量%の水溶液1.4kgを添加して攪拌混合した。得られた練合物をφ0.7mmの穴径から押し出し、押し出し造粒法によって造粒物を得た。造粒物は常法に従い乾燥、および高速回転するナイフとバスケツトを有するパワーミルによって調粒を行い、外観の良好な顆粒剤を得た。
【0045】
得られたφ0.7mmの顆粒製剤は、水を試験液として崩壊試験を行うとき、30秒以内の早い溶解性を示し、実施例2の微小粒子のコーティングで示した流動層コーティング装置による激しい流動下でのコーティングにも、摩損、粉化を示すことのない強度をもつ顆粒剤が得られた。なお、この顆粒剤は6ヶ月後も外観、溶解性に変化を認めなかった。
【0046】
2.錠剤
製造例で得た重合度500のPVA共重合体を5重量%の水溶液にし、攪拌造粒機に仕込んだアセトアミノフェン0.3kg、乳糖1.89kg、コーンスターチ0.81kgを含む混合末に5重量%水溶液を0.9kg添加して攪拌混合した。得られた造粒物を流動層乾燥し、パワーミルで調粒した顆粒に0.5重量%のステアリン酸マグネシウムを添加混合した。得られた製錠顆粒を用いて、ロータリー式打錠機でφ7mm、重量125mg、厚み2.85mmの素錠を得た。
【0047】
得られた素錠の硬度は50Nであり、錠剤の割れや欠けなどの外観不良を認めず、さらに水を試験液とする崩壊時間は2分で早い崩壊性を示した。なおこの顆粒剤は6ヶ月後も外観、溶解性に変化を認めなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の樹脂組成物は、医薬、動物薬、農薬、肥料又は食品用のコーティング剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度200以上1300以下のポリビニルアルコールと、不飽和カルボン酸、それらの塩、及び不飽和カルボン酸のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性ビニル単量体とを重量比で6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体を含むことを特徴とする医薬の結合剤。
【請求項2】
平均重合度200以上1300以下のポリビニルアルコールと、不飽和カルボン酸、それらの塩、及び不飽和カルボン酸のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性ビニル単量体とを重量比で6:4〜9:1の割合で共重合させて得られる共重合体を含むことを特徴とする錠剤又は顆粒剤の結合剤。
【請求項3】
2以上の重合性ビニル単量体を共重合させたものであり、少なくとも1つが不飽和カルボン酸又はそれらの塩であり、少なくとも1つが不飽和カルボン酸のエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の結合剤。
【請求項4】
不飽和カルボン酸又はそれらの塩が、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれるものであり、不飽和カルボン酸のエステルが一般式[I]
C=C(R)−COOR [I]
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の結合剤。
【請求項5】
不飽和カルボン酸、又はそれらの塩が、アクリル酸又はその塩であり、不飽和カルボン酸のエステルがメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項4に記載の結合剤。
【請求項6】
共重合する際におけるアクリル酸又はその塩とメチルメタクリレートの重量比が3:7〜0.5:9.5であることを特徴とする請求項5に記載の結合剤。
【請求項7】
さらに水を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の結合剤。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−1376(P2011−1376A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200236(P2010−200236)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【分割の表示】特願2005−513265(P2005−513265)の分割
【原出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(598005661)日新化成株式会社 (9)
【出願人】(591195592)大同化成工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】