説明

有機光電変換素子アレイおよびこれを用いたイメージセンサ

【課題】有機光電変換素子間でのクロストークを抑え易い有機光電変換素子アレイおよびこれを用いたイメージセンサを提供すること。
【解決手段】基板1と、該基板1上に配置された複数の有機光電変換素子6とを備えた有機光電変換素子アレイA1を作製するにあたり、複数の有機光電変換素子6の各々は、基板1上に配置された第一電極2と、該第一電極2上に配置された光電変換層3と、該光電変換層3上に配置された第二電極4と、光電変換層3と第一電極2または第二電極4との間に配置されたバッファ層5とを有する構成とし、かつ個々の有機光電変換素子6におけるバッファ層5および光電変換層3のうちの少なくとも一方を有機光電変換素子6毎に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料によるpn接合等を利用して光を電気に変換する有機光電変換素子アレイおよびこれを用いたイメージセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機半導体材料を用いた無機光電変換素子は、使用時に排出物等がないクリーンなデバイスであり、デジタルカメラやスキャナーをはじめとする各種のイメージセンサや太陽電池等、多種多様な製品に応用されている。しかしながら、無機光電変換素子では、その製造に大きなエネルギーを必要とすることや、廃棄したときの環境負荷が大きいことが問題となっており、これらの問題の解決が急務となっている。
【0003】
このような状況の中で、廃棄したときの環境負荷が小さい、製造コストが低い、大面積化が容易である等の理由から、有機半導体材料を用いた有機光電変換素子が注目されはじめており、実用化にむけて開発が進められている。
【0004】
例えば(特許文献1)には、ドナーとしての共役重合体層に受容体層を近接配置することで構成されたヘテロ接合デバイス(pnヘテロ接合ダイオード)が記載されている。また、(非特許文献1)には、有機光電変換素子を用いたセンサが記載されている。
【0005】
有機光電変換素子は、有機半導体材料によるpn接合等を利用して光を電気に変換する。図7に概略的に示すように、その基本構造は基板10上に第一電極11、バッファ層12、光電変換層13、および第二電極14をこの順番で積層した構造であり、光電変換層13は電子供与性材料層15と電子受容性材料層16とを含んでいる。この有機光電変換素子に光が入射すると、光電変換層13で光吸収が生じて電子−正孔対(励起子)が形成される。該電子−正孔対は極短時間で電子と正孔とに分離し、電子は電子受容性材料層16を通して第二電極(陰極)14に、また正孔は電子供与性材料層15を通して第一電極(陽極)11にそれぞれ移動する。これにより両電極11,14間に起電力が発生する。これらの電極11,14を外部回路に接続することにより、有機光電変換素子への入射光のエネルギー量に応じた大きさの電力を取り出すことが可能となる。
【0006】
このような光電現象は、電子親和力やイオン化ポテンシャルが互いに異なる材料同士が接触する界面で起こり易く、高効率の有機光電変換素子を作製するためには、上記電子親和力等が互いに異なる複数の材料をより広い界面で接触させることが必要となる。また、電子−正孔対から発生したキャリア(電子および正孔)を有効利用するという観点から、一旦分離した電子と正孔とが再結合せずに効率よく各電極に輸送されるように構成することが望ましい。さらに、キャリアが欠陥準位等にトラップされたり、リーク電流が生じたりしないように、光電変換層における欠陥を少なくすることが重要である。
【0007】
このような種々の要求に応じるべく、有機光電変換素子の研究開発は材料面およびプロセス面の両面から鋭意検討されており、現在、色素増感方式のものでは10%程度のエネルギー変換効率を得るに至っている。また、固体薄膜方式のものでも、キャリアの分離効率を向上させることによって5%というエネルギー変換効率を得るに至っている。
【特許文献1】特表平8−500701号公報
【非特許文献1】G. Yu, Y. Cao, J. Wang, J. McElvain and A. J. Heeger, Synth. Met. 102, 904(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機光電変換素子の大きな特徴はその製造プロセスの簡便性にあり、バッファ層や光電変換層は一般にスピンコート法やディップ法等のウェットプロセスによって形成される。そのため、1つの基板上に複数の有機光電変換素子を形成する場合でもこれらの層にはパターニング等が施されておらず、基板上で一様につながっている。
【0009】
このような構成であっても、太陽電池のように有機光電変換素子が大面積のものであってもよい用途であれば別段問題はないが、イメージセンサの画素として用いるような場合には、隣り合う有機光電変換素子間でバッファ層や光電変換層を介してキャリアの移動が起こり、クロストークの発生を招いていた。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、有機光電変換素子間でのクロストークを抑え易い有機光電変換素子アレイおよびこれを用いたイメージセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本発明の有機光電変換素子アレイは、基板と、該基板上に配置された複数の有機光電変換素子とを備えた有機光電変換素子アレイであって、複数の有機光電変換素子の各々は、基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、光電変換層と第一電極または第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とする。
【0012】
また、上記の目的を達成する本発明のイメージセンサは、基板上に複数の有機光電変換素子が配置された有機光電変換素子アレイと、複数の有機光電変換素子の各々から電気信号を読み出す信号読み出し手段とを具備するイメージセンサであって、複数の有機光電変換素子の各々は、基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、光電変換層と第一電極または第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機光電変換素子アレイでは、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方が有機光電変換素子毎に分離されているので、有機光電変換素子間でのキャリアの移動が抑制される。したがって、本発明によれば、有機光電変換素子間でのクロストークを抑え易い有機光電変換素子アレイを得ることができ、結果として、高品質の画像データを得易いイメージセンサを安価に提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第1の発明の有機光電変換素子アレイは、基板と、該基板上に配置された複数の有機光電変換素子とを備えた有機光電変換素子アレイであって、複数の有機光電変換素子の各々は、基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、光電変換層と第一電極または第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とする。
【0015】
この有機光電変換素子アレイでは、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方が有機光電変換素子毎に分離されているので、有機光電変換素子間でのキャリアの移動が抑制され、結果として、有機光電変換素子間でのクロストークを抑えることが容易になる。
【0016】
第2の発明の有機光電変換素子アレイは、互いに近接する有機光電変換素子同士の間に配置されて、バッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方を有機光電変換素子毎に分離する電気絶縁部を更に有することを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方が上記の電気絶縁部により有機光電変換素子毎に分離されるので、有機光電変換素子間でのキャリアの移動がより確実に抑制され、結果として、有機光電変換素子間でのクロストークを抑えることが更に容易になる。
【0017】
第3の発明の有機光電変換素子アレイは、上記の電気絶縁部の厚さは、有機光電変換素子の厚さよりも薄いことを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、上記の電気絶縁部の厚さが有機光電変換素子の厚さよりも薄いので、スピンコート法やディップ法等のウェットプロセスによりバッファ層や光電変換層を形成した場合でも、電気絶縁部の周辺でバッファ層または光電変換層の膜質や膜厚が不均一になることが抑制される。
【0018】
第4の発明の有機光電変換素子アレイは、上記の電気絶縁部での溶剤のぬれ性は、溶剤がバッファ層および光電変換層のうちで有機光電変換素子毎に電気的に分離されている層に対する溶剤であるとき、有機光電変換素子毎に電気的に分離されている層に対する下地層での溶剤のぬれ性よりも低いことを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、電気絶縁部での溶剤のぬれ性が上述のように選定されているので、スピンコート法やディップ法等のウェットプロセスによりバッファ層や光電変換層を形成するにあって選択的な塗工を施さずに全面に塗工しても、所望箇所にバッファ層または光電変換層を形成することができる。したがって、その製造が容易である。
【0019】
第5の発明の有機光電変換素子アレイは、上記の電気絶縁部の表面は、バッファ層および光電変換層のうちで有機光電変換素子毎に電気的に分離されている層に対する下地層の表面よりも撥水性に富むことを特徴とする。この有機光電変換素子アレイにおいても、上記第4の発明の有機光電変換素子アレイにおけるのと同様に、ウェットプロセスによりバッファ層や光電変換層を形成するにあって選択的な塗工を施さずに全面に塗工しても、所望箇所にバッファ層または光電変換層を形成することができる。したがって、その製造が容易である。
【0020】
第6の発明の有機光電変換素子アレイは、上記の電気絶縁部の吸収波長域は、光電変換層の吸収波長域と一部重複することを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、電気絶縁部が上述の光吸収特性を有しているので、個々の有機光電変換素子が1つの光電変換層における互いに別個の領域を自己の光電変換層とする構造にした場合でも、有機光電変換素子として設計した領域以外で光電変換が生じることが抑制される。また、或る有機光電変換素子に入射した光が該素子内で反射して隣の有機光電変換素子に入射し、ここで光電変換に寄与するということも抑制される。これらの結果として、光電変換により個々の有機光電変換素子に生じる電気信号の品質が向上する。
【0021】
第7の発明の有機光電変換素子アレイは、バッファ層は導電性高分子からなることを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、バッファ層が導電性高分子からなるので、該バッファ層をスピンコート法やディップ法等のウェットプロセスによって形成することができる。したがって、その製造が容易である。
【0022】
第8の発明の有機光電変換素子アレイは、バッファ層はポリエチレンジオキシチオフェンを含有していることを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、バッファ層がポリエチレンジオキシチオフェンを含有しているので、光電変換効率の高い有機光電変換素子を得ることが容易である。また、ポリエチレンジオキシチオフェンの水分散液を用いたウェットプロセスによりバッファ層を形成するようにすれば、その製造が容易になる。
【0023】
第9の発明の有機光電変換素子アレイは、光電変換層は、少なくとも1種の電子供与性高分子材料と少なくとも1種の電子受容性材料とを含有していることを特徴とする。この有機光電変換素子アレイでは、光電変換層が上述の材料を含有しているので、当該光電変換層をスピンコート法やディップ法等のウェットプロセスによって形成することができる。したがって、その製造が容易である。
【0024】
第10の発明のイメージセンサは、基板上に複数の有機光電変換素子が配置された有機光電変換素子アレイと、複数の有機光電変換素子の各々から電気信号を読み出す信号読み出し手段とを具備するイメージセンサであって、複数の有機光電変換素子の各々は、基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、光電変換層と第一電極または第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とする。
【0025】
このイメージセンサでは、該イメージセンサを構成する個々の有機光電変換素子でのバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方が有機光電変換素子毎に分離されているので、有機光電変換素子間でのキャリアの移動が抑制され、結果として、有機光電変換素子間でのクロストークを抑えることが容易である。このため、高品質の画像データを容易に得ることができ、変調振幅関数(MTF)が高いイメージセンサを構成することも容易である。
【0026】
以下、本発明の有機光電変換素子アレイおよびイメージセンサそれぞれの実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の有機光電変換素子アレイの一例を概略的に示す断面図である。同図において、1は基板、2は第一電極、3は光電変換層、4は第二電極、5はバッファ層、6は有機光電変換素子、A1は有機光電変換素子アレイである。
【0028】
図1に示す有機光電変換素子アレイA1では、基板1上に複数の有機光電変換素子6が形成されており、個々の有機光電変換素子6は、基板1上に配置された第一電極2と、該第一電極2の上方に配置された光電変換層3と、該光電変換層3上に形成された第二電極4と、光電変換層3と第一電極2との間に配置されたバッファ層5とによって構成されている。そして、個々の有機光電変換素子6における第一電極2、バッファ層5、光電変換層3、および第二電極4は、いずれも、有機光電変換素子6毎に分離されている。
【0029】
例えば基板1側から各有機光電変換素子6に光が入射すると、光電変換層3で光吸収が生じて電子−正孔対(励起子)が形成される。この電子−正孔対は極短時間で電子と正孔とに分離し、電子は光電変換層3から第二電極(陰極)4へと、また正孔は光電変換層3からバッファ層5を介して第一電極(陽極)2へとそれぞれ移動する。これにより両電極2,4間に起電力が発生する。第一電極2および第二電極4の各々を外部回路に接続することにより、有機光電変換素子6への入射光のエネルギー量に応じた大きさの電気信号を読み出すことができる。各有機光電変換素子6を外部回路に簡便に接続するために、各第一電極2および各第二電極4の各々には読み出し配線が接続される。
【0030】
これらの読み出し配線は、例えば図2に示すように、第一電極2に接続される第一読み出し配線W1の引き出し方向と第二電極4に接続される第二読み出し配線W2の引き出し方向とが互いに異なる方向となるように配置される。第一読み出し配線W1は、例えば第一電極2の形成時に該第一電極2と一緒に同じ材料から形成することもできるし、第一電極2の材料とは異なる材料から形成することもできる。第二読み出し配線W2についても同様である。なお、図2に示した構成部材のうちで図1に示した構成部材と共通するものについては、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0031】
上述した構成を有する有機光電変換素子アレイA1では、個々の有機光電変換素子6における第一電極2、バッファ層5、光電変換層3、および第二電極4のいずれもが有機光電変換素子6毎に分離されているので、光電変換により個々の有機光電変換素子6内に生じたキャリアは、他の有機光電変換素子6へ移動することができない。このため、有機光電変換素子アレイA1では有機光電変換素子6間でのクロストークを抑え易い。結果として、個々の有機光電変換素子6への入射光のエネルギー量に応じた大きさの電気信号を各有機光電変換素子6から読み出し易い。
【0032】
このような技術的効果を奏する有機光電変換素子アレイA1は、例えば次にようにして製造することができる。以下、図1または図2で用いた参照符号を適宜引用しつつ、有機光電変換素子アレイA1の製造方法の一例を説明する。
【0033】
まず、基板1上に所望数の第一電極2を所定のパターンで形成する。このとき、基板1としては、機械的、熱的強度を有する種々の材質の基板を用いることができる。例えば、(1)ガラス、(2)ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリ弗化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート、非晶質ポリオレフィン、フッ素系樹脂等の高分子材料、(3)アルミニウム(Al)、金(Au)、クロム(Cr)、銅(Cu)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)等の金属、または(4)Mg−銀(Ag)合金、Mg−In合金等のMg合金や、Al−リチウム(Li)合金、Al−ストロンチウム(Sr)合金、Al−バリウム(Ba)合金等のAl合金等の合金を、支持基板1の材料として用いることができる。
【0034】
また、上記の材料をフィルム化ないしシート化したフレキシブル基板や、2種以上の基板ないし基板材用を張り合わせた複合基板を用いることも有効である。基板1は電気絶縁性を有していることが好ましいが、有機光電変換素子アレイA1の動作を妨げない範囲で、あるいは有機光電変換素子アレイA1の用途によっては、導電性を有しているかまたは導電性の領域を含んでいてもよい。
【0035】
第一電極2は、例えば、スパッタリング法等の物理的気相蒸着法(PVD法)によって基板1上に金属酸化物膜、金属膜、合金膜、または導電性高分子膜を成膜し、この膜をリソグラフィー法(フォトリソグラフィー法、電子線リソグラフィー法等)とエッチング法とを組み合わせて所望形状にパターニングすることで得られる。所定形状の蒸着マスクを用いたPVD法により直接形成することも可能である。また、リフトオフ法を利用して所定形状の第一電極2を形成することも可能である。
【0036】
上記の金属酸化物膜としては、インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等からなる膜を用いることができ、上記の金属膜としては、アルミニウム(Al)、金(Au)、クロム(Cr)、銅(Cu)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、チタン(Ti)等からなる膜を用いることができる。また、上記の合金膜としては、Mg−Ag合金、Mg−In合金等のMg合金や、Al−Li合金、Al−Sr合金、Al−Ba合金等のAl合金等からなる膜を用いることができる。そして、上記の導電性高分子膜としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレン等からなる膜を用いることができる。例えば塗布型ITOのように導電性が比較的低い材料を用いる場合には、必要に応じて、第一電極2における一領域を導電性の高い材料によって形成するようにしてもよい。
【0037】
上述のようにして第一電極2を形成した後、各第一電極2上にバッファ層5、光電変換層3、および第二電極4をこの順番で積層することにより、有機光電変換素子アレイA1が得られる。
【0038】
上記のバッファ層5は、有機光電変換素子6の内部の直列抵抗を下げるためのものであり、当該バッファ層5の材料としては、例えばモリブデン酸化物をはじめとする無機金属の酸化物や、無機金属の弗化物、無機金属の窒化物、あるいはポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やバソクプロイン等の有機半導体が用いられる。
【0039】
バッファ層5は、例えば、その元となる層をPVD法や化学的気相蒸着法(CVD法)により形成した後に、この層をリソグラフィー法(フォトリソグラフィー法、電子線リソグラフィー法等)とエッチング法とを組み合わせて所望形状にパターニングすることで得られる。また、上記の層をレーザエッチングにより所望形状にパターニングすることでも得られる。さらには、バッファ層5の原材料となる溶液、分散液、インク、ペースト等をスピンコート法、ディップ法、印刷法、インクジェット法等のウェットプロセスにより所望形状に塗工した後に熱処理を施すことによっても得られる。有機光電変換素子6の特徴の1つである低コスト化を考えた場合、大掛かりな製造装置が不要なウェットプロセスでバッファ層5を形成することが好ましい。
【0040】
光電変換層3は、例えば、少なくとも1種の電子供与性材料と少なくとも1種の電子受容性材料とを含有した層により形成される。この光電変換層3は、使用する材料または原料や、当該光電変換層3の構成等に応じて真空蒸着法、スパッタリング法等の各種真空プロセスや、スピンコート法、ディップ法、インクジェット法、印刷法等のウェットプロセス等により形成することができる。必要に応じてレーザエッチングやリフトオフ法等を併用して、所定形状の光電変換層3を形成する。有機光電変換素子6の特徴の1つである低コスト化を考えた場合、大掛かりな製造装置が不要なウェットプロセスで光電変換層3を形成することが好ましい。
【0041】
上記の電子供与性材料としては、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体やその誘導体が用いられ、例えばポリ3−ヘキシルチオフェン等が好適に用いられる。また、高分子材料以外の材料、例えば(1)ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、(2)1,1−ビス(4−(ジ−p−トリルアミノ)フェニル)シクロヘキサン、4,4’,4”−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(p−トリル)−p−フェニレンジアミン、1−(N,N−ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)−2−2’−ジメチルトリフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−m−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール等の芳香族第三級アミン、および(3)4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−(4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル)スチルベン等のスチルベン化合物等を用いることもできる。
【0042】
さらには、トリアゾールおよびその誘導体、オキサジアゾールおよびその誘導体、イミダゾールおよびその誘導体、ポリアリールアルカンおよびその誘導体、ピラゾリンおよびその誘導体、ピラゾロンおよびその誘導体、フェニレンジアミンおよびその誘導体、アリールアミンおよびその誘導体、アミノ置換カルコンおよびその誘導体、オキサゾールおよびその誘導体、スチリルアントラセンおよびその誘導体、フルオレノンおよびその誘導体、ヒドラゾンおよびその誘導体、シラザンおよびその誘導体、ポリシラン系アニリン系共重合体、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポリ3−メチルチオフェン等も用いることができる。
【0043】
一方、光電変換層3を構成する電子受容性材料としては、上述した電子供与性材料と同様の低分子材料または高分子材料の他に、(i)C60やC70をはじめとするフラーレンおよびその誘導体([5,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル、[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル等)、(ii)カーボンナノチューブおよびその誘導体、(iii)1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン等のオキサジアゾールおよびその誘導体、(iv)アントラキノジメタンおよびその誘導体、(iv)ジフェニルキノンおよびその誘導体等が用いられる。
【0044】
第二電極4は、前述した第一電極2と同様の材料および方法により形成される。第一電極2および第二電極4のうちで有機光電変換素子6への入射光の光路に位置する電極については、材料または膜厚を適宜選定して透明電極とする。
【0045】
このようにして基板1上に第二電極4まで形成することにより複数の有機光電変換素子6が得られ、図1に示した有機光電変換素子アレイA1が得られる。
【0046】
(実施の形態2)
本発明の有機光電変換素子アレイにおいては、互いに近接する有機光電変換素子同士の間に電気絶縁部を配置して、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方を有機光電変換素子毎に分離してもよい。
【0047】
図3は、電気絶縁部を備えた有機光電変換素子アレイの一例を概略的に示す断面図である。同図に示す構成部材のうちで図1に示した構成部材と機能上共通するものについては、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図3に示す有機光電変換素子アレイA2では、互いに近接する有機光電変換素子6同士の間に電気絶縁部7が配置されている。この電気絶縁部7は基板1上に形成されており、その厚さは有機光電変換素子6の厚さよりも薄い。基板1を基準としたとき、電気絶縁部7の上面は光電変換層3の上面よりも上方に位置している。また、個々の有機光電変換素子6は、1つの電極膜4Aにおける互いに別個の領域を自己の第二電極4としている。
【0049】
上記の電気絶縁部7の材料としては、有機光電変換素子6間でのキャリアの移動を抑制可能な電気絶縁性を有する材料が用いられ、特に、機械的安定性および熱的安定性を有すると共に有機光電変換素子6の光電変換特性に影響を及ぼさない材料が好適に用いられる。例えばポリイミドをはじめとする各種有機高分子材料が好適に用いられる。
【0050】
また、バッファ層5や光電変換層3をウェットプロセスで形成する場合には、これらの層に対する溶剤のぬれ性、すなわち、これらの層の原料組成物に含有されている溶剤のぬれ性が電気絶縁部7上で小さく、バッファ層7に対する下地層である第一電極2上で大きくなるように、電気絶縁部7の材料を選定することが好ましい。例えば上記の溶剤が水や有機溶剤であるときには、第一電極2よりも撥水性に富む材料、例えば各種のシランやシリコン化合物、あるいはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等によって電気絶縁部7を形成することが好ましい。
【0051】
このような材料によって電気絶縁部7を形成すると、バッファ層5や光電変換層3をウェットプロセスで形成する際に上記の原料組成物を第一電極2上にのみ選択的に塗工するのではなく全面に塗工しても、当該原料組成物は電気絶縁部7に弾かれるので、有機光電変換素子6毎に分離されたバッファ層5および光電変換層3が形成される。すなわち、各バッファ層5や各光電変換層3を容易に形成することができる。
【0052】
電気絶縁部7を形成するにあたっては、その原材料に応じて、PVD法、CVD法、インクジェット法、印刷法等の所望の方法が適宜選定される。
【0053】
以上説明した有機光電変換素子アレイA2においては、個々の有機光電変換素子6におけるバッファ層5および光電変換層3の両方が有機光電変換素子6毎に分離されている。したがって、実施の形態1で説明した有機光電変換素子アレイA1におけるのと同様に、光電変換により個々の有機光電変換素子6内に生じたキャリアは、他の有機光電変換素子6へ移動することができない。このため、有機光電変換素子アレイA2においても有機光電変換素子6間でのクロストークを抑え易く、個々の有機光電変換素子6への入射光のエネルギー量に応じた大きさの電気信号を各有機光電変換素子6から読み出し易い。
【0054】
また、個々の有機光電変換素子6が1つの電極膜4Aにおける互いに別個の領域を自己の第二電極4としているので、第二電極4の形成が容易である。このような第二電極4の形成形態は、実施の形態1で説明した有機光電変換素子アレイA1(図1参照)においては第一電極2との短絡が生じるので採用が困難であるが、電気絶縁部7が配置されている有機光電変換素子アレイA2においては容易である。
【0055】
(実施の形態3)
図4は、電気絶縁部を備えた有機光電変換素子アレイの他の例を概略的に示す断面図である。同図においては、図3に示した構成部材と機能上共通する部材に図3で用いた参照符号と同じ参照符号を付してある。
【0056】
図4に示す有機光電変換素子アレイA3では、互いに近接する有機光電変換素子6同士の間に第一電極2と略同じ厚さを有する電気絶縁部7が配置され、当該電気絶縁部7により個々の有機光電変換素子6でのバッファ層5が有機光電変換素子6毎に分離されている。個々の有機光電変換素子6は、1つの光電変換膜3Aにおける互いに別個の領域を自己の光電変換層3としていると共に、1つの電極膜4Aにおける互いに別個の領域を自己の第二電極4としている。
【0057】
上記の電気絶縁部7はメサ状を呈し、上底よりも下底の方が長い台形状の垂直断面形状を有している。同様に、各第一電極2もメサ状を呈し、上底よりも下底の方が長い台形状の垂直断面形状を有している。このため、各第一電極2の上面と電気絶縁部7の上面とは互いに離隔して、ここに凹部が形成されている。各バッファ層5での電気絶縁部7側の端部は上記の凹部に位置している。
【0058】
例えば、電気絶縁部7はバッファ層5に対しての下地層である第一電極2よりも撥水性に富んだ材料により形成され、バッファ層5は水系溶剤に導電性高分子または有機半導体(例えばPEDOT)が溶解ないし分散した組成物を塗工し、熱処理を施すことにより形成される。電気絶縁部7が撥水性に富むことから、上記の組成物を塗工するにあたって各第一電極2上にのみ選択的に塗工するのではなく全面に塗工しても、当該組成物は電気絶縁部7に弾かれて各第一電極2上にのみ層を形成する。このとき、各第一電極2および電気絶縁部7が上述の形状を有していることから、上記の組成物をスピンコート法やディップ法等で塗工したときでも各第一電極2上での塗工量が略同じになる。このため、有機光電変換素子6毎に分離された略同じ厚さのバッファ層5を各第一電極2上に容易に形成することができる。
【0059】
上述した構成を有する有機光電変換素子アレイA3では、個々の有機光電変換素子6が1つの光電変換膜3Aにおける互いに別個の領域を自己の光電変換層3としてはいるものの、各有機光電変換素子6におけるバッファ層5は有機光電変換素子6毎に分離されているので、光電変換により個々の有機光電変換素子6内に生じたキャリアは他の有機光電変換素子6へ移動し難い。このため、有機光電変換素子アレイA3においても有機光電変換素子6間でのクロストークを抑え易く、個々の有機光電変換素子6への入射光のエネルギー量に応じた大きさの電気信号を各有機光電変換素子6から読み出し易い。
【0060】
(実施の形態4)
本発明の有機光電変換素子アレイのうちで互いに近接する有機光電変換素子同士の間に電気絶縁部が配置されたものにおいては、電気絶縁部の吸収波長域と光電変換層の吸収波長域とを一部重複させることができる。
【0061】
例えば、光電変換層での吸収波長域に応じて電気絶縁部の材料を適宜選定することにより、あるいは電気絶縁部の材料として所望の色材を適宜併用することにより、吸収波長域が光電変換層の吸収波長域と一部重複した電気絶縁部を形成することができる。
【0062】
有機光電変換素子アレイをこのように構成すると、実施の形態3で説明した有機光電変換素子アレイのように個々の有機光電変換素子が1つの光電変換膜における互いに別個の領域を自己の光電変換層としていても、基板側から当該有機光電変換素子アレイに入射した光のうちで光電変換に寄与する波長領域の光の一部が電気絶縁部によって吸収されるので、電気絶縁部上の光電変換膜での光電変換が抑えられる。また、個々の有機光電変換素子に入射した光のうち、素子内部で反射を繰り返して近接する他の有機光電変換素子側へと漏れる光(以下、「漏れ光」という。)を電気絶縁部によって吸収して、その光量を低減させることができる。
【0063】
これらの結果として、有機光電変換素子間でのクロストークが抑えられる他に、有機光電変換素子として設計した領域以外の領域でのキャリアの発生や、漏れ光に起因するキャリアの発生が抑えられ、光電変換により個々の有機光電変換素子に生じる電気信号の品質が向上する。
【0064】
(実施の形態5)
本発明の有機光電変換素子アレイにおいて有機光電変換素子を構成する光電変換層は、例えば有機材料の共蒸着等によりドライプロセスでも形成可能であるが、低コスト化のためには大掛かりな装置が不要なスピンコート法、インクジェット法、スプレー法等といったウェットプロセスで形成することが好ましい。
【0065】
この場合、光電変換層の材料の少なくとも一部に有機高分子材料を用いることが好ましい。そして、該有機高分子材料の溶液または分散液を用いたウェットプロセスにより光電変換層を形成する。有機高分子材料の溶液または分散液は、有機低分子材料の溶液または分散液に比べて粘度の調整が容易であるので、成膜後の膜厚の制御も容易になる。例えば有機高分子材料のみで光電変換層を形成すると、有機低分子材料を併用した場合に比べて熱安定性に優れた光電変換層を形成し易くなる。
【0066】
また、光電変換効率の高い有機光電変換素子を得るうえからは、光電変換層に少なくとも1種の電子供与性材料と少なくとも1種の電子受容性材料とを含有させることが好ましく、このような光電変換層をウェットプロセスで形成するにあたっては、電子供与性材料および電子受容性材料のうちの少なくとも1種を有機高分子材料とすることが特に好ましい。
【0067】
例えば図5に示す光電変換層3のように、電子供与性高分子材料8に電子受容性材料9が分散された層からなる光電変換層3は、ウェットプロセスにより容易に形成することができる。そして、電子供与性高分子材料8にフラーレン類やカーボンナノチューブ類等の電子受容性材料9を分散させた複合材料は、電子供与性高分子材料8と電子受容性材料9との間で非常に良好なpn接合を形成するので、光電変換層3の材料として好適である。特に、[5,6]−フェニルC61酪酸メチルエステルや[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル等のようにフラーレンを化学修飾した物質は、電子供与性高分子材料8に対する溶媒への分散性が良好であるので、電子受容性材料9が均一に分散された光電変換層3をウェットプロセスで得るうえで好適である。なお、図5に示した構成要素のうちで図1に示した構成要素と共通するものについては、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0068】
(実施の形態6)
本発明のイメージセンサは、基板上に複数の有機光電変換素子が配置された有機光電変換素子アレイと、複数の有機光電変換素子の各々から電気信号を読み出す信号読み出し手段とを具備するものであり、当該イメージセンサでの有機光電変換素子アレイは、本発明の有機光電変換素子アレイである。すなわち、この有機光電変換素子アレイにおける個々の有機光電変換素子は、基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、光電変換層と第一電極または第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、各有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されている。
【0069】
本発明のイメージセンサは、リニアイメージセンサであってもよいし、エリアイメージセンサであってもよい。本発明のイメージセンサをリニアイメージセンサとする場合には、基板上に1行多数列、3行多数列、または4行多数列に亘って有機光電変換素子が配列される。必要に応じて、基板上に2行多数列に亘って有機光電変換素子を配置することも可能である。また、本発明のイメージセンサをエリアイメージセンサとする場合には、基板上に多数行多数列に亘って有機光電変換素子が配列される。
【0070】
図6は、本発明のイメージセンサの一例を概略的に示す斜視図である。同図に示すイメージセンサSはリニアイメージセンサであり、基板1上に1行多数列に亘って有機光電変換素子6が配列されている。個々の有機光電変換素子は1つの光電変換膜3Aにおける互いに別個の領域を自己の光電変換層3としていると共に、1つの電極膜4Aにおける互いに別個の領域を自己の第二電極4としており、各有機光電変換素子6におけるバッファ層5は有機光電変換素子6毎に分離されている。互いに近接する有機光電変換素子6同士の間には電気絶縁部7aが配置されているが、該電気絶縁層7aは、個々の有機光電変換素子6におけるバッファ層5を有機光電変換素子6毎に分離することに直接関わってはいない。
【0071】
なお、図6においては、有機光電変換素子6の各々から電気信号を読み出す信号読み出し手段の図示を省略している。この信号読み出し手段は、例えば、所定の集積回路が形成された半導体チップ、および1つの第一電極2に1つずつ接続されて前記の半導体チップと各第一電極2とを結ぶ複数の読み出し配線とを含んで構成される。
【0072】
このような構成を有するイメージセンサSは、光源部および所定の光学系の各々と組み合わされて情報読み取り装置を構成する。この情報読み取り装置では、原稿等の読み取り対象物からの反射光や直接光が所定の光学系を介して基板1に入射した後に各有機光電変換素子6に入射する。これにより、入射光のエネルギー量に応じた大きさの電気信号が各有機光電変換素子6に生じる。そして、各有機光電変換素子6に生じた電気信号が読み出し配線を介して半導体チップ上の集積回路に伝えられ、ここで所定の画像データが生成される。
【0073】
既に説明したように、本発明の有機光電変換素子アレイでは有機光電変換素子間でのクロストークを容易に抑えることができるので、当該有機光電変換素子アレイを備えた本発明のイメージセンサでは高品質の画像データを容易に得ることができる。変調振幅関数(MTF)が高いイメージセンサ、すなわちコントラストの再現性が高いイメージセンサを構成することも容易である。
【0074】
以上、本発明の有機光電変換素子アレイおよびイメージセンサそれぞれの実施の形態について詳述したが、前述のように本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【0075】
例えば、実施の形態1〜6で説明した有機光電変換素子アレイまたはイメージセンサは、いずれも、基板側から入射した光により光電変換を行うことを前提としてのものであるが、基板とは反対側から入射した光により光電変換を行うことを前提として有機光電変換素子アレイまたはイメージセンサを構成することもできる。この場合、例えば図1に示した第一電極2および第二電極4それぞれの極性が反転し、第二電極4は透明電極とされる。
【0076】
バッファ層は、有機光電変換素子を構成する1対の電極(第一電極および第二電極)の少なくとも一方と光電変換層との間に介在していればよい。1対の電極のうちで正極として利用される電極と光電変換層との間にバッファ層を介在させる場合、当該バッファ層は、光電変換層を構成する電子受容性材料よりも高い仕事関数を有すると共に正極よりも低い仕事関数を有する物質により形成することが好ましい。また、1対の電極のうちで負極として利用される電極と光電変換層との間にバッファ層を介在させる場合、当該バッファ層は、光電変換層を構成する電子供与性材料よりも低い仕事関数を有すると共に負極よりも高い仕事関数を有する物質により形成することが好ましい。
【0077】
個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの一方のみを有機光電変換素子毎に電気的に分離する場合、バッファ層と光電変換層のどちらを分離するかは、これらの層の配置に応じて適宜選定可能である。例えば、光電変換層上にバッファ層が積層されている場合には、バッファ層を分離するよりも光電変換層を分離にした方が簡便である。
【0078】
互いに近接する有機光電変換素子同士の間に電気絶縁部を配置する場合、個々の有機光電変換素子における1対の電極のうちで基板側に位置する電極は、電気絶縁部に接していてもよいし、電気絶縁部から離隔してもよいし、電気絶縁部によって端部が部分的に覆われていてもよい。
【0079】
複数の有機光電変換素子を基板上に二次元(多数行多数列)に亘って配置する場合には、例えば所定数の読み出し配線が形成された多層配線基板(インターポーザー基板を含む。)上に各有機光電変換素子を配置する等、個々の有機光電変換素子および該有機光電変換素子に対する読み出し配線それぞれの配置に工夫が必要である。
【0080】
本発明の有機光電変換素子アレイおよびイメージセンサについては、上述した以外にも種々の変形、修飾、組合せなどが可能である。以下、本発明の具体的な内容について、実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0081】
まず、スパッタリング法によりガラス基板上に膜厚150nmのITO膜を成膜し、このITO膜上にレジスト材(東京応化製のOFPR−800(商品名))をスピンコート法により塗布して厚さ5μmのレジスト膜を形成した後、このレジスト膜に選択的な露光および現像を施して所定形状のレジストパターンを得た。そして、該レジストパターンまで形成したガラス基板を液温が60℃の18規定塩酸水溶液に浸潰してレジストパターンが形成されていない部分のITO膜をエッチングした後、純水によるリンス処理を施してから上記のレジストパターンを除去して、所定形状のITO膜からなる多数の第一電極(正極)を得た。
【0082】
次に、第一電極が形成されたガラス基板をアルカリ洗剤で洗浄し、乾燥させた後、第一電極が形成されている面上にフルオロアルキルシランからなる膜を成膜し、互いに近接する第一電極間にのみ残るように当該膜をパターニングした。これにより、互いに近接する第一電極間に撥水性の電気絶縁部が形成された。
【0083】
次いで、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の水分散液を調製し、電気絶縁部が形成されている面上に当該水分散液をスピンコートした後に200℃で10分間熱処理して、膜厚が約60nmのバッファ層を形成した。上記の水分散液は撥水性の電気絶縁部に弾かれてしまうため、バッファ層は電気絶縁膜が形成されていない領域にのみ形成された。
【0084】
続いて、電気供与性高分子材料として機能するポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(以下、「MEH−PPV」と略記する。)と電子受容性材料として機能する[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル(以下、「[6、6]−PCBM」と略記する。)とを1:4の重量比で含有するクロロベンゼン溶液をスピンコートし、100℃のクリーンオーブン中で30分間加熱処理することで厚さ約100nmの光電変換膜を形成した。この光電変換層は各バッファ層を覆っている。
【0085】
なお[6、6]−PCBMは化学修飾されたフラーレン類であり、MEH−PPVに対する溶媒であるクロロベンゼンに良好に分散するので、均質な光電変換層を形成するうえで好適である。また、電子受容性が非常に高いため、電子供与性高分子材料であるMEH−PPVとの間で効率よくキャリアの受渡しを行うことができ、これにより優れた光電変換効率を得ることができる。
【0086】
上述のようにして光電変換膜まで形成したガラス基板を抵抗加熱蒸着装置に入れ、0.27mPa(2×10-6Torr)以下の真空度となるまで減圧した後、光電変換膜上にアルミニウムからなる厚さ約100nmの電極膜を形成した。
【0087】
このようにして電極膜まで形成することにより、ガラス基板上には多数の有機光電変換素子が形成され、有機光電変換素子アレイが得られた。図4に示した有機光電変換素子アレイA3におけるのと同様に、各有機光電変換素子は上記の光電変換膜における互いに別個の領域を自己の光電変換層としていると共に、上記の電極膜における互いに別個の領域を自己の第二電極としており、各有機光電変換素子におけるバッファ層は電気絶縁部により有機光電変換素子毎に分離されている。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の有機光電変換素子アレイでは、個々の有機光電変換素子におけるバッファ層および光電変換層のうちの少なくとも一方が有機光電変換素子毎に分離されているので、有機光電変換素子同士の間でのキャリアの移動を抑制し易く、これによりクロストークも抑制し易いので、例えばイメージセンサにおける光電変換素子アレイとして用いることにより、高品質の画像データが得られイメージセンサを安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の有機光電変換素子アレイの一例を概略的に示す断面図
【図2】本発明の有機光電変換素子アレイにおける各有機光電変換素子を外部回路に接続するための読み出し配線の配置の一例を概略的に示す斜視図
【図3】本発明の有機光電変換素子アレイのうちで電気絶縁部を備えたものの一例を概略的に示す断面図
【図4】本発明の有機光電変換素子アレイのうちで電気絶縁部を備えたものの他の例を概略的に示す断面図
【図5】本発明の有機光電変換素子アレイを構成する光電変換層のうちで、電子供与性高分子材料に電子受容性材料が分散された層からなるものの一例を概略的に示す断面図
【図6】本発明のイメージセンサの一例を概略的に示す斜視図
【図7】有機光電変換素子の基本構造を概略的に示す断面図
【符号の説明】
【0090】
1 基板
2 第一電極
3 光電変換層
4 第二電極
5 バッファ層
6 有機光電変換素子
7 電気絶縁部
8 電子供与性高分子材料
9 電子受容性材料
1〜A4 有機光電変換素子アレイ
S イメージセンサ
1 第一読み出し配線
2 第二読み出し配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置された複数の有機光電変換素子とを備えた有機光電変換素子アレイであって、
前記複数の有機光電変換素子の各々は、前記基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、前記光電変換層と前記第一電極または前記第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、
個々の有機光電変換素子における前記バッファ層および前記光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とする有機光電変換素子アレイ。
【請求項2】
互いに近接する有機光電変換素子同士の間に配置されて、前記バッファ層および前記光電変換層のうちの少なくとも一方を有機光電変換素子毎に分離する電気絶縁部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項3】
前記電気絶縁部の厚さは、前記有機光電変換素子の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項2に記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項4】
前記電気絶縁部での溶剤のぬれ性は、前記溶剤が前記バッファ層および前記光電変換層のうちで有機光電変換素子毎に分離されている層に対する溶剤であるとき、前記有機光電変換素子毎に分離されている層に対する下地層での前記溶剤のぬれ性よりも低いことを特徴とする請求項2または3に記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項5】
前記電気絶縁部の表面は、前記バッファ層および前記光電変換層のうちで有機光電変換素子毎に分離されている層に対する下地層の表面よりも撥水性に富むことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項6】
前記電気絶縁部の吸収波長域は、前記光電変換層の吸収波長域と一部重複することを特徴とする前記請求項2〜5のいずれか1つに記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項7】
前記バッファ層は導電性高分子からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項8】
前記バッファ層はポリエチレンジオキシチオフェンを含有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項9】
前記光電変換層は、少なくとも1種の電子供与性高分子材料と少なくとも1種の電子受容性材料とを含有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の有機光電変換素子アレイ。
【請求項10】
基板上に複数の有機光電変換素子が配置された有機光電変換素子アレイと、前記複数の有機光電変換素子の各々から電気信号を読み出す信号読み出し手段とを具備するイメージセンサであって、
前記複数の有機光電変換素子の各々は、前記基板上に配置された第一電極と、該第一電極上に配置された光電変換層と、該光電変換層上に配置された第二電極と、前記光電変換層と前記第一電極または前記第二電極との間に配置されたバッファ層とを有し、
個々の有機光電変換素子における前記バッファ層および前記光電変換層のうちの少なくとも一方は有機光電変換素子毎に分離されていることを特徴とするイメージセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−53252(P2008−53252A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224876(P2006−224876)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】