説明

有機溶剤含有ガス処理システム

【課題】多量な回収有機溶剤中から酸成分、水分を安定に除去することができる装置を備え、該装置から分離排出される排水を河川等環境中に排出せずに有効利用することができる有機溶剤含有ガス処理システムを提供する。
【解決手段】吸着材14を充填した吸着槽13を備えた有機溶剤回収処理装置10に被処理ガスを導入し、有機溶剤を吸着処理して有機溶剤濃度が減少した処理済みガスを排出し吸着処理が完了した後に、前記有機溶剤回収処理装置の吸着槽へスチームを導入し吸着材から有機溶剤を脱着し、発生する有機溶剤含有水蒸気を凝縮、分離する溶剤分離装置20に導入する有機溶剤回収システムと、酸成分除去剤を充填させた吸着槽を有する溶剤精製装置40に、該有機溶剤回収処理装置によって分離した回収有機溶剤を導入し、有機溶剤中の酸成分の濃度が減少した処理済み有機溶剤を排出する酸成分除去用溶剤精製装置23を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を含有する被処理ガスから有機溶剤を回収し、その回収溶剤を精製し、分離排水を処理する有機溶剤含有ガス処理システムに関し、特に各種工場、研究施設等から排出される有機溶剤を含有した産業排ガスの浄化に用いられる有機溶剤含有ガス処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機溶剤含有ガス処理システムにおける有機溶剤回収装置としては、活性炭素材で被処理ガスの有機溶剤を吸着する吸着槽と、各吸着槽に対する被処理ガス供給手段と脱着用ガス供給手段とを設け、前記吸着槽に被処理ガスを供給する吸着処理装置と脱着用ガスを供給する脱着処理状態とに切り替える切り替え手段を設けて構成されている。また、上記の有機溶剤回収装置の吸着材は、粒状活性炭や活性炭素繊維、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナなどが使用されている。特に活性炭素繊維は低濃度の有機ガスを吸着する機能に優れ、古くから吸着材として使われている。
【0003】
たとえば、活性炭素繊維を支持体に固定し、または自己支持にて円筒状に構成し、芯材内にたて型に配設した装置が特許文献1や2に提案されている。また、特許文献3〜5にも同様な吸脱着装置が提案されている。これらは、いずれも、活性炭素繊維を格納している芯材に蒸気を噴出し、活性炭素繊維に吸着された有機物を脱着させるものである。該脱着された有機溶剤含有水蒸気を有機溶剤分離装置に導入し、凝縮して有機溶剤と水を分離して有機溶剤を回収する有機溶剤回収装置から構成されている。
【0004】
前記有機溶剤分離装置で分離された回収有機溶剤は、水分や酸成分が混入している場合が多く、そのまま工業利用できないケースがあることから、有機溶剤精製装置を設けて処理を行うか、あるいは精留メーカーに蒸留を委託している場合がある。有機溶剤精製装置として、有機溶剤を加熱蒸発させ、沸点の違いを利用して有機溶剤と不純物を分留することで、純度の高い有機溶剤を取得することができる蒸留精製装置が広く普及している(例えば、特許文献6または7参照)が、蒸留精製装置は大型な装置であるために広い設置スペースが必要であり、且つイニシャルコスト、ランニングコスト共に高いことが問題となっている。
【0005】
かかる問題を解決するために、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、モレキュラーシーブス、活性アルミナ等の吸着剤を充填させた吸着塔に有機溶剤を通液させて不純物を取り除く方法が知られている(例えば、特許文献8または9参照)が、多量の有機溶剤を精製する場合は多量の吸着剤が必要であり、吸着剤が破過状態になると吸着剤の交換が必要であることから、吸着剤が高価であるほどランニングコストが高くなるため、研究室レベルでは有効な手段であるが、工場や研究施設等から回収される多量の有機溶剤の精製を行うには満足できるものではなかった。
【0006】
また、前記有機溶剤分離装置で分離された排水は有機溶剤が含有しているため、そのまま河川等へ放流することができないことから、排水処理装置を設けて処理を行っている。排水処理装置として排水中の有機溶剤を揮発させて除去する曝気槽など有効な手法が開発されている(例えば、特許文献10参照)が、最終的には排水を河川等に放流する必要があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭51−38278号公報
【特許文献2】特公昭64−11326号公報
【特許文献3】実公平7−2028号公報
【特許文献4】実公平7−2029号公報
【特許文献5】実公平7−2030号公報
【特許文献6】特開2001−300206号公報
【特許文献7】特許第3832868号公報
【特許文献8】特開2000−225316号公報
【特許文献9】特開平5−220303号公報
【特許文献10】特開平2−169085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、有機溶剤回収装置から分離された酸成分、水分等を含有している回収有機溶剤の連続精製を実現し、多量の回収有機溶剤中から酸成分、水分を安定に除去することができる装置を備え、
有機溶剤回収装置から分離排出される排水を河川等環境中に排出せずに有効利用することができる有機溶剤含有ガス処理システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来技術の課題を解決するため、鋭意検討した結果、ついに本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下の通りである。
1.吸着材を充填した吸着槽を備えた有機溶剤回収処理装置に、有機溶剤を含有する被処理ガスを導入し、有機溶剤を該吸着槽で吸着処理して有機溶剤濃度が減少した処理済みガスを排出し、該吸着槽における吸着処理が完了した後に、前記有機溶剤回収処理装置の吸着槽へスチームを導入し、吸着材から有機溶剤を脱着し、それによって吸着材を再生し、再生の際に発生する有機溶剤含有水蒸気を凝縮、分離する溶剤分離装置に導入し、有機溶剤を分離して回収する有機溶剤回収システムと、
酸成分除去剤を充填させた吸着槽を有する酸成分除去用溶剤精製装置に、該有機溶剤回収処理装置によって分離した回収有機溶剤を導入し、該回収有機溶剤を該酸成分除去用溶剤精製装置で吸着処理して有機溶剤中の酸成分の濃度が減少した処理済み有機溶剤を排出する酸成分除去用溶剤精製装置を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。
【0010】
2.酸成分除去用溶剤精製装置において、酸成分除去剤が塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の内で1種類、または2種類以上を組み合わせたもので構成されている前記1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0011】
3.有機溶剤回収システムと、
該有機溶剤回収システムで回収した回収有機溶剤から酸成分を除去する酸成分除去用溶剤精製装置と、
該酸成分除去用溶剤精製装置で酸成分を除去した回収有機溶剤から水分を除去する水分除去用溶剤精製装置を備えた上記1または2に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0012】
4.水分除去用溶剤精製装置が、水分を含有する有機溶剤を吸着材に通流させて該吸着材に水分を吸着させる吸着工程と、該吸着材に乾燥空気を通流させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程の間に、水の通流により吸着材に付着した有機溶剤を除去するパージ工程を有する水分除去用溶剤精製装置である上記3に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0013】
5.水分除去用溶剤精製装置において、パージ工程で排出された有機溶剤含有パージ水を曝気槽の入口に導入するラインを備える上記3または4に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0014】
6.有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける溶剤分離装置により分離し排出される排水をクーリングタワーに導入し、クーリングタワーから該溶剤分離装置におけるコンデンサーに冷却水を導入し、使用した冷却水をクーリングタワーに戻すラインを備える上記1〜5のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0015】
7.有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける溶剤分離装置から排出された排水中の有機溶剤成分を除去する水処理手段として、排水中の有機溶剤を揮発除去する曝気槽および/または排水中の有機溶剤を含有する水を吸着素子に通流させて該吸着素子に有機溶剤を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通気させて該吸着素子に吸着された有機溶剤を脱着する脱着工程とを交互に行う吸脱着式水処理装置を、有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける該溶剤分離装置から排出された排水をクーリングタワーに導入する前に備える上記6に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0016】
8.水処理手段が、前段が曝気槽、後段が吸脱着式水処理装置であり、水処理手段により排水中から除去した有機溶剤ガスを、有機溶剤回収装置の入口に戻すラインを備える上記7に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【0017】
9.水処理手段の後段にpH を調整するための中和槽を備える上記7または8に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【発明の効果】
【0018】
本発明による有機溶剤含有ガス処理システムは、有機溶剤回収処理装置から分離された酸成分や水分を含有している回収有機溶剤を、吸着材を使用した連続精製装置に導入することで、多量の回収有機溶剤中から酸成分や水分を安定して除去することができる利点と、
有機溶剤回収処理装置から分離排出された有機溶剤含有排水を水処理装置で効果的に処理することで、排水中の有機溶剤を除去する利点と、
除去した有機溶剤を有機溶剤回収処理装置に戻すことで効果的に有機溶剤を回収できる利点と、
さらには、有機溶剤回収処理装置から分離排出された排水を、または前記水処理装置で処理された排水をクーリングタワーに導入することで、排水を排出しないシステムとすることを実現しただけでなく、有機溶剤含有水蒸気を凝縮するための溶剤分離装置のコンデンサーに必要な冷却水を排水から製造することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態の例を2つ挙げて説明する。
始めに図1にて説明する。被処理ガス11を吸着送風機12にて有機溶剤回収処理装置10に導入する。導入された被処理ガス11は吸着槽13に送られ、吸着材14を通過する際に被処理ガス中の有機溶剤を吸着除去して処理出口16から清浄空気として排出される。一方で吸着材14に脱着用スチーム15を供給することにより吸着材14から脱着された有機溶剤を含有した有機溶剤含有水蒸気17は、溶剤分離装置20に送られ、コンデンサー21で液化され、分離排水22と回収有機溶剤23に分離される。分離された回収有機溶剤23は酸成分除去用溶剤精製装置40に導入される。一方、分離排水22は曝気槽31に導入されて曝気処理し、中和槽32に導入されて中和処理後、クーリングタワー33に導入されるシステムである。
【0020】
次に図2について説明する。被処理ガス11を吸着送風機12にて有機溶剤回収処理装置10に導入する。導入された被処理ガス11は吸着槽13に送られ、吸着材14を通過する際に被処理ガス中の有機溶剤を吸着除去して処理出口16から清浄空気として排出される。一方で吸着材14に脱着用スチーム15を供給することによりに吸着材14から脱着された有機溶剤を含有した有機溶剤含有水蒸気17は、溶剤分離装置20に送られ、コンデンサー21で液化され、分離排水22と回収有機溶剤23に分離される。分離された回収有機溶剤23は酸成分除去用溶剤精製装置40に導入され、被処理回収有機溶剤タンク51に導入される。被処理回収有機溶剤タンク51から吸着材が充填された水分吸着塔52に回収有機溶剤が導入され、吸着材が回収有機溶剤中の水分を吸着除去し、回収有機溶剤タンク53導入される。一方、パージ用水タンク54から水用ポンプ55を用いて、水分吸着塔52に水を導入し、水分吸着塔52内の吸着材に付着している残存有機溶剤をパージさせて、パージ水曝気槽導入ライン58を通って曝気槽31に導入される。その後、コンプレッサー56から乾燥空気を水分吸着塔52に導入し、吸着材に吸着した水分を脱着する。このときの使用済み乾燥空気はパージ水曝気槽導入ライン58を通じて曝気槽31に導入される。また、溶剤分離装置20で分離された有機溶剤を含有した分離排水22は、曝気槽31に導入されて有機溶剤を揮発除去し、戻りガス導入ライン34を通じて有機溶剤回収処理装置10の入口である被処理ガス11に戻す。曝気槽31で処理後の排水は、吸脱着式有機溶剤含有水処理装置60に導入され、吸着材61に導入され有機溶剤を吸着除去し、処理した排水は中和槽32に導入され、中和後クーリングタワー33に導入される。クーリングタワーで排水から製造した冷却水は溶剤分離装置20におけるコンデンサー21に供給する。一方で、パージ空気供給送風機64で空気を供給して、吸着後の吸着材61に付着している水をパージ処理し、その水は戻り水ライン65を通じて吸着材61の入口に戻す。パージ処理後に脱着ガス供給送風機62から供給した空気を脱着ガス用ヒーター63にて加熱した加熱空気で有機溶剤を脱着する。曝気槽31で揮発された有機溶剤含有空気と吸脱着式有機溶剤含有水処理装置60で脱着された有機溶剤含有空気は戻りガスライン66を通じて有機溶剤回収処理装置10の入口である被処理ガス11に戻すシステムである。
【0021】
本発明にかかる有機溶剤回処理収装置の吸着材は、粒状活性炭、活性炭素繊維、ゼオライト、シリカゲルなど特に限定されるものではないが、特に活性炭素繊維が好ましい。かかる吸着材における活性炭素繊維は粒状活性炭と比較して吸着速度が速く、低濃度の有機ガスを吸着する機能に優れているためである。
【0022】
本発明にかかる酸成分除去用溶剤精製装置は、安価な吸着剤を充填させた吸着交換フィルターユニット式の精製装置が好ましい。該吸着剤は、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の内で1種類、または2種類以上の組み合わせが好ましい。該吸着剤の形状は、粒状、粉体状、ハニカム状等特に限定されるものではないが、成形が容易で、液体状の溶剤を流入させるときに圧損が低く、吸着剤の系外への流出がほとんどない粒状が好ましい。粒形の大きさは吸着剤が流出しにくいように0.3mm以上であることが好ましい。また、例えば粒状の炭酸カルシウムを用いる場合、粉末状の炭酸カルシウムを造粒する方法もあるが、炭酸カルシウム成分が90%以上を占める石灰石や寒水石等の自然石を破砕したものを用いることも安価で効果的である。
【0023】
酸成分除去用溶剤精製装置において除去可能な酸成分は、強酸である塩酸、硫酸、過塩素酸、弱酸である硝酸、酢酸、ギ酸、炭酸等であり、特に限定されるものではないが、コストを勘案しつつ酸成分によって適した吸着剤を選定することが好ましく、酢酸を除去するためには安価な炭酸カルシウムを選定することが好ましい。
【0024】
本発明にかかる水分除去用溶剤精製装置としては、吸着材を用いた連続吸脱着式が好ましい。ワンパスの吸着交換フィルターユニット式と比較して、吸着材の寿命が飛躍的に長く、吸着材の交換によるランニングコストを大幅に抑えることが可能である。該吸着材として、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナを用いても良いが、陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。陽イオン交換樹脂は有機溶剤を吸着せず水分だけを吸収可能であるだけでなく、その水分の吸着保持量が他の吸着材と比較して2〜20倍と高く、粒状または繊維状であることから吸着槽への充填量を多くでき、液体状の有機溶剤と吸着材との接触効率が高く効率的に水分吸着できるからである。
【0025】
水分除去用有機溶剤精製装置において、有機溶剤を吸着材に導入して水分を吸着させる吸着工程と、乾燥空気を吸着材に導入して吸着材中の水分を脱着させる脱着工程の間に、吸着材に付着した有機溶剤を水でパージするパージ工程を入れることが好ましい。つまり、パージ工程で吸着材に付着した有機溶剤を除去することで、その後の脱着工程において吸着材の乾燥が容易になるだけでなく、付着した有機溶剤を回収することができるため、効率的だからである。
【0026】
水分除去用有機溶剤精製装置にかかる吸着材の運転は、吸着槽を2つ以上設けた連続除去可能なシステムを採用することが好ましいが、除去すべき含有水分量、被処理有機溶剤の量等を勘案して、間欠運転としてもよい。含有水分の量あるいは被処理有機溶剤の量が少ない条件では、連続運転であることまで要求されず、運転コストを削減できるからである。
【0027】
本発明にかかるクーリングタワーは、開放式、密閉式と特に限定されるものではないが、排水量によって最適なクーリングタワーを選定することが好ましい。また、開放式を採用したときのクーリングタワーの構造も然りで、排水量によって角型か丸型か最適な形状を選定することが好ましい。更に、クーリングタワーによって排水から製造された冷却水の使用に関して特に限定されるものではないが、有機溶剤分離装置におけるコンデンサーに使用することがより好ましい。
【0028】
本発明にかかる有機溶剤回収処理装置とクーリングタワーの中間に設置する排水処理装置は、曝気式、吸着交換フィルターユニット式、吸脱着処理式、活性汚泥式と特に限定されるものではないが、曝気式および/または吸脱着処理式水処理装置が好ましい。有機溶剤を高濃度で含有する場合が多いため、吸着交換フィルターユニットは交換頻度が多くなり、活性汚泥式では設置スペースを広く必要になるからである。
【0029】
曝気式排水処理装置において、有機溶剤の揮発を促進させるために加熱することが好ましい。このとき、熱交換器等を使用することで、有機溶剤回収処理装置から脱着した有機溶剤含有水蒸気の潜熱または顕熱を曝気槽中の排水の加熱源として利用することが経済的に更に好ましい。
【0030】
吸脱着処理式排水処理装置の吸着材は、粒状、粉体状、繊維状、ハニカム状の活性炭やゼオライトやシリカゲルや活性アルミナ等が挙げられるが、特に活性炭素繊維を用いた連続吸脱着方式の排水処理装置であることが好ましい。つまり、活性炭素繊維は表面にミクロ孔を有する事と繊維状構造であることで水との接触効率が高いことで、特に水中の有機溶剤の吸着速度が速くなり、他の構造に比べて極めて高い除去効率を発現でき、更に高効率処理のために導入するパージ工程においてガスの流通により吸着素子表面の水滴を除去する際にも、容易に水滴の除去が可能となるからである。
【0031】
排水処理装置において、曝気式および/または吸脱着式水処理装置の下流に中和槽を設けることが好ましい。曝気式および/または吸脱着式水処理装置から排出される排水のpH は酸性であることから、中和することでクーリングタワーや配管の腐食を抑制することができるためである。
【0032】
排水処理装置において、戻りガスラインを通じて揮発または脱着された有機溶剤含有空気を有機溶剤回収処理装置の入口に戻すことが好ましい。発生した有機溶剤含有空気から更に有機溶剤を回収することができ効率的だからである。
【0033】
本発明にかかる有機溶剤含有ガス処理システムにおいて、処理可能な有機溶剤は酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、ヘプタノン、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、PGMEA、PGME、メタノール、エタノール、プロパノール、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等特に限定されるものではなく、その混合物であっても例外ではない。
【0034】
本発明にかかる有機溶剤含有ガス処理システムにおけるクーリングタワーから排出される空気において、微量濃度の有機溶剤が含有している場合、有機溶剤含有ガス濃縮処理装置を用いてクーリングタワーから排出される空気中の有機溶剤を濃縮し、有機溶剤回収処理装置の入口に戻すことが好ましい。図3は有機溶剤含有ガス濃縮処理装置の原理を示したものである。同図において、大風量・低濃度の揮発性有機化合物(VOC)含有ガス中の有機溶剤を吸着するための有機溶剤含有ガス濃縮処理装置90は、回転中心軸96まわりに回転可能な円筒形のケース91を有しており、このケース91内にVOCを吸着するためのハニカム構造(連通路を中心軸方向に向けている)からなる吸着材95が収納され全体として筒状吸着体を構成している。吸着材95はVOC含有ガスの成分に応じて活性炭素繊維やゼオライトペーパー等が適宜選択される。筒状吸着体が回転する移動経路上には吸着部93と脱着部97が区画されており、吸着材95がそれら吸着部93と脱着部97とを交互に通過するようになっている。上記吸着部93には、例えば工場内で発生したVOC含有ガスを導入するためのVOC含有ガス供給管92と、有機溶剤含有ガス濃縮処理装置90の吸着材95によって浄化された清浄空気を工場へ送り出すための浄化空気送出管94が設けられている。また、脱着部97には、VOCを吸着した吸着材95に対し例えば180℃の高温乾燥空気、すなわち脱着用加熱空気を吹き付けるための脱着用空気供給管98が設けられており、脱着用加熱空気の風量がVOC含有ガスの風量の1/2〜1/50程度に設定されていることにより脱着されるガスが濃縮されるようになっている。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によりさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、評価は下記の方法によりおこなった。
【0036】
(酢酸エチル、酢酸、エタノール、塩化メチレン溶剤濃度評価)
入口・出口の濃度をガスクロマトグラフ法により分析し測定した。
【0037】
(溶剤中の水分濃度評価)
回収した有機溶剤の水分濃度をカールフィッシャ―水分濃度計を用いて分析した。
【0038】
(除去率)
除去率(%)=(装置入口ガス濃度−装置出口ガス濃度)/装置入口ガス濃度×100
【0039】
[実施例1]
図2に示す有機溶剤含有ガス処理システムを使用し、酢酸エチル2000ppmを含む40℃の被処理ガス11を、有機溶剤回収処理装置10に導入した。その際に風量100Nm/分で吸着送風機12より吸着槽13に送風し、吸着槽13で吸着材14として平均細孔径17.4Å、BET比表面積1650m/g、全細孔容積0.66cm/gの活性炭素繊維を使用し、9分間吸着を行い、清浄空気を排出した。その際の清浄空気の酢酸エチル濃度は20ppm以下であり、99%の除去率で処理をした。その後自動ダンパーで吸着槽13への送風を封鎖し、次に吸着槽の活性炭素繊維に脱着用スチーム15を噴出した。この処置と同時に別の吸着槽の自動ダンパーを開放し、今度はこの吸着槽で酢酸エチルガスの吸着処理を行った。この吸着と脱着の操作を繰り返し実施した。
【0040】
有機溶剤回収処理装置10から得られた有機溶剤含有水蒸気17を、溶剤分離装置20に送りコンデンサー21で冷却し、酢酸エチル主体の回収有機溶剤23と酢酸エチルが微量に含まれた分離排水22を得た。回収有機溶剤中の酢酸エチル濃度は96.8重量%、水分濃度は3.1重量%、エタノール濃度は400ppm、酢酸濃度は600ppmであり、分離排水の酢酸エチル濃度は40000ppm、酢酸濃度は2000ppm、エタノール濃度は2000ppmで、水量は310kg/hrの量であった。
【0041】
前記回収有機溶剤を、平均粒形1.5mmの寒水石(新見化学工業株式会社製)の吸着剤を重量1000g充填させた酸成分除去用溶剤精製装置40に導入した。その際の出口酢酸濃度の経時変化を確認した結果、SV=10(1/h)のとき出口酢酸濃度は60ppm以下、出口水分濃度3.1重量%を示した。酢酸を除去処理した回収有機溶剤を、平均粒形0.7mmの陽イオン交換樹脂(Na型、スルホン酸基、MuromacDW2−1、ムロマチテクノス株式会社製)の吸着材を30重量kg充填させた水分吸着塔52に導入した。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、SV=5(1/h)のとき水分濃度が0.5重量%以下の回収有機溶剤を360kg/day得た。次に、水パージ工程として、パージ用水タンク54から水用ポンプ55を使用しパージ水を水分吸着塔52に導入した際の出口水中の酢酸エチル濃度を測定した。その結果、SV=20(1/h)のとき吸着材体積の4倍量の水量で吸着材に付着している酢酸エチルを95%以上除去可能と良好な除去性能を示した。このときの酢酸エチル含有パージ水は溶剤分離装置20へ導入した。続いて、脱着工程における脱着ガスとして、20℃、−10℃DPの乾燥空気を使用し、脱着のSVを2000(1/h)とした。吸着工程における吸着時間は1h、水パージ工程における時間を10min、脱着工程における脱着時間は23hとして吸脱着サイクルとした。
【0042】
前記分離排水22を曝気槽31に導入した。曝気槽中の排水は40℃から70℃に加温し、エアレーションを行った。曝気槽31で処理した排水の濃度は酢酸エチル40ppm以下であり、除去率99%以上にて処理できた。また、酢酸100ppm、エタノール50ppmの濃度まで低下することができた。また、この際に揮発した溶剤ガスは戻りガス導入ライン34を通じて有機溶剤回収処理装置10の入口である被処理ガス11に戻した。次に、曝気槽31に導入された排水を吸脱着式有機溶剤含有水処理装置60に導入し、吸着材61で排水中の溶剤を吸着させた。このときの排水の濃度は酢酸エチル3ppm以下、酢酸5ppm以下、エタノール3ppm以下であった。パージ、加熱脱着させた溶剤含有ガスは戻りガスライン66を通じて有機溶剤回収処理装置10の入口である被処理ガス11に戻した。その後、処理した排水を中和槽32に導入し、pHを7に中和した。このときの排水のBODは30mg/L以下、CODは10mg/L以下であった。その後、クーリングタワー33に排水を導入し、排水から冷却水を製造し、コンデンサー21に製造した冷却水を導入した。このとき、コンデンサー21に必要な冷却水19m/hrの内、補給冷却水1m/hr中における28%の280kg/hrをクーリングタワーから供給することができた。
【0043】
本実施例の有機溶剤含有ガス処理システムは、100時間後でも有機溶剤回収装置の除去率、溶剤精製装置の性能、水処理装置除去率共に90〜99%の効率で処理が可能であった。吸着と脱着を連続して行い処理するため、性能低下がなく安定して高い効率で処理ができる。更に、排水を冷却水として利用することができるため、経済的に効率的であるだけでなく、排水を環境中に排出しない利点も付加することができた。
【0044】
[実施例2]
図1に示す有機溶剤含有ガス処理システムを使用し、塩化メチレン2000ppm、酢酸5ppm含む30℃の被処理ガス11を、有機溶剤回収処理装置10に導入した。その際に風量100Nm/分で吸着送風機12より吸着槽13に送風し、吸着槽で吸着材14として平均細孔径17.4Å、BET比表面積1650m/g、全細孔容積0.66cm/gの活性炭素繊維14を使用し、9分間吸着を行い、清浄空気を排出した。その際の清浄空気の塩化メチレン濃度は20ppm以下であり、99%以上の除去率で処理をした。その後自動ダンパーで吸着槽13への送風を封鎖し、次に吸着槽の活性炭素繊維に脱着用スチーム15を噴出した。この処置と同時に別の吸着槽の自動ダンパーを開放し、今度はこの吸着槽で塩化メチレンガスの吸着処理を行った。この吸着と脱着の操作を繰り返し実施した。
【0045】
有機溶剤回収処理装置10から得られた有機溶剤含有水蒸気17を、溶剤分離装置20に送りコンデンサー21で冷却し、塩化メチレン主体の回収有機溶剤23と塩化メチレンが微量に含まれた分離排水22を得た。回収有機溶剤中の塩化メチレン濃度は99.5重量%、酢酸濃度は2500ppmであった。
【0046】
前記回収有機溶剤を、平均粒形1.5mmの寒水石(新見化学工業株式会社製)の吸着剤を重量1000g充填させた酸成分除去用溶剤精製装置40に導入した。その際の出口酢酸濃度の経時変化を確認した結果、SV=10(1/h)のとき出口酢酸濃度は250ppm以下を示した。
【0047】
本実施例の有機溶剤含有ガス処理システムは、100時間後でも有機溶剤回収装置の除去率、溶剤精製装置の性能共に90〜99%の効率で処理が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の有機溶剤含有ガス処理システムは、有機溶剤回収処理装置から回収される有機溶剤の簡便且つ高効率な精製、排出される分離排水の連続浄化、並びに排水の冷却水化による無排水システムを実現した。多量有害有機物質を高効率且つ安定に除去することができる処理装置であるため、設備増大を必要とせずに、コスト低減でき、有害物質安定除去でき、特に研究所や工場等の幅広い分野に利用することができ、産業界に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の好ましい形態の例である有機溶剤含有ガス処理システムである。
【図2】本発明の好ましい形態の例である有機溶剤含有ガス処理システムである。
【図3】有機溶剤濃縮処理システムの一例である。
【符号の説明】
【0050】
10 有機溶剤回収処理装置
11 被処理ガス
12 吸着送風機
13 吸着槽
14 吸着材(活性炭素繊維)
15 脱着用スチーム
16 処理出口
17 有機溶剤含有水蒸気
20 溶剤分離装置
21 コンデンサー
22 分離水
23 回収有機溶剤
31 曝気槽
32 中和槽
33 クーリングタワー
34 戻りガス導入ライン
35 コンデンサー導入ライン
36 コンデンサー排出ライン
40 酸成分除去用溶剤精製装置
50 水分除去用吸脱着式溶剤精製装置
51 被処理有機回収溶剤タンク
52 水分吸着塔
53 回収有機溶剤タンク
54 パージ用水タンク
55 水用ポンプ
56 コンプレッサー
57 戻りライン
58 パージ水曝気槽導入ライン
60 吸脱着式有機溶剤含有水処理装置
61 吸着材(活性炭素繊維)
62 脱着ガス供給送風機
63 脱着ガス用ヒーター
64 パージ空気供給送風機
65 戻り水ライン
66 戻りガスライン
90 有機溶剤含有ガス濃縮処理装置
91 回転可能な円筒形のケース
92 VOC含有ガス供給管
93 吸着部
94 浄化空気送出管
95 吸着剤
96 回転中心軸
97 脱着部
98 脱着用空気供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材を充填した吸着槽を備えた有機溶剤回収処理装置に、有機溶剤を含有する被処理ガスを導入し、有機溶剤を該吸着槽で吸着処理して有機溶剤濃度が減少した処理済みガスを排出し、該吸着槽における吸着処理が完了した後に、前記有機溶剤回収処理装置の吸着槽へスチームを導入し、吸着材から有機溶剤を脱着し、それによって吸着材を再生し、再生の際に発生する有機溶剤含有水蒸気を凝縮、分離する溶剤分離装置に導入し、有機溶剤を分離して回収する有機溶剤回収システムと、
酸成分除去剤を充填させた吸着槽を有する酸成分除去用溶剤精製装置に、該有機溶剤回収処理装置によって分離した回収有機溶剤を導入し、該回収有機溶剤を該酸成分除去用溶剤精製装置で吸着処理して有機溶剤中の酸成分の濃度が減少した処理済み有機溶剤を排出する酸成分除去用溶剤精製装置を備えた有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項2】
酸成分除去用溶剤精製装置において、酸成分除去剤が塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の内で1種類、または2種類以上を組み合わせたもので構成されている請求項1に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項3】
有機溶剤回収システムと、
該有機溶剤回収システムで回収した回収有機溶剤から酸成分を除去する酸成分除去用溶剤精製装置と、
該酸成分除去用溶剤精製装置で酸成分を除去した回収有機溶剤から水分を除去する水分除去用溶剤精製装置を備えた請求項1または2に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項4】
水分除去用溶剤精製装置が、水分を含有する有機溶剤を吸着材に通流させて該吸着材に水分を吸着させる吸着工程と、該吸着材に乾燥空気を通流させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程の間に、水の通流により吸着材に付着した有機溶剤を除去するパージ工程を有する水分除去用溶剤精製装置である請求項3に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項5】
水分除去用溶剤精製装置において、パージ工程で排出された有機溶剤含有パージ水を曝気槽の入口に導入するラインを備える請求項3または4に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項6】
有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける溶剤分離装置により分離し排出される排水をクーリングタワーに導入し、クーリングタワーから該溶剤分離装置におけるコンデンサーに冷却水を導入し、使用した冷却水をクーリングタワーに戻すラインを備える請求項1〜5のいずれかに記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項7】
有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける溶剤分離装置から排出された排水中の有機溶剤成分を除去する水処理手段として、排水中の有機溶剤を揮発除去する曝気槽および/または排水中の有機溶剤を含有する水を吸着素子に通流させて該吸着素子に有機溶剤を吸着させる吸着工程と、該吸着素子に高温の加熱ガスを通気させて該吸着素子に吸着された有機溶剤を脱着する脱着工程とを交互に行う吸脱着式水処理装置を、有機溶剤を分離・回収する有機溶剤回収システムにおける該溶剤分離装置から排出された排水をクーリングタワーに導入する前に備える請求項6に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項8】
水処理手段が、前段が曝気槽、後段が吸脱着式水処理装置であり、水処理手段により排水中から除去した有機溶剤ガスを、有機溶剤回収装置の入口に戻すラインを備える請求項7に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。
【請求項9】
水処理手段の後段にpH を調整するための中和槽を備える請求項7または8に記載の有機溶剤含有ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−149040(P2010−149040A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329582(P2008−329582)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】