説明

架橋オレフィン系エラストマー

【課題】耐熱性と柔軟性とを両立できるオレフィン系エラストマーを提供する。
【解決手段】鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーを架橋して架橋オレフィン系エラストマーを調製する。前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体は、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体であってもよい。前記オレフィン系エラストマーを構成する鎖状オレフィンと環状オレフィンとのモル比は、鎖状オレフィン/環状オレフィン=85/15〜97/3程度であってもよい。架橋方法は電子線で架橋する方法であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と柔軟性とを併せ持ち、電気・電子機器又は光学機器などの各種分野に利用できる架橋オレフィン系エラストマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性、耐薬品性、防湿性、機械的特性などに優れるため、レンズや光記録材料などの光学部品、プリント基板やコネクターなどの電気又は電子用部品、薬品用容器や注射器などの医薬又は医療機器用品、ビーカーや光学用セルなどの実験器具、自動車部品などの各種分野に利用されている。しかし、利用分野が拡がる一方で、環状オレフィン系樹脂は、柔軟性が低く、成形性が充分でない上に、ガラス転移温度は高いものの、軟化温度が低いという特徴も有するため、用途に応じて種々の改良が検討されている。
【0003】
例えば、プリント配線板の金属層と密着させるための樹脂組成物として、特開2005−47991号公報(特許文献1)には、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、有機過酸化物0.3〜2.5重量部、架橋助剤7〜30重量部及び無機フィラー5〜100重量部を分散させた架橋性樹脂組成物が開示されている。この文献では、前記架橋性樹脂組成物を加熱処理して架橋することにより、めっき密着性及びはんだ耐熱性が高い架橋成形品が得られる。
【0004】
また、光学レンズや光学フィルムなどの光学材料や医療材料として、特開2006−274164号公報(特許文献2)には、環状オレフィン系重合体からなる成形体に、加速電圧50kV以上、照射線量50〜1000kGyで放射線を照射する方法が開示されている。この文献では、環状オレフィン系重合体に放射線を照射することにより分子量分布を拡げて成形性を向上させることが記載されている。
【0005】
しかし、これらの成形体では、柔軟性が低いため、柔軟性を要求される用途には利用できない。
【0006】
また、特開平11−340590号公報(特許文献3)には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、このノルボルネン系樹脂との放射線架橋性に優れた樹脂5〜400重量部及び放射線架橋助剤0.1〜20重量部を含む樹脂組成物を成形したシートに導電性金属箔を有し、放射線架橋構造を有するプリント配線板用積層板が開示されている。この文献では、熱可塑性ノルボルネン系樹脂をポリブタジエンなどの放射線架橋性樹脂と架橋させることにより、高いはんだ耐熱性を付与し、金属箔と緊密に一体化させている。
【0007】
しかし、この樹脂組成物では、放射線架橋性樹脂が必須であり、ノルボルネン系樹脂の特性が低下する。さらに、放射線の照射により組成物が変形する。
【0008】
一方、フィルム、シート、容器、包装材料、自動車部品、電気・電子部品、建築材料、土木材料などの様々な分野で使用できる材料として、特許第3274702号公報(特許文献4)には、ガラス転移温度が30℃以下である環状オレフィン系共重合体を含有する層と、合成高分子、天然高分子、金属、金属酸化物及びこれらの混合物から選ばれる少なくとも一種の材料からなる層又は成形体とからなる多層材料が提案されている。この文献の実施例では、結晶化度1%、ガラス転移温度2℃又は3℃、融点81℃又は73℃の環状オレフィン共重合体フィルムと、LLDPEシート、ナイロン6シート、ポリイミドシート又はアルミニウム板とが熱ラミネートされている。
【0009】
しかし、ガラス転移温度の低い環状オレフィン系共重合体は、耐熱性が不足し、例えば、フィルム成形後の最終製品の使用工程で高温に曝されれば、容易に変形が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−47991号公報(請求項1、段落[0066][0106])
【特許文献2】特開2006−274164号公報(請求項1、段落[0034])
【特許文献3】特開平11−340590号公報(請求項1、段落[0041])
【特許文献4】特許第3274702号公報(特許請求の範囲、段落[0019]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、耐熱性と柔軟性とを両立できる架橋オレフィン系エラストマー及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、透明性が高く、耐水性や耐候性(特に耐光性)、耐薬品性などの耐久性(安定性)にも優れた架橋オレフィン系エラストマー及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、防湿性や機械的特性にも優れた架橋オレフィン系エラストマー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーを架橋することにより、耐熱性と柔軟性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の架橋オレフィン系エラストマーは、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーの架橋体である。前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体は、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体であってもよい。前記オレフィン系エラストマーを構成する鎖状オレフィンと環状オレフィンとのモル比は、鎖状オレフィン/環状オレフィン=85/15〜97/3程度であってもよい。本発明の架橋体は、電子線架橋体であってもよい。本発明の架橋体は、トルエンを用いて3時間還流させる方法で測定したゲル分率が5〜70重量%程度であってもよい。本発明の架橋体は、ガラス転移温度が30℃以下であってもよい。さらに、本発明の架橋体は、150℃における損失弾性率が10kPa以上であってもよい。前記鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の結晶化度は20%以下であってもよい。本発明の架橋体は、さらにオレフィン系樹脂を含み、オレフィン系エラストマーと前記オレフィン系樹脂とのアロイの架橋体であってもよい。本発明の架橋体は、架橋性基を有する樹脂及び架橋剤を実質的に含有しない架橋体であってもよい。
【0016】
本発明には、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーを架橋して前記架橋体を製造する方法も含まれる。この方法において、電子線で架橋してもよく、特に、加速電圧120kV以上及び照射線量120kGy以上の電子線で架橋してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーが架橋(特に電子線架橋)されているため、耐熱性と柔軟性とを両立できる。さらに、この架橋オレフィン系エラストマーは、透明性が高く、耐水性や耐候性(特に耐光性)、耐薬品性などの耐久性にも優れている上に、防湿性や機械的特性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例3で得られた架橋前の試験片の温度に対する粘弾特性を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3で得られた架橋後の試験片の温度に対する粘弾特性を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例6で得られた架橋前の試験片の温度に対する粘弾特性を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例6で得られた架橋後の試験片の温度に対する粘弾特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の架橋オレフィン系エラストマーは、鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーの架橋体である。
【0020】
(オレフィン系エラストマー)
本発明におけるオレフィン系エラストマーは、鎖状オレフィンと環状オレフィンとを重合成分として含み、かつ軟質な共重合体(軟質鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体)である。
【0021】
鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの鎖状C2−10オレフィン類などが挙げられる。これらの鎖状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィンのうち、好ましくはα−鎖状C2−8オレフィン類であり、さらに好ましくはα−鎖状C2−4オレフィン類(特に、エチレン)である。
【0022】
環状オレフィンは、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンであればよく、単環式オレフィン(例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの環状C4−12シクロオレフィン類など)であってもよいが、多環式オレフィンが好ましい。
【0023】
代表的な多環式オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン(2−ノルボルネン)、置換基を有するノルボルネン、シクロペンタジエンの多量体、置換基を有するシクロペンタジエンの多量体などが例示できる。前記置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、アミド基、ハロゲン原子などが例示できる。これらの置換基は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0024】
具体的に、多環式オレフィンとしては、例えば、2−ノルボルネン;5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネンなどのアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−2−ノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのアルコキシカルボニル基を有するノルボルネン類;5−シアノ−2−ノルボルネンなどのシアノ基を有するノルボルネン類;5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネンなどのアリール基を有するノルボルネン類;ジシクロペンタジエン;2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノシクロペンタジエノナフタレン、メタノオクタヒドロシクロペンタジエノナフタレンなどの誘導体;6−エチル−オクタヒドロナフタレンなどの置換基を有する誘導体;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、シクロペンタジエンの3〜4量体などが例示できる。
【0025】
これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、ノルボルネン類などの多環式オレフィンが好ましい。
【0026】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体において、透明性と柔軟性とを両立する点から、鎖状オレフィン(特に、エチレンなどのα−鎖状C2−4オレフィン)と環状オレフィン(特に、ノルボルネンなどの多環式オレフィン)との割合(モル比)は、例えば、鎖状オレフィン/環状オレフィン=80/20〜99/1程度の範囲から選択でき、例えば、85/15〜97/3、好ましくは88/12〜95/5、さらに好ましくは90/10〜95/5(特に91/9〜94/6)程度である。
【0027】
他の共重合性単量体としては、例えば、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど);ジエン系単量体(例えば、ブタジエン、イソプレンなど);(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、又はこれらの誘導体((メタ)アクリル酸エステルなど)など]などが例示できる。これらの他の共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの他の共重合性単量体の含有量は、共重合体に対して、例えば、5モル%以下、好ましくは1モル%以下である。
【0028】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体は、付加重合により得られた樹脂であってもよく、開環重合(開環メタセシス重合など)により得られた樹脂であってもよい。また、開環メタセシス重合により得られた重合体は、水素添加された水添樹脂であってもよい。鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の重合方法は、慣用の方法、例えば、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合、チーグラー型触媒を用いた付加重合、メタロセン系触媒を用いた付加重合(通常、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合)などを利用できる。
【0029】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の結晶化度は20%以下程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜20%、好ましくは1〜18%、さらに好ましくは2〜15%(特に3〜10%)程度である。
【0030】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体(架橋前)のガラス転移温度(Tg)は30℃以下程度の範囲から選択でき、例えば、−25℃〜30℃、好ましくは−20℃〜20℃、さらに好ましくは−15℃〜10℃(特に−10℃〜5℃)程度である。
【0031】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の融点(Tm)は50℃以上程度の範囲から選択でき、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは70〜120℃(特に75〜110℃)程度である。
【0032】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の数平均分子量は、例えば、15000〜200000、好ましくは20000〜120000、さらに好ましくは30000〜100000(特に40000〜90000)程度である。
【0033】
なお、ガラス転移温度及び融点は、単量体の割合、単量体の置換基、重合体の分子量などを調整して制御することができる。
【0034】
(オレフィン系樹脂)
前記オレフィン系エラストマーに加えて、前記オレフィン系エラストマーと架橋可能なオレフィン系樹脂が含まれていてもよい。本発明では、オレフィン系樹脂を用いることにより、架橋密度を調整して柔軟性や耐熱性を制御できる。オレフィン系樹脂としては、前記オレフィン系エラストマーと架橋可能であれば、特に限定されず、鎖状オレフィン系重合体、環状オレフィン系重合体などが挙げられる。
【0035】
鎖状オレフィン系重合体としては、前記オレフィン系エラストマーの項で例示された鎖状オレフィン、特に、エチレンやプロピレンなどのα−鎖状C2−4オレフィン(特にエチレン)を含む重合体が挙げられる。鎖状オレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレン系樹脂[例えば、低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体など]、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのプロピレン含有80重量%以上のプロピレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリ(メチルペンテン−1)樹脂などが挙げられる。これらの鎖状オレフィン系重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィン系重合体のうち、低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0036】
環状オレフィン系重合体は、前記オレフィン系エラストマーの項で例示された環状オレフィン、特に、ノルボルネンなどの多環式オレフィンを含む重合体であってもよく、エラストマー特性を有さない割合で、さらにエチレンなどのα−鎖状C2−4オレフィンを含む鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体(硬質鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体)であってもよい。環状オレフィン系重合体において、環状オレフィンと鎖状オレフィンとの割合(モル比)は、鎖状オレフィンの割合が80モル%未満の範囲から選択でき、例えば、前者/後者=100/0〜25/75、好ましくは90/10〜30/70、さらに好ましくは80/20〜35/65(特に70/30〜35/65)程度である。これらの環状オレフィン系重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィン系重合体のうち、ノルボルネンとエチレンとの割合が前記範囲であるノルボルネン−エチレン共重合体などが好ましい。
【0037】
オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、オレフィン系樹脂の種類に応じて、−150℃〜200℃程度の範囲から選択でき、オレフィン系エラストマーのガラス転移温度を調整するために、オレフィン系エラストマーよりもガラス転移温度の高い環状オレフィン系重合体(例えば、35〜150℃、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃程度)や、オレフィン系エラストマーよりもガラス転移温度の低いポリエチレン系樹脂(例えば、−110〜0℃、好ましくは−80〜−5℃、さらに好ましくは−50〜−10℃程度)などを用いてもよい。特に、架橋体の耐熱性・剛性を向上させる点から、環状オレフィン系重合体を用いてもよい。
【0038】
オレフィン系樹脂の数平均分子量は、例えば、5000〜300000、好ましくは10000〜200000、さらに好ましくは15000〜150000程度である。
【0039】
オレフィン系エラストマーとオレフィン系樹脂との割合(重量比)は、オレフィン系エラストマー/オレフィン系樹脂=100/0〜50/50、好ましくは99/1〜60/40、さらに好ましくは95/5〜70/30程度であってもよく、透明性の点から、オレフィン系樹脂の割合は20重量%以下であってもよく、例えば、100/0〜80/20(特に100/0〜90/10)程度であってもよい。
【0040】
(架橋体)
本発明の架橋体は、前記オレフィン系エラストマーを架橋することにより得られ、エラストマーの柔軟性を損なうことなく、高い耐熱性も有している。通常、エラストマーは、ガラス転移温度が低く、柔軟ではあるものの、耐熱性が充分でない。すなわち、樹脂やエラストマーにおいて、柔軟性と耐熱性とはトレードオフの関係にあり、両者を同時に成立するのは極めて困難であった。これに対して、本発明では、特定の環状オレフィン系エラストマーを架橋することにより、前記オレフィン系エラストマーの構造や微結晶性が影響するためか、柔軟性と耐熱性とを両立させたことを特徴とする。
【0041】
架橋体のガラス転移温度は30℃以下程度の範囲から選択でき、例えば、−25℃〜30℃、好ましくは−20℃〜20℃、さらに好ましくは−15℃〜10℃(特に−10℃〜5℃)程度である。このように、本発明では架橋後もガラス転移温度の上昇が少なく、架橋前のガラス転移温度との温度差は、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下(例えば、0〜30℃程度)であり、架橋後も高い柔軟性を保持している。なお、オレフィン系樹脂を配合した場合、オレフィン系エラストマーは、鎖状オレフィン部分の結晶性のためか、オレフィン系樹脂との相溶性が低く、オレフィン系樹脂由来のガラス転移温度を有していてもよい。
【0042】
さらに、架橋体は、JIS K7127に準拠した引張試験(厚み100μmのフィルム)において、破断伸度が50%以上程度であってもよく、例えば、100〜3000%、好ましくは200〜2000%、さらに好ましくは500〜1600%(特に600〜1500%)程度であってもよい。さらに、本発明の架橋体は、弾性変形性を示すため、前記引張試験において、降伏点を示さないのが好ましい。
【0043】
本発明では、架橋体の耐熱性は、150℃における損失弾性率で示すことができる。具体的には、150℃における損失弾性率は10kPa以上(例えば、10〜5000kPa)、好ましくは50〜4000kPa、さらに好ましくは100〜1000kPa(特に200〜500kPa)程度である。本発明では、150℃の高温でも架橋体は融解することなく、高い損失弾性率を示しており、優れた耐熱性を保持している。
【0044】
本発明の架橋体は、耐熱性と柔軟性とを両立させるために、適度に架橋されている。架橋体における架橋の度合いは、トルエンを用いて3時間還流させる方法で測定したゲル分率で示すことができる。架橋体のゲル分率は、例えば、5重量%以上であってもよく、例えば、5〜90重量%(例えば、5〜70重量%)、好ましくは7〜80重量%、さらに好ましくは10〜70重量%(特に10〜60重量%)程度であってもよい。詳細には、ゲル分率は、実施例で記載の測定方法で測定できる。
【0045】
架橋体は、透明性にも優れており、ヘーズ(曇価)が、JIS K7105に準拠した方法(厚み100μm)において、例えば、50%以下であってもよく、好ましくは0〜30%、さらに好ましくは0〜25%(特に0〜20%)程度である。
【0046】
架橋体は、慣用の添加剤、例えば、架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定材、紫外線吸収剤などの安定化剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
本発明の架橋体は、架橋性基(例えば、エチレン性不飽和結合を有する基など)を有する樹脂を実質的に含んでいなくてもよい。さらに、放射線(特に電子線)で架橋されている場合、架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤を実質的に含んでいなくてもよい。
【0048】
(架橋体の製造方法)
本発明の架橋体は、前記オレフィン系エラストマーを架橋することより得られる。架橋の方法としては、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂を架橋するための慣用の方法を利用でき、例えば、化学架橋法(ラジカル発生剤、例えば、ジクミルパーオキシドなどの有機過酸化物を用いて加熱処理する方法など)、放射線架橋法(α線、β線、γ線、X線、電子線などの放射線を照射する方法など)などを利用できる。
【0049】
これらのうち、架橋剤や架橋促進剤(助剤)が不要であり、安定性の高い架橋体を効率良く製造できる点から、高エネルギー放射線を照射して架橋する方法が好ましく、電子線を照射して架橋する方法が特に好ましい。
【0050】
電子線の照射方法として、例えば、電子線照射装置などの露光源によって、電子線を照射する方法が利用できる。照射量(線量)は、オレフィン系エラストマーの厚みにより異なるが、例えば、10〜500kGy(グレイ)(例えば、100〜400kGy)程度の範囲から選択できるが、架橋密度を高めて耐熱性を向上させる点から、120kGy以上であってもよく、例えば、120〜300kGy、好ましくは130〜200kGy、さらに好ましくは140〜180kGy(特に140〜160kGy)程度であってもよい。
【0051】
加速電圧は、10〜1000kV(例えば、100〜500kV)程度の範囲から選択できるが、耐熱性を向上させる点から、120kV以上であってもよく、例えば、120〜400kV、好ましくは130〜300kV、さらに好ましくは140〜200kV)程度であってもよい。
【0052】
なお、電子線の照射は、空気中で行ってもよく、必要であれば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行ってもよい。なお、本発明では、電子線の照射後もエラストマーの変形は抑制される。
【0053】
本発明の架橋体は、オレフィン系エラストマーを慣用の成形方法、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法、異型成形法、インジェクションプレス法、プレス成形法、ガス注入成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法などにより、用途に応じた形状(フィルム又はシート状、各種三次元形状など)に成形した後、架橋することにより所望の形状を有する成形体を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で得られたオレフィン系エラストマーや試験片の特性は、以下の方法で測定した。
【0055】
(ガラス転移温度及び融点)
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製「DSC6200」)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定を行った。
【0056】
(ゲル分率)
500mgの試験片を秤り取って冷却管を備えた100mlのナス型フラスコに入れ、さらにトルエン50mlを加えて、還流温度にて3時間攪拌した。その後、混合液を濾過し、濾過残渣を減圧乾燥後、計量してゲル分率を求めた。
【0057】
(ヘーズ)
実施例で得られた試験片について、JIS K 7136に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、NDH−500)を用いて、ヘーズを測定した。
【0058】
(結晶化度)
得られたエラストマーについて、X線回折装置(XRD、(株)リガク製「RINT1500」)を用いて広角X線測定を行った。詳しくは、CuKαを用いて2θ=0°〜60°の範囲で回折ピーク測定を行った。なお、Topas Advanced Polymers GmbH製「TOPAS5013」の熱プレス品を結晶性ゼロの対照サンプルとして用いた。この対照サンプルから得られる非晶ハローと、前記エラストマーから得られるスペクトルの差から結晶化度を算出した。
【0059】
(動的粘弾性)
得られた試験片について、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製、RSA−III)を用い、昇温速度5℃/分及び角周波数1Hzの条件で、貯蔵弾性率(E′)及び損失弾性率(E′′)を測定した。
【0060】
(引張試験)
実施例で得られた試験片について、流れ(MD)方向にJIS2号ダンベル片(幅6mm)を打ち抜き、23℃/50%RH、引張速度500mm/分で引張試験を行った。
【0061】
(色相:b*値)
分光光度計((株)日立ハイテクフィールディング製、「U−3300」)を用い、JIS K7105に準拠して透過モードにてb*値を測定した。
【0062】
製造例1(オレフィン系エラストマーA)
窒素雰囲気下、室温において30リットルのオートクレーブに、トルエン15リットル、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)15ミリモル、四塩化ジルコニウム0.75ミリモル、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼酸アニリニウム0.75ミリモルをこの順番に投入し、続いてノルボルネンを70重量%含有するトルエン溶液1.8リットルを加えた。50℃に昇温した後、エチレン分圧が5kgf/cmになるように、連続的にエチレンを導入しつつ、60分間の反応を行った。反応終了後ポリマー溶液を15リットルのメタノール中に投入し、ポリマーを析出させた。このポリマーを濾別、乾燥し、オレフィン系エラストマーA(エチレン−ノルボルネン共重合体エラストマーA)を得た。収量は3.12kg、重合活性は46kg/gZr(ジルコニウム1g当りの収量)であった。
【0063】
13C−NMRにおいて、エチレン単位にもとづくピークとノルボルネン単位の5及び6位のメチレンにもとづくピークの和(30ppm付近)と、ノルボルネン単位の7位メチレン基にもとづくピーク(32.5ppm付近)との比から求めたノルボルネン含量は8.6モル%であった。ガラス転移温度は−1℃、融点は80℃、結晶化度は10%であった。
【0064】
製造例2(オレフィン系エラストマーB)
製造例1において、ノルボルネン70重量%含有するトルエン溶液の量を1.3リットルに変えた以外は、製造例1と同様にエチレンとノルボルネンとの共重合を行った。その結果、収量は3.77kg、得られたオレフィン系エラストマーB(エチレン−ノルボルネン共重合体エラストマーB)のノルボルネン含量は6.2モル%、ガラス転移温度は7.5℃、融点は95℃、結晶化度は12%であった。
【0065】
実施例1
製造例1で得られたオレフィン系エラストマーAを、小型押出機((株)プラスチック工学研究所製、20mmφ、L/D=25)に巾150mmのTダイを取り付け、引取速度を調整し、厚み100μmのフィルム状試験片を作製した。得られた試験片に、窒素雰囲気中、常温で、EB照射装置(岩崎電気(株)製「TYPE;CB250/15/180L)を用いて、加速電圧150kV、線量150kGyで電子線を照射して架橋した。得られた試験片の特性を評価した結果を表1に示す。
【0066】
実施例2
加速電圧100kV、線量100kGyの条件で電子線を照射する以外は、実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例3
オレフィン系エラストマーAの代わりに、オレフィン系エラストマーBを用いる以外は実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。さらに、架橋前の試験片における温度と動的粘弾性との関係を図1に示し、架橋後の試験片における温度と動的粘弾性との関係を図2に示す。図1及び図2の比較から明らかなように、架橋前の試験片は150℃未満で重合体が溶融しているのに対して、架橋後の試験片では、150℃を超えても弾性を有する成形体が保持されていた。
【0068】
実施例4
オレフィン系エラストマーAの代わりに、オレフィン系エラストマーA90重量部及び環状オレフィン系重合体(Topas Advanced Polymers GmbH社製、商品名「TOPAS9903」、数平均分子量69000、ガラス転移温度33℃)10重量部の混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
実施例5
オレフィン系エラストマーAの代わりに、オレフィン系エラストマーA90重量部及び環状オレフィン系重合体(Topas Advanced Polymers GmbH社製、商品名「TOPAS9506」、数平均分子量66000、ガラス転移温度70℃)10重量部の混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例6
オレフィン系エラストマーAの代わりに、オレフィン系エラストマーA80重量部及び環状オレフィン系重合体(Topas Advanced Polymers GmbH社製、商品名「TOPAS9506」、数平均分子量66000、ガラス転移温度70℃)20重量部の混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。さらに、架橋前の試験片における温度と動的粘弾性との関係を図3に示し、架橋後の試験片における温度と動的粘弾性との関係を図4に示す。図3及び図4の比較から明らかなように、架橋前の試験片は150℃未満で重合体が溶融しているのに対して、架橋後の試験片では、200℃を超えても弾性を有する成形体が保持されていた。
【0071】
実施例7
オレフィン系エラストマーAの代わりに、オレフィン系エラストマーA90重量部及び環状オレフィン系重合体(Topas Advanced Polymers GmbH社製、商品名「TOPAS8007」、数平均分子量51000、ガラス転移温度80℃)10重量部の混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、フィルム状試験片を作製し、各種特性を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から明らかなように、本発明の架橋オレフィンエラストマーは、透明性が高く、機械的特性にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の架橋オレフィン系エラストマーは、各種分野の成形材料、例えば、光学材料、電気・電子材料、電気絶縁材料、自動車部品材料、医療材料、建築・土木材料などに利用できる。さらに、本発明の架橋オレフィン系エラストマーは、耐熱性と柔軟性とを両立でき、透明性にも優れるため、各種の電気・電子機器又は光学機器、例えば、携帯機器、家電機器、制御機器などのスイッチ部材として利用できる。具体的には、携帯電話、遊技機器、モバイル機器、タッチパネル、カーナビゲーションシステム、時計、電卓、テレビ、パーソナルコンピュータなどの部材(例えば、キートップシート、キーマットシート、導光シート、反射シートなど)としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーの架橋体。
【請求項2】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体が、α−鎖状C2−4オレフィンと多環式オレフィンとを重合成分とする共重合体である請求項1記載の架橋体。
【請求項3】
オレフィン系エラストマーを構成する鎖状オレフィンと環状オレフィンとのモル比が、鎖状オレフィン/環状オレフィン=85/15〜97/3である請求項1又は2記載の架橋体。
【請求項4】
電子線架橋体である請求項1〜3のいずれかに記載の架橋体。
【請求項5】
トルエンを用いて3時間還流させる方法で測定したゲル分率が5〜70重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の架橋体。
【請求項6】
ガラス転移温度が30℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋体。
【請求項7】
150℃における損失弾性率が10kPa以上である請求項1〜6のいずれかに記載の架橋体。
【請求項8】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体の結晶化度が20%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の架橋体。
【請求項9】
さらにオレフィン系樹脂を含み、オレフィン系エラストマーと前記オレフィン系樹脂とのアロイの架橋体である請求項1〜8のいずれかに記載の架橋体。
【請求項10】
架橋性基を有する樹脂及び架橋剤を実質的に含有しない請求項1〜9のいずれかに記載の架橋体。
【請求項11】
鎖状オレフィン−環状オレフィン共重合体で構成されたオレフィン系エラストマーを架橋して請求項1記載の架橋体を製造する方法。
【請求項12】
電子線で架橋する請求項11記載の方法。
【請求項13】
加速電圧120kV以上及び照射線量120kGy以上の電子線で架橋する請求項11又は12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102211(P2012−102211A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250897(P2010−250897)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】