説明

映像表示装置およびヘッドマウントディスプレイ

【課題】眼幅調整機構のない簡易な構成で、眼幅の異なる観察者に対して、明るい、高画質の映像を観察させる。
【解決手段】左右のLCDの両方を白色無地映像の表示状態にしたとき、観察瞳ER・ELには、眼幅方向の位置によって像の色が異なる瞳内色分布がそれぞれある。そして、観察瞳ER・ELの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lは同一色であり、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lは互いに異なる色である。これにより、眼幅の異なる観察者ごとに、左右で異なる色の像を観察させて、両眼視によって色ムラを低減した良好な映像を観察させることができる。したがって、個々の瞳内での色ムラを小さくする努力が軽減され、拡散板の拡散度を上げる必要もなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、右眼用の映像表示ユニットRと、左眼用の映像表示ユニットLとを備え、個々のユニットに映像を表示してそれらを観察者に両眼で観察させる映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDとも称する)とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
HMDにおいて、両眼に対応して設けられる映像表示素子の個々の表示映像を、眼幅の異なる観察者が良好に観察するためには、例えば特許文献1のように、眼幅調整機構を設ける方法がある。この眼幅調整機構は、左右の接眼レンズを鼻当てに対して近接または離反する方向に別々に移動させて、左右の眼の位置に合わせるようにするものである。
【0003】
しかし、眼幅調整機構を設ける構成は、装置の大型化、重量化を招くため、コンパクトで軽量な映像表示装置やHMDを実現することを阻害する要因となる。また、使用する観察者ごとに眼幅調整機構で左右の接眼レンズの位置を調整する必要があるため、使い勝手があまりよくない。
【0004】
そこで、眼幅調整機構を設けずに、眼幅方向の観察瞳を大きくすることにより、眼幅の異なる観察者に映像を良好に観察させる手法もある。一般的には、拡散手段を用いて眼幅方向に照明光を大きく拡散させることにより、横方向に瞳を拡大することができるが、例えば特許文献2では、回折光学素子での回折によって眼幅方向に複数の観察瞳を作ることにより、横方向に瞳を拡大するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−276467号公報
【特許文献2】特許第3623265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、眼幅方向に観察瞳を広げるために、拡散手段の拡散度を高くすると、光源から出射される光の利用効率が悪くなり、観察される映像が暗くなる。特に、複数波長の照明光源を用いてカラー映像を観察者に観察させる場合、複数波長の発光部の位置の違い等により、観察される映像に色ムラが生じるが、このような色ムラを無くすためには、各色の光全てを同程度に大きく拡散させる必要があるため、観察される映像がより暗くなることが懸念される。一方、拡散手段の拡散度を低くすると、明るい映像が得られるが、上記の色ムラを低減することができない。また、眼幅方向に複数の観察瞳を作る特許文献2の手法では、1つ1つの瞳での映像が暗くなる。
【0007】
つまり、観察瞳を眼幅方向に広げる方法では、観察される映像が暗くなるとともに、眼幅の異なる観察者ごとに色ムラを低減した高画質の映像を観察させることができない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、眼幅調整機構のない簡易な構成で、眼幅の異なる観察者に対して、明るい、高画質の映像を観察させることができる映像表示装置と、その映像表示装置を備えたHMDとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の映像表示装置は、右眼用の映像表示ユニットRと、左眼用の映像表示ユニットLとを備えた映像表示装置であって、映像表示ユニットRは、光源Rと、光源Rからの光を各画素ごとに透過または反射させることによって映像を表示する映像表示素子Rと、映像表示素子Rからの映像光を観察瞳Rに導く接眼光学系Rとを備えており、映像表示ユニットLは、光源Lと、光源Lからの光を各画素ごとに透過または反射させることによって映像を表示する映像表示素子Lと、映像表示素子Lからの映像光を観察瞳Lに導く接眼光学系Lとを備えており、右眼および左眼で観察される像をそれぞれ観察像Rおよび観察像Lとすると、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lには、眼幅方向の位置によって像の色が異なる瞳内色分布がそれぞれあり、かつ、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lは、同一色であり、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lは、互いに異なる色であることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、映像表示ユニットRでは、光源Rからの光が映像表示素子Rにて各画素ごとに変調され、そこから映像光として出射され、接眼光学系Rを介して観察瞳Rに導かれる。同様に、映像表示ユニットLでは、光源Lからの光が映像表示素子Lにて各画素ごとに変調され、そこから映像光として出射され、接眼光学系Lを介して観察瞳Lに導かれる。これにより、観察者の右眼および左眼を観察瞳R・Lにそれぞれ位置させれば、観察者は映像表示素子R・Lに表示された映像の虚像を右眼および左眼の両眼で観察することが可能となる。
【0011】
また、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳R・Lには瞳内色分布(瞳内色ムラ)がそれぞれあり、観察瞳R・Lの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lは、同一色であり、観察瞳R・Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lは、互いに異なる色である。これにより、瞳内色分布の変化の方向を左右で同一方向にする、つまり、観察瞳R・L内の像の色の変化の仕方を互いに同一にすることができ、設計眼幅距離(設計時の観察瞳R・Lの中心間距離)とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右で異なる色の像を観察させることが可能となる。例えば、観察瞳R・L内の像の色が、両者とも、左から右方向に、「青っぽい白」、「白」、「赤っぽい白」というように変化している場合、眼幅距離が小さい観察者は、左眼では「赤っぽい白」の像を観察像Lとして、右眼では「青っぽい白」の像を観察像Rとして観察することになる。
【0012】
このように、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右で異なる色の像を両眼で観察させることで、左右の像を足し合わせて、観察瞳R・Lの中心での像の色(上記の例では「白」)に近い映像を観察させることができる。これにより、個々の観察瞳R・L内では色ムラが大きくても、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者は、あたかも色ムラの小さな映像表示装置で観察しているかのように映像を良好に観察することができる。したがって、個々の瞳内での色ムラを小さくする努力が軽減される。
【0013】
個々の瞳内での色ムラを小さくするためには、例えば拡散板を用いてその拡散度を上げる方法があるが、本発明では、拡散度の高い拡散板を用いる必要がなくなる。また、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に対して左右で異なる色の像を観察させるので、従来のような眼幅調整機構を設けたり、観察瞳R・Lをそれぞれ複数の瞳で構成して眼幅方向に広げる必要もなくなる。その結果、本発明によれば、眼幅調整機構のない簡易な構成で、高画質で明るい映像を、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に観察させることが可能となる。
【0014】
また、本発明の映像表示装置においては、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lよりも、これらの観察像Rおよび観察像Lを足し合わせてできる観察像Bのほうが、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心での像の色に近いことが望ましい。
【0015】
この場合、観察者は、両眼観察時に、片眼観察時に観察される像の色よりも観察瞳Rおよび観察瞳Lの中心での像の色に近い映像を視認することができる。
【0016】
また、本発明の映像表示装置においては、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lにおける瞳内色分布をXYZ表色系におけるXY色度座標で表したとき、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各々において、眼幅方向両端での色度X座標値の差および色度Y座標値の差の少なくとも一方は、0.05以上であることが望ましい。
【0017】
この場合、観察瞳R・L内に、眼幅方向の位置によって像の色が異なる色ムラが確実に発生する。これにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右の眼で互いに異なる色の像を観察させることが確実に可能となり、両眼での観察像として、片眼での観察像よりも、観察瞳R・Lの中心での像の色に近い映像を観察させることができる。
【0018】
また、本発明の映像表示装置においては、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察像Rおよび観察像Lの観察画面内の色分布をXYZ表色系におけるXY色度座標で表したとき、観察瞳R内および観察瞳L内のいずれの位置に右眼および左眼が位置しても、観察像Rおよび観察像Lの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲は、両者とも0.03以下の範囲であることが望ましい。
【0019】
この場合、観察瞳R・L内のいずれの位置に右眼および左眼が位置しても、観察像R・Lには色の違いとして認識可能なレベルの色ムラがなく、観察者は個々の観察像R・Lとして色ムラのない良好な映像を観察することができる。
【0020】
また、本発明の映像表示装置においては、両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lは、互いに同じ瞳内色分布を持って眼幅方向に並んでいることが望ましい。
【0021】
この場合、観察瞳R・Lの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lを同一色とし、観察瞳R・Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lを互いに異なる色とすることができる。これにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右で異なる色の像を両眼で観察させて、観察瞳R・Lの中心での像の色に近い映像を観察させることができる。
【0022】
また、本発明の映像表示装置においては、光源Rおよび光源Lは、異なる波長の光を出射する複数の発光部でそれぞれ構成されており、光源Rおよび光源Lにおいて、各発光部は、観察者の眼幅方向に同じ順で並んで配置されている構成であってもよい。
【0023】
この構成では、映像表示素子R・Lを同じように駆動したときでも(例えば映像表示素子R・Lの各画素を全て光透過状態にしたときでも)、各発光部の位置の違いや、各発光部から出射される光の強度分布の違い等により、観察瞳R・L内に同じ色ムラを生じさせることが可能となる。これにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右で異なる色の像を両眼で観察させて、観察瞳R・Lの中心での像の色に近い映像を観察させることができる。
【0024】
また、本発明の映像表示装置においては、複数の発光部は、3原色に対応した波長の光をそれぞれ出射する構成であってもよい。この場合、映像表示素子R・Lにてカラー映像を表示することが可能となり、両眼観察時に観察者にカラー映像を観察させることが可能となる。
【0025】
また、本発明の映像表示装置においては、映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、光源と観察瞳とは、各発光部が並ぶ方向に垂直な方向において略共役であってもよい。
【0026】
この場合、左右の映像表示ユニットR・Lのそれぞれにおいて、各発光部が並ぶ方向とは垂直方向においては、光源からの光を効率よく観察瞳に導くことができ、観察瞳の位置にて明るい映像を観察者に観察させることが可能となる。
【0027】
また、本発明の映像表示装置においては、映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、接眼光学系は体積位相型の反射型ホログラム光学素子を含んでおり、映像表示素子からの映像光をホログラム光学素子によって拡大反射して観察者の眼に虚像として導くとともに、ホログラム光学素子を透過した外界像の光を観察者の眼に導く構成であってもよい。
【0028】
この場合、ホログラム光学素子(以下、HOEとも称する)により、映像表示素子からの映像光と外界像の光とが同時に観察者の眼に導かれるので、外界像に映像を重ねて観察できるシースルー型の映像表示装置が構成される。このとき、HOEが接眼光学系を兼ねるので、装置を小型軽量にすることができる。また、体積位相型の反射型のHOEは、回折効率の半値波長幅が狭いので、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を明瞭に観察することができる。
【0029】
また、本発明の映像表示装置においては、映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、ホログラム光学素子は、回折効率が極大値となる複数の回折ピーク波長を持ち、それぞれの回折ピーク波長に対して、映像表示素子の中心から出射されて観察瞳の中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλ0とし、映像表示素子の周辺部から出射されて観察瞳の中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλxとすると、
0.98≦(λx/λ0)≦1.02
であることが望ましい。
【0030】
この構成では、λx/λ0の値が1に近く、λxとλ0とのずれが小さいので、つまり、観察画角の中心と端部とにおける回折ピーク波長の差が小さいので、観察者は、観察像R・L内の色ムラを非常に小さく観察することができる。
【0031】
また、本発明の映像表示装置においては、映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、接眼光学系は、ホログラム光学素子を埋設した接合光学部材を含んでおり、映像表示素子からの映像光を、接合光学部材の入射面より入射させ、内部で複数回全反射してホログラム光学素子に導く構成であってもよい。
【0032】
このように接合光学部材の内部での全反射を用いた構成とすることにより、接合光学部材を小型軽量にすることができる。また、映像表示素子を視野の周辺に配置することが可能となり、広い外界視野角を確保することができる。
【0033】
また、本発明の映像表示装置においては、上記ホログラム光学素子は、映像表示素子に表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学的パワーを有していてもよい。この場合、接眼光学系を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0034】
また、本発明の映像表示装置においては、映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、光源は、発光ダイオードで構成されていることが望ましい。この場合、光源であるLEDの発光波長とHOEの回折波長とを合わせるようにすれば、明るい映像を観察者に提供できる。
【0035】
また、本発明の映像表示装置においては、上述した本発明の映像表示装置と、上記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴としている。
【0036】
上記の構成によれば、2つの映像表示ユニットR・Lを有する映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で支持されるので、観察者はハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像を虚像として両眼で観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、眼幅の異なる観察者に対して、左右で異なる色の像を観察させることにより、拡散度の高い拡散板や眼幅調整機構を用いない簡易な構成で、高画質で明るい映像を観察者に観察させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
(1.HMDについて)
図2(a)は、本実施形態に係るHMDの概略の構成を示す平面図であり、図2(b)は、HMDの側面図であり、図2(c)は、HMDの正面図である。HMDは、映像表示装置1と、それを支持する支持手段2とを有しており、全体として、一般の眼鏡のような外観となっている。
【0039】
映像表示装置1は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものであり、右眼用の映像表示ユニット1Rと、左眼用の映像表示ユニット1Lとで構成されている。図2(c)で示す映像表示ユニット1R・1Lにおいて、眼鏡の右眼用レンズおよび左眼用レンズに相当する部分は、後述する接眼プリズム22および偏向プリズム23(ともに図3参照)の貼り合わせによって構成されている。なお、映像表示ユニット1R・1Lの詳細な構成については後述する。
【0040】
支持手段2は、映像表示ユニット1R・1Lを観察者の右眼および左眼の前でそれぞれ支持するものであり、ブリッジ3と、フレーム4と、テンプル5と、鼻当て6と、ケーブル7と、外光透過率制御手段8とを有している。鼻当て6および外光透過率制御手段8は、ブリッジ3に支持されている。なお、フレーム4、テンプル5および鼻当て6は、左右一対設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム4R、左フレーム4L、右テンプル5R、左テンプル5L、右鼻当て6R、左鼻当て6Lのように表現するものとする。
【0041】
ブリッジ3は、映像表示ユニット1R・1Lを連結している。右テンプル5Rは、右フレーム4Rに回動可能に支持されており、この右フレーム4Rを介して映像表示ユニット1Rと(ブリッジ3との連結側とは反対側で)連結されている。同様に、左テンプル5Lは、左フレーム4Lに回動可能に支持されており、この左フレーム4Lを介して映像表示ユニット1Lと(ブリッジ3との連結側とは反対側で)連結されている。
【0042】
ケーブル7は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示ユニット1R・1Lに並列に供給するための配線であり、右テンプル5R、右フレーム4Rおよびブリッジ3に沿って設けられている。外光透過率制御手段8は、外光(外界像の光)の透過率を制御するために設けられており、映像表示装置1R・1Lよりも前方(観察者とは反対側)に位置している。なお、外光透過率制御手段8は、必要に応じて設けられればよい。
【0043】
観察者がHMDを使用するときは、右テンプル5Rおよび左テンプル5Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て6を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにHMDを観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示ユニット1R・1Lにて映像を表示すると、観察者は、映像表示ユニット1R・1Lの各表示映像を虚像として右眼および左眼でそれぞれ観察できるとともに、この映像表示ユニット1R・1Lを介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0044】
このとき、外光透過率制御手段8において、外光透過率を例えば50%以下に低く設定しておけば、観察者は映像表示ユニット1R・1Lの映像を観察しやすくなり、逆に、外光透過率を例えば50%以上に高く設定しておけば、観察者は、外界像を観察しやすくなる。したがって、外光透過率制御手段8における外光透過率は、映像表示ユニット1R・1Lの映像および外界像の観察のしやすさを考慮して適宜設定されればよい。
【0045】
(2.映像表示ユニットについて)
次に、上述した映像表示ユニット1R・1Lの詳細について説明する。なお、映像表示ユニット1R・1Lの基本的な構成は同じであるので、以下では、映像表示ユニット1R・1Lの構成について、左右を区別せずに説明することとする。なお、特に左右を区別して説明する場合は、右を示す“R”や左を示す“L”の符号を付記し(特許請求の範囲でも同様)、その符号の前に必要に応じて部材番号を付記するものとする。
【0046】
図3は、映像表示ユニット1R・1Lの概略の構成を示す断面図であり、図4は、映像表示ユニット1R・1Lにおける光の光路を展開して示す説明図である。映像表示ユニット1R・1Lは、映像表示部11と、接眼光学系21とでそれぞれ構成されている。映像表示部11は、光源12と、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。
【0047】
光源12は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されており、後述する集光レンズ14の物側焦点近傍に配置されている。また、光源12のRGBの各発光部は、例えば、HMDを観察者が装着したときの眼幅方向(左右方向)に対応する水平方向(図3の紙面に垂直な方向)に並んで配置されている。なお、各発光部の配置位置の詳細については後述する。
【0048】
一方向拡散板13は、光源12からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、光源12のRGBの各発光部が並ぶ方向(上記水平方向)には、入射光を約20゜拡散させ、それに垂直な方向(HMDを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向))には、入射光を約0.2゜拡散させる。集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光する照明光学系である。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく観察瞳(光学瞳)Eを形成するように配置されている。
【0049】
LCD15は、映像信号に基づいて光源12からの光を各画素ごとに変調することにより、映像を表示する映像表示素子である。なお、本実施形態では、LCD15は、透過型であるが、反射型で構成されていてもよい。この場合、光源12などの他の光学素子の配置位置を工夫する必要がある。また、LCD以外の光変調素子(例えばDMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製))を映像表示素子として用いてもよい。
【0050】
一方、接眼光学系21は、接合プリズム(接合光学部材)で構成され、テレセントリックな光学系を構成している。この接合プリズムは、光学部材である接眼プリズム22と偏向プリズム23とを、光学素子24を挟んで接合してなっている。
【0051】
接眼プリズム22と偏向プリズム23とは、接着剤で接合されている。接眼プリズム22は、平行平板の下端部を楔状にし、その上端部を厚くした形状で構成されており、面22a・22b・22cを有している。面22aは、映像表示部11からの映像光が入射する入射面であり、面22b・22cは互いに対向する面である。このうち、面22bは、全反射面兼射出面となっている。
【0052】
偏向プリズム23は、平行平板の上端部を接眼プリズム22の下端部に沿った形状とすることによって、接眼プリズム22と一体となって略平行平板となるように構成されている。接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させない場合、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム22を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム22に偏向プリズム23を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が接眼プリズム22の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム23でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0053】
上記の接眼プリズム22および偏向プリズム23は、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、MMA(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、あるいはZEONEX(登録商標)、アペル(登録商標)等のシクロオレフィン系樹脂で構成されている。これらの有機材料は、透明性が高く、低複屈折であるので、これらの材料で上記の光学部材を構成することにより、良好な光学性能(例えば透過特性)を得ることができる。
【0054】
また、各光学部材の接合に用いる接着剤は、例えば、光学部材の材料と同じ系列であるアクリル系あるいはシクロオレフィン系の有機材料で構成されている。これは、同系列の材料同士は密着力が高いからである。また、これらの有機材料は、「透明性が高い」、「紫外線・可視光照射により非常に短時間で容易に硬化が可能である」、「同系列なので屈折率が光学部材と似通っており、接合後、接合線部が目立ちにくい」、などの多くの利点を兼ね備えており、光学部材の接合に用いる接着剤として非常に望ましい。このような接着剤としては、例えばLCR629B(東亞合成株式会社製)やNOA76(ノーランドプロダクツ社製)等を用いることができる。
【0055】
光学素子24は、例えばハーフミラーで構成されてもよいが、ここでは、特定の入射角で入射する例えば465±10nm、520±10nm、635±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型の反射型ホログラム光学素子(HOE)で構成されている。つまり、このHOEは、回折効率が極大値となる複数の回折ピーク波長を持つ。また、それぞれの回折ピーク波長に対して、LCD15の中心から出射されて観察瞳Eの中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλ0とし、LCD15の周辺部から出射されて観察瞳Eの中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλxとすると、HOEは、0.98≦(λx/λ0)≦1.02を満たすように作製されている。このようなHOEからなる光学素子24は、接眼プリズム22の下端部の傾斜面に貼り付けられており、この結果、接眼プリズム22と偏向プリズム23とで挟まれている。
【0056】
このような映像表示ユニット1R・1Lの構成により、映像表示部11の光源12から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15に入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0057】
LCD15からの映像光は、接眼光学系21の接眼プリズム22の内部にその上端面(面22a)から入射し、対向する2つの面22b・22cで複数回全反射されて、光学素子24に入射する。光学素子24に入射した光はそこで反射され、面22bを介して射出され、観察瞳Eに達する。観察瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。観察瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0058】
一方、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。以上のことから、光学素子24は、映像表示部11から提供される映像(映像光)と外界像(外光)とを同時に観察者の眼に導くコンバイナとして機能していると言える。
【0059】
以上のように、映像表示ユニット1R・1Lのそれぞれにおいて、接眼光学系21の光学素子24は、体積位相型の反射型HOEで構成されており、LCD15からの映像光をHOEによって拡大反射して観察者の眼に虚像として導くとともに、HOEを透過した外界像の光を観察者の眼に導く。このようにHOEが接眼光学系を兼ねるので、映像表示ユニット1R・1Lを小型軽量にすることができる。また、体積位相型の反射型のHOEは、回折効率の半値波長幅が狭いので、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を明瞭に観察することができる。さらに、HOEはLCD15にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学的パワーを有しているので、接眼光学系21を小型に構成しながら、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0060】
また、光学素子24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させる体積位相型の反射型HOEで構成されているので、LCD15からの映像光が、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を透過する外界像の光に影響を与えることがない。つまり、体積位相型の反射型HOEは、波長選択性・角度選択性がともに高いことから、ある限られた波長域の光に対してのみ回折反射作用を及ぼすので、特定波長域の反射光とそれ以外の波長の透過光とを合成するコンバイナ素子としてHOEを機能させることができる。それゆえ、観察者は、光学素子24を介してLCD15の表示映像の虚像を観察しながら、接眼プリズム22、偏向プリズム23および光学素子24を介して外界像を通常通りかつ明瞭に観察することができる。
【0061】
また、光学素子24は、映像光と外光とを同時に観察者の瞳に導くコンバイナであるので、観察者は、LCD15から提供される映像を接眼光学系21を介して観察することができるのと同時に、接眼光学系21を介してシースルーで外界像を観察することができる。また、光学素子24は、接眼プリズム22および偏向プリズム23の接合面間に埋設されているので、光学素子24が外気に触れることがなく、光学素子24の光学性能を安定に保つことができる。
【0062】
また、映像表示ユニット1R・1Lでは、LCD15から出射される映像光を、接眼プリズム22の面22aより内部に入射させ、内部で複数回全反射させて光学素子24に導く構成としている。これにより、通常の眼鏡レンズと同様に接眼プリズム22および偏向プリズム23の厚さを3mm程度にすることができ、接眼光学系21ひいては映像表示ユニット1R・1Lを小型化、軽量化することができる。さらに、映像表示部11を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、接眼プリズム22内での反射を全反射としているので、接眼プリズム22の両面(面22b・22c)を介して、透過率を落とすことなく外光を透過させて、観察者に外界像を観察させることができる。
【0063】
また、光源12としてLEDを用いているので、LEDの発光波長とHOEの回折波長とを合わせることで、明るい映像を観察者に提供することができる。特に、光源12がRGBの光を出射するLEDで構成されているので、LED15にてカラー映像を表示することが可能となり、両眼観察の際でも観察者にカラー映像を観察させることが可能となる。
【0064】
また、光源12を集光レンズ14の物側焦点近傍に配置し、接眼光学系21をテレセントリックな光学系としているので、光源12と観察瞳Eとは略共役な位置関係にある。ただし、光源12からの光は一方向拡散板13で拡散されるので、光源12と観察瞳Eとは一方向拡散板13の拡散方向、すなわち光源12の各発光部が並ぶ方向(例えば水平方向)については実際には共役ではないが、上記方向に垂直な方向においては略共役である。これにより、上記垂直方向においては、光源12からの光を効率よく観察瞳Eに導くことができ、観察瞳Eの位置にて明るい映像を観察者に観察させることが可能となる。また、観察瞳Eにて最も強度の強い位置は、光源12と共役な位置にほぼ一致するので、LCD15を略平行な光束で照明(ケーラー照明)することになり、光源12の輝度ムラ・色ムラをLCD15の表示画面内で比較的小さくすることができる。
【0065】
また、映像表示ユニットR・Lのそれぞれにおいて、光学素子24を構成するHOEは、上述したように0.98≦(λx/λ0)≦1.02を満たすように作製されている。このように、λx/λ0の値が1に近い場合、λxとλ0とのずれが小さいので(観察画角の中心と端部とにおける回折ピーク波長の差が小さいので)、観察者は、観察像E内の色ムラを非常に小さく観察することができる。
【0066】
なお、光源12のRGBの3つの発光点(各発光部の位置)が異なるので、本実施形態のように一方向拡散板13の拡散度が小さいと、観察瞳E上で色ムラが発生することとなる(図1参照)。しかし、本実施形態では、逆にそのことを利用し、眼幅の異なる観察者の個々に対して、両眼観察像としては色ムラを低減した映像を観察させるようにしている。この点については後述する。
【0067】
なお、一方向拡散板13と集光レンズ14との位置関係は逆であっても構わない。つまり、光源12からの光を集光レンズ14にて集光し、一方向拡散板13にて拡散させてLCD15に入射させるようにしても構わない(図8参照)。
【0068】
(3.光学素子の作製方法について)
次に、上述した光学素子24の作製方法について簡単に説明する。
光学素子24を構成するHOEは、例えば、光学フィルムである多層フィルムを接眼プリズム22上に貼り付け、これをレーザ光で露光することによって作製される。上記の多層フィルムは、ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルムおよびカバーフィルムがこの順で重なって構成されている。ベースフィルム、バリアフィルム、感光性フィルムおよびカバーフィルムの厚さは、それぞれ例えば50μm、5μm、20μm、50μmである。
【0069】
また、感光性フィルムを構成する感光材料としては、フォトポリマー、銀塩材料、重クロム酸ゼラチンなどが挙げられるが、本実施形態では、光学素子24としてのHOEをドライプロセスで容易に製造可能なフォトポリマーを用いている。特に、感光性フィルムは、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色に対応した波長に感度を有する単層または3層のフォトポリマーで構成されている。
【0070】
上記の多層フィルムを用いた光学素子24の作製プロセスは、以下の通りである。まず、フィルム原版から多層フィルムを切り出す。このとき、同時に、多層フィルムにおいて、接眼プリズム22への貼付が必要な領域と、その周囲に形成される領域であって貼付が不要な領域との境界にも切り目を入れる。そして、多層フィルムからカバーフィルムを剥離し、多層フィルムを接眼プリズム22に対して位置決めした後、ゴムローラによる押し付けにより、接眼プリズム22の接合面に多層フィルムを貼り付ける。このとき、多層フィルムの感光性フィルム側が接眼プリズム22側となるようにする。そして、接眼プリズム22の接合面に貼付必要領域のみが残るように、貼付不要領域を剥離するとともに、貼付必要領域のベースフィルムも剥離する。
【0071】
最後に、可干渉性のレーザ光を感光性フィルムに2光束で照射し、その2光束の干渉によってHOEを作製する。このとき、レーザ光としてRGBの3色の光を射出するレーザ光源を用いることで、RGBの3色に対して機能するHOE、すなわち、RGBの光を回折反射させるHOEを作製することができる。
【0072】
(4.色ムラの低減方法について)
次に、本実施形態での観察像の色ムラの低減方法について説明する。なお、その低減方法を実現する映像表示ユニット1R・1Lの具体的な構成については後述する。
【0073】
なお、以下での説明の便宜上、映像表示ユニット1RのLCD15を映像表示素子Rとし、その観察瞳Eを観察瞳ERとする。同様に、映像表示ユニット1LのLCD15を映像表示素子Lとし、その観察瞳Eを観察瞳ELとする。また、映像表示素子Rに映像を表示したときに、観察者の右眼で観察される観察像を観察像Rとする。同様に、映像表示素子Lに映像を表示したときに、観察者の左眼で観察される観察像を観察像Lとする。また、観察像Rおよび観察像Lを足し合わせてできる、両眼での観察像を観察像Bとする。
【0074】
また、本実施形態では、光源12としてRGB一体型のLEDを用いているので、RGBの全発光部を点灯させて、映像表示素子R・Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にすると、映像表示素子R・Lには白色無地映像が表示される。このことから、映像表示素子R・Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にすることを、単に白色表示状態とも称し、特にその両方が白色表示状態であることを強調するときは、両方白色表示状態とも称することとする。
【0075】
図1は、両方白色表示状態での観察瞳ER・EL内での色分布の一例を示す説明図である。なお、図1では、観察瞳ER・EL内の縦線の間隔が狭いほど、白色が赤っぽいまたは青っぽいことを示し、上記間隔が広いほど白色に近いことを示している。両方白色表示状態では、観察瞳ER・EL内の全領域において色ムラのない白色像が観察されるのが理想であるが、例えばRGBの3色の発光部(LED等)を光源12が有する場合、実際には3色の発光部の位置の違いや、放射角による強度分布の違い、HOEの角度選択性などの影響により、観察瞳ER・ELには、眼幅方向の位置によって像の色が異なる瞳内色分布(色ムラ)がそれぞれ生じる。ここでは、例として、観察瞳ER・EL内には、両方とも、眼幅方向における左側から右側に向かう方向に、「青っぽい白」、「白」、「赤っぽい白」と連続的に色が変化する色分布が存在している。つまり、観察瞳ER・ELは、互いに同じ瞳内色分布を持って眼幅方向に並んでいる。
【0076】
したがって、観察瞳ER・ELの各中心近傍に観察者の右眼および左眼がそれぞれ位置するとき(眼幅距離(1)参照)、観察像R・Lは、同一色(ともに「白」)となる。また、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士に等距離離れた位置に観察者の右眼および左眼が位置するとき(眼幅距離(2)参照)、観察像Rおよび観察像Lは、互いに異なる色(観察像Rは「青っぽい白」、観察像Lは「赤っぽい白」)となる(図5参照)。また、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向外側同士に等距離離れた位置に観察者の右眼および左眼が位置するときでも(眼幅距離(3)参照)、観察像Rおよび観察像Lは、互いに異なる色(観察像Rは「赤っぽい白」、観察像Lは「青っぽい白」)となる。
【0077】
つまり、この例では、片眼のみで観察すると、観察像Lは、眼幅方向における観察瞳ELLの中心付近は目的とする白色像となるが、観察瞳ELの左右方向周辺に近づくにつれて、内側は赤っぽい白の像となり、外側は青っぽい白の像となっている。すなわち、眼幅の狭い観察者が左眼で観察する観察像Lは赤っぽい白の像となり、眼幅の広い観察者が左眼で観察する観察像Lは青っぽい白の像となる。一方、観察像Rについてはその逆で、眼幅の狭い観察者が右眼で観察する観察像Rは青っぽい白の像となり、眼幅の広い観察者が右眼で観察する観察像Rは赤っぽい白の像となる。
【0078】
なお、人間の眼幅距離には個人差があるが、一般的には58〜70mmの眼幅の範囲に約90%以上の人が属すると言われている。この範囲の観察者に良好に映像を観察させるためには、その差12mmを補うことができる観察瞳ER・EL(すなわち片眼あたり左右方向に約6mmの観察瞳ER・EL)が必要となる。そこで、本実施形態では、観察瞳ER・ELの左右方向の大きさを6mmとした場合、観察瞳ER・ELの中心から左右に各1.5mm程度の範囲を観察瞳ER・ELの中心付近の領域とし、上記中心付近の領域よりも外側の領域であって、観察瞳ER・ELの両端約1.5mm程度の領域を、観察瞳ER・EL内で色が左右で異なって観察される領域としている。
【0079】
以上のように、両方白色表示状態において、観察像R・Lの色が観察者の右眼および左眼の位置に応じて変化するように、観察瞳ER・ELに上述した瞳内色分布(色ムラ)を発生させ、観察瞳ER・ELにおいて、瞳内色分布の変化の仕方を眼幅方向に同一にすることにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅距離の観察者に対して、左右で異なる色の像を観察させることが可能となる。
【0080】
ここで、図5は、両方白色表示状態において、眼幅の狭い観察者(図1の眼幅距離(2)を有する観察者)の左眼で観察される観察像L、右眼で観察される観察像Rおよび両眼で観察される観察像Bを模式的に示している。上述したように、眼幅の狭い観察者は、左眼では画面全体で赤っぽい白の像を、右眼では画面全体で青っぽい白の映像を観察することになり、左右眼ともに本来観察させたい像(ここでは白色)とは異なる色の像を観察する(なお、眼幅の広い観察者は、左眼および右眼で上記とは逆の色の像を観察することになる)。しかし、これらを両眼視することにより、両眼での観察像Bとしては、右眼での観察像Rと左眼での観察像Lとを重ね合わせた色として認識することになり、最終的に観察させたい、設計観察瞳中心の色(ここでは白色)に近い像を観察させることができる。すなわち、観察瞳ER・EL内の色ムラが大きいにもかかわらず、両眼観察により、観察者にはあたかもその瞳内色ムラの小さい映像表示装置1で映像を観察しているかのように映像を観察させることができる。したがって、個々の瞳内での色ムラを小さくする努力が軽減される。
【0081】
個々の瞳内での色ムラを小さくするためには、例えば一方向拡散板13の拡散度を上げる方法があるが、本実施形態では、両眼観察によって色ムラを低減した映像を観察させることができるので、そのように一方向拡散板13の拡散度を上げる必要がなくなる。また、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に対して左右で異なる色の像を観察させることにより、両眼での観察像Bとして色ムラを低減した映像を観察させるので、観察者の眼幅の違いに対応すべく、従来のような眼幅調整機構を設けたり、観察瞳ER・ELをそれぞれ複数の瞳で構成することによって眼幅方向に広げる必要もなくなる。その結果、眼幅調整機構のない簡易な構成で、高画質で明るい映像を、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に観察させることが可能となる。
【0082】
特に、本実施形態では、図1に示すように、両方白色表示状態において、観察瞳ER・ELは、互いに同じ瞳内色分布を持って眼幅方向に並んでいるので、観察瞳ER・ELの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lを同一色とし、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像R・Lを互いに異なる色とすることができる。これにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に対して、左右で異なる色の像を観察させて、両眼での観察像Bとして、観察瞳ER・ELの中心での像の色に近い映像を観察させることができる。
【0083】
また、図1および図5に示すように、両方白色表示状態において、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lよりも、これらの観察像Rおよび観察像Lを足し合わせてできる観察像Bのほうが、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心での像の色(例えば白色)に近い。したがって、観察者は、両眼観察時に、片眼観察時に観察される像の色よりも観察瞳Rおよび観察瞳Lの中心での像の色(白色)に近い映像を視認することができる。
【0084】
なお、以上では、瞳内色ムラが全く同じものを隣同士に並べて観察瞳ER・ELとしているが、勿論、左右の観察瞳ER・ELの瞳内色ムラが全く同じでなくても、その色ムラの発生方向が同方向であればよい。いずれにしても、観察瞳ER・ELの瞳内色ムラが両眼視によって(観察像R・Lの色の違いによって)打ち消されるように、瞳内色ムラを発生させればよい。
【0085】
ところで、図6は、XYZ表色系におけるXY色度座標を示している。なお、同図中のR1、L1、B1は、それぞれ、(両方)白色表示状態において、設計眼幅距離と同じ眼幅の観察者の右眼、左眼、両眼で観察される観察像R、観察像L、観察像Bの画面中心に対応する色度座標を示す。また、同図中のR2、L2、B2は、それぞれ、(両方)白色表示状態において、眼幅の狭い観察者の右眼、左眼、両眼で観察される観察像R、観察像L、観察像Bの画面中心に対応する色度座標を示す。さらに、同図中のR3、L3、B3は、それぞれ、(両方)白色表示状態において、眼幅の広い観察者の右眼、左眼、両眼で観察される観察像R、観察像L、観察像Bの画面中心に対応する色度座標を示す。また、同図中のPは、白色表示状態において、片眼(右眼または左眼)での観察時における観察瞳内の全位置に対応する色度座標の範囲を示し、Qは、両方白色表示状態において、両眼で観察される観察像の画面内の全位置に対応する色度座標の範囲を示す。
【0086】
上述した本発明の効果については、図6を用いて以下のように説明することもできる。すなわち、例えば、眼幅が狭い観察者においては、左眼で観察される観察像Lの画面中心に対応する色度座標はL2(赤っぽい白)となり、右眼で観察される観察像Rの画面中心に対応する色度座標はR2(青っぽい白)となる。これらを両眼で観察すると、観察像Bは、L2とR2との中間的な色として認識され、色度座標としてはL2とR2との中間的な色をとる。なお、左右像を均等に観察した場合は、L2とR2とのほぼ中間値のB2となるが、実際、人間には利き目があるので、利き目側の色をより強く認識する。このため、観察像Bとしては、中間値よりもやや利き目側に近い色として観察される。しかし、いずれにしても、観察像Bの色は、L2とR2との間の色となる。
【0087】
この結果、両眼視における観察像Bの色は、片眼観察時よりも設計眼幅の観察者の観察像の色(B1)に近づくことなり、実質上、あたかも観察瞳ER・EL内の色ムラが小さい装置で観察したかのように観察することができる。したがって、観察瞳ER・EL内の瞳内色ムラが大きく、かつ、眼幅調整機構がない構成においても、眼幅の異なる複数の観察者が設計観察瞳ER・ELの中心での観察像R・Lの色に近い色で映像を観察することが可能となる。
【0088】
ところで、両方白色表示状態においては、観察瞳ER・ELの各々において、眼幅方向両端での色度X座標値の差および色度Y座標値の差、すなわち、R2とR3、L2とL3での色度X座標値の差および色度Y座標値の差の少なくとも一方は、0.05以上であることが望ましい。ちなみに、本実施形態では、図6に示すように、R2とR3、L2とL3とにおける上記色度X座標の差は、ともに0.15程度であり、上記色度Y座標の差は、ともに0.1程度となっている。
【0089】
このような状態では、観察瞳ER・EL内に、眼幅方向の位置によって像の色が異なる色ムラが確実に発生する。これにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に対して、左右の眼で互いに異なる色の像を観察させることが確実に可能となり、両眼での観察像として、片眼での観察像よりも、観察瞳ER・ELの中心での像の色に近い映像を観察させることができる。
【0090】
また、両方白色表示状態においては、観察瞳ER・EL内のいずれの位置に右眼および左眼が位置しても、観察像R・Lの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲は、両者とも0.03以下の範囲であることが望ましい。例えば、図5では、眼幅の狭い観察者が観察する観察像R・Lを示したが、このときの観察者の右眼および左眼は、観察瞳ER・ELの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士に等距離離れた位置にある。このときの観察像Rの画面全体としては青っぽい白であり、観察像Rの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲は、両者とも0.03以下の範囲であることがわかっている。同様に、観察像Lの画面全体としては赤っぽい白であり、観察像Lの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲は、両者とも0.03以下の範囲であることがわかっている。
【0091】
このように、観察瞳ER・EL内のいずれの位置に右眼および左眼が位置しても、観察像R・Lの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲が両者とも0.03以下であれば、観察像R・Lには色の違いとして認識可能なレベルの色ムラがなく、観察者は個々の観察像R・Lとして色ムラのない良好な映像を観察することができる。
【0092】
(5.色ムラを低減するための構成について)
次に、上述した色ムラの低減方法を実現する映像表示ユニット1R・1Lの具体的な構成について説明する。
【0093】
図7は、光源12R・12Lの各発光部の配置の一例を示す平面図である。同図に示すように、光源12Rは、RGBの3原色の波長の光を発光する発光部12RR・12RG・12RBを1つのチップ上に並べた3色1チップのLEDで構成されている。また、光源12Lも同様に、RGBの3原色の波長の光を発光する発光部12LR・12LG・12LBを1つのチップ上に並べた3色1チップのLEDで構成されている。
【0094】
本実施形態では、光源12R・12Lの各発光部は、観察者の眼幅方向に同じ順で並んで配置されている。より具体的には、光源12Rでは、観察者の眼幅方向である左右方向の左側から右側に向かって、発光部12RR・12RG・12RBがこの順で一列に並んで配置されている。また、光源12Lにおいても、上記左右方向の左側から右側に向かって、発光部12LR・12LG・12LBがこの順で一列に並んで配置されている。
【0095】
また、図8は、映像表示ユニット1Lにおいて、光源12Lから観察瞳ELに向かうRGBの光の光路を示す説明図であり、図9は、観察瞳ELに到達したRGBの光の強度分布を示す説明図である。なお、映像表示ユニット1Rにおける光の光路や観察瞳ER上の光強度分布についても、図9と同様の図となる。
【0096】
図7に示したように、光源12Rおよび光源12Lにおいては、RGBの各発光部の位置が異なるため、図8および図9に示すように、光源12Lからの光が集光レンズ14L、一方向拡散板13L、LCD15L、接眼光学系21Lを介して観察瞳ELに到達した際に、観察瞳EL上の各位置によって強度分布が異なり、これが観察瞳EL内の色ムラとなって現れる。図9では、観察瞳ELの左右端では、BとRの強度比が約2倍異なり、瞳中心に対しては色の違いとして認識される。特に、光源と光学瞳とを略共役な位置関係にすると、表示画面内の色ムラを比較的小さくできるが、明るく観察させるために拡散板での拡散度を小さくすると、瞳内で色ムラが発生する。
【0097】
眼幅調整機構を設けずに、眼幅の異なる観察者に良好に映像を観察させるためには、片眼観察では、上記のような瞳内色ムラを低減すべく、用いる拡散板の拡散度を高めて、画面中心と周辺との光量差を小さくするとともに、各位置でのRGBの光量比をほぼ等しくする必要がある。しかし、この方法では、照明光の光利用効率を低下させるので、映像が暗い。
【0098】
これに対して、本実施形態では、光源12R・12Lの各発光部が眼幅方向に同じ順で並んで配置されていることにより、設計眼幅距離とは異なる眼幅の観察者に対しては、片眼視では、左右眼ともに本来観察させたい像とは異なる色の像が観察されるが、これらの像を両眼視することで、最終的に観察させたい設計観察瞳中心の色に近い像を観察させることができる。これにより、左右眼の観察瞳内の色ムラが大きいにもかかわらず、観察者にはあたかも瞳内色ムラの小さい映像表示装置で観察しているかのように観察させることができる。
【0099】
すなわち、本実施形態のように、光源12R・12Lにおいて、各発光部を観察者の眼幅方向に同じ順で並べて配置して、左右の観察瞳ER・EL内で同じ色ムラを発生させることにより、左右の瞳内色ムラを個々に低減する必要がなくなり、拡散板の拡散度を高める(例えば水平方向に40度とする)必要もなくなる。これにより、映像をより明るく観察することが可能となる。また、複数波長の光の強度比を瞳内の全ての位置でほぼ一定にそろえる必要もなくなる。
【0100】
なお、観察瞳ER・ELにおいて、各色の強度比が1:0.8程度であれば色ムラとして感じないレベルであることを考えると、本実施形態で説明した色ムラの低減方法は、各色の強度比が、理想的な各色の強度比(この場合、画面中心における各色の強度比)に対して、最大20%以上異なる場合により有効であると考えられる。
【0101】
なお、以上では、光源12R・12Lは、RGBの3色の光を発光する3色光源で構成されている例について説明したが、2色の光を発光する2色光源で構成されてもよく、4色以上の光を発光する光源で構成されていてもよい。いずれの場合でも、光源R・Lにおいて、各発光部を観察者の眼幅方向に同じ順で並べて配置すればよい。また、RGBの各発光部は、眼幅方向に完全に一列に配置されていなくてもよい。例えば、RGBの各発光部は、眼幅方向に略一列に、すなわち、2つの発光部を結ぶ直線(眼幅方向に一致)に対して、残りの発光部が垂直方向に多少ずれて配置されていてもよい。
【0102】
(6.拡散度の設定に関する具体例について)
次に、一方向拡散板13の横方向の拡散度の設定に関する具体例について説明する。
なお、人間の眼幅距離に個人差があることは上述した通りであるが、眼幅範囲を広めに見積もっても、ほぼ大半の人が54〜72mm(63±9mm)の範囲に含まれる。したがって、眼幅調整機構なしで映像を観察可能とするためには、左右の観察瞳ER・ELが63mmを中心としてそれぞれ横方向に約9mm程度あればよいと考えられる。
【0103】
そこで、ここでは、左右の観察瞳ER・ELの横方向(眼幅方向)の長さを余裕を持って約10mmに設計し、このような観察瞳ER・ELを実現するために、光源12R・12Lを構成するRGBの発光部(LED)を片眼につき2組用い、2組の瞳を合成してそれぞれ観察瞳ER・ELとした。
【0104】
また、ここでは、光源12R・12Lと観察瞳ER・ELとの位置関係が略共役であるとし、光源12R・12Lとして用いるLEDは、RGBの3色1チップのものであり、チップ外形は3mmで、RGBのチップ間距離は0.5mmとした。さらに、集光レンズ14の焦点距離を約7mmとし、接眼光学系21(HOE)の焦点距離を約20mmとした。
【0105】
光源12R・12Lと観察瞳ER・ELの位置関係が略共役であることにより、LCD15R・15Lの表示画面内の輝度ムラ・色ムラを比較的小さくできるが、光源12R・12Lにおいて、RGBの各発光部の位置が異なるので、一方向拡散板13R・13Lでの拡散度が小さいと、観察瞳ER・EL上で輝度ムラ・色ムラが発生する。上記の場合、照明系および接眼系の焦点距離の比が20/7≒3であるので、LEDのチップ間距離が観察瞳ER・EL上で約3倍に拡大される。
【0106】
ここで、図10は、一方の映像表示ユニット1Lの概略の構成を光路に沿って展開して示す説明図であり、図11は、その映像表示ユニット1Lにおける観察瞳EL上での光強度分布を示す説明図である。なお、他方の映像表示ユニット1Rの構成および観察瞳ER上での光強度分布についても図10および図11と同様とする。
【0107】
図10では、光源12のRGBの各発光部が、水平方向左から右方向に向かってBGRRGBの順に並んで配置されている(G−G間距離3mm)。この構成では、観察瞳EL上では、2つのGの強度最大位置は、3mmの約3倍で約9mm離れることになる(ちなみに、Bについては約12mm、Rについては約6mm離れる)。このままでは瞳中央でのGの強度が低いので、ピーク位置の約50%程度の強度が瞳中央にくるように、一方向拡散板13Lとして横方向に40度拡散するものを用いている(縦方向の拡散度は例えば0.2度)。なお、一方向拡散板13Lは、光源12Lから約4mmだけ光軸方向に離れた位置に配置される。
【0108】
2つのGのそれぞれの瞳中央での強度は、ピーク強度の約50%であるので、2個のGの合成後の強度は、瞳中央で約100%となり、結果的に、図11に示すように、横方向にフラットな強度分布となる。なお、2個のRの合成後の強度としては、Rの発光部がGの発光部よりも内側(光軸側)に配置されているため、瞳中央でGよりも高めとなり、瞳周辺部でGよりも低めとなる。逆に、2個のBの合成後の強度としては、Bの発光部がGの発光部よりも外側(光軸とは反対側)に配置されているため、瞳中央でGよりも低めとなり、瞳周辺部でGよりも高めとなる。ただし、強度比が1:0.8程度であれば、色ムラとして感じないレベルであり、観察瞳ELの左右10mm全域では、ほぼ瞳内の色ムラの無い状態となっている。
【0109】
これに対して、図12は、一方の映像表示ユニット1Lの他の構成を光路に沿って展開して示す説明図であり、図13は、その映像表示ユニット1Lにおける観察瞳EL上での光強度分布を示す説明図である。なお、他方の映像表示ユニット1Rの構成および観察瞳ER上での光強度分布についても図12および図13と同様とする。
【0110】
図12では、光源12のRGBの各発光部が、水平方向左から右方向に向かってRGBRGBの順に並んで配置されている。この例では、瞳中央での2つのGの合成後の強度が、ピーク位置の約80%程度になるように、一方向拡散板13Lとして横方向の拡散度が20度のものを用いている(縦方向の拡散度は例えば0.2度)。ただし、横方向の拡散度を20度と小さくした分、一方向拡散板13Lを光源12Lから光軸方向に6mm遠ざけて配置している。
【0111】
観察瞳ELにおける個々のGの強度分布は、一方向拡散板13Lの拡散度が低いため、図11の場合よりもやや急峻となっている。なお、図12の構成では、光源12LにおけるB−B間距離、R−R間距離は、G−G間距離と同じであるので、2つのBの合成後の強度分布および2つのRの合成後の強度分布は、それぞれ2つのGの合成後の強度分布を左右にずらした分布となっている。これにより、左右の観察瞳ER・ELの10mm両端で、瞳内の色ムラが大きく発生している(図13では左端がR不足、右端がB不足の状態)。このような瞳内色ムラを左右で同方向に発生させることにより、眼幅の異なる観察者は、色ムラのない映像を両眼で観察することが可能となる。
【0112】
以上のように、一方向拡散板13の横方向の拡散度を40度から20度に落とすことにより、光源12に対する一方向拡散板13の配置距離が若干遠くなっているが、明るさを2倍程度増大させた映像を観察できることがわかった。
【0113】
なお、以上の例では、横方向の瞳サイズ10mmに対してLEDのチップ外形が3mmと大きいので、明るさを増大させる効果は高々2倍程度であるが、LEDのチップサイズが2mmのようなより小さいLEDを光源12として用いれば、瞳上でのLED強度ピーク位置間隔を6mmのように狭くすることができ、より光を中央に集めることができる。これにより、横方向にさらに低拡散度の拡散板を使用することが可能となり、瞳の両端部で色ムラをより大きく発生させながら、瞳中央をより明るくすることが可能となる。
【0114】
つまり、瞳サイズに対してLEDのチップサイズが小さくなればなるほど、従来であれば、瞳内色ムラを無くすために拡散板の拡散度を益々上げる必要があるが、両眼視によって色ムラの無い映像を眼幅の異なる観察者に観察させる本発明では、逆に拡散板の拡散度を下げることができるので、本発明が益々有効となる。
【0115】
なお、拡散板の横方向の拡散度は、例えば用いるLEDのチップサイズ(各色のチップ間距離)、拡散板の配置位置、照明レンズ(集光レンズ14)の焦点距離、接眼光学系21の焦点距離などを考慮して適宜設定されればよい。
【0116】
なお、以上で説明した構成や手法を適宜組み合わせて映像表示ユニット1R・1LひいてはHMDを構成することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、両眼観察が可能な映像表示装置およびHMDに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の実施の一形態に係るHMDの映像表示装置で観察される、両方白色表示状態での左右の観察瞳内での色分布の一例を示す説明図である。
【図2】(a)は、HMDの概略の構成を示す平面図であり、(b)は、HMDの側面図であり、(c)は、HMDの正面図である。
【図3】上記映像表示装置の左右の映像表示ユニットの概略の構成を示す断面図である。
【図4】上記左右の映像表示ユニットにおける光の光路を展開して示す説明図である。
【図5】両方白色表示状態において、眼幅の狭い観察者の左眼、右眼および両眼で観察される各観察像を模式的に示す説明図である。
【図6】XYZ表色系におけるXY色度座標を示す説明図である。
【図7】左右の光源の各発光部の配置の一例を示す平面図である。
【図8】左眼用の映像表示ユニットにおいて、光源から観察瞳に向かうRGBの光の光路を示す説明図である。
【図9】上記観察瞳上でのRGBの光の強度分布を示す説明図である。
【図10】光源のRGBの各発光部がBGRRGBの順に並んで配置されている映像表示ユニットの構成を光路に沿って展開して示す説明図である。
【図11】上記映像表示ユニットにおける観察瞳上での光強度分布を示す説明図である。
【図12】光源のRGBの各発光部がRGBRGBの順に並んで配置されている映像表示ユニットの概略の構成を光路に沿って展開して示す説明図である。
【図13】上記映像表示ユニットにおける観察瞳上での光強度分布を示す説明図である。
【符号の説明】
【0119】
1 映像表示装置
1R 映像表示ユニット(映像表示ユニットR)
1L 映像表示ユニット(映像表示ユニットL)
2 支持手段
12 光源
12R 光源(光源R)
12RR 発光部
12RG 発光部
12RB 発光部
12L 光源(光源L)
12LR 発光部
12LG 発光部
12LB 発光部
15 LCD(映像表示素子、映像表示素子R、映像表示素子L)
21 接眼光学系(接眼光学系R、接眼光学系L)
22 接眼プリズム(接合光学部材)
22a 面(入射面)
23 偏向プリズム(接合光学部材)
24 光学素子(ホログラム光学素子)
E 観察瞳(観察瞳R、観察瞳L)
R 観察瞳(観察瞳R)
L 観察瞳(観察瞳L)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右眼用の映像表示ユニットRと、左眼用の映像表示ユニットLとを備えた映像表示装置であって、
映像表示ユニットRは、
光源Rと、光源Rからの光を各画素ごとに透過または反射させることによって映像を表示する映像表示素子Rと、映像表示素子Rからの映像光を観察瞳Rに導く接眼光学系Rとを備えており、
映像表示ユニットLは、
光源Lと、光源Lからの光を各画素ごとに透過または反射させることによって映像を表示する映像表示素子Lと、映像表示素子Lからの映像光を観察瞳Lに導く接眼光学系Lとを備えており、
右眼および左眼で観察される像をそれぞれ観察像Rおよび観察像Lとすると、
両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lには、眼幅方向の位置によって像の色が異なる瞳内色分布がそれぞれあり、かつ、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心近傍に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lは、同一色であり、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lは、互いに異なる色であることを特徴とする映像表示装置。
【請求項2】
両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心からそれぞれ眼幅方向内側同士または外側同士に等距離離れた位置に右眼および左眼が位置するときの観察像Rおよび観察像Lよりも、これらの観察像Rおよび観察像Lを足し合わせてできる観察像Bのほうが、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各中心での像の色に近いことを特徴とする請求項1に記載の映像表示装置。
【請求項3】
両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lにおける瞳内色分布をXYZ表色系におけるXY色度座標で表したとき、観察瞳Rおよび観察瞳Lの各々において、眼幅方向両端での色度X座標値の差および色度Y座標値の差の少なくとも一方は、0.05以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の映像表示装置。
【請求項4】
両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察像Rおよび観察像Lの観察画面内の色分布をXYZ表色系におけるXY色度座標で表したとき、観察瞳R内および観察瞳L内のいずれの位置に右眼および左眼が位置しても、観察像Rおよび観察像Lの色分布の色度X座標値および色度Y座標値の取り得る範囲は、両者とも0.03以下の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項5】
両方の映像表示素子Rおよび映像表示素子Lの全ての画素を光透過状態または光反射状態にしたときに、観察瞳Rおよび観察瞳Lは、互いに同じ瞳内色分布を持って眼幅方向に並んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項6】
光源Rおよび光源Lは、異なる波長の光を出射する複数の発光部でそれぞれ構成されており、
光源Rおよび光源Lにおいて、各発光部は、観察者の眼幅方向に同じ順で並んで配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項7】
複数の発光部は、3原色に対応した波長の光をそれぞれ出射することを特徴とする請求項6に記載の映像表示装置。
【請求項8】
映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、光源と観察瞳とは、各発光部が並ぶ方向に垂直な方向において略共役であることを特徴とする請求項6または7に記載の映像表示装置。
【請求項9】
映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、接眼光学系は体積位相型の反射型ホログラム光学素子を含んでおり、映像表示素子からの映像光をホログラム光学素子によって拡大反射して観察者の眼に虚像として導くとともに、ホログラム光学素子を透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項10】
映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、ホログラム光学素子は、回折効率が極大値となる複数の回折ピーク波長を持ち、それぞれの回折ピーク波長に対して、映像表示素子の中心から出射されて観察瞳の中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλ0とし、映像表示素子の周辺部から出射されて観察瞳の中心に入射する主光線の回折ピーク波長をλxとすると、
0.98≦(λx/λ0)≦1.02
であることを特徴とする請求項9に記載の映像表示装置。
【請求項11】
映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、接眼光学系は、ホログラム光学素子を埋設した接合光学部材を含んでおり、映像表示素子からの映像光を、接合光学部材の入射面より入射させ、内部で複数回全反射してホログラム光学素子に導くことを特徴とする請求項9または10に記載の映像表示装置。
【請求項12】
上記ホログラム光学素子は、映像表示素子に表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学的パワーを有していることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項13】
映像表示ユニットRおよび映像表示ユニットLのそれぞれにおいて、光源は、発光ダイオードで構成されていることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の映像表示装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の映像表示装置と、
上記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持手段とを備えていることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−287049(P2008−287049A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132390(P2007−132390)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】