説明

有機半導体の結晶の製造方法、有機半導体の結晶、及び有機半導体素子

【課題】有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】有機半導体の結晶の製造方法は、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合して、混合物を得るステップ(11)、並びに該混合物を冷却して、該有機半導体の結晶を得るステップ(15)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体の結晶の製造方法、有機半導体の結晶、及び有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランジスタ、表示装置用の薄膜トランジスタ、太陽電池、及び有機発光素子のような半導体素子用の半導体材料として、炭素骨格を有する有機分子で構成される有機半導体が注目されている。それらの有機化合物は、従来の無機半導体であるシリコン(Si)と比較して、安価な且つ軽量な材料であり、且つ、それら有機化合物の大面積化が容易である。一般に、有機半導体は、多くのπ電子が長い共役系を形成するような分子構造を有し、これらのπ電子が、従って電荷が、ホッピング伝導又はバンド伝導の機構に従って、有機半導体の分子間を高速に移動する。特に、5つの縮合したベンゼン環を有するペンタセンは、アモルファスシリコン(a−Si)と同程度の高い電荷移動度を示すことが、最近、明らかになっており、ペンタセンは、次世代の半導体として期待されている。
【0003】
有機半導体の電荷移動度を向上させるためには、隣接する有機半導体分子の間でπ電子軌道が互いに重なり合うことが重要である。よって、隣接する有機半導体分子の間におけるπ電子軌道の重なりが大きくなるように、有機半導体分子を、特定の方向に配向させて、有機半導体の単結晶を得ることが好ましい。
【0004】
しかしながら、ペンタセンを含む、複数の縮合したベンゼン環を備えたアセン化合物は、π電子共役系を形成する大きな且つ剛直な分子骨格を有するため、一般には、低分子からなる有機溶媒にほとんど溶解しないことが知られている。これは、ペンタセンが、比較的大きな分子量を有し、ペンタセンの細長い板状分子が、層状に積層されるため、ペンタセンの分子間に強いファンデルワールス力が働き、溶媒分子がペンタセンの分子間に浸透することを妨げることに起因する。このように、ペンタセンは、多くの溶媒に難溶であるため、液相成長の手段によって、例えば、ペンタセンを有機溶媒から再結晶することによって、大型の単結晶を作製することは、困難であった。
【0005】
よって、ペンタセンからなる有機半導体の単結晶は、主として、真空蒸着法を用いる気相成長の手段によって、形成されている。
【0006】
しかしながら、真空蒸着法を用いる気相成長の手段による有機半導体の製造方法は、以下に述べる問題を有する。真空蒸着法で形成されたペンタセンの薄膜結晶においては、ペンタセンの分子配向の空間的なばらつきにより、ペンタセンのグレインが形成される。これらペンタセンのグレインの境界においては、結晶欠陥及び表面準位によって電荷が捕捉されるため、ペンタセンの分子間における電荷の移動が抑制されてしまう。すなわち、真空蒸着法も用いて、高い電荷移動度を有するペンタセンの単結晶を形成することは、困難である。
【0007】
また、細長い板状分子であるペンタセンは、それら分子のπ電子の重なり合いにより、ペンタセンの分子平面に垂直な方向に沿って高い電荷移動度を示すことが知られているが、真空蒸着法でペンタセンの薄膜を形成した場合には、ペンタセン分子を特定の方向に配向させることが困難である。このため、電荷移動度が、所定の方向で大きくなるように、ペンタセン分子を配向させることが困難である。
【0008】
上述したような真空蒸着法を用いる有機半導体の製造方法に対して、液相成長で有機半導体の結晶を得ることが可能な有機半導体の結晶の製造方法が、特許文献1に開示されている。具体的には、特許文献1には、有機半導体を液晶に溶解させて、前記有機半導体及び前記液晶の混合液を得るステップ、及び前記混合液を冷却して、前記有機半導体の結晶を得るステップを含むことを特徴とする有機半導体の結晶の製造方法が、開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される有機半導体の結晶の製造方法においては、有機半導体の結晶を製造する効率が、必ずしも高いものではない。
【特許文献1】特開2005−216966号公報(請求項1,段落番号0007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第一の目的は、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の第二の目的は、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を提供することである。
【0012】
本発明の第三の目的は、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を含む有機半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様は、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合して、混合物を得るステップ、並びに該混合物を冷却して、該有機半導体の結晶を得るステップを含むことを特徴とする有機半導体の結晶の製造方法である。
【0014】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様である有機半導体の結晶の製造方法によって製造されることを特徴とする有機半導体の結晶である。
【0015】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様である有機半導体の結晶を含むことを特徴とする有機半導体素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第一の態様によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法を提供することができる。
【0017】
本発明の第二の態様によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を提供することができる。
【0018】
本発明の第三の態様によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を含む有機半導体素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0020】
本発明の第一の実施形態は、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合して、混合物を得るステップ、並びに該混合物を冷却して、該有機半導体の結晶を得るステップを含むことを特徴とする有機半導体の結晶の製造方法である。本発明の第一の実施形態によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法を提供することができる。
【0021】
まず、本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法においては、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合することによって、有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物を得る。有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物において、液晶分子と有機半導体の分子サイズを近づけたものにしておくことにより、双方の分子が会合しやすくなるため、液晶における有機半導体の溶解度は、従来の有機溶媒における有機半導体の溶解度よりも高くなり得る。特に、有機半導体の分子及び液晶の分子の両方が、棒状分子である場合には、液晶に有機半導体を、より容易に溶解させることができる。すなわち、有機半導体を液状の液晶に溶解させることによって、有機半導体及び液晶の溶液を得ることができる。
【0022】
次に、本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法においては、混合物を冷却して、有機半導体の結晶を得る。有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物を冷却することによって、液晶における有機半導体の溶解度を低下させて、有機半導体を結晶化し、液晶から有機半導体の結晶を分離すると共に成長させることができる。すなわち、液相成長に基づいて有機半導体の結晶を得ることができる。なお、混合物を冷却することは、混合物を、自然放置により混合物を冷却すること、及び、任意の冷却手段を用いて混合物を積極的に冷却することを含む。
【0023】
ここで、混合物に含まれる粒子は、その粒子の表面に有機半導体の成長核を発生させるか、又は、液晶の分子の配向を擾乱させることによって、有機半導体の結晶の析出又は凝集を促進することが可能である。その結果、有機半導体の結晶の成長を促進することが可能となり、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能となる。例えば、混合物における有機半導体の析出又は凝集した結晶の密度(頻度)を高めることが可能となる。
【0024】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法においては、有機半導体の結晶の析出又は凝集が、粒子に影響されるため、混合物における有機半導体の析出又は凝集した結晶の密度及び大きさを、混合物に分散する粒子の密度及び粒径によって、制御することができる。
【0025】
さらに、有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物における有機半導体の濃度を調整することによって、混合物における有機半導体の析出又は凝集した結晶の密度及び大きさを、制御することができる。また、有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物を冷却する速度を調整することによって、混合物における有機半導体の析出又は凝集した結晶の密度及び大きさを、制御することができる。なお、有機半導体、液晶、及び粒子を含む混合物を冷却する過程で、一定時間の間、混合液の温度を所定の温度に維持しておき、得られる有機半導体の結晶の成長速度を制御することも可能である。
【0026】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法は、例えば、液相成長で有機半導体の結晶を製造する方法、及び、特に、液相成長で有機半導体の単結晶を製造する方法として用いられ得る。
【0027】
本発明の第一の実施形態において、有機半導体は、半導体特性を有する有機物であれば、特に限定されない。ここで、半導体特性とは、常温で電気伝導度が10−7Ω−1−1以上10Ω−1−1以下であることを意味する。また、常温とは、20℃を意味するものとする。
【0028】
なお、有機半導体の分子の大きさは、好ましくは、液晶の分子の大きさと同程度である。有機半導体の分子の大きさが、液晶の分子の大きさと同程度である場合には、有機半導体の分子と液晶の分子との間で、相互作用が大きくなるため、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させることが可能となる。その結果、有機半導体のより大きな結晶を得ることが可能となる。
【0029】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記有機半導体の分子は、π電子共役系を備えた有機分子である。有機半導体の分子が、π電子共役系を備えた有機分子である場合には、有機半導体の結晶の導電性を高めることが可能となる。π電子共役系を備えた有機分子は、隣接する同じπ電子共役系を備えた有機分子との間でπ電子軌道の重なりを形成し、ホッピング伝導によりそれらのπ電子を有機分子間で移動させることが可能である。その結果、有機半導体の結晶の電荷移動度を高めることが可能となる。π電子共役系を備えた有機分子は、例えば、複数の縮合したベンゼン環を備えた有機分子である。π電子共役系を備えた有機分子は、より広がった縮合環系を備えた有機分子であることが好ましい。このようなπ電子共役系を備えた有機分子の化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、及びコロネンなどが挙げられる。
【0030】
より好ましくは、π電子共役系を備えた有機分子は、一直線状に縮合した複数のベンゼン環を備えた有機分子である。一直線状に縮合した複数のベンゼン環を備えた有機分子の化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、及びヘプタセンなどが挙げられる。
【0031】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記π電子共役系を備えた有機分子は、アセン化合物の分子である。π電子共役系を備えた有機分子は、アセン化合物の分子である場合には、有機半導体及び液晶の間の相溶性をさらに高めることが可能となる。ここで、アセン化合物は、一直線状に縮合した三個以上のベンゼン環を備えた有機分子の化合物である。アセン化合物としては、例えば、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、及びヘプタセンなどが挙げられる。それらのアセン化合物と分子量の近い液晶を用いることにより、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させることが可能となる。そして、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させることによって、有機半導体のより大きな結晶を得ることができる。
【0032】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記アセン化合物は、ペンタセンである。アセン化合物が、ペンタセンである場合には、より高い電荷移動度を有する有機半導体の結晶を得ることが可能となる。ペンタセンは、
【0033】
【化1】


のような分子構造を有する化合物である。このように、ペンタセンは、一直線状に縮合した五個以上のベンゼン環を備えた有機分子の化合物である。ペンタセンは、アモルファスシリコン(a−Si)と同程度の高い電荷移動度を示すため、より高い導電性を備えた有機半導体の結晶を得ることができる。
【0034】
有機半導体の形態は、特に限定されない。しかしながら、有機半導体を液晶により良好に溶解させるためには、有機半導体は、微細な粉末の形態であることが好ましい。
【0035】
本発明の第一の実施形態において、液晶は、液晶性(結晶性固体と等方性液体との間の中間の状態)を示す物質であれば、特に限定されない。液晶の分子は、しばしば、π電子共役系の剛直な骨格及びアルキル基のような柔軟な分子鎖を有する。本発明の第一の実施形態において、液晶は、少なくとも有機半導体及び粒子を、それぞれ、溶解させる又は分散させる媒質である。液晶の分子配向の分類では、ネマティック液晶、コレステリック液晶、及びスメクティック液晶などのいずれも用いることができる。また、液晶材料の分類では、ネマティック液晶の化合物としては、シアノビフェニル系化合物のようなビフェニル系化合物、シアノターフェニル系化合物のようなターフェニル系化合物、トリフルオロ系化合物、フェニルピリミジン系化合物、トラン系化合物、エステル系化合物、及び、フェニルシクロヘキサン系化合物などのいずれも用いることができる。
【0036】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記液晶は、ビフェニル系化合物及びターフェニル化合物からなる群より選択される化合物の液晶である。前記液晶が、ビフェニル系化合物及びターフェニル化合物からなる群より選択される化合物の液晶である場合には、有機半導体及び液晶の相溶性をさらに高めることができる。ビフェニル系化合物及びターフェニル化合物の分子は、π電子共役系の分子骨格を備えた細長い分子であり、一直線状に縮合した複数のベンゼン環を備えた有機半導体の分子と、分子間相互作用が強くなると考えられる。このため、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させることが可能となり、有機半導体のより大きな結晶を得ることが可能となる。
【0037】
また、有機半導体が、ペンタセンである場合には、液晶として、シアノターフェニル系液晶のようなターフェニル系の液晶を用いることが好ましい。ペンタセンとの良好な相溶性を有する液晶として、シアノターフェニル系液晶を用いると、ペンタセン及び液晶の混合液におけるペンタセンの向上させることができ、ペンタセンのより大きな単結晶を得ることが可能となる。なお、シアノターフェニル系液晶は、
【0038】
【化2】

のような分子構造を有する化合物である。このように、シアノターフェニル系液晶の分子は、三個のベンゼン環が結合したターフェニルの1位及び3’位にシアノ基及びアルキル基(R)を有する。ここで、アルキル基(R)は、直鎖又は分岐のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基などが挙げられる。
【0039】
本発明の第一の実施形態において、粒子の材料は、有機半導体の材料及び液晶の材料と異なるものであれば、特に限定されない。例えば、粒子の材料としては、SiOなどのような無機材料、並びに、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂のような有機材料を用いることができる。
【0040】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記粒子の材料は、SiO又は有機樹脂材料を含む。粒子の材料が、SiO又は有機樹脂材料を含む場合には、有機半導体を粒子の表面により容易に付着させることが可能となる。その結果、粒子の表面に有機半導体の成長核を、より容易に発生させることが可能となる。その結果、有機半導体の結晶の析出又は凝集を促進することが可能となり、有機半導体の結晶の成長を促進することが可能となる。
【0041】
また、粒子の形状は、特に限定されない。例えば、粒子の形状については、粒子は、球状粒子、棒状粒子、及びそれらの混合物などであってもよい。
【0042】
さらに、粒子の大きさは、特に限定されない。しかしながら、小型の有機半導体の単結晶を得るためには、粒子の大きさは、小さいことが好ましい。
【0043】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記粒子の直径は、10μm以下である。粒子の直径が、10μm以上であると分散度が悪くなり、実用的でない。
【0044】
本発明の第一の実施形態において、混合物は、好ましくは、有機半導体、液晶、及び粒子のみからなる混合物であるが、混合物は、有機半導体、液晶、及び粒子に加えて、有機半導体、液晶、及び粒子と異なる物質(例えば、不純物など)を含み得る。
【0045】
本発明の第一の実施形態において、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合して、混合物を得ることは、ある温度で、液晶に有機半導体が溶解すると共に粒子が分散する混合物を得ることができればよく、常温での混合物における有機半導体、液晶、及び粒子などの混合状態(溶解又は分散の状態)は、特に限定されない。なお、少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合する混合手段としては、任意の混合手段を用いることが可能である。
【0046】
本発明の第一の実施形態において、混合物を冷却して、有機半導体の結晶を得ることは、混合物を冷却することを含むものであればよく、混合物を冷却することのみからなるものであってもよく、混合物を加熱した後、加熱された混合物を冷却するものであってもよい。なお、混合物を冷却する冷却手段としては、任意の冷却手段を用いることが可能である。
【0047】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の製造方法において、好ましくは、前記混合物を得るステップは、前記液晶に前記有機半導体を溶解させると共に前記粒子を分散させることを含む。混合物を得るステップが、液晶に有機半導体を溶解させると共に粒子を分散させることを含む場合には、混合物を加熱することなく、混合物を冷却して、有機半導体の結晶を得ることが可能となる。
【0048】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の製造方法において、好ましくは、前記混合物を得るステップは、前記混合物を加熱することを含む。混合物を得るステップが、混合物を加熱することを含む場合には、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させることが可能となる。その結果、液晶における有機半導体の溶解度を増加させることが可能となり、液晶に有機半導体をより均質に溶解させることが可能となる。例えば、有機半導体、液晶、及び粒子を混合した後、その混合物を加熱する。そして、混合物を冷却することによって、有機半導体のより均質な結晶を得ることが可能となる。なお、混合物を加熱する温度は、液晶の気化する温度以下の温度である。また、常温で液晶に有機半導体が分散させられる場合であっても、混合物を加熱することによって、液晶に有機半導体を溶解させることが可能となり、混合物を冷却することによって、有機半導体の結晶を得ることが可能となる。なお、混合物を加熱する加熱手段としては、任意の加熱手段を用いることが可能である。
【0049】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記有機半導体の結晶を得るステップは、前記混合物を少なくとも二枚の基板の間に挟み込むことを含む。有機半導体の結晶を得るステップが、混合物を少なくとも二枚の基板の間に挟み込むことを含む場合には、混合物を少なくとも二枚の基板の間に挟み込むことによって、混合物を冷却することが可能となる。その結果、混合物を少なくとも二枚の基板の間に挟み込むことによって、有機半導体の結晶を、より容易に得ることが可能となる。
【0050】
本発明の第一の実施形態において、基板の形状及び寸法は、特に限定されない。例えば、基板は、厚い板であってもよく、薄いフィルムであってもよい。本発明の第一の実施形態において、基板の材料は、特に限定されない。基板の材料としては、ガラス材料のみならず、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエーテルスルホンのようなプラスチック材料を用いることができる。
【0051】
なお、少なくとも二枚の基板の間に得られた有機半導体の結晶を、少なくとも二枚の基板を取り除くと共にエタノールのような有機溶剤を使用して混合物から少なくとも液晶及び粒子を除去することによって、より容易に得ることができる。
【0052】
本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法において、好ましくは、前記少なくとも二枚の基板の間の間隔は、50μm以上である。少なくとも二枚の基板の間の間隔が、50μm以上である場合には、混合液から、析出又は凝集する有機半導体の結晶への有機半導体の成分が、比較的安定して供給されるため、有機半導体の結晶が、比較的安定して成長する。逆に、少なくとも二枚の基板の間の間隔が、50μm未満である場合には、混合液からの、析出又は凝集する有機半導体の結晶への有機半導体の成分の供給が、不足して、有機半導体の結晶の成長が、妨げられることがある。
【0053】
本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶は、本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法によって製造されることを特徴とする有機半導体の結晶である。
【0054】
本発明の第二の実施形態によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を提供することができる。
【0055】
本発明の第三の実施形態である有機半導体素子は、本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶を含むことを特徴とする有機半導体素子である。
【0056】
有機半導体素子は、本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶を含むのであれば、特に限定されない。有機半導体素子としては、例えば、電界効果トランジスタ、(表示装置用の)薄膜トランジスタ、太陽電池、半導体レーザー、発光ダイオード、及び有機発光表示素子が挙げられる。このように、本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法によって、本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶を製造することができるため、比較的大きい電荷移動度を有する様々な有機半導体素子を提供することが可能となる。それにより、有機半導体の単結晶における高速の電界移動及び電荷移動の異方性を活用することが可能となる。
【0057】
本発明の第三の実施形態によれば、有機半導体の結晶をより効率的に製造することが可能である、有機半導体の結晶の製造方法によって製造される有機半導体の結晶を含む有機半導体素子を提供することができる。
【0058】
図1は、本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法の例を概略的に説明する図である。図1に示す有機半導体の結晶の製造方法10は、有機半導体、液晶、及び微粒子を混合するステップ11、有機半導体、液晶、及び微粒子の混合物を二枚の基板の間に挟み込むステップ12、二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を加熱するステップ13、二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を冷却するステップ14、並びに、得られた有機半導体の結晶を分離するステップ15を含む。有機半導体、液晶、及び微粒子を混合するステップ11においては、ペンタセンのような有機半導体、液晶、及び微粒子の混合物を得るが、有機半導体を、液晶に溶解させずに分散させてもよい。すなわち、混合物において、有機半導体及び微粒子を、液晶に分散させてもよい。また、微粒子の直径は、10μm以下であると共に微粒子の材料は、SiO又は有機樹脂材料を含む。有機半導体、液晶、及び微粒子の混合物を二枚の基板の間に挟み込むステップ12においては、二枚の基板の間の間隔は、50μm以上である。二枚の基板は、混合物に接触するラビング処理された表面を備えた配向膜を含んでもよい。二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を加熱するステップ13において、有機半導体及び液晶の相溶性を向上させて、液晶に有機半導体を、より均一に溶解させる。ただし、微粒子は、液晶に分散したままである。二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を冷却するステップ14において、有機半導体の単結晶が、微粒子を成長核として、析出及び成長する。得られた有機半導体の結晶を分離するステップ15において、混合物から液晶及び微粒子を除去して、有機半導体の単結晶を得る。
【0059】
図2は、本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶の例を概略的に説明する図である。図2は、より具体的には、図1のステップ14で得られた、二枚の基板で挟み込まれて冷却された混合物の例を示す。図2においては、液晶21、液晶21に分散した微粒子22、液晶21に溶解した有機半導体23、及び液晶21に析出した有機半導体の結晶24が、二枚の基板25の間に挟み込まれている。図1のステップ13に示すように、二枚の基板25の間に挟み込まれた混合物を加熱したときには、有機半導体の結晶24は、析出せずに、液晶21、液晶21に分散した微粒子22、及び、液晶21に溶解した有機半導体23が、二枚の基板25の間に挟み込まれている。そして、図1のステップ14に示すように、二枚の基板25の間に挟み込まれた混合物を冷却することによって、有機半導体の結晶24が、析出及び成長し、所望の有機半導体の結晶24が、得られる。
【0060】
図3は、本発明の第三の実施形態である有機半導体素子の例を概略的に説明する図である。図3に示す有機半導体素子の例は、薄膜トランジスタ30である。薄膜トランジスタ30は、基板31、基板31上に設けられたゲート電極32、ゲート電極32を被覆する絶縁膜33、絶縁膜33上に設けられた有機半導体層34、並びに、有機半導体層34上に設けられたソース電極35及びドレイン電極36を含む。基板31、ゲート電極32、絶縁膜33、ソース電極35及びドレイン電極36は、公知の材料及び公知の方法を用いて、得られる。また、有機半導体層34は、本発明の第一の実施形態による有機半導体の結晶の製造方法によって得られた、本発明の第二の実施形態による有機半導体の結晶を含む。有機半導体層34は、公知の方法によって、絶縁膜33上に設けられる。
【0061】
次に、本発明による有機半導体の結晶の製造方法の実施例を説明する。本実施例においては、有機半導体の結晶の製造方法として、ペンタセンの結晶の製造方法を説明する。
【実施例1】
【0062】
[実施例1]
ネマティック液晶(メルク社BL−008)及びペンタセンを混合し、ペンタセン濃度が3重量%である混合液を得た。得られた混合液に、樹脂球状微粒子(日本触媒社、YS15、直径1.5ミクロン)を分散し、微粒子の密度が約0.27重量%である微粒子分散液を得た。
【0063】
次に、得られた分散液を、配向膜の無い二枚のガラス基板の間に挟み込んだ。なお、二枚のガラス基板の間の間隔は、すなわち、微粒子分散液の厚さは、75μmであった。次に、二枚のガラス基板に挟み込まれた微粒子分散液を、約250℃まで加熱し、その後、徐々に冷却した。
【0064】
微粒子分散液を冷却すると共に、偏光顕微鏡を用いて、微粒子分散液におけるペンタセンの針状、樹枝状、又は菱形状の単結晶の析出及び成長を観察し、偏光顕微鏡の1mm角の視野内において観察される、微粒子分散液におけるペンタセンの単結晶の数(成長核の数)を算出した。
【0065】
微粒子分散液の温度T(℃)及び偏光顕微鏡の1mm角の視野内において観察される、微粒子分散液におけるペンタセンの単結晶の数N(個)の関係を表1に示す。
【0066】
【表1】

[比較例1]
ネマティック液晶(メルク社BL−008)及びペンタセンを混合し、ペンタセン濃度が3重量%である混合液を得た(微粒子の分散なし)。
【0067】
次に、得られた混合液を、二枚のガラス基板の間に挟み込んだ。なお、二枚のガラス基板の間の間隔は、すなわち、混合液の厚さは、75μmであった。次に、二枚のガラス基板に挟み込まれた混合液を、約250℃まで加熱し、その後、徐々に冷却した。
【0068】
混合液を冷却すると共に、偏光顕微鏡を用いて、混合液におけるペンタセンの針状、樹枝状、又は菱形状の単結晶の析出及び成長を観察し、偏光顕微鏡の1mm角の視野内において観察される、混合液におけるペンタセンの単結晶の数(成長核の数)を算出した。
【0069】
混合液の温度T(℃)及び偏光顕微鏡の1mm角の視野内において観察される、混合液におけるペンタセンの単結晶の数N(個)の関係を表2に示す。
【0070】
【表2】

実施例1における、樹脂球状微粒子を含む微粒子分散液からのペンタセンの単結晶の析出を、比較例1における、樹脂球状微粒子を含まない微粒子分散液からのペンタセンの単結晶の析出と比較すると、微粒子分散液又は混合液を、55℃まで冷却したとき、微粒子分散液からのペンタセンの単結晶の数(成長核の数)は、樹脂球状微粒子を含まない混合液からのペンタセンの単結晶の数(成長核の数)よりも多いことが、確認できた。すなわち、ペンタセン及びネマティック液晶の混合液に樹脂球状微粒子を分散させることによって、ペンタセンの単結晶(成長核)の形成が、促進されることが確認された。
【0071】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を具体的に説明してきたが、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、これら本発明の実施の形態及び実施例を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変更又は変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第一の実施形態である有機半導体の結晶の製造方法の例を概略的に説明する図である。
【図2】本発明の第二の実施形態である有機半導体の結晶の例を概略的に説明する図である。
【図3】本発明の第三の実施形態である有機半導体素子の例を概略的に説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
10 有機半導体の結晶の製造方法
11 有機半導体、液晶、及び微粒子を混合するステップ11
12 有機半導体、液晶、及び微粒子の混合物を二枚の基板の間に挟み込むステップ
13 二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を加熱するステップ
14 二枚の基板の間に挟み込まれた混合物を冷却するステップ
15 得られた有機半導体の結晶を分離するステップ15
21 液晶
22 微粒子
23 有機半導体
24 有機半導体の結晶
25 基板
30 薄膜トランジスタ
31 基板
32 ゲート電極
33 絶縁膜
34 有機半導体層
35 ソース電極
36 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機半導体、液晶、及び粒子を混合して、混合物を得るステップ、並びに
該混合物を冷却して、該有機半導体の結晶を得るステップ
を含むことを特徴とする有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項2】
前記混合物を得るステップは、前記液晶に前記有機半導体を溶解させると共に前記粒子を分散させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の有機半導体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物を得るステップは、前記混合物を加熱することを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項4】
前記粒子の直径は、10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項5】
前記粒子の材料は、SiO又は有機樹脂材料を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項6】
前記有機半導体の結晶を得るステップは、前記混合物を少なくとも二枚の基板の間に挟み込むことを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項7】
前記少なくとも二枚の基板の間の間隔は、50μm以上であることを特徴とする請求項6に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項8】
前記有機半導体の分子は、π電子共役系を備えた有機分子であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項9】
前記π電子共役系を備えた有機分子は、アセン化合物の分子であることを特徴とする請求項8に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項10】
前記アセン化合物は、ペンタセンであることを特徴とする請求項9に記載の有機半導体の結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機半導体の結晶の製造方法によって製造されることを特徴とする有機半導体の結晶。
【請求項12】
請求項11に記載の有機半導体の結晶を含むことを特徴とする有機半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−41912(P2008−41912A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213814(P2006−213814)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】