説明

有機EL素子用材料、有機EL素子用材料の製造方法、及び有機EL素子の製造方法

【課題】粉末状の有機EL材料は取り扱うが難しく、大気に曝すと、すぐに特性が劣化してしまう。
【解決手段】粉末状の有機EL材料12を、ガラス製のアンプル13に封入してなる有機EL素子用材料11の形態で、有機EL材料を取り扱う。そして、真空蒸着装置を用いて素子形成用基板上に有機層を形成する場合は、その有機EL素子用材料11を蒸着源に投入した後、真空チャンバ内を減圧する過程で、アンプル13を内外圧力差により開裂させ、これによって露出した有機EL材料12を加熱して蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)素子用材料、有機EL素子用材料の製造方法、及び有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、素子形成用の基板上に有機EL材料からなる有機層を有する素子である。有機EL素子は、例えば平面型の表示装置の一つである有機EL表示装置の主要な構成要素となっている。有機EL表装置に用いられる有機EL素子は、一般に、有機層を上下から電極(陽極および陰極)で挟み込む構造を持つ。そして、有機EL材料からなる有機層に対して、陽極から正孔が、陰極から電子がそれぞれ注入され、その有機層にて正孔と電子が再結合して発光が生じる仕組みになっている。
【0003】
ところで、有機EL素子の有機層を形成する有機EL材料は、耐水性が低く、ウエットプロセスを利用できない。そのため、有機層を形成する際には、真空薄膜形成技術を利用した真空蒸着を行なうのが一般的である。すなわち、有機層を形成するための有機EL素子用の蒸着装置としては、真空チャンバ内に有機EL材料の蒸着源を備えたものが広く用いられている。
【0004】
一般に、有機EL材料は粉末の形態で供給される。また、粉末の有機EL材料は、高気密性の容器などに封入された状態で、輸送や保管がなされている。有機層を形成するにあたって、成膜材料となる有機EL材料は、できるだけ大気に曝すことなく、真空蒸着装置の蒸着源(坩堝など)に注入して利用されることが望ましい。
【0005】
下記特許文献1には、粉末状の有機材料を圧縮して固体圧縮ペレットとし、この固体圧縮ペレットを用いて真空蒸着装置により有機層の形成を行なう技術が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−91925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、有機EL材料は、真空蒸着装置の蒸着源に投入するときに、粉末の形態で取り扱われるため、坩堝等への注入作業時に大気に曝すことになる。このため、大気中の水分や酸素等による有機EL材料の劣化や、有機EL材料への不純物の混入などが大きな問題となる。この対策としては、真空蒸着装置側に、粉末材料を大気に暴露させずに注入できるような設備を付加すればよいが、これを実現するにはロードロック室や材料の真空搬送システムなどを別途構築する必要がある。このため、設備コストの上昇や、装置の複雑化に伴うメンテナンス経費の増加など、生産コストアップにつながる。また、有機EL材料を高気密の容器に封入して輸送・保管等を行なっても、その容器を一度開封すると、使い切らずに残った有機EL材料(残留品)の保管が不完全となり長期保存はできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る有機EL素子用材料は、有機EL材料と、前記有機EL材料を封入してなるアンプルとを有することを特徴とするものである。この有機EL素子用材料は、有機EL材料を生成する工程と、前記有機EL材料をアンプルに封入する工程とを有する製造方法によって得られるものである。
【0009】
上記第1の発明に係る有機EL素子用材料においては、有機EL材料がアンプルによって密封状態に保持されるため、仮に有機EL素子用材料を大気中に曝したとしても、有機EL材料が大気暴露することはない。
【0010】
また、有機EL素子の製造方法として、真空蒸着装置を用いて素子形成用基板上に有機層を形成する場合に、有機EL材料をアンプルに封入してなる有機EL素子用材料を蒸着源に投入する工程と、前記蒸着源に投入した前記有機EL素子用材料を加熱して前記有機EL材料を蒸発させる工程とを経て、有機EL素子を製造することにより、有機EL材料を大気暴露させることなく、有機EL材料の真空蒸着を行なうことが可能となる。
【0011】
第2の発明に係る有機EL素子用材料は、粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆してなることを特徴とするものである。この有機EL素子用材料は、粉末状の有機EL材料を生成する工程と、前記粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は前記粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆する工程とを有する製造方法によって得られるものである。
【0012】
上記第2の発明に係る有機EL素子用材料においては、有機EL材料がコーティング材料によって被覆されているため、仮に有機EL素子用材料を大気中に曝したとしても、有機EL材料が大気暴露することはない。
【0013】
また、有機EL素子の製造方法として、真空蒸着装置を用いて素子形成用基板上に有機層を形成する場合に、粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆してなる有機EL素子用材料を蒸着源に投入する工程と、前記蒸着源に投入した前記有機EL素子用材料を加熱して前記有機EL材料を蒸発させる工程とを経て、有機EL素子を製造することにより、有機EL材料を大気暴露させることなく、有機EL材料の真空蒸着を行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機EL材料を大気暴露させることなく、規定量ずつの単位で取り扱うことができる。このため、有機EL材料の取り扱いや管理が容易になる。
【0015】
また、真空蒸着装置を用いて有機EL素子を製造する場合は、有機EL材料を大気暴露させることなく、有機EL材料の真空蒸着を行えるため、素子形成用基板上に良質な有機膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0017】
図1は有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。図示した有機EL表示装置1は複数(多数)の有機EL素子2を用いて構成されるものである。有機EL素子2は、R(赤),G(緑),B(青)の発光色の違いで単位画素ごとに区分されている。ただし、図1では、そのうちの1つだけを示している。
【0018】
有機EL素子2は素子形成用基板3を用いて構成されている。素子形成用基板3上には、図示しないスイッチング素子(例えば、薄膜トランジスタ)とともに、下部電極4、絶縁層5、有機層6及び上部電極7が順に積層されている。さらに、上部電極7は保護層8によって覆われ、この保護層8の上に接着層9を介して対向基板10が配置されている。有機EL素子2は、有機材料からなる有機層6を下部電極4と上部電極7でサンドイッチ状に挟み込んだ構造になっている。
【0019】
素子形成用基板3と対向基板10は、それぞれ透明なガラス基板によって構成されるものである。素子形成用基板3と対向基板10は、それら2枚の基板の間に、下部電極4、絶縁層5、有機層6、上部電極7、保護層8、接着層9を挟み込むかたちで、互いに対向する状態に配置されている。
【0020】
下部電極4及び上部電極7は、一方がアノード電極となり、他方がカソード電極となる。下部電極4は、有機EL表示装置1が上面発光型である場合には高反射性材料で構成され、有機EL表示装置1が透過型である場合は透明材料で構成される。
【0021】
ここでは、一例として、有機EL表示装置1が上面発光型で、下部電極4がアノード電極である場合を想定している。この場合、下部電極4は、例えば銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、プラチナ(Pt)さらには金(Au)のように、反射率の高い導電性材料、又はその合金で構成される。
【0022】
なお、有機EL表示装置1が上面発光型で、下部電極4がカソード電極である場合は、下部電極4は、例えばアルミニウム(Al),インジウム(In),マグネシウム(Mg)−銀(Ag)合金,リチウム(Li)−フッ素(F)化合物、リチウム-酸素(O)化合物のように、仕事関数が小さく、かつ、光反射率の高い導電性材料で構成される。
【0023】
また、有機EL表示装置1が透過型で、下部電極4がアノード電極である場合は、下部電極4は、例えばITO(Indium−Tin−Oxide)やIZO(Inidium−Zinc−Oxide)のように、透過率の高い導電性材料で構成される。また、有機EL表示装置1が透過型で、下部電極4がカソード電極である場合は、下部電極4は、仕事関数が小さく、かつ、光透過率の高い導電性材料で構成される。
【0024】
絶縁層5は、下部電極4の周辺部を覆う状態で素子形成用基板3の上面に形成されている。絶縁層5には単位画素ごとに窓が形成されており、この窓の開口部分で下部電極4が露出している。絶縁層5は、例えばポリイミドやフォトレジスト等の有機絶縁材料や、酸化シリコンのような無機絶縁材料を用いて形成されるものである。
【0025】
有機層6は、有機EL材料を用いて形成されている。有機層6は、例えば図2に示すように、素子形成用基板3側から順に、正孔注入層61、正孔輸送層62、発光層63(63r,63g,63b)及び電子輸送層64を積層した4層の積層構造を有するものである。
【0026】
正孔注入層61は、例えば、m−MTDATA〔4,4,4 -tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine〕によって形成されるものである。正孔輸送層62は、例えば、α−NPD[4,4-bis(N-1-naphthyl-N-phenylamino)biphenyl]によって形成されるものである。なお、材料はこれに限定されず、例えばベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などの正孔輸送材料を用いることができる。また、正孔注入層61及び正孔輸送層62は、それぞれ複数層からなる積層構造であってもよい。
【0027】
発光層63は、RGBの色成分ごとに異なる有機発光材料によって形成されるものである。具体的には、赤色発光層63rは、例えば、ホスト材料となるADNに、ドーパント材料として2,6≡ビス[(4’≡メトキシジフェニルアミノ)スチリル]≡1,5≡ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%混合したものにより構成される。緑色発光層63gは、例えば、ホスト材料となるADNに、ドーパント材料としてクマリン6を5重量%混合したものにより構成される。青色発光層63bは、例えば、ゲスト材料となるADNに、ドーパント材料として4,4’≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%混合したものにより構成される。各色の発光層63r,63g,63bは、画素の色配列に応じてマトリクス状に配置される。
【0028】
電子輸送層64は、例えば、8≡ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3 )によって形成されるものである。なお、有機層6については、ここで例示する4層の構造に限らず、少なくとも発光層を含む層であればよい。例えば、上述した4層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層)の構造以外にも、図示しない電子注入層を加えた5層の構造であってもよいし、それよりも層数が少ない又は多い構造であってもよい。
【0029】
上部電極7は、有機EL表示装置1が上面発光型である場合は、透明又は半透明の導電性材料で構成され、有機EL表示装置1が透過型である場合は、高反射性材料で構成される。
【0030】
以上の素子形成用基板3、下部電極4、絶縁層5、有機層6、上部電極7により、有機EL素子2(赤色有機EL素子2r、緑色有機EL素子2g、青色有機EL素子2b)が構成されている。
【0031】
保護層8は、上部電極7や有機層6への水分の到達を防止するなどの目的で形成されるものである。このため、保護層8は、透水性及び吸水性の低い材料を用いて十分な膜厚で形成される。また、保護層8は、有機EL表示装置1が上面発光型である場合には、有機層6で発光させた光を透過させる必要があるため、例えば80%程度の光透過率を有する材料で構成される。
【0032】
また、上部電極7を金属薄膜で形成し、この金属薄膜の上に直接、絶縁性の保護層8を形成するものとすると、保護層8の形成材料として、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si)、アモルファス炭化シリコン(α−SiC)、アモルファス窒化シリコン(α−Si1-x Nx )、さらにはアモルファスカーボン(α−C)等を好適に用いることができる。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護層8となる。
【0033】
接着層9は、例えばUV(紫外線)硬化型樹脂によって形成されるものである。接着層9は、対向基板10を固着させるためのものである。
【0034】
なお、ここでの図示は省略したが、このような構成の有機EL表示装置1にカラーフィルタを組み合わせて設ける場合には、RGBの各色に対応する有機EL素子2r,2g,2bから発せられる発光のスペクトルのピーク波長近傍の光のみを透過するカラーフィルタを、各色の有機EL素子2r,2g,2bの光取り出し面側に設けることになる。
【0035】
図3は本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示すもので、(A)は正面図、(B)は側面図である。図示した有機EL素子用材料11は、粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入した構成となっている。アンプル13は、例えば直径が1cm、長さが5cm程度の断面円形の筒状(カプセル形状)に形成され、両端は半球状になっている。アンプル13は、例えばガラス製の小型容器からなるもので、その肉厚は例えば0.1〜1.0mmの範囲に設定されている。アンプル13の材質は、アンプル13の内部に封入した有機EL材料12の特性劣化を防止するうえで必要とされる気密性や水密性を確保できるようであれば、ガラス製以外のものでもよい。ただし、アンプル13には、後述する有機EL材料の真空蒸着に際して、所定の内外圧力差が生じたときに自ら開裂する自己開裂特性が要求されるため、この要求を満足する程度の機械的強度を有することが必要となる。
【0036】
アンプル13の中には、粉末状の有機EL材料12とともに不活性ガスを封入することが望ましい。アンプル13内に不活性ガスと一緒に有機EL材料12を封入すれば、有機EL材料の劣化を抑えることができる。また、そのための不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、キセノンなどを利用することができる。
【0037】
また、アンプル13に有機EL材料12を封入する際の内圧(封入内圧)は、1気圧を下回る程度であることが望ましい。また、保存・輸送中のアンプル13の開裂を防止するために、有機EL材料12を封入したアンプル13をポリマーフィルムなどで真空パッキングすることが望ましい。
【0038】
アンプル13の外表面には溝14が形成されている。溝14は、アンプル13の表面を細く削るかたちで形成されている。このため、溝14を形成する場合と形成しない場合で比較すると、アンプル13の機械的な強度は、前者(溝を形成する場合)の方が弱くなる。溝14は、図示のように、アンプル13の軸方向に沿って一直線状に形成してもよいし、アンプル13の円周方向に沿って一直線状に形成してもよい。溝14の入れ方(深さ、長さ、形状など)は、アンプル13の自己開裂特性に大きな影響を与える。このため、本発明を実施する場合は、後述する有機EL材料の真空蒸着に際して、アンプル13の内外圧力差がどの程度のレベルになったときにアンプル13を開裂させたいかによって、溝14の入れ方を決めればよい。
【0039】
特に、アンプル13の外表面に細かく交差するように複数の溝14を形成しておけば、アンプ13を細かい破片にして開裂させることができる。このため、真空蒸着装置の蒸着源となる坩堝内に所定数量の有機EL素子用材料11を投入して真空蒸着を行なう場合に、真空チャンバからの真空排気に伴うアンプル13の開裂と同時に有機EL材料12を坩堝内に露出させ、そこから加熱によって蒸発させることができる。したがって、アンプル13の開裂が有機EL材料12の加熱蒸発に与える影響を小さく抑えることができる。
【0040】
上記構成からなる有機EL素子用材料11を製造する場合は、まず、粉末状の有機EL材料12を生成する工程が必要になる。この生成工程では、原料となる有機EL材料を耐熱性容器で囲まれた所定の空間に収容し、この収容空間を加熱することにより、有機EL材料を蒸発させる。そして、収容空間から蒸発して浮遊する有機EL材料を、当該収容空間から管路で導出された生成部に引き込むことにより、当該生成部に粉末状の有機EL材料12を溜める。
【0041】
その場合、上記生成部にアンプル13を配置し、このアンプル13の中に規定量の有機EL材料12を溜め込んだ段階で、アンプル13の両端を半球状に封着することにより、有機EL材料12をアンプル13に封入する。
【0042】
このため、上記生成部に順に新しい空のアンプル13を配置して、有機EL材料12の生成と封入を繰り返すことにより、上記図3に示す有機EL素子用材料11が次々に得られることになる。また、これ以外にも、上記生成部で生成した粉末状の有機EL材料12を、大気暴露させない空間で、例えば少なくともアンプル13よりも大きいガラス等の容器に収容し、その容器から規定量ずつ有機EL材料12を取り分けて、個々のアンプル13に封入してもよい。
【0043】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法として、上記の有機EL素子用材料11を用いて、素子形成用基板上に有機層を形成する場合の方法について説明する。
【0044】
素子形成用基板に対する有機膜の形成は真空蒸着装置を用いて行なう。真空蒸着装置は、真空排気によって所定の真空度に減圧された真空チャンバ内に配置された蒸着源を加熱することにより、蒸着源から成膜材料(ここでは有機EL材料)を蒸発させて基板(ここでは素子形成用基板)に付着させるものである。この真空蒸着を行なうにあっては、まず、成膜材料となる有機EL材料12をアンプル13に封入してなる有機EL素子用材料11を、所定の数量(個数)だけ蒸着源(例えば、坩堝など)に投入する。蒸着源への材料の投入は、有機ELその際、有機EL素子用材料11の投入数量は、蒸着源の大きさ(収容可能容積)や、アンプル13一個当たりの有機EL材料12の封入量などによって調整すればよい。
【0045】
次に、真空チャンバ内の雰囲気(蒸発源の周辺の雰囲気を含む)を所定の真空度の減圧雰囲気とするために、真空チャンバの真空排気を行なう。そうすると、真空排気の過程で、アンプル13の内外圧力差が所定のレベル、例えば0.5気圧以上となったときに、当該内外圧力差によってアンプル13が開裂する。このため、それまでアンプル13に封入されていた有機EL材料12が露出した状態(密封を解かれた状態)となる。その際、予めアンプル13の表面に溝14を形成しておけば、アンプル13が溝14に沿って開裂する。このため、蒸着源に所定数量の有機EL素子用材料11を投入してある場合に、溝14による開裂の促進作用によって、各々のアンプル13を所望の減圧レベルで一斉に開裂させることができる。
【0046】
その後、真空チャンバ内が所定の真空度まで減圧されたら、その減圧雰囲気で蒸着源とそこに投入されている有機EL素子用材料(開裂済み)11を加熱することにより、蒸着源から有機EL材料12を蒸発させる。こうして蒸発した有機EL材料12は、蒸着源に対向して配置された素子形成用基板の表面に付着する。これにより、素子形成用基板上に有機膜が形成されることになる。
【0047】
その際、有機EL素子用材料11の構成としてアンプル13を前述したようにガラス製としておけば、有機EL材料12の蒸発に必要される加熱温度(蒸着温度)に対して、開裂したアンプル13の破片が溶け出したり揮発したりすることがない。このため、蒸着源の中で開裂したアンプル13が有機膜の膜質に悪影響を与える恐れがない。
【0048】
本発明の第1の実施の形態においては、有機EL材料を保管・輸送するにあたって、アンプル13の中に粉末状の有機EL材料12を密封した状態で、有機EL素子用材料11を取り扱うことができる。このため、材料の保管・管理が容易になるとともに、長期の保存に伴う材料の劣化も効果的に抑制することができる。また、実際に有機EL素子用材料11を有機膜の形成に使用する場合は、真空チャンバが減圧雰囲気になるまで有機EL材料12がアンプル13で密封された状態に維持されるため、有機EL材料を大気中に暴露することなく、有機EL素子の製造工程(真空蒸着装置の蒸着源)に材料を投入することができる。その際、有機EL素子の製造工程への材料投入作業が、実質的に、粉末状の材料を供給する作業から、アンプル単位(塊)で供給する作業に変わるため、作業性が大幅に向上することになる。
【0049】
また、有機EL素子用材料11の一個当たりに占める有機EL材料12の質量を、当該有機EL素子用材料11の製造時に予め正確に規定することが容易であるため、蒸着源への材料投入量の管理がきわめて簡便になる。また、蒸着源となる坩堝等に材料を投入する際に、粉末状材料のように蒸着源からこぼれたり飛散したりすることがないため、蒸着源に投入した有機EL材料を無駄なく利用することができる。さらに、粉末状の有機EL材料を取り扱う場合は、その粉末を作業者が吸引してしまうことで安全衛生上の問題が生じるものの、上記の有機EL素子用材料11を取り扱う場合は、そのような問題が生じることはない。
【0050】
図4は本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図であり、(A)は製造完了時の状態,(B)は製造途中の状態を示している。図示した有機EL素子用材料11は、上記第1の実施の形態と同様に、粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入した構成となっているが、アンプル13の構造が異なっている。
【0051】
すなわち、この第2の実施の形態で採用しているアンプル13は、図4(B)に示すように、二つの容器半体13A,13Bを組み合わせたものとなっている。アンプル13の平面視形状は、円形でも、楕円形でも、多角形(四角形、六角形等)でもよい。また、一つのアンプル13を構成する容器半体の個数は二つ以上(三つ、四つなど)であってもよいが、ここでは一例として二つの容器半体13A,13Bを組み合わせる場合について説明する。
【0052】
各々の容器半体13A,13Bの材質は、前述したガラスなどのように、蒸着温度で溶け出したり揮発したりしない材料であればよく、例えばタングステンなどの高融点金属であってもよい。容器半体13A,13Bは、互いに同じ構造(形状、大きさ)になっている。容器半体13A,13Bは、それぞれ凹部14A,14Bとシール部15A,15Bとを有している。凹部14A,14Bは、容器半体13A,13B同士を組み合わせたときに有機EL材料12の封入空間を形成するもので、シール部15A,15Bは、その封入空間を密封するためのものである。
【0053】
シール部15A,15Bは、容器半体13A,13Bの凹部14A,14Bを取り囲む外周部に鍔状に設けられている。シール部15A,15Bは、容器半体13A,13Bを組み合わせるときに、互いに対向する状態で密着(面的に接触)する密着面を有する。この密着面は、シール部15A,15B同士の密着性、ひいてはアンプル13の気密性や水密性を高めるために、平滑化処理されていることが望ましい。シール部15A,15B同士の密着は、例えばアンプル13の内圧が大気圧以下(例えば、0.5気圧程度)となるように、減圧した雰囲気中で容器半体13A,13bを張り合わせ、その後、アンプル13を大気圧中に置くことにより、外部から加わる大気圧を利用して圧着させる方式を採用することが可能である。
【0054】
また、密着性をさらに上げるために、二つの容器半体13A,13Bをシーリング材を用いて密着させてもよい。シーリング材は、シール部15A,15Bの各密着面に供給(塗布等)して用いる。シーリング材としては、室温よりも高く、かつ、有機EL材料の蒸発温度よりも低い温度で、溶融又は昇華する材料であることが望ましい。ここで記述する室温とは0〜30℃の範囲の温度をいう。また、有機EL材料の蒸発温度とは、蒸着温度として適用される300〜400℃の範囲の温度をいう。このため、容器半体13A,13Bの張り合わせに用いるシーリング材としては、30℃よりも高く、かつ、300℃よりも低い温度で、溶融又は昇華する材料(例えば、パラフィン、ワックス、低融点金属など)であることが望ましいものとなる。また、昇華する材料については、素子形成用基板への付着等によって有機膜の膜質に悪影響を与えないものが望ましい。
【0055】
上記構成からなる有機EL素子用材料11を製造する場合は、まず、上記第1の実施の形態と同様の手法で粉末状の有機EL材料12を生成する。すなわち、原料となる有機EL材料を耐熱性容器で囲まれた所定の空間に収容し、この収容空間を加熱することにより、有機EL材料を蒸発させる。そして、収容空間から蒸発して浮遊する有機EL材料を、当該収容空間から管路で導出された生成部に引き込むことにより、当該生成部に粉末状の有機EL材料12を溜める。
【0056】
次に、上記生成部で生成した粉末状の有機EL材料12を、例えば上記第1の実施の形態と同様に、大気暴露させない空間で、少なくともアンプル13よりも大きいガラス等の容器に収容し、その容器から規定量ずつ有機EL材料12を取り分けて、一方(下側)の容器半体13Aの凹部14Aに入れる。その後、容器半体13Aの上から容器半体13Bを被せるようにして、それらを張り合わせることにより、有機EL材料12をアンプル13に封入する。このとき、必要に応じて、シーリング材を用いてもよい。このような製造方法で得られる有機EL素子用材料11を保管する場合は、長期保存による有機EL材料12の劣化を抑えるために、不活性ガスを大気圧中で封入した、少なくともアンプル13よりも容積の大きい高気密性の容器に入れて保管することが望ましい。
【0057】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法として、上記の有機EL素子用材料11を用いて、素子形成用基板上に有機層を形成する場合の方法について説明する。
【0058】
素子形成用基板に対する有機膜の形成は真空蒸着装置を用いて行なうが、この真空蒸着を行なうにあっては、まず、成膜材料となる粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入してなる有機EL素子用材料11を、所定の数量(個数)だけ蒸着源(例えば、坩堝など)に投入する。蒸着源への材料の投入は、大気中で行なってもよい。その際、有機EL素子用材料11の投入数量は、蒸着源の大きさ(収容可能容積)や、アンプル13一個当たりの有機EL材料12の封入量などによって調整すればよい。
【0059】
次に、真空チャンバ内の雰囲気を所定の真空度の減圧雰囲気とするために、真空チャンバの真空排気を行なう。そうすると、真空排気の過程で、アンプル13の内圧がその外圧(真空チャンバーの内圧)よりも高くなるため、当該内外圧力差により、アンプル13を構成している二つの容器半体13A,13bが分離する。このため、それまでアンプル13に封入されていた有機EL材料12が露出した状態(密封を解かれた状態)となる。
【0060】
その後、真空チャンバ内が所定の真空度まで減圧されたら、その減圧雰囲気で蒸着源とそこに投入されている有機EL素子用材料(分離済み)11を加熱することにより、蒸着源から有機EL材料12を蒸発させる。こうして蒸発した有機EL材料12は、蒸着源に対向して配置された素子形成用基板の表面に付着する。これにより、素子形成用基板上に有機膜が形成されることになる。
【0061】
その際、有機EL素子用材料11の構成としてアンプル13を前述したようにガラス製や金属製としておけば、有機EL材料12の蒸発に必要される加熱温度に対して、分離した容器半体13A,13Bが溶け出したり揮発したりすることがない。このため、蒸着源の中で分離した容器半体13A,13Bが有機膜の膜質に悪影響を与える恐れがない。
【0062】
本発明の第2の実施の形態においては、有機EL材料を保管・輸送するにあたって、アンプル13の中に粉末状の有機EL材料12を密封した状態で、有機EL素子用材料11を取り扱うことができる。このため、材料の保管・管理が容易になるとともに、長期の保存に伴う材料の劣化も効果的に抑制することができる。また、実際に有機EL素子用材料11を有機膜の形成に使用する場合は、真空チャンバが減圧雰囲気になるまで有機EL材料12がアンプル13で密封された状態に維持されるため、有機EL材料を大気中に暴露することなく、有機EL素子の製造工程(真空蒸着装置の蒸着源)に材料を投入することができる。その際、有機EL素子の製造工程への材料投入作業が、実質的に、粉末状の材料を供給する作業から、アンプル単位(塊)で供給する作業に変わるため、作業性が大幅に向上することになる。
【0063】
また、有機EL素子用材料11の一個当たりに占める有機EL材料12の質量を、当該有機EL素子用材料11の製造時に予め正確に規定することが容易であるため、蒸着源への材料投入量の管理がきわめて簡便になる。また、蒸着源となる坩堝等に材料を投入する際に、粉末状材料のように蒸着源からこぼれたり飛散したりすることがないため、蒸着源に投入した有機EL材料を無駄なく利用することができる。さらに、粉末状の有機EL材料を取り扱う場合は、その粉末を作業者が吸引してしまうことで安全衛生上の問題が生じるものの、上記の有機EL素子用材料11を取り扱う場合は、そのような問題が生じることはない。
【0064】
図5は本発明の第3の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。図示した有機EL素子用材料11は、上記第2の実施の形態と同様に、粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入した構成で、アンプル13が二つの容器半体13A,13Bを組み合わせた構造になっているが、各々の容器半体13A,13Bの構造が異なっている。
【0065】
すなわち、この第3の実施の形態で採用しているアンプル13は、図5に示すように、それぞれカプセル形状をなす二つの容器半体13A,13Bを組み合わせたものとなっている。各々の容器半体13A,13Bは、両者の組み合わせによって有機EL材料12の封入空間を形成する凹部14A,14Bを有するもので、それぞれ軸方向の一方を半球状に閉じ、他方を円形に開口した筒状の構造になっている。
【0066】
二つの容器半体13A,13Bは入れ子の関係で組み合わせられている。具体的には、相対的に大径の容器半体13Aと、相対的に小径の容器半体13Bとを、互いの開口部(シール部15A,15B)を嵌め合わせた状態で、当該嵌合部分を密着させた構成となっている。各々の容器半体13A,13Bの材質は、上記第2の実施の形態と同様に、蒸着温度で溶け出したり揮発したりしない材料であればよく、例えばガラスや高融点金属などを適用可能である。二つの容器半体13A,13Bのシール部15A,15B同士を密着させる方式としては、上記第2の実施の形態と同様の方式を採用すればよい。
【0067】
上記構成からなる有機EL素子用材料11を製造する場合は、まず、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様の手法で粉末状の有機EL材料12を生成する。すなわち、原料となる有機EL材料を耐熱性容器で囲まれた所定の空間に収容し、この収容空間を加熱することにより、有機EL材料を蒸発させる。そして、収容空間から蒸発して浮遊する有機EL材料を、当該収容空間から管路で導出された生成部に引き込むことにより、当該生成部に粉末状の有機EL材料12を溜める。
【0068】
次に、上記生成部で生成した粉末状の有機EL材料12を、例えば上記第2の実施の形態と同様に、大気暴露させない空間で、少なくともアンプル13よりも大きいガラス等の容器に収容し、その容器から規定量ずつ有機EL材料12を取り分けて、一方(大径側)の容器半体13Aの凹部14Aに入れる。その後、容器半体13Aのシール部15Aに容器半体13Bのシール部15Bを嵌め込むようにして、それらを入れ子で組み合わせることにより、有機EL材料12をアンプル13に封入する。このとき、必要に応じて、シーリング材を用いてもよい。このような製造方法で得られる有機EL素子用材料11を保管する場合は、上記第2の実施の形態と同様に、長期保存による有機EL材料12の劣化を抑えるために、不活性ガスを大気圧中で封入した、少なくともアンプル13よりも容積の大きい高気密性の容器に入れて保管することが望ましい。
【0069】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法として、上記の有機EL素子用材料11を用いて、素子形成用基板上に有機層を形成する場合の方法について説明する。
【0070】
素子形成用基板に対する有機膜の形成は真空蒸着装置を用いて行なうが、この真空蒸着を行なうにあっては、まず、成膜材料となる粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入してなる有機EL素子用材料11を、所定の数量(個数)だけ蒸着源(例えば、坩堝など)に投入する。蒸着源への材料の投入は、大気中で行なってもよい。その際、有機EL素子用材料11の投入数量は、蒸着源の大きさ(収容可能容積)や、アンプル13一個当たりの有機EL材料12の封入量などによって調整すればよい。
【0071】
次に、真空チャンバ内の雰囲気を所定の真空度の減圧雰囲気とするために、真空チャンバの真空排気を行なう。そうすると、真空排気の過程で、アンプル13の内圧がその外圧(真空チャンバーの内圧)よりも高くなるため、当該内外圧力差により、アンプル13を構成している二つの容器半体13A,13bが分離する。このため、それまでアンプル13に封入されていた有機EL材料12が露出した状態(密封を解かれた状態)となる。
【0072】
その後、真空チャンバ内が所定の真空度まで減圧されたら、その減圧雰囲気で蒸着源とそこに投入されている有機EL素子用材料(分離済み)11を加熱することにより、蒸着源から有機EL材料12を蒸発させる。こうして蒸発した有機EL材料12は、蒸着源に対向して配置された素子形成用基板の表面に付着する。これにより、素子形成用基板上に有機膜が形成されることになる。
【0073】
その際、有機EL素子用材料11の構成としてアンプル13を前述したようにガラス製や金属製としておけば、有機EL材料12の蒸発に必要される加熱温度に対して、分離した容器半体13A,13Bが溶け出したり揮発したりすることがない。このため、蒸着源の中で分離した容器半体13A,13Bが有機膜の膜質に悪影響を与える恐れがない。
【0074】
本発明の第3の実施の形態においては、有機EL材料を保管・輸送するにあたって、アンプル13の中に粉末状の有機EL材料12を密封した状態で、有機EL素子用材料11を取り扱うことができる。このため、材料の保管・管理が容易になるとともに、長期の保存に伴う材料の劣化も効果的に抑制することができる。また、実際に有機EL素子用材料11を有機膜の形成に使用する場合は、真空チャンバが減圧雰囲気になるまで有機EL材料12がアンプル13で密封された状態に維持されるため、有機EL材料を大気中に暴露することなく、有機EL素子の製造工程(真空蒸着装置の蒸着源)に材料を投入することができる。その際、有機EL素子の製造工程への材料投入作業が、実質的に、粉末状の材料を供給する作業から、アンプル単位(塊)で供給する作業に変わるため、作業性が大幅に向上することになる。
【0075】
また、有機EL素子用材料11の一個当たりに占める有機EL材料12の質量を、当該有機EL素子用材料11の製造時に予め正確に規定することが容易であるため、蒸着源への材料投入量の管理がきわめて簡便になる。また、蒸着源となる坩堝等に材料を投入する際に、粉末状材料のように蒸着源からこぼれたり飛散したりすることがないため、蒸着源に投入した有機EL材料を無駄なく利用することができる。さらに、粉末状の有機EL材料を取り扱う場合は、その粉末を作業者が吸引してしまうことで安全衛生上の問題が生じるものの、上記の有機EL素子用材料11を取り扱う場合は、そのような問題が生じることはない。
【0076】
図6は本発明の第4の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。図示した有機EL素子用材料21は、粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料22をコーティング材料23で被覆した構造になっている。固形材料22は球状に形成されており、その外周面のすべてをコーティング材料23で覆っている。
【0077】
コーティング材料23としては、室温で固体の状態を維持し、かつ有機EL材料に対する活性度が低い材料が望ましく、例えばパラフィンやワックス系の材料を用いることができる。コーティング材料23は、有機EL材料の蒸発温度(蒸着温度)よりも十分に低い温度で昇華する特性を有するものを用いる。
【0078】
上記構成からなる有機EL素子用材料11を製造する場合は、まず、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様の手法で粉末状の有機EL材料12を生成する。すなわち、原料となる有機EL材料を耐熱性容器で囲まれた所定の空間に収容し、この収容空間を加熱することにより、有機EL材料を蒸発させる。そして、収容空間から蒸発して浮遊する有機EL材料を、当該収容空間から管路で導出された生成部に引き込むことにより、当該生成部に粉末状の有機EL材料を溜める。
【0079】
次に、上記生成部で生成した粉末状の有機EL材料を、大気暴露させない空間で、ガラス等の容器に収容し、その容器から規定量ずつ有機EL材料を取り分けて、当該規定量の有機EL材料を圧縮成形により球状に固めて固形材料22を作り込む。
【0080】
次に、固形材料22をコーティング材料23で被覆する。具体的なコーティング方法としては、固形材料22の外面をすべて包み込む形態で被覆できる手法であれば、どのような方法を採用してもよい。ただし、コーティング材料23の厚さが厚くなると、それに応じて有機EL素子用材料21の一個当たりに占める有機EL材料の割合(質量)が少なくなる。このため、所望の気密性と水密性を保持し得る範囲で、固形材料22の外面をコーティング材料23で薄く均一に被覆することが望ましい。
【0081】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る有機EL素子の製造方法として、上記の有機EL素子用材料21を用いて、素子形成用基板上に有機層を形成する場合の方法について説明する。
【0082】
素子形成用基板に対する有機膜の形成は真空蒸着装置を用いて行なうが、真空蒸着を行なうにあっては、まず、成膜材料とな固形材料(有機EL材料)22をコーティング材料23で被覆してなる有機EL素子用材料21を、所定の数量だけ蒸着源(例えば、坩堝など)に投入する。蒸着源への材料の投入は、大気中で行なってもよい。その際、有機EL素子用材料21の投入数量は、蒸着源の大きさ(収容可能容積)や、材料一個当たりの有機EL材料の質量などによって調整すればよい。
【0083】
次に、真空チャンバ内の雰囲気を所定の真空度の減圧雰囲気とするために、真空チャンバの真空排気を行ない、真空チャンバ内が所定の真空度まで減圧されたら、その減圧雰囲気で蒸着源とそこに投入されている有機EL素子用材料21を加熱する。そうすると、蒸着源での加熱温度が蒸着温度に達するまでの過程で、固形材料22を被覆しているコーティング材料23が昇華する。このため、それまでコーティング材料23で被覆されていた固形材料(有機EL材料)22が露出した状態となる。
【0084】
その後、蒸着源での加熱温度が蒸着温度に達すると、そこに投入されている固形材料22を形成している有機EL材料が蒸発する。こうして蒸発した有機EL材料は、蒸着源に対向して配置された素子形成用基板の表面に付着する。これにより、素子形成用基板上に有機膜が形成されることになる。
【0085】
本発明の第4の実施の形態においては、有機EL材料を保管・輸送するにあたって、有機EL材料からなる固形材料22をコーティング材料23で被覆した状態で、有機EL素子用材料21を取り扱うことができる。このため、材料の保管・管理が容易になるとともに、長期の保存に伴う材料の劣化も効果的に抑制することができる。また、実際に有機EL素子用材料21を有機膜の形成に使用する場合は、真空チャンバが減圧雰囲気となって蒸着源の加熱がなされるまで固形材料22がコーティング材料23で被覆された状態に維持されるため、有機EL材料を大気中に暴露することなく、有機EL素子の製造工程(真空蒸着装置の蒸着源)に材料を投入することができる。その際、有機EL素子の製造工程への材料投入作業が、実質的に、粉末状の材料を供給する作業から、ある大きさの固形物単位(塊)で供給する作業に変わるため、作業性が大幅に向上することになる。
【0086】
また、有機EL素子用材料21の一個当たりに占める有機EL材料の質量を、当該有機EL素子用材料21の製造時に予め正確に規定することが容易であるため、蒸着源への材料投入量の管理がきわめて簡便になる。また、蒸着源となる坩堝等に材料を投入する際に、粉末状材料のように蒸着源からこぼれたり飛散したりすることがないため、蒸着源に投入した有機EL材料を無駄なく利用することができる。さらに、粉末状の有機EL材料を取り扱う場合は、その粉末を作業者が吸引してしまうことで安全衛生上の問題が生じるものの、上記の有機EL素子用材料21を取り扱う場合は、そのような問題が生じることはない。
【0087】
なお、上記第1〜第3の実施の形態においては、粉末状の有機EL材料12をアンプル13に封入するものとしたが、本発明はこれに限らず、例えば粉末状で生成した有機EL材料12を圧縮して得られる固形材料や、粉末状の有機EL材料12をワックス材料と混合して得られる固形材料を、アンプル13に封入してもよい。
【0088】
また、上記第4の実施の形態においては、有機EL素子用材料21の構造として、粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料22をコーティング材料23で被覆した構造としたが、本発明はこれに限らず、粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料22をコーティング材料23で被覆した構造であってもよい。
【0089】
また、有機EL素子は、有機EL表示装置に限らず、表示装置用(例えば、液晶表示装置用のバックライトなど)を含めた各種の光源としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。
【図2】有機EL素子の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る有機EL素子用材料を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
2…有機EL素子、3…素子形成用基板、6…有機層、11…有機EL素子用材料、12…有機EL材料、13…アンプル、14…溝、15…シール部、21…有機EL素子用材料、22…固形材料、23…コーティング材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL材料と、
前記有機EL材料を封入してなるアンプルと
を有することを特徴とする有機EL素子用材料。
【請求項2】
前記アンプルはガラス製である
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子用材料。
【請求項3】
前記アンプルの表面に溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子用材料。
【請求項4】
前記アンプル内に、前記有機EL材料とともに不活性ガスを封入してなる
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子用材料。
【請求項5】
前記アンプルは、少なくとも二つの容器半体を組み合わせたものである
ことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子用材料。
【請求項6】
前記二つの容器半体はシーリング材を用いて密着されている
ことを特徴とする請求項5記載の有機EL素子用材料。
【請求項7】
前記シーリング材は、室温よりも高く、かつ、前記有機EL材料の蒸発温度よりも低い温度で、溶融又は昇華する材料からなる
ことを特徴とする請求項6記載の有機EL素子用材料。
【請求項8】
粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆してなる
ことを特徴とする有機EL素子用材料。
【請求項9】
前記コーティング材料は、室温よりも高く、かつ、前記有機EL材料の蒸発温度よりも低い温度で、昇華する材料からなる
ことを特徴とする請求項8記載の有機EL素子用材料。
【請求項10】
有機EL材料を生成する工程と、
前記有機EL材料をアンプルに封入する工程と
を有することを特徴とする有機EL素子用材料の製造方法。
【請求項11】
粉末状の有機EL材料を生成する工程と、
前記粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は前記粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆する工程と
を有することを特徴とする有機EL素子用材料の製造方法。
【請求項12】
真空蒸着装置を用いて素子形成用基板上に有機層を形成する場合に、
有機EL材料をアンプルに封入してなる有機EL素子用材料を蒸着源に投入する工程と、
前記蒸着源に投入した前記有機EL素子用材料を加熱して前記有機EL材料を蒸発させる工程と
を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記有機EL素子用材料が投入された前記蒸着源の周辺の雰囲気を真空排気によって所定の真空度まで減圧する過程で、前記アンプルを内外圧力差により開裂させることにより、前記有機EL材料を露出させる
ことを特徴とする請求項12記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
真空蒸着装置を用いて素子形成用基板上に有機層を形成する場合に、
粉末状の有機EL材料を圧縮してなる固形材料又は粉末状の有機EL材料とワックス材料を混合してなる固形材料をコーティング材料で被覆してなる有機EL素子用材料を蒸着源に投入する工程と、
前記蒸着源に投入した前記有機EL素子用材料を加熱して前記有機EL材料を蒸発させる工程と
を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
前記蒸着源を蒸着温度まで加熱する過程で、前記コーティング材料を昇華させることにより、前記有機EL材料を露出させる
ことを特徴とする請求項溝14記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−252566(P2009−252566A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99946(P2008−99946)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】