説明

有機発光素子用基板に有機層を蒸着させる装置および方法

【課題】 有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着において、部分的な材料劣化や、歩留まり低下、コスト上昇起こすことなく大面積蒸着が可能とする。
【解決手段】 有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる装置であって、真空チャンバー10と、該真空チャンバー内に設けられた、該被処理基板を支持するための基板支持部材と、該真空チャンバー内に該被処理基板と対向するように設けられた、気化すべき有機材料を配するための少なくとも1つの蒸着源12と、該蒸着源に隣接または近接して設けられた、各々独立に温度制御可能な複数の温度制御手段13であって、該温度制御手段の各々の温度制御により、該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を、各々独立に温度制御可能とする温度制御手段とを備えてなる装置、ならびに有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信の高速化と応用範囲の拡大が急速に進んでいる。この中で、表示デバイスには携帯性や動画を表示することなどの要求に対応できるような低消費電力で高速応答が可能な高精細表示デバイスが考案されている。特に有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、有機EL素子とも記す。)では、1987年にイーストマンコダック社のC.W.Tangにより2層積層構成のデバイスで高い効率の有機EL素子が発表されて以来(非特許文献1)、現在にいたる間に様々な有機EL素子が開発されて一部実用化し始めている。
【0003】
有機EL素子は発光層を含めホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層等によって構成されており、これらは有機材料からなる有機層によって構成されている。このような有機層の材料には、低分子材料と高分子材料の2種類があり、低分子材料を用いた有機膜の場合、主に真空蒸着法により形成される。高分子系材料は溶剤に溶解させて溶液として用い、主にスピンコーター法、インクジェット法などにより有機膜が形成される。
【0004】
上記の低分子系有機材料を用いた有機化合薄膜を有する素子の成膜方法として、主に加熱蒸着方法が採用されており、一般的にはルツボなどに材料を収容し、外側からヒーターなどで加熱する間接加熱方法が取られている。有機EL量産設備においては、その製膜面積内において膜厚分布が中心値から±5%以下が望まれている。こうした要請に対して点蒸着源に近い方法やラインソースと呼ばれる方法を用いて大面積製膜技術の向上が図られている。
【0005】
一方、有機EL素子の発光層を形成する部分は、パネルのコストダウンのためには,材料の利用効率を向上させることが不可欠とされている。現状では、点蒸着源を使用すると蒸気流のほとんどが装置側壁に付着し、製膜基板にはわずかにしか蒸着されないため、その利用効率は非常に低い。このため、特許文献1に見られるようなラインソースと呼ばれる方法では、製膜基板−蒸着源距離を短くすることおよび長手方向に良好な膜厚分布を有するので、材料の利用効率および大面積化の点で優れている。
【0006】
【特許文献1】特開2003-7464号公報
【非特許文献1】C.W,Tang,S.A.VanSlyke,Appl.Phys.Lett.51,913(1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蒸着する有機材料は、その性質により昇華する材料もあれば、溶融した後に蒸発する材料もある。そのために、材料の加熱方法は複雑で、特に昇華性材料の場合、加熱された壁面に接した材料が優先的に気化するために膜厚分布に変化が生じる。このため蒸着源そのものを振動させて蒸着する方法も提案されている。また、有機EL素子に適用される各有機材料は、それぞれ固有の温度−蒸気圧特性を有する。一般に昇華性材料における温度−蒸気圧特性は、その所定の蒸気流を得るための温度範囲が、非常に狭く、温度に対して敏感であると言われている。有機材料は、その分子量や分子構造によって、その分解温度や分解温度が決定される。そのため、蒸着時に有機材料を加熱する場合、その昇温過程は精密に制御されることが重要となる。
【0008】
図3に、従来のラインソース型蒸着装置の、ラインソースと平行な鉛直平面による模式的な断面図を示す。蒸着装置は、真空チャンバー110と、被処理基板を支持するための基板支持部材と、蒸着源であるルツボ(ラインソース)112と、ヒーターとを含む。気化すべき有機材料126を投入するための蒸着源(ルツボ)112と、蒸着源を加熱するためのヒーター(図示せず)とは収納ケース111に収納されている。また、真空チャンバーの側壁の内側には、有機材料(蒸着材料)が真空チャンバーの内壁を汚染することを防ぐために、防着板115が設けられている。さらに、真空チャンバーは、その内部を減圧するための排気装置116に接続されている。ヒーターは、ヒーター用電源117に接続されており、電気的に加熱することができる。また、真空チャンバー内には、蒸着膜の膜圧を測定するための膜厚計測用センサー118が設けられており、膜厚計測用センサーは、膜厚計測計119に接続されている。このような蒸着装置内の所定の位置に、有機発光素子用の被処理基板を配置し、気化すべき有機材料が投入された蒸着源を加熱して、有機材料を気化させ、被処理基板上に蒸着させることができる。図3に、蒸着処理の際の有機材料の蒸気流114を破線矢印で示す。
【0009】
蒸着源112内の上記したような性質を有する有機材料を、大面積でしかも均一に気化させるためには、その温度管理は重要である。しかしながら、蒸着源が大型化するほど熱容量も大きくなり、均熱化までに膨大な時間が必要となり、製膜時に蒸着源を均一に温度制御することが非常に困難となる。そのため、蒸着源周囲および蒸着源内に収容する有機材料内に温度分布が生じやすくなる。その結果、蒸着源中の材料中で温度差が生じ、部分的な材料劣化が起こる可能性が高く、歩留まり低下やコスト上昇の要因の一つとなっている。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、以上のような量産時に発生する諸問題を解決し大面積蒸着が可能であるラインソースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一の側面によると、有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる装置であって、真空チャンバーと、該真空チャンバー内に設けられた、該被処理基板を支持するための基板支持部材と、該真空チャンバー内に該被処理基板と対向するように設けられた、気化すべき有機材料を配するための少なくとも1つの蒸着源と、該蒸着源に隣接または近接して設けられた、各々独立に温度制御可能な複数の温度制御手段であって、該温度制御手段の各々の温度制御により、該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を、各々独立に温度制御可能とする温度制御手段とを備えてなる装置が提供される。また、本発明の他の側面によると、有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる方法であって、真空チャンバー内に蒸着源と対向するように被処理基板を配するステップと、該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を各々独立に温度制御して、該領域の各々で該有機材料を気化させ、被処理基板上に蒸着させるステップとを含む方法が提供される。また、本発明の他の側面によると、当該蒸着方法を用いて得られた有機発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0012】
以下に詳細に説明するように、本発明によれば、一つの蒸着源において、隣接する温度制御手段からの熱干渉を抑制するために、各温度制御手段を熱的に独立させることによって、温度制御性が高く、昇温時の過昇温を抑制することが出来る。このため、本発明によると、有機材料に熱ダメージを与えることなく、製膜速度の管理や膜厚分布の変化を抑制することが可能であり、低コストで歩留まりが高い有機発光素子用基板上に有機層を蒸着させる装置および方法を実現することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
上記したように、本発明にかかる蒸着装置は、真空チャンバーと、真空チャンバー内に設けられた、被処理基板を支持するための基板支持部材と、真空チャンバー内に被処理基板と対向するように設けられた、気化すべき有機材料を配するための少なくとも1つの蒸着源と、蒸着源に隣接または近接して設けられた複数の温度制御手段とを備えてなる。蒸着装置は、好ましくは蒸着源と温度制御手段とを収納する収納ケースとを備えてなる。温度制御手段は、各々独立に温度制御可能であり、これにより、温度制御手段の各々の温度制御により、該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を、各々独立に温度制御可能とする。
【0015】
蒸着源は、特に限定されるものではなく、目的の有機発光素子用の被処理基板に蒸着処理するのに十分な大きさを有するものが使用される。ここで、特許文献1に記載のように、移動可能な蒸着源を用いることで目的の被処理基板の大きさ(被処理面積)と比べて、小さい蒸着源を用いることができる。蒸着源は、任意の形状でよく、例えば、ラインソースと呼ばれる一次元的で線状のものや、二次元的で面状のものとすることができる。線状の蒸着源を用いる場合は、温度制御手段を、蒸着源の長手方向に線状に並べて配置することができ、この場合、温度制御可能な領域は、蒸着源の被処理基板に対向する面において、蒸着源の長手方向に並んで存在する。また、面状の蒸着源を用いる場合は、温度制御手段を二次元的に並べて配置することができ、この場合、温度制御可能な領域は、蒸着源の被処理基板に対向する面において、被処理面と平行な方向に二次元的に並んで存在する。
【0016】
温度制御手段として、蒸着源を加熱することができるヒーターおよび蒸着源を冷却することができる冷却手段を用いることができる。すなわち、有機材料を気化させるために、各蒸着源が少なくとも1つのヒーターと隣接または近接していることが必要であるが、より精密に温度を制御するために、冷却手段をさらに用いることもできる。ヒーターは、特に限定されるものではなく、例えば、ヒーター用電源に接続され、通電することで加熱可能なものを用いることができる。また、冷却手段は、特に限定されるものではなく、例えば、冷却管を蒸着源に隣接または近接して設け、その中に冷却流体や冷却ガスを流すことで蒸着源を冷却することができる。
【0017】
第一の実施の形態にあっては、蒸着装置が複数の蒸着源を備えてなり、複数の蒸着源が各々独立に温度制御可能となるように、蒸着源の各々に対して、少なくとも1つの温度制御手段が設けられている。図1に、本発明の第一の実施の形態にかかるラインソース型蒸着装置の、ラインソースと平行な鉛直平面による模式的な断面図を示す。図1に示すように、第一の実施の形態にかかる蒸着装置にあっては、真空チャンバー10内に、上部が開いた複数の円筒状の蒸着源(ラインソース)12が配置され、蒸着源の底部に有機材料(図示せず)が投入される。さらに、蒸着源の各々に対して、2つずつのヒーター13が設けられている。2つのヒーターは、蒸着源の底部または上部を各々独立に温度制御可能に設けられている。このように、ラインソースの長手方向に、それぞれ熱的に独立したヒーターが並べて配置される。これにより、各ヒーターは、隣接する蒸着源に設けられているヒーターに、実質的に熱的に影響を与えずに、1つの蒸着源のみを温度制御可能となる。すなわち、第一の実施の形態にあっては、各蒸着源内部の領域の各々が、独立に温度制御される。なお、図1に、蒸着処理の際の有機材料の蒸気流14を破線矢印で示す。
【0018】
本発明によると、特に長手方向で生じやすい温度分布を個々のヒーターによって制御することが可能となり、温度勾配を緩和することができる。これにより、収納ケースの中心付近および長手方向端部付近における蒸気流密度を平準化しやすくなり、被処理基板の全面における製膜速度を平準化しやすくなる。また、温度制御を精密に出来るため、過昇温を抑制し、温度による材料劣化を低減できる。
【0019】
また、第一の実施の形態によると、隣接するヒーター間を分離することによって、互いの熱的な干渉を特に小さくすることが可能となる。また、第一の実施の形態によると、複数の蒸着源を設けることで、1つの蒸着源を用いる場合と比べて、蒸着源および蒸着源に投入される有機材料の熱容量をより小さくすることができる。このように熱容量を低減することによって、応答性を向上させることができ、ヒーター等による温度制御をより精密にできるようになる。
【0020】
すなわち、特にラインソースでは長手方向と奥行方向ではその長さの比が大きく異なる。このため、奥行方向で生じる温度差より長手方向で生じる温度差を低減することが重要となる。しかしながら、上記で述べたように、蒸着源を一体物とし、その長手方向に一体物のヒーターを設けた従来の構造では、蒸着源端部と中心部では中心部の温度が上がりやすい傾向にある。これは中心部には熱が篭りやすく、ヒーターの影響を大きく受けるからである。このため、上記したように、例えば、複数の蒸着源の各々に対してヒーターを設けることで、各々独立に温度制御可能な複数の領域を設けることによって、長手方向の温度差を低減することが可能となる。
【0021】
また、上記したように、従来のラインソース型の蒸着装置にあっては、中心部と端部では温度差が生じやすくなる。すなわち、中心部付近は温度が上昇し、端部付近は温度が低下傾向になる。この場合、蒸着源中の有機材料の温度にも中心部と端部で温度差が生じる。一般的に、有機材料を蒸着する場合、その蒸気流密度は有機材料の蒸気圧曲線に応じたものとなる。有機材料の蒸気圧は温度に対して特有であり、特に最近の有機EL用材料は素子の信頼性、耐熱性を向上させるために、高分子化、高Tg化が図られており、その温度に対する蒸気圧特性は非常に敏感である。このため、長手方向における製膜速度を均一化するためには、温度の均一化が非常に重要であることはいうまでもない。
【0022】
ここで、過昇温とは、蒸着源をヒーターで加熱し、昇温する際に、その熱容量や応答性などによって、制御したい温度域よりも高い温度まで昇温され、その後、所定の温度に到達することをいう。良好な温度プロファイルの場合、昇温後、ほぼ所定の温度で制御されるのに対して、過昇温のある場合は、所定の温度より例えば数十度上昇後、下降する。有機材料の場合、この数十度の違いは材料に致命的なダメージを与えかねない。特にラインソースという大きなものを加熱する場合、上記のような過昇温のあるプロファイルを取りやすい。これは熱容量が大きいこと、熱伝導の問題などによると考えられている。本発明のように熱的に分離され、各々独立に温度制御が可能な複数の領域が存在するラインソースであれば、過昇温がない理想的なプロファイルを得ることが可能である。
【0023】
また、第一の実施の形態のように各ヒーターが完全に分離されている場合は、ヒーター間の熱干渉はほとんど生じない。ヒーターは、隣接するヒーターとの間で熱伝導がほとんどない高真空チャンバー内に設置されているためである。一方、従来のようにラインソースである蒸着源を一体物とし、その長手方向に一体物のヒーターを設けた蒸着装置にあっては、ヒーターにより蒸着源の温度を制御しようとすると、蒸着源全体の温度が同様に温度調整を受けることとなる。特に、ヒーターの周囲の構造が、耐熱性の高い金属、Mo、WやSUSなどの熱伝導が大きな材料である場合には、ヒーターからの熱によって周囲の温度は影響を受けやすい。このように本発明では、所定の温度に制御されるヒーターは、隣接するその他のヒーターに、熱的に干渉せず、これにより、気化する材料の蒸気流密度を一定にするための温度調整が可能である。
【0024】
また、蒸着源および有機材料が所定の温度に達し、一定になるまでの時間は、従来のラインソースでは、有機材料のチャージ量、ラインソースの熱容量が大きくなるので、かなり長い時間が必要であった。しかしながら、第一の実施の形態による蒸着装置では、ルツボおよび以下に説明する遮蔽板の温度は、個別に制御可能であり、従来と比較して相対的に短い時間で所定の温度に達することが可能である。
【0025】
本発明にもとづく第二の実施の形態にかかる蒸着装置は、第一の実施の形態とは異なる蒸着源および温度制御手段の構造を有する。すなわち、第一の実施の形態では、蒸着源およびヒーターともに熱的に分離されている構造を有している。一方で、第二の実施の形態にあっては、複数の温度制御手段が、蒸着源の1つに隣接または近接して設けられている。すなわち、蒸着装置が、蒸着源のいずれかの1つに隣接または近接して設けられた複数の温度制御手段を備えてなる。ここで、蒸着装置が、温度制御板をさらに備えてなることが好ましい。温度制御板は、温度制御手段を配置するための複数の温度制御部と、少なくとも1つの連結部とを有する。ここで、連結領域は、温度制御部の間を連結し、温度制御部よりも熱伝導特性が小さいものである。温度制御板は、複数の温度制御部が蒸着源の少なくとも1つに隣接または近接するように、蒸着源と温度制御手段との間に設けられ、さらに、温度制御手段が、温度制御板を介して蒸着源を温度制御可能なように、温度制御部の各々に隣接または近接して設けられる。このように温度制御板を設けることで、蒸着源を一体物とした場合も、その長手方向に生じやすい温度勾配を、それぞれ独立した制御を行うことで、平準化することが可能となる。そのために、過昇温を防止し、さらに一体物の場合、中心部が高温になりやすいという点を改善し、蒸着物である有機材料に与える熱的なダメージを緩和することができる。
【0026】
図2に、第二の実施の形態にかかる温度制御板の模式図を示す。図2に示すように、第二の実施の形態にあっては、蒸着源を一体物とする。一つの温度制御板25に切込みを設け、切込みで区画された領域の各々にヒーター24を設ける。換言すると、第二の実施の形態にあっては、図2に示すように、一枚物の温度制御板に、独立したヒーターが取り付けられており、その温度制御板のヒーター間には、切り込みが入っており、隣接するヒーター間の熱的な影響を出来るだけ少なくすることが可能である。特に限定されるものではないが、温度制御部および連結部は、各々四角形状とすることができる。すなわち、四角形状の温度制御版に、その長手方向について所定の間隔で、長手方向と垂直な方向に四角形状の切り込みを設けることができる。また、温度制御版の長手方向における、温度制御部および連結部の長さは、蒸着源の過熱効率や隣接するヒーター間の熱的な影響等に応じて適宜設定することができる。
【0027】
なお、このように、温度制御板に切込みを設けることで、切込みのある領域を、切込みのないヒーターを設ける領域(温度制御部)よりも熱伝導特性が小さい連結部とすることができるが、切込みを設ける代わりに、熱伝導性の低い材料を用いて連結部を設けることもできる。このように、ヒーター間の熱伝導を阻害し、隣接するヒーター間の熱的な影響を緩和させることができる。なお、特に限定されるものではないが、温度制御版の材料として、熱伝導率が高いMo,Cu,Ta等を用いることができる。また、特に、連結部に熱伝導性の低い材料を用いる場合にあっては、SUS301などの熱伝導率の低い金属等を用いることができる。
【0028】
このように、第二の実施の形態では、隣接するヒーター間に切り込みを入れることによって、熱の流れの一部を遮断し、互いのヒーターを独立に温度制御することが可能となる。この場合、切り込みの深さは、温度制御板の強度を低下させないことも必要であるので、温度制御板の幅をLとすると、連結部の幅はL/10〜L/5程度が最適であるが、必ずしもこの範囲である必要はない。
【0029】
なお、蒸着装置は、蒸着源と、被処理基板が配される領域との間に設けられた、気化した有機材料を分散させるための温度制御可能な遮蔽板をさらに備えてなることが好ましい。遮蔽板により、供給された有機材料の蒸気流を制御することができ、有機材料の蒸気が被処理基板へ均一に分配される。すなわち、遮蔽板は、その内部もしくは下部に気化された有機材料が供給され、上部に設置した基板全面に偏りなく、蒸気を均一に分配させるための構造物である。遮蔽板としては、蒸気を遮蔽し、分配することが出来る板、構造物等であればよい。その形状や大きさは特に限定されるものではなく、必要に応じて適切な形状、大きさとすればよい。例えば、格子状の板、気化した有機材料が通過するための複数の孔を有する板等を用いることができる。また、その材質も特に限定されるものではないが、SUSやCu、Ta、Moなどの金属や、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウムなどのセラミックスなど原料の有機材料と反応や結合をしないような物質であることが必要である。良好な熱伝導率を有するCuやMoなどが好ましい。
【0030】
このように、蒸着源に投入された有機材料を、真空チャンバー内で加熱し、遮蔽板を用いて基板上に堆積させる場合、昇華性または溶融性材料を問わず自由度の高いラインソースの設計が可能となる。すなわち、有機材料が基板上に堆積する前に独立して有機材料の温度制御が可能な遮蔽板を設けることで、有機材料の気化面の変化を考える必要がなくなり、量産時に何回使用しても膜厚分布やレートの変動が少なく、製膜時の制御が容易となる。
【0031】
なお、本発明にかかる蒸着装置の真空チャンバーの側壁の内側には、有機材料が真空チャンバーの内壁を汚染することを防ぐために、防着板を設けることができる。さらに、真空チャンバーは、その内部を減圧するための排気装置に接続されていることが好ましい。また、真空チャンバー内には、蒸着膜の膜圧を測定するために、膜厚計測計に接続された膜厚計測用センサーを設けることができる。
【0032】
なお、原料となる有機材料としては、気相堆積法で成膜可能な物質であれば特に限定されるものではなく、種々の有機材料を用いることができる。例えば、ポリアセチレン、ポリイン等の鎖状高分子、またはポリアセン(アントラセン等)や金属キレート化合物(銅フタロシアニン等)の分子結晶等のπ電子共役系有機半導体物質、アントラセン、ジエチルアミン類、p−フェニレンジアミン、テトラメチル−p−フェニレンジアミン(TMPD)、テトラチオフルバレン(TTF)等のドナーとなる化合物と、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)、p−クロルアニル等のアクセプタとなる化合物などから構成される電荷移動錯体、色素材料、蛍光材料、液晶材料等を挙げることができる。なお、これらの有機材料の気化温度は、成膜時の気圧下10Pa〜10-7Paで、通常150〜500℃程度、特に200〜400℃程度が好ましい。
【0033】
基板支持部材により蒸着源と対向するように被処理基板を支持することで、蒸着装置内に蒸着源と対向するように被処理基板を配置し、気化すべき有機材料が投入された蒸着源を加熱して、有機材料を気化させ、被処理基板上に蒸着させることができる。この際、これらの蒸着源の被処理基板に対向する面における複数の領域を各々独立に温度制御して、これらの領域の各々で有機材料を気化させ、被処理基板上に蒸着させる。
【0034】
ここで、各領域の温度制御、すなわち各温度制御手段の温度制御は、例えば、以下のように行うことができる。すなわち、有機材料が加熱されて気化する温度の手前までは、各ルツボの温度を測定して、ヒーターのPIDで制御する。その後各ルツボが所定の温度に達したら、蒸気流を制御するために膜厚計からのフィードバック制御を行う。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0036】
[実施例1]
実施例にかかる蒸着装置として、図1に示した蒸着装置に準じたものを用いた。具体的には、長さ700mm収納ケース中に10個のヒーターおよび蒸着源の組を設置して、製膜速度の安定性に関しての実証試験を行なった。さらに具体的には、実施例にかかる蒸着装置は、真空チャンバーと、被処理基板を支持するための基板支持部材と、蒸着源であるルツボ(ラインソース)とヒーターとを含む。真空チャンバー10内に設けられた収納ケース11内に、上部が開いた複数の円筒状の蒸着源12が配置され、蒸着源の各々に対して、2つずつのヒーター13が設けられている。また、真空チャンバーの側壁の内側には、有機材料(蒸着材料)が真空チャンバーの内壁を汚染することを防ぐために、防着板15が設けられている。さらに、真空チャンバーは、その内部を減圧するための排気装置16に接続されている。ヒーターは、ヒーター用電源17に接続されており、電気的に加熱することができる。また、真空チャンバー内には、蒸着膜の膜圧を測定するための膜厚計測用センサー18が設けられており、膜厚計測用センサーは、膜厚計測計19に接続されている。また、ラインソース11と被処理基板20が設置される領域との間に、遮蔽板ヒーター用電源21に接続された温度制御可能な遮蔽板22が設けられている。
【0037】
有機材料として、アルミキレート(Alq3)を使用した。Alq3は代表的な電子輸送性材料であり、その特性は昇華性としてよく知られている。このAlq3を製膜速度10nm/secで蒸着する際の、制御性および昇温過程について検証した。なお、有機材料は10個の各蒸着源に各10g投入し、全体で100gとした。
【0038】
まず、遮蔽板の温度を350℃とした。その後、材料導入部の蒸着源を加熱し、Alq3を気化させ、基板に堆積させた。そのときの有機材料の温度は320℃であった。このとき、遮蔽板の昇温を開始してから、各部および材料が加熱され、有機材料が所定の製膜速度に達するまでの時間は、約30分ほどであった。また、その昇温過程において消費される有機材料の量は、1g以下であった。
【0039】
[比較例1]
比較例にかかる蒸着装置として、従来の蒸着装置を用いて、製膜速度の安定性に関しての実証試験を行なった。ラインソースである蒸着源を一体物とし、その長手方向に一体物のヒーターを設けた以外は、実施例とほぼ同等の条件で実験を行なった。
【0040】
その結果、遮蔽板の昇温を開始してから、各部および材料が加熱され、有機材料が所定の製膜速度に達するまでの時間は、約5時間ほどであった。また、その昇温過程において消費される有機材料の量は全体で数10gに達した。
【0041】
[実施例2]
ガラス基板上に上記実施例による蒸着装置により、有機材料薄膜を形成した。材料はアルミキレート(Alq)を使用した。Alqは代表的な電子輸送性材料であり、その特性は昇華性としてよく知られている。このAlqを製膜速度10nm/secで、膜厚300nmを770mm×150mmの範囲に設置したガラス基板上に形成した。
【0042】
ここで、各温度制御手段の温度制御は、以下のように行った。まず、有機材料が加熱されて気化する温度の手前までは、各ルツボの温度を測定して、ヒーターのPIDで制御した。その後各ルツボが所定の温度に達したら、蒸気流を制御するために膜厚計からのフィードバック制御を行った。
【0043】
その後、触針式膜厚計により、作製した有機薄膜の膜厚を測定した。その結果、相対膜厚が全ガラス基板において0.9[−]以上という膜厚分布の少ない、均一な膜厚の薄膜を形成することが出来ることがわかった。このとき、ラインソースの長手方向に対して、5〜10℃程度の温度分布が生じていた。なお、上記膜厚は、相対膜厚であり、面内における最大膜厚を1として、その膜厚に対する比を意味する。このため、当該膜厚の単位は無次元の[−]となる。
【0044】
さらに、本発明による蒸着装置を用いて、複数の製膜回数における膜厚再現性についても検討を実施した。連続製膜回数で50回まで検討した結果、高い膜厚再現性を得ることが分かった。
【0045】
[比較例2]
ガラス基板上に上記比較例にかかる蒸着装置により、有機材料薄膜を形成した。材料および製膜条件は実施例2と同様とし、製膜速度10nm/secで、膜厚300nmを770mm×150mmの範囲に設置したガラス基板上に形成した。その後、触針式膜厚計にて作製した有機薄膜の膜厚を測定した。その結果、相対膜厚が0.8[−]以下という大きいな膜厚分布を有することがわかった。これは、ラインソースの長手方向に対して、10〜30℃程度の温度分布がついていること要因であることもわかった。また、各温度域における有機材料に関しても熱的なダメージがあると推測される。
【0046】
さらに、比較例による蒸着装置を用いて、製膜回数による膜厚再現性についても検討を実施した。連続製膜回数で10回程度までしか、高い膜厚再現性を得ること出来ないことが分かった。
【0047】
[実施例3]
さらに、上記実施例にかかる蒸着装置を用いて有機EL素子の作製を試みた。基板として、770mm×150mmの範囲に50mm×50mmITO付きガラスを用いた。
【0048】
作製した素子の構造は、ホール輸送層/発光層/電子注入層/陰極とした。ホール輸送層には40nmのα−NPD、発光層(電子輸送層も兼ねる)には60nmのAlq3を用いた。製膜速度は2nm/secとして、各製膜室で順に製膜した。次に、電子注入層および陰極としてAg−Mgを100nm積層した。
【0049】
このように作製した素子を評価した結果、素子の平均電流効率は、4cd/Aであり、そのバラツキは±10%以内であった。
【0050】
[比較例3]
次に、比較例にかかる蒸着装置を用いて実施例3と同様に有機EL素子の作製を試みた。このように作製した素子を評価した結果、実施例3とほぼ同等の効率を有することがわかった。
【0051】
しかしながら、そのバラツキは±20%と大きいことがわかった。このバラツキの要因は、比較例2で述べたように、素子の膜厚分布が大きく影響としているものと思われた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1に、本発明の第一の実施の形態にかかるラインソース型蒸着装置の、ラインソースと平行な鉛直平面による模式的な断面図を示す。
【図2】図2に、第二の実施の形態にかかる温度制御板の模式図を示す。
【図3】図3に、従来のラインソース型蒸着装置の、ラインソースと平行な鉛直平面による模式的な断面図を示す。
【符号の説明】
【0053】
10、110:真空チャンバー
11、111:収納ケース
12、112:蒸着源
13:ヒーター
14、114:蒸気流
15、115:防着板
16、116:排気装置
17、117:ヒーター用電源
18、118:膜厚計測用センサー
19、119:膜厚計測計
20:被処理基板
21:遮蔽板ヒーター用電源
22:遮蔽板
24:ヒーター
25:温度制御板
126:有機材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる装置であって、
真空チャンバーと、
該真空チャンバー内に設けられた、該被処理基板を支持するための基板支持部材と、
該真空チャンバー内に該被処理基板と対向するように設けられた、気化すべき有機材料を配するための少なくとも1つの蒸着源と、
該蒸着源に隣接または近接して設けられた、各々独立に温度制御可能な複数の温度制御手段であって、該温度制御手段の各々の温度制御により、該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を、各々独立に温度制御可能とする温度制御手段と
を備えてなる装置。
【請求項2】
前記装置が複数の蒸着源を備えてなり、該複数の蒸着源が各々独立に温度制御可能となるように、該蒸着源の各々に対して、少なくとも1つの温度制御手段が設けられている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の前記温度制御手段が、前記蒸着源の1つに隣接または近接して設けられている請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記温度制御手段を配置するための複数の温度制御部と、該温度制御部の間を連結し、該温度制御部よりも熱伝導特性が小さい少なくとも1つの連結部とを有する温度制御板であって、複数の該温度制御部が前記蒸着源の1つに隣接または近接するように、前記蒸着源と前記温度制御手段との間に設けられた温度制御板をさらに備えてなり、
前記温度制御手段が、該温度制御板を介して前記蒸着源を温度制御可能なように、該温度制御部の各々に隣接または近接して設けられた請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記蒸着源と、前記被処理基板が配される領域との間に設けられた、気化した有機材料を分散させるための温度制御可能な遮蔽板をさらに備えてなる請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
有機発光素子用の被処理基板上に有機層を蒸着させる方法であって、
真空チャンバー内に蒸着源と対向するように被処理基板を配するステップと、
該蒸着源の該被処理基板に対向する面における複数の領域を各々独立に温度制御して、該領域の各々で該有機材料を気化させ、被処理基板上に蒸着させるステップと
を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法を用いて得られた有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−120474(P2006−120474A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307663(P2004−307663)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】