説明

有機EL素子、有機EL装置及びその製造方法、並びに有機装置及びその製造方法

【課題】 有機EL素子として機能すべき領域に形成された正孔注入/輸送層の電気抵抗のみを小さくする。
【解決手段】 正孔注入/輸送層51は、PEDOT及びPSSの混合物からなる塗布材料をスピンコート法を用いて画素領域110全体に渡って塗布することによって、陽極34及びバンク部47上に渡って連続した塗膜55として形成された後、陽極34上に延在された延在部にのみジエチレングリコール等の有機溶剤をインクジェット法を用いて塗布することによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELディスプレイ等の表示装置に用いられる有機EL素子、並びに有機EL装置及びその製造方法、並びに有機太陽電池等の有機装置及びその製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の有機EL素子では、通常、正孔注入/輸送層及び電子注入/輸送層等の機能層が、発光層である有機EL層の両側に形成されている。このような有機EL層及び機能層は、スピンコート法或いはインクジェット法を用いて形成されることが多い。例えば特許文献1に開示された技術によれば、正孔注入/輸送層は、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(poly 3,4-ethylene dioxythiophene;以下、PEDOTと称す。)及びポリスチレンスルフォン酸(poly styrene sulfonate;以下、PSSと称す。)の混合物にアルコール系溶剤を加えてなる塗布材料をインクジェット法を用いて陽極上に塗布することによって形成されている。また、有機EL素子に限定されず、有機材料を用いて形成される有機太陽電池及び有機薄膜トランジスタ(以下、有機TFTと称す。)でも、有機EL素子と同様に、電力を取り出すための電極及び照射された光によって電流を発生する有機層間に、正孔及び電子の再結合を低減するように正孔を電極に伝導させる膜が形成されていることが多い。
【0003】
【特許文献1】特開2004―204114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、基板上に形成された複数の陽極にインクジェット法を用いて正孔注入/輸送層を形成した場合、各陽極上に形成された正孔注入/輸送層の膜厚に起因するバラツキが生じ、有機EL素子の動作時に消費される消費電力にバラツキが生じる。このような消費電力のバラツキは、各有機EL素子の発光効率及び輝度のバラツキの原因となり、結果的に有機EL素子の発光特性の低下を招く。
【0005】
スピンコート法を用いて塗布材料を塗布することによって正孔注入/輸送層を形成した場合には、本来有機EL素子として機能すべきでない領域の正孔注入/輸送層にまで電流が流れ、陽極、正孔注入/輸送層及び有機EL層を備えた有機EL素子のみを発光させることが困難となる技術的問題点がある。より具体的には、複数の画素が配列されてなる画素領域にアルコール系溶剤を含む塗布材料をスピンコート法を用いて塗布し、更にその上にスピンコート法を用いて有機EL層を形成した場合、各画素に形成された有機EL素子以外の部分が発光してしまう場合があり、その動作時に有機EL素子に印加される電圧を調整することが困難となる。加えて、正孔注入/輸送層の電気抵抗のバラツキに起因する消費電力のバラツキにより、各有機EL素子の寿命特性にバラツキが生じ、結果的にこのような有機EL素子を複数備えた有機EL装置の信頼性を低下させてしまう。また、有機太陽電池及び有機TFT等の有機素子でも、有機EL素子と同様に本来電流が流れるべきない領域に電流が流れてしまい、これら素子間に寿命のバラツキが生じる問題点がある。
【0006】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、動作時に印加される電圧の調整が容易となり、且つ素子の寿命を延ばすことが可能な有機EL素子、並びに有機EL装置及びその製造方法、並びに有機装置及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機EL装置は上記課題を解決するために、基板上に形成された複数の陽極と、前記複数の陽極上を覆うように形成された塗布膜と、前記塗布膜上に形成された有機EL層とを有する有機EL装置であって、前記塗布膜のうち、前記複数の陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、前記複数の陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さい。
【0008】
本発明に係る有機EL装置によれば、前記複数の陽極上を覆うように形成された塗布膜は、複数の陽極上で互いに均一な膜厚を有している。ここで、塗布膜は、例えば複数の画素がアレイ上に配列された画素領域のうち実質的に発光部として機能しない領域から発光部として機能する領域まで一枚の膜として形成されている。したがって、画素領域で均一な膜厚を有する塗布膜のうち複数の陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、複数の陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さくなっていることにより、膜厚バラツキに起因する電気抵抗のバラツキを低減できる。
【0009】
塗布膜のうち陽極上に重なる領域の膜厚と、陽極に重ならない領域の膜厚とは互いに均一とされているため、低い電気抵抗で、且つ電気抵抗のバラツキが低減された塗布膜を形成できる。このような塗布膜によれば、有機EL装置を動作させる際に各発光部に印加される電圧を低減でき、且つ各発光部における電圧のバラツキを低減できる。これにより、有機EL装置を動作させる際の電圧の制御が容易となり、且つ各有機EL装置の寿命も延ばすことが可能である。更に、この態様によれば、塗布膜のうち低い電気抵抗を有する領域を介して各陽極上に延在される有機EL層にのみ電流が供給されるため、塗布膜のうち本来電流を流すべきでない領域に電流が流れることを低減できる。これにより、例えば有機EL装置全体の消費電力の低減及び画質の向上を図ることが可能である。
【0010】
以上により、本発明に係る有機EL装置によれば、有機EL装置の動作時における電圧の調整が容易となり、且つ有機EL装置の寿命を延ばすことが可能である。
【0011】
本発明に係る有機EL装置の一の態様では、前記重なる領域は、前記正孔が前記陽極から注入される際のエネルギー障壁が低減された正孔注入層と、前記有機EL層から移動して来る電子が前記陽極側に移動することを妨げる正孔輸送層とを備えていてもよい。
【0012】
この態様によれば、陽極から供給された正孔を有機EL層に供給する際の電圧を低減できる。これにより有機EL装置の動作時に有機EL層で消費される消費電力を低減でき、有機EL装置の寿命を延ばすことが可能である。この態様では、正孔伝導層は、正孔注入層及び正孔輸送層が互いに異なる層として積層されていてもよいし、正孔の注入及び輸送の夫々を担う機能を備えた材料を混合した塗布材料を塗布することによってこれら2つの機能を備えた一層として形成されていてもよい。このような正孔の注入及び輸送の夫々を担う機能を備えた材料としては、例えばPEDOT及びPSSが挙げられる。
【0013】
本発明に係る有機EL装置の他の態様では、前記重なる領域は、選択的に処理されていてもよい。
【0014】
この態様によれば、例えば未処理の塗布膜を一枚の均一な膜厚を有する膜として形成した後、膜の一部の電気抵抗を選択的に小さくできる。
【0015】
本発明に係る有機EL装置の他の態様では、前記重なる領域は、インクジェット法を用いて有機溶剤を前記重なる領域に選択的に塗布することによって形成されていてもよい。
【0016】
この態様によれば、複数の陽極上の夫々に正確に有機溶剤を塗布でき、例えば電気抵抗が小さい正孔伝導層を陽極上に形成できる。ここで、有機溶剤としては、例えばアルコール系溶剤を用いることが可能である。このような有機溶剤が塗布されてなる正孔伝導層は、例えば乾燥工程を経て余分な溶剤を気化させることによって形成されていてもよく、余分な有機溶剤を気化させることによって所定の電気抵抗を有していてもよい。
【0017】
本発明に係る有機EL装置の他の態様では、前記塗布膜は、スピンコート法を用いて前記基板全体に形成されていてもよい。
【0018】
この態様によれば、塗布膜の膜厚が基板全体で均一となり、複数の陽極上に形成された夫々の正孔伝導膜の膜厚も互いに均一となる。これにより、膜厚バラツキに起因する正孔伝導膜の電気抵抗のバラツキも低減でき、有機EL装置に電流を流す際に各EL層に印加される電圧のバラツキも低減することが可能である。したがって、本実施形態に係る有機EL装置によれば、その駆動時に消費される電力のバラツキを低減でき、電力のバラツキを一因として生じる各発光部の寿命のバラツキも低減することが可能である。
【0019】
本発明に係る有機装置は上記課題を解決するために、基板上に形成された複数の電極と、前記複数の電極上を覆うように形成された塗布膜と、前記塗布膜上に形成された有機層とを有する有機装置であって、前記塗布膜のうち前記複数の電極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、前記複数の電極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さい。
【0020】
本発明に係る有機装置によれば、上述の本発明に係る有機EL装置と同様に、塗布膜のうち電極に重なる領域の電気抵抗が低減されており、有機装置の寿命も延ばすことが可能である。このような有機装置としては、例えば有機層に光を照射することによって発生した正孔を電極を介して素子外部に流すことによって電力を出力する有機太陽電池、或いは塗布膜のうち電極に重なる領域の電気抵抗を低減することによって動作性能が格段に高められた有機TFT素子が挙げられる。
【0021】
本発明に係る有機EL装置の製造方法は上記課題を解決するために、基板上に形成された複数の陽極を形成する工程と、前記複数の陽極上を覆うように塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜上に有機EL層を形成する工程とを有する有機EL装置の製造方法であって、前記塗布膜のうち前記複数の陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗を、前記複数の陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さくする工程を備える。
【0022】
本発明に係る有機EL装置の製造方法によれば、上述の本発明に係る有機EL装置と同様に、その動作時における電圧の調整が容易となり、且つ寿命が高められた有機EL装置を製造できる。
【0023】
本発明に係る有機装置の製造方法は上記課題を解決するために、基板上に複数の電極を形成する工程と、前記複数の電極上を覆うように塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜上に有機層を形成する工程とを有する有機装置の製造方法であって、前記塗布膜のうち前記複数の電極に平面的に重なる領域の電気抵抗を、前記複数の電極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さくする工程を備える。
【0024】
本発明に係る有機装置の製造方法によれば、上述の本発明に係る有機装置と同様に、例えば有機層に光を照射することによって発生した正孔を正孔伝導層及び電極を介して素子外部に流すことによって電力を出力する有機太陽電池、或いは正孔伝導層の電気抵抗を低減することによって動作性能が格段に高められた有機TFT素子を製造できる。
【0025】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を参照しながら、本実施形態の有機EL装置及びその製造方法、並びに有機素子及びその製造方法、並びに有機EL素子を説明する。
【0027】
<第1実施形態>
(有機EL装置の構成)
先ず、図1乃至図3を参照しながら、本実施形態に係る有機EL装置の一例を説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL装置の電気的な接続構成を示すブロック図である。
【0028】
図1において、有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する複数の画素部70の夫々は有機EL素子72を備えている。
【0029】
画素領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応するように画素部70がマトリクス状に配列される。
【0030】
画素部70は、有機EL素子72を有している。画素領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部70に対応する電源供給線117が設けられている。
【0031】
画素領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130は複数の走査線112に走査信号を順次供給する。データ線駆動回路150は、画素領域110に配線されたデータ線114に画像信号を供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。電源供給線117には、外部回路から画素部を駆動するための画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72が設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。
【0032】
駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。尚、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0033】
次に、図2及び図3を参照しながら、有機EL装置10の具体的な構成を説明する。図2は、画素領域110における有機EL装置10の平面図である。図3は、図2のIII−III´線断面図である。
【0034】
図2において、有機EL装置10は、画素部70、及びバンク部47を備えている。
【0035】
画素部70は、画素領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70が備える有機EL素子72は、バンク部47によって互いに隔てられている。バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、有機EL素子72が形成される凹部62を規定している。
【0036】
図3において、有機EL装置10は、基板1、基板1上に形成された有機EL素子72、駆動用トランジスタ74、バンク部47及び封止部20を備えている。尚、有機EL素子72は、図中下側に光を出射するボトムエミッション型の有機EL素子であるが、図中上側に光を出射するトップエミッション型の有機EL素子を備えた有機EL装置でも本発明の有機EL素子は適用可能である。
【0037】
基板1は、例えば、ガラス基板等で構成されており、有機EL素子72が図中下側に出射する光を透過させる。したがって、図1に示す駆動用トランジスタ74及びスイッチング用トランジスタ76は、基板1における有機EL素子72の下側の領域を避けるように形成されている。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画素領域110の周辺領域に設けられる。
【0038】
有機EL素子72は、図中下側から順に陽極34、正孔注入/輸送層51、有機EL層50、電子注入層52、及び陰極49を備えて構成されている。
【0039】
陽極34は、基板1上に順次形成されたゲート絶縁層2、層間絶縁膜41、保護層45、及び第1バンク部47aのうち第1バンク部47aに埋め込まれるように形成されている。陽極34は、例えば、有機EL層50から出射された光を図中下側に透過するようにITO等の透明材料で形成された透明電極である。
【0040】
正孔注入/輸送層51は、PEDOT及びPSSの混合物からなる塗布材料をスピンコート法を用いて画素領域110全体に渡って塗布することによって、陽極34及びバンク部47上に渡って連続した塗膜55として形成された後、陽極34上に延在された延在部にのみジエチレングリコール等の有機溶剤をインクジェット法を用いて塗布することによって形成されている。このような有機溶剤が塗布された塗膜55の電気抵抗は、有機溶剤が塗布されなかった部分に比べて相対的に電気抵抗が小さくなる。したがって、正孔注入/輸送層51は、塗膜55に比べて相対的に小さい電気抵抗を有している。加えて、正孔注入/輸送層51は、スピンコート法を用いて均一な膜厚を有するように形成された塗膜55の一部に有機溶剤を塗布して形成されているため、正孔注入/輸送層51は、複数の陽極34上で互いに均一な膜厚を有しており、各正孔注入/輸送層51間における電気抵抗のバラツキも小さい。更に、正孔注入/輸送層51は、塗膜55のうち陽極34上に延在する延在部の電気抵抗を小さくすることによって形成されているため、バンク部47上に延在された塗膜55に比べて小さい電気抵抗を有している。よって、正孔注入/輸送層51によれば、有機EL素子72の動作時に、正孔を有機EL層50に供給するために陽極34及び陰極49間に印加される電圧を低減できる。これにより、有機EL素子72の動作時に有機EL素子72で消費される消費電力を低減でき、素子の寿命のバラツキを抑え、且つ素子寿命を延ばすことが可能である。
【0041】
正孔注入/輸送層51は、陽極34から供給される正孔に対するエネルギー障壁を低減する正孔注入層と、有機EL素子72の動作時に有機EL層50から移動して来る電子が陽極34側に移動することを妨げる正孔輸送層との両方の機能を有しており、本実施形態ではこれら2つの機能を有する一枚の膜として形成されている。尚、正孔注入/輸送層51は、例えば乾燥工程を経て余分な有機溶剤を気化させることによって、塗膜55より電気抵抗が小さい電気抵抗を有していてもよい。正孔注入/輸送層51は、正孔注入及び輸送の両方の機能を備えた一層の膜として形成されている場合に限定されるものではなく、正孔注入層及び正孔輸送層を互いに別の層として形成されてなるものであってもよい。このような場合でも、これら各層のうち陽極34上に延びる延在部にのみインクジェット法を用いて有機溶剤を塗布することによって、延在部の電気抵抗を相対的に小さくできる。
【0042】
正孔注入/輸送層51によれば、有機EL素子72の動作時に、周囲の塗膜55より小さい電気抵抗を有する正孔注入/輸送層51を介して各陽極34上に延在される有機EL層50にのみ電流が供給されるため、塗膜55のうち本来正孔注入/輸送層として機能させるべきでない領域の部分、即ち有機EL層50のうちバンク部47上に延びる部分に電流が流れることを低減できる。よって、画素領域110全体に一枚の膜として形成された有機EL層50のうち凹部62で規定された領域に延在された部分のみを発光層として機能させることが可能である。これにより、余分な消費電力を低減でき、且つ画素部70を備えた画素毎に発光させることができるため、有機EL素子72を備えた有機EL装置10全体の消費電力の低減、及び画質の向上を図ることが可能である。
【0043】
有機EL層50は、スピンコート法を用いて有機EL材料を正孔注入/輸送層51及び塗膜55上に渡って連続的に形成されている。このような有機EL材料としては、例えば(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、またはこれらの高分子材料にルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープした材料を用いることをできる。
【0044】
電子注入層52は、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等の仕事関数の低いアルカリ金属材料或いはアルカリ土類金属材料を有機EL層50上に蒸着させることによって形成されている。電子注入層52によれば、電流駆動型の有機EL層50に電子を効率良く注入でき、有機EL層50の発光効率を高めることが可能である。
【0045】
陰極49は、第2バンク部47bの表面及び電子注入層52の表面を被うように形成されている。陰極49は、基板1上に形成された各有機EL素子72で共通とされる共通電極であり、例えば蒸着法を用いて形成されたAl等の金属薄膜である。陰極49は、基板1上で平面的に見て画素領域110全体に渡って物理的に接続された電極、即ち一枚の連続した電極として延在されている。
【0046】
駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、図1に示す電源供給線117に電気的に接続されており、ドレイン電極74dは陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、図1に示すデータ線114を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL素子50から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL素子50の下側を避けるように設けられている。駆動用トランジスタ74と同様に、図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。
【0047】
半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び図1に示す走査線112は、ゲート絶縁層2上に形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。
【0048】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には図3に示す層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。層間絶縁層41上には、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層41には、層間絶縁層41の表面から層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dは、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiNx)ないしシリコン酸化膜(SiOx)が形成されている。保護層45上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、画素部における有機EL層50の形成領域である凹部62が規定されている。
【0049】
封止板20は、水分が有機EL装置10の外部から有機EL層50に浸入することを防止する。より具体的には、封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL装置10の外気が有機EL素子72に触れないように有機EL素子72を封止する。基板1上に封止板20を接着する接着剤は、熱硬化樹脂或いは紫外線硬化樹脂を含んでおり、例えば、熱硬化樹脂の一例であるエポキシ樹脂が封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布される。有機EL素子72が封止板20によって封止された状態で、封止板20の中央部及び有機EL素子72の間に一定の空間が介在する。封止板20及び有機EL素子72間の空間には、不活性ガス、樹脂或いはオイル等の充填材が充填され、この充填材により装置外部から侵入する水分を低減する。封止板20及び有機EL素子72間の空間は、封止板20及び基板1で封止された真空であってもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る有機EL装置によれば、その動作時における電圧の調整が容易となり、且つ寿命を延ばすことが可能である。これにより、有機EL装置10の長寿命化及び画像を表示する際に各有機EL素子に印加する電圧の調整が容易となる。
【0051】
次に、図4及び図5を参照しながら、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法を説明する。図4及び図5は、有機EL装置10の製造工程を示す工程断面図である。
【0052】
図4(a)に示すように、素子基板1aの表面を、例えばプラズマ処理によって洗浄する。より具体的には、陽極34に酸素ガスを用いたOプラズマ処理を施し、陽極34の表面を洗浄する。これにより、素子基板1a表面のコンタミネーションの除去し、後述する塗布材料に対する濡れ性を高めておく。また、Oプラズマ処理によって陽極34表面における仕事関数の調整も行うことが可能である。
【0053】
尚、素子基板1aは、基板1上に駆動トランジスタ74等の素子、下地絶縁膜2、層間絶縁膜41、保護膜45、陽極34、バンク部47、及び後述する導電部60までが形成された板状の構造体であり、詳細な構造については図示していない。
【0054】
次に、図4(b)に示すように、陽極34及びバンク部47上の画素領域110全体にスピンコート法を用いて正孔注入/輸送材料を塗布し、50nmの膜厚を有する塗膜55を形成する。正孔注入/輸送材料としては、PEDOT及びPSSを純水に分散したスピンコート用インクが用いられ、例えばPEDOT及びPSSの重量比が1:50、固形分濃度が1.5wt%となるようにインクの成分が調整されている。
【0055】
次に、図4(c)に示すように、塗膜55のうち凹部62に形成された部分にインクジェット法を用いてノズル7からジエチレングリコールを塗布し、塗布部51aを形成する。これにより、塗膜55のうち陽極34上に伸びる延在部のみにジエチレングリコールが塗布された塗布部51aが形成される。ここで、ノズル7から供給されるジエチレングリコールは固形分を含んでいないため、ノズルから正孔注入/輸送材を塗膜55の一部に塗布する場合に比べてノズルの詰まりを低減できる。加えて、エチレングリコールを塗布する領域を容易に変えることができるため、エチレングリコールが塗布された領域に応じて発光領域の面積を調整できる。これにより、有機EL素子72の動作時に、陰極49及び陽極34間に印加される電圧を調整できる。
【0056】
次に、図5(a)に示すように、塗布部51aを真空乾燥し、その後200℃の温度で10分間熱処理することによって形成された正孔注入/輸送層51上に、有機EL層50を形成する。有機EL層50は、正孔注入/輸送層51及び塗膜55上にスピンコート法を用いて有機EL材料を塗布し、その後、150℃の不活性ガス(例えばN)雰囲気中で熱処理されることによって例えば100nmの膜厚となるように形成される。
【0057】
次に、図5(b)に示すように、有機EL層50上に電子注入層52及び陰極49を形成することによって、有機EL素子72を形成する。電子注入層51は、例えばCaを5nmの膜厚となるように蒸着させることによって形成される。陰極49は、例えばAlを200nmの膜厚となるように蒸着させることによって形成される。その後、素子基板1aにおける有機EL素子72が形成された側を接着剤及び対向基板を用いて封止することによって図3に示した有機EL装置10を形成する。
【0058】
以上、説明したように、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によれば、その動作時における電圧の調整が容易となり、且つ素子の寿命を延ばすことが可能である有機EL素子を容易に形成できる。
【0059】
ここで、本願発明者は、従来のインクジェット法を用いて各陽極上に正孔注入/輸送層を形成してなる有機EL装置に比べて本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によって製造された有機EL装置の特性がどの程度向上しているのかを確認する実験を行った。その結果、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によって製造された有機EL装置では、従来の有機EL装置と同じ輝度を得るために従来の有機EL装置より5Vだけ小さい電圧を陽極及び陰極間に印加すれば済むことが分かった。また、従来の有機EL装置では、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によって形成された有機EL装置に比べて発光面積が1.5倍となっていた。したがって、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法によって製造された有機EL装置によれば、本来発光すべきでない領域が発光することを低減でき、有機EL装置の画質を高めることができることが分かった。
【0060】
<第2実施形態>
(有機装置の構成)
次に、本発明に係る有機装置の一例である有機太陽電池の構成を説明する。尚、本実施形態の有機太陽電池も第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法と同様にして形成できるため、その製造方法の詳細な説明は省略する。
【0061】
図6は、本実施形態に係る有機太陽電池の構成を示す図である。
【0062】
図6において、有機太陽電池272は、基板201上に形成された第1電極234、バッファ層251、本発明の「有機層」の一例である光電変換層250、第2電極249を備えており、基板201上に複数形成されている。
【0063】
バッファ層251は、スピンコート法を用いて塗布材料を複数の第1電極234上に渡って塗布することによって形成された塗膜255のうち第1電極234上の延びる延在部にジエチレングリコール等の有機溶剤を選択的に塗布することによって形成されている。これにより、バッファ層251は、各第1電極234上において互いに膜厚が均一であり、且つ塗膜255に比べて相対的に電気抵抗が小さくされている。したがって、バッファ層251によれば、光電変換層250で生成された正孔が第1電極234を介して外部に取り出される際の電気抵抗を低減できる。
【0064】
光電変換層250は、バッファ層251及び塗膜255上にスピンコート法を用いて有機材料を均一に塗布することによって形成されている。したがって、光電変換層250は、各有機太陽電池272間で互いに膜厚バラツキが低減されており、これら有機太陽電池272における発電能力のバラツキも低減できる。
【0065】
このような有機太陽電池272によれば、基板上に201に形成された状態で、第1電極234及び第2電極249を介して電池外部に電力を取り出すことができる。加えて、各有機太陽電池272が備えるバッファ層251における電気抵抗のバラツキも低減できる。したがって、発電能力が均一な複数の有機太陽電池272を一括で形成できる。
【0066】
尚、本発明に係る有機装置は、有機太陽電池に限定されるものではなく、例えば有機材料を用いて形成される有機TFT等の素子にも応用可能であることは言うまでもない。
【0067】
(電子機器)
次に、第1実施形態で説明した有機EL装置を備えた各種電子機器について説明する。
【0068】
<A:モバイル型コンピュータ>
図7を参照しながらモバイル型のコンピュータに上述した有機EL装置を適用した例について説明する。図7は、コンピュータ1200の構成を示す斜視図である。
【0069】
図7において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、図示しない有機EL装置を用いて構成された表示部1005を有する表示ユニット1206とを備えている。表示部1005は、画素領域における正孔注入/輸送層の電気抵抗が低減されているため、その動作時における電圧調整が容易である。また、表示部1005は、赤色、青色及び緑色のフィルターを備えるため、赤、緑、青の光の三原色の光によってフルカラー表示で画像を表示できる。
【0070】
<B:携帯型電話機>
更に、上述した有機EL装置を携帯型電話機に応用した例について、図8を参照して説明する。図8は、携帯型電話機1300の構成を示す斜視図である。
【0071】
図8において、携帯型電話機1300は、複数の操作ボタン1302と共に、本発明の一実施形態である有機EL素子を有する表示部1305を備えている。
【0072】
表示部1305は、上述の動作時の電圧調整が容易であり、表示部1005と同様に高品質の画像を表示することができる。また、表示部1305は、表示部1005と同様にフルカラー表示で画像を表示できる。
【0073】
上述の各電子機器によれば、本発明に係る有機EL素子を具備してなるので、高品位の画像を表示できる。また、上述の有機EL素子を具備してなる電子機器によれば、高品位の表示が可能な、投射型表示装置、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器、及び電子ペーパなどの電気泳動装置等も実現することが可能である。
【0074】
尚、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う有機EL素子及びその製造方法、並びに有機素子及びその製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置の電気的な接続構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置の要部の構成を示した平面図である。
【図3】図2のIII−III´線断面図である。
【図4】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程断面図(その1)である。
【図5】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程断面図(その2)である。
【図6】第2実施形態に係る有機装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の有機EL装置を備えた電子機器の一例を示す斜視図である。
【図8】本発明の有機EL装置を備えた電子機器の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・基板、1a・・・素子基板、10・・・有機EL装置、34・・・陽極、49・・・陰極、50・・・有機EL層、51・・・正孔注入/輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数の陽極と、
前記複数の陽極上を覆うように形成された塗布膜と、
前記塗布膜上に形成された有機EL層とを有する有機EL装置であって、
前記塗布膜のうち、前記複数の陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、前記複数の陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さいこと
を特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記重なる領域は、前記正孔が前記陽極から注入される際のエネルギー障壁が低減された正孔注入層と、前記有機EL層から移動して来る電子が前記陽極側に移動することを妨げる正孔輸送層とを備えたこと
を特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記重なる領域は、選択的に処理されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記重なる領域は、インクジェット法を用いて有機溶剤を前記重なる領域に選択的に塗布することによって形成されていること
を特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記塗布膜は、スピンコート法を用いて前記基板全体に形成されていること
を特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
基板上に形成された複数の電極と、
前記複数の電極上を覆うように形成された塗布膜と、
前記塗布膜上に形成された有機層とを有する有機装置であって、
前記塗布膜のうち前記複数の電極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、前記複数の電極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さいこと
を特徴とする有機装置。
【請求項7】
基板上に形成された複数の陽極を形成する工程と、
前記複数の陽極上を覆うように塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜上に有機EL層を形成する工程とを有する有機EL装置の製造方法であって、
前記塗布膜のうち前記複数の陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗を、前記複数の陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さくする工程を備えたこと
を特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
基板上に複数の電極を形成する工程と、
前記複数の電極上を覆うように塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜上に有機層を形成する工程とを有する有機装置の製造方法であって、
前記塗布膜のうち前記複数の電極に平面的に重なる領域の電気抵抗を、前記複数の電極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さくする工程を備えたこと
を特徴とする有機装置の製造方法。
【請求項9】
基板上に形成された陽極と、
前記陽極上を覆うように形成された塗布膜と、
前記塗布膜上に形成された有機EL層とを有する有機EL素子であって、
前記塗布膜のうち前記陽極に平面的に重なる領域の電気抵抗が、前記陽極に平面的に重ならない領域の電気抵抗に比べて相対的に小さいこと
を特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−80917(P2007−80917A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263446(P2005−263446)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】