説明

有機EL素子の製造方法及び製造装置

【課題】少ない工程でより性能の高い有機EL素子を製造することが可能な製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子パネル500の製造装置80は、各層の成膜を行う複数の蒸着室12乃至15及び22乃至25を備える。蒸着室12乃至15及び22乃至25の外部には、蒸着物56の膜厚を計測するエリプソメータ70がそれぞれ設けられる。蒸着室12のエリプソメータ70により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合、真空搬送用ロボット11は次段階に設けられる蒸着室13へ蒸着物56が蒸着されたガラス基板51を搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の成膜室にて複数層の成膜を段階的に行う有機EL素子の製造方法及び該方法に用いる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)素子は、基板上に下部電極と有機発光機能層を含む有機層と上部電極とを積層させた基本構造を有しており、上部電極と下部電極との間に電圧を印加することによって、上部電極及び下部電極の一方に形成される陰極側から電子が有機層内に注入され、上部電極及び下部電極の他方に形成される陽極側から正孔が有機層内に注入されて、それらが有機層中の有機発光機能層で再結合することで発光する自発光素子である。
【0003】
かかる有機EL素子の製造装置としてクラスタ型の有機EL素子の製造装置が知られている(例えば特許文献1)。図14は従来のクラスタ型製造装置の構成を示す模式的平面図である。図において200はクラスタ型製造装置であり、2連の成膜装置210,220と封止装置230を備えるように構成されており、搬入側の成膜装置210には基板搬送室241が連設され、成膜装置210,220及び封止装置230間にはそれぞれ受渡室242,243が連設され、封止装置230の搬出側には排出室244が連設されている。成膜装置210,220は、中央に真空搬送用ロボット211,221が配備され、その周囲に複数の蒸着室212,213,214,222,223,224が配備されている。そして、各成膜装置210,220にはそれぞれ検査室(膜厚測定)215,225が配備されている。
【0004】
また、封止装置230にも中央に真空搬送用ロボット231が配備され、その周囲に封止基板搬送室232,検査室(発光特性測定)233,封止室234と予備の真空室235が配備されている。そして、各蒸着室212,213,214,222,223,224の入り口、基板搬送室241,受渡室242,243,封止基板搬送室232,排出室244の出入り口には、真空ゲート1Gが装備されている。
【0005】
ここで、成膜装置210,220において、蒸着室212,213,214,222,223,224は、有機層(正孔輸送層,発光層(R,G,B),電子輸送層)及び上部電極をそれぞれ成膜するためのものであり、各層の蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸着源を備える抵抗加熱式等の真空蒸着装置が配備されている。また、検査室215,225には、積層された膜厚を実測するための光学的膜厚測定装置が配備されている。そして、検査室215,225での検査結果に基づいて蒸着室の膜厚設定調整が可能なように、検査室215と各蒸着室212〜214或いは検査室225と各蒸着室222〜224は、データ送信手段(送信回線及び送受信装置を含む)1Pで接続されている。
【0006】
このような製造装置によると、前処理工程及び洗浄済みの基板(ITO基板)が基板搬送室241内に搬入されて、成膜装置210の真空搬送用ロボット211に渡され、この真空搬送用ロボット211の動作によって、順次蒸着室212,213,214での蒸着がなされると共に積層された層の膜厚測定が検査室215で行われる。受渡室242で成膜装置210側の真空搬送用ロボット211から成膜装置220側の真空搬送用ロボット221への受渡がなされ、成膜装置220で、真空搬送用ロボット221の動作によって、順次蒸着室222,223,224での蒸着がなされると共に積層された層の膜厚測定が検査室225で行われる。
【0007】
この製造装置による成膜工程の例を具体的に説明すると、例えば、成膜装置210では1色目の成膜が行われ、蒸着室212で各色共通の正孔輸送層、蒸着室213で発光層(B)、蒸着室214で電子輸送層(B)の蒸着がそれぞれ行われる。そして、その測定結果に基づく発光特性のシミュレーションによって色度補正層の成膜調整がなされる(検査室215での測定結果が蒸着室214に送信されて、蒸着室214での膜厚設定がなされる)。その後、再び基板が蒸着室214内もしくは別の蒸着室内(図示していない)に搬送されて、調整された設定膜厚に従って電子輸送層からなる色度補正層が成膜される。
【0008】
その後は、成膜装置220に受け渡されて2色目の成膜がなされる。蒸着室222で発光層(G)の蒸着が行われ、次いで蒸着室223で電子輸送層(G)の蒸着が行われる。その後検査室225に搬送されて積層膜厚の測定が行われる。そして、その測定結果に基づく発光特性のシミュレーションによって色度補正層の成膜調整がなされる。その後、再び蒸着室223内もしくは別の蒸着室内(図示していない)に搬送されて、調整された設定膜厚に従って電子輸送層からなる色度補正層が成膜される。
【0009】
そして、最後に蒸着室224において上部電極の蒸着がなされた後に、受渡室243を介して封止装置230に搬送される。封止装置230では、先ず、検査室233に搬送されて、そこで発光特性の測定がなされて色度ずれのないことが確認される。そして、有機層及び上部電極が成膜された基板と封止基板搬送室232から搬入された封止基板とが共に封止室234に搬送され、接着剤を介して両者の貼り合わせが行われる。貼り合わせが完了した有機ELパネルが排出室244を介して装置外に搬出される。以上述べたクラスタ型の製造装置に加えて、蒸着室が連設された成膜装置及び封止装置が平行に並列配置されたインライン型の製造装置も知られている。
【特許文献1】特開2005−322612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の製造装置では各蒸着室における各層の成膜の度に、積層物を検査室へ搬入して光学的膜厚測定を行っていることから蒸着及び検査工程に多くの時間を要し、また積層物を蒸着室・検査室間で移動させる必要があり装置内の真空状態の管理負担も多くなるという問題があった。また、光学的膜厚測定は各層成膜後、別途検査室において実行しているため、膜厚に誤差が存在する場合は、次段に存在する蒸着室において色度補正層の成膜調整を行う必要があり、工程数が増加するという問題もあった。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、各成膜室の外部に光学的膜厚計測装置を設け、各層の膜厚制御を行うことにより少ない工程でより性能の高い有機EL素子を製造することが可能な製造方法及び該製造方法に使用する製造装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、光学的膜厚計測装置を成膜物積層方向の反対側に設けることにより、成膜ユニットが載置される成膜室外部から、成膜物の膜厚を成膜ユニット等の物理的な障害なく計測でき、また装置全体の設計が容易となる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る有機EL素子の製造方法は、複数の成膜室にて複数層の成膜を段階的に行う有機EL素子の製造方法において、各成膜室の外部に設けられた光学的膜厚計測装置により成膜物の膜厚を計測し、光学的膜厚計測装置により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合に、次段階に設けられた成膜室へ成膜物を搬送させることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る有機EL素子の製造装置は、複数の成膜室にて複数層の成膜を段階的に行う有機EL素子の製造装置において、各成膜室の外部に設けられ、成膜物の膜厚を計測する光学的膜厚計測装置と、光学的膜厚計測装置により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合に、次段階に設けられた成膜室へ成膜物を搬送する手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る有機EL素子の製造装置は、成膜物の積層方向側に設けられ、成膜材料を供給する成膜ユニットをさらに備え、前記光学的膜厚計測装置は、成膜物の積層方向反対側に設けられていることを特徴とする。本発明に係る有機EL素子の製造装置は、前記成膜ユニットを制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る有機EL素子の製造装置は、前記光学的膜厚計測装置は、成膜物の膜厚形成速度を算出する手段と、算出した膜厚形成速度と予め設定した膜厚形成速度との偏差を前記制御手段へ出力する手段とを備え、前記制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう前記成膜ユニットを制御するよう構成してあることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る有機EL素子の製造装置は、前記光学的膜厚計測装置はエリプソメータであり、成膜物の光学定数を算出する手段と、算出した光学定数と予め設定した光学定数との偏差を前記制御手段へ出力する手段とを備え、前記制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう前記成膜ユニットを制御するよう構成してあることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る有機EL素子の製造装置は、前記成膜室の成膜物の積層方向反対側に傾斜して設けられ、前記光学的膜厚計測装置からの入射光及び該光学的膜厚計測装置への反射光を透過させるための透過窓をさらに備えることを特徴とする。本発明に係る有機EL素子の製造装置は、前記光学的膜厚計測装置は、光弾性変調器を用いたエリプソメータであることを特徴とする。
【0019】
本発明にあっては、有機EL素子の製造装置は、複数層の成膜を行う複数の成膜室を備える。各成膜室の外部には、成膜物の膜厚を計測する光学的膜厚計測装置がそれぞれ設けられ、この光学的膜厚計測装置により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合、搬送手段は次段階に設けられる成膜室へ成膜物を搬送する。このように構成したので、別途膜厚を計測するための専用の検査室を設ける必要がなくなり、製造速度を向上させることができる。また各層の成膜室において膜厚を逐次計測し制御するので、より性能の高い有機EL素子を製造することが可能となる。
【0020】
本発明にあっては、成膜物の積層方向側に設けられ、成膜材料を供給する成膜ユニットを用いる。そして制御手段は成膜ユニットを制御する。一方、光学的膜厚計測装置は、成膜物の積層方向反対側に設けられる。このように積層方向反対側に光学的膜厚計測装置を配置して、基板裏側から膜厚を計測する。
【0021】
本発明にあっては、光学的膜厚計測装置は、成膜物の膜厚形成速度を算出する。そして、算出した膜厚形成速度と予め設定した膜厚形成速度との偏差を制御手段へ出力する。制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう成膜ユニットを制御するので、設計どおりの成膜が実現でき、より性能の高い有機EL素子を製造でき、また歩留まりを上げることが可能となる。
【0022】
本発明にあっては、光学的膜厚計測装置としてエリプソメータを用いる。エリプソメータは成膜物の光学定数を算出する。そして、算出した光学定数と予め設定した光学定数との偏差を制御手段へ出力する。制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう成膜ユニットを制御するよう構成したので、設計どおりの成膜が実現でき、より性能の高い有機EL素子を製造でき、また歩留まりを上げることが可能となる。
【0023】
本発明にあっては、光学的膜厚計測装置からの入射光及び光学的膜厚計測装置への反射光を透過させるための透過窓を成膜室の成膜物積層方向反対側に傾斜して設けたので、成膜室内部に最適な角度で、透過窓を経由して成膜物へ入射光を入射でき、また成膜物からの反射光を、透過窓を通じて光学的膜厚計測装置へ取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にあっては、各成膜室の外部に光学的膜厚計測装置を設け、各層の膜厚制御を行うので、少ない工程で製造速度を向上させることができる。また各層の成膜室において膜厚を逐次計測し制御するので、より性能の高い有機EL素子を製造することが可能となる。
【0025】
本発明にあっては、積層方向反対側に光学的膜厚計測装置を配置して、基板裏側から膜厚を計測する。また、成膜室の成膜物積層方向は成膜ユニット等が設置され膜厚計測のスペースを確保することが困難なところ、積層方向反対側から計測を行うので、積層方向の成膜ユニット等の配置レイアウトを自由に設計することが可能となる。
【0026】
本発明にあっては、光学的膜厚計測装置により、成膜物の膜厚形成速度を算出し、制御手段により出力された偏差を略ゼロとするよう成膜ユニットを制御するので、設計どおりの成膜が実現でき、より性能の高い有機EL素子を製造でき、また歩留まりを上げることが可能となる。
【0027】
本発明にあっては、成膜物の光学定数を算出し、制御手段により出力された偏差を略ゼロとするよう成膜ユニットを制御するよう構成したので、設計どおりの成膜が実現でき、より性能の高い有機EL素子を製造でき、また歩留まりを上げることが可能となる。
【0028】
本発明にあっては、光学的膜厚計測装置からの入射光及び光学的膜厚計測装置への反射光を透過させるための透過窓を積層方向反対側に傾斜して設けたので、成膜室内部に最適な角度で、透過窓を経由して成膜物へ入射光を入射でき、また成膜物からの反射光を、透過窓を通じて光学的膜厚計測装置へ取得することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
実施の形態1
以下本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は本発明に係る製造装置80の概要を示す模式的平面図である。製造装置80はガラス基板51上に成膜物56を成膜する2連の第1成膜装置10、第2成膜装置20、及び成膜物56が成膜されたガラス基板51に封止基板57を張り合わせて有機EL素子パネル500を排出する封止装置30を含んで構成される。ガラス基板51は第1成膜装置10及び第2成膜装置20に搬送され、成膜物56が成膜された後、封止装置30へ搬送される。封止装置30において、成膜物56が成膜されたガラス基板51に封止基板57が張り合わされ後、完成品である有機EL素子パネル500が外部へ排出される。
【0030】
第1成膜装置10は搬送手段である真空搬送用ロボット11、基板搬送室41、成膜室12,13,14,15、光学的膜厚計測装置70、真空ゲートG、受渡室42及びデータ送信手段Pを含んで構成される。第1成膜装置10の略中央部には真空搬送用ロボット11が設置され、その周囲を囲むように、基板搬送室41、成膜室12,13,14,15及び受渡室42が密閉性を有する真空ゲートGを介して接続されている。真空ゲートG、Gが入口及び出口に設けられた基板搬送室41には前処理工程及び洗浄済みのガラス基板51(ITO基板)が搬送される。基板搬送室41へ搬送されたガラス基板51は真空搬送用ロボット11により、成膜室12に搬送される。
【0031】
成膜室12,13,14,15及び第2成膜装置20の成膜室22,23,24,25は正孔輸送層、発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層及び陰極を含む成膜物56をそれぞれ段階的に成膜するためのものであり、各成膜室12,13,14,15,22,23,24,25の上側には、成膜物56の各層の膜厚を計測するための光学的膜厚計測装置70、70、70・・・が設置されている。なお、以下では成膜室12乃至15並びに22乃至25で行われる成膜がCVD(Chemical Vapor Deposition)法による蒸着であるものとして説明するが、成膜対象に応じて適宜スパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法による成膜を用いても良い。以下では成膜室12乃至15並びに22乃至25を、蒸着室12乃至15並びに22乃至25であるものとし、また成膜物56を蒸着物56であるものとして説明する。光学的膜厚計測装置70としては例えば、ポラリメータまたはエリプソメータ等を用いることができる。以下では光学的膜厚計測装置70をエリプソメータ70であるものとして説明する。また以下では位相変調法を用いたエリプソメータ70を適用した場合について説明するが、回転検光子法を用いたエリプソメータ70を適用しても良いことはもちろんである。
【0032】
ガラス基板51が蒸着室12へ搬送された場合、蒸着が開始され同時にエリプソメータ70による膜厚計測が開始される。蒸着物56がガラス基板51上に蒸着され、エリプソメータ70により予め設定された膜厚に達したと判断された場合、蒸着室12は蒸着を停止し、1層目の蒸着物56が蒸着されたガラス基板51は搬送手段である真空搬送用ロボット11により、次段の蒸着室13へ搬送される。蒸着室13においては2層目の蒸着物56が蒸着され、その膜厚は蒸着室13に設けられるエリプソメータ70により計測される。蒸着室13において2層目の蒸着物56が予め設定された膜厚に達した場合、蒸着が停止され、次段の蒸着室14へ搬送される。各蒸着室12乃至15並びに22乃至25は送信回線及び送受信装置を含むデータ送信手段Pにより接続されており、各蒸着室12乃至15並びに22乃至25での蒸着の状況に関する情報が送受信される。
【0033】
このように第1成膜装置10では、1層目乃至4層目の蒸着が、各エリプソメータ70によるリアルタイムでの膜厚計測を伴って実施される。4層目の蒸着を終えた後、蒸着物56が蒸着されたガラス基板51は、入口及び出口に真空ゲートG、Gが設けられた受渡室42へ真空搬送用ロボット11により搬送される。受渡室42に連設される第2成膜装置20も第1成膜装置10と同様に、真空ゲートG、蒸着室22乃至25、データ送信手段P、エリプソメータ70、真空搬送用ロボット21及び受渡室43を含んで構成される。
【0034】
ガラス基板51は、受渡室42を経て第2成膜装置20の蒸着室22へ搬送され、5層目の蒸着が行われる。蒸着室22乃至25にも第1成膜装置10と同様にエリプソメータ70、70、70・・・が設けられており蒸着される各層膜厚の計測が行われ、予め設定された膜厚に達した場合に、搬送手段である真空搬送用ロボット21により、次段の蒸着室23へ搬送される。蒸着室22乃至25で蒸着物56が蒸着されたガラス基板51は、真空搬送用ロボット21により、受渡室43へ搬送される。なお、本実施の形態においては第1成膜装置10及び第2成膜装置20の2段構成としているが、1段または3段以上の成膜装置を設けて成膜するようにしても良い。さらに、第1成膜装置10及び第2成膜装置20は各4つの蒸着室12乃至15並びに22乃至25を設けているが、その数は蒸着する層数に応じて適宜増減させても良い。
【0035】
受渡室43に連設される封止装置30は真空搬送用ロボット31、真空ゲートG、封止室34、排出室44、封止基板搬送室32を含んで構成される。全ての層の蒸着を終えたガラス基板51は、真空搬送用ロボット31により、封止室34へ搬送され、また封止基板搬送室32へ搬送された封止基板57も、同様に封止室34へ搬送される。蒸着物56が蒸着されたガラス基板51と封止基板57とは封止室34において接着剤により張り合わせが行われ、張り合わせ後の有機EL素子パネル500は排出室44を経て外部へ搬送される。なお、封止装置30には光特性を検査する検査室33及び予備用の予備成膜室35を設けても良い。
【0036】
図2は蒸着室12の断面を示す模式的断面図、図3は蒸着室12内部の概要を示す模式的斜視図である。蒸着室12は筐体120、透過窓122,真空ゲートG、蒸着物56が蒸着されるガラス基板51を載置するラック121、蒸着ユニット(成膜ユニット)124、制御部127、及び減圧装置125を含んで構成される。蒸着室12はその断面において底部が矩形状、頂部が台形をなす筐体120を備え、筐体120の略中央部には2本のラック121、121が架設されている。ガラス基板51は図1に示す真空搬送用ロボット11により、蒸着室12内部へ搬送され、ラック121、121上に載置される。すなわち真空ゲートGから蒸着室12へ搬送されたガラス基板51はその両端が図3に示す如くラック121、121に支持され、蒸着及び膜厚の計測が可能な位置まで搬送される。
【0037】
ガラス基板51は蒸着物56の積層方向が下向きになるようラック121、121に載置され、希望するパターンとなるようマスク128が蒸着室12内で形成される。なお、図3においてはマスク128の記載を省略している。蒸着物56の蒸着方向である筐体120底面には蒸着ユニット124が設けられている。蒸着ユニット124は、蒸着材料が充填されたルツボまたはボート及びこれらのルツボまたはボートを加熱する熱源から構成され、制御部127の制御に従い、蒸着材料を排出しガラス基板51上に蒸着物56を蒸着する。なお、制御部127はエリプソメータ70との間で情報を送受信できるよう接続されている。
【0038】
蒸着物56の積層方向であって、蒸着室12の筐体120の側壁には減圧装置125が側壁を貫通して設けられている。減圧装置125は蒸着室12内の圧力を減圧する。
【0039】
筐体120の頂部は2斜辺を有する台形状をなし、2斜辺にはガラス等の透過窓122、122がそれぞれ密閉性を保った状態で固設されている。蒸着物56の積層方向と反対側であって、筐体120の上側には光照射器3及び光取得器5を備えるエリプソメータ70が設けられている。光照射器3の出射面と透過窓122の筐体120外面側とは相互に当接されており、同様に、光取得器5の受光面と透過窓122の筐体120外面側とは相互に当接されている。なお、光照射器3及び光取得器5を透過窓122から隔離して設けても良い。光照射器3からの入射光は斜辺に設けられる透過窓122に対して略垂直に入射し、蒸着物56が蒸着されるガラス基板51の裏側を照射する。ガラス基板51からの反射光は透過窓122に対して略垂直に入射し、光取得器5へ到達する。なお、本実施の形態においては蒸着ユニット124を蒸着室12の下側、エリプソメータ70を蒸着室12の上側にそれぞれ設けたが、蒸着物56の積層方向が上側である場合は、その積層方向すなわち蒸着室の上側に蒸着ユニット124を、積層方向と反対側の蒸着室12下側に透過窓122を通じて出入射を行うエリプソメータ70を設けても良い。
【0040】
図4はエリプソメータ70のハードウェア構成を示すブロック図である。図4に示すエリプソメータ70は、計測解析系の部分及び駆動系部分に大別される。エリプソメータ70は計測解析系の部分として、キセノンランプ2及び光照射器3を第1光ファイバケーブル15aで接続し、ラック121に載置され、蒸着物56が蒸着されたガラス基板51(以下、これらを試料50という)へ偏光した状態の光を照射して光を試料50へ入射させると共に、試料50で反射した光を光取得器5で取り込む構成にしている。なお、蒸着室12及び透過窓122等は説明を簡単にするために図4では省略している。
【0041】
光取得器5は第2光ファイバケーブル15bを介して分光器7に接続されており、分光器7は波長毎に計測を行って計測結果をアナログ信号としてデータ取込機8へ伝送する。データ取込機8は、アナログ信号を所要値に変換してコンピュータ90へ伝送し、コンピュータ90で解析を行う。
【0042】
次に、エリプソメータ70の上述した各部分を順番に詳述する。まず、キセノンランプ2は光源であり、複数の波長成分を含む白色光を発生し、発生した白色光を光照射器3へ第1光ファイバケーブル15aを介して送る。
【0043】
光照射器3は内部に偏光子3aを有しており、白色光を偏光子3aで偏光し、偏光状態の光を試料50へ照射する。
【0044】
光取得器5は試料50で反射した光を取得し、取得した光の偏光状態を計測するものである。光取得器5は、PEM(Photo Elastic Modulator:光弾性変調器)5a及び検光子(Analyzer)5bを内蔵し、試料50で反射された光を、PEM5aを介して検光子5bへ導いている。なお、光取得器5に内蔵されたPEM5aは、取り込んだ光を所要周波数(例えば50kHz)で位相変調することにより直線偏光から楕円偏光を得ている。また、検光子5bは、PEM5aで位相変調された各種偏光の中から選択的に偏光を取得して計測する。本実施の形態においては回転検光子(RAE,RPE)によって楕円偏光をえることによっても達成できるが、PEMを用いた場合はcosΔに加え、sinΔを検出することができるので、測定精度の向上を図ることが可能となる。すなわち、本実施の形態においては、ガラス基板51側から光を照射するため、測定対象である膜の位相差Δが小さい値かつ変化が少ない場合が多く、この小さな値であるΔを精度良く取り出すためには、sinΔを検出することが可能なPEMを使用することが好ましい。
【0045】
分光器7は、図示しない反射ミラー、回折格子、フォトマルチプライヤー(PMT:光電子倍増管)及び制御ユニット等を内蔵し、光取得器5から第2光ファイバケーブル15bを通じて送られた光を反射ミラーで反射して回折格子へ導いている。分光器7は図示しない回折格子を中心に計32個のフォトマルチプライヤー(図示せず)を扇状に配列した構成にしている。回折格子は図示しない切替器及び鏡を介して導かれた光を各フォトマルチプライヤーへ向けて反射しており、反射の際に光が有する波長毎に反射方向を振り分けている。各フォトマルチプライヤーは、回折格子が反射した特定の波長に対して測定を行うものであり、分光器7は計32個のフォトマルチプライヤーを有することより32ch(チャンネル)の同時測定を実現している。各フォトマルチプライヤーで測定された内容に係る信号がデータ取込機8へ送出される。なお、光学的膜厚計測装置にポラリメータを用いる場合は、フォトダイオードアレイ(PDA)を組み合わせた構成にすることも可能である。
【0046】
データ取込機8は、分光器7からの信号に基づき反射光の偏光状態(p偏光、s偏光)の振幅比Ψ及び位相差Δを算出し、算出した結果をコンピュータ90へ送出する。なお、振幅比Ψ及び位相差Δは、p偏光の振幅反射係数Rp及びs偏光の振幅反射係数Rsに対し以下の数式(1)の関係が成立する。
Rp/Rs=tanΨ・exp(i・Δ)・・・(1)
但し、iは虚数単位である(以下同様)。また、Rp/Rsは偏光変化量ρと云う。
【0047】
また、エリプソメータ70が有するコンピュータ90は、データ取込機8で得られた偏光状態の振幅比Ψ及び位相差Δと、試料50に応じたモデルとに基づき試料50の解析を行う。コンピュータ90は、ディスプレイ94、キーボード93及びマウス93M等から構成されており、CPU(Central Processing Unit)91、記憶部95、RAM(Random Access Memory)92、及びROM(Read Only Memory)951を内部バスで接続している。CPU91は記憶部95に記憶された各種コンピュータプログラムに従って種々の処理を行うものであり、RAM92は処理に係る各種データ等を一時的に記憶し、ROM951にはコンピュータ90の機能に係る内容等を記憶する。
【0048】
記憶部95は、試料解析用のコンピュータプログラム等の各種プログラムを予め記憶すると共に、ディスプレイ94へ表示するための各種メニュー画像のデータ、試料50に係る既知のデータ、相異する構造のモデル、モデルの作成に利用される複数の分散式、作成されたモデル、各種試料に応じたリファレンスデータ、及び干渉縞に関連した比較処理に用いる基準値等を記憶する。
【0049】
試料50の解析に関し、コンピュータ90は蒸着物56に積層される各層の光学特性として屈折率及び消衰係数等の光学定数を解析すると共に、各層の膜厚等も解析する。なお、以下では光学定数として屈折率及び消衰係数を用いた例について説明する。
【0050】
具体的にコンピュータ90は、計測された振幅比Ψ及び位相差Δから、試料50の周囲雰囲気等の複素屈折率を既知とした場合に、記憶部95に予め記憶されているモデリングプログラムを用いることで、ユーザに設定される試料50の項目及び材料構造に応じたモデルを作成して記憶部95に記憶しておき、解析段階で記憶しているモデルを用いて蒸着物56の各層の膜厚及び複素屈折率を求める。複素屈折率Nは、解析する層の屈折率をn及び消衰係数をkとした場合、以下の光学式で表した数式(2)の関係が成立する。
N=n−ik・・・(2)
【0051】
また、入射角度をφとして照射する光の波長をλとすると、データ取込機8から出力されるエリプソメータ70で計測された振幅比Ψ及び位相差Δは、解析する蒸着物56の各層の膜厚d、屈折率n及び消衰係数kに対して以下の数式(3)の関係が成立する。
(d,n,k)=F(ρ)=F(Ψ(λ,φ),Δ(λ,φ))・・・(3)
【0052】
なお、コンピュータ90は、解析する各層の膜厚、及び複数のパラメータを有する複素誘電率の波長依存性を示す分散式を用いて、記憶したモデルから理論的な演算で得られるモデルスペクトル(ΨM (λi )、ΔM (λi ))と、データ取込機8から出力される計測結果に係る計測スペクトル(ΨE (λi )、ΔE (λi ))との差が最小になるように膜厚、分散式のパラメータ等を変化させる処理(フィッティング)を行う。なお、適用される分散式の一例を下記の数式(4)に示す。
【0053】
【数1】

【0054】
数式(4)において左辺のεは複素誘電率を示し、ε∞、εs は誘電率を示し、Γ0 、ΓD 、γj は粘性力に対する比例係数(damping factor)を示し、ωoj、ωt 、ωp は固有角振動数(oscillator frequency, transverse frequency, plasma frequency)を示す。なお、ε∞は高周波における誘電率(high frequency dielectric constant)であり、εs は低周波における誘電率(static dielectric constant)である。また、複素誘電率ε(ε(λ)に相当)、及び複素屈折率N(N(λ)に相当)は、下記の数式(5)の関係が成立する。
ε(λ)=N2 (λ)・・・(5)
【0055】
なお、フィッティングを簡単に説明すると、試料50を計測した場合でT個の計測データ対をExp(i=1,2,…,T)、T個のモデルの計算データ対をMod(i=1,2,…,T)としたときに計測誤差は正規分布すると考えて標準偏差をσi とした際の最小二乗法に係る平均二乗誤差χ2 は下記の数式(6)で求められる。なお、Pはパラメータの数である。平均二乗誤差χ2 の値が小さいときは、計測結果と作成したモデルの一致度が大きいことを意味するため、複数のモデルを比較する場合、平均二乗誤差χ2 の値が最も小さいものがベストモデルに相当する。
【0056】
【数2】

【0057】
上述したコンピュータ90が行う試料解析に係る一連の処理は、記憶部95に記憶された試料解析用のコンピュータプログラムに規定されている。
【0058】
図5は入射光及び反射光の経路を示す模式的横断面図である。光照射器3から照射される入射光Kはガラス基板51を経て蒸着物56へ入射し、蒸着物56の底面において反射する。底面において反射した反射光K1は、再び蒸着物56及びガラス基板51を経て光取得器5へ入射する。なお、入射光Kとガラス基板51の上面との交点P1及び入射光Kと蒸着物56上面との交点P2においても反射または多重反射が生ずるが、解析に用いるモデルの選択に含まれている。
【0059】
図6は試料50を解析するためのモデルを示す説明図である。エリプソメータ70は蒸着物56の積層方向と逆の方向から計測を行うため、解析を行うモデルは、ボイド層(周囲雰囲気)S1、蒸着物層L1、ガラス層L2及びラフネス層L3が順に積層されたものを用いる。すなわち、蒸着物56の下側の空間をボイド層(周囲雰囲気)S1とし、これを基板とみなす。そして、蒸着物56を蒸着物層L1、ガラス基板51の表面荒さの無い部分をガラス層L2、ガラス基板51の表面荒さに応じた部分をラフネス層L3とする。
【0060】
以上の構成において、膜厚の計測処理の手順を、フローチャートを用いて説明する。図7は成膜及び計測処理の手順を示すフローチャートである。ユーザはキーボード93から蒸着室12において蒸着する層の目標とする膜厚、膜厚形成速度、屈折率及び消衰係数(以下、光学定数で代表する)を入力する。なお、目標とする膜厚、膜厚形成速度、及び光学定数に対して、数%の許容範囲をもたせた値を入力しても良い。さらに入力する膜厚形成速度は、目標とする膜厚に近づいた場合に、当該速度を低下させるようにしても良い。CPU91は入力された目標とする膜厚、膜厚形成速度、及び光学定数を受け付け(ステップS71)、RAM92に記憶する。蒸着室12の制御部127は試料50が蒸着位置に搬送されたか否かを監視しており、蒸着位置に搬送された場合に、エリプソメータ70のCPU91にその旨の信号を出力する。CPU91は試料50が蒸着位置に搬送されたか否かを判断(ステップS72)、すなわち制御部127から蒸着位置に搬送されたことを示す信号が出力されたか否かを判断する。
【0061】
CPU91は試料50が搬送されていないと判断した場合(ステップS72でNO)、試料50が搬送されるまで待機する。一方、CPU91は試料50が搬送されたと判断した場合(ステップS72でYES)、成膜及びエリプソメータ70による計測が開始される(ステップS73)。制御部127は蒸着ユニット124を作動させガラス基板51上に蒸着物56を蒸着させる。エリプソメータ70のCPU91は記憶部95に記憶した試料解析用のコンピュータプログラムを実行し、膜厚、光学定数及び膜厚形成速度を算出する(ステップS74)。なお、膜厚形成速度は算出した膜厚及びエリプソメータ70の計測速度(例えば200msであり、蒸着物の成膜速度に応じて適宜100ms、50msとしても良い)を用いて算出することができる。
【0062】
CPU91は算出した膜厚とRAM92に記憶した目標とする膜厚とを比較し、算出した膜厚が目標膜厚に達したか否かを判断する(ステップS75)。CPU91は目標膜厚に達していないと判断した場合(ステップS75でNO)、目標とする光学定数と算出した光学定数との偏差及び目標とする膜厚形成速度と算出した膜厚形成速度との偏差をそれぞれ算出する(ステップS76)。CPU91は算出した偏差を制御部127へ出力する(ステップS77)。
【0063】
制御部127は出力された偏差が略ゼロとなるよう蒸着ユニット124のフィードバック制御を行う(ステップS78)。具体的には、膜厚形成速度が目標よりも速い場合、すなわち負の偏差信号が出力された場合、蒸着ユニット124の出力を低下させる。一方、膜厚形成速度が目標よりも遅い場合、すなわち正の偏差信号が出力された場合、蒸着ユニット124の出力を上昇させる。また光学定数が目標とする光学定数より大きい場合、すなわち負の偏差信号が出力された場合、蒸着ユニット124の出力を上昇させる。一方、光学定数が目標とする光学定数よりも小さい場合、すなわち正の偏差信号が出力された場合、蒸着ユニット124の出力を低下させる。その後ステップS73へ移行し以上の処理を繰り返す。
【0064】
ステップS75において、CPU91が算出した膜厚が目標膜厚に達したと判断した場合(ステップS75でYES)、ステップS76乃至S78の処理をスキップし、蒸着室12における成膜及びエリプソメータ70による計測を終了する(ステップS79)。CPU91は、ステップS74の最終段階において算出した膜厚、及び光学定数を次段の蒸着室13のエリプソメータ70へ出力する(ステップS710)。その後真空搬送用ロボット11により、次段の蒸着室13へ成膜後の試料50が搬送される(ステップS711)。
【0065】
図8は2層目の成膜及び計測処理の手順を示すフローチャートである。CPU91は入力された2層目の目標とする膜厚、膜厚形成速度、及び光学定数を受け付け(ステップS81)、RAM92に記憶する。またCPU91はステップ710において前段の蒸着室12から出力された前段(1層目)の算出膜厚、及び光学定数を読み出す(ステップS82)。蒸着室13の制御部127は試料50が蒸着位置に搬送されたか否かを監視しており、蒸着位置に搬送された場合に、エリプソメータ70のCPU91にその旨の信号を出力する。CPU91は試料50が蒸着位置に搬送されたか否かを判断(ステップS83)、すなわち制御部127から蒸着位置に搬送されたことを示す信号が出力されたか否かを判断する。
【0066】
CPU91は試料50が搬送されていないと判断した場合(ステップS83でNO)、試料50が搬送されるまで待機する。一方、CPU91は試料50が搬送されたと判断した場合(ステップS83でYES)、成膜及びエリプソメータ70による計測が開始される(ステップS84)。エリプソメータ70のCPU91は記憶部95に記憶した試料解析用のコンピュータプログラムを実行し、膜厚、光学定数及び膜厚形成速度を算出する(ステップS85)。なお、CPU91はステップS82において読み出した前段において算出した膜厚、及び光学定数をパラメータとして用いることができる他、ステップS71において受け付けた前段の目標膜厚、及び光学定数をパラメータとして用いても良い。
【0067】
CPU91は算出した膜厚とRAM92に記憶した目標とする膜厚とを比較し、算出した膜厚が目標膜厚に達したか否かを判断する(ステップS86)。CPU91は目標膜厚に達していないと判断した場合(ステップS86でNO)、目標とする光学定数と算出した光学定数との偏差及び目標とする膜厚形成速度と算出した膜厚形成速度との偏差をそれぞれ算出する(ステップS87)。CPU91は算出した偏差を制御部127へ出力する(ステップS88)。
【0068】
制御部127は出力された偏差が略ゼロとなるよう蒸着ユニット124のフィードバック制御を行う(ステップS89)。その後ステップS84へ移行し以上の処理を繰り返す。ステップS86において、CPU91が算出した膜厚が目標膜厚に達したと判断した場合(ステップS86でYES)、ステップS87乃至S89の処理をスキップし、蒸着室13における成膜及びエリプソメータ70による計測を終了する(ステップS810)。ステップS85の最終段階において算出した膜厚、及び光学定数を次段の蒸着室14のエリプソメータ70へ出力する(ステップS811)。その後真空搬送用ロボット11により、次段の蒸着室14へ成膜後の試料50が搬送される(ステップS812)。なお、次段の蒸着室14以降の処理も同様であり説明を省略する。
【0069】
実施の形態2
図9は実施の形態2に係る製造装置80の概要を示す模式的平面図である。製造装置80は図9に示すようにインライン型を適用しても良い。製造装置80は、ガラス基板51上に蒸着物56を蒸着する2連の第1成膜装置10、第2成膜装置20、及び蒸着物56が蒸着されたガラス基板51に封止基板57を張り合わせて有機EL素子パネル500を排出する封止装置30を含んで構成される。ガラス基板51は第1成膜装置10及び第2成膜装置20に搬送され、蒸着物56が蒸着された後、封止装置30へ搬送される。封止装置30において、蒸着物56が蒸着されたガラス基板51に封止基板57が張り合わされ後、完成品である有機EL素子パネル500が外部へ排出される。
【0070】
第1成膜装置10は基板搬送室41、蒸着室12乃至15、エリプソメータ70及び真空ゲートGを含んで構成される。第1成膜装置10はゲートGを介して蒸着室12乃至15が横方向へ連設されている。また各蒸着室12乃至15にはエリプソメータ70が設けられている。基板搬送室41へ搬送されたガラス基板51は蒸着室12に搬送され、上述した如く成膜及び計測処理が行われる。なお、ガラス基板51の搬送は実施の形態1で述べたのと同じく真空搬送用ロボットにより行われる。
【0071】
受渡室42に連設される第2成膜装置20も第1成膜装置10と同様に、真空ゲートG、蒸着室22乃至25及びエリプソメータ70を含んで構成され、各蒸着室22乃至25及びエリプソメータ70により、蒸着物56の成膜及び計測処理が行われる。なお、各蒸着室12乃至15並びに22乃至25はデータ送信手段Pにより相互に接続されている。蒸着物56の成膜が完了した場合、ガラス基板51は受渡室43を経て封止装置30へ搬送される。
【0072】
受渡室43に連設される封止装置30は真空ゲートG、封止室34及び封止基板搬送室32を含んで構成される。全ての層の蒸着を終えたガラス基板51は、封止室34へ搬送され、また封止基板搬送室32へ搬送された封止基板57も、同様に封止室34へ搬送される。蒸着物56が蒸着されたガラス基板51と封止基板57とは封止室34において接着剤により張り合わせが行われ、張り合わせ後の有機EL素子パネル500は排出室44を経て外部へ搬送される。
【0073】
実施の形態3
図10は実施の形態3に係る製造装置80の概要を示す模式的平面図である。エリプソメータ70は各蒸着室12乃至15個別に設けられる他、本実施の形態に示す如く、少なくとも光照射器3、及び光取得器5を含む光照射・取得ユニット70Aを各蒸着室12乃至15、22乃至25に設置し、少なくとも膜厚、光学定数である屈折率、消衰係数及び膜厚形成速度等を算出するコンピュータ90を含む一つの演算ユニット70Bを各光照射・取得ユニット70Aに接続して、エリプソメータ70としても良い。各蒸着室12乃至15には光照射・取得ユニット70Aがそれぞれ設けられ、計測されたデータは光照射・取得ユニット70A及びデータ送信手段Pに接続される演算ユニット70Bに出力される。同様に第2成膜装置20においても、各蒸着室22乃至25に、光照射・取得ユニット70Aが設置され、これらに接続される一つの演算ユニット70Bが配置される。
【0074】
エリプソメータ70を構成するデータ取込機8等の各種機器は製造装置80の設計に応じて光照射・取得ユニット70Aまたは演算ユニット70B側のいずれかに設置すればよい。このように、エリプソメータ70のコンピュータ90を含む演算ユニット70Bを1カ所に設けて集中処理するようにしたので、製造装置80における省スペース化及び低コスト化を図ることが可能となる。なお、本実施の形態においては第1成膜装置10及び第2成膜装置20にそれぞれ演算ユニット70Bを設ける構成としたが、これらをまとめて単一の演算ユニット70Bで各種処理を実行するようにしても良い。また本実施の形態においてはインライン型へ適用した場合について説明したが、クラスタ型の製造装置に適用しても良い。
【0075】
実施の形態4
図11は実施の形態4に係る製造装置80の概要を示す模式的平面図である。実施の形態4の第1成膜装置10の各蒸着室12乃至15並びに各真空ゲートGの外部上側にはエリプソメータ70を載置して搬送する2本のベルトコンベア1210,1210が架設されている。ベルトコンベア1210,1210の終端にはこれらを駆動するモータ70Mが設置されており、当該モータ70Mはデータ送信手段Pに接続されている。モータ70Mはベルトコンベア1210,1210を駆動し、エリプソメータ70を蒸着室12乃至15のいずれかへ移動させる。
【0076】
モータ70Mは、試料50の計測を行うべく、試料50の移動に追随してエリプソメータ70を移動させる。同様に第2成膜装置20においてもベルトコンベア1210,1210及びモータ70Mが設けられている。図12はモータ70Mの制御処理手順を示すフローチャートである。モータ70Mは、エリプソメータ70を初段の蒸着室12へベルトコンベア1210,1210を駆動して移動させる(ステップS121)。蒸着室12へ試料50が搬送された場合、成膜及び計測が開始される(ステップS122)。ステップS711の処理により、試料50が次段の蒸着室13へ搬送された場合、モータ70Mはこれに追従すべく次段蒸着室13へエリプソメータ70を移動させる(ステップS123)。
【0077】
次段の蒸着室13において成膜及び計測が行われた(ステップS124)後、モータ70Mは現在の蒸着室が最終段の蒸着室15であるか否かを判断する(ステップS125)。モータ70Mが、最終段の蒸着室15でないと判断した場合(ステップS125でNO)、ステップS123へ移行し、以上の処理を繰り返す。一方、モータ70Mが、最終段の蒸着室15であると判断した場合(ステップS125でYES)、ベルトコンベア1210,1210を駆動してエリプソメータ70を初段の蒸着室12へ移動させる(ステップS126)。このように、単一のエリプソメータ70により計測を行うこととしたので、製造装置80の低コスト化を図ることが可能となる。なお、本実施の形態においてはインライン型へ適用した場合について説明したが、環状のベルトコンベア1210,1210を蒸着室12乃至15上に周設することにより、クラスタ型の製造装置に適用しても良い。
【0078】
本実施の形態2乃至4は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0079】
実施の形態5
図13は実施の形態5に係る蒸着室12の構成を示す模式的斜視図である。図13に示すように、実施の形態5に係る蒸着室12の蒸着方向と反対側である上部両端には、図13の白抜き矢印で示す、ガラス基板51の搬送手段による搬送方向と直交する方向を長手方向とする矩形状の透過窓122、122が延設されている。矩形状の透過窓122、122は側面視において傾斜させて設けてある。
【0080】
実施の形態1と同じく透過窓122、122の上方には光照射器3及び光取得器5がそれぞれ白抜き矢印で示す、ガラス基板51の搬送方向と直交する方向へ移動可能に設けてある。光照射器3及び光取得器5は、上方向へ延設された支持棒151、151の一端に取り付けられている。一方、支持棒151、151の他端は直交する方向へ延設されたレール150、150に移動可能に吊り下げられている。
【0081】
レール150、150に吊り下げられた支持棒151、151は、制御部127の制御に従い動作する駆動モータ152、152により、レール150、150に沿って直交する方向へ移動し、支持棒151、151の一端に取り付けられた光照射器3及び光取得器5を直交する方向へ移動させる。このように、光照射器3及び光取得器5を搬送手段によるガラス基板51の搬送方向と直交する方向へ移動させることにより、ガラス基板51上の幅広い範囲で膜厚を計測することが可能となる。なお、本実施の形態においてはガラス基板51の搬送方向と直交する方向に光照射器3及び光取得器5を移動可能に設ける構成としたが、これに限るものではなく、例えば、ガラス基板51の搬送方向と平行な方向を長手方向とする透過窓を設け、光照射器3及び光取得器5をこの平行な方向へ移動可能に設ける構成としても良い。
【0082】
本実施の形態5は以上の如き構成としてあり、その他の構成及び作用は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る製造装置の概要を示す模式的平面図である。
【図2】蒸着室の断面を示す模式的断面図である。
【図3】蒸着室内部の概要を示す模式的斜視図である。
【図4】エリプソメータのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5】入射光及び反射光の経路を示す模式的横断面図である。
【図6】試料を解析するためのモデルを示す説明図である。
【図7】成膜及び計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】2層目の成膜及び計測処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態2に係る製造装置の概要を示す模式的平面図である。
【図10】実施の形態3に係る製造装置の概要を示す模式的平面図である。
【図11】実施の形態4に係る製造装置の概要を示す模式的平面図である。
【図12】モータの制御処理手順を示すフローチャートである。
【図13】実施の形態5に係る蒸着室の構成を示す模式的斜視図である。
【図14】従来のクラスタ型製造装置の構成を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0084】
3 光照射器
5 光取得器
8 データ取込機
10 第1成膜装置
11,21 真空搬送用ロボット(搬送手段)
20 第2成膜装置
12〜15、22〜25 蒸着室(成膜室)
50 試料
56 蒸着物(成膜物)
70 エリプソメータ(光学的膜厚計測装置)
70A 光照射・取得ユニット
70B 演算ユニット
80 製造装置
90 コンピュータ
91 CPU
95 記憶部
120 筐体
1210 ベルトコンベア
122 透過窓
124 蒸着ユニット(成膜ユニット)
127 制御部(制御手段)
500 有機EL素子パネル(有機EL素子)
951 ROM
P データ送信手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成膜室にて複数層の成膜を段階的に行う有機EL素子の製造方法において、
各成膜室の外部に設けられた光学的膜厚計測装置により成膜物の膜厚を計測し、
光学的膜厚計測装置により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合に、次段階に設けられた成膜室へ成膜物を搬送させる
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
複数の成膜室にて複数層の成膜を段階的に行う有機EL素子の製造装置において、
各成膜室の外部に設けられ、成膜物の膜厚を計測する光学的膜厚計測装置と、
光学的膜厚計測装置により計測した膜厚が、予め設定された膜厚となった場合に、次段階に設けられた成膜室へ成膜物を搬送する手段と
を備えることを特徴とする有機EL素子の製造装置。
【請求項3】
成膜物の積層方向側に設けられ、成膜材料を供給する成膜ユニット
をさらに備え、
前記光学的膜厚計測装置は、成膜物の積層方向反対側に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項4】
前記成膜ユニットを制御する制御手段
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項5】
前記光学的膜厚計測装置は、
成膜物の膜厚形成速度を算出する手段と、
算出した膜厚形成速度と予め設定した膜厚形成速度との偏差を前記制御手段へ出力する手段と
を備え、
前記制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう前記成膜ユニットを制御するよう構成してあることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項6】
前記光学的膜厚計測装置はエリプソメータであり、成膜物の光学定数を算出する手段と、
算出した光学定数と予め設定した光学定数との偏差を前記制御手段へ出力する手段と
を備え、
前記制御手段は出力された偏差を略ゼロとするよう前記成膜ユニットを制御するよう構成してあることを特徴とする請求項4または5に記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項7】
前記成膜室の成膜物の積層方向反対側に傾斜して設けられ、前記光学的膜厚計測装置からの入射光及び該光学的膜厚計測装置への反射光を透過させるための透過窓をさらに備えることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項8】
前記光学的膜厚計測装置は、光弾性変調器を用いたエリプソメータであることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一つに記載の有機EL素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−273363(P2007−273363A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99445(P2006−99445)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】