説明

材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】540MPa以上の引張強度TSを有し、かつ、材質安定性と加工性、およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.008%以下を含有する鋼板に対し、O:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%の雰囲気中で400〜750℃に加熱し、次いでO:0.01〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%の雰囲気中で600〜850℃に加熱する第1加熱工程を施し、次いでH:1〜50vol%で露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃で15〜600s保持し、450〜550℃の温度域に冷却した後、その温度で10〜200s保持する第2加熱工程を施した後、溶融亜鉛めっき処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電気等の産業分野で使用される部材として好適な材質安定性、加工性に優れ、さらにめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。これに伴い、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。
【0003】
しかしながら、鋼板の高強度化は延性の低下、すなわち成形加工性の低下を招く。このため、高強度と高加工性を兼備した材料の開発が望まれている。
【0004】
また、高強度鋼板を自動車部品のような複雑な形状へ成形加工する際には、張出し部位や伸びフランジ部位で割れやネッキングの発生が大きな問題となる。そのため、割れやネッキングの発生の問題を克服できる高延性と高穴拡げ性を両立した高強度鋼板も必要とされている。
【0005】
さらに、鋼板の高強度化、薄肉化により形状凍結性は著しく低下する。これに対応するため、プレス成形時に、離型後の形状変化を予め予測し、形状変化量を見込んで型を設計することが広く行われているが、鋼板の引張強度(TS)が変化すると、これらを一定とした見込み量からのズレが大きくなり、形状不良が発生し、プレス成形後に一個一個形状を板金加工する等の手直しが不可欠となり、量産効率を著しく低下させる。したがって、鋼板のTSのバラツキは可能な限り小さくすることが要求されている。
【0006】
高強度鋼板の成形性向上に対しては、これまでにフェライト−マルテンサイト二相鋼(Dual−Phase鋼)や残留オーステナイトの変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity)を利用したTRIP鋼など、種々の複合組織型高強度溶融亜鉛めっき鋼板が開発されてきた。
【0007】
例えば、特許文献1では、化学成分組成を特定の範囲に規定するとともに、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの体積率、および、製造条件を規定した、延性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。また、特許文献2では、化学成分組成を特定の範囲に規定するとともに、特殊な製造条件を規定した、延性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。特許文献3では、化学成分組成を特定の範囲に規定するとともに、フェライトとベイニティックフェライトと残留オーステナイトの体積率を特定の範囲に規定した、延性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。また、特許文献4では、フェライト、ベイナイトおよび3%以上の残留オーステナイトを有し、板幅方向における伸びのバラツキが改善された高強度冷延鋼板の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−140022号公報
【特許文献2】特開平04−026744号公報
【特許文献3】特開2007−182625号公報
【特許文献4】特開2000−212684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3では、高強度薄鋼板の延性を向上させることを主目的としており、穴拡げ性については考慮されていない。また、特許文献4では、板幅方向における全伸びELのバラツキにのみ述べており、成分組成や製造条件による材質のバラツキについては考慮されていない。このように、いずれの技術においても、高延性と高穴拡げ性を兼ね備え、かつ、材質安定性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板は未だ得られていない。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、540MPa以上の引張強度TSを有し、かつ、材質安定性と加工性(高延性と高穴拡げ性)に優れ、さらにめっき外観にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、540MPa以上の引張強度(TS)を有し、かつ、材質安定性と加工性(高延性と高穴拡げ性)およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得るべく鋭意検討を重ねたところ、以下のことを知見した。
【0012】
・Siを積極添加してその含有量を所定量以上とすることにより、フェライトの加工硬化能向上による延性の向上と、フェライトの固溶強化による強度確保および第二相との硬度差緩和による穴拡げ性の向上が可能となる。
・ベイニティックフェライトやパーライトの活用により、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトの硬度差を緩和でき、穴拡げ性の向上が可能となる。
・最終組織に硬質なマルテンサイトが多く存在すると軟質なフェライト相の異相界面で大きな硬度差が生じ、穴拡げ性が低下するため、最終的にマルテンサイトに変態する未変態オーステナイトをパーライト化し、フェライト、ベイニティックフェライト、パーライト、少量のマルテンサイトを有する組織を造り込むことで、高延性を維持したままで、穴拡げ性の向上が可能となり、さらに、上記各相の面積率を適正に制御することにより、材質安定性の確保が可能となる。
【0013】
一方で、Siを含有させるとめっき外観は劣化することが分かっている。通常、溶融亜鉛めっき鋼板は還元雰囲気中で熱処理を行った後、溶融亜鉛めっき処理を施す。ここで、鋼中に添加されたSiは易酸化性元素であるため、一般的に用いられる還元雰囲気中でも選択酸化されて、表面に濃化し酸化物を形成する。この酸化物はめっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Si濃度の増加と共に濡れ性が急激に低下し不めっきが多発する。
【0014】
このような問題に対して、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後、還元焼鈍を行うことにより、溶融亜鉛との濡れ性を改善することができる。しかし一方で、還元焼鈍の初期段階で鋼板表面から剥離した酸化鉄がロールに付着し、表面の押し疵の原因となることがある。このような鋼板表面からの酸化鉄の剥離の問題を解消すべく検討した結果、酸化鉄を形成した後に微酸化性雰囲気で鋼板を加熱して酸化鉄の最表面を還元することで、酸化鉄の剥離が抑制されることを知見した。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0016】
(1)質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対し、前段においてO:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中でその温度が400〜750℃の範囲内になるように加熱し、後段においてO:0.01〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%を含有する雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第1加熱工程を施し、次いで、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の温度域で15〜600s保持し、450〜550℃の温度域に冷却した後、該450〜550℃の温度域で10〜200s保持する第2加熱工程を施した後、溶融亜鉛めっき処理を施し、面積率で、75%以上のフェライト相と、1.0%以上のベイニティックフェライト相と、1.0%以上10.0%以下のパーライト相を有し、さらに、マルテンサイト相の面積率が1.0%以上5.0%未満で、かつ、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たす溶融亜鉛めっき鋼板を得ることを特徴とする、材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
(2)前記鋼板は、さらに、質量%で、Cr:1.0%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0018】
(3)前記鋼板は、さらに、質量%で、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0019】
(4)前記鋼板は、さらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(5)前記第1加熱工程前段は直火炉または無酸化炉により、空気比が1以上1.3以下の条件で行い、前記第1加熱工程後段は直火炉または無酸化炉により、空気比が0.6以上1未満の条件で行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(6)前記溶融亜鉛めっき処理後に、500〜600℃の温度域において下式を満たす条件で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
0.45≦exp[200/(400−T)]×ln(t)≦1.0
ただし、
T:500〜600℃の温度域での平均保持温度(℃)
t:500〜600℃の温度域の保持時間(s)
exp(X)、ln(X)は、それぞれXの指数関数、自然対数を示す。
【0022】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。また、本発明において、「高強度溶融亜鉛めっき鋼板」とは、引張強度TSが540MPa以上である溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0023】
また、本発明においては、合金化処理を施す、施さないにかかわらず、溶融亜鉛めっきによって鋼板上に亜鉛をめっきした鋼板を総称して溶融亜鉛めっき鋼板と呼称する。すなわち、本発明における溶融亜鉛めっき鋼板とは、合金化処理を施してない溶融亜鉛めっき鋼板、合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の両方を含むものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、540MPa以上の引張強度TSを有し、かつ、高延性と高穴拡げ性であることから加工性および材質安定性に優れ、さらにめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することにより車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】焼鈍温度(T)とTSの関係を示す図である。
【図2】焼鈍温度(T)とELの関係を示す図である。
【図3】冷却平均保持温度(T)とTSの関係を示す図である。
【図4】冷却平均保持温度(T)とELの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1)まず、成分組成について説明する。
【0027】
(a)C:0.04%以上0.13%以下
Cはオーステナイト生成元素であり、鋼の強化に不可欠な元素である。C含有量が0.04%未満では、所望の強度確保が難しい。一方、C含有量が0.13%を超えると、溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が劣化するため、スポット溶接性、アーク溶接性等が低下する。よって、C含有量は0.04%以上0.13%以下とする。
【0028】
(b)Si:0.7%以上2.3%以下
Siはフェライト生成元素であり、また、固溶強化に有効な元素でもある。そして、フェライト相の加工硬化能向上による良好な延性確保のためにはSiを0.7%以上含有させることが必要である。さらに、所望のベイニティックフェライト相の面積率を確保し、良好な穴拡げ性を確保するためにも0.7%以上含有させることが必要である。しかしながら、Siを過剰に含有させると、赤スケール等の発生により表面性状の劣化や、めっき付着・密着性の劣化を引き起こす。よって、Si含有量は0.7%以上2.3%以下とする。好ましくは、1.2%以上1.8%以下である。
【0029】
(c)Mn:0.8%以上2.0%以下
Mnは、鋼の強化に有効な元素である。また、オーステナイトを安定化させる元素であり、第二相の分率調整に必要な元素である。このため、Mnは0.8%以上含有させる必要がある。一方、2.0%を超えて過剰に含有させると、第二相中のマルテンサイト面積率が増加し、材質安定性の確保が困難となる。また、近年Mnの合金コストが高騰しているため、コストアップの要因にも繋がる。したがって、Mn含有量は0.8%以上2.0%以下とする。好ましくは1.0%以上1.8%以下である。
【0030】
(d)P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に含有させると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。また、含有量が0.1%を超えると合金化速度を大幅に遅延させる。したがって、P含有量は0.1%以下とする。
【0031】
(e)S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので、その含有量は極力低い方がよいが、製造コストの面からS含有量を0.01%以下とする。
【0032】
(f)Al:0.1%以下
Alは、その含有量が0.1%を超えると、粗大なAlが生成し、材質が劣化する。このため、Al含有量を0.1%以下とする。また、Alは鋼の脱酸のために添加される場合、その含有量が0.01%未満ではMnやSiなどの粗大な酸化物が鋼中に多数分散して材質が劣化することになるため、含有量を0.01%以上とするのが好ましい。したがって、Al含有量の好ましい範囲は、0.01〜0.1%である。
【0033】
(g)N:0.008%以下
Nは、鋼の耐時効性を最も大きく劣化させる元素であり、少ないほど好ましく、その含有量が0.008%を超えると耐時効性の劣化が顕著となる。したがって、N含有量は0.008%以下とする。
【0034】
残部はFeおよび不可避的不純物である。ただし、これらの元素に加えて、以下の元素のうちから選ばれる少なくとも1種を必要に応じて添加することができる。
【0035】
(h)Cr:1.0%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
Cr、V、Moは強度と延性のバランスを向上させる作用を有するので必要に応じて添加することができる。しかしながら、それぞれCr:1.0%、V:0.5%、Mo:0.5%を超えて過剰に添加すると、第二相の分率が過大となり著しい強度上昇等の懸念が生じる。また、コストアップの要因にもなる。従って、これらの元素を添加する場合には、その量をそれぞれCr:1.0%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下とする。上記効果を有効に発揮させるためには、Cr:0.05%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上であることが好ましい。
【0036】
Ni、Cuは鋼の強化に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。また内部酸化を促進してめっき密着性を向上させる作用がある。しかし、Ni、Cuとも1.0%を超えて含有させると、鋼板の加工性を低下させる。また、コストアップの要因にもなる。よって、Ni、Cuを添加する場合に、その含有量はそれぞれ1.0%以下とする。また、上記効果を有効に発揮するためには、Ni、Cuの含有量は、それぞれ0.05%以上であることが好ましい。
【0037】
(i)Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
Ti、Nbは鋼の析出強化に有効な元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、それぞれの含有量が0.1%を超えると加工性および形状凍結性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。したがって、Ti、Nbを添加する場合には、その含有量を、それぞれ0.1%以下とする。また、上記効果を有効に発揮するためには、Ti、Nbの含有量はそれぞれ0.01%以上であることが好ましい。
【0038】
Bはオーステナイト粒界からのフェライトの生成・成長を抑制する作用を有するので必要に応じて添加することができる。しかし、0.0050%を超えると加工性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。したがって、Bを添加する場合には、その含有量を0.0050%以下とする。また、上記効果を有効に発揮するためには、その含有量は0.0003%以上であることが好ましい。
【0039】
(j)Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化し穴拡げ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。しかしながら、過剰に含有させると、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。したがって、Ca、REMを添加する場合は、その含有量はそれぞれ0.005%以下とする。また、上記効果を有効に発揮するためには、その含有量はそれぞれ0.001%以上であることが好ましい。
【0040】
(2)次に鋼組織について説明する。
(a)フェライト相の面積率:75%以上
良好な延性を確保するためには、フェライト相は面積率で75%以上必要である。
【0041】
(b)ベイニティックフェライト相の面積率:1.0%以上
良好な穴拡げ性の確保のためには、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトの硬度差を緩和させることが必要であり、そのために、ベイニティックフェライト相が面積率で1.0%以上必要である。
【0042】
(c)パーライト相の面積率:1.0%以上10.0%以下
良好な穴拡げ性の確保のため、パーライト相の面積率は1.0%以上とする。所望の強度−延性バランスを確保するため、パーライト相の面積率を10.0%以下とする。
【0043】
(d)マルテンサイト相の面積率:1.0%以上5.0%未満
所望の強度−延性バランスを確保するため、マルテンサイト相の面積率は1.0%以上とする。良好な材質安定性を確保するために、引張特性(TS、EL)に大きく影響を及ぼすマルテンサイト相の面積率は5.0%未満である必要がある。
【0044】
(e)マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6
良好な材質安定性を確保するために、第二相の相構成を、材質バラツキの要因となるマルテンサイトの量を低減し、マルテンサイトより軟質なベイニティックフェライトやパーライトの量を多くすること、つまり、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たす必要がある。
【0045】
なお、フェライト、ベイニティックフェライト、パーライト、マルテンサイト以外に、残留オーステナイトや、焼戻しマルテンサイトや、セメンタイト等の炭化物が生成する場合があるが、上記のフェライト、ベイニティックフェライト、パーライト、マルテンサイトの面積率が満足されていれば、本発明の目的を達成することができる。
【0046】
また、本発明におけるフェライト、ベイニティックフェライト、パーライト、マルテンサイトの面積率とは、観察面積に占める各相の面積割合のことである。
【0047】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記成分組成と上記鋼組織を有する鋼板を下地鋼板とし、その上に溶融亜鉛めっきによるめっき皮膜、または溶融亜鉛めっき後に合金化処理を施しためっき皮膜を有する。
【0048】
(3)次に製造条件について説明する。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記の成分組成範囲に適合した成分組成を有する鋼から得られた鋼板に対し、以下に説明する2工程の加熱処理を行い、その後溶融亜鉛めっきを施すこと、または溶融亜鉛めっきを施した後に合金化処理を施すことにより製造する。
【0049】
(a)鋼板の製造
上記の成分組成を有する鋼を、公知の方法により、溶製した後、分塊または連続鋳造を経てスラブとし、熱間圧延して熱延板にする。熱間圧延を行うに際しては、スラブを1100〜1300℃に加熱し、最終仕上げ温度を850℃以上で熱間圧延を施し、400〜650℃で鋼帯に巻き取ることが好ましい。巻き取り温度が650℃を超えた場合、熱延板中の炭化物が粗大化し、このような粗大化した炭化物は焼鈍時の均熱中に溶けきらないため、必要強度を得ることができない場合がある。その後、公知の方法で酸洗処理を行う。このようにして得られた熱延鋼板を上記鋼板として用いてもよいし、酸洗を行った後の熱延鋼板に対し、さらに冷間圧延を行った後の冷延鋼板を上記鋼板として用いてもよい。冷間圧延を行うに際しては、特にその条件を限定する必要はないが、30%以上の冷間圧下率で冷間圧延を施すことが好ましい。冷間圧下率が低いと、フェライトの再結晶が促進されず、未再結晶フェライトが残存し、延性と穴拡げ性が低下する場合があるためである。
【0050】
(b)加熱処理
(i)第1加熱工程
第1加熱工程は、前段において、O:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜750℃の範囲内の温度になるように加熱し、後段において、O:0.01〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%を含有する雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する。
【0051】
・第1加熱工程前段
第1加熱工程前段は鋼板を酸化させるために行うものであり、Oは酸化を行うのに十分な量が必要であるため0.1vol%以上とする。また、経済的な理由から大気レベルの20vol%以下が好ましい。HOは酸化を促進するために1vol%以上とする。また、加湿コストを考慮すると50vol%以下が好ましい。前段工程で加熱後の温度が400℃未満では酸化しにくく、750℃を超えると酸化しすぎて第2加熱工程内のロールで酸化鉄が剥離するので、前段では、鋼板温度が400℃以上750℃以下となるように加熱する。
【0052】
・第1加熱工程後段
第1加熱工程後段は一旦酸化された鋼板表面を還元処理し、押し疵を抑制するために行う。そのため後段の加熱では鋼板表面を還元処理することが可能で、かつ、酸化鉄の剥離が起こらない条件、すなわち低酸素濃度雰囲気で低温還元加熱の条件で加熱を行い、前段で一旦酸化された鋼板表面を、次の第2加熱工程内で酸化鉄の剥離が起こらない程度まで還元処理する。この際にOが0.1vol%以上では還元できないのでOは0.1vol%未満とする。ただし、0.01vol%以上とすることが必要である。HOは多量に含まれると鋼板が酸化されるので20vol%以下とする。ただし、1vol%以上は必要である。鋼板温度が、600℃未満では還元しにくく、850℃を超えると加熱コストがかかるため、後段では鋼板温度が600℃以上850℃以下の範囲内の温度となるように加熱する。
【0053】
前段加熱を直火炉(DFF)または無酸化炉(NOF)により行う場合、燃焼ガスはコークス炉で発生するCガスを用い、空気比が1以上1.3以下の条件で行うことが好ましい。これは空気比が1未満では鋼板は酸化せず、1.3を超えると過酸化によりピックアップが発生するためである。また、後段加熱を直火炉(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により行う場合、燃焼ガスはコークス炉で発生するCガスを用い、空気比が0.6以上1未満の条件で行うことが好ましい。これは空気比が1以上であると鋼板表面の酸化鉄を還元することができず、空気比が0.6未満であると燃焼効率が悪くなるためである。
【0054】
(ii)第2加熱工程
第2加熱工程は、第1加熱工程に引き続いて行われ、還元処理および鋼板組織の調整を行うためのものであり、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の温度域で15〜600s保持し、450〜550℃の温度域に冷却した後、該450〜550℃の温度域で10〜200s保持する。
【0055】
・H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気
が1vol%未満、露点が0℃超になると第1加熱工程で生成した酸化鉄が還元されにくいため、第1加熱工程においてめっき性を確保するのに十分な酸化鉄が生成しても、かえってめっき性が劣化するようになる。また、Hが50vol%を超えるとコストアップにつながる。露点が−60℃未満では工業的に実施が困難であるため、露点は−60℃以上が好ましい。
【0056】
・750〜900℃の温度域で15〜600s保持
750〜900℃の温度域、具体的には、オーステナイト単相域、もしくはオーステナイトとフェライトの二相域で、15〜600s保持する焼鈍を行う。焼鈍温度が750℃未満または保持時間が15s未満になると、鋼板中の硬質なセメンタイトが十分に溶解しないため穴拡げ性が低下し、また、所望のマルテンサイト面積率が得られないため延性が低下する。一方、焼鈍温度が900℃を超えると、オーステナイト粒の成長が著しく、冷却後の保持中に生じるベイナイト変態によるベイニティックフェライトの確保が困難となるため穴拡げ性が低下し、また、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)が0.6を超えるため良好な材質安定性が得られない。さらに、保持時間が600sを超えると、オーステナイトが粗大化し、所望の強度確保が困難となり、また、多大なエネルギー消費にともなうコスト増を引き起こす場合がある。
【0057】
・450〜550℃の温度域にて10〜200s保持
前記の焼鈍を行った後、450〜550℃の温度域に冷却し、該450〜550℃の温度域に10〜200s保持する。保持温度が550℃を超える、または保持時間が10s未満になると、ベイナイト変態が促進せず、ベイニティックフェライトの面積率が1.0%未満になるため、所望の穴拡げ性を得られない。また、保持温度が450℃未満、または保持時間が200sを超えると、第二相の大半がベイナイト変態の促進により生成した固溶炭素量の多いオーステナイトとベイニティックフェライトになり、所望の1.0%以上のパーライト面積率が得られず、かつ、硬質なマルテンサイト相の面積率が5.0%以上となるため、良好な穴拡げ性と材質安定性が得られない。
【0058】
(c)溶融亜鉛めっき処理
上記第2加熱工程の後、鋼板を通常の浴温のめっき浴中に浸入させて溶融亜鉛めっきを施し、ガスワイピングなどでめっき付着量を調整し、冷却することで、めっき層を合金化していない溶融亜鉛めっき鋼板を得る。
【0059】
合金化処理を施す溶融亜鉛めっき鋼板を製造するときは、溶融亜鉛めっきを施した後、500〜600℃の温度域において、下式を満たす条件で亜鉛めっきの合金化処理を行う。
0.45≦exp[200/(400−T)]×ln(t)≦1.0
ただし、
T:500〜600℃の温度域での平均保持温度(℃)
t:500〜600℃の温度域の保持時間(s)
exp(X)、ln(X)は、それぞれXの指数関数、自然対数を示す。
【0060】
exp[200/(400−T)]×ln(t)が0.45未満になると、合金化処理後の鋼組織にマルテンサイトが多く存在し、上記硬質なマルテンサイトが軟質なフェライトと隣接して、異相間に大きな硬度差が生じ、穴拡げ性が低下する。また、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)が0.6を超えるため、材質安定性が損なわれる。また、溶融亜鉛めっき層の付着性が悪くなる。exp[200/(400−T)]×ln(t)が1.0超になると、未変態オーステナイトの殆どがセメンタイトもしくはパーライトに変態し、結果として所望の強度と延性のバランスが得られない。
【0061】
また、500℃未満の温度域では、めっき層の合金化が促進されず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることが難しい。また、600℃を超える温度域では、第二相の殆どがパーライトになり、所望のマルテンサイト面積率が得られず、強度と延性のバランスが低下する。
【0062】
合金化処理を、500〜600℃の温度域において、exp[200/(400−T)]×ln(t)が上記範囲を満たすようして行うことにより、このような問題を生じさせずに高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0063】
以上のような本発明により、540MPa以上の引張強度TSを有し、かつ、加工性および材質安定性に優れ、めっき外観性にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0064】
図1、図2は、後述する実施例の本発明例である鋼AのNo.15、16、17(表2、表5)と比較例である鋼HのNo.18、19、20(表2、表5)について、第2加熱工程における焼鈍温度(T)とTSとの関係、および焼鈍温度(T)とELとの関係を整理した図である。また、図3、図4は、後述する実施例の本発明例である鋼AのNo.21、22、23(表2、表5)と比較例である鋼HのNo.24、25、26(表2、表5)について、第2加熱工程における焼鈍後の冷却の平均保持温度(T)とTSとの関係、および平均保持温度(T)とELとの関係を整理した図を示す。
【0065】
図1、図2より、本発明例の鋼Aは焼鈍温度の変化にともなうTS、ELの変動が小さいのに対し、比較例の鋼HはTS、ELの変動が大きいことがわかる。また、図3、図4より、本発明例の鋼Aは平均保持温度の変化にともなうTS、ELの変動が小さいのに対し、比較例の鋼HはTS、ELの変動が大きいことがわかる。
【0066】
以上の結果より、本発明により材質安定性が高い高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られることがわかる。
【0067】
なお、本発明の製造方法における一連の熱処理においては、上述した温度範囲内であれば保持温度は一定である必要はなく、また冷却速度が冷却中に変化した場合においても規定した範囲内であればよい。また、本発明で規定する熱履歴さえ満足されれば、鋼板はいかなる設備で熱処理を施されてもかまわない。加えて、熱処理後に形状矯正のため本発明の鋼板に調質圧延をすることも本発明の範囲に含まれる。
【0068】
なお、本発明の鋼板は、典型的には、鋼素材を通常の製鋼、鋳造、熱間圧延等の各工程を経て製造するが、例えば薄手鋳造などにより熱延工程の一部もしくは全部を省略して製造してもよい。
【実施例】
【0069】
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを1200℃に加熱後、870〜920℃の仕上温度で板厚3.2mmまで熱間圧延を行い、520℃で巻き取った。次いで、得られた熱延板を酸洗し、熱延鋼板とした。一部は酸洗ままの熱延鋼板とし、残りはさらに冷間圧延を施し、冷延鋼板とした。次いで、上記により得られた酸洗ままの熱延鋼板および冷延鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインにより、表2〜4に示す製造条件で、焼鈍処理を行い、溶融亜鉛めっき処理を施し、さらにめっき層の合金化処理を行い、溶融亜鉛めっき鋼板を得た(冷延鋼板下地溶融亜鉛めっき材:No.1〜90、熱延鋼板下地溶融亜鉛めっき材:No.91、92)。めっき付着量は片面あたり30〜50g/mとした。溶融亜鉛めっき処理を施した後に合金化処理を施さない溶融亜鉛めっき鋼板も一部作製した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、フェライト、ベイニティックフェライト、パーライト、マルテンサイト相の面積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3%ナイタールで腐食し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍の倍率で10視野観察し、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて求めた。その際、マルテンサイトと残留オーステナイトの区別が困難なため、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に200℃で2時間の焼戻し処理を施し、その後、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面の組織を上記の方法で観察し、上記の方法で求めた焼戻しマルテンサイト相の面積率をマルテンサイト相の面積率とした。また、残留オーステナイト相の体積率は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面の回折X線強度により求めた。入射X線にはCoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}面とフェライト相の{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度の全ての組み合わせについて強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイト相の体積率とした。
【0075】
また、引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して行い、TS(引張強度)、EL(全伸び)を測定し、TS×EL≧19000MPa・%の場合を延性が良好と判定した。
【0076】
材質安定性は、(イ)焼鈍温度T以外の条件が同じで焼鈍温度Tだけが異なる鋼板について、TS、ELの変動量を調査し、そのTS、ELの変動量から焼鈍温度変化20℃あたりの変動量(ΔTS、ΔEL)を求め、また(ロ)冷却後めっき浴浸漬までの平均保持温度T以外の条件が同じで冷却後めっき浴浸漬までの平均保持温度Tだけが異なる鋼板について、TS、ELの変動量を調査し、そのTS、ELの変動量から冷却後めっき浴浸漬までの平均保持温度変化20℃あたりの変動量(ΔTS、ΔEL)を求め、各温度変化20℃当たりのTS変動量(ΔTS)、EL変動量(ΔEL)で評価した。
【0077】
また、以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、穴拡げ性(伸びフランジ性)を測定した。穴拡げ性(伸びフランジ性)は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準拠して行った。得られた各鋼板を100mm×100mmに切断後、板厚2.0mm以上はクリアランス12%±1%で、板厚2.0mm未満はクリアランス12%±2%で、直径10mmの穴を打ち抜いた後、内径75mmのダイスを用いてしわ押さえ力9tonで抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定し、下記の式から、限界穴広げ率λ(%)を求め、この限界穴広げ率の値から伸びフランジ性を評価し、λ≧70(%)の場合を良好と判定した。
限界穴広げ率λ(%)={(D−D)/D}×100
ただし、Dは亀裂発生時の穴径(mm)、Dは初期穴径(mm)である。
【0078】
また、表面外観については以下に示す方法にて調査した。
不めっきや押し疵などの外観不良の有無を目視にて判断し、外観不良がない場合には良好(○)、外観不良がわずかにあるがおおむね良好である場合にはおおむね良好(△)、外観不良がある場合には不良(×)と判定した。
【0079】
以上により得られた結果を表5〜7に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
本発明例の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、いずれもTSが540MPa以上であり、λが70%以上で穴拡げ性に優れ、また、TS×EL≧19000MPa・%で強度と延性のバランスが高く、加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られていることがわかる。さらに、ΔTS、ΔELの値も小さく、材質安定性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られていることがわかる。一方、比較例では、延性、穴拡げ性のいずれか一つ以上が劣っているか、材質安定性が好ましくない。
【0084】
また、本発明例の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は不めっきがなく表面外観にも優れているが、比較例では不めっきが発生し、表面外観が劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、540MPa以上の引張強度TSを有し、かつ、高延性と高穴拡げ性を有し、さらに材質安定性にも優れる。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することにより車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.04%以上0.13%以下、Si:0.7%以上2.3%以下、Mn:0.8%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.1%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対し、
前段においてO:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で400〜750℃の範囲内の温度になるように加熱し、後段においてO:0.01〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%を含有する雰囲気中で600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第1加熱工程を施し、
次いで、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で750〜900℃の温度域で15〜600s保持し、450〜550℃の温度域に冷却した後、該450〜550℃の温度域で10〜200s保持する第2加熱工程を施した後、
溶融亜鉛めっき処理を施し、
面積率で、75%以上のフェライト相と、1.0%以上のベイニティックフェライト相と、1.0%以上10.0%以下のパーライト相を有し、さらに、マルテンサイト相の面積率が1.0%以上5.0%未満で、かつ、マルテンサイト面積率/(ベイニティックフェライト面積率+パーライト面積率)≦0.6を満たす溶融亜鉛めっき鋼板を得ることを特徴とする、材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、さらに、質量%で、Cr:1.0%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板は、さらに、質量%で、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板は、さらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記第1加熱工程前段は直火炉または無酸化炉により、空気比が1以上1.3以下の条件で行い、前記第1加熱工程後段は直火炉または無酸化炉により、空気比が0.6以上1未満の条件で行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記溶融亜鉛めっき処理後に、500〜600℃の温度域において下式を満たす条件で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の材質安定性、加工性およびめっき外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
0.45≦exp[200/(400−T)]×ln(t)≦1.0
ただし、
T:500〜600℃の温度域での平均保持温度(℃)
t:500〜600℃の温度域の保持時間(s)
exp(X)、ln(X)は、それぞれXの指数関数、自然対数を示す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−251192(P2012−251192A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123786(P2011−123786)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】