説明

末端チオール基を有するアルキル錫スルファニルメルカプトカルボキシレート

ハロゲン含有樹脂のための優れた安定化剤としての用途を有する、特定の式のアルキル錫化合物。そのアルキル錫化合物は、1〜3個の末端チオール基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
1.発明の分野
本発明は、ハロゲン含有樹脂組成物のためのアルキル錫熱安定化剤に関する。特に、本発明は、ポリビニル組成物の熱安定化に適した、1〜3個の末端チオール基を有するアルキル錫スルファニルメルカプトカルボキシレートに関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術の説明
英国特許第866,484号明細書には、末端チオール基を有するアルキル錫スルファニル誘導体で、熱及び光の両方の劣化効果に対しビニル樹脂を安定化すると言われている誘導体が一般的に記載されている。しかし、これらの化合物のいずれについてもそれらの主張を定量化する実験データーは、全く与えられていない。
【0003】
非チオール末端アルキル錫安定化剤も知られている。例えば、ジメチル錫ビスS,S(2−エチルヘキサノールチオグリコレート)及びジ−n−ブチルビスS,S(2−エチルヘキサノールチオグリコレート)は、両方共市販されている。最も効果的な熱安定化剤の一つは、ジメチル錫ビスS,S(2−エチルヘキサノールチオグリコレート)と、メチル錫トリスS,S,S(2−エチルヘキサノールチオグリコレート)との混合物である。これらの化合物も市販されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の概要)
一つの態様として、本発明は、次の式を有するアルキル錫化合物に関する:
(R)Sn[-S-(CH)-COO-CH-CH-OOC-(CH)-SH]4−x
(式中、Rは、C1−3アルキル基であり、
xは、1又は2に等しく、
yは、1又は2に等しい。)
【0005】
これらの有機錫化合物は、一般に有機錫誘導体(例えば、酸化物及び塩化物)と、エチルグリコールのジメルカプト酸エステルとの縮合生成物として記述することができる。
【0006】
第2の態様として、本発明は、ハロゲン含有樹脂及び上に記載したアルキル錫化合物を、上昇させた温度、UV光、酸化、及び高剪断力に対し樹脂を安定化するのに有効な量で含有する組成物に関する。
【0007】
(好ましい態様についての詳細な説明)
式1のアルキル錫化合物は、Rがメチル基であるのが好ましい。式1に入る特に好ましいアルキル錫化合物には、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)、モノメチル錫トリス(1,2−エタンジチオグリコレート)、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジメルカプトプロピオネート)、モノメチル錫トリス(1,2−エタンジメルカプトプロピオネート)、及びそれらの混合物が含まれる。
【0008】
当業者は、本発明のアルキル錫化合物は、幾つかの合成経路により製造できることを認めるであろう。好ましい態様として、これらのアルキル錫化合物は、容易に入手できる反応物を用いた二つの反応手順を用いて合成するのが便利であろう。第一に、エチレングリコールをチオ酸で、1:2のモル比で、適当な触媒を存在させてエステル化することによりジチオールエステルを製造する。僅かに過剰(3〜5%)のチオグリコール酸を用いるのが好ましい。適当なチオ酸には、メルカプト酢酸及びメルカプトプロピオン酸が含まれる。適当な触媒には、p−トルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0009】
エステル化反応は、溶媒を用いて又は用いずに、例えば、130〜150℃の適当な温度で行うことができる。反応中に形成された水は慣用的方法により除去する。
【0010】
得られたジチオールエステルは、炭酸水素ナトリウム又は炭酸カリウムのような適当な塩基で中和し、塩残滓を濾過し、真空中でストリップして湿分を除去し、好ましくは、例えば、60〜80℃のような上昇させた温度で行なうことにより精製することができる。
【0011】
合成の第二段階では、ジチオールエステルを適当な錫含有反応物、例えば、アルキル錫塩化物又はアルキル錫酸化物と、次のモル比で反応させる:ジアルキル錫誘導体の場合、S:Sn>1.5、モノアルキル錫誘導体の場合、S:Sn>1.0。このようにして得られたアルキル錫化合物は、Sn−S結合と遊離末端チオール基との両方を含む
【0012】
本発明のアルキル錫化合物は、ハロゲン含有樹脂に優れた熱安定性を与える。そのような樹脂には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ臭化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体、塩化ビニルと塩化ビニリデンとの共重合体、塩化ビニルとアクリロニトリルとの共重合体、塩化ビニルとマレイン酸又はフマール酸エステルとの共重合体、及び塩化ビニルとスチレンとの共重合体が含まれる。
【0013】
アルキル錫化合物の有効量は、ハロゲン含有樹脂を、樹脂そのものよりも変色に対し一層抵抗性のあるものにする量である。一般に、有効量は、樹脂100部当たり安定化剤0.5〜1.50部の範囲にあり、希望する熱安定化度と同様、特定の樹脂及びアルキル錫化合物に依存するであろう。アルキル錫化合物の好ましい量は、樹脂100部当たり安定化剤0.8〜1.2部である。
【0014】
アルキル錫化合物は、当業者によく知られている技術及び装置を用いて、ハロゲン含有樹脂に添加することができる。一般に樹脂は、高速混合機で30〜90秒間安定化剤と混合し、樹脂全体に亙ってアルキル錫化合物を完全に分散させるようにすることができる。
【0015】
ハロゲン含有樹脂は、既知の添加剤を、それらの存在が本発明のアルキル錫化合物によって付与される熱安定性を実質的に劣化しないかぎり、含有していてもよい。そのような添加剤には、潤滑剤、充填剤、顔料、難燃材、UV吸収剤、衝撃緩和剤、及び処理助剤が含まれるが、それらに限定されるものではない。これらの添加剤は、当業者によく知られている技術及び装置を用いて、樹脂に添加することができる。
【0016】
適当な潤滑剤には、ステアリン酸カルシウム、モンタン(montan)ワックス、脂肪酸エステル、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素、グリセロールエステル、及びそれらの混合物が含まれる。
【0017】
適当な充填剤には、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、ガラスビーズ、ガラス繊維、タルク、木粉、及びそれらの混合物が含まれる。
【0018】
適当な顔料には、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、及びアントラキノン顔料が含まれる。
【0019】
適当な難燃材には、酸化アンチモン、モリブデン酸塩、硼酸塩、及びヒドロキシ錫酸塩が含まれる。
【実施例】
【0020】
次の実施例は、本発明の特定の態様の実施及び利点を例示する。それら実施例は、如何なることにせよ本発明を限定するものではない。
【0021】
(例1)
ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)の合成
62gのエチレングリコールを191.2gのチオグリコール酸(TGA)と、1gのp−トルエンスルホン酸(p−TSA)を存在させて110〜150℃で反応させた。5時間に亙って34gの水を収集した(理論水、36g)。バッチを5gのKCOで中和し、濾過して透明な生成物214gを得た。中和後、酸価は0.051m当量/gであった。沃素滴定によるメルカプタン値は、28.74%であった。ガスクロマトグラフィー分析は、エチレングリコールは無く、12.6%のモノ−チオグリコレート及び80%のジ−チオグリコレートを示していた。
【0022】
100.7gのジ−チオグリコレート(1,2−エタンジチオグリコレート)を、150mlの水に溶解した50.13gの二塩化ジメチル錫と反応させた。反応混合物のpHを、水酸化アンモニウム溶液を用いて6.5に中和した。粗製生成物を水性相から分離し、ブッヒ・ロトベイパー(Buchi Rotovapor)R−134蒸発器を用いて80℃及び2〜5mmHgで2時間ストリップした。生成物を熱間濾過し、微量の残留塩を除去し、104gの透明な生成物を得た。分析:硫黄実測値22.34%、計算値22.62%;錫実測値20.75%、計算値20.85%。
【0023】
1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノールから夫々調製され、同様なやり方で調製した対応するジメチル錫スルファニルメルカプトカルボキシレートを対照として用いた。
【0024】
(例2)
着色安定性の判定
例1の安定化剤、(エチレングリコールよりも)大きな分子量を有するジオールから誘導された対照安定化剤、及びジメチル錫−ビス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)〔マルク(Mark)1982〕、ジブチル錫−ビス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)(マルク292S)、及びモノメチル錫−トリス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)とジメチル錫−ビス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)との混合物(マルク1900)のような市販のアルキル錫安定化剤を用いて固いPVC配合物を調製した。配合物中の錫含有量は、全ての試料で同じにした。夫々のPVC化合物試験試料を、ブラベンダー(brabender)混合機に入れ、190℃及び65rpmで操作した。試料チップを3分毎に取った。溶融時間は、全ての試料でほぼ同じにした。
【0025】
着色安定性を、黄色度指数(YI)(YIが低いほど、熱分解の結果としての変色が少ないことを意味し、従って、熱安定化が優れていることを意味する)を測定するハンター・ラブ(Hunter Lab)色度計を用いて、試料チップから決定した。表1及び図1参照。
【0026】
【表1】

【0027】
注:「1,3−プロパンジオール誘導体」は、ジメチルビス(1,3−プロパンジチオグリコレート)であり;「1,4−CHDM誘導体」は、ジメチル錫ビス(1,4−シクロヘキサンジチオグリコレート)であり;「EG誘導体」は、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)であり;「1,4−BG誘導体」は、ジメチル錫ビス(1,4−ブタンジチオグリコレート)である。
【0028】
「初期着色保持性」とは、ブラベンダー着色安定性試験の最初の3〜10分間の耐黄色化性を意味する。モノアルキル錫安定化剤は、優れた初期着色保持性を与えることが知られている。
【0029】
「長期熱安定性」とは、ブラベンダー着色安定性試験で10分より長い時間での試料の耐黄色化性を意味する。ジアルキル錫安定化剤は、優れた長期熱安定性を与えることが知られている。
【0030】
モノアルキル錫部分とジアルキル錫部分との混合物は、初期着色保持性と長期熱安定性との両方の最も効果的なバランスを与える。そのような混合物の一つは、モノメチル錫トリス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)とジメチル錫ビス(2−エチルヘキシルチオグリコレート)との混合物であり、それはクロンプトン社(Crompton Corporation)から商標名マルク1900として市販されている。
【0031】
同じ錫含有量にして添加した本発明のジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)安定化剤は、黄色度指数により測定して、マルク1900混合物の初期着色安定性と同様な初期着色安定性を達成している(ブラベンダー試験での3〜約10分;表1及び図1参照)。換言すれば、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)安定化剤は、その組成物中にモノアルキル錫部分が存在しないにも拘わらず、初期着色安定化に対し予想外に効果的であった。
【0032】
ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)安定化剤は、ブラベンダー着色安定性試験で10〜15分間の黄色度指数曲線により実証されているように、マルク1900混合物と比較して、優れた長期熱安定性も示していた。
【0033】
本発明を好ましい形態に関して詳細に記述してきたが、多くの変化及び変更が可能であり、前記説明を読むことにより当業者には明らかになるであろう。従って、本発明は、茲に特別に記述したもの以外の仕方で、本発明の本質及び範囲から離れることなく実施することができることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、熱安定性試験中、種々の時間で取った試料チップの黄色度指数のグラフである。このグラフは、新規な錫安定化剤を含有する固いPVC配合物の改良された色安定性を、同じ錫レベルで存在する他の有機錫化合物を含有する対照配合物と比較できるように例示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式1を有するアルキル錫化合物:
R-Sn-[-S-(CH)-COO-CH-CH-OOC-(CH)-SH]4−x
(式中、Rは、C1−3アルキル基であり、
xは、1又は2に等しく、
yは、1又は2に等しい)。
【請求項2】
Rがメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
化合物が、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジチオグリコレート)、モノメチル錫トリス(1,2−エタンジチオグリコレート)、ジメチル錫ビス(1,2−エタンジメルカプトプロピオネート)、モノメチル錫トリス(1,2−エタンジメルカプトプロピオネート)、及びそれらの混合物からなる群から選択されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
ハロゲン含有樹脂及び上昇させた温度に対し樹脂を安定化するのに有効な量の請求項1に記載のアルキル錫化合物を含む組成物。
【請求項5】
ハロゲン含有樹脂が、ポリ塩化ビニル、ポリ臭化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体、塩化ビニルと塩化ビニリデンとの共重合体、塩化ビニルとアクリロニトリルとの共重合体、塩化ビニルとマレイン酸又はフマール酸エステルとの共重合体、及び塩化ビニルとスチレンとの共重合体からなる群の中の一つである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
有効な量が、樹脂100部当たり安定化剤0.5〜1.50部の範囲内にある、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
範囲が、樹脂100部当たり安定化剤0.8〜1.2部である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
更に、潤滑剤、充填剤、顔料、難燃材、UV吸収剤、衝撃緩和剤、及び処理助剤からなる群から選択された少なくとも一種類の添加剤を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
潤滑剤が、ステアリン酸カルシウム、モンタンワックス、脂肪酸エステル、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素、グリセロールエステル、及びそれらの組合せからなる群から選択されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
充填剤が、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、ガラスビーズ、ガラス繊維、タルク、木粉、及びそれらの混合物からなる群から選択されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
顔料が、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、及びアントラキノン顔料からなる群から選択されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
難燃材が、酸化アンチモン、モリブデン酸塩、硼酸塩、及びヒドロキシ錫酸塩からなる群から選択されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のアルキル錫化合物の製造方法において、
i) エチレングリコールをチオ酸で、1:2のモル比で、適当な触媒を存在させてエステル化し、ジチオールエステルを生成させ;そして
ii) 前記ジチオールエステルを錫含有反応物と、次のモル比:ジアルキル錫誘導体の場合、S:Sn>1.5、モノアルキル錫誘導体の場合、S:Sn>1.0;で反応させる;
ことを含む製造方法。
【請求項14】
錫含有反応物が、アルキル錫塩化物、又はアルキル錫酸化物である、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−540736(P2008−540736A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510075(P2008−510075)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/016310
【国際公開番号】WO2006/121647
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】