説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】発光効率を高めつつ輝度の劣化および駆動電圧の上昇を含めた寿命特性を向上させることが可能な有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置を提供する。
【解決手段】陽極13上に正孔供給層14A(正孔注入層14a,正孔輸送層14b),発光層14Bおよびアリールピリジン誘導体を含む電子輸送層14Cからなる有機層14をこの順に積層し、有機層14上に陰極15を形成して有機電界発光素子を得る。電子輸送層14Cの膜厚を正孔供給層14Aよりも膜厚を厚く形成することにより、発光層14Bへの正孔および電子の注入量が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する有機電界発光素子および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のELを利用した有機電界発光素子(有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層を含む有機層を備え、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
【0003】
有機電界発光素子は、発光効率および寿命特性の向上を図ることを目的として、発光層を含む有機層の層構成や、各層の材料構成について様々な検討がなされている。例えば、特許文献1のように発光層と陰極との間の電子注入層および電子輸送層の構成材料として電子移動度の高い含窒素複素環式化合物を用いた有機電界発光素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている有機電界発光素子では、含窒素複素環式化合物の電子移動度の高さから、電界を印加した際の発光層におけるキャリアバランスが崩れ、電子の供給が過剰になりやすいという問題があった。このため発光層の劣化が促進され、有機電界発光素子の発光効率が低下し寿命が短くなる。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、発光効率を高めつつ輝度劣化の抑制および駆動電圧の上昇を含めた寿命特性を向上させることが可能な有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による有機電界発光素子は、陽極と、陽極上に形成された正孔供給層、発光層および式(1)で表わされるアリールピリジン誘導体を含むと共に、正孔供給層よりも膜厚の厚い電子供給層をこの順に備えた有機層と、有機層上に形成された陰極とを備えたものである。
【0008】
【化1】

(Ar1は核炭素数6〜50個の芳香族炭化水素基あるいはその誘導体である。Xは少なくともピリジニル基を含有する芳香族複素環基あるいはその誘導体である。mは1〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。但し、mが2以上の場合にはAr1はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。nが2以上の場合にはXはそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。)
【0009】
本発明の表示装置は、上記有機電界発光素子を基板上に複数設けたものである。
【0010】
本発明の有機電界発光素子およびこれを備えた表示装置では、正孔供給層、発光層および電子供給層からなる有機層のうち、電子供給層の膜厚が正孔供給層よりも厚いので、電子供給層から発光層への電子の供給量を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置によれば、正孔供給層、発光層および電子供給層からなる有機層のうち、電子供給層の膜厚を正孔供給層よりも厚くするようにしたので、電子供給層から発光層への電子の供給量が調整され、発光層へ過不足なく電子および正孔を供給することが可能となる。これにより、電子供給過多による発光層の劣化を抑えることができる。即ち、発光効率を向上させつつ寿命特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図2】図1に示した有機電界発光素子を備えた表示装置の構成を表す図である。
【図3】図2に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図4】図2に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図8】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図9】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図10】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図11】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図12】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図13】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図14】実施例における電圧と電子供給層の膜厚の関係を表す特性図である。
【図15】実施例における輝度と電子供給層の膜厚の関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
1.第1の実施の形態
(陽極および陰極の間に正孔供給層,発光層および電子供給層からなる有機層を単層挟持した有機電界発光素子)
1−1(有機電界発光素子)
1−2(表示装置)
2.第2の実施の形態
(2層構造の電子供給層を有する有機電界発光素子)
3.第3の実施の形態
(3層構造の電子供給層を有する有機電界発光素子)
4.第4の実施の形態
(タンデム構造の有機層を有する有機電界発光素子)
【0014】
(第1の実施の形態)
(有機電界発光素子)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子11の断面構成を表したものである。有機電界発光素子11は、基板12上に陽極13,有機層14および陰極15をこの順に積層した構造を有する。このうち有機層14は、陽極13側から順に例えば正孔供給層14A(正孔注入層14a,正孔輸送層14b),発光層14B,電子供給層14Cを積層してなるものである。
【0015】
なお、この有機電界発光素子11は、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子が発光層14B内で再結合する際に生じた発光光を基板12と反対側(陰極15側)から光を取り出す上面発光方式(トップエミッション方式)の有機電界発光素子である。
【0016】
基板12は、その一主面側に有機電界発光素子11が配列形成される支持体である。基板12を構成する材料は公知のものでよく、例えば、石英,ガラス,金属箔,または樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類,またはポリカーボネート樹脂等が挙げられる。但し、透水性や透ガス性を抑えるため積層構造とするか、あるいは表面処理を行うことが必要となる。
【0017】
陽極13は、効率よく正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいものを用いることが好ましい。具体的には、例えばクロム(Cr),金(Au),酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金,酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金,銀(Ag)合金、あるいはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
【0018】
また、陽極13は光反射性に優れた第1層と、この上部に設けられた光透過性を有すると共に仕事関数の大きな第2層との積層構造としてもよい。ここで第1層は、主にAlを主成分とする合金を用いることが好ましい。副成分としては、主成分であるAlよりも相対的に仕事関数が小さい元素を用いる。このような副成分としては、ランタノイド系列の元素を用いることが好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、且つ、陽極の正孔注入性も向上する。また、副成分としてはランタノイド系列の元素の他に、シリコン(Si),銅(Cu)等の元素を用いてもよい。
【0019】
第1層を構成するAl合金層における副成分の含有量は、例えば、Alを安定化させるネオジム(Nd)やニッケル(Ni),チタン(Ti)等であれば合計で約10wt%以下であることが好ましい。これにより、第1層であるAl合金層における反射率を維持しつつ、有機電界発光素子の製造プロセスにおいてAl合金層を安定的に保つことができる。また、加工精度および化学的安定性が得られる。更に、陽極13の導電性および基板12との密着性も改善される。なお、上記Nd等の金属は仕事関数が小さいため、後述する正孔供給層14Aに一般的に用いられるアミン系の材料では正孔注入障壁が大きくなってしまう。その際には、アミン形の材料に7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)等のアクセプタ材料を混合した層や、ポリエチレンジオキシチオフェンーポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等のpドープ層を陽極13の界面に形成することで正孔注入障壁が低減され、駆動電圧の上昇を抑えることができる。この他、後述するアザトリフェニレン誘導体を用いることで、駆動電圧の上昇を抑えつつ素子を安定化することが可能となる。
【0020】
第2層は、Al合金の酸化物,モリブデン(Mo)の酸化物,ジルコニウム(Zr)の酸化物,Crの酸化物,およびタンタル(Ta)の酸化物を用いることができる。例えば、第2層が副成分としてランタノイド系列の元素を含むAl合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)である場合、ランタノイド系列元素の酸化物は光の透過率が高いため、これを含む第2層の光の透過率が良好となる。これにより、第1層の表面における反射率が高く維持される。また、第2層にITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電層を用いることにより陽極13の電子注入特性が改善される。なお、ITOおよびIZOは仕事関数が大きいため基板12と接する側、即ち、第1層に用いることによりキャリアの注入効率を高めると共に、陽極13と基板12との間の密着性を向上することができる。
【0021】
なお、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極13は画素毎にパターニングされ、基板12に設けられた駆動用の薄膜トランジスタ(図示なし)に接続された状態で設けられている。この場合には、陽極13の上には隔壁16(図4参照)が設けられ、隔壁16の開口部から各画素の陽極13の表面が露出されるように構成される。
【0022】
正孔供給層14A(正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b)は、発光層14Bへの正孔注入効率を高めると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔供給層14Aの膜厚は素子の全体構成、特に後述する電子供給層14Cとの関係によるが、例えば1nm〜100nmであることが好ましく、より好ましくは20nm〜70nmである。
【0023】
正孔供給層14Aの構成材料は、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、例えば、ベンジン,スチリルアミン,トリフェニルアミン,ポルフィリン,トリフェニレン,アザトリフェニレン,テトラシアノキノジメタン,トリアゾール,イミダゾール,オキサジアゾール,ポリアリールアルカン,フェニレンジアミン,アリールアミン,オキザゾール,アントラセン,フルオレノン,ヒドラゾン,スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物,ビニルカルバゾール系化合物,チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー,オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
【0024】
また、上記正孔供給層14Aのさらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン,ポルフィリン,金属テトラフェニルポルフィリン,金属ナフタロシアニン,ヘキサシアノアザトリフェニレン,7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ),F4−TCNQ,テトラシアノ4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン,N,N,N',N'−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン,N,N,N',N'−テトラフェニル−4,4'−ジアミノビフェニル,N−フェニルカルバゾール,4−ジ−p−トリルアミノスチルベン,ポリ(パラフェニレンビニレン),ポリ(チオフェンビニレン),ポリ(2、2'−チエニルピロール)等が挙げられる。
【0025】
但し、下記式(2)〜(5)に示した化合物を用いることにより後述する電子供給層14Cから発光層14Bへの電子供給に対して、正孔供給層14Aから発光層14Bへの正孔供給が最適化される。
【0026】
【化2】

(R1〜R6は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下のカルボニル基、炭素数20以下のカルボニルエステル基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシル基、炭素数30以下のアリール基、炭素数30以下の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基あるいはそれらの誘導体である。隣接するR1〜R6は互いに結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6は各々独立して、炭素原子もしくは窒素原子である。)
【0027】
なお、上記式(2)に示したアザトリフェニレン誘導体はXが窒素原子に置換されることにより、化合物中の窒素含有率が高くなるため正孔注入層14aに好適に用いられる。
【0028】
【化3】

(A0〜A2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である。)
【0029】
【化4】

(A3〜A6は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。A3およびA4、A5とA6は各々連結基を介して結合していてもよい。YはNとの結合部位以外の環炭素に、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基によって置換されたベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテンまたはペリレンからなる2価の芳香族炭化水素基である。mは1以上の整数である。)
【0030】
【化5】

(A7〜A12は各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。隣接するA7およびA8、A9およびA10、A11およびA12は、各々連結基を介して結合していてもよい。Z1〜Z3はNとの結合部位以外の環炭素に、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基によって置換されたベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテンまたはペリレンからなる2価の芳香族炭化水素基である。p,qおよびrは1以上の整数である。)
【0031】
式(2)に示したアザトリフェニレン誘導体の具体例としては、以下の式(2−1)などの化合物が挙げられる。
【0032】
【化6】

【0033】
式(3)に示したアミン誘導体の具体例としては、以下の式(3−1)〜式(3−9)などの化合物が挙げられる。
【0034】
【化7】

【0035】
式(4)に示したジアミン誘導体の具体例としては、以下の式(4−1)〜式(4−84)などの化合物が挙げられる。
【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
式(5)に示したトリアリールアミン多量体の具体例としては、以下の式(5−1)〜式(5−15)などの化合物が挙げられる。
【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
これらの化合物は正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bのどちらに用いてもよいが、窒素含有率の高い組成の化合物を正孔注入層14aに用いることが好ましい。陽極13からの正孔注入障壁を低減することができるためである。また、本実施の形態における電子供給層14Cは発光層14Bへの電子供給能が強化されていることから、より良好なキャリアバランスを得るためにも陽極界面には正孔注入性の高いアザトリフェニレン誘導体を用いることが好ましい。
【0047】
発光層14Bは、陽極13と陰極15とに対する電界印加時に陽極13側から注入された正孔と、陰極15側から注入された電子とが再結合する領域である。発光層14Bの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば1nm〜100nmであることが好ましく、さらに好ましくは5nm〜50nmである。
【0048】
発光層14Bは単層でもよいが、例えば、発光色の異なる複数の発光層(例えば、3層14r,14g,14b(図示せず))を積層してもよい。発光層14rは赤色発光層であり、発光層14gは緑色発光層、発光層14bは青色発光層である。発光層14r,14g,14bの積層順序は各発光層14r,14g,14bのキャリア輸送性および光取り出しの発光波長に応じた光路長調整から適宜決定される。また、赤色発光層14r,緑色発光層14g,青色発光層14bの間には、それぞれ発光層分離層(図示なし)を設けてもよい。発光層分離層は、例えばアミン誘導体からなり、厚みは、0.1nm〜20nmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜10nmである。各色の発光層14r,14g,14bの膜厚は以下の膜厚とすることが好ましい。例えば、赤色発光層14rは5nm〜15nm、緑色発光層14gは5nm〜15nm、青色発光層14bは5nm〜15nmであるがこれに限らない。
【0049】
発光層14Bを構成する材料としては、電荷の注入機能(電界印加時に陽極13あるいは正孔供給層14Aから正孔を注入することができる一方、陰極15あるいは電子供給層14Cから電子を注入することができる機能)、輸送機能(注入された正孔および電子を電界の力で移動させる機能)、発光機能(電子と正孔の再結合の場を提供し、これらを発光につなげる機能)を有することが好ましい。このような材料としては、蛍光性発光材料およびりん光性発光材料を用いることができる。蛍光性発光材料として具体的には、ホスト材料として例えばスチリル誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体または芳香族アミンが挙げられる。特に、スチリル誘導体はジスチル誘導体,トリスチル誘導体,テトラスチル誘導体およびスチリルアミン誘導体を用いることが好ましい。また、アントラセン誘導体,特に非対称アントラセン系化合物を用いることにより優れたキャリアバランスを保つことができる。更に、芳香族アミンでは芳香族環基で置換された窒素原子を2〜4個有する化合物であることが好ましい。また、りん光性発光材料として具体的には、ホスト材料として例えばカルバゾール誘導体あるいはキノリン錯体誘導体が挙げられる。
【0050】
なお、複数の発光層を積層する場合には、陽極側の発光層には、ホスト材料として正孔輸送性の材料を用いることが好ましい。これにより、陽極13からの正孔注入が安定する。
【0051】
発光ドーパントとしては、例えば、スチリルベンゼン系色素,オキサゾール系色素,ぺリレン系色素,クマリン系色素,アクリジン系色素などのレーザー用色素,アントラセン誘導体,ナフタセン誘導体,ペンタセン誘導体,クリセン誘導体などの多芳香族炭化水素系材料,ピロメテン骨格化合物もしくは金属錯体,キナクリドン誘導体,シアノメチレンピラン系誘導体(DCM,DCJTB),ベンゾチアゾール系化合物,ベンゾイミダゾール系化合物,金属キレート化オキシノイド化合物などの蛍光材料から適宜選択して用いることができる。これらの蛍光材料のそれぞれのドープ濃度は、膜厚比で0.5%以上15%以下であることが好ましい。また、所望の発光色を有する既知のりん光ドーパントも用いることができる。具体的には、例えば、スチルベン構造を有するアミン,芳香族アミン,ペリレン誘導体,クマリン誘導体,ボラン誘導体,ピラン誘導体,イリジウム錯体,白金錯体またはレニウム錯体が挙げられる。中でもイリジウム錯体,白金錯体およびレニウム錯体のりん光ドーパント材料を用いることが好ましい。
【0052】
発光層14Bは、真空蒸着法による成膜の他、例えばインクジェット等の塗付法により形成してもよい。その際、高分子材料および低分子材料を例えばトルエン,キシレン,アニソール,シクロヘキサノン,メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン),ブサイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン),ジハイドロベンゾフラン,1,2,3,4−テトラメチルベンゼン,テトラリン,シクロヘキシルベンゼン,1−メチルナフタレン,p−アニシルアルコール,ジメチルナフタレン,3-メチルビフェニル,4−メチルビフェニル,3−イソプロピルビフェニル,モノイソプロピルナフタレンなどの有機溶媒に少なくとも1種類以上使って溶解し、この混合溶液を用いて形成する。
【0053】
電子供給層14Cは、陰極15から注入される電子を発光層14Bに輸送するためのものである。電子供給層14Cの膜厚は素子の全体構成によるが、上記正孔供給層14Aよりも厚膜に形成される。これにより正孔供給層から発光層14Bへの正孔の供給量と電子供給層14Cから発光層14Bへの電子の供給量のバランスが保たれる。電子供給層14Cの厚みは以下の関係を満たすように設計することが好ましい。電子供給層14Cの膜厚をd1とし、有機層14全体の膜厚をd2とした場合、0.90>d1/d2>0.30の関係を満たすように設計することで、発光層14Bへの正孔および電子の供給バランスがとり易くなる。以上のことから、電子供給層14Cは例えば70nm〜300nmであることが好ましく、より好ましくは120nm〜250nmである。
【0054】
電子供給層14Cの材料としては、優れた電子輸送能を有する有機材料を用いることが好ましく、具体的には下記式(6)で示したアリールピリジン誘導体を用いることが好ましい。これにより、発光層14Bへの電子供給が安定化し、高効率でありながら安定な駆動が補償される。
【0055】
【化17】

(Ar1は核炭素数6〜50個の芳香族炭化水素基あるいはその誘導体である。Xは少なくともピリジニル基を含有する芳香族複素環基あるいはその誘導体である。mは1〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。但し、mが2以上の場合にはAr1はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。nが2以上の場合にはXはそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。)
【0056】
式(6)に示したアリールピリジン誘導体の具体例としては、以下の式(6−1)〜式(6−58)等の化合物が挙げられる。
【0057】
【化18】

【0058】
【化19】

【0059】
【化20】

【0060】
【化21】

【0061】
【化22】

【0062】
このような高い電子供給能を有するアリールピリジン誘導体を用いることにより、電子供給層14Cが正孔供給層14Aの総膜厚よりも厚膜で形成されていても、低い駆動電圧での高い電子の供給効率が維持できる。また、電子供給層14Cを厚膜に形成することによって陽極13と陰極15との短絡が防止される。
【0063】
なお、電子供給層14Cは式(6)に示したアリールピリジン誘導体以外の化合物を含んでいてもよい。アリールピリジン誘導体以外の化合物としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属,希土類金属およびその酸化物,複合酸化物,フッ化物,炭酸塩等が挙げられる。
【0064】
陰極15は、例えば、厚みが2nm〜15nmであり、光透過性が良好で仕事関数が小さい材料により構成されている。陰極15は単層でもよいが、ここでは例えば陽極13側から順に第1層15A、第2層15Bと積層した構造となっている。
【0065】
第1層15Aは、仕事関数が小さく、且つ、光透過性の良好な材料により形成されることが好ましい。具体的には、例えばLi2O、Cs2Co3、Cs2SO4、MgF、LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類弗化物が挙げられる。また、第2層15Bは、薄膜のMgAg電極やCa電極などの光透過性を有し、且つ、導電性が良好な材料で構成されている。
【0066】
なお、第1層15Aおよび第2層15Bは、真空蒸着法,スパッタリング法,またはプラズマCVD法等の手法によって形成される。また、この有機電界発光素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、陽極13の周縁を覆う隔壁16および有機層14によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に対する共通電極として用いてもよい。
【0067】
また、陰極15は、アルミキノリン錯体,スチリルアミン誘導体,フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層としてもよい。この場合には、更に、第3層(図示なし)としてMgAgのような光透過性を有する層を別途設けてもよい。また、陰極15は上記のような積層構造に限定されることはなく、作製されるデバイスの構造に応じて最適な組み合わせおよび積層構造を取ればよいことは言うまでもない。例えば、本実施の形態の陰極15は、電極各層の機能分離、即ち有機層14への電子注入を促進させる無機層(第1層15A)と、電極を司る無機層(第2層15B)とを分離した積層構造である。しかしながら、有機層14への電子注入を促進させる無機層が、電極を司る無機層を兼ねてもよく、これらの層を単層構造として構成してもよい。また、この単層構造上にITOなどの透明電極を形成した積層構造としてもよい。
【0068】
更に、この有機電界発光素子11が、キャビティ構造となっている場合には、陰極15には半透過半反射材料を用いることが好ましい。これにより、陽極13側の光反射面と、陰極15側の光反射面との間で多重干渉させた発光光が陰極15側から取り出される。この場合、陽極13側の光反射面と陰極15側の光反射面との間の光学的距離は、取り出したい光の波長によって規定され、この光学的距離を満たすように各層の膜厚が設定されていることとする。このような上面発光型の有機電界発光素子においては、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能となる。
【0069】
(表示装置)
図2は、本実施の形態の有機電界発光素子11(赤色有機電界発光素子11R,緑色有機電界発光素子11G,青色有機電界発光素子11B)を備えた表示装置10の構成を表すものである。この表示装置10は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板12の上に、表示領域110として、複数の有機電界発光素子11がマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。なお、隣り合う有機電界発光素子11R,11G,11Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0070】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図3は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、陽極13の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。即ち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機電界発光素子11(11R,11G,11B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0071】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、各有機電界発光素子11のいずれか1つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0072】
図4は、図2に示した表示領域110の断面構成の一部を表したものである。各有機電界発光素子11(11R,11G,11B)は、それぞれ、基板12の側から、画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、上述のように陽極13,隔壁16,発光層14Bを含む有機層14および陰極15がこの順に積層された構成を有している。更に、有機電界発光素子11は保護層20により被覆され、更にこの保護層20上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板30が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。保護層20には、窒化ケイ素(代表的には、Si34)膜,酸化ケイ素(代表的には、SiO2)膜、窒化酸化ケイ素(SiNxOy:組成比X>Y)膜、酸化窒化ケイ素(SiOxNy:組成比X>Y)膜、またはDLC(Diamond like Carbon)のような炭素を主成分とする薄膜、CN(Carbon Nanotube)膜等が用いられる。これらの膜は、単層または積層した構成とすることが好ましい。特に、窒化物からなる保護層20は膜質が緻密であり有機電界発光素子11に悪影響を及ぼす水分、酸素およびその他不純物に対して極めて高いブロッキング効果を有する。
【0073】
保護層20は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0074】
封止用基板30は、有機電界発光素子11の陰極15の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に有機電界発光素子11を封止するものである。封止用基板30は、有機電界発光素子11で発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板30には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、有機電界発光素子11で発生した光を取り出すと共に、各有機電界発光素子11間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。
【0075】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。なお、各有機電界発光素子11R,11G,11B上には、対応する色のカラーフィルタが設けられている。
【0076】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr23)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0077】
ここで、有機電界発光素子11R,11G,11Bを構成する陽極13から陰極15までの各層は、真空蒸着法、イオンビーム法(EB法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタ法、OVPD(Organic Vapor Phase Deposition)法などのドライプロセスによって形成できる。
【0078】
また、有機層14は、上記の方法に加えてレーザー転写法,スピンコート法,ディッピング法,ドクターブレード法,吐出コート法,スプレーコート法などの塗布法、インクジェット法,オフセット印刷法,凸版印刷法,凹版印刷法,スクリーン印刷法,マイクログラビアコート法などの印刷法などのウエットプロセスによる形成も可能であり、各有機層や各部材の性質に応じて、ドライプロセスとウエットプロセスを併用しても構わない。
【0079】
(有機電界発光素子11および表示装置1の作用・効果)
この表示装置10では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、有機電界発光素子11R,11G,11Bに駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には陽極13および基板12を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には陰極15,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板30を透過して取り出される。
【0080】
その際、従来用いられている電子移動度が高い材料により構成される有機電界発光素子では、正孔供給層から発光層への正孔の供給量に対して電子輸送層から発光層への電子の供給量が多く、発光層において電子過剰になりやすかった。このため、発光層の劣化が起こりやすく、有機電界発光素子およびこれを備えた表示装置の寿命特性の低下を招いていた。
【0081】
これに対して本実施の形態では、電子供給層14Cの膜厚を正孔供給層14Aよりも厚くすることにより電子供給層14Cから発光層14Bへの電子の供給量を調整することが可能となる。但し、一般に電子供給層14Cあるいは正孔供給層14A等の膜厚を厚くすると発光層14Bへの電子あるいは正孔の供給量は低下する。しかしながら、本実施の形態のように厚膜とした電子供給層14Cの材料として電子移動度が高いアリールピリジン誘導体を用いることにより、発光層14Bへの十分な電子の供給量を確保することができる。即ち、電子供給層14Cから発光層14Bへの電子の供給量が調整され、発光層14Bへ過不足なく電子と正孔が供給される。
【0082】
このように本実施の形態の有機電界発光素子11およびこれを用いた表示装置10では、電子供給層14Cの膜厚を正孔供給層14Aよりも厚くしたので、発光層14Bへ過不足なく電子と正孔が供給され、発光層14Bの劣化が低減さると共に駆動劣化が抑制される。即ち、電子供給過多による発光層14Bの劣化が抑えられ発光効率が向上すると共に、有機電界発光素子11およびこれを用いた表示装置10の寿命が向上する。また、電子供給層14Cに電子移動度が高いアリールピリジン誘導体を用いるようにしたので、低い駆動電圧で電子の供給効率を維持することができるため消費電力を低減することが可能となる。従って、長期信頼性に優れた有機電界発光素子11および表示装置10が実現される。
【0083】
また、電子供給層14Cを厚く形成することで、発光層14B中のキャリアの再結合領域を陰極15から離れた位置に配置することができるため、陰極15をスパッタリング法等によって成膜した際の再結合領域へのダメージを低減することができる。
【0084】
なお、有機電界発光素子11は本実施の形態の表示装置10のようなアクティブマトリックス方式に限定されることはなく、パッシブ方式の表示装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。パッシブ方式の表示装置である場合には、上記陰極15または陽極13の一方が信号線として構成され、他方が走査線として構成される。
【0085】
以下、本発明の他の実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。
【0086】
(第2の実施の形態)
本実施の形態に係る表示装置の構成は図示しないが、第1の実施の形態と同様に、表示領域には赤色,緑色,青色に対応する複数の有機電界発光素子21R,21G,21Bがマトリクス状に配置された表示領域が形成されている。表示領域内には画素駆動回路が設けられている。また、表示領域の周辺には第1の実施の形態と同様に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路および走査線駆動回路が設けられている。
【0087】
図5は第2の実施の形態における有機電界発光素子21の断面構成を表したものである。有機電界発光素子21は第1の実施の形態と同様に、基板12上に陽極13、有機層24および陰極15がこの順に積層された構成を有している。この有機電界発光素子21は、有機層24中の電子供給層24Cが2層(24c,24d)設けられている点が第1の実施の形態と異なる。
【0088】
具体的には、上記第1の実施の形態で説明したアリールピリジンからなる第1の電子供給層24cと発光層24Bとの間に下記の式(7A),式(7B)および式(7C)に示したベンゾイミダゾール誘導体からなる第2の電子供給層24bが設けられている。
【0089】
【化23】

【0090】
【化24】

【0091】
【化25】

【0092】
上記式(7A),式(7B)および式(7C)におけるA13は炭素数1〜20個のアルキル基,炭素数1〜20のアルコキシ基,3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜120個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Lは単結合であり、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基または含窒素複素環基である。R1,R2は各々独立して、水素原子あるいはハロゲン原子,炭素数1〜20個のアルキル基,炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基,含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。nは0〜4の整数であり、mは0〜2の整数である。但し、mが2以上の場合にはR1はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。nが2以上の場合にはR2はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。
【0093】
式(7A),式(7B)および式(7C)に示したベンゾイミダゾール誘導体の具体例としては、以下の式(7−1)〜式(7−176)等の化合物が挙げられる。なお、式(7−1)〜式(7−176)におけるHArは式(7A)〜式(7C)中のR1およびR2を含むベンゾイミダゾール骨格に、Lは式(7A)〜式(7C)中のLに対応する。Ar2およびAr3は式(7A)〜式(7C)中のA13に対応し、Ar2,Ar3の順にLに結合する。
【0094】
【化26】

【0095】
【化27】

【0096】
【化28】

【0097】
【化29】

【0098】
【化30】

【0099】
【化31】

【0100】
【化32】

【0101】
【化33】

【0102】
【化34】

【0103】
【化35】

【0104】
【化36】

【0105】
【化37】

【0106】
【化38】

【0107】
【化39】

【0108】
【化40】

【0109】
【化41】

【0110】
【化42】

【0111】
【化43】

【0112】
【化44】

【0113】
なお、第2の電子供給層24bを構成する化合物は上記式(7−1)〜(7−176)に示した化合物以外のイミダゾール誘導体でもよい。具体的には、Lが単結合,アリーレン基,ピリジニレン基またはキノリニレン基等に限らず、フルオレニン基あるいはその誘導体でもよい。
【0114】
本実施の形態の有機電界発光素子21では、第1の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。上記第1の実施の形態において説明した電子供給層24cの発光層14B側にベンゾイミダゾール誘導体からなる第2の電子供給層24dを挿入することで、電子量の最適調整をすることができると共に、正孔と電子の過不足がなく、且つ、キャリア供給量も十分多いキャリアバランスが得られる。これにより高い発光効率が得られる。更に、駆動中の電圧変化もほぼ生じないため、低コストである定電流駆動回路を駆動回路に適用することが可能となる。
【0115】
(第3の実施の形態)
本実施の形態に係る表示装置の構成は図示しないが、第1の実施の形態と同様に、表示領域には赤色,緑色,青色の複数の有機電界発光素子31(31R,31G,31B)がマトリクス状に配置された表示領域が形成されている。表示領域内には画素駆動回路が設けられている。また、表示領域の周辺には第1の実施の形態と同様に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路および走査線駆動回路が設けられている。
【0116】
図6は第3の実施の形態における有機電界発光素子31の断面構成を表したものである。有機電界発光素子31は有機層34中の電子供給層34Cが3層(34c,34d,34e)設けられている点が第1の実施の形態と異なる。
【0117】
具体的には、上記第1の実施の形態で説明したアリールピリジン誘導体からなる第1の電子供給層34cと発光層34Bとの間に下記式(8)に示したジベンゾイミダゾール誘導体からなる第3の電子供給層34eが設けられている。更に、アリールピリジン誘導体からなる第1の電子輸送層上、即ち、陰極15側に上記第2の実施の形態において示したベンゾイミダゾール誘導体からなる第2の電子輸送層34dが設けられている。電子供給層34c,34d,34eそれぞれの膜厚は5nm以上であり、特に10nm以上が好ましい。電子供給層34Cの総膜厚が70nm以上の膜厚で形成されていることが好ましい。なお、第2の電子輸送層34dは省略しても構わない。
【0118】
【化45】

(Y1〜Y8は、各々独立して水素原子、炭素数6〜60個のアリール基、アルケニル基、ピリジル基、キノリル基、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20個のアルコキシ基または炭素数5〜60個の脂肪族環基あるいはそれらの誘導体である。なお、Y7とY8は連結基を介して環構造を形成してもよい。)
【0119】
式(8)に示したベンゾイミダゾール誘導体の具体例としては、以下の式(8−1)〜(8−21)等の化合物が挙げられる。
【0120】
【化46】

【0121】
本実施の形態の有機電界発光素子31では、第1の実施の形態における有機電界発光素子11および第2の実施の形態における有機電界発光素子21よりも更に正孔供給層34Aおよび電子供給層34Cから供給されるキャリアのバランスをとることが可能となる。即ち、より高い電子注入を安定的に発光層33Bに供給することができ、駆動電圧上昇を生じることなくより高い効率と長寿命を両立することが可能となる。
【0122】
(第4の実施の形態)
本実施の形態に係る表示装置の構成は図示しないが、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態において説明した表示装置と同様の構成となっている。
【0123】
図7(A)は第4の実施の形態における有機電界発光素子41の断面構成を表したものである。有機電界発光素子4は第1の実施の形態と同様に、基板12上に陽極13、有機層44および陰極15がこの順に積層された構成を有している。本実施の形態における有機電界発光素子4は、有機層(第1有機層44−1,第2有機層44−2)が2層積層されたタンデム構造となっている点が第1の実施の形態と異なる。
【0124】
具体的には、例えば上記第1の実施の形態で説明した有機層14と同様の構成をした第1有機層44−1および第2有機層44−2が、電子供給層17Aと正孔注入層17Bとを積層した構造を有する電荷発生層17を介して積層されている。
【0125】
電子供給層17Aは、陽極13側に設けられると共に、第1有機層44−1側の発光層44B1に電子を供給するものである。電子供給層17Aの材料としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属または希土類金属等の電子供与性金属あるいはその化合物が挙げられる。具体的には、例えばマグネシウム(Mg)をドープしたAlq3等を用いることができる。また、電子供給層17Aは電子供与性金属の他に有機材料を添加した混合層としてもよい。電子供給層17Aに添加可能な有機材料は、例えば上記第1の電子供給層24cの材料として示した式(6−1)〜式(6−58)および第2の電子供給層24dの材料として示した式(7−1)〜式(7−176)が挙げられる。
【0126】
正孔注入層17Bは、陰極15側に設けられると共に、第2有機層44−2側の発光層44B2への正孔の注入するものである。具体的には、正孔注入層17Bは、第2有機層44−2側から電子を引き抜き、電子供給層17Aを介して第1有機層44−1側へ電子を供給する。この電子の引き抜きによって生じた正孔が第2有機層44−2の発光層44B2へ供給される。正孔注入層17Bの材料としては、4.5eVより大きなLUMO準位を有する化合物が好ましく、具体的には、上記式(2−1)に示したヘキサニトリルアザトリフェニレンまたは下記式(9)に示した化合物を用いることができる。
【0127】
【化47】

【0128】
なお、電荷発生層17は図7(B)に示したように、電子供給層17Aと第1有機層44−1の電子供給層44Cとの間に電子注入性の材料からなる電子注入層17Cを設けてもよい。電子注入層17Cの材料としては、例えば酸化リチウム(LiO2)や炭酸セシウム(CsCO3)、あるいはこれらの酸化物および複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層17Cはこれら材料に限定されることはなく、例えばカルシウム(Ca),バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、Li,Cs等のアルカリ金属、インジウム(In),Mg等の仕事関数が小さい金属、あるいはこれらの酸化物および複合酸化物を用いてもよい。更に、これら酸化物および複合酸化物を2種以上組み合わせて安全性を高めた混合物あるいは合金を用いてもよい。
【0129】
本実施の形態の有機電界発光素子41では、有機層を2層(第1有機層44−1,第2有機層44−2)積層したタンデム構造とするようにしたので、上記第1の実施の形態の効果に加えて発光効率が更に向上すると共に、第1の実施の形態における長寿命化が相乗効果となり、きわめて長寿命な有機電界発光素子となる。更に、電子供給層44Cに電子移動度の高い電子供給層アリールピリジン誘導体を大きな膜厚比で用いることとなるため、有機層44−1,44−2の膜厚が大きなタンデム構造の有機電界発光素子においても駆動電圧を低く保つことが可能となる。
【0130】
なお、ここでは有機層44−1,44−2を2層積層した場合を示したがこれに限らず、3層またはそれ以上積層しても構わない。積層数を多くすることによって発光効率を更に向上することが可能となる。本実施の形態の有機電界発光素子41のように有機層44−1,44−2を2層積層した場合の理論上の発光効率はlm/Wは変わることなく、電流効率cd/Aは2倍に、また3層積層した場合には、3倍となる。
【0131】
なお、タンデム素子の場合における電子供給層44Cの厚みは以下の関係を満たすように設計することが好ましい。第1有機層44−1の電子供給層44Cの膜厚をd1aとし、第1有機層44−1全体の膜厚をd2aとした場合には、0.90>d1a/d2a>0.30の関係を満たすように設計することで、第1有機層44−1の発光層44Bへの正孔および電子の供給バランスがとり易くなる。また、第1有機層44−1と同様にして、第2有機層44−2の電子供給層44Cの膜厚をd1bとし、第2有機層44−2全体の膜厚をd2bとした場合、0.90>d1b/d2b>0.30の関係を満たすように設計することで、第2有機層44−2の発光層44Bへの正孔および電子の供給バランスがとり易くなる。以上のことから、第1有機層44−1もしくは第2有機層44−2の電子供給層14Cは、例えば70nm〜300nmであることが好ましく、より好ましくは120nm〜250nmである。なお、必ずしも第1有機層44−1と第2有機層44−2の両方が上記の膜厚関係を満たしている必要はなく、第1有機層44−1もしくは第2有機層44−2のいずれかが上記の関係を満たしていればよい。また3層またはそれ以上積層したタンデム素子においては、素子内のいずれかの有機層が上記の式を満たしていればよく、例えば、陽極側からn番目の第n有機層44−nの電子供給層44Cの膜厚をd1nとし、第n有機層44−1全体の膜厚をd2nとした場合、0.90>d1n/d2n>0.30の関係を満たすように設計すればよい。
【0132】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置の適用例について説明する。この表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0133】
(モジュール)
上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置は、例えば、図8に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層20および封止用基板30から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0134】
(適用例1)
図9は、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0135】
(適用例2)
図10は、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0136】
(適用例3)
図11は、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0137】
(適用例4)
図12は、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0138】
(適用例5)
図13は、上記第1〜第4の実施の形態で説明した有機電界発光素子11,21,31または41を備えた表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0139】
(実施例)
次に本発明の具体的な実施例について説明する。なお、実施例1−1〜1−8,3−1〜3−10および比較例1−1〜1−6は第1〜3の実施の形態に対応するものであり、有機層14(24,34)のうちの電子供給層が1層(14C),2層(24C),3層(34C)設けられた有機電界発光素子11,21,31である。実施例2−1〜2−4および比較例2は第4の実施の形態に対応するものであり、有機層44−1,44−2が2層積層されたタンデム構造を有する有機電界発光素子41である。なお、実施例1〜3の有機電界発光素子11(21,31,41)は陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子が発光層14B内で再結合する際に生じた発光を陽極13と陰極15との間で共振させて基板12と反対側の陰極15側から取り出す共振器構造で構成される上面発光方式の有機電界発光素子である。
【0140】
先ず、陽極13として、Ndを10wt%含むAlNd合金層を120nmの膜厚で形成した。ここで、陽極13中のAlNd合金層の端面は共振器構造の第1端面P1となる。次に、SiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。続いて陽極13上に、正孔供給層14Aとして式(2)に示したヘキサニトリルアザトリフェニレンを蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,10nmの膜厚で形成したのち、正孔輸送層14bとして式(4−42)に示した化合物を真空蒸着法により蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,30nmの膜厚で形成した。
【0141】
次に、正孔輸送層14b上に蛍光材料またはりん光材料を用いて発光層14Bを形成した。蛍光材料の具体例としてはホスト材料として式(10)で示した化合物を用い、ゲスト材料として式(11)に示した化合物を用いた。りん光材料の具体例としてはホスト材料として式(12)で示した化合物を用い、ゲスト材料として式(13)に示した化合物を用いてドーパント濃度が膜厚比で5%となるように、真空蒸着法により40nmの膜厚で形成した。
【0142】
【化48】

【0143】
【化49】

【0144】
【化50】

【0145】
【化51】

【0146】
続いて、発光層14B(24B,34B)上に電子供給層14C(24C,34C)として例えば式(6−58)に示したアリールピリジン誘導体を用いて各膜厚で形成した。
【0147】
以上のようにして有機層14を形成したのち、陰極15の第1層15aとして、LiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成し、次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nmの膜厚で形成し、2層構造の陰極15を設けた。この場合には、第2層15bの有機層14側の面が、共振器構造の第2端面P2となる。以上のようにして有機電界発光素子11(21,31)を作製した。
【0148】
また、タンデム構造を有する実施例2−1〜2−4(比較例2)の有機電界発光素子41は電子供給層44C1を形成したのち、接続層17としてLiF層を0.5nm,Alq3+Mg(10%)層を10nmおよびヘキサニトリルアザトリフェニレン層を10nm、順次蒸着した。この接続層17上に、上記有機層14と同様に第2の有機層44−2を形成し陰極15を形成して有機電界発光素子41を作製した。
【0149】
以上のように作製した有機電界発光素子11,21,31,41について、10mAcm-2の電流密度における電圧(V)および電流効率(cd/A)を測定した。また、50℃、30mAcm-2の定電流駆動500時間後の初期効率を1としたときの効率割合および初期電圧との電圧差ΔVを測定した。
【0150】
なお、表1は実施例1−1〜1−8および比較例1−1〜1−6の発光層14B(24B,34B)および電子供給層14C(24C,34C)として用いた材料の一覧である。表2は実施例2−1〜2−4および比較例2の発光層44B1,44B2および電子供給層44C1,44C2として用いた材料の一覧である。表3,4は実施例1,2の駆動電圧(V),発光効率(cd/A),500時間後の輝度割合および500時間後の電圧上昇(ΔV)の測定結果の一覧である。表5は実施例3−1〜3−10の発光層14B(24B,34B)および電子供給層14C(24C,34C)として用いた材料の一覧である。表6は実施例3における駆動電圧(V)および500時間後の輝度割合を測定結果の一覧である。図14は表6の結果をもとにして第2の電子供給層24dの材料であるベンゾイミダゾール誘導体の膜厚と駆動電圧の関係を表したものである。図15は表6の結果をもとに第3の電気供給層34eの材料であるジベンゾイミダゾール誘導体の膜厚と500時間後の輝度割合の関係を表したものである。
【0151】
【表1】

【0152】
【表2】

【0153】
【表3】

【0154】
【表4】

【0155】
【表5】

【0156】
【表6】

【0157】
表3,4からわかるように、正孔供給層14A〜34A(正孔注入層14a〜34a,正孔輸送層14b〜34b)40nmに対して電子供給層14C〜34Cを120nmまたは140nmまたは160nmのように厚膜に形成することにより、比較例1,2と比較して発光効率が向上している。また、500時間後の輝度割合の結果から輝度の低下もほとんどなく、駆動電圧の上昇も比較例1,2と比較して1桁あるいは2桁以上抑えられていることがわかる。このような結果は従来用いられている材料(Alq3)を用いて電子供給層14C〜34Cを厚膜に形成しても得られていない。即ち、上記式(6),(7),(8)に示した化合物を用いた電子供給層14C〜34Cの膜厚を正孔供給層14A〜34Aよりも厚膜とすることで発光効率が上昇し、更に寿命特性も向上することがわかる。また、発光効率については、実施例1の中でも電子供給層14C(24C,34C)の膜厚をより厚くすることで著しい向上がみられた。
【0158】
図14から、第1の電子供給層24cと陰極15との間にベンゾイミダゾール誘導体からなる第2の電子供給層24dを積層することにより駆動電圧が低減された。また、図15から、第1の電子供給層34cと発光層34Bとの間にジベンゾイミダゾール誘導体からなる第3の電子供給層34eを挿入することにより500時間後の輝度割合、即ち寿命特性が向上することがわかる。
【0159】
以上、第1〜第4の実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0160】
例えば、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0161】
また、上記第1の実施の形態では、有機電界発光素子11R,11G,11Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0162】
更に、上記実施の形態では、アクティブマトリックス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリックス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリックス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【0163】
また、上記第1の実施の形態で説明した表示装置では赤色、緑色、青色の有機電界発光素子を備えたものを例に説明したが、必ずしも3色備えられていなくても構わない。更に、この3色にその他の色、例えば黄色の有機電界発光素子を備えた表示装置への適用も可能である。更にまた、各有機電界発光素子11R(11),11G,11Bにおいては、発光層14B以外の層を共通化してもよい。また、緑色発光素子11Gおよび青色発光素子11Bにおいては、それぞれの発光層14BG,14CBに適するように、異なる材料で構成された電子輸送層14Dを設けてもよい。
【0164】
なお上記実施の形態等で説明した有機電界発光素子11〜41は、例えば有機電界発光素子11では、陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造とすることで、取り出し光の色純度を向上させ、共振の中心波長付近の取り出し光の強度を向上させることが可能となる。この場合、陽極13の発光層14B側の反射端面を第1端部P1(図示なし)、陰極15の発光層14B側の反射端面を第2端部P2(図示なし)とし、有機層14を共振部として、発光層14Bで発生した光を共振させて第2端部P2側から取り出す共振器構造とした場合には、共振器の第1端部P1と第2端部P2との間の光学的距離Lを下記式(1)を満たすように設定する。光学的距離Lは、実際には、式(1)を満たす正の最小値となるように選択することが好ましい。
【0165】
【数1】

【0166】
上記式(1)中において、Lは第1端部P1と第2端部P2との間の光学的距離、Φは第1端部P1で生じる反射光の位相シフトΦ1 と第2端部P2で生じる反射光の位相シフトΦ2 との和(Φ=Φ1 +Φ2 )(rad)、λは第2端部P2の側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長、mはLが正となる整数をそれぞれ表す。尚、式(1)においてLおよびλは単位が共通すればよいが、例えば(nm)を単位とする。
【0167】
また、有機発光素子11では、発光層14Bの最大発光位置と第1端部P1との間の光学的距離L1 が下記式(2)を満たし、最大発光位置と第2端部P2との間の光学的距離L2が下記式(3)を満たすように調整されている。ここで、最大発光位置とは、発光領域のうちで最も発光強度が大きい位置を言う。例えば、発光層14Bの陽極13側と陰極15側との両方の界面で発光する場合には、そのうち発光強度の大きい方の界面となる。
【0168】
【数2】

【0169】
上記式(2)中において、tL1は第1端部P1と最大発光位置との間の光学的理論距離、a1は発光層14Bにおける発光分布に基づく補正量、λは取り出したい光のスペクトルのピーク波長、Φ1は第1端部P1で生じる反射光の位相シフト(rad)、m1は0または整数をそれぞれ表す。
【0170】
【数3】

【0171】
上記式(3)中において、tL2は第2端部P2と最大発光位置13Eとの間の光学的理論距離、a2は発光層14Bにおける発光分布に基づく補正量、λは取り出したい光のスペクトルのピーク波長、Φ2は第2端部P2で生じる反射光の位相シフト(rad)、m2は0または整数をそれぞれ表す。
【0172】
上記式(2)は、発光層14Bで発生した光のうち陽極13の方へ向かう光が第1端部P1で反射して戻ってきたときに、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となり、発光した光のうち陰極15の方へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。また、式(3)は、発光層14Bで発生した光のうち陰極15の方へ向かう光が第2端部P2で反射して戻ってきたときに、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となり、発光した光のうち陽極13の方へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。
【0173】
本実施形態の有機電界発光素子11では、電子輸送層14dを正孔供給層14Aのトータル膜厚よりも厚く形成することで、上記式(2)、(3)のm1>m2となるように設計することが可能である。これにより、光の取り出し効率を高めることができる。
【0174】
なお、式(2)の光学的理論距離tL1および式(3)の光学的理論距離tL2は、発光領域に広がりがないと考えた場合に、第1端部P1または第2端部P2での位相変化量と、進行することでの位相変化量がちょうど打ち消し合い、戻り光の位相と発光時の位相とが同一となる理論値である。ただし、発光部分には通常広がりがあるので、式(2)および式(3)では、発光分布に基づく補正量a1,a2が加えられている。
【0175】
補正量a1,a2は発光分布により異なるが、最大発光位置が発光層14Bの陰極15側にあり、発光分布が最大発光位置から陽極13側に広がっている場合、または最大発光位置が発光層14Bの陽極13側にあり、発光分布が最大発光位置から陰極15側に広がっている場合には、例えば下記式(4)により求められる。
【0176】
【数4】

【0177】
式(4)中において、bは発光層14Bにおける発光分布が最大発光位置から陽極13の方向へ広がっている場合には2n≦b≦6nの範囲内の値、最大発光位置から陰極15の方向へ広がっている場合には−6n≦b≦−2nの範囲内の値であり、sは発光層13Cにおける発光分布に関する物性値(1/e減衰距離)、nは取り出したい光のスペクトルのピーク波長λにおける第1端部P1と第2端部P2との間の平均屈折率である。
【0178】
なお、陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造で構成される上面発光素子の場合には、陰極15は以下のような構成とすることが好ましい。例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2陰極15Bを構成し、第2陰極15Bと陽極13の間で発光光を共振させる。また、上記第2陰極15Bは、例えば透明なSiNx化合物からなり、電極の劣化抑制のための封止電極として形成される。
【0179】
また、上記第1〜第4の実施の形態および実施例では上面発光型の有機電界発光素子11〜41について説明したが、これに限定されるものではなく、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる有機電界発光素子に広く適用可能である。即ち、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものや、基板側に位置する電極(陰極または陽極としての下部電極)を透明材料で構成し、基板と反対側に位置する電極(陰極または陽極としての上部電極)を反射材料で構成することによって、下部電極側からのみ光を取り出すようにした、下面発光型(いわゆる透過型)の有機電界発光素子にも適用可能である。
【0180】
更に、一対の電極(陽極と陰極)、およびその電極間に有機層が挟持された有機電界発光素子であれば、他の構成要素(例えば、無機化合物層や無機成分)が含まれていても構わない。
【符号の説明】
【0181】
11,21,31,41…有機電界発光素子、12…基板、13…陽極、14,24,34,44−1,44−2…有機層、14A,24A,34A,44A1,44A2…正孔供給層、14a,24a,34a,44a1,44a2…正孔注入層、14b24b,34b,44b1,44b2…正孔輸送層、14B,24B,34B,44B1,44B2…発光層、14C,24C,34C,44C1,44C2…電子供給層、24c,34c…第1の電子供給層、24d,34d…第2の電子供給層、34e…第3の電位供給層、15…陰極、16…隔壁、17…電荷発生層、17A…電子供給層、17B…正孔注入層、17C…電子注入層、20…保護層、30…封止用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極上に形成された正孔供給層、発光層および式(1)で表わされるアリールピリジン誘導体を含むと共に、前記正孔供給層よりも膜厚の厚い電子供給層をこの順に備えた有機層と、
前記有機層上に形成された陰極と
を備えた有機電界発光素子。
【化1】

(Ar1は核炭素数6〜50個の芳香族炭化水素基あるいはその誘導体である。Xは少なくともピリジニル基を含有する芳香族複素環基あるいはその誘導体である。mは1〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。但し、mが2以上の場合にはAr1はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。nが2以上の場合にはXはそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。)
【請求項2】
前記電子供給層は、前記発光層側から順に前記アリールピリジンを含む第1電子供給層と、式(2A),式(2B)または式(2C)のいずれかで表わされるベンゾイミダゾール誘導体を含む第2電子供給層とを積層してなる、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】

【化3】

【化4】

(Aは炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜120個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Lは単結合、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基または含窒素複素環基である。R1は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。nは0〜4の整数であり、mは0〜2の整数である。)
【請求項3】
前記電子供給層は、前記発光層側から順に式(3)で表わされるジベンゾイミダゾール誘導体を含む第3電子供給層と、前記発光層側から順に前記アリールピリジンを含む第1電子供給層とを積層してなる、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化5】

(Y1〜Y8は、各々独立して水素原子、炭素数6〜60個のアリール基、アルケニル基、ピリジル基、キノリル基、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20個のアルコキシ基または炭素数5〜60個の脂肪族環基あるいはそれらの誘導体である。なお、Y7とY8は連結基を介して環構造を形成してもよい。)
【請求項4】
前記電子供給層は、前記発光層側から順に式(4)で表わされるジベンゾイミダゾール誘導体を含む第3電子供給層、前記アリールピリジンを含む第1電子供給層および式(3)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体を含む第2電子供給層を積層してなる、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記正孔供給層の膜厚は1nm以上100nm以下である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記電子供給層の膜厚は70nm以上300nm以下である、請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記電子供給層の膜厚d1と前記有機層の膜厚d2との関係は、0.30<d1/d2<0.90である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層はホスト材料としてりん光材料を含む、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記りん光材料はカルバゾール誘導体またはキノリノール錯体誘導体である、請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記有機層を、電荷発生層を介して少なくとも2以上積層したタンデム構造を有する、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記電荷発生層は前記陽極側から順に電子供給層および正孔注入層を積層した構造を有する、請求項10に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
基板上に複数の有機電界発光素子を備え、
前記有機電界発光素子は、
陽極と、
前記陽極上に形成された正孔供給層、発光層および式(1)で表わされるアリールピリジン誘導体を含むと共に、前記正孔供給層よりも膜厚の厚い電子供給層をこの順に備えた有機層と、
前記有機層上に形成された陰極とを有する
表示装置。
【化1】

(Ar1は核炭素数6〜50個の芳香族炭化水素基あるいはその誘導体である。Xは少なくともピリジニル基を含有する芳香族複素環基あるいはその誘導体である。mは1〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。但し、mが2以上の場合にはAr1はそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。nが2以上の場合にはXはそれぞれ同一の基あるいは異なる基でもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−204794(P2012−204794A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70690(P2011−70690)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】