有機エレクトロルミネッセンス表示装置及びその製造方法
【課題】 いわゆる逆構造のトップエミッション型有機エレクトロルミネッセンス表示装置において、高い発光効率を得る。
【解決手段】 各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス表示装置であり、陰極が、第1陰極層4a、第2陰極層4b、及び第3陰極層6から形成されており、第1陰極層4aが金属膜からなる反射性の電極であり、第2陰極層4bが透明導電性金属酸化物からなる電極であり、第3陰極層6が金属膜からなる電極であり、第3陰極層6が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層6の膜厚と、第3陰極層6を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層6の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴としている。
【解決手段】 各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス表示装置であり、陰極が、第1陰極層4a、第2陰極層4b、及び第3陰極層6から形成されており、第1陰極層4aが金属膜からなる反射性の電極であり、第2陰極層4bが透明導電性金属酸化物からなる電極であり、第3陰極層6が金属膜からなる電極であり、第3陰極層6が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層6の膜厚と、第3陰極層6を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層6の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置及びその製造方法に関するものであり、詳細には、いわゆる逆構造のトップエミッション型の有機EL表示装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型の発光素子として有機EL素子が注目され、この有機EL素子を用いたディスプレイの開発が進められている。有機EL素子は、動画表示に適した速い応答速度、低電圧、低消費電力駆動などの特徴を有しているため、次世代の携帯電話や携帯端末(PDA)をはじめ、次世代のディスプレイとして期待されている。
【0003】
有機ELディスプレイは、画像表示のため複数の画素を有する有機ELパネルを備えている。有機ELパネルにおける有機EL素子の構造は、パネル基板上で有機EL膜を2つの電極で挟んだ構造になっている。有機EL膜は、主に電子輸送層、発光層、正孔輸送層によって構成され、2つの電極の一方が陽極、他方が陰極になっている。
【0004】
このような有機ELパネルを備えた有機ELディスプレイにおいては、陽極に正の電圧、陰極に負の電圧を印加することにより、陽極から有機EL膜中に注入された正孔が正孔輸送層を経て発光層に到達し、一方陰極から有機EL膜に注入された電子が電子輸送層を経て発光層に到達し、発光層内で電子と正孔が再結合することにより発光を得る仕組みになっている。
【0005】
また、近年では、表示画像の高輝度化や高精細化を実現するものとして、従来パネル基板側から光を取り出していたものを、その反対側、すなわち発光層が形成されているパネル基板の上面側から光を取り出す上面発光(トップエミッション)方式を採用した有機ELディスプレイが提案されている。
【0006】
図13は、アクティブマトリックス回路基板上に形成したトップエミッション方式を採用した有機ELディスプレイのパネルの断面図である。基板側から光を取り出す構造では、基板上の薄膜トランジスタ(TFT)などにより、実際に光を取り出すことのできる部分の割合(開口率)が制限されるという問題があったが、トップエミッション構造の有機ELディスプレイは、この問題点を解決することができ、発光部分の上方にTFTなどが存在しないので、開口率をほぼ100%にすることが可能になる。
【0007】
図13は、上述のように従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置の1画素分を示した断面図である。図13を参照して、従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、基板1上にTFT回路2がマトリックス状に形成されている。基板1及びTFT回路2の上には、平坦化膜3が形成されている。平坦化膜3上には、陽極8が形成されている。また、平坦化膜3及び陽極8の上には、開口部を有する絶縁膜からなる画素分離膜5が形成されている。画素分離膜5は、各画素領域の間の画素間に設けられている。この画素分離膜5の開口部内で、陽極8と接するように発光層を含む有機層7が形成されている。また、有機層7及び画素分離膜5の上の全面を覆うように、Li、LiFまたはLiO2などからなる電子注入層及びAlやAgなどからなる陰極4が形成されている。
【0008】
しかしながら、図13に示した従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、ボトムエミッション構造の表示装置と陰極の構造が異なるため、トップエミッション用に陰極及び陽極を含む有機ELの素子構造を最適化する必要があった。また、発光層を含む有機層7の上の全面を覆うように、金属膜からなる陰極4が形成されているので、光の透過率を大きくするのが困難であり、発光効率が低下するという問題があった。その結果、図13に示した従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、開口率を大きくすることができるものの、上述の素子構造を最適化しなければならないという問題並びに光の透過率は最大でも70%程度にとどまってしまうという問題があった。そこで、図13に示した従来のトップエミッション構造と異なり、基板1側に陰極4を形成することによって、透過率の低い陰極4を基板1側に形成した逆構造のトップエミッション型のアクティブマトリックス型表示装置が考えられる。この構造では、ボトムエミッション構造と同様の陰極を用いることができるので、ボトムエミッションの素子構造を上下逆にすればよく、トップエミッション用に素子の構造を最適化する必要がなくなる。
【0009】
図12は、陰極4を基板側に形成した逆構造のトップエミッション型のアクティブマトリックス型表示装置の1画素分を示した断面図である。図12に示す逆構造のトップエミッション型の表示装置は、電極とその間の有機層の構成が上下において逆になっていること以外は、図13に示した従来のトップエミッション構造の表示装置と同様の構成である。すなわち、図12に示すように、基板1上に、TFT回路2、平坦化膜3、及び陰極4がこの順序で形成されている。平坦化膜3及び陰極4の上には、画素分離膜5が形成されている。なお、陰極4には、上述のように、電子注入層がその一部として形成されている。陰極4の上には、発光層を含む有機層7が形成されている。画素分離膜5及び有機層7の上の全面を覆うように、ITOなどからなる陽極(透明電極)8が形成されている。
【0010】
図12に示す逆構造のトップエミッション型表示装置においては、陰極4を各画素領域にのみパターニングして限定的に形成している。このようなパターニングは、一般にフォトリソグラフィー法によりなされる(特許文献1など)。
【0011】
しかしながら、フォトリソグラフィー法により陰極4をパターニングする場合、陰極である金属膜の表面が酸化され、陰極の表面に酸化膜が形成されるという問題があった。陰極の表面に酸化膜が形成されると、電子注入が阻害され、有機EL素子の駆動電圧が高くなり、発光効率が低下するという問題を生じる。
【0012】
また、陰極をパターニングする代わりに、画素間にリブを設ける方法も提案されている(特許文献2など)。しかしながら、画素間にリブを設ける場合、陰極4と共に陽極8も分離されてしまうので、アクティブマトリックス型表示装置においては使用することができない。
【特許文献1】特開平11−185971号公報
【特許文献2】特開2001−230073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、いわゆる逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置において、発光効率が高い有機EL表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機EL表示装置は、各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機EL表示装置であり、各画素に表示信号を与えるため基板上に設けられる駆動回路と、駆動回路に接続され、かつ各画素領域毎に分離して設けられる、金属膜からなる反射性の第1陰極層と、各画素領域毎に分離して第1陰極層の上に設けられる、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層と、各画素領域毎に設けられている第1陰極層及び第2陰極層の間の画素間の領域において、各画素領域を分離するため設けられる、絶縁材料からなる画素分離膜と、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる、金属膜からなる第3陰極層と、第3陰極層の上に設けられる、発光層を含む有機層と、有機層の上に設けられる、透明性電極からなる陽極とを備え、第3陰極層が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層の膜厚と、第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、各画素毎に分離して設けられる金属膜からなる反射性の第1陰極層の上に、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層が設けられている。従って、第1陰極層を形成し、その上に第2陰極層を形成した後、フォトリソグラフィー法により、第1陰極層と第2陰極層をパターニングする際、第1陰極層の上には第2陰極層が存在しているので、金属膜からなる第1陰極層の表面が酸化されることなくフォトリソグラフィー法によりパターニングすることができる。
【0016】
また、本発明においては、第3陰極層が、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられている。従って、第3陰極層をパターニングする必要がなく、第3陰極層形成後、引き続きその上に有機層等を形成することができる。従って、第3陰極層を形成した後、第3陰極層を大気に暴露することなく、次の有機層等をその上に形成することができる。第3陰極層の表面が酸化されることなく、次の層を形成することができるので、有機層に電荷を注入する際の障害が生じず、駆動電圧を低減することができ、発光効率を高めることができる。
【0017】
また、本発明における第3陰極層は、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層の膜厚と、第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜である。従って、第3陰極層による膜面方向への電気的な導通が生じないため、第3陰極層を複数の画素領域にまたがって設けても、第3陰極層を介しての隣接する画素への電気的導通が生じず、点灯している画素の周辺において同時に点灯するのを防止することができる。
【0018】
第3陰極層を、膜面方向に不連続な電極膜として形成する方法としては、膜厚を5nm未満とし、島状に分離された不連続な膜として形成する方法が挙げられる。このような電極膜は、島状に分離した不連続な膜であるので、膜面方向の導通が生じることはない。
【0019】
図11は、第3陰極層6における電子の平均自由行程λと、第3陰極層6の導電率との関係を説明するための図である。膜厚dが薄くなって、膜内の自由電子の平均自由行程λと同程度になると、膜面上で自由電子が衝突散乱することにより実質的に電子の自由行程λが短縮されるので、導電率の低下を生じる。自由電子の平均自由行程λより膜厚dが小さい場合の導電率σfは、以下の式で表される。なお、以下の式においてσはバルクの導電率を示している。
σf=d/λ(3/4+1/2ln(λ/d)σ
【0020】
従って、第3陰極層の電極材料の電子の平均自由行程λと、第3陰極層の膜厚dと、第3陰極層の電極材料のバルクの導電率σから、第3陰極層のシート抵抗を算出することができる。
【0021】
本発明においては、このようにして算出されるシート抵抗が、少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜を第3陰極層として用いてもよい。
【0022】
本発明においては、画素分離膜の傾斜した側面上の第3陰極層の部分の膜厚が、第3陰極層の他の部分の膜厚よりも薄くなっており、この部分において上記のシート抵抗が30Ω/□以上になっていてもよい。
【0023】
図8は、画素分離膜の傾斜した側面上において、第3陰極層の膜厚が薄くなっている状態を示す断面図である。平坦化膜3の上には画素分離膜5が設けられており、画素分離膜5の側面5bは傾斜した側面になっている。第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6が形成されており、第3陰極層6の膜厚はdで示されている。図8に示すように、画素分離膜5の傾斜した側面5b上の第3陰極層6の膜厚Dは、d×cosθで表され、膜厚dよりも小さくなっている。
【0024】
従って、図8に示すように、画素分離膜5の傾斜した側面5bにおいて膜厚Dが、他の部分における膜厚dよりも薄くなっており、この部分において、シート抵抗を30Ω/□以上にすることができる。
【0025】
また、本発明においては、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角が90°以上であり、画素分離膜の側方端部で第3陰極層が分断され、不連続な膜となっていてもよい。図9は、このような状態を示す断面図である。図9に示すように、平坦化膜3の上に形成されている画素分離膜5の側面5bは、テーパー状に形成されており、側面5bが膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上になっている。このような場合、第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6を形成すると、画素分離膜5の上面5a上に形成された第3陰極層6と、第2陰極層4b上に形成された第3陰極層6とが画素分離膜5の側方端部で分断された状態となり、不連続になる。図9に示す状態においては、このような分断された第3陰極層6の上に有機層7を形成しているが、有機層7は連続して形成されているため、その上に形成される陽極8も連続した電極膜として形成されている。
【0026】
図10は、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角が90°以上の場合において、画素分離膜5の膜厚hが、有機層7の膜厚dよりも厚い場合を示している。このような場合、図10に示すように、有機層7が画素分離膜5の側方端部で分断されてしまうので、その上に形成される陽極8も画素分離膜5の側方端部で分断され、連続した陽極8を形成することができなくなる。このため、TFT回路によるアクティブマトリックス駆動の場合には適用できない構造となる。
【0027】
従って、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上である場合、画素分離膜の膜厚を、有機層の膜厚よりも薄くなるように画素分離膜を形成することが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、金属膜からなる反射性の第1電極層の上に、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層を設けている。第2陰極層の上には、さらに第3陰極層を設けているが、第3陰極層は薄膜であるので、有機層で発光した光は、反射性の第1電極層が設けられていない場合、有機EL素子基板側にも出射されてしまう。本発明では、第1電極層を設けることにより、有機層で発光した光を一方向に反射させ封止基板側から出射させることができるので、発光効率を向上させることができる。また、本発明においては、第2陰極層の膜厚を調整することにより、有機EL素子のマイクロキャビティの調整をすることができるので、発光効率をさらに向上させることができる。
【0029】
図1は、本発明に従う一実施例の有機EL表示装置の1画素分の領域を示した断面図である。図2は、図1に示す実施例の有機EL表示装置の複数の画素領域の部分を示した断面図である。図1に示すように、ガラス基板などの基板1の上には、TFT回路2が設けられており、TFT回路2の上には、平坦化膜3が設けられている。平坦化膜3の上の各画素領域の部分には、第1陰極層4aが形成されており、第1陰極層4aの上に第2陰極層4bが形成されている。第1陰極層4a及び第2陰極層4bは、フォトリソグラフィー法などによりパターニングされ、画素領域の上にのみ設けられている。第1陰極層4aは、平坦化膜3に形成されたスルーホールを介してTFT回路2の電極に接続されている。
【0030】
第1陰極層4a及び第2陰極層4bの間の画素間の領域には、各画素領域を分離するため画素分離膜5が設けられている。画素分離膜5及び第2陰極層4bの上には、各画素領域をまたがりほぼ全面に第3陰極層6が形成されている。
【0031】
第3陰極層6の上には、複数の画素領域をまたがるように発光層を含む有機層7が形成されている。有機層7の上には、複数の画素領域をまたがるように陽極8が形成されている。陽極8の上には、複数の画素領域をまたがるように保護膜9が形成されている。保護膜9の上には、接着剤層10を介してガラス基板などからなる封止基板11が取り付けられている。カラーフィルタ層を設ける場合には、封止基板11にカラーフィルタ層を設けることができる。
【0032】
本発明においては、第3陰極層6が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層6の膜厚と、第3陰極層6を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出される上述のシート抵抗が、第3陰極層6の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜である。
【0033】
本発明において、第1陰極層は、金属膜からなる反射性の電極であり、例えば、反射率の高いアルミニウム、銀、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、銅、金、またはこれらの合金などからなる金属膜から形成することができる。
【0034】
本発明において、第2陰極層は、透明導電性金属酸化物からなる電極膜であり、透明で仕事関数が高いインジウム錫酸化物(ITO)や、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などから形成することができる。
【0035】
本発明において、第3陰極層は、金属膜から形成することができ、電極材料としては、第1陰極層の電極材料と同じもの、及びリチウム、ナトリウム、セシウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、並びにそれらの合金(例えば、MgAg)などが挙げられる。
【0036】
本発明における画素分離膜は、絶縁材料から形成されるものであり、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などのポリマー材料などから形成することができる。
【0037】
本発明における有機層は、発光層を含む有機層であり、従来より有機EL素子において形成されている有機層を形成することができる。有機層は、第3陰極層のパターンよりも大きな領域をカバーするように形成されることが好ましい。発光層の材料としては、例えば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などを挙げることができる。
【0038】
本発明における陽極は、透明性電極からなる電極膜であり、ITOやIZOなどから形成することができる。必要に応じて、膜厚の薄い金属膜から形成してもよい。
【0039】
図1に示す保護膜9としては、有機EL素子のパッシベーション層として機能するものを用いることができ、電気絶縁性を有し、水分や低分子成分に対するバリア性を有し、可視域における透明性が高い(400〜800nmの波長範囲で透過率が50%以上)の材料が好ましく用いられる。このような材料としては、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等を用いることができる。保護膜の形成方法としては、有機EL素子に悪影響を与えない方法であれば特に制約はなく、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等で形成することができ、ディッピング法などにより形成してもよい。
【0040】
接着剤層10としては、光硬化樹脂または熱硬化樹脂などを用い、封止基板11を貼り合わせた状態で硬化させることにより封止基板11を取り付ける。
【0041】
本発明の有機EL表示装置における有機EL素子部分の構造としては、以下のような構造が挙げられる。
(1)陰極/有機EL発光層/陽極
(2)陰極/有機EL発光層/正孔注入層/陽極
(3)陰極/電子注入層/有機EL発光層/陽極
(4)陰極/電子注入層/有機EL発光層/正孔注入層/陽極
(5)陰極/電子注入層/有機EL発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
(6)陰極/電子注入層/電子輸送層/有機EL発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
【0042】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、第1陰極層の上に第2陰極層を形成する工程と、第1陰極層及び第2陰極層の間の画素間の領域に、画素分離膜をパターニングして形成する工程と、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる第3陰極層を形成する工程と、第3陰極層を形成した後、大気に暴露することなく、有機層を第3陰極層の上に形成する工程と、有機層の上に陰極を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0043】
本発明の製造方法によれば、第3陰極層を形成した後、第3陰極層を大気に暴露することなく、その上に有機層を形成しているので、第3陰極層の表面を酸化させることなく有機EL表示装置を製造することができる。従って、発光効率の高い有機EL表示装置とすることができる。
【0044】
本発明の製造方法においては、第1の陰極層の上に第2の陰極層を形成しているが、第1の陰極層を形成した後、第1の陰極層を大気に暴露することなく、第2の陰極層をその上に形成することが好ましい。また、第2の陰極層を形成した後、フォトリソグラフィー法等により、第1の陰極層と第2の陰極層をパターニングして、画素領域にのみ第1陰極層及び第2陰極層を形成することが好ましい。第1陰極層の形成後、第1陰極層を大気に暴露することなく、その上に第2陰極層を形成することにより、第1陰極層の表面が酸化されることがなく、第1陰極層表面での酸化膜の形成を防止することができる。このため、駆動電圧の上昇を抑制することができ、高い発光効率を得ることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、いわゆる逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置において、駆動電圧の上昇を抑制し、発光効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1及び2)
図1に示す構造のアクティブマトリックス型有機EL表示装置を作製した。本実施例では、第3陰極層6の膜厚を5nm未満にして形成した。
【0048】
図1を参照して、本実施例の表示装置の作製プロセスについて説明する。まず、基板1上に、ゲート電極を含むポリシリコン型TFT回路2をマトリックス状に形成した。この基板1及びTFT回路2の上に、SiO2からなる平坦化膜3を形成した。平坦化膜3の上に、Alからなる膜厚100nmの第1陰極層4aを形成した。本発明において、第1陰極層の厚みは、10〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
次に、第1陰極層4aの上に、ITOからなる膜厚100nmの第2陰極層4bを形成した。本発明において、第2陰極層4bの膜厚は、10〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
第2陰極層4bを形成した後、フォトリソグラフィー法を用いて、第1陰極層4a及び第2陰極層4bを画素領域上にのみ残すようにパターニングした。なお、第2陰極層4bは、第1陰極層4aを形成した後、第1陰極層4aが大気に暴露されることのないよう、続けて第2陰極層4bを形成した。
【0051】
次に、平坦化膜3上の画素間の領域の上に、PMMA(ポリメチルメタクリレート)からなる画素分離膜5(膜厚1μm)を形成した。
【0052】
次に、第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6を全面にわたって形成した。本実施例では、真空蒸着法を用いて、133×10-7Pa以下の真空度でAlからなる第3陰極層6を形成した。なお、第3陰極層6の膜厚は、1nmと2.5nmの2種類のものを形成した。
【0053】
上記のように、第3陰極層6を非常に薄く形成することにより、第3陰極層6は、連続膜とはならず、島状に分離された膜が形成された。
【0054】
図5は、膜厚1nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図6は、膜厚2.5nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。また、図7は、膜厚5nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。図5〜図7から明らかなように、膜厚を5nm未満とすることにより、島状に分離された金属膜として第3陰極層を形成できることがわかる。このように、第3陰極層を、島状に分離した不連続な膜として形成することにより、隣接する画素間で第3陰極層を介して導通するのを防ぐことができる。
【0055】
次に、第3陰極層6を形成した後、第3陰極層6が酸化するのを避けるため、133×10-7Pa以下の真空度を保持した状態で、メタルマスクを用いて、画素領域の上に、電子注入層及び有機層7を形成した。電子注入層としては、膜厚1nmのLi膜を形成し、有機層7としては、Alq3(トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III))からなる電子輸送層(膜厚30nm)と、緑色発光ドーパントとして3重量%のメチルキナクリドンを含有するAlq3(トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III))からなる発光層(膜厚30nm)と、NPB(N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジン)からなるホール輸送層(膜厚50nm)と、CuPc(銅フタロシアニン)からなるホール注入層(膜厚10nm)からなる有機層7を形成した。
【0056】
次に、有機層7の上の全面を覆うように、ITOからなる陽極(透明電極)8、及びSiNxからなる保護膜9を形成した。次に、ガラス板からなる封止基板11を、エポキシ樹脂からなる接着剤層10で貼り合わせることにより、図1に示すアクティブマトリックス型の有機EL表示装置を作製した。
【0057】
(実施例3〜12及び比較例1〜5)
第3陰極層6の膜厚を、表2に示すように、5nm、10nm、及び15nmとし、画素分離膜の側面の傾斜角度θを、表2に示すように30°、45°、60°、75°、90°以上(具体的には120°)となるように形成する以外は、上記実施例1及び実施例2と同様にしてアクティブマトリックス型有機EL表示装置を作製した。なお、実施例1及び2における画素分離膜の側面の傾斜角度θは、45°である。
【0058】
本実施例においては、第3陰極層の膜厚を5nm以上にしているので、図7に示すような連続膜として第3陰極層であるAl膜が形成される。
【0059】
表1は、画素分離膜の側面の傾斜角度θを0°、15°、30°、45°、60°、及び75°としたときの、画素分離膜の傾斜側面上の部分の第3陰極層(Al膜)のシート抵抗(Ω/□)の値を示しており、第3陰極層(Al膜)の膜厚10nm、25nm、50nm、100nm、及び150nmのそれぞれの場合における値を示している。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、画素分離膜の側面の傾斜角度θと、第3陰極層の膜厚から、画素分離膜の傾斜側面上における第3陰極層のシート抵抗を算出できることがわかる。例えば、画素分離膜の側面の傾斜角度θが45°である場合、Al膜からなる第3陰極層の膜厚を5nm以下とすることにより画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗を30Ω/□以上にできることがわかる。
【0062】
(比較例6及び7)
上記各実施例では、Al膜からなる第1陰極層の上に、ITOからなる第2陰極層を設け、その上にAl膜からなる第3陰極層を形成している。
【0063】
比較例6においては、ITO膜(膜厚100nm)の上にAl膜(膜厚1nm)を形成した電極を陰極として用いる以外は、実施例1と同様にして有機EL表示装置を作製した。
【0064】
比較例7においては、Al膜(膜厚100nm)を形成した後、大気に暴露した状態でパターニングし、その後実施例1と同様にしてAl膜(膜厚1nm)を形成し、それ以外は実施例1と同様にして有機EL表示装置を作製した。
【0065】
(実施例13及び14)
本実施例では、第3陰極層における画素間の距離を長くすることにより、第3陰極層の横方向の抵抗を高くしている。
【0066】
図3は、実施例13の有機EL素子を示す断面図である。図3に示すように、本実施例では、画素分離膜5の上面に、さらに第2の画素分離膜12を形成し、これにより第3陰極層6の画素間の距離を長くし、第3陰極層6の横方向の抵抗を高めている。本実施例において、第2の画素分離膜12を設ける以外は、基本的に実施例3と同様の条件で有機EL素子を作製している。第2の画素分離膜12は、画素分離膜5と同様に格子状に形成しており、その高さ(膜厚)は、500nmである。第2の画素分離膜12を形成することにより、画素間の距離は8%長くなっている。
【0067】
図4は、実施例14の有機EL素子を示す断面図である。本実施例では、2つに分割した画素分離膜を画素間の領域に形成することにより、第3陰極層6の画素間の距離を長くしている。本実施例のように、画素分離膜5を2つに分割して形成することにより、実施例3に比べ、画素間の距離は10%長くなっている。
【0068】
〔輝度測定試験〕
上記各実施例及び各比較例で作製した表示装置の発光輝度を測定した。発光輝度は、それぞれの表示装置における単位面積あたりの発光輝度(cd/m2)を測定した。測定した発光輝度の値を表2に示す。
【0069】
〔パターニングの観察〕
上記発光輝度を測定する際、隣接する画素の発光状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0070】
〇:隣接する画素が発光しない状態
△:隣接する画素が一部発光する状態
×:隣接する画素が発光する状態
評価結果を表2に示す。
【0071】
また、表2には、画素分離膜側面の傾斜角度θと、画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗の値をそれぞれ示している。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、比較例1〜5においては、画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗が30Ω/□未満となっているため、パターニングにおいて良好な結果が得られていない。すなわち、画素を発光させた際、隣接する画素においても発光が認められた。また、これらの比較例では、発光輝度も高い値が得られなかった。
【0074】
また、ITO膜の上にAl膜を設けた比較例6、及びAl膜形成後大気に暴露した後、Al膜を形成した比較例7においては、高い発光輝度が得られていない。これに対し、本発明に従う実施例1〜14においては、高い発光輝度が得られており、発光効率の向上が認められた。また、実施例13及び14においては、第3陰極層の画素間の距離を実施例3よりも長くしているが、輝度は実施例3よりも高い値が得られており、発光効率の向上が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図2】図1に示す有機EL表示装置の複数の画素領域部分を示す断面図。
【図3】本発明に従う他の実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図4】本発明に従うさらに他の実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図5】第3陰極層としてのAl膜(膜厚1nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図6】第3陰極層としてのAl膜(膜厚2.5nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図7】第3陰極層としてのAl膜(膜厚5nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図8】画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層の膜厚の計算方法を説明するための断面図。
【図9】画素分離膜の膜厚が有機層の膜厚よりも薄い状態を示す断面図。
【図10】画素分離膜の膜厚が有機層の膜厚よりも厚い状態を示す断面図。
【図11】薄膜の膜厚と自由電子の平均自由行程との関係を説明するための斜視図。
【図12】従来の逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置を示す断面図。
【図13】従来のトップエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0076】
1…基板
2…TFT回路
3…平坦化膜
4a…第1陰極層
4b…第2陰極層
5…画素分離膜
6…第3陰極層
7…有機層
8…陽極
9…保護膜
10…接着剤層
11…封止基板
12…第2の画素分離膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)表示装置及びその製造方法に関するものであり、詳細には、いわゆる逆構造のトップエミッション型の有機EL表示装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型の発光素子として有機EL素子が注目され、この有機EL素子を用いたディスプレイの開発が進められている。有機EL素子は、動画表示に適した速い応答速度、低電圧、低消費電力駆動などの特徴を有しているため、次世代の携帯電話や携帯端末(PDA)をはじめ、次世代のディスプレイとして期待されている。
【0003】
有機ELディスプレイは、画像表示のため複数の画素を有する有機ELパネルを備えている。有機ELパネルにおける有機EL素子の構造は、パネル基板上で有機EL膜を2つの電極で挟んだ構造になっている。有機EL膜は、主に電子輸送層、発光層、正孔輸送層によって構成され、2つの電極の一方が陽極、他方が陰極になっている。
【0004】
このような有機ELパネルを備えた有機ELディスプレイにおいては、陽極に正の電圧、陰極に負の電圧を印加することにより、陽極から有機EL膜中に注入された正孔が正孔輸送層を経て発光層に到達し、一方陰極から有機EL膜に注入された電子が電子輸送層を経て発光層に到達し、発光層内で電子と正孔が再結合することにより発光を得る仕組みになっている。
【0005】
また、近年では、表示画像の高輝度化や高精細化を実現するものとして、従来パネル基板側から光を取り出していたものを、その反対側、すなわち発光層が形成されているパネル基板の上面側から光を取り出す上面発光(トップエミッション)方式を採用した有機ELディスプレイが提案されている。
【0006】
図13は、アクティブマトリックス回路基板上に形成したトップエミッション方式を採用した有機ELディスプレイのパネルの断面図である。基板側から光を取り出す構造では、基板上の薄膜トランジスタ(TFT)などにより、実際に光を取り出すことのできる部分の割合(開口率)が制限されるという問題があったが、トップエミッション構造の有機ELディスプレイは、この問題点を解決することができ、発光部分の上方にTFTなどが存在しないので、開口率をほぼ100%にすることが可能になる。
【0007】
図13は、上述のように従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置の1画素分を示した断面図である。図13を参照して、従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、基板1上にTFT回路2がマトリックス状に形成されている。基板1及びTFT回路2の上には、平坦化膜3が形成されている。平坦化膜3上には、陽極8が形成されている。また、平坦化膜3及び陽極8の上には、開口部を有する絶縁膜からなる画素分離膜5が形成されている。画素分離膜5は、各画素領域の間の画素間に設けられている。この画素分離膜5の開口部内で、陽極8と接するように発光層を含む有機層7が形成されている。また、有機層7及び画素分離膜5の上の全面を覆うように、Li、LiFまたはLiO2などからなる電子注入層及びAlやAgなどからなる陰極4が形成されている。
【0008】
しかしながら、図13に示した従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、ボトムエミッション構造の表示装置と陰極の構造が異なるため、トップエミッション用に陰極及び陽極を含む有機ELの素子構造を最適化する必要があった。また、発光層を含む有機層7の上の全面を覆うように、金属膜からなる陰極4が形成されているので、光の透過率を大きくするのが困難であり、発光効率が低下するという問題があった。その結果、図13に示した従来のトップエミッション構造のアクティブマトリックス型表示装置では、開口率を大きくすることができるものの、上述の素子構造を最適化しなければならないという問題並びに光の透過率は最大でも70%程度にとどまってしまうという問題があった。そこで、図13に示した従来のトップエミッション構造と異なり、基板1側に陰極4を形成することによって、透過率の低い陰極4を基板1側に形成した逆構造のトップエミッション型のアクティブマトリックス型表示装置が考えられる。この構造では、ボトムエミッション構造と同様の陰極を用いることができるので、ボトムエミッションの素子構造を上下逆にすればよく、トップエミッション用に素子の構造を最適化する必要がなくなる。
【0009】
図12は、陰極4を基板側に形成した逆構造のトップエミッション型のアクティブマトリックス型表示装置の1画素分を示した断面図である。図12に示す逆構造のトップエミッション型の表示装置は、電極とその間の有機層の構成が上下において逆になっていること以外は、図13に示した従来のトップエミッション構造の表示装置と同様の構成である。すなわち、図12に示すように、基板1上に、TFT回路2、平坦化膜3、及び陰極4がこの順序で形成されている。平坦化膜3及び陰極4の上には、画素分離膜5が形成されている。なお、陰極4には、上述のように、電子注入層がその一部として形成されている。陰極4の上には、発光層を含む有機層7が形成されている。画素分離膜5及び有機層7の上の全面を覆うように、ITOなどからなる陽極(透明電極)8が形成されている。
【0010】
図12に示す逆構造のトップエミッション型表示装置においては、陰極4を各画素領域にのみパターニングして限定的に形成している。このようなパターニングは、一般にフォトリソグラフィー法によりなされる(特許文献1など)。
【0011】
しかしながら、フォトリソグラフィー法により陰極4をパターニングする場合、陰極である金属膜の表面が酸化され、陰極の表面に酸化膜が形成されるという問題があった。陰極の表面に酸化膜が形成されると、電子注入が阻害され、有機EL素子の駆動電圧が高くなり、発光効率が低下するという問題を生じる。
【0012】
また、陰極をパターニングする代わりに、画素間にリブを設ける方法も提案されている(特許文献2など)。しかしながら、画素間にリブを設ける場合、陰極4と共に陽極8も分離されてしまうので、アクティブマトリックス型表示装置においては使用することができない。
【特許文献1】特開平11−185971号公報
【特許文献2】特開2001−230073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、いわゆる逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置において、発光効率が高い有機EL表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機EL表示装置は、各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機EL表示装置であり、各画素に表示信号を与えるため基板上に設けられる駆動回路と、駆動回路に接続され、かつ各画素領域毎に分離して設けられる、金属膜からなる反射性の第1陰極層と、各画素領域毎に分離して第1陰極層の上に設けられる、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層と、各画素領域毎に設けられている第1陰極層及び第2陰極層の間の画素間の領域において、各画素領域を分離するため設けられる、絶縁材料からなる画素分離膜と、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる、金属膜からなる第3陰極層と、第3陰極層の上に設けられる、発光層を含む有機層と、有機層の上に設けられる、透明性電極からなる陽極とを備え、第3陰極層が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層の膜厚と、第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、各画素毎に分離して設けられる金属膜からなる反射性の第1陰極層の上に、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層が設けられている。従って、第1陰極層を形成し、その上に第2陰極層を形成した後、フォトリソグラフィー法により、第1陰極層と第2陰極層をパターニングする際、第1陰極層の上には第2陰極層が存在しているので、金属膜からなる第1陰極層の表面が酸化されることなくフォトリソグラフィー法によりパターニングすることができる。
【0016】
また、本発明においては、第3陰極層が、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられている。従って、第3陰極層をパターニングする必要がなく、第3陰極層形成後、引き続きその上に有機層等を形成することができる。従って、第3陰極層を形成した後、第3陰極層を大気に暴露することなく、次の有機層等をその上に形成することができる。第3陰極層の表面が酸化されることなく、次の層を形成することができるので、有機層に電荷を注入する際の障害が生じず、駆動電圧を低減することができ、発光効率を高めることができる。
【0017】
また、本発明における第3陰極層は、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層の膜厚と、第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜である。従って、第3陰極層による膜面方向への電気的な導通が生じないため、第3陰極層を複数の画素領域にまたがって設けても、第3陰極層を介しての隣接する画素への電気的導通が生じず、点灯している画素の周辺において同時に点灯するのを防止することができる。
【0018】
第3陰極層を、膜面方向に不連続な電極膜として形成する方法としては、膜厚を5nm未満とし、島状に分離された不連続な膜として形成する方法が挙げられる。このような電極膜は、島状に分離した不連続な膜であるので、膜面方向の導通が生じることはない。
【0019】
図11は、第3陰極層6における電子の平均自由行程λと、第3陰極層6の導電率との関係を説明するための図である。膜厚dが薄くなって、膜内の自由電子の平均自由行程λと同程度になると、膜面上で自由電子が衝突散乱することにより実質的に電子の自由行程λが短縮されるので、導電率の低下を生じる。自由電子の平均自由行程λより膜厚dが小さい場合の導電率σfは、以下の式で表される。なお、以下の式においてσはバルクの導電率を示している。
σf=d/λ(3/4+1/2ln(λ/d)σ
【0020】
従って、第3陰極層の電極材料の電子の平均自由行程λと、第3陰極層の膜厚dと、第3陰極層の電極材料のバルクの導電率σから、第3陰極層のシート抵抗を算出することができる。
【0021】
本発明においては、このようにして算出されるシート抵抗が、少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜を第3陰極層として用いてもよい。
【0022】
本発明においては、画素分離膜の傾斜した側面上の第3陰極層の部分の膜厚が、第3陰極層の他の部分の膜厚よりも薄くなっており、この部分において上記のシート抵抗が30Ω/□以上になっていてもよい。
【0023】
図8は、画素分離膜の傾斜した側面上において、第3陰極層の膜厚が薄くなっている状態を示す断面図である。平坦化膜3の上には画素分離膜5が設けられており、画素分離膜5の側面5bは傾斜した側面になっている。第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6が形成されており、第3陰極層6の膜厚はdで示されている。図8に示すように、画素分離膜5の傾斜した側面5b上の第3陰極層6の膜厚Dは、d×cosθで表され、膜厚dよりも小さくなっている。
【0024】
従って、図8に示すように、画素分離膜5の傾斜した側面5bにおいて膜厚Dが、他の部分における膜厚dよりも薄くなっており、この部分において、シート抵抗を30Ω/□以上にすることができる。
【0025】
また、本発明においては、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角が90°以上であり、画素分離膜の側方端部で第3陰極層が分断され、不連続な膜となっていてもよい。図9は、このような状態を示す断面図である。図9に示すように、平坦化膜3の上に形成されている画素分離膜5の側面5bは、テーパー状に形成されており、側面5bが膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上になっている。このような場合、第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6を形成すると、画素分離膜5の上面5a上に形成された第3陰極層6と、第2陰極層4b上に形成された第3陰極層6とが画素分離膜5の側方端部で分断された状態となり、不連続になる。図9に示す状態においては、このような分断された第3陰極層6の上に有機層7を形成しているが、有機層7は連続して形成されているため、その上に形成される陽極8も連続した電極膜として形成されている。
【0026】
図10は、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角が90°以上の場合において、画素分離膜5の膜厚hが、有機層7の膜厚dよりも厚い場合を示している。このような場合、図10に示すように、有機層7が画素分離膜5の側方端部で分断されてしまうので、その上に形成される陽極8も画素分離膜5の側方端部で分断され、連続した陽極8を形成することができなくなる。このため、TFT回路によるアクティブマトリックス駆動の場合には適用できない構造となる。
【0027】
従って、画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上である場合、画素分離膜の膜厚を、有機層の膜厚よりも薄くなるように画素分離膜を形成することが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、金属膜からなる反射性の第1電極層の上に、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層を設けている。第2陰極層の上には、さらに第3陰極層を設けているが、第3陰極層は薄膜であるので、有機層で発光した光は、反射性の第1電極層が設けられていない場合、有機EL素子基板側にも出射されてしまう。本発明では、第1電極層を設けることにより、有機層で発光した光を一方向に反射させ封止基板側から出射させることができるので、発光効率を向上させることができる。また、本発明においては、第2陰極層の膜厚を調整することにより、有機EL素子のマイクロキャビティの調整をすることができるので、発光効率をさらに向上させることができる。
【0029】
図1は、本発明に従う一実施例の有機EL表示装置の1画素分の領域を示した断面図である。図2は、図1に示す実施例の有機EL表示装置の複数の画素領域の部分を示した断面図である。図1に示すように、ガラス基板などの基板1の上には、TFT回路2が設けられており、TFT回路2の上には、平坦化膜3が設けられている。平坦化膜3の上の各画素領域の部分には、第1陰極層4aが形成されており、第1陰極層4aの上に第2陰極層4bが形成されている。第1陰極層4a及び第2陰極層4bは、フォトリソグラフィー法などによりパターニングされ、画素領域の上にのみ設けられている。第1陰極層4aは、平坦化膜3に形成されたスルーホールを介してTFT回路2の電極に接続されている。
【0030】
第1陰極層4a及び第2陰極層4bの間の画素間の領域には、各画素領域を分離するため画素分離膜5が設けられている。画素分離膜5及び第2陰極層4bの上には、各画素領域をまたがりほぼ全面に第3陰極層6が形成されている。
【0031】
第3陰極層6の上には、複数の画素領域をまたがるように発光層を含む有機層7が形成されている。有機層7の上には、複数の画素領域をまたがるように陽極8が形成されている。陽極8の上には、複数の画素領域をまたがるように保護膜9が形成されている。保護膜9の上には、接着剤層10を介してガラス基板などからなる封止基板11が取り付けられている。カラーフィルタ層を設ける場合には、封止基板11にカラーフィルタ層を設けることができる。
【0032】
本発明においては、第3陰極層6が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、第3陰極層6の膜厚と、第3陰極層6を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出される上述のシート抵抗が、第3陰極層6の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜である。
【0033】
本発明において、第1陰極層は、金属膜からなる反射性の電極であり、例えば、反射率の高いアルミニウム、銀、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、銅、金、またはこれらの合金などからなる金属膜から形成することができる。
【0034】
本発明において、第2陰極層は、透明導電性金属酸化物からなる電極膜であり、透明で仕事関数が高いインジウム錫酸化物(ITO)や、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などから形成することができる。
【0035】
本発明において、第3陰極層は、金属膜から形成することができ、電極材料としては、第1陰極層の電極材料と同じもの、及びリチウム、ナトリウム、セシウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、並びにそれらの合金(例えば、MgAg)などが挙げられる。
【0036】
本発明における画素分離膜は、絶縁材料から形成されるものであり、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などのポリマー材料などから形成することができる。
【0037】
本発明における有機層は、発光層を含む有機層であり、従来より有機EL素子において形成されている有機層を形成することができる。有機層は、第3陰極層のパターンよりも大きな領域をカバーするように形成されることが好ましい。発光層の材料としては、例えば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などを挙げることができる。
【0038】
本発明における陽極は、透明性電極からなる電極膜であり、ITOやIZOなどから形成することができる。必要に応じて、膜厚の薄い金属膜から形成してもよい。
【0039】
図1に示す保護膜9としては、有機EL素子のパッシベーション層として機能するものを用いることができ、電気絶縁性を有し、水分や低分子成分に対するバリア性を有し、可視域における透明性が高い(400〜800nmの波長範囲で透過率が50%以上)の材料が好ましく用いられる。このような材料としては、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等を用いることができる。保護膜の形成方法としては、有機EL素子に悪影響を与えない方法であれば特に制約はなく、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等で形成することができ、ディッピング法などにより形成してもよい。
【0040】
接着剤層10としては、光硬化樹脂または熱硬化樹脂などを用い、封止基板11を貼り合わせた状態で硬化させることにより封止基板11を取り付ける。
【0041】
本発明の有機EL表示装置における有機EL素子部分の構造としては、以下のような構造が挙げられる。
(1)陰極/有機EL発光層/陽極
(2)陰極/有機EL発光層/正孔注入層/陽極
(3)陰極/電子注入層/有機EL発光層/陽極
(4)陰極/電子注入層/有機EL発光層/正孔注入層/陽極
(5)陰極/電子注入層/有機EL発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
(6)陰極/電子注入層/電子輸送層/有機EL発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
【0042】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、第1陰極層の上に第2陰極層を形成する工程と、第1陰極層及び第2陰極層の間の画素間の領域に、画素分離膜をパターニングして形成する工程と、画素分離膜及び第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる第3陰極層を形成する工程と、第3陰極層を形成した後、大気に暴露することなく、有機層を第3陰極層の上に形成する工程と、有機層の上に陰極を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0043】
本発明の製造方法によれば、第3陰極層を形成した後、第3陰極層を大気に暴露することなく、その上に有機層を形成しているので、第3陰極層の表面を酸化させることなく有機EL表示装置を製造することができる。従って、発光効率の高い有機EL表示装置とすることができる。
【0044】
本発明の製造方法においては、第1の陰極層の上に第2の陰極層を形成しているが、第1の陰極層を形成した後、第1の陰極層を大気に暴露することなく、第2の陰極層をその上に形成することが好ましい。また、第2の陰極層を形成した後、フォトリソグラフィー法等により、第1の陰極層と第2の陰極層をパターニングして、画素領域にのみ第1陰極層及び第2陰極層を形成することが好ましい。第1陰極層の形成後、第1陰極層を大気に暴露することなく、その上に第2陰極層を形成することにより、第1陰極層の表面が酸化されることがなく、第1陰極層表面での酸化膜の形成を防止することができる。このため、駆動電圧の上昇を抑制することができ、高い発光効率を得ることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、いわゆる逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置において、駆動電圧の上昇を抑制し、発光効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1及び2)
図1に示す構造のアクティブマトリックス型有機EL表示装置を作製した。本実施例では、第3陰極層6の膜厚を5nm未満にして形成した。
【0048】
図1を参照して、本実施例の表示装置の作製プロセスについて説明する。まず、基板1上に、ゲート電極を含むポリシリコン型TFT回路2をマトリックス状に形成した。この基板1及びTFT回路2の上に、SiO2からなる平坦化膜3を形成した。平坦化膜3の上に、Alからなる膜厚100nmの第1陰極層4aを形成した。本発明において、第1陰極層の厚みは、10〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
次に、第1陰極層4aの上に、ITOからなる膜厚100nmの第2陰極層4bを形成した。本発明において、第2陰極層4bの膜厚は、10〜1000nmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
第2陰極層4bを形成した後、フォトリソグラフィー法を用いて、第1陰極層4a及び第2陰極層4bを画素領域上にのみ残すようにパターニングした。なお、第2陰極層4bは、第1陰極層4aを形成した後、第1陰極層4aが大気に暴露されることのないよう、続けて第2陰極層4bを形成した。
【0051】
次に、平坦化膜3上の画素間の領域の上に、PMMA(ポリメチルメタクリレート)からなる画素分離膜5(膜厚1μm)を形成した。
【0052】
次に、第2陰極層4b及び画素分離膜5の上に、第3陰極層6を全面にわたって形成した。本実施例では、真空蒸着法を用いて、133×10-7Pa以下の真空度でAlからなる第3陰極層6を形成した。なお、第3陰極層6の膜厚は、1nmと2.5nmの2種類のものを形成した。
【0053】
上記のように、第3陰極層6を非常に薄く形成することにより、第3陰極層6は、連続膜とはならず、島状に分離された膜が形成された。
【0054】
図5は、膜厚1nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図6は、膜厚2.5nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。また、図7は、膜厚5nmの第3陰極層(Al膜)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。図5〜図7から明らかなように、膜厚を5nm未満とすることにより、島状に分離された金属膜として第3陰極層を形成できることがわかる。このように、第3陰極層を、島状に分離した不連続な膜として形成することにより、隣接する画素間で第3陰極層を介して導通するのを防ぐことができる。
【0055】
次に、第3陰極層6を形成した後、第3陰極層6が酸化するのを避けるため、133×10-7Pa以下の真空度を保持した状態で、メタルマスクを用いて、画素領域の上に、電子注入層及び有機層7を形成した。電子注入層としては、膜厚1nmのLi膜を形成し、有機層7としては、Alq3(トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III))からなる電子輸送層(膜厚30nm)と、緑色発光ドーパントとして3重量%のメチルキナクリドンを含有するAlq3(トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III))からなる発光層(膜厚30nm)と、NPB(N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジン)からなるホール輸送層(膜厚50nm)と、CuPc(銅フタロシアニン)からなるホール注入層(膜厚10nm)からなる有機層7を形成した。
【0056】
次に、有機層7の上の全面を覆うように、ITOからなる陽極(透明電極)8、及びSiNxからなる保護膜9を形成した。次に、ガラス板からなる封止基板11を、エポキシ樹脂からなる接着剤層10で貼り合わせることにより、図1に示すアクティブマトリックス型の有機EL表示装置を作製した。
【0057】
(実施例3〜12及び比較例1〜5)
第3陰極層6の膜厚を、表2に示すように、5nm、10nm、及び15nmとし、画素分離膜の側面の傾斜角度θを、表2に示すように30°、45°、60°、75°、90°以上(具体的には120°)となるように形成する以外は、上記実施例1及び実施例2と同様にしてアクティブマトリックス型有機EL表示装置を作製した。なお、実施例1及び2における画素分離膜の側面の傾斜角度θは、45°である。
【0058】
本実施例においては、第3陰極層の膜厚を5nm以上にしているので、図7に示すような連続膜として第3陰極層であるAl膜が形成される。
【0059】
表1は、画素分離膜の側面の傾斜角度θを0°、15°、30°、45°、60°、及び75°としたときの、画素分離膜の傾斜側面上の部分の第3陰極層(Al膜)のシート抵抗(Ω/□)の値を示しており、第3陰極層(Al膜)の膜厚10nm、25nm、50nm、100nm、及び150nmのそれぞれの場合における値を示している。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、画素分離膜の側面の傾斜角度θと、第3陰極層の膜厚から、画素分離膜の傾斜側面上における第3陰極層のシート抵抗を算出できることがわかる。例えば、画素分離膜の側面の傾斜角度θが45°である場合、Al膜からなる第3陰極層の膜厚を5nm以下とすることにより画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗を30Ω/□以上にできることがわかる。
【0062】
(比較例6及び7)
上記各実施例では、Al膜からなる第1陰極層の上に、ITOからなる第2陰極層を設け、その上にAl膜からなる第3陰極層を形成している。
【0063】
比較例6においては、ITO膜(膜厚100nm)の上にAl膜(膜厚1nm)を形成した電極を陰極として用いる以外は、実施例1と同様にして有機EL表示装置を作製した。
【0064】
比較例7においては、Al膜(膜厚100nm)を形成した後、大気に暴露した状態でパターニングし、その後実施例1と同様にしてAl膜(膜厚1nm)を形成し、それ以外は実施例1と同様にして有機EL表示装置を作製した。
【0065】
(実施例13及び14)
本実施例では、第3陰極層における画素間の距離を長くすることにより、第3陰極層の横方向の抵抗を高くしている。
【0066】
図3は、実施例13の有機EL素子を示す断面図である。図3に示すように、本実施例では、画素分離膜5の上面に、さらに第2の画素分離膜12を形成し、これにより第3陰極層6の画素間の距離を長くし、第3陰極層6の横方向の抵抗を高めている。本実施例において、第2の画素分離膜12を設ける以外は、基本的に実施例3と同様の条件で有機EL素子を作製している。第2の画素分離膜12は、画素分離膜5と同様に格子状に形成しており、その高さ(膜厚)は、500nmである。第2の画素分離膜12を形成することにより、画素間の距離は8%長くなっている。
【0067】
図4は、実施例14の有機EL素子を示す断面図である。本実施例では、2つに分割した画素分離膜を画素間の領域に形成することにより、第3陰極層6の画素間の距離を長くしている。本実施例のように、画素分離膜5を2つに分割して形成することにより、実施例3に比べ、画素間の距離は10%長くなっている。
【0068】
〔輝度測定試験〕
上記各実施例及び各比較例で作製した表示装置の発光輝度を測定した。発光輝度は、それぞれの表示装置における単位面積あたりの発光輝度(cd/m2)を測定した。測定した発光輝度の値を表2に示す。
【0069】
〔パターニングの観察〕
上記発光輝度を測定する際、隣接する画素の発光状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0070】
〇:隣接する画素が発光しない状態
△:隣接する画素が一部発光する状態
×:隣接する画素が発光する状態
評価結果を表2に示す。
【0071】
また、表2には、画素分離膜側面の傾斜角度θと、画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗の値をそれぞれ示している。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、比較例1〜5においては、画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層のシート抵抗が30Ω/□未満となっているため、パターニングにおいて良好な結果が得られていない。すなわち、画素を発光させた際、隣接する画素においても発光が認められた。また、これらの比較例では、発光輝度も高い値が得られなかった。
【0074】
また、ITO膜の上にAl膜を設けた比較例6、及びAl膜形成後大気に暴露した後、Al膜を形成した比較例7においては、高い発光輝度が得られていない。これに対し、本発明に従う実施例1〜14においては、高い発光輝度が得られており、発光効率の向上が認められた。また、実施例13及び14においては、第3陰極層の画素間の距離を実施例3よりも長くしているが、輝度は実施例3よりも高い値が得られており、発光効率の向上が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に従う実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図2】図1に示す有機EL表示装置の複数の画素領域部分を示す断面図。
【図3】本発明に従う他の実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図4】本発明に従うさらに他の実施例の有機EL表示装置を示す断面図。
【図5】第3陰極層としてのAl膜(膜厚1nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図6】第3陰極層としてのAl膜(膜厚2.5nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図7】第3陰極層としてのAl膜(膜厚5nm)の表面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図8】画素分離膜の傾斜側面上の第3陰極層の膜厚の計算方法を説明するための断面図。
【図9】画素分離膜の膜厚が有機層の膜厚よりも薄い状態を示す断面図。
【図10】画素分離膜の膜厚が有機層の膜厚よりも厚い状態を示す断面図。
【図11】薄膜の膜厚と自由電子の平均自由行程との関係を説明するための斜視図。
【図12】従来の逆構造のトップエミッション型有機EL表示装置を示す断面図。
【図13】従来のトップエミッション型の有機EL表示装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0076】
1…基板
2…TFT回路
3…平坦化膜
4a…第1陰極層
4b…第2陰極層
5…画素分離膜
6…第3陰極層
7…有機層
8…陽極
9…保護膜
10…接着剤層
11…封止基板
12…第2の画素分離膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス表示装置であって、
各画素に表示信号を与えるため基板上に設けられる駆動回路と、
前記駆動回路に接続され、かつ各画素領域毎に分離して設けられる、金属膜からなる反射性の第1陰極層と、
各画素領域毎に分離して前記第1陰極層の上に設けられる、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層と、
各画素領域毎に設けられている前記第1陰極層及び前記第2陰極層の間の画素間の領域において、各画素領域を分離するため設けられる、絶縁材料からなる画素分離膜と、
前記画素分離膜及び前記第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる、金属膜からなる第3陰極層と、
前記第3陰極層の上に設けられる、発光層を含む有機層と、
前記有機層の上に設けられる、透明性電極からなる陽極とを備え、
前記第3陰極層が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、前記第3陰極層の膜厚と、前記第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、前記第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項2】
前記画素分離膜の傾斜した側面上の前記第3陰極層の部分の膜厚が、他の部分の膜厚よりも薄くなっており、該部分において前記シート抵抗が30Ω/□以上になっていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項3】
前記第3陰極層が、膜厚5nm未満であり、島状に分離して形成された不連続な膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項4】
前記画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上であり、前記画素分離膜の側方端部で前記第3陰極層が分断され、不連続となっていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項5】
前記画素分離膜の膜厚が前記有機層の膜厚より薄くなるように前記画素分離膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造する方法であって、
前記第1陰極層の上に前記第2陰極層を形成する工程と、
前記第1陰極層及び前記第2陰極層の間の画素間の領域に、前記画素分離膜をパターニングして形成する工程と、
前記画素分離膜及び前記第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる前記第3陰極層を形成する工程と、
前記第3陰極層を形成した後、大気に暴露することなく、前記有機層を前記第3陰極層の上に形成する工程と、
前記有機層の上に前記陰極を形成する工程とを備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【請求項1】
各画素領域からの発光を基板側と反対側から取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス表示装置であって、
各画素に表示信号を与えるため基板上に設けられる駆動回路と、
前記駆動回路に接続され、かつ各画素領域毎に分離して設けられる、金属膜からなる反射性の第1陰極層と、
各画素領域毎に分離して前記第1陰極層の上に設けられる、透明導電性金属酸化物からなる第2陰極層と、
各画素領域毎に設けられている前記第1陰極層及び前記第2陰極層の間の画素間の領域において、各画素領域を分離するため設けられる、絶縁材料からなる画素分離膜と、
前記画素分離膜及び前記第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる、金属膜からなる第3陰極層と、
前記第3陰極層の上に設けられる、発光層を含む有機層と、
前記有機層の上に設けられる、透明性電極からなる陽極とを備え、
前記第3陰極層が、膜面方向に不連続な電極膜であるか、あるいは、前記第3陰極層の膜厚と、前記第3陰極層を構成する電極材料の電子の平均自由行程とから算出されるシート抵抗が、前記第3陰極層の少なくとも一部で30Ω/□以上である電極膜であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項2】
前記画素分離膜の傾斜した側面上の前記第3陰極層の部分の膜厚が、他の部分の膜厚よりも薄くなっており、該部分において前記シート抵抗が30Ω/□以上になっていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項3】
前記第3陰極層が、膜厚5nm未満であり、島状に分離して形成された不連続な膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項4】
前記画素分離膜の側面が膜面方向に対してなす傾斜角度が90°以上であり、前記画素分離膜の側方端部で前記第3陰極層が分断され、不連続となっていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項5】
前記画素分離膜の膜厚が前記有機層の膜厚より薄くなるように前記画素分離膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造する方法であって、
前記第1陰極層の上に前記第2陰極層を形成する工程と、
前記第1陰極層及び前記第2陰極層の間の画素間の領域に、前記画素分離膜をパターニングして形成する工程と、
前記画素分離膜及び前記第2陰極層の上に、複数の画素領域に共通して設けられる前記第3陰極層を形成する工程と、
前記第3陰極層を形成した後、大気に暴露することなく、前記有機層を前記第3陰極層の上に形成する工程と、
前記有機層の上に前記陰極を形成する工程とを備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2007−66774(P2007−66774A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252751(P2005−252751)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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