説明

有機剤を含む前駆体から作製されるバルクNi−Mo−W触媒

炭化水素原料の水素処理で用いるための新規バルク三元金属触媒、並びに同触媒の調製方法。触媒は、有機剤を含む触媒前駆体から調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素原料の水素処理で用いるためのバルク三元金属触媒、並びに同触媒の調製方法に関する。触媒は、有機剤を含む触媒前駆体から調製される。
【背景技術】
【0002】
環境および規制の主導で、留出油燃料中の硫黄および窒素の両者については、常により低いレベルが求められている。例えば、欧州連合で2005年に販売される留出油燃料については、提案された硫黄限界は、50wppm以下である。また、炭化水素中の全芳香族のより低いレベルを要求するであろう規制、より詳しくは、留出油燃料およびより重質の炭化水素生成物中に見出される多環芳香族のレベルを引下げるための規制がある。更に、米国の路上ディーゼル、CARBの参照ディーゼル、およびスウェーデンのクラスIディーゼルに対する最大の許容可能な芳香族レベルは、それぞれ、35、10、および5体積%である。更に、CARBおよびスウェーデンのクラスIのディーゼル燃料規制は、それぞれ、ポリ芳香族1.4および0.02体積%超を認めない。従って、多くの検討が、現在、これらの提案された規制のために、水素化処理技術において為されている。
【0003】
水素化処理(または硫黄除去の場合には水素化脱硫)は、当該技術分野で周知であり、典型的には、石油ストリームを、水素を用いて、担持触媒の存在下に水素化処理条件で処理することを必要とする。触媒は、通常、第VI族金属を、助触媒としての一種以上の第VIII族金属と共に、耐火性担体(アルミナなど)上に担持してなる。水素化脱硫、並びに水素化脱窒素に対して特に適切である水素化処理触媒は、一般に、モリブデンまたはタングステン/アルミナを、コバルト、ニッケル、鉄、またはそれらの組合せなどの金属で助触されて含む。アルミナ担持コバルト助触モリブデン触媒は、限定規格が水素化脱硫である場合には、最も広く用いられる。アルミナ担持ニッケル助触モリブデン触媒は、水素化脱窒素、部分芳香族飽和、並びに水素化脱硫に対して最も広く用いられる。
【0004】
改良水素化処理触媒を調製するための一つの手法は、ハイドロタルサイトに構造的に同類であり、かつ親のモリブデン酸ニッケルアンモニウムから誘導される一群の相を含む。X線回折分析は、ハイドロタルサイトが、陽荷電されたシートを有する積層相、およびシート間の間隙に配置された交換可能アニオンからなることを示すものの、同類のモリブデン酸ニッケルアンモニウム相は、層間間隙中のモリブデン酸アニオンを、オキシ水酸化ニッケルのシートに結合して有する。例えば、非特許文献1を参照されたい。これらの物質の調製はまた、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5によって報告されている。
【0005】
他の比較的新しい種類の水素化処理触媒は、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載される。これは全て、本明細書に参照により援用される。これらの特許に記載される触媒は、少なくとも一種の第VIII族非貴金属(X)、および少なくとも二種の第VIB族金属からなるバルク多元金属触媒である。その際、第VIB族金属/第VIII族非貴金属の比は、10:1〜1:10である。これらの触媒は、次式
(X)(Mo)(W)
[式中、モル比b:(c+d)は0.5/1〜3/1であり、モル比c:dは>0.01/1、好ましくは>0.1/1であり、z=[2b+6(c+d)]/2である]
を有する前駆体から調製される。前駆体は、d=2.53および1.70ÅにX線回折ピークを有する。前駆体は、硫化されて、対応する活性化触媒が製造される。
【0006】
これらの触媒は、その時以前の水素化処理触媒より優れていることが示されたものの、ヘテロ原子(窒素および硫黄など)を炭化水素ストリームから除去するための一段とより反応性かつ効果的な触媒が依然として必要とされている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,156,695号明細書
【特許文献2】米国特許第6,162,350号明細書
【特許文献3】米国特許第6,299,760号明細書
【非特許文献1】Levin,D.、Soled,S.L.、およびYing,J.Y.著「化学沈殿によって調製されたモリブデン酸ニッケルアンモニウムの結晶構造」(Inorganic Chemistry、第35巻、第14号、第4191〜4197頁、1996年)
【非特許文献2】TeichnerおよびAstier著(Appl.Catal.、第72号、第321〜29頁、1991年)
【非特許文献3】TeichnerおよびAstier著(Ann.Chim.Fr.、第12号、第337〜43頁、1987年)
【非特許文献4】TeichnerおよびAstier著(C.R.Acad.Sci.304(II)、第11号、第563〜6頁、1987年)
【非特許文献5】Mazzocchia著「固体イオニクス(Solid State Ionics)」(第63〜65号、第731〜35頁、1993年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態においては、次式
(X)(Mo1−x[(CHCHN(CH
[式中、Xは一種以上の第VIII族非貴金属であり、dは10〜40の整数であり、xは0〜1であり、モル比e:aは≦2.0/1であり、z=((2a+6b)+e)/2であり、モル比a:(b)は0.5/1〜3/1である]
によって表されるバルク多元金属触媒組成物が提供される。前記触媒組成物は、スルフィド化後に、(Mo1−x)S化学量論組成の積重ね層からなり、そのために平均積重ね高さは、10Å〜20Åである。
【0009】
好ましい実施形態においては、モル比a:bは0.75/1〜1.5/1であり、dは16〜20、最も好ましくは18であり、eは0.5〜1.5である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態においては、xは、0.1〜0.9、より好ましくは0.5である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のバルク多元金属触媒組成物は、実質的に全ての水素処理プロセスで用いられて、多数の原料が、広範囲の反応条件下で処理されることができる。温度200℃〜450℃、水素圧5〜300バール(500〜30,000kPa)、液空間速度0.05〜10時−1、および水素処理ガス比35.6〜1780m/m(200〜10,000SCF/B)などである。用語「水素処理」には、炭化水素原料が、水素と、上記される温度および圧力で反応される全てのプロセスが包含され、これには、水素化脱金属、水素化脱ロウ、水素化処理、水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱芳香族、水素異性化、および水素化分解(選択的水素化分解を含む)が含まれる。水素処理のタイプおよび反応条件によって、水素処理の生成物は、向上された粘度、粘度指数、飽和分含有量、低温特性、揮発性、および減極性を示してもよい。本発明の水素処理は、一つ以上の反応域において、向流または並流方式のいずれかで行われることができることが理解されるべきである。向流方式とは、原料ストリームが、水素含有処理ガスの流れに向流して流れる処理方式を意味する。水素処理反応器はまた、任意の適切な触媒床配置の方式で運転されることができる。例えば、それは、固定床、スラリー床、または沸騰床であることができる。
【0012】
広範囲の石油および化学原料材が、本発明に従って水素処理されることができる。適切な原料材には、全および抜頭石油原油、常圧および減圧残油、プロパン脱瀝残油(例えばブライトストック)、サイクル油、FCC塔底油、軽油(常圧および減圧軽油およびコーカーガスオイルを含む)、軽質〜重質留出油(未処理の直留留出油を含む)、水素化分解油、水素化処理油、脱ロウ油、スラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、ラフィネート、ナフサ、およびそれらの混合物が含まれる。
【0013】
本発明は、一つ以上の段または域において行われることができる。一つの好ましい多段方法においては、高レベルの硫黄および窒素を含む留出油沸点範囲原料材は、第一の水素化脱硫反応段へ送られて、実質量の硫黄および窒素が除去されることができる。適切な原料は、硫黄3,000wppm超を含むものであり、典型的には、未処理の直留留出油である。生成物ストリームは、分離域に送られて、そこで気相生成物ストリームおよび液相生成物ストリームが製造される。液相生成物ストリームは、次いで、第二の独立に選択された水素化脱硫段(これはまた、一つ以上の反応域を含む)へ送られ、そこでそれは、更に、水素および第二の水素化脱硫触媒の存在下に水素化脱硫される。これは、典型的には、硫黄50〜600wppmを含む生成物ストリームをもたらすであろう。第二の水素化脱硫段からの生成物ストリームは、硫黄150wppm未満を含むことが好ましい。より好ましくは硫黄100wppm未満、最も好ましくは硫黄50wppm未満である。この二度水素化脱硫された生成物ストリームは、第三の反応段へ送られ、水素の存在下、かつ硫黄レベルを更に低減し、芳香族を水素添加することが可能な触媒の存在下に反応されるであろう。最終生成物ストリームの硫黄レベルは、10wppm未満、好ましくは5wppm未満であろう。より好ましくは硫黄1wppm未満である。この第三の反応段は、少なくとも一つの反応域を含むであろう。その少なくとも一つは、水素添加触媒、および任意に第三の独立に選択された水素化脱硫触媒(本発明のバルク多元金属触媒など)を含む。反応段のいずれか、またはその両方からの蒸気生成物ストリームの少なくとも一部が、第一の反応段へリサイクルされることができることは、本発明の範囲内である。
【0014】
少なくとも一つの反応段の少なくとも一つの反応域は、本発明のバルク多元金属触媒の少なくとも一つの床を含むであろう。例えば、第一の水素化脱硫段の反応器は、複数の反応域を、積重ね床配置で含むことができる。その際、従来の水素化脱硫触媒は、全てとは限らないが、一つ以上の反応域を構成し、本発明のバルク多元金属触媒は、他の一つ以上の反応域を構成する。従来の水素化脱硫触媒が、上流の反応域で用いられ、本発明の多元金属触媒が下流の反応域で用いられることが好ましい。この第一の水素化脱硫段の全ての反応域が、本発明のバルク多元金属触媒を含むことがより好ましい。
【0015】
本発明を実施するに際して、バルク多元金属触媒と共に用いられることができる従来の水素化処理触媒の限定しない例には、少なくとも一種の第VIII族金属(好ましくはFe、Co、またはNi、より好ましくはCoおよび/またはNi、最も好ましくはCo)、および少なくとも一種の第VI族金属(好ましくはMoまたはW、より好ましくはMo)を、比較的高表面積の担体物質(好ましくはアルミナ)上に担持してなる触媒が含まれる。他の適切な水素化脱硫触媒担体には、ゼオライト、非晶質シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナが含まれる。貴金属触媒がまた、用いられることができる。好ましくは、その場合には貴金属は、PdおよびPtから選択される。二種以上のタイプの水素化脱硫触媒が、同じ反応槽で用いられることは、本発明の範囲内である。第VIII族金属は、典型的には、2〜20重量%、好ましくは4〜12重量%の範囲の量で存在する。第VI族金属は、典型的には、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%の範囲の量で存在するであろう。全ての金属重量パーセントは、担体基準である。「担体基準」とは、パーセントが、担体の重量を基準とすることを意味する。例えば、担体が、100グラムと秤量されるとすると、その際には、第VIII族金属20重量%は、第VIII族金属20グラムが、担体上にあったことを意味するであろう。
【0016】
他の実施形態においては、二段プロセスが用いられる。その際、第一の反応段への原料材は、三反応段プロセスの場合と同じ原料材であろう。但し、第一段からの生成物ストリームは、硫黄300〜1,500wppm、好ましくは300〜1,000wppm、より好ましくは300〜750wppmを含むであろう。第二の反応段は、その際、好ましくは、本発明のバルク多元金属触媒、並びに芳香族水素添加触媒の両方を含むであろう。最終生成物ストリームは、硫黄30wppm未満(好ましくは20wppm未満)、および実質的により低レベルの芳香族を含むであろう。
【0017】
本発明を実施するに際して用いられることができる芳香族水素添加触媒の限定しない例には、ニッケル、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、およびニッケルタングステンが含まれる。貴金属触媒の限定しない例には、白金および/またはパラジウムベースのものが含まれる。これは、好ましくは、適切な担体物質上に担持される。典型的には、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、キーゼルグール、珪藻土、マグネシア、およびジルコニアなどの耐火性酸化物物質である。ゼオライト系担体がまた用いられることができる。これらの触媒は、典型的には、硫黄および窒素毒に敏感である。芳香族飽和域は、好ましくは、温度40℃〜400℃、より好ましくは260℃〜350℃、圧力100psig(791kPa)〜3,000psig(20,786kPa)、好ましくは200psig(1,480kPa)〜1,200psig(8,274kPa)、および液空間速度(LHSV)0.3V/V/時〜2.0V/V/時で運転される。
【0018】
本発明を実施するに際して用いられる好ましいバルク三元金属触媒前駆体組成物は、次式
(X)(Mo1−x[(CHCHN(CH
[式中、Xは一種以上の第VIII族非貴金属であり、dは10〜40の整数であり、xは0〜1であり、モル比e:aは≦2.0/1であり、z=((2a+6b)+e)/2であり、モル比a:(b)は0.5/1〜3/1である]
によって表され、スルフィド化後の前記触媒は、(Mo1−x)S積重ね層からなり、そのために平均積重ね高さは、10Å〜20Åである。
【0019】
好ましい実施形態においては、モル比a:bは、0.75/1〜1.5/1であり、dは16〜20、最も好ましくは18であり、eは0.5〜1.5である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態においては、xは0.1〜0.9、より好ましくは0.5である。
【0021】
先行技術の触媒(特許文献1、特許文献2および特許文献3に教示されるものなど)は、本発明のそれに類似の触媒の調製を教示する。しかし、これは、有機剤を含まない酸化物、
(X)(Mo)(W)
[式中、b、c、およびdのモル比は0.1<(b+c)/a<10であり、z=[2a+6(b+c)]/2である]
から調製される。前駆体は、X線回折のピークを、d=2.53および1.70オングストロームに有する。
【0022】
本発明は、一部は、本発明の有機剤前駆体組成物を用いて調製された触媒が、有機剤を含まない酸化物前駆体を用いて調製された触媒とは独特に異なる最終触媒をもたらすという発見に基づく。例えば、有機剤を用いないこれらの触媒の調製は、スルフィド化による活性化の後、積重ね高さ45Å(7〜8層)および結晶子直径50Åを有する通常の[(Mo,W)S]層構造を有する活性硫化物相の結晶子をもたらす。炭素を含まないスルフィド化媒体(即ち、HS/H)を用いる直接スルフィド化の際には、有機剤Ni−Mo−W相は、それらの触媒が有機剤を用いることなく調製された際の硫化物相より、むしろカルボ硫化物を製造し得る。担持カルボ硫化物相は、予想外にも、水素化脱硫に対して、先行技術のバルク三元金属バルク触媒より活性である。有機剤含有前駆体を用いて調製された本発明の硫化触媒は、実質的により小さな積重ね高さ(15Å)を有するカルボ硫化物相をもたらす。
【0023】
有機剤Rは、芳香族アミン、環式脂肪族アミン、および多環式脂肪族アミンからなる群から選択される。好ましくは、C〜C20芳香族アミン(例えばピロリジン)などの芳香族アミンである。
【0024】
本物質を反応混合物から合成するための上記方法で用いるための有機指向剤Rは、式R、即ち
【化1】

[式中、Qは窒素またはリンであり、R、R、RおよびRの少なくとも一つは、炭素原子8〜36個のアリールまたはアルキル(例えば−C1021、−C1633、−C1837またはそれらの組合せ)であり、R、R、RおよびRの残りは、水素、炭素原子1〜5個のアルキルおよびそれらの組合せからなる群から選択される]
のアンモニウムまたはホスホニウムイオンである。本明細書で用いるのに適切なこれらの指向剤の限定しない例には、セチルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルホスホニウム、オクタデシルトリメチルホスホニウム、セチルピリジニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、およびジメチルジドデシルアンモニウムが含まれる。上記のアンモニウムまたはホスホニウムイオンが誘導される化合物は、例えば、水酸化物、ハロゲン化物、シリケート、またはそれらの混合物であってもよい。
【0025】
本発明を実施するに際して用いられる触媒を調製する好ましい方法は、全前駆体成分の溶液を調製する工程、次いで溶液を加熱して、沈殿物をもたらし、前駆体触媒組成物が形成される工程を含む。第VIB族金属アンモニウム塩の溶液、および第VIII族非貴金属硝酸塩の溶液を作製することが、特に好ましい。両溶液は、温度60℃〜150℃、好ましくは90℃へ加熱され、有機剤(アミン界面活性剤など)が、第VIB族金属溶液に添加される。圧力は、大気圧〜自己圧であろう。第VIII族非貴金属溶液は、第VIB族金属溶液へ添加され、第VIB族および第VIII族非貴金属成分の直接沈殿が生じる。この合成はまた、より低い温度および/または低減された圧力、もしくはより高い温度および/または増大された圧力で行われることができる。適切な第VIB族および第VIII族非貴金属成分は、水溶性ニッケル、モリブデン、およびタングステン成分である。可溶性塩が、それ自体で添加される場合には、それらは、反応混合物で溶解または分散し、引続いて沈殿されるであろう。水溶性である適切な第VIB族金属塩は、好ましくは、アンモニウム塩(ジモリブデン酸アンモニウム、トリ−、テトラ−、ヘプタ−、オクタ−、およびテトラデカ−モリブデン酸アンモニウム、パラ−、メタ−、ヘキサ−、およびポリタングステン酸アンモニウムなど)、アルカリ金属塩、第VIB族金属のケイ酸塩(モリブデンケイ酸、モリブデンケイ素タングステン酸、タングステン酸、メタタングステン酸、パータングステン酸、並びにMo−P、Mo−Si、W−P、およびW−Siのヘテロポリアニオン化合物など)である。また、添加時に溶液でない第VIB族金属含有化合物を添加することも可能である。しかし、溶液は反応混合物でもたらされる。これらの化合物の例は、非常に多くの結晶水を含む金属化合物であり、昇温時に、それらは、それ自体の金属水に溶解するであろう。更に、不溶性金属塩は、懸濁で、またはそれ自体で添加されてもよく、溶液は、反応混合物でもたらされる。適切な不溶性金属塩は、Co−Mo−Wのヘテロポリアニオン化合物(冷水中に適度に可溶である)、およびNi−Mo−Wのヘテロポリアニオン化合物(冷水中に適度に可溶である)である。
【0026】
沈殿は、第VIII族非貴金属塩溶液を、アミン有機剤の存在下に第VIB族金属溶液へ添加する工程、および混合物を加熱して、沈殿が実現される工程によってもたらされることができる。この処理によって得られる沈殿は、スルフィド化後、従来の水素処理触媒(典型的には、第VIII族非貴金属および第VIB族金属で含浸されたキャリヤーを含む)に比べて、比較的高い触媒活性を有するであろう。本発明の目的に対しては、沈殿物は、担体なしで用いられる。担持されない触媒組成物は、通常、バルク触媒と呼ばれる。
【0027】
本発明のバルク触媒前駆体組成物は、一般に、目的の商業用途によって、種々の触媒形状に直接形成されることができる。これらの形状は、任意の適切な技術によって作製されることができる。押出し成形、ペレット化、ビーズ化、または噴霧乾燥などである。バルク触媒組成物の液体の量が非常に多くて、それが、成形工程へ直接付されることができない場合には、固−液分離が、成形前に行われることができる。任意に、バルク触媒組成物は、それ自体で、または固−液分離後のいずれかで、成形前に焼成されることができる。
【0028】
バルク触媒前駆体粒子のメジアン直径は、少なくとも50μm、より好ましくは少なくとも100μmであり、好ましくは5000μm以下、より好ましくは3000μm以下である。更により好ましくは、メジアン粒子直径は、0.1〜50μmの範囲、最も好ましくは0.5〜50μmの範囲にある。
【0029】
結合剤物質は、触媒前駆体組成物の調製で用いられることができる。これには、従来から、水素処理触媒の結合剤として用いられる物質が含まれる。適切な結合剤物質の限定しない例には、シリカ、シリカ−アルミナ(従来のシリカ−アルミナ、シリカ−被覆アルミナ、およびアルミナ−被覆シリカなど)、アルミナ((プソイド)ベーマイトまたはギブサイトなど)、チタニア、ジルコニア、カチオンクレーまたはアニオンクレー(サポナイト、ベントナイト、カオリン、セピオライト、またはハイドロタルサイトなど)、またはそれらの混合物が含まれる。好ましい結合剤物質は、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、またはそれらの混合物である。これらの結合剤は、それ自体で、または解膠後に適用されてもよい。また、これらの結合剤の前駆体を適用することも可能である。これは、前駆体の合成中に、上記される任意の結合剤に転化される。適切な前駆体は、例えば、アルカリ金属アルミン酸塩(アルミナ結合剤が得られる)、水ガラス(シリカ結合剤が得られる)、アルカリ金属アルミン酸塩および水ガラスの混合物(シリカアルミナ結合剤が得られる)、ジ−、トリ−、および/またはテトラ原子価の金属源の混合物(マグネシウム、アルミニウムおよび/またはケイ素の水溶性塩の混合物など)(カチオンクレーおよび/またはアニオンクレーが調製される)、クロロヒドロール、硫酸アルミニウム、もしくはそれらの混合物である。
【0030】
所望により、結合剤物質は、第VIB族金属および/または第VIII族非貴金属と、バルク触媒組成物と複合化される前および/またはその調製中に添加される前に、複合化されることができる。結合剤物質とこれらの金属の任意のものとの複合化は、固体結合剤をこれらの物質で含浸することによって行われてもよい。当業者は、適切な含浸技術を知っているであろう。結合剤が解膠される場合には、また、第VIB族および/または第VIII族非貴金属成分の存在下に解膠を行うことが可能である。
【0031】
アルミナが結合剤として用いられる場合には、表面積は、B.E.T方法によって測定されて、好ましくは100〜400m/g、より好ましくは150〜350m/gの範囲にあろう。アルミナの細孔容積は、窒素吸着によって測定されて、好ましくは0.5〜1.5ml/gの範囲にある。
【0032】
一般に、用いられるべき結合剤物質は、バルク触媒組成物より少ない触媒活性を有するか、または触媒活性が全く無い。従って、結合剤物質を用いることによって、バルク触媒組成物の活性は、低減されてもよい。従って、用いられるべき結合剤物質の量は、一般に、最終触媒組成物の所望の活性によるであろう。全組成物の0〜95重量%の結合剤の量が、考えられる触媒の用途によって、適切であることができる。しかし、本発明の組成物の得られる異例の高活性を利用するためには、添加されるべき結合剤の量は、一般に、全組成物の0.5〜75重量%の範囲にある。
【0033】
成形前または成形中に、添加剤が、成形を促進するのに用いられることができる。これには、従来の成形剤が含まれる。これらの添加剤は、ステアリン酸アルミニウム、界面活性剤、グラファイト、またはそれらの混合物を含んでもよい。これらの添加剤は、成形工程前の任意の段階において添加されることができる。更に、アルミナが結合剤として用いられる場合には、硝酸などの酸を、成形工程前に添加して、押出し成形物の機械的強度が増大されることが望ましい場合がある。
【0034】
結合剤物質は、用いられる場合には、成形工程前に添加されることが好ましい。更に、成形工程は、液体(水など)の存在下に行われることが好ましい。好ましくは、押出し成形混合物中の液体の量(LOIとして表される)は、20〜80%の範囲にある。
【0035】
得られた成形触媒前駆体組成物は、任意の乾燥工程の後、焼成されることができる。焼成は、しかし、前駆体合成にとって必須ではない。焼成が行われる場合には、それは、例えば温度100℃〜600℃、好ましくは350℃〜500℃で、0.5〜48時間の異なる時間で行われることができる。成形粒子の乾燥は、一般に、温度100℃超で行われる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態においては、触媒前駆体組成物は、成形前に、噴霧乾燥、(フラッシュ)乾燥、微粉砕、混練り、またはそれらの組合せに付される。これらの更なる処理工程は、結合剤が添加される前後、固液分離の後、焼成およびその後の再湿潤の前後のいずれかで行われることができる。上記される技術(噴霧乾燥、(フラッシュ)乾燥、微粉砕、混練り、またはそれらの組合せ)のいずれかを適用することによって、バルク触媒組成物および結合剤物質の間の混合程度が向上され得る。これは、結合剤物質が、上記される方法のいずれかを適用する前後に添加される両ケースにあてはまる。しかし、一般に、結合剤物質を、噴霧乾燥および/または任意の別の技術の前に添加することが好ましい。結合剤が、噴霧乾燥および/または任意の別の技術の後で添加される場合には、得られる組成物は、好ましくは、成形前に、任意の従来の技術によって完全に混合される。例えば噴霧乾燥の利点は、廃水ストリームが、この技術を適用する場合には、全く得られないことである。
【0037】
分解成分が、触媒の調製中に添加されてもよい。用いられる場合には、分解成分は、触媒の全重量を基準として、最終触媒の0〜80重量%を示すであろう。分解成分は、例えば異性化増強剤として働くであろう。従来の分解成分が、用いられることができる。カチオンクレー、アニオンクレー、ゼオライト(ZSM−5、(超安定)ゼオライトY、ゼオライトXなど)、ALPO、SAPO、非晶質分解成分(シリカーアルミナなど)、またはそれらの混合物などである。いくつかの物質は、結合剤および分解成分として、同時に作用してもよいことが理解されるべきである。例えば、シリカーアルミナは、同時に、分解および結合機能を有してもよい。
【0038】
所望により、分解成分は、第VIB族金属および/または第VIII族非貴金属と、バルク触媒組成物と複合化される前および/またはその調製中に添加される前に、複合化されてもよい。分解成分とこれらの金属の任意のものとの複合化は、分解成分をこれらの物質で含浸することによって行われてもよい。
【0039】
一般に、特定の分解成分の選択は、たとえあるとしても、最終触媒組成物の考えられる触媒の用途による。ゼオライトは、好ましくは、得られる触媒が水素化分解または流動接触分解で適用される場合に添加される。シリカーアルミナまたはカチオンクレーなどの他の分解成分は、好ましくは、最終触媒組成物が水素化処理用途で用いられるであろう場合に添加される。添加される分解物質の量は、最終組成物の所望の活性、および考えられる用途による。従って、これは、触媒組成物の全重量を基準として、0〜80重量%で変化してもよい。
【0040】
所望により、更なる物質が、既に添加された金属成分に加えて添加されることができる。従来の水素処理触媒の調製中に添加されるであろう任意の物質などである。適切な例は、リン化合物、ホウ素化合物、フッ素含有化合物、更なる遷移金属、希土類金属、充填剤、またはそれらの混合物である。
【0041】
適切なリン化合物には、リン酸アンモニウム、リン酸、または有機リン化合物が含まれる。リン化合物は、本発明の方法のいかなる段階においても、成形工程の前および/または成形工程後に添加されることができる。結合剤物質が解膠される場合には、リン化合物はまた、解膠に用いられることができる。例えば、結合剤は、結合剤をリン酸と、またはリン酸および硝酸の混合物と接触させることによって、解膠されることができる。
【0042】
適切な更なる遷移金属は、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、コバルト、白金、パラジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、またはタングステンである。これらの金属は、本発明の方法のいかなる段階においても、成形工程前に添加されることができる。本発明の方法において、これらの金属を添加することとは別に、また、最終触媒組成物をそれらと複合化することは可能である。例えば、最終触媒組成物を、これらの金属の任意のものを含む含浸溶液で含浸することは可能である。
【0043】
バルク触媒組成物の合成には、前駆体のスルフィド化工程が含まれるであろう。スルフィド化は、一般に、触媒前駆体組成物を、元素硫黄、硫化水素、またはポリ硫化物などの硫黄含有化合物と接触させることによって行われる。スルフィド化は、一般に、バルク触媒組成物の調製の後、しかし結合剤物質の添加の前に、および/または結合剤物質の添加の後、しかし触媒組成物を噴霧乾燥および/または任意の別の方法に付す前に、および/または組成物を噴霧乾燥および/または任意の別の方法に付した後、しかし成形前に、および/または触媒組成物の成形の後に行われることができる。スルフィド化は、得られる金属硫化物をその酸化物に戻すいかなる処理工程にも先立って、行われないことが好ましい。これらの処理工程は、例えば、焼成または噴霧乾燥、もしくは酸素の存在下での任意の他の高温処理でもある。従って、触媒組成物が噴霧乾燥および/または任意の別の技術にも付される場合には、スルフィド化は、これらの方法の任意のものの適用に引続いて行われるべきである。
【0044】
触媒組成物が固定床処理で用いられる場合には、スルフィド化は、好ましくは、成形工程に引続いて行われる。焼成が用いられる場合には、最後の焼成工程の後である。好ましくは、スルフィド化は、現場外で行われる。即ち、スルフィド化は、硫化された触媒組成物を水素処理装置に充填する前に、別個の反応器内で行われる。更に、触媒組成物は、現場外および現場内の両方で硫化されることが好ましい。
【0045】
本明細書においては、本発明のバルク触媒粒子は、耐焼結性があることが見出された。従って、バルク触媒粒子の表面積は、使用中保持される。第VIB族/第VIII族非貴金属のモル比は、一般に、10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の範囲である。コア−シェル構造の粒子の場合には、これらの比率は、勿論、シェル中に含まれる金属にあてはまる。二種以上の第VIB族金属が、バルク触媒粒子中に含まれる場合には、異なる第VIB族金属の比率は、一般に重要でない。同じことが、二種以上の第VIII族非貴金属が適用される場合にも有効である。モリブデンおよびタングステンが第VIB族金属として存在する場合には、モリブデン:タングステン比は、好ましくは、9:1〜1:9の範囲にある。好ましくは、第VIII族非貴金属は、ニッケルおよび/またはコバルトを含む。第VIB族金属がモリブデンおよびタングステンの組合せを含むことは、更に好ましい。好ましくは、ニッケル/モリブデン/タングステン、およびコバルト/モリブデン/タングステン、並びにニッケル/コバルト/モリブデン/タングステンの組合せが用いられる。これらのタイプの沈殿物は、耐焼結性であり得る。従って、沈殿物の活性表面積は、使用中維持される。
【0046】
金属は、好ましくは、対応する金属の酸化化合物として存在するか、または触媒組成物が硫化された場合には、対応する金属の硫化、スルフィド化化合物である。有機剤の炭素質成分のいくらかは、硫化後に触媒中に残る。理論に縛られないものの、著者は、炭素質物質を硫化物に組込むことは、酸化物を硫化物へ転化する際の硫化物の積重ねの成長を阻害し、より低い積重ね高さの物質をもたらすと考える。
【0047】
触媒組成物の表面積は、BET法によって測定されて、好ましくは少なくとも40m/g、より好ましくは少なくとも80m/g、最も好ましくは少なくとも120m/gである。触媒組成物の全細孔容積は、水多孔度法によって測定されて、好ましくは少なくとも0.05ml/g、より好ましくは少なくとも0.1ml/gである。高い機械強度を有する触媒組成物を得るためには、本発明の触媒組成物は、低いマクロ多孔度を有することが望ましくてもよい。更に、粒子は、金属酸化物として計算されて、粒子の全重量を基準として、少なくとも一種の第VIII族非貴金属および少なくとも一種の第VIB族金属を50〜100重量%含むことが好ましい。更により好ましくは70〜100重量%である。第VIB族および第VIII族非貴金属の量は、容易に、TEM−EDXにより決定されることができる。
【0048】
本明細書に記載される触媒の使用に対して、適用可能な処理条件は、広く、処理されるべき原料材によって異なってもよい。従って、原料の沸点が上昇すると、条件の過酷度はまた上昇するであろう。次の表は、原料の範囲に対する典型的な条件を例示するのに役立つ。
【0049】
【表1】

【0050】
次の実施例は、限定することなく、本発明を例示するのに役立つであろう。
【実施例】
【0051】
実施例1
MoO 28.8g(Mo 0.2モル)、およびタングステン酸HWO 50.0g(W 0.2モル)を水800ml中にスラリー化し(懸濁A)、90℃へ加熱した。ヒドロキシカルボン酸ニッケル2NiCO3Ni(OH)4HO 70.6g(Ni 0.6モル)を、水200ml中に懸濁し、90℃へ加熱した(懸濁B)。懸濁Bを、懸濁Aに、時間60分でゆっくり添加し、得られた混合物を、連続的に撹拌をしながら、90℃で18時間保持した。この時間の終わりに、得られた懸濁を、ろ過し、固形分を、120℃で4〜8時間乾燥し、400℃で焼成した。収率は、その酸化物へ転化された全金属成分の計算重量を基準として99%であった。このバルク触媒前駆体の酸化物組成物のX線スペクトルを、本明細書の図1の上部軌跡として示す。
【0052】
実施例2
オクタデシルトリメチルアンモニウムがそこに組込まれた名目組成物NiMo0.50.5酸化物の触媒前駆体を、次のように調製した。水500ccに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム17.65g(Mo 0.10モル)およびメタタングステン酸アンモニウム24.5g(W 0.10モル)を溶解した。これに、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム58.9g(0.15モル)を添加した。これにより、pH5.7の溶液が得られた。この溶液を、90℃へ加熱し、ミルク状スラリーを形成した。これに、硝酸ニッケル58.15g(Ni 0.20モル)を添加した。これは、最初に、更なる水100cc中に溶解されている。全混合物を、次いで、還流コンデンサーおよび温度計を含む三口フラスコ中で、90℃へ加熱および撹拌し、その温度で1時間保持した。最終pHは、4.2と測定された。ろ過および120℃での乾燥の後、得られた固形物は、63.5gと秤量された。この前駆体のX線回折スペクトルを、本明細書の図1の下部軌跡として示す。
【0053】
実施例3
本明細書の実施例1および2からの触媒4〜6gを、120℃で乾燥し、石英ボートに入れ、これを、次には、水平の石英管中に挿入し、リンドバーグ[Lindberg]加熱炉に入れた。依然として室温のまま、HS 10%/H気流200cc/分を、15分間入れ、次いで温度を、HS 10%/Hを200cc/分で流しながら、45分間で400℃へ昇温した。この気流を、400℃で2時間続けた。加熱を、次いで止め、得られた触媒を、HS/H気流中で室温へ冷却し、同じ気流下で、室温で30分間保持した。窒素300cc/分を、30分間入れた。その後、酸素1%/ヘリウム不活性化ガスを、室温で入れ、50cc/分で終夜流した。試料を、次いで加熱炉から取出した。得られたX線回折スペクトルを、二つの試料について測定し、本明細書の図2に示す。上部軌跡は、硫化された単味酸化物の試料であり、下部軌跡は、Ni−Mo−Wの硫化された酸化物−アミン界面活性剤(有機剤)前駆体である。図2においては、(002)ピーク(12゜)の広がりは、アミン界面活性剤を含む前駆体に対するものであることが、注目されるであろう。この広がりは、通常、硫化物シートの積重ね高さの減少の結果として生じる。
【0054】
実施例4
本明細書の実施例3の硫化前駆体の試料を、粉々に粉砕し(厚さ100mm未満)、穴あき炭素被覆されたTEMグリッド上に散布し、フィリップス[Phillips]CM200F装置の明視野TEM画像方式で検査した。硫化された前駆体の250〜350個の異なる結晶を検査し、積重ね高さを計数し、平均した。本明細書の図3aおよび3bは、これらの積重ね、並びに積重ね高さ測定の代表的なTEM顕微鏡写真を示す。このTEMデータは、有機剤含有硫化物前駆体(図3b)が、有機剤なしに調製されたもの(図3a)と比較した場合に、より低い積重ね高さの硫化物をもたらすことを明示する。
【0055】
実施例5
実施例3からの触媒組成物70mgを、メトラー[Mettler]TGA851熱天秤に充填した。これは、二次電子倍増管を装備したバルツアーズサーモスター[Balzers Thermostar]四重極質量分析計と組合わされた。触媒組成物を、空気流(50cc/分)中1気圧の全圧で、4℃/分で室温から600℃へ加熱した。18(HO)、44(CO)、および64(SO)のm/eフラグンメントについて、MS信号(アンペア)を、重量変化と共にプロットし、本明細書の図4に示す。図4においては、硫化された有機剤前駆体からのCOおよびSOピークが、同時に、375℃で生じることが注目されるであろう。これは、硫化された有機剤相が、カルボ硫化物を形成することを示す。また、図4から、酸化物前駆体から調製された硫化物の酸化はCOを全く生じないこと、および硫化物のピークはカルボ硫化物より実質的に高い温度で酸化することが注目されるであろう。これは、再度、[カルボ]硫化物の結晶子のサイズが、有機剤から調製された触媒上では、単味酸化物前駆体に対するより小さいことを示唆する。
【0056】
実施例6
本明細書の実施例1および2の触媒組成物の水素化脱硫活性を、硫黄592wppm、窒素100wppmを含む商業的な常圧留出油について、650psig(4,579kPa)、625゜F、および2LHSV(液空間速度)で評価した。結果を、次の表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
ODTA試料は、スルフィド化の後で、炭素約35重量%を有した。重量速度常数(一次の動力学を用いる)を、各試料中に存在するNi−Mo−Wの量に対して補正した。従って、上記表のデータは、ODTAを含む前駆体が、反応器に充填されるNi−Mo−Wの重量に対して、より活性な触媒をもたらすことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本明細書の実施例1に従って調製されたNi1.5Mo0.50.5−酸化物相(上部軌跡)、および本明細書の実施例2の触媒前駆体NiMo0.50.5[CH(CH17N(CH0.75−酸化物相(下部軌跡)のX線回折パターンを示す。
【図2】Ni1.5Mo0.50.5−硫化物(上部軌跡)のX線回折パターンを示す。下部軌跡は、NiMo0.50.5[(CH180.75−硫化物である。両者とも、本明細書の実施例3のものである。
【図3−a】特許文献1に教示される酸化物前駆体から調製された先行技術のNi−Mo−W−硫化触媒の透過電子顕微鏡写真である。これは、積重ね高さ45Å(7〜8シート)を示す。
【図3−b】本発明の有機剤(アミン界面活性剤)法から調製された本発明のNi−Mo−W−硫化触媒の透過電子顕微鏡写真である。これは、積重ね高さ15Å(2.5シート)を示す。
【図4】本明細書の実施例5で得られたTG/MSデータのプロットである。これは、本明細書の実施例2の有機剤法によって調製されたカルボ硫化物結晶子の形成を、本明細書の実施例1の先行技術の単味酸化物法によって形成された結晶子に対して明示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:
(X)(Mo1−x[(CHCHN(CH
(式中、Xは一種以上の第VIII族非貴金属であり、dは10〜40の整数であり、xは0〜1であり、モル比e:aは≦2.0/1であり、z=((2a+6b)+e)/2であり、モル比a:(b)は0.5/1〜3/1である)
によって表されるバルク多元金属触媒組成物であって、
スルフィド化後の前記触媒組成物は、(Mo1−x)S化学量論組成の積み重ね層からなり、そのために平均積み重ね高さは、10Å〜20Åであることを特徴とするバルク多元金属触媒組成物。
【請求項2】
前記モル比a:bは、0.75/1〜1.5/1であることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
dは、16〜20であり、eは、0.5〜1.5であることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
Xは、NiおよびCoからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
次式:
(X)(Mo1−x[(CHCHN(CH
(式中、Xは一種以上の第VIII族非貴金属であり、dは10〜40の整数であり、xは0〜1であり、モル比e:aは≦2.0/1であり、z=((2a+6b)+e)/2であり、モル比a:(b)は0.5/1〜3/1である)
によって表される触媒前駆体組成物の調製方法であって、
(a)第VIII族非貴金属水溶性塩の第一の水溶液を調製する工程;
(b)MoおよびW水溶性塩を含む第二の水溶液を調製する工程;
(c)前記第一および第二の両水溶液を、温度60℃〜150℃に加熱する工程;
(d)有効量の有機剤を前記第二の水溶液に添加する工程;
(e)前記工程(d)の前記第二の水溶液の少なくとも一部を、前記第一の水溶液に導入する工程;および
(f)前記工程(e)の得られた溶液を、前記触媒前駆体組成物の沈殿を生じるのに効果的な温度に加熱する工程
を含むことを特徴とする触媒前駆体組成物の調製方法。
【請求項6】
前記第VIII族非貴金属の塩は、硝酸塩、硝酸塩、臭化物、塩化物および酢酸塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記Mo塩は、ジモリブデン酸アンモニウム、トリ−、テトラ−、ヘプター、オクターおよびテトラデカ−モリブデン酸アンモニウムからなる群から選択され、前記W塩は、パラ−、メタ−、ヘキサ−およびポリタングステン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項8】
前記有機剤は、芳香族アミン、環式脂肪族アミンおよび多環式脂肪族アミンからなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項9】
前記触媒前駆体組成物は、適切な触媒形状で成形され、乾燥され、酸素の存在下に温度100℃〜600℃で焼成されることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項10】
前記成形され、乾燥され、焼成された触媒付形物は、元素硫黄、硫化水素および多硫化物からなる群から選択される硫黄含有化合物の存在下に、硫化条件で硫化されることを特徴とする請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
水素処理条件における炭化水素原料材の水素処理方法であって、
前記原料材を、水素処理条件で、次式:
(X)(Y)[(CHCHN(CH
(式中、Xは第VIII族非貴金属であり、YはMoおよびWからなる群から選択され、cは10〜40の整数であり、モル比a:bは0.5/1〜3/1である)
によって表される触媒前駆体組成物から誘導されるバルク多元金属触媒組成物の存在下に反応させる工程
を含み、
前記触媒組成物は、スルフィド化後、積み重ね層(Y)Sからなり、そのために平均積み重ね高さは、10Å〜20Åであることを特徴とする炭化水素原料の水素処理方法。
【請求項12】
前記水素処理は、水素化脱金属、水素化脱ロウ、水素化処理、水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱芳香族、水素異性化および水素化分解からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の水素処理方法。
【請求項13】
前記炭化水素原料材は、全および抜頭石油原油、常圧および減圧残油、プロパン脱瀝残油、サイクル油、流動接触分解塔底油、軽油、軽質〜重質留出油、水素化分解油、水素化処理油、脱ロウ油、スラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、ラフィネート、ナフサおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の水素処理方法。
【請求項14】
前記水素処理は、温度200℃〜450℃、水素圧5〜300バール(500〜30,000kPa)、液空間速度0.05〜10時−1および水素処理ガス比200〜10,000標準立法フィート/バレルで行われ、かつ二段以上で実施され、前記二つ以上の段は、同じまたは異なる水素処理工程であり得ることを特徴とする請求項11に記載の水素処理方法。
【請求項15】
前記第VIII族非貴金属は、NiおよびCoからなる群から選択されることを特徴とする請求項5〜14のいずれかに記載の調製方法または水素処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−a】
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【図3−b】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−513204(P2008−513204A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532536(P2007−532536)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/033284
【国際公開番号】WO2006/036610
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】