説明

椅子型マッサージ装置

【課題】一対の指圧体により、人が手で肩をもむときのような掴みもみを実現させる場合に、使用者が背中側の指圧体で痛みを感じたり前側の指圧体を弱く感じたりすることがなく、十分なマッサージ効果が得られるようにする。
【解決手段】差動歯車機構56の採用により、ハンド部23では、当初、上側指圧体21と裏側指圧体22とをオープン待機状態から同時に閉動作させてゆき、一方の指圧体22が肩Sへ当接した時に、この指圧体22を停止させ、他方の指圧体21を引き続き閉動作させる。そして、両指圧体21,22で肩Sを掴んだ状態から、マッサージ動作をスタートさせる。従って、使用者Mの姿勢がどうであろうと、その時の肩位置を中心としてマッサージ動作が行われ、十分なマッサージ効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンド型マッサージ機及びこのハンド型マッサージ機を具備する椅子型マッサージ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、マッサージ装置、とりわけ椅子形体をした装置本体を具備するタイプのマッサージ装置について鋭意研究開発を重ねてきており、今日では、背凭れ部について例を挙げれば、モミ玉に上下方向又は左右方向のすりこぎ運動をさせたり、前後方向の出退運動をさせたり、或いはバイブレーションを与えたりして、着座者の背中をマッサージできるようにしたマッサージ装置を提案するに至っている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
一方、特許文献3には、恰も、人が手で肩をもむときのように、一対の施療子を備えて、これら双方の施療子で肩を掴みもみできるようにした、いわゆるハンド型のマッサージ機(以下、「先願装置」と言う)が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−243982号公報
【特許文献2】特開平11−113992号公報
【特許文献3】特開平10−264103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モミ玉をすりこぎ運動や出退運動又はバイブレーションさせるマッサージ方法でも、十分なマッサージ効果が得られるものであり、多くの使用者から好評を博しているところとなっている。一方、先願装置のように一対の施療子で掴みもみするマッサージ方法は、人が手で肩をもむときの素朴な仕種に似ている点で、使用者に受け入れられ易いということがあり、また斬新な方法ではある。
しかし、この先願装置の場合、一対の施療子は一組のリンク機構の中に組み込まれ、互いに連結されたものとなっていたため、一方が動けば必ず他方も同じように(向きは対称向きである)動く構造になっている。このような構造では、使用開始前の待機状態(両方の施療子を最大限に開かせたオープン位置とした状態)から両施療子を肩の前後両側へ向けて閉動させてゆくときに、両施療子間の中心位置(二等分位置)と背凭れ部に凭れかかった使用者における肩の前後中心とがピタリと一致しているときにはよいものの、使用者の体型や姿勢によりこれが一致していないときには、いずれか一方又は両方の施療子が肩の前後両側に当接した時点で例えば使用者が前方へ押し出され、背中が背凭れ部から浮いた状態になってしまうということがあった。
【0005】
そのため、使用者が、これに対抗して無理に背凭れ部へ背中を当接させようとした場合には後側(背中側)の施療子が強く食い込んで、痛みを感ずるようになる反面、前側の施療子による当接度合が弱くなるといった欠点に繋がるし、また反対に、使用者が、背中が背凭れ部から浮いた姿勢を維持しようとした場合にはそれだけで疲れてしまうことになりかねず、いずれにせよ、この先願装置は十分なマッサージ効果を得るには至っていなかった。また、上記各種の欠点が原因となってマッサージ動作中に、使用者の身体が無理やり前後に揺すられ、不快感を強く覚えるといったことが生じることもあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、人が手で肩をもむときの素朴な仕種でマッサージをする方法として、十分なマッサージ効果を得ることができるようにしたハンド型マッサージ機と、このハンド型マッサージ機を具備する椅子型マッサージ装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。即ち、本発明に係るハンド型マッサージ機は、所定間隔で対向配置される一対の指圧体を具備したハンド部と、このハンド部の各指圧体に相互近接・離反を繰り返させてマッサージ動作させる掴みもみ駆動部とを有している。そして、上記掴みもみ駆動部は、ハンド部において双方の指圧体を、オープン待機した状態から閉方向へ向けて移動させてゆき、いずれか一方の指圧体が身体に先に当接したときに、他方の指圧体が身体に当接するまでその一方の指圧体の移動を待機させるものとなっている。
【0008】
このような構成であるため、使用者の肩をマッサージする場合を例に挙げて説明すれば、ハンド部は、まず、双方の指圧体をそれらのオープン待機状態から肩への当接位置へ向けて閉動作させる。そして、この閉動作の途中で、いずれか一方の指圧体が身体に先に当接すると、この当接した指圧体については、閉動作を停止させる。しかし、他方の、未だ身体に当接していない方の指圧体については、以後も閉動作を継続させる。
【0009】
その結果として、双方の指圧体は肩位置を中心として確実に集合することになる。そこで、それ以後にマッサージ動作を開始させればよいものである。このようなことから、身体(上記例では肩)に対する各指圧体の当接度合は、身体の位置付けがどのようになっているときでも、常に、一定なものとなり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に身体が無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
【0010】
前記ハンド部の各指圧体に対し、身体と当接する部分に圧力センサを設けておき、この圧力センサの検出値に応じて掴みもみ駆動部の駆動制御(フィードバック制御等)を行えるようにしておくと、双方の指圧体が身体を掴む圧力を任意又は所定に設定できることになる。従って、マッサージ動作において、使用者が痛みを感じるようなことを防止できることは勿論のこと、物足りなさの解消、双方の指圧体による身体への当接度合バランスの均一化等ができるものである。また、双方の指圧体における掴み前後の各位置を記憶させて以降の動作をパターン化させたり学習させたりするといった用い方も可能になる。
【0011】
更に、マッサージ動作中において、双方の指圧体が身体に対する掴みを解放して次の掴み動作に移るときに、圧力センサの検出値の減少を参考にするといった用い方をすれば、双方の指圧体の無駄な動き(ストローク)を省けるため、動作効率を高めることにも繋がるものである。前記掴みもみ駆動部としては、太陽ギヤと、この太陽ギヤに噛合つつそのまわりを転動自在な遊星ギヤと、太陽ギヤまわりで遊星ギヤの公転軌道に噛合して設けられる内歯リングギヤとを有する差動歯車機構を具備したものとすることができる。
【0012】
この場合、一方の指圧体を内歯リングギヤに設け、他方の指圧体を遊星ギヤに設ければよい。また、この差動歯車機構において、上記太陽ギヤを正逆回転させるように1個の原動具を組み込ませるのが、構成上もまた制御上も簡潔となり、この場合には、遊星ギヤの自転及び公転並びに内歯リングギヤの自転をそれぞれ回転自在に保持させておけばよい。前記差動歯車機構に対して、遊星ギヤの公転又は内歯リングギヤの自転を所望に応じてロック可能とするためのブレーキ手段を設けておくと、このブレーキ手段を作動させたときに、遊星ギヤに設けられた側の指圧体だけ(単独動作)、又は内歯リングギヤに設けられた側の指圧体だけ(単独動作)で、マッサージ動作させることができるようになる。
【0013】
すなわち、この場合のハンド部によるマッサージ動作は、一対の指圧体による掴みもみではなく、一方の指圧体のみによる押しもみとなる(動作を早くさせれば叩きにもなる)。このようなマッサージ機は、言うまでもなく、対を成す指圧体同士の相互間隔を肩の挟持間隔に合わせた寸法にすることで肩もみ用として用いることができる。但し、これに限定されず、身体のどの部分をマッサージするように用いてもよい。
【0014】
一方、本発明に係る椅子型マッサージ装置では、上記した本発明に係るハンド型マッサージ機を、椅子形体をした装置本体の背凭れ部へ組み込むように(勿論、着座者の両肩に対応する左右2か所に設ける)したものである。この場合、ハンド型マッサージ機(少なくともハンド部)が、その不使用時において着座者の邪魔にならない状態となるように、背凭れ部内へ収納可能にしておけば、装置本体を単なる椅子として用いたり、或いは別種のマッサージ装置として用いたりできることになり、好適である。
【0015】
上記装置本体には、着座者の肩位置以外にも別のマッサージ機(本発明に係るハンド型マッサージ機を含む他、モミ玉に上下方向又は左右方向のすりこぎ運動をさせたり、前後方向の出退運動をさせたり、或いはバイブレーションを与えたりする従来のマッサージ機)を組み込むことができ、これによって使用者の全身に対するトータル的なマッサージが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るハンド型マッサージ機では、ハンド部において対を成している指圧体が相互近接・離反を繰り返すマッサージ動作をするとき、まず、両指圧体による同時閉動作開始から、一方の指圧体による肩当接時の閉動停止と、他方の指圧体による継続した閉動作とを経て、両指圧体を集合させた後、所定のマッサージ動作をスタートさせている。そのため、身体(例えば肩)に対する各指圧体の当接度合が、身体の位置付けに影響されることなく、常に、一定となり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に身体が無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
従って、このハンド型マッサージ機単独、及びこのハンド型マッサージ機を具備する椅子型マッサージ装置において、人が手で肩をもむときの素朴な仕種でマッサージをする方法として、十分なマッサージ効果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1乃至図8は、本発明に係るハンド型マッサージ機1と、これを用いて構成した椅子型のマッサージ装置2の各一実施形態を示している。図2において椅子型マッサージ装置2の全体構成をまず概説すると、このマッサージ装置2は、座部3と背凭れ部4とを有することで椅子形体を呈した装置本体5を具備しており、座部3の左右両側にはアームレスト6が設けられ、座部3の前部にはフットレスト7が上下揺動可能に設けられている。
【0018】
背凭れ部4は、所望操作に応じて電動、流体圧シリンダ等を駆動源(図示略)とする自動方式又は適宜リンク機構等による手動方式で、リクライニング動作可能になっており、またフットレスト7は、このリクライニング動作に同調するか又は所望操作に応じて単独で上下揺動可能になっている。なお、座部3についても、背凭れ部4のリクライニング動作に合わせて前後移動可能にしておくことができる。そして、背凭れ部4には、比較的上側寄りに本発明に係るハンド型マッサージ機1が設けられている。
【0019】
背凭れ部4には他に、背中乃至腰用とされる第2マッサージ機10が設けられ、座部3には、尻乃至大腿用とされる第3マッサージ機11が設けられ、フットレスト7には、下腿用とされる第4マッサージ機12が設けられている。背凭れ部4に設けられた本発明に係るハンド型マッサージ機1や第2マッサージ機10は、それぞれ、使用者(着座者)の体型に応じて上下位置調節ができるように、各別の昇降手段15,16によって昇降可能になっている。これら昇降手段15,16としては、例えば電動ボールネジ機構や流体圧シリンダによるもの、或いはその他のリンク機構によるもの等を使用すればよく、その中で昇降用のガイドレール17等、共用可能なものについてはできるだけ共通部品化して、構造の簡潔化、軽量化等を図ればよい。
【0020】
図3に示すように、背凭れ部4において、本発明に係るハンド型マッサージ機1は、座部3に着座して背凭れ部4に凭れかかるようにした使用者(以下、「着座者M」と言う)に対して、その両肩に対応するように、左右2か所に振り分け配置で2台、設けられている。これら2台のマッサージ機1は、上記した昇降手段15の昇降台18に横並びで一体的又は左右間隔の調節可能な状態に設けられており、一緒に上下動可能である。この昇降台18の左右両側(図3の上下部)には、上記ガイドレール17に沿って移動とされたガイドホイール19が設けられている。
【0021】
なお、これら両マッサージ機1は、基本的に同一構成であるが、細部の部材配置や部材形状等については左右対称となっている。以下では、主として椅子型マッサージ装置2の正面左側となるもの(図3の上側であり、着座者Mの右肩用とされるもの)について説明する。図1及び図4に示すように、このハンド型マッサージ機1は、所定間隔で対向配置される一対の指圧体21,22を具備したハンド部23と、このハンド部23に対して各指圧体21,22にマッサージ動作をさせる掴みもみ駆動部24と、ハンド部23をその稼働位置と収納位置との間で出し入れさせる出退駆動部25とを有している。
【0022】
ハンド部23において、双方の指圧体21,22が対向配置される間隔は、着座者Mの肩Sを挟持できる状態を基準として設定されており、またそれらの位置付けは、一方の指圧体21が肩Sの上方で他方の指圧体22が肩Sの裏側となるようにされている。図5に示すように、肩Sの上方へ配される指圧体21(以下、「上側指圧体21」と言う)は、左右に並ぶ2個の指片27,28を有しており、肩Sの裏側へ配される指圧体22(以下、「裏側指圧体22」と言う)は1個の指片29を有している。
【0023】
そのため、これら指圧体21,22をマッサージ師の手に置き換えて説明すると、丁度、上側指圧体21における一方の指片27が人差し指及び中指に相当し、他方の指片28が薬指及び小指に相当し、また裏側指圧体22の指片29は親指に相当するかたちになると言うことができる。各指圧体21,22には、軟質樹脂(発泡性のものを含む)やゴム、或いは生地質等を素材とする弾性材製の触片30が設けられている。また、図6に示すように、例えばこの触片30に内蔵される状態として、圧力センサ32が設けられている。
【0024】
上側指圧体21は、上記した2個の指片27,28と、これら各指片27,28の後部を個別の挟持状態にして揺動自在に連結された指リンク33,34と、これら両方の指リンク33,34を束ねる状態で揺動自在に連結された基部リンク35の第1接続端35aと、各指片27,28の後部に個別の差込状態とされて揺動自在に連結された駆動リンク37,38とを有している。基部リンク35は、第1関節軸36まわりでの揺動を許容された状態で保持されており、駆動リンク37,38は、後述する差動歯車機構56の内歯リングギヤ65に連結されて上記第1関節軸36まわりで揺動自在に保持されている。
【0025】
このようなことから、この上側指圧体21ではその全体として4節リンクを構成したものとなっており、第1関節軸36と基部リンク35の第1接続端35aとを支点として、指リンク33,34に比して指片27,28の方で折曲角度が拡大されるような折曲揺動が可能になっている。また、裏側指圧体22は、上記した指片29と、この指片29の後部を挟持状態にして揺動自在に連結された指リンク40と、この指リンク40に揺動自在に連結された基部リンク35の第2接続端35bと、指片29の後部に差込状態とされて揺動自在に連結された駆動リンク41とを有している。
【0026】
駆動リンク41は、後述する差動歯車機構56における遊星ギヤ保持板64aの出力軸(第1関節軸36と同心の軸)に連結されて上記第1関節軸36まわりで揺動自在に保持されている。このようなことから、この裏側指圧体22ではその全体として4節リンクを構成したものとなっており、第1関節軸36と基部リンク35の第2接続端35bとを支点として、指リンク40に比して指片29の方で折曲角度が拡大されるような折曲揺動が可能になっている。
【0027】
なお、基部リンク35において、指リンク33,34との連結に用いられる第1接続端35aと、指リンク40との連結に用いられる第2接続端35bとは、第1関節軸36を間に挟んだ対称的な径方向突出位置関係におかれている。出退駆動部25は、上記の第1関節軸36を先端側に配置させた第1アーム43と、この第1アーム43に第2関節軸44を介して連結された第2アーム45と、第1アーム43の中途部に接続された振り子リンク46と、第1、第2アーム43,45間にわたって設けられた連動手段47と、第2アーム45の基部側にこれと一体的に設けられる第3関節軸48に対し、ウォーム等の伝動ギヤ部49を介して駆動力を伝達可能になされた出退用原動具50とを有している。
【0028】
連動手段47には、タイミングプーリとタイミングベルトとの組み合わせより成るベルト伝動が採用されている。そして、この連動手段47にあって、第1関節軸36に設けられるタイミングプーリ52は、この第1関節軸36を介して上記基部リンク35と一体回動可能な状態に固定されており、また第3関節軸48に設けられるタイミングプーリ53は、第2アーム45が揺動するのとは無縁となる関係を保持した絶対的な固定状態(回転不能状態)とされている。従って、出退用原動具50を作動させた場合、伝動ギヤ部49及び第3関節軸48を介して第2アーム45が第3関節軸48まわりで揺動し、このとき連動手段47では、第2アーム45の揺動量に応じたタイミングベルトの相対送りが生じて、結果、この送り量がタイミングプーリ52から第1関節軸36、及び基部リンク35へと伝えられることになる。
【0029】
そのため、図1に示した状態から第2アーム45を時計回り方向(立て起こし向き)に揺動させた場合、第1アーム43は振り子リンク46による揺動規制を受けつつ、この第2アーム45に対して反時計回り方向に揺動することになり、結果、ハンド部23は、図7に示すように背凭れ部4の内方へ向けて収納(必ずしも完全な格納状態とさせる必要はない)される。このとき、上記連動手段47は、第1アーム43を反時計回り方向に揺動させる作用の中で、これに反して基部リンク35、即ち、ハンド部23を第1アーム43に対する時計回り方向へと回動させることになるので、結果、ハンド部23は、図1に示した稼働位置にあるときも、また図7に示した収納位置にあるときも、背凭れ部4等に対する絶対的な姿勢(前方やや下向きとなる姿勢)を一定に保持するものとなる。
【0030】
勿論、図7に示す状態から第2アーム45を反時計回り方向(前倒し向き)に揺動させるように出退用原動具50を作動させた場合には、上記と逆動作が生じ、結果、ハンド部23は、図1に示した稼働位置へ向けて、背凭れ部4等に対する絶対的な姿勢を一定に保持しつつ、突き出し動作するものである。これは、まさしく製図機のドラフター等で採用されているのと同じ原理である。上記掴みもみ駆動部24は、稼働位置へ進出させたハンド部23に対し、双方の指圧体21,22に相互近接・離反の動作を繰り返させるようにするところである。すなわち、ハンド部23は、この動作をもって着座者Mの肩Sに対するマッサージ動作とする。
【0031】
図4及び図6に示すように、この掴みもみ駆動部24は、上記第1関節軸36を保持軸として設けられた差動歯車機構56と、この差動歯車機構56に回転動力を伝達可能に接続された伝動手段57と、この伝動手段57に伝動ギヤ部58を介して接続された原動具59とを有している。差動歯車機構56は、太陽ギヤ63と、この太陽ギヤ63に噛合つつそのまわりを転動自在な遊星ギヤ64と、太陽ギヤ63まわりで遊星ギヤ64の公転軌道に噛合して設けられる内歯リングギヤ65とを有したものである。
【0032】
そして、ハンド部23における上側指圧体21が、内歯リングギヤ65の出力軸から上記した駆動リンク37,38を介して動力を受けるように設けられ、裏側指圧体22が、遊星ギヤ64の出力軸から上記した駆動リンク41を介して動力を受けるように設けられている。遊星ギヤ64は、太陽ギヤ63まわりで互いに等配間隔で複数個(図例では3個)設けられており、これらが出力軸(第1関節軸36と同心の軸)まわりで回転自在な遊星ギヤ保持板64aによって保持されている。従って、これら遊星ギヤ64は、各自転と太陽ギヤ63まわりでの公転とが、それぞれ自在なものとされている。
【0033】
また、内歯リングギヤ65は、太陽ギヤ63まわりでの自転が自在なものとされている。原動具59には、正転及び逆転の切り換えが可能であると共に、好ましくは回転角度制御が容易で且つ高精度にできるような例えばステッピングモータ又はサーボモータ等が用いられ、伝動ギヤ部58にはウォームギヤやベベルギヤ等が用いられ、伝動手段57には、タイミングプーリとタイミングベルトとの組み合わせより成るベルト伝動等が用いられている。
【0034】
また、伝動手段57の中継部に相当する第2関節軸44に対してブレーキ手段66が付設されており、このブレーキ手段66が制動用伝動手段67を介して差動歯車機構56の内歯リングギヤ65に動力伝達可能に接続されている。このブレーキ手段66は、電磁ブレーキ等によって構成されており、所望に応じた作動により、内歯リングギヤ65の自転をロックしたりロック解除したりできるようになっている。このようなことから、この掴みもみ駆動部24において、原動具59を作動させると、まず、伝動ギヤ部58及び伝動手段57を介して差動歯車機構56の太陽ギヤ63へ回転動力が伝えられる。
【0035】
ここで、太陽ギヤ63の回転方向が図6における時計回りである(符号a参照)とすると、これを受けて各遊星ギヤ64は反時計回りに自転をしながら(符号b参照)、反時計回りの公転をする(符号c参照)。従って、これら遊星ギヤ64を保持する遊星ギヤ保持板64aが反時計回りに回転する(符号c参照)ことになる。このため、駆動リンク41が同方向に揺動する(符号d参照)ことになり、裏側指圧体22がハンド部23を閉じる方向へ揺動する。
【0036】
また、このときの各遊星ギヤ64の自転に伴い、内歯リングギヤ65は反時計回りに回転する(符号e参照)。このため、駆動リンク37,38が同方向に揺動する(符号f参照)ことになり、上側指圧体21もハンド部23を閉じる方向へ揺動する。このようにして双方の指圧体21,22が同時に閉動作をはじめる。そして、この閉動作の途中で裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sに先に当接して、それ以上の閉動作が阻止されると、これに伴って駆動リンク41の揺動も阻止されることになるので、遊星ギヤ64を保持する遊星ギヤ保持板64aは太陽ギヤ63まわりでの回転(即ち、各遊星ギヤ64の公転)を停止する。
【0037】
すると、各遊星ギヤ64は、その自転速度を増速することになり、これに伴って内歯リングギヤ65の回転速度も増速される。その結果、駆動リンク37,38の揺動を介した上側指圧体21の閉動作速度が速くなり、上側指圧体21は着座者Mの肩Sへ向けて迅速に移動することになる。このようにして、ハンド部23は、裏側指圧体22及び上側指圧体21の相対的な近接により、着座者Mの肩Sを掴む状態となる。そして、裏側指圧体22の指片29や上側指圧体21の指片27,28に設けられた圧力センサ32のうち、いずれか一つ又は全部が所定の検出値を検出すると、原動具59は逆転に切り替わるようになっている。
【0038】
そのため、この原動具59の逆転が生じた時点で差動歯車機構56では、上記と略逆順の動作が略一瞬にして起こり、結果、裏側指圧体22及び上側指圧体21の相互離反動作が生じて着座者Mの肩Sを掴んだ状態が解放又は緩められることになる。また、これによって裏側指圧体22の指片29や上側指圧体21の指片27,28に設けられた圧力センサ32のうち、いずれか一つ又は全部が検出オフの状態、或いは所定のレベルダウンを起こすと、原動具59は再び正転に切り替わる。
【0039】
このようにして裏側指圧体22及び上側指圧体21による相互近接・離反動作が繰り返され、これによってマッサージ動作が得られるというものである。上記の説明から明らかなように、掴みもみ駆動部24が差動歯車機構56を具備した構成となっていることから、ハンド部23は、まず、双方の指圧体21,22をそれらのオープン待機状態から着座者Mの肩Sへの当接位置へ向けて閉動作させる。そして、この閉動作の途中で、いずれか一方の指圧体(裏側指圧体22)が着座者Mの肩Sに先に当接すると、この当接した指圧体(裏側指圧体22)については、閉動作を停止させる。
【0040】
しかし、他方の、未だ身体に当接していない方の指圧体(上側指圧体21)については、以後も閉動作を継続させる。その結果として、ハンド部23における双方の指圧体21,22は、着座者Mの姿勢がどうであろうと、その時の肩位置を中心として確実に集合することになる。そこで、それ以後に、その状態を維持しつつマッサージ動作を開始させればよいものである。そのため、肩Sに対する各指圧体21,22の当接度合が常に一定となり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に着座者Mが無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
【0041】
一方、ブレーキ手段66を作動させた場合には、それ以後、制動用伝動手段67を介して差動歯車機構56の内歯リングギヤ65が回転しない状態に保持されるので、この段階で上側指圧体21の揺動は阻止される。これに対し、原動具59から伝動ギヤ部58及び伝動手段57を介して太陽ギヤ63へ伝えられる回転動力は、この太陽ギヤ63まわりで遊星ギヤ64を公転(転動)させることが可能な状態として活きているため、駆動リンク41を介して裏側指圧体22の全体を揺動させることは可能である。
【0042】
従って、裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sに当接して圧力センサ32が検出値を検出したときに、原動具59が逆転に切り替わり、また裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sから離れて圧力センサ32が検出オフの状態となったとき、或いは所定の検出値レベル減少が起こったときに、原動具59が再び正転に切り替わるという動作を繰り返せば、この裏側指圧体22の単独動作として、押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を可能にしてある。
【0043】
このような押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作は、着座者Mの肩Sだけに限らず、背中や腰、場合によっては首筋や頭部へのマッサージも可能であるから、必要に応じて前記した昇降手段15(図1及び図3参照)を必要量だけ動作させればよいことになる。ところで、ハンド部23において、上記のような掴みもみによるマッサージ動作を行ったり、或いは押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を行ったりする場合に、裏側指圧体22が駆動リンク41の揺動を受けて閉動作するときには、その指片29が指リンク40による揺動規制を受けつつ、若干ではあるが指を開くような微妙な動きをすることになる。
【0044】
このことは上側指圧体21でも同じであり、駆動リンク37,38の揺動を受けて閉動作するときに、指片27,28が指リンク33,34による揺動規制を受けつつ、若干ではあるが指を開くような微妙な動きをすることになる。これらのことは、全体としては着座者Mの肩S等に対して裏側指圧体22及び上側指圧体21による指圧を強めてゆきながらも、それらの指圧点に対して面圧が一点に集中しないようにして(触片30が面接触するようにして)、その結果、着座者Mが圧痛を感じることがないようにしている効果に繋がっている。
【0045】
図8は、このハンド型マッサージ機1において設けられる制御回路70の一例であり、掴みもみ駆動部24が具備するマッサージ用原動具59、出退駆動部25が具備する出退用原動具50、昇降手段15が具備する原動具71は、一括して制御部72に接続されており、またこの制御部72には、上側指圧体21や裏側指圧体22に設けられた圧力センサ32が接続されている。また、この制御部72にはメモリ73が接続されている。従って、各圧力センサ32による検出値レベル(肩S等に対する当接度合)を適宜設定し、これをメモリ73に記憶させることができるようになっている。
【0046】
このため、ハンド部23の上側指圧体21や裏側指圧体22における掴み前後の各位置を記憶させて、以降の動作をパターン化させたり学習させたりするといった用い方が可能になる。このような構成のハンド型マッサージ機1を具備した椅子型マッサージ装置2において、ハンド型マッサージ機1の不使用時には、図7に示したように、ハンド部23は背凭れ部4内にあって最高レベルで収納され、掴みもみ駆動部24はハンド部23を閉じた状態に保持している。
【0047】
この状態から着座者Mが座部3に腰掛け、そのうえでハンド型マッサージ機1を作動させるべく、操作入力をすると、まず、出退駆動部25によってハンド部23が背凭れ部4に対する前方への突き出し状態とされ、次に掴みもみ駆動部24がハンド部23の上側指圧体21及び裏側指圧体22を相互離反状態、即ち、オープン待機の状態にする。そして、次に昇降手段15がハンド部23を下降させてゆく。このとき、上側指圧体21が着座者Mの肩Sに当接し、圧力センサ32が所定の検出値レベルになると昇降手段15は停止する。
【0048】
次に、掴みもみ駆動部24が、既に詳述したように両指圧体21,22による同時閉動作開始から、一方の指圧体(裏側指圧体22)による肩当接時の閉動停止と、他方の指圧体(上側指圧体21)による継続した閉動作とを経て、両指圧体21,22を集合させた後(着座者Mの肩位置を中心としたマッサージ位置の決定をした後)、掴みもみによるマッサージ動作を行う。このときの掴み力の強さは、上記したメモリ73に記憶された内容に基づいたものとすればよいし、着座者Mの希望に応じて変更できるようにしてもよい。
【0049】
また、動作速度についても、掴みもみ駆動部24における原動具59の回転速度をメモリ73に記憶させたり、所望に応じて適宜書き換えたりすればよい。昇降手段15による高さ設定についても、着座者Mの身長等に基づいてある程度(精度)までのデータ記憶は可能であるし、その都度設定される基準点を元に、ツボ位置(図9参照)ごとに応じたピッチ送り的な高さ変更を可能にしておくことも可能である。例えば、通常であれば肩Sの頂上付近にある肩聖(けんせい)と呼ばれるツボと肩中兪(けんちゅうゆ)と呼ばれるツボ(図9参照)とをハンド部23で掴みもみするのがよいが、それらよりやや下位置又は上位置(ツボとするか否かは特に限定されない)を掴みもみさせるようにしてもよい。
【0050】
勿論、ハンド部23の裏側指圧体22だけで押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を行わせる場合であれば、裏側指圧体22の先端部を心兪(しんゆ)と呼ばれるツボ、肝兪(かんゆ)と呼ばれるツボ、腎兪(じんゆ)と呼ばれるツボ等へ合わせるように、昇降手段15による高さ設定を行えばよい。もっとも、本実施形態で示した椅子型マッサージ装置2では、前記したように背凭れ部4に対して背中乃至腰用とされる第2マッサージ機10を設けられているので、心兪、肝兪、腎兪等のツボはこの第2マッサージ機10によりマッサージさせてもよい。
【0051】
その他、座部3に設けられた尻乃至大腿用とされる第3マッサージ機11や、フットレスト7に設けられた下腿用とされる第4マッサージ機12等のついても、当然に、本発明に係るハンド型マッサージ機1と同時に作動させればよいものである。ハンド型マッサージ機1等におけるマッサージ動作の終了は、タイマ制御により、又は所望に応じた操作により行われるものとし、この終了時においてハンド部23は、上記したスタート手順とは略逆順によって自動的に背凭れ部4内に収納されるものとする。
【0052】
本発明は、上記した各実施形態以外にも、各種の変更等が可能である。例えば、図10及び図11に示すように、ハンド部23において、上側指圧体21の指片27,28や裏側指圧体22の指片29を回転自在なローラで構成させることが可能である。この場合、図示は省略するが、上側指圧体21や裏側指圧体22に設ける圧力センサ32としては、指片27,28,29においてローラを保持するブラケット部分に、その撓み変形を検出可能な歪ゲージを貼り付ける構成のものとすればよい。
【0053】
掴みもみ駆動部24が具備するマッサージ用原動具59、出退駆動部25が具備する出退用原動具50、昇降手段15が具備する原動具71としては、電動モータを用いる他、流体圧モータを用いることが可能であると共に、図12に示すように、蛇腹式ポンプ80を駆動源としてラック条81を直線移動させ、これからピニオンギヤ82へ回転力を取り出させるようなアクチュエータ構成のものを用いてもよい。その他、ハンド部23における上側指圧体21や裏側指圧体22における各指片27,28,29等の個数をはじめ、細部にわたる構成、部材形状、部材材質等については、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0054】
椅子型マッサージ装置2において、本発明に係るハンド型マッサージ機1を左右2台設けている場合、これらハンド型マッサージ機1の左右間隔を、例えば電動送りねじ機構等により調節できるようにしたり、この電動送りねじ機構によるハンド型マッサージ機1の横移動を、マッサージ動作に対する左右往復動として組み入れできるようにしたりすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図3のB−B線拡大断面図である。
【図2】本発明に係るハンド型マッサージ機を具備して成る椅子型マッサージ装置の一実施形態を一部破砕して示す側面図である。
【図3】図2のA−A線に相当して示す拡大平面図である。
【図4】図3上側に示した本発明に係るハンド型マッサージ機を拡大して示す内部構造図である。
【図5】ハンド部の斜視図である。
【図6】差動歯車機構を示す概略図である。
【図7】ハンド部を背凭れ部へ収納した状況を図1と比較し易く描いた側断面図である。
【図8】ハンド型マッサージ機に採用可能な制御回路の回路構成を示したブロック図である。
【図9】肩から腰にわたる主なツボ位置を示した説明図である。
【図10】ハンド部の別実施形態を示す要部側面図である。
【図11】図10のC−C線拡大矢視図である。
【図12】各種原動具として採用可能なアクチュエータを示す側面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ハンド型マッサージ機
2 椅子型マッサージ装置
4 背凭れ部
5 装置本体
10 マッサージ機
11 マッサージ機
12 マッサージ機
21 指圧体
22 指圧体
23 ハンド部
24 掴みもみ駆動部
25 出退駆動部
32 圧力センサ
50 出退用原動具
56 差動歯車機構
59 マッサージ用原動具
63 太陽ギヤ
64 遊星ギヤ
65 内歯リングギヤ
66 ブレーキ手段
M 着座者
S 肩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子型マッサージ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、マッサージ装置、とりわけ椅子形体をした装置本体を具備するタイプのマッサージ装置について鋭意研究開発を重ねてきており、今日では、背凭れ部について例を挙げれば、モミ玉に上下方向又は左右方向のすりこぎ運動をさせたり、前後方向の出退運動をさせたり、或いはバイブレーションを与えたりして、着座者の背中をマッサージできるようにしたマッサージ装置を提案するに至っている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一方、特許文献3には、恰も、人が手で肩をもむときのように、一対の施療子を備えて、これら双方の施療子で肩を掴みもみできるようにした、いわゆるハンド型のマッサージ機(以下、「先願装置」と言う)が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−243982号公報
【特許文献2】特開平11−113992号公報
【特許文献3】特開平10−258103号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明は、座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、前記一対の指圧体による閉動作の途中で当該一対の指圧体のいずれか一方の閉動作を停止させ得る掴みもみ駆動部とを備えている。
【0006】
また、本発明は、座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、閉動作が停止した一方の指圧体に対して他方の指圧体の閉動作をさせ得る掴みもみ駆動部とを備えている。
【0007】
また、本発明は、座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、前記一対の指圧体による閉動作の途中で一方の指圧体の閉動作速度を速くさせ得る掴みもみ駆動部とを備えている。
【0008】
また、前記椅子型マッサージ装置において、前記一対の指圧体は、使用者の肩の上と肩の裏とからそれぞれ当接するのが好ましい。
【0009】
また従来技術において、モミ玉をすりこぎ運動や出退運動又はバイブレーションさせるマッサージ方法でも、十分なマッサージ効果が得られるものであり、多くの使用者から好評を博しているところとなっている。一方、先願装置のように一対の施療子で掴みもみするマッサージ方法は、人が手で肩をもむときの素朴な仕種に似ている点で、使用者に受け入れられ易いということがあり、また斬新な方法ではある。
しかし、この先願装置の場合、一対の施療子は一組のリンク機構の中に組み込まれ、互いに連結されたものとなっていたため、一方が動けば必ず他方も同じように(向きは対称向きである)動く構造になっている。このような構造では、使用開始前の待機状態(両方の施療子を最大限に開かせたオープン位置とした状態)から両施療子を肩の前後両側へ向けて閉動させてゆくときに、両施療子間の中心位置(二等分位置)と背凭れ部に凭れかかった使用者における肩の前後中心とがピタリと一致しているときにはよいものの、使用者の体型や姿勢によりこれが一致していないときには、いずれか一方又は両方の施療子が肩の前後両側に当接した時点で例えば使用者が前方へ押し出され、背中が背凭れ部から浮いた状態になってしまうということがあった。
【0010】
そのため、使用者が、これに対抗して無理に背凭れ部へ背中を当接させようとした場合には後側(背中側)の施療子が強く食い込んで、痛みを感ずるようになる反面、前側の施療子による当接度合が弱くなるといった欠点に繋がるし、また反対に、使用者が、背中が背凭れ部から浮いた姿勢を維持しようとした場合にはそれだけで疲れてしまうことになりかねず、いずれにせよ、この先願装置は十分なマッサージ効果を得るには至っていなかった。また、上記各種の欠点が原因となってマッサージ動作中に、使用者の身体が無理やり前後に揺すられ、不快感を強く覚えるといったことが生じることもあった。
【0011】
そこで、参考的に開示する発明(以下、参考発明という)では、上記事情に鑑みてなされたものであって、人が手で肩をもむときの素朴な仕種でマッサージをする方法として、十分なマッサージ効果を得ることができるようにしたハンド型マッサージ機と、このハンド型マッサージ機を具備する椅子型マッサージ装置とを提供する。
【0012】
そして、その参考発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。即ち、参考発明に係るハンド型マッサージ機は、所定間隔で対向配置される一対の指圧体を具備したハンド部と、このハンド部の各指圧体に相互近接・離反を繰り返させてマッサージ動作させる掴みもみ駆動部とを有している。そして、上記掴みもみ駆動部は、ハンド部において双方の指圧体を、オープン待機した状態から閉方向へ向けて移動させてゆき、いずれか一方の指圧体が身体に先に当接したときに、他方の指圧体が身体に当接するまでその一方の指圧体の移動を待機させるものとなっている。
【0013】
このような構成であるため、使用者の肩をマッサージする場合を例に挙げて説明すれば、ハンド部は、まず、双方の指圧体をそれらのオープン待機状態から肩への当接位置へ向けて閉動作させる。そして、この閉動作の途中で、いずれか一方の指圧体が身体に先に当接すると、この当接した指圧体については、閉動作を停止させる。しかし、他方の、未だ身体に当接していない方の指圧体については、以後も閉動作を継続させる。
【0014】
その結果として、双方の指圧体は肩位置を中心として確実に集合することになる。そこで、それ以後にマッサージ動作を開始させればよいものである。このようなことから、身体(上記例では肩)に対する各指圧体の当接度合は、身体の位置付けがどのようになっているときでも、常に、一定なものとなり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に身体が無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
【0015】
前記ハンド部の各指圧体に対し、身体と当接する部分に圧力センサを設けておき、この圧力センサの検出値に応じて掴みもみ駆動部の駆動制御(フィードバック制御等)を行えるようにしておくと、双方の指圧体が身体を掴む圧力を任意又は所定に設定できることになる。従って、マッサージ動作において、使用者が痛みを感じるようなことを防止できることは勿論のこと、物足りなさの解消、双方の指圧体による身体への当接度合バランスの均一化等ができるものである。また、双方の指圧体における掴み前後の各位置を記憶させて以降の動作をパターン化させたり学習させたりするといった用い方も可能になる。
【0016】
更に、マッサージ動作中において、双方の指圧体が身体に対する掴みを解放して次の掴み動作に移るときに、圧力センサの検出値の減少を参考にするといった用い方をすれば、双方の指圧体の無駄な動き(ストローク)を省けるため、動作効率を高めることにも繋がるものである。前記掴みもみ駆動部としては、太陽ギヤと、この太陽ギヤに噛合つつそのまわりを転動自在な遊星ギヤと、太陽ギヤまわりで遊星ギヤの公転軌道に噛合して設けられる内歯リングギヤとを有する差動歯車機構を具備したものとすることができる。
【0017】
この場合、一方の指圧体を内歯リングギヤに設け、他方の指圧体を遊星ギヤに設ければよい。また、この差動歯車機構において、上記太陽ギヤを正逆回転させるように1個の原動具を組み込ませるのが、構成上もまた制御上も簡潔となり、この場合には、遊星ギヤの自転及び公転並びに内歯リングギヤの自転をそれぞれ回転自在に保持させておけばよい。前記差動歯車機構に対して、遊星ギヤの公転又は内歯リングギヤの自転を所望に応じてロック可能とするためのブレーキ手段を設けておくと、このブレーキ手段を作動させたときに、遊星ギヤに設けられた側の指圧体だけ(単独動作)、又は内歯リングギヤに設けられた側の指圧体だけ(単独動作)で、マッサージ動作させることができるようになる。
【0018】
すなわち、この場合のハンド部によるマッサージ動作は、一対の指圧体による掴みもみではなく、一方の指圧体のみによる押しもみとなる(動作を早くさせれば叩きにもなる)。このようなマッサージ機は、言うまでもなく、対を成す指圧体同士の相互間隔を肩の挟持間隔に合わせた寸法にすることで肩もみ用として用いることができる。但し、これに限定されず、身体のどの部分をマッサージするように用いてもよい。
【0019】
一方、参考発明に係る椅子型マッサージ装置では、上記した参考発明に係るハンド型マッサージ機を、椅子形体をした装置本体の背凭れ部へ組み込むように(勿論、着座者の両肩に対応する左右2か所に設ける)したものである。この場合、ハンド型マッサージ機(少なくともハンド部)が、その不使用時において着座者の邪魔にならない状態となるように、背凭れ部内へ収納可能にしておけば、装置本体を単なる椅子として用いたり、或いは別種のマッサージ装置として用いたりできることになり、好適である。
【0020】
上記装置本体には、着座者の肩位置以外にも別のマッサージ機(参考発明に係るハンド型マッサージ機を含む他、モミ玉に上下方向又は左右方向のすりこぎ運動をさせたり、前後方向の出退運動をさせたり、或いはバイブレーションを与えたりする従来のマッサージ機)を組み込むことができ、これによって使用者の全身に対するトータル的なマッサージが可能となる。
【0021】
参考発明に係るハンド型マッサージ機では、ハンド部において対を成している指圧体が相互近接・離反を繰り返すマッサージ動作をするとき、まず、両指圧体による同時閉動作開始から、一方の指圧体による肩当接時の閉動停止と、他方の指圧体による継続した閉動作とを経て、両指圧体を集合させた後、所定のマッサージ動作をスタートさせている。そのため、身体(例えば肩)に対する各指圧体の当接度合が、身体の位置付けに影響されることなく、常に、一定となり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に身体が無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
従って、このハンド型マッサージ機単独、及びこのハンド型マッサージ機を具備する椅子型マッサージ装置において、人が手で肩をもむときの素朴な仕種でマッサージをする方法として、十分なマッサージ効果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1乃至図8は、本発明に係るハンド型マッサージ機1と、これを用いて構成した椅子型のマッサージ装置2の各一実施形態を示している。図2において椅子型マッサージ装置2の全体構成をまず概説すると、このマッサージ装置2は、座部3と背凭れ部4とを有することで椅子形体を呈した装置本体5を具備しており、座部3の左右両側にはアームレスト6が設けられ、座部3の前部にはフットレスト7が上下揺動可能に設けられている。
【0023】
背凭れ部4は、所望操作に応じて電動、流体圧シリンダ等を駆動源(図示略)とする自動方式又は適宜リンク機構等による手動方式で、リクライニング動作可能になっており、またフットレスト7は、このリクライニング動作に同調するか又は所望操作に応じて単独で上下揺動可能になっている。なお、座部3についても、背凭れ部4のリクライニング動作に合わせて前後移動可能にしておくことができる。そして、背凭れ部4には、比較的上側寄りに本発明に係るハンド型マッサージ機1が設けられている。
【0024】
背凭れ部4には他に、背中乃至腰用とされる第2マッサージ機10が設けられ、座部3には、尻乃至大腿用とされる第3マッサージ機11が設けられ、フットレスト7には、下腿用とされる第4マッサージ機12が設けられている。背凭れ部4に設けられた本発明に係るハンド型マッサージ機1や第2マッサージ機10は、それぞれ、使用者(着座者)の体型に応じて上下位置調節ができるように、各別の昇降手段15,16によって昇降可能になっている。これら昇降手段15,16としては、例えば電動ボールネジ機構や流体圧シリンダによるもの、或いはその他のリンク機構によるもの等を使用すればよく、その中で昇降用のガイドレール17等、共用可能なものについてはできるだけ共通部品化して、構造の簡潔化、軽量化等を図ればよい。
【0025】
図3に示すように、背凭れ部4において、本発明に係るハンド型マッサージ機1は、座部3に着座して背凭れ部4に凭れかかるようにした使用者(以下、「着座者M」と言う)に対して、その両肩に対応するように、左右2か所に振り分け配置で2台、設けられている。これら2台のマッサージ機1は、上記した昇降手段15の昇降台18に横並びで一体的又は左右間隔の調節可能な状態に設けられており、一緒に上下動可能である。この昇降台18の左右両側(図3の上下部)には、上記ガイドレール17に沿って移動とされたガイドホイール19が設けられている。
【0026】
なお、これら両マッサージ機1は、基本的に同一構成であるが、細部の部材配置や部材形状等については左右対称となっている。以下では、主として椅子型マッサージ装置2の正面左側となるもの(図3の上側であり、着座者Mの右肩用とされるもの)について説明する。図1及び図4に示すように、このハンド型マッサージ機1は、所定間隔で対向配置される一対の指圧体21,22を具備したハンド部23と、このハンド部23に対して各指圧体21,22にマッサージ動作をさせる掴みもみ駆動部24と、ハンド部23をその稼働位置と収納位置との間で出し入れさせる出退駆動部25とを有している。
【0027】
ハンド部23において、双方の指圧体21,22が対向配置される間隔は、着座者Mの肩Sを挟持できる状態を基準として設定されており、またそれらの位置付けは、一方の指圧体21が肩Sの上方で他方の指圧体22が肩Sの裏側となるようにされている。図5に示すように、肩Sの上方へ配される指圧体21(以下、「上側指圧体21」と言う)は、左右に並ぶ2個の指片27,28を有しており、肩Sの裏側へ配される指圧体22(以下、「裏側指圧体22」と言う)は1個の指片29を有している。
【0028】
そのため、これら指圧体21,22をマッサージ師の手に置き換えて説明すると、丁度、上側指圧体21における一方の指片27が人差し指及び中指に相当し、他方の指片28が薬指及び小指に相当し、また裏側指圧体22の指片29は親指に相当するかたちになると言うことができる。各指圧体21,22には、軟質樹脂(発泡性のものを含む)やゴム、或いは生地質等を素材とする弾性材製の触片30が設けられている。また、図6に示すように、例えばこの触片30に内蔵される状態として、圧力センサ32が設けられている。
【0029】
上側指圧体21は、上記した2個の指片27,28と、これら各指片27,28の後部を個別の挟持状態にして揺動自在に連結された指リンク33,34と、これら両方の指リンク33,34を束ねる状態で揺動自在に連結された基部リンク35の第1接続端35aと、各指片27,28の後部に個別の差込状態とされて揺動自在に連結された駆動リンク37,38とを有している。基部リンク35は、第1関節軸36まわりでの揺動を許容された状態で保持されており、駆動リンク37,38は、後述する差動歯車機構56の内歯リングギヤ65に連結されて上記第1関節軸36まわりで揺動自在に保持されている。
【0030】
このようなことから、この上側指圧体21ではその全体として4節リンクを構成したものとなっており、第1関節軸36と基部リンク35の第1接続端35aとを支点として、指リンク33,34に比して指片27,28の方で折曲角度が拡大されるような折曲揺動が可能になっている。また、裏側指圧体22は、上記した指片29と、この指片29の後部を挟持状態にして揺動自在に連結された指リンク40と、この指リンク40に揺動自在に連結された基部リンク35の第2接続端35bと、指片29の後部に差込状態とされて揺動自在に連結された駆動リンク41とを有している。
【0031】
駆動リンク41は、後述する差動歯車機構56における遊星ギヤ保持板64aの出力軸(第1関節軸36と同心の軸)に連結されて上記第1関節軸36まわりで揺動自在に保持されている。このようなことから、この裏側指圧体22ではその全体として4節リンクを構成したものとなっており、第1関節軸36と基部リンク35の第2接続端35bとを支点として、指リンク40に比して指片29の方で折曲角度が拡大されるような折曲揺動が可能になっている。
【0032】
なお、基部リンク35において、指リンク33,34との連結に用いられる第1接続端35aと、指リンク40との連結に用いられる第2接続端35bとは、第1関節軸36を間に挟んだ対称的な径方向突出位置関係におかれている。出退駆動部25は、上記の第1関節軸36を先端側に配置させた第1アーム43と、この第1アーム43に第2関節軸44を介して連結された第2アーム45と、第1アーム43の中途部に接続された振り子リンク46と、第1、第2アーム43,45間にわたって設けられた連動手段47と、第2アーム45の基部側にこれと一体的に設けられる第3関節軸48に対し、ウォーム等の伝動ギヤ部49を介して駆動力を伝達可能になされた出退用原動具50とを有している。
【0033】
連動手段47には、タイミングプーリとタイミングベルトとの組み合わせより成るベルト伝動が採用されている。そして、この連動手段47にあって、第1関節軸36に設けられるタイミングプーリ52は、この第1関節軸36を介して上記基部リンク35と一体回動可能な状態に固定されており、また第3関節軸48に設けられるタイミングプーリ53は、第2アーム45が揺動するのとは無縁となる関係を保持した絶対的な固定状態(回転不能状態)とされている。従って、出退用原動具50を作動させた場合、伝動ギヤ部49及び第3関節軸48を介して第2アーム45が第3関節軸48まわりで揺動し、このとき連動手段47では、第2アーム45の揺動量に応じたタイミングベルトの相対送りが生じて、結果、この送り量がタイミングプーリ52から第1関節軸36、及び基部リンク35へと伝えられることになる。
【0034】
そのため、図1に示した状態から第2アーム45を時計回り方向(立て起こし向き)に揺動させた場合、第1アーム43は振り子リンク46による揺動規制を受けつつ、この第2アーム45に対して反時計回り方向に揺動することになり、結果、ハンド部23は、図7に示すように背凭れ部4の内方へ向けて収納(必ずしも完全な格納状態とさせる必要はない)される。このとき、上記連動手段47は、第1アーム43を反時計回り方向に揺動させる作用の中で、これに反して基部リンク35、即ち、ハンド部23を第1アーム43に対する時計回り方向へと回動させることになるので、結果、ハンド部23は、図1に示した稼働位置にあるときも、また図7に示した収納位置にあるときも、背凭れ部4等に対する絶対的な姿勢(前方やや下向きとなる姿勢)を一定に保持するものとなる。
【0035】
勿論、図7に示す状態から第2アーム45を反時計回り方向(前倒し向き)に揺動させるように出退用原動具50を作動させた場合には、上記と逆動作が生じ、結果、ハンド部23は、図1に示した稼働位置へ向けて、背凭れ部4等に対する絶対的な姿勢を一定に保持しつつ、突き出し動作するものである。これは、まさしく製図機のドラフター等で採用されているのと同じ原理である。上記掴みもみ駆動部24は、稼働位置へ進出させたハンド部23に対し、双方の指圧体21,22に相互近接・離反の動作を繰り返させるようにするところである。すなわち、ハンド部23は、この動作をもって着座者Mの肩Sに対するマッサージ動作とする。
【0036】
図4及び図6に示すように、この掴みもみ駆動部24は、上記第1関節軸36を保持軸として設けられた差動歯車機構56と、この差動歯車機構56に回転動力を伝達可能に接続された伝動手段57と、この伝動手段57に伝動ギヤ部58を介して接続された原動具59とを有している。差動歯車機構56は、太陽ギヤ63と、この太陽ギヤ63に噛合つつそのまわりを転動自在な遊星ギヤ64と、太陽ギヤ63まわりで遊星ギヤ64の公転軌道に噛合して設けられる内歯リングギヤ65とを有したものである。
【0037】
そして、ハンド部23における上側指圧体21が、内歯リングギヤ65の出力軸から上記した駆動リンク37,38を介して動力を受けるように設けられ、裏側指圧体22が、遊星ギヤ64の出力軸から上記した駆動リンク41を介して動力を受けるように設けられている。遊星ギヤ64は、太陽ギヤ63まわりで互いに等配間隔で複数個(図例では3個)設けられており、これらが出力軸(第1関節軸36と同心の軸)まわりで回転自在な遊星ギヤ保持板64aによって保持されている。従って、これら遊星ギヤ64は、各自転と太陽ギヤ63まわりでの公転とが、それぞれ自在なものとされている。
【0038】
また、内歯リングギヤ65は、太陽ギヤ63まわりでの自転が自在なものとされている。原動具59には、正転及び逆転の切り換えが可能であると共に、好ましくは回転角度制御が容易で且つ高精度にできるような例えばステッピングモータ又はサーボモータ等が用いられ、伝動ギヤ部58にはウォームギヤやベベルギヤ等が用いられ、伝動手段57には、タイミングプーリとタイミングベルトとの組み合わせより成るベルト伝動等が用いられている。
【0039】
また、伝動手段57の中継部に相当する第2関節軸44に対してブレーキ手段66が付設されており、このブレーキ手段66が制動用伝動手段67を介して差動歯車機構56の内歯リングギヤ65に動力伝達可能に接続されている。このブレーキ手段66は、電磁ブレーキ等によって構成されており、所望に応じた作動により、内歯リングギヤ65の自転をロックしたりロック解除したりできるようになっている。このようなことから、この掴みもみ駆動部24において、原動具59を作動させると、まず、伝動ギヤ部58及び伝動手段57を介して差動歯車機構56の太陽ギヤ63へ回転動力が伝えられる。
【0040】
ここで、太陽ギヤ63の回転方向が図6における時計回りである(符号a参照)とすると、これを受けて各遊星ギヤ64は反時計回りに自転をしながら(符号b参照)、反時計回りの公転をする(符号c参照)。従って、これら遊星ギヤ64を保持する遊星ギヤ保持板64aが反時計回りに回転する(符号c参照)ことになる。このため、駆動リンク41が同方向に揺動する(符号d参照)ことになり、裏側指圧体22がハンド部23を閉じる方向へ揺動する。
【0041】
また、このときの各遊星ギヤ64の自転に伴い、内歯リングギヤ65は反時計回りに回転する(符号e参照)。このため、駆動リンク37,38が同方向に揺動する(符号f参照)ことになり、上側指圧体21もハンド部23を閉じる方向へ揺動する。このようにして双方の指圧体21,22が同時に閉動作をはじめる。そして、この閉動作の途中で裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sに先に当接して、それ以上の閉動作が阻止されると、これに伴って駆動リンク41の揺動も阻止されることになるので、遊星ギヤ64を保持する遊星ギヤ保持板64aは太陽ギヤ63まわりでの回転(即ち、各遊星ギヤ64の公転)を停止する。
【0042】
すると、各遊星ギヤ64は、その自転速度を増速することになり、これに伴って内歯リングギヤ65の回転速度も増速される。その結果、駆動リンク37,38の揺動を介した上側指圧体21の閉動作速度が速くなり、上側指圧体21は着座者Mの肩Sへ向けて迅速に移動することになる。このようにして、ハンド部23は、裏側指圧体22及び上側指圧体21の相対的な近接により、着座者Mの肩Sを掴む状態となる。そして、裏側指圧体22の指片29や上側指圧体21の指片27,28に設けられた圧力センサ32のうち、いずれか一つ又は全部が所定の検出値を検出すると、原動具59は逆転に切り替わるようになっている。
【0043】
そのため、この原動具59の逆転が生じた時点で差動歯車機構56では、上記と略逆順の動作が略一瞬にして起こり、結果、裏側指圧体22及び上側指圧体21の相互離反動作が生じて着座者Mの肩Sを掴んだ状態が解放又は緩められることになる。また、これによって裏側指圧体22の指片29や上側指圧体21の指片27,28に設けられた圧力センサ32のうち、いずれか一つ又は全部が検出オフの状態、或いは所定のレベルダウンを起こすと、原動具59は再び正転に切り替わる。
【0044】
このようにして裏側指圧体22及び上側指圧体21による相互近接・離反動作が繰り返され、これによってマッサージ動作が得られるというものである。上記の説明から明らかなように、掴みもみ駆動部24が差動歯車機構56を具備した構成となっていることから、ハンド部23は、まず、双方の指圧体21,22をそれらのオープン待機状態から着座者Mの肩Sへの当接位置へ向けて閉動作させる。そして、この閉動作の途中で、いずれか一方の指圧体(裏側指圧体22)が着座者Mの肩Sに先に当接すると、この当接した指圧体(裏側指圧体22)については、閉動作を停止させる。
【0045】
しかし、他方の、未だ身体に当接していない方の指圧体(上側指圧体21)については、以後も閉動作を継続させる。その結果として、ハンド部23における双方の指圧体21,22は、着座者Mの姿勢がどうであろうと、その時の肩位置を中心として確実に集合することになる。そこで、それ以後に、その状態を維持しつつマッサージ動作を開始させればよいものである。そのため、肩Sに対する各指圧体21,22の当接度合が常に一定となり、一方だけが強すぎたり弱すぎたりするといったことは起こらない。また、マッサージ動作中に着座者Mが無理やり揺すられるといった不快感が生じることも防止される。
【0046】
一方、ブレーキ手段66を作動させた場合には、それ以後、制動用伝動手段67を介して差動歯車機構56の内歯リングギヤ65が回転しない状態に保持されるので、この段階で上側指圧体21の揺動は阻止される。これに対し、原動具59から伝動ギヤ部58及び伝動手段57を介して太陽ギヤ63へ伝えられる回転動力は、この太陽ギヤ63まわりで遊星ギヤ64を公転(転動)させることが可能な状態として活きているため、駆動リンク41を介して裏側指圧体22の全体を揺動させることは可能である。
【0047】
従って、裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sに当接して圧力センサ32が検出値を検出したときに、原動具59が逆転に切り替わり、また裏側指圧体22の指片29(触片30)が着座者Mの肩Sから離れて圧力センサ32が検出オフの状態となったとき、或いは所定の検出値レベル減少が起こったときに、原動具59が再び正転に切り替わるという動作を繰り返せば、この裏側指圧体22の単独動作として、押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を可能にしてある。
【0048】
このような押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作は、着座者Mの肩Sだけに限らず、背中や腰、場合によっては首筋や頭部へのマッサージも可能であるから、必要に応じて前記した昇降手段15(図1及び図3参照)を必要量だけ動作させればよいことになる。ところで、ハンド部23において、上記のような掴みもみによるマッサージ動作を行ったり、或いは押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を行ったりする場合に、裏側指圧体22が駆動リンク41の揺動を受けて閉動作するときには、その指片29が指リンク40による揺動規制を受けつつ、若干ではあるが指を開くような微妙な動きをすることになる。
【0049】
このことは上側指圧体21でも同じであり、駆動リンク37,38の揺動を受けて閉動作するときに、指片27,28が指リンク33,34による揺動規制を受けつつ、若干ではあるが指を開くような微妙な動きをすることになる。これらのことは、全体としては着座者Mの肩S等に対して裏側指圧体22及び上側指圧体21による指圧を強めてゆきながらも、それらの指圧点に対して面圧が一点に集中しないようにして(触片30が面接触するようにして)、その結果、着座者Mが圧痛を感じることがないようにしている効果に繋がっている。
【0050】
図8は、このハンド型マッサージ機1において設けられる制御回路70の一例であり、掴みもみ駆動部24が具備するマッサージ用原動具59、出退駆動部25が具備する出退用原動具50、昇降手段15が具備する原動具71は、一括して制御部72に接続されており、またこの制御部72には、上側指圧体21や裏側指圧体22に設けられた圧力センサ32が接続されている。また、この制御部72にはメモリ73が接続されている。従って、各圧力センサ32による検出値レベル(肩S等に対する当接度合)を適宜設定し、これをメモリ73に記憶させることができるようになっている。
【0051】
このため、ハンド部23の上側指圧体21や裏側指圧体22における掴み前後の各位置を記憶させて、以降の動作をパターン化させたり学習させたりするといった用い方が可能になる。このような構成のハンド型マッサージ機1を具備した椅子型マッサージ装置2において、ハンド型マッサージ機1の不使用時には、図7に示したように、ハンド部23は背凭れ部4内にあって最高レベルで収納され、掴みもみ駆動部24はハンド部23を閉じた状態に保持している。
【0052】
この状態から着座者Mが座部3に腰掛け、そのうえでハンド型マッサージ機1を作動させるべく、操作入力をすると、まず、出退駆動部25によってハンド部23が背凭れ部4に対する前方への突き出し状態とされ、次に掴みもみ駆動部24がハンド部23の上側指圧体21及び裏側指圧体22を相互離反状態、即ち、オープン待機の状態にする。そして、次に昇降手段15がハンド部23を下降させてゆく。このとき、上側指圧体21が着座者Mの肩Sに当接し、圧力センサ32が所定の検出値レベルになると昇降手段15は停止する。
【0053】
次に、掴みもみ駆動部24が、既に詳述したように両指圧体21,22による同時閉動作開始から、一方の指圧体(裏側指圧体22)による肩当接時の閉動停止と、他方の指圧体(上側指圧体21)による継続した閉動作とを経て、両指圧体21,22を集合させた後(着座者Mの肩位置を中心としたマッサージ位置の決定をした後)、掴みもみによるマッサージ動作を行う。このときの掴み力の強さは、上記したメモリ73に記憶された内容に基づいたものとすればよいし、着座者Mの希望に応じて変更できるようにしてもよい。
【0054】
また、動作速度についても、掴みもみ駆動部24における原動具59の回転速度をメモリ73に記憶させたり、所望に応じて適宜書き換えたりすればよい。昇降手段15による高さ設定についても、着座者Mの身長等に基づいてある程度(精度)までのデータ記憶は可能であるし、その都度設定される基準点を元に、ツボ位置(図9参照)ごとに応じたピッチ送り的な高さ変更を可能にしておくことも可能である。例えば、通常であれば肩Sの頂上付近にある肩聖(けんせい)と呼ばれるツボと肩中兪(けんちゅうゆ)と呼ばれるツボ(図9参照)とをハンド部23で掴みもみするのがよいが、それらよりやや下位置又は上位置(ツボとするか否かは特に限定されない)を掴みもみさせるようにしてもよい。
【0055】
勿論、ハンド部23の裏側指圧体22だけで押しもみ乃至叩きに似たマッサージ動作を行わせる場合であれば、裏側指圧体22の先端部を心兪(しんゆ)と呼ばれるツボ、肝兪(かんゆ)と呼ばれるツボ、腎兪(じんゆ)と呼ばれるツボ等へ合わせるように、昇降手段15による高さ設定を行えばよい。もっとも、本実施形態で示した椅子型マッサージ装置2では、前記したように背凭れ部4に対して背中乃至腰用とされる第2マッサージ機10を設けられているので、心兪、肝兪、腎兪等のツボはこの第2マッサージ機10によりマッサージさせてもよい。
【0056】
その他、座部3に設けられた尻乃至大腿用とされる第3マッサージ機11や、フットレスト7に設けられた下腿用とされる第4マッサージ機12等のついても、当然に、本発明に係るハンド型マッサージ機1と同時に作動させればよいものである。ハンド型マッサージ機1等におけるマッサージ動作の終了は、タイマ制御により、又は所望に応じた操作により行われるものとし、この終了時においてハンド部23は、上記したスタート手順とは略逆順によって自動的に背凭れ部4内に収納されるものとする。
【0057】
本発明は、上記した各実施形態以外にも、各種の変更等が可能である。例えば、図10及び図11に示すように、ハンド部23において、上側指圧体21の指片27,28や裏側指圧体22の指片29を回転自在なローラで構成させることが可能である。この場合、図示は省略するが、上側指圧体21や裏側指圧体22に設ける圧力センサ32としては、指片27,28,29においてローラを保持するブラケット部分に、その撓み変形を検出可能な歪ゲージを貼り付ける構成のものとすればよい。
【0058】
掴みもみ駆動部24が具備するマッサージ用原動具59、出退駆動部25が具備する出退用原動具50、昇降手段15が具備する原動具71としては、電動モータを用いる他、流体圧モータを用いることが可能であると共に、図12に示すように、蛇腹式ポンプ80を駆動源としてラック条81を直線移動させ、これからピニオンギヤ82へ回転力を取り出させるようなアクチュエータ構成のものを用いてもよい。その他、ハンド部23における上側指圧体21や裏側指圧体22における各指片27,28,29等の個数をはじめ、細部にわたる構成、部材形状、部材材質等については、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0059】
椅子型マッサージ装置2において、本発明に係るハンド型マッサージ機1を左右2台設けている場合、これらハンド型マッサージ機1の左右間隔を、例えば電動送りねじ機構等により調節できるようにしたり、この電動送りねじ機構によるハンド型マッサージ機1の横移動を、マッサージ動作に対する左右往復動として組み入れできるようにしたりすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図3のB−B線拡大断面図である。
【図2】本発明に係るハンド型マッサージ機を具備して成る椅子型マッサージ装置の一実施形態を一部破砕して示す側面図である。
【図3】図2のA−A線に相当して示す拡大平面図である。
【図4】図3上側に示した本発明に係るハンド型マッサージ機を拡大して示す内部構造図である。
【図5】ハンド部の斜視図である。
【図6】差動歯車機構を示す概略図である。
【図7】ハンド部を背凭れ部へ収納した状況を図1と比較し易く描いた側断面図である。
【図8】ハンド型マッサージ機に採用可能な制御回路の回路構成を示したブロック図である。
【図9】肩から腰にわたる主なツボ位置を示した説明図である。
【図10】ハンド部の別実施形態を示す要部側面図である。
【図11】図10のC−C線拡大矢視図である。
【図12】各種原動具として採用可能なアクチュエータを示す側面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ハンド型マッサージ機
2 椅子型マッサージ装置
4 背凭れ部
5 装置本体
10 マッサージ機
11 マッサージ機
12 マッサージ機
21 指圧体
22 指圧体
23 ハンド部
24 掴みもみ駆動部
25 出退駆動部
32 圧力センサ
50 出退用原動具
56 差動歯車機構
59 マッサージ用原動具
63 太陽ギヤ
64 遊星ギヤ
65 内歯リングギヤ
66 ブレーキ手段
M 着座者
S 肩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で対向配置される一対の指圧体(21,22)を具備したハンド部(23)と、該ハンド部(23)の各指圧体(21,22)に相互近接・離反を繰り返させてマッサージ動作させる掴みもみ駆動部(24)とを有したハンド型マッサージ機であって、上記掴みもみ駆動部(24)は、ハンド部(23)において双方の指圧体(21,22)を、オープン待機した状態から閉方向へ向けて移動させてゆき、いずれか一方の指圧体(22)が身体に先に当接したときに、他方の指圧体(21)が身体に当接するまでその一方の指圧体(22)の移動を待機させることを特徴とするハンド型マッサージ機。
【請求項2】
前記ハンド部(23)の各指圧体(21,22)には身体との当接部に圧力センサ(32)が設けられ、該圧力センサ(32)の検出値に応じて前記掴みもみ駆動部(24)の駆動制御が可能になっていることを特徴とする請求項1記載のハンド型マッサージ機。
【請求項3】
前記掴みもみ駆動部(24)は、太陽ギヤ(63)と、該太陽ギヤ(63)に噛合つつそのまわりを転動自在な遊星ギヤ(64)と、太陽ギヤ(63)まわりで遊星ギヤ(64)の公転軌道に噛合して設けられる内歯リングギヤ(65)とを有する差動歯車機構(56)を具備しており、一方の指圧体(21)が内歯リングギヤ(65)に設けられ、他方の指圧体(22)が遊星ギヤ(64)に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のハンド型マッサージ機。
【請求項4】
前記差動歯車機構(56)に対し、上記太陽ギヤ(63)を正逆回転可能とさせる原動具(59)が組み込まれると共に、遊星ギヤ(64)の自転及び公転並びに内歯リングギヤ(65)の自転がそれぞれ回転自在に保持される構成とされていることを特徴とする請求項3記載のハンド型マッサージ機。
【請求項5】
前記差動歯車機構(56)において、遊星ギヤ(64)の公転又は内歯リングギヤ(65)の自転をロック可能なブレーキ手段(66)が設けられており、該ブレーキ手段(66)の作動により遊星ギヤ(64)に設けられた指圧体(22)の単独動作でマッサージを可能にしてあることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のハンド型マッサージ機。
【請求項6】
前記ハンド部(23)において、対を成している指圧体(21,22)が肩(S)を挟持可能な相互間隔をおいて設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたハンド型マッサージ機。
【請求項7】
座部(3)と背凭れ部(4)とを有して椅子形体を呈した装置本体(5)に対してその背凭れ部(4)で着座者(M)の両肩(S)に対応する左右2か所に請求項1乃至請求項6のいずれかに記載されたハンド型マッサージ機(1)が設けられていることを特徴とする椅子型マッサージ装置。
【請求項8】
前記ハンド型マッサージ機(1)の少なくともハンド部(23)が、不使用時において着座者(M)の邪魔にならない状態に背凭れ部(4)内へ収納可能になっていることを特徴とする請求項7に記載された椅子型マッサージ装置。
【請求項9】
前記装置本体(5)には、着座者(M)の肩位置以外にも別のマッサージ機(10)(11)(12)が組み込まれていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載された椅子型マッサージ装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、
前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、前記一対の指圧体による閉動作の途中で当該一対の指圧体のいずれか一方の閉動作を停止させ得る掴みもみ駆動部と、を備えていることを特徴とする椅子型マッサージ装置。
【請求項2】
座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、
前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、閉動作が停止した一方の指圧体に対して他方の指圧体の閉動作をさせ得る掴みもみ駆動部と、を備えていることを特徴とする椅子型マッサージ装置。
【請求項3】
座部と背凭れ部とフットレストとを備え、前記背凭れ部にマッサージ機が設けられた椅子型マッサージ装置において、
前記マッサージ機は、相互間において近接・離反することで閉動作・開動作可能な一対の指圧体と、前記一対の指圧体による閉動作の途中で一方の指圧体の閉動作速度を速くさせ得る掴みもみ駆動部と、を備えていることを特徴とする椅子型マッサージ装置。
【請求項4】
前記一対の指圧体は、使用者の肩の上と肩の裏とからそれぞれ当接する請求項1〜3のいずれか一項に記載の椅子型マッサージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−334431(P2006−334431A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252753(P2006−252753)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【分割の表示】特願平11−207916の分割
【原出願日】平成11年7月22日(1999.7.22)
【出願人】(000112406)ファミリー株式会社 (175)
【Fターム(参考)】