説明

方位角計測装置

【課題】ホール素子を用いて検出された地磁気に基づいて、方位を計測する。
【解決手段】補正値記憶部7には、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの基準値Lx、Lyが記憶され、補正計算部6は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力増幅値Dx、Dyから回路的にキャンセル可能なオフセットを減じ、さらに基準値Lx、Lyを減算することにより、地磁気の各軸成分に比例した値α、βだけを取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は方位角計測装置に関し、特に、地磁気を検出して方位を求める場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPDAなどの普及により、歩行者用ナビゲーションシステムのニーズが高まっており、歩行者の現在位置と共に進行方向を計測するための方位センサシステムの需要が高まっている。
歩行者の進行方向を計測するために、従来から行われている方法として、感度の高いフラックスゲートセンサにより地磁気を検出して方位を求める方法があった。なお、このような従来技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−70049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フラックスゲートセンサでは、コア材や巻線が使われるため、装置が大型化するとともに、価格も高価になり、さらに、携帯電話内で近くにスピーカ等磁気を発生する物があった場合には、その磁気によってコア材が飽和してしまい、地磁気の測定ができなくなるため、歩行者用ナビゲーションシステムなどに用いるには不向きであった。
そこで、本発明の目的は、感度の低い磁気センサを用いたか、近くに地磁気より大きな磁気を発生する物がある移動機器内に搭載された場合においても、地磁気から方位を計測することが可能な方位角計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の方位角計測装置によれば、移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、地磁気を検出する2軸以上の磁気センサと、前記磁気センサの各軸出力に対する基準値を記憶する第1の補正値記憶部と、前記磁気センサの出力増幅値から前記基準値を減算する第1の補正計算部を備えると共に、前記第1の補正計算部による出力補正値に基づいて、前記移動機器が向かっている方位を計算する方位角計算部と、を備え、前記方位角計測装置は、前記磁気センサの出力から回路的にキャンセル可能なオフセットを減じた出力値に対し、前記基準値を減算することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2記載の方位角計測装置によれば、前記磁気センサの内少なくとも1つは、ホール素子であることを特徴とする。
また、請求項3記載の方位角計測装置によれば、前記ホール素子は、当該ホール素子を駆動する電源の入力端子と、前記ホール素子の電圧出力端子の接続を切り替えるチョッパ部を含み、前記ホール素子は、互いに対向する位置に設けられた2つの端子でなる第1端子対及び第2端子対を有し、前記チョッパ部は、前記第1端子対が入力端子として使用されるときには前記第2端子対が出力端子として使用され、前記第2端子対が入力端子として使用されるときには前記第1端子対が出力端子として使用されるように入力端子と出力端子とを切り替えながら出力端子から出力電圧を外部に出力し、前記入力端子と前記出力端子とを切り替えて出力された前記出力電圧を加減算することにより、前記ホール素子の出力に含まれる回路的にキャンセル可能なオフセットの大部分を相殺した後に、前記基準値を減算することを特徴とする。
【0007】
また、請求項4記載の方位角計測装置によれば、前記磁気センサは、地磁気を検出する3軸以上の磁気センサであり、2軸以上の傾斜センサと、前記傾斜センサの各軸出力値に基づいて、前記移動機器が水平面に対して傾いている傾斜角を計算する傾斜角計算部と、前記第1の補正計算部による磁気センサ出力補正値および前記2軸以上の傾斜角計算値に基づいて、前記移動機器が向かっている水平面の方位を計算する方位角計算部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項5記載の方位角計測装置によれば、前記磁気センサは、地磁気を検出する3軸以上の磁気センサであり、傾斜角を設定する傾斜角設定手段と、前記第1の補正計算部による磁気センサ出力補正値および前記傾斜角設定手段により設定された傾斜角に基づいて、前記移動機器が向かっている水平面の方位を計算する方位角計算部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項6記載の方位角計測装置によれば、前記第1の補正値記憶部は、前記移動機器の使用状態に対応した複数の基準値を記憶し、前記第1の補正計算部は、前記移動機器の使用状態に対応した基準値を選択して減算を行うことを特徴とする。
また、請求項7記載の方位角計測装置によれば、移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、前記2軸以上の磁気センサの感度比を記憶する第2の補正値記憶部をさらに備えると共に、前記磁気センサの出力値に前記感度比を乗算する第2の補正計算部を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項8記載の方位角計測装置によれば、移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、前記2軸以上の磁気センサの出力増幅値から前記基準値を減算した出力補正値を積算平均する積算平均部を備えることを特徴とする。
また、請求項9記載の方位角計測装置によれば、前記ホール素子を駆動する電源の入力端子と、前記ホール素子の電圧出力端子の接続を切り替えるチョッパ部を備えると共に、前記チョッパ部を利用して前記ホール素子の出力に含まれるオフセットの大部分を相殺した後に、前記基準値を減算する第3の補正計算部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、感度の低い磁気センサを用いた場合においても、また、移動機器内の近くに地磁気より大きい磁気を発生する物がある場合においても、地磁気に基づいて移動機器の方位を計測することが可能となり、方位角計測装置の小型・低価格化、並びに搭載可能移動機器の条件緩和を図ることできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るチョッパ部の駆動方法および出力信号を示す図である。
【図3】図1の補正計算部6および方位角算出部8の動作例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る補正値の一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る地磁気ベクトルと回転軸の関係を示す図である。
【図8】図5の補正計算部16、傾斜角計算部20および方位角算出部18の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る方位角計測装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
図1において、2軸磁気センサ1、チョッパ部2、磁気センサ駆動電源部3、差動入力アンプ4、A/D変換部5、補正計算部6、補正値記憶部7および方位角計算部8が設けられ、2軸磁気センサ1には、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyが設けられている。
【0014】
ここで、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyは地磁気を検出するためのもので、例えば、InSbやInAs、GaAsなどの化合物半導体系であることが好ましい。
チョッパ部2はx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyを駆動する端子を切り換えるためのもので、磁気センサ駆動電源部3から出力された駆動電圧をx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyに印加する。
【0015】
ここで、チョッパ部2は、例えば、90°チョッパ駆動や360°チョッパ駆動などを用いることができる。なお、90°チョッパ駆動では、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyを駆動する際に、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力に含まれるホール素子自身のオフセット項を大部分キャンセルすることができる。
また、360°チョッパ駆動では、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力に含まれるホール素子自身のオフセット項だけでなく、後段のアンプ自身による電気的なオフセット項もキャンセルすることができる。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係るチョッパ部2の360°チョッパ駆動方法および出力信号を示す図である。
図2において、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyには4つの端子T1〜T4が設けられている。そして、360°チョッパ駆動方法では、4つの位相ごとに、入力端子および出力端子を切り換えながら、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyを駆動する。
【0017】
ここで、位相が0°の場合は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T1、T3を入力端子として使い、端子T3をLOWレベルに設定するとともに、端子T1をHighレベルに設定する。そして、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T2、T4を出力端子として使い、端子T2から電圧V1を取り出すとともに、端子T4から電圧V2を取り出すことにより、差動増幅後の出力D0=(V1−V2)として、D0=(H1+H2+F1+F2)+F3という値を得ることができる。
【0018】
ただし、H1は、地磁気等移動機器外部に起因する磁界のホール素子感磁軸成分に比例するホール電圧、H2は、スピーカの磁石等移動機器内部に起因する磁気のホール素子感磁軸成分に比例するホール電圧、F1は、入力端子・出力端子の位相を90度回転させた時に、ホール電圧に対して符号が反転するx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyのオフセット電圧、F2は、入力端子・出力端子の位相を90度回転させた時に、ホール電圧に対して符号が変わらないx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyのオフセット電圧であり、通常は、F1≫F2であって、F1がホール素子自身のオフセット電圧の大部分を占めている。また、F3は、差動入力アンプ4のオフセット電圧である。
【0019】
位相が90°の場合は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T2、T4を入力端子として使い、端子T4をLOWレベルに設定するとともに、端子T2をHighレベルに設定する。そして、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T1、T3を出力端子として使い、端子T1から電圧V1を取り出すとともに、端子T3から電圧V2を取り出すことにより、差動増幅後の出力D90=(V1−V2)として、D90=(H1+H2−F1+F2)+F3という値を得ることができる。
【0020】
位相が180°の場合は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T3、T1を入力端子として使い、端子T1をLOWレベルに設定するとともに、端子T3をHighレベルに設定する。そして、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T2、T4を出力端子として使い、端子T2から電圧V1を取り出すとともに、端子T4から電圧V2を取り出すことにより、差動増幅後の出力D180=(V1−V2)として、D180=−(H1+H2+F1+F2)+F3という値を得ることができる。
【0021】
位相が270°の場合は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T4、T2を入力端子として使い、端子T2をLOWレベルに設定するとともに、端子T4をHighレベルに設定する。そして、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの各端子T1、T3を出力端子として使い、端子T1から電圧V1を取り出すとともに、端子T3から電圧V2を取り出すことにより、差動増幅後の出力D360=(V1−V2)として、D360=−(H1+H2−F1+F2)+F3という値を得ることができる。
【0022】
そして、これらの出力を以下の式で計算することにより、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyのオフセット項の大部分およびアンプの電気的オフセット項をキャンセルして、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力から、回路的にキャンセル可能なオフセット項を減じて、温度変化等による出力の変化を少なくすることができる。
(D0+D90−D180−D360)=H1+H2+F2
【0023】
次に、図1において、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyから出力された信号は、差動入力アンプ4で増幅され、ここで増幅された出力増幅値Dx、DyがA/D変換部5でデジタル信号に変換された後、補正計算部6に入力される。
ここで、補正値記憶部7には、上記H2+F2に相当するx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの基準値Lx、Lyが記憶され、補正計算部6は、この基準値Lx、Lyを用いることにより、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力増幅値Dx、Dyを補正し、上記H1に相当する地磁気の各軸成分に比例した値α、βだけを取り出す。
【0024】
なお、補正値記憶部7に記憶される基準値Lx、Lyとして、方位角計測装置を携帯機器に入れた状態で、チョッパ駆動して測定したx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの基準値Lx、Lyを記憶させることができる。
そして、補正計算部6は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力増幅値Dx、Dyから、この基準値Lx、Lyを減算することにより、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力から、地磁気の各軸成分に比例した値α、βだけを取り出すことができる。
【0025】
補正計算部6において地磁気の各軸成分に比例した値α、βが取り出されると、この値α、βは方位角計算部7に出力される。そして、方位角計算部7は、地磁気の各軸成分に比例した値α、βの符号と、θ=arcTAN(β/α)の式に基づいて、方位角θを算出する。
これにより、たとえ地磁気から得られる信号が微弱なため、チョッパ部2でオフセットをキャンセルした後の残留オフセット値が、信号成分と同等レベル以上残っている場合においても、また、携帯機器の近くに、スピーカ等地磁気より大きい磁気を発生するものがある場合においても、方位角の算出を行うことが可能となる。
【0026】
図3は、図1の補正計算部6および方位角算出部8の動作例を示すフローチャートである。
図3において、補正計算部6は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力増幅値Dx、Dyを取得すると(ステップS1)、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの基準値Lx、Lyを補正値記憶部7から取得する(ステップS2)。
【0027】
次に、補正計算部6は、x軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyの出力増幅値Dx、Dyから基準値Lx、Lyを減算することにより、地磁気の各軸成分に比例した値α、βだけを取り出し(ステップS3)、方位角算出部8に出力する。
次に、方位角算出部8は、地磁気の各軸成分に比例した値α、βを用いることにより、方位角θを算出し(ステップS4)、算出した方位角θを出力する(ステップS5)。
【0028】
図4は、本発明の第2実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
図4において、図1の補正計算部6の後段には、補正計算部6から出力された信号を積算平均するための積算平均部9が設けられている。そして、方位角計算部8は、この積算平均値に基づいて方位角θを算出する。
通常、携帯機器、特に、携帯電話等電源容量に限りがある機器の場合には、消費電力を抑えたり、計算速度を速めたりするために、固定小数点演算を行うことが多い。
【0029】
このような場合、ホール素子の出力から基準値を減算して、絶対値を小さくした後に積算平均を行うことにより、計算のオーバーフローを防ぎ、計算精度を高く保つことが容易になる。
これにより、地磁気の各軸成分に比例した値α、βのみを積算平均して、S/N比を向上させることができ、感度の低いx軸ホール素子HExおよびy軸ホール素子HEyを用いた場合においても、歩行者の進行方向を計測するために必要な角度分解能を確保することができる。
【0030】
図5は、本発明の第3実施形態に係る方位角計測装置の構成を示すブロック図である。
図5において、3軸磁気センサ11、チョッパ部12、磁気センサ駆動電源部13、差動入力アンプ14、A/D変換部15、補正計算部16、補正値記憶部17、方位角計算部18、積算平均部19、傾斜角計算部2F2軸傾斜センサ21および傾斜センサ駆動電源部22が設けられ、3軸磁気センサ11には、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzが設けられている。
【0031】
なお、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzは地磁気を検出するためのもので、例えば、InSbやInAs、GaAsなどの化合物半導体系であることが好ましい。
ここで、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzはチョッパ部12により駆動端子が入れ換えられる。そして、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzから出力された信号は、差動入力アンプ14で増幅され、ここで増幅された出力増幅値Dx、Dy、DzがA/D変換部15でデジタル信号に変換された後、補正計算部16に入力される。
また、2軸傾斜センサ21は、方位角計測装置が搭載される携帯端末の傾きを計測し、その計測結果Ka、Kbを補正計算部16に出力する。
【0032】
ここで、補正値記憶部17には、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの基準値Lx、Ly、Lzに加え、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの感度比Gx、Gy、Gzが記憶される。
そして、補正計算部16は、これらの基準値Lx、Ly、Lzおよび感度比Gx、Gy、Gzを用いることにより、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの出力増幅値Dx、Dy、Dzを補正し、地磁気の各軸成分に比例した値α、β、γだけを取り出す。
【0033】
図6は、本発明の一実施形態に係る基準値Lx、Ly、Lzおよび感度比Gx、Gy、Gzの一例を示す図である。
図6において、各ホール素子HEx、HEy、HEzの地磁気感度値(地磁気水平成分の最大値に対応する各ホール素子HEx、HEy、HEzの出力値)は、17.3、15.9、18.0である。
【0034】
また、方位角計測装置を携帯機器に入れる前の状態で、チョッパ駆動なしで測定した各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値(mV)は、−164.5、301.0、1064.0、方位角計測装置を携帯機器に入れる前の状態で、チョッパ駆動ありで測定した各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値(mV)は、25.3、22.8、16.8、方位角計測装置を携帯機器に入れた後の状態で、チョッパ駆動なしで測定した各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値(mV)は、−58.1、253.8、774.7、方位角計測装置を携帯機器に入れる前の状態で、チョッパ駆動ありで測定した各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値(mV)は、131.7、−24.4、−272.5である。
【0035】
なお、ホール素子HEx、HEy、HEzは、旭化成電子(株)製:HW105Cを用い、駆動電圧:1.0V、差動入力アンプゲイン:500倍とした。
また、地磁気感度値として、ホール素子感磁軸が水平になるように配置し、水平面で1周等速回転させて、この時の最大出力と最小出力との差を2で割った値を用いた。
また、オフセット値として、ホール素子感磁軸が水平になるように配置し、水平面で1周等速回転させて、この時の出力を1周積分平均した値を用いた。
【0036】
このように、ホール素子の地磁気感度値は、同一製品を用いた場合においても、各ホール素子HEx、HEy、HEzごとにばらつきがあり、地磁気などのように微弱な信号を計測する場合には無視できない。
また、携帯機器のスピーカなどに使用される磁石からの磁気の影響のため、方位角計測装置を携帯機器に入れる前後で、各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値は大きく異なり、その差はチョッパを用いた場合においても、地磁気を測定した場合の各ホール素子HEx、HEy、HEzの信号成分と同等レベルかそれ以上ある。
【0037】
このため、方位角計測装置を携帯機器に搭載して使用する場合、各ホール素子HEx、HEy、HEzの感度補正値(比率の逆数)および位角計測装置を携帯機器に入れた後の状態で測定した基準値を補正値記憶部17に記憶する。
そして、図5の補正計算部16は、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの出力増幅値Dx、Dyを、補正値記憶部17に記憶されている感度補正値および方位角計測装置を携帯機器に入れた後の状態で測定した基準値を用いて補正する。
【0038】
そして、方位角計算部18は、その補正後の地磁気の3軸データα、β、γと、傾斜角計算部20で算出された2軸の傾斜角φ、ηとを用いることにより、方位角θを算出する。
これにより、方位角計測装置が搭載された携帯端末が傾いている場合においても、微弱な地磁気を用いて方位を算出することができる。
【0039】
なお、図6の実施形態では、方位角計測装置を携帯機器に入れる前後で、各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値が大きく異なる例について示したが、各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値は、方位角計測装置を携帯機器に入れる前後ばかりでなく、携帯機器の使用状態によっても異なる。
例えば、折り畳み式の携帯電話では、携帯電話を折り畳んだ状態と、携帯電話を閉じた状態とでは、各ホール素子HEx、HEy、HEzのオフセット値が異なる。
【0040】
このため、各ホール素子HEx、HEy、HEzについて、携帯機器の使用状態ごとの複数のオフセット値を補正値記憶部17に記憶し、方位計算部16が現在の携帯機器の使用状態に対応したオフセット値を選択して、方位を算出するようにしてもよい。
ここで、感度とオフセットが補正された3軸の地磁気データα、β、γおよび2軸の傾斜角データφ、ηを用いて方位角θを算出する場合、以下の計算アルゴリズムを用いることができる。
【0041】
図7は、方位角θを算出する場合の地磁気ベクトルと回転軸の関係を示す図である。
図7において、地磁気ベクトル(x、y、z)に対応してTMx軸を設定し、このTMx軸に直交する2軸をTMy軸、TMz軸とする。
また、方位角計測装置を携帯端末10に搭載して用いる場合において、地磁気ベクトル(x、y、z)に対する携帯端末10の方位をθ、俯角をδとする。また、携帯端末10は水平面から長手方向にφ、短手方向にηだけ傾いているものとする。
【0042】
そして、俯角δを補正するために、TMy軸の周りに、−δだけ回転させ、この回転後の軸をHX、HY、HZとする。
次に、HZ軸の周りに、θだけ回転させ、この回転後の軸をM1x、M1y、M1zとする。
次に、M1y軸の周りに、−φだけ回転させ、この回転後の軸をM2x、M2y、M2zとし、さらに、M2x軸の周りに、−ηだけ回転させる。
これらの回転により、地磁気ベクトル(x、y、z)と各ホール素子H1〜H3からの出力(α、β、γ)との間には、以下の(1)式が成り立つ。
【0043】
【数1】

【0044】
そして、地磁気ベクトル(x、y、z)=(1、0、0)の関係より、各ホール素子H1〜H3からの出力(α、β、γ)を求めると、以下の(2)式が得られる。
【0045】
【数2】

【0046】
次に、(2)式のαの式を変形すると、以下の(3)式が得られる。
【0047】
【数3】

【0048】
次に、(3)式を(2)式のβ、γの式に代入すると、以下の(4)、(5)式が得られる。
【0049】
【数4】

【0050】
次に、(4)、(5)式からcos(δ)を求めると、以下の(6)式が得られる。
【0051】
【数5】

【0052】
次に、(6)式を変形して方位角θを求めると、以下の(7)式が得られる。
【0053】
【数6】

【0054】
このように、3軸の地磁気データα、β、γおよび2軸の傾斜角データφ、ηを用いることにより、俯角δを用いることなく、方位角θを算出することができる。
図8は、図5の補正計算部16、傾斜角計算部20および方位角算出部18の動作例を示すフローチャートである。
図8において、補正計算部16は、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの出力増幅値Dx、Dy、Dzを取得すると(ステップS11)、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの基準値Lx、Ly、Lzを補正値記憶部17から取得する(ステップS12)。
【0055】
次に、補正計算部16は、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの出力増幅値Dx、Dy、Dzから基準値Lx、Ly、Lzを減算する(ステップS13)。そして、x軸ホール素子HEx、y軸ホール素子HEyおよびz軸ホール素子HEzの感度比Gx、Gy、Gzを用いて減算結果を補正し、地磁気の各軸成分に比例した値α、β、γだけを取り出した後(ステップS14)、方位角計算部18に出力する。
【0056】
次に、傾斜角計算部20は、2軸傾斜センサ21の出力値Ka、Kbを取得する(ステップS15)。そして、出力値Ka、Kbを用いて傾斜角φ、ηを計算し(ステップS16)、方位角計算部18に出力する。
次に、方位角計算部18は、地磁気の各軸成分に比例した値α、β、γと傾斜角φ、ηとを用いることにより、方位角θを算出し(ステップS17)、算出した方位角θを出力する(ステップS18)。
なお、上述した実施形態では、傾斜角φ、ηを求めるために、2軸傾斜センサ21の計測値を用いる方法について説明したが、傾斜角を使用者が設定し、この設定値を用いて、方位角θを算出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明した本発明の方位角計測装置は、磁気センサを使って方位を求める構成であればどのようなものにも適用することができるが、感度の低い磁気センサを用いた場合、あるいは方位角計測装置が搭載される機器の近くに地磁気より大きい磁気を発生する物がある場合に特に効果を発揮する。
【符号の説明】
【0058】
1 2軸磁気センサ
11 3軸磁気センサ
HEx x軸ホール素子
HEy y軸ホール素子
HEz z軸ホール素子
2、12 チョッパ部
3、13 磁気センサ駆動電源部
4、14 差動入力アンプ
5、15 A/D変換部
6、16 補正計算部
7、17 補正値記憶部
8、18 方位角計算部
9、19 積算平均部
20 傾斜角計算部
10 携帯端末 21 2軸傾斜センサ
22 傾斜センサ駆動電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、
地磁気を検出する2軸以上の磁気センサと、
前記磁気センサの各軸出力に対する基準値を記憶する第1の補正値記憶部と、
前記磁気センサの出力増幅値から前記基準値を減算する第1の補正計算部を備えると共に、
前記第1の補正計算部による出力補正値に基づいて、前記移動機器が向かっている方位を計算する方位角計算部と、
を備え、
前記方位角計測装置は、前記磁気センサの出力から回路的にキャンセル可能なオフセットを減じた出力値に対し、前記基準値を減算することを特徴とする方位角計測装置。
【請求項2】
前記磁気センサの内少なくとも1つは、ホール素子であることを特徴とする請求項1記載の方位角計測装置。
【請求項3】
前記ホール素子は、当該ホール素子を駆動する電源の入力端子と、前記ホール素子の電圧出力端子の接続を切り替えるチョッパ部を含み、
前記ホール素子は、互いに対向する位置に設けられた2つの端子でなる第1端子対及び第2端子対を有し、前記チョッパ部は、前記第1端子対が入力端子として使用されるときには前記第2端子対が出力端子として使用され、前記第2端子対が入力端子として使用されるときには前記第1端子対が出力端子として使用されるように入力端子と出力端子とを切り替えながら出力端子から出力電圧を外部に出力し、
前記入力端子と前記出力端子とを切り替えて出力された前記出力電圧を加減算することにより、前記ホール素子の出力に含まれる回路的にキャンセル可能なオフセットの大部分を相殺した後に、前記基準値を減算することを特徴とする請求項2に記載の方位角計測装置。
【請求項4】
前記磁気センサは、地磁気を検出する3軸以上の磁気センサであり、
2軸以上の傾斜センサと、
前記傾斜センサの各軸出力値に基づいて、前記移動機器が水平面に対して傾いている傾斜角を計算する傾斜角計算部と、
前記第1の補正計算部による磁気センサ出力補正値および前記2軸以上の傾斜角計算値に基づいて、前記移動機器が向かっている水平面の方位を計算する方位角計算部と、を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方位角計測装置。
【請求項5】
前記磁気センサは、地磁気を検出する3軸以上の磁気センサであり、
傾斜角を設定する傾斜角設定手段と、
前記第1の補正計算部による磁気センサ出力補正値および前記傾斜角設定手段により設定された傾斜角に基づいて、前記移動機器が向かっている水平面の方位を計算する方位角計算部と、を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方位角計測装置。
【請求項6】
前記第1の補正値記憶部は、前記移動機器の使用状態に対応した複数の基準値を記憶し、
前記第1の補正計算部は、前記移動機器の使用状態に対応した基準値を選択して減算を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方位角計測装置。
【請求項7】
移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、
前記2軸以上の磁気センサの感度比を記憶する第2の補正値記憶部をさらに備えると共に、
前記磁気センサの出力値に前記感度比を乗算する第2の補正計算部を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方位角計測装置。
【請求項8】
移動機器内に搭載される方位角計測装置であって、
前記2軸以上の磁気センサの出力増幅値から前記基準値を減算した出力補正値を積算平均する積算平均部を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方位角計測装置。
【請求項9】
前記ホール素子を駆動する電源の入力端子と、前記ホール素子の電圧出力端子の接続を切り替えるチョッパ部を備えると共に、
前記チョッパ部を利用して前記ホール素子の出力に含まれるオフセットの大部分を相殺した後に、前記基準値を減算する第3の補正計算部を備えることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の方位角計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−99872(P2011−99872A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24104(P2011−24104)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【分割の表示】特願2001−252997(P2001−252997)の分割
【原出願日】平成13年8月23日(2001.8.23)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】