説明

本革材及び自動車の内装品

【課題】風合がよく、且つ塗料を塗装してなる塗膜層の密着性もよい、床革からなる本革材、及びこの本革材を表皮に用いた自動車の内装品を提供する。
【解決手段】床革からなる基層11と、基層11上に厚さが30〜50μmである脂肪族イソシアネートを用いたポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂等の熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着してなる目止め層12と、目止め層12上にウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層13とを有することを特徴とする本革材10を表皮に用いた自動車の内装品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本革材及び本革材を表皮に用いた自動車の内装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の内装品の表皮に用いられる本革材としては、表皮層を有する革の表面(銀面)に直にウレタン系等の塗料を塗装して、耐摩耗性、耐光性、触感性等の性能を向上させ、これらの製品に要求される性能を満たすようにしたものが用いられている。
ところで、本革には、表皮層を有する革の他に、革の厚さ等を調整するために、革を水平方向に割くことがあり、このときに生じる裏側の革(表皮層を有さない革)として、床革等がある。
【0003】
しかし、この床革は、表皮層を有する革に比べ、安価ではあるものの、表皮層のように革を構成する繊維が緻密ではなく、その繊維の密度が低い上に、表面がポーラス状であることから、表皮層を有する革のように、表面に直にウレタン系等の塗料を塗装してしまうと、塗料が革の内部に浸透してしまい、耐摩耗性等の性能を向上することができないばかりか、風合いも損なうこととなってしまっていた。
【0004】
なお、特許文献1、2には、銀面に似せて形成したポリウレタン樹脂からなる表皮層をポリウレタン樹脂等の接着剤を用いて床革の表面に接着した、いわゆるスプリットレザーが記載されている。しかし、このようなスプリットレザーは、表面がポーラス状である床革に接着剤で表皮層を接着していることから、使用時等の摩擦により表皮層が剥離してしまうおそれがあり、自動車の内装品の表皮に用いるには不向きであった。
また、特許文献3には、補強用布地を床革に接着するために、塩化ビニル樹脂からなる熱可塑性フィルムによる熱圧着を用いた複合材料が記載されている。しかし、この複合材料の表面を塗装して、自動車の内装品の表皮に用いられる本革材とするには、塗膜との密着性、目止め効果(塗料の浸透防止性)及び耐摩耗性等の点で不十分であった。
【特許文献1】特開昭62−135600号公報
【特許文献2】特開平7−242900号公報
【特許文献3】特開平3−26537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、風合がよく、且つ塗料を塗装してなる塗膜層の密着性もよい、床革からなる本革材、及びこの本革材を表皮に用いた自動車の内装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の本革材は、床革からなる基層と、
前記基層上に厚さが20〜60μmである熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着してなる目止め層と、
前記目止め層上にウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層とを有することを特徴としている。
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の自動車の内装品は、上記本革材を表皮に用いている。
【0008】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0009】
1.床革
本革を水平方向に割く等して、表皮層が取り除かれた本革である床革としては、特に限定はされないが、厚さが0.8〜3.0mmであることが好ましい。また、表皮に用いられた自動車の内装品等が佳麗になることから、少なくとも目止め層が設けられる面は、バフ研磨等により平滑になっていることが好ましい。
また、床革になる皮革としては、特に限定はされないが、牛革、馬革、豚革等が例示できる。
また、床革からなる基層は、一枚の床革からなるものでもよいし、複数枚の床革を重ねてなるものでもよい。
【0010】
2.熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルム
熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの厚さが、20μm未満では塗装されるウレタン系塗料が基層中に浸透することを防ぐ目止め効果が弱くなり、60μmを超えると本革材の風合いが悪くなる。好ましくは、25〜55μmであり、より好ましくは、30〜50μmである。
熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着するための条件としては、用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの種類(厚さ、素材等)によって異なり、特に限定はされないが、120℃の温度にて4.9MPaの圧力で20秒間圧着する条件等が例示できる。
また、用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂(フィルムの素材)としては、特に限定はされないが、イソシアネート成分として脂肪族イソシアネートを用いたポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂、同じく脂肪族イソシアネートを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂、イソシアネート成分として芳香族イソシアネートを用いたポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂、同じく芳香族イソシアネートを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂等が例示できる。また、これらの樹脂の融点としては、特に限定はされないが、80〜150℃であることが好ましい。
【0011】
3.ウレタン系塗料
ウレタン系塗料としては、特に限定はされないが、ポリエステル系ウレタン塗料、アクリル系ウレタン塗料、ポリカーボネート系ウレタン塗料等が例示できる。また、塗膜の形成に硬化剤を用いない、いわゆる一液型のものでもよいし、塗膜の形成にイソシアネート成分等の硬化剤を用いる、いわゆる二液型のものでもよい。
イソシアネート成分としては、特に限定はされないが、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族、脂環族イソシアネートや、2、4−トリレンジイソシアネート(2、4−TDI)、2、6−トリレンジイソシアネート(2、6−TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1、5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族イソシアネートが例示できる。
ウレタン系塗料の塗装方法としては、特に限定はされないが、スプレー塗装、ロールコーター塗装等が例示できる。
また、ウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層の膜厚としては、特に限定はされないが、10〜200μmであることが好ましい。
【0012】
4.本革材の用途
本革材の用途としては、特に限定はされないが、椅子等の家具や自動車の内装品等の表皮が例示できる。
【0013】
5.自動車の内装品
自動車の内装品としては、特に限定はされないが、ステアリングホイール、シートクッション、コンソールアームレスト、アシストグリップ、シフトノブ、インストゥルメントパネル等が例示できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風合がよく、且つ塗料を塗装してなる塗膜層の密着性もよい、床革からなる本革材を提供することができる。また、この本革材を表皮に用いた自動車の内装品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
床革からなる基層と、基層上に厚さが30〜50μmである熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着してなる目止め層と、目止め層上にウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層とを有することを特徴とする本革材を表皮に用いた自動車の内装品。
【実施例】
【0016】
本実施例の本革材10は、自動車のステアリングホイール等の表皮等に用いられ、図1に示すように、床革からなる基層11と、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着してなる目止め層12と、ウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層13とを有する。
【0017】
そこで、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの種類(素材又は厚さ)を変更した5種類の実施例と、熱可塑性樹脂フィルムを用いないもの、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの厚さを変更したもの、及び、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの代わりにポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム又はポリアミド樹脂フィルムを用いたものの5種類の比較例の性能(目止め効果、密着性、耐摩耗性及び剛軟度)についての評価結果を次の表1に示す。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムの素材としては、イソシアネート成分として脂肪族イソシアネートを用いたポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である熱可塑性ポリウレタン樹脂1、同じく脂肪族イソシアネートを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である熱可塑性ポリウレタン樹脂2、イソシアネート成分として芳香族イソシアネートを用いたポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である熱可塑性ポリウレタン樹脂3、同じく芳香族イソシアネートを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である熱可塑性ポリウレタン樹脂4の4種類であり、フィルム素材の欄におけるμm単位の値は、目止め層の形成に使用したフィルムの厚さである。
【0018】
【表1】

【0019】
各実施例及び比較例の本革材(試料)は、次のようにして作成した。
表面がバフ研磨された牛革からなる、厚さが2mmの床革の表面に、各フィルムをプレス温度120℃、プレス圧力4.9MPa、プレス時間20秒間の条件で溶融圧着して、目止め層を形成した。その後、目止め層の表面にポリエステル系ウレタン塗料をスプレー塗装して、膜厚が50μmの塗膜層を形成した。
なお、比較例1については、目止め層を形成することなく、床革の表面に直にポリエステル系ウレタン塗料をスプレー塗装して、膜厚が50μmの塗膜層を形成した。
【0020】
本発明の実施例及び比較例のそれぞれの性能の評価は以下のようにして行った。
【0021】
(1)目止め効果
塗装を行う前の各試料(床革に各フィルムを溶融圧着したもの)の断面の状態を顕微鏡にて観察し、評価した。
樹脂フィルムの樹脂が床革中に浸透してしまい、目止め層に亀裂や孔等の欠部がある状態、すなわち基層(床革)が目止め層で被覆されていない部位がある状態を×とし、目止め層に欠部がない状態、すなわち基層が目止め層で被覆されている状態を○と評価した。
【0022】
(2)密着性
各試料の塗膜層にカッターナイフで互いに交差する二本の切り込みを入れ、その交差する部位を含むように塗膜層の表面にセロファン粘着テープを貼着した後、その貼着されたセロファン粘着テープを剥がして塗膜層の剥離の有無を調べ、評価した。
塗膜層の剥離がない場合を○とし、塗膜層の剥離がある場合を×と評価した。
【0023】
(3)耐摩耗性
テーバー摩耗試験機を用い、摩耗輪CS#10、荷重9.8N、回転数60rpmの条件で評価した。
2000回転以上の回転を続けても、摩滅等の外観異常が生じない場合を○とし、2000回転未満の回転で摩滅等の外観異常が生じた場合を×と評価した。
【0024】
(4)剛軟度
本革材の風合い(感触)を、Softness Tester(ソフトネステスター:MSA Engineering Systems(エムエスエイエンジニアリングシステムス)社製)を用いて、剛軟度として測定した。
Softness Testerの値が3以上のものを○とし、この値が3未満のものを×と評価した。
【0025】
以上の結果より、厚さが30〜50μmの熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを目止め層の形成に用いた本実施例は、目止め層を有さない比較例1、目止め層の形成に薄い(10μm)熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを用いた比較例2及び目止め層の形成にポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いた比較例4と違い、目止め層の目止め効果により、塗膜層を形成するために塗装されたポリエステル系ウレタン塗料が基層中に浸透することがなかった。
また、本実施例は、比較例4と違い、剥離がなく塗膜層の密着性に優れていた。
さらに、本実施例は、比較例1、比較例2、比較例4及び目止め層の形成にポリアミド樹脂フィルムを用いた比較例5と違い、自動車の内装品の表皮に求められる耐摩耗性を確保することができた。
その上、本実施例は、目止め効果が悪い比較例1、比較例2、比較例4及び目止め層の形成に厚い(100μm)熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを用いた比較例3と違い、軟らかく、風合いも良好であった。
【0026】
厚さが30〜50μmの熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを目止め層の形成に用いた本実施例は、自動車の内装品の表皮に用いることができた。
また、床革を用いたことにより、コストを下げることができた。
さらに、溶融圧着された熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを目止め層に用いたことにより、製造工程の無溶剤化が可能となり、溶剤の揮発による環境への影響がなく、乾燥等の工程がない非加熱による工程の簡略化が図れた。
【0027】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施例の本革材の断面の模式図である。
【符号の説明】
【0029】
10 本革材
11 基層
12 目止め層
13 塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床革からなる基層と、
前記基層上に厚さが20〜60μmである熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルムを溶融圧着してなる目止め層と、
前記目止め層上にウレタン系塗料を塗装してなる塗膜層とを有することを特徴とする本革材。
【請求項2】
請求項1記載の本革材を表皮に用いた自動車の内装品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−82956(P2010−82956A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253953(P2008−253953)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】