説明

有機薄膜光電変換素子とその製造方法

【課題】低分子化合物を用いて高効率な有機薄膜光電変換素子を提供する。
【解決手段】π共役系低分子化合物を塗布成膜した後に、該π共役系低分子化合物から置換基の一部または全部を脱離させることにより有機半導体薄膜へと変換し、該膜上に別の半導体材料を成膜することにより光電変換層を作製した有機薄膜光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率な有機薄膜光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタスな情報社会を迎え、いつでもどこでも使用できる情報端末が求められている。そのため、フレキシブルかつ軽量で安価な電子デバイスが望まれているが、従来のシリコンのような無機半導体材料を用いた電子デバイスでは、これらの要望に十分に対応できていない。そこで、近年、これらの要望に対応可能な有機半導体材料を用いた電子デバイスの研究が活発になされている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
有機半導体材料を光電変換材料として用いることにより、光センサ(特許文献1〜3)や有機薄膜太陽電池(非特許文献3、4)などの有機光電変換素子が得られる。これらは、シリコンなどの無機半導体材料を用いた素子と比べて製造工程が容易であり、特に湿式プロセスによる成膜が可能な有機半導体材料を用いれば、低温、低コストで大面積の素子を作製できる可能性を秘めている。現在までに報告されている有機薄膜光電変換素子で最も高い効率を示すものは、P3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))とPCBM([6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル)のブレンド膜を光電変換層として用いた素子である(非特許文献3、4)。このブレンド膜においては、p型材料であるP3HTとn型材料であるPCBMの接触界面が多いため電荷分離が高効率に起こる。また、両者が相分離して微小なドメインを形成しており、発生した電荷は数珠つなぎになった各ドメインを通ってそれぞれの電極から取り出される。しかし、電荷輸送は偶然形成される電荷輸送経路に依存しており、その再現性や耐久性には問題があった。したがって、電荷分離と電荷輸送を高いレベルで両立できるp型材料とn型材料の複合構造の形成方法が求められている。
【0004】
また、P3HTに代表される高分子有機半導体材料は、低分子有機半導体材料と比べ、昇華精製や再結晶ができず高純度化が困難である、分子量に分布があるため再現性の高い材料を得ることが難しい、などの問題があるが、一方で、低分子有機半導体材料で高い電荷輸送能を示すペンタセン、フタロシアニンなどの材料は一般に溶解性が低く結晶性が高いため、塗布成膜適性が低いという問題があった。適切な置換基の導入により、低分子有機半導体材料を塗布して素子を作製した例も報告されているが、低分子からなるp型材料とn型材料の混合溶液を塗布することにより光電変換層を作製すると、一般にp型材料とn型材料が分子レベルで混合された膜となってしまい、電荷輸送経路がうまく形成されないため、高い性能の素子を得ることは難しかった(非特許文献5)。一方で、pn積層型の光電変換層を塗布成膜により作製することも、下層にダメージを与えずに上層を塗布することが難しく、上層か下層のどちらかを真空蒸着法により作製する必要があった(非特許文献6)。したがって、低分子化合物を用いて溶液塗布法により作製可能で高効率を示す有機薄膜光電変換素子の開発が求められている。
【0005】
【非特許文献1】Chemical Reviews,2007,107,1296−1323.
【非特許文献2】「Organic Field−Effect Transistors」(2007年刊、CRC Press)159−228頁。
【非特許文献3】「Organic Photovoltaics」(2005年刊、Taylor&Francis)49−104頁
【非特許文献4】Chemical Reviews,2007,107,1324−1338.
【非特許文献5】Materials Today,2007,10,34−41.
【非特許文献6】最新機能性色素大全集(2007年刊、技術情報協会)320−328頁。
【特許文献1】特開2003−234460
【特許文献2】特開2003−332551
【特許文献3】特開2005−268609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は低分子化合物を用いて高効率な有機薄膜光電変換素子を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題を解決する手段として、以下のような有機薄膜光電変換素とその製造方法を見出した。
(1)π共役系低分子化合物を塗布成膜した後に、該π共役系低分子化合物から置換基の少なくとも一部を脱離させることにより有機半導体薄膜を形成し、該膜上に別の半導体材料を成膜することにより光電変換層を作製したことを特徴とする有機薄膜光電変換素子。
(2)前記π共役系低分子化合物がフタロシアニン化合物である(1)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(3)前記置換基がスルホニル基を部分構造として含む置換基である(1)または(2)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(4)前記脱離した置換基の式量の合計が、前記π共役系低分子化合物の分子量の30%以上、70%以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(5)前記置換基の脱離反応が250℃以上の加熱によって引き起こされる(1)〜(4)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(6)前記有機半導体膜及び別の半導体材料のうち、一方がp型半導体、他方がn型半導体である(1)〜(5)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(7)前記別の半導体材料の成膜方法が塗布法である(1)〜(6)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(8)前記別の半導体材料が有機半導体材料である(1)〜(7)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(9)前記有機半導体材料がn型有機半導体材料である(8)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(10)前記n型有機半導体材料がフラーレン化合物を含んでなる(9)に記載の有機薄膜光電変換素子。
(11)不活性ガス雰囲気下で封止されたことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
(12)π共役系低分子化合物を基板上に成膜する工程、該化合物から置換基の一部または全部を脱離させて有機半導体膜へと変換する工程、およびその膜上に別の半導体材料を塗布成膜する工程を含んでなることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子の製造方法。
【0008】
なお、本発明における「低分子化合物」とは、分子量が好ましくは1万以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは2000以下である化合物を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低分子化合物を用いて、塗布成膜法により高効率な有機薄膜光電変換素子を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0011】
本発明の有機薄膜光電変換素子の製造方法は、主にπ共役系低分子化合物(以下、「本発明で用いる化合物」ともいう)を基板上に成膜する工程(成膜工程)、および該化合物から置換基の一部または全部を脱離させて有機半導体膜へと変換する工程(置換基脱離工程)、およびその膜上に別の半導体材料を成膜する工程(上塗り工程)からなる。置換基脱離工程においては、脱離する置換基の体積分だけ膜の体積収縮および空隙の形成が起こる。ここに別の半導体材料を上塗りすることで、空隙に別の半導体材料が入り込み、図1に模式的に示すような、各半導体成分の接触界面積が大きく、しかも各半導体成分が各々の電極まで連続した複合構造が得られる。ここで、各半導体成分としてp型半導体とn型半導体を選択することで、高効率な電荷分離と高い電荷輸送能の両立が可能な、光電変換層として理想的な複合構造を形成させることができ、高効率な光電変換素子を得ることが可能となる。
【0012】
本発明における有機半導体とは、半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料からなる半導体の場合と同様に、正孔を主キャリアとして伝導するp型有機半導体(単にp型材料ともいう)と、電子を主キャリアとして伝導するn型有機半導体(単にn型材料ともいう)がある。有機半導体中のキャリアの流れやすさはキャリア移動度μで表される。用途にもよるが、一般に移動度は高い方がよく、10−7cm/Vs以上であることが好ましく、10−6cm/Vs以上であることがより好ましく、10−5cm/Vs以上であることがさらに好ましい。キャリア移動度μは、電界効果トランジスタ(FET)を使用した測定方法、Time−of−Flight(TOF)法、空間電荷制限電流(SCLC)法、時間分解マイクロ波伝導度測定(TRMC)法などの手法で測定できる。
【0013】
[π共役系低分子化合物]
本発明で用いるπ共役系低分子化合物としては、広いπ共役平面を有し、キャリア輸送能を示す骨格を有していればいかなるものでも良いが、好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、より好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、チオフェン環などの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環が2つ以上、縮環された、および/または共有結合で連結されたものであり、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び/又は連結による相互作用によって縮環及び/又は連結環に非局在化した構造である場合である。そのような化学構造の例としては、「Organic Field−Effect Transistors」(2007年刊、CRC Press)の159−228頁、およびChem.Soc.Rev.,2008,37,827−838.に記載のものが挙げられる。縮環された及び/又は共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は、1〜20個が好ましく、2〜12個がより好ましい。
【0014】
本発明で用いるπ共役系低分子化合物の分子量としては、100以上10000以下であることが好ましく、200以上5000以下であることがより好ましく、300以上2000以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明におけるπ共役系低分子化合物として、キャリア輸送能および化学的安定性の観点から縮合多環化合物(アントラセン、テトラセン、ペンタセン、アントラジチオフェン、ヘキサベンゾコロネンなど)、トリアリールアミン(トリフェニルアミン化合物など)、ヘテロ5員環化合物(オリゴチオフェン化合物、TTF類縁体など)、フタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物のいずれかであることが好ましく、縮合多環化合物(アントラセン、テトラセン、ペンタセン、アントラジチオフェン、ヘキサベンゾコロネンなど)、ヘテロ5員環化合物(オリゴチオフェン、TTF類縁体など)、フタロシアニン化合物であることがより好ましく、フタロシアニン化合物であることが最も好ましい。
【0016】
フタロシアニン化合物とは、置換された、無金属または各種金属のフタロシアニン、テトラピラジノポルフィラジン、ナフタロシアニン、アントラシアニンなどを指す。
上記π共役系低分子化合物は置換基を1つ以上有し、如何なる置換基でも構わないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基等の環状構造を含む。)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等の環状構造を含む。)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基を部分構造として含むものが挙げられる。本発明においては、上記π共役系低分子化合物が有する置換基のうち、少なくとも1つ以上が下記に記す脱離する置換基である。
【0017】
脱離する置換基としてはいかなるものでも良いが、Boc(t−ブトキシカルボニル)基、エステル基、スルホニル基、逆Diels−Alder反応により脱離するエチレン化合物、キノン化合物、ベンゼン化合物の残基などが好ましい。π共役系低分子化合物の化学的安定性の観点からスルホニル基が最も好ましい。
【0018】
π共役系低分子化合物中の脱離する置換基の数は、π共役系低分子化合物が塗布成膜に適した溶解性を示せば何個でも良いが、1個〜8個であることが好ましく、1個〜6個であることがより好ましく、1個〜4個であることがさらに好ましい。脱離する置換基の式量の合計が、π共役系低分子化合物の分子量に対して5%〜90%の範囲にあることが好ましく、15%〜80%の範囲にあることがより好ましく、30%〜70%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0019】
本発明において溶媒に可溶とは、該溶媒に対して、該溶媒を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.1重量%以上の溶解度を有する化合物と定義する。好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。また、溶媒不溶性とは、該溶媒に対して、該溶媒を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.1重量%未満の溶解度を有することと定義する。好ましくは0.05重量%未満であり、より好ましくは0.01重量%未満である。
【0020】
外部刺激により置換基が脱離する化合物の例、および置換基が脱離するメカニズム等に関しては、Adv.Mater.1999,11,480−483.(Mullenペンタセン)やJ.Am.Chem.Soc.2002,124,8812−8813.(Afzaliペンタセン)に記載のペンタセン化合物、Appl.Phys.Lett.,2004,84,2085−2087.(ベンゾポルフィリン)に記載のベンゾポルフィリン化合物、J.Porphyrins Phthalocyanines,2006,10,1197−1201.に記載のテトラピラジノポルフィラジン化合物、J.Am.Chem.Soc.,2004,126,1596−1597.に記載のセキシチオフェン化合物、Int.Conf.on Digital Printing Technologies,2007,696−699.に記載のジケトピロロピロール化合物やキナクリドン化合物などが公知であり、これらの化合物は、本発明においていずれも好ましく用いることができる。
【0021】
本発明で用いるπ共役系低分子化合物の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。例示化合物1〜12、14〜19は置換基脱離後にp型有機半導体膜を形成し、例示化合物13は置換基脱離後にn型有機半導体膜を形成する材料である。
なお、以下に示す化合物は各ベンゼン環に対しRが1個、化合物としては合計4個同じ置換基を有するが、1つのベンゼン環に0〜4個、合計として1〜16個置換されていればよい。そのなかでも好ましいのは、ベンゼン環に1個ずつ、合計で4個置換されているもの、または1つの化合物について1個置換されているものである。
例示化合物6の化学式中のBuはブチル基を表す。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
(合成法)
フタロシアニン化合物のフタロシアニン環形成反応は、白井汪芳,小林長夫編・著「フタロシアニン−化学と機能−」(アイピーシー社,1997年刊)の第1〜62頁、廣橋亮,坂本恵一,奥村映子編「機能性色素としてのフタロシアニン」(アイピーシー社,2004年刊)の第29〜77頁に準じて行うことができる。
【0025】
フタロシアニン化合物の代表的な合成方法としては、これらの文献に記載のワイラー法、フタロニトリル法、リチウム法、サブフタロシアニン法、および塩素化フタロシアニン法などが挙げられる。具体的には、t−ブチルスルホニルフタロニトリル等のような前記置換基を有する化合物を原料として、フタロシアニン環形成反応を行うことが好ましい。本発明においては、フタロシアニン環形成反応においていかなる反応条件を用いても良い。環形成反応においては、フタロシアニンの中心金属となる種々の金属を添加することが好ましいが、中心金属を持たないフタロシアニン化合物を合成後に、所望の金属を導入しても良い。反応溶媒としては、いかなる溶媒を用いても良いが、好ましくは高沸点の溶媒である。また、環形成反応促進のために、酸または塩基を用いても良い。最適な反応条件は、目的とするフタロシアニン化合物の構造により異なるが、上記の文献に記載された具体的な反応条件を参考に設定することができる。
【0026】
上記のフタロシアニン化合物の合成に使用する原料としては、無水フタル酸、フタルイミド、フタル酸およびその塩、フタル酸ジアミド、フタロニトリル、1,3−ジイミノイソインドリンなどの誘導体を用いることができる。これらの原料は公知のいかなる方法で合成しても良い。
【0027】
また、本発明に用いられる、フタロシアニン化合物以外のπ共役系低分子化合物については、「Organic Field−Effect Transistors」(CRC Press,2007年刊)の159頁−228頁、Chem.Soc.Rev.,2008,37,827−838.、置換基が脱離するπ共役系低分子化合物の公知例として挙げた文献、およびそれらに引用されている文献等の記載を参照して合成することができる。
【0028】
[成膜工程]
本発明の有機薄膜光電変換素子の製造においては、まず、後述する基板上に前記のπ共役系低分子化合物を成膜する。
【0029】
(成膜方法)
本発明において、前記π共役系低分子化合物を基板上に成膜する方法はいかなる方法でも良いが、製造コストの観点から溶液塗布法により成膜することが特に好ましい。溶液塗布法とは、ここでは材料を溶解させることができる溶媒中に溶解、または分散させ、その溶液を基板上に塗布し乾燥させて成膜する方法を指す。具体的には、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア−ブロジェット(LB)法などの通常の方法を用いることができる。本発明においては、キャスト法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることがさらに好ましい。このような溶液塗布法により、表面が平滑で大面積の有機膜を低コストで生産することが可能となる。
【0030】
(塗布条件)
溶液プロセスにより基板上に成膜する場合、層を形成する材料を適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼン等の炭化水素系溶媒;例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒;例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒;例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等の極性溶媒など)及び/又は水に溶解又は分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。溶解度を向上させるため、塗布液は加熱して用いても良い。加熱する場合の温度としては、30〜300℃であることが好ましく、40〜250℃であることがより好ましく、50〜200℃であることがさらに好ましい。塗布液中の本発明に用いられる化合物の濃度は、好ましくは0.01〜80質量%、より好ましくは0.05〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%であり、これにより任意の厚さの膜を形成できる。
【0031】
また、成膜の際に樹脂バインダーを用いることも可能である。この場合、層を形成する材料と樹脂バインダーとを前述の適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマーなどを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用しても良い。薄膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。
樹脂バインダーは使わない方が有機半導体の特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。この場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、本発明の有機半導体膜中、好ましくは0.1〜30質量%で用いられる。
【0032】
また、成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、−200℃〜300℃であることが好ましく、−150℃〜250℃であることがより好ましく、−100℃〜200℃であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明に用いられる前記のπ共役系低分子化合物は、特に溶液プロセスによる成膜に適している。本発明では、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法、あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法などの真空プロセスにより成膜することも可能であるが、これらは製造コストが高く、また、膜表面の平滑性に劣ることがある。また、溶液プロセスで成膜するためには、上記で挙げた溶媒などに材料が溶解することが必要であるが、単に溶解するだけでは不十分である。通常、真空プロセスで成膜する材料でも、溶媒にある程度溶解させることができる。しかし、溶液プロセスでは、材料を溶媒に溶解させて塗布した後で、溶媒が蒸発して薄膜が形成する過程がある。ここで、溶液プロセスに適さない材料は、結晶性の高いものが多いため、この過程で結晶化してしまい、良好な薄膜を形成させることが困難である。これに対し、本発明に用いられるπ共役系低分子化合物は、このような結晶化が起こりにくい点でも優れている。
【0034】
前記化合物を含有する溶液の塗布量は、溶媒の種類や溶液の濃度などによって異なるが、形成される有機半導体膜の膜厚が後述の範囲内となるように適宜決定される。
【0035】
[置換基脱離工程]
前記のπ共役系低分子化合物を基板上に塗布成膜した後、該化合物から前記置換基を脱離させる。前記置換基の一部または全部を脱離させることで、溶媒不溶の有機半導体膜(以下「本発明で用いる有機半導体膜」ともいう)へと変換する。脱離反応を引き起こす外部刺激としては、熱、光、化学反応など、いかなるものを用いても良いが、好ましくは熱を利用したものである。熱として、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上に加熱することで引き起こすことができる。加熱温度の上限は好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。高温であるほど脱離反応に必要な時間は短く、低温であるほど必要な時間は長くなる。加熱する時間として好ましくは1秒〜5時間であり、より好ましくは10秒〜3時間であり、さらに好ましくは30秒〜1時間である。加熱温度や加熱時間が不十分だと、前記置換基のうちの一部が脱離する。意図的に一部の置換基だけを脱離させることで有機半導体膜の特性(例えば移動度、酸化還元電位)を調整することも可能である。加熱にはヒーターを用いた伝熱による加熱の他、赤外線ランプや、化合物が吸収する波長の光を照射することを利用しても良い。また、前記のπ共役系低分子化合物の膜の近傍に光を吸収する層を設け、光をこの層で吸収させることにより加熱しても良い。これらの加熱は、窒素やアルゴン、真空中などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。置換基の脱離に引き続き、膜質の変化(例えば、アモルファスから結晶化、結晶多形の変化など)を伴う場合がある。膜質の変化の仕方は加熱の温度、昇温速度、保持時間、加熱後の冷却速度、加熱時の雰囲気などに依存する。
【0036】
(有機半導体膜の後処理)
作製された有機半導体膜は、後処理により特性を調整することができる。例えば、加熱処理や溶媒蒸気への暴露により膜のモルホロジーや膜中での分子のパッキングを変化させることで特性を向上させることが可能である。また、酸化性または還元性のガスや溶媒、物質などにさらす、あるいはこれらを混合することで酸化あるいは還元反応を起こし、膜中でのキャリア密度を調整することができる。
【0037】
(膜厚)
有機半導体膜の膜厚は、特に制限はないが、好ましくは1nm〜10μm、より好ましくは5nm〜5μm、さらに好ましくは10nm〜1μmである。
【0038】
[上塗り工程]
本発明で用いる有機半導体膜は、置換基の脱離により溶媒不溶となるため、従来困難であった溶液塗布法による積層膜の作製が可能となる。また、脱離した置換基の体積分だけ体積収縮および空隙の形成が起こる。この上から別の半導体材料を成膜することにより、別の半導体材料が空隙に入りこんで、両者の接触界面積が大きく、しかも両者がそれぞれ各々の電極まで連続した相互貫入構造を形成させることができる。
この構造を図1に模式的に示した。図1において1と4は電極、2は有機半導体膜、3は別の半導体材料で形成された膜である。上記のとおり有機半導体膜は、置換基を離脱させると置換基のあった部分に空隙ができ、表面に凹凸が形成される(図1では模式的に均一な凹凸を示したが、必ずしも均一である必要はない)。この凹凸のある表面に別の半導体材料を積層させると、上記の相互貫入構造が形成される。
ここで、有機半導体膜と、別の半導体材料について、一方をp型材料、他方をn型材料とすると、例えば図1でp型材料2とn型材料3がそれぞれ各電極1もしくは4まで連続した光電変換に理想的な構造(高効率な電荷分離と高い電荷輸送能を両立可能な構造)となる。
【0039】
有機半導体膜がp型の場合、別の半導体材料としてはn型半導体材料であることが好ましい。用いるn型半導体材料としては、電子輸送性を有するものであれば有機半導体材料、無機半導体材料のうち、いかなるものでも良いが、好ましくはフラーレン化合物、電子欠乏性フタロシアニン化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレンテトラカルボン酸化合物、TCNQ類縁体、無機半導体であり、より好ましくはフラーレン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレンテトラカルボン酸化合物であり、特に好ましくはフラーレン化合物である。本発明において、フラーレン化合物とは、置換または無置換のフラーレンを指し、フラーレンとしてはC60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C96、C116、C180、C240、C540などのいずれでも良いが、好ましくは置換または無置換のC60、C70、C86であり、特に好ましくはPCBM([6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル)およびその類縁体(C60部分をC70、C86等に置換したもの、置換基のベンゼン環を他の芳香環またはヘテロ環に置換したもの、メチルエステルをn−ブチルエステル、i−ブチルエステル等に置換したものなど)である。電子欠乏性フタロシアニン化合物とは、電子求引基が4つ以上結合したフタロシアニンおよびその類縁体、または電子欠乏性のフタロシアニン類縁体を指し、フタロシアニン類縁体とは、各種金属のフタロシアニン以外に、テトラピラジノポルフィラジン、ナフタロシアニン、アントラシアニンなども含むものである(F16MPc、FPc−S8など)。ナフタレンテトラカルボン酸化合物としてはいかなるものでも良いが、好ましくはナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ナフタレンビスイミド化合物(NTCDI)、ペリノン顔料(Pigment
Orange 43、Pigment Red 194など)である。ペリレンテトラカルボン酸化合物としてはいかなるものでも良いが、好ましくはペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ペリレンビスイミド化合物(PTCDI)、ベンゾイミダゾール縮環体(PV)である。TCNQ類縁体とは、TCNQおよび、TCNQのベンゼン環部分を別の芳環やヘテロ環に置き換えたものであり、例えば、TCNQ、TCAQ、TCN3Tなどである。無機半導体とは、電子輸送性を有するものであればいかなるものでも良いが、例えばTiO、TiSrO、ZnO、Nb、SnO、WO、Si、CdS、CdSe、V、ZnS、ZnSe、SnSe、KTaO、FeS、PbS、InP、GaAs、CuInS、CuInSeなどである。n型有機半導体材料の好ましい具体例を以下に示す。
なお、式中のRはいかなるものでも構わないが、水素原子、置換基または無置換で分岐または直鎖のアルキル基(好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜8)、置換または無置換のベンゼン環(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14)のいずれかが好ましい。
【0040】
【化3】

【0041】
有機半導体膜がn型の場合、別の半導体材料としてはp型半導体材料であることが好ましい。用いるp型半導体材料としては、ホール輸送性を有するものであれば有機半導体材料、無機半導体材料のうち、いかなるものでも良いが、好ましくはp型π共役高分子(例えば、置換または無置換のポリチオフェン、ポリセレノフェン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェンビニレン、ポリアニリンなど)、縮合多環化合物(例えば、置換または無置換のアントラセン、テトラセン、ペンタセン、アントラジチオフェン、ヘキサベンゾコロネンなど)、トリアリールアミン化合物(例えば、m−MTDATA、2−TNATA、NPD、TPD、mCP、CBPなど)、ヘテロ5員環化合物(例えば、置換または無置換のオリゴチオフェン、TTFなど)、フタロシアニン化合物(置換または無置換の各種中心金属のフタロシアニン、ナフタロシアニン、アントラシアニン、テトラピラジノポルフィラジン)、ポルフィリン化合物(置換または無置換の各種中心金属のポルフィリン)、p型無機半導体(例えば、Si1−X(0≦X≦1)、CuI、CuS、GaAs、ZnTe、CuO、CuS、CuSCN、CuF、CuCl、CuBr、CuInSe、CuInS、CuAlSe、CuGaSe、CuGaS、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi、MoO、Crなどの無機酸化物)のいずれかであり、より好ましくはp型π共役高分子、縮合多環化合物、トリアリールアミン化合物、ヘテロ5員環化合物、フタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物のいずれかであり、さらに好ましくは、p型π共役高分子である。
【0042】
これら別の半導体材料を成膜する方法としてはいかなる方法でも良いが、製造コストの観点から溶液塗布法を用いることが好ましい。溶液塗布法の詳細についてはπ共役系化合物の成膜工程の項で述べたものと同様である。
【0043】
(膜厚)
有機半導体膜上に別の半導体材料を成膜した2層構造の膜全体の厚さは、10nm〜10μmであることが好ましく、30nm〜3μmであることがより好ましく、50nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0044】
[有機薄膜光電変換素子]
図2は本発明の有機半導体材料を用いた代表的な有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。図2の素子は積層構造を有するものであり、最下層に基板21を配置し、その上面に電極層22を設け、さらにその上層として前述の工程で作製された光電変換層23(図1の2と3)を設け、さらにその上面に電極層24を設けている。電極層22や24と光電変換層23との間には、図2中には表記されていないが、表面の平滑性を高めるバッファ層、ホールまたは電子の電極からの注入を促進するキャリア注入層、ホールまたは電子を輸送するキャリア輸送層、ホールまたは電子を阻止するキャリアブロック層など(1つの層が前記複数の役割を兼ねることもある)が含まれていても良い。本発明においては、電極層と光電変換層との間に用いるこれらの層を、その役割によらず全てバッファ層という言葉で表すことにする。なお、電極層や各層は必ずしも平面でなくてもよく、大きな凹凸を有していたり、三次元的な形状(例えば、くし型)であったりしても良い。
【0045】
基板11として用いる材料は、可視光または赤外光を透過するものであれば特に制限はない。可視光または赤外光の透過率は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが最も好ましい。このような材料の例としては、ポリエチレンナフトエート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフイルム、ポリイミドフィルム、セラミック、シリコン、石英、ガラスなどが挙げられる。厚みは特に制限はない。
【0046】
電極層12として用いる材料は、可視光または赤外光を透過し、導電性を示すものであれば特に制限はない。可視光または赤外光の透過率は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが最も好ましい。そのような材料としては、ITO、IZO、SnO、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの透明導電性酸化物が好ましく、プロセス適性や平滑性の観点からITOまたはIZOが特に好ましい。膜厚に制限はないが、1nm〜200nmであることが好ましく、5nm〜100nmであることがより好ましい。電極12が構造自立性を有するものである場合、基板11は必ずしも必要ではなく、電極12が基板11を兼ねる場合は、膜厚は前述の厚みより厚くてもよい。
【0047】
バッファ層として用いられる材料はキャリアを輸送する能力のある材料であれば有機材料および無機材料のいかなるものを用いても良いが、好ましくはアモルファス性のものである。ホール輸送性のバッファ材料としてはいかなるものでも良いが、好ましくは導電性ポリマー(例えばPEDOT:PSS)、トリアリールアミン化合物(例えばm−MTDATA)、無機半導体材料(例えばSi1−X(0≦X≦1)、CuI、CuS、GaAs、ZnTe、CuO、CuS、CuSCN、CuF、CuCl、CuBr、CuInSe、CuInS、CuAlSe、CuGaSe、CuGaS、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi、MoO、Crなどの無機酸化物)である。電子輸送性のバッファ材料としてはいかなるものでも良いが、好ましくは、n型半導体材料として前述のものの他に、金属錯体化合物(例えばAlq)、バソクプロイン、無機フッ化物(例えばLiF、CaF)、無機酸化物(例えばSiO、TiO、ZnO)、導電性ポリマー(例えばシアノ基を有するポリパラフェニレンビニレン(CN−PPV)、ペリノンポリマー(BBL))であり、より好ましくは、ナフタレン化合物、バソクプロイン、無機フッ化物、無機酸化物である。
【0048】
電極層14として用いる材料は、導電性を示すものであれば特に制限はないが、光利用効率を高める観点からは、光反射性の高い材料が好ましく、Al、Pt、W、Au、Ag、Ta、Cu、Cr、Mo、Ti、Ni、Pd、Znが好ましく、Al、Pt、Au、Agがより好ましい。電極層14の膜厚は、特に制限はないが、1nm〜1μmであることが好ましく、5nm〜500nmであることがより好ましい。
【0049】
素子の保存性を高めるためには、素子が不活性雰囲気を保てるよう、封止することが好ましく、好ましい封止用材料としては金属、ガラス、窒化ケイ素、アルミナなどの無機材料、パリレンなどの高分子材料が挙げられる。封止の際に、乾燥剤等を封入しても良い。
【0050】
本発明の有機薄膜光電変換素子は、エネルギー変換用途(有機薄膜太陽電池)として用いても良いし、光センサ(固体撮像素子等)として用いても良い。エネルギー変換用途で用いる場合、本発明の有機薄膜光電変換素子を単独で用いても良いし、他の有機薄膜光電変換素子と積層(タンデム)しても良い。タンデムの方法については、Applied Physics Letters,2004,85,5757−5759.に詳細に記載されており、参考にできる。光センサとして用いる場合には、S/N比を向上させるため、電極12と電極14の間にバイアスを印加して信号を読み出すことが好ましく、この場合、光電変換層にかけるバイアスは1.0×10V/cm以上1.0×10V/cm以下であることが好ましい。有機薄膜光電変換素子を用いた固体撮像素子としては、特開2003−234460、特開2003−332551、特開2005−268609などに詳細に記載されており、参考にできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
特開2005−119165号公報に記載の色素化合物(I−1)の合成法に従って、例示化合物1を合成した。合成した例示化合物1の純度を液体クロマトグラフィー(HPLC、東ソー社製、商品名、TSK−gel ODS−80Ts 4.6×150mm、溶離液:THF/HO=47/53(AcOH,NEt各0.1%)、検出波長254nmおよび675nm)により測定したところ、99%以上であった。
【0053】
(TG/DTA測定)
合成した例示化合物1について熱分析(TG/DTA測定)を行った。TG/DTA測定は、Seiko Instruments Inc.製 EXSTAR6000(商品名)を用い、窒素気流下(流量200mL/分)、30℃〜550℃の範囲において10℃/分で昇温を行い、質量減少率を求めた。図3に示すように、約350℃において4つの置換基(−SOC(CH)基)の質量分に相当する質量減少が観測された。この結果から、加熱により例示化合物1から置換基が脱離したことが分かった。
【0054】
(MALDI−TOF−MS測定)
窒素気流下、10℃/分の昇温速度で400℃まで加熱した前後の例示化合物1について、それぞれマトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)測定を行った。MALDI−TOF−MS測定は、Applied Biosystems社製Voyager−DE PRO(商品名)を使用し、マトリックスとしてα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(東京化成社製)を用いて行った。図4に示すように、加熱処理前の状態を示す図3(a)では、化合物1の分子量に相当する1056([M]+1)のピークが観測されたが、加熱処理後の状態を示す図4(b)では、このピークが消失し、新たに無置換の銅フタロシアニン(CuPc:C3216CuN)の分子量に相当する575([M])のピークが現れることがわかった。この結果から、例示化合物1が加熱により無置換の銅フタロシアニンに変換されたことが分かった。
【0055】
(X線回折測定)
窒素気流下、10℃/分の昇温速度で400℃まで加熱した前後の例示化合物1について、X線回折測定を行った。X線回折測定は、X−ray DIFFRACTOMETER RINT−2500(Rigaku社製、商品名)を使用した。図5に示すように、加熱前にはアモルファス固体だった例示化合物1が、加熱後には結晶化していることが分かった。
【0056】
(FET特性)
例示化合物1(20mg)をクロロホルム(1mL)に溶解させ、FET特性測定用基板上に1000rpmでスピンコートすることで、厚さ200nm以下の厚みが均一なFET特性測定用試料を得た。膜厚は、触針式膜厚計(アルバック社製、商品名 DEKTAK 6M)により測定した(以下同)。このFET特性測定用試料を窒素雰囲気下、10℃/分で400℃まで加熱し、400℃で5分間保持した後FET特性を調べた。FET特性測定用基板としては、図6に模式的に示したボトムコンタクト型のものを使用した(ソースおよびドレイン電極はくし型に配置されたクロム/金(ゲート幅W=100000μm、ゲート長L=100μm)、絶縁膜はSiO(膜厚200nm)、基板はシリコン)。FET特性はセミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、商品名 4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下(グローブボックス中)で測定した。図7に示すように、熱処理前には全く半導体特性を示さなかった例示化合物1の薄膜が、熱処理によりp型有機半導体膜へと変換されたことが確認できた。
【0057】
以上の測定結果から、塗布成膜後にはアモルファス状態だったの例示化合物1の薄膜が、加熱によって置換基が脱離し、結晶性の無置換の銅フタロシアニンからなるp型有機半導体膜に変換されることが分かった。
【0058】
[実施例1]
ITO電極がパターニングされたガラス基板(2.5cm×2.5cm)を、イソプロピルアルコール中で10分間超音波洗浄した後、乾燥した。さらに、ITO電極表面の有機汚染物質を除去するためにUVオゾン処理を30分間行った。次に、例示化合物1の20mg/mLクロロホルム溶液を1000rpmでスピンコートし、厚さ200nm以下の厚みがほぼ均一なp型有機半導体前駆体膜を形成させた。窒素雰囲気下、10℃/分で400℃まで加熱し、400℃で5分間保持することでp型有機半導体膜へと変換した。室温に冷却した後、n型有機半導体材料であるPCBM([6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル)の20mg/mLクロロホルム溶液を1000rpmでスピンコートすることにより、厚さ200nm以下の厚みがほぼ均一な光電変換層を作製した。この光電変換層の上に、真空蒸着装置(アルバック社製、EBX−8C)を用いて、2×10−4以下の真空度で、約80nmの厚さになるようにアルミニウムを真空蒸着することにより金属電極を形成させることにより、有効面積0.04cmの有機薄膜光電変換素子を得た。
【0059】
この素子にソーラーシミュレータ(Oriel社製、150W簡易型)を用いてAM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を照射し、電気化学アナライザー(BAS社製、商品名 ALSモデル660B)を用いて電流−電圧特性を測定したところ、図8に示すように、短絡電流密度JSC=0.15mA/cm、開放電圧VOC=0.43Vの光電変換能を示した。
【0060】
[比較例1]
例示化合物1とPCBMのクロロホルム混合溶液(20mg+20mg/mL)を1000rpmでスピンコートし、400℃まで加熱することで光電変換層を作製したこと以外は実施例1と同様にして有機薄膜光電変換素子を作製した。この有機薄膜光電変換素子は、実施例1と比べてJSCが1/20以下、VOCが1/2以下だった。
【0061】
[比較例2]
最新機能性色素大全集(2007年刊、技術情報協会)320−328頁に記載の比較化合物1(化X)とPCBMのクロロホルム混合溶液(20mg+20mg/mL)を1000rpmでスピンコートすることで光電変換層を作製したこと以外は実施例1と同様にして有機薄膜光電変換素子を作製した。この有機薄膜光電変換素子は、実施例1と比べてJSCが1/10以下、VOCが1/3以下だった。
【0062】
【化4】

【0063】
以上より、本発明の有機薄膜光電変換素子は低分子化合物の塗布成膜により作製でき、高い光電変換性能を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機薄膜光電変換素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図3】例示化合物1のTG/DTA測定結果を示す図である。
【図4】例示化合物1の(a)加熱処理前および(b)加熱処理後のMALDI−TOF−MSスペクトル測定結果を示す図である。
【図5】例示化合物1の加熱処理前および加熱処理後のX線回折測定結果を示す図である。
【図6】有機薄膜トランジスタ特性測定用基板を概略的に示す断面図である。
【図7】例示化合物1からなる膜の(a)加熱処理前および(b)加熱処理後のFET特性を示す図である。
【図8】例示化合物1を用いた本発明の有機薄膜光電変換素子の光電変換特性を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1、4 電極
2 有機半導体膜
3 別の半導体材料
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 有機物層(半導体有機物層)
15a、15b 電極
21 基板
22 電極
23 光電変換層
24 電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系低分子化合物を塗布成膜した後に、該π共役系低分子化合物から置換基の少なくとも一部を脱離させることにより有機半導体薄膜を形成し、該膜上に別の半導体材料を成膜することにより光電変換層を作製したことを特徴とする有機薄膜光電変換素子。
【請求項2】
前記π共役系低分子化合物がフタロシアニン化合物である請求項1に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項3】
前記置換基がスルホニル基を部分構造として含む置換基である請求項1または2に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項4】
前記脱離した置換基の式量の合計が、前記π共役系低分子化合物の分子量の30%以上、70%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項5】
前記置換基の脱離反応が250℃以上の加熱によって引き起こされる請求項1〜4のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項6】
前記有機半導体膜及び別の半導体材料のうち、一方がp型半導体、他方がn型半導体である請求項1〜5のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項7】
前記別の半導体材料の成膜方法が塗布法である請求項1〜6のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項8】
前記別の半導体材料が有機半導体材料である請求項1〜7のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項9】
前記有機半導体材料がn型有機半導体材料である請求項8に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項10】
前記n型有機半導体材料がフラーレン化合物を含んでなる請求項9に記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項11】
不活性ガス雰囲気下で封止されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子。
【請求項12】
π共役系低分子化合物を基板上に成膜する工程、該化合物から置換基の一部または全部を脱離させて有機半導体膜へと変換する工程、およびその膜上に別の半導体材料を塗布成膜する工程を含んでなることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機薄膜光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−16212(P2010−16212A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175370(P2008−175370)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】