説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】レーザー照射による磁区細分化技術に工夫を加えることにより、鉄損を効果的に低減させ得る方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】方向性電磁鋼板の製造工程中、最終仕上げ焼鈍工程において、鋼板表面に形成されるフォルステライト被膜の目付量を4.0 g/m2以上、平均粒径を0.9μm 以下とし、かつ磁束密度B8を1.91T以上とした方向性電磁鋼板に対して、
波長が0.2μm以上、0.9μm以下のレーザー光を、鋼板の圧延方向と交差する方向に線状に繰り返して照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスなどの鉄心材料に供して好適な鉄損の低い方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、磁化特性に優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。
そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を(110)[001]方位(ゴス方位)に高度に揃えることや、製品中の不純物を低減することが重要である。
【0003】
しかしながら、結晶方位の制御や不純物の低減には限界があることから、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一性を導入することにより、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
たとえば、特許文献1には、最終製品板にレーザーを照射し、鋼板表層に線状の高転位密度領域を導入することにより、磁区幅を狭くして鉄損を低減する技術が提案されている。
【0004】
また、レーザー照射を用いる磁区細分化技術は、その後種々の改良が施され鉄損特性が良好な方向性電磁鋼板が得られるようになった(例えば、特許文献2、特許文献3および特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−2252号公報
【特許文献2】特開2006−117964号公報
【特許文献3】特開平10−204533号公報
【特許文献4】特開平11−279645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の省エネルギーや環境保護に対する意識の高まりから、鉄損特性の更なる改善が望まれている。
本発明は、上記の要望に有利に応えるもので、レーザー照射による磁区細分化技術に工夫を加えることにより、鉄損を効果的に低減させ得る方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
方向性電磁鋼板の表面は、通常、フォルステライト被膜(MgSiOを主体とする被膜)と張力コーティングで覆われていて、レーザー照射は張力コーティング表面に施される。レーザー照射による鉄損低減は、レーザー照射により鋼板に熱的歪みを与え、その結果、磁区が細分化されることによって果たされる。
また、フォルステライト被膜と張力コーティングは共に、鋼板に引張応力を付与する効果がある。したがって、両被膜の性状はレーザー照射による鉄損低減効果に影響を及ぼす一因になっている。
しかしながら、従来は、レーザー照射条件を種々変更することで、得られる鉄損が最小となる条件を求めており、フォルステライト被膜と張力コーティングの被膜性状の影響については、必ずしも明確にされていなかった。
【0008】
レーザー照射を行う電磁鋼板のフォルステライト被膜の張力は大きいほど良好とされる。なぜなら、レーザー照射により極めて強い熱歪みが局所的に導入されるため、照射部直下は磁区構造が破壊されている。そして、照射部直下のみならず、その近傍にも残留応力により磁区構造の乱れる領域が観察され、このような領域では鉄損が増加する。したがって、このような領域が小さいほど鉄損低減効果は大きくなる。そして、被膜張力が大きいほどかような領域を縮小する効果があるので、フォルステライト被膜性状とレーザー照射条件は相互に影響する可能性がある。
【0009】
また、鋼板表面に熱歪みを導入する手法として、レーザー照射以外にプラズマジェット照射や電子ビーム照射を行う方法があるが、これらの方法と比較して、レーザー光の場合は被膜表面で反射が起こるため、磁区細分化効果を最大限発揮させるためには、被膜性状を考慮して入射エネルギーを効率よく吸収させることが重要である。
【0010】
さて、発明者らは、上記の知見に基づき、レーザー光の入射エネルギーを効率よく吸収することができる、フォルステライト被膜の被膜性状およびレーザー光の照射条件について鋭意検討を重ねた結果、フォルステライト被膜の目付量および平均粒径を適切に調整した上で、特定の波長のレーザー光を照射することにより、所期した目的が有利に達成されことの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.方向性電磁鋼板用鋼スラブを、圧延により鋼板とし、ついで脱炭焼鈍後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施すことにより、鋼板表面に形成されるフォルステライト被膜の目付量が4.0 g/m2以上、平均粒径が0.9μm 以下で、かつ磁束密度B8が1.91T以上の方向性電磁鋼板とし、
ついで、得られた方向性電磁鋼板の表面に、波長が0.2μm以上、0.9μm以下のレーザー光を鋼板の圧延方向と交差する方向に線状に照射することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
2.フォルステライト被膜の平均粒径を小さくする手段が、焼鈍昇熱時における昇温速度を高めること、焼鈍分離剤の助剤として添加されるTi酸化物の添加量を少なくすること、およびAl酸化物を添加することの少なくともいずれか一つの処理であることを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
3.前記方向性電磁鋼板用鋼スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により冷延板とする、前記1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0014】
4.前記最終仕上げ焼鈍後、表面に形成されたフォルステライト被膜の上に、さらに張力コーティングを施すことを特徴とする前記1乃至3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従い、フォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板の表面に適切な条件下でレーザー光照射による磁区細分化処理を施すことにより、従来に比べて鉄損を一層低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の解明経緯について説明する。
入射エネルギーの効率よい吸収という観点からレーザー光の照射条件を考慮すると、波長が短いほど高エネルギーであるため、レーザー光の波長を従来よりも短くすることが考えられる。しかしながら、レーザー光の波長を短波長側に移行すると、そのエネルギー増大に起因したフォルステライト被膜の破壊が懸念される。
そこで、発明者らは、レーザー光の波長を短波長側に移行することを前提として、適正な波長の大きさ、およびその際に必要とされるフォルステライト被膜の被膜強度との関係について検討を重ねた。
【0017】
・フォルステライト被膜の被膜性状
フォルステライト被膜の粒径は、結晶粒界密度に反比例するので、粒径が小さくなるほど被膜強度は増加し、鉄損の低減に有利に作用する。また、フォルステライト被膜の膜厚が厚くなるほど被膜強度は増加し、やはり鉄損の低減に有利に作用すると考えられる。
この観点に立って、フォルステライト被膜の適正な結晶粒径および被膜厚について検討を重ねた結果、フォルステライト被膜の結晶粒径を0.9μm 以下とし、かつフォルステライト被膜の膜厚を目付量で4.0 g/m2以上とする必要があることが判明した。
【0018】
また、上記した粒径や膜厚のフォルステライト被膜とすることは、被膜強度の増大だけでなく、レーザー光の吸収効率の向上にも有効である。フォルステライト被膜は基本的に透明であるが、粒界等でレーザー光が散乱されるので白く見えると考えられる。この点、平均粒径が0.9μm 以下と小さい場合、粒界密度が高くなるので、レーザー光の吸収が向上すると推定される。フォルステライト被膜が厚い場合も散乱頻度が増すので同様の効果が期待できる。
なお、平均粒径は小さいほどよいが、フォルステライト被膜が形成される最終仕上げ焼鈍は他の特性にも影響を及ぼすため、電磁特性等の他の要求特性との兼ね合いで適宜定めればよい。好適には0.6μm 以上である。
【0019】
なお、フォルステライト被膜の平均粒径は、SEM等で被膜の表面を観察することにより求めることができる。具体的には、視野面積を粒子数で除して円相当径とする方法や、画像処理で各粒子の円相当径を求めて平均化する方法が挙げられる。
【0020】
フォルステライト被膜の平均粒径を小さくする方法としては、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して1200℃前後の温度で行う仕上げ焼鈍工程において、基本的にはフォルステライト被膜造成に際して酸化反応を抑制する手段を講じるのが有効である。
具体的な細粒化策としては、
(1) 焼鈍昇熱時の昇温速度を高めたり(15〜60℃/h程度が好ましい)、
(2) 焼鈍分離剤の助剤として添加されるTi酸化物の添加量を少なくしたり(MgO:100質量部に対して1.2〜5.0質量部程度が好ましい)、
(3) Al酸化物を添加する(好ましくはAl換算で0.001質量%以上、5質量%以下)
などの方法が挙げられる。
ここで、焼鈍昇熱時の昇温速度を高めると平均粒径は小さくなる傾向にあり、焼鈍分離剤の助剤として添加されるTi酸化物の添加量を小さくすると平均粒径は小さくなる傾向にあり、Al酸化物を添加すると平均粒径は小さくなる傾向にある。これらの具体的な好適範囲は諸条件に左右されるが、これらを適宜組み合わせて、平均粒径を0.9μm以下に制御すればよい。言い換えれば、焼鈍昇熱時の昇温速度の制御、焼鈍分離剤へのTi酸化物の添加量の制御、および焼鈍分離剤へのAl添加の少なくともいずれかを用いてフォルステライト被膜の平均粒径を0.9μm以下とするとよい。
なお、焼鈍分離剤はMgOを主成分とする。すなわち、フォルステライト被膜の形成を阻害しない範囲で、前記MgO、Ti酸化物、Al酸化物以外の、公知の焼鈍分離剤成分や特性改善成分を添加しても問題ない。これらの添加成分もフォルステライト被膜の平均粒径を小さくするために調整してよい。
【0021】
ただし、フォルステライト被膜の膜厚は4.0 g/m2以上とする必要があるから、粒径を小さく抑えつつ酸化量自体は増加させる方策と組み合わせることが重要である。
フォルステライト被膜の膜厚を4.0 g/m2以上に厚くするには、
(a) フォルステライトの原料となる一次再結晶焼鈍の際に形成されるファイアライト等のSi酸化物量を増加させたり(好ましくは酸素目付量で1.2 g/m2以上。ただし2.0 g/m2以下が工程負荷の観点から好ましい。)、
(b) 仕上げ焼鈍における表面酸化物の形成温度域の保定時間を延ばしたり、あるいは昇温速度を遅くして、膜厚を増加させる
ことが有効である。
なお、これらの処理はいずれも工程負荷を増大させるので、フォルステライト被膜の膜厚は5.0 g/m2以下とすることが好ましい。
【0022】
・レーザー光の照射条件
上記したフォルステライト被膜の結晶粒径および膜厚との関連で、レーザー光の好適な波長は0.2〜0.9μm である。かような短波長のレーザー発信器としては、最近使用されるようになってきたグリーンレーザーが有利に適合する。
本発明で設定した0.2〜0.9μm という波長は、従来のYAGレーザーやCO2レーザーと比較して波長が短く、絶縁被膜に対してこれまでとは異なる挙動をもたらす。すなわち、鉄損低減効果が顕著に表れるのは、平均粒径が0.9μm 以下のフォルステライト被膜をそなえる鋼板に対してであるが、これは0.2〜0.9μm という短波長がフォルステライト被膜の粒径と同じレンジとなるために、相互作用が大きく、被膜内でのレーザー光の吸収効率が格段に向上するためと推定される。
また、レーザー光の波長の下限は、設備上の制約から、0.2μm とする。
【0023】
なお、レーザーの出力は、単位長さ当たりの熱量として5J/m以上、100J/m以下が好ましく、レーザービームのスポット径は0.1mm以上、0.5mm以下が好ましい。
また、レーザービームによる鋼板に対する歪の導入領域は、幅:30〜300μm、塑性歪みの深さ:3〜60μm で、圧延方向の繰り返し間隔は1mm以上、20mm以下とすることが好ましい。
さらに、本発明において、「線状」とは、実線だけでなく、点線や破線なども含むものとする。
また、「圧延方向と交差する方向」とは、圧延方向と直角する方向に対し±30°以内の角度範囲を意味する。
【0024】
レーザー処理による磁区細分化効果は、二次再結晶後の結晶粒の方位が磁化容易軸である<100>方向に集積しているほど大きいことから、集積度の指標であるB8値が高いほどレーザー照射による鉄損低減効果は大きくなる。
そこで、本発明では、対象とする鋼板について、その磁束密度B8が1.91T以上のものに限定した。
【0025】
以下、本発明の好適製造方法について述べる。
まず、素材の好適成分組成について説明する。素材の成分組成については、従来知られた種々の方向性電磁鋼板の組成を基に、B8:1.91T以上が得られる組成を適宜定めればよい。以下に具体的に述べる組成はあくまで例示である。
本発明において、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl,N,SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、Al:0.01〜0.065質量%、N:0.005〜0.012質量%、S:0.005〜0.03質量%、Se:0.005〜0.03質量%である。
また、本発明は、Al,N,S,Seの含有量を制限した、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板にも適用することができる。 この場合には、Al,N,SおよびSe量はそれぞれ、Al:100 質量ppm以下、N:50 質量ppm以下、S:50 質量ppm以下、Se:50 質量ppm以下に抑制することが好ましい。
【0026】
その他の基本成分および任意添加成分について述べると、次のとおりである。
C:0.08質量%以下
C量が0.08質量%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減する負担が増大するため、0.08質量%以下とすることが好ましい。なお、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はない。
【0027】
Si:2.0〜8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であり、含有量が2.0質量%以上でとくに鉄損低減効果が良好である。一方、8.0質量%以下の場合、とくに優れた加工性や磁束密度を得ることができる。したがって、Si量は2.0〜8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
Mn:0.005〜1.0質量%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で有利な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しい。一方、含有量を1.0質量%以下とすると製品板の磁束密度がとくに良好となる。このため、Mn量は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
上記の基本成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50質量%、Sn:0.01〜1.50質量%、Sb:0.005〜1.50質量%、Cu:0.03〜3.0質量%、P:0.03〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.10質量%およびCr:0.03〜1.50質量%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性をさらに向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5質量%以下ではとくに二次再結晶の安定性が増し、磁気特性が改善される。そのため、Ni量は0.03〜1.5質量%の範囲とするのが好ましい。
また、Sn、Sb、Cu、P、CrおよびMoはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さい。一方、上記した各成分の上限量以下の場合、二次再結晶粒の発達が最も良好となる。このため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。
【0030】
本発明において、方向性電磁鋼板を製造する工程は、基本的に従来公知の製造工程を踏襲することができる。
上記の好適成分組成に調整した鋼素材を、通常の造塊法、連続鋳造法でスラブとしてもよいし、100mm以下の厚さの薄鋳片を直接連続鋳造法で製造してもよい。スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後加熱せずに直ちに熱間圧延に供してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。ついで、好適には、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、一回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚とする。ついで、脱炭焼鈍後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施し、必要に応じて張力コーティングを施して製品とする。
張力コーティングとしては、公知の張力被膜、例えば、リン酸マグネシウムやリン酸アルミニウム等のリン酸塩とコロイダルシリカ等の低熱膨張酸化物を主体とするガラスコーティングなどを適用することができる。
【0031】
本発明では、上記した最終仕上げ焼鈍の際に、鋼板表面に形成されるフォルステライト被膜の目付量が4.0 g/m2以上、平均粒径が0.9μm 以下となるように、前述した種々の平均粒径制御手段および膜厚調整手段を講じればよい。
また、本発明では、上述した最終仕上げ焼鈍後または張力コーティング後に、レーザー光の照射を施すが、その際には、前述したとおり、レーザー光の波長を0.2〜0.9μmの範囲として行うことが重要である。
【実施例】
【0032】
C:0.03質量%、Si:3.25質量%、Mn:0.03質量%、Al:60質量ppm、N:40質量ppmおよびS:20質量ppmを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成(インヒビターを使用しない方法に該当する組成)になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1400℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.0 mmの熱延板としたのち、1000℃で熱延板焼鈍を施した。ついで、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚:0.23mmの冷延板とした。その後、850℃で脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。このとき、焼鈍分離剤として、Alを不純物として含む純度:95%のMgOを主剤とし、また焼鈍分離剤中におけるTiO2添加量を種々変化させたものを用いた。その後、二次再結晶とフォルステライト被膜形成および純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を1200℃で実施した。ついで、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる絶縁コートを塗布し、焼き付ける、張力コーティング処理を施した。
【0033】
その後、さらに、得られた鋼板に対して、連続発振の各種光源によるレーザー光を照射した。ビーム径は0.2mm、ビーム走査速度は300mm/秒とし、レーザー出力は5Wから50Wの範囲まで5W間隔で変化させ、鉄損低減に最適な条件を探索した。
かくして得られた製品板のフォルステライト被膜の目付量および平均粒径ならびに製品板の磁気特性(鉄損W17/50、磁束密度B8)について調べた結果を、使用したレーザー光の波長と共に、表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
同表に示したとおり、フォルステライトの平均粒径が0.9μm 以下でかつ目付量が4.0g/m2以上である電磁鋼板に、波長:0.2μm以上、0.9μm以下のレーザー光を照射した場合(発明例)はいずれも、極めて低い鉄損値が得られていることが分かる。
例えばNo.5とNo.6との比較より、本発明においてフォルステライトの平均粒径を0.9μm以下とすることにより格段に鉄損が改善(低減)されることが示されている。
また、例えばNo.4とNo.3との比較より、本発明においてフォルステライトの目付け量を4.0g/m2以上とすることにより格段に鉄損が改善(低減)されることが示されている。
さらに、例えばNo.1とNo.3との比較より、本発明においてレーザー光の波長を0.9μm以下とすることにより格段に鉄損が改善(低減)されることが示されている。
なお、製造方法は本発明の範囲内でも、磁束密度B8が1.91Tに満たない場合は、満足のいく鉄損値を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に従い、フォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板の表面に適切な条件下でレーザー光照射による磁区細分化処理を施すことにより、従来に比べて鉄損を一層低減させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板用鋼スラブを、圧延により鋼板とし、ついで脱炭焼鈍後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施すことにより、鋼板表面に形成されるフォルステライト被膜の目付量が4.0 g/m2以上、平均粒径が0.9μm 以下で、かつ磁束密度B8が1.91T以上の方向性電磁鋼板とし、
ついで、得られた方向性電磁鋼板の表面に、波長が0.2μm以上、0.9μm以下のレーザー光を鋼板の圧延方向と交差する方向に線状に照射する、方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
フォルステライト被膜の平均粒径を小さくする手段が、焼鈍昇熱時における昇温速度を高めること、焼鈍分離剤の助剤として添加されるTi酸化物の添加量を少なくすること、およびAl酸化物を添加することの少なくともいずれか一つの処理である、請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記方向性電磁鋼板用鋼スラブを、熱間圧延し、ついで必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により冷延板とする、請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記最終仕上げ焼鈍後、表面に形成されたフォルステライト被膜の上に、さらに張力コーティングを施す、請求項1乃至3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。




【公開番号】特開2012−31516(P2012−31516A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144841(P2011−144841)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】