説明

植物の細胞培養物からのプロシアニジンの産生および抽出

本明細書では、ココアポリフェノール調製物を作出する方法であって、ココアポリフェノール、例えばプロシアニジンを細胞懸濁培養物から回収するステップを含む方法が提供される。これらの方法の例では、得られたココアポリフェノール調製物は検出可能なカフェインおよび/またはテオブロミンを実質的に(または場合によっては、完全に)含まず、より一般的には、キサンチンアルカロイドを実質的に含まない。ココアポリフェノール、より詳細には、ポリシアニジン調製物を作出するために有用な細胞懸濁培養物を含めたカカオの細胞の細胞懸濁培養物を作製する方法も記載されている。カカオ属およびヘラニア属の細胞懸濁培養物およびそこから作出されるココアポリフェノール調製物、具体的にはキサンチンアルカロイドを含まない(またはカフェインおよび/またはテオブロミンを含まない)ココアポリフェノール調製物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2009年4月3日出願の米国特許仮出願第61/166,591号明細書の利益を主張する。
【0002】
本開示は、カカオ組織の細胞培養物を作り出すための方法に関する。本開示は、高レベルのプロシアニジンを産生する細胞株を選択し、細胞培養物からプロシアニジンを抽出して食品成分、食品添加物、治療用組成物または化粧品組成物を作製する方法にも関する。本開示は、さらに、カカオ細胞の細胞懸濁培養物を成長させるための液体培地などの新規の培地およびそのような懸濁細胞によるプロシアニジンの産生を増強するための液体培地組成に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリフェノールは、植物、果実および野菜に広く分布しており、それらの、ヒトおよび動物の健康における抗酸化剤活性、抗変異原性活性および癌予防活性を含めた生理的機能のために、相当な注目を受けている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。疫学的研究により、ポリフェノールの中で、フラボノイドにより心疾患の危険性が減少する可能性があることが示唆されている(例えば、非特許文献4参照)。さらに、食事由来のフラバン−3−オール(flavan-3-ols)および/またはプロアントシアニジンにより、実験動物におけるアテローム性動脈硬化および冠動脈心疾患の発生率が低下することが示されている(例えば、非特許文献5、非特許文献6参照)。これらの効果に関与する機構の1つは、それらによって低密度リポタンパク質(LDL)の酸化が阻害されることを含む(例えば、非特許文献7参照)。
【0004】
カカオ植物体の種子(カカオ(Theobroma cacao L.)、アオギリ科)は、ポリフェノールに富むことが知られている(例えば、非特許文献8参照)。発酵させ焙煎したカカオ豆から調製したカカオ液の抗酸化構成成分の一部は、ココア製品およびチョコレート製品の主要な成分であり、フラバン−3−オールおよびプロシアニジンオリゴマーとして特徴づけられている(例えば、非特許文献9、非特許文献10参照)。
【0005】
カカオ(Theobroma)属の他の種およびヘラニア(Herrania)属などの他の属も、ココアプロシアニジンの公知の供給源である。カカオ属の20の異なる種が記載されているが、通常12種のみが認められる。これらのうち9種がアマゾニア原産であり、したがって遺伝的分布の中心はその領域の西半分だと思われる(例えば、非特許文献11参照)。
【0006】
カカオ属は、一般には新熱帯区性であり、北緯18度から南緯15度の間の西半球の熱帯雨林に分布している。ほとんどの種を有する領域は、コスタリカからコロンビア北東部の間である。5節20種が認識されている。クプアス(Theobroma grandiflorum)はグロッソペタルム(Glossopetalum)節に属し、11種で構成されている;カカオはカカオ節の唯一の種である。
【0007】
カカオ属の4種、アマゾニア西部からメキシコ南部までに分布する低木である、クプアス(Theobroma grandiflorum)、テオブロマ カヌマネンセ ピレス&フロエス(Theobroma canumanense Pires & Froes)、テオブロマ スビンカヌム マルチウス(Theobroma subincanum Martius)、(ブラジルではカプイ(Cupui)、コロンビアではカカウ デ モンテ(Cacau de monte))およびテオブロマ トリコロール ハンブ&ボンプル(Theobroma tricolor Humb.& Bonpl.)が、食用果肉の生産株であると記載されている。チョコレートも、これらの種の種子から製造される(例えば、非特許文献11参照)。カカオ属およびヘラニア属のいくつかの種の豆から類似したプロシアニジンが産生されること、およびこれらの化合物を豆から抽出できることが示されている(例えば、Romanczykら、特許文献1参照)。
【0008】
カカオ豆中のポリフェノールは子葉の色素細胞内に貯蔵される。ポリフェノール貯蔵細胞とも称されるこれらの色素細胞中のアントシアニンの量に応じて、カカオ豆は白色から濃い紫色である。これらの細胞において、ポリフェノールを3つの群に区別することができる:カテキンまたはフラバン−3−オール(約37%)、アントシアニン(約4%)およびプロアントシアニジン(約58%)。主なカテキンは(−)−エピカテキンであり、最大総ポリフェノール含有量の35%までを構成する。プロシアニジン(一般にプロアントシアニジンと称される)は主にフラバン−3,4−ジオールであり、これらは、主要伸長サブユニットとしてエピカテキンと4→8結合または4→6結合して縮合した二量体、三量体またはオリゴマーになる(例えば、Romanczykら、特許文献1参照)。
【0009】
生のカカオ豆の、乾燥させ脂肪を除いた量中の可溶性ポリフェノールの総量は15から20%であり(脂肪54%および水分6%を含有する風乾したカカオ豆中約6%と等しい)、発酵させた豆中の可溶性ポリフェノールの総量は約5%である。したがって、カカオ豆をポリフェノールの供給源として使用することの主要な欠点の1つは、豆を加工する間にポリフェノールの大部分が失われることである。焙煎および脱脂などの他のステップも損失につながる。したがって、ココアパウダーが有するのは生の豆中に見られる総ポリフェノールの10%未満である。カカオ豆を使用することのもう一つの問題は、カカオ植物の生育範囲が限られていることである。カカオは、赤道の北と南の緯度が約20度の地域の温暖な湿気の多い気候でのみ生育する。このことにより、豆を加工し、ポリフェノールを抽出することができる地域まで貯蔵し、輸送する間、豆のポリフェノール含有量を保つことが難しくなっている。
【0010】
植物の細胞培養が、これらの問題を克服する魅力的な代替手法である。植物の細胞培養は最近、フラボノイドを単離するために用いられている。プロシアニジンの場合は、いくつかのグループが培養物から特定の化合物を単離し得た。例えば、バラ属の培養物から4→8結合(−)−エピカテキン−(+)−カテキンおよび没食子酸が単離されている(例えば、非特許文献12参照)。スギ(Cryptomeria japonica)の懸濁培養物およびカルスから乾燥重量の26%ものプロシアニジンが産生すること(例えば、非特許文献13、非特許文献14参照)、およびベイマツ(Pseudotsuga mensiesii)の懸濁培養物からその乾燥重量の40%ものプロシアニジンが産生すること(例えば、非特許文献15参照)が見出された。報告により、ブドウ(Vitis vinifera)の細胞懸濁培養物においてプロシアニジンが産生することも示されている(例えば、非特許文献16、非特許文献17参照)。
【0011】
カカオにおける組織培養研究は、植物をクローン繁殖させるためにいくつかの研究室において開発されている体細胞胚形成に焦点が当てられている。カカオの体細胞胚形成に関する最初の報告は、未成熟の接合胚の組織外植片を使用した方法を記載した1977年のEsanによるものであった(例えば、非特許文献18参照)。後に他者によって類似の方法が報告された(例えば、非特許文献19、非特許文献20参照)。後の研究は、葉(例えば、非特許文献21参照)珠心(例えば、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24参照)ならびに花弁および仮雄ずいを含めた花の外植片(例えば、非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27参照)を含めた体細胞組織から組織を培養する方法を開発することに焦点が当てられた。これらの初期の方法は、成功したが、全ての遺伝子型に適用可能ではなく、再生植物の発生頻度は低かった。幅広い遺伝子型を繁殖させることができる効率的な方法も開発された(例えば、非特許文献28、非特許文献29参照)。しかし、記載された方法は全て、組織培養法を使用して体細胞胚を作製しているが、懸濁細胞を産生する方法は教示していない。
【0012】
カカオの細胞培養物を作り出すことに関する、公開された研究の量は限られている。この研究の大部分は1970年代および1980年代のものである(例えば、非特許文献30、非特許文献31、非特許文献32、非特許文献33、非特許文献34参照)。これらのうちごくわずかで、カカオの細胞培養物中のフラボノイドが試験された。例えば、JalalおよびCollin(1979)は、カルスおよび細胞懸濁物のフラボノイド組成物が、元のインタクトな子葉のフラボノイド組成物と類似していて、それほど変化していなかったことを報告した。どちらの組織培養物も(−)−エピカテキン、ロイコシアニジン(leucocyanidin)、コーヒー酸およびクマル酸を含有した。メチル化したプリン、テオブロミンおよびカフェインは組織培養物において検出することができなかった。しかし、Gurneyら(例えば、非特許文献35参照)は、カカオのカルスおよび懸濁培養物によって、カフェイン、テオブロミンおよびテオフィリンが、in vivoで見出されるカフェイン、テオブロミンおよびテオフィリンの約10%の濃度で産生されることを報告した。
【0013】
近年、最高の生物学的有効性を有することが示されているオリゴマープロシアニジンの形成について報告している先行技術はない。JalalおよびCollin(例えば、非特許文献32参照)は、カカオの細胞培養物におけるロイコシアニジンの検出について報告した。しかし、化合物を検出する方法に基づいてロイコシアニジンの性質またはサイズを特徴づけることはできなかった。さらに、カカオ属またはヘラニア(Herrania)属の他の種についての組織培養法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第97/36497号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,554,645号明細書
【特許文献3】米国特許第5,853,728号明細書
【特許文献4】米国特許第6,194,020号明細書
【特許文献5】米国特許第6,312,753号明細書
【特許文献6】米国特許第6,998,417号明細書
【特許文献7】米国特許第7,122,574号明細書
【特許文献8】米国特許第7,314,634号明細書
【特許文献9】米国特許第7,320,797号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2007/0148107号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2007075020号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Salvia et al., J. Agric. Food Chem. 39: 1549-1552, 1991
【非特許文献2】Bomser et al., Cancer Lett., 135: 151-157, 1999
【非特許文献3】Zhao et al., Carcinogenesis, 20: 1737-1745, 1999
【非特許文献4】Hertog et al., Lancet: 342: 1007- 1011, 1993
【非特許文献5】Tijburg et al., Atherosclorosis, 135: 37-47, 1997
【非特許文献6】Yamakoshi et al., Atherosclerosis, 142: 139-149, 1999
【非特許文献7】Steinberg, Circulation, 85: 2337-2344, 1992
【非特許文献8】Porter et al., Phytochemistry, 30: 1657-1663, 1991
【非特許文献9】Sanbongi et al., J. Agric. Food Chem., 46: 454-457, 1998
【非特許文献10】Adamson et al., J. Agric. Food Chem., 47: 4184- 4188, 1999
【非特許文献11】Giacometti, 1994, In "Neglected Crops: 1492 from a different perspective (J.E. Hernando Bermejo and J. Leon, Eds.) Plant Production and Protection Series No. 26, FAO, Rome, Italy, p205-209
【非特許文献12】Muhitch & Fletcher, Plant Physiol., 75:592-595, 1984
【非特許文献13】Teramoto & Ishikura, Bot. Mag. Tokyo 98: 171-179, 1985
【非特許文献14】Ishikura & Teramoto, Agric. Biol. Chem. 47: 421- 423, 1983
【非特許文献15】Stafford & Cheng, Phytochemistry 19: 131-135, 1980
【非特許文献16】Decendit & Merillon, Plant Cell Rep. 15: 762- 765, 1996
【非特許文献17】Waffo-Teguo et al., Phytochem. 42:1591-1593, 1996
【非特許文献18】Esan, Proc. 5th Int. Cacao Res. Conf. 1975. Ibadan: Cacao Res. Inst. Nigeria, 1977: 116-125, 1977
【非特許文献19】Pence et al, J. Am. Soc. Hort. Sci. 104: 145-148, 1979
【非特許文献20】Villalobos & Aguilar, Abstr. VII Int. Congr. Plant Tissue and Cell Cult., Amsterdam, Int. Assoc, for Plant Tissue Culture, pp 140, 1990
【非特許文献21】Litz, In Dimick, P. S., Ed., Cacao biotechnology symposium. The Pennsylvania State University Press, University Park, PA, pp 111-120, 1986
【非特許文献22】Chatelet et al., C.R. Acad. Sci., Paris 315: 55-62, 1992
【非特許文献23】Figueira & Janick, Acta Hort. 336: 231-238, 1993
【非特許文献24】Sondhal et al., Acta Hort. 336: 245-248, 1993
【非特許文献25】Lopez-Baez et al., C.R. Acad. Sci., Paris 316: 579-584, 1993
【非特許文献26】Alemanno et al., Plant Cell Tiss. Organ Cult. 46: 187-194, 1996
【非特許文献27】Alemanno & Michaux-Ferriere, In Vitro Cell Dev. Biol. Plant 33: 163-172, 1997
【非特許文献28】Li et al., In Vitro Cell Dev. Biol. Plant 34: 293-299, 1998
【非特許文献29】Maximova et al., In Vitro Cell Dev. Biol. Plant 38: 252- 259, 2002
【非特許文献30】Hall & Collin, Annals of Bot. 39: 555, 1975
【非特許文献31】Jalal & Collin, Phytochem. 16: 1377-1380, 1977
【非特許文献32】Jalal & Collin, New Phytol 83: 343-349, 1979
【非特許文献33】Tsai et al., J. Food Sci. 47: 768-773, 1982
【非特許文献34】Wen et al., J. Am. Oil Chemist's Soc. 16: 1720-1724, 1984
【非特許文献35】Gurney et al.. J. Expt. Bot. 43: 769-775, 1992
【非特許文献36】Neera et al., Phytochemistry. 31(12): 4143-4149, 1992
【非特許文献37】Meyer, J. Biotechnology 93: 45-57, 2002
【非特許文献38】Grayer, In J. B. Harborne, Plant Phenolics (Vol. 1), pp 283-323, 1989. San Diego, Academic Press, Inc.
【非特許文献39】Lee & Widmer, In L.M.L. Nollet, Handbook of Food Analysis (Vol. 1), pp 821-894, 1996, Basel, New York, Hong Kong, Marcel Dekker, Inc.
【非特許文献40】Markham & Bloor, In C.A. Rice-Evans and L. Packer, Flavonoids in Health and Disease, pp 1-33, 1998, Basel, New York, Hong Kong, Marcel Dekker, Inc.
【非特許文献41】Quesnel Phytochemistry 7: 1583-1592, 1968
【非特許文献42】Jalal and Collin Phytochem. 16: 1377-1380, 1977
【非特許文献43】Clapperton et al. Proceedings, 16th International Conference of Groupe Polyphenols, Lisbon, Portugal; Groupe Polyphenols: Norbonne, France, VoI II, pp 112-115, 1992
【非特許文献44】Dicosmo & Misawa, Plant Cell Culture Secondary Metabolism, pp11-44, 1996. Boca Raton, Florida, CRC Press LLC
【非特許文献45】Basaria, Current Biology, 2: 370-374, 1990
【非特許文献46】Thanh et al., Biologia Plantarum, 50: 752-754, 2006
【非特許文献47】Tate & Payne, Plant Cell Reports, 10: 22-25, 1991
【非特許文献48】Payne et al., Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems, pp333-351, 1995, New York, John Wiley & Sons, Inc
【非特許文献49】Swain and Hillis J. SCI. Food Agric. 10:63, 1959
【非特許文献50】Porter et al. Phytochemistry, 25(1):223, 1986
【非特許文献51】Kim et al., Biotechnol Prog. 20(6) 1666, 2004
【非特許文献52】Dicosmo & Misawa, "Plant Cell Culture Secondary Metabolism", 1996, pp44
【非特許文献53】Lazarus et al., J. Agric. Food Chem. 47: 3693, 1999
【非特許文献54】Cao G, Alessio H, Cutler R (1993). "Oxygen-radical absorbance capacity assay for antioxidants" Free Radic Biol Med 14 (3): 303-11
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
高収率のプロシアニジンを産生させることができる細胞培養物を生成するための方法を開発すること、およびこれらの化合物を培養物から効率的に抽出するための方法を開発することにより、これらの価値のある化合物の産生を有意に増加することができ、プロシアニジンの損失を減少させるためにカカオ豆を加工する新規の方法を開発するという厄介な課題が解決される。そのような細胞培養物および方法は、本明細書に記載されている。
【0017】
本明細書では、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないココアポリフェノール調製物を調製する方法であって、カカオ属またはヘラニア(Herrania)属の細胞を、ココアポリフェノールの産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させるステップと、細胞懸濁培養物からココアポリフェノールを回収するステップとを含む方法が提供される。開示されている方法の特定の実施形態では、カカオ属またはヘラニア(Herrania)属の細胞を、ココアプロシアニジン(例えば、オリゴマープロシアニジン)の産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させ、細胞懸濁培養物からココアプロシアニジンを回収する。これらの方法の例では、得られたココアポリフェノール(またはプロシアニジン)調製物は、検出可能なカフェインおよび/またはテオブロミンを実質的に(または場合によっては、完全に)含まない。
【0018】
カカオ細胞の細胞懸濁培養物を作製する方法も提供される。これらの方法の例は、未成熟のカカオ属の種の花の外植片から、またはカカオ属の種の栄養材料から、固形成長培地上でカルスを成長させるステップと、カカオ属の種のカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択するステップと、急速に成長している細胞株を液体培地中に播種することによって細胞懸濁培養を開始するステップとを含む。例として、未成熟のカカオの花の外植片は、ある場合には、仮雄ずい、がく片および花弁底部の外植片から選択される。他の特定の非限定的な例では、カカオ属の種の栄養材料は、若い、または成熟した葉、茎、成長点、節または節間から選択される。
【0019】
本明細書に記載のいずれか1つの方法を使用して作製した、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないココアポリフェノール調製物も提供される。特定の実施形態では、ココアポリフェノール調製物は、検出可能なレベルのキサンチンアルカロイドを欠く(調製物はキサンチンアルカロイドを含まない)。他の実施形態では、対数増殖期の終わりに、追加のグルコースを懸濁培養物に添加することにより、プロシアニジンの産生が増大する。
【0020】
本明細書では、記載の方法のいずれか1つによって作製したカカオ属またはヘラニア(Herrania)属の細胞懸濁培養物、ならびにココアポリフェノール(例えば、プロシアニジン)を産生するためにこれらの細胞懸濁培養物を使用することも検討されている。ココアポリフェノールの混合物を含み、カフェインおよび/またはテオブロミンを実質的に含まないココアポリフェノール調製物が本明細書でさらに提供され、その調製物はカカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物から抽出される。特定の非限定的な例では、ココアポリフェノール調製物はプロシアニジン(例えば、オリゴマープロシアニジン)を含み、カフェインおよび/またはテオブロミンを実質的に含まない。
【発明の効果】
【0021】
特定の非限定的な実施形態では、本明細書に記載のココアポリフェノールは、食事組成物、化粧品用組成物、治療用組成物または動物用組成物に使用することができる。
【0022】
前述した、または他の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照して進行する以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】急速に成長している細胞株の写真である。
【図2】さまざまな播種材料密度の培養物におけるバイオマス密度の典型的な経時変化を示すグラフである。
【図3】細胞の成長および栄養組織由来の選択された細密な細胞の経時的な炭水化物の消費量を示すグラフである。
【図4】栄養組織由来の細胞の細胞選択プロセスによるプロシアニジン産生の経時的な改善を示すグラフである。
【図5A】プロシアニジンを測定するためのブタノール−HCl加水分解アッセイを示す写真である。プロシアニジンを酸加水分解することにより、プロシアニジンが(−)−エピカテキンおよび淡紅色のシアニジンの2種の単量体の形態に分解する。各試料の淡紅色の強度が、種々の細胞株において得られたプロシアニジンの量を表す。
【図5B】プロシアニジンを測定するためのブタノール−HCl加水分解アッセイを示す写真である。図5Aの方法を、試料を迅速にスクリーニングするための96ウェルプレート形式に対して最適化した。
【図5C】プロシアニジンを測定するためのブタノール−HCl加水分解アッセイを示すグラフである。シアニジンの吸収は520nmにおいて、エピカテキンの吸収は280nmにおいてである;定量化については、シアニジンの吸光度の値から算出した。
【図6A】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。さまざまな信頼できる標準化合物のHPLC LC−MS分析を表す。
【図6B】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。さまざまな信頼できる標準化合物のHPLC LC−MS分析を表す。
【図6C】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。さまざまな信頼できる標準化合物のHPLC LC−MS分析を表す。
【図6D】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。カカオの懸濁細胞のHPLC LC−MS分析を示す。
【図6E】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。カカオの懸濁細胞のHPLC LC−MS分析を示す。
【図6F】カカオの細胞培養物由来のプロシアニジンおよびアルカロイドについての一連のクロマトグラフである。カカオの懸濁細胞のHPLC LC−MS分析を示す。
【図7】追加のグルコースを添加したことによる、MX1440−3496細胞株におけるプロシアニジン産生の経時的な増強を示すグラフである。
【図8A】蛍光検出器方式における、発酵させていないココアの抽出物の一連のHPLCクロマトグラムである。標識1から12は、それぞれプロシアニジンの重合の程度を示す:1、単量体;2、二量体;3、三量体;4、四量体;5、五量体;6、六量体;7、七量体;8、八量体;9、九量体;10、十量体;11、十一量体;12、十二量体。
【図8B】蛍光検出器方式における、懸濁細胞の抽出物の一連のHPLCクロマトグラムである。標識1から12は、それぞれプロシアニジンの重合の程度を示す:1、単量体;2、二量体;3、三量体;4、四量体;5、五量体;6、六量体;7、七量体;8、八量体;9、九量体;10、十量体;11、十一量体;12、十二量体。
【図9A】PDA検出器方式、280nmにおける、発酵させていないココアの抽出物の一連のHPLCクロマトグラムである。
【図9B】PDA検出器方式、280nmにおける、懸濁細胞の抽出物の一連のHPLCクロマトグラムである。
【図10A】カカオの細胞培養物におけるプロシアニジンの生産性および収率ならびに炭水化物の消費量を示す一連のグラフである。花ではない組織および花の組織由来の懸濁培養物のプロシアニジンの産生収率を示す。
【図10B】カカオの細胞培養物におけるプロシアニジンの生産性および収率ならびに炭水化物の消費量を示す一連のグラフである。花ではない組織および花の組織由来の懸濁培養物のプロシアニジンの生産性を示す。
【図10C】カカオの細胞培養物におけるプロシアニジンの生産性および収率ならびに炭水化物の消費量を示す一連のグラフである。プロシアニジン生産性の改善に対する細胞選択の効果を示す。
【図10D】カカオの細胞培養物におけるプロシアニジンの生産性および収率ならびに炭水化物の消費量を示す一連のグラフである。プロシアニジンの産生収率の改善に対する細胞選択の効果を示す。
【図10E】カカオの細胞培養物におけるプロシアニジンの生産性および収率ならびに炭水化物の消費量を示す一連のグラフである。培地XXVI(表1)中のカカオ細胞培養物の炭水化物の分析について示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.略語
【0025】
【表1】

【0026】
II.用語
別段の指定のない限り、技術用語は、従来の用法に従って使用されている。さまざまな本発明の実施形態を概説することを容易にするために、以下の特定の用語の説明を提供する。
【0027】
抗酸化剤は、フリーラジカルによって引き起こされる酸化的損傷などの酸化的損傷(酸素による損傷)を減少させる物質である。
【0028】
カルスは、栄養培地での損傷または培養によって生じる薄壁の、未分化の植物細胞集団である。
【0029】
カテキンは、植物中に自然に生じるポリフェノール化合物である。カテキンは、フラバン−3−オールとも称される。
【0030】
ココアは、カカオ(アオギリ目; Sterculiacae(Sterculiaceae))の種子であり、主にクリオロおよびフォラステロの2つの変種からなり、これらはいくつかの亜変種に分かれる。第3のグループはトリニタリオと称され、クリオロとフォラステロの交配種である。本明細書に含まれる他の種は、例えば、クプアス、テオブロマ オボバツム(Theobroma obovatum)、テオブロマ スペシオスム(Theobroma speciosum)、テオブロマ スビンカヌム(Theobroma subincanum)およびテオブロマ シルベストリス(Theobroma sylvestris)である。
【0031】
フラボノイドは、通常グリコシドの形態で生じ、多くの場合色素として植物に広く分布している特徴的な芳香族の三量体の複素環核を含有する化合物の任意のグループである。
【0032】
ポリフェノールは、バイオフラボノイドとしても公知の水溶性の植物色素であり、その化学構造によってカテゴリー化することができる4,000を超える化学的に独特なフラボノイドを包含する。単量体ポリフェノールとしてはカテキン、エピカテキン、ロイコシアニジンが挙げられる。オリゴマーポリフェノールとしては、プロシアニジンが挙げられる。
【0033】
プロシアニジンは、2ユニットから50を超えるユニットにわたる結合したカテキンユニットからなる高分子化合物である。プロシアニジンは、一般にプロアントシアニジンまたは縮合タンニンとも称される。
【0034】
懸濁培養は、原核細胞または真核細胞のいずれかを、液体栄養培地において制御条件下で成長させるプロセスである。
【0035】
組織培養は、組織を培地内で生きたまま保持し、成長させる技法またはプロセスである。
【0036】
キサンチン、キサンチン誘導体(3,7−ジヒドロ−プリン−2,6−ジオン)は、一般に穏やかな賦活剤として、および気管支拡張剤としてそれらの効果が用いられる、アルカロイドのグループである。メチル化されたキサンチン誘導体としては、カフェイン、パラキサンチン、テオフィリンおよびテオブロミン(主にチョコレート中に見出される)が挙げられる。これらの化合物は、ホスホジエステラーゼを阻害し、アデノシンと拮抗する。
【0037】
別段の説明がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。単数形の用語、「a(1つの)」、「an(1つの)」および「the(その)」は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または(もしくは)」という単語は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、「および」を含むものとする。したがって、「AまたはBを含む」は、A、もしくはB、または、AおよびBを含めて示す。本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは等価の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載している。本明細書で言及した全ての刊行物、特許出願、特許および他の参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。矛盾する場合には、用語の説明を含めた本明細書が支配する。さらに、材料、方法および実施例は、単に例示的なものであり、限定するものではない。
【0038】
III.いくつかの実施形態の概要
第1の実施形態において、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないココアポリフェノール調製物を調製する方法であって、カカオ属またはヘラニア属の細胞を、ココアポリフェノールの産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させるステップと、細胞懸濁培養物からココアポリフェノールを回収するステップとを含む方法が提供される。この方法の例では、得られたココアポリフェノール調製物は、検出可能なカフェインおよび/またはテオブロミンを実質的に(または、ある場合では完全に)含まない。他の特定の実施例では、調製物は、発酵させたさやから作出されたココアポリフェノール調製物中に存在すると思われるカフェインおよび/またはテオブロミンのレベルの50%未満のレベルのカフェインおよび/またはテオブロミンを含有する。好ましい実施形態では、細胞培養物を生成した調製物は、発酵させた豆から作出されたココアポリフェノール調製物中に存在すると思われるカフェインおよび/またはテオブロミンのレベルの30%未満、20%未満、15%未満、10%未満または5%未満のレベルのカフェインおよび/またはテオブロミンを含有する。開示されている方法の特定の実施形態では、カカオ属またはヘラニア属の細胞を、ココアプロシアニジン(例えば、オリゴマープロシアニジン)の産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させ、細胞懸濁培養物からココアプロシアニジンを回収する。
【0039】
本明細書で提供される代表的な方法では、カカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物は、未成熟のカカオ属もしくはヘラニア属の花の外植片から、またはカカオ属もしくはヘラニア属の栄養材料から、固形成長培地上でカルスを成長させるステップと、カカオ属またはヘラニア属のカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択するステップと、急速に成長している細胞株を液体培地中に播種することによって細胞懸濁培養を開始するステップとによって作製される。
【0040】
ある特定の提供された方法において、ココアポリフェノール(プロシアニジンを含む)の産生は、細胞を回収するステップと、ポリフェノールに富む画分を抽出するのに適した溶媒中で細胞バイオマスをホモジナイズするステップと、プロシアニジンに富む画分を単離するステップ(たとえば、溶媒−溶媒抽出および/またはクロマトグラフィーを使用して)と、場合によってプロシアニジン画分を乾燥または濃縮するステップとを含む。細胞を回収するステップは、場合によって遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせを含む。
【0041】
本明細書に記載のいずれか1つの方法を使用して作製した、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないココアポリフェノール調製物も提供される。例として、ココアポリフェノール調製物は、含有するテオブロミンが2%未満かつ含有するカフェインが0.5%未満であれば、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないとみなされる。特定の非限定的な例では、ココアポリフェノール調製物は、含有するテオブロミンが1.5%未満、1%未満、0.5%未満もしくは0%、かつ/または含有するカフェインが0.25%未満、0.2%未満、0.1%未満もしくは0%であれば、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないとみなされる。他の実施例では、ココアプロシアニジン調製物は、含有するテオブロミンが2%未満かつ含有するカフェインが0.5%未満であれば、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないとみなされる。特定の非限定的な例では、ココアポリフェノール調製物は、含有するテオブロミンが1.5%未満、1%未満、0.5%未満もしくは0%、かつ/または含有するカフェインが0.25%未満、0.2%未満、0.1%未満もしくは0%であれば、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないとみなされる。最も望ましいキサンチンアルカロイドを実質的に含まないレベルは、テオブロミンが0%かつカフェインが0%(調製物がキサンチンアルカロイドを含まない)である。
【0042】
さらに別の実施形態は、カカオ細胞の細胞懸濁培養物を作製する方法である。この方法の例は、未成熟のカカオ属もしくはヘラニア属の花の外植片から、またはカカオ属もしくはヘラニア属の栄養材料から、固形成長培地上でカルスを成長させるステップと、カカオ属またはヘラニア属のカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択するステップと、急速に成長している細胞株を液体培地中に播種することによって細胞懸濁培養を開始するステップとを含む。例として、未成熟のカカオまたはヘラニア属の花の外植片は、ある場合には、仮雄ずい、がく片および花弁底部の外植片から選択される。他の特定の非限定的な例では、カカオまたはヘラニア属の栄養材料は、若い、または成熟した葉、茎、成長点、節(nodes)または節間から選択される。
【0043】
場合によって、カカオ細胞の細胞懸濁培養物を作製する方法は、フラスコ、任意の適切な培養容器またはバイオリアクター内で細胞懸濁培養物を成長させるステップをさらに含む。例えば、ある場合では、成長させるステップは、容器またはバイオリアクター内で、回分方式、流加方式(fedbatch)または連続方式で実施される。
【0044】
本明細書では、記載の方法のいずれか1つによって作製した、カカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物ならびにココアポリフェノール、またはより詳細にはプロシアニジンを産生させるためにこれらの細胞懸濁培養物を使用することも検討されている。
【0045】
本同封物によって提供される別の実施形態は、ココアポリフェノールの混合物を含み、自然に実質的にカフェインおよびテオブロミンを含まない調製物であり、この調製物はカカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物から調製される。例として、ココアポリフェノール調製物は、それに含まれるテオブロミンが2%未満かつそれに含まれるカフェインが0.5%未満であれば、カフェインおよびテオブロミンを実質的に含まないとみなされる。特定の非限定的な例では、ココアポリフェノール調製物は、それに含まれるテオブロミンが1.5%未満、1%未満、0.5%未満もしくは0%、かつ/またはそれに含まれるカフェインが0.25%未満、0.2%未満、0.1%未満もしくは0%であれば、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないとみなされる。最も望ましい、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないレベルは、テオブロミンが0%かつカフェインが0%である。「自然にカフェインおよびテオブロミンを実質的に含まない」に関して「自然に」という用語は、LH−20サイズ排除クロマトグラフィーなどの精製手順によらずに、カフェインおよびテオブロミンの相対的な欠如が生じることを示す。他の実施形態では、対数増殖期の終わりに、追加のグルコースを懸濁培養物に添加することにより、プロシアニジンの産生が増大する。
【0046】
さらなる実施形態は、ヘキサンまたは別の有機溶媒を使用して脱脂するステップなしで作製したココアポリフェノール調製物である。したがって、本明細書では、ヘキサンを使用せずに作製(例えば、抽出)したココアポリフェノール(例えば、プロシアニジン)の調製物が検討されている。
【0047】
特定の実施形態では、カカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物からの抽出が、細胞を回収すること、ポリフェノールに富む画分を抽出するのに適した溶媒中で細胞バイオマスをホモジナイズすること、プロシアニジンに富む画分を単離すること(例えば、溶媒−溶媒抽出および/またはクロマトグラフィーを使用して)、および場合によって、プロシアニジン画分を乾燥、凍結乾燥または濃縮することを含む、ココアポリフェノール調製物も提供される。例えば、細胞を回収するステップは、遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせを含んでよい。
【0048】
本明細書で提供されるココアポリフェノール調製物を、食事組成物において、および/または治療用組成物において、および/または動物用組成物において、および/または化粧品組成物において使用できることが検討されている。
【0049】
本明細書に記載のおよび/または本明細書に記載の方法を使用して作製した代表的な調製物が、カテキン、エピカテキンおよびプロシアニジンオリゴマーを含むココアポリフェノールを含有することがさらに検討されている。特定の実施例では、オリゴマーは、二量体から十二量体である。例えば、一部の調製物では、オリゴマーは二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、または、それらの任意の2つ以上の混合物を含む。
【0050】
ココアポリフェノールがココアプロシアニジンである調製物も検討されている。
【0051】
本明細書で提供されるココアポリフェノール調製物は、液体の形態、乾燥した形態または凍結乾燥した形態で提供され得る。
【0052】
IV.ココアの組織培養
本明細書において、カカオ属またはヘラニア属の細胞培養物からプロシアニジンを効率的に単離するための方法が記載されている。具体的に述べると、カカオ豆から抽出されたプロシアニジンと類似したプロシアニジンを機械的に単離することができるカカオ属またはヘラニア属の細胞懸濁培養物を樹立した。
【0053】
さらに、本明細書で提供される方法により、これらのプロシアニジンを多産する細胞培養物の供給源が作製される。これらの方法の代表的な利点としては、
・気候条件を制御することによる、信頼性が高く持続的なバイオマスの供給源
・抽出プロセス中のプロシアニジンの分解を最小限にする迅速かつ効率的な単離手順
・細胞培養物から単離されたプロシアニジンの組成が、カカオ豆から単離されたプロシアニジンの組成と類似していること
・細胞培養物のプロシアニジン生産性を操作し、最適化するために有用な技法
が挙げられる。
【0054】
概して、本明細書には、カカオ属の植物またはヘラニア属の植物のさまざまな組織からのカルス培養物の樹立について記載されている。樹立されたカルスは、さまざまな種類の細胞培養培地を使用して懸濁培養物を生じさせるために使用される。安定な懸濁細胞培養物が樹立されたら、細胞を抽出し、認められている分光光度的な方法によってプロシアニジン含有量について分析すると同時に、HPLC−MS法を用いて個々のプロシアニジンを同定する。そのような分析から、さらに生産性を最適化するために、所望のプロシアニジンを産生することができる懸濁培養物を選択する。
【0055】
ココア培養物の生成
ココア培養物を生成するプロセスをここに概説し、詳細な例示的プロトコールを実施例に記載している。簡単に述べると、詳細は、当業者によって公知の変動に従って変動してよいが、プロシアニジンを産生する細胞培養の開始は、さまざまな植物の部位、例えば、体細胞胚形成について記載したように、例えば、花弁、がく片、仮雄ずいなどの花の組織、または節、節間、幼葉、成葉などの花ではない栄養組織のいずれかから得られた外植片からカルスおよび懸濁培養物を樹立することによって実現される。培養細胞の一部を周期的に新鮮な培地に移すことによって懸濁培養物を新鮮な懸濁培養物培地中に維持する。移動スケジュールおよび播種密度は、細胞の成長能力および培地からの糖の消費量によって決定する。
【0056】
一実施形態は、プロシアニジンの含有量を変更するための方法であって、プロシアニジンを産生する培養物を、そのような培養を開始するために十分な条件下で開始し、生産的な細胞培養物を樹立するために十分な産生培地を樹立し、その後、プロシアニジンを単離するために適切な時間をかけて生産的な細胞培養物をスケールアップすることを含む方法を提供する。したがって、培養を開始するため、または生産的な培養物を樹立するために必要な条件を変更することにより、そのような培養物中のプロシアニジンの含有量(量)が変更される。植物の細胞培養の微環境の物理的側面(例えば、光照射)および/または化学的側面(例えば、培地の組成または化学エリシター)を変動させて所望の含有量の変更を実現することができる。
【0057】
例えば、培養物中のプロシアニジンの量を増加させるために、懸濁培地中の炭水化物(例えば、スクロースまたはグルコース)の濃度を増加させることができる。さらに、植物の細胞培養物における二次代謝産物の産生に対して、窒素の供給源(例えば、硝酸アンモニウム)を操作することができる(例えば、非特許文献37参照)。したがって、カカオ属またはヘラニア属の細胞培養物培地における窒素の供給源の濃度を低下させることを用いて、培養物におけるプロシアニジンの産生を増加させることができる。さらに、ある特定のアミノ酸(グルタミン、グリシンおよびセリンなど)を注入することも、二次代謝産物の産生に著しく影響を与える可能性がある。結果として、プロシアニジンの産生を増強させるために、カカオ属またはヘラニア属の懸濁培地中のこれらのアミノ酸の濃度を上昇させることができる。追加的なアミノ酸も培地に含め、カカオ属またはヘラニア属の懸濁培養によるプロシアニジンの産生を増加させるそれらの能力について試験することができる。
【0058】
カカオ属またはヘラニア属の懸濁培養におけるプロシアニジン量変動を達成するために照明条件を変えることも可能である。例えば、照明は照度や光の照射時間を増加することによって変えることができ、これによってプロシアニジン産生量を増加させる。
【0059】
また、プロシアニジン産生量を増加を達成するために照射光波長を変えることも可能である。例えば、紫外線は植物細胞培養においてアントシアニン産生を誘導することが知られている(非特許文献37)。
【0060】
植物の細胞培養の微環境を操作するための当技術分野で公知の他の変更も、本明細書の範囲内であるものとし、当業者によって実施されてよい。
【0061】
培養物からのココア細胞の回収
プロシアニジンを産生するカカオ属またはヘラニア属の細胞のバッチを、本明細書に記載の通り成長させ、細胞を回収してプロシアニジンを抽出する。懸濁細胞の回収は、いくつもの手段で実施することができ、その例は、本明細書に記載されている。
【0062】
いったん細胞培養物が静止期に達し、所望のプロシアニジン生産性に達したら、培養物を容器内で緻密な集団として安定させ、大部分が固体である細胞バイオマスを残して培地をデカントすることができる。次いで、細胞バイオマスを洗浄して残りの培地を除去し、同様にデカントする。あるいは、細胞懸濁物を遠心分離し、上清(培地)を捨て、その後、細胞集団を洗浄し、再度遠心分離して液体を捨てることができる。第3の選択肢は、細胞培養懸濁物を濾過して培地を除去することである。これらの方法のいずれかを、数ミリリットルから培養物数千リットルの産生規模の容積までにわたる容積の細胞培養物で使用することができる。
【0063】
抽出手順
回収した細胞集団を破砕、粉砕または摩砕して細胞集団をホモジナイズし、抽出溶媒と試料をよく接触させるため、および抽出された部分が試料全体を代表することを確実にするために細胞を壊した。
【0064】
プロシアニジンは不安定な化合物である。したがって、抽出する前に細胞バイオマスを保管する必要がある場合、例えば液体窒素で凍結させることによって、凍結させて保管することが好ましい。
【0065】
カカオ属またはヘラニア属の細胞培養物からの総ポリフェノールの抽出は、いくつかの主要な相違を除いて、カカオ豆から総ポリフェノールを抽出することに使用される手順と同様である。カカオ豆の場合は、豆を摩砕した後の最初のステップは、摩砕された薄片(粗挽き豆)を脱脂することである。このプロセスにより、ポリフェノールの損失が生じる。細胞培養物は豆と同じ量の脂肪を有さないので、このステップは必要ない。このステップを除くことにより、抽出するプロセスの間の、細胞培養物からのポリフェノールの損失が減少する。
【0066】
さらに、脱脂にはヘキサンなどの溶媒が必要であり、微量の溶媒が最終抽出物中に見出される。これが、カカオ豆から作製した抽出物の不快な匂いの原因となり、また、溶媒は毒性である可能性がある、または食品成分などのある特定の使用に望ましくない可能性がある。細胞培養物バイオマスから抽出するための本明細書に記載の方法は溶媒(ヘキサンなど)の使用を排除しているので、得られた抽出物において、溶媒のコンタミネーションまたは不快な溶媒の匂いはない。
【0067】
代表的な方法においてポリフェノールは、摩砕されホモジナイズされた細胞から、70〜80%の含水メタノールまたは70%の含水アセトン、またはそれらの組み合わせを用いて抽出される。水およびエタノールも使用されているが、これらの溶媒を使用するとオリゴマープロシアニジンは部分的にのみ抽出され、高分子量のポリマーは全く抽出されない(例えば、非特許文献39、非特許文献40参照)。
【0068】
微量な構成成分について徹底的に抽出した後、個々のプロシアニジンは、抽出物中に希薄なレベルで存在する可能性がある。濃縮を低温度(40℃未満)および減圧下で実現してプロシアニジンの分解を最小限にする(例えば、非特許文献40参照)。
【0069】
この段階におけるカカオ属またはヘラニア属の細胞培養物からのポリフェノール抽出物は比較的不純物を含まず、すぐに分析することができる。本明細書に記載の方法の1つの利点は、まず、細胞培養物由来のカカオ属またはヘラニア属のポリフェノールの抽出物が、豆のポリフェノール抽出物と比較して、検出不可能なレベルの不純物(例えば、カフェインおよびテオブロミン)しか有さないことである。しかし、カフェインおよびテオブロミンなどの微量の不純物を除去するためのさらなるクリーンアップを行うことが有益であり得る。抽出物をクリーンアップして微量のこれらの不純物さえも除去することが可能である。そのようなクリーンアップステップは、非混和性溶媒を用いた液−液分配、およびSephadex LH−20、ポリアミド、Amberlite XAD−2、調製用HPLCでのカラムクロマトグラフィー、ならびに市販の使い捨てカートリッジを使用した固相抽出(SPE)を含んでよい(例えば、非特許文献39、非特許文献41参照)。テオブロミンおよびカフェインの除去は、通常、大部分のフラボノイドのクロロホルムまたは塩化メチレンなどの溶媒への溶解性が限られているので、クロロホルムまたは塩化メチレンを用いた抽出によって実現することができる。
【0070】
分析手順
カカオ属またはヘラニア属の細胞培養物からプロシアニジンを検出し同定するために使用される分析的な技法は、豆からの抽出物に対して使用される技法と同様である。ココアプロシアニジンの同定は、主に、オリゴマーを分離するためのさまざまなクロマトグラフィーの技法、次いで構造的に特徴づけるための独立した方法を使用して実現されている。Quesnel(例えば、非特許文献42参照)ならびにJalalおよびCollin(例えば、非特許文献43参照)は、それぞれペーパークロマトグラフィー法およびTLC法を使用してココア中のプロシアニジンを同定した。しかし、これらの刊行物によりココア中にプロシアニジンが存在することが認められたが、プロシアニジンの立体特異的な構造は解明されなかった。Porterら(例えば、非特許文献8参照)は、カラムクロマトグラフィー、TLC、HPLCおよび陰イオンFAB/MSを使用してココア中のプロシアニジンの厳密な調査を行って七量体を通してプロシアニジンオリゴマーの存在を立証した。さらに、彼らはNMRを使用して四量体を通してプロシアニジンの構造を確認し、プロシアニジンが主に(−)−エピカテキンからなることを見出した。プロシアニジンオリゴマーを特徴づけるためにカラムクロマトグラフィー、逆相HPLC、および陽イオンLSIMSの組み合わせを使用したClappertonらにより、八量体を通したココアプロシアニジンオリゴマーの証拠が報告された(例えば、非特許文献45参照)。この研究により、陽イオンLSIMSの有用性および大きなプロシアニジンオリゴマーを同定する手だてとしてのナトリウム付加物の使用が実証された。残念ながら、これらの方法は全て面倒で、構造情報を得るために長い調製時間を必要とし、多数の細胞培養物試料のハイスループットな分析およびスクリーニングをしにくい。また、これらの方法は、少量の試料には適さない。
【0071】
本開示のために、我々はカカオ属またはヘラニア属の細胞培養物からプロシアニジンを抽出するためのハイスループットな微小規模の方法、プロシアニジンの単量体およびオリゴマーを迅速に分離するための逆相HPLC法、ならびにプロシアニジンオリゴマーをそれらの分子の特徴に基づいて同時に同定するための質量分析(MS)法を開発した。
【0072】
カカオ属またはヘラニア属の細胞培養物の大規模なプロセス最適化
大規模な植物の細胞培養は、商業的なプロセスの開発において重要な技術である。大規模な植物の細胞培養物は、微生物発酵において使用されるものと同様の大きなタンクにおいて実施することができる。これらのタンクにおける生産性の増強は、大規模なプロセスに特徴的な細胞の成長および産生に基づいて生体分子因子を決定することによって、およびプロシアニジンの生産性を増強する大規模なバイオプロセスの変動を最適化することによって実現することができる。生体分子因子としては、培地の構成成分、エリシター(elicitor)および生合成経路の前駆物質が挙げられる。スケールアップのプロセスの目的は、小規模において最適であることが観察された条件を大規模において再現することであるので、大規模なプロセスの前に、これらの因子をフラスコ規模のプロセスにおいて試験するべきである。しかし、大規模なバイオリアクター培養における条件は、フラスコ規模の培養におけるカカオ属またはヘラニア属の懸濁細胞と異なってよい。培養物のマクロな動態は、輸送の限界によって引き起こされる、懸濁細胞に影響を与える環境条件の変化の影響を受ける。例えば、成長の動態のパラメータは規模に無関係であるが、容器内の細胞培養物の全体的な成長は、気体状の溶解した栄養分および代謝産物の輸送規模に依存するので、規模に依存する(例えば、非特許文献46参照)。したがって、ココアプロシアニジンを産生させるためのバイオリアクターのプロセスにおけるスケールアップでは、成長速度、産物形成速度、栄養分の取り込み速度、および呼吸速度の必須データをもたらすために、いくつもの基礎実験を実施する。
【0073】
一般に、植物の細胞培養物における高い生産性は、細胞濃度および特定の生産性を上昇させることによって実現することができる。最大の細胞濃度は、栄養分の供給、基質当たりのバイオマスの収率および含水量に左右される。基礎データに基づいて、追加的な環境因子を1つずつ変動させる、または多数の因子を一度に変動させてバイオマスを増加させることができる。通気速度、懸濁培養物の流体力学的性質などのバイオプロセスの変数がバイオリアクターにおける物質移動および混合に影響を及ぼし、今度は、細胞の成長だけでなく、植物の二次代謝産物の産生にも影響を及ぼす。したがって、大部分のポリフェノールは通常成長に関与しない化合物であるので、二段階の培養を検討することができる。一段階のプロセスでは、理想的に言えば培養物が一段階の成長速度およびおそらく一段階の発生段階に制限され、この操作は、成長に関与しない化合物を産生させるためにいくつかの発生段階が必須である場合に適さない。通気速度、撹拌速度、混合に関連する他の変数および培地の組成までもの変数を、成長段階および産生段階に対して別々に最適化する。しかし、全ての条件を最適に保つと同時にプロセスをスケールアップすることは不可能である。どの変数が最も重要だと考えられるかに応じて選択を行わなければならない。
【0074】
炭素の供給源および窒素の供給源の相対量は二次代謝産物の生合成および細胞の成長を増強することにおいて重要な役割を果たすので、成長および産生に対する炭素の供給源および窒素の供給源を補充することの影響も、炭素および窒素の消費量の基礎的な技術データに基づいて試験する(例えば、非特許文献47参照)。したがって、酸素および二酸化炭素の供給について試験することができる。酸素に加えて、二酸化炭素によって植物の細胞培養物における細胞の成長および二次代謝産物の産生が改善されることが報告されている(例えば、非特許文献48、非特許文献49参照)。植物細胞の酸素需要量は、細胞の成長段階では比較的少ないが、代謝産物の合成中に著しく増加する可能性がある。カカオ属またはヘラニア属の細胞のリアクター培養においてこれらの気体を最適に利用するために、これらの気体のレベルを制御する。大規模な発酵では、実験室規模で導入することができる量と同じ量の気体(空気、酸素など)を導入することは不可能である。したがって、バイオリアクターのプロセスの間、見かけの気体の速度を一定にするために、物質移動係数定数を維持するべきである。
【0075】
代謝産物の形成および分泌を刺激するためにエリシターを使用することは、重要なプロセス戦略である。高い産生濃度、例えば容積測定の生産性に達するために必要なプロセスの時間を減少させることは非常に有用になっている。さらに、誘発の結果、新規の化合物が形成され得る(例えば、非特許文献50参照)。いくつかの生物的/非生物的な候補を用いた誘発の最適化を大規模なリアクター培養物において試験して、それらの候補をいつ処理するべきか、どれだけの投薬量が最良か、細胞をそれらの候補にどのくらい曝露させるか、およびいつ細胞を回収するべきかについて最適化する。生産性を増強するために、複数のエリシター処理を用いた相乗効果についても、エリシターのそれぞれが生合成経路内の異なる種類の酵素を誘導する可能性があるので、試験する。
【0076】
リアクターの運用方法は、成長、産生およびそれらの関連性についての細胞動態に左右される。前述の通り、本試験における標的化合物は成長に関与せず、これは二段階の培養プロセスを検討しなければならないことを意味する。したがって、産生時間がバイオマスを成長させるために必要な時間よりも相当長い場合、流加培養が特に魅力的な選択肢であり、この場合、続くバイオリアクターの容積内で多数のステップが可能であり、それにより一連のバイオマスおけるバイオリアクターの数が少なくなる。
【0077】
V.プロシアニジンの使用および投与
本明細書に開示されている方法によって生成したプロシアニジンを、治療、食事、または化粧の目的のために対象に投与することができる。対象は、ヒト、またはサル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、マウスもしくはラットなどの哺乳動物であってよい。
【0078】
治療用途に関して、プロシアニジンを使用してアテローム性動脈硬化、循環器疾患、癌、血圧変調および/または高血圧などのいくつかの障害または疾患を治療または予防することができる。例えば、プロシアニジンを、腫瘍が発生する危険性がある対象、腫瘍を有する対象、または以前に腫瘍の治療をした対象に予防的に投与することができる。腫瘍の治療としては、これらに限定されないが、腫瘍の外科的除去、化学療法、免疫療法または放射線療法が挙げられる。他の実施形態では、本明細書に開示されている方法によって生成したプロシアニジンは、少なくとも1種の追加的な作用剤と組み合わせて、腫瘍の治療の前、それと同時、またはその後のいずれかに対象に投与される。追加的な作用剤は、腫瘍の成長を阻害する、または低減させる、本明細書に記載の別の作用剤であってもよい。あるいは、追加的な作用剤は、対象の、腫瘍の成長を阻害する能力を改善する作用剤または腫瘍の治療の過程中に対象が感染と戦うのに役立つ作用剤(抗生物質など)であってよい。例えば、追加的な作用剤は、サイトカインなどの、免疫系を刺激する作用剤であってよい。
【0079】
本明細書で提供される方法によって生成したプロシアニジンは、任意の種類の腫瘍が発生する危険性がある対象または任意の種類の腫瘍に罹患している対象に投与することができる。腫瘍は、良性腫瘍または悪性腫瘍であってよい。腫瘍は、細胞腫、肉腫、白血病、リンパ腫または神経系の腫瘍を含んでよい。いくつかの特定の非限定的実施形態では、腫瘍は、乳腺腫瘍、肝腫瘍、膵腫瘍、胃腸腫瘍、結腸腫瘍、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、頸部腫瘍、精巣腫瘍、前立腺腫瘍、脳腫瘍、皮膚腫瘍、メラノーマ、網膜腫瘍、肺腫瘍、腎腫瘍、骨腫瘍、骨肉腫、上咽頭腫瘍、甲状腺腫瘍、白血病またはリンパ腫を含む。一般に、本明細書で提供される方法によって生成したプロシアニジンは、腫瘍の成長を予防または阻害するために十分な量で対象に投与される。
【0080】
他の実施形態では、プロシアニジンは、アテローム性動脈硬化、循環器疾患または高血圧症が発生する危険性がある対象に予防的に投与することができる。あるいは、プロシアニジンは、アテローム性動脈硬化、循環器疾患または高血圧症などの現在の状態を治療するために対象に投与することができる。組成物は、抗悪性腫瘍薬、抗酸化剤またはアテローム性動脈硬化、循環器疾患、血圧変調および/または高血圧に関連する症状または状態を軽減する作用剤などの他の作用剤と一緒に投与すること、または逐次的に投与することができる。
【0081】
さらに、本明細書に開示されている方法によって生成したプロシアニジンは、食事組成物に使用することができる。液状で経口投与する場合、液体は水ベース、牛乳ベース、茶ベース、果汁ベース、またはいくつかのそれらの組み合わせであってよい。内用的に投与するための固体製剤および液体製剤は、増粘剤、甘味料をさらに含んでよい。
【0082】
本明細書に開示されている方法によって生成したプロシアニジンは、対象の皮膚の質または外見を改善するために化粧品組成物においても使用することができる。皮膚の外見、きめおよび水分の改善は、プロシアニジン組成物を外用的に、内用的に、またはいくつかのそれらの組み合わせで投与することによって実現することができる。許容される担体が組成物の構成要素に対する溶媒、担体、希釈剤または分散剤としてさまざまに作用し得、それによって構成要素を皮膚の表面に適切な希釈度で均一に塗布することが可能になる。許容される担体によって組成物の皮膚への浸透を容易にすることもできる。
【0083】
開示されている方法によって生成したプロシアニジンを含有する組成物は、医薬品、食品および飲料組成物を含めた幅広い最終製品において有用であり、また製薬技術分野の当業者に周知の標準の技法に従って調製することができる。活性薬剤を含む医薬組成物は、選択された特定の投与方式に応じて適切な固体担体または液体担体と一緒に製剤化することができる。本開示において薬学的に許容される担体および賦形剤は従来のものである。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、他の平衡塩類溶液、ブドウ糖液、グリセリンまたは同様のものなどの、薬学的および生理学的に許容される流動性ビヒクルである注射液を含む。含めることができる賦形剤は、例えば、ヒト血清アルブミンまたは血漿調製物などの他のタンパク質である。所望であれば、投与されるプロシアニジン組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存料およびpH緩衝剤などの少量の無毒性の補助物質、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートも含有してよい。
【0084】
注射液に加えて、局所製剤および経口製剤も使用することができる。経口製剤は、液状(例えば、シロップ剤、飲料剤、液剤もしくは懸濁剤)または固形(例えば、散剤、丸剤、錠剤もしくはカプセル剤)であってよい。固形組成物用の従来の無毒性の固体担体としては、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。局所調製物としては、点眼剤、軟膏剤、クリーム剤、スプレー剤などを挙げることができる。局所投与に適した本発明の製剤は、組成物の構成要素に対する溶媒、担体、希釈剤または分散剤と混合し、その構成要素を皮膚の表面に適切な希釈度で均一に塗布することを可能にすることが好ましい。許容される担体によって組成物の皮膚への浸透を容易にすることもできる。
【0085】
プロシアニジン組成物の剤形は、選択された投与方式によって決定される。そのような剤形を調製する実際の方法は、当業者に公知である、または明らかになる。
【0086】
本開示の方法によって生成したプロシアニジン組成物は、ヒトまたは哺乳動物の細胞に対して投与することができ、それらは局所的、経口的、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、皮内、くも膜下腔内、および皮下などのさまざまな様式において有効である。特定の投与方式および投薬レジメンは、当業者によって、事例の詳細(例えば、対象、疾患、関連する病態、および治療が予防的であるかどうか)を考慮して選択される。治療は、数日から数ヶ月、または数年までもの期間にわたって、1日用量または複数日用量の(1つまたは複数の)化合物を含んでよい。
【0087】
そのような組成物は、そのような投与を必要とする対象に、特定の対象の年齢、性別、体重および状態ならびに投与経路などの因子を考慮に入れた投薬量および医学、栄養または獣医の技術分野の当業者に周知の技法で投与することができる。
【0088】
治療用途、食事用途、化粧品用途および動物用途の組成物の調製、投薬量および投与は、当技術分野で周知である(例えば、全て参照として本明細書に組み込まれている、特許文献2〜10を参照されたい)。
【0089】
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または実施形態を例示するために提供される。これらの実施例は、記載されている特定の特徴または実施形態に本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
花の組織からのカカオカルスの誘導および増殖
緻密なカルス凝集塊を、炭素の供給源として[D+]−グルコースを使用した制御条件下で、オーキシン(2mg/Lの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D))、サイトカイニン(0.005mg/Lのチジアズロン(thisdiazuron)(TDZ))および他の補充物(250mg/LのL−グルタミン、100mg/Lのミオイノシトール)で強化した全強度のドライバー−クニユキのクルミ(Driver and Kuniyuki walnut;DKW)培地を使用して樹立した(表1の培地I)。培地を、pHを5.8に調整した後、オートクレーブすることによって滅菌した。カカオの未成熟の花材料の試料を、いくつもの栽培した植物から採取した。培養物のコンタミネーションを防ぐために、材料を培地に導入する前に、材料の表面を滅菌した。まず、材料を1%(w/v)の次亜塩素酸ナトリウムに20分間浸漬し、5分ごとに穏やかに撹拌した。無菌条件下で材料をデカントし、滅菌脱イオン水で3回すすぎ、各すすぎの間、穏やかに撹拌した。最終的にすすいだものをデカントし、花芽のみを滅菌ペトリ皿に移した。花芽を、滅菌小刀を使用して基部から花の長さの3分の1部分で横方向に切断した。仮雄ずい、がく片および花弁底部の外植片を、切断末端の開口部を通じて抽出した。
【0091】
抽出された材料を、固体カルス誘導培地に播いた。約50個の外植片を、各皿の端から端まで表面全体に分布させた。ペトリ皿をパラフィルムで密閉し、25℃で14日間、暗闇で維持した。10日後に相当なカルス形成が観察された。花の部分をカルス誘導培地においてから14日以内に、カルスを外植片から分離し、表1に列挙されている培地I、培地IIおよび培地IIIのカルス増殖培地に置いた。4週間間隔で、急速に成長している細胞をカルスの表面から単離し、新鮮な培地で継代培養した。やや白色から淡黄色を示す急速に成長している細胞株を継代培養のために選択した(図1)。
【0092】
(実施例2)
栄養組織からのカカオカルスの誘導および増殖
カルスを、オーキシン(2mg/LのIAAおよび4mg/LのIBA)、サイトカイニン(0.005mg/LのTDZ)およびL−グルタミン(250mg/L)を補充したムラシゲ−スクーグ(Murashige and Skoog;MS)培地で、炭素の供給源としてグルコース(20g/L)を用いて樹立した(表1の培地XXVII)。培地を、pH5.8に調整した後、オートクレーブすることによって滅菌した。カカオの栄養材料試料(幼葉、成葉、節および節間)をいくつもの温室栽培された植物から採取した。培養物のコンタミネーションを防ぐために、材料を培地に導入する前に、材料の表面を滅菌した。まず、材料を70%のエタノールに1分間浸漬し、その後25%の漂白剤に10分間浸漬し、5分間ごとに穏やかに撹拌した。無菌条件下で材料をデカントし、滅菌脱イオン水で3回すすぎ、各すすぎの間、穏やかに撹拌した。葉を5mmの正方形に切断し、節および節間を1〜2mmの円柱状に切断し、固体培地を含有するプレート上に外植した。プレートを25℃、暗闇で維持した。プレートを毎日コンタミネーションの兆候について観察し、コンタミネートした材料は廃棄した。4週間後にカルス形成が観察された。6週間後、カルスを外植片から分離し、上記および培地XXVII(表1)に示したカルス増殖培地に置いた。しかし、開始後、カルスは非常に急速に増殖し、樹立された。新しく形成された細胞をカルスの表面から単離し、2週間間隔で新鮮な培地で継代培養した。淡黄色から淡褐色を示す急速に成長している細胞株を継代培養のために選択した。
【0093】
ココアのカルスを樹立した後、培地XXVII中の高含有量のオーキシンによって細胞の成長が遅延し、次の世代で極めて褐色のカルスが形成され、これは細胞がストレスを受けたことを示しているので、カルスの持続可能性に対する少量のオーキシンの影響を試験する必要があった。さまざまな培地を、ココアのカルスを持続させるその能力ならびに細胞懸濁物の創出に対する維持培地の下流効果について試験した。培地XXVIIは、20g/Lのグルコースおよび7g/Lの寒天を有するMS培地に補充された6mg/Lのオーキシン(2mg/LのIAAおよび4mg/LのIBA)、2×MSビタミンおよび250mg/Lのグルタミンを有した。維持するために、培地中のオーキシンを4mg/L(2mg/LのIAAおよび2mg/LのIBA、表1の培地XXVIII)およびIBAの形のオーキシン2mg/L(表1の培地XXIX)に減少させた。
【0094】
オーキシンを4mg/Lに減少させることにより、カルスの色が濃褐色から淡褐色から黄色まで改善された。カルス細胞の成長は活発なレベルまで戻った。培地XXVIIで継代培養された健康なカルスから樹立された細胞懸濁培養物と同じ容易さで細胞懸濁培養物が樹立された。
【0095】
2mg/Lのオーキシンを有する培地では、カルスの色が変化し、細胞の成長が活発なレベルまで戻った。しかし、これらのカルスを同じ培地上で継代培養したとき、カルスの細胞の成長は、培地XXVIII上のカルスと比較して低減した。
【0096】
オーキシンを2mg/Lに減少させた後、グルタミンを除去すること(表1の培地XXXI)と余分のMSビタミンを除去すること(表1の培地XXX)を併せた、成長に対する影響も記録した。これらの2種の培地からのカルスは、培地XXIX上のカルスの成長特性と異なるようにはみえなかった。しかし、培地中に余分のビタミンが存在することがプロシアニジンの産生に関して有利であることがわかった。長期間のカルスの持続を可能にし、また細胞懸濁物の容易な樹立およびプロシアニジン生産性の維持も可能にしたので、ココアの栄養カルスを維持するための最良の培地は培地XXVIIIであった。
【0097】
(実施例3)
クプアスおよびテオブロマ オボバツムのカルスの誘導および増殖
クプアスおよびテオブロマ オボバツムのカルス培養物を、実施例1および実施例2においてカカオについて記載されている方法などの方法を使用して樹立した。
【0098】
(実施例4)
懸濁の開始
細胞懸濁培養物を、実施例1に記載の花の外植片から生じた白色の新鮮なカルスを、20種の異なる液体培地(培地IV〜XXIII;表1)25mlを含有する125mlのエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに播種することによって樹立した。フラスコをシリコーンフォームのキャップで覆い、54日間、完全な暗闇下、24+1℃にサーモスタットで制御された部屋で旋回振とうを用いて120rpmで撹拌した。必要であると思われれば、毎週または隔週、継代培養物を移した。顆粒状の細胞懸濁物または細密な細胞懸濁物のいずれかとして形成された培養物を保持し、一方懸濁培養物を形成しなかった培養物は廃棄した。14日間細胞を成長させた後、10%(v/v)の細胞を、新鮮な培地25mlを含有する新しい125mlのフラスコに移し、その後、隔週で継代培養した。培地VIIIが懸濁細胞の開始における細胞増殖の最良の性能を示した(14日目で45%のPCV)。
【0099】
花ではない(栄養)組織(節、節間、幼葉、成葉)の懸濁物を生じさせるために、実施例2において生成したカルスを、花の外植片について上記したのと同様に液体培地に移した。使用した培地は、塩の種類に関して通常の維持培地VIIIと異なり(DKW塩ではなく、含有するアンモニウムおよび窒素の供給源が多く、硫酸が少ないMS塩)、オーキシンとして2,4−Dの代わりに2mg/LのIAAおよび4mg/LのIBAを含む培地XXIVであった(表1)。この培地では、懸濁培養物は迅速に樹立され、カルスが7日のうちに培地中の全ての糖を消費したのに対して、培地VIIIにおいて開始したカルスが炭水化物の供給源を全部消費するのには通常2から3週間かかる。これらの樹立された花ではない組織の懸濁物のプロシアニジン生産性も、花の組織から生じた懸濁物のプロシアニジン生産性よりも高かった(培養物1L当たり総プロシアニジン1.1g)(図1OAおよび図10B)。
【0100】
(実施例5)
懸濁細胞の成長
本実施例は、懸濁物の細胞成長を増加させるために使用する方法について記載する。
【0101】
細胞培養物の生産性は、細胞の成長速度および細胞の成長が停止する密度の関数として増加する。最適な播種密度を決定するために、カカオ細胞の懸濁培養を、出発時の細胞密度を10%、15%および20%(v/v)で開始し、14日間成長させた。図2に、バイオマス密度の典型的な経時変化を播種密度の関数として示している。10%の細胞密度で開始した培養物は、成長に有意な遅れを示し、14日以内に最大密度に達しなかった。培地VIIIにおいて15%の細胞密度で開始した培養物および20%の細胞密度で開始した培養物は、13日以内に密度が倍になり、14日以内に最大平均細胞密度が40〜43%に達した。しかし、細胞選択プロセスの14日後に、同じ培養物が示した培養物の総容積に対する細胞容積の割合(PCV)は50〜60%を超えた。
【0102】
培地VIIIおよび培地Iは、培地VIIIがPhytagelを含有しないこと以外は同一の処方である。これらの培地はどちらも、培地の構成成分のバッチ間の変動につながり得るいくつかの原液を使用して調製したDKW塩およびDKWビタミンに基づく。したがって、培地XXXIIは、予備混合したDKW基礎塩(Phytotechnology Laboratories、LLC、カタログ番号D190)を使用して創出し、懸濁細胞の成長を培地VIIIと培地XXXIIとで比較した。どちらの培地においても細胞の成長に有意な差異はなかった。したがって、懸濁培養物を維持するために決まって培地XXXIIを使用した。
【0103】
クプアスおよびテオブロマオボバツム(Theobroma obovatum)を用いて同様の試験を実施する。細胞培養物の生産性は、細胞の成長速度および細胞の成長が停止する密度の関数として増加する。最適な播種密度を決定するために、クプアスおよびテオブロマ オボバツムの細胞の懸濁培養を、出発時の細胞密度を10%、15%および20%(v/v)で開始し、14日間成長させた。
【0104】
一般に、高密度で開始した培養物は成長期間が短い、または最大の細胞密度に早く達する。10%の細胞密度で開始した培養物は成長に有意な遅れを示し、14日以内に最大密度に達しなかった。15%の細胞密度で開始した培養物および20%の細胞密度で開始した培養物は、13日以内に密度が倍になり、14日以内に最大平均細胞密度が40〜43%に達した。この成長速度は、イチイ(Taxus)種などの他の植物の細胞懸濁培養物について以前報告された成長速度よりも遅い。しかし、カカオ属の細胞培養物の細胞の成長は、以下の実施例6に記載の通り、成長培地のさらなる最適化および厳密な細胞選択によって増加させることができる。
【0105】
(実施例6)
栄養細胞の懸濁培養物から均一な細胞株を創出するための細胞選択プロセス
新しく創出された細胞懸濁培養物は、通常、不均一な細胞の混合物である。この不均一性により、大規模な懸濁培養物において細胞の成長が不均衡になり、所望の代謝産物の産生パターンが不安定になる。大規模な産生に適した均一な細胞培養物は、これらの不均一な混合物から、所望の特性を有する培養物を継代培養し、選択することによって得ることができる。このプロセスを補助するために選択的かつ迅速なスクリーニングを開発してポリフェノールおよび細胞の成長を検出した。実施例8に記載のブタノール−HCl加水分解法を用いてポリフェノールの蓄積をモニターし、培養物の総容積に対する細胞容積の割合(PCV(%)=細胞容積×100/培養物の総容積)をバイオマスの尺度として使用した。細胞代謝の尺度として、炭水化物の消費速度を屈折率(Brix%)によって測定した。
【0106】
栄養組織(節)由来の懸濁培養物を実施例2および実施例4に記載の通り、カルスから得た。良く成長している1つの細胞株(MX1440−3496)を選択し、基本培地(DKW塩対MS培地)の種類およびホルモンの種類と量が異なる3つの別々の培地(表1の培地XXXII、培地XXXIIIおよび培地XXXIV)中で成長させた。培地XXXIIおよび培地XXXIVにおける培養物の総容積に対する細胞容積の割合(PCV)は7日目にちょうど33.7±4.7%および25.7±4.0%であり、これにより培地XXXIII(47.6±6.6%)よりも遅い成長が示された。細胞の成長速度は、細胞培養プロセスにおける容積測定の生産性を最大化するために極めて重要である。培地XXXIIIは、使用済みの培地の屈折率(RI)によって測定した炭水化物の消費速度でも優れていた。したがって、MX1440−3496細胞株に対するさらなる細胞選択プロセスのための維持培地として培地XXXIIIを選択した。
【0107】
大きなまたは塊状の細胞集合体を選択すると細胞の能力が不十分になるので、容積測定の生産性を増加させ凝集した細胞を排除するために、各継代培養時になるべく塊状ではない、または集合体を形成していない、良く成長している細密な細胞を選択した。したがって、選択された細胞は主に黄色の細密な細胞形態を有し、細密な懸濁培養物が良好に成長し、均一な懸濁培養物が産生される。MX1440−3496細胞株は、最初は10日を超える倍加時間で成長したが、細胞選択プロセスを実行した後、倍加時間は5日への減少を示した(図3)。総プロシアニジン産生レベルは、最初、細胞選択プロセス前は0.5g/L PCVであったが、細胞選択プロセスで8.9倍(4.7g/L PCV)に増加した(図4)。
【0108】
(実施例7)
カカオ属のカルス培養物および懸濁培養物からのポリフェノールの抽出
本実施例では、実施例1〜4において作り出されたカカオ属培養物のカルスおよび懸濁細胞からポリフェノールを抽出するために開発した方法について記載する。本実施例における実験では特にカカオの培養物を使用した。ポリフェノールを、0.1%のH2SO4を含む50%(v/v)のエタノール1.5mlを用いて新鮮重およそ0.25±0.04gのカルスから、および0.1%のH2SO4を含む80%(v/v) メタノール1.5mlを用いて乾燥重量0.1±0.003gの懸濁細胞(培地上清ではない)から抽出した。細胞を微小遠心管(2.0ml)内に置き、ビーズミル(bead mill)ホモジナイザーで1分間ホモジナイズした。ホモジネートを3500rpmで20分間遠心分離し、上清のみを別の微小遠心管に移した。
【0109】
大量の懸濁細胞培養物をスクリーニングする必要がある場合、より強力なハイスループットな方法を以下の通り使用した:分析される細胞培養物の各フラスコから、1mlを96ディープウェルプレートに分注した。96ディープウェルプレートに移す前に、試料の、培養物の総容積に対する細胞容積の割合(PCV)も記録した。プレートを卓上遠心機で、6000rpmで4分間遠心分離することによって各ウェル内の細胞をペレット状にした。各ウェルからの上清を、プラスチックのホールピペットで取り出し、廃棄した。次に、抽出溶媒(80:20のメタノール:水)0.5mlおよび炭化タングステンビーズを各ウェルに加え、プレートをMixer Millに置いて細胞を15Hzで2分間摩砕した。次いで、プレートを遠心機に移し、6000rpmで4分間遠心分離することによって細胞片をペレット状にした。
【0110】
(実施例8)
培養物におけるポリフェノール産生の予備分析
プロシアニジンの分析反応を行うために使用した方法は、元のSwainおよびHillisの方法(例えば、非特許文献51参照)およびPorterらの方法(例えば、非特許文献52参照)にかなり厳密に近づくように設計した。ブタノール−HCl抽出アッセイを使用してカカオの懸濁細胞の抽出物中のポリフェノールを測定した。含水メタノール抽出物0.1mlおよびブタノール−HCl試薬1.0mlを合わせ(95:5 v/v)、その溶液をQiagen deep well block(Valencia、CA、USA)内で、75℃で60分間加熱することにより、ポリフェノールが加水分解されて単量体の(−)−エピカテキンおよびシアニジンになる。加水分解された試料中にシアニジンが存在することは、淡紅色の形成によって観察された。280nmおよび520nmにおける吸光度を決定し、Chromadex、Inc.(Irvine、CA)から購入した種々の濃度のプロシアニジンB2を使用して作成した検量線を使用して、形成されたシアニジンの量に基づいてプロシアニジン含有量を算出した。明るい淡紅色により、懸濁培養物中のプロシアニジンの濃度が高いことが示される(図5)。この方法に基づいて、いくつかの懸濁培養物のプロシアニジン含有量は250mg/Lから1000mg/Lまでの範囲であった。
【0111】
(実施例9)
カカオ細胞からのポリフェノールの分析
実施例7からの含水メタノール抽出物を0.45μMのミリポア(Millipore)フィルターを通して濾過し、試料100μlをLC−MS分析に投入した。Symmetry C18カラム(100×2.1mm i.d.、3.5μm)(Phenomenex、Torrance、CA、USA)を使用した。CTC Analytics PALオートサンプラー(Leap Technologies、Carrboro、NC、USA)、600S Controllerを伴うWaters 626ポンプおよび190nmから780nmからスキャンするWaters 2996光ダイオード−アレイ検出器(PDA)を備えたWaters(Milford、Massachusetts、USA)Alliance HPLCシステムを使用してLC分析を実施した。データ解析のためにMassLinx(商標)を使用した。水−0.1%のギ酸(溶媒A)およびアセトニトリル−0.1%のギ酸(溶媒B)を1分当たり0.3mlの一定の流速で用いて勾配溶離を行った。以下の比率(v/v)の溶媒Bを用いた直線勾配プロファイルを適用した(時間(分)、%B):(0、7)、(5、15)、(20、75)、(25、100)、(35、100)、(35.1、7)(45、7)。(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、カフェイン、テオブロミンおよびプロシアニジン(二量体から六量体)である化合物を280nmでモニターした。Waters Quattro Micro 三重極−四重極(triple-quadrupole)質量検出器(Milford、Massachusetts、USA)を使用してMSデータを得た。カルスに対するプロファイル方式でm/z150から1200までの、および懸濁細胞に対してm/z150から1800までスキャンして、フルスキャンデータの取得を実施した。カテキン、エピカテキン、テオブロミンおよびカフェインに対する信頼できる標準物質はChromadex.Inc(Irvine、CA)から購入し、それぞれの、含水メタノールへの適切な希釈物も、懸濁細胞からの抽出物と同じLC−MS分析に供した(図6Aから図6C)。
【0112】
個々の脱脂したカカオ種子中の主要なアルカロイドであるテオブロミンおよびカフェインのレベルを決定し、それぞれ乾燥重量当たり25.2mg/g、および乾燥重量当たり4.6mg/gであった。対照的に、カカオの懸濁細胞は測定可能なカフェインおよびテオブロミンを産生しなかったが(図6Eおよび図6F)、種子と匹敵するレベルのカテキンおよびエピカテキンを産生した(図6D)。これらの結果は、植物の細胞培養により、不要な化合物によるコンタミネーションは少なく、高濃度の対象の化合物を産生することができることを実証している。
【0113】
(実施例10)
花由来の細胞懸濁物の細胞選択および培地の最適化プロセス
培養の7日ごとにバイオマスの増加、糖の消費量およびプロシアニジン生産性を測定した。これらのデータは望ましい細胞選択プロセスのために非常に重要である。良く成長している細胞をPCVおよび糖の消費量の測定値に基づいて優先的に選択し、次いで、良く成長している細胞株の中で良く産生している細胞株をプロシアニジンの産生収率に基づいて選択した。バイオマスが高く、プロシアニジンの産生収率が高いとバッチサイクル内の生産性を増加させることができる。細胞選択プロセスの前の平均プロシアニジン生産性は培養物1L当たりプロシアニジン52mgであり、これは細胞選択プロセスの1年後に最大1L当たり251mgのレベルまで改善し、実現された最高レベルは培養物1L当たりプロシアニジン1600mgであった(図10C)。最高の産生収率も同様に、5000mg/L PCV超に上昇した(図10D)。
【0114】
過半のB5塩および微量のMS塩を使用し、したがって通常の維持培地である培地VIIIと比較して培地中のアンモニウムイオン濃度が低い培地XXVを開発した。炭水化物の供給源は60g/Lのスクロースであり、ホルモンは、2mg/Lの2,4−Dおよび0.005mg/LのTDZと対照して、0.1mg/LのNAAおよび0.2mg/Lのカイネチンであった。2週間の間に、培地XXVにおいて試験された懸濁物は成長を示さなかったが、懸濁物中に、対照培地VIIIにおいて蓄積したプロシアニジンよりも4倍多いレベルまでプロシアニジンが蓄積した(培地VIIIで22mg/Lと比較して、培地XXVで95mg/L)。これは、オーキシンと比較してサイトカイニンが過剰であったのに加えて、この培地中の硝酸イオン/アンモニウムイオン比が高かったことに起因した可能性がある。
【0115】
MS塩、30g/Lのスクロースおよび1.5mg/Lの2,4−Dを用いて培地XXVIを開発した。この培地に移した懸濁培養物は、13日目に、対照培地VIIIにおいて蓄積したプロシアニジンよりも4倍多いレベルまでのプロシアニジンの蓄積を示した(培地VIIIで22mg/Lと比較して、培地XXVIで87mg/Lのプロシアニジン)。一方、細胞の成長は2つの培地間で比較的類似しており(培地XXVIにおいて25%のPCVから60%のPCVと比較して、培地VIIIにおいて22%のPCVから61%のPCV)、糖の消費量は異なり、これは細胞が炭水化物の供給源としてグルコースを好むことを示している(図10E)。
【0116】
(実施例11)
生産性を増強するためのグルコースの添加
本実施例では、追加のグルコースを添加することによってカカオの懸濁培養物のプロシアニジン生産性を増加させるためのプロトコールの開発について記載する。
【0117】
植物の二次代謝産物の産生を、培地を成長培地から産生培地に交換することによって誘導した。産生培地を最適化するために、炭水化物の供給源または窒素の供給源のいずれかを決定的因子として考えることができる。花由来の懸濁培養物および栄養組織由来の懸濁培養物からのプロシアニジンの産生を増強するために、対数増殖期の終わりにグルコースの形で追加的な炭水化物を使用した。
【0118】
グルコースを添加することによって、花の組織由来の懸濁物細胞株(MX1241−58)からプロシアニジン生産性における有意な改善が得られた。7日間、培養物を培地XXXII中、実施例5に記載の標準の培養条件下で普通に維持した。7日目に、グルコースを添加する前にMX1241−58細胞培養物を試料採取し、そのPCVおよびRIは、平均で49.5±3.5%および0.2であった。平均のプロシアニジン産生レベルは189.5±17.7mg/L PCVであった。7日目に、50%のグルコース原液5mlを懸濁培養物に添加してRIを3%超に調整し、その後、培地中のグルコース濃度が0.5%を下回ったときにこれを繰り返した。グルコースを添加した後、フラスコ内の培養物をおよそ10秒手で勢いよく振り、濃縮されたグルコースを懸濁物中に分散させ、RIを再度測定し、それは平均で3であった。3〜4回、異なる培養日(7日目、11日目、16日目および21日目)にグルコースを添加し、1回新鮮な培地を添加した(25日目)ことで、プロシアニジンの産生レベルが最大4.4g/L PCVまで上昇し、これはその初期値よりも24倍高く、PCVは49.5±3.5%から69.0±1.4%まで上昇した。
【0119】
細胞株MX1440−3496(実施例6に記載)の産生レベルを上昇させるために、細胞株MX1440−3496に同様の処理を適用した。この実験は、グルコースを添加することに対する細胞株の応答を試験するために設計した。MX1440−4496細胞株を実施例6の通り培地XXXIII中で維持した。6日目に、MX1440−3496細胞株の6つのフラスコを無作為に選択し、それぞれ3つのフラスコの2組に分割した。3つのフラスコの1組を50%のグルコース原液で処理し、他方の3つのフラスコは未処理のままにした。6日目に6つのフラスコ全てにグルコースを添加する前の測定値は、平均で、PCVが45%、RIが0.3±0.1、そしてプロシアニジンの産生が2.41±0.19g/L PCVであった。処理した3つのフラスコに50%のグルコース原液5mLを添加した。グルコースを添加した後の処理したフラスコの平均RIは6.0±1.1まで増加し、平均PCVは39.7±0.6%であった。
【0120】
グルコースを添加した後、1日目、3日目、4日目、5日目および6日目に、全てのフラスコから試料採取し、そのPCV、RIおよびプロシアニジンの産生を測定した。未処理のフラスコは、RIに有意な変化を示さず、PCVは45%から53±3.6%までにわずかに上昇した。未処理のフラスコにおける産生は処理後6日目の時点で2.83±1.17 g/L PCVにとどまった。対照的に、処理したフラスコは、6日目に、PCVにおいて53±2.7%までの上昇、着実な上昇を示した。RIは、1日当たりRI0.6ユニットから0.8ユニットまでの速度で有意に低下し、0日目の6±1.1から6日目の2.0±1.3まで進んだ。一方、処理したフラスコにおける産生も、グルコースを添加する前の2.42±1.93g/L PCVから5日目の12.93±2.24g/L PCVまで増加した。グルコース処理により、プロシアニジンの産生が増加し、これらの産生特性は、図7に示したように、プロシアニジンを産生させるための細胞培養プロセスが有意に改善したことを表している。
【0121】
(実施例12)
ココアの懸濁培養物のスケールアップ
植物の細胞培養物を使用することにおける一般的な問題は、標的産物の一貫した産生を得ることである(例えば、非特許文献53参照)。したがって、首尾よく大規模な植物の細胞培養をするための鍵は、安定な生産性を維持することである。スケールアップ条件下で、ココアの細胞の成長および産生は非常に一貫していて、安定であったので、ココアの細胞培養物の懸濁物を125mlのフラスコから500mlのフラスコにスケールアップするためのプロセスは首尾よく行われた。選択された細胞株の平均PCVは7日間で45〜55%であり、これは最初のPCVレベルである20%よりも約2.5倍高かった。大規模なフラスコ培養物を、暗闇条件下、旋回振とう機において100rpmで、維持培地である培地VIII中で成長させた。培養7日ごとに、バイオマス、培地中の糖濃度およびプロシアニジン生産性を測定した。
【0122】
カカオ細胞2.7Lを6.5Lのバイオリアクター(運転容積=5.0L)に播種し、送気量(1分当たり培養物の容積当たりの気体の容積)0.2vvm、撹拌速度100rpmおよび容器温度23℃で7日間培養した。バイオマスは非常に緩慢に増加し、誘導期が4日間続いた。播種量が高いと栄養分の利用可能性が制限され、また、細胞を均一に混合することが難しくなるので、播種量が高いことは細胞にとって問題である。理想的な開始時の接種量は、PCVが25から40%の間であるべきである。バイオマス濃度および特異的な生産性に影響を及ぼす重要な因子の1つは、溶解した酸素(DO)濃度とCO2などの溶解した気体代謝産物のガス交換である(例えば、非特許文献54参照)。フラスコ培養では、溶解した酸素および溶解した気体代謝産物を制御することは不可能であるが、リアクター培養においてそれらを制御することは可能である。本実施例では、DOレベルは徐々に低下し、これは細胞代謝の良い指標である。
【0123】
(実施例13)
懸濁細胞培養物からの大規模分離
ココアの懸濁細胞培養物10Lから回収した凍結乾燥させたバイオマスを、バイオマスの容積1:1の比率で80%のメタノールと混合し、室温で1時間撹拌する。これを真空下、ブーフナー漏斗で濾紙を通して濾過した。抽出を少なくとも3回繰り返す。メタノール抽出物のそれぞれを採取し、プールし、40℃減圧下で濃縮してメタノール抽出物の容積を元の30%に減少させた。液液抽出するために、濃縮されたメタノール抽出物をジクロロメタンに加え、ジクロロメタン層抽出物を採取し、プールし、減圧下、室温で、比率25%で濃縮した。乾燥した抽出物をメタノールに溶解させ、蒸留水に滴下し、2日間0℃で放置して沈殿物を得た。
【0124】
乾燥した細胞から予備精製されたプロシアニジンの実際の収率は、50〜60%の純度で10〜20%にわたる。不純物を効率よく除去するために、C18およびシリカカラムを使用したWaters prep−LC(Milford、Massachusetts、USA)によってさらなる精製を実施し、純度はprep−LC精製プロセス後に最大99%超まで上昇する。標的化合物であるプロシアニジンを高純度で得るために、結晶化の追加的なプロセスを利用することができる。
【0125】
(実施例14)
カカオの細胞培養物およびカカオ豆から産生されたポリフェノールおよびプロシアニジンの比較
懸濁培養物からの粗プロアントシアニジンの抽出
カカオの懸濁細胞培養物1Lから回収したバイオマスを、Labconcoの凍結乾燥機を使用して凍結乾燥させて乾燥カカオ細胞14.0gを生じさせた。乾燥粉末を、混合含水アセトン(70% v/v)250mLを用いて30分間抽出した。水溶液を3500rpmで15分間遠心分離し、上清を除去した。同じ様式で固体残渣を2回抽出した。2つの抽出物からの上清を合わせ、次いで部分真空下、40℃でロータリーエバポレーターによって蒸発させた。濃縮された水溶性残渣を、Laboconcoの凍結乾燥機を使用して−20℃で凍結させ、乾燥して濃厚な黄色の粗抽出物を生じさせた。乾燥細胞重量からの粗プロシアニジンの収率を、実施例8に記載の酸ブタノール加水分解法によって決定し、それは10〜15%の範囲にわたった。
【0126】
発酵させていない生のカカオ豆からの粗プロアントシアニジンの抽出
発酵させていない生のカカオ豆を、Raw Harmony(Los Angeles、CA)から入手した。5gの、摩砕し乾燥させた発酵させていない豆または摩砕し脱脂した発酵させていないカカオ豆から粗プロシアニジンを抽出した。抽出は、各抽出ステップに含水アセトン(70% v/v)50mLを使用し、抽出を3回繰り返したこと以外は上記の懸濁細胞培養物についての手順と同様であった。合わせた抽出物を3500rpmで15分間遠心分離した。上清をデカントし、次いで部分真空下、40℃で蒸発させて溶媒を除去した。濃縮された水溶性残渣を、Laboconcoの凍結乾燥機を使用して−20℃で凍結し、乾燥させて赤紫色の粗抽出物を生じさせた。実施例8に記載の酸ブタノール加水分解アッセイによって推定される粗プロシアニジンの収率は10〜13%の範囲にわたった。
【0127】
プロシアニジンの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析
プロシアニジンのHPLC分析を、Waters 2795分離モジュール、Waters 996 PDA検出器およびWaters 474 走査型蛍光検出器からなる順相HPLCシステムによって実施した。Develosil Diolカラム(250x4.6mm ID、粒子サイズ5μ)を使用して得られたカカオの細胞の抽出物および生のカカオ豆の抽出物におけるプロシアニジンの特徴付けの条件および分離条件は、極性プロトン性の単量体および/またはオリゴマーのための改善されたプロセスを記載しているKelmら(例えば、特許文献11参照)から適合させた。二成分移動相は溶媒(A)、アセトニトリル:酢酸(98:2、v/v)および溶媒(B)、メタノール:水:酢酸(95:3:2、v/v/v)からなった。以下の通り、1分当たり0.8mLの流速を用いて30℃で直線勾配溶離を実施した:0〜35分、100〜60%のA;35〜40分、60%のA;40〜45分、60〜100%のA。プロシアニジンの分離を蛍光検出(276nmにおける励起波長、316nmにおける発光波長)、280nmにおけるUV検出によってモニターした(例えば、非特許文献55参照)。
【0128】
図8に、発酵させていないカカオ豆の抽出物(図8A)およびカカオの細胞懸濁物の抽出物(図8B)の蛍光検出器によるクロマトグラムを示す。Kelmら(例えば、特許文献11参照)によって記載されたクロマトグラフィーによる分離と一致して、発酵させていないカカオ豆の抽出物は最大で十二量体からなる(重合の程度=12)。本実施例により、カカオの細胞培養物からのプロシアニジン抽出物も、豆について報告されたプロファイルと同じプロファイルを有することが確認された。図9に、発酵させていないカカオ豆の抽出物(図9A)およびカカオの細胞培養物の抽出物(図9B)のUV吸光度クロマトグラムを示す。この検出方式により、カフェインおよびテオブロミンの検出が可能になり、この実験の結果は、豆からの抽出物ではこれらの2種の化合物が抽出物中に存在することが示される一方、細胞培養物の抽出物ではこれらの2種の化合物は検出されないことを実証している。
【0129】
したがって、本実施例は、カカオの細胞培養により、望ましくない化合物であるカフェインおよびテオブロミンは産生させないのと同時にカカオ豆中のプロシアニジンと同一のプロシアニジンを産生させることができることを示している。さらに、本明細書に記載の細胞培養物に対する抽出手順は、カカオ豆を脱脂するために必要になるヘキサンなどの溶媒を必要としない。したがって、カカオの細胞培養物から得られるプロシアニジン抽出物は、ヘキサンなどの毒性溶媒の残渣を有さない。
【0130】
(実施例15)
カカオの細胞懸濁培養物から抽出されたプロシアニジンの抗酸化活性。
【0131】
本実施例では、上記の実施例に記載の方法によってカカオの細胞培養物から抽出されたプロシアニジンの抗酸化活性について試験する手段について記載する。
【0132】
文献中の証拠により、カカオのプロシアニジンの健康促進特性とこれらの化合物の抗酸化特性との間の関連性が示唆されている。これらの抗酸化剤は、一部の種類の腫瘍の促進および循環器疾患におけるLDL酸化に関与するある特定の酸化的なフリーラジカルプロセスに影響を及ぼすと一般に考えられている。したがって、カカオのプロシアニジンの抗酸化の可能性を測定することは、健康促進特性を有する組成物にこれらの化合物を使用できるようにするために、癌および心疾患などのヒトの疾患を予防することにおけるこれらの化合物の有効性を決定するための妥当な手段である。同様に、抗酸化剤は、しわが少なく若く見える皮膚を維持するのに役立つと考えられており、したがって、カカオのプロシアニジンは、化粧品組成物において使用することができる。
【0133】
カカオのプロシアニジンなどのポリフェノール化合物の抗酸化能は、当技術分野で公知のいくつもの手順によって測定される。最も一般的な方法は、酸素ラジカル吸収能(ORAC)法(例えば、非特許文献56参照)である。このアッセイでは蛍光分子(ベータフィコエリトリンまたはフルオレセインのいずれか)について、アゾ開始剤化合物などのフリーラジカル発生剤と混合した後のその酸化的分解を測定する。アゾ開始剤は、加熱することによって、蛍光分子を損傷し、蛍光の損失をもたらすペルオキシフリーラジカルを産生すると考えられている。抗酸化剤は、蛍光分子を酸化的変性から保護することができる。蛍光光度計を使用して保護の程度を定量化する。蛍光プローブとしてフルオレセインが現在最も使用されている。この能力を自動的に測定し、算出することができる装置が市販されている(Biotek、Roche Diagnostics)。
【0134】
酸化的分解が進むにつれて蛍光強度は減少し、この強度は一般的にはアゾ開始剤(フリーラジカル発生剤)を添加した後、35分間記録される。蛍光遅延として測定されるフルオレセインの変性(または分解)は、抗酸化剤が存在することによって顕著に少なくなる。減衰曲線(蛍光強度対時間)を記録し、2つの減衰曲線(抗酸化剤あり、または抗酸化剤なし)の間の領域を算出する。その後に、抗酸化剤に媒介される保護の程度を、抗酸化剤であるトロロクス(ビタミンE類似体)を標準物質として使用して定量化する。種々の濃度のトロロクスを使用して検量線を作成し、試験試料をこれと比較する。試験試料(食品)についての結果を「トロロクス当量」またはTEとして報告する。
【0135】
【表2−1】

【0136】
【表2−2】

【0137】
【表2−3】

【0138】
【表2−4】

【0139】
【表2−5】

【0140】
【表2−6】

【0141】
【表2−7】

【0142】
【表2−8】

【0143】
【表2−9】

【0144】
【表2−10】

【0145】
【表2−11】

【0146】
【表2−12】

【0147】
【表2−13】

【0148】
【表2−14】

【0149】
【表2−15】

【0150】
【表3−1】

【0151】
【表3−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココアのオリゴマープロシアニジンを調製する方法であって、
カカオ属の種の細胞を、ココアのオリゴマープロシアニジンの産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させるステップと、及び
前記細胞懸濁培養物からココアのオリゴマープロシアニジンを含有する抽出物を作製し、それによってココアのオリゴマープロシアニジンを調製するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
カカオ細胞を、
ココアのオリゴマープロシアニジンの産生をもたらすのに十分な時間および条件下で、懸濁培養物中で成長させるステップと、
前記細胞懸濁培養物からココアのオリゴマープロシアニジンを回収するステップとを含み、前記回収されたココアのオリゴマープロシアニジンがキサンチンアルカロイドを実質的に含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
得られたココアのオリゴマープロシアニジン調製物が、検出可能なカフェインおよびテオブロミンを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
カカオの細胞懸濁培養物が、未成熟のカカオの花の外植片から固形成長培地上でカルスを成長させるステップと、
前記カカオのカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択し、前記急速に成長している細胞株を液体培地中に播種することによって細胞懸濁培養を開始するステップとによって作製されたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カカオの細胞懸濁培養物が、カカオの節、節間、成長点または茎組織から固形成長培地上でカルスを成長させるステップと、
前記カカオのカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択するステップと、前記急速に成長している細胞株を液体培地中に播種するステップとによって細胞懸濁培養を開始することによって作製されたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ココアのオリゴマープロシアニジンの産生が、
細胞を回収するステップと、
ポリフェノールに富む画分を抽出するのに適した溶媒中で細胞バイオマスをホモジナイズするステップと、
プロシアニジンに富む画分を、溶媒−溶媒抽出および/またはクロマトグラフィーを使用して単離するステップと、及び
任意選択的に、前記プロシアニジン画分を乾燥または濃縮するステップと
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞を回収するステップが、遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法を使用して作製されたことを特徴とする、キサンチンアルカロイドを実質的に含まないココアポリフェノール調製物。
【請求項9】
カカオ細胞の細胞懸濁培養物を作製する方法であって、
未成熟のカカオの花の外植片からのカルスまたはカカオの節、節間、成長点または茎組織からのカルスを、固形成長培地上で成長させるステップと、
前記カカオのカルス培養物から急速に成長している細胞株を選択するステップと、及び
前記急速に成長している細胞株を液体培地中に播種することによって細胞懸濁培養を開始するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記未成熟のカカオの花の外植片が、仮雄ずい、がく片および花弁底部の外植片から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞懸濁培養物をフラスコ、任意の適切な培養容器またはバイオリアクター内で成長させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記成長させるステップが、容器またはバイオリアクター内で、回分方式、流加方式または連続方式で実施されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法を使用して作製されたことを特徴とするカカオの細胞懸濁培養物。
【請求項14】
表1に記載の液体培地XXXIIまたは液体培地XXXIIIを使用することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
ココアポリフェノールの混合物を含み、カフェインおよびテオブロミンを実質的に含まないココアポリフェノール調製物であって、カカオの細胞懸濁培養物から抽出されることを特徴とする調製物。
【請求項16】
ヘキサンを使用せずに抽出されることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項17】
カカオの細胞懸濁培養物からの抽出が、
細胞を回収するステップと、
ポリフェノールに富む画分を抽出するのに適した溶媒中で細胞バイオマスをホモジナイズするステップと、
プロシアニジンに富む画分を、溶媒−溶媒抽出および/またはクロマトグラフィーを使用して単離するステップと、及び
任意選択的に、前記プロシアニジン画分を乾燥または濃縮するステップと
を含むことを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項18】
細胞を回収するステップが、遠心分離、濾過、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項17に記載の調製物。
【請求項19】
食事組成物に使用されることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項20】
治療用組成物に使用されることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項21】
動物用組成物に使用されることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項22】
化粧品組成物に使用されることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項23】
前記ココアポリフェノールが、カテキン、エピカテキンおよびそれらのプロシアニジンオリゴマーを含むことを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項24】
オリゴマーが、二量体から十二量体までであることを特徴とする、請求項22に記載の調製物。
【請求項25】
オリゴマーが、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、または、それらの任意の2つ以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項22に記載の調製物。
【請求項26】
ココアポリフェノールがココアプロシアニジンであることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項27】
液体の形態、乾燥した形態または凍結乾燥した形態であることを特徴とする、請求項15に記載の調製物。
【請求項28】
表1に記載の液体培地XXXIIまたは液体培地XXXIIIを使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
対数増殖期の終わりに、追加のグルコースを懸濁培養物に添加し、それによってプロシアニジンの産生を増大させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図1】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2012−522504(P2012−522504A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503402(P2012−503402)
【出願日】平成21年5月4日(2009.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/042722
【国際公開番号】WO2010/114567
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511147274)ダイアナプラントサイエンシズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】