説明

有機ケイ素化合物及びその製造方法並びに光重合性組成物及び無機材料

【解決手段】下記一般式(1)


(R1及びR2は1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に脂環をなしてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又はアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物。
【効果】本発明の新規な有機ケイ素化合物は、遊離のヒドロキシル基を含有せず、安定性が高く、無機材料と共有結合可能な加水分解性シリル基を含有し、硬化後も黄変、不快臭がない、光重合開始基を有する有機ケイ素化合物として非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にエチレン性不飽和結合を有する化合物を光重合するためのシリル化された光重合開始剤として有用な有機ケイ素化合物及びその製造方法、並びに光重合性組成物及び無機材料に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等による光硬化法は、熱により硬化する方法に比べて低温でしかも迅速に硬化できるため、生産性向上、省エネルギー、無公害等の多くの長所がある。また、この光硬化法は選択的に硬化が可能であるため、印刷インキ、塗料、接着剤、印刷版、プリント配線基板の加工等に広く用いられている。光硬化法において、特に紫外線や可視光線を用いる場合は、一般に光照射によってラジカル又はカチオンを発生させる光重合開始剤が使用されており、現在までに各種の光重合開始剤が開発されてきた。
そのような光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエーテル類、置換アセトフェノン類、ベンジルケタール類、オキシム誘導体、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、キサンテート類、有機過酸化物等の光照射によりラジカルを発生する化合物が知られている。
【0003】
しかし、これらの光重合開始剤を使用して得られる光硬化物中には、未反応の光重合開始剤や、光重合開始剤が開裂して生成する低分子量化合物が存在しており、これらが塗膜表面にブリードすることなどによって、硬化物の劣化や変色、不快臭を生じたり、硬化物の物性を低下させるといった問題があった。
【0004】
上記問題を解決するために、無機材料と共有結合可能な官能基としてアルコキシシリル基を導入した光重合開始剤が報告されている(特許文献1:特許第2769619号公報)。一般に、高分子材料中には、例えば、機械的特性を向上するためにガラス繊維、金属、酸化物充填材といった無機材料を高分子材料中に添加したり、無機表面に高分子材料をコーティングさせて使用することが工業的に幅広く利用されている。アルコキシシリル基含有の重合開始剤は、1分子中に無機表面との反応性を有するアルコキシシリル基と光重合開始基を有しており、無機材料とシリル基が共有結合することで、硬化後の塗膜表面へのブリードを防止し、硬化物の変色や不快臭を抑制したり、生成した高分子量化合物が無機材料と強固に密着するといった効果が得られる。
【0005】
しかし、これら報告されたアルコキシシリル基含有光重合開始剤は、遊離のヒドロキシル基を有しており、保存中や加熱により、分子間、分子内でヒドロキシル基とアルコキシシリル基が反応することで重合開始剤自身が高分子量化したり、他のモノマーやオリゴマーと反応するなど安定性が悪いといった問題点があった。更に、その製造は非常に煩雑であり、収率も低い。また、安定性が低く、高沸点であることから蒸留困難であり、カラムや溶媒抽出といった精製法でしか精製できないため、製造で用いた金属化合物に例示されるような微量不純物を除去するのが難しく、電子材料等の分野には使用が制限されることがあった。これら問題を解決し得る無機材料と共有結合可能な加水分解性シリル基含有光重合開始剤の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特許第2769619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、遊離のヒドロキシル基を含有せず、安定性が高く、無機材料と共有結合可能で、硬化後も黄変、不快臭がない光重合開始基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この有機ケイ素化合物を含む光重合性組成物及びこの有機ケイ素化合物で処理された無機材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、α−ヒドロキシアルキルフェノン類とエチレン性不飽和結合を有するシランを反応させた化合物に加水分解性シランを付加することで、遊離のヒドロキシル基を含有せず、安定性が高く、1分子中に無機材料と結合可能な加水分解性シリル基と光重合開始基を有する有機ケイ素化合物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、遊離のヒドロキシル基を含有せず、1分子中に無機材料と結合可能な加水分解性シリル基と光重合開始基を有する下記有機ケイ素化合物及びその製造方法、並びに光重合性組成物及び無機材料を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
【化1】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物。
請求項2:
7がハロゲン原子又は炭素数1〜2のアルコキシル基であり、kが0である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
請求項3:
下記一般式(2)
【化2】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基である。kは0〜10の整数である。)
と下記一般式(3)
【化3】

(R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。nは0〜2の整数である。)
を反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化4】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物の製造方法。
請求項4:
請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物の少なくとも1種類とエチレン性不飽和結合を有する化合物を少なくとも1種類を含有する光重合性組成物。
請求項5:
請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物を用いて表面処理された無機材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の新規な有機ケイ素化合物は、遊離のヒドロキシル基を含有せず、安定性が高く、無機材料と共有結合可能な加水分解性シリル基を含有し、硬化後も黄変、不快臭がない、光重合開始基を有する有機ケイ素化合物として非常に有用である。また、本発明の製造方法により、上記化合物を簡便な工程で、高収率、高純度に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で示されるものである。
【化5】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
【0012】
この有機ケイ素化合物は、下記一般式(2)
【化6】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基である。kは0〜10の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物と、下記一般式(3)
【化7】

(R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。nは0〜2の整数である。)
を反応させることで製造できる。
【0013】
上記一般式(1)、(2)、(3)中、R1及びR2は炭素数1〜10、好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜2の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基等の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基といった非環状又は環状脂肪族1価炭化水素基、ベンジル基、フェネチル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基等のアラルキル基、アラアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基のようなアリール基、3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル基等の含フッ素アルキル基等が挙げられる。R1とR2が結合して環をなした場合は、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0014】
3及びR4は炭素数1〜10、好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜2の置換又は非置換の1価炭化水素基であり、また、各々同一又は異なっていてもよい。具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基等の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基といった非環状又は環状脂肪族1価炭化水素基、ベンジル基、フェネチル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基等のアラルキル基、アラアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基のようなアリール基、3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル基等の含フッ素アルキル基等が挙げられる。
【0015】
kは0〜10の整数であり、好ましくは0〜2、更に好ましくは0である。
5は水素原子又はメチル基である。
5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。
6はR3と同様である。
7はハロゲン原子又は炭素数1〜6、好ましくは1〜2のアルコキシル基である。具体的には、塩素、臭素、フッ素、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
nは0〜2の整数である。
【0016】
また、上記一般式(2)で表される有機ケイ素化合物は、下記一般式(4)
【化8】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。)
で表されるα−ヒドロキシアルキルフェノンと下記一般式(5)
【化9】

(R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、又はアシロキシ基である。kは0〜10の整数である。)
で表されるシランを反応させることで製造できる。
【0017】
上記一般式(4)、(5)中、R1〜R4及びkの具体例は上記の通りである。
また、上記一般式(5)中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、又はアシロキシ基である。具体的には、塩素、臭素、フッ素、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、アセトキシ基等が挙げられる。
【0018】
更に、本発明の有機ケイ素化合物の製造方法について詳述すると、上記一般式(2)の製造方法である、上記一般式(4)で表される化合物と上記一般式(5)で表されるシランの反応は、一般式(4)の化合物に対し、一般式(5)のシランを等モルもしくは過剰に使用して反応を行うことが好ましい。一般式(5)のシランが少なすぎると反応速度が遅くなったり、未反応物の除去に時間を要する場合がある。
【0019】
本反応は、通常、有機溶媒中で行われ、このような有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、Xがハロゲン原子の場合は、脱塩酸反応であり、アミンにより塩酸をアンモニウム塩としてトラップすることが好ましい。アミンとしては、公知のアミンを用いることができ、例えば、トリエチルアミン等が挙げられる。アミンの使用量は、クロロシラン1モルに対し、通常1.0〜1.5モルである。生成したアンモニウム塩は、公知の方法で除去できる。例えば、ろ過、分液、デカンテーション等が挙げられる。Xがアルコキシ基、アシロキシ基の場合は、対応する生成物を留去しながら反応を行うのが好ましい。
本反応は、通常、遮光して行われ、反応温度は特に限定されないが、0〜100℃、好ましくは0〜60℃で行えばよい。反応時間も特に限定されない。
【0020】
上記一般式(1)の有機ケイ素化合物の製造方法である、上記一般式(2)で表される化合物と上記一般式(3)で表されるヒドリドシランの反応は、公知のヒドロシリル化法によって行うことができる。
上記一般式(2)の化合物1モルに対し、上記一般式(3)のヒドリドシランを0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.2モル使用して反応を行うことが好ましい。
【0021】
また、上記反応で用いられる白金触媒としては、具体的には塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン又はキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金等が例示される。
【0022】
白金触媒の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、上記一般式(1)の化合物1モルに対し、0.000001〜0.01モル、特に0.00001〜0.001モルの範囲が好ましい。
【0023】
上記ヒドロシリル化反応は、通常、遮光して行い、反応温度は特に限定されないが、0〜150℃、特に20〜100℃が好ましい。反応時間も特に限定されないが、1〜20時間、特に1〜10時間が好ましい。
【0024】
本発明の製造方法による有機ケイ素化合物は、その目的品質に応じて、蒸留、ろ過、洗浄、カラム分離、固体吸着剤等の各種の精製法によって更に精製して使用することもできる。触媒等微量不純物を取り除き、高純度にするためには、蒸留による精製が好ましい。
【0025】
本発明において、本発明の式(1)の有機ケイ素化合物は光重合開始剤として用いることができ、これとエチレン性不飽和結合を有する化合物とを混合することで、光重合性組成物を製造することができる。エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これら単量体は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。これらエチレン性不飽和結合を有する化合物を光重合させる際に、少量の多官能基を有する架橋剤を存在させるのが好ましい。
【0026】
なお、(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エポキシ変性シリコーン系化合物、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコーン樹脂(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
本発明の有機ケイ素化合物は、既存の光重合開始剤、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエーテル類、置換アセトフェノン類、ベンジルケタール類、オキシム誘導体、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、キサンテート類、有機過酸化物等と組み合わせて使用することもできる。また、インク等で使用される顔料や塗料を含むこともできる。
【0028】
本発明の有機ケイ素化合物の光重合性組成物中の配合量は、特に制限はないものの、通常、上記エチレン性不飽和基を有する化合物100質量部に対し、0.1〜10質量部、更に好ましくは、0.1〜5質量部含まれればよい。
【0029】
本発明の有機ケイ素化合物の他に、重合促進剤を用いることもできる。重合促進剤としては、好ましくは、3級アミン、トリアルキルホスフィン、2級アルコール及びチオールを用いることができる。
【0030】
光重合は、好ましくは紫外線光を本発明の有機ケイ素化合物を含有する光重合性組成物に照射することで開始することができる。好適には、250〜500nm、更に好ましくは300〜400nmの波長の紫外線光を照射することで光重合できる。照射源としては、太陽光、高圧、中圧、低圧水銀ランプ、キセノンランプ及びタングステンランプ等が使用できる。
【0031】
本発明の上記式(1)の有機ケイ素化合物は、無機微粒子、金属シリコン(シリコンウエハー等)、マイカ、ステンレススチール、アルミニウム、セラミックス、セメント、紙、ガラス、プラスチック、無機窯業系基板、布帛等の表面に対するシランカップリング剤処理に用いることができる。この場合、これら基材のOH基が式(1)の有機ケイ素化合物の加水分解性シリル基と反応する。カップリング剤処理の方法(表面処理方法)としては、公知の方法が用いられる。具体的には、乾式法と湿式法とがある。
乾式法としては、(1)溶剤を用いずに粉体とカップリング剤を撹拌、混合する方法と、(2)少量の溶剤にカップリング剤を溶解させたものを粉体と共に撹拌、混合する方法が挙げられる。
一方、湿式法としては、多量の溶剤にカップリング剤を溶解させたものと粉体とのスラリーを形成させた後、溶剤留去する方法が挙げられる。
【0032】
無機微粒子の例は、SiO2、Al23、MgO、MgCl2、ZrO2、TiO2、B23、CaO、ZnO、BaO、V25、Cr23、及びThOであり、これらを含む混合物であってもよい。これらの原子の複合酸化物、例えばSiO2−MgO、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、SiO2−V25、SiO2−Cr23、SiO2−TiO2−MgO等であってもよい。更に、公知の磁性体、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の金属及びこれらの合金、Fe34、γ−Fe23、コバルト添加酸化鉄等の金属酸化物、Mn・Znフェライト、Ni・Znフェライト等のフェライト、マグネタイト、ヘマタイト等も無機微粒子として使用することができる。なお、本発明の有機ケイ素化合物をシランカップリング剤として用いる対象は、これらの例に限定されない。
【0033】
本発明の有機ケイ素化合物を用いて処理した無機微粒子等の固体表面は、エチレン性不飽和結合を有する化合物の光重合開始剤にすることができる。例えば、本発明の有機ケイ素化合物を用いて処理した無機微粒子からエチレン性不飽和結合を有する化合物を重合することにより、相当するポリマーが表面に高密度にグラフトされた無機微粒子を得ることができる。また、この方法によって得られた無機微粒子は、相当するポリマーが微粒子表面とシロキサン結合によって強固に固定化されているため、ポリマーの無機表面からの脱離が著しく抑制されるといった利点も更に有する。無機微粒子以外の表面、例えばシリコンウエハーやガラス等に本発明のケイ素化合物を処理することで、高密度に表面グラフトされたシリコンウエハーやガラスを得ることができる。この方法により、シリコンウエハーやガラスとは全く異なる表面特性、たとえば屈折率、誘電率、表面自由エネルギー等の特性を付与することが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0035】
[実施例1]
ジムロート式冷却凝縮器、撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた褐色四つ口フラスコを十分窒素置換した。2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン55g(0.33モル)、トルエン110g、トリエチルアミン41g(0.40モル)を仕込み、ビニルジメチルクロロシラン41g(0.34モル)をゆっくりと滴下した。反応液を60℃で熟成した後、水洗し、有機相を蒸留し、沸点108〜109℃/0.4kPaの液状の留分を70g得た。留分の純度は99質量%(ガスクロマトグラフィー)以上であり、その質量より、収率は2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノンに対して85%であった。
得られた上記留分のガスマス(GC−MS)スペクトル、赤外線吸収(IR)スペクトル及びプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルの測定結果は以下に示す通りであり、これらの結果から、得られた上記留分は下記式(6)で示される化合物であると同定された。
【0036】
【化10】

・GC−MSスペクトル(m/e)
分子量:248
233:(M−CH3+
143:(M−C65C=O)+
105:(C65C=O)+
85:((CH32SiCH=CH2+
・IRスペクトル
図1に示す。
1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3
図2に示す。
【0037】
[実施例2]
ジムロート式冷却凝縮器、撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた褐色四つ口フラスコを十分窒素置換した。実施例1で得られた上記式(6)の化合物61g(0.25モル)及び塩素を排した白金と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子含有率3質量%)0.16g(上記式(6)の化合物1モル当たり1.0×10-4倍モルの白金原子を含む)を仕込み、反応液を65±5℃に保ちながらトリメトキシシラン30g(0.25モル)を4時間で滴下した。滴下終了後、反応液を60℃で4時間熟成した。反応液を蒸留し、沸点135〜137℃/0.1kPaの液状の留分を75g得た。留分の純度は付加異性体の混合物として99質量%以上(ガスクロマトグラフィー)であり、その質量より、収率は上記式(6)の化合物に対して83%であった。
得られた上記留分のガスマス(GC−MS)スペクトル、赤外線吸収(IR)スペクトル及びプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルの測定結果は以下に示す通りであり、これらの結果から、得られた上記留分は下記式(7)と下記式(8)で示される化合物の混合物であると同定され、そのモル比は92:8であった。
【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

・GC−MSスペクトル(m/e)
分子量:370
355:(M−CH3+
221:(M−CH2CH2Si(OCH33+
207:((CH32SiCH2CH2Si(OCH33+
105:(C65C=O)+
・IRスペクトル
図3に示す。
1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3
図4に示す。
【0040】
[実施例3]
ジムロート式冷却凝縮器、撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた褐色四つ口フラスコを十分窒素置換した。実施例1で得られた上記式(6)の化合物50g(0.20モル)及び塩素を排した白金と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子含有率3質量%)0.13g(上記式(6)の化合物1モル当たり1.0×10-4倍モルの白金原子を含む)を仕込み、反応液を70±5℃に保ちながらメチルジエトキシシラン27g(0.20モル)を4時間で滴下した。滴下終了後、反応液を70℃で2時間熟成した。反応液を蒸留し、沸点137〜141℃/0.06kPaの液状の留分を58g得た。留分の純度は付加異性体の混合物として99質量%(ガスクロマトグラフィー)以上であり、その質量より、収率は上記式(6)の化合物に対して76%であった。
得られた上記留分のガスマス(GC−MS)スペクトル、赤外線吸収(IR)スペクトル及びプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルの測定結果は以下に示す通りであり、これらの結果から、得られた上記留分は下記式(9)と下記式(10)で示される化合物の混合物であると同定され、そのモル比は96:4であった。
【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

・GC−MSスペクトル(m/e)
分子量:382
367:(M−CH3+
337:(M−OCH2CH3+
219:((CH32SiCH2CH2Si(CH3)(OCH2CH32+
・IRスペクトル
図5に示す。
1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3
図6に示す。
【0043】
[実施例4]
実施例2において合成した有機ケイ素化合物3質量部を、トリメチロールプロパントリアクリレート100質量部に均一に混合し、光重合性組成物を得た。得られた光重合組成物をスライドグラス上にキャストし、紫外線照射装置(エドモンド・オプティクス社製)を用いて、各々7cmの距離を置いた4個のランプ(出力26mW/cm2)の下、30〜180秒照射することで無色透明な硬化物を得た。
【0044】
[実施例5]
実施例3において合成した有機ケイ素化合物3質量部を用いた以外は実施例3と同様にすることで、光重合性組成物を得た。また、得られた光重合組成物を実施例3と同様に紫外線照射により重合することで、硬化物を得た。得られた硬化物は無色透明で、不快臭もなかった。
【0045】
[実施例6]
エタノール66g、0.3%酢酸水20gの混合液を激しく撹拌しながら、実施例2で得られた有機ケイ素化合物5.5gを加え、30分室温で撹拌した後、ガラス板を2時間浸漬した。次いで、窒素雰囲気下において70℃で2時間乾燥することで、有機ケイ素化合物処理ガラスが得られた。
【0046】
[実施例7]
実施例6で得られた有機ケイ素化合物処理ガラス上にトリメチロールプロパントリアクリレートをキャストし、紫外線照射装置(エドモンド・オプティクス社製)を用いて、各々7cmの距離を置いた4個のランプ(出力26mW/cm2)の下、180〜540秒照射し、アセトンで洗浄することで、ガラス上に極めて強固に接着した硬化物が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図2】実施例1で得られた化合物の1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3)を示す。
【図3】実施例2で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図4】実施例2で得られた化合物の1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3)を示す。
【図5】実施例3で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図6】実施例3で得られた化合物の1H−NMRスペクトル(溶媒CDCl3)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物。
【請求項2】
7がハロゲン原子又は炭素数1〜2のアルコキシル基であり、kが0である請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)
【化2】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基である。kは0〜10の整数である。)
と下記一般式(3)
【化3】

(R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。nは0〜2の整数である。)
を反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化4】

(R1及びR2は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であるか、又はR1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に炭素数4〜8の脂環をなしてもよく、また、各々同一又は異なっていてもよい。R3及びR4は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R5は水素原子又はメチル基である。R6は炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であって、各々同一又は異なっていてもよい。R7はハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシル基である。kは0〜10の整数である。R5が水素原子の時にmは1、R5がメチル基の時にmは0である。nは0〜2の整数である。)
で表される有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物の少なくとも1種類とエチレン性不飽和結合を有する化合物を少なくとも1種類を含有する光重合性組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物を用いて表面処理された無機材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255062(P2008−255062A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100662(P2007−100662)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】