説明

有機EL表示装置

【課題】有機EL表示装置の寿命・消費電力等の性能を損なうことなく、高い歩留まりで、低コストで、画素の微細化や高集積化、及び基板の大型化を可能にする有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上に設けられ、B副画素21と、G副画素22と、R副画素23と、からなる複数の画素と、から構成され、B副画素21、G副画素22及びR副画素23に共通して形成されるB発光層122と、G副画素22及びR副画素23に共通して形成されるG発光層123と、上部電極13の上方に設けられ、赤色光より短波長の光を吸収して赤色光に変換する薄膜層である色変換膜151と、を有することを特徴とする、有機EL表示装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーディスプレイでは、通常、光の三原色であるRGBの3つの副画素(サブピクセル)を組み合わせて1画素(ピクセル)として、色再現を行っている。
【0003】
一般に、フルカラーの表示装置を製造する際には、有機発光材料からなり、RGBのいずれかの色に発光する発光層を、副画素毎にパターン形成する。ここで、発光層のパターン形成方法としては、例えば、シートに開口パターンを設けたマスクを介して発光材料を蒸着あるいは塗布するシャドーマスキング法、又はインクジェット法や転写法によって行われている。
【0004】
ところが、シャドーマスキング法では、マスクの撓みによって位置精度の高いパターン形成が困難であること等から、画素の微細化及び高集積化、並びに基板の大型化が困難となる。また、各色についてそれぞれパターニングを行うと、パターニングのプロセスを繰り返す度に、汚染やミスアライメントの機会を増やすこととなり、歩留まりの低下を招いてしまう。さらに、各色についてそれぞれパターニングを行うと、工程数が多くなりコストアップ要因となる。
【0005】
また、インクジェット法や転写法でも、高精度なパターニングと素子性能との両立は難しく、画素の微細化及び高集積化、並びに基板の大型化が困難となっている。
【0006】
このようにパターニング工程において生じる問題を回避する手段として、カラーフィルタや色変換膜を使用する方法が提案されている。ここでカラーフィルタを使用する方法とは、具体的には、白色ベタ膜の有機EL素子からなる光源(バックライト)から発せられる白色光を、R、G、Bからなる3色のカラーフィルタを介して、R、G、Bの光としてそれぞれ取り出す方法である。また色変換膜を使用する方法とは、具体的には、青色ベタ膜の有機EL素子を光源として用い、この光源から発せられる青色発光を、色変換層(CCM)により、赤色及び緑色に変換することにより、RGBのそれぞれを表示する方法である(非特許文献1等)。
【0007】
しかし、カラーフィルタを使用する方法では、光源(有機EL素子)から発せられた白色光のうち、所定の色成分以外の光が当該カラーフィルタにて吸収されることになる。このため、吸収された光のエネルギーの分だけ無駄になり消費電力が増加する。また、所定の色を所定の輝度に発光させるために本来必要とされる電流量以上の電流を、カラーフィルタに吸収される色成分の発光のために流すことになり、その分光源である有機EL素子の寿命の低下を招いてしまう。
【0008】
また、色変換膜を使用する方法では、特に、赤色への色変換効率が低いのが問題となる。一般的に、色変換材料の吸収帯域は、発光帯域より10nmから100nm程度短波長側にシフトした帯域になる。このため、赤色への色変換材料の場合、緑色近辺の帯域の光の吸収率は高く変換効率も良好であるが、青色光の吸収率は低く変換効率が悪くなる。従って、赤色光を所定の輝度で発光させるために、光源である青色光を高輝度で発光させる必要があり、光源である有機EL素子の寿命の低下を招き、消費電力が増大するという問題が生じていた。
【0009】
一方、パターニング工程において生じる問題を回避する別の手段として、特許文献1にて提案されている方法がある。具体的には、青色発光層を共通層としてベタ膜で形成し、この上のG副画素領域に緑色発光層をパターニング形成し、R副画素領域に赤色発光層をパターニング形成する方法である。
【0010】
この方法では、青色発光層のパターニングプロセスを省略できるので、低コスト化に有効である。しかし、G副画素領域とR副画素領域とに精度良く塗り分ける必要があるので、画素の微細化や高集積化、及び基板の大型化を実現する上では、大きな効果は期待できない。
【0011】
【特許文献1】特開2006−140434号公報
【非特許文献1】社団法人電子情報技術産業協会(JEITA編集・発行)、「FPDガイドブック」、2003年10月発行、P110−111
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、各色発光層を各副画素に対応するように塗り分ける方式では、画素の微細化や高集積化、及び基板の大型化に課題があった。特に、シャドーマスキング法では、それに伴う歩留まりの低下、コスト増の問題もあった。このように、各色発光層を各副画素に対応するように塗り分ける方式では、各副画素間の幅の狭小化に限界があるため、画素の高集積化に伴って画素の開口率が低下するという問題があった。一方、ベタ膜を用いる方式では、寿命や消費電力に課題があった。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、有機EL表示装置の寿命・消費電力等の性能を損なうことなく、高い歩留まりで、低コストで、画素の微細化や高集積化、及び基板の大型化を可能にする有機EL表示装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、各副画素の開口率を向上させることを可能にする有機EL表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機EL表示装置は、基板と、該基板上に設けられる複数の画素と、から構成され、
該画素が、B副画素と、G副画素と、R副画素と、からなり、
該B副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、上部電極と、を有し、
該G副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、G発光層と、上部電極と、を有し、
該R副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、G発光層と、上部電極と、色変換膜と、を有し、
該B発光層が、該B副画素、該G副画素及び該R副画素に共通して形成される発光層であり、
該G発光層が、該G副画素及び該R副画素に共通して形成される発光層であり、
該色変換膜が、該上部電極の上方に設けられ、赤色光より短波長の光を吸収して赤色光に変換する薄膜層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで、表示パネルの高精細化、大面積化が可能となる。また、高精細化に伴う画素の開口率の低下を抑制することが可能となる。画素の開口率の向上は、低消費電力化や高寿命化に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の有機EL表示装置は、基板と、該基板上に設けられる複数の画素と、から構成され、この画素は、青色光を出力するB副画素と、緑色光を出力するG副画素と、赤色光を出力するR副画素と、からなる。
【0017】
本発明の有機EL表示装置において、B副画素は、少なくとも下部反射電極と、青色光を発するB発光層と、上部電極と、を有する副画素である。G副画素は、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、緑色光を発するG発光層と、上部電極と、を有する副画素である。R副画素は、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、G発光層と、上部電極と、色変換膜と、を有する副画素である。
【0018】
また本発明の有機EL表示装置において、B発光層は、B副画素、G副画素及びR副画素に共通して形成される発光層である。G発光層は、G副画素及びR副画素に共通して形成される発光層である。色変換膜は、上部電極の上方に設けられ、赤色光より短波長の光を吸収して赤色光に変換する薄膜層である。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機EL表示装置を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の有機EL表示装置における一実施形態を示す模式図であり、(a)は、断面概略図であり、(b)は、平面概略図である。尚、図1に示される有機EL表示装置は、1画素あたりの構成を示すものである。
【0021】
図1の有機EL表示装置1は、基板10と、基板10上に設けられ1個の画素を構成する三種類の副画素、即ち、B副画素21、G副画素22及びR副画素23と、から構成される。
【0022】
図1において、各副画素(21,22,23)は、基本的には、基板10上に設けられ、下部反射電極11と、下部反射電極11上に設けられる有機化合物層12と、有機化合物層12上に設けられる上部電極13と、からなる有機EL素子である。
【0023】
下部反射電極11は、各副画素に対応する領域にパターン形成されている(11b,11g,11r)。下部反射電極11の構成材料としては、有機化合物層12に含まれる発光層から発せられる光を反射する反射材料であれば特に限定されない。例えば、アルミニウム系合金や銀系合金等の金属材料等が挙げられる。ただし、上述した反射材料からなる薄膜と、ITO,IZO等の透明導電性材料からなる薄膜と、をこの順に積層した積層体を使用してもよい。また下部反射電極11となる薄膜は、スパッタ法等の公知の方法で形成することができる。一方、は、フォトリソプロセス等により所望のパターンに形成することができる。
【0024】
下部反射電極11上に設けられる有機化合物層12は、発光層を含んでいればその層構成は特に限定されるものではない。例えば、図1に示される構成、即ち、ホール輸送層121、B発光層122、電子輸送層124、電子注入層125が挙げられる。ここでB発光層122は、青色光を発する発光層である。尚、G副画素22及びR副画素23には、B発光層122と電子輸送層124との間に、緑色光を発するG発光層123がさらに設けられている。
【0025】
本発明の有機EL表示装置においては、B発光層122は、B副画素21、G副画素22及びR副画素23に共通して形成される発光層である。一方、G発光層123は、G副画素及びR副画素に共通して形成される発光層である。このため、R,G,Bの光をそれぞれ発する発光層を、対応する副画素毎に、個別に塗り分ける必要がないので、作業工程を短縮することができる。尚、発光層以外の層を設けるときには、その層を、各副画素について個別に形成してもよいし、各副画素に共通して形成してもよい。
【0026】
一方、図1で示される有機化合物層12において、図示していないが、下部反射電極11とホール輸送層121との間にホール注入層をさらに設けてもよい。また、電子輸送層124と発光層(B発光層122あるいはG発光層123)との間や、B発光層122とG発光層123との間に、ホール抑制層をさらに設けてもよい。さらに、ホール輸送層121と発光層(B発光層122あるいはG発光層123)との間や、B発光層122とG発光層123との間に、電子抑制層(図示せず)をさらに設けてもよい。
【0027】
一方、有機化合物層12に含まれる二種類の発光層であるB発光層122及びG発光層123は、図1で示されるように、基板からB発光層122、G発光層123の順番で設けてもよいし、基板からG発光層124、B発光層122の順番で設けてもよい。
【0028】
ホール注入層、ホール輸送層121、B発光層122、G発光層123、電子輸送層124及び電子注入層125の構成材料として使用される有機化合物は、低分子材料、高分子材料もしくはその両方により構成され、特に限定されるものではない。さらに、必要に応じて無機化合物を使用してもよい。
【0029】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0030】
ホール注入層の構成材料であるホール注入材料としては、MoO3,WO3,V25等の遷移金属酸化物や、銅フタロシアニン(Cupc)等が挙げられる。
【0031】
ホール輸送層121の構成材料であるホール輸送材料は、陽極からのホールの注入を容易にし、また注入されたホールを発光層に輸送するに優れたモビリティを有することが好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0032】
以下に、ホール輸送材料の具体例を示す。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
B発光層122及びG発光層123の構成材料である発光材料は、発光効率の高い蛍光材料や燐光材料が使用される。以下に、発光材料の具体例を示す。
【0036】
【化3】

【0037】
電子輸送層124の構成材料である電子輸送材料としては、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、ホール輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。以下に、電子輸送材料の具体例を示す。
【0038】
【化4】

【0039】
電子注入層125の構成材料である電子注入材料としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、もしくはその化合物等が挙げられる。また電子注入層126を、上述した電子輸送材料に、電子注入材料を層全体に対して0.1%以上数十%以下の割合で含有させてなる層としてもよい。こうすることにより、電子注入性を付与することができる。電子注入層125は、有機化合物層12を構成する層のうち必要不可欠な層ではないが、この後に、上部電極13を形成する際に有機化合物層12が受けるダメージ、及び良好な電子注入性の確保を考慮すると、設けるのが好ましい。このとき電子注入層125の膜厚は、10nm以上100nm以下である。
【0040】
有機化合物層12を構成する各層は、一般に、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマにより形成する。また、適当な溶媒に溶解させて、公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により形成することもできる。
【0041】
特に、塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。上記結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えば、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は共重合体ポリマーとして1種又は2種以上混合してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0042】
上部電極13の構成材料としては、ITOやIZO等の酸化物導電膜を使用することができる。また電子輸送層124及び電子注入層125との組み合わせにより、電子注入性が良好な組み合わせを適宜選択することが望ましい。上部電極13の形成方法としては、スパッタリング等が挙げられる。
【0043】
図1の有機EL表示装置1は、有機EL表示装置内に酸素や水分等が浸入するのを防止する目的で、上部電極13上に保護層14が設けられる。保護層としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等からなる金属窒化物膜、酸化タンタル等からなる金属酸化物膜、ダイヤモンド薄膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により副画素に相当する有機EL素子自体をパッケージングすることもできる。また、防湿性を高める為に、保護層内に吸湿材を含有させてもよい。
【0044】
図1の有機EL表示装置1では、保護層14上に、対向基板15を設けられており、保護層14と共に、有機EL表示装置を構成する副画素に相当する有機EL素子を封止している。
【0045】
対向基板15として、ガラス等の透明な基板を使用することができる。ここで対向基板15には、予めフォトリソプロセスにより、R副画素23に対応する領域に色変換膜151が設けられている。このため上部電極13上に設けられる接着層14を介して基板10と対向基板15とを貼り合わせることにより、R副画素23に相当する領域に、色変換膜151が配置される。色変換膜151の設置態様については、図1に示される態様に限定されるものではない。例えば、対向基板15の各副画素に対応した領域に、各副画素に対応した色のカラーフィルタ層をそれぞれ設けておいてもよい。
【0046】
R副画素23に設けられる色変換膜151は、赤色光より短波長の光を吸収して赤色光に変換する薄膜層である。このため、本発明の有機EL表示装置は、赤色の光を発するR発光層を設ける必要がない。
【0047】
尚、以上の説明では、基板側の下部反射電極11を陽極とする構成で説明してきたが、下部反射電極11が陰極となる積層構成においても本発明を実施することは可能であり、特に限定されるものではない。
【0048】
さらに、透明基板上に透明電極を形成し、その上に有機化合物層、反射性電極を積層したボトムエミッション構成においても本発明を実施可能である。ボトムエミッション構成の場合は、当該透明基板上に色変換膜を設ける。
【0049】
R副画素23に対応する位置に設けられる色変換膜151についても、その設置位置については、光を取り出す側であればよく、基板上に成膜された膜面上部に配置される場合もあるし、逆に基板側の膜面下部に配置される場合もある。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
図1に示される有機EL表示装置の作製例を以下に述べる。
【0052】
まず、支持体であるガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成する。次に、このTFT駆動回路上に、アクリル樹脂からなる平坦化膜を形成する。このように平坦化膜まで形成したガラス基板を、基板10とする。
【0053】
次に、基板10上に、スパッタリング法により、反射材料であるAg合金(AgPdCu)を、B副画素21、G副画素22及びR副画素23に対応する領域(11b,11g,11r)に、それぞれパターニングして、膜厚約100nmの反射膜を形成する。次に、この反射膜上に、スパッタリング法により、透明導電材料であるIZOを、B副画素21、G副画素22及びR副画素23に対応する領域(11b,11g,11r)に、それぞれパターニングして、膜厚20nmの透明導電膜を形成する。ここで上記反射膜及び透明導電膜は、下部反射電極11として機能する。次に、アクリル樹脂により、各副画素を分割する画素分離膜を形成した後、画素分離膜まで形成された基板の処理を行う。具体的には、この基板を、イソプロピルアルコール(IPA)で超音波洗浄し、次いで、煮沸洗浄後乾燥する。その後、UV/オゾン洗浄を行う。
【0054】
以上のようにして基板10の処理を行った後、真空蒸着法により、有機化合物層12を構成する薄膜層を順次形成する。
【0055】
具体的には、まず下記に示される化合物[I]を、画素領域全面に共通する層として成膜することで、膜厚20nmのホール輸送層121を形成する。尚、ホール輸送層121を形成する際に、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとしている。
【0056】
【化5】

【0057】
次に、ホストである下記に示される化合物[II]と、ゲストである下記に示される化合物[III]とを共蒸着して、画素領域全面に共通する層として成膜することで、膜厚20nmのB発光層122を形成する。尚、B発光層122を形成する際に、ホストとゲストとの混合比を、重量比にして80:20とし、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとしている。
【0058】
【化6】

【0059】
次に、シャドーマスクを介して、ホストであるAlq3と、ゲストであるクマリン6とを共蒸着し、G副画素及びR副画素に共通する層として成膜することで、膜厚40nmのG発光層123を形成する。尚、G発光層123を形成する際に、ホストとゲストとの混合比を、重量比にして99:1とし、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとしている。
【0060】
次に、バソフェナントロリン(Bphen)を、画素領域全面に共通する層として成膜することで、膜厚10nmの電子輸送層124を形成する。尚、電子輸送層124を形成する際に、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとしている。
【0061】
次に、BphenとCs2CO3とを、共蒸着し、画素領域全面に共通する層として成膜することで、膜厚20nmの電子注入層125を形成する。尚、電子注入層125を形成する際に、BphenとCs2CO3との混合比を、重量比にして90:10とし、真空度を3×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secとしている。
【0062】
このようにして、電子注入層125まで形成した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、スパッタ法により、ITOを成膜し、膜厚60nmの上部電極13を形成する。さらに、スパッタ法により、窒化酸化シリコンを成膜し、膜厚700nmの保護層14を形成する。
【0063】
次に、対向基板15上に、R副画素23に対応する領域に、緑色光を吸収して赤色光を発光する色変換膜151を形成する。この色変換膜151は、塗布法による薄膜形成と、フォトリソプロセスによるパターニングとにより形成される。具体的には、まず赤色蛍光材料ローダミン6G(Rhodamine6G)と光硬化性樹脂とを、重量比にして、1.5:98.5で混合した後、この混合物を有機溶媒中に分散させた塗布液を調製する。次に、この塗布液を対向基板15上に塗布し膜厚2μmのフィルム状に形成した後、フォトリソプロセスによるパターニングを行うことにより、R副画素23に対応する位置に、色変換膜151が形成される。尚、形成した色変換膜151の吸収波長域は、450nm〜580nm(吸収ピーク波長538nm、吸光度1.7)であり、発光波長域は、570nm〜700nm(発光ピーク波長612nm)である。
【0064】
最後に、R副画素23の領域の上方に色変換膜151が配置されるように、基板10と対向基板15とを、接着層14を介して貼り合わせることにより、本実施例の有機EL表示装置を得ることができる。
【0065】
得られた有機EL表示装置を構成する各副画素について、分光放射輝度計を用いて発光効率、色度を測定した。尚、発光効率は、全画素を発光させてCIE色度(0.31、0.316)の白色光を100cd/m2で表示する際の発光効率である。結果を表1に表す。
【0066】
【表1】

【0067】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で作製、処理した下部反射電極付基板を使用して、以下に示す方法で図2に示される有機EL表示装置を作製した。
【0068】
基板上に、真空蒸着法により、R副画素、G副画素、B副画素のそれぞれに対応した3種類のシャドーマスクを用いて、ホール輸送層121を形成する。このときホール輸送層121の膜厚をそれぞれ下記表2のように設定している。
【0069】
【表2】

【0070】
次に、真空蒸着法により、R副画素、G副画素、B副画素のそれぞれに対応した3種類のシャドーマスクを用いて、各副画素に対応した発光層126(R発光層126r、G発光層126g、B発光層126b)を形成する。
【0071】
各発光層を形成するにあたり、使用した材料(ホスト、ゲスト)及びその混合比、並びに膜厚を下記表3に示す。尚、真空度及び蒸着レートは、実施例1でB発光層及びG発光層を形成したときの条件と同様である。
【0072】
【表3】

【0073】
次に、実施例1と同様の方法で、電子輸送層、電子注入層、上部電極、保護層をこの順で形成することで、本比較例の有機EL表示装置を得る。
【0074】
得られた有機EL表示装置を構成する各副画素について、実施例1と同様に、発光効率、色度を測定した。結果を表4に表す。
【0075】
【表4】

【0076】
上記評価結果より、色度については、実施例1の表示装置は、比較例1の表示装置と同程度である。一方、発光効率については、実施例1の表示装置は、R副画素の発光効率は比較例1よりは低いものの、G副画素及びB副画素の発光効率は、比較例1と同等であった。R副画素の発光効率が低かったのは、比較例1の赤色発光が燐光発光であるのに対し、実施例1は蛍光発光からの色変換発光であるからである。ここで、R副画素の光源であるG発光層のゲストを燐光材料に変更すれば、R副画素の発光効率も改善すると考えられる。また、発光効率のよい黄色系の燐光材料の発光層を光源として、G副画素とR副画素とに、緑色又は赤色の発光を取り出すためのカラーフィルタを併設してもよい。
【0077】
ところで、実施例1の表示装置において、G副画素22及びR副画素23には、B発光層122及びG発光層123が設けられているが、両副画素から発せられる光は、G発光層123の発光であり、B発光層122の発光が実質的に含まれていない。即ち、G副画素22及びR副画素23においては、G発光層が発光し、B発光層が発光していないことになる。
【0078】
これは、B発光層123内に形成された励起子のエネルギーが、相対的にエネルギーの低いG発光層123側に速やかに移動して、B発光層122内では発光がほとんど行われなかったためと考えられる。このような発光は、励起子をG発光層123側に偏在して生成させること等によっても実現させることができる。
【0079】
また、実施例1の表示装置のR副画素23の発光色は、G副画素22の発光帯域と同一の光を色変換膜151が吸収して、長波長側の光を再発光したときの発光色である。ここで本実施例においては、G副画素の発光帯域が、色変換膜の吸収波長域とよく重なるため、高い変換効率で赤色光を発光することが可能であり、良好な発光効率を得ることができる。
【0080】
ところで蒸着プロセスにおけるシャドーマスクによるパターニング回数は、比較例1では3回であるのに対して、実施例1では1回で済む。一方、マスク開口部の大きさは、比較例1が副画素1つ分であるのに対して、実施例1では副画素2つ分となり、開口サイズが2倍になる。このため、汚染やミスアライメントの確立が低減し、歩留まりが向上する。また使用するマスクの枚数を減らすことが可能であるので、低コスト化も図られる。
【0081】
以上より、本実施例の表示装置は、RGBの3つの副画素を個別にパターニングした従来の表示装置の性能を大きく損なうことなく、低コスト化が可能となる。
【0082】
<実施例2>
次に、本発明の有機EL表示装置を、3インチVGAの高精細パネルに適用する場合の例を示す。
【0083】
図3は、本実施例における副画素の配列態様を示す平面該略図である。本実施例においては、各副画素は、RGB/RGB・・・という態様で配列されている。また、画素1つあたりのG発光層123及び色変換膜151の平面配置は、図1(b)に示される配置態様と同様である。本実施例において、R副画素23とG副画素22との間隔33は5μmであり、他の副画素間(G副画素22とB副画素21との間、及びB副画素21とR副画素23との間)の間隔32は15μmである。一方、画素1個分の幅30は95.25μmであるため、各副画素の開口幅31は、20μm以上確保できている。
【0084】
ここで、図3の副画素の配列態様に対応してパターン形成された下部反射電極を備える基板を使用して、実施例1と同様の方法により、有機化合物層及び上部電極本実施例の有機EL表示装置を作製する。
【0085】
ところで、従来の蒸着工程において使用されるシャドーマスクのアライメント精度は、最も精密なものであっても15μm程度である。一方、本発明の表示装置では、G発光層124を、G副画素22とR副画素23とに共通する発光層として、同一のマスク開口部を使用し一括で成膜することができる。このため、R副画素23とG副画素22との間隔が他の副画素間の間隔よりも狭いもの(5μm)であっても、要求されるマスクアライメント精度には影響しない。
【0086】
一方、対向基板上であって、R副画素23に対応する領域に色変換膜151を形成する工程と、基板と対向基板とを貼り合わせる工程においては、R副画素23とG副画素22との間隔に相当する5μmのアライメント精度が要求される。ここでフォトリソプロセスを採用すれば、高いアライメント精度が得られるので、5μm程度のアライメント精度で色変換膜を形成することは充分可能である。
【0087】
<比較例2>
本比較例は、比較例1と同様に、各副画素に含まれる発光層を設ける際に、シャドーマスクを用いて塗り分ける方法を採用している。
【0088】
図4は、本比較例における副画素の配列態様を示す平面該略図である。本比較例では、シャドーマスクのアライメント精度の制約から、各副画素間の幅42を少なくとも15μm確保する必要があるので、各副画素の開口幅41は、広くても16.75μmまでしか確保できない。
【0089】
以上より、実施例2では、比較例2よりも20%程度パネルの開口幅が広い。これより、本発明の有機EL表示装置は、従来の有機EL表示装置と比較して、画素の開口率を向上させることが可能である。
【0090】
<実施例3>
図5は、本実施例における副画素の配列態様を示す平面該略図である。
【0091】
本実施例においては、副画素の配列態様がRGB/BGR/RGB/BGR・・・となっている。また、本実施例では、B副画素21とG副画素22との間隔52を15μmとする。一方、他の副画素間(R副画素23とG副画素22との間、隣接する2つのB副画素21環及び隣接する2つのR副画素23間)の間隔53は5μmになっている。本実施例において、画素1つあたりの幅50は、実施例2の場合と同様に95.25μmであるが、本実施例の場合は、各副画素の開口幅51が実施例2よりもさらに広がっており、少なくとも23.4μm以上は確保できている。
【0092】
ここで、図5の副画素の配列態様に対応してパターン形成された下部反射電極を備える基板を使用して、実施例1と同様の方法により、有機化合物層及び上部電極本実施例の有機EL表示装置を作製する。
【0093】
本実施例において、G発光層124は、1つのマスク開口部を使用して、の4つの副画素(GR/RG)に相当する領域の全域を一括して成膜することができる。このため、この4つの副画素間の間隔が5μmと狭いものになっていても、要求されるマスクアライメント精度には影響しない。また、本実施例において、B発光層122は、各副画素に共通して形成されているので、隣接する2つのB副画素21の間の間隔が5μmと狭いものであっても、要求されるアライメント精度には無関係である。一方、B副画素21とG副画素22との間隔52は、15μmと広く取ることができるので、一般的なシャドーマスクのアライメント精度で十分に対応可能である。
【0094】
即ち、実施例3では、比較例2よりも開口幅が40%程度広い表示装置である。
【0095】
尚、本実施例においては、対向基板上の副画素Rに対応する領域に色変換膜を形成するプロセスにおいても、隣接する2つの副画素Rを、一つのマスク開口部で形成することができる。
【0096】
以上から、本実施例の表示装置は、RGBの3つの副画素を個別にパターニングした従来の表示装置と比較して、高精細化した場合に、画素の開口率を大幅に向上させることが可能であることが分かる。
【0097】
同様にして、大面積化に対しても、本発明が有効なことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の有機EL表示装置における一実施形態を示す模式図であり、(a)は、断面概略図であり、(b)は、平面概略図である。
【図2】比較例1で作製した有機EL表示装置を示す断面概略図である。
【図3】実施例2における副画素の配列態様を示す平面該略図である。
【図4】比較例2における副画素の配列態様を示す平面該略図である。
【図5】実施例3における副画素の配列態様を示す平面該略図である。
【符号の説明】
【0099】
1 有機EL表示装置
10 基板
11,11b,11g,11r 下部反射電極
12 有機化合物層
121 ホール輸送層
122,126b B発光層
123,126g G発光層
124 電子輸送層
125 電子注入層
126 発光層
126r R発光層
13 上部電極
14 保護層
15 対向基板
151 色変換膜
21 B副画素
22 G副画素
23 R副画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられる複数の画素と、から構成され、
該画素が、B副画素と、G副画素と、R副画素と、からなり、
該B副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、上部電極と、を有し、
該G副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、G発光層と、上部電極と、を有し、
該R副画素が、少なくとも下部反射電極と、B発光層と、G発光層と、上部電極と、色変換膜と、を有し、
該B発光層が、該B副画素、該G副画素及び該R副画素に共通して形成される発光層であり、
該G発光層が、該G副画素及び該R副画素に共通して形成される発光層であり、
該色変換膜が、該上部電極の上方に設けられ、赤色光より短波長の光を吸収して赤色光に変換する薄膜層であることを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項2】
前記G副画素及び前記R副画素において、前記G発光層が発光し、前記B発光層が発光していないことを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記B副画素、前記G副画素及び前記R副画素の配列が、RGB/RGB・・・であり、
前記R副画素と前記G副画素との間隔が、他の副画素間の間隔より狭いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記B副画素、前記G副画素及び前記R副画素の配列が、RGB/BGR/RGB/BGR・・・であり、
前記G発光層が、GR/RGからなる領域の全域に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記B副画素と前記G副画素との間隔が、他の副画素間の間隔より広いことを特徴とする、請求項4に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−165510(P2010−165510A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5636(P2009−5636)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】