方向推定システム、方向推定方法及び方向推定プログラム
【課題】 高い精度でセルラ基地局等の電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する。
【解決手段】 移動通信端末10は、電波の発信源であるセルラ基地局20からの自端末10の方向を推定する機能を有する。移動通信端末10は、セルラ基地局20からの方向と当該方向における自端末10の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部12と、自端末10の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得部13と、受信情報取得部13によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部12に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて方向を推定する方向推定部14と、を備える。
【解決手段】 移動通信端末10は、電波の発信源であるセルラ基地局20からの自端末10の方向を推定する機能を有する。移動通信端末10は、セルラ基地局20からの方向と当該方向における自端末10の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部12と、自端末10の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得部13と、受信情報取得部13によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部12に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて方向を推定する方向推定部14と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システム、方向推定方法及び方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セルラシステム(移動通信システム)においてセルラ基地局と移動通信端末(セルラ端末)との間で送受信される電波を用いて、当該端末の位置を推定する、いわゆるセルラ測位が行われている。セルラ測位では、端末の電波の受信環境によって1つのセルでしか電波が受信できない場合がある。この場合、セルラ基地局から端末までの距離及び方向を、当該端末によって受信された電波から推定して、当該端末の位置を推定する方法がある。この方法では測位精度は、セルラ基地局からの端末の方向の推定精度に左右される。
【0003】
RTT1局測位は、RTT(Round Trip Time)の測定によって得られたセルラ基地局と端末との間の距離、及びセクタを特定するセクタIDを利用する方法である。図19(a)に示すように、セルラ基地局と端末との間の距離を半径とした円弧とセクタIDから割り出したセクタ方向(通常はアンテナ指向方向やセクタ中心方向)との交点を端末の推定位置とする方式である。この方式では、1つのセクタで1通りの方向推定しかできないため、端末がセクタ方向から離れた場所にいる場合、方向推定精度が悪くなり測位精度も劣化する。
【0004】
改良RTT1局測位は、従来のRTT1局測位法では端末の正確な方向を推定できない問題に対して提案された方法である。この方法では、移動通信端末における受信品質を向上させるために端末が同時に複数のセクタから電波を受信するDHO(Diversity Hand Over)を用いて方向推定精度を向上させる。この場合、同時に受信可能な最大電波数をDHOブランチ数と呼ぶ。図19(b)に示すように、隣接セクタからの電波を同時に受信した場合、2セクタの中間方向を端末の推定方向とすることで、1つのセクタにおいて3通りの方向推定が可能になり、測位精度が向上する。なお、上記の内容は非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】J.Borkowski, et al., “Performance of Cell ID+RTT Hybrid PositioningMethod for UMTS Radio Networks,” Proc. 5th European Wireless Conf.,p.p.487-492, Feb. 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、複数回の測定結果を用いて、更にRTT測位の測位精度を向上させる提案もなされている。RTTの測位を複数回実施することによって、即ち、複数回セクタから電波を受信することによって、複数のセクタIDが得られる。各セクタの観測回数比を各セクタとの角度比とすることで、端末の方向推定精度を向上させることが可能になる(複数回測定RTT測位法)。例えば、図3に示すように、複数回測定RTT測位法では、RTTを複数回測定した結果、セクタ1とセクタ2の観測回数の比がnとすると、端末がセクタ1の中心方向となす角度θ1と端末がセクタ2の中心方向となす角度θ2との比を1/nとして、端末方向を推定することが可能になる。
【0006】
上述した複数回測定RTT測位法は、RTT1局測位法等と比較すると端末方向の推定精度は向上しているものの、セクタからの電波の測定された回数の単なる比から角度の比を求めているだけであるので高い方向推定精度が得られていなかった。
【0007】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、高い精度でセルラ基地局等の電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定することができる方向推定システム、方向推定方法及び方向推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る方向推定システムは、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システムであって、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部と、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段と、受信情報取得手段によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る方向推定システムでは、電波の発信源と移動通信端末の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係に基づいて、移動通信端末の方向が推定される。これにより、本発明に係る方向推定システムによれば、高い精度で移動通信端末の方向を推定することができる。
【0010】
受信情報取得手段は、移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された複数回にわたる電波の受信状態から方向を推定する、ことが望ましい。この構成のように、複数回の電波の受信状態を示す情報から方向を推定することとすれば、より精度の高い方向の推定が可能になる。
【0011】
発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、記憶部は、2つの発信方向の電波に応じた関係を記憶しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から方向を推定する、ことが望ましい。この構成によれば、2つの発信方向の電波から方向の推定を行うので、更に精度の高い方向の推定が可能になる。
【0012】
記憶部は、2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、記憶部に記憶された関係を示す情報に基づいて方向を推定する、ことが望ましい。この構成によれば、2つの発信方向の電波から方向の推定を適切に行うことができる。
【0013】
受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から受信強度の比を算出することが望ましい。この構成によれば、容易に受信強度の比を示す情報を取得することができ、その結果、容易に方向の推定を行うことができる。
【0014】
方向推定システムは、受信情報取得手段によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、方向推定手段によって推定される方向の精度を推定する精度推定手段を更に備えることが望ましい。この構成によれば、推定される方向の精度も得られることから、推定される方向の適切な利用に供することができる。
【0015】
発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて方向の推定に用いる2つの発信方向の電波を特定する、ことが望ましい。この構成によれば、移動通信端末において所定の発信源からの3つ以上の発信方向の電波を受信できる場合であっても、適切に方向の推定を行うことができる。
【0016】
ところで、本発明は、上記のように方向推定システムの発明として記述できる他に、以下のように方向推定方法及び方向推定プログラムの発明としても記述することができる。これはカテゴリ等が異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0017】
即ち、本発明に係る方向推定方法は、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部を備える方向推定システムによる方向推定方法であって、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得ステップと、受信情報取得ステップにおいて取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された複数回にわたる電波の受信状態から方向を推定する、ことが望ましい。
【0019】
発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、記憶部は、2つの発信方向の電波に応じた関係を記憶しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から方向を推定する、ことが望ましい。
【0020】
記憶部は、2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、記憶部に記憶された関係を示す情報に基づいて方向を推定する、ことが望ましい。
【0021】
受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から受信強度の比を算出することが望ましい。
【0022】
方向推定方法は、受信情報取得ステップにおいて取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、方向推定ステップにおいて推定される方向の精度を推定する精度推定ステップを更に含むことが望ましい。
【0023】
発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて方向の推定に用いる2つの発信方向の電波を特定する、ことが望ましい。
【0024】
また、本発明に係る方向推定プログラムは、コンピュータに、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定させる方向推定プログラムであって、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶機能と、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得機能と、受信情報取得機能によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶機能によって記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定機能と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電波の発信源と移動通信端末の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係に基づいて、移動通信端末の方向が推定されるので、高い精度で移動通信端末の方向を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面とともに本発明に係る方向推定システム及び方向推定方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同
一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
図1に本実施形態に係る方向推定システムである移動通信端末(セルラ端末)10を示す。移動通信端末10は、移動体通信網に接続して移動体通信を行うことができる。移動通信端末10は、移動体通信網に含まれる複数のセルラ基地局20のいずれかと無線通信を行うことによって移動体通信を行う。移動通信端末10は、セルラ基地局20からの自端末10の方向(セルラ基地局20に対する方位角)を推定する機能を有している。方向の推定は、セルラ基地局20から発信される電波を利用して行われる。上記の方向の推定は、例えば、移動通信端末10が自端末10の位置を推定する(測位)ために行われる。
【0028】
セルラ基地局20は、移動体通信網における構成要素であると共に、移動通信端末10による方向の推定を行うための電波を発信する電波の発信源である。セルラ基地局20は、予め位置が決められて設置されている。また、セルラ基地局20にはセルIDや基地局の位置情報等、セルラ基地局20を一意に特定するための情報が設定されており、移動通信端末10は当該情報に基づいてセルラ基地局20を特定することができる。また、セルラ基地局20は、セクタ化されており、電波を送信する方向毎に複数のセクタが設定されている。即ち、セルラ基地局20は、複数の互いに異なる発信方向に電波を発信している。セクタは、例えば、1つのセルラ基地局20に対して6つ設定される。この場合、1つのセクタのセルラ基地局20からの角度は60°となる。
【0029】
移動通信端末10が通信を行うために受信するパイロット信号には、セクタID等、セクタを特定する情報が含まれており、移動通信端末10が通信する際にはセクタも特定される。方向の推定に用いられる電波としては、具体的には、セルラ基地局20から定期的に送信されているパイロット信号(報知信号)や測位用の信号等が用いられる。測位用の信号が方向の推定に用いられる場合は、セルラ基地局20は、移動通信端末10又は移動体通信網内の装置等から制御を受けて、測位用の信号を一定間隔(例えば、1秒毎)に全てのセクタから発信する。
【0030】
移動通信端末10は、DHO機能を有している場合(即ち、DHOブランチ数が複数である)、同時に複数のセルラ基地局20及びセクタの電波を受信することができる。
【0031】
ここで、本発明に係る方向の推定の原理(本実施形態に係る移動通信端末10における方向の推定の概要)について説明する。図2に、セルラ基地局20からの方向と当該方向に応じた移動通信端末10におけるアンテナ利得との関係(アンテナパターン)のグラフを示す。このように、セルラ基地局20の各セクタにおいて電波を送信するために用いられるセクタアンテナとしては、セクタの中心方向が移動通信端末10におけるアンテナ利得がより高くなるような指向性を有する指向性アンテナが用いられる。上記のようなアンテナパターンは基地局設計等にも用いられる既知のパラメータである。
【0032】
図3に示すように、2つの隣接したセクタの電波を受信できる位置に移動通信端末10が位置していたものとする。その場合、図4のグラフに示すように、移動通信端末10の(セクタ基地局20からの)方向と各セクタのアンテナパターンとによって、アンテナ利得が一意に決まる。つまり、アンテナパターンが分かれば、各セクタのアンテナ利得の比から、移動通信端末10の方向を推定することが可能になる。
【0033】
また、移動通信端末10の受信電力は、(セルラ基地局20からの)送信電力、伝搬路損失及びアンテナ利得で決まる。隣接する2つのセクタは同一セルにあるため、伝搬路のシャドウウイングの相関が高く、伝搬路の瞬時変動特性もほとんど同じであるため、伝搬損失はほとんど同じと考えられる。そのため、移動通信端末10が受信した各セクタの信号の平均受信電力の比とアンテナ利得の比は同じと考えられる。
【0034】
つまり、PTを平均送信電力、Gをアンテナ利得、Hを平均伝搬損失、PRを平均受信電力とすると、以下の式が成り立つ。
【数1】
そして、隣接する2つのセクタにおいて、同一端末に対する送信電力が同じであると仮定すると、PT1=PT2となる。また、伝搬損出も同じと考えられるのでH1=H2となる。つまり、
【数2】
が成り立つ。なお、ここで、PT1、G1、H1、PR1は、それぞれ、隣接する2つのセクタの一方のセクタの平均送信電力、アンテナ利得、平均伝搬損失、平均受信電力である。また、PT2、G2、H2、PR2は、それぞれ、隣接する2つのセクタの他方のセクタの平均送信電力、アンテナ利得、平均伝搬損失、平均受信電力である。従って、移動通信端末10における、2つのセクタ間の平均受信電力比が求まれば、図4に示す、セルラ基地局20からの移動通信端末10の方向とセルラ基地局の隣接する2つのセクタからの電波の移動通信端末10におけるアンテナ利得との関係を利用して、移動通信端末10の方向の推定が可能になる。
【0035】
上記の平均受信電力比を求めるためには、通常、セルラ基地局20における各セクタの平均受信電力を測定する必要がある。本発明においては、容易に測定を行うために、この平均受信電力を測定せずに、複数の電波の受信状態を利用して2つのセクタ間の平均受信電力比を推定することが望ましい。DHO機能を有する端末であれば、DHO情報により得られる各セクタのセクタIDを利用してもよい。
【0036】
無線信号は、伝搬路上にある障害物によって、電波が反射、散乱、回折を受け、図5のグラフに示す信号の変動イメージのように、信号電力は時間軸上で確率的に変動する(フェージング)。なお、図5のグラフは、横軸が時間軸であり、縦軸が信号電力であり、平均信号電力がそれぞれ異なる2つの信号(電波)a,bを示したものである(平均信号電力は、図5のグラフ中の直線で示されている)。2つのセクタからの信号を受信し、電力が大きい信号を受信信号として選択する場合を考える。信号がフェージングを受けた場合、それぞれの受信確率(選択確率)は、フェージングの性質とそれぞれの平均信号電力によって決まる。その性質によって、信号の受信確率が求まれば、フェージングの性質から、その平均電力比を推定することが可能になる。
【0037】
平均電力σ2の信号がフェージングを受けた場合に、信号振幅がvとなる確率密度関数p(v)は以下の式となる。
【数3】
ここで、dは直接波の振幅、I0は第1種0次ベッセル関数、d2/2σ2はフェージングのライス係数Kである。そして、その包絡線の確率分布関数P(V)は以下の式となる。
【数4】
ここで、Vは信号振幅、Dは直接波の振幅、Ik(k=0〜∞)は第1種k次ベッセル関数、Γ(x)はガンマ関数である。
【0038】
平均電力がそれぞれσ2とrσ2である信号a,bが存在して(rは信号aの信号bに対する平均電力比である)それぞれ同じ性質のフェージングを独立に受けた場合、信号bの振幅が信号aより大きくなる確率分布関数は以下の式となる。
【数5】
ここで、Pa(V),Pb(V)は、それぞれ信号a,bの確率分布関数P(V)である。
【0039】
上記の確率分布関数は、信号a,bの平均電力比rとライス係数の関数とみなすことが可能である。つまり、信号aが受信される確率(信号aの受信電力が信号bの受信電力よりも上回って信号aが選択される確率)は、2つの信号の平均電力比およびフェージングの性質から決められる。そして、上記関数の逆関数を求めれば、信号aの受信確率とフェージングの性質から信号の平均電力比を求めることが可能になる。
【0040】
また、逆関数を求めることが困難な場合は、計算機シミュレーションを用いて平均電力比と受信確率の関係を求めてもよい。図6のグラフに、計算機シミュレーションで求められた、信号aの受信確率(a>bの確率)と、フェージングの性質(ライス係数)、及び信号a,bの平均電力比の関係を示す。信号aの受信確率から、aとbの平均受信電力比(信号aの平均受信電力の信号bの平均受信電力に対する比)を推定することが可能になる。推定された平均受信電力比から、図4のグラフに示した方向と2つのセクタのアンテナ利得との関係に基づいて、移動通信端末10の方向を推定することができる。なお、後述する説明では、受信確率が大きい信号aに係るセクタをメインセクタと呼び、受信確率が小さい信号bに係るセクタをサブセクタと呼ぶ。以上が、本発明に係る方向の推定の原理である。
【0041】
引き続いて、上記の原理に基づいて自端末10の方向を推定する移動通信端末10の機能について説明する。図1に示すように、移動通信端末10は、通信部11と、記憶部12と、受信情報取得部13と、方向推定部14と、精度推定部15とを備えて構成される。なお、移動通信端末10は上記の構成以外にも、移動通信端末10が一般的に備えている構成要素も備えている(図示せず)。
【0042】
通信部11は、移動体通信を行う手段である。移動体通信を行う機能の一つとして、通信部11は、セルラ基地局20との間で電波を送受信して無線通信を行う。通信部11は、当該機能を用いて、方向を推定するための電波の受信を行う。当該電波の受信は、例えば一定間隔等で複数回行われることが望ましい。当該電波の受信が複数回行われる場合、その間隔はフェージングの変動周期以上の間隔で実施されることが望ましい。当該電波の受信が行われる回数及び受信間隔(測定間隔)は、チューニングパラメータとして予め設定されており、通信部11に記憶されている。
【0043】
移動通信端末10は、上述したようにセル及びセクタの電波を受信することができる。通信部11は、受信された複数の電波のうち、受信電力が最も高かった電波を、方向の推定のために受信された電波(観測された電波)として扱う。通信部11は、あるいは、受信された複数の電波全て(あるいは一定以上の受信電力であった電波全て)を、方向の推定のために受信された電波(観測された電波)として扱うこととしてもよい。通信部11は、受信された電波(観測された電波)の情報を、セルラ基地局20からの電波の受信状態を示す情報として受信情報取得部13に出力する。受信情報取得部13に出力する情報としては、電波が発信されたセルラ基地局20のセルID、及びセクタのセクタIDである。
【0044】
記憶部12は、セルラ基地局20からの方向と当該方向における移動通信端末10の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した手段である。電波の指向性は、具体的には上述したアンテナパターンに相当する。上記の関係を示す情報は、上述した原理に基づいて移動通信端末10の方向を推定するために用いられる情報である。記憶部12は、上述した原理に応じた、2つの発信方向(2つのセクタ)の電波に応じた上記関係を記憶している。具体的には、まず、記憶部12は、図6のグラフに示すような、2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と、2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を保持している。この情報は、上述した受信確率から上記の平均電力比を算出するための情報である。なお、この情報は、上述したように例えば、計算機シミュレーションによって得ることができる。また、上記の関係を示す情報は、フェージングの性質に応じたものであり、フェージングの性質を示すライス係数K毎に記憶される。
【0045】
記憶部12は、また、図7のグラフに示すような、2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの(移動通信端末10が位置する)角度との関係を示す情報を保持している。図7のグラフは、一方のセクタ(電波aに係るセクタ)の中心から隣接するセクタ(電波bに係るセクタ)方向への角度を示したものである。図7のグラフは中心角が60°のセクタに対応するグラフである。この関係は、図4のグラフに示すような、それぞれのセクタにおけるアンテナパターンから算出することができる。この情報は、上述した平均電力比から自端末10の方向を算出するための情報である。
【0046】
受信情報取得部13は、自端末10の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段である。受信情報取得部13は、上述したように、通信部11によって受信(観測)された電波に係るセルラ基地局20のセルID、及びセクタのセクタIDを、上記の受信状態を示す情報として通信部11から入力する。通信部11が複数回の電波の受信を行う場合は、受信情報取得部13は、自端末10の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得する。
【0047】
受信情報取得部13は、通信部11から入力された情報に基づいて、図8(a)に示すようなセクタID毎の電波の受信回数(観測回数)の情報を生成する。受信情報取得部13は、通信部11から入力された情報から、特定のセルラ基地局20の隣接する2つのセクタの電波毎の情報を選択することによって、図8(a)に示す情報を生成する。上記の特定のセルラ基地局20は、自端末10の方向の推定の基点となるセルラ基地局20である。通信部11から入力された情報に複数のセルラ基地局20からの信号に係る情報が含まれていた場合は、例えば、情報の数が最も多いセルラ基地局20の情報を選択する。
【0048】
また、3つ以上のセクタの信号に係る情報が含まれていた場合、受信情報取得部13は、方向の推定に用いる2つのセクタの電波を受信状態に基づいて特定する。具体的には例えば、受信情報取得部13は、観測回数が最多のセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、観測回数が多い方をサブセクタとする。また、受信された電波からRTTを測定して、測定されたRTT値が最も小さいセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、RTT値が小さい方をサブセクタとしてもよい。また、測定されたRTT値が最も小さいセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、観測回数が多い方をサブセクタとしてもよい。観測回数が最多のセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、RTT値が小さい方をサブセクタとしてもよい。なお、受信情報取得部13は予めセクタの隣接関係を示す情報を記憶しており、その情報に基づいて、方向の推定に用いる電波に係るセクタの上記の選択を行う。また、上記のようにRTTを用いたセクタの特定を行う場合は、移動通信端末10(の通信部11及び受信情報取得部13)は、RTTを測定する機能を有している。
【0049】
受信情報取得部13は、生成した図8(a)に示すようなセクタID毎の電波の受信回数(観測回数)の情報から、図8(b)に示すセクタID毎の電波の観測確率(受信確率)を算出する。観測確率は、セクタID毎の電波の観測回数を、セクタID毎の電波の観測回数の和で除算することによって行われる。
【0050】
受信情報取得部13は、算出した観測確率から、自端末10の2つのセクタの電波の受信強度の比を算出する。受信強度の比は、2つのセクタの電波の、上述した平均(受信)電力比である。受信情報取得部13は、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を参照して、平均電力比を算出する。ここで、受信情報取得部13は、観測確率の大きいセクタを自端末10のメインセクタとする。即ち、受信情報取得部13は、観測確率が高い方のセクタの電波を図6のグラフにおける電波aとして(観測確率が低い方のセクタの電波を図6のグラフにおける電波bとして)、平均電力比を算出する。図8(b)の例では、セクタIDが“4”のセクタをメインセクタとして方向推定が行われる。
【0051】
上記の平均電力比を算出の際には、受信情報取得部13は、ライス係数を設定して、ライス係数に応じた関係を用いる。設定されるライス係数は、例えば、移動体通信網に応じて予めユーザ等によって入力されていてもよい。例えば、ライス係数が0(レイリーフェージング)に設定される場合は、図8(b)の例では、セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比は、約5.5dBとなる。また、上述した平均受信電力比とアンテナ利得の比は同じとの考え方により、セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比も、5.5dBとなる。
【0052】
上記のライス係数の設定は、セルラ基地局20(セル)毎に事前にチューニングした固有の値を用いてもよい。その場合、受信情報取得部13は、セルラ基地局20に係るセルIDとライス係数との対応関係を示す情報を予め記憶している。受信情報取得部13は、通信部11に受信された信号に含まれるセルIDから、上記の対応関係を示す情報に基づいてライス係数を設定する。
【0053】
また、ライス係数の設定は、市街でA、近郊でB、郊外でCといった伝搬環境ごとに設定することとしてもよい。その場合、例えば、伝搬環境とライス係数との対応関係を示す情報を予め記憶している。また、受信情報取得部13は、セルIDと伝搬環境との対応関係を示す情報を予め記憶しており、通信部11に受信された信号に含まれるセルIDから、上記の対応関係を示す情報に基づいて伝搬環境及びライス係数を設定する。また、ライス係数は、全てのセルラ基地局20(セル)において統一した値を用いてもよい。それ以外の方法を用いてもよい。
【0054】
受信情報取得部13は、算出した平均電力比の情報を方向推定部14に出力する。なお、平均電力比の算出は、図6のグラフの関係を必ずしも用いる必要はなく、上述したような式を予め受信情報取得部13に記憶させておき、当該式により数学的(演繹的)に導出することとしてもよい。
【0055】
また、受信情報取得部13が平均電力比の算出に用いる関係は、図6に示したような計算機シミュレーションによって求められたものでなくてもよく、例えば、図9に示したような線形近似したものを用いてもよい(その場合、記憶部12には線形近似した関係が記憶されている)。この場合、推定方向の算出が容易になるが、方向推定の精度が劣化する場合がある。ここで、線形近似に用いる関数はチューニングによって最大値(受信確率が100%になるときの平均電力比)を特定してそれに基づいて算出してもよい。この関数は、受信確率が50%のときに平均電力比が1となるような関数である。チューニング方法としては、例えば、複数の最大値を用いて算出した関数(受信確率と平均電力比との関係)を用意して、方向推定精度が最もよいものとする。
【0056】
方向推定部14は、受信情報取得部13から入力された情報から、記憶部12に記憶された情報に基づいて、自端末10の方向を推定する方向推定手段である。具体的には、受信情報取得部13から入力された平均電力比の情報から、自端末10の方向を算出する。方向推定部14は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を参照して、自端末10の方向を算出する。ここで算出する自端末10の方向は、受信情報取得部13においてメインセクタとされたセクタの中心から、もう一方のセクタ方向への角度である。
【0057】
図8に示す例(セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比が5.5dBの場合)では、図7に示すように利得比が5.5dBに対応する角度は約18°の方向に相当することから、方向推定部14は、自端末10がセクタID“4”のセクタの中心方向からセクタID“3”のセクタよりに18°の方向にいると算出する。方向推定部14は、算出した方向を示す情報を、推定結果の情報として出力する。この出力は、例えば、移動通信端末10が更に備える自端末10の位置を推定する手段に対して行われてもよいし、また、ユーザに参照できるように自端末10のディスプレイ等に表示することによって行われてもよい。
【0058】
なお、図7のグラフは中心角が60°のセクタに対応するグラフであるが、セクタの角度毎に異なる情報が用いられてもよい。セクタの角度がセルラ基地局20毎に異なる場合は、方向推定部14は、例えば、セルIDから角度を特定できるようにし、セクタの角度に応じた、アンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を用いる。
【0059】
また、方向推定部14が方向の算出に用いる関係は、図7に示したような2つのセクタのアンテナパターンから求められたものでなくてもよく、例えば、図10に示したような線形近似したものを用いてもよい(その場合、記憶部12には線形近似した関係が記憶されている)。この場合、推定方向の算出が容易になるが、方向推定の精度が劣化する場合がある。ここで、線形近似に用いる関数は、アンテナのフロント−バック比を最大値(アンテナ方向からの角度が0の場合のアンテナの利得比)として、直線の関数を用いてもよい。この関数は、アンテナの角度が2つのセクタ方向の中心方向(図10に示す場合は30°)のときにアンテナの利得比が1となるような関数である。また、線形近似に用いる関数はチューニングで最大値を割り出してもよい。チューニング方法として、例えば、複数の最大値を用いて算出した関数(アンテナ方向からの角度とアンテナの利得比との関係)を用意して、方向推定精度が最もよいものとする。
【0060】
また、上記では2つのセクタは隣接したセルとしていたが、通信部11から入力された情報に隣接したセクタに係る情報が存在しない場合、間隔が最小の2つのセクタを用いて上述した方法によって方向推定してもよい。この場合、記憶部12に記憶された、図7のグラフに示す、2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向からの(移動通信端末10が位置する)角度との関係を示す情報は、上記の2つのセクタの間隔を考慮したものが用いられる(予め、当該関係は算出して記憶部12に記憶させておく)。また、この場合、方向推定の精度が劣化する場合がある。
【0061】
精度推定部15は、受信情報取得部13によって取得された自端末10における電波の受信状態を示す情報から、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度を推定する精度推定手段である。上述した方向の推定では、電波の測定回数(観測回数)及びDHOブランチ数が方向推定の精度に影響を及ぼす。例として、(2つのセクタの電波の)測定回数を10回、DHOブランチ数を1とすると、観測確率の分解能は10%になる。上記では、観測確率が高いセクタをメインセクタとして移動通信端末10の方向推定を行うので、メインセクタにおける観測確率は50%、60%、70%、80%、90%、100%の6パターンになる。図6に示すライス係数が0の場合(レイリーフェージング)のグラフの関係を用いると、100%の場合を除いて、その観測確率から推定される信号平均電力比は図11のグラフの丸で示した箇所に示すように、約1,3,5,7,9倍の5パターンになる。また、図7に示すアンテナの利得比とアンテナ方向からの角度との関係を用いると、これらの信号平均電力比から推定される方向は、図12のグラフの丸で示した箇所に示すように、約30°,22°,17°,14°,12°の5パターンになる。
【0062】
そして、観測確率が100%の場合、推定方向はセクタの中心方向となるため、0°〜観測確率が90%の場合の推定方向12°の間に移動通信端末10が位置していた場合、その分の誤差が生じる。つまり、本実施形態に係る方向推定は、図13に示すようにセクタの中心方向から±θmaxまでの角度範囲が低精度領域、±θmaxからセクタの端までの角度範囲が高精度領域となるという特徴を有する。ここで図13において、αはセクタの中心方向からセクタの端までの角度を、θmaxは、観測確率が100%の次に大きくなる(上記では90%に相当)場合の推定方向のセクタの中心方向から角度をそれぞれ示している。即ち、セクタの中心方向から±θmaxまでの角度範囲に移動通信端末10が位置していたとしても、低い精度でしか方向の推定ができないことを示している。精度推定部15は、この特徴を利用して推定方向に含まれる誤差を、推定される自端末10の方向の精度として推定する(誤差が小さければ精度は高い)。
【0063】
まず、精度推定部15は、自端末10における電波の受信状態を示す情報として、受信情報取得部13から方向を推定するための電波の受信状態を示す情報の数の情報(即ち、推定の前提あるいは条件となる情報)を取得する。この数は、DHOブランチ数が複数である場合、各回において測定した電波の受信状態を示す情報の数の和である。以下では、DHOブランチ数が1の場合について説明する。測定回数がn(n>1)であった場合、観測確率の分解能が1/nになり、精度推定部15は、測定回数から100%を除く最大観測確率Pmax=(n−1)/nを算出する。精度推定部15は、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を参照して、Pmaxに対応する平均電力比Rmaxを算出する。続いて、精度推定部15は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を参照して、平均電力比Rmaxに対応する方向θmaxを算出する。
【0064】
続いて、精度推定部15は、図13に示したようにセクタ幅を2α、セクタ方向を0°とすると、推定方向の高精度領域を、Ah1={α,θmax}及びAh2={−α,−θmax}として算出することができる。精度推定部15は、高精度領域Ahに属する推定方向の誤差θEhを、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度として、高精度領域を測定回数nの半分で割った値として見積もる(算出する)。つまり、
【数6】
となる。
【0065】
また、精度推定部15は、推定方向の低精度領域を、セクタ中心方向を含むAl=[−θmax,θmax]として算出することができる。精度推定部15は、低精度領域Alの推定方向の誤差θElを、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度として、最大誤差がθmaxで、平均誤差が最大誤差の半分でθmax/2とする。精度推定部15は、上記算出したAh,Al,θEh,θElをそれぞれ、自端末10の方向の精度を示す情報としてもよいし、それらを変数とした所定の関数によって精度を示す値を算出して、自端末10の方向の精度を示す情報としてもよい。
【0066】
精度推定部15は、算出した、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度を示す情報を出力する。出力は、例えば、方向推定部14による出力結果の出力と併せて行われ、ディスプレイ等に表示することによって行われてもよい。なお、精度推定部15は、方向の推定には直接関連しないので、移動通信端末10の構成要素として必ずしも備えられていなくてもよい。
【0067】
また、方向推定誤差の算出法のバリエーションとして、Ah,Al,θEh,θElはそれぞれ重み付けが可能で、重みは各セル及びセクタのチューニングパラメータとしてもよい。また、重みは全セル及びセクタにおいて、統一した値としてもよい。
【0068】
引き続いて、図14に本実施形態に係る移動通信端末10のハードウェア構成を示す。図14に示すように、移動通信端末10は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)203、操作部104、無線通信部105、ディスプレイ106及びアンテナ107等のハードウェアにより構成されている。これらの構成要素が動作することにより、上述した機能が発揮される。以上が、移動通信端末10の構成である。
【0069】
引き続いて、図15のフローチャートを用いて、本実施形態に係る移動通信端末10で実行される方向推定処理(方向推定方法)を説明する。この処理は、移動通信端末10に対して、例えば、ユーザによって自端末10の測位を行うために方向推定処理を開始させる操作がなされたことをトリガとして開始される。また、例えば、移動通信端末10が別の装置から方向推定要求を受信したこと等の上記以外のトリガによって開始されてもよい。
【0070】
まず、移動通信端末10では、方向の推定のために通信部11によってセルラ基地局20からの電波が受信され、そのうち受信電力が最も高かった電波が方向の推定のために観測された電波とされる。当該観測は、複数回に渡って行われる。観測された電波に係る情報は、通信部11から受信情報取得部13に出力される(S01、受信情報取得ステップ)。受信情報取得部13では、通信部11から入力された情報に基づいて、各セクタの観測回数を集計して図8(a)に示すようなセクタID毎の観測回数の情報を生成する(S02、受信情報取得ステップ)。この情報は、上述したように同じセルラ基地局20の隣接した2つのセクタの情報である。続いて、受信情報取得部13では、セクタID毎の電波の観測回数の情報から、図8(b)に示すセクタID毎の電波の受信確率が算出される(S03、受信情報取得ステップ)。
【0071】
その一方で、受信情報取得部13によって、受信確率から電波の平均電力比を求めるための関係に係るライス係数が設定される(S04、受信情報取得ステップ)。続いて、受信情報取得部13によって、設定されたライス係数に応じた、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均電力比との関係を示す情報が参照される(S05、受信情報取得ステップ)。続いて、受信情報取得部13によって、参照された上記の関係に基づいて、電波の受信確率から2つのセクタの電波の平均電力比が算出される(S06、受信情報取得ステップ)。算出された平均電力比を示す情報は、受信情報取得部13から方向推定部14に出力される。
【0072】
続いて、方向推定部14によって、受信情報取得部13から入力された平均電力比を示す情報から、自端末10の方向が推定される(S07、方向推定ステップ)。この推定は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係が参照されて行なわれる。算出された方向の情報は、適当な出力が行われる。また、上記の方向の推定と併せて精度推定部15によって、方向推定部14によって推定された方向の精度の推定が行われてもよい(図示せず、精度推定ステップ)。以上が、本実施形態に係る移動通信端末10で実行される方向推定処理である。
【0073】
上述したように、本実施形態によれば、セルラ基地局20と移動通信端末10の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係(図2,4,7等に示す関係)に基づいて、移動通信端末10の方向が推定される。電波に基づく、セルラ基地局20からの自端末10の方向の推定を、背景技術の欄で述べたような電波の測定された回数の比を角度の比とするような方法等と比べて、高い精度で行うことができる。
【0074】
また、本実施形態のように複数回に渡る電波の観測に基づいて推定を行うことによって、より精度の高い方向の推定が可能になる。但し、図4に示したような関係を用いて、1回の電波の測定から方向の推定を行うこととしてもよい。
【0075】
また、本実施形態のセルラのように複数のセクタ(複数)の電波から、2つのセクタの電波を用いて方向推定を行うこととすれば、方向の推定を適切に行うことができる。更に、本実施形態のように観測回数に基づいて、平均電力比(受信強度の比)を示す情報を算出して、当該平均電力比から方向を推定することとすれば容易に方向を推定することができる。即ち、個々の電波の受信についての受信強度の値を方向の推定に用いる必要がなく、方向の推定を行うことができる。
【0076】
また、本実施形態のように推定される方向の精度も算出することとすれば、例えば高い精度が得られた場合のみに移動通信端末10の位置の推定に用いるなど、推定される方向の適切な利用に供することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、移動通信システムのセルラ基地局20を利用して移動通信端末10の方向を推定していたが、必ずしも移動通信システムを利用するものでなくてもよく、何らかの電波の発信源から、当該電波を受信する移動通信端末の方向を推定するものであればよい。
【0078】
上述した実施形態においては、方向推定の主体が方向推定の対象でもある移動通信端末10であったが、必ずしも方向推定の主体が移動通信端末10である必要は無い。例えば、本実施形態に係る方向推定システムは、図16に示すように測位サーバ30であってもよい。測位サーバ30は、例えば、移動体通信網に含まれる装置であり、(複数の)セルラ基地局20と接続されており、セルラ基地局20を介して移動通信端末40と通信を行うことができる。測位サーバ30は、移動通信端末40の方向を推定する装置である。方向の推定は、上述した方法と同様の方法によって行われる。上記の方向の推定は、例えば、測位サーバ30が移動通信端末40の位置を推定する(測位)ために行われる。方向の推定対象となる移動通信端末40は、上述した移動通信端末10と同様の機能を有するが、方向の推定を行うための構成(記憶部12、受信情報取得部13、方向推定部14及び精度推定部15)は有していなくてもよい。また、移動通信端末40は、測位サーバ30が方向を推定するために必要な情報を測位サーバ30に送信する。また、セルラ基地局20は、上述したセルラ基地局20の構成と同様の構成である。
【0079】
図16に示すように、測位サーバ30は、送受信部31と、記憶部32と、受信情報取得部33と、方向推定部34と、精度推定部35とを備えて構成される。
【0080】
送受信部31は、移動通信端末40との間で情報の送受信を行う手段である。送受信部31は、移動通信端末40から受信した情報を受信情報取得部33に出力する。送受信部31が移動通信端末40から受信する情報(移動通信端末40が測位サーバ30に送信する情報)は、上述した移動通信端末10において通信部11から受信情報取得部13に出力される情報と同様の情報である。また、移動通信端末40からの上記の情報の送信は移動通信端末40側のトリガによって行われてもよいし、送受信部31が移動通信端末40に対して方向の推定を開始する信号を送信して、それに応じて移動通信端末40から上記の情報が送信されるようにしてもよい。
【0081】
記憶部32は、上述した移動通信端末10の記憶部12と同様の構成である。受信情報取得部33は、情報の入力が送受信部31である点以外は、上述した移動通信端末10の受信情報取得部13と同様の構成である。方向推定部34及び精度推定部35は、それぞれ上述した移動通信端末10の方向推定部14及び精度推定部15と同様の構成である。また、測位サーバ30は、精度推定部15によって、推定された方向から移動通信端末40の位置を推定する手段も備えている(図示せず)。
【0082】
図17に測位サーバ30のハードウェア構成を示す。図17に示すように測位サーバ30は、CPU301、主記憶装置であるRAM302及びROM303、通信を行うための通信モジュール304、並びにハードディスク等の補助記憶装置305等のハードウェアを備えるコンピュータを含むものとして構成される。これらの構成要素がプログラム等により動作することにより、上述した測位サーバ30の機能が発揮される。
【0083】
処理も上述した移動通信端末10における処理と同様に行われる。但し、受信情報取得部33による情報の取得は、移動通信端末40から情報が送信されて送受信部31によって受信されて、送受信部31から受信情報取得部33に当該情報が入力されることにより行われる。上述したように、方向推定の対象でもある移動通信端末40とは別の装置によって、本実施形態に係る方向推定システムが構成されていてもよい。
【0084】
引き続いて、上述した一連の移動通信端末10の方向推定を行う処理を(移動通信端末10あるいは測位サーバ30に備えられる)コンピュータに実行させるための方向推定プログラムを説明する。図18に示すように、方向推定プログラム51は、コンピュータが備える記録媒体50に形成されたプログラム格納領域50a内に格納される。
【0085】
方向推定プログラム51は、方向推定処理を統括的に制御するメインモジュール51aと、通信モジュール51bと、記憶モジュール51cと、受信情報取得モジュール51dと、方向推定モジュール51eと、精度推定モジュール51fとを備えて構成される。通信モジュール51b、記憶モジュール51c、受信情報取得モジュール51d、方向推定モジュール51e及び精度推定モジュール51fを実行させることにより実現される機能は、上述した移動通信端末10の通信部11、記憶部12、受信情報取得部13、方向推定部14及び精度推定部15の機能とそれぞれ同様である。
【0086】
なお、方向推定プログラム51は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態に係る方向推定システムである移動通信端末の機能構成を示す図である。
【図2】セルラ基地局からの方向と当該方向に応じた移動通信端末におけるアンテナ利得との関係(アンテナパターン)を示すグラフである。
【図3】セルラ基地局の2つのセクタとセルラ基地局からの移動通信端末の方向を示す図である。
【図4】セルラ基地局からの移動通信端末の方向と、セルラ基地局の2つのセクタからの電波の移動通信端末におけるアンテナ利得との関係を示すグラフである。
【図5】時刻に応じた、移動通信端末における受信電力の変化を示すグラフである。
【図6】平均電力比と受信確率との関係を示すグラフである。
【図7】2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの移動通信端末が位置する角度との関係を示すグラフである。
【図8】受信情報取得部によって取得されるセクタ毎の電波の観測回数、及び観測確率を示す情報である。
【図9】平均電力比と受信確率との線形近似した関係を示すグラフである。
【図10】2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの移動通信端末が位置する角度との線形近似した関係を示すグラフである。
【図11】測定回数が10回だった場合に推定値として算出されえる平均電力比を示したグラフである。
【図12】測定回数が10回だった場合に推定値として算出されえるアンテナ方向からの移動通信端末の角度を示したグラフである。
【図13】本実施形態における、セクタ内の方向推定の低精度範囲を示す図である。
【図14】本発明の実施形態に係る移動通信端末のハードウェア構成を示す図である。
【図15】本発明の実施形態に係る移動通信端末で実行される処理(方向推定方法)を示すフローチャートである。
【図16】本発明の実施形態に係る方向推定システムである測位サーバの機能構成を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係る測位サーバのハードウェア構成を示す図である。
【図18】本発明の実施形態に係る方向推定プログラムの構成を示す図である。
【図19】従来の移動通信端末の方法の推定を説明するための図である。
【符号の説明】
【0088】
10…移動通信端末、11…通信部、12…記憶部、13…受信情報取得部、14…方向推定部、15…精度推定部、101…CPU、102…RAM、103…ROM、104…操作部、105…無線通信部、106…ディスプレイ、107…アンテナ、20…セルラ基地局、30…測位サーバ、31…送受信部、32…記憶部、33…受信情報取得部、34…方向推定部、35…精度推定部、301…CPU、302…RAM、303…ROM、304…通信モジュール、305…補助記憶装置、40…移動通信端末、50…記録媒体、50a…プログラム格納領域、51…方向推定プログラム、51a…メインモジュール、51b…通信モジュール、51c…記憶モジュール、51d…受信情報取得モジュール、51e…方向推定モジュール、51f…精度推定モジュール。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システム、方向推定方法及び方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セルラシステム(移動通信システム)においてセルラ基地局と移動通信端末(セルラ端末)との間で送受信される電波を用いて、当該端末の位置を推定する、いわゆるセルラ測位が行われている。セルラ測位では、端末の電波の受信環境によって1つのセルでしか電波が受信できない場合がある。この場合、セルラ基地局から端末までの距離及び方向を、当該端末によって受信された電波から推定して、当該端末の位置を推定する方法がある。この方法では測位精度は、セルラ基地局からの端末の方向の推定精度に左右される。
【0003】
RTT1局測位は、RTT(Round Trip Time)の測定によって得られたセルラ基地局と端末との間の距離、及びセクタを特定するセクタIDを利用する方法である。図19(a)に示すように、セルラ基地局と端末との間の距離を半径とした円弧とセクタIDから割り出したセクタ方向(通常はアンテナ指向方向やセクタ中心方向)との交点を端末の推定位置とする方式である。この方式では、1つのセクタで1通りの方向推定しかできないため、端末がセクタ方向から離れた場所にいる場合、方向推定精度が悪くなり測位精度も劣化する。
【0004】
改良RTT1局測位は、従来のRTT1局測位法では端末の正確な方向を推定できない問題に対して提案された方法である。この方法では、移動通信端末における受信品質を向上させるために端末が同時に複数のセクタから電波を受信するDHO(Diversity Hand Over)を用いて方向推定精度を向上させる。この場合、同時に受信可能な最大電波数をDHOブランチ数と呼ぶ。図19(b)に示すように、隣接セクタからの電波を同時に受信した場合、2セクタの中間方向を端末の推定方向とすることで、1つのセクタにおいて3通りの方向推定が可能になり、測位精度が向上する。なお、上記の内容は非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】J.Borkowski, et al., “Performance of Cell ID+RTT Hybrid PositioningMethod for UMTS Radio Networks,” Proc. 5th European Wireless Conf.,p.p.487-492, Feb. 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、複数回の測定結果を用いて、更にRTT測位の測位精度を向上させる提案もなされている。RTTの測位を複数回実施することによって、即ち、複数回セクタから電波を受信することによって、複数のセクタIDが得られる。各セクタの観測回数比を各セクタとの角度比とすることで、端末の方向推定精度を向上させることが可能になる(複数回測定RTT測位法)。例えば、図3に示すように、複数回測定RTT測位法では、RTTを複数回測定した結果、セクタ1とセクタ2の観測回数の比がnとすると、端末がセクタ1の中心方向となす角度θ1と端末がセクタ2の中心方向となす角度θ2との比を1/nとして、端末方向を推定することが可能になる。
【0006】
上述した複数回測定RTT測位法は、RTT1局測位法等と比較すると端末方向の推定精度は向上しているものの、セクタからの電波の測定された回数の単なる比から角度の比を求めているだけであるので高い方向推定精度が得られていなかった。
【0007】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、高い精度でセルラ基地局等の電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定することができる方向推定システム、方向推定方法及び方向推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る方向推定システムは、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システムであって、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部と、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段と、受信情報取得手段によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る方向推定システムでは、電波の発信源と移動通信端末の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係に基づいて、移動通信端末の方向が推定される。これにより、本発明に係る方向推定システムによれば、高い精度で移動通信端末の方向を推定することができる。
【0010】
受信情報取得手段は、移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された複数回にわたる電波の受信状態から方向を推定する、ことが望ましい。この構成のように、複数回の電波の受信状態を示す情報から方向を推定することとすれば、より精度の高い方向の推定が可能になる。
【0011】
発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、記憶部は、2つの発信方向の電波に応じた関係を記憶しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から方向を推定する、ことが望ましい。この構成によれば、2つの発信方向の電波から方向の推定を行うので、更に精度の高い方向の推定が可能になる。
【0012】
記憶部は、2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、方向推定手段は、受信情報取得手段によって取得された2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、記憶部に記憶された関係を示す情報に基づいて方向を推定する、ことが望ましい。この構成によれば、2つの発信方向の電波から方向の推定を適切に行うことができる。
【0013】
受信情報取得手段は、移動通信端末の、2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から受信強度の比を算出することが望ましい。この構成によれば、容易に受信強度の比を示す情報を取得することができ、その結果、容易に方向の推定を行うことができる。
【0014】
方向推定システムは、受信情報取得手段によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、方向推定手段によって推定される方向の精度を推定する精度推定手段を更に備えることが望ましい。この構成によれば、推定される方向の精度も得られることから、推定される方向の適切な利用に供することができる。
【0015】
発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、受信情報取得手段は、移動通信端末の、3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて方向の推定に用いる2つの発信方向の電波を特定する、ことが望ましい。この構成によれば、移動通信端末において所定の発信源からの3つ以上の発信方向の電波を受信できる場合であっても、適切に方向の推定を行うことができる。
【0016】
ところで、本発明は、上記のように方向推定システムの発明として記述できる他に、以下のように方向推定方法及び方向推定プログラムの発明としても記述することができる。これはカテゴリ等が異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0017】
即ち、本発明に係る方向推定方法は、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部を備える方向推定システムによる方向推定方法であって、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得ステップと、受信情報取得ステップにおいて取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された複数回にわたる電波の受信状態から方向を推定する、ことが望ましい。
【0019】
発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、記憶部は、2つの発信方向の電波に応じた関係を記憶しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から方向を推定する、ことが望ましい。
【0020】
記憶部は、2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、方向推定ステップにおいて、受信情報取得ステップにおいて取得された2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、記憶部に記憶された関係を示す情報に基づいて方向を推定する、ことが望ましい。
【0021】
受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から受信強度の比を算出することが望ましい。
【0022】
方向推定方法は、受信情報取得ステップにおいて取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶部に記憶された2つの発信方向に対する角度と2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、方向推定ステップにおいて推定される方向の精度を推定する精度推定ステップを更に含むことが望ましい。
【0023】
発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、受信情報取得ステップにおいて、移動通信端末の、3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて方向の推定に用いる2つの発信方向の電波を特定する、ことが望ましい。
【0024】
また、本発明に係る方向推定プログラムは、コンピュータに、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定させる方向推定プログラムであって、発信源からの方向と当該方向における移動通信端末の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶機能と、移動通信端末の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得機能と、受信情報取得機能によって取得された電波の受信状態を示す情報から、記憶機能によって記憶された上記の関係を示す情報に基づいて、方向を推定する方向推定機能と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電波の発信源と移動通信端末の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係に基づいて、移動通信端末の方向が推定されるので、高い精度で移動通信端末の方向を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面とともに本発明に係る方向推定システム及び方向推定方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同
一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
図1に本実施形態に係る方向推定システムである移動通信端末(セルラ端末)10を示す。移動通信端末10は、移動体通信網に接続して移動体通信を行うことができる。移動通信端末10は、移動体通信網に含まれる複数のセルラ基地局20のいずれかと無線通信を行うことによって移動体通信を行う。移動通信端末10は、セルラ基地局20からの自端末10の方向(セルラ基地局20に対する方位角)を推定する機能を有している。方向の推定は、セルラ基地局20から発信される電波を利用して行われる。上記の方向の推定は、例えば、移動通信端末10が自端末10の位置を推定する(測位)ために行われる。
【0028】
セルラ基地局20は、移動体通信網における構成要素であると共に、移動通信端末10による方向の推定を行うための電波を発信する電波の発信源である。セルラ基地局20は、予め位置が決められて設置されている。また、セルラ基地局20にはセルIDや基地局の位置情報等、セルラ基地局20を一意に特定するための情報が設定されており、移動通信端末10は当該情報に基づいてセルラ基地局20を特定することができる。また、セルラ基地局20は、セクタ化されており、電波を送信する方向毎に複数のセクタが設定されている。即ち、セルラ基地局20は、複数の互いに異なる発信方向に電波を発信している。セクタは、例えば、1つのセルラ基地局20に対して6つ設定される。この場合、1つのセクタのセルラ基地局20からの角度は60°となる。
【0029】
移動通信端末10が通信を行うために受信するパイロット信号には、セクタID等、セクタを特定する情報が含まれており、移動通信端末10が通信する際にはセクタも特定される。方向の推定に用いられる電波としては、具体的には、セルラ基地局20から定期的に送信されているパイロット信号(報知信号)や測位用の信号等が用いられる。測位用の信号が方向の推定に用いられる場合は、セルラ基地局20は、移動通信端末10又は移動体通信網内の装置等から制御を受けて、測位用の信号を一定間隔(例えば、1秒毎)に全てのセクタから発信する。
【0030】
移動通信端末10は、DHO機能を有している場合(即ち、DHOブランチ数が複数である)、同時に複数のセルラ基地局20及びセクタの電波を受信することができる。
【0031】
ここで、本発明に係る方向の推定の原理(本実施形態に係る移動通信端末10における方向の推定の概要)について説明する。図2に、セルラ基地局20からの方向と当該方向に応じた移動通信端末10におけるアンテナ利得との関係(アンテナパターン)のグラフを示す。このように、セルラ基地局20の各セクタにおいて電波を送信するために用いられるセクタアンテナとしては、セクタの中心方向が移動通信端末10におけるアンテナ利得がより高くなるような指向性を有する指向性アンテナが用いられる。上記のようなアンテナパターンは基地局設計等にも用いられる既知のパラメータである。
【0032】
図3に示すように、2つの隣接したセクタの電波を受信できる位置に移動通信端末10が位置していたものとする。その場合、図4のグラフに示すように、移動通信端末10の(セクタ基地局20からの)方向と各セクタのアンテナパターンとによって、アンテナ利得が一意に決まる。つまり、アンテナパターンが分かれば、各セクタのアンテナ利得の比から、移動通信端末10の方向を推定することが可能になる。
【0033】
また、移動通信端末10の受信電力は、(セルラ基地局20からの)送信電力、伝搬路損失及びアンテナ利得で決まる。隣接する2つのセクタは同一セルにあるため、伝搬路のシャドウウイングの相関が高く、伝搬路の瞬時変動特性もほとんど同じであるため、伝搬損失はほとんど同じと考えられる。そのため、移動通信端末10が受信した各セクタの信号の平均受信電力の比とアンテナ利得の比は同じと考えられる。
【0034】
つまり、PTを平均送信電力、Gをアンテナ利得、Hを平均伝搬損失、PRを平均受信電力とすると、以下の式が成り立つ。
【数1】
そして、隣接する2つのセクタにおいて、同一端末に対する送信電力が同じであると仮定すると、PT1=PT2となる。また、伝搬損出も同じと考えられるのでH1=H2となる。つまり、
【数2】
が成り立つ。なお、ここで、PT1、G1、H1、PR1は、それぞれ、隣接する2つのセクタの一方のセクタの平均送信電力、アンテナ利得、平均伝搬損失、平均受信電力である。また、PT2、G2、H2、PR2は、それぞれ、隣接する2つのセクタの他方のセクタの平均送信電力、アンテナ利得、平均伝搬損失、平均受信電力である。従って、移動通信端末10における、2つのセクタ間の平均受信電力比が求まれば、図4に示す、セルラ基地局20からの移動通信端末10の方向とセルラ基地局の隣接する2つのセクタからの電波の移動通信端末10におけるアンテナ利得との関係を利用して、移動通信端末10の方向の推定が可能になる。
【0035】
上記の平均受信電力比を求めるためには、通常、セルラ基地局20における各セクタの平均受信電力を測定する必要がある。本発明においては、容易に測定を行うために、この平均受信電力を測定せずに、複数の電波の受信状態を利用して2つのセクタ間の平均受信電力比を推定することが望ましい。DHO機能を有する端末であれば、DHO情報により得られる各セクタのセクタIDを利用してもよい。
【0036】
無線信号は、伝搬路上にある障害物によって、電波が反射、散乱、回折を受け、図5のグラフに示す信号の変動イメージのように、信号電力は時間軸上で確率的に変動する(フェージング)。なお、図5のグラフは、横軸が時間軸であり、縦軸が信号電力であり、平均信号電力がそれぞれ異なる2つの信号(電波)a,bを示したものである(平均信号電力は、図5のグラフ中の直線で示されている)。2つのセクタからの信号を受信し、電力が大きい信号を受信信号として選択する場合を考える。信号がフェージングを受けた場合、それぞれの受信確率(選択確率)は、フェージングの性質とそれぞれの平均信号電力によって決まる。その性質によって、信号の受信確率が求まれば、フェージングの性質から、その平均電力比を推定することが可能になる。
【0037】
平均電力σ2の信号がフェージングを受けた場合に、信号振幅がvとなる確率密度関数p(v)は以下の式となる。
【数3】
ここで、dは直接波の振幅、I0は第1種0次ベッセル関数、d2/2σ2はフェージングのライス係数Kである。そして、その包絡線の確率分布関数P(V)は以下の式となる。
【数4】
ここで、Vは信号振幅、Dは直接波の振幅、Ik(k=0〜∞)は第1種k次ベッセル関数、Γ(x)はガンマ関数である。
【0038】
平均電力がそれぞれσ2とrσ2である信号a,bが存在して(rは信号aの信号bに対する平均電力比である)それぞれ同じ性質のフェージングを独立に受けた場合、信号bの振幅が信号aより大きくなる確率分布関数は以下の式となる。
【数5】
ここで、Pa(V),Pb(V)は、それぞれ信号a,bの確率分布関数P(V)である。
【0039】
上記の確率分布関数は、信号a,bの平均電力比rとライス係数の関数とみなすことが可能である。つまり、信号aが受信される確率(信号aの受信電力が信号bの受信電力よりも上回って信号aが選択される確率)は、2つの信号の平均電力比およびフェージングの性質から決められる。そして、上記関数の逆関数を求めれば、信号aの受信確率とフェージングの性質から信号の平均電力比を求めることが可能になる。
【0040】
また、逆関数を求めることが困難な場合は、計算機シミュレーションを用いて平均電力比と受信確率の関係を求めてもよい。図6のグラフに、計算機シミュレーションで求められた、信号aの受信確率(a>bの確率)と、フェージングの性質(ライス係数)、及び信号a,bの平均電力比の関係を示す。信号aの受信確率から、aとbの平均受信電力比(信号aの平均受信電力の信号bの平均受信電力に対する比)を推定することが可能になる。推定された平均受信電力比から、図4のグラフに示した方向と2つのセクタのアンテナ利得との関係に基づいて、移動通信端末10の方向を推定することができる。なお、後述する説明では、受信確率が大きい信号aに係るセクタをメインセクタと呼び、受信確率が小さい信号bに係るセクタをサブセクタと呼ぶ。以上が、本発明に係る方向の推定の原理である。
【0041】
引き続いて、上記の原理に基づいて自端末10の方向を推定する移動通信端末10の機能について説明する。図1に示すように、移動通信端末10は、通信部11と、記憶部12と、受信情報取得部13と、方向推定部14と、精度推定部15とを備えて構成される。なお、移動通信端末10は上記の構成以外にも、移動通信端末10が一般的に備えている構成要素も備えている(図示せず)。
【0042】
通信部11は、移動体通信を行う手段である。移動体通信を行う機能の一つとして、通信部11は、セルラ基地局20との間で電波を送受信して無線通信を行う。通信部11は、当該機能を用いて、方向を推定するための電波の受信を行う。当該電波の受信は、例えば一定間隔等で複数回行われることが望ましい。当該電波の受信が複数回行われる場合、その間隔はフェージングの変動周期以上の間隔で実施されることが望ましい。当該電波の受信が行われる回数及び受信間隔(測定間隔)は、チューニングパラメータとして予め設定されており、通信部11に記憶されている。
【0043】
移動通信端末10は、上述したようにセル及びセクタの電波を受信することができる。通信部11は、受信された複数の電波のうち、受信電力が最も高かった電波を、方向の推定のために受信された電波(観測された電波)として扱う。通信部11は、あるいは、受信された複数の電波全て(あるいは一定以上の受信電力であった電波全て)を、方向の推定のために受信された電波(観測された電波)として扱うこととしてもよい。通信部11は、受信された電波(観測された電波)の情報を、セルラ基地局20からの電波の受信状態を示す情報として受信情報取得部13に出力する。受信情報取得部13に出力する情報としては、電波が発信されたセルラ基地局20のセルID、及びセクタのセクタIDである。
【0044】
記憶部12は、セルラ基地局20からの方向と当該方向における移動通信端末10の電波の受信状態との、電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した手段である。電波の指向性は、具体的には上述したアンテナパターンに相当する。上記の関係を示す情報は、上述した原理に基づいて移動通信端末10の方向を推定するために用いられる情報である。記憶部12は、上述した原理に応じた、2つの発信方向(2つのセクタ)の電波に応じた上記関係を記憶している。具体的には、まず、記憶部12は、図6のグラフに示すような、2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と、2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を保持している。この情報は、上述した受信確率から上記の平均電力比を算出するための情報である。なお、この情報は、上述したように例えば、計算機シミュレーションによって得ることができる。また、上記の関係を示す情報は、フェージングの性質に応じたものであり、フェージングの性質を示すライス係数K毎に記憶される。
【0045】
記憶部12は、また、図7のグラフに示すような、2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの(移動通信端末10が位置する)角度との関係を示す情報を保持している。図7のグラフは、一方のセクタ(電波aに係るセクタ)の中心から隣接するセクタ(電波bに係るセクタ)方向への角度を示したものである。図7のグラフは中心角が60°のセクタに対応するグラフである。この関係は、図4のグラフに示すような、それぞれのセクタにおけるアンテナパターンから算出することができる。この情報は、上述した平均電力比から自端末10の方向を算出するための情報である。
【0046】
受信情報取得部13は、自端末10の電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段である。受信情報取得部13は、上述したように、通信部11によって受信(観測)された電波に係るセルラ基地局20のセルID、及びセクタのセクタIDを、上記の受信状態を示す情報として通信部11から入力する。通信部11が複数回の電波の受信を行う場合は、受信情報取得部13は、自端末10の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得する。
【0047】
受信情報取得部13は、通信部11から入力された情報に基づいて、図8(a)に示すようなセクタID毎の電波の受信回数(観測回数)の情報を生成する。受信情報取得部13は、通信部11から入力された情報から、特定のセルラ基地局20の隣接する2つのセクタの電波毎の情報を選択することによって、図8(a)に示す情報を生成する。上記の特定のセルラ基地局20は、自端末10の方向の推定の基点となるセルラ基地局20である。通信部11から入力された情報に複数のセルラ基地局20からの信号に係る情報が含まれていた場合は、例えば、情報の数が最も多いセルラ基地局20の情報を選択する。
【0048】
また、3つ以上のセクタの信号に係る情報が含まれていた場合、受信情報取得部13は、方向の推定に用いる2つのセクタの電波を受信状態に基づいて特定する。具体的には例えば、受信情報取得部13は、観測回数が最多のセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、観測回数が多い方をサブセクタとする。また、受信された電波からRTTを測定して、測定されたRTT値が最も小さいセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、RTT値が小さい方をサブセクタとしてもよい。また、測定されたRTT値が最も小さいセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、観測回数が多い方をサブセクタとしてもよい。観測回数が最多のセクタをメインセクタとして、その両隣のセクタから、RTT値が小さい方をサブセクタとしてもよい。なお、受信情報取得部13は予めセクタの隣接関係を示す情報を記憶しており、その情報に基づいて、方向の推定に用いる電波に係るセクタの上記の選択を行う。また、上記のようにRTTを用いたセクタの特定を行う場合は、移動通信端末10(の通信部11及び受信情報取得部13)は、RTTを測定する機能を有している。
【0049】
受信情報取得部13は、生成した図8(a)に示すようなセクタID毎の電波の受信回数(観測回数)の情報から、図8(b)に示すセクタID毎の電波の観測確率(受信確率)を算出する。観測確率は、セクタID毎の電波の観測回数を、セクタID毎の電波の観測回数の和で除算することによって行われる。
【0050】
受信情報取得部13は、算出した観測確率から、自端末10の2つのセクタの電波の受信強度の比を算出する。受信強度の比は、2つのセクタの電波の、上述した平均(受信)電力比である。受信情報取得部13は、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を参照して、平均電力比を算出する。ここで、受信情報取得部13は、観測確率の大きいセクタを自端末10のメインセクタとする。即ち、受信情報取得部13は、観測確率が高い方のセクタの電波を図6のグラフにおける電波aとして(観測確率が低い方のセクタの電波を図6のグラフにおける電波bとして)、平均電力比を算出する。図8(b)の例では、セクタIDが“4”のセクタをメインセクタとして方向推定が行われる。
【0051】
上記の平均電力比を算出の際には、受信情報取得部13は、ライス係数を設定して、ライス係数に応じた関係を用いる。設定されるライス係数は、例えば、移動体通信網に応じて予めユーザ等によって入力されていてもよい。例えば、ライス係数が0(レイリーフェージング)に設定される場合は、図8(b)の例では、セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比は、約5.5dBとなる。また、上述した平均受信電力比とアンテナ利得の比は同じとの考え方により、セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比も、5.5dBとなる。
【0052】
上記のライス係数の設定は、セルラ基地局20(セル)毎に事前にチューニングした固有の値を用いてもよい。その場合、受信情報取得部13は、セルラ基地局20に係るセルIDとライス係数との対応関係を示す情報を予め記憶している。受信情報取得部13は、通信部11に受信された信号に含まれるセルIDから、上記の対応関係を示す情報に基づいてライス係数を設定する。
【0053】
また、ライス係数の設定は、市街でA、近郊でB、郊外でCといった伝搬環境ごとに設定することとしてもよい。その場合、例えば、伝搬環境とライス係数との対応関係を示す情報を予め記憶している。また、受信情報取得部13は、セルIDと伝搬環境との対応関係を示す情報を予め記憶しており、通信部11に受信された信号に含まれるセルIDから、上記の対応関係を示す情報に基づいて伝搬環境及びライス係数を設定する。また、ライス係数は、全てのセルラ基地局20(セル)において統一した値を用いてもよい。それ以外の方法を用いてもよい。
【0054】
受信情報取得部13は、算出した平均電力比の情報を方向推定部14に出力する。なお、平均電力比の算出は、図6のグラフの関係を必ずしも用いる必要はなく、上述したような式を予め受信情報取得部13に記憶させておき、当該式により数学的(演繹的)に導出することとしてもよい。
【0055】
また、受信情報取得部13が平均電力比の算出に用いる関係は、図6に示したような計算機シミュレーションによって求められたものでなくてもよく、例えば、図9に示したような線形近似したものを用いてもよい(その場合、記憶部12には線形近似した関係が記憶されている)。この場合、推定方向の算出が容易になるが、方向推定の精度が劣化する場合がある。ここで、線形近似に用いる関数はチューニングによって最大値(受信確率が100%になるときの平均電力比)を特定してそれに基づいて算出してもよい。この関数は、受信確率が50%のときに平均電力比が1となるような関数である。チューニング方法としては、例えば、複数の最大値を用いて算出した関数(受信確率と平均電力比との関係)を用意して、方向推定精度が最もよいものとする。
【0056】
方向推定部14は、受信情報取得部13から入力された情報から、記憶部12に記憶された情報に基づいて、自端末10の方向を推定する方向推定手段である。具体的には、受信情報取得部13から入力された平均電力比の情報から、自端末10の方向を算出する。方向推定部14は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を参照して、自端末10の方向を算出する。ここで算出する自端末10の方向は、受信情報取得部13においてメインセクタとされたセクタの中心から、もう一方のセクタ方向への角度である。
【0057】
図8に示す例(セクタID“4”のセクタとセクタID“3”のセクタの信号平均電力比が5.5dBの場合)では、図7に示すように利得比が5.5dBに対応する角度は約18°の方向に相当することから、方向推定部14は、自端末10がセクタID“4”のセクタの中心方向からセクタID“3”のセクタよりに18°の方向にいると算出する。方向推定部14は、算出した方向を示す情報を、推定結果の情報として出力する。この出力は、例えば、移動通信端末10が更に備える自端末10の位置を推定する手段に対して行われてもよいし、また、ユーザに参照できるように自端末10のディスプレイ等に表示することによって行われてもよい。
【0058】
なお、図7のグラフは中心角が60°のセクタに対応するグラフであるが、セクタの角度毎に異なる情報が用いられてもよい。セクタの角度がセルラ基地局20毎に異なる場合は、方向推定部14は、例えば、セルIDから角度を特定できるようにし、セクタの角度に応じた、アンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を用いる。
【0059】
また、方向推定部14が方向の算出に用いる関係は、図7に示したような2つのセクタのアンテナパターンから求められたものでなくてもよく、例えば、図10に示したような線形近似したものを用いてもよい(その場合、記憶部12には線形近似した関係が記憶されている)。この場合、推定方向の算出が容易になるが、方向推定の精度が劣化する場合がある。ここで、線形近似に用いる関数は、アンテナのフロント−バック比を最大値(アンテナ方向からの角度が0の場合のアンテナの利得比)として、直線の関数を用いてもよい。この関数は、アンテナの角度が2つのセクタ方向の中心方向(図10に示す場合は30°)のときにアンテナの利得比が1となるような関数である。また、線形近似に用いる関数はチューニングで最大値を割り出してもよい。チューニング方法として、例えば、複数の最大値を用いて算出した関数(アンテナ方向からの角度とアンテナの利得比との関係)を用意して、方向推定精度が最もよいものとする。
【0060】
また、上記では2つのセクタは隣接したセルとしていたが、通信部11から入力された情報に隣接したセクタに係る情報が存在しない場合、間隔が最小の2つのセクタを用いて上述した方法によって方向推定してもよい。この場合、記憶部12に記憶された、図7のグラフに示す、2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向からの(移動通信端末10が位置する)角度との関係を示す情報は、上記の2つのセクタの間隔を考慮したものが用いられる(予め、当該関係は算出して記憶部12に記憶させておく)。また、この場合、方向推定の精度が劣化する場合がある。
【0061】
精度推定部15は、受信情報取得部13によって取得された自端末10における電波の受信状態を示す情報から、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度を推定する精度推定手段である。上述した方向の推定では、電波の測定回数(観測回数)及びDHOブランチ数が方向推定の精度に影響を及ぼす。例として、(2つのセクタの電波の)測定回数を10回、DHOブランチ数を1とすると、観測確率の分解能は10%になる。上記では、観測確率が高いセクタをメインセクタとして移動通信端末10の方向推定を行うので、メインセクタにおける観測確率は50%、60%、70%、80%、90%、100%の6パターンになる。図6に示すライス係数が0の場合(レイリーフェージング)のグラフの関係を用いると、100%の場合を除いて、その観測確率から推定される信号平均電力比は図11のグラフの丸で示した箇所に示すように、約1,3,5,7,9倍の5パターンになる。また、図7に示すアンテナの利得比とアンテナ方向からの角度との関係を用いると、これらの信号平均電力比から推定される方向は、図12のグラフの丸で示した箇所に示すように、約30°,22°,17°,14°,12°の5パターンになる。
【0062】
そして、観測確率が100%の場合、推定方向はセクタの中心方向となるため、0°〜観測確率が90%の場合の推定方向12°の間に移動通信端末10が位置していた場合、その分の誤差が生じる。つまり、本実施形態に係る方向推定は、図13に示すようにセクタの中心方向から±θmaxまでの角度範囲が低精度領域、±θmaxからセクタの端までの角度範囲が高精度領域となるという特徴を有する。ここで図13において、αはセクタの中心方向からセクタの端までの角度を、θmaxは、観測確率が100%の次に大きくなる(上記では90%に相当)場合の推定方向のセクタの中心方向から角度をそれぞれ示している。即ち、セクタの中心方向から±θmaxまでの角度範囲に移動通信端末10が位置していたとしても、低い精度でしか方向の推定ができないことを示している。精度推定部15は、この特徴を利用して推定方向に含まれる誤差を、推定される自端末10の方向の精度として推定する(誤差が小さければ精度は高い)。
【0063】
まず、精度推定部15は、自端末10における電波の受信状態を示す情報として、受信情報取得部13から方向を推定するための電波の受信状態を示す情報の数の情報(即ち、推定の前提あるいは条件となる情報)を取得する。この数は、DHOブランチ数が複数である場合、各回において測定した電波の受信状態を示す情報の数の和である。以下では、DHOブランチ数が1の場合について説明する。測定回数がn(n>1)であった場合、観測確率の分解能が1/nになり、精度推定部15は、測定回数から100%を除く最大観測確率Pmax=(n−1)/nを算出する。精度推定部15は、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均(受信)電力比との関係を示す情報を参照して、Pmaxに対応する平均電力比Rmaxを算出する。続いて、精度推定部15は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係を参照して、平均電力比Rmaxに対応する方向θmaxを算出する。
【0064】
続いて、精度推定部15は、図13に示したようにセクタ幅を2α、セクタ方向を0°とすると、推定方向の高精度領域を、Ah1={α,θmax}及びAh2={−α,−θmax}として算出することができる。精度推定部15は、高精度領域Ahに属する推定方向の誤差θEhを、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度として、高精度領域を測定回数nの半分で割った値として見積もる(算出する)。つまり、
【数6】
となる。
【0065】
また、精度推定部15は、推定方向の低精度領域を、セクタ中心方向を含むAl=[−θmax,θmax]として算出することができる。精度推定部15は、低精度領域Alの推定方向の誤差θElを、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度として、最大誤差がθmaxで、平均誤差が最大誤差の半分でθmax/2とする。精度推定部15は、上記算出したAh,Al,θEh,θElをそれぞれ、自端末10の方向の精度を示す情報としてもよいし、それらを変数とした所定の関数によって精度を示す値を算出して、自端末10の方向の精度を示す情報としてもよい。
【0066】
精度推定部15は、算出した、方向推定部14によって推定される自端末10の方向の精度を示す情報を出力する。出力は、例えば、方向推定部14による出力結果の出力と併せて行われ、ディスプレイ等に表示することによって行われてもよい。なお、精度推定部15は、方向の推定には直接関連しないので、移動通信端末10の構成要素として必ずしも備えられていなくてもよい。
【0067】
また、方向推定誤差の算出法のバリエーションとして、Ah,Al,θEh,θElはそれぞれ重み付けが可能で、重みは各セル及びセクタのチューニングパラメータとしてもよい。また、重みは全セル及びセクタにおいて、統一した値としてもよい。
【0068】
引き続いて、図14に本実施形態に係る移動通信端末10のハードウェア構成を示す。図14に示すように、移動通信端末10は、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)203、操作部104、無線通信部105、ディスプレイ106及びアンテナ107等のハードウェアにより構成されている。これらの構成要素が動作することにより、上述した機能が発揮される。以上が、移動通信端末10の構成である。
【0069】
引き続いて、図15のフローチャートを用いて、本実施形態に係る移動通信端末10で実行される方向推定処理(方向推定方法)を説明する。この処理は、移動通信端末10に対して、例えば、ユーザによって自端末10の測位を行うために方向推定処理を開始させる操作がなされたことをトリガとして開始される。また、例えば、移動通信端末10が別の装置から方向推定要求を受信したこと等の上記以外のトリガによって開始されてもよい。
【0070】
まず、移動通信端末10では、方向の推定のために通信部11によってセルラ基地局20からの電波が受信され、そのうち受信電力が最も高かった電波が方向の推定のために観測された電波とされる。当該観測は、複数回に渡って行われる。観測された電波に係る情報は、通信部11から受信情報取得部13に出力される(S01、受信情報取得ステップ)。受信情報取得部13では、通信部11から入力された情報に基づいて、各セクタの観測回数を集計して図8(a)に示すようなセクタID毎の観測回数の情報を生成する(S02、受信情報取得ステップ)。この情報は、上述したように同じセルラ基地局20の隣接した2つのセクタの情報である。続いて、受信情報取得部13では、セクタID毎の電波の観測回数の情報から、図8(b)に示すセクタID毎の電波の受信確率が算出される(S03、受信情報取得ステップ)。
【0071】
その一方で、受信情報取得部13によって、受信確率から電波の平均電力比を求めるための関係に係るライス係数が設定される(S04、受信情報取得ステップ)。続いて、受信情報取得部13によって、設定されたライス係数に応じた、記憶部12に記憶された、図6のグラフに示した2つのセクタの電波の移動通信端末10における受信確率と2つのセクタの電波の平均電力比との関係を示す情報が参照される(S05、受信情報取得ステップ)。続いて、受信情報取得部13によって、参照された上記の関係に基づいて、電波の受信確率から2つのセクタの電波の平均電力比が算出される(S06、受信情報取得ステップ)。算出された平均電力比を示す情報は、受信情報取得部13から方向推定部14に出力される。
【0072】
続いて、方向推定部14によって、受信情報取得部13から入力された平均電力比を示す情報から、自端末10の方向が推定される(S07、方向推定ステップ)。この推定は、記憶部12に記憶された、図7に示した2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比とアンテナ方向からの移動通信端末10が位置する角度との関係が参照されて行なわれる。算出された方向の情報は、適当な出力が行われる。また、上記の方向の推定と併せて精度推定部15によって、方向推定部14によって推定された方向の精度の推定が行われてもよい(図示せず、精度推定ステップ)。以上が、本実施形態に係る移動通信端末10で実行される方向推定処理である。
【0073】
上述したように、本実施形態によれば、セルラ基地局20と移動通信端末10の電波の受信状態との電波の指向性に基づく関係(図2,4,7等に示す関係)に基づいて、移動通信端末10の方向が推定される。電波に基づく、セルラ基地局20からの自端末10の方向の推定を、背景技術の欄で述べたような電波の測定された回数の比を角度の比とするような方法等と比べて、高い精度で行うことができる。
【0074】
また、本実施形態のように複数回に渡る電波の観測に基づいて推定を行うことによって、より精度の高い方向の推定が可能になる。但し、図4に示したような関係を用いて、1回の電波の測定から方向の推定を行うこととしてもよい。
【0075】
また、本実施形態のセルラのように複数のセクタ(複数)の電波から、2つのセクタの電波を用いて方向推定を行うこととすれば、方向の推定を適切に行うことができる。更に、本実施形態のように観測回数に基づいて、平均電力比(受信強度の比)を示す情報を算出して、当該平均電力比から方向を推定することとすれば容易に方向を推定することができる。即ち、個々の電波の受信についての受信強度の値を方向の推定に用いる必要がなく、方向の推定を行うことができる。
【0076】
また、本実施形態のように推定される方向の精度も算出することとすれば、例えば高い精度が得られた場合のみに移動通信端末10の位置の推定に用いるなど、推定される方向の適切な利用に供することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、移動通信システムのセルラ基地局20を利用して移動通信端末10の方向を推定していたが、必ずしも移動通信システムを利用するものでなくてもよく、何らかの電波の発信源から、当該電波を受信する移動通信端末の方向を推定するものであればよい。
【0078】
上述した実施形態においては、方向推定の主体が方向推定の対象でもある移動通信端末10であったが、必ずしも方向推定の主体が移動通信端末10である必要は無い。例えば、本実施形態に係る方向推定システムは、図16に示すように測位サーバ30であってもよい。測位サーバ30は、例えば、移動体通信網に含まれる装置であり、(複数の)セルラ基地局20と接続されており、セルラ基地局20を介して移動通信端末40と通信を行うことができる。測位サーバ30は、移動通信端末40の方向を推定する装置である。方向の推定は、上述した方法と同様の方法によって行われる。上記の方向の推定は、例えば、測位サーバ30が移動通信端末40の位置を推定する(測位)ために行われる。方向の推定対象となる移動通信端末40は、上述した移動通信端末10と同様の機能を有するが、方向の推定を行うための構成(記憶部12、受信情報取得部13、方向推定部14及び精度推定部15)は有していなくてもよい。また、移動通信端末40は、測位サーバ30が方向を推定するために必要な情報を測位サーバ30に送信する。また、セルラ基地局20は、上述したセルラ基地局20の構成と同様の構成である。
【0079】
図16に示すように、測位サーバ30は、送受信部31と、記憶部32と、受信情報取得部33と、方向推定部34と、精度推定部35とを備えて構成される。
【0080】
送受信部31は、移動通信端末40との間で情報の送受信を行う手段である。送受信部31は、移動通信端末40から受信した情報を受信情報取得部33に出力する。送受信部31が移動通信端末40から受信する情報(移動通信端末40が測位サーバ30に送信する情報)は、上述した移動通信端末10において通信部11から受信情報取得部13に出力される情報と同様の情報である。また、移動通信端末40からの上記の情報の送信は移動通信端末40側のトリガによって行われてもよいし、送受信部31が移動通信端末40に対して方向の推定を開始する信号を送信して、それに応じて移動通信端末40から上記の情報が送信されるようにしてもよい。
【0081】
記憶部32は、上述した移動通信端末10の記憶部12と同様の構成である。受信情報取得部33は、情報の入力が送受信部31である点以外は、上述した移動通信端末10の受信情報取得部13と同様の構成である。方向推定部34及び精度推定部35は、それぞれ上述した移動通信端末10の方向推定部14及び精度推定部15と同様の構成である。また、測位サーバ30は、精度推定部15によって、推定された方向から移動通信端末40の位置を推定する手段も備えている(図示せず)。
【0082】
図17に測位サーバ30のハードウェア構成を示す。図17に示すように測位サーバ30は、CPU301、主記憶装置であるRAM302及びROM303、通信を行うための通信モジュール304、並びにハードディスク等の補助記憶装置305等のハードウェアを備えるコンピュータを含むものとして構成される。これらの構成要素がプログラム等により動作することにより、上述した測位サーバ30の機能が発揮される。
【0083】
処理も上述した移動通信端末10における処理と同様に行われる。但し、受信情報取得部33による情報の取得は、移動通信端末40から情報が送信されて送受信部31によって受信されて、送受信部31から受信情報取得部33に当該情報が入力されることにより行われる。上述したように、方向推定の対象でもある移動通信端末40とは別の装置によって、本実施形態に係る方向推定システムが構成されていてもよい。
【0084】
引き続いて、上述した一連の移動通信端末10の方向推定を行う処理を(移動通信端末10あるいは測位サーバ30に備えられる)コンピュータに実行させるための方向推定プログラムを説明する。図18に示すように、方向推定プログラム51は、コンピュータが備える記録媒体50に形成されたプログラム格納領域50a内に格納される。
【0085】
方向推定プログラム51は、方向推定処理を統括的に制御するメインモジュール51aと、通信モジュール51bと、記憶モジュール51cと、受信情報取得モジュール51dと、方向推定モジュール51eと、精度推定モジュール51fとを備えて構成される。通信モジュール51b、記憶モジュール51c、受信情報取得モジュール51d、方向推定モジュール51e及び精度推定モジュール51fを実行させることにより実現される機能は、上述した移動通信端末10の通信部11、記憶部12、受信情報取得部13、方向推定部14及び精度推定部15の機能とそれぞれ同様である。
【0086】
なお、方向推定プログラム51は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態に係る方向推定システムである移動通信端末の機能構成を示す図である。
【図2】セルラ基地局からの方向と当該方向に応じた移動通信端末におけるアンテナ利得との関係(アンテナパターン)を示すグラフである。
【図3】セルラ基地局の2つのセクタとセルラ基地局からの移動通信端末の方向を示す図である。
【図4】セルラ基地局からの移動通信端末の方向と、セルラ基地局の2つのセクタからの電波の移動通信端末におけるアンテナ利得との関係を示すグラフである。
【図5】時刻に応じた、移動通信端末における受信電力の変化を示すグラフである。
【図6】平均電力比と受信確率との関係を示すグラフである。
【図7】2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの移動通信端末が位置する角度との関係を示すグラフである。
【図8】受信情報取得部によって取得されるセクタ毎の電波の観測回数、及び観測確率を示す情報である。
【図9】平均電力比と受信確率との線形近似した関係を示すグラフである。
【図10】2つの隣接するセクタの電波のアンテナの利得比と、アンテナ方向(セクタの中心方向)からの移動通信端末が位置する角度との線形近似した関係を示すグラフである。
【図11】測定回数が10回だった場合に推定値として算出されえる平均電力比を示したグラフである。
【図12】測定回数が10回だった場合に推定値として算出されえるアンテナ方向からの移動通信端末の角度を示したグラフである。
【図13】本実施形態における、セクタ内の方向推定の低精度範囲を示す図である。
【図14】本発明の実施形態に係る移動通信端末のハードウェア構成を示す図である。
【図15】本発明の実施形態に係る移動通信端末で実行される処理(方向推定方法)を示すフローチャートである。
【図16】本発明の実施形態に係る方向推定システムである測位サーバの機能構成を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係る測位サーバのハードウェア構成を示す図である。
【図18】本発明の実施形態に係る方向推定プログラムの構成を示す図である。
【図19】従来の移動通信端末の方法の推定を説明するための図である。
【符号の説明】
【0088】
10…移動通信端末、11…通信部、12…記憶部、13…受信情報取得部、14…方向推定部、15…精度推定部、101…CPU、102…RAM、103…ROM、104…操作部、105…無線通信部、106…ディスプレイ、107…アンテナ、20…セルラ基地局、30…測位サーバ、31…送受信部、32…記憶部、33…受信情報取得部、34…方向推定部、35…精度推定部、301…CPU、302…RAM、303…ROM、304…通信モジュール、305…補助記憶装置、40…移動通信端末、50…記録媒体、50a…プログラム格納領域、51…方向推定プログラム、51a…メインモジュール、51b…通信モジュール、51c…記憶モジュール、51d…受信情報取得モジュール、51e…方向推定モジュール、51f…精度推定モジュール。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システムであって、
前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部と、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段と、
前記受信情報取得手段によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定手段と、
を備える方向推定システム。
【請求項2】
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記複数回にわたる電波の受信状態から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の方向推定システム。
【請求項3】
前記発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、
前記記憶部は、前記2つの発信方向の電波に応じた前記関係を記憶しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向推定システム。
【請求項4】
前記記憶部は、前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の方向推定システム。
【請求項5】
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から前記受信強度の比を算出することを特徴とする請求項4に記載の方向推定システム。
【請求項6】
前記受信情報取得手段によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、前記方向推定手段によって推定される前記方向の精度を推定する精度推定手段を更に備える請求項4又は5に記載の方向推定システム。
【請求項7】
前記発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて前記方向の推定に用いる前記2つの発信方向の電波を特定する、
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の方向推定システム。
【請求項8】
電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する、前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部を備える方向推定システムによる方向推定方法であって、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得ステップと、
前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定ステップと、
を含む方向推定方法。
【請求項9】
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記複数回にわたる電波の受信状態から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項8に記載の方向推定方法。
【請求項10】
前記発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、
前記記憶部は、前記2つの発信方向の電波に応じた前記関係を記憶しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の方向推定方法。
【請求項11】
前記記憶部は、前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の方向推定方法。
【請求項12】
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から前記受信強度の比を算出することを特徴とする請求項11に記載の方向推定方法。
【請求項13】
前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、前記方向推定ステップにおいて推定される前記方向の精度を推定する精度推定ステップを更に含む請求項11又は12に記載の方向推定方法。
【請求項14】
前記発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて前記方向の推定に用いる前記2つの発信方向の電波を特定する、
ことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の方向推定方法。
【請求項15】
コンピュータに、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定させる方向推定プログラムであって、
前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶機能と、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得機能と、
前記受信情報取得機能によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶機能によって記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定機能と、
をコンピュータに実行させる方向推定プログラム。
【請求項1】
電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する方向推定システムであって、
前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部と、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得手段と、
前記受信情報取得手段によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定手段と、
を備える方向推定システム。
【請求項2】
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記複数回にわたる電波の受信状態から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の方向推定システム。
【請求項3】
前記発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、
前記記憶部は、前記2つの発信方向の電波に応じた前記関係を記憶しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向推定システム。
【請求項4】
前記記憶部は、前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、
前記方向推定手段は、前記受信情報取得手段によって取得された前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の方向推定システム。
【請求項5】
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から前記受信強度の比を算出することを特徴とする請求項4に記載の方向推定システム。
【請求項6】
前記受信情報取得手段によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、前記方向推定手段によって推定される前記方向の精度を推定する精度推定手段を更に備える請求項4又は5に記載の方向推定システム。
【請求項7】
前記発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、
前記受信情報取得手段は、前記移動通信端末の、前記3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて前記方向の推定に用いる前記2つの発信方向の電波を特定する、
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の方向推定システム。
【請求項8】
電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定する、前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶部を備える方向推定システムによる方向推定方法であって、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得ステップと、
前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定ステップと、
を含む方向推定方法。
【請求項9】
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の複数回にわたる電波の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記複数回にわたる電波の受信状態から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項8に記載の方向推定方法。
【請求項10】
前記発信源は、2つの発信方向に電波を発信しており、
前記記憶部は、前記2つの発信方向の電波に応じた前記関係を記憶しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記2つの発信方向の電波毎の受信状態を示す情報から前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の方向推定方法。
【請求項11】
前記記憶部は、前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報を、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報として記憶しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報を取得して、
前記方向推定ステップにおいて、前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記2つの発信方向の電波の受信強度の比を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記関係を示す情報に基づいて前記方向を推定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の方向推定方法。
【請求項12】
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記2つの発信方向の電波のそれぞれの受信回数を示す情報を取得して、当該受信回数から前記受信強度の比を算出することを特徴とする請求項11に記載の方向推定方法。
【請求項13】
前記受信情報取得ステップにおいて取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶部に記憶された前記2つの発信方向に対する角度と前記2つの発信方向の電波の受信強度の比との関係を示す情報に基づいて、前記方向推定ステップにおいて推定される前記方向の精度を推定する精度推定ステップを更に含む請求項11又は12に記載の方向推定方法。
【請求項14】
前記発信源は、3つ以上の発信方向に電波を発信しており、
前記受信情報取得ステップにおいて、前記移動通信端末の、前記3つ以上の発信方向に電波毎の受信状態を示す情報を取得して、当該受信状態に基づいて前記方向の推定に用いる前記2つの発信方向の電波を特定する、
ことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の方向推定方法。
【請求項15】
コンピュータに、電波の発信源からの移動通信端末の方向を推定させる方向推定プログラムであって、
前記発信源からの方向と当該方向における前記移動通信端末の前記電波の受信状態との、前記電波の指向性に基づく関係を示す情報を記憶した記憶機能と、
前記移動通信端末の前記電波の受信状態を示す情報を取得する受信情報取得機能と、
前記受信情報取得機能によって取得された前記電波の受信状態を示す情報から、前記記憶機能によって記憶された前記関係を示す情報に基づいて、前記方向を推定する方向推定機能と、
をコンピュータに実行させる方向推定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図8】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−48708(P2010−48708A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214096(P2008−214096)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】
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