説明

有機皮膜性能に優れた容器用鋼板およびその製造方法

【課題】製缶加工性に優れるとともに、絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性に優れた容器用鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Zrイオン、Fイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより鋼板上に形成されたZr化合物皮膜を有し、前記Zr化合物皮膜の付着量が、金属Zr量で1〜100mg/m、F量で0.1mg/m以下である容器用鋼板が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製缶加工用素材として、特に、絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性に優れた容器用鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料や食品に用いられる金属容器は、2ピース缶と3ピース缶に大別される。DI缶に代表される2ピース缶は、絞りしごき加工が行われた後、缶内面側に塗装が、缶外面側には塗装及び印刷が行われる。3ピース缶は、缶内面に相当する面に塗装が、缶外面側に相当する面に印刷が行われた後、缶胴部の溶接が行われる。
【0003】
何れの缶種においても、製缶前後に塗装工程が不可欠な工程である。塗装には、溶剤系もしくは水系の塗料が使用され、その後、焼付けが行われるが、この塗装工程において、塗料に起因する廃棄物(廃溶剤等)が産業廃棄物として排出され、排ガス(主に炭酸ガス)が大気に放出されている。近年、地球環境保全を目的とし、これら産業廃棄物や排ガスを低減しようとする取組みが行われている。この中で、塗装に代わるものとしてフィルムをラミネートする技術が注目され、急速に広まってきた。
【0004】
これまでに、2ピース缶においては、フィルムをラミネートし製缶する缶の製造方法やこれに関連する発明が多数提供されている。例えば、「絞りしごき罐の製造方法(特許文献1)」、「絞りしごき罐(特許文献2)」、「薄肉化深絞り缶の製造方法(特許文献3)」、「絞りしごき罐用被覆鋼板(特許文献4)」が挙げられる。
【0005】
また、3ピース缶においては、「スリーピース缶用フィルム積層鋼帯およびその製造方法(特許文献5)」、「缶外面に多層有機皮膜を有するスリーピース缶用(特許文献6)」、「ストライプ状の多層有機皮膜を有すスリーピース缶用鋼板(特許文献7)」、「3ピース缶ストライプラミネート鋼板の製造方法(特許文献8)」が挙げられる。
【0006】
一方、ラミネートフィルムの下地に用いられる鋼板には、多くの場合、電解クロメート処理を施したクロメート皮膜が用いられている。クロメート皮膜は、2層構造を有し、金属Cr層の上層に水和酸化Cr層が存在している。従って、ラミネートフィルム(接着剤付きのフィルムであれば接着層)はクロメート皮膜の水和酸化Cr層を介して鋼板との密着性を確保している。この密着発現の機構について、詳細は明らかにされていないが、水和酸化Crの水酸基とラミネートフィルムのカルボニル基あるいはエステル基などの官能基との水素結合であると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第1571783号公報
【特許文献2】特許第1670957号公報
【特許文献3】特開平2−263523号公報
【特許文献4】特許第1601937号公報
【特許文献5】特開平3−236954号公報
【特許文献6】特開平05−124648号公報
【特許文献7】特開平5−111979号公報
【特許文献8】特開平5−147181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の発明は、確かに、地球環境の保全を大きく前進せしめる効果が得られるが、その一方で、近年、飲料容器市場では、PETボトル、瓶、紙等の素材とのコスト並びに品質競争が激化しており、上記のラミネート容器用鋼板に対しても、従来技術である塗装用途に対して、優れた密着性、耐食性を確保した上で、より優れた製缶加工性、特に、フィルム密着性、加工フィルム密着性、耐食性などが求められるようになった。
【0009】
また、近年、欧米を中心に、鉛やカドミウムなどの有害物質の使用制限や製造工場の労働環境への配慮が叫ばれ始め、クロメートを使用しない、かつ、製缶加工性を損ねない皮膜が求められるようになった。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた製缶加工性を有するとともに、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性を有する容器用鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、クロメート皮膜に代わる新たな皮膜として、Zr化合物皮膜の活用を鋭意検討した結果、Zr化合物皮膜あるいはZr化合物皮膜にリン酸皮膜やフェノール樹脂皮膜が複合されたZr皮膜が塗装あるいはラミネートフィルムと非常に強力な共有結合を形成し、従来のクロメート皮膜以上の優れた製缶加工性が得られるとともに、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性をも得られることを知見し、本発明に至ったものである。
【0012】
即ち本発明は、
(1)Zrイオン、Fイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより鋼板上に形成されたZr化合物皮膜を有し、前記Zr化合物皮膜の付着量が、金属Zr量で1〜100mg/m、F量で0.1mg/m以下である事を特徴とする、容器用鋼板。
(2)前記溶液中にさらにリン酸イオンを含み、前記Zr化合物皮膜の付着量が、さらにP量で0.1〜50mg/mであることを特徴とする、(1)に記載の容器用鋼板。
(3)前記溶液中にさらにフェノール樹脂を含み、
前記Zr化合物皮膜にフェノール樹脂皮膜をさらに有し、
前記フェノール樹脂皮膜の付着量が、C量で0.1〜50mg/mであることを特徴とする、(2)に記載の容器用鋼板。
(4)前記鋼板は、少なくとも片面に、Niを10〜1000mg/mまたはSnを100〜15000mg/mを含む表面処理層を有する表面処理鋼板である事を特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の容器用鋼板。
(5)(1)〜(3)に記載の溶液中で、前記Zr化合物皮膜を形成した後、40℃以上の温水で0.5秒以上の浸漬処理あるいはスプレー処理による洗浄処理を行うことを特徴とする、容器用鋼板の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により製造された製缶加工性に優れたラミネート容器用鋼板は、優れた絞りしごき加工、溶接性、耐食性、塗料密着性、フィルム密着性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最良の形態としての製缶加工性に優れた容器用鋼板について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられる原板は特に規制されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板を用いる。この原板の製造法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。この原板にNi、Snのうちの1種以上を含む表面処理層が付与されるが、付与する方法については特に規制するものでは無い。例えば、電気めっき法や真空蒸着法やスパッタリング法などの公知技術を用いれば良く、拡散層を付与するため、めっき後に加熱処理を組み合わせても良い。また、NiはFe−Ni合金めっきを行っても本発明の本質は不変である。
【0016】
こうして付与されたNi、Snのうちの1種以上を含む表面処理層において、Niは金属Niとして10〜1000mg/m、Snは金属Snとして100〜15000mg/mの範囲であることが好ましい。
【0017】
Snは、優れた加工性、溶接性、耐食性を発揮し、この効果が発現するのは金属Snとして100mg/m以上必要である。十分な溶接性を確保するためには200mg/m以上、十分な加工性を確保するためには、1000mg/m以上付与する事が望ましい。Sn付着量の増加に伴い、Snの優れた加工性、溶接性の向上効果は増加するが、15000mg/m以上では耐食性の向上効果が飽和するため経済的に不利である。従って、Snの付着量は金属Snとして15000mg/m以下にすることが好ましい。また、Snめっき後にリフロー処理を行うことによりSn合金層が形成され、耐食性がより一層向上する。
【0018】
Niは、塗料密着性、フィルム密着性、耐食性、溶接性にその効果を発揮し、その為には、金属Niとして、10mg/m以上のNiが必要である。Niの付着量の増加に伴い、Niの優れたフィルム密着性、耐食性、溶接性の向上効果は増加するが、1000mg/m以上ではその向上効果が飽和するため経済的に不利である。従って、Niの付着量は金属Niとして10mg/m以上、1000mg/m以下にすることが好ましい。
【0019】
ここで、上記表面処理層中の金属Ni量および金属Sn量は、例えば、蛍光X線法によって測定することができる。この場合、金属Ni量既知のNi付着量サンプルを用いて、金属Ni量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Ni量を特定する。金属Sn量の場合も同様にして、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、金属Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、この検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
【0020】
これらのNi、Snの1種以上を含む表面処理層の上層に、本発明の本質とする処である、Zr化合物皮膜、またはZr化合物とフェノール樹脂の複合皮膜が付与される。これらの皮膜を付与する方法は、Zrイオン、リン酸イオン、Fイオン、低分子のフェノール樹脂を溶解させた酸性溶液に鋼板を浸漬する方法や陰極電解処理により行う方法がある。ただし、浸漬処理では、下地をエッチングして各種の皮膜が形成される為、付着が不均一になり、また、処理時間も長くなる為、工業生産的には不利である。一方、陰極電解処理では、強制的な電荷移動および鋼板界面での水素発生による表面清浄化とpH上昇による付着促進効果も相俟って、均一な皮膜を得る事が出来る。更に、この陰極電解処理において、処理液中に硝酸イオンとアンモニウムイオンが共存することに依り、数秒から数十秒程度の短時間処理と耐食性や密着性の向上効果に優れたZr酸化物、Zrリン酸化物を含むZr化合物皮膜の析出を促進する事が可能である事から、工業的には極めて有利である。従って、本発明のZr皮膜の付与には陰極電解処理が望ましく、特に硝酸イオンとアンモニウムイオンを共存させた処理液での陰極電解処理が必要となる。
【0021】
Zr皮膜は単独に使用しても優れた実用特性を有しているが、フェノール樹脂皮膜は単独に使用してもある程度の効果は認められるのみで、十分な実用性能を有していない。しかし、Zr化合物とフェノール樹脂が複合するとより一層優れた実用性能が発揮される。
【0022】
Zr化合物の役割は、耐食性と密着性の確保である。Zr化合物は、酸化Zr、水酸化Zrで構成されているZr水和酸化物とZrリン酸化物であると考えられるが、これらのZr化合物は優れた耐食性と密着性を有している。従って、Zr皮膜が増加すると、耐食性や密着性が向上し始め、金属Zr量で、1mg/m以上になると、実用上、問題ないレベルの耐食性と密着性が確保される。更に、Zr皮膜量が増加すると耐食性、密着性の向上効果も増加するが、Zr皮膜量が金属Zr量で100mg/mを超えると、Zr皮膜が厚くなり過ぎZr皮膜自体の密着性が劣化すると共に電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。従って、Zr皮膜付着量は金属Zr量で1〜100mg/mにすることが好ましい。
【0023】
また、Zrリン酸化物が増加するとより優れた耐食性と密着性を発揮するが、その効果をはっきり認識できるのは、P量で0.1mg/m以上である。更に、リン酸皮膜量が増加すると耐食性、密着性の向上効果も増加するが、リン酸皮膜量がP量で50mg/mを超えると、リン酸皮膜が厚くなり過ぎリン酸皮膜自体の密着性が劣化すると共に電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。従って、リン酸皮膜付着量はP量で0.1〜50mg/mにすることが好ましい。
【0024】
フェノール樹脂の役割は密着性の確保である。フェノール樹脂自体が有機物であることから塗料やラミネートフィルムと非常に優れた密着性を有している。従って、フェノール樹脂皮膜が増加すると密着性が向上し始め、C量で、0.1mg/m以上になると、実用上、問題ないレベルの密着性が確保される。更に、フェノール樹脂皮膜量が増加すると密着性の向上効果も増加するが、フェノール樹脂皮膜量がC量で50mg/mを超えると、電気抵抗が上昇し溶接性が劣化する。従って、フェノール樹脂皮膜付着量はC量で0.1〜50mg/mにすることが好ましい。
【0025】
Fは溶液中に含まれることから、Zr化合物と共に皮膜中に取り込まれる。皮膜中のFは、塗料やフィルムの通常の密着性(一次密着性)には影響を及ぼさないが、レトルト処理などの高温殺菌処理時の密着性(二次密着性)や耐錆性あるいは塗膜下腐食性を劣化させる原因となる。これは、水蒸気や腐食液に皮膜中のFが溶出し、有機皮膜との結合を分解、或いは、下地鋼板を腐食することが原因と考えられている。皮膜中のF量は0.1mg/mを超えると、これらの諸特性の劣化が顕在化し始める事から、F量は0.1mg/m以下にすることが好ましい。F量を0.1mg/m以下にするには、Zr化合物皮膜を形成した後、温水中での浸漬処理やスプレー処理により洗浄処理を行えば良く、この処理温度を高く、或いは、処理時間を長くすることによりF量を減少させる事が出来る。従って、皮膜中のF量を0.1mg/m以下にするには40℃以上の温水で0.5秒以上の浸漬処理あるいはスプレー処理をすればよい。水温が40℃を下回る、あるいは処理時間が0.5秒を下回ると皮膜中のF量を0.1mg/m以下に出来なくなり、上述の諸特性が発揮されなくなる。
【0026】
なお、本発明に係るZr化合物皮膜中に含有される金属Zr量、P量、F量は、例えば、蛍光X線分析等の定量分析法により測定することが可能である。一方、フェノール樹脂皮膜中に含有されるC量は、TOC(全有機体炭素計)を用い、鋼板中に存するC量を差し引くことにより測定することが可能である。
【0027】
また、陰極電解処理の処理液中におけるアンモニウムイオンの濃度は100〜10000ppm程度、硝酸イオンの濃度は1000〜20000ppm程度の範囲で、生産設備や生産速度(能力)に応じて、適宜調整すればよい。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例及び比較例について述べ、その条件および結果を表1に示す。
【0029】
<鋼板上の表面処理層>
以下の処理法(0)〜(6)の方法を用いて、板厚0.17〜0.23mmの鋼板上に表面処理層を付与した。
(処理法0)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板に脱脂、酸洗を施した鋼板を作製した。
(処理法1)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをメッキし、Snめっき鋼板を作製した。
(処理法2)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、ワット浴を用いてNiメッキを施し、Niめっき鋼板を作製した。
(処理法3)冷間圧延後、ワット浴を用いてNiメッキを施し、焼鈍時にNi拡散層を形成させ、Niめっき鋼板を作製した。
(処理法4)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、フェロスタン浴を用いてSnをメッキし、その後、リフロー処理を行い、Sn合金層を有するSnめっき鋼板を作製した。
(処理法5)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてFe−Ni合金めっきを施し、引き続き、フェロスタン浴を用いてSnメッキを施し、Ni、Snめっき鋼板を作製した。
(処理法6)冷間圧延後、焼鈍、調圧された原板を脱脂、酸洗後、硫酸−塩酸浴を用いてSn−Ni合金鍍金を施し、Ni、Snメッキ鋼板を作製した。
【0030】
<皮膜形成>
上記の処理により表面処理層を付与した後、以下の処理法(7)〜(12)でZr化合物皮膜、又は、Zr化合物−フェノール樹脂皮膜を形成した。
(処理法7)フッ化Zr1000ppm、硝酸アンモン1000ppmを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬、陰極電解してZr化合物皮膜を形成した。
(処理法8)フッ化Zr1500ppm、リン酸500ppm、硝酸アンモン5000ppmを溶解させた処理液に、上記鋼板を浸漬し、陰極電解してZr化合物皮膜を形成した。
(処理法9)フッ化Zr4000ppm、リン酸300ppm、フェノール樹脂700ppm、硝酸アンモン10000ppmを溶解させた処理液に、上記鋼板を浸漬し、陰極電解してZr化合物−フェノール樹脂皮膜を形成した。
(処理法10)フッ化Zr8000ppm、硝酸アンモン1000ppmを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬し、Zr化合物皮膜を形成した。
(処理法11)フッ化Zr2000ppm、リン酸500ppm、硝酸アンモン10000ppmを溶解させた処理液に上記鋼板を浸漬、陰極電解してZr化合物皮膜を形成した。
(処理法12)フッ化Zr1500ppm、リン酸400ppm、フェノール樹脂500ppm、硝酸アンモン5000ppmを溶解させた処理液に、上記鋼板を浸漬、陰極電解してZr化合物−フェノール樹脂皮膜を付与した。
【0031】
<水洗処理>
上記の処理によりZr化合物皮膜を形成した後、以下の処理法(13)〜(14)で水洗処理を行い、皮膜中のF量を制御した。
(処理法13)40℃以上の温水に浸漬した。
(処理法14)15℃程度の常温の水に浸漬した。
【0032】
なお、本実施例において、表面処理層中の金属Ni量および金属Sn量は、蛍光X線法によって測定し、検量線を用いて特定した。また、Zr化合物皮膜中に含有される金属Zr量、P量、F量は、蛍光X線分析等の定量分析法により測定した。また、フェノール樹脂皮膜中に含有されるC量は、TOC(全有機体炭素計)を用い、鋼板中に存するC量を差し引くことにより測定した。
【0033】
<性能評価>
上記の処理を行った試験材について、以下に示す(A)〜(F)の各項目について性能評価を行った。
【0034】
その後、以下に示す(A)〜(G)の各項目について性能評価を行った。
(A)加工性
試験材の両面に厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネートし、絞り加工としごき加工による製缶加工を段階的に行い、フィルムの疵、浮き、剥離を観察しそれらの面積率から成型を4段階(◎:フィルムの疵、浮き、剥離が全くない、○:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が0〜0.5%、△:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が0.5〜15%、×:フィルムの疵、浮き、剥離の面積率が15%超または破断し加工不能)で評価した。
(B)溶接性
ワイヤーシーム溶接機を用いて、溶接ワイヤースピード80m/minの条件で、電流を変更して試験材を溶接し、十分な溶接強度が得られる最小電流値とチリ及び溶接スパッタなどの溶接欠陥が目立ち始める最大電流値からなる適正電流範囲の広さから総合的に判断し、4段階(◎:二次側の適正電流範囲:1500A以上、○:二次側の電流適正電流範囲:800A以上1500A未満、△:二次側の電流適正電流範囲:100A以上800A未満、×:二次側の電流適正電流範囲:100A未満)で溶接性を評価した。
(C)フィルム密着性
試験材の両面に厚さ20μmのPETフィルムを200℃でラミネートし、絞りしごき加工を行い、缶体を作製し、125℃、30minのレトルト処理を行い、フィルムの剥離状況を観察し、剥離面積率から、4段階(◎:剥離面積率:0%、○:剥離面積率0〜2%、△:剥離面積率:2〜10%:、×:剥離面積率:10%超)で評価した。
(D)一次塗料密着性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さの碁盤目を入れ、テープで剥離し、剥離状況を観察し、剥離面積率から、4段階(◎:剥離面積率:0%、○:剥離面積率0〜5%、△:剥離面積率:5〜30%:、×:剥離面積率:30%超)で評価した。
(E)二次塗料密着性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さの碁盤目を入れ、その後、125℃、30minのレトルト処理を行い、乾燥後、テープで塗膜を剥離し、剥離状況を観察し、剥離面積率から、4段階(◎:剥離面積率:0%、○:剥離面積率0〜5%、△:剥離面積率:5〜30%:、×:剥離面積率:30%超)で評価した。
(F)塗膜下耐食性
試験材にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、地鉄に達する深さのクロスカットを入れ、1.5%クエン酸−1.5%食塩混合液からなる試験液に、45℃、72時間浸漬し、洗浄、乾燥後、テープ剥離を行い、クロスカット部の塗膜下腐食状況と平板部の腐食状況を観察し、塗膜下腐食の幅及び平板部の腐食面積率の両評価から、4段階(◎:塗膜下腐食幅0.2mm未満かつ平板部の腐食面積率0%、○:塗膜下腐食幅0.2〜0.3mm未満かつ平板部の腐食面積率0%超〜1%、△:塗膜下腐食幅0.3〜0.45mm未満かつ平板部の腐食面積率1%超〜5%、×:塗膜下腐食幅0.45mm超または平板部の腐食面積率5%超)で判断して評価した。
(G)レトルト耐錆性
試験材を125℃、30minのレトルト処理し、錆の発生状況を観察し、錆発生面積率から4段階(◎:錆発生面積率0%、○:錆発生面積率0%超〜1%、△:錆発生面積率1%超〜5%、×:錆発生面積率5%超)で評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明の範囲に属する実施例1〜17はいずれも、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性、耐錆性に優れることがわかった。一方、本発明のいずれかの要件を満たさない比較例1〜5は、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性、耐錆性の少なくとも一部の特性が劣ることがわかった。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zrイオン、Fイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンを含む溶液中で、浸漬又は電解処理を行うことにより鋼板上に形成されたZr化合物皮膜を有し、
前記Zr化合物皮膜の付着量が、金属Zr量で1〜100mg/m、F量で0.1mg/m以下である事を特徴とする、容器用鋼板。
【請求項2】
前記溶液中にさらにリン酸イオンを含み、
前記Zr化合物皮膜の付着量が、さらにP量で0.1〜50mg/mであることを特徴とする、請求項1に記載の容器用鋼板。
【請求項3】
前記溶液中にさらにフェノール樹脂を含み、
前記Zr化合物皮膜にフェノール樹脂皮膜をさらに有し、
前記フェノール樹脂皮膜の付着量が、C量で0.1〜50mg/mであることを特徴とする、請求項2に記載の容器用鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、少なくとも片面に、Niを10〜1000mg/mまたはSnを100〜15000mg/mを含む表面処理層を有する表面処理鋼板である事を特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器用鋼板。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の溶液中で、前記Zr化合物皮膜を形成した後、40℃以上の温水で0.5秒以上の浸漬処理あるいはスプレー処理による洗浄処理を行うことを特徴とする、容器用鋼板の製造方法。



【公開番号】特開2010−13728(P2010−13728A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108187(P2009−108187)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】