説明

曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】TS≧980MPaの高い引張強度を有し、しかも曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%およびS:0.0050%以下を含有する鋼板において、該鋼板の表面から10μmの深さまでの鋼板表層部を体積分率で70%超のフェライト相を含有する組織とし、かつ該表面より10μmの深さより内部までの鋼板内層部は、少なくとも体積分率が20〜70%で、かつ平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相を含有する組織とし、さらに引張強度を980MPa以上とし、その後、溶融亜鉛めっき層を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厳しい曲げ加工等を施すことが要求される自動車部品などに用いて好適な、曲げ性および溶接性に優れ、かつ引張強度(TS)が980MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
なお、本発明における溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後に合金化熱処理を施したいわゆる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含むものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品などに用いられる高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、その用途の特徴上、強度が高いことに加えて、加工性に優れていることが要求される。
最近、車体軽量化による燃費向上および衝突安全性の確保の観点から、高強度の鋼板が自動車車体に求められ、適用が拡大している。また、従来、高強度鋼板は軽加工の形状が主体であったが、複雑形状への適用も検討されはじめている。
【0003】
しかしながら、一般的に、鋼板の高強度化に伴い加工性は低下する傾向にあるため、高強度鋼板を車体に適用すると、プレス成形時に鋼板の破断等の問題が生じる。特に、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板で、曲げ成形加工が要求される部品に適用する時に、上記した問題が起きやすくなる。
また、車体加工においては、プレス成形後に組立工程があるが、この工程中、抵抗スポット溶接を施す必要があるため、加工性に加えて、優れた溶接性も要求される。
【0004】
上記した要求等に応えるべく、例えば特許文献1〜7には、鋼成分や組織を限定したり、熱延条件や焼鈍条件の最適化を図るなどして、高加工性で高強度の溶融亜鉛めっき鋼板を得る方法が提案されている。また、特許文献8〜12には、曲げ性に優れた冷延鋼板を得る技術が、さらに、特許文献13には、曲げ性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板を得る技術が、また特許文献14には、加工性および溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得る技術がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-232011号公報
【特許文献2】特開2002-256386号公報
【特許文献3】特開2002-317245号公報
【特許文献4】特開2005-105367号公報
【特許文献5】特許第3263143号公報
【特許文献6】特許第3596316号公報
【特許文献7】特開2001-11538号公報
【特許文献8】特開平2-175839号公報
【特許文献9】特開平5-195149号公報
【特許文献10】特開平10-130782号公報
【特許文献11】特開2005-273002号公報
【特許文献12】特開2002-161336号公報
【特許文献13】特開2006-161064号公報
【特許文献14】特開2008-280608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上掲した特許文献のうち、特許文献1には、C,Siの含有量が多い、引張強度:980MPa級の鋼材について記載されているが、伸びフランジ性や曲げ性の向上については何らの考慮も払われていない。
また、特許文献2〜4には、Crを活用した鋼材について開示されているが、やはり伸びフランジ性や曲げ性については何らの考慮も払われていない。
さらに、特許文献5〜7には、伸びフランジ性を評価する指標の一つである穴拡げ率λに関する記載があるが、穴拡げ率が測定された鋼板の引張強度(TS)は980MPaに達していない。また、曲げ性については何ら記載されていない。
特許文献8〜11には、鋼板表面から10vol%以上または10μm以上の厚さを軟質化することによって曲げ特性を向上させる技術が開示されているが、鋼板表層の軟質層が厚いため、疲労強度の低下という問題があった。
特許文献12には、鋼板表面から10μm以内の軟質層があると、曲げ特性が向上することが記載されているが、鋼板の組織の規定がなく、この技術もまた、鋼板全体としての疲労強度の低下という問題が避けられなかった。
特許文献13には、鋼板の表層から深さ:1〜10μmの表面近傍におけるフェライト相の面積率を80%以上とすることで、鋼板の曲げ性を改善する技術が示されているが、鋼板内部組織には何ら言及していない。また、鋼板の溶接性および平面曲げ疲労特性に関する技術の記載はなく、鋼板の溶接性および平面曲げ疲労特性について、依然として問題が残っていた。
特許文献14には、加工性および溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が開示されており、曲げ性に関しては、90°V曲げで限界曲げ半径≦1.5t(以下、tは鋼板の板厚を意味する)を達成する技術が開示されており、0.36tまで達成している。しかし、高強度鋼板の自動車車体への適用をさらに拡大していくためには、一層の曲げ性の向上、すなわち限界曲げ半径の低減が求められ、具体的には、限界曲げ半径≦0.3tが求められている。
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、980MPa以上の高い引張強度を有し、かつ平面曲げ疲労特性を劣化させることなく、具体的には、平面曲げ疲労特性として疲労限度/引張強度で示される耐久比が0.35以上を満足した上で、曲げ性、溶接性に極めて優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
なお、本発明において、高強度とは、引張強度が980MPa以上を意味する。また、曲げ性に優れるとは、90°V曲げでの限界曲げ半径≦0.3tを満足することであり、さらに、溶接性に優れるとは、ナゲット径:4t1/2(mm)以上で母材破断することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。
その結果、以下に述べる知見を得た。
(1) 鋼板成分組成中、C,P,S量を低減することにより、良好な溶接性を達成できる。
(2) 曲げ特性を改善するには、鋼板表層部組織をフェライト相が主体、具体的には体積分率で70%超をフェライト相として軟質化することが有効であるが、鋼板表層部の軟質化により、耐疲労特性が劣化する。
ただし、鋼板表層部を10μm程度までとするのであれば、軟質化の耐疲労特性への影響は小さいが、曲げ特性向上への効果は大きい。
(3) 一方、上記鋼板表層部よりも内部の鋼板組織は、ある程度以上、具体的には体積分率:20%程度以上は、曲げ特性確保のためにフェライト相とする必要があるが、70%を超えると耐疲労特性が低下し、980MPa以上の強度の確保も困難となる。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%およびS:0.0050%以下を含有する鋼板であって、該鋼板の表面から10μmの深さまでの鋼板表層部が体積分率で70%超のフェライト相を含有する組織で、かつ該表面から10μmの深さより内部の鋼板内層部は、少なくとも体積分率が20〜70%で、かつ平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相を含有する組織を有し、さらに、引張強度が980MPa以上で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0010】
2.前記鋼板内層部の組織が、
体積分率で20〜70%、平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相と、
体積分率で30〜80%、平均結晶粒径が5μm 以下のベイナイト相および/またはマルテンサイト相と、
体積分率で5%以下(0%を含む)の残留オーステナイト相および/またはパーライト相と
を含有する組織であることを特徴とする前記1に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0011】
3.前記鋼板が、質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%およびN:0.0060%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする前記1または2に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0012】
4.前記鋼板が、さらに質量%で、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%およびB:0.0001〜0.0030%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする前記3に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0013】
5.前記鋼板が、さらに質量%で、Ti:0.010〜0.080%およびNb:0.010〜0.080%のうちから選んだ1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする前記3または4に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
6.前記鋼板が、質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0060%以下、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.010〜0.080%、Nb:0.010〜0.080%およびB:0.0001〜0.0030%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする前記5に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
すなわち、上記6に記載の鋼板は、質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0060%以下、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.010〜0.080%、Nb:0.010〜0.080%およびB:0.0001〜0.0030%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする前記1または2に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0015】
7.前記1〜6のいずれかに記載の組成になる鋼スラブを、加熱後、熱間圧延し、ついでコイルに巻き取ったのち、酸洗し、その後冷間圧延したのち、溶融亜鉛めっきを施す工程よりなる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、1150〜1300℃の温度でスラブ加熱後、熱間仕上げ圧延温度を850〜950℃として熱間圧延したのち、熱間仕上げ圧延温度〜(熱間仕上げ圧延温度−100℃)の温度域を平均冷却速度:5〜200℃/秒で冷却し、400〜650℃の温度でコイルに巻取り、ついで酸洗後、冷間圧延したのち、さらに2段階の昇温工程になる焼鈍を施すに際し、200℃から500〜800℃の中間温度までの1次平均昇温速度を5〜50℃/秒として、該中間温度までは空気比:1.10〜1.20で1次昇温し、さらに該中間温度から730〜900℃の焼鈍温度までの2次平均昇温速度を0.1〜10℃/秒として該焼鈍温度まで空気比:1.10未満で2次昇温し、該焼鈍温度域に10〜500秒保持したのち、450〜550℃の温度域まで1〜30℃/秒の平均冷却速度で冷却をし、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施すことを特徴とする曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、曲げ性および溶接性を効果的に向上させた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。そして、この高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車部品として要求される強度および加工性を共に満足することができ、曲げ加工の厳しい形状にプレス成形される自動車部品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼板の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼板成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.05%以上0.12%未満
Cは、マルテンサイト相やベイナイト相などの硬質相を利用して鋼を強化する上で不可欠の元素である。ここに、980MPa以上の引張強度(以下、TSという)を得るには0.05%以上のCが必要であり、Cの増加に伴ってTSは増加する。一方、Cが0.12%以上になるとスポット溶接性が著しく劣化し、また硬質相の増量による硬質化により、曲げ性等の加工性も著しく低下する傾向にある。そのため、Cは0.05%以上0.12%未満の範囲に限定する。より好ましくは0.105%以下である。また、980MPa以上のTSを安定して確保する観点から、好ましいCは0.08%以上である。
【0018】
P:0.001〜0.040%
Pは、強度向上に寄与する元素であるので、本発明では0.001%以上含有させるものとした。しかし、Pは、反面で溶接性を劣化させる元素でもある。本発明では、鋼板の表面から10μmの深さまで、すなわち、鋼板と亜鉛めっきの界面から10μmの深さまでの鋼板表層部(以下、鋼板表層部という)のフェライトを体積分率で70%超とすることにより、溶接性が改善されるものの、Pが0.040%を超えると、Pが溶接性を劣化する影響が顕著に現れる。それ故、Pは0.001〜0.040%に限定する。好ましくは0.001〜0.025%、より好ましくは0.001〜0.015%である。
【0019】
S:0.0050%以下
S量が増加すると、溶接性が劣化する。特に、含有量が0.0050%を超えると、溶接性劣化への影響が顕著に現れる。また、S量が増加すると、熱間赤熱脆性の原因となって、製造工程中に、熱延板の破断等の不具合を生じることがあるだけでなく、鋼板に介在物MnSを形成し、冷間圧延後に板状の介在物として存在することによって、材料の極限変形能を低下させたり、伸びフランジ性などの成形性を低下させたりするため、S量は低減させることが望ましいが、0.0050%までは許容される。好ましくは0.0030%以下である。なお、過度の低減は製鋼工程における脱硫コストの増加を伴うので、Sの下限は0.0001%程度とするのが好ましい。
【0020】
本発明では、良好な溶接性を達成するため、上記したようにC、PおよびS量を規定する。なお、本発明では、所望する特性を得るため、具体的には強度や曲げ特性を向上するために、例えばSi、Mn、Al等を含有させることが有効であり、さらに焼き入れ性を高めるために、Cr、MoおよびBのうちから選んだ1種または2種以上を所定量添加することも有効である。また、析出強化を利用出来る元素として、TiおよびNbのうちから選んだ1種または2種を所定量添加することにより、更に曲げ性を向上することができる。このため、Si:0.01〜1.6%、Mn: 2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.010〜0.080%、Nb:0.010〜0.080%およびB:0.0001〜0.0030%を、それぞれ適宜含有させることが好ましい。また、Nは含有量が多くなると、以下に述べるように、鋼板の延性へ与える影響が大きくなるため、Nは0.0060%以下の範囲に限定することが好ましい。
【0021】
Si:0.01〜1.6%
Siは、固溶強化により鋼板の強度向上および曲げ性に寄与する元素である。しかしながら、含有量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しい。一方1.6%を超えて含有すると、鋼板表面に酸化物として濃化し、不めっきの原因となる。それ故、Siは0.01〜1.6%の範囲とすることが好ましい。また、Siは、0.8%以下、さらには0.35%未満とすることが、不めっきを回避する上でより好ましく、とりわけ0.20%以下とすることが好ましい。
【0022】
Mn:2.0〜3.5%
Mnは、強度向上に有効に寄与し、この効果は2.0%以上含有することで認められる。一方、3.5%を超えて過度に含有すると、Mnの偏析などに起因して部分的に組織の変態点が異なってしまう。その結果として、フェライト相とマルテンサイト相がバンド状で存在する不均一な組織になると、曲げ性が低下することとなる。また、鋼板表面に酸化物として濃化し、不めっきの原因ともなる。それ故、Mnは2.0〜3.5%の範囲で含有させるものとした。好ましくは2.2〜2.8%である。
【0023】
Al:0.005〜0.1%
Alは、製鋼工程において脱酸剤として有効であり、また曲げ性を低下させる非金属介在物をスラグ中に分離する点でも有用な元素である。さらに、Alは、焼鈍時に、めっき性を阻害するMn、Si系の酸化物の形成を抑制し、めっき表面外観を向上させる作用がある。このような効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。一方、0.1%を超えて添加すると、鋼製造コストの増大を招くだけでなく、溶接性を低下させる。それ故、Alは0.005〜0.1%の範囲で含有させるものとした。好ましくは0.01〜0.06%である。
【0024】
N: 0.0060%以下
フェライトの清浄化による延性向上の観点から、N量は少ないほうが望ましく、特に、含有量が0.0060%を超えると、延性の劣化が著しくなるので、Nは0.0060%を上限とした。なお下限値は、精製コストの点から0.0001%程度とすることが好ましい。従って、Nは0.0060%以下とする。好ましくは0.0001〜0.0060%の範囲である。
【0025】
Cr:0.5%超2.0%以下
Crは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、同時にオーステナイト相の焼入性を向上させ、硬質相を均一微細に分散させて伸び、伸びフランジ性および曲げ性の向上にも有効に寄与する。しかしながら、Crが0.5%以下ではその添加効果に乏しい。一方、Crが2.0%を超えるとこの効果は飽和し、むしろ表面品質の劣化を招く。それ故、Crは0.5%超2.0%以下の範囲で含有させるものとした。好ましくは0.5%超 1.0%以下である。
【0026】
Mo:0.01〜0.50%
Moは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、低炭素鋼成分系で微量添加により強度を確保しやすく、かつ溶接性および曲げ性を向上させる効果もある。しかしながら、Moが0.01%に満たないとその添加効果に乏しい。一方、Moが0.50%を超えると、この効果は飽和し、コストアップの要因となる。それ故、Moは0.01〜0.50%の範囲で含有させるものとした。好ましくは0.01〜0.35%である。
【0027】
Ti:0.010〜0.080%
Tiは、鋼中でCまたはNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、熱延板組織および焼鈍後の鋼板組織を細粒化し曲げ性を向上させ析出強化の付与に有効に作用する。しかしながら、Tiが0.010%に満たないとその添加効果に乏しい。一方、Tiが0.080%を超えるとこの効果が飽和するだけでなく、フェライト中に過度の析出物が生成し、フェライトの延性を低下させる。従って、Tiは0.010〜0.080%の範囲で含有させるものとした。好ましくは0.010〜0.060%である。
【0028】
Nb:0.010〜0.080%
Nbは、固溶強化または析出強化により鋼板の強度の向上に寄与する元素である。また、フェライト相を強化することによりマルテンサイト相との硬度差を低減する作用もあり、伸びフランジ性の改善にも有効に寄与する。さらに、フェライト粒およびベイナイト/マルテンサイト領域の結晶粒の微細化に寄与して、曲げ性を改善させる効果がある。しかしながら、Nbが0.010%に満たないとその添加効果に乏しい。一方、0.080%を超えて含有すると、熱延板が硬質化し、熱間圧延や冷間圧延時の圧延荷重の増大を招くこととなる。また、フェライトの延性を低下させ、加工性も劣化してしまう。従って、Nbは0.010〜0.080%の範囲で含有させるものとした。なお、強度および加工性の観点からは、Nbは0.030〜0.070%とするのが好ましい。
【0029】
B:0.0001〜0.0030%
Bは、焼入れ性を高め、焼鈍冷却過程で起こるフェライトの生成を抑制し、所望の量の硬質相を得るのに寄与し、曲げ性を向上させる。しかしながら、Bが0.0001%に満たないとその添加効果に乏しい。一方、0.0030%を超えると上記の効果は飽和する。それ故、Bは0.0001〜0.0030%の範囲で含有させるものとした。好ましくは0.0005〜0.0020%である。
【0030】
すなわち、本発明の特に好ましい成分組成を例示すると、以下のようになる。
1)C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%およびN:0.0060%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物
2)上記1)の組成に、さらに、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%およびB:0.0001〜0.0030%のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成。
【0031】
3)上記1)または2)の組成に、さらに、Ti:0.010〜0.080%およびNb:0.010〜0.080%のうちから選んだ1種または2種を含有する組成。
なお、本発明の最も好ましい成分組成を例示すると、以下のようになる。
C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0060%以下、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.010〜0.080%、Nb:0.010〜0.080%およびB:0.0001〜0.0030%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0032】
本発明では、さらに、必要に応じて以下の元素を適宜含有させることができる。
Caは、MnSなど硫化物の形状制御により延性を向上させる効果があるが、多量に含有させてもその効果は飽和する傾向にある。よって、Caを含有させる場合、0.0001〜0.0050%、より好ましくは0.0001〜0.0020%とする。
また、Vは、炭化物の形成により、フェライト相を強化させる効果を有するが、多量に含有させるとフェライト相の延性を低下させる。よって、Vは0.001%以上0.05%未満で含有させることが好ましい。より好ましくは0.001%以上0.005%未満である。
【0033】
さらに、めっき性を大きく変化させることなく、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより加工性の向上に有効に寄与するREM、あるいは鋼板表層の結晶を整粒する作用を有するSbはそれぞれ、0.0001〜0.1%の範囲で含有させることが好ましい。
その他、析出物を形成するZr,Mgなどは含有量が極力少ない方が好ましいため、積極的に添加する必要はなく、それぞれ0.0200%未満まで許容され、好ましくは0.0002%未満の範囲とする。
また、Cuは溶接性、Niはめっき後の表面外観に悪影響を及ぼす元素である。従ってCu,Niはそれぞれ0.4%未満まで許容されるが、好ましくは0.04%未満の範囲とする。
本発明の鋼板は、上記の成分組成以外の残部はFeおよび不可避不純物の組成からなることが好ましい。
【0034】
次に、本発明にとって重要な要件である鋼組織の適正範囲およびその限定理由について説明する。
鋼板表層部が体積分率で70%超のフェライト相を含有する組織
鋼板表層部の組織を、フェライト相主体の組織とすることで、鋼板の曲げ性が改善できる。この効果は、フェライト相の体積分率が70%以下では得られない。従って、鋼板表層部におけるフェライト相の体積分率は、70%超とする。好ましくは85%以上である。
なお、本発明における鋼板組織の確認は、鋼板の圧延方向に平行な面を、1000〜3000倍程度の適切な倍率でSEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影し、鋼板表層部で任意の箇所を3箇所、フェライト体積分率等を求めることにより行う。
【0035】
また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表面から10μmの深さより内部の鋼板内層部において、少なくとも体積分率が20〜70%でかつ平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相を含有する組織を有している。
なお、鋼板表層部より内側から鋼板厚み方向中心(以下、鋼板内層部という)までの組織は、鋼板表面からの深さ:10〜50μm、厚さ:40μmの領域および板厚1/4位置での厚さ40μmの領域における組織で代表し、両位置での組織を観察し、両位置ともに、体積分率が20〜70%でかつ平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相である場合に、鋼板内層部が上記の組織を満足することとする。具体的には、鋼板の圧延方向の面において、鋼板表面すなわち鋼板と亜鉛めっきとの界面からの鋼板中心側に10〜50μmの領域(深さ方向40μm、圧延方向20μmの領域)および板厚:1/4位置の深さ方向40μm×圧延方向20μmの領域のそれぞれの組織について、1000〜3000倍程度の適切な倍率でSEM写真を撮影して、任意の箇所を3箇所程度、観察することによって確認した。
【0036】
フェライト相の体積分率:20〜70%(鋼板内層部)
フェライト相は軟質相であり、鋼板の延性に寄与するため、本発明の鋼板内層部での組織は、フェライト相を体積分率で20%以上とする必要がある。一方、フェライト相が体積分率で70%を超えて存在すると過度に軟質化し、鋼板の強度の確保および平面曲げ疲労特性の確保が困難となる。よって、フェライト相は体積分率で20〜70%とする。好ましくは30〜50%の範囲である。
【0037】
フェライト相の平均結晶粒径:5μm以下(鋼板内層部)
結晶粒の微細化は、鋼板の伸び、伸びフランジ性および曲げ性の向上に寄与する。そこで、本発明の鋼板内層部では、複合組織中のフェライト相の平均結晶粒径を5μm以下に制限することにより、曲げ性の向上を図るものとした。一方、フェライト相の平均結晶粒径が5μm超では、所望の平面曲げ疲労特性が確保できない。
また、軟質な領域と硬質な領域がまばらに存在すると、変形が不均一となり曲げ性が劣化する。一方、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相が均一微細に存在すると、加工時に鋼板の変形が均一となる。そのため、フェライト相の平均結晶粒径は小さい方が望ましい。なお、鋼板の曲げ性の劣化を抑制するために好ましいフェライト相の平均結晶粒径の範囲は1〜3.5μmである。
【0038】
本発明では、鋼板内層部のフェライト相以外の鋼板組織については、以下の鋼板組織とすることができる。
ベイナイト相および/またはマルテンサイト相の体積分率:30〜80%
ベイナイト相および/またはマルテンサイト相は、硬質相であり、変態組織強化によって鋼板の強度を増加させる作用を有している。また、TS:980MPa以上を達成するために、ベイナイト相および/またはマルテンサイト相は体積分率で30%以上が望ましい。一方所望の曲げ性を有するためには体積分率で80%以下とすることが望ましい。
【0039】
ベイナイト相および/またはマルテンサイト相の平均結晶粒径:5μm 以下
ベイナイト相および/またはマルテンサイト相を微細化することにより、鋼板の穴拡げ特性や曲げ性、平面曲げ疲労特性が向上し、特に、複合組織中のベイナイト相およびマルテンサイト相の平均結晶粒径を5μm 以下とすることで所望の特性が実現できる。好ましくは3μm 以下である。
【0040】
上記したフェライト相、マルテンサイト相、ベイナイト相以外の鋼板内層部の残部組織としては、残留オーステナイト相やパーライト相が考えられるが、これらの合計量が体積分率で5%以下(0%を含む)であれば、本発明の効果に影響はない。
【0041】
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
まず、本発明に従う成分組成に調製された溶鋼から、連続鋳造法または造塊−分塊法等でスラブを製造する。ついで、得られたスラブを、冷却後、再加熱したのち、あるいは鋳造後加熱処理を経ずにそのまま熱間圧延を行う一連の工程を経るが、この時、スラブを再加熱する場合は、熱延板を均一組織化するためスラブ加熱温度を1150〜1300℃とし、また伸び、伸びフランジ性などの加工性を向上するために、熱間圧延の仕上げ圧延温度を850〜950℃として、フェライト相とパーライト相の2相からなるバンド状組織の生成を抑制する。
さらに、熱間仕上げ圧延温度〜(熱間仕上げ圧延温度−100℃)間の平均冷却速度を5〜200℃/秒とし、鋼板の表面性状および冷間圧延性を向上させるため、コイルに巻取る巻取り温度を400〜650℃に調整して、熱間圧延を終了し、酸洗後、冷間圧延により所望の板厚とする。この時の冷延圧下率はフェライト相の再結晶促進により延性を向上させるために、30%以上の冷延圧下率とすることが望ましい。
【0042】
ついで、溶融亜鉛めっき工程に供するに先立ち、2段階の昇温工程になる焼鈍を施す。この2段階の昇温工程になる焼鈍により、鋼板の表層部と内層部の組織をそれぞれ制御する。具体的には、200℃から中間温度までの1次平均昇温速度を5〜50℃/秒として、中間温度を500〜800℃とし、中間温度から焼鈍温度までの2次平均昇温速度を0.1〜10℃/秒として、焼鈍温度を730〜900℃とし、この温度域に10〜500秒保持したのち、冷却停止温度:450〜550℃まで1〜30℃/秒の平均冷却速度で冷却する。
上記した工程において、鋼板表層部の組織調整は、1次昇温時の焼鈍炉内の空気比を1.10〜1.20の範囲にして行う。なお、2次昇温時の焼鈍炉内の空気比は1.10未満とする。
冷却後、引続き溶融亜鉛浴に鋼板を浸漬し、ついで、ガスワイピング等により亜鉛めっき付着量を制御したのち、あるいはさらに加熱して合金化処理を行った後、室温まで冷却する。
かくして、本発明の目的とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られるが、めっき後の鋼板にスキンパス圧延を施しても良い。
【0043】
以下、製造条件の適正範囲およびその限定理由をさらに具体的に説明する。
スラブ加熱温度:1150〜1300℃
鋼スラブの加熱段階で存在している析出物は、最終的に得られる鋼板内で粗大な析出物として存在し、強度に寄与しないばかりか、得られる熱延板の組織の均一化を阻害する場合がある。このため、鋳造時に析出した析出物を再溶解させる必要がある。ここに、1150℃以上の加熱であれば、例えば、Ti、Nb系析出物を有する場合でも再溶解可能であり、また、スラブ表層の気泡、偏析などの欠陥をスケールオフし、鋼板表面の亀裂、凹凸を減少させ、平滑な鋼板表面を達成するという観点からも1150℃以上に鋼板を加熱することが有用である。一方、加熱温度が1300℃を超えると、鋼板組織中のオーステナイト粒の粗大化を引き起こし、最終組織が粗大化するため伸び特性を低下させてしまう。従って、スラブ加熱温度は1150〜1300℃の範囲に限定する。
【0044】
仕上げ圧延温度:850〜950℃
熱間圧延時の仕上げ圧延温度を850℃以上とすることにより曲げ性(延性、伸びフランジ性)を著しく向上させることができるが、この温度が850℃に満たないと、熱間圧延後に、結晶が展伸した加工組織となってしまうため、鋼板の延性が低下する。また、鋳片内にてオーステナイト安定化元素であるMnが偏析していると、その領域のAr3変態点が低下し、低温までオーステナイト域となって、未再結晶温度域と圧延終了温度が同じ温度域となり、結果的に熱間圧延中に未再結晶のオーステナイトが残ることになる。このように不均一な組織では、加工時の材料の均一な変形が阻害されるため、優れた曲げ性を得ることが困難となる。
一方、仕上げ圧延温度が950℃を超えると酸化物(スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄−酸化物界面が荒れ、酸洗、冷間圧延後の表面品質が劣化する傾向にある。また酸洗後に熱延スケールの取れ残りなどが一部に存在すると、抵抗スポット溶接の溶接性に悪影響を及ぼすことになる。さらに、結晶粒径が過度に粗大となって、成形加工時にプレス品表面荒れを生じる場合もある。従って、仕上げ圧延温度は850〜950℃の範囲とする。好ましくは900℃〜930℃の範囲である。
【0045】
仕上げ圧延温度〜(仕上げ圧延温度−100℃)間の平均冷却速度:5〜200℃/秒
仕上げ圧延直後の高温域[仕上げ温度〜(仕上げ温度−100℃)]における冷却速度が5℃/秒に満たないと、熱延後の鋼板は、再結晶および粒成長をして熱延板組織が粗大化すると共に、フェライトとパーライトが層状に形成されたバンド状組織となる。焼鈍前にバンド状組織になると、成分の濃度ムラが生じた状態で熱処理されることになるため、めっき工程での熱処理では組織の微細均一化が困難となる。その結果、最終的に得られる鋼板の組織が不均一となり、伸びや曲げ性が低下する。このため、[仕上げ温度〜(仕上げ温度−100℃)]における平均冷却速度は5℃/秒以上とする。一方、[仕上げ温度〜(仕上げ温度−100℃)]における平均冷却速度が200℃/秒を超えてもその効果は飽和し、専用の冷却装置が必要となるなどのコスト的な不利も生じてくる。従って、[仕上げ温度〜(仕上げ温度−100℃)]の温度域における平均冷却速度は5〜200℃/秒の範囲とする。好ましくは、20〜100℃/秒の範囲である。
【0046】
巻取り温度:400〜650℃
圧延後の鋼板の巻取り温度が650℃を超えると、熱延スケール厚が増加するため、冷間圧延後の表面が荒れて、表面に凹凸が形成され、さらにフェライト粒径が粗大化するために鋼板の曲げ性の低下を招く。また、酸洗後に熱延スケールが残存すると抵抗スポット溶接の溶接性に悪影響を及ぼす。一方、巻取り温度が400℃に満たないと、熱延板強度が上昇してしまい、冷間圧延工程における鋼板の圧延負荷が増大して生産性が低下してしまう。従って、巻取り温度は400〜650℃の範囲とする。好ましくは450〜600℃の範囲である。
【0047】
1次平均昇温速度(200℃から中間温度まで):5〜50℃/秒、1次昇温での炉内の空気比:1.10〜1.20、中間温度:500〜800℃
めっき開始前の焼鈍時における1次昇温速度が5℃/秒より遅いと、鋼板の結晶粒が粗大化し、伸びおよび曲げ性を低下させる。一方、1次昇温速度の上限に特に制限はないが、50℃/秒を超えるとその作用が飽和する傾向にある。従って、1次平均昇温速度は5〜50℃/秒の範囲とする。好ましくは10〜50℃/秒の範囲、より好ましくは15〜30℃/秒の範囲である。
1次昇温と2次昇温の間の中間温度が800℃を超えると、鋼板の結晶粒径が粗大化し、曲げ性が低下すると共に、鋼板表層部の組織中のフェライト相体積分率が増加し、疲労特性が低下してしまう。一方、中間温度が500℃未満ではその効果が飽和し、最終的に得られる組織の鋼板表層部と鋼板内層部とのフェライト相体積分率に差が無くなってしまう。従って、中間温度は500〜800℃とする。なお、中間温度は、(焼鈍温度−200℃)程度とすることが好ましい。
【0048】
通常、上記1次昇温時の焼鈍炉内における空気比は、1.00以下であるが、本発明では、1次昇温での炉内の空気比を1.10〜1.20の範囲とする。このように、1次昇温での炉内の空気比を1.10〜1.20の範囲とすることで、本発明の最大の特徴である鋼板表層部の組織をフェライト相で70%超とすることができる。
ここに、1次昇温での炉内の空気比が1.20を超えると、鋼板内層部でもフェライト相体積分率が増加し、その結果、鋼板の疲労特性が劣化してしまう。一方、空気比が1.10に満たないと、上記した、通常の空気比の場合と同様に、鋼板表層部のフェライト分率が70%以下となり曲げ特性が向上しない。好ましくは1.12〜1.17の範囲である。
なお、本発明における空気比とは、可燃成分を完全燃焼させるときの化学変化から求めた最小限に必要な空気量に対する焼鈍炉内の空気量の比である。従って、1.00が理論空気量相当が含まれている雰囲気であり、1.00を超えると、可燃成分を完全燃焼させるためには、空気量が過剰な雰囲気である。一方、1.00に満たないということは、可燃成分を完全燃焼させることができないということである。
【0049】
本発明において、めっき開始前の焼鈍時における1次昇温での炉内の空気比を上記比率とすると、鋼板表層部の組織のみを効果的にフェライト相の体積分率で70%超とすることができる。この機構について、未だ明確に解明されてはいないが、発明者らは、次のように考えている。
すなわち、空気比が高い条件では、鋼板表面のFeが酸化してFe酸化物が生成し、その酸化物中のOが、鋼中Cと結合することで、固溶Cが減少する。その結果、鋼板表層部の組織のみのフェライト体積分率が増加する。
【0050】
2次平均昇温速度(中間温度から焼鈍温度まで):0.1〜10℃/ 秒、2次昇温での炉内の空気比:1.10未満
めっき開始前の焼鈍時における2次平均昇温速度が10℃/秒より速い場合には、オーステナイト相の生成が遅くなるため、最終的に得られるフェライト相の体積分率が大きくなってしまい、鋼板の強度確保が困難となる。一方、2次平均昇温速度が0.1℃/秒より遅い場合には、結晶粒径が粗大化し、伸びや曲げ性が低下する。従って、2次平均昇温速度は0.1〜10℃/秒の範囲とする。好ましくは0.5〜5℃/秒の範囲である。
本発明における2次昇温時の炉内の空気比は、1.10未満とする。2次昇温時の炉内の空気比が、1.10以上となると、鋼板表層10μmの深さより内部の鋼板内層部でも、フェライト相の体積分率が70%超となり疲労特性が劣化する。
また、本発明における2次昇温時の炉内の空気比は、通常の空気比である1.00以下とすることができ、以降の焼鈍工程の空気比も、通常の範囲で行うことができる。好ましくは0.60〜0.95の範囲である。
【0051】
焼鈍温度:730〜900℃、保持時間:10〜500秒
めっき開始前の焼鈍温度が730℃より低い場合、焼鈍時にオーステナイトが十分に生成しないため、鋼板の強度確保が十分にできない。一方、焼鈍温度が900℃より高い場合、加熱中にオーステナイト相が粗大化し、その後の冷却過程で生成するフェライトの量が減少し、鋼板の曲げ性が低下する。また、最終的に得られる鋼板組織の結晶粒径全体が過度に粗大化し、伸び、曲げ性ともに低下する傾向となる。従って、焼鈍温度は730〜900℃とする。好ましくは750〜850℃の範囲である。
また、上記した焼鈍温度域における保持時間が10秒未満の場合、焼鈍中のオーステナイト相の生成量が不足し、最終的な鋼板の強度確保が困難となる。一方、長時間焼鈍を施した場合は、鋼板組織の結晶粒が成長し粗大化する傾向にある。特に、その保持時間が500秒を超えた場合は、加熱焼鈍中のオーステナイト相およびフェライト相の粒径が過度に粗大化し、熱処理後に得られた鋼板の組織は曲げ性が低下する。加えて、オーステナイト粒の粗大化は、プレス成形時の肌荒れの原因ともなり好ましくない。また、冷却停止温度までの冷却過程中のフェライト相の生成量も減少するため、伸び性も低下することとなる。
従って、より微細な組織を達成することと、焼鈍前の組織の影響を小さくして均一微細な組織を得ることを両立するために、保持時間は10〜500秒の範囲とする。好ましくは20〜200秒の範囲である。
【0052】
焼鈍温度から冷却停止温度までの平均冷却速度:1〜30℃/秒、冷却停止温度:450〜550℃
この冷却停止温度までの平均冷却速度は、軟質なフェライト相と硬質なベイナイト相および/またはマルテンサイト相の存在比率を制御し、鋼板がTS:980MPa級以上の強度を有するのと同時に、優れた加工性を確保するのに重要な役割を担っている。すなわち、平均冷却速度が30℃/秒を超えると、冷却中のフェライト相の生成が抑制され、ベイナイト相やマルテンサイト相が過度に生成するためTS:980MPa級の確保は容易ではあるが、曲げ性の劣化を招いてしまう。
一方、平均冷却速度が1℃/秒より遅いと、冷却過程中に生成するフェライト相の量が多くなるのみならず、パーライト相も多くなってしまうため、高いTSの確保ができない。従って、冷却停止温度までの平均冷却速度は1〜30℃/秒の範囲とする。好ましい範囲は5〜20℃/秒である。より好ましくは10〜20℃/秒の範囲である。
なお、この場合の鋼板の冷却方法は、一般的なガス冷却法が好ましいが、その他、炉冷法、ミスト冷却法、ロール冷却法、水冷法など、従来公知の方法を用いることができ、また、それぞれの方法を適宜組み合わせて行うことも可能である。
【0053】
冷却停止温度が550℃より高い場合には、オーステナイトから、マルテンサイト相より軟質なパーライト相あるいはベイナイト相に鋼板組織の変態が進行してしまい、TS:980MPa級の確保は困難となる。また、硬質な残留オーステナイト相が生成することもあるが、その場合は伸びフランジ性が低下してしまう。一方、冷却停止温度が450℃未満の場合、ベイナイト変態の進行により残留オーステナイト相が増加し、TS:980MPa級の確保が困難となるとともに、曲げ特性が劣化する。
【0054】
上記の冷却停止後、溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき鋼板とする。あるいはさらに、上記の溶融亜鉛めっき処理後、誘導加熱装置などを用いて再加熱を施す合金化処理を施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。なお、本発明において、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理の諸条件については特に制限はなく、従来公知の条件で行えば良い。
ここに、溶融亜鉛めっきの付着量は、片面当たり20〜150 g/m2程度とすることが好ましい。というのは、めっき付着量が20g/m2未満では、耐食性の確保が困難であり、一方150g/m2を超えると、耐食効果は飽和し、コスト的に不利となるからである。より好ましくは30〜70g/m2の範囲である。
【0055】
なお、連続焼鈍後、最終的に得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、形状矯正や表面粗度調整の目的から調質圧延を行ってもかまわないが、過度にスキンパス圧延を行った場合、鋼板には、過多に歪が導入されて結晶粒が展伸された圧延加工組織となり、延性が低下してしまう。そのため、スキンパス圧延の圧下率は0.1〜1.5%程度の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
表1に示す成分組成になる鋼を溶製し、表2−1,2−2に示す条件で、スラブ加熱、熱間圧延、巻取り、圧下率:50%の冷間圧延、連続焼鈍およびめっき処理を施し、板厚:2.0mm、片面当たりのめっき付着量:45g/m2の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。なお、冷間圧延時の圧下率はいずれも50%とした。また、連続焼鈍時の炉内の空気比は、1次昇温中を、表2−1,2−2に示す空気比とし、2次昇温およびそれ以降においては、0.8〜1.0の範囲とした。
かくして得られた溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、以下に示す材料試験を行い、材料特性を調査した。
結果を、表3および4に示す。
【0057】
なお、材料試験および材料特性の評価法は次のとおりである。
(1) 鋼板の組織
鋼板の圧延方向に平行な面において、鋼板表層部と、鋼板内層部である鋼板表面から10〜50μmの領域および板厚1/4位置のSEM写真を1000〜3000倍で撮影した。これらのSEM写真を用いて、鋼板組織の体積分率を測定した。
すなわち、鋼板内層部の組織は、鋼板表面からもしくは鋼板と亜鉛めっきとの界面から、鋼板中心側に10〜50μmの領域(深さ方向40μm×圧延方向20μm)および板厚:1/4位置の40μm×20μmの領域(深さ方向40μm×圧延方向20μm)、それぞれの組織を観察することにより同定した。
なお、フェライト相の結晶粒径はJIS G 0552:1998に規定の方法に準拠して結晶粒度を測定し、平均結晶粒径に換算した。また、フェライト相、パーライト相の体積分率は、倍率:1000の断面組織写真を用いて、フェライトおよびパーライトを目視判定によって特定し、画像解析により、フェライト相およびパーライト相の占有面積を求め、これを解析した面積(断面組織写真の面積)で除することにより、フェライト相およびパーライト相の面積分率を求め、これを体積分率とした。
さらに、残留オーステナイトの量は、測定対象の鋼板を板厚1/4位置まで研削した後、化学研磨によりさらに0.1mm研磨した面について、X線回折装置でMoのKα線を用いて、fcc鉄の(200) 面、(220) 面、(311)面とbcc鉄の(200) 面、(211) 面、(220)面の積分強度を測定し、これらの測定値から残留オーステナイトの分率を求め、残留オーステナイトの体積分率とした。
また、本発明に従う鋼板の鋼組織として、フェライト相、オーステナイト相、パーライト相以外の残部はベイナイト相および/またはマルテンサイト相であるため、ベイナイト相とマルテンサイト相の合計量はフェライト相、オーステナイト相、パーライト相以外の部分とした。
ベイナイト相とマルテンサイト相の平均粒径は、倍率:3000倍のSEM写真を用いてベイナイトあるいはマルテンサイトであることを特定し、それらの連続したひとつの領域を粒とみなし、JIS G 0552:1998に規定された方法に準拠して粒度を測定し、それぞれの相の平均粒径に換算した。
【0058】
(2) 引張特性
圧延方向と90°の方向を長手方向(引張方向)とするJIS Z 2201に記載の5号試験片を用い、JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い評価した。
【0059】
(3) 曲げ性(限界曲げ半径)
JIS Z 2248に規定のVブロック法に基づき実施した。その際、曲げ部外側について亀裂の有無を目視で観察し、亀裂が発生しない最小の曲げ半径を限界曲げ半径とした。なお、限界曲げ半径≦0.3tを曲げ性良好とした。なお、表4には、限界曲げ半径/tの値を併記する。
【0060】
(4) 溶接性(抵抗スポット溶接)
まず、以下の条件にてスポット溶接を行った。
電極:DR6mm−40R、加圧力:4802 N(490 kgf)、初期加圧時間:30cycles/60Hz、通電時間:17cycles/60Hz、保持時間:1cycle/60Hzとした。試験電流は、同一番号の鋼板に対し、4.6〜10.0kAまで0.2kAピッチで変化させ、また10.5 kAから溶着までは0.5kAピッチで、変化させた。
ついで、各試験片を、十字引張り試験、溶接部のナゲット径の測定に供した。抵抗スポット溶接継手の十字引張り試験はJIS Z 3137の規定に準拠して実施した。また、ナゲット径の測定はJIS Z 3139の規定に準拠して以下のように実施した。
抵抗スポット溶接後の対称円状のプラグの部分を鋼板表面に垂直な断面について、溶接点のほぼ中心を通る断面で半切断した。切断面を研磨、エッチングしたのち、光学顕微鏡観察による断面組織観察によりナゲット径を測定した。ここで、コロナボンドを除いた溶融領域の最大直径をナゲット径とした。
ナゲット径が4t1/2(mm)以上の溶接材において十字引張り試験を行い、母材から破断するほど密着性の良い溶接であった場合に、その溶接性を良好とした。
【0061】
(5)平面曲げ疲労試験
平面曲げ疲労試験は、JIS Z 2275に準拠し、完全両振り(応力比:1)、周波数20Hzの条件で行った。平面曲げ疲労特性は、疲労限度/TSで示される耐久比が0.35以上であったものを良好と判断した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2−1】

【0064】
【表2−2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
表3および4に示したとおり、本発明に従う高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、限界曲げ半径≦0.3tという優れた曲げ性および良好な抵抗スポット溶接性が得られるのみならず、耐久比≧0.35という平面曲げ疲労特性も同時に満足していることが分かる。また、本発明の特に好ましい組成を満足する鋼記号A〜Mを用いた発明例では、限界曲げ半径≦0.25tという、さらに優れた曲げ性を確保していることが分かる。
【0068】
これに対し、鋼成分が本発明の適正範囲外であるNo.28および33,34は、溶接性に劣っていた。
1次昇温時の空気比が本発明の適正範囲外であるNo.3,4,10,11は、曲げ性あるいは平面曲げ疲労特性(耐久比)に劣っていた。
【0069】
スラブ加熱温度、1次昇温速度、保持時間のいずれかの条件が本発明の適正範囲外であるNo.18,21,25は、フェライト相の結晶粒径が粗大なため、曲げ性が劣っていた。
仕上げ温度からの平均冷却速度が本発明の適正範囲外であるNo.19も、フェライト相の結晶粒径が粗大なため、曲げ性が劣っていた。
巻取り温度、中間温度が本発明の適正範囲外であるNo.20,22も、フェライト相の結晶粒径が粗大なため、曲げ性に劣っていた。
【0070】
2次昇温速度または冷却停止温度までの冷却速度が本発明の適正範囲外である No.23,26は、フェライト相の体積分率が多く、TSが980MPaよりも低かった。
焼鈍温度が本発明の適正範囲外であるNo.24は、フェライト相の結晶粒径が粗大なため、曲げ性に劣っていた。
冷却停止温度が本発明の適正範囲外であるNo.27は、TSが980MPaよりも低かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、高い引張強度を有するだけでなく、曲げ性および溶接性に優れるため、自動車部品をはじめとして、建築および家電分野など厳しい寸法精度および曲げ性が必要とされる用途に好適に供して偉効を奏する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%およびS:0.0050%以下を含有する鋼板であって、該鋼板の表面から10μmの深さまでの鋼板表層部が体積分率で70%超のフェライト相を含有する組織で、かつ該表面から10μmの深さより内部の鋼板内層部は、少なくとも体積分率が20〜70%で、かつ平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相を含有する組織を有し、さらに、引張強度が980MPa以上で、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記鋼板内層部の組織が、
体積分率で20〜70%、平均結晶粒径が5μm以下のフェライト相と、
体積分率で30〜80%、平均結晶粒径が5μm 以下のベイナイト相および/またはマルテンサイト相と、
体積分率で5%以下(0%を含む)の残留オーステナイト相および/またはパーライト相と
を含有する組織であることを特徴とする請求項1に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板が、質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%およびN:0.0060%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする請求項1または2に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板が、さらに質量%で、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%およびB:0.0001〜0.0030%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする請求項3に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板が、さらに質量%で、Ti:0.010〜0.080%およびNb:0.010〜0.080%のうちから選んだ1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする請求項3または4に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
前記鋼板が、質量%で、C:0.05%以上0.12%未満、P:0.001〜0.040%、S:0.0050%以下、Si:0.01〜1.6%、Mn:2.0〜3.5%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0060%以下、Cr:0.5%超2.0%以下、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.010〜0.080%、Nb:0.010〜0.080%およびB:0.0001〜0.0030%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなることを特徴とする請求項5に記載の曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成になる鋼スラブを、加熱後、熱間圧延し、ついでコイルに巻き取ったのち、酸洗し、その後冷間圧延したのち、溶融亜鉛めっきを施す工程よりなる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
1150〜1300℃の温度でスラブ加熱後、熱間仕上げ圧延温度を850〜950℃として熱間圧延したのち、熱間仕上げ圧延温度〜(熱間仕上げ圧延温度−100℃)の温度域を平均冷却速度:5〜200℃/秒で冷却し、400〜650℃の温度でコイルに巻取り、ついで酸洗後、冷間圧延したのち、さらに2段階の昇温工程になる焼鈍を施すに際し、200℃から500〜800℃の中間温度までの1次平均昇温速度を5〜50℃/秒として、該中間温度までは空気比:1.10〜1.20で1次昇温し、さらに該中間温度から730〜900℃の焼鈍温度までの2次平均昇温速度を0.1〜10℃/秒として該焼鈍温度まで空気比:1.10未満で2次昇温し、該焼鈍温度域に10〜500秒保持したのち、450〜550℃の温度域まで1〜30℃/秒の平均冷却速度で冷却をし、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施すことを特徴とする曲げ性および溶接性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。


【公開番号】特開2012−12703(P2012−12703A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118173(P2011−118173)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】