説明

有機酸生産微生物の菌体の調製法及び有機酸の製造法

【課題】有機酸を効率よく生産することのできる菌体を得る方法を提供する。
【解決手段】有機酸生産能を有する微生物の菌体の調製法であって、培養液のpHまたは溶存酸素濃度が設定値を超えたときに炭素源を添加してpHまたは溶存酸素濃度を設定値以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸生産効率が向上するように微生物の菌体を調製する方法及び当該方法により調製された菌体を使用して有機酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コハク酸などの有機酸を発酵により生産する場合、通常、Anaerobiospirillum(アナエロビオスピリラム)属、Actinobacillus(アクチノバチルス)属等の嫌気性細菌が用いられている(例えば、特許文献1又は2、非特許文献1参照)。嫌気性細菌を用いる場合は、生産物の収率が高いが、その一方では、増殖するために多くの栄養素を要求するために、培地中に多量のCSL(コーンスティープリカー)などの有機窒素源を添加する必要がある。これらの有機窒素源を多量に添加することは培地コストの上昇をもたらすだけでなく、生産物を取り出す際の精製コストの上昇にもつながり経済的でない。
【0003】
また、コリネ型細菌のような好気性細菌を好気性条件下で一度培養し、菌体を増殖させた後、集菌、洗浄し、静止菌体として酸素を通気せずに有機酸を生産する方法も知られている(例えば、特許文献3又は4参照)。この場合、菌体を増殖させるに当たっては、有機窒素の添加量が少なくてよく、簡単な培地で十分増殖できるため経済的ではあるが、目的とする有機酸の生成量、生成濃度、及び菌体当たりの生産速度の向上が十分でなく、改善の余地があった。
【特許文献1】米国特許第5,143,834号公報
【特許文献2】米国特許第5,504,004号公報
【特許文献3】特開平11−113588号公報
【特許文献4】特開平11−196888号公報
【非特許文献1】International Journal of Systematic Bacteriology, vol. 49, p207-216、 1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、有機酸生産効率が向上するように微生物の菌体を調製する方法、及び当該方法により調製された菌体を使用して有機酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行うことにより、有機酸生産効率が向上した微生物菌体が得られることを見出した。より具体的には、培養液のpHまたは溶存酸素濃度が設定値を超えているときに炭素源を添加してpHまたは溶存酸素濃度を設定値以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することによって得られた菌体が、有機酸の生成反応に非常に効率よく使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)有機酸生産能を有する微生物の菌体の調製法であって、培養液のpHが設定値を超えているときに炭素源を添加してpHを設定値以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することを特徴とする方法。
(2)有機酸生産能を有する微生物の菌体の調製法であって、培養液の溶存酸素濃度が0.05ppmを超えているときに、炭素源を添加するか、および/または酸素通気量を調節することにより、溶存酸素濃度を0.05ppm以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することを特徴とする方法。
(3)炭素源がグルコースまたはシュークロースである、(1)または(2)の方法。
(4)前記繰り返し時間の1/2以下の時間内に炭素源を添加することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)微生物がコリネ型細菌である、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかの方法によって調製された微生物の菌体を、有機原料を含む反応液中で有機原料に作用させることによって有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造方法。
(7)前記反応液が、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する、(6)の方法。
(8)有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、(6)または(7)の方法。
(9)有機酸がコハク酸である、(6)〜(8)のいずれかの方法。
(10)(6)〜(9)のいずれかの方法により有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、有機酸含有ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によって調製された微生物の菌体を使用することにより、コハク酸などの有機酸を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
1.本発明に使用される微生物
本発明の方法においては、有機酸生産能を有する微生物を使用する。ここで、「有機酸生産能を有する」とは、該微生物を培地中で培養したときに該培地中に有機酸を生成蓄積することができることをいう。
有機酸としては、例えば、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、オキザロ酢酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸などのジカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸などのトリカルボン酸、ピルビン酸、酢酸などのモノカルボン酸、アミノ酸などが挙げられるが、この中では、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸およびピルビン酸が好ましく、コハク酸が特に好ましい。
【0010】
有機酸生産能を有する微生物としては、好気性微生物、通性嫌気性微生物または微好気性微生物を使用することができる。
好気性微生物としては、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、バチルス(Bacillus)属細菌、リゾビウム(Rhizobium)属細菌、アースロバクター(Arthrobacter)属細菌、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、ノカルディア(Nocardia)属細菌、又はストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌などが挙げられるが、コリネ型細菌がより好ましい。
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌又はアースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
【0011】
本発明に用いる微生物の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl, W., Ehrmann, M., Ludwig, W. and Schleifer, K. H., International Journal of Systematic Bacteriology, 1991, vol. 41, p255-260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-1497の受託番号で寄託されている。
【0012】
通性嫌気性微生物としては、エシェリヒア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、エンテロバクター(Enterobacter)などの属に属する腸内細菌科の細菌が挙げられる。
微好気性微生物としては、アクアスピリラム(Aquaspirillum)、スピリラム(Spirillum)、アソスピリラム(Asospirillum)、オセアノスピリラム(Oceanospirillum)、カンピロバクター(Campylobacter)、ブデロビブリオ(Bdellovibrio)、バンピロビブリオ(Vampirovibrio)などの属に属する微生物などが挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
育種により有機酸生産能を付与する手段としては、変異処理、遺伝子組換えなどが挙げられ、各有機酸について生合成酵素遺伝子の発現強化や分解系酵素遺伝子の発現低下など公知の方法を採用することができるが、例えば、コハク酸生産能を付与する場合は、後述するようなラクテートデヒドロゲナーゼ活性を低減するような改変やピルビン酸カルボキシラーゼ活性を増強するような手段などが挙げられる。
【0014】
ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDHともよぶ)活性が低減するように改変された細菌は、例えば、特開平11−206385号公報に記載されている染色体上での相同組換えによる方法、あるいは、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A. et al. Gene 145 (1994) 69-73)等によって構築することができる。なお、「LDH活性が低減された」とは、非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法(L.Kanarek and R.L.Hill, J. Biol. Chem.239,
4202 (1964))によりLDH活性を測定することによって確認することができる。
【0015】
ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、PCとも呼ぶ)の活性が増強するように改変された細菌は、例えば、特開平11-196888号公報に記載の方法と同様にして、pc遺伝子をプラスミドにより宿主細菌中で高発現させることにより構築することができる。また、相同組換えによって染色体上に組み込んでもよいし、プロモーター置換によってpc遺伝子の発現を増強することもできる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Res. Microbiol., Vol.144, p.181-185, 1993)等によって行うことができる。
「PC活性が増強される」とは、PC活性が野生株又は親株等の非改変株に対して、単位菌体重量あたり好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3倍以上増加していることをいう。PC
活性が増強されたことは、公知の方法(Magasanikの方法[J.Bacteriol., 158, 55-62, (1984)])によりPC活性を測定することによって確認することができる。
【0016】
pc遺伝子としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子(Peters-Wendisch, P.G. et al. Microbiology, vol.144 (1998) p915-927)を用いることができる。
さらに、コリネバクテリウム・グルタミカム以外のコリネ型細菌、または他の微生物又は動植物由来のpc遺伝子を使用することもできる。特に、以下に示す微生物または動植物由来のpc遺伝子は、その配列が既知(以下に文献を示す)であり、上記と同様にしてハイブリダイゼーションにより、あるいはPCR法によりそのORF部分を増幅することによって、取得することができる。
ヒト [Biochem.Biophys.Res.Comm., 202, 1009-1014, (1994)]
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766-1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331-332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307-315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47-50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960-5970, (1996)]
【0017】
上述したようなpc遺伝子を含むDNA断片を、適当なプラスミド、例えば宿主細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むプラスミドベクターに導入することにより、宿主細菌内でpc遺伝子の高発現が可能な組換えプラスミドを得ることができる。ここで、上記組み換えプラスミドにおいて、pc遺伝子を発現させるためのプロモーターはpc遺伝子の転写を開始させるための塩基配列であればいかなるプロモーターであっても良いが、例えば、tacプロモーターや、trcプロモーター、TZ4プロモーターなどが挙げられる。
コリネ型細菌に遺伝子を導入するために使用できるプラスミドの具体例としては、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11等を挙げることができる。それらの中でもコリネ型細菌の宿主−ベクター系で用いられるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子とコリネ型細菌内でプラスミドの安定化機能を司る遺伝子とを有するものが好ましく、例えば、プラスミドpCRY30、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KEおよびpCRY3KX等が好適に使用される。
その他の有機酸生産菌も上記同様の手法で、生合成酵素遺伝子の発現を増強させたり、分解系酵素遺伝子の発現を低下させたりすることによって構築することができる。
上記で例示した有機酸について、野生株、変異株、遺伝子組み換え株などの有機酸生産菌が数多く知られており、いずれの有機酸生産菌も本発明の方法において使用できる。
【0018】
2.微生物菌体の調製法
本発明においては、上記のような有機酸生産微生物を、培地中で、培地のpHまたは溶存酸素濃度の上昇と降下のサイクルが2〜25分ごとに繰り返されるように培養することによって、有機酸の製造に適した菌体を調製する。
すなわち、有機酸生産微生物を培養する場合、炭素源として培地に添加した糖質(グルコース、フルクトース、ショ糖など)が消費されると培地のpH降下や溶存酸素濃度の降下または実質的にゼロである状態が維持されるが、さらに炭素源の消費が進み枯渇に至ると炭素源の枯渇に伴って培地のpHおよび溶存酸素濃度が上昇する。このpHまたは溶存酸素濃度の上昇を指標にして炭素源の添加、または酸素供給を短時間で行い、pHまたは溶存酸素濃度の上昇と降下のサイクルが2〜25分ごとに繰り返されるように調節する。なお、上昇と降下のサイクルの1サイクルあたりの時間は2〜25分であればよく、毎回同じ間隔で繰り返される必要はない。
通常は、初発培地に菌体をシードし、炭素源の枯渇が見られたら上記サイクルを繰り返す。サイクルを繰り返して培養する時間は、有機酸の製造に適した菌体が得られる時間であればよいが、例えば、6〜40時間であることが好ましい。
【0019】
2−1.pHで制御する場合
本発明の第1の形態では、あらかじめpHの基準となる値を設定しておき、培地のpHがその設定値を超えているときに、炭素源を添加してpHを設定値以下に低下させる操作を2〜25分ごとに繰り返す。
ここで、pHの設定値は、微生物が生育でき、炭素源の枯渇時に該設定値を超えるpHの上昇が見られる値であればよいが、通常、pH6〜8の間であり、培養開始時の培地のpHの値に設定することもできる。また、窒素源などとして培地にアンモニアなどのアルカリを添加する場合は、アルカリを添加した時のpHの上昇は考慮せず、炭素源の枯渇によってpHが上昇した時のみに炭素源を加えるか、あるいは、アルカリを連続的に添加してpHを一定値以下に低下しないように制御する場合は、そのアルカリ制御値を設定値とし、その設定値を超えているときに炭素源を添加する。
炭素源は、pHが該設定値を超えている間に添加すればよく、設定値を超えた直後でなくともよい。そして、炭素源の添加のタイミングは、添加する炭素源濃度やサイクルの間隔などによっても調整されるが、好ましくは、設定値より0.05以上pHが高くなったときに添加することが好ましい。
例えば、アルカリ添加によるpH制御値(設定値)をpH7.50とし、pH7.50を0.05以上超えたら(pHが7.55以上になったら)炭素源を添加するような形態が例示される。
【0020】
炭素源の添加量は、炭素源を添加してから、設定値以下に下降したpHが再度上昇して設定値を超えるまでの間隔が2〜25分になるような量であり、その具体的な量は、前記間隔、酸素供給量、培地中のアルカリの量などによっても異なるが、添加時の培地中の炭素源濃度が0.2〜4g/Lとなるように添加することが好ましい。
添加する炭素源の種類は微生物が資化できるものであればよいが、グルコースまたはシュークロースが好ましい。
炭素源は、pHが設定値を超えているときに添加されるが、間欠的に添加することが好ましく、前記間隔の1/2以下の時間内に添加することがより好ましく、前記間隔の1/3以下の時間内に添加することがさらに好ましい。例えば、炭素源添加の間隔を3分とする場合、炭素源は1分間以内に添加することが好ましい。
pHで制御する場合、培養中の通気量は特に制限されない。
【0021】
2−2.溶存酸素濃度で制御する場合
本発明の第2の形態では、培地の溶存酸素濃度が0.05ppmを超えているときに、炭素源を添加するか、および/または、酸素供給量を制御して、溶存酸素濃度を0.05
ppm以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返す。
【0022】
炭素源の添加量は、炭素源を添加してから、0.05ppm以下に下降した溶存酸素濃度が再度0.05ppmを超えるまでの間隔が2〜25分になるような量であり、その具体的な量は、前記間隔、酸素供給量、培地中のアルカリの量などによっても異なるが、添加直後の培地中の炭素源濃度が0.2〜4g/Lとなるように添加することが好ましい。
添加する炭素源の種類は微生物が資化できるものであればよいが、グルコースまたはシュークロースが好ましい。
炭素源は、溶存酸素濃度が0.05ppmを超えているときに添加されるが、間欠的に添加することが好ましく、前記間隔の1/2以下の時間内に添加することが好ましく、前記間隔の1/3以下の時間内に添加することがさらに好ましい。例えば、炭素源添加の間隔を3分とする場合、その間の最初の1分間以内に添加することが好ましい。
この場合、培養中の通気量は、炭素源が枯渇していない時に溶存酸素濃度が0.05ppm以下になりうる酸素供給量にしておくことが好ましい。
【0023】
一方、酸素供給量で培地の溶存酸素濃度をコントロールする場合、溶存酸素濃度が0.05ppmを超えているときに、通気量および/または撹拌速度を制限するなどして酸素供給量を下げて、溶存酸素濃度を0.05ppm以下に下げ、2〜25分後に、元の酸素供給量に上げて溶存酸素濃度を上昇させるという方法が挙げられる。
この場合、炭素源は、炭素源の枯渇が生じるような速度で添加するとよい。
【0024】
なお、上記のpHまたは溶存酸素濃度の上昇を指標にする場合のいずれにおいても、結果としてpHまたは溶存酸素濃度の上昇と降下のサイクルが繰り返されるように培養が行われればよく、毎回、pHまたは溶存酸素濃度をモニターしながら炭素源を添加する必要はない。
【0025】
なお、上記の菌体調製培養に使用される培地は、炭素源以外の成分を含んでもよく、微生物の培養に用いられる通常の培地成分を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。
培養温度は、通常、25℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃である。
上記のようにして調製された菌体を、下記の有機酸生成反応に使用する。
菌体調製培養後の菌体は、培養液のまま以下の有機酸生産反応に使用してもよいし、遠心分離、膜分離等によって回収した後に、有機酸生産反応に使用してもよい。
【0026】
3.有機酸の製造方法
本発明の有機酸の製造方法は、上記の方法によって調製された微生物の菌体を、有機原料を含有する反応液中で有機原料に作用させて有機酸を生成させ、これを採取することを特徴とする有機酸の製造方法である。製造しうる有機酸の種類及び好ましい有機酸の例は上述したとおりである。
【0027】
本発明では微生物の菌体の処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体等が挙げられる。
【0028】
有機酸の製造に用いる有機原料としては、上記微生物が資化して有機酸を生成させうる炭素源であれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース又はシュークロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。
【0029】
また、上記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用される。これらの発酵性糖質は、単独でも組み合わせても使用できる。上記有機原料の使用濃度は特に限定されないが、有機酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、通常、5〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内で反応が行われる。また、反応の進行に伴う上記有機原料の減少にあわせ、有機原料の追加添加を行っても良い。
【0030】
上記有機原料を含む反応液としては特に限定されず、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。反応液は、窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、微生物が資化してコハク酸を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加することができる。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
【0031】
反応液には、例えば上記した有機原料、窒素源、無機塩などのほかに、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を含有させることが好ましい。炭酸イオン又は重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸又はこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。炭酸又は重炭酸の塩の具体例としては、例えば炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン、重炭酸イオンは、1~500mM、好ましくは2~300mM、さらに好ましくは3〜200mMの濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり50mg〜25g、好ましくは100mg〜15g、さらに好ましくは150mg〜10gの二酸化炭素ガスを含有させる。
【0032】
反応液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を添加することによって調整することができる。有機酸生産反応におけるpHは、通常、pH5〜10、好ましくはpH6〜9.5の範囲であり、反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
【0033】
有機酸生産反応時の温度は、通常、25℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃である。反応に用いる菌体の量は、特に規定されないが、1〜700g/L、好ましくは10〜500g/L、さらに好ましくは20〜400g/Lである。反応時間は1時間〜168時間が好ましく、3時間〜72時間がより好ましい。
【0034】
有機酸生成反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよい。例えば、容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって嫌気的雰囲気下にすることができる。
【0035】
以上のような反応により、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸又はピルビン酸などの有機酸が反応液中に生成蓄積する。反応液中に蓄積した有機酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除
去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、有機酸を採取することができる。
【0036】
さらに本発明においては、上記した方法によりコハク酸などの有機酸を製造した後に、得られた有機酸を原料として重合反応を行うことにより有機酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきており、特に、本発明において製造されるコハク酸は、ポリエステルやポリアミドといったポリマーに加工されて用いる事が出来る。コハク酸含有ポリマーとして具体的には、ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリエステル、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸を重合させて得られるコハク酸ポリアミドなどが挙げられる。
また、本発明の製造法により得られる有機酸または該有機酸を含有する組成物は食品添加物や医薬品、化粧品などに用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0038】
<ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)増強株の作製>
(A)ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノムDNAの抽出
A培地[尿素 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4−5H2O6mg、ビオチン 200μg、チアミン 100μg、イーストエキストラクト 1g、カザミノ酸 1g、グルコース 20g、蒸留水1Lに溶解]10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000×g、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0039】
(B)PCプロモーター置換用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子のN末端領域のDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036のCgl0689)を基に設計した合成DNA(配列番号1および配列番号2)を用いたPCRによって行った。尚、配列番号1のDNAは5’末端がリン酸化されたものを用いた。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、 0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で1分らなるサイクルを35回繰り返した。但し、1
サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は4分とした。増幅産物の確認は、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.9kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをPC遺伝子N末端断片とした。
【0040】
一方、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来で構成的に高発現するTZ4プロモーター断片はプラスミドpMJPC1(特開2005−95169)を鋳型とし、配列番号3および配列番号4に記載の合成DNAを用いたPCRにより調製した。尚、配列番号4のDNAは5’末端がリン酸化されたものを用いた。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、 0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒分らなるサイクルを25回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は3分とした。増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.5kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをTZ4プロモーター断片とした。
【0041】
上記にて調製したPC遺伝子N末端断片とTZ4プロモーター断片を混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結後、制限酵素PstIで切断し、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.0kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収し、これをTZ4プロモーター::PC遺伝子N末端断片とした。さらにこのDNA断片と大腸菌プラスミドpHSG299(宝酒造製)をPstIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mL カナマシンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素PstIで切断することにより、約1.0kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.1と命名した。
【0042】
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子の5’上流領域のDNA断片の取得は、実施例1(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号5および配列番号6)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、 0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム
染色により可視化することにより行い、約0.7kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行った。回収したDNA断片は、T4 ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 Polynucleotide Kinase:宝酒造製)により5'末端をリン酸化した後、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて大腸菌ベクターpUC119(宝酒造製)のSmaI部位に結合し、得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mL アンピシリンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを、配列番号7および配列番号6で示した合成DNAをプライマーとしたPCR反応に供した。反応液組成:上記プラスミド1ng、Ex−TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.2μM各々プライマー、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で50秒からなるサイクルを20回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。このようにして挿入DNA断片の有無を確認した結果、約0.7kbの増幅産物を認めるプラスミドを選抜し、これをpMJPC5.1と命名した。
【0043】
次に、上記pMJPC17.1およびpMJPC5.1をそれぞれ制限酵素XbaIで切断後混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。これを制限酵素SacIおよび制限酵素SphIで切断したDNA断片を0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.75kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収した。このPC遺伝子の5’上流領域とN末端領域の間にTZ4プロモーターが挿入されたDNA断片を、sacB遺伝子を含むプラスミドpKMB1(特開2005−95169)をSacIおよびSphIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIおよびSphIで切断することにより、約1.75kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.2と命名した(図1)。
【0044】
(C)PC増強株の作製
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH(特開2005−95169)の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pMJPC17.3のプラスミドDNA用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から再調製した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株の形質転換は電気パルス法(Res.Microbiol.、Vol.144, p.181-185, 1993)によって行い、得られた形質転換体をカナマイシン 25μg/mLを含むLBG寒天培地[トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5g、グルコース 20g、及び寒天15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。この培地上に生育した株は、pMJPC17.2がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのPC遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されているはずである。次に、上記相同組み換え株をカナマイシン25μg/mLを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当
分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした。結果、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。この様にして得られた株の中には、そのPC遺伝子の上流にpMJPC17.2に由来するTZ4プロモーターが挿入されたものと野生型に戻ったものが含まれる。PC遺伝子がプロモーター置換型であるか野生型であるかの確認は、LBG培地にて液体培養して得られた菌体を直接PCR反応に供し、PC遺伝子の検出を行うことによって容易に確認できる。TZ4プロモーターおよびPC遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号8および配列番号9)を用いて分析すると、プロモーター置換型では678bpのDNA断片を認めるはずである。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、TZ4プロモーターが挿入された株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHと命名した。
【0045】
(D)ピルベートカルボキシラーゼ酵素活性の測定
上記(C)で得られた形質転換株ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株をグルコース2%、カナマイシン25mg/Lを含むA培地100mLで終夜培養を行った。得られた菌体を集菌後、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)50mLで洗浄し、同組成の緩衝液20mLに再度懸濁させた。懸濁液にをSONIFIER 350(BRANSON製)で破砕し、遠心分離した上清を無細胞抽出液とした。得られた無細胞抽出液を用いピルベートカルボキシラーゼ活性を測定した。酵素活性の測定は100mM Tris/HCl緩衝液(pH7.5)、 0.1mg/10mlビオチン、5mM 塩化マグネシウム、50mM 炭酸水素ナトリウム、5mM ピルビン酸ナトリウム 、5mM アデノシン3リン酸ナトリウム、0.32 mM NADH、20units/1.5mlリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(WAKO製、酵母由来)及び酵素を含む反応液中で25℃で反応させることにより行った。1Uは1分間に1μmolのNADHの減少を触媒する酵素量とした。ピルベートカルボキシラーゼの発現を強化した無細胞抽出液における比活性は 0.1U/mg蛋白質であった。尚、親株であるMJ233/△LDH株を同様に培養した菌体では、本活性測定方法検出限界以下であった。
以下、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株を有機酸生産菌として菌体調製用培養、および有機酸生産反応に用いた。
【0046】
[実施例1]
<種培養>
尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:5g、カザミノ酸:5g、及び蒸留水:1000mLの培地100mLを500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50%グルコース水溶液を4mLを添加し、上記で構築したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHを接種して24時間30℃にて種培養した。
【0047】
<本培養>
硫酸アンモニウム:1.0g、リン酸1カリウム:1.5g、リン酸2カリウム1.5g、塩化カリウム:1.67g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、D−ビオチン:1.0mg、塩酸チアミン:1.0mg、酵母エキス10g、消泡剤(CE457:日本油脂製):1.0g及び蒸留水:1000mLの培地400mLを1Lの発酵糟に入れ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やした後、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液:5mLを添加し、これに前述の種培養液を20mL加えて、30℃に保温した。pHは9.3%アンモニア水を用いて7.0以下にならないように保ち、通気は毎分300mL、攪拌は毎分600回転で20時間本培養を行った。溶存酸素濃度は培養開始直後から
徐々に低下し、培養開始後4.5時間でほぼ0となった。その後、培養開始後6.5時間で溶存酸素濃度が上昇したため、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液を667μL添加したところ、再び急速に低下し、ほぼ0となった。約23分後同様に溶存酸素濃度の上昇が観察されため、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液を667μL添加し再び低下させた。以後、約23分毎に同様の上昇が見られたが、その都度同様の方法で低下させた。培養20時間後のOD660は78.0であった。このとき(培養開始後20時間まで)のpHと溶存酸素濃度の経時変化を図2に示した。
【0048】
<有機酸生産培養>
リン酸1アンモニウム:84.4mg、リン酸2アンモニウム:75.8mg、塩化カリウム149.1mg、硫酸マグネシウム・7水和物:0.2g、硫酸第一鉄・7水和物:8mg、硫酸マンガン・水和物:8mg、D−ビオチン:80μg、塩酸チアミン:80μg及び蒸留水:200mLの培地を500mLの三角フラスコに入れ、120℃、20分加熱滅菌した。室温まで冷やした後、1Lのジャーファーメンターに入れた。この懸濁液200mLに上記の本培養により得られた培養液90mL、あらかじめ滅菌した72%グルコース溶液:75mL、滅菌水:125mLを添加して混合し、35℃に保温した。pHは炭酸アンモニウム:154g、28%アンモニア水:239ml、蒸留水:650mLの水溶液を用いて7.6に保ち、毎分200回転で攪拌しながら有機酸生産反応を行った。反応開始後13時間における生産コハク酸濃度は32.5g/L、生産リンゴ酸濃度は3.1g/L、生産フマル酸濃度は0.2g/L、生産酢酸濃度は2.2g/Lであった。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様にして種培養と本培養(菌体調製)を行ったところ、溶存酸素濃度は培養開始直後から徐々に低下し、培養開始後4.5時間でほぼ0となった。その後、培養開始後6.5時間で上昇したため、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液を50μL添加したところ、再び急速に低下し、ほぼ0となった。約2分後同様に溶存酸素濃度の上昇が観察されため、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液を50μL添加し再び低下させた。以後、約2分毎に同様の上昇が見られたが、その都度同様の方法で低下させた。培養20時間後のOD660は82.9であった。
こうして得られた培養液を用いて上記と同様に有機酸生産反応を行ったところ、反応開始後13時間におけるコハク酸濃度は27.3g/L、生産リンゴ酸濃度は2.0g/L、生産フマル酸濃度は0.2g/L、生産酢酸濃度は4.5g/Lであった。
【0050】
[比較例1]
実施例1と同様にして種培養と本培養(菌体調製)を行ったところ、溶存酸素濃度は培養開始直後から徐々に低下し、培養開始後4.5時間でほぼ0となった。その後、培養開始後6.5時間で上昇したため、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液を0.21μL/秒で連続的に添加した。この後溶存酸素濃度は大部分の時間2ppm以上であった。培養20時間後のOD660は72.3であった。
こうして得られた培養液を用いて上記と同様に有機酸生産反応を行ったところ、反応開始後13時間におけるコハク酸濃度は15.5g/L、生産リンゴ酸濃度は1.2g/L、生産フマル酸濃度は0.1g/L、生産酢酸濃度は1.9g/Lであった。
【0051】
[比較例2]
実施例1に準じて種培養と本培養(菌体調製)を行った。ただし、本培養においては、あらかじめ滅菌した72%グルコース水溶液:50mLを添加し、これに前述の種培養液を20mL加えて、30℃に保温した。pHは9.3%アンモニア水を用いて7.0以下にならないように保ち、通気は毎分300mL、攪拌は毎分600回転で本培養を行った。溶存酸素濃度は培養開始直後から徐々に低下し、培養4.5時間でほぼ0となったが、
そのまま、培養開始後20時間まで培養した。培養20時間後のOD660は51.3であった。
こうして得られた培養液を用いて上記と同様に有機酸生産反応を行ったところ、反応開始後13時間におけるコハク酸濃度は16.9g/L、生産リンゴ酸濃度は0.4g/L、生産フマル酸濃度は0g/L、生産酢酸濃度は2.2g/Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】プラスミドpMJPC17.2の構築手順を示す図。下線の数字は当該配列番号の配列からなるプライマーを示す。
【図2】実施例1における培地のpHと溶存酸素濃度の経時変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸生産能を有する微生物の菌体の調製法であって、培養液のpHが設定値を超えているときに炭素源を添加してpHを設定値以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することを特徴とする方法。
【請求項2】
有機酸生産能を有する微生物の菌体の調製法であって、培養液の溶存酸素濃度が0.05ppmを超えているときに、炭素源を添加するか、および/または酸素通気量を調節することにより、溶存酸素濃度を0.05ppm以下に下げる操作を2〜25分ごとに繰り返して微生物を培養することを特徴とする方法。
【請求項3】
炭素源がグルコースまたはシュークロースである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記繰り返し時間の1/2以下の時間内に炭素源を添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
微生物がコリネ型細菌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によって調製された微生物の菌体を、有機原料を含む反応液中で有機原料に作用させることによって有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造方法。
【請求項7】
前記反応液が、炭酸イオン、重炭酸イオン又は二酸化炭素ガスを含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
有機原料を嫌気的雰囲気下で作用させることを特徴する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
有機酸がコハク酸である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法により有機酸を製造する工程、及び前記工程で得られた有機酸を原料として重合反応を行う工程を含む、有機酸含有ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−259451(P2008−259451A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104723(P2007−104723)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】