説明

有機化合物結晶及び電界効果型トランジスタ

【課題】内部における伝導パスが異方的(1次元的)ではなく、より等方的な(2次元的な)伝導パスを有する有機化合物結晶を提供する。
【解決手段】第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層された有機化合物結晶であって、各接続分子は略D2dの対称性を有し、有機化合物結晶において、隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり、隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのπ電子共役系分子が接続されて成る接続分子から構成された有機化合物結晶、及び、係る有機化合物結晶からチャネル形成領域が構成された電界効果型トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機トランジスタに関する研究が盛んに行われてきており、その性能も実用化レベルまであと一歩というところまで到達している。
【0003】
分子間の相互作用は、分子の骨格を形成するσ結合とは垂直な方向に延びるπ電子系によって担われ、また、分子内で自由に荷電キャリアが動けるためには、このπ電子系が共役して、分子間全体に拡がっていることが必要とされる。即ち、有機半導体結晶におけるキャリヤは、分子面に対して垂直方向に広がるπ電子軌道を経由して結晶中を移動している。従って、有機半導体結晶において高移動度を実現するためには、隣接する分子の分子面同士が平行に重なり合うように配置された結晶構造を取ることが望ましい。
【0004】
しかしながら、現在知られている高移動度の有機半導体結晶は、図7に概念図を示すような所謂ヘリングボーン構造をとるものが多い。現在、有機トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料(分子)として、縮合芳香族化合物である2,3,6,7−ジベンゾアントラセン(ペンタセンとも呼ばれる)が最良の性能を示すことが報告されているが(例えば、H. Klauk et al., J. Appl. Phys. 92, 5259 (2002) 参照)、ペンタセン分子は、結晶中では、ヘリングボーン構造を有する2次元レイヤーが積層した構造となっている(例えば、R.B. Champbell et al., Acta Cryst. 14, 705 (1961); D. Homes et al., J. Eur. Chem. 5, 3399 (1999) 参照)。そして、ペンタセンの電子状態については、第一原理計算によるバンド解析が行われており(例えば、M. L. Tiago et al., Phys. Rev. B67, 115212 (2003) 参照)、この2次元レイヤー内に2次元的な伝導パスが形成されることが、バンド解析の結果によって裏付けされている。
【0005】
しかしながら、ヘリングボーン構造にあっては、隣接分子の分子面は非平行であり、一見、乱雑に配置した構造となるため、隣接分子のπ電子軌道同士の交わりが小さく、隣接分子のπ電子軌道の交わりという観点からは、最適とは云えない構造である。従って、ヘリングボーン構造を形成する材料(分子)から有機トランジスタのチャネル形成領域を構成したのでは、移動度に限界がある。
【0006】
【非特許文献1】H. Klauk et al., J. Appl. Phys. 92, 5259 (2002)
【非特許文献2】M. L. Tiago et al., Phys. Rev. B67, 115212 (2003)
【非特許文献3】化学会春季年会予稿集 2F345 「スピロ結合による直交したパイ電子系をもつ、新しい有機ドナーの設計と合成」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、BMDT−TTF等の、隣接する分子面が互いに平行にスタックするような(平行に重なりを持つ)結晶構造を有する材料(分子)も存在する。図8に、BMDT−TTF分子の結晶構造の概念図を示す。このような材料においては、隣接分子の分子面が平行にスタックしている。そして、図9にBMDT−TTFのエネルギーバンド構造を示すように、スタックしている方向(a*軸方向)に比較的広いエネルギーバンドが形成されており、キャリヤ移動に関して、有利な構造となっている。
【0008】
しかしながら、このような平面構造を有する分子においては、平面分子が平行にスタックしているという性格上、そのスタック軸方向(図8における紙面上下の方向)以外の方向におけるキャリヤ移動が困難となる。言い換えれば、1次元伝導バンド構造が形成され、伝導パスは異方的(1次元的)である。それ故、このような分子から電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を形成する場合、伝導パスの異方性を考慮しなければならず、チャネル形成領域を構成する上で不利である。また、1次元伝導バンド構造であるが故に、荷電キャリア同士の相関(例えば、荷電キャリア間におけるクーロン斥力)が大きく、荷電キャリアの運動が妨げられるといった問題がある。
【0009】
1990年3月に開催の日本化学会春季年会における予稿集 2F345 「スピロ結合による直交したパイ電子系をもつ、新しい有機ドナーの設計と合成」には、1分子内に直交したパイ電子系をもち、2つの等価なパイ電子系をスピロ結合で接続した、D2dの対称性を有する化合物が開示されているが、この文献には、具体的な有機化合物結晶への言及はなされていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、内部における伝導パスが異方的(1次元的)ではなく、より等方的な(2次元的な)伝導パスを有する有機化合物結晶、及び、係る有機化合物結晶からチャネル形成領域が構成された電界効果型トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の有機化合物結晶は、
第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層された有機化合物結晶であって、
各接続分子において、
(A)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とは、略直交しており、
(B)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とが同一平面内にあると仮定したとき、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第1のπ電子共役系分子と、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第2のπ電子共役系分子とは、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子との接続点を中心に180度回転させたとき、重なり合い、
有機化合物結晶において、
(C)隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり、
(D)隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にあることを特徴とする。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の電界効果型トランジスタは、
有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えた電界効果型トランジスタであって、
該有機化合物結晶は、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層されており、
各接続分子において、
(A)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とは、略直交しており、
(B)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とが同一平面内にあると仮定したとき、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第1のπ電子共役系分子と、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第2のπ電子共役系分子とは、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子との接続点を中心に180度回転させたとき、重なり合い、
有機化合物結晶において、
(C)隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり、
(D)隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にあることを特徴とする。
【0013】
本発明の有機化合物結晶あるいは本発明の電界効果型トランジスタ(以下、これらを総称して、単に、本発明と呼ぶ場合がある)においては、図1に示すように、第1のπ電子共役系分子の分子面(例えば、芳香環面)及び第2のπ電子共役系分子の分子面(例えば、芳香環面)が、互いに、sp3軌道をとる炭素、あるいは、ケイ素やゲルマニウムといった原子を経由して略直交している。ここで、「略直交している」とは、第1のπ電子共役系分子の分子面(例えば、芳香環面)と第2のπ電子共役系分子の分子面(例えば、芳香環面)との成す角度が90度±10度であることを意味する。
【0014】
本発明においては、
第1のπ電子共役系分子及び第2のπ電子共役系分子は、カルコゲン原子を構成要素として含み、
隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子における第1のπ電子共役系分子同士が相互に連結され、隣接する接続分子における第2のπ電子共役系分子同士が相互に連結された3次元的周期構造を有する構成とすることが好ましい。
【0015】
そして、この場合、接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することが望ましい。
【0016】
また、本発明にあっては、1つのπ電子共役系分子中に含まれるカルコゲン原子の数が多い程、π電子共役系分子間における相互作用は強くなることが期待できるため、π電子共役系分子の分子量に対する総カルコゲン原子質量の割合は、例えば40%以上であることが好ましい。
【0017】
一般に、カルコゲン原子とは、O(酸素)、S(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)、Po(ポロニウム)を指すが、本明細書においては、カルコゲン原子とは、O(酸素)、S(硫黄)、Se(セレン)及びTe(テルル)から成る群から選択された1種類の原子を指す。
【0018】
本発明において、第1若しくは第2のπ電子共役系分子それ自体は、第1若しくは第2のπ電子共役系分子と第1若しくは第2のπ電子共役系分子とを積層したとき、分子間力により、互いのπ電子軌道同士が交わる性質を有し、その結晶構造から1次元的エネルギーバンド構造を形成するものであることが好ましい。具体的には、本発明において、接続分子として、下記の構造式(1)[但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基のいずれかを表す]を有するものを例示することができる。尚、アルキル基には飽和アルキル基及び不飽和アルキル基が包含される。ここで、第1若しくは第2のπ電子共役系分子のそれぞれは、基本的には、メチレンジチオ−テトラチアフルバレン(MDT−TTF)系分子から構成されている。
【0019】

【0020】
本発明の電界効果型トランジスタの構造として、具体的には、以下の4種類の構造を例示することができる。尚、本発明の電界効果型トランジスタにおいて、チャネル形成領域の延在部をチャネル形成領域延在部と呼ぶ場合がある。
【0021】
即ち、第1の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型であり、
(a)支持体上に形成されたゲート電極、
(b)ゲート電極及び支持体上に形成されたゲート絶縁層、
(c)ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、並びに、
(d)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
を備えている。
【0022】
また、第2の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、
(a)支持体上に形成されたゲート電極、
(b)ゲート電極及び支持体上に形成されたゲート絶縁層、
(c)ゲート絶縁層上に形成されたソース/ドレイン電極、並びに、
(d)ソース/ドレイン電極の間のゲート絶縁層の部分の上に形成されたチャネル形成領域、
を備えている。
【0023】
更には、第3の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/トップコンタクト型であり、
(a)支持体上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、
(b)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
(c)ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(d)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0024】
また、第4の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型であり、
(a)支持体上に形成されたソース/ドレイン電極、
(b)ソース/ドレイン電極の間の支持体の部分の上に形成されたチャネル形成領域、
(c)チャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(d)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0025】
本発明の電界効果型トランジスタにおいて有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を形成する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法に例示される物理的気相成長法(PVD法);各種の化学的気相成長法(CVD法);スピンコート法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法;エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法といった各種コーティング法;及びスプレー法の内のいずれかを挙げることができる。
【0026】
また、本発明の電界効果型トランジスタにおいて、ゲート絶縁層を構成する材料として、酸化ケイ素系材料、窒化ケイ素(SiNY)、Al23、金属酸化物高誘電絶縁膜にて例示される無機系絶縁材料だけでなく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリビニルフェノール(PVP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリカーボネート(PC)、ポリイミドにて例示される有機系絶縁材料を挙げることができるし、これらの組み合わせを用いることもできる。尚、酸化ケイ素系材料として、二酸化シリコン(SiOX)、BPSG、PSG、BSG、AsSG、PbSG、酸化窒化シリコン(SiON)、SOG(スピンオングラス)、低誘電率SiO2系材料(例えば、ポリアリールエーテル、シクロパーフルオロカーボンポリマー及びベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG)を例示することができる。
【0027】
ゲート絶縁層の形成方法として、上述の各種PVD法;各種CVD法;スピンコート法;上述した各種印刷法;上述した各種コーティング法;浸漬法;キャスティング法;及び、スプレー法の内のいずれかを挙げることができる。あるいは又、ゲート絶縁層は、ゲート電極の表面を酸化あるいは窒化することによって形成することができるし、ゲート電極の表面に酸化膜や窒化膜を成膜することで得ることもできる。ゲート電極の表面を酸化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、熱酸化法、O2プラズマを用いた酸化法、陽極酸化法を例示することができる。また、ゲート電極の表面を窒化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、N2プラズマを用いた窒化法を例示することができる。あるいは又、例えば、金(Au)からゲート電極を構成する場合、一端をメルカプト基で修飾された直鎖状炭化水素のように、ゲート電極と化学的に結合を形成し得る官能基を有する絶縁性分子によって、浸漬法等の方法で自己組織的にゲート電極表面を被覆することで、ゲート電極の表面にゲート絶縁層を形成することもできる。
【0028】
更には、本発明の電界効果型トランジスタにおいて、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ルビジウム(Rb)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)等の金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属から成る導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、ポリシリコン、アモルファスシリコン、錫酸化物、酸化インジウム、インジウム・錫酸化物(ITO)を挙げることができるし、これらの元素を含む層の積層構造とすることもできる。更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極を構成する材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]といった有機材料を挙げることもできる。
【0029】
ソース/ドレイン電極やゲート電極の形成方法として、これらを構成する材料にも依るが、真空蒸着法やスパッタリング法に例示されるPVD法;MOCVD法を含む各種のCVD法;スピンコート法;各種導電性ペーストや各種導電性高分子溶液を用いた上述の各種印刷法;上述した各種コーティング法;リフトオフ法;シャドウマスク法;電解メッキ法や無電解メッキ法あるいはこれらの組合せといったメッキ法;及び、スプレー法の内のいずれか、あるいは、更には必要に応じてパターニング技術との組合せを挙げることができる。尚、PVD法として、(a)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着等の各種真空蒸着法、(b)プラズマ蒸着法、(c)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法、(d)DC(direct current)法、RF法、多陰極法、活性化反応法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法を挙げることができる。
【0030】
本発明の電界効果型トランジスタにおいて、支持体として、各種のガラス基板や、表面に絶縁層が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁層が形成された石英基板、表面に絶縁層が形成されたシリコン基板を挙げることができる。更には、支持体として、ポリエーテルスルホン(PES)やポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)に例示される高分子材料から構成されたプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板を挙げることができ、このような可撓性を有する高分子材料から構成された支持体を使用すれば、例えば曲面形状を有するディスプレイ装置や電子機器への電界効果型トランジスタの組込みあるいは一体化が可能となる。支持体として、その他、導電性基板(金等の金属、高配向性グラファイトから成る基板)を挙げることができる。また、本発明において、半導体装置の構成、構造によっては、半導体装置が支持部材上に設けられているが、この支持部材も上述した材料から構成することができる。電子装置や半導体装置を樹脂にて封止してもよい。
【0031】
本発明の電界効果型トランジスタを、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体に多数の電界効果型トランジスタを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各電界効果型トランジスタを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。また、電界効果型トランジスタを樹脂にて封止してもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、π電子共役系分子を構成単位として、共有結合のような分子間力に比べ遥かに強い力で、互いに略直交するように、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とが接続(固定)されることによって、隣接する接続分子間における第1のπ電子共役系分子同士が分子面が平行に揃うように積層状態となり、且つ、隣接する接続分子間における第2のπ電子共役系分子同士が分子面が平行に揃うように積層状態となる。それ故、有機化合物結晶において2次元的エネルギーバンド構造が形成される結果、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料として適した材料となり、高移動度を実現することが可能となる。即ち、本発明にあっては、有機化合物結晶の2つのスタック軸を含む面内でエネルギーバンド構造が等方的となることから、従来の1次元的エネルギーバンド構造を有する材料から構成されたチャネル形成領域よりも、チャネル形成領域における有機化合物結晶の配向の自由度が高く、扱いが容易であり、しかも、移動度の向上を図ることができる。
【0033】
しかも、本発明において、大きな原子軌道を有するカルコゲン原子をπ電子共役系分子内に多数導入すれば、例えば、炭素原子と水素原子とから成るアセン系炭化水素に比べて、π電子共役系分子間の相互作用が強くなる。即ち、カルコゲン原子の軌道の重なりによりバンド幅が拡大し、異方性が緩和され、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域における荷電キャリアの輸送性能の向上を図ることができる。更には、カルコゲン原子を、分子骨格が形成するπ電子共役系に参画できるような位置とし、加えて、カルコゲン原子が出来るだけ分子外周に位置するような構造とすれば、即ち、π電子共役系分子の外周に配置すれば、分子間で分子面の横方向のπ電子共役系分子間の相互作用も可能となる。そして、これによって、2次元的な伝導パスを有し、且つ、伝導バンド幅の増大を図ることができる。その結果、高移動度を有する有機能動素子を構成する材料として用いることができる。即ち、カルコゲン原子を導入した有機化合物結晶をチャネル形成領域を構成する材料として用いれば、電界効果型トランジスタとしての有機トランジスタの性能を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0035】
実施例1は、本発明の有機化合物結晶、及び、電界効果型トランジスタに関する。
【0036】
実施例1の有機化合物結晶は、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層された有機化合物結晶である。そして、各接続分子において、第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とは、図1に示すように、略直交(実施例1においては、直交)している。また、第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とが同一平面内にあると仮定したとき、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第1のπ電子共役系分子と、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第2のπ電子共役系分子とは、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子との接続点を中心に180度回転させたとき、重なり合っている。
【0037】
ここで、第1のπ電子共役系分子及び第2のπ電子共役系分子は、構造式(2)及び構造式(2’)に示すメチレンジチオ−テトラチアフルバレン(MDT−TTF)系分子から成り、接続分子は、構造式(1)に示す構造を有する。但し、R1、R2、R3及びR4は、実施例1にあっては、水素原子である。以下、構造式(1)に示す接続分子を、スピロMDT−TTFと呼ぶ。スピロMDT−TTFは、D2dの対称性を有する。また、一般に、本発明の有機化合物結晶を構成する接続分子は、略D2dの対称性を有するといえる。
【0038】

【0039】

【0040】
スピロMDT−TTFについて、計算シミュレーションにより、直交バンド構造の実現可能性について調べた。尚、バンド解析には、第一原理電子状態計算プログラムVASP(Vienna Ab-initio Simulation Package)(G. Kresse and J. Furthmuller, Vienna Ab-initio Simulation Package, see at the website, http://cms.mpi.univie.ac.at/vasp/vasp/vasp.html 参照)を用い、一般化勾配近似(GGA)に基づく密度汎関数法(DFT)により計算した。
【0041】
図2に、適切な初期構造から電子状態計算により構造緩和を行って得られた有機化合物結晶の結晶構造を示す。即ち、この有機化合物結晶においては、隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり(互いに平行に配置されており)、隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にある(互いに平行に配置されている)。
【0042】
図3に、このときの、各々のスタック軸方向に沿ったエネルギーバンド構造を示す。BMDT−TTFの場合(図9参照)と異なり、スピロMDT−TTFにあっては、等方的なエネルギーバンド構造が形成されることを確認できた。
【0043】
尚、第1のπ電子共役系分子及び第2のπ電子共役系分子は、カルコゲン原子(硫黄原子,S)を構成要素として含み、隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、隣接する接続分子における第1のπ電子共役系分子同士が相互に連結され、有機化合物結晶にあっては、隣接する接続分子における第2のπ電子共役系分子同士が相互に連結された3次元的周期構造を有する。即ち、スピロMDT−TTFを構成するMDT−TTFにおけるカルコゲン原子(硫黄原子)のファンデルワールス半径をr1,r2としたとき、スピロMDT−TTFを構成する第1のπ電子共役系分子(若しくは第2のπ電子共役系分子)に相当するMDT−TTFにおけるカルコゲン原子(Xi)と、このスピロMDT−TTFに隣接するスピロMDT−TTFを構成する第1のπ電子共役系分子(若しくは第2のπ電子共役系分子)に相当するMDT−TTFにおけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1=3.96Å
を満足している。具体的には、Rijの値として、3.96Å、3.95Å等を挙げることができる。また、カルコゲン原子であるS(硫黄)はπ電子共役系に含まれ、あるいは、π電子共役系と共役しており、あるいは、π電子共役系に参画しており、あるいは、π電子共役系に取り込まれている。更には、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子であるS(硫黄)は、π電子共役系分子の外周に配置されている。π電子共役系分子(MDT−TTF)の分子量(C764:280.47)に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上(具体的には、68.6%)である。
【0044】
実施例1の電界効果型トランジスタ(FET)は、上述した有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えている。実施例1の電界効果型トランジスタは、第1の構造を有する、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型の薄膜トランジスタ(TFT)であり、図4の(A)に模式的な一部断面図を示すように、
(a)支持体11上に形成されたゲート電極12、
(b)ゲート電極12及び支持体11上に形成されたゲート絶縁層13、
(c)ゲート絶縁層13上に形成されたチャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A、並びに、
(d)チャネル形成領域延在部15A上に形成されたソース/ドレイン電極14、
を備えている。
【0045】
更には、全面に絶縁層(図示せず)が形成され、ソース/ドレイン電極14に接続された配線(図示せず)が絶縁層上に形成されている。
【0046】
以下、実施例1のボトムゲート/トップコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0047】
[工程−100]
先ず、スピロMDT−TTFから成る有機化合物結晶を作製する。具体的には、文献 Y. Misaki et al., Chem. Lett. 729 (1993) を参考にして、図6に示すように、化合物1、化合物2の合成を行う。次いで、化合物2と、テトラヨードメタンを反応させることによって、化合物3で示すスピロMDT−TTFから成る有機化合物結晶を得ることができる。
【0048】
[工程−110]
一方、表面にSiO2層(図示せず)が形成されたガラス基板から成る支持体11上にゲート電極12を形成する。具体的には、支持体11上に、ゲート電極12を形成すべき部分が除去されたレジスト層(図示せず)を、リソグラフィ技術に基づき形成する。その後、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ゲート電極12を得ることができる。
【0049】
[工程−120]
次に、ゲート電極12を含む支持体11上にゲート絶縁層13を形成する。具体的には、SiO2から成るゲート絶縁層13を、スパッタリング法に基づきゲート電極12及び支持体11上に形成する。ゲート絶縁層13の成膜を行う際、ゲート電極12の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12の取出部(図示せず)をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0050】
[工程−130]
次に、ゲート絶縁層13上に、チャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15Aを形成する。具体的には、先に説明した有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を形成する方法(例えば、真空蒸着法)に基づき、チャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15Aをゲート絶縁層13上に形成することができる。
【0051】
[工程−140]
その後、チャネル形成領域延在部15Aの上に、チャネル形成領域15を挟むようにソース/ドレイン電極14を形成する(図4の(A)参照)。具体的には、全面に、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極14としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極14の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部15Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極14をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0052】
[工程−150]
最後に、全面にパッシベーション膜である絶縁層(図示せず)を形成し、ソース/ドレイン電極14の上方の絶縁層に開口部を形成し、開口部内を含む全面に配線材料層を形成した後、配線材料層をパターニングすることによって、ソース/ドレイン電極14に接続された配線(図示せず)が絶縁層上に形成された実施例1の半導体装置を完成させることができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2におけるTFTは、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、図4の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(a)支持体11上に形成されたゲート電極12、
(b)ゲート電極12及び支持体11上に形成されたゲート絶縁層13、
(c)ゲート絶縁層13上に形成されたソース/ドレイン電極14、並びに、
(d)ソース/ドレイン電極14の間のゲート絶縁層13の部分の上に形成されたチャネル形成領域15、
を備えている。
【0054】
以下、実施例2のボトムゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0055】
[工程−200]
先ず、実施例1の[工程−100]と同様にして、スピロMDT−TTFを得ておく。また、実施例1の[工程−110]と同様にして、支持体11上にゲート電極12を形成した後、実施例1の[工程−120]と同様にして、ゲート電極12及び支持体11上にゲート絶縁層13を形成する。
【0056】
[工程−210]
次に、ゲート絶縁層13の上に金(Au)層から成るソース/ドレイン電極14を形成する。具体的には、ゲート絶縁層13上に、ソース/ドレイン電極14を形成すべき部分が除去されたレジスト層をリソグラフィ技術に基づき形成する。そして、[工程−110]と同様にして、レジスト層及びゲート絶縁層13上に、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極14としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ソース/ドレイン電極14を得ることができる。
【0057】
[工程−220]
その後、[工程−100]において得られたスピロMDT−TTFに基づき、実施例1の[工程−130]と同様の方法に基づき、ソース/ドレイン電極14の間のゲート絶縁層13の部分の上にチャネル形成領域15を形成する。
【0058】
[工程−230]
最後に、実施例1の[工程−150]と同様の工程を実行することで、実施例2の半導体装置を完成させる。
【実施例3】
【0059】
実施例3も、実施例1の変形である。実施例3におけるTFTは、所謂トップゲート/トップコンタクト型であり、図5の(A)に模式的な一部断面図を示すように、
(a)支持体11上に形成されたチャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A、
(b)チャネル形成領域延在部15A上に形成されたソース/ドレイン電極14、
(c)ソース/ドレイン電極14及びチャネル形成領域15上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(d)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0060】
以下、実施例3のトップゲート/トップコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0061】
[工程−300]
先ず、実施例1の[工程−100]と同様にして、スピロMDT−TTFを得ておく。
【0062】
[工程−310]
一方、表面にSiO2層(図示せず)が形成されたガラス基板から成る支持体11上に、実施例1の[工程−130]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15Aを形成する。
【0063】
[工程−320]
次いで、チャネル形成領域延在部15A上に、チャネル形成領域15を挟むようにソース/ドレイン電極14を形成する。具体的には、全面に、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極14としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極14の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部15Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極14をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0064】
[工程−330]
次いで、ソース/ドレイン電極14及びチャネル形成領域15上に、ゲート絶縁層13を形成する。具体的には、PVAをスピンコーティング法にて全面に成膜することで、ゲート絶縁層13を得ることができる。
【0065】
[工程−340]
その後、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。具体的には、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜する。ゲート電極12の成膜を行う際、ゲート絶縁層13の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。こうして、図5の(A)に示す構造を得ることができる。
【0066】
[工程−350]
最後に、実施例1の[工程−150]と同様の工程を実行することで、実施例3の半導体装置を完成させる。
【実施例4】
【0067】
実施例4も、実施例1の変形である。実施例4におけるTFTは、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型であり、図5の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(a)支持体11上に形成されたソース/ドレイン電極14、
(b)ソース/ドレイン電極14の間の支持体11の部分の上に形成されたチャネル形成領域15、
(c)チャネル形成領域15上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(d)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0068】
以下、実施例4のトップゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0069】
[工程−400]
先ず、実施例2の[工程−100]と同様にして、スピロMDT−TTFを得ておく。
【0070】
[工程−410]
一方、表面にSiO2層(図示せず)が形成されたガラス基板から成る支持体11上に、ソース/ドレイン電極を形成する。具体的には、支持体11上に、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、ソース/ドレイン電極14としての金(Au)層を真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極14の成膜を行う際、支持体11の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極14をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0071】
[工程−420]
その後、ソース/ドレイン電極14の間の支持体11上に、実施例1の[工程−130]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域15を形成する。実施例4においては、実際には、ソース/ドレイン電極14の上にチャネル形成領域延在部15Aが形成される。
【0072】
[工程−430]
次に、ソース/ドレイン電極14及びチャネル形成領域15上に(実際には、チャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A上に)、実施例3の[工程−330]と同様にして、ゲート絶縁層13を形成する。
【0073】
[工程−440]
その後、実施例3の[工程−340]と同様にして、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。こうして、図5の(B)に示す構造を得ることができる。
【0074】
[工程−450]
最後に、実施例1の[工程−150]と同様の工程を実行することで、実施例4の半導体装置を完成させる。
【0075】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。半導体装置の構造や構成、製造条件は例示であり、適宜変更することができる。本発明によって得られた電界効果型トランジスタ(TFT)を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体や支持部材に多数のTFTを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各TFTを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の有機化合物結晶を構成する接続分子の一例[構造式は構造式(1)を参照]の構造を模式的に示す図である。
【図2】図2は、実施例1の有機化合物結晶[接続分子の構造式は構造式(1)を参照]の結晶構造を示す図である。
【図3】図3は、実施例1の有機化合物結晶[接続分子の構造式は構造式(1)を参照]の各々のスタック軸方向に沿ったエネルギーバンド構造を示す図である。
【図4】図4の(A)及び(B)は、第1及び第2の構造を有する電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、第3及び第4の構造を有する電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図6】図6は、スピロMDT−TTFの合成スキームを説明する図である。
【図7】図7は、有機化合物結晶中における分子の積層構造であるヘリングボーン構造を示す概念図である。
【図8】図8は、有機化合物結晶中における分子の積層構造であるスタック構造を示す概念図である。
【図9】図9は、BMDT−TTFのエネルギーバンド構造を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
11・・・支持体、12・・・ゲート電極、13・・・ゲート絶縁層、14・・・ソース/ドレイン電極、15・・・チャネル形成領域、15A・・・チャネル形成領域延在部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層された有機化合物結晶であって、
各接続分子において、
(A)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とは、略直交しており、
(B)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とが同一平面内にあると仮定したとき、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第1のπ電子共役系分子と、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第2のπ電子共役系分子とは、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子との接続点を中心に180度回転させたとき、重なり合い、
有機化合物結晶において、
(C)隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり、
(D)隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にあることを特徴とする有機化合物結晶。
【請求項2】
第1のπ電子共役系分子及び第2のπ電子共役系分子は、カルコゲン原子を構成要素として含み、
隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子における第1のπ電子共役系分子同士が相互に連結され、隣接する接続分子における第2のπ電子共役系分子同士が相互に連結された3次元的周期構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。
【請求項3】
接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することを特徴とする請求項2に記載の有機化合物結晶。
【請求項4】
接続分子は、下記の構造式(1)[但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基のいずれかを表す]を有することを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。

【請求項5】
有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えた電界効果型トランジスタであって、
該有機化合物結晶は、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とがスピロ結合に基づき接続されて成る接続分子が、複数、積層されており、
各接続分子において、
(A)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とは、略直交しており、
(B)第1のπ電子共役系分子の分子面と第2のπ電子共役系分子の分子面とが同一平面内にあると仮定したとき、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第1のπ電子共役系分子と、官能基を有する場合には該官能基を水素原子で置き換えたとしたときの第2のπ電子共役系分子とは、第1のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子との接続点を中心に180度回転させたとき、重なり合い、
有機化合物結晶において、
(C)隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子と第1のπ電子共役系分子とは、積層状態にあり、
(D)隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子と第2のπ電子共役系分子とは、積層状態にあることを特徴とする電界効果型トランジスタ。
【請求項6】
第1のπ電子共役系分子及び第2のπ電子共役系分子は、カルコゲン原子を構成要素として含み、
隣接する接続分子を構成する第1のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子を構成する第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子間の距離が短く、
隣接する接続分子における第1のπ電子共役系分子同士が相互に連結され、隣接する接続分子における第2のπ電子共役系分子同士が相互に連結された3次元的周期構造を有することを特徴とする請求項5に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項7】
接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該接続分子に隣接する接続分子を構成する第1若しくは第2のπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することを特徴とする請求項6に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項8】
接続分子は、下記の構造式(1)[但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基のいずれかを表す]を有することを特徴とする請求項5に記載の電界効果型トランジスタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−41220(P2006−41220A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219648(P2004−219648)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】