説明

有機EL素子の製造方法及び製造装置

【課題】発光色の変動が抑制され、高品質な有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】電極層の形成された帯状の基材を供給し、該基材の非電極層側を回転駆動するキャンロール表面に当接させて該基材を移動させつつ、前記キャンロールと対向するように配された蒸着源のノズルから気化された有機層形成材料を吐出させて、前記基材の電極層側に有機層を形成する蒸着工程を含む有機EL素子の製造方法であって、前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を用い、前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように制御しつつ前記蒸着工程を行なうことを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に形成された電極層上に有機層を有し、該有機層から光を放出する有機EL素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の低消費電力の発光表示装置に用いられる素子として有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子が注目されている。有機EL素子は、基本的には、有機発光材料から成る発光層を含む少なくとも1層の有機層と一対の電極とを有している。かかる有機EL素子は、有機発光材料に由来して多彩な色の発光が得られ、また、自発光素子であるため、テレビジョン(TV)等のディスプレイ用途として注目されている。
【0003】
有機EL素子は、発光層を含む少なくとも1層の有機層が互いに反対電極を有する2つの電極層に挟持されて構成されており(サンドイッチ構造)、各有機層は、それぞれ数nm〜数十nmの有機膜から構成されている。また、電極層で挟まれた有機層は、基材上に支持されるようになっており、基材上に陽極層(電極層)、有機層、陰極層の順に積層されることによって有機EL素子が形成されるようになっている。また、有機EL素子が複数の有機層を有する場合、基材上に陽極層を形成した後、陽極層上に各有機層を順次積層し、積層された有機層上に陰極層を形成することによって、有機EL素子が形成されるようになっている。
【0004】
このような有機EL素子の製造方法において、基材に形成された陽極上に各有機層を成膜(形成)する方法としては、一般的に真空蒸着法や塗布法が知られているが、これらのうち、各有機層を形成するための材料(有機層形成材料)の純度を高めることができ、高寿命が得られ易いことから、真空蒸着法が主として用いられている。
【0005】
上記した真空蒸着法では、蒸着装置の真空チャンバー内において基材と対向する位置に設けられた蒸着源を用いて蒸着を行うことで有機層が形成されるようになっており、各有機層に対応する蒸着源が設けられている。具体的には、蒸着源内に配置された加熱部で各有機層形成材料を加熱してこれを気化させ、気化された有機層形成材料(気化材料)を上記蒸着源に設けられたノズルから放射状に吐出して、基材に形成された陽極層上に付着させることにより、該陽極層上に有機層形成材料を蒸着する。
【0006】
かかる真空蒸着法においては、いわゆるバッチプロセスやロールプロセスが採用されている。バッチプロセスとは、陽極層が形成された基材1枚ごとに陽極層上に有機層を蒸着するプロセスである。また、ロールプロセスとは、陽極層が形成されロール状に巻き取られた帯状の基材を連続的に(いわゆるロールトゥロールで)繰り出し、繰り出された基材を回転駆動するキャンロールの表面で支持してその回転と共に移動させつつ、陽極層上に連続的に各有機層を蒸着し、各有機層が蒸着された基材をロール状に巻き取るプロセスである。これらのうち、低コスト化を図る観点から、ロールプロセスを用いて有機EL素子を製造することが望ましい。
【0007】
しかし、このように真空蒸着法においてロールプロセスを採用した場合には、発光色が所望の発光色から変動してしまい、低品質の有機EL素子が製造される場合がある。
【0008】
特に、真空蒸着法では長寿命化の観点から発光層に取り込まれる水分量を少なくすべく、蒸着源と基材との間の距離を小さくする技術が提案されているが(特許文献1参照)、このような技術では、上記した発光色が所望の発光色から変動した低品質の有機EL素子が、より一層製造され易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−287996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を製造し得る有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討したところ、得られる有機EL素子の発光色の変動は、基材上に成膜(形成)される有機層の厚みの変動に起因して生じ、この厚みの変動は、蒸着時における蒸着源のノズルの開口縁と基材表面との距離(蒸着源−基材間距離、第2の距離)の変動によって生じることが判明した。
【0012】
また、上記した通り、通常、有機EL素子における各有機層の厚みは数nm〜数十nm程度であり、わずかな厚みの変動が発光色に大きな影響を及ぼし得る。蒸着源−基材間距離は、キャンロールの偏心、膨張や表面状態等によって、蒸着源に対してキャンロールに支持された基材の表面の位置が変動し、蒸着源−基材間距離の変動は数十μm程度にまで及び得る。そして、例えば蒸着源−基材間距離が2mmのとき、当該距離が20μm(1%)変動すると有機層の厚みが2%変動する、というように、蒸着源−基材間距離の変動率に比較して、該変動によって引き起こされる有機層の厚みの変動率の方が遥かに大きくなることが判明した。
【0013】
上記知見に鑑み、蒸着時において、基材の表面の位置変動が生じても、この位置変動を、蒸着工程よりも上流側で測定し、この測定結果に応じて、蒸着源−基材間距離が一定となるように蒸着源の位置を調整することによって、蒸着源−基材間距離を一定に維持することができ、これにより有機層の厚みの変動を抑制して、発光色の変動が抑制された有機EL素子を製造し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、
電極層の形成された帯状の基材を供給し、該基材の非電極層側を回転駆動するキャンロール表面に当接させて該基材を移動させつつ、前記キャンロールと対向するように配された蒸着源のノズルから気化された有機層形成材料を吐出させて、前記基材の電極層側に有機層を形成する蒸着工程を含む有機EL素子の製造方法であって、
前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、
前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を用い、
前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように制御しつつ前記蒸着工程を行なうことを特徴とする。
【0015】
ここで、距離測定手段による基材までの第1の距離の測定には、距離測定手段から基材までの距離を測定することの他、距離測定手段から電極層までの距離を測定することによって距離測定手段から基材までの距離を測定することも含まれる。これにより、キャンロールに支持されて移動する基材の表面が位置変動していても、ノズルの上流側で第1の距離を測定し、この測定結果に基づいて、蒸着源の位置を変化させ、第2の距離が一定となるように調整することができる。従って、基材の表面の位置変動に因らず、蒸着源−基材間距離を一定に維持しつつ、蒸着源によって基材に形成された第1の陽極層上に有機層を形成することができる。よって、蒸着源−基材間距離の変動に起因する有機層の厚みの変動を抑制することができるため、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を得ることができる。
【0016】
また、本発明は、前記位置調整手段は、圧電アクチュエータの変形によって前記蒸着源の位置を可変可能であることが好ましい。これにより、距離測定手段の測定結果に基づいて、より精度良く、さらに遅滞なく蒸着源の位置を調整することができる。
【0017】
また、本発明は、前記距離測定手段が、前記蒸着源に設けられたことが好ましい。これにより、距離測定手段を支持するための部材を別途設ける必要がないため、装置構成を簡略化すると共に、部材点数を削減することができる。
【0018】
また、本発明は、前記ノズルと前記基材の表面との距離が15mm以下であることが好ましい。
【0019】
これにより、有機層の厚みがより変動し易い場合においても、蒸着源−基材間距離を一定に維持しつつ蒸着工程を行うことができるため、より効果的である。
【0020】
また、本発明に係る有機EL素子の製造装置は、
電極層の形成された帯状の基材を供給する基材供給手段と、供給された該基材の非電極層側で当接しつつ該基材の移動に伴って回転駆動するキャンロールと、該キャンロールと対向するように配され、ノズルから気化された有機層形成材料を吐出して、キャンロールに当接した前記基材の前記電極層側に有機層を形成する蒸着源とを備えてなる有機EL素子の製造装置であって、
前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、
前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を備え、
前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように前記蒸着源の位置を調整しつつ前記蒸着工程を行いうるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明によれば、発光色の変動が抑制され、高品質な有機EL素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の製造装置を模式的に示す概略側面断面図
【図2】真空チャンバー内における蒸着源及びキャンロールの周辺の構成を模式的に示す概略側面図
【図3】蒸着源が基材に近づくように移動した状態を模式的に示す概略側面図
【図4】蒸着源が基材から離れるように移動した状態を模式的に示す概略側面図
【図5】有機EL素子の層構成を模式的に示す概略側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係る有機EL素子の製造方法及び製造装置について図面を参照しつつ説明する。
【0024】
まず、本発明の第1実施形態に係る有機EL素子の製造装置及び製造方法について説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係る有機EL素子の製造装置を模式的に示す概略側面断面図であり、図2は、真空チャンバー内における蒸着源及びキャンロールの周辺の構成を模式的に示す概略側面図であり、図3は、蒸着源が基材に近づくように移動した状態を模式的に示す概略側面図であり、図4は、蒸着源が基材から離れるように移動した状態を模式的に示す概略側面図であり、図5は、有機EL素子用の層構成を模式的に示す概略側面断面図である。
【0026】
図1に示すように、有機EL素子の製造装置1は、真空チャンバー3を有する蒸着装置であり、真空チャンバー3内には、大まかには、基材供給手段たる基材供給装置5と、キャンロール7と、蒸着源9と、基材回収装置6とが配置されている。真空チャンバー3は、不図示の真空発生装置により、その内部が減圧状態にされ、内部に真空領域を形成することができるようになっている。
【0027】
前記基材供給装置5としては、ロール状に巻き取られた帯状の基材21を繰り出す供給ローラ5が備えられている。前記基材回収装置6としては、繰り出された基材21を巻き取る巻取ローラ6が備えられている。即ち、供給ローラ5から繰り出した基材21はキャンロール7に供給された後、巻取ローラ6によって巻き取られる、所謂ロールトゥロール方式となっている。
【0028】
キャンロール7は、ステンレスから形成されており、回転駆動するようになっている。かかるキャンロール7は、供給ローラ5から繰り出され(供給され)、巻取ローラ6に巻き取られる基材21が所定の張力で巻き架けられるような位置に配置されており、キャンロール7の周面(表面)で基材21の非電極層側(具体的には、陽極層の設けられた側と反対の側)を支持するようになっている。また、キャンロール7が回転(図1の反時計回りに回転)することにより、巻き掛けられた(支持された)基材21をキャンロール7と共に回転方向に移動させることができるようになっている。
【0029】
かかるキャンロール7は、内部に冷却機構等の温度調整機構を有していることが好ましく、これにより、後述する基材21上での有機層の成膜中において、基材21の温度を安定させることができる。キャンロール7の外径は、例えば、300〜2000mmに設定することができる。
【0030】
そして、キャンロール7が回転すると、その回転に応じて供給ローラ5から基材21が順次繰り出され、繰り出された基材21がキャンロール7の周面に当接して支持されつつその回転方向に移動すると共に、キャンロール7から離れた基材21が巻取ローラ6によって巻き取られるようになっている。
【0031】
基材21の形成材料としては、キャンローラ7に巻き架けられても損傷しないような可撓性を有する材料が用いられ、このような材料として、例えば、金属材料、非金属無機材料や樹脂材料を挙げることができる。
【0032】
上記金属材料としては、例えば、ステンレス、鉄−ニッケル合金等の合金、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、チタン等を挙げることができる。また、上記した鉄−ニッケル合金としては、例えば36アロイや42アロイ等を挙げることができる。これらのうち、ロールプロセスに適用し易いという観点から、上記金属材料は、ステンレス、銅、アルミニウムまたはチタンであることが好ましい。また、かかる金属材料から形成された基材の厚みは、取り扱い性や基材の巻き取り性の観点から、5〜200μmであることが好ましい。
【0033】
上記非金属無機材料としては、例えば、ガラスを挙げることができる。この場合、非金属無機材料から形成された基材として、フレキシブル性を持たせた薄膜ガラスを用いることができる。また、かかる非金属材料から形成された基材の厚みは、十分な機械的強度および適度な可塑性の観点から、5〜500μmであることが好ましい。
【0034】
上記樹脂材料としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂などの合成樹脂を挙げることができ、かかる合成樹脂として、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。また、かかる樹脂材料から形成された基材として、例えば、上記合成樹脂のフィルムを用いることができる。また、かかる樹脂材料から形成された基材の厚みは、十分な機械的強度および適度な可塑性の観点から、5〜500μmであることが好ましい。
【0035】
基材21として具体的には、スパッタリングによって予め陽極層23(図4参照)を形成したものを用いることができる。
陽極層23を形成するための材料としては、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、インジウム−錫酸化物(ITO)等の各種透明導電材料や、金、銀、白金などの金属や合金材料を用いることができる。
【0036】
蒸着源9は、発光層25aを含む少なくとも1層の有機層(図5参照)における各有機層に対応して設けられている。蒸着源9は、キャンロール7の周面における基材21の支持領域と対向する位置に配置されており、基材21に有機層を形成するための材料(有機層形成材料22)を蒸着させることにより、基材21上に形成された陽極層23上に有機層(図5参照)を順次形成するようになっている。かかる蒸着源9は、加熱等により気化された有機層形成材料22を基材21に向けて吐出可能なノズルを有していれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0037】
前記蒸着源9は、有機層形成材料22を収容することができるようになっており、ノズル9aと、加熱部(不図示)とを有している。ノズル9aは、キャンロール7において基材21の支持領域と対向するように配置されている。上記加熱部は、有機層形成材料22を加熱して気化させるようになっており、気化された有機層形成材料22は、ノズル9aから外部に吐出されているようになっている。
【0038】
そして、蒸着源9内で有機層形成材料22が加熱されると、該有機層形成材料22が気化され、気化された有機形成材料22が、ノズル9aから基材21に向かって吐出されて、基材21上に蒸着されるようになっている。このように気化された有機層形成材料22が基材21に蒸着されることにより、基材21上に形成された陽極層23上に有機層が形成されるようになっている。
【0039】
有機層としては、少なくとも発光層25aを有していれば特に限定されるものではなく、例えば図5(a)に示すように、陽極層23上に発光層25aのみ一層の有機層を形成することもできる。また、必要に応じて、例えば図5(b)に示すように、正孔注入層(有機層)25b、発光層25a及び電子注入層(有機層)25cをこの順に積層して、有機層を3層積層することもできる。その他、必要に応じて、上記図5(b)に示す発光層25aと正孔注入層25bの間に正孔輸送層(有機層)25d(図5(c)参照)を挟むことによって、または、発光層25aと電子注入層25cとの間に電子輸送層(有機層)25e(図5(c)参照)を挟むことによって、有機層を4層積層することもできる。
【0040】
さらに、図5(c)に示すように、正孔注入層25bと発光層25aとの間に正孔輸送層25d、発光層25aと電子注入層25cとの間に電子輸送層25eを挟むことによって、有機層を5層積層することもできる。また、各有機層の厚みは、通常、数nm〜数十nm程度になるように設計されるが、かかる厚みは、有機層形成材料22や、発光特性等に応じて適宜設計されるものであり、特に限定されない。
【0041】
発光層25aを形成するための材料としては、例えば、トリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、イリジウム錯体(Ir(ppy)3)をドープした4,4’−N,N’−ジカルバゾニルビフェニル(CBP)等を用いることができる。
【0042】
正孔注入層25bを形成するための材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)、4,4’−ビス[N−4−(N,N−ジ−m−トリルアミノ)フェニル]−N−フェニルアミノ]ビフェニル(DNTPD)等を用いることができる。
【0043】
正孔輸送層25cを形成するための材料としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)等を用いることができる。
【0044】
電子注入層25dを形成するための材料としては、例えば、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(Li2O)等を用いることができる。
【0045】
上記電子輸送層25eを形成するための材料としては、例えば、トリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(BAlq)、OXD−7(1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル])ベンゼン等を用いることができる。
【0046】
また、蒸着源9は、上記したような基材21の陽極層23上に形成される有機層の積層構成や積層数量に応じて1つ以上配置されることができる。例えば、図5(b)に示すように有機層を3層積層する場合には、図1に示すように、各有機層に応じて蒸着源9を3つ配置することができる。このように複数の蒸着源9が設けられた場合、キャンロール7の回転方向に対し最も上流側に配置された蒸着源9によって陽極層23上に1層目の有機層が蒸着された後、下流側の蒸着源9によって1層目の有機層上に順次2層目の有機層が蒸着されて、積層されるようになっている。
【0047】
ここで、基材21上に成膜される各有機層の厚みのバラツキ(変動)が大きくなると、有機EL素子の発光色が変化する不具合が発生する。また、各有機層の厚みの変動は、蒸着源9のノズル9a(より詳細にはノズル9aの開口縁)と基材21表面との距離(蒸着源−基材間距離L)が変動することによって生じ、この蒸着源−基材間距離Lは、蒸着源9に対して基材表面の位置(表面位置)が変動し、蒸着源9のノズル9aとキャンロール7表面との距離が変動することによって生じる。
【0048】
さらに、上記表面位置の変動は、キャンロール7の組み立て精度や加工精度、キャンロール7の偏心、蒸着中の熱によるキャンロール7を構成する材料の膨張や、キャンロール7表面の凹凸状態等によって生じ、その変動が数十μm程度に達することは十分に考えられる。
【0049】
そして、各有機層の厚みが、通常、数nm〜数十nmであることから、上記表面位置の変動は、各有機層の厚みの変動に大きな影響を及ぼす。例えば蒸着源−基材間距離Lを2mmに設定した場合、その距離が20μm(1%)変動するとき、各有機層の厚みは2%程度変動する、すなわち、上記距離の変動率の2倍程度の変動率で各有機層の厚みが変動し得る。
【0050】
このように、有機層の厚みのわずかな変化が発光色に大きな影響を及ぼし、上記距離Lのわずかな変化が厚みに大きな影響を及ぼす。そこで、基材21の上記表面位置の変動があっても、この変動に応じて蒸着源9の位置を調整することによって蒸着源−基材間距離Lを一定に維持し、基材21上の陽極層23に形成される有機層の厚みの変動を抑制することとした。なお、蒸着源−基材間距離Lは、キャンロール7とノズル9aとを最短距離で結ぶ仮想線上におけるノズル9aと基材21の表面との間の距離をいう。
【0051】
本実施形態では、図2に示すように、蒸着源9におけるキャンロール7の回転方向上流側(図の右側)端部に、距離測定部材(距離測定手段)11が設けられている。
【0052】
また、蒸着源9におけるキャンロール7と反対側(図の上側)の端部には、位置調整部材(位置調整手段)13が設けられており、該位置調整部材13における蒸着源9と反対側(図の上側)の端部は、固定部材15を介して真空チャンバー3の内壁3a(固定用部)に固定されている。すなわち、蒸着源9は、位置調整部材13を介して真空チャンバー3の内壁3aに固定されている。
【0053】
また、距離測定部材11及び位置調整部材13は、例えば中央演算装置(CPU)等の制御部(図示せず)と電気的に接続されている。
【0054】
距離測定部材11は、後述する位置調整部材13による蒸着源9の移動量を決定するために、当該距離測定部材11から基材21までの距離Mを測定するためのものである。例えば距離測定部材11によって距離Mが測定される場合には、測定結果が上記制御部に送信され、該制御部が基準距離Msからの距離変化dMが算出されるように構成される。なお、距離Mを測定する場合としては、距離測定部材11から基材21までの距離Mを測定することや、距離測定部材11から陽極層23までの距離を測定することにより距離Mを求めることも含まれる。
【0055】
また、距離測定部材11が距離Mを測定する場合としては、距離測定部材11によって距離変化dMを測定し、距離変化dMを上記制御部に送信し、基準距離Msと距離変化dMとの和として距離Mを測定する方法が挙げられる。この場合、上記制御部において距離変化dMを算出することが不要となる。
【0056】
また、距離測定部材11は、基材21に対して接触することなく距離Mを測定可能な非接触式であることが好ましい。これにより、距離測定部材11が基材21と接触して基材21の表面位置に無用の変動が生じることを、防止することができる。
【0057】
上記したような距離変化dMを測定可能であり、且つ非接触式であるような距離測定部材11として、例えば、変位センサを挙げることができる。かかる変位センサは、レーザー光を投光する投光素子と、該投光素子から対象物に投光されたレーザー光の反射光を受光する受光素子とを有し、対象物の高さの変化を受光素子における反射光の受光位置の変化(すなわち対象物との距離変化)として検知するようになっている。そして、該変位センサによれば、所定の基準距離Msからの変化量を距離変化dMとして測定することができる。
【0058】
かかる距離測定部材11は、キャンロール7に支持された(キャンロール7と当接している)基材21において、ノズル9aよりも上流側に配置されている。これにより、距離測定部材11は、上記回転方向に対し蒸着源9のノズル9aと対向する領域(蒸着領域)よりも上流側で距離Mを測定することができるようになっている。
【0059】
かかる距離測定部材11の配置は、キャンロール7の回転方向に対しノズル9aよりも上流側であり、基材21からの距離Mを測定可能であれば、特に限定されるものではない。但し、ノズル9aに近づきすぎると、気化された有機層形成材料22の影響を受けて測定精度が低下するおそれがあり、離れ過ぎると、基材21において距離測定部材11によって測定された領域(測定領域)が上記蒸着領域に到達するまでの間に距離Mの無用の変動が生じ、距離測定部材11の測定結果を、後述する蒸着源−基材間距離Lの距離変化dLに精度良く反映させることが困難となるおそれがある。
【0060】
従って、距離測定部材11の配置は、例えばかかる観点を考慮して設定することができ、好ましくは、前記仮想線と基材表面との交点から基材上流側に向かって前記距離Lの100%〜2000%の場所における前記距離Mを測定するように配置することができる。また、例えば、かかる観点を考慮しつつ、距離測定部材11を蒸着源9におけるキャンロール7の上流側端部に配置することができる。これにより、距離測定部材11を支持するための部材を別途設ける必要がないため、装置構成を簡略化すると共に、部材点数を削減することができる。
【0061】
位置調整部材13は、蒸着源9の基材21に対する位置を可変するものである。また、また、位置調整部材13は、上記した距離変化dMに応じた上記制御部からの電気信号に基づいて蒸着源9の位置を可変するようになっており、かかる位置の可変により、蒸着源9が基材21に対して接近及び離間する方向に移動するようになっている。
【0062】
そして、この蒸着源9の移動に伴って、基材21に対してノズル9aが移動することにより、蒸着源−基材間距離Lを調整することができる。かかる位置調整部材13は、蒸着源9を基材21に対して接近及び離間させるように変形可能であれば、特に限定されず、例えば、位置調節部材13として電動アクチュエータ、油圧アクチュエータや圧電アクチュエータ等が挙げられる。
【0063】
これらのうち、位置調整部材13は、圧電アクチュエータであることが好ましい。かかる圧電アクチュエータは、セラミックス等の圧電素子から形成されており、電圧が印加されると、印加電圧に応じてその厚みが変化するようになっている。そして、かかる圧電アクチュエータの変形により、蒸着源9の位置を可変することができる。このように、位置調整部材13として圧電アクチュエータを用いることにより、より精度良く蒸着源9の位置を調整することができる。
【0064】
ここでは、位置調整部材13は、棒状の固定部材15を介して真空チャンバー3aの内壁3aに固定されている。これにより、蒸着源9は、位置調整部材13を介して内壁3aに固定されている。固定部材15は、真空チャンバー3内の熱による膨張等を起こさないようなステンレス等の金属製であることが好ましく、これにより、距離測定部材11の測定精度や、位置調整部材13の位置調整精度を高めることができる。
【0065】
次に、距離測定部材11として上記した変位センサを用い、位置調整部材13として厚みNを有する圧電アクチュエータを用いたときの蒸着源9の位置調整について説明する。
【0066】
蒸着源−基材間距離Lは、予め所定の基準距離Lsに設定されており、これに応じて、上記した距離測定部材11の基準距離Msが設定されている。また、上記制御部には、距離測定部材11によって測定された距離変化dMと、基材21における上記測定領域が上記蒸着領域に到達したときの蒸着源−基材間距離Lの距離変化dLと、を関連付けたパラメータが格納されている。
【0067】
距離測定部材11で測定された距離変化dMは上記制御部に送信され、上記制御部は、距離測定部材11から距離変化dMを受信すると、上記パラメータに基づいて、距離変化dMに対応する距離変化dLを算出する。そして、基材21における測定領域が蒸着領域に到達するタイミングで、この距離変化dLに相当する分だけ、印加電圧を調整することにより該圧電アクチュエータの厚みNを変化させて位置調整部材13によって蒸着源9を移動させる。これにより、距離変化dLが相殺されるように蒸着源9の位置が調整される。
【0068】
例えば、基材21の表面が蒸着源9から離れ、距離測定部材11により増加量としての距離変化dMが測定された場合には、図3に示すように、かかる増加量に対応する距離変化dLに相当する分だけ圧電アクチュエータの厚みNを増加させる(N+dL)。これにより、蒸着源−基材間距離Lが距離Lsに調整される。
【0069】
一方、例えば、基材21の表面が蒸着源9に近づき、距離測定部材11により減少量としての距離変化dMが測定された場合には、図4に示すように、かかる減少量に対応する距離変化dLに相当する分だけ圧電アクチュエータの厚みNを減少させる(N−dL)。これにより、蒸着源−基材間距離Lが距離Lsに調整される。なお、上記した圧電アクチュエータの厚みを増減させるタイミングは予め設定され、データとして上記制御部に格納されており、そのタイミングは、上記制御部によって制御されるようになっている。
【0070】
このように、距離測定部材11の測定結果に基づいて、位置調整部材13により蒸着源−基材間距離Lが基準距離Lsで一定となるように蒸着源9の位置を調整することができる。これにより、有機層の蒸着時、蒸着源−基材間距離Lを基準距離Lsで一定に維持することができるため、該蒸着源−基材間距離Lの変動に起因する有機層の厚みの変動を抑制することができる。従って、有機EL素子20の発光色の変動を抑制することができる。
【0071】
また、蒸着源−基材間距離Lが小さいほど、かかる距離Lの変動が有機層の厚みの変動に大きな影響を及ぼし易い。かかる観点を考慮すれば、蒸着源−基材間距離Lは、15mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。当該距離Lを15mm以下とすることにより、有機層の厚みがより変動し易い場合においても、蒸着源9のノズル9aとキャンロール7の表面との距離Lを一定に維持しつつ蒸着工程を行うことができるため、より効果的である。
【0072】
上記したように基材21上に形成された陽極層23上に有機層を蒸着した後、有機層の最上面に陰極層27を不図示のスパッタ装置等の真空成膜装置を用いて形成することによって、図5に示すように、基材21上に、陽極層23、有機層及び陰極層27がこの順に積層された有機EL素子20が形成(製造)されるようになっている。陰極層27としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ITO、アルカリ金属、または、アルカリ土類金属を含む合金等を用いることができる。
【0073】
なお、真空チャンバー3内のキャンロール7における基材21の支持領域と対向する位置において、キャンロール7の回転方向に対し有機層を形成するための蒸着源9の上流側に、陽極層23を形成するための真空成膜装置、下流側に陰極層を形成するための真空成膜装置を配置し、キャンロール7に支持されつつ移動する基材21に陽極層23を成膜した後、有機層を蒸着し、さらに陰極層27を成膜することもできる。
【0074】
また、その他、陽極層23及び陰極層27の材料として、蒸着源によって蒸着可能な材料を用いた場合には、真空チャンバー3内に陽極層23及び陰極層27用の蒸着源9を配置し、基材21上に、陽極層23、有機層、陰極層27をこの順に連続して蒸着することによって、有機EL素子20を形成することもできる。
【0075】
次に、上記製造装置を用いた第1実施形態に係る有機EL素子の製造方法について説明する。
【0076】
本発明に係る有機EL素子の製造方法は、電極層の形成された帯状の基材を供給し、該基材の非電極層側を回転駆動するキャンロール表面に当接させて該基材を移動させつつ、前記キャンロールと対向するように配された蒸着源のノズルから気化された有機層形成材料を吐出させて、前記基材の電極層側に有機層を形成する蒸着工程を含む有機EL素子の製造方法であって、前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を用い、前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように制御しつつ前記蒸着工程を行なうことを特徴とする。
【0077】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法では、先ず、減圧雰囲気下、スパッタリング等によって一面側に予め陽極層23が形成され、ロール状に巻き取られた基材21を基材供給装置5から繰り出す。
【0078】
次いで、繰り出された基材21を、陽極層23が形成された側と反対の側をキャンロール7の表面に当接させて移動させつつ、キャンロール7と対向して配置された蒸着源9によって発光層25a(図5参照)を含む有機層形成材料22を気化させ、気化された有機層形成材料22をノズル9aから吐出してキャンロール7に支持された基材21上の陽極層23上に蒸着させる。
【0079】
この蒸着工程において、基材21の移動方向に対しノズル9aよりも上流側においてキャンロール7に支持された基材21の表面との間の距離L(第1の距離)を測定可能な距離測定部材11(距離測定手段)と、蒸着源9の基材21に対する位置を可変させてノズル9aと基材21の表面との間の距離L(第2の距離)を調整可能な位置調整手段11と、を用い、距離測定部材11による距離M(第1の距離)の測定結果に基づいて位置調整部材13により距離Lが基準距離Lsで一定となるように蒸着源9の位置を調整しつつ蒸着を行う。
【0080】
より具体的には、キャンロール7の回転方向に対し蒸着源9のノズル9aよりも上流側において蒸着源9に設けられた距離測定部材11により、該距離測定部材11による測定位置(レーザー光の投光位置)で基材21表面までの距離変化dMを測定し、この測定結果に基づいて、基材21の上記測定領域が上記蒸着領域に到達するタイミングで、距離変化dMに相当する蒸着源−基材間距離Lの距離変化dL分だけ、位置調整部材13によって蒸着源9の位置を調整する。位置調整部材13として、上記のように圧電アクチュエータを用いた場合には、印加電圧を調整して該圧電アクチュエータの厚みNを増減させる。これにより、蒸着源−基材間距離Lを基準距離Lsで一定とすることができる。
【0081】
また、陽極層23上に有機層を複数形成する場合には、基材21における上記測定領域が各蒸着源9の蒸着領域に到達するタイミングで、それぞれ上記と同様にして蒸着源9の位置を調整する。
【0082】
このように、蒸着源−基材間距離Lを一定にしつつ基材21に形成された陽極層23上に有機層を形成した後、有機層が蒸着された基材21を巻取ローラ6によって巻き取る。さらに、巻き取られた基材21上に形成された有機層上に、不図示のスパッタ装置によって陰極層27を形成することにより、基材21に、陽極層23、有機層及び陰極層27がこの順に積層された有機EL素子20を形成することができる。
【0083】
上記した通り、本実施形態に係る製造方法では、陽極層23(電極層)の形成された帯状の基材21を供給し、該基材21の非陽極層23側を回転駆動するキャンロール7表面に当接させて該基材21を移動させつつ、キャンロール7と対向するように配された蒸着源9のノズル9aから気化された有機層形成材料22を吐出させて、基材21の陽極層23側に有機層を形成する蒸着工程を含み、基材21の移動方向に対しノズル9aよりも上流側においてキャンロール7に支持された基材21までの距離M(第1の距離)を測定可能な距離測定部材11(距離測定手段)と、蒸着源9の基材21に対する位置を可変させてノズル9aと基材21の表面との間の距離L(第2の距離)を調整可能な位置調整部材13(位置調整手段)と、を用い、距離測定部材11による距離Mの測定結果に基づいて、位置調整部材13により距離Lが一定となるように制御しつつ蒸着工程を行なうこととする。
【0084】
これにより、キャンロール7に支持されて移動する基材21の表面が位置変動していても、ノズル9aの上流側で距離測定部材11によって距離M(または距離変化dM)を測定し、この測定結果に基づいて、基材21における上記測定領域が上記蒸着領域に到達するタイミングで位置調整部材13によって蒸着源9の位置を変化させて、蒸着源−基材間距離Lが一定となるように調整することができる。従って蒸着源−基材間距離Lを一定に維持しつつ蒸着を行うことができる。よって、有機層の厚みの変動を抑制することができるため、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を得ることができる。また、低品質の有機EL素子の製造を防止することができるため、歩留まりを向上させることができ、コストを低減させることができる。
【0085】
なお、有機層の厚みの変動を減らすほど有機EL素子の発光色の変動を抑制することができ、該厚みの変動を例えば±2%以内とすることによって、上記発光色の変動をより確実に抑制して、より高品質な有機EL素子を製造することができる。
【0086】
本発明の有機EL素子の製造方法及び製造装置は、上記の通りであるが、本発明は上記各実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。例えば、上記実施形態では、蒸着源9に距離測定部材11を設けたが、その他、真空チャンバー3内においてキャンロール7の回転方向に対し蒸着領域よりも上流側に固定用部材を別途設け、該固定用部材に距離測定部材11を設け、該距離測定部材11を用いることもできる。
【0087】
また、上記実施形態では、固定部材15を介して位置調整部材13を真空チャンバー3の内壁3aに固定したが、その他、位置調整部材13を内壁3aに直接固定すること等もできる。また、上記実施形態では、蒸着源9内にて有機層形成材料22を気化させたが、別途の装置で気化された有機層形成材料22を蒸着源9内に導入し、該蒸着源9のノズルから吐出することもできる。
【0088】
また、上記実施形態では、基材供給装置5を真空チャンバー3内に配置したが、基材21をキャンロール7へと繰り出すことが可能であれば、キャンロール7への供給方法は特に限定されるものではない。また、上記実施形態では、蒸着工程が終了した基材21を巻き取ったが、かかる基材21を巻き取ることなく、裁断等の工程に供することもできる。
【実施例】
【0089】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
上記した第1実施形態に係る製造装置1において蒸着源9を1つ配置し、発光層25aを形成するための材料としてトリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、基材21として全長100mのPETを用い、この基材21上に、予め陽極層23としてIZO層を形成させた後、IZO層が形成された基材21を巻き取った。
【0091】
また、位置調整部材13として圧電アクチェータ(日本セラテック社製、金属密封型積層圧電アクチュエータPFT)、距離測定部材11として、変位センサ(パナソニック電工社製、レーザー変位センサHL−G1)を用いた。そして、第1実施形態に係る有機EL素子の製造方法により、蒸着源9の位置を調整しつつ蒸着源9でAlq3を気化させ、気化されたAlq3を基材21上に形成されたIZO層上に蒸着することによって、発光層25aを連続して成膜(形成)した。
【0092】
形成された発光層25aの厚みについて、ULVAC社製の触針式表面形状測定器Dektakを用いて、基材21の幅方向中央において、長手方向に1mおきに測定し、厚み精度=(厚みの最大値−最小値)/2/(平均厚み)×100(%)によって、長手方向の厚み精度を算出した。その結果、長手方向の厚み精度は、±2%であった。
【0093】
(比較例)
蒸着源9を、位置調整部材13を介在させることなく固定部材15に直接固定し、また、距離測定部材11を設けず、蒸着源9の配置を固定したこと以外は実施例と同様にして、PETから成る基材21上に形成されたIZO層上にAlq3を蒸着して発光層25aを成膜し、長手方向の厚み精度を算出した。その結果、長手方向の厚み精度は、±10%であった。
【0094】
上記の結果、本発明に係る有機EL素子の製造方法及び製造装置により、基材21上の陽極層23上に形成される有機層の厚みの変動を抑制でき、有機EL素子の発光色の変動を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0095】
1:有機EL素子の製造装置、3:真空チャンバー、3a:内壁、5:基材供給装置(基材供給手段)、7:キャンロール、9:蒸着源、9a:ノズル、11:距離調整部材(距離測定手段)、13:位置調整部材(位置調整手段)、21:基材、23:陽極層(電極層)、25a:発光層(有機層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層の形成された帯状の基材を供給し、該基材の非電極層側を回転駆動するキャンロール表面に当接させて該基材を移動させつつ、前記キャンロールと対向するように配された蒸着源のノズルから気化された有機層形成材料を吐出させて、前記基材の電極層側に有機層を形成する蒸着工程を含む有機EL素子の製造方法であって、
前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、
前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を用い、
前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように制御しつつ前記蒸着工程を行なうことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記位置調整手段は、圧電アクチュエータの変形によって前記蒸着源の位置を可変可能であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記距離測定手段が、前記蒸着源に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記ノズルと前記基材の表面との距離が15mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
電極層の形成された帯状の基材を供給する基材供給手段と、供給された該基材の非電極層側に当接しつつ該基材の移動に伴って回転駆動するキャンロールと、該キャンロールと対向するように配され、ノズルから気化された有機層形成材料を吐出して、キャンロールに当接した前記基材の前記電極層側に有機層を形成する蒸着源とを備えてなる有機EL素子の製造装置であって、
前記基材の移動方向に対し前記ノズルよりも上流側において前記キャンロールに支持された前記基材までの第1の距離を測定可能な距離測定手段と、
前記蒸着源のノズルと前記基材の表面との間の第2の距離を調整可能な位置調整手段と、を備え、
前記距離測定手段による前記第1の距離の測定結果に基づいて、前記位置調整手段により前記第2の距離が一定となるように前記蒸着源の位置を調整しつつ前記蒸着工程を行いうるように構成されたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142141(P2012−142141A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292957(P2010−292957)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】