説明

有機−無機電界紡糸繊維

有機−無機混成繊維及び電界紡糸を介するこのような繊維の製造のための方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機−無機混成繊維、及びこの混成繊維を製造する方法、及びポリマーマトリックスとこのマトリックス内に取り込まれた有機−無機混成繊維とを含む複合物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化ポリマー物品は、回路基板産業における使用に関してよく知られている。この物品は、電気回路を形成する銅の精細なトレーシングのための支持体及び誘電体層を形成する。いわゆる回路基板ブランクは、薄い銅箔をガラス繊維強化ポリマー基材の片方又は両方の主な表面に加熱及び加圧下に積層することによって製造される。或いは、銅箔は、プレペグと呼ばれる部分的に硬化したポリマーで含浸されたガラス繊維不織マットの上に置かれ、その後、高温及び高圧下で成形される。印刷回路配置を規定するために、適切なマスクがブランクの銅表面に施される。次いで、マスキングされた箔は、化学的エッチング処理を施され、銅箔のマスキングされていない部分を溶解する。箔の保持された部分は、完成回路基板の電気接続経路として機能する。
【0003】
近年の傾向は、電子装置の小型化及び処理速度の増大に向かっている。これは、より精細な回路及び配線密度増加をもたらした。配線密度が増加すると、発生する熱量も増加する。熱の発生は、回路基板ブランク及び完成回路基板の両方にとって問題になっている。ガラス繊維の熱膨張速度は、ポリマーマトリックスと非常に異なり、銅被覆層の変形をもたらす。これは、接着性及び短絡の問題を生じ得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
(a)有機ポリマー相、及び
(b)無機ポリマー相
を含み、(a)及び(b)を混合及び相互に反応させる有機−無機混成繊維を提供する。
【0005】
混成繊維は、有機ポリマー及び無機オリゴマー又はその前駆体の導電性溶液が、紡糸口金と接地源との間の電界の存在下で紡糸され、ここで、有機相及び無機相を混合及び相互に反応させる電界紡糸工程によって形成され得る。
【0006】
混成繊維は、回路基板製造に関連するものなどのポリマー材料を強化するために用いることができる。無機成分のために、この繊維は複合物品に寸法安定性を与え、有機成分は、その熱膨張係数をポリマーマトリックスのそれにより似たものにさせて、変形の少ない銅被覆層もたらす。さらに、電界紡糸工程では、変形をさらに小さくするナノ寸法の繊維が生成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】基本的な電界紡糸システムを示す図である。
【図2】不織マットの走査電子顕微鏡(SCM)画像をシミュレートする図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の詳細な説明の目的のために、本発明では、別に明記される場合を除き、様々な代わりの変形及び工程順序が想定され得ることが理解されるべきである。さらに、任意の運転実施例における以外、又は別に示される場合以外は、例えば、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量を表す数は全て、「約」という用語によって全ての場合に修飾されていると理解されるべきである。したがって、別に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、本発明によって得られる所望の特性に依存して変わり得る近似値である。少なくとも、及び特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、それぞれの数値パラメータは、報告された有意な数字の数に照らして、及び通常の四捨五入技法を適用することによって少なくとも解釈されるべきである。数値範囲及び本発明の広い範囲を示すパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例で示される数値は可能な限り正確に報告される。しかし、いずれの数値も、それらのそれぞれの試験測定値にみられる標準偏差から必然的に生じるある種の誤差を本質的に含む。
【0009】
また、本明細書において列挙されるいずれの数値範囲も、その中に包含される部分的な範囲全てを含むことが意図されることが理解されるべきである。例えば、「1から10」の範囲は、列挙される最小値1と列挙される最大値10との間の(及び列挙される最小値1と列挙される最大値10とを含む)部分的範囲全てを含む、すなわち、1に等しいか又はそれを超える最小値及び10に等しいか又はそれ未満の最大値を有することが意図される。
【0010】
本出願において、別に特記されない限り、単数形の使用には複数形が含まれ、複数形は単数形を包含する。さらに、本出願において、「又は」の使用は、たとえ「及び/又は」が特定の例で明示的に使用され得るとしても、別に特記されない限り、「及び/又は」を意味する。
【0011】
「ポリマー」という用語は、コポリマー及びオリゴマーを含むことも意味される。「アクリル」という用語は、メタクリルを含むことが意味され、(メタ)アクリルで示される。
【0012】
図1を参照して、電界紡糸システムは3つの主な構成要素、電源1、紡糸口金3及び電気的に接地された集電装置4からなる。電界紡糸工程において直流又は交流が使用され得る。混成ポリマー溶液5はシリンジ7に含まれる。シリンジポンプ9は、この溶液を制御された速度で紡糸口金3を通して押し進める。溶液の滴が針11の先端で形成される。通常5から30キロボルト(kV)の電圧をかけると、滴は荷電された状態になる。その結果、滴は、表面電荷と外部電界によって及ぼされる力との間の静電反発力を受ける。これらの電気力は滴を変形させ、最終的にはポリマー溶液の表面張力に打ち勝ち、針11の先端から液体ジェット13の噴出を生じる。その電荷のために、ジェットは接地集電装置4に対して下側に引きつけられる。集電装置4に向かうその行程の間、ジェット13は伸長作用を受け、細い繊維の形成をもたらす。連続的に形成された荷電繊維は、図2に一般的に示されるように、ランダムに配列された不織マットとして集電装置4上に堆積する。或いは、電界紡糸繊維は、規則又は配列パターンで集めることができる。これは、最大数センチメートルの空隙ギャップによって分離された2つの電導性細片からなる集電装置を用いることによって達成され得る。電界紡糸繊維は、紡糸工程の間の長い長さスケールにわたって一軸に配列され得る。集電装置への絶縁ギャップの導入は、ギャップを横切ってわたっている繊維に作用する静電力の形状を変化させる。移動方向の急激な変化が必要とされるにもかかわらず、反対方向のこのような静電力の作用下に、ギャップのそれぞれの縁部に垂直にそれらを配列させるように荷電繊維は伸ばされる。堆積したナノ繊維間の静電反発力は、配列の度合いをさらに高め得る。Li及びXia、「Advanced Materials」、2004年、16、第14号、7月19日、1162〜1163頁を参照されたい。
【0013】
本発明の有機ポリマーはアクリルポリマーである。本明細書で用いられるように、「アクリル」ポリマーという用語は、1種又は複数のエチレン性不飽和重合性物質の重合を生じる、当業者によく知られているそれらのポリマーを指す。本発明における使用に好適な(メタ)アクリルポリマーは、当業者によって理解されているような任意の広範で様々な方法によって調製され得る。(メタ)アクリルポリマーは、シラン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及び任意選択的に窒素含有基を含む不飽和重合性物質の付加重合によって製造される。シラン基の例には、限定なしに、構造Si−X(式中、nは1から3の範囲の値を有する整数であり、Xは塩素、アルコキシエステル、及び/又はアシルオキシエステルから選択される)を有する基が含まれる。このような基は、空気中の湿気を含む水の存在下に加水分解して、−Si−O−Si−基を形成するために縮合するシラノール基を形成する。
【0014】
このような(メタ)アクリルポリマーを調製する際に使用に好適なシラン含有エチレン性不飽和重合性物質の例には、限定なしに、エチレン性不飽和アルコキシシラン及びエチレン性不飽和アシルオキシシランが含まれ、これらのより具体的な例には、ビニルシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン)、アクリラトアルコキシシラン(例えば、ガンマ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びガンマ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン)、及びメタクリラトアルコキシシラン(例えば、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びガンマ−メタクリロキシプロピルトリス−(2−メトキシエトキシ)シラン);アシルオキシシラン(例えば、アクリラトアセトキシシラン、メタクリラトアセトキシシランを含む)並びにエチレン性不飽和アセトキシシラン(例えば、アクリラトプロピルトリアセトキシシラン及びメタクリラトプロピルトリアセトキシシラン)が含まれる。特定の実施形態において、付加重合後に、得られた加水分解性シリル基のSi原子がポリマーの骨格由来の少なくとも2個の原子によって隔てられている(メタ)アクリルポリマーを生じるモノマーを用いることが望ましいことがある。好ましいモノマーは、(メタ)アクリロキシアルキルポリアルコキシシラン、特に(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランであり、ここで、アルキル基は2から3個の炭素原子を含み、アルコキシ基は1から2個の炭素原子を含む。
【0015】
特定の実施形態において、全モノマー混合物において使用されるシラン含有エチレン性不飽和重合性物質の量は、(メタ)アクリルポリマーを調製する際に使用される全モノマー組合せの重量に基づいて、0.2から20重量パーセント、好ましくは5から10重量パーセントのケイ素を含有するシラン基を含む(メタ)アクリルポリマーの生成をもたらすように選択される。
【0016】
本発明における使用に好適な(メタ)アクリルポリマーは、通常、1種又は複数の前述のシラン含有エチレン性不飽和重合性物質、好ましくは、カルボン酸基又はその酸無水物などのカルボキシルを含むエチレン性不飽和重合性物質の反応生成物である。好適なエチレン性不飽和酸及び/又はその酸無水物の例には、限定なしで、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、エチレン性不飽和スルホン酸及び/又は酸無水物(例えば、スルホエチルメタクリレート)、並びにマレイン酸とフマル酸との半エステル(例えば、1個のカルボキシル基がアルコールでエステル化されるブチル水素マレエート及びエチル水素フマレート)が含まれる。
【0017】
カルボキシル官能性を導入する他の重合性エチレン性不飽和モノマーの例は、アルキル基に1から12個の炭素原子及びアリール基に6から12個の炭素原子を含むシクロアルキルを含むアルキル(メタ)アクリレート及びアリール(メタ)アクリレートである。このようなモノマーの具体的な例には、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート及びフェニルメタクリレートが含まれる。
【0018】
重合性カルボキシル含有エチレン性不飽和モノマーの量は、好ましくは、(メタ)アクリルポリマーを調製するために用いられる全モノマー組合せの重量に基づいて、最大55重量パーセント、好ましくは15.0から45.0パーセントのカルボキシル含量を与えるのに十分である。好ましくは、ポリマーの酸価が、100%樹脂固形分基準で20から80、好ましくは30から70の範囲内にあるように、少なくとも一部のカルボキシル基はカルボン酸由来である。
【0019】
本発明に使用される(メタ)アクリルポリマーはまた好ましくは、ヒドロキシル官能性エチレン性不飽和重合性モノマーを用いることによって通常達成されるヒドロキシル官能性を含む。このような物質の例には、ヒドロキシアルキル基に2から4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルが含まれる。具体的な例には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが含まれる。ヒドロキシ官能性エチレン性不飽和モノマーの量は、(メタ)アクリルポリマーを調製するために使用される全モノマーの組合せの重量に基づいて最大6.5重量パーセント、例えば、0.5から6.5重量パーセント、好ましくは1から4重量パーセントのヒドロキシル含量を与えるのに十分である。
【0020】
(メタ)アクリルポリマーには任意選択的に、窒素含有エチレン性不飽和モノマーから導入される窒素官能性が含まれる。窒素官能性の例は、アミン、アミド、尿素、イミダゾール及びピロリドンである。好適なN含有エチレン性不飽和モノマーの例は:アミノ官能性エチレン性不飽和重合性物質(限定なしに、p−ジメチルアミノエチルスチレン、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが含まれる);アミド官能性エチレン性不飽和物質(アクリルアミド、メタクリルアミド、n−メチルアクリルアミド及びn−エチル(メタ)アクリルアミドが含まれる);尿素官能性エチレン性不飽和モノマー(メタクリルアミドエチルエチレン尿素が含まれる)である。
【0021】
使用される場合、窒素含有エチレン性不飽和モノマーの量は、(メタ)アクリルポリマーを調製する際に使用される全モノマー組合せの重量に基づいて最大5重量パーセント、例えば、好ましくは0.2から5.0重量パーセント、好ましくは0.4から2.5重量パーセントの窒素含量を与えるのに十分である。
【0022】
上述の重合性モノマーの外に、(メタ)アクリルポリマーを調製するために他の重合性エチレン性不飽和モノマーが使用され得る。このようなモノマーの例には、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート);芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、ビニルトルエン及びアルファ−メチルスチレン);モノオレフィン及びジオレフィン炭化水素、有機酸及び無機酸の不飽和エステル並びに不飽和酸及びニトリルのエステルが含まれる。このようなモノマーの例には、1,3−ブタジエン、アクリロニトリル、ビニルブチレート、ビニルアセテート、アリルクロライド、ジビニルベンゼン、ジアリルイタコネート、トリアリルシアヌレート並びにそれらの混合物が含まれる。存在する場合、多官能モノマー(例えば、ポリアクリレート)は通常、最大20重量パーセントの量で使用される。存在する場合、単官能モノマーは、最大70重量パーセントの量で使用され;パーセントは、(メタ)アクリルポリマーを調製するために使用される全モノマーの組合せの重量に基づいている。
【0023】
(メタ)アクリルポリマーは通常、重合開始剤[例えば、アゾ化合物(アルファ,アルファ’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(メチルブチロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))];過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド及びt−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート);tert−ブチルペルアセテート;tert−ブチルペルベンゾエート;イソプロピルペルカーボネート;ブチルイソプロピルペルオキシカーボネート;及び同様な化合物]の存在下で、エチレン性不飽和重合性モノマーの溶液重合によって形成される。用いられる開始剤の量はかなり変えることができるが;しかし、ほとんどの場合、用いられる共重合性モノマーの全重量に基づいて0.1から10重量パーセントの開始剤を用いることが望ましい。鎖修飾剤又は連鎖移動剤を重合混合物に添加してもよい。メルカプタン(例えば、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン)及びメルカプトアルキルトリアルコキシシラン(例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、並びに他の連鎖移動剤(例えば、シクロペンタジエン、アリルアセテート、アリルカルバメート、及びメルカプトエタノール)がこの目的に使用され得る。
【0024】
アクリルポリマーを調製するためのモノマーの混合物の重合反応は、特に、例えば、米国特許第2,978,437号明細書;同第3,079,434号明細書及び同第3,307,963号明細書で示されるように付加ポリマー分野でよく知られている従来の溶液重合手順を用いて有機溶媒媒体中で行うことができる。モノマーの重合に用いられ得る有機溶媒には、アクリル又はビニルポリマーを調製する際にしばしば用いられる事実上任意の有機溶媒(例えば、例として、アルコール、ケトン、芳香族炭化水素又はそれらの混合物)が含まれる。用いられ得る上記の種類の有機溶媒の実例は、2から4個の炭素原子を含む低級アルカノールなどのアルコール(エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールを含む);エーテルアルコール(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテル);ケトン(例えば、メチルエチルケトン、メチルN−ブチルケトン、及びメチルイソブチルケトン);エステル(例えば、ブチルアセテート);及び芳香族炭化水素(例えば、キシレン、トルエン、及びナフサ)である。
【0025】
特定の実施形態において、エチレン性不飽和成分の重合は、0℃から150℃、例えば、50℃から150℃、又は、一部の場合、80℃から120℃で行われる。
【0026】
上記されるように調製されるポリマーは通常、溶媒に溶解し、典型的には、全溶液重量に基づいて約15から80重量パーセント、好ましくは20から60重量パーセントの樹脂固形分含量を有する。ポリマーの分子量は典型的には、ポリスチレン標準を用いるゲル透過クロマトグラフィーで測定して、3,000から1,000,000、好ましくは5,000から100,000の範囲である。
【0027】
繊維の無機ポリマー相は無機ポリマー由来であることができるか、又はその場で無機ポリマーを形成する前駆体由来であることができる。例えば、無機ポリマー相は、アルコキシド基及び任意選択的にヒドロキシル基を含むポリマー金属酸化物由来であることができる。好ましくは、アルコキシド基は、1から4個の炭素原子を含み、例えば、メトキシド及びエトキシドである。このようなポリマー金属酸化物の例は、以下の構造:
【化1】


(式中、Rは、1から4個、好ましくは1から2個の炭素原子を含むアルキルであり、n=3〜10である)
のポリアルキルシリケートである。
【0028】
無機ポリマーの前駆体の例は、加水分解性脱離基を有する金属であり、加水分解及び縮合によって無機ポリマーを形成することができる。好適な金属の例は、酸の水素を置換し、ヒドロキシルラジカルと塩基を形成し得る陽性金属である。好ましい金属は、ケイ素、チタン、アルミニウム及びジルコニウムである。好適な前駆体は、MX及びMXであり、ここで、Mは金属であり、Xはハロゲン、アルコキシ、アリールオキシ、カルボキシ又はNR基(ここで、Rは水素及び/又はアルキル及び/又はアリールである)である。1から4個、好ましくは1から2個の炭素原子を含むアルコキシ基が好ましい。また、他の金属も、特に好ましい金属と併用して使用され得る。このような金属の例は、ホウ素、インジウム、錫、タンタル、ランタン、鉄、銅、イットリウム、ゲルマニウム、バリウム及びマグネシウムである。好ましい前駆体は、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケート、チタン及びジルコニウムなどの金属のアルコキシド(ここで、アルコキシド基は1から4個の炭素原子を含む)である。例には、チタンテトライソプロキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド及びアルミニウムトリ−sec−ブトキシドが含まれる。
【0029】
電界紡糸用途に関して、例えば上記されたような有機ポリマーは、金属アルコキシド及び水が加水分解及び金属アルコキシドの重合、並びに加水分解及びポリマー金属酸化物のさらなる重合及び様々な架橋反応を開始するように、ポリマー金属酸化物及び/又はその前駆体と混合され得る。架橋反応は、アクリルシランポリマー、並びに金属アルコキシド及び/又はポリマー金属アルコキシドの加水分解生成物と関連したものである。起きていると考えられる様々な反応物は、それら自体と反応するアクリルシラン並びに金属アルコキシド及びポリマー金属アルコキシドの加水分解生成物の結果である金属水酸化物基と関連したシラン基である。また、金属水酸化物基は、それら自体と反応し得る。起きているこれらの様々な反応は、混合及び相互に反応させる有機ポリマー相及び無機ポリマー相を有する繊維の形成をもたらす。
【0030】
有機ポリマー相と無機ポリマー相との相対量は、広範に変わることができ、繊維が使用される用途にいくらか依存する。有機ポリマー相は、例えば、繊維の5から95重量パーセント、例えば、10から90重量パーセント、及び30から70重量パーセントを構成し、無機ポリマー相は、繊維の5から95重量パーセント、例えば、10から90重量パーセント、及び30から70重量パーセントを構成することができ;重量パーセントは全繊維重量に基づいている。
【0031】
上述のように、例えば上記されたような有機ポリマー並びに無機ポリマー金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの溶液は水と混合されて、架橋反応を開始し、繊維形成に必要な粘度を構築する。通常約5から20重量パーセント、好ましくは10から15重量パーセントの水が溶液に添加され、重量パーセントは溶液及び水の全重量に基づいている。好ましくは、架橋反応を触媒するために水溶性有機アミンなどの塩基が水溶液に添加される。任意選択的に、その粘弾性挙動をよりよく制御するために、増粘剤、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリアミド及び/又はセルロース系増粘剤が電界紡糸処方物に添加され得る。使用される場合、増粘剤は、ポリマー溶液の重量に基づいて、20重量パーセント以下、典型的には1から6重量パーセントの量で存在する。
【0032】
次いで、上記のように調製された電界紡糸処方物を保存して、粘度を架橋反応に対して構築させる。ゲル化には達していないが、粘度が十分高い場合、処方物は上記されたように電界紡糸工程下に置かれる。
【0033】
典型的に、粘度は、電界紡糸工程のために5以上2,000未満、通常1,000未満、例えば、好ましくは50から250センチストークスの範囲内にあるべきである。ASTM D−1544に従うBubble Viscometerで、粘度が測定される。電界紡糸処方物を保存するための時間は、温度、架橋官能性及び触媒などのいくつかの要因に依存する。典型的には、電界紡糸処方物は、1分程度から最大2時間の間保存される。
【0034】
電界紡糸工程を受けると、上記処方物は、直径最大10,000ナノメートル、より典型的には5000ナノメートル又はそれ未満、例えば、5から5000ナノメートル、或いは50から1200ナノメートルの範囲内、例えば、50から700ナノメートルの範囲を有する繊維を生成する。この繊維はまた、リボン形状を有することができ、この場合、直径は繊維の最大寸法を意味することが意図される。典型的には、リボン形状繊維の幅は、最大5000ナノメートル、例えば、500から5000ナノメートル、及び厚さは最大200ナノメートル、例えば、5から200ナノメートルである。
【0035】
本発明の混成繊維は、繊維がポリマーマトリックス内に取り込まれて複合物品を形成するポリマー材料の強化として使用され得る。この繊維は、不織マットの形態に集められて、ポリマーを形成するために使用される出発物質で含浸され得る。次いで、この含浸マットは、加熱及び加圧下に成形して複合物品を形成し得る。或いは、細断混成繊維及びポリマー出発物質は、出発物質の全体にわたって分散されている細断繊維と一緒に型内に注入されて、次いで、加熱及び加圧下に成形されて、複合物品を形成し得る。強化ポリマー材料の典型的な最終用途は、回路基板ブランク及び回路基板それ自体である。
【0036】
ポリマーマトリックス材料は、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン又はポリブタジエン)などの熱可塑性材料であり得るか、又はエポキシ樹脂若しくは不飽和ポリエステル樹脂由来のものなどの熱硬化性材料であり得る。
【0037】
複合物品の混成繊維含量は、複合物品の用途にいくらか依存して広範に変わり得る。複合物品の全重量に基づいて0.1から95重量パーセントの繊維含量が用いられ得る。0.1から5重量パーセントのより低い範囲及び10から80重量パーセントのより高い範囲が典型的である。
【0038】
以下の実施例は、本発明の一般的な原理を実証するために提示される。しかし、本発明は、提示された特定の実施例に限定されると考えられるべきではない。別に示されない限り、部数は全て重量による。
【実施例】
【0039】
(実施例A)
以下の表1を参照して、反応フラスコは、撹拌機、熱電対、窒素吸気口及びコンデンサーを備えた。次いで、窒素雰囲気下に、分量Aを添加し、還流温度(75℃〜80℃)への加熱とともに撹拌した。還流エタノールに、分量B及び分量Cを3時間かけて同時に添加した。この反応混合物を還流条件で2時間保持した。次いで、分量Dを30分の期間にわたって添加した。反応混合物を還流条件で2時間保持し、その後、30℃に冷却した。
【0040】
表1
【表1】


変性エチルアルコール、200アルコール度数、Archer Daniel Midland Co.から入手可能。
ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、GE siliconesから入手可能。
2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、E.I.duPont de Nemours & Co.,Inc.から入手可能。
【0041】
(実施例1〜4)
(実施例1)
実施例A由来のアクリルシラン樹脂溶液(10グラム)をEthyl Polysilicate(Silbond(登録商標)40、3グラム)、ポリビニルピロリドン(0.1グラム)及び水(1.5グラム)とブレンドした。この処方物を室温に約7時間保存した。処方物の一部を10mlのシリンジに入れ、シリンジポンプを介して1時間当たり0.8ミリリットルの速度で紡糸口金(ステンレススチール管、外径1/16インチ及び内径0.010インチ)に供給した。この管は、約21kV電位がかけられた高電圧源を介して接地アルミニウム集電装置に接続されていた。供給管及び集電装置は、窒素パージして相対湿度25%未満に維持することを可能とさせた箱内に入れられていた。直径約2000ナノメートルを有するナノファイバーを接地アルミニウムパネル上に集めて、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡により特徴づけした。
【0042】
(実施例2)
実施例A由来のアクリルシラン樹脂溶液(10グラム)をEthyl Polysilicate(Silbond(登録商標)40、2グラム)、ポリビニルピロリドン(0.1グラム)及び水(1.5グラム)とブレンドした。この処方物を室温で3.5時間保存した。処方物の一部を10mlのシリンジに入れ、シリンジポンプを介して1時間当たり1.6ミリリットルの速度で実施例1の紡糸口金に供給した。電界紡糸の条件は、実施例1に記載されたとおりであった。約400ナノメートルの直径を有するナノファイバーを接地アルミニウムパネル上に集め、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡により特徴づけした。
【0043】
(実施例3)
実施例A由来のアクリルシラン樹脂溶液(10グラム)をEthyl Polysilicate(Silbond(登録商標)40、0.45グラム)、ジメチルエタノールアミン(0.05グラム)、ポリビニルピロリドン(0.1グラム)及び水(1.5グラム)とブレンドした。この処方物を室温で5.3時間保存した。処方物の一部を10mlのシリンジに入れ、シリンジポンプを介して1時間当たり1.6ミリリットルの速度で実施例1の紡糸口金に供給した。電界紡糸の条件は実施例1に記載されたとおりであった。厚さ約250から1500ナノメートル及び幅約200から500ナノメートルを有するリポン形状のナノファイバーを接地アルミニウム箔上に集め、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡により特徴づけした。
【0044】
(実施例4)
実施例A由来のアクリルシラン樹脂溶液(10グラム)をEthyl Polysilicate(Silbond(登録商標)40、1.01グラム)、ジメチルエタノールアミン(0.14グラム)、ポリビニルピロリドン(0.2グラム)及び水(1.5グラム)とブレンドした。この処方物を室温で45分間保存した。処方物の一部を10mlのシリンジに入れ、シリンジポンプを介して1時間当たり1.6ミリリットルの速度で実施例1の紡糸口金に供給した。電界紡糸の条件は実施例1に記載されたとおりであった。厚さ約850から1100ナノメートル及び幅約300から800ナノメートルを有するリポン形状のナノファイバーを接地アルミニウム箔上に集め、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡により特徴づけした。
【0045】
例証の目的のために本発明の特定の実施例を上に記載してきたが、本発明の詳細の多くの変形が添付された特許請求の範囲に定義されたとおりの発明から逸脱することなく行われ得ることが当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機ポリマー相、及び
(b)無機ポリマー相
を含み、(a)及び(b)を混合及び相互に反応させる有機−無機複合繊維。
【請求項2】
直径最大5000ナノメートルを有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
有機ポリマー相がシラン基を含むポリマー由来である、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
有機ポリマー相が(メタ)アクリルポリマー又はコポリマー由来である、請求項3に記載の繊維。
【請求項5】
有機ポリマー相が、シラン基を含み、且つカルボキシル及びヒドロキシル及び任意選択的に窒素含有基から選択される基を含むポリマー由来である、請求項3に記載の繊維。
【請求項6】
有機ポリマー相が、
(a)ケイ素として測定された0.2から20パーセントのシラン基、
(b)1から20個のカルボキシル基、
(c)0.5から6.5パーセントのヒドロキシル基、及び
(d)0.2から5.0パーセントの窒素
を含むポリマー由来である、請求項5に記載の繊維。
【請求項7】
無機ポリマー相が無機ポリマー由来である、請求項1に記載の繊維。
【請求項8】
無機ポリマー相が前駆体からその場で形成される、請求項7に記載の繊維。
【請求項9】
無機ポリマー相がアルコキシド基を含むポリマー金属酸化物由来である、請求項7に記載の繊維。
【請求項10】
アルコキシド基が1から4個の炭素を含む、請求項9に記載の繊維。
【請求項11】
アルコキシド基がメトキシド及びエトキシドから選択される、請求項10に記載の繊維。
【請求項12】
ポリマー金属酸化物の金属がケイ素である、請求項9に記載の繊維。
【請求項13】
ポリマー金属酸化物がポリアルキルシリケートである、請求項12に記載の繊維。
【請求項14】
ポリアルキルシリケートのアルキル基がメチル及びエチルから選択される、請求項13に記載の繊維。
【請求項15】
10から90重量パーセントの(a)、及び
10から90重量パーセントの(b)
を含み、重量パーセントが全繊維重量に基づいている、請求項1に記載の繊維。
【請求項16】
(1)紡糸口金と接地源との間の電界の存在下有機ポリマーと無機ポリマー又は無機ポリマーの前駆体との導電性溶液を電界紡糸して、複合繊維を形成するステップであって、複合繊維の有機相と無機相を混合及び相互に反応させたステップ
を含む、有機相及び無機相を有する複合繊維を形成する方法。
【請求項17】
繊維が接地源上で集められる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
繊維が最大5000ナノメートルの直径を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
有機ポリマー及び無機ポリマー又は無機ポリマーの前駆体が電界紡糸中に相互に反応する共反応性官能基を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
有機ポリマーがシラン基を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
有機ポリマーが(メタ)アクリルポリマー又はコポリマーである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
シラン基を含む有機ポリマーが、カルボキシル、ヒドロキシル及び任意選択的に窒素含有基から選択される基も含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
ポリマーマトリックスと該マトリックス内に取り込まれた請求項1に記載の繊維とを含む複合物品。
【請求項24】
繊維が、複合物品の全重量に基づいて複合物品の約0.1から95重量パーセントを構成する、請求項23に記載の複合物品。
【請求項25】
ポリマーマトリックスが熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂由来である、請求項23に記載の複合物品。
【請求項26】
ポリマーマトリックスがエポキシ樹脂由来の熱硬化性樹脂である、請求項23に記載の複合物品。
【請求項27】
回路基板の形態である、請求項23に記載の複合物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−519431(P2010−519431A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551985(P2009−551985)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/086020
【国際公開番号】WO2008/105971
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(399074983)ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッド (60)
【氏名又は名称原語表記】PPG Industries Ohio,Inc.
【Fターム(参考)】