説明

既設管路の補修方法およびそれに用いる補修材並びに管路

【課題】補修後の管路の内面を形成する内面部材のみに外水圧等が直接作用することがなく、また、既設管路自体の強度が弱くても十分に高強度の管路を得ることができ、しかも補強体と内面部材の寸法に余裕を持たせることができるとともに、内面部材の材質の選定の自由度を向上させることのできる既設管路の補修方法、その補修材および当該方法により得られる管路を提供する。
【解決手段】既設管路内に、嵌合用凹部を備えた補強部材11を用いて中空骨組み状補強体を組み立て、その内側に、複数の嵌合用凹部のそれぞれに嵌合部材2を装着し、その嵌合部材2に対して複数の内面部材3を嵌合することにより、既設管路の筒長方向に沿って筒状に組み立てた後、その内面部材3と既設管Pの内面との間の空隙の硬化性充填材を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化の進んだ既設管路を補修材を用いて補修する方法と、その補修方法に用いられる補修材、並びに上記方法により補修された管路に関し、特に大口径の下水道管路や雨水管路、あるいは各種交通機関などに使用されるトンネル等の補修を行うのに適した方法、補修材、並びに補修された管路に関する。
【背景技術】
【0002】
大口径の下水道管路等の既設管路の補修方法として、従来、あらかじめ既設管の内面に沿わせてピアノ線等のばね弾性を有する鉄筋を螺旋状に巻回しておき、その上から帯状の樹脂板を螺旋状に巻回して筒状のライナーを形成し、そのライナーと既設管内面との間にモルタル等の硬化性充填材(裏込め材)を注入する方法(例えば特許文献1参照)や、既設管内で螺旋状に巻回して筒状のライナーとなすべき可撓性を有する帯状の樹脂板に、あらかじめ鉄筋を含めた長尺の補強体を係止させておき、その樹脂板を既設管内面に沿わせて螺旋状に巻回してライナーを形成し、そのライナーと既設管内面との間にモルタル等の裏込め材を注入する方法(例えば特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特開平8−277992号公報
【特許文献2】特開平10−166444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記した従来の既設管路の補修方法は、いずれも、補修後の管の強度を高めるべく鉄筋を用いているのであるが、これらは以下に示すような問題点がある。
【0004】
特許文献1に開示されている従来技術によると、ピアノ線等の鉄筋は樹脂板に対して係合しておらず、従って樹脂板自体には補強がなされていないため、埋設管の補修に適用した場合、車の通行や地震等による振動によってモルタル層等の硬化性充填材にクラックが生じると、樹脂板に対して直接外水圧が働き、モルタル等の硬化性充填材層と樹脂板との密着強度の弱い箇所において樹脂板が管路内側に膨出する恐れがある。
【0005】
一方、特許文献2に開示されている従来技術によれば、樹脂板をあらかじめ鉄筋を含む補強体と合体させているが、樹脂板は既設管路内で螺旋状に巻回する必要があるため、補強体としては十分な剛性を有するものを用いることができず、既設管路自体の強度が弱い場合には、土圧に対しての補強が不十分である。
【0006】
また、上記した従来の既設管路の補修方法においては、いずれも、樹脂板は十分に補強されているとは言いがたく、既設管とライナーとの間にモルタル等を注入する際には、その圧力により螺旋状に巻回された樹脂板が変形しないように支保工を組むか、あるいはモルタル等による裏込めを数回に渡って継ぎ足しつつ行うかの対策を講じる必要があり、施工が複雑で所要時間も長くなるという欠点がある。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、補修後の管路の内面を形成する樹脂板等の内面部材に対して直接外水圧が作用することがなく、また、既設管自体の強度が弱くても十分に補強することができ、更にはモルタル等の硬化性充填材(裏込め材)の注入に際して支保工を組む等の対策を必要とせず、簡単に施工することのできる既設管路の補修方法と、その方法に用いる補修材、並びに当該補修方法により得られる管路の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の既設管路の補修方法は、既設管路内に搬入可能で、かつ、嵌合用凹部を備えた複数の補強部材を用いて当該既設管内面に略沿った中空骨組み状補強体を組み立て、その補強体の内側に、上記複数の嵌合用凹部のそれぞれに嵌合部材を装着し、その嵌合部材に対して複数の内面部材を嵌合することにより既設管路の筒長方向に沿って筒状に組み立てた後、その内面部材と既設管内面との間の空隙内に硬化性充填材を注入することによって特徴づけられる(請求項1)。
【0009】
ここで、本発明の既設管路の補修方法においては、上記の嵌合部材は、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材とすること(請求項)が好ましい。
【0010】
また、本発明の既設管路の補修方法においては、上記内面部材として、既設管路の筒長方向に連続した長尺体を用いること(請求項)が望ましい。
【0011】
本発明の既設管路の補修方法においては、上記補強体を、既設管の内周面に略沿った形状の複数のリング状補強部材を既設管路の筒長方向に所定の間隔で配置して組み立てるとともに、その各リング状補強材を連結部材により既設管路の筒長方向に相互に一体化して組み立てる方法(請求項)を好適に採用することができる。
【0012】
また、本発明方法においては、補強体を、あらかじめ既設管路外で周方向に分割したリング状補強部材と連結部材により、部分補強体を組み立てておき、次いで既設管路内に該部分補強体を搬入して組み立てる方法(請求項)を好適に採用することができる。
【0013】
また、本発明方法においては、補強体の外周に間詰部材を設け、その間詰部材により既設管内周面と補強体との間の隙間を少なくもしくはなくすること(請求項)が望ましい。
【0014】
また、本発明方法においては、既設管内面に、当該既設管内面に沿った筒状の外面材を配置した後、上記補強体を組み立てる方法(請求項)を採用することができる。
【0015】
一方、本発明の既設管路補修用の補修材は、上記した各請求項に係る方法発明に用いるのに適した補修材であり、請求項に係る発明の補修材は、請求項1に係る方法発明に用いるための補修材であって、内側に複数の嵌合用凹部を備えた、複数の周方向に分割したリング状補強部材を組み立てて既設管路内面に略沿った中空骨組み構造をなす補強体と、外側にその嵌合用凹部に嵌合する第1の嵌合部が形成され、かつ、内側に第2の嵌合部が形成された複数の嵌合部材と、外面もしくは端部に上記第2の嵌合部に嵌合する嵌合部が形成された内面が平滑な複数の内面部材とからなることによって特徴づけられる。このような嵌合部材を用いるに当たっては、その各嵌合部材を、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材とすること(請求項9)が望ましい。
【0016】
また、本発明の既設管路補修用の補修材において用いる内面部材は、既設管路の筒長方向に連続した長尺体とすること(請求項10)が望ましい。
【0017】
更に、本発明における補修材においては、補強体として、既設管路の筒長方向に所定の間隔を開けて配置するための、既設管内周面に略沿った形状の複数のリング状補強部材を相互に連結・一体化する複数の連結部材を備えたものとすること(請求項11)が更に望ましい。
【0018】
また、本発明の補修材においては、補強体の外周に、少なくとも既設管路筒長方向に連続する溝状の空隙を形成するための凹凸を形成すること(請求項12)が好ましく、これとは別、あるいはこれに加えて、補強体に既設管路筒長方向に貫通する孔を形成すること(請求項13)が好ましい。
【0019】
更に、本発明の補修材は、補強体に、その外周に取り付け可能で、かつ、取り付けにより既設管路内面との隙間を少なくもしくはなくすための間詰部材を含んだものとすること(請求項14)ができる。
【0020】
そして、本発明の管路は、本発明の既設管路の補修方法によって補修された後の管路であって、既設管路内に、当該既設管内面に略沿った中空骨組み状補強材が配置され、その補強材の内側に形成された複数の嵌合用凹部にそれぞれ嵌合部材を装着し、その嵌合部材を介して、既設管路の筒長方向に連続した複数の内面部材が当該筒長方向に沿って伸びる筒状に配置された状態で上記補強材に対して取り付けられ、その内面部材と既設管路内面との間に硬化性充填材が充填されていることによって特徴づけられる(請求項15)。
【0021】
また、本発明の管路においては、上記の嵌合部材は、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材からなる嵌合部材とすること(請求項16)が好ましい。
【0022】
更に、本発明の管路においては、補強体を、既設管の内周面に略沿った複数のリング状補強部材と、その各リング状補強部材を既設管路の筒長方向に連結・一体化する複数の連結部材を含んだものとすること(請求項17)が好ましい。
【0023】
また、本発明の管路においては、補強体に既設管路の筒長方向に貫通する孔を形成し、その孔内に硬化性充填材が充填されている構造(請求項18)を好適に採用することができる。
【0024】
更にまた本発明の管路においては、補強体と既設管内面との間に、当該既設管の内面に沿った筒状の外面材を介在させた構造(請求項19)を採用することもできる。
【0025】
本発明は、補修後の管路の表面(内面)を形成する内面部材を、既設管路の内面に略沿って中空骨組み状に組み立てられた補強体に対して取り付けることによって、補強体として必要に応じた十分な強度を持たせたうえで、内面部材に作用する力をその補強体で受けることで、所期の目的を達成しようとするものである。
【0026】
ここで、本発明において内面部材を補強材に対して取り付ける手段は、嵌合部材を介在した嵌合とする。
【0027】
本発明の既設管路の補修方法(請求項1)およびその補修方法に用いる補修材(請求項)は、分割されている補強部材を既設管内面に略沿わせて中空骨組み状の補強体に組み立てるため、既設管路の状況に応じて、補強部材の形状や寸法を適宜に変更し、損傷の程度に対応させて十分な強度を有する補強体を既設管路内に構築することができ、既設管路が強度を失っていてもこれを確実に補強することが可能となり、補修後の管路は鉄筋構造と等しい強度を発揮することができる。
【0028】
また、補強部材を既設管路内で中空骨組み状の補強体に組み立てる本発明の方法においては、馬蹄形管路等の異形管路にも容易に対応することができる。同時に、補強体の強度を十分なものとできる結果、硬化性充填材(裏込め材)として流動性が良好で安価な材料、例えば水分比率の大きいモルタルやエアモルタル等を選択することができ、低コストで施工性に優れた方法とすることができる。
【0029】
また、本発明においては、内面部材は嵌合部材を介して補強体に対して取り付けられて支持されるため、内面部材のみに外水圧などが直接的に作用することがないとともに、硬化性充填材の注入時においても支保工を組んだり継ぎ足し注入を行うといった対策を講じる必要がなく、容易かつ短時間に施工することができる。
【0030】
また、請求項に係る発明方法、請求項に係る補修材、および請求項15に係る管路では、補強体に対して嵌合部材を介して内面部材を取り付けるので、内面部材を剛体である補強体に対して直接嵌合させる場合に比して、補強体と内面部材の嵌合部分の寸法に余裕を持たすことができ、施工性が向上するとともに、内面部材の材質を管路に要求される機能に合わせて選定する自由度が向上し、例えば嵌合部材として熱可塑性樹脂成形品を使用すれば、内面部材に剛体を使用することも可能となり、補修材に難燃性などの機能を付与することができる。
【0031】
そして、このような嵌合部材を用いる場合、請求項および請求項の方法および補修材のように、既設管路の筒長方向に連続する複数の嵌合部材を採用し、請求項16の管路を構築すれば、補強体を構成する複数の補強部材間にわたって取り付けられる内面部材を補強する構造とすることができ、内面部材の変形を防止し、より薄い内面部材の使用が可能となる。また、既設管路の筒長方向に、例えば隣り合うマンホール間に及ぶ長さで連続した嵌合部材を用いることにより、継ぎ目のない水密構造を得やすいという利点もある。
【0032】
また、請求項に係る発明の方法、請求項10に係る発明の補修材のように、内面部材として既設管路の筒長方向に連続したものとし、複数の長尺体を採用して筒状に組み立て、請求項15に係る発明の管路を構築する場合には、筒長方向に継ぎ目のない管路を得ることができ、管内物の流下能力を格段に向上させることができる。また、この場合、馬蹄形管やボックスカルバート(矩形管)、あるいは各種断面形状のトンネル等の異形管に対しても、内面部材を既設管の周方向に複数に分割していることから、円筒管と同様の形状・寸法の内面部材が適用可能である。従って、容易に管断面形状に応じて配置することができ、施工性が向上する。
【0033】
請求項および請求項11に係る発明のように、補強体として、既設管内周面に略沿った形状の複数のリング状補強部材を、既設管路の筒長方向に所定の間隔を開けて配置するようにすれば、管路の外圧補強に有効に対抗できる管路を得ることができる。また、リング状補強部材を、連結部材によって既設管路の筒長方向に連結・一体化し、請求項17に係る発明の管路を構築すれば、既設管路内に中子が形成された状態となり、構造体としての強度を極めて大きくすることができる。更に、リング状補強部材間の連結部材の長さを調節することにより、リング状補強部材どうしの隙間形状をハの字形とし、既設管路の曲がりに対応することができる。また、ハの字と逆ハの字を形成することにより段差にも対応ができる。
【0034】
また、請求項5に係る発明のように、上記の連結部材を用いることにより、リング状補強部材を例えば周方向に3分割したものとしておき、その分割体と連結部材によって、管路外において、例えば周方向に3分割され、かつ、既設管路内に容易に持ち込める程度の長さの部分補強体をあらかじめ組んでおき、その部分補強体の複数個を管路内に持ち込んで組み込むといった手法を採用することができ、組み立て時間の短縮化を図れるとともに、異形管路に適用する場合には、組み立てにくい例えばコーナー部分を管路外であらかじめ組んでおけることから、作業性も向上する。
【0035】
請求項6に係る発明の方法、および請求項14に係る発明の補修材を採用するして、間詰部材により補強材と既設管内面との間を少なく、あるいはなくすようにすれば、間詰部材を補強体の頂部に取り付けることで硬化性充填材の注入時にその浮力によって補強体が浮き上がることを防止することができる。また、間詰部材を補強体の側部に取り付けることによって、補強体の上下方向への変形を、既設管内面に対して突っ張ることによって抑制するように機能し、補強体が変形しにくくなる。
【0036】
また、請求項に係る発明の方法、および請求項19に係る発明の管路のように、あらかじめ既設管内面に筒状の外面材を配置しておくことにより、既設管の損傷が激しくても硬化性充填材が管路外に逃げることを防止することができ、また、硬化性充填材に地下水が接触することを防止することができる。従って、モルタル等の硬化性充填材の物性が既設管路の状況によって低下することがない。また、外面材に透水性材料を使用し、硬化性充填材にモルタルをはじめとするセメント系材料を使用することにより、硬化性充填材注入時の余分な水分やエアを濾過作用によって外面材外に排出することができ、外面材内のセメント系材料は圧密された状態となって、完全硬化前でも地下水の影響を受けにくい状態を形成し、硬化後は確実に高強度を発揮することができる。
【0037】
請求項12に係る発明の補修材のように、補強体の外周に、少なくとも既設管路の筒長方向に連続する溝状の凹凸を設けておけば、既設管の内周面と補強体との間に筒長方向に連続する隙間が形成されるので、モルタル等の硬化性充填材の注入時の抵抗が軽減する。また、このような凹凸の形成は、補強体の軽量化にも有効である。
【0038】
また、請求項13に係る発明の補修材のように、補強体に管路の筒長方向に貫通する孔を形成した場合においても、上記と同様に硬化性充填材の注入時の抵抗の軽減と補強体の軽量化に対して有効であり、また、このような補修体を採用して、請求項21に係る発明の管路を構築すると、補強体の孔とその内部で硬化した硬化性充填材によるアンカー効果により、硬化性充填材と補強材との結合力を増大させることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、既設管路内に中空骨組み状の補強体を組み立て、その補強体に対して内面部材を嵌合等の手法によって取り付けた状態で、既設管内面と内面部材との間に硬化性充填材を充填するから、既設管路の形状や強度等の状況に応じて、補強体を構成する補強部材の形状や寸法を適宜に変更し、損傷具合等に応じた十分な強度を有する補強体を構築することができる。従って、劣化の進んだ既設管路のように強度を期待できない管路の補修や、トンネルなどの大口径管であっても、補修後の管路に高い強度を持たせることができる。
【0040】
また、補強体の強度を十分に高くすることができることから、硬化性充填材には流動性の良好な安価な材料を選択することが可能となり、良好な施工性と低コストを実現できる。この場合、既設管路の途中で段差や曲がりなどが生じていても容易に対応可能であるし、更に馬蹄形管路やボックスカルバート管路などの異形管に対しても形状に応じた補強体を組むことができ、良好な施工性のもとに補修を行うことができる。また、内面部材の材料を熱可塑性樹脂成形品とすることにより、補強体の配置に対して容易に変形するので、補修後の管路内面を滑らかなものとすることができる。
【0041】
また、本発明においては、内面部材は補強体に対して嵌合等によって支持された状態となるため、内面部材のみに外水圧などが直接作用することがなく、内面部材が変形する恐れがなく、硬化性充填材の注入時においてもその注入圧に耐えることができ、従来のように支保工を組むなどの対策を講じる必要がなく、工期の短縮化を図ることができる。
【0042】
そして、内面部材として、既設管路の筒長方向に沿わせて、例えばマンホール〜マンホール間の長さを有する長尺体を用いることによって、管路内面(表面)を流下方向に継ぎ目のないものとすることができ、スパイラル状に内面部材を配置する場合に比して、その流下性能を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施の形態について説明する。
まず、補修すべき下水道管路の汚水の水量に応じた適宜の方法により、管路内で人が作業できる環境を作る。例えば補修対象管路の上流側に止水プラグを設置して、汚水をせき止める。
【0044】
次に、図1に既設管路の半径方向に沿って切断した断面図(以下、この方向への断面図を横断面図と称する)を、図2には同じく既設管路の筒長方向に沿って切断した断面図(以下、この方向への断面図を縦断面図と称する)を示すように、既設管Pの内部に、複数のリング状補強部材11と、それらを既設管Pの筒長方向に一定の間隔で連結・一体化する複数の連結部材12とをマンホール(図示せず)等から搬入し、中空骨組み状の補強体1を組み立てる。この場合、あらかじめ既設管P内に搬入可能な大きさにリング状補強部材11と連結部材12とを地上で組み立てておいてもよい。この補強体1の外形形状は既設管Pの内面形状に略沿った形状であり、この例のように断面円形の既設管Pの場合には補強体1の外形形状は円筒形とされる。また、補強体1の外径寸法は、既設管Pの段差や曲がり等を考慮して、既設管Pの内径寸法よりも若干小径とされている。
【0045】
リング状補強部材11は、この例において3個の弧状セグメント11a,11bおよび11cを結合部材11dによって相互に結合して、全体として既設管Pの内面に略沿ったリング状に組み立てたものであり、その材質は高剛性材料、例えば鋼であり、耐久性を向上させるために表面処理を施してもよい。また、この各リング状補強部材11の内周には、後述する嵌合部材2を嵌め込むための複数の嵌合用凹部110が周方向に等間隔に形成されているとともに、その外周には周方向に一様に連続する凹凸111が形成されている。各嵌合用凹部110は、深さ方向の略中央部分が広く、開口部分がそれよりも狭くなっている。更に、この各リング状補強材11には、筒長方向に貫通する貫通孔112が周方向に一定の間隔で形成されている。
【0046】
連結部材12は、筒長方向に隣接するリング状補強部材11の間に配置されてスペーサの役割を担うパイプ材12aと、両端に雄ねじが形成されたボルト12bと、その各雄ねじにねじ込まれるナット12cとからなり、ボルト12bは隣接するリング状補強部材11の間に介在するパイプ材12aの内部に挿入された状態で、その両端の雄ねじがそれぞれリング状補強部材11の貫通孔112に挿入され、その状態で各雄ねじにナット12cがねじ込まれることによって、各リング状部材11を相互に連結・一体化するようになっている。ここで、リング状補強部材11の貫通孔112の数は、連結部材12のボルト12bが挿入される数よりも多く、従って、補強体1の組立後においても、各リング状補強部材11には複数個の貫通孔112が残った状態となる。また、既設管Pに曲がりがある場合には、図3に例示するように、該当個所のパイプ材12aの長さを相違させて、隣接するリング状補強部材11を図中Aで示すような逆ハの字形に連結することによって対処することができる。また、既設管Pに段差がある場合には、図4に例示するように、上記と同様に該当箇所のパイプ材12aの長さを相違させて、隣接するリング状補強部材11を図中Aで示すような逆ハの字形に連結する部分と、同じくBで示すようなハの字形に連結する部分とを設けることで対処することができる。
【0047】
次に、図5に横断面図を示すように、中空骨組み状の補強体1の内側に複数の嵌合部材2を既設管Pの筒長方向に沿って互いに平行に取り付ける。この各嵌合部材2は一様断面の長尺部材であり、その長さは例えば既設管路のマンホール〜マンホール間の長さを有している。補強体1に対する嵌合部材2の取り付けは、リング状補強部材11の内周に形成された各嵌合用凹部110に対して嵌合部材2を嵌め込むことによって行われる。嵌合部材2の断面形状は、図6に横断面図を示すように、厚さが略一様であり、また、その外形が嵌合用凹部110とほぼ同一の角張ったC字形をしており、その開口部21が嵌合用凹部110の開口部分と一致するよう、開口部21を補強体1の内側に向けた状態で当該補強材1に対して取り付けられる。この嵌合部材2の材質は、下記に示す内面部材3と同様に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等とすることができる。
【0048】
その後、図7に横断面図を、図8には縦断面図をそれぞれ示すように、各嵌合部材2を介して補強体1の内側に内面部材3を取り付ける。この例における内面部材3は、既設管Pの筒長方向に沿った平板状の長尺体であり、上記の嵌合部材2と同様に、例えば既設管路のマンホール〜マンホール間の長さを有している。また、その横断面形状は、図9に拡大図を示すように、左右対称形をしており、その片面の両側縁部に嵌合用凸部31a,31bが一体形成されている。
【0049】
内面部材3の材質は、例えば下水道管用ポリエチレン樹脂をはじめとするオレフィン系等の熱可塑性樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂、またはGFRP等の繊維強化プラスチック、あるいはステンレスをはじめとする金属とすることができる。
【0050】
内面部材3の嵌合用凸部31a,31b間の距離は、補強体1の内側に互いに平行に取り付けられている嵌合部材2どうしの距離と等しく、互いに隣接する内面部材3の、一方の内面部材3の嵌合用凸部31aと他方の内面部材3の嵌合用凸部31bとが突き合わされた状態でそれぞれ嵌合部材2の開口部21に挿入される。この挿入状態においては、各嵌合用凸部31a,31bの先端突出部が嵌合部材2の開口部21よりも幅が広くなっているため、内面部材3は嵌合部材2を介して補強体1に対し確実に保持された状態となる。
【0051】
内面部材3は、例えばリール等に巻き取っておき、マンホールを介して既設管P内の補強体1の内側に導入し、嵌合部材2に対して嵌め込んでいけばよい。また、互いに隣接する内面部材3間の水密性を得るために、図10に要部拡大断面図を示すように、各内面部材3の嵌合用凸部31a,31bの先端面と嵌合部材2の間に、例えば合成ゴムや水膨潤ゴム等のシール材5を介在させることが望ましい。
【0052】
次に、図11に横断面図を示すように、既設管Pと内面部材3の間に硬化性充填材4を注入し、硬化させる。硬化性充填材4としては、例えばセメントミルク、モルタル、コンクリート等のセメント系材料、あるいは不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などを用いることができ、要求性能やコストによって適宜に選択される。この注入に際しては、既設管の端部に妻型枠などを設置して注入してもよいし、内面部材3に注入口を設けてバッチ方式で注入してもよい。
【0053】
以上の実施の形態において特に注目すべき点は、既設管Pの内側に、高い剛性の複数のリング状補強部材11を連結部材12によって既設管Pの筒長方向に連結・一体化された中空骨組み状の補強体1が設けられ、その補強体1に対して内面部材3が嵌合部材2を介して嵌合・支持された状態で、内面部材3と既設管Pの間に硬化性充填材4が充填されている点であり、これにより、既設管P内に鉄筋構造の管が構築された状態となり、補修後の管の強度は極めて高いものとなる。また、リング状補強部材11に形成された貫通孔112内に硬化性充填材4が入り込んだ状態で硬化するため、硬化性充填材4と補強体1とはアンカー効果により相互の結合力は大きくなり、安定した強度を得ることができる。
【0054】
また、既設管Pの内径が予定寸法より若干の大小のズレが生じても、貫通孔112を利用して、リング状補強部材11の外径を変更することができる。更に、この貫通孔112は、リング状補強部材11の外周に形成した凹凸とともに、硬化性充填材4の注入時における抵抗の軽減化と、補強体1の軽量化にも有効である。
【0055】
更に、以上の本発明の実施の形態においては、内面部材3として、既設管Pの筒長方向に連続した板状のものを用いているため、補修後の管の内面は筒長方向に継ぎ目がなく、流下能力を高くすることができる。
【0056】
ここで、以上の実施の形態において、硬化性充填材4の注入時に補強体1が浮き上がってしまう恐れのある場合、図12に横断面図を示すように、補強体1の頂部に間詰部材6を装着すればよい。また、外圧の作用により補強体1の変形を防止するためには、このような間詰部材6を補強体1の側方に設ければよい。この側方に設けた間詰部材6は、外圧の作用時に既設管路に補修体1が当接して変形しにくくするように機能する。なお、間詰部材6はリング状補強部材11の貫通孔112等を利用して取り付けることができる。
【0057】
以上の実施の形態では、断面円形の既設管路に本発明を適用した例を示したが、馬蹄形管や矩形管(ボックスカルバート)等の任意断面の既設管路に対しても本発明を等しく適用することができる。
【0058】
13に本発明を馬蹄形管に適用した場合の横断面図を示す。この図13の例は、図1〜図11に示した実施の形態をほぼそのまま利用したものであり、補強体1のリング状補強部材11を構成するセグメントの形状を、補修の対象とする異形管P′の形状に合わせて適宜に変更し、これらを先の例と同様の結合部材11dによって相互に結合して全体として補修の対象とする異形管P′の内面に略沿った形にするだけで、本発明を容易に適用することができる。
【0059】
なお、どのような形態の内面部材を用いる場合についても、補強体の嵌合用凹部に対する嵌合、あるいは嵌合部材に対する嵌合のための嵌合用凸部の形成位置については特に限定されるものではなく、既設管Pの筒長方向に沿って平板状の内面部材3を配置する場合を例にとって説明すると、図9に示したように両側縁部に嵌合用凸部31a,31bを設けるほか、図14に嵌合状態での要部断面図を示すように、両側縁部に上記と同等の対称形の嵌合用凸部31a,31bを設けるとともに、その中間部分にこれらを合体させた形状の嵌合用凸部31cを設けて、その中間の嵌合用凸部31cについては単独で嵌合部材2または補強体1の嵌合用凹部110に嵌め込むといった変形が可能であることは勿論である。
【0060】
また、以上の各実施の形態において、補強体1を組み立てる前に、図15に横断面図を示すように、既設管Pの内周に沿った筒状の外面材7を配置することが好ましい。この外面材7は、硬化性充填材4が既設管路外に逃げることを防止し、また、硬化性充填材4が地下水と接触して性能が劣化することを防止することができる。外面材7は例えば繊維製シートまたは防水シートを使用し、釘や接着剤などを用いた適宜の固定方法で既設管Pの内面に対して固定する。外面材7に繊維製シートなどの透水性材料を使用し、硬化性充填材4にセメント系材料を使用することにより、硬化性充填材4に含まれる余分な水分やエアを外面材7を介して外部に排出することができる。従って、セメント系材料は圧密された状態とすることができ、完全硬化前であっても地下水の影響を受けにくい状態となり、硬化後は確実に高強度を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態の施工手順の説明図で、既設管路の内部に補強体1を組み立てた状態を示す横断面図である。
【図2】図1の状態を示す縦断面図である。
【図3】既設管Pに曲がりがある場合の対処方法の説明図である。
【図4】既設管Pに段差がある場合の対処方法の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態の施工手順の説明図で、補強体1の内側に嵌合部材2を取り付けた状態を示す横断面図である。
【図6】本発明の実施の形態において用いる嵌合部材2の横断面図である。
【図7】本発明の実施の形態の施工手順の説明図で、補強体1の内側に内面部材3を取り付けた状態を示す横断面図である。
【図8】図5の状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施の形態において用いる内面部材3の横断面図である。
【図10】本発明の実施の形態において内面部材3と嵌合部材2の間にシール材5を介在させた状態を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の実施の形態の施工手順の説明図で、内面部材3と既設管Pの内面との間に硬化性充填材4を注入した状態を示す横断面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態の説明図で、補強体1に対してその浮き上がりを防止するための間詰材6を取り付けた状態を示す横断面図である。
【図13】本発明を馬蹄形管に適用した場合の横断面図である。
【図14】本発明において用いられる内面部材の嵌合用凸部の他の例を説明するための横断面図である。
【図15】本発明において外面材を用いる場合の例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 補強体
11 リング状補強部材
11a,11b,11c 弧状セグメント
11d 結合部材
110 嵌合用凹部
111 凹凸
112 貫通孔
12 連結部材
12a パイプ材
12b ボルト
12c ナット
2 嵌合部材
21 開口部
3 内面部材
31a,31b 嵌合用凸部
4 硬化性充填材
5 シール材
6 間詰部材
7 外面材
P 既設管
P′ 異形管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管路内に搬入可能で、かつ、嵌合用凹部を備えた複数の補強部材を用いて当該既設管内面に略沿った中空骨組み状補強体を組み立て、その補強体の内側に、上記複数の嵌合用凹部のそれぞれに嵌合部材を装着し、その嵌合部材に対して複数の内面部材を嵌合することにより既設管路の筒長方向に沿って筒状に組み立てた後、その内面部材と既設管内面との間の空隙内に硬化性充填材を注入することを特徴とする既設管路の補修方法。
【請求項2】
上記嵌合部材として、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材を用いることを特徴とする請求項に記載の既設管路の補修方法。
【請求項3】
上記内面部材として、既設管路の筒長方向に連続した長尺体を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の既設管路の補修方法。
【請求項4】
上記補強体を、既設管内面に略沿った形状の複数のリング状補強部材を既設管路の筒長方向に所定の間隔で配置して組み立てるとともに、連結部材により筒長方向に相互に一体化して組み立てることを特徴とする請求項1、2または3のいずれか1項に記載の既設管路の補修方法。
【請求項5】
上記補強体を、あらかじめ既設管路外において、周方向に分割したリング状補強部材と連結部材により、部分補強体を組み立てておき、次いで既設路内に該部分補強体を搬入して組み立てることを特徴とする請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の既設管路の補修方法。
【請求項6】
上記補強体の外周に間詰部材を設け、その間詰部材により既設管内周面と補強体との間の隙間を少なくもしくはなくすることを特徴とする請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の既設管路の補修方法。
【請求項7】
既設管内面に、当該既設管内面に沿った筒状の外面材を配置した後、上記補強体を組み立てることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の既設管路の補修方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法に用いる補修材であって、内側に複数の嵌合用凹部を備えた、複数の周方向に分割したリング状補強部材を組み立てて既設管内面に略沿った中空骨組み構造をなす補強体と、外側にその嵌合用凹部に嵌合する第1の嵌合部が形成され、かつ、内側に第2の嵌合部が形成された複数の嵌合部材と、外面もしくは端部に上記第2の嵌合部に嵌合する嵌合部が形成された内面が平滑な複数の内面部材とからなる既設管路補修用補修材。
【請求項9】
上記各嵌合部材が、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材からなることを特徴とする請求項に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項10】
上記各内面部材が、既設管路の筒長方向に連続した長尺体からなることを特徴とする請求項8または9に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項11】
上記補強体が、既設管路の筒長方向に所定の間隔を開けて配置される複数のリング状補強部材と、その各リング状補強部材を相互に連結・一体化する複数の連結部材を含むことを特徴とする請求項8、9または10のいずれか1項に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項12】
上記補強体の外周に、少なくとも既設管路筒長方向に連続する溝状の空間を形成するための凹凸が形成されていることを特徴とする請求項8、9、10または11のいずれか1項に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項13】
上記補強体に、既設管路筒長方向に貫通する孔が形成されていることを特徴とする請求項8、9、10、11または12のいずれか1項に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項14】
上記補強体に、その外周に取り付け可能で、かつ、取り付けにより既設管路内面との隙間を少なくもしくはなくすための間詰部材を含むことを特徴とする請求項8、9、10、11、12または13のいずれか1項に記載の既設管路補修用補修材。
【請求項15】
既設管路内に、当該既設管内面に略沿った中空骨組み状補強材が配置され、その補強の内側に設けられた複数の嵌合用凹部にそれぞれ嵌合部材が装着され、既設管路の筒長方向に連続した複数の内面部材が当該筒長方向に沿って伸びる筒状に配置された状態で、上記嵌合部材を介して補強材に対して取り付けられ、その内面部材と既設管路内面との間に硬化性充填材が充填されてなる管路。
【請求項16】
上記嵌合部材が、既設管路の筒長方向に連続した長尺部材からなることを特徴とする請求項15に記載の管路。
【請求項17】
上記補強体が、既設管の内周面に略沿った複数のリング状補強部材と、その各リング状補強部材を既設管路の筒長方向に連結・一体化する複数の連結部材を含むことを特徴とする請求項15または16に記載の管路。
【請求項18】
上記補強体に既設管路の筒長方向に貫通する孔が形成されているとともに、その孔内に上記硬化性充填材が充填されていることを特徴とする請求項15、16または17のいずれか1項に記載の管路。
【請求項19】
上記補強体と既設管内面との間に、当該既設管の内面に沿った筒状の外面材が介在し、その外面材と上記内面部材の間に硬化性充填材が充填されていることを特徴とする請求項15、16、17または18のいずれか1項に記載の管路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−85004(P2009−85004A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287980(P2008−287980)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【分割の表示】特願2000−132258(P2000−132258)の分割
【原出願日】平成12年5月1日(2000.5.1)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【出願人】(392008884)芦森エンジニアリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】