説明

植物種子油

本発明は、総脂肪酸含量のうち約7〜26重量%の含量でアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1である植物種子油に関する。本発明はさらに、該植物種子油の製造方法ならびに該植物種子油の配合物および使用に関する。特に、本発明は、該植物種子油を含有する食品およびベビーフードを利用可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総脂肪酸含量のうち約7〜約26重量%を構成するアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1であり、かつアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1である、植物種子油に関する。本発明はさらに、該植物種子油の製造方法ならびに該植物種子油の配合物および使用にも関する。特に、本発明はまた、上記植物種子油を含む食品およびベビーフードを利用可能にする。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸(ARA)は、ω−6(n−6)クラスの長鎖多価不飽和脂肪酸(C20:4 5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)である。以下、多価不飽和脂肪酸を、PUFA、PUFAs、LCPUFAまたはLCPUFAs(poly unsaturated fatty acids, PUFAlong chain poly unsaturated fatty acids, LCPUFA)と表す。
【0003】
ARAは、ヒト血漿中に最も頻繁に存在するC20−PUFAである(Siguel and Schaefer (1988) Aging and nutritional requirements of essential fatty acids. In: Dietary Fat Requirments in Health and Development (Beare-Rogers, 編) pp 163-189, American Oil Chemist's Society, Champaign, IL.)。アラキドン酸は、特に、器官、筋肉および血液組織に存在し、そこで、血液、肝臓、筋肉および他の重要な器官系のリン脂質と主に関連している構造脂質として重要な機能を果たす。構造脂質としてのその主要な機能に加えて、ARAはプロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタサイクリンI2(PGI2)、トロンボキサンA2(TxA2)およびロイコトリエンB4(LTB4)およびC4(LTC4)などの一連の循環エイコサノイドの直接の前駆体としても働く。これらのエイコサノイドは、成長制御、炎症性防御反応、血液流動学、血管緊張、白血球機能および血小板活性化に影響する(Calder 2006, Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 75:197-202; Roland et al. 2004, Mini Rev Med Chem. 4:659-68)。
【0004】
すべての授乳期のヒトの母乳はかなりの割合のARAを含む。これは総計で総脂肪酸含量の約0.2〜1.0%に達する(Brenna et al. 2007 AJCN 85:1457)。その濃度は、授乳期、母の栄養状態および環境条件に依存する。したがって、「World Association of Perinatal Medicine」、「Early Nutrition Academy」、「Child Health Foundation」、「World Health Organization」、「British Nutrition Foundation」、「European Society of Paediatric Gastroenterology and Nutrition」、および「International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids」などの組織は、母乳栄養が選択肢でない場合、とりわけARAを添加したベビーフードの使用を推奨する(Koletzko et al. 2008, J Perinat Med. 2008;36:5-14; Diersen-Schade et al. 2005 Lipid Technology 17:225)。同時に、ARAは、ますます多くの乳児食製造者によって、乳児食を母乳に適合させるために添加されている。興味深いことに、母乳中のARAの濃度は、一般に、ドコサヘキサエン酸(DHA)の濃度(総脂肪酸含量の0.1〜1.0%以上)未満で変動する(Diersen-Schade 2005 LipTech 17:225; Innis 2007 ProcNutrSoc 66:397; Brenna et al. 2007 AJCN 85:1457)。それは、乳児食に必要なARA含量が利用可能であるように、より厳密な生理学的調節に注意を向ける。
【0005】
ARAが出生前、分娩前後、および出生後の段階の乳児に提供する潜在的な健康上の利点は、脳の発達および機能およびさらに眼の発達向上の促進にある(Diersen-Schade et al. 2005 Lipid Technology 17:225)。「World Association of Perinatal Medicine」、「Early Nutrition Academy」および「Child Health Foundation」によって推奨される保健医療の同意推奨および実施ガイドラインは、ベビーフードに伴うARAの適切な摂取の重要性を強調する(Koletzko et al. 2008, J Perinat Med. 2008;36:5-14)。特に胎児および新生児は、最適な視覚発達および認知発達を支援するために適切な量のLC−PUFAを摂取するべきである。年齢約2歳までの新生児では、ARAでの栄養補充によって利益が生じるとされている。
【0006】
2001年5月から、ARAを添加した乳児食はもはやニッチな製品ではなくなった。その理由は、先進国でARAがほとんど義務的な乳児乳成分になったからである。この展開は、米国「Food and Drug Administration」(FDA)が、DHASCO(登録商標)(DHA、Crypthecodinium cohnii)およびARASCO(登録商標)(ARA、Mortierella alpina)油混合物の乳児食での使用に関して、Martek's GRAS分類に肯定的な査定を与えた点でも支援された。略語「GRAS」は、本明細書中で、「Generally Recognized as Safe(一般に安全と認識される)」、すなわち食品中での使用に安全である分類を示す。乳児乳、ゆえにARA市場へのARAの添加は、一方で、市場(Martek)の影響の発揮によって促進され、一方では、乳児の発達に関するARAの潜在的な健康上の利点がますます認識された事実によって促進された。
【0007】
ARA以外に、DHA(ドコサヘキサエン酸)も、乳児食に添加されるべき重要な脂肪酸である。DHAはヒトの母乳中に存在し、成長中の乳児の脳、神経組織および眼の発達が支援されるとされている。有効濃度のDHAの添加は、予定の時期に生まれた乳児の場合および時期尚早で生まれた乳児の場合の両方で、視力の認知発達を向上させることが示された。
【0008】
ARAおよびDHAに加えて、母乳はさらに高級の不飽和脂肪酸を含む。該高級不飽和脂肪酸は十分には研究されていないが、同様に乳児の発達に大きな役割を果たす。これらの脂肪酸は、例えば、γ−リノレン酸(GLA、総脂肪酸含量の0.1〜0.2%)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、総脂肪酸含量の0.2〜0.4%)、ステアリドン酸(stearidonic acid)(SDA、総脂肪酸含量の0.1%まで)およびエイコサペンタエン酸(EPA、総脂肪酸含量の0.05〜0.3%)である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。代替食を母乳にできるだけ適合させるために、これらの高級不飽和脂肪酸を乳児食の脂質内容物に組み入れることが重要である。
【0009】
高級不飽和n−6−脂肪酸GLAおよびDGLAの役割は、現在、調査中である。母乳中のGLAおよびDGLAの存在は、ARAとは独立に、それらが養育中の乳児の発達に重要であることを支持する。研究では、乳児のn−6脂肪酸はヒト組織の脂質への生理学的組み込みにおいて互いに競合することが示されている(Al et al. 2008, Am J Clin Nutr 71:285S-91S)。したがって、妊娠中および授乳期間中の母親の場合にバランスのとれた脂肪酸パターンを可能にすることが重要である(Geppert et al. 2008, Br. J. Nutrition 99: 360-9)。
【0010】
早期のGLA追加投与の潜在的利点には、よくある遺伝的皮膚障害であるアトピー性皮膚炎またはアトピー性湿疹を患っている乳児の場合での生まれた年の総IgE値の低下が含まれる(Demmelmair H., Feldl F., Horvath I. et al. Influence of formulas with borage oil or borage oil plus fish oil on the arachidonic acid status in premature infants, Lipids 2001; 36:555-66. Kitz R., Rose MA., Schonborn H., Zielen S., Bohles HJ. Impact of early dietary gamma-linolenic acid supplementation on atopic eczema in infancy. Pediatr. Allergy Immunol. 2006, 17:112-7)。また、アトピー性皮膚炎の高い家族性リスクを有する子供でのGLAの追加投与によって、後期乳児期に該障害を制御下で維持できる傾向が見られる(van Gool et al. 2003, Am J Clin Nutr 77:943)。食物に添加されたGLAによってアトピー性湿疹の頻度に影響を与えるかまたは該頻度を減少させることはできない(Kritz et al. 2006)が、アトピー性湿疹を患っている子供の場合の総IgE値は、生まれた年のGLAの追加投与の結果、減少するようである(Kritz et al. 2006)。DGLAは、プロスタグランジンE1(PGE1)およびさらに一連の3つのプロスタグランジンの合成の前駆体である(Das 2008, Lipids in Health and Disease 7:9)。ベビーミルクへのDGLA添加の他の利点も示された。例えば、DGLAはシクロオキシゲナーゼ活性化とは無関係にヒト末梢血単核細胞でのサイトカイン生産に影響する(Dooper et al. 2003 Immunology 110:348-57)。これは、新生児にとって同様に重要な、DGLAによる免疫機能の強化を指摘する。さらに、新生児食中のDGLAおよびARAの濃度の増加は、母と子との間のHIVウイルス伝達のリスクを減少させる(Villamor et al. 2007 Am J Clin Nutr 86:682-689)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Siguel and Schaefer (1988) Aging and nutritional requirements of essential fatty acids. In: Dietary Fat Requirments in Health and Development (Beare-Rogers, 編) pp 163-189, American Oil Chemist's Society, Champaign, IL.
【非特許文献2】Calder 2006, Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 75:197-202
【非特許文献3】Roland et al. 2004, Mini Rev Med Chem. 4:659-68)
【非特許文献4】Brenna et al. 2007 AJCN 85:1457
【非特許文献5】Koletzko et al. 2008, J Perinat Med. 2008;36:5-14
【非特許文献6】Diersen-Schade et al. 2005 Lipid Technology 17:225
【非特許文献7】Innis 2007 ProcNutrSoc 66:397
【非特許文献8】Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8
【非特許文献9】Al et al. 2008, Am J Clin Nutr 71:285S-91S
【非特許文献10】Geppert et al. 2008, Br. J. Nutrition 99: 360-9
【非特許文献11】Demmelmair H., Feldl F., Horvath I. et al. Influence of formulas with borage oil or borage oil plus fish oil on the arachidonic acid status in premature infants, Lipids 2001; 36:555-66.
【非特許文献12】Kitz R., Rose MA., Schonborn H., Zielen S., Bohles HJ. Impact of early dietary gamma-linolenic acid supplementation on atopic eczema in infancy. Pediatr. Allergy Immunol. 2006, 17:112-7
【非特許文献13】van Gool et al. 2003, Am J Clin Nutr 77:943
【非特許文献14】Das 2008, Lipids in Health and Disease 7:9
【非特許文献15】Dooper et al. 2003 Immunology 110:348-57
【非特許文献16】Villamor et al. 2007 Am J Clin Nutr 86:682-689
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ゆえに、乳児の最適な発達を支援するために乳児が長鎖多価不飽和脂肪酸を適切に摂取することを可能にするベビーフードの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この技術的問題は、総脂肪酸含量のうち約7〜約26重量%を構成するアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1であり、かつアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1である、植物種子油によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、LC−PUFAの合成の代謝経路である。
【図2A】図2A〜Cは、Brassica napusの形質転換のために構築されたTプラスミドのプラスミド地図である。割り当てられた配列は、配列番号15(図2A)、16(図2B)および17(図2C)に示される。
【図2B】図2A〜Cは、Brassica napusの形質転換のために構築されたTプラスミドのプラスミド地図である。割り当てられた配列は、配列番号15(図2A)、16(図2B)および17(図2C)に示される。
【図2C】図2A〜Cは、Brassica napusの形質転換のために構築されたTプラスミドのプラスミド地図である。割り当てられた配列は、配列番号15(図2A)、16(図2B)および17(図2C)に示される。
【図3A】図3Aは、非トランスジェニックアブラナ(Brassica napus)のガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析のクロマトグラムである。ピークに、割り当てられた脂肪酸で注釈し、命名法は表5で説明する。
【図3B】図3Bは、構築物VC−LJB913−1qcz(配列番号15)で形質転換されたトランスジェニックアブラナ(Brassica napus)のガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析のクロマトグラムである。ピークに、割り当てられた脂肪酸で注釈し、命名法は表5で説明する。
【図4】図4は、油の超臨界CO抽出のパイロットプラントスケッチを示す図である。
【図5】図5は、液体形式の乳児食の製造を示す図である。
【図6】図6は、完全噴霧による乳児食の製造(最終製品)を示す図である。
【図7】図7は、母乳中の脂肪酸比である。値を個々の国に関して平均し、国の平均中のそれぞれの最大または最小の比を示した(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以前に実施された、例えばWO2005/083093またはKajikawa et al.(Biosci. Biotechno. Biochem., 72, 70549-1-10, 2008)のようなトランスジェニック植物でのアラキドン酸の製造または微生物由来の油、例えばMortierella alpina由来の油の製造のための実験とは対照的に、本発明の植物種子油は驚くべき新規特性を有する。特に、上記の本発明の植物種子油は、母乳中にも存在するような、脂肪酸アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との定量比ならびにアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との定量比を有する。母乳中では、アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は約2:1〜4:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比は約1:1〜2:1である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。図7は、この母乳中の脂肪酸比についての点に関する調査を記載する。
【0016】
本発明の植物種子油では、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比は約1:1〜約5:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比は約1:1〜約5:1である。
【0017】
特に記載しない限り、本明細書中に記載の比はそれぞれの脂肪酸の重量パーセント比に関する。
【0018】
ゆえに、本発明の植物種子油は、生理学的に正の効果を有する高含量のアラキドン酸に加えて、アラキドン酸とGLAおよびアラキドン酸とDGLAとの有利な比をさらに提供する。アラキドン酸に加えて、GLAおよびDGLAは母乳の脂肪部分の重要な成分である(Wang et al. Pediatrics International 2000, 42(1):14-20; Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。最も最近の研究では、さらに、乳児のn−6脂肪酸はヒト組織の脂質への生理学的組み込みにおいて互いに競合することが示されている(Geppert et al. 2008, Br. J. Nutrition 99: 360-9)。したがって、乳児食中のバランスのとれた脂肪酸比だけが乳児の最適な成長および最適な発達を可能にする。ゆえに、本発明の植物種子油を用いて、母乳の脂肪酸組成に非常に近い組成を取得することが可能であった。
【0019】
アシル−CoA−依存的Δ−6デサチュラーゼを発現するトランスジェニック植物の作製によって、母乳に非常に近いこのアラキドン酸とGLAとの比およびアラキドン酸とDGLAとの比を達成することが可能であった。このΔ−6デサチュラーゼはOstreococcus tauri由来である。本発明の核酸構築物中に存在する特定のプロモーターと遺伝子の組み合わせでのこの酵素の使用のみが、先行技術に記載の油と比較して低含量のγ−リノレン酸およびジホモ−γ−リノレン酸によって初めて特徴づけられる植物種子油の生産を可能にした。例えばWO2005/083093で使用および記載されるような公知のΔ6−デサチュラーゼは、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、またはホスファチジルグリコールなどのリン脂質でsn−2位がエステル化されたリノール酸を基質として使用する。Ostreococcus tauri由来のΔ6−デサチュラーゼでは、WO2006/069710に記載のように、酵母モデル研究で異なる基質利用性を示すことが可能であった。今度は、以下および実施例でさらに記載される本発明の核酸構築物をアブラナ(Brassica napus)の形質転換のために調製し、この特性を有するトランスジェニックアブラナ植物を作製した。驚くべきことに、これらの植物の種子油は低含量のGLAおよびDGLAを示し(図3Bおよび表3)、それから、以下の合成手順を導くことができる:Δ6−デサチュラーゼはリノール酸−CoAを基質として使用する。生成物γ−リノール酸−CoAをΔ6−エロンガーゼ(elongase)によって基質として直接反応させて、ジホモ−γ−リノレン酸−CoAを得る。伸長反応の生成物をリン脂質のsn2位でアシルトランスフェラーゼによって変換させ、Δ5−デサチュラーゼによって反応させて、アラキドン酸−ホスファチジルコリン、または上記の他のリン脂質を得る。アシルトランスフェラーゼを利用して、アラキドン酸をトリアシルグリセリド(すなわち油)に変換させると、それは種子油の成分である。
【0020】
特に、プロモーターと遺伝子の活性に対応する合成の中間産物の濃度が影響を受けると示すことが可能であった。本明細書中に記載の本発明の核酸構築物では、本発明は、母乳に類似の脂肪酸組成を有し、したがってベビーフードの生産に好適な植物種子油の生産のためのプロモーターと遺伝子の組み合わせを特定する。これは、配列番号15、16、および17の本発明の核酸構築物中に存在する特定のプロモーターと遺伝子の組み合わせを用いてしか達成できなかった。
【0021】
本発明の植物種子油は、乳児乳または他の乳児用食品に種々の濃度で使用することができる。本明細書中で指定される濃度および配合では、本発明の植物種子油は、従来使用されているすべての製品と比べて、母乳の脂肪酸プロファイルに最も近い脂肪酸プロファイルを有する。ゆえに、本発明の植物種子油は、代替食を母乳にできるだけ適合させるために、乳児食の脂質部分に高級不飽和脂肪酸を直接組み入れることを可能にする。その有利なARA、GLAおよびDGLA含量の結果、新生児(newborn infant)または乳児の、特に神経系および眼およびさらに免疫系の、健全な発達を確実にするために、本発明の植物種子油は新生児および年齢約2歳までの乳児の食物に特に適している。本発明の植物種子油を限られた数の植物油および、微生物油または魚油などの非植物油と混合または配合することによって、代替食を母乳の脂肪酸パターンとさらに良好に適合させることを達成できる。本発明の植物種子油は、さらに、とりわけ乳児食に使用されるアブラナまたはナタネ油のバックグラウンド脂肪酸プロファイルに類似のバックグラウンド脂肪酸プロファイルを有する。本発明の植物種子油は、それにより、現在最も使用されているARA供給源ARASCO(登録商標)より、ARA供給源として良好に適している。例えば、ARASCO(登録商標)は、ヒト母乳と大きく異なる脂肪酸、例えば、C22:0、C24:0およびC22:5 n−6を3%までの濃度で含む(Australia New Zeland Food Authority 2002, Proposal P93 - Review Of Infant Formula, Supplementary Final Assessment (Inquiry - S.24), Report, 08/02)。本発明の植物種子油は、これらの脂肪酸がARASCO(登録商標)より明らかに少なく、さらに、大量のC18:1 n−9を含む。これは母乳中で最もよくある脂肪酸である(Innis & King, Am J Clin Nutr 1999, 70:383-90)。
【0022】
本発明の植物種子油は、Mortierella alpinaもしくはCrypthecodinium cohnii由来の微生物油またはサケ、クジラもしくは卵黄由来の魚油などの先行技術に記載の慣用の油とは対照的に、アラキドン酸およびγ−リノレン酸ならびにさらにアラキドン酸およびジホモ−γ−リノレン酸が母乳の比に最も近い良好にバランスのとれた比で初めて存在する点で顕著である。以下の実施例の表4は、アラキドン酸を天然に産生するかまたは代謝経路の遺伝子中に導入された種々の生物由来の油と比較した、本発明の植物種子油中の脂肪酸の上記定量比の典型的な調査を記載する。そして、WO2005/083093に記載のBrassica juncea由来の種子油では、脂肪酸アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は約1:1以上(approximately 1:1 and greater than 1:1)(すなわち、GLAはARAより多い)であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比は約1:5以下(すなわち、DGLAはARAより比1:5よりさらに少ない)である。Marchantia polymorpha由来の油では、脂肪酸アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は約1:4〜1:5であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比は約1:10以上(すなわち、DGLAはARAより比1:10よりさらに少ない)である。ダイズ(Glycine max)由来の油では、脂肪酸アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は約0.1:1〜0.15:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比は約0.18:1〜0.2:1である。ダイズ(Glycine)由来の油中のアラキドン酸含量は2〜3%である。その理由は以前の方法ではいかなる商業的に利用可能なアラキドン酸含量も生じさせることができなかったからである。Mortierella alpina由来の油(Suntory TGA40)では、脂肪酸アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は10:1より大きく、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比も同様に10:1より大きい。
【0023】
しかし、母乳中では、アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との比は約2:1〜約4:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との比は約1:1〜約2:1である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【0024】
本発明の植物種子油では、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比は約1:1〜約5:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比は約1:1〜約5:1であり、これは、母乳中にも存在する範囲内の初めての重量パーセント比である。
【0025】
ゆえに、本発明は、総脂肪酸含量のうち約7〜約26または7〜26重量%の含量を有するアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1または1:1〜5:1であり、かつアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1または1:1〜5:1である、植物種子油に特に関する。
【0026】
本発明の植物種子油中のアラキドン酸含量は、総脂肪酸含量中の約7〜約26重量%の範囲または7〜26重量%の範囲、好ましくは約10〜約26重量%の範囲または10〜26重量%の範囲、さらにより好ましくは約12〜約26重量%の範囲または12〜26重量%の範囲、または約15〜約26重量%の範囲または15〜26重量%の範囲である。特に好ましくは、本発明の植物種子油中のアラキドン酸含量は総脂肪酸含量の15重量%である。そのような油の組成は以下および実施例でさらに記載される。
【0027】
本発明の植物種子油の好ましい実施形態では、リノール酸とα−リノレン酸との重量パーセント比は約3:1〜約12:1または3:1〜12:1であり、好ましくは約4:1〜約12:1または4:1〜12:1であり、さらにより好ましくは約5:1〜約12:1または5:1〜12:1であり、または約6:1〜約12:1または6:1〜12:1である。
【0028】
本発明の植物種子油は、母乳と同様に、必須脂肪酸リノール酸およびα−リノレン酸を含む。リノール酸とα−リノレン酸との比に関して、本発明の植物種子油は、ダイズ油またはヒマワリ油などの、乳児食品中で主に使用される油を補う。本発明の植物種子油によって補われた乳児栄養製品は、母乳中に存在するリノール酸とα−リノレン酸との比に非常に近くなる。ここに該比は約7:1〜18:1である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41: 851-8)。
【0029】
本発明の植物種子油のさらに好ましい実施形態では、アラキドン酸とエイコサペンタエン酸との重量パーセント比は約3:1〜約7:1または3:1〜7:1であり、好ましくは約4:1〜約7:1または4:1〜7:1であり、さらにより好ましくは約5:1〜約7:1または5:1〜7:1であり、かつさらに、約2:1〜約7:1の、母乳中に存在するARA:EPAの比をここに反映する(Yuhas et al. 2006 Lipids 41: 851-8)。
【0030】
別の実施形態では、本発明の植物種子油はまた、脂肪酸ステアリドン酸を含む。好ましくは、ステアリドン酸は、総脂肪酸含量の約0.1〜約1または0.1〜1重量%の含量で存在し(特に乳児食中で使用される場合)、好ましくは約0.3〜約1または0.3〜1重量%の含量で存在し、または約0.4〜約1または0.4〜1重量%の含量で存在し、特に好ましくは約0.5〜約1または0.5〜1重量%の含量で存在する。
【0031】
油の仕様の測定では、生物の個別の発生、消化および抽出プロセスならびに精度を測定する装置に基づく変動範囲が常に適用される。本明細書中に記載の比は、この理由で、用語「約(approximately)」、「約(about)」、または「例えば」によって言及される。
【0032】
ジホモ−γ−リノレン酸、ARAおよびEPAは生物活性エイコサノイドの前駆体である(Das 2008 Lipids Health Dis. 7:9)。これは、代謝がまだ十分には発達していない早産児および新生児に特に重要である。ARAおよびDHAは特定の膜リン脂質の重要な成分であり、神経系、網膜および視覚機能の発達に非常に重要である。SDA、ARA、EPAおよびDHAは母乳に含まれ、したがって早産児および乳児の最初の食物(starting foods)の必須成分である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。ゆえに、本発明の植物種子油は高含量のARAを初めて含むだけでなく、先行技術で以前に記載されるすべての油より、バランスのとれたARAとGLAおよびDGLAとの比を含む。必須脂肪酸リノール酸およびα−リノレン酸およびさらに高級不飽和脂肪酸SDAおよびEPAとともに、本発明の植物種子油は、同様に母乳中に存在するさらなる成分を含む。例えば、以下でさらに詳細に記載される他の油と混合することによって、DHAを加えることができる。本発明の油のバックグラウンド脂肪酸プロファイルは、ゆえに、母乳の脂肪酸組成に非常に近づく。
【0033】
さらに好ましい実施形態では、植物種子油をトランスジェニック植物から取得する。
【0034】
用語「トランスジェニック」とは、異種ポリヌクレオチド、すなわちそれぞれの植物に天然には存在しないポリヌクレオチドが植物に挿入されていることを意味すると理解されるものとする。これは、ポリヌクレオチドのランダム挿入または相同組み換えによって達成することができる。当然、ポリヌクレオチドの代わりにベクターを挿入することもできる。ランダム挿入または相同組み換えの目的でポリヌクレオチドまたはベクターを挿入するための方法は先行技術において公知であり、以下でもさらに詳細に記載される。ポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主細胞を同様に植物に挿入して、トランスジェニック植物を得ることができる。しかし、そのような植物はキメラ植物であり、挿入された細胞由来の細胞のみがトランスジェニックであり、すなわち異種ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、配列番号15、16または17に示される本発明の核酸構築物をトランスジェニック植物に挿入する。
【0035】
好ましくは、トランスジェニック植物は油産生植物であり、すなわち油の生産に使用される植物である。
【0036】
使用されるトランスジェニック植物は、基本的に、すべての植物であってよく、すなわち双子葉植物および単子葉植物の両者であってよい。好ましくは、それらは、アブラナ、カノーラ、偽サフラン(ベニバナ、Carthamus tinctoria)、アマまたは、トウモロコシなどの他の農作物などの、多量の脂質化合物を含む脂肪種子植物である。
【0037】
好ましくは、本発明の植物種子油は、配列番号15、16または17に示される核酸構築物を使用して形質転換されたトランスジェニックアブラナ、トランスジェニックダイズ、トランスジェニックアマ、トランスジェニック偽サフランまたはトランスジェニックトウモロコシ中で生産される。
【0038】
特に非常に好ましくは、トランスジェニック植物はトランスジェニックアブラナである。
【0039】
以下の実施例の表1は、好ましい脂肪酸組成を有するARAの合成に好ましく使用される遺伝子を示す。
【0040】
また、本発明は、配列番号15、16および17に示される核酸構築物および、これらの核酸構築物を使用して形質転換されたトランスジェニック植物および、該核酸構築物がゲノムに安定に組み込まれているその子孫に関する。
【0041】
DHAを含む植物種子油を生産しようとするならば、本発明の核酸構築物は、上記遺伝子に加えて、好ましくは配列番号18に示されるΔ5−エロンガーゼをコードするOstreococcus tauri由来のDNAおよびまたは配列番号20に示されるΔ4−デサチュラーゼをコードするTraustochytrium ssp.由来のDNAを含む、適したプロモーター遺伝子ターミネーターカセットを含む。上記DNAおよび適したカセットは、例えばWO2005/083093に記載されている。
【0042】
本発明は、さらに、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸を含む脂肪酸スペクトルを含む植物種子油に関する。そのような脂肪酸スペクトルは、例えば、図3Bに示される。
【0043】
さらにより好ましくは、本発明の植物種子油は、総脂肪酸含量に基づき、約3.2〜5.3%のパルミチン酸、約2.2〜5.3%のステアリン酸、約10〜25%のオレイン酸、約22〜36%のリノール酸、約4〜12%のγ−リノレン酸、約3〜8%のα−リノレン酸、約0.2〜1%のステアリドン酸、約3〜9%のジホモ−γ−リノレン酸、約12〜25%のアラキドン酸および約1〜4%のエイコサペンタエン酸を含み;または本発明の植物種子油は、総脂肪酸含量に基づき、3.2〜5.3%のパルミチン酸、2.2〜5.3%のステアリン酸、10〜25%のオレイン酸、22〜36%のリノール酸、4〜12%のγ−リノレン酸、3〜8%のα−リノレン酸、0.2〜1%のステアリドン酸、3〜9%のジホモ−γ−リノレン酸、12〜25%のアラキドン酸および1〜4%のエイコサペンタエン酸を含む。
【0044】
特に好ましくは、本発明の植物種子油は、以下の重量パーセント(パーセント単位の総脂肪酸含量のうちの脂肪酸の質量)の、乳児食に重要な脂肪酸を含む。
【0045】
標的脂肪酸 %
アラキドン酸(20:4 n−6) 約15

必須脂肪酸:
リノール酸(18:2 n−6) 約20〜25
α−リノレン酸(18:3 n−3) 約3〜7

乳児に有用な追加の脂肪酸:
γ−リノレン酸(GLA)(18:3 n−6) 約6〜11
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)(20:3 n−6) 約4〜8
ステアリドン酸(SDA) 約1〜2
エイコサペンタエン酸(EPA) 約2〜4;

または

標的脂肪酸 %
アラキドン酸(20:4 n−6) 15

必須脂肪酸:
リノール酸(18:2 n−6) 20〜25
α−リノレン酸(18:3 n−3) 3〜7

乳児に有用な追加の脂肪酸:
γ−リノレン酸(GLA)(18:3 n−6) 6〜11
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)(20:3 n−6) 4〜8
ステアリドン酸(SDA) 1〜2
エイコサペンタエン酸(EPA) 2〜4
【0046】
本発明は、さらに、本発明の植物種子油と、植物油、微生物油および魚油からなる群より選択される少なくとも1種のさらなる油とを含む配合物または混合油であって、該植物油、微生物油または魚油はドコサヘキサエン酸を含む、上記配合物または混合油に関する。
【0047】
本発明の植物種子油は、例えば1種以上の脂肪酸の含量を変化させる、すなわち増加または減少させるために、1種以上の油と混合することができる。混合される油は、例えば、別の天然に存在する植物油もしくは植物種子油またはトランスジェニック植物油もしくは植物種子油であってよい。挙げることができる例は亜麻仁油であり、亜麻仁油は高い割合のαリノレン酸を含む。それは、微生物油、例えばMortierella alpinaまたはCrypthecodinium cohnii由来の油であってもよい。ここで特に適しているのは、例えば乳児食中で使用される、DHASCO(登録商標)(DHA、Crypthecodinium cohnii)およびARASCO(登録商標)(ARA、Mortierella alpina)油混合物である。DHASCO(登録商標)(DHA、Crypthecodinium cohnii)を本発明の植物種子油に混合することによって、例えば、脂肪酸DHAを導入することが可能である。しかし、魚油、例えばサケ油、ニシン油、サバ油、マグロ油またはタラ油も、例えば本発明の植物種子油中の脂肪酸の組成を変化させるための、本発明の植物種子油の配合に適している(United States Department of Agriculture 2005, "Nutrition and Your Health: Dietary Guidelines for Americans" EPA and DHA Content of Fish Species, Data From NDB SR 16-1; 例えば、GRAS Notifications 94, 109 and 193も参照のこと)。魚油は、とりわけ高含量の長鎖多価不飽和ω−3脂肪酸によって特徴づけられる。本発明の植物種子油は唯一のさらなる油と混合することができるが、2種、3種またはさらに多数の油と混合することもできる。1種の油またはさらに混合される油は本明細書中で同一生物または異なる生物由来であってよい。例えば、本発明の植物種子油は、微生物油、例えばMortierella alpinaまたはCrypthecodinium cohniiまたはSchizochytrium sp.由来の油(Arterburn et al. 2007_Lipids 42-1011-24)、および/または魚油(例えばサケ油またはマグロ油)と配合することができる。植物種子油の配合物は先行技術に記載されている。例えば、本発明の植物種子油をBASF粉末製品番号30056967、「Dry n-3(登録商標)5:25 C Powder Microencapsulated fish oil rich in DHA for Infant formula」とともに乳児食中で加工することもできる。あるいは、DHASCO(登録商標)(ドコサヘキサエン酸リッチ単細胞油)を、GRAS Notice No. GRN 000041に記載のようにDHAの供給源として使用することもできる。ここに、本発明の植物種子油は、最初に、上記BASF製品と同様にマイクロカプセル化粉末に変換するか、または加工および安定化植物種子油として直接使用することができる。そして、これらの粉末または油をともに混合するかまたは所望の量の乳児食品に個別に加えることができる。酸化に対する保護対策を行いながら、乳児食品の生産の終わり頃に添加を行う。生成物を乳児食に加える好ましい濃度は種々の要因に依存する。最終産物に基づく本発明の植物種子油の好ましい添加量は、乳児食品中の1gまでのARA/100gの総脂肪の濃度を生じさせる油の量である。最終産物に基づくBASF製品番号30056967またはDHASCO(登録商標)油の好ましい添加量は、乳児食品中の1gまでのDHA/100gの総脂肪の濃度を生じさせる粉末または油の量である。本発明の植物種子油およびBASF製品番号30056967またはDHASCO油の好ましい量は、とりわけ、乳児食品が販売される個別の国の法令、製造者の製品要求、および消費者の要求に依存しうる。
【0048】
本発明は、さらに、本発明の植物種子油を含む食品を利用可能にする。
【0049】
本発明の植物種子油は、例えば、冷圧油として、例えばサラダ油として直接使用することができる。本発明の植物種子油は、例えば、ミルクまたは、チーズもしくはヨーグルトなどの乳製品中で、使用することもできる。しかし、マーガリン、またはパンもしくはベーカリー製品にそれを加えることも可能である。最後に、それはフードサプリメント(サプリメント)として一般に適している。これらは、医薬品と食品との境界領域の、ヒト代謝への特定の栄養分または活性成分の供給増加ための製品を意味すると理解されるものとする。
【0050】
法的に、このフードサプリメント製品群はEU法でガイドライン2002/46/ECによって監督されている。ここでは、許容される無機質およびビタミンが特に指定されている。これに基づくフードサプリメントについての指示では、フードサプリメントは「一般的栄養を補うことが意図される食品、食物濃縮物または、栄養固有の作用もしくは生理学的作用のみ、もしくは組み合わせを有する他の物質であり、測定された少量を摂取するための服用形式で、特にカプセル、パステル、錠剤、丸剤、発泡錠および他の同様の投与形式、サシェ、液体アンプル、液滴挿入物を有するボトルおよび、液体および粉末の同様の投与形式で販売される」。法的にそれらは食品に属するため、ドイツではLebensmittel- and Futtergesetzbuch(LFGB; German food and feed code)の規制下にある。許容される成分はNahrungsergaenzungsmittelverordnung(NemV; Food supplement directive)のAppendix 1に列挙されている。
【0051】
本発明の植物種子油は、ここに、単独でまたは1種以上の油、例えば微生物油、例えばMortierella alpinaもしくはCrypthecodinium cohnii由来の微生物油または魚油と組み合わせて食品補給に使用することができる。トコフェロール、例えばビタミンEおよびトコトリエノールおよびアスコルビン酸パルミテートまたは植物抽出物、例えばローズマリーおよび植物ステロール、またはカロテノイド、例えばルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチンおよびリコペン、または補酵素、例えば補酵素Qを加えることもできる。適した投与形式は、ここに、本発明の植物種子油を、測定された少量で摂取するための、カプセル、パステル、錠剤、丸剤、発泡錠および他の適した投与形式、サシェ、液体アンプル、液滴挿入物を有するボトルおよび、液体および粉末の同様の投与形式である。食品補給のための脂肪酸の用量は先行技術に適切に記載されている。
【0052】
本発明は、好ましくは、ここに、本発明の植物種子油を含むベビーフードに関する。
【0053】
母乳栄養を受けない場合、ベビーフードは出生後の最初の月に唯一の食物として働く。本明細書中で使用される用語「ベビーフード」は、例えば、早産児食、乳児用人工乳、乳児食、または小児食を含む。本明細書中で早産児食は、予定出産日より前に生まれた新生児用の食物を意味する。乳児用人工乳は、出生後の最初の4〜6ヵ月(すなわち出生から4〜6ヵ月齢まで)の期間中に乳児に特定の栄養を与えるために意図され、かつそれ自体でこの群のヒトの栄養必要量を満たす食物である。乳児食は、乳児用の食物を意味すると理解されるものとし、乳児とは約12ヵ月まで(出生〜12ヵ月齢)の小児を意味する。小児食は、約24ヵ月齢まで(出生〜24ヵ月)の小児に与えられる食物を意味すると理解されるものとする。乳児または約4〜6ヵ月〜24ヵ月齢の小児の摂食におけるそのような適用物のLC−PUFA含量は、食物の脂肪含量に基づいて、乳児用人工乳と同一の領域に入る。本発明の植物種子油を含む典型的な乳児用人工乳の組成は以下の実施例に示される。本発明の植物種子油は、例えば代替母乳、(例えば乳児が離乳した後の)フォローアップミルク(follow-on milk)中でまたは補完食として、例えばベビーシリアル、ボトルのベビーフード、再調製乾燥食品、ミルクおよび代用乳飲料、ジュースおよび他の温かいまたは冷たい飲料および食事療法の食品の添加物として用いることができる。しかし、本発明の植物種子油は妊娠中の母およびさらに母乳栄養中の母の食事での適用にも至る。その理由はLC−PUFAが母乳に達するからである。さらに、それらは、24ヵ月齢までの子供の食品補給のために利用することもでき、さらに年長児および成人の食品補給のために利用することもできる。フードサプリメントは任意の形式で提供することができ、例えばミルク、ジュース、ピューレ、シロップ、キャンデー、発酵製品、丸剤、カプセルまたは被覆錠剤の形式で提供することができる。
【0054】
本明細書中で使用されるベビーフードまたは乳児食は、乳児または24ヵ月までの小児の栄養摂取に特に適しているすべての食品の総称を意味すると理解されるものとする。これらは母乳も含む。工業上のインスタントベビーフードは、概して、塩、香辛料、糖を含まずにかつ着色剤および保存剤もほとんど含まずに製造される。ここに、乳児用人工乳とフォローアップフードと補完食との区別は食品法の用語法で行われる(Lebensmittel-Lexikon Dr. Oetker [Dr. Oetker Foodstuff Encyclopedia], 4th ed. 2004, infant food article)。
【0055】
ここに、以下の食品間での区別を行うことができる。
【0056】
乳児用人工乳(0〜6ヵ月)
乳児用人工乳は、食品法の用語法で、特に生まれて最初の6ヵ月の摂食のために意図され、かつ乳児が必要とするすべての栄養分を含む、すべての食品および製品として指定される。完成品の調製では、水をさらに加えることもある。
【0057】
フォローアップフード(4〜24ヵ月)
食品法における乳児用のフォローアップフードは、特に約4ヵ月目からの乳児用に意図され、かつ最初の人工乳(formula)と同様に液体粘度(liquid consistency)を有するが、より多量の炭水化物をデンプンの形式で含む、すべての食品および製品である。
【0058】
補完食(4〜24ヵ月)
補完食は、固形食への変化の準備をするために人工乳の代替物として乳児に使用されるすべての食品および調製物として指定される。
【0059】
特別食(0〜24ヵ月)
アレルギーへの高い遺伝的傾向を有するアレルギー体質のヒトの乳児および小児用。乳児の場合、腸粘膜は透過性のままであり、かつ異種タンパク質、例えば牛乳由来の異種タンパク質は食品アレルギーを引き起こすため、「低アレルゲン性(hypoallergenic)乳児食」が販売されている。特別食にもARAを補うべきである。
【0060】
また、本発明の植物種子油は、上記適用に加えて完全食として適している。ここに、完全食は、健全な成長が最適に保証されるように動物またはヒト個体(例えば乳児)の完全な食物必要性にわたる食物を意味すると理解されるものとする。本発明の植物種子油を加えた完全食は、母乳と類似の濃度のアラキドン酸(ARA)を含む。また、完全食は、γ−リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、ステアリドン酸(SDA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)、適切な場合には、DHAを母乳と類似の濃度で含む。したがって、それはベビーフードの製造に特に非常に高度に適している。上記完全食は、例えば、乳児乳、フォローアップミルク、小児用飲料、フルーツジュース、ピューレ製品、ミルク、ヨーグルトまたは発酵製品であってよい。それは、正常な成長および発達を支援するための乳児および子供の摂食を目的にする。完全製品の場合、それは固形ベビーフード、キャンデー、ビスケットまたはゼラチン製品であってもよい。
【0061】
実施例に示される乳児食中のARA含量を、授乳の最初の0〜12ヵ月間に母乳中で見出されたARAの総量に適合させた。追加の利点は、乳児乳にARAを補うために本発明の植物種子油が使用されると、GLA、DGLAおよびSDAの値も母乳中の濃度範囲内になることにある。これは、本発明の植物種子油が3種の高級不飽和脂肪酸をほぼ母乳中でも見出された比で含むことにある。ARA濃度を適合させるために本発明の植物種子油がベビーフードの成分として使用されると、GLAおよびDGLAも、特別なベビーフードおよび乳児食に適切な栄養分を提供するために適切な濃度で供給される。この場合、例えば、さらにGLA、DGLAおよびSDAを含む油の例えば混合のような油の変化は必要ではない。
【0062】
欧州ではベビーフードは食事療法の食品に割り当てられる(例えば「Directive 91/321/EC」を参照のこと)。したがって、乳児食およびベビーフードの品質要求は非常に高く、世界的に厳密に規制される。欧州は、ここに、ECガイドライン91/321/ECおよびCodex Alimentarius Alinorm 03/26aにしたがう。それは、同時に、EC内の国内法に変換されている。挙げることができる重要な新しい欧州ガイドラインおよび指示は、Codex Alimentarius: International Code of Hygienic Practice for Foods for Infants and Children (2004), VO 852/2004/EC Lebensmittelhygienegesetz [食品衛生法], Annex II (GHP,GMP)(Novellierung des Hygienerechts in Deutschland [ドイツの衛生法の修正], 29.04.2004), およびVO 178/2002/EC: Festlegung der allgemeinen Grundsaetze und Anforderungen des Lebensmittelrechts, zur Festlegung von Verfahren zur Lebensmittelsicherheit [食品の安全性のための手続きの定義のための、食品法の一般原則および要件の定義]. 28.02.2002 (Chain Control, 原材料のトレーサビリティ)である。また、東欧はここにECガイドラインにしたがい、国内の非常に厳格な法的手続きを有する。アジアおよびオーストラリアはWHO/FAOのCode、Codex Alimentariusおよび米国のFDA規制要件と協調する。米国のFDA規制要件は、主として、WHOのCodeおよびCodex Alimentariusと一致する。南米および中米の国内法は、米国の規制、WHOのCodeおよびCodex Alimentariusにしたがう。
【0063】
ドイツでの重要な法的規制は、Diaet-Verodnung (VO) [食事令(Diet Ordinance)]のセクション14, 14b, 14c, 14d, 22a, 22b(ドイツ)に記載されている。EC Verodnung (VO; EC Ordinance) 683/2004/ECは、乳児食および小児食中のアフラトキシンおよびマイコトキシンに関する。VO 1830/2003/ECは、遺伝子改変生物(GMO)およびGMO生物から生産された食品のトレーサビリティを規制する(22.09.2003)。ここに、最高量のVOは植物防疫剤または殺虫剤の残留物に関する(05.11.2003)。VO 2377/90/ECは動物起源の食品中の獣医学医薬品の残留物についての最高量の固定に関する(30.12.2000)。有害物質VOは、例えば、ダイオキシンおよびPCBの最大許容含量に関する。
【0064】
ベビーフードは、例えば、粉末形式で製造することができる。この目的で、ベビーフードを、例えば、噴霧乾燥し、インスタント化(instantiated)し、および塊にする。白色カン(窒素/二酸化炭素でガス処理)またはアルミニウム複合フィルムバッグ(ガス処理、ガス処理なし)にパッケージングする。しかし、ベビーフードは液体および乳化形式で製造することもできる。この目的では、例えば、それらをガラスビン中で最終滅菌するか、またはカンに充填する。ガラスへの無菌充填(Brikpak)または最終滅菌濃縮物のカンへの充填をさらに実施することができる。
【0065】
ベビーフードの生産に使用される原材料は、例えば、以下の成分であってよい:
牛乳、ヤギ乳(例えば中国、オーストラリア)、カゼイン/カゼイン塩、脱塩ホエイ粉末、アミノ酸、タウリン、カルニチン;植物油(パーム油、ダイズ油、ヒマワリ油、高度に油を含むヒマワリ油、ベニバナ油、ヤシ油、アブラナ油)、乳脂肪、魚油(マグロ油、タラ肝油、オキアミ油)、卵脂質(オボチン(ovothin))、ARASCO(登録商標)、DHASCO(登録商標);炭水化物(ラクトース、バクガデキストリン、デンプン)、他のタイプの糖、オリゴ糖(プレバイオティクス)、細菌培養(プロバイオティクス);ビタミン、コリン、ミオ−イノシトール;ミネラル(Ca、Na、K、Mg、P、Cl)、微量元素(Fe、Zn、Cu、Mn、Cr、Se、F、I)、ヌクレオチド。
【0066】
最も重要な生産方法では、脂肪を含む半製品を噴霧乾燥し、その後、炭水化物、ビタミンおよび微量栄養素を混合することによってベビーフードの生産を行う。しかし、ベビーフードの生産は、LC−PUFAを脂肪相に組み入れ、タンパク質および炭水化物成分でスプレーして半製品を得ることによって、行うこともできる。
【0067】
図5は、液状の乳児食の製造を例示的に示し、図6は完全噴霧による乳児食の製造の例を挙げる。
【0068】
本発明の植物種子油中のLC−PUFAの安定化は、ここに、例えばトコフェロールおよびトコトレノール(tocotrenols)を加えることによって達成することができる。トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル(ascorbyl pamitate)およびアスコルビン酸ナトリウムを加えると、LC−PUFAが保護され、製品安定性の増加および酸敗リスクの低下によって保存期間が向上する。ここで、乳児食中のビタミンE含量に注意を促すESPGHAN推奨に言及することができる(J. Ped. Gastroenterology and Nutrition 26, pp. 351-352, 1996)。LC−PUFAの安定化のためのさらなる添加物は、植物抽出物、例えばローズマリーおよび植物ステロール、またはカロテノイド、例えばルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチンおよびリコペン、または補酵素、例えば種々の形式の補酵素Qであってよい。安定化添加物が使用される場合、地域および国の法規制が守られるべきである。
【0069】
粉末状または油状の本発明の植物種子油中に含まれるLC−PUFAをベビーフードの生産に利用可能にするために、例えば以下の技術が適している。粉末形式では、粉状状および原材料および半製品と混合して最終製品に得るために単純乾燥混合系(例えばLoedigeミキサー)を使用することができる。油状(例えばガス処理された容器にパッケージされた油状製品)では、乳化剤および酸化防止剤とともに脂肪混合物に組み入れることができる。次いで、水相を有するエマルジョンの生産、および半製品を得るための乾燥(噴霧乾燥)を行う。そして、半製品を残りの配合成分とともに混合乾燥(mixed dry)して最終製品を得る。あるいは、特別な脂肪混合物の生産はLC−PUFAとともに行われ、油状製品に関して上に記載されるようにさらに加工される。
【0070】
単純な取り扱いおよび安全な計測によって、ベビーフードの生産での粉末状のLC−PUFAの使用が促進される。不都合として、LC−PUFAの含量がほんの約25%であり、マイクロカプセル化物質の割合が約75%であることが挙げられる。現在、多量の油の配合が研究中であり、50%をずっと超える油の配合が商業的に可能なようである。製品100gあたり1%のLCPUFAを使用する場合、4%の粉末(=担体物質3g/100g)が必要である。担体の割合はかなり高く、配合で(特に早産児食中で)考慮に入れるべきである。使用される担体は、例えば、ゼラチン、ショ糖、デンプン、カゼイン塩、レシチン、リン酸三カルシウム、ビタミンC、ビタミンE、またはアスコルビン酸ナトリウムであってよい。さらなる不都合は均質化を欠くことに見られる(脂肪ビーズサイズ>1μm)。粒子表面の遊離の油(拡散および不完全なカプセル化の結果として)は酸敗を生じさせる場合がある。
【0071】
ベビーフードの製造での油状のLCPUFAの使用には、利点として、脂肪混合物との単純な加工が伴い、それにより均一な分布が生じる。安定化剤は油状で、より良好にその作用を示すこともできる。均質化は、食物の脂肪相中のLCPUFAの完全な溶解を生じさせる。さらなる利点は、随伴物質の不存在および最終製品の良好な保存期間に見られる。最後に、油状製品はまた、微生物学的問題を伴わない。その理由は、製品が乾燥前に液相で加熱されるからである。
【0072】
不都合として、粘性が加工中の複雑さを増加させることを挙げることができる。工程管理は、また、噴霧乾燥およびその後の粉末の加工中の酸化を増加させる。噴霧乾燥された半製品(LCPUFAを含む)は、ガスで処理せずに3〜4週間より長く中間保存するべきではない。したがって、最終製品を得るためのできるだけ高速のさらなる加工および保護ガス(窒素/二酸化炭素)下でのカン中のパッケージングが望ましい。
【0073】
本発明の植物種子油はすでに油状で存在するため、乳児食の生産に特に適している。油状のLCPUFAの使用は対費用効果が高く、特に高生産量を用いる製品の場合に有利である。図6は、乾燥最終製品を生じさせる完全噴霧の例を用いて本発明の植物種子油の加工を示し、図5は液体ベビーフード製品の製造の例による。
【0074】
請求項:本発明は、さらに、本発明の植物種子油の製造方法であって、以下のステップ:
(a)配列番号15、16または17に示される核酸構築物を用いた形質転換によりトランスジェニック植物を作製するステップ、
(b)植物種子油の生合成を可能にする条件下でステップ(a)からのトランスジェニック植物を栽培するステップ、
(c)植物種子を回収し、植物種子油を抽出および精製するステップ
を含む、上記方法に関する。
【0075】
種子の回収および清浄化後、得られた種子を、本発明の植物種子油を取得するために加工する。加工は種子の圧縮で始まり、油の抽出およびその後の精製、および安定化へと続く。好ましくは、種子を常温圧縮し、続いて減圧ろ過する。この方法は、好ましくは、不活性雰囲気下、好ましくは窒素下で行う。約半分の本発明の植物種子油がこの方法によって得られる。
【0076】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(c)の植物種子油の抽出はヘキサン抽出を含む。
【0077】
溶媒、好ましくはヘキサンで、圧縮から残留した圧縮残留物を続いて抽出すると、90%を超える油の収率が達成される。例えばヘキサンを用いる連続法などの種々の方法が食用油の抽出に適している(Belitz & Grosch, 1999 "Edible Fats and Oils" In: Food Chemistry, 2nd ed. Springer Verlag)。ミセラ(miscella)蒸留は、後にヘキサンを除去して食品の所定の最高量より少なくするために適している。その後、抽出された油を不活性雰囲気下で圧縮油と混合する。この時点で粗製油は精製によるさらなる加工の準備ができている。ヘキサンを用いる抽出はマーガリンへの添加物として食用油に適しているが、バイオディーゼルの生産にも適している。ヘキサン抽出の不都合は、抽出された油が、該抽出された油がすべての適用に、例えばベビーフードでは、等しく非常に適しているわけではないようにヘキサン残留物を含みうる点に見られる。
【0078】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態では、ステップ(c)の植物種子油の抽出は超臨界CO抽出を含む。そのような方法で抽出された油は、有利に、例えばヘキサン抽出された油のように溶媒残留物を含まない。特に好ましくは、本発明の方法のステップ(c)の植物種子油の抽出は、以下のステップ:
(i) 好ましくは不活性雰囲気下で、0.2mm未満の粒径に砕くか圧縮することによって植物種子を粉砕するステップ;および
(ii) 圧力が少なくとも300barであり、40〜60℃の範囲の温度であり、抽出処理量がCO 60kg/時であり、かつ30〜120分後に完了する、超臨界CO抽出ステップ
を含む。
【0079】
超臨界二酸化炭素(CO)抽出は抽出剤としての臨界未満または超臨界状態の二酸化炭素の利用に基づき、抽出剤は循環している(Barthet and Daun 2002, JAOCS 79:245-51)。
【0080】
ここに、本明細書中に記載の砕かれた植物種子を直接使用するか、または本発明の植物油を圧縮することによって得られた圧縮ケーキを、使用される油状成分の部分的除去に使用する。植物種子から油を取得するためのこの方法は、不活性雰囲気下でかつ比較的低温で特に穏やかに実施できる利点を有する。それは油中の酸化プロセスを低減する。
【0081】
本発明の植物油をできるだけ完全に取得するために、実施例に記載の方法を開発した。該方法では、種子を最初に規定サイズに粉砕し、次いでほぼ完全に抽出する。このために、まず、種子を砕くかまたは圧縮することによって0.2mm未満の粒径に粉砕した。0.15mmのギャップサイズを有するロールプレスの使用が特に有利である。その後の超臨界抽出では、好ましい圧力は少なくとも300barであり、特に好ましくは350barである。温度は、40〜60℃の範囲で維持することができ、好ましくは、油中の酸化プロセスを低減するために、40〜50℃またはさらに良好には40〜45℃のできるだけ低い温度が選択される。最適な収率はCO 60kg/時の抽出実行で120分後に達成される。ここに、達成可能な最大収率の90%収率を達成するために、最適なCO質量の処理量は、特に好ましくは基質の質量の80〜100倍である。抽出時間が短いほど、抽出が不完全になる。
【0082】
空気乾燥された種子中に残留する水分(約7%)が通り過ぎて抽出油に入り、凍結乾燥された基質と比較してCO抽出の総油収率を有利に増加させる。したがって基質の空気乾燥が好ましい。全抽出プロセス中に、その脂肪酸組成およびその酸化パラメータ(酸価、ヨウ素価)に関して大部分が同一のままである油が得られる。本明細書中で指定される最適化された条件下での超臨界CO抽出の抽出効率は、ヘキサンを用いる慣用のソックスレー抽出の抽出効率に匹敵した。パイロット規模で実施された超臨界二酸化炭素(CO)抽出を、大きく変化させることなく、例えば油800トン/年についての必要な工業規模に増加させることができる。
【0083】
本明細書中に記載の方法を用いる超臨界CO2抽出は、特に本発明の植物種子油の抽出に適している。その理由は、ヘキサン抽出と対照的に、それが溶媒ヘキサンの残留物を含まないからである。ゆえに、そのような方法で抽出された本発明の植物種子油はベビーフードで特に有利に使用される。好ましくは、実施例に記載の方法にしたがって超臨界CO抽出を用いて油を取得する。図4は、本発明の植物種子油の超臨界CO抽出のためのパイロットプラントの概略を例示的に示す。
【0084】
本発明の方法の好ましい実施形態では、ステップ(c)の植物種子油の精製は、本発明の植物種子油に適合させたアルカリ精製技術を含む。それは大型プラントで使用され、以下でさらに詳細に記載される。超臨界CO抽出から得られた油の場合の精製はすべての場合で必要なわけではない。上記の本発明の植物種子油のいくつかの適用では、SLE超臨界CO抽出を用いて得られた油の直接使用が可能であり、すなわちこのために後の精製ステップは必要ではない。これらの製品には、乳児用のミルク、ジュース、ピューレ、シロップ、キャンデーおよび発酵製品が含まれる。
【0085】
ヘキサン抽出を用いて得られた油では(超臨界CO抽出を用いて得られた油でも、必要に応じて)、後の精製ステップを行う。粗製植物油(圧縮および抽出油から得られた混合油)の精製、および充填は、完全に真空下または窒素下で行う。まず、粗製油を10%の水で水和する(85℃、45分、300rpm)。次いで、1.5%クエン酸(20%強度)での粘泥の除去を85℃で同様に行う(45分、300rpm、10%水)。次いで、7%強度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄(90〜95℃、20分、250rpm、10%水)し、90℃で乾燥(11分、350rpm 〜30mbar)することによって中和する。1%漂白土で漂白を行う(Tonsil Optimum 214 FF、90℃、20分、350rpm、〜20mbar)。次いで、圧力および窒素下でアセテートフィルターを用いて油をろ過する。脱イオン水および脱気水を使用して、220℃、20分、1〜2mbarで脱臭を行う。
【0086】
あるいは、本発明の冷圧植物油を食物に直接用いることもできる。
【0087】
次いで、安定化添加物の選択の正確に測定された添加によって抽出された本発明の植物油を安定化する。該安定化添加物は:トコフェロール、例えばビタミンEおよびトコトリエノール、アスコルビン酸パルミテート、植物抽出物、例えばローズマリーおよび植物ステロール、カロテノイド、例えばルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチンおよびリコペン、リン脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンおよびホスファチジルグリコールまたは補酵素、例えば補酵素Qを含んでよい。
【0088】
その後の生化学的品質管理の後、油は、本明細書中で記載されるような用途、例えば食品、食事療法製品、特にベビーフードおよびフードサプリメントで使用できる状態にある。生化学的品質パラメータの典型的な値は:酸価0.15;検出限界未満の過酸化物価;色AOCS 0.6Rおよび22Yである。
【0089】
本発明の方法によって生産される植物種子油は、好ましい実施形態では、以下の一般式I:
【化1】

【0090】
式中、変数および置換基は以下の通りであり、
は、ヒドロキシル、補酵素A(チオエステル)、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール、スフィンゴ塩基(sphingo base)または式II:
【化2】

【0091】
の基であり、
は、水素、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトールまたは飽和もしくは不飽和C〜C24−アルキルカルボニルであり、
は、水素、飽和もしくは不飽和C〜C24−アルキルカルボニルであるか、またはRおよびRは、互いに独立して、式Ia:
【化3】

【0092】
の基であり、
nは2、3、4、5、6、7または9であり、mは2、3、4、5または6であり、およびpは0または3である、
に示される構造を有する物質を含む。
【0093】
一般式IのRは、ヒドロキシル−、補酵素A−(チオエステル)、リゾ−ホスファチジルコリン−、リゾ−ホスファチジルエタノールアミン−、リゾ−ホスファチジルグリセロール−、リゾ−ジホスファチジルグリセロール−、リゾ−ホスファチジルセリン−、リゾ−ホスファチジルイノシトール−、スフィンゴ塩基−、または一般式II:
【化4】

【0094】
の基を表す。
【0095】
上記のRの基は、チオエステルの形式で一般式Iの化合物に常に結合している。
【0096】
一般式IIのRは、水素−、リゾ−ホスファチジルコリン−、リゾ−ホスファチジル−エタノールアミン−、リゾ−ホスファチジルグリセロール−、リゾ−ジホスファチジルグリセロール−、リゾ−ホスファチジル−セリン−、リゾ−ホスファチジルイノシトール−または飽和もしくは不飽和C〜C24−アルキルカルボニルを表す。
【0097】
挙げることができるアルキル基は、1個以上の二重結合(群)を含む、置換または非置換の、飽和または不飽和のC〜C24−アルキルカルボニル鎖、例えばエチルカルボニル−、n−プロピルカルボニル−、n−ブチルカルボニル−、n−ペンチルカルボニル−、n−ヘキシルカルボニル−、n−ヘプチルカルボニル−、n−オクチルカルボニル−、n−ノニルカルボニル−、n−デシルカルボニル−、n−ウンデシルカルボニル−、n−ドデシルカルボニル−、n−トリデシルカルボニル−、n−テトラデシルカルボニル−、n−ペンタデシルカルボニル−、n−ヘキサデシルカルボニル−、n−ヘプタデシルカルボニル−、n−オクタデシルカルボニル−、n−ノナデシルカルボニル−、n−エイコシルカルボニル−、n−ドコサニルカルボニル−またはn−テトラコサニルカルボニル−である。1個以上の二重結合(群)を含む、n−デシルカルボニル−、n−ウンデシルカルボニル−、n−ドデシルカルボニル−、n−トリデシルカルボニル−、n−テトラデシルカルボニル−、n−ペンタデシルカルボニル−、n−ヘキサデシルカルボニル−、n−ヘプタデシルカルボニル−、n−オクタデシルカルボニル−、n−ノナデシルカルボニル−、n−エイコシルカルボニル−、n−ドコサニルカルボニル−またはn−テトラコサニルカルボニル−などの飽和または不飽和C10〜C22−アルキルカルボニル基が好ましい。特に好ましいのは、1個以上の二重結合(群)を含む、C10−アルキルカルボニル、C11−アルキルカルボニル、C12−アルキルカルボニル、C13−アルキルカルボニル、C14−アルキルカルボニル、C16−アルキルカルボニル、C18−アルキルカルボニル、C20−アルキルカルボニルまたはC22−アルキルカルボニル基などの飽和および/または不飽和C10〜C22−アルキルカルボニル基である。特に非常に好ましいのは、1個以上の二重結合(群)を含む、C16−アルキルカルボニル、C18−アルキルカルボニル、C20−アルキルカルボニルまたはC22−アルキルカルボニル基などの飽和または不飽和C16−C22−アルキルカルボニル基である。これらの有利な基は2、3、4、5または6個の二重結合を含むことができる。脂肪酸鎖中に20または22炭素原子を有する特に有利な基は6個までの二重結合を含み、有利には3、4、5または6個の二重結合、特に好ましくは5または6個の二重結合を含む。上記のすべての基は、対応する脂肪酸由来である。
【0098】
一般式IIのRは、水素−、飽和または不飽和C〜C24−アルキルカルボニルを表す。
【0099】
挙げることができるアルキル基は、1個以上の二重結合を含む、置換または非置換の、飽和または不飽和のC〜C24−アルキルカルボニル鎖、例えばエチルカルボニル−、n−プロピルカルボニル−、n−ブチルカルボニル−、n−ペンチルカルボニル−、n−ヘキシルカルボニル−、n−ヘプチルカルボニル−、n−オクチルカルボニル−、n−ノニルカルボニル−、n−デシルカルボニル−、n−ウンデシルカルボニル−、n−ドデシルカルボニル−、n−トリデシルカルボニル−、n−テトラデシルカルボニル−、n−ペンタデシルカルボニル−、n−ヘキサデシルカルボニル−、n−ヘプタデシルカルボニル−、n−オクタデシルカルボニル−、n−ノナデシルカルボニル−、n−エイコシルカルボニル−、n−ドコサニルカルボニル−またはn−テトラコサニルカルボニル−である。1個以上の二重結合を含む、n−デシルカルボニル−、n−ウンデシルカルボニル−、n−ドデシルカルボニル−、n−トリデシルカルボニル−、n−テトラデシルカルボニル−、n−ペンタデシルカルボニル−、n−ヘキサデシルカルボニル−、n−ヘプタデシルカルボニル−、n−オクタデシルカルボニル−、n−ノナデシルカルボニル−、n−エイコシルカルボニル−、n−ドコサニルカルボニル−またはn−テトラコサニルカルボニル−などの飽和または不飽和C10〜C22−アルキルカルボニル基が好ましい。特に好ましいのは、1個以上の二重結合を含む、C10−アルキルカルボニル、C11−アルキルカルボニル、C12−アルキルカルボニル、C13−アルキルカルボニル、C14−アルキルカルボニル、C16−アルキルカルボニル、C18−アルキルカルボニル、C20−アルキルカルボニルまたはC22−アルキルカルボニル基などの飽和および/または不飽和C10〜C22−アルキルカルボニル基である。特に非常に好ましいのは、1個以上の二重結合を含む、C16−アルキルカルボニル、C18−アルキルカルボニル、C20−アルキルカルボニルまたはC22−アルキルカルボニル基などの飽和または不飽和C16〜C22−アルキルカルボニル基である。これらの有利な基は2、3、4、5または6個の二重結合を含むことができる。脂肪酸鎖中に20または22炭素原子を有する特に有利な基は6個までの二重結合を含み、有利には3、4、5または6個の二重結合、特に好ましくは5または6個の二重結合を含む。上記のすべての基は、対応する脂肪酸由来である。
【0100】
上記のR、RおよびRの基は、ヒドロキシルおよび/またはエポキシ基で置換することができ、かつ/または三重結合を含むことができる。
【0101】
有利には、本発明の方法で製造された、以下に記載の植物種子油は、少なくとも1、2、3、4、5または6個の二重結合を有する多価不飽和脂肪酸を含む。特に有利には、該脂肪酸は4、5または6個の二重結合を含む。該脂肪酸は、有利には、脂肪酸鎖中に18、20または22個のC原子を有し、好ましくは該脂肪酸は脂肪酸鎖中に20または22個の炭素原子を含む。有利には、該方法で使用される核酸構築物を含む飽和脂肪酸はほとんどまたはまったく反応しない。「ほとんど反応しない」は、多価不飽和脂肪酸と比較して、飽和脂肪酸が5%未満、有利には3%未満、特に有利には2%未満、特に非常に好ましくは1;0.9;0.8;0.7;0.6;0.5;0.4;0.3;0.25または0.125%未満の活性でしか反応しないことを意味すると理解されるものとする。本発明の方法によって製造されたこれらの脂肪酸は、脂肪酸混合物中で植物種子油中に存在する。
【0102】
有利には、一般式IおよびIIの置換基RまたはRは、互いに独立して、飽和または不飽和C18〜C22−アルキルカルボニル−を表し、特に有利には、互いに独立して、少なくとも2個の二重結合を有する不飽和C18−、C20−またはC22−アルキルカルボニル−を表す。
【0103】
該方法で生産された植物種子油は、膜脂質および/またはトリアシルグリセリド中で有利には結合している多価不飽和脂肪酸を含むが、該多価不飽和脂肪酸は植物中で遊離脂肪酸として存在するか、または他の脂肪酸エステルの形式で結合していてもよい。ここに、それらは、種々の脂肪酸の混合物または異なるグリセリドの混合物の形式で有利に存在する。トリアシルグリセリド中で結合している種々の脂肪酸は、ここに、4〜6個のC原子を有する短鎖脂肪酸、8〜12個のC原子を有する中鎖脂肪酸、または14〜24個のC原子を有する長鎖脂肪酸由来であってよく、長鎖脂肪酸が好ましく、C18−、C20−および/またはC22−脂肪酸の長鎖脂肪酸LCPUFAが特に好ましい。
【0104】
本発明の方法では、植物種子油は、脂肪酸エステル中に少なくとも1または2個の二重結合を有する、有利には脂肪酸エステル中に少なくとも3、4、5または6個の二重結合を有する、特に有利には脂肪酸エステル中に少なくとも5または6個の二重結合を有する、単価または多価不飽和C18−、C20−および/またはC22−脂肪酸分子との脂肪酸エステルを使用して有利に製造され、リノール酸(=LA,C18:2Δ9,12)、γ−リノレン酸(=GLA,C18:3Δ6,9,12)、ステアリドン酸(=SDA,C18:4Δ6,9,12,15)、ジホモ−γ−リノレン酸(=DGLA,20:3Δ8,11,14)、ω−3−エイコサテトラエン酸(=ETA,C20:4Δ5,8,11,14)、アラキドン酸(ARA,C20:4Δ5,8,11,14)、エイコサペンタエン酸(EPA,C20:5Δ5,8,11,14,17)、ω−6−ドコサペンタエン酸(C22:5Δ4,7,10,13,16)、ω−6−ドコサテトラエン酸(C22:4Δ,7,10,13,16)、ω−3−ドコサペンタエン酸(=DPA,C22:5Δ7,10,13,16,19)、ドコサヘキサエン酸(=DHA,C22:6Δ4,7,10,13,16,19)またはそれらの混合物の合成を有利に生じさせる。生成される植物種子油は、図3Bにも示されるように、好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸を含む脂肪酸スペクトルを含む。
【0105】
多価不飽和C18−、C20−および/またはC22−脂肪酸分子を有する脂肪酸エステルは、該脂肪酸エステルの生産に使用された植物から、油または脂質の形式で、例えばスフィンゴ脂質、ホスホグリセリド、脂質、糖脂質、例えばスフィンゴ糖脂質、リン脂質、例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールまたはジホスファチジルグリセロール、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、トリアシルグリセリドまたは他の脂肪酸エステル、例えば少なくとも2、3、4、5または6個、好ましくは5または6個の二重結合を有する多価不飽和脂肪酸を含むアセチル補酵素Aエステルなどの化合物の形式で、単離することができ、有利には、それらはジアシルグリセリド、トリアシルグリセリドの形式で、かつ/またはホスファチジルコリンの形式で、特に好ましくはトリアシルグリセリドの形式で単離される。これらのエステルに加えて、多価不飽和脂肪酸は植物中で遊離脂肪酸として含まれるか、または他の化合物中で結合している。一般に、以前に記載される種々の化合物(脂肪酸エステルおよび脂肪酸)は、80〜90重量%のトリグリセリド、2〜5重量%のジグリセリド、5〜10重量%のモノグリセリド、1〜5重量%の遊離脂肪酸、2〜8重量%のリン脂質の概算の配分で植物中に存在し、種々の化合物の和は100重量%になる。
【0106】
本発明の方法では、総脂肪酸に基づき、少なくとも3重量%、有利には少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも8重量%、特に好ましくは少なくとも10重量%、特に非常に好ましくは少なくとも15重量%の含量で生産されるLCPUFAをトランスジェニック植物中で製造する。ここに、有利には宿主生物中に存在するC18−および/またはC20−脂肪酸の、少なくとも10%、有利には少なくとも20%、特に有利には少なくとも30%、特に非常に有利には少なくとも40%までを反応させて、ARA、EPA、DPAまたはDHA(一例として少数を挙げただけである)などの対応する生成物にする。有利には、脂肪酸を結合型で生産する。本発明の方法で使用された核酸を用いて、これらの不飽和脂肪酸を、有利に生成されたトリグリセリドのsn1、sn2および/またはsn3位に導くことができる。本発明の方法では、出発化合物リノール酸(C18:2)またはリノレン酸(C18:3)が複数の反応ステップを通過するため、該方法の生成物、例えばアラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ω−6−ドコサペンタエン酸またはDHAは、完全に純粋な生成物としては得られず、最終産物には少量の前駆体も常に含まれる。リノール酸およびリノレン酸がともに出発植物に存在するならば、ARA、EPAまたはDHAなどの最終産物は混合物として存在する。前駆体は、有利には、合計で、それぞれの最終産物の量に基づき、20重量%を超えない、好ましくは15重量%を超えない、特に好ましくは10重量%を超えない、特に非常に好ましくは5、4、3、2、1または0.5重量%を超えない量になるべきである。有利には、本明細書中に記載のトランスジェニック植物では、図3Bの脂肪酸スペクトルにも示されるように、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸が最終産物として形成される。
【0107】
本発明の方法によって製造された植物種子油に含まれる脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、有利には、総脂肪酸含量に基づき、約3.2〜5.3%のパルミチン酸、約2.2〜5.3%のステアリン酸、約10〜25%のオレイン酸、約22〜36%のリノール酸、約4〜12%のγ−リノレン酸、約3〜8%のα−リノレン酸、約0.2〜1%のステアリドン酸、約3〜9%のジホモ−γ−リノレン酸、約12〜25%のアラキドン酸および約1〜4%のエイコサペンタエン酸を含む。さらに、本発明の方法によって製造された植物種子油に含まれる脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、有利には、脂肪酸エルカ酸(13−ドコサエン酸(13-docosaenoic acid))、ステルクリン酸(9,10−メチレンオクタデカ−9−エン酸(9,10-methyleneoctadec-9-enoic acid))、マルバル酸(malvalic acid)(8,9−メチレンヘプタデカ−8−エン酸(8,9-methyleneheptadec-8-enonic acid))、チョールムーグラ酸(シクロペンテンドデカン酸)、フラン脂肪酸(9,12−エポキシオクタデカ−9,11−ジエン酸(9,12-epoxyoctadeca-9,11-dienoic acid))、ベルノン酸(vernon acid)(9,10−エポキシオクタデカ−12−エン酸(9,10-epoxyoctadec-12-enoic acid))、タリン酸(tarinic acid)(6−オクタデシン酸)、6−ノナデシン酸、サンタルビン酸(santalbic acid)(t11−オクタデセン−9−イン酸(t11-octadecen-9-ynoic acid))、6,9−オクタデセニン酸(6,9-octadecenynoic acid)、ピルリン酸(pyrulic acid)(t10−ヘプタデセン−8−イン酸(t10-heptadecen-8-ynoic acid))、クレペニニン酸(crepenyninic acid)(9−オクタデセン−12−イン酸(9-octadecen-12-ynoic acid))、13,14−ジヒドロオロフェイン酸(13,14-dihydrooropheic acid)、オクタデセン−13−エン−9,11−ジイン酸(octadecen-13-ene-9,11-diynoic acid)、ペトロセレン酸(petroselenic acid)(シス−6−オクタデセン酸)、9c,12t−オクタデカジエン酸(9c,12t-octadecadienic acid)、カレンデュラ酸(calendula acid)(8t10t12c−オクタデカトリエン酸(8t10t12c-octadecatrienic acid))、カタルピン酸(catalpinic acid)(9t11t13c−オクタデカトリエン酸(9t11t13c-octadecatrienic acid))、エレオステリン酸(eleosteric acid)(9c11t13t−オクタデカトリエン酸(9c11t13t-octadecatrienic acid))、ジャカル酸(8c10t12c−オクタデカトリエン酸(8c10t12c-octadecatrienic acid))、プニカ酸(punicic acid)(9c11t13c−オクタデカトリエン酸(9c11t13c-octadecatrienic acid))、パリナリン酸(parinaric acid)(9c11t13t15c−オクタデカデトラエン酸(9c11t13t15c-octadecatetraenic acid))、ピノレン酸(pinolenic acid)(オール−シス−5,9,12−オクタデカトリエン酸(all-cis-5,9,12-octadecatrienic acid))、ラバレン酸(laballenic acid)(5,6−オクタデカジエンアレン酸(5,6-octadecadienallenic acid))、リシノール酸(12−ヒドロキシ油酸)および/またはコリオリン酸(coriolinic acid)(13−ヒドロキシ−9c,11t−オクタデカジエン酸)からなる群より選択される脂肪酸を含むことができる。上記の脂肪酸は、概して、有利に、本発明の方法によって製造された脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物中に微量にのみ存在し、すなわち、それらは、総脂肪酸に基づき、30%未満、好ましくは25%、24%、23%、22%または21%未満、特に好ましくは20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%または5%未満、特に非常に好ましくは4%、3%、2%または1%未満しか存在しない。有利には、本発明の方法によって製造された脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、以下の脂肪酸の1つにおいて、総脂肪酸に基づき0.1%未満しか含まないか、またはより良好には、クルパノドン酸(clupanodoic acid)(=ドコサペンタエン酸、C22:5Δ4,8,12,15,21)およびニシン酸(nisic acid)(テトラコサヘキサエン酸、C23:6Δ3,8,12,15,18,21)を含まない。
【0108】
本発明の核酸構築物または本発明の方法で使用された核酸構築物を用いて、GC分析での比較によって、非トランスジェニック出発植物、例えばアブラナ、アマ、ベニバナまたはダイズと比較して、少なくとも50%、有利には少なくとも80%、特に有利には少なくとも100%、特に非常に有利には少なくとも150%の、多価不飽和脂肪酸の収率の増加を達成することができる。
【0109】
以前に記載された方法によって化学的に純粋な多価不飽和脂肪酸組成物を調製することもできる。このために、公知の様式で、例えば抽出、蒸留、結晶化、クロマトグラフィーまたはこれらの方法の組み合わせを用いて、植物から脂肪酸組成物を単離する。これらの化学的に純粋な脂肪酸組成物は、食品、特にベビーフードの製造のための食品産業の分野での適用に有利であるが、化粧品産業および医薬品産業での適用にも有利である。
【0110】
本発明の核酸構築物は配列番号15、16および17に示され、上記および表1および2で詳細に記載される。原理的に、脂肪酸または脂質代謝のすべての遺伝子は、多価不飽和脂肪酸を使用する植物種子油の製造方法において、本発明の核酸構築物(本出願の意義の範囲内で、複数は単数を含み、またその逆でもあるものとする)と組み合わせて有利に使用することができる。例えば、本発明の核酸構築物で形質転換されたトランスジェニック植物を別の発現ベクターで発現させることができ、該別の発現ベクターを用いて、脂肪酸または脂質代謝の1種以上の遺伝子を発現させることができ、かつさらに、適した形質転換方法を用いてトランスジェニック植物に組み入れることができる。有利には、アシル−CoAデヒドロゲナーゼ(群)、アシル−ACP[=アシルキャリアタンパク質]デサチュラーゼ(群)、アシル−ACPチオエステラーゼ(群)、脂肪酸アシルトランスフェラーゼ(群)、アシル−CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ(群)、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(群)、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ(群)、アシル−補酵素Aオキシダーゼ(群)、脂肪酸デサチュラーゼ(群)、脂肪酸アセチレナーゼ、リポキシゲナーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、アレンオキシドシンターゼ、ヒドロペルオキシドリアーゼまたは脂肪酸エロンガーゼ(群)からなる群より選択される脂肪酸または脂質代謝の遺伝子を使用する。特に好ましくは、Δ−5−デサチュラーゼ、Δ−6−デサチュラーゼ、Δ−8−デサチュラーゼ、Δ−12−デサチュラーゼ、ω−3−デサチュラーゼからなる群より選択される遺伝子を本発明の核酸構築物と組み合わせて使用し、その場合、個々の遺伝子または数個の遺伝子を組み合わせて使用することができる。特に好ましくは、すでに記載されているように、この関連で、配列番号5および7を有するΔ−6−デサチュラーゼ、配列番号9を有するΔ−5−デサチュラーゼ、配列番号11および13を有するΔ−12−デサチュラーゼ、配列番号1および3を有するΔ−6−エロンガーゼ、配列番号18を有するΔ−5−エロンガーゼ、および/または配列番号20を有するΔ−4−デサチュラーゼを用いることができる。
【0111】
有利には、本発明の核酸構築物中で使用されるデサチュラーゼはCoA−脂肪酸エステルの形式のそれぞれの基質を変換する。これは、伸長ステップが前もって行われていれば、生成物収率を有利に増加させる。それにより、それぞれの不飽和化産物が、より多量に合成される。その理由は、伸長ステップは概してCoA−脂肪酸エステルに対して行われ、不飽和化ステップは主にリン脂質またはトリグリセリドに対して行われるからである。ゆえに、CoA−脂肪酸エステルとリン脂質またはトリグリセリドとの追加の、限定的であると思われる酵素反応が必要になる交換反応は必要ではない。
【0112】
本発明の核酸構築物によってコードされるポリペプチドの酵素活性の結果として、最も異なる多価不飽和脂肪酸を本発明の方法で製造することができる。本発明の方法に使用される植物の選択に応じて、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸および/またはDHAなどの種々の脂肪酸の混合物を遊離または結合形式で製造することができる。出発植物中でどの脂肪酸組成が優勢であるか(C18:2またはC18:3脂肪酸)に応じて、GLA、DGLAまたはARAなどのC18:2脂肪酸由来の脂肪酸またはSDA、ETAまたはEPAなどのC18:3脂肪酸由来の脂肪酸が得られる。該方法に使用される植物中に不飽和脂肪酸としてリノール酸(=LA、C18:2Δ9,12)のみが存在する場合、遊離脂肪酸または結合型として存在しうるGLA、DGLAおよびARAのみが該方法の生成物として生じうる。該方法で使用される植物、例えばアマ中に不飽和脂肪酸としてα−リノレン酸(=ALA、C18:3Δ9,12,15)のみが存在する場合、SDA、ETA、EPAおよび/またはDHAのみが該方法の生成物として生じ、それらは上記のように遊離脂肪酸または結合型として存在しうる。合成に関与する酵素Δ−5−デサチュラーゼ、Δ−6−デサチュラーゼ、Δ−4−デサチュラーゼ、Δ−12−デサチュラーゼ、Δ−5−エロンガーゼおよび/またはΔ−6−エロンガーゼの活性の改変によって、所望の脂肪酸組成を有する植物種子油を上記植物中で特に生産することができる。Δ−6−デサチュラーゼおよびΔ−6−エロンガーゼの活性のおかげで、出発植物および不飽和脂肪酸に応じて、GLAおよびDGLAまたはSDAおよびETAを含む油が例えば生じる。Δ−5−デサチュラーゼ、Δ−5−エロンガーゼおよびΔ−4−デサチュラーゼが植物内にさらに組み入れられると、ARA、EPAおよび/またはDHAがさらに生じる。これらは生合成鎖であるため、それぞれの最終産物は植物中に純物質としては存在しない。最終産物には、少量の前駆化合物も常に含まれる。これらの少量は、所望の最終産物、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸および/またはDHAまたはそれらの混合物に基づき、20重量%未満、有利には15重量%未満、特に有利には10重量%未満、特に非常に有利には5、4、3、2または1重量%未満である。
【0113】
有利に高い含量の多価不飽和脂肪酸を有する植物種子油を製造するための上記方法の収率を増加させるために、脂肪酸合成の出発材料の量を増加させることは有利である;これは、例えばΔ−12−デサチュラーゼを伴うポリペプチドをコードする核酸を植物に導入することによって達成することができる。これは、例えば、高いオレイン酸含量を有するアブラナ属(Brassica)などのアブラナ科(Brassicaceae)の油産生植物、例えば菜種で特に有利である。これらの生物は少ないリノール酸含量しか有さないため(Mikoklajczak et al., Journal of the American Oil Chemical Society, 38, 1961, 678 - 681)、出発材料リノール酸の製造に上記Δ−12−デサチュラーゼを使用することが有利である。
【0114】
有利には、上記核酸構築物を本発明の方法で用いる。
【0115】
好ましい実施形態では、該方法は、該方法で使用される核酸構築物を含む植物細胞または植物全体を取得するステップをさらに含み、該細胞および/または植物は、上記の本発明の核酸構築物を、単独で、または脂肪酸または脂質代謝のタンパク質をコードするさらなる核酸配列と組み合わせて使用して形質転換される。さらに好ましい実施形態では、本方法は、植物または栽培物から油、脂質または遊離脂肪酸を取得するステップをさらに含む。栽培物には、例えば、温室または農作での植物栽培物が含まれる。そうして得られる細胞または植物は、有利には、例えばアブラナ、カノーラ、アマ、ダイズ、ベニバナなどの油果実植物またはトウモロコシなどの農作物植物などの油産生生物の細胞である。
【0116】
栽培(growing)とは、例えば植物細胞、組織または器官の場合の栄養培地上もしくは栄養培地中での培養または担体(substrate)上もしくは担体中での、例えばハイドロカルチャー、植物の栽培に使用される容器中の土、または土壌中での植物全体の栽培であると理解されるものとする。
【0117】
本発明の方法に適している生物または宿主細胞は、脂肪酸、特に不飽和脂肪酸を合成できるか、または組み換え遺伝子の発現に適している生物または宿主細胞である。植物アブラナ、カノーラ、アマ、ダイズ、ベニバナまたはトウモロコシが好ましい。
【0118】
本発明の方法で合成された多価不飽和脂肪酸を含むトランスジェニック植物は、合成された油、脂質または脂肪酸を単離する必要なく直接、有利に市販することができる。本発明の方法での植物は、トランスジェニック植物由来であり、かつ/またはトランスジェニック植物の生産にさらに使用できる、植物全体およびすべての植物部分、植物器官または植物部分、例えば葉、茎(stalk)、種子、根、塊茎、葯、線維、根毛、茎(stem)、胚、カルス、子葉、葉柄、作物、植物組織、生殖組織、細胞培養物を意味すると理解されるものとする。ここに種子は、種皮、表皮細胞および種子細胞、胚乳または胚組織(embyro tissue)などのすべての種子部分を含む。しかし、本発明の方法で生産される化合物を植物または植物部分、例えば種子から油、脂肪、脂質および/または遊離脂肪酸の形式で単離することもできる。本方法で生産される多価不飽和脂肪酸は、植物が培養されている培養物からか、または農作物から該植物を収穫することによって回収することができる。これは、植物部分、好ましくは植物種子の圧縮または抽出によって行うことができる。ここに、油、脂肪、脂質および/または遊離脂肪酸は、「コールドビーティング(cold beating)」または「常温圧縮」による、熱供給なしの圧縮によって取得することができる。植物部分、特に種子をさらに容易につぶすことができるように、それらを前もって粉砕するか、蒸気で処理するか、またはあぶる。このように前処理された種子を、次いで、圧縮するか、または温かいヘキサンなどの溶媒で抽出することができる。次いで、溶媒を再び除去する。植物細胞の場合、これらを、例えばさらなる作業ステップなしで収穫後に直接抽出するか、または当業者に公知の種々の方法を用いてつぶした後に抽出する。このようにして、該方法によって生産される96%を超える化合物を単離することができる。次いで、得られた生成物をさらに加工、すなわち精製する。ここでは、まず、例えば、粘液および浮遊物を除去する。「脱ガム(degumming)」は酵素的に行うか、または、例えば、リン酸などの酸を加えることによって化学的/物理的に行うことができる。次いで、塩基、例えば水酸化ナトリウム溶液で処理することによって遊離脂肪酸を取り出す。得られた生成物を水で十分に洗浄し、生成物中に残留する塩基の除去のために乾燥する。生成物中に依然として含まれる着色剤を除去するために、生成物を、例えば漂白土または活性炭を用いる漂白に付する。最後に、生成物をさらに例えば蒸気で脱臭する。
【0119】
好ましくは、本発明の方法によって生産された植物種子油は、PUFAおよびLCPUFA、すなわちC18−、C20−またはC22−脂肪酸分子、有利には脂肪酸分子中に少なくとも1個の二重結合、好ましくは2、3、4、5または6個の二重結合を有するC18−、C20−またはC22−脂肪酸分子を含む。これらのC18−、C20−またはC22−脂肪酸分子は、植物、特に植物種子から油または脂質の形式で単離することができる。
【0120】
したがって、本発明の一実施形態は、総脂肪酸含量中の約7〜約26重量%の含量でアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1であり、かつアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1である、植物種子油、脂質または脂肪酸またはそれらのフラクションである。これらの植物種子油、脂質または脂肪酸またはそれらのフラクションは、配列番号15、16または17に示される本発明の核酸構築物がゲノムに組み込まれているトランスジェニック植物を使用する上記方法によって製造することができる。
【0121】
ここに本発明の植物種子油は、図3Bの脂肪酸スペクトルにも示されるように、好ましくは、脂肪酸パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸を含む脂肪酸スペクトルを含む。
【0122】
植物種子油中に存在する脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、有利には、総脂肪酸含量に基づき、約3.2〜5.3%のパルミチン酸、約2.2〜5.3%のステアリン酸、約10〜25%のオレイン酸、約22〜36%のリノール酸、約4〜12%のγ−リノレン酸、約3〜8%のα−リノレン酸、約0.2〜1%のステアリドン酸、約3〜9%のジホモ−γ−リノレン酸、約12〜25%のアラキドン酸および約1〜4%のエイコサペンタエン酸を含む。さらに、上記脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、有利には、脂肪酸エルカ酸(13−ドコサエン酸(13-docosaenoic acid))、ステルクリン酸(9,10−メチレンオクタデカ−9−エン酸(9,10-methyleneoctadec-9-enoic acid))、マルバル酸(malvalic acid)(8,9−メチレンヘプタデカ−8−エン酸(8,9-methyleneheptadec-8-enoic acid))、チョールムーグラ酸(シクロペンテンドデカン酸)、フラン脂肪酸(9,12−エポキシオクタデカ−9,11−ジエン酸(9,12-epoxyoctadeca-9,11-dienoic acid))、ベルノン酸(vernonic acid)(9,10−エポキシオクタデカ−12−エン酸(9,10-epoxyoctadec-12-enoic acid))、タリン酸(tarinic acid)(6−オクタデシン酸)、6−ノナデシン酸、サンタルビン酸(santalbic acid)(t11−オクタデセン−9−イン酸(t11-octadecen-9-ynoic acid))、6,9−オクタデセニン酸(6,9-octadecenynoic acid)、ピルリン酸(pyrulic acid)(t10−ヘプタデセン−8−イン酸(t10-heptadecen-8-ynoic acid))、クレペニン酸(crepenynic acid)(9−オクタデセン−12−イン酸(9-octadecen-12-ynoic acid))、13,14−ジヒドロオロフェイン酸(13,14-dihydrooropheic acid)、オクタデセン−13−エン−9,11−ジイン酸(octadecen-13-ene-9,11-diynoic acid)、ペトロセレン酸(petroselenic acid)(シス−6−オクタデセン酸)、9c,12t−オクタデカジエン酸(9c,12t-octadecadienoic acid)、カレンデュラ酸(calendula acid)(8t10t12c−オクタデカトリエン酸(8t10t12c-octadecatrienoic acid))、カタルピン酸(catalpinic acid)(9t11t13c−オクタデカトリエン酸(9t11t13c-octadecatrienoic acid))、エレオステリン酸(eleosteric acid)(9c11t13t−オクタデカトリエン酸(9c11t13t-octadecatrienoic acid))、ジャカル酸(8c10t12c−オクタデカトリエン酸(8c10t12c-octadecatrienoic acid))、プニカ酸(punicic acid)(9c11t13c−オクタデカトリエン酸(9c11t13c-octadecatrienoic acid))、パリナリン酸(parinaric acid)(9c11t13t15c−オクタデカデトラエン酸(9c11t13t15c-octadecatetraenoic acid))、ピノレン酸(pinolenic acid)(オール−シス−5,9,12−オクタデカトリエン酸(all-cis-5,9,12-octadecatrienoic acid))、ラバレン酸(laballenic acid)(5,6−オクタデカジエンアレン酸(5,6-octadecadienallenic acid))、リシノール酸(ricinolec acid)(12−ヒドロキシ油酸)および/またはコリオリン酸(coriolic acid)(13−ヒドロキシ−9c,11t−オクタデカジエン酸)からなる群より選択される脂肪酸を含むことができる。上記の脂肪酸は、概して、有利に、本発明の方法によって製造された脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物中に微量にのみ存在し、すなわち、それらは、総脂肪酸に基づき、30%未満、好ましくは25%、24%、23%、22%または21%未満、特に好ましくは20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%または5%未満、特に非常に好ましくは4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満しか存在しない。有利には、上記脂肪酸エステルまたは脂肪酸混合物は、以下の脂肪酸の1つにおいて、総脂肪酸に基づき0.1%未満しか含まないか、またはより良好には、クルパノドン酸(clupanodonic acid)(=ドコサペンタエン酸、C22:5Δ4,8,12,15,21)およびニシン酸(nisic acid)(テトラコサヘキサエン酸、C23:6Δ3,8,12,15,18,21)を含まない。
【0123】
好ましくは、本発明の植物種子油は、産生生物、有利にはトランスジェニック植物、特に有利には油果実植物、例えばダイズ、アブラナ、ベニバナ、アマまたは農作物トウモロコシの総脂肪酸含量に基づき、約7〜約26重量%のARA、および少なくとも1%、1.5%、2%、3%、4%または5%、有利には少なくとも6%、または7%、特に有利には少なくとも8%、9%または10%のEPAを含む。さらに、上記植物種子油はEPAに関して指定される量のDHAを含むことができる。
【0124】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の植物種子油またはそれから抽出されたLC−PUFAの、飼料、食品、好ましくはベビーフード、化粧品または医薬品での使用である。本発明の植物種子油またはそれから抽出されたLC−PUFAは、当業者に公知の様式で、他の油、脂質、脂肪酸または脂肪酸混合物、例えば植物(上記)または微生物(例えばMortierella alpinaまたはCrythecodinium cohnii由来)または動物起源(魚油など)との混合に使用することができる。(i)植物および微生物または(ii)植物および動物または(iii)植物および微生物および動物成分からなる油、脂質、脂肪酸または脂肪酸混合物のこれらの混合物を飼料、食品、好ましくはベビーフード、化粧品または医薬品の生産に使用することもできる。
【0125】
用語「油」、「脂質」または「脂肪」は、不飽和、飽和、好ましくはエステル型、脂肪酸(群)を含む脂肪酸混合物を意味すると理解される。油、脂質または脂肪は、高い割合の単価および多価不飽和、有利にはエステル型脂肪酸(群)を有することが好ましい。好ましくは、不飽和エステル型脂肪酸の割合は、約30%、より好ましくは50%の割合であり、さらにより好ましくは60%、70%、80%、90%、95%、99%または99.5%の割合である。測定に関して、例えば、脂肪酸をエステル転移反応によってメチルエステルに変換した後、ガスクロマトグラフィーによって脂肪酸の割合を測定することが可能である。油、脂質または脂肪は、種々の他の飽和または不飽和脂肪酸、例えばカレンディラ酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸などを含むことができる。特に、出発植物に応じて、油または脂肪中の種々の脂肪酸の割合を変動させることが可能である。
【0126】
有利には少なくとも2個の二重結合を有する、該方法で生産される多価不飽和脂肪酸は、上記の通りであり、例えばスフィンゴ脂質、ホスホグリセリド、脂質、糖脂質、リン脂質、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールまたは他の脂肪酸エステルである。
【0127】
本発明の方法で生産された、有利には少なくとも1、2、3、4、5または6個の二重結合を有する多価不飽和脂肪酸を含む植物種子油から、例えば有利にはメタノールまたはエタノールなどのアルコールの存在下でのアルカリ処理、例えば水性KOHまたはNaOHまたは酸加水分解を用いて、または酵素による切断を用いて多価不飽和脂肪酸を放出させ、例えば相分離およびその後の例えばHSOを用いる酸性化を用いて単離することができる。脂肪酸の放出は、以前に記載される精密検査(work-up)を行わずに直接行うこともできる。
【0128】
植物細胞または植物に導入された後、本方法で使用される核酸構築物は、分離したプラスミドまたは宿主細胞のゲノムに有利に組み込まれる。ゲノムへの組み込みでは、組み込みはランダムであるか、またはネイティブ遺伝子が、導入されたコピーによって置換され、それにより所望の化合物の生産が細胞によって調節されるような組み換えによって、もしくは「トランス」での遺伝子の使用により、遺伝子が、遺伝子の発現を保証する少なくとも1つの配列および転写された機能的な遺伝子のポリアデニル化を保証する少なくとも1つの配列を含む機能的発現単位と機能的に結びついているようにすることによって行うことができる。有利には、多重発現カセットまたは構築物を用いて核酸を植物中で多重並行発現にさせ、有利には遺伝子を植物中で多重並行で種子特異的に発現させる。
【0129】
コケおよび藻類は、アラキドン酸(ARA)および/またはエイコサペンタエン酸(EPA)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA)などのかなりの量の多価不飽和脂肪酸を生産する唯一の公知の植物系である。コケは膜脂質中にPUFAを含み、一方、藻類、藻類関連生物およびいくつかの真菌はまた、トリアシルグリセロールフラクション中に顕著な量のPUFAを蓄積する。したがって、そのような系統から単離された核酸分子もトリアシルグリセロールフラクション中にPUFAを蓄積し、本発明の方法および宿主、特に植物、例えば油果実植物、例えばアブラナ、カノーラ、アマ、ダイズ、ベニバナ中の脂質およびPUFA産生系の改変に特に有利である。したがってそれらを本発明の方法で有利に使用することができる。
【0130】
配列番号15、16または17を有する核酸構築物を好ましく使用する、本発明の方法での長鎖PUFAを含む植物種子油の生産では、多価不飽和C18−脂肪酸を最初にデサチュラーゼの酵素活性によって不飽和化し、次いでエロンガーゼによって少なくとも2個の炭素原子を伸長する必要がある。伸長ラウンド後、この酵素活性はC20−脂肪酸を生じさせ、2回の伸長ラウンド後はC22−脂肪酸を生じさせる。本発明の方法で使用されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼの活性は、好ましくは、有利には脂肪酸分子中に少なくとも1個の二重結合を有し、好ましくは2、3、4、5または6個の二重結合を有するC18−、C20−および/またはC22−脂肪酸を生じさせ、特に好ましくは、脂肪酸分子中に少なくとも2個の二重結合を有し、好ましくは3、4、5または6個の二重結合を有し、特に非常に好ましくは5または6個の二重結合を分子中に有するC18−、C20−および/またはC22−脂肪酸を生じさせる。第1の不飽和化および伸長が行われた後、さらなる不飽和化および伸長ステップ、例えばΔ−5およびΔ−4位でのそのような不飽和化を続いて行うことができる。本発明の方法の産物として特に好ましいのは、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸である。
【0131】
有利に使用されるトランスジェニック植物中の脂肪酸、油、脂質または脂肪の好ましい生合成部位は、例えば、一般に、本方法で使用される核酸の種子特異的発現が有利であるような種子または種子の細胞層である。脂肪酸、油または脂質の生合成は種子組織に制限されてはならず、すべての他の植物部分、例えば表皮細胞または塊茎で、組織特異的に行うこともできる。
【0132】
とりわけエロンガーゼをコードする、本発明の核酸構築物の使用によって、本方法で生産される多価不飽和脂肪酸を、非組み換え的に該核酸を含む野生型の該植物と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは少なくとも20%、非常に特に好ましくは少なくとも50%増加させることができる。
【0133】
本発明の方法によって、本方法で生産される植物種子油中の多価不飽和脂肪酸を、原理的に、2つのタイプに増加させることができる。有利には、該方法によって生産される遊離多価不飽和脂肪酸のプールおよび/またはエステル型多価不飽和脂肪酸の部分を増加させることができる。有利には、トランスジェニック植物中のエステル型多価不飽和脂肪酸のプールを本発明の方法によって増加させる。
【0134】
脂質および脂肪酸、PUFA補助因子および酵素の代謝、または膜を用いる親油性化合物の輸送に関与する本発明の核酸構築物は、本発明の方法で、トウモロコシ、ダイズ、アマ(Linum)種、例えばアマ、油または線維アマ、アブラナ(Brassica)種、例えばアブラナ、カノーラおよび菜種、ベニバナなどのトランスジェニック植物でのPUFAの生産の調節に直接(例えば脂肪酸生合成タンパク質の過剰発現または最適化が、改変された植物からの脂肪酸の収率、生産および/または生産効率に直接の影響を有する場合)使用され、かつ/または、間接作用を有し、それにもかかわらず、PUFAの収率、生産および/または生産効率の増加または望ましくない化合物の減少を生じさせることができる(例えば脂質および脂肪酸、補助因子および酵素の代謝の調節が、収率、生産および/または生産効率または細胞内の所望の化合物の組成の変化を生じさせ、ひいてはそれが1種以上の脂肪酸の生産に影響しうる場合)。
【0135】
種々の前駆体分子および生合成酵素の組み合わせは種々の脂肪酸分子の生産を生じさせ、それが脂質の組成に決定的な影響を有する。多価不飽和脂肪酸(=PUFA)は単にトリアシルグリセロールに組み入れられるだけでなく、膜脂質にも組み入れられる。
【0136】
脂質合成は2つのセクション:脂肪酸の合成およびsn−グリセロール3−リン酸へのその結合および極性頭部の付加または修飾に分けることができる。膜中で使用される通常の脂質は、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質およびホスホグリセリドを含む。脂肪酸合成は、アセチル−CoAカルボキシラーゼによるアセチル−CoAからマロニル−CoAへの変換またはアセチルトランスアシラーゼによるアセチル−ACPへの変換で始まる。縮合反応後、これらの2つの生成物分子は一緒にアセトアセチル−ACPを形成し、それがいくつかの縮合、還元および脱水反応によって、所望の鎖長を有する飽和脂肪酸分子が得られるように変換される。これらの分子からの不飽和脂肪酸の生成は特定のデサチュラーゼによって触媒され、具体的には、分子酸素によって好気的にまたは嫌気的に行われる(微生物中での脂肪酸合成に関しては、F.C. Neidhardt et al. (1996) E. coli and Salmonella. ASM Press: Washington, D.C., pp. 612-636および含まれる引用文献; Lengeler et al. (編) (1999) Biology of Procaryotes. Thieme: Stuttgart, New York, および含まれる引用文献, およびMagnuson, K., et al. (1993) Microbiological Reviews 57:522-542および含まれる引用文献を参照のこと)。そのように生成されたリン脂質に結合している脂肪酸は、次いで、脂肪酸CoAエステルプール中のリン脂質のさらなる伸長のために再変換されなければならない。これはアシル−CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼによって可能になる。さらに、これらの酵素は、CoAエステルから再び、伸長された脂肪酸をリン脂質に移すことができる。この反応シーケンスを、適切な場合には数回実行することができる。
【0137】
PUFA生合成の前駆体は、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸である。これらのC18−炭素脂肪酸は、エイコサおよびドコサ鎖型の脂肪酸が取得されるように、C20およびC22に伸長される必要がある。本方法で使用される核酸構築物、デサチュラーゼ(例えばΔ−12−およびΔ−15、ω−3−、Δ−12、Δ−4−、Δ−5−およびΔ−6−デサチュラーゼ)および/またはエロンガーゼ(Δ−5−およびΔ−6−エロンガーゼ)のおかげで、例えば、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸を製造することができ、その後、食品、飼料、化粧品または医薬品の適用において種々の目的で使用することができる。上記酵素を使用すると、脂肪酸分子中に少なくとも1個、有利には少なくとも2、3、4、5または6個の二重結合を有するC20−および/またはC22−脂肪酸、好ましくは、脂肪酸分子中に有利には4、5または6個の二重結合を有するC20−またはC22−脂肪酸を製造することができる。不飽和化は、対応する脂肪酸の伸長前または伸長後に行うことができる。したがって、デサチュラーゼ活性の産物および可能性のあるさらなる不飽和化および伸長は、より高度の不飽和化を有する好ましいPUFAを生じさせ、それには、C20〜C22−脂肪酸の、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸またはエイコサペンタエン酸などの脂肪酸へのさらなる伸長が含まれる。本発明の方法で使用されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼの基質は、C16−、C18−またはC20−脂肪酸、例えばリノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、エイコサテトラエン酸またはステアリドン酸である。好ましい基質は、リノール酸、γ−リノレン酸および/またはα−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸またはアラキドン酸、エイコサテトラエン酸またはエイコサペンタエン酸である。脂肪酸中に少なくとも1、2、3、4、5または6個の二重結合を有する合成されたC20−またはC22−脂肪酸は、本発明の方法で、遊離脂肪酸の形式でまたはそのエステルの形式で、例えばそのグリセリドの形式で取得される。
【0138】
用語「グリセリド」は、1、2または3個のカルボン酸基でエステル化されたグリセロール(モノ−、ジ−、またはトリグリセリド)を意味すると理解される。「グリセリド」は、種々のグリセリドの混合物を意味するとも理解される。グリセリドまたはグリセリド混合物はさらなる添加物、例えば遊離脂肪酸、酸化防止剤、タンパク質、炭水化物、ビタミンおよび/または他の物質を含むことができる。本発明の方法の意義の範囲内の「グリセリド」は、グリセロール由来のさらなる誘導体を意味すると理解される。これらには、上記脂肪酸グリセリドに加えて、グリセロリン脂質およびグリセロ糖脂質も含まれる。好ましくは、ここで、一例として、グリセロリン脂質、例えばレシチン(ホスファチジルコリン)、カルジオリピン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリンおよびアルキルアシルグリセロリン脂質に言及することができる。
【0139】
さらに、次いで、脂肪酸を種々の修飾部位に輸送し、トリアシルグリセロール貯蔵脂質に組み入れる必要がある。脂質合成のさらなる重要なステップは、例えばグリセロール脂肪酸アシルトランスフェラーゼによる極性頭部への脂肪酸の転移である(Frentzen, 1998, Lipid, 100(4-5):161-166を参照のこと)。
【0140】
以下の文献中の植物脂肪酸生合成、不飽和化、脂質代謝および脂肪含有化合物の膜輸送、ベータ酸化、脂肪酸修飾および補助因子、トリアシルグリセロール貯蔵および会合(assembling)についての刊行物(その引用文献を含む)を参照されたい:Kinney, 1997, Genetic Engeneering, ed.: JK Setlow, 19:149-166; Ohlrogge and Browse, 1995, Plant Cell 7:957-970; Shanklin and Cahoon, 1998, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 49:611-641; Voelker, 1996, Genetic Engeneering, ed.: JK Setlow, 18:111-13; Gerhardt, 1992, Prog. Lipid R. 31:397-417; Guehnemann-Schaefer & Kindl, 1995, Biochim. Biophys Acta 1256:181-186; Kunau et al., 1995, Prog. Lipid Res. 34:267-342; Stymne et al., 1993, in: Biochemistry and Molecular Biology of Membrane and Storage Lipids of Plants, ed.: Murata and Somerville, Rockville, American Society of Plant Physiologists, 150-158, Murphy & Ross 1998, Plant Journal. 13(1):1-16。
【0141】
本方法で生産される植物種子油は、細菌などの他の生物によって容易に合成することができるが、高等動物がもはや合成できず、ゆえに同化しなければならないか、または高等動物がもはや援助なしで適切に生産できず、ゆえに追加的に同化しなければならない分子群であるPUFAを含む。例えば、ネコはアラキドン酸をもはや合成できない。
【0142】
本発明の意義の範囲内の「リン脂質」は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよび/またはホスファチジルイノシトール、より有利にはホスファチジルコリンを意味すると理解されるものとする。用語「生産または生産性」は当業者の間(specialist field)で公知であり、それには、特定のタイムスパンでかつ特定の容量で形成される生成物(式Iの化合物)の濃度(例えば生成物kg/時間/リットル)が含まれる。それはまた、植物細胞または植物内の生産性であって、この細胞または植物中のすべての脂肪酸の含量に基づく、本方法で生産される所望の脂肪酸含量である生産性を含む。用語「生産効率」は、特定の生産量を取得するために必要な時間(例えば細胞が特定のファインケミカル処理速度を立ち上げるために要する時間)を含む。用語「収率または生成物/炭素収率」は当業者の間で公知であり、生成物(すなわちファインケミカル)中の炭素源の変換の効率を含む。これは、通常、例えば、生成物kg/炭素源kgとして表される。化合物の収率または生産を増加させることによって、固定された期間中に特定の栽培量中で得られる分子の量または特定の栽培量中で得られるこの化合物のうちの適した分子の量が増加する。用語「生合成または生合成経路」は当業者の間で公知であり、例えば多重ステップおよび高度に制御されたプロセスにおける、中間体化合物からの、細胞による化合物、好ましくは有機化合物の合成を含む。用語「分解または分解経路」は当業者の間で公知であり、例えば多重ステップおよび高度に制御されたプロセスにおける、細胞による化合物、好ましくは有機化合物の、分解産物(より一般には、小さい分子または複雑さの低い分子)への切断を含む。用語「代謝」は当業者の間で公知であり、生物中で生じる生化学反応の全体を含む。そして、特定の化合物の代謝(例えば脂肪酸の代謝)は、この化合物に関する、細胞中のこの化合物の生合成、修飾および分解経路の全体を含む。
【0143】
本発明の核酸構築物および、適切な場合には、脂質または脂肪酸代謝の酵素をコードするさらなるポリヌクレオチドの使用により、本発明の方法において種々の有利な効果を達成することができる。ゆえに、植物、好ましくは油果実植物中の多価不飽和脂肪酸の収率、生産および/または生産効率が影響を受ける。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの数または活性は、多量の遺伝子産物およびゆえに最終的に多量の一般式Iの化合物が生産できるように増加させることができる。対応する遺伝子/遺伝子群の組み入れ前に該化合物の生合成に関する活性および能力が不存在であった、生物中の新規合成も可能である。これは、適宜、さらなるデサチュラーゼまたはエロンガーゼまたは、脂肪酸および脂質代謝由来のさらなる酵素との組み合わせを求める。種々の多岐にわたる配列、すなわちDNA配列レベルで異なる配列の使用または、例えば種子または油貯蔵組織の成熟度の程度に応じて、異なる時間的遺伝子発現を可能にする遺伝子発現のためのプロモーターの使用もここに有利でありうる。
【0144】
本発明の核酸構築物を単独でまたは他の遺伝子と組み合わせて植物に導入することによって、最終産物へ流れる生合成を増加させることができるだけでなく、対応するトリアシルグリセロール組成を増加させるかまたは新規に創出することもできる。同様に、1種以上の脂肪酸、油、極性および/または中性脂質の生合成に必要な栄養分の輸入に関する他の遺伝子の数または活性を増加させて、細胞内または貯蔵区画内のこれらの前駆体、補助因子または中間体化合物の濃度を増加させ、それによりPUFAを生産する細胞の能力がさらに高まるようにすることができる。これらの化合物の生合成に関与する1種以上のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの活性または数の増加の最適化によるか、またはこれらの化合物の分解に関与する1種以上の遺伝子の活性を破壊することにより、植物からの脂肪酸および脂質分子の収率、生産および/または生産効率を高めることが可能である。該方法において得られた植物種子油はさらなる貴重な生成物の化学合成の出発材料として適している。それらは、例えば、互いに組み合わせるかまたは単独で医薬品、食品、特に乳児食またはベビーフード、動物飼料または化粧品の生産に使用することができる。
【0145】
好ましくは、本発明の方法は、油、脂質または脂肪酸組成物として植物種子油を配合するさらなるステップ(d)を含む。
【0146】
さらに好ましくは、本発明の方法で油、脂質または脂肪酸組成物をさらに配合して、食品、好ましくはベビーフードを得る。
【0147】
この方法の好ましい実施形態では、油、脂質または脂肪酸組成物をさらに配合して、医薬品を得るか、化粧品を得るか、食品を得るか、フードサプリメントを得るか、飼料、好ましくは魚飼料もしくは産卵鶏の飼料を得るか、またはフードサプリメントを得る。
【0148】
最後に、本発明は、基本的に、油、脂質または脂肪酸組成物の生産のための、本発明の核酸構築物、これらの核酸構築物を含むトランスジェニック植物細胞またはトランスジェニック植物の使用に関する。そしてこれは、好ましくは、医薬品、化粧品、食品、特にベビーフード、飼料、好ましくは魚飼料もしくは産卵鶏のエサ、またはフードサプリメントとして用いることができる。
【0149】
例えば、本発明の植物種子油を、上記適用に加えて、動物の飼料、特に繁殖結果の向上のための飼料適用に関するフードサプリメントとして使用することができる。例えばサケ(Salmonidae)、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリの畜産結果の向上のため、および家畜、例えばネコおよびイヌの健康のための飼料添加物は、若い動物または母親動物のエサにARAを添加する場合、生殖率の向上に適した濃度のアラキドン酸(ARA)を含む。ARAに加えて、ここに飼料製品はまた、高品質飼料添加物を得るために、γ−リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、ステアリドン酸(SDA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)を含む。食物および飼料製品の該添加は、生殖率を高め、若い動物の生存確率を良好にし、および神経学的および視覚的発達を向上させる。
【0150】
さらに、本発明の植物種子油は、工業目的で、例えば工業油の形式で用いることもできる。そのような油は、重合成分として二重結合を有する特有の高濃度の不飽和脂肪酸を含む。本発明の植物種子油は、単独でまたは重合剤と組み合わせて、以下の工業的適用に用いることができる:
1. ラッカーおよびコーティング(酸化的乾燥油としての使用)
2. 床材(floor coverings)用ポリマーまたはプラスチック(酸化的乾燥油としての使用)
3. 他の化学的適用
4. 化粧品適用
5. 電子および半導体テクノロジー分野での適用。
【0151】
上記本発明の植物種子油の利点は、その特有の重合特性にある。該油は、高速かつ均一に重合し、強い3次元構造を形成し、それは、該網目構造の強度、耐久性および弾性が必要な場合(コーティングおよび床材またはプラスチック)に有利である。該油のほとんどの脂肪酸中の二重結合の均一分布の結果として、生成物は高弾性をさらに有する。
【0152】
本特許出願で引用されるすべての引用文献、特許出願、特許および公開されている特許出願の内容は、それぞれの具体的開示内容への参照によりここに含まれる。
【0153】
以下の実施例によって本発明をさらに説明する。実施例は、限定的であると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0154】
実施例1:一般的クローニング手順
クローニング手順、例えば制限切断、アガロースゲル電気泳動、DNA断片の精製、ニトロセルロースおよびナイロンメンブレンへの核酸のトランスファー、DNA断片の連結、大腸菌(Escherichia coli)細胞の形質転換、細菌の培養および組み換えDNAのシーケンス解析はSambrook et al. (1989) (Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載のように行った。
【0155】
実施例2:脂質抽出および植物種子油の分析
植物中の、または所望の化合物(例えば脂肪酸)の産生に対する遺伝子改変の影響は、適した条件(例えば上で記載される条件)下で改変植物を培養し、所望の生成物(すなわち脂質または脂肪酸)の生産の増加に関して培地および/または細胞成分を調査することによって決定することができる。これらの分析技術は当業者に公知であり、分光学、薄層クロマトグラフィー、種々のタイプの染色手順、酵素および微生物学的処理および分析用クロマトグラフィー、例えば高速液体クロマトグラフィーを含む(例えば、Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A2, pp. 89-90 and pp. 443-613, VCH: Weinheim (1985); Fallon, A., et al., (1987) "Applications of HPLC in Biochemistry" in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Vol. 17; Rehm et al. (1993) Biotechnology, Vol. 3, Chapter III: "Product recovery and purification", pp. 469-714, VCH: Weinheim; Belter, P.A., et al. (1988) Bioseparations: downstream processing for Biotechnology, John Wiley and Sons; Kennedy, J.F., and Cabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological Materials, John Wiley and Sons; Shaeiwitz, J.A., and Henry, J.D. (1988) Biochemical Separations, in: Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. B3; Chapter 11, pp. 1-27, VCH: Weinheim; およびDechow, F.J. (1989) Sep
aration and purification techniques in biotechnology, Noyes Publicationsを参照のこと)。
【0156】
上記方法に加えて、Cahoon et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96 (22):12935-12940, およびBrowse et al. (1986) Analytic Biochemistry 152:141-145に記載のように植物材料から植物脂質を抽出する。定性的および定量的な脂質または脂肪酸分析は、Christie, William W., Advances in Lipid Methodology, Ayr/Scotland: Oily Press (Oily Press Lipid Library; 2); Christie, William W., Gas Chromatography and Lipids. A Practical Guide - Ayr, Scotland: Oily Press, 1989, Repr. 1992, IX, 307 S. (Oily Press Lipid Library; 1); "Progress in Lipid Research, Oxford: Pergamon Press, 1 (1952) - 16 (1977) under the title: Progress in the Chemistry of Fats and Other Lipids CODENに記載されている。
【0157】
一例は脂肪酸の分析である(略語:FAME,脂肪酸メチルエステル;GC−MS,ガス−液体クロマトグラフィー質量分析;TAG,トリアシルグリセロール;TLC,薄層クロマトグラフィー)。
【0158】
スチールボールで砕く(Retsch mill、1分)ことによって分析対象の材料を破砕した。破砕後に材料を遠心分離し、沈殿を蒸留水に再懸濁し、100℃で10分間加熱し、氷上で冷却し、再び遠心分離し、次いで2%ジメトキシプロパンを含むメタノール中の0.5M硫酸で90℃で1時間抽出し、それにより加水分解された油および脂質化合物が生じ、メチル基転移された脂質を得た。これらの脂肪酸メチルエステルを石油エーテルに抽出し、最後にキャピラリーカラム(Chrompack, WCOT Fused Silica, CP-Wax-52 CB,25ミクロン,0.32mm)を使用して、170℃〜240℃の温度勾配で20分間および240℃で5分間のGC分析に付した。市販の供給元(例えばSigma)から入手可能な標準を使用して、得られた脂肪酸メチルエステルが何であるかを明らかにした。
【0159】
実施例3:代謝経路に関与する遺伝子の組み合わせおよびTプラスミド中のそれらの組み立て
アブラナの種子でのLC−PUFAの合成のために、代謝経路で必要な遺伝子(表1)を、発現エレメント(プロモーター、ターミネーター、表2)と組み合わせて、形質転換ベクターに導入した。
【表1】

【表2】

【0160】
該遺伝子および該発現エレメントから出発し、ゲートウェイクローニング手順(Invitrogen)を製造元の使用説明書にしたがって使用して、pENTRベクターの多重カセットをバイナリーTのプラスミドpSUN中に組み合わせた。Hellens et al, Trends in Plant Science (2000) 5: 446-451は、バイナリーベクターの調査およびそれらの使用を記載している。pENTRベクターの組み換え反応によって、バイナリーTプラスミドVC−LJB913−1qcz(配列番号15)、VC−LJB1327−1qcz(配列番号16)およびVC−LJB1328−1qcz(配列番号17)を取得した。得られたベクターの機能的発現カセットの配列(プロモーター、遺伝子、ターミネーター)を図2A、2Bおよび2Cに示す。
【0161】
同様に、多価不飽和長鎖脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)を含む植物種子油の合成のための機能的発現カセットを作製することもできる。DHAはさらなる重要な母乳成分である。植物でのDHAの合成のために、WO2005/083093に記載のように、アブラナ中に構築物を形質導入することができる。DHAを含む植物種子油を製造しようとする場合、本発明の核酸構築物は、上記遺伝子に加えて、好ましくは配列番号18に示されるOstreococcus tauri由来のΔ5−エロンガーゼおよび配列番号20に示されるTraustochytrium ssp.由来のΔ4−デサチュラーゼをコードする遺伝子を含む。ここで適しているプロモーターは配列番号22、24、26、28、30および33gであり、ターミネーターとしては配列番号23、25、27、29、31、32および34を用いることができる。
【0162】
実施例4:トランスジェニックアブラナ植物の作製(Moloney et al., 1992, Plant Cell Reports, 8:238-242にしたがって改変)
トランスジェニックアブラナ植物(Brassica napus)の作製では、適切に組み合わされた遺伝子を有する、上記でさらに記載されたpSUNプラスミドなどのバイナリーベクターをAgrobacterium tumefaciens C58C1:pGV2260中に形質導入した(Deblaere et al, 1984, Nucl. Acids. Res. 13, 4777-4788)。アブラナ植物の形質転換では、3%スクロースを含むMurashige−Skoog培地(Murashige and Skoog 1962 Physiol. Plant. 15, 473)(3MS培地)中の陽性に形質転換されたアグロバクテリウムコロニーの一晩培養物の1:50希釈物を使用した。新たに発芽させた滅菌アブラナ植物の葉柄または子葉下部(hypocotyledons)(それぞれ〜約1cm)をペトリ皿で1:50アグロバクテリウム希釈液と5〜10分間インキュベートした。0.8%Bacto agarを含む3MS培地中で25℃で暗所で3日間の共インキュベーションを続けて行った。16時間の明期/8時間の暗期での3日間の後に培養を継続し、500mg/LのClaforan(セフォタキシムナトリウム)、50mg/Lのカナマイシン、20mMのベンジルアミノプリン(BAP)および1.6g/Lのグルコースを含むMS培地上で1週間の周期性で継続した。2%スクロース、250mg/LのClaforanおよび0.8%Bacto agarを含むMS培地に成長中の発芽を移した。3週間後に根が形成されなければ、発根の成長ホルモンとして2−インドール酪酸を培地に加えた。
【0163】
カナマイシンおよびClaforanを有する2MS培地中で再生された発芽を取得し、発根後に土に移し、2週間の栽培後に気候室または温室で育て、開花させ、熟した種子を収穫し、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子の発現に関して、一例としてQiu et al. 2001, J. Biol. Chem. 276, 31561-31566に記載の脂質分析によって調査した。
【0164】
(b)トランスジェニックアマ植物の作製
トランスジェニックアマ植物の作製は、例えばBell et al., 1999, In Vitro Cell. Dev. Biol.-Plant. 35(6):456-465の方法にしたがって微粒子銃によってもたらすことができる。例えばMlynarova et al. (1994), Plant Cell Report 13: 282-285にしたがってアグロバクテリア媒介性形質転換を生じさせることができる。
【0165】
実施例5:作製されたTプラスミドで形質転換されたトランスジェニックアブラナ植物の脂質分析
実施例3で作製されたプラスミドを実施例4に記載のようにアブラナ(Brassica napus)に形質導入した。PCRによるトランスジェニック植物の選択後、これらを種子成熟(昼/夜サイクル:16時間,200mE,21℃,8時間暗,19℃)まで育て、種子を収穫した。
【0166】
収穫された種子を実施例2に記載のように抽出し、ガスクロマトグラフィーによる分析に付した。表3は、これらの構築物の種々の系統の結果を示す。表5は脂肪酸に使用される命名法を示す。表6は、ARAとすべての測定された脂肪酸の平均値との比を示す。
【0167】
驚くべきことに、トランスジェニック植物でのアラキドン酸の産生に関して以前に行われた実験(例えばWO2005/083093またはKajikawa et al. Biosci. Biotechno. Biochem., 72, 70549-1-10, 2008)または微生物(例えばMortierella alpina)の油由来のものとは対照的に、新規特性を達成することが可能であることをここに見出すことができた。特に、脂肪酸γ−リノレン酸(GLA)とアラキドン酸(ARA)およびジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)とアラキドン酸との新規の比を達成した。表4は、アラキドン酸を天然に産生するか、または対応する代謝経路の遺伝子を導入された異なる生物と比較した比の調査を記載する。
【0168】
アラキドン酸の生理学的に正の効果に加えて、この時点で、やはり、植物中で得られるGLAおよびDGLAの有利な比に言及することもできる。アラキドン酸に加えて、GLAおよびDGLAは母乳の脂肪部分の重要な成分である。本発明の植物種子油中に存在する比は母乳中の比に非常に近い。さらに、本発明の植物種子油中の脂肪酸組成は母乳中に存在する組成に非常に類似している;図7を比較されたい。
【表3】

【0169】

【表4】

【表5】

【表6】

【0170】
実施例6:植物種子油の加工
実施例4で作製されたトランスジェニックアブラナ植物および野生型アブラナ植物の種子の収穫、清浄化および空気乾燥(残留水分約7%)後、本発明の植物種子油および野生型油の取得のために、得られた種子を加工した。加工は、種子の粉砕および圧縮で始まり、抽出が続いた。抽出はヘキサンを用いて1回行い、他方、超臨界CO抽出を用いて行った。次いで、ヘキサンで抽出された油の精製および安定化を行った。
【0171】
抽出処理および精製処理を以下に詳細に記載する。
【0172】
超臨界二酸化炭素(CO)抽出は抽出剤としての臨界未満または超臨界状態の二酸化炭素の使用に基づき、抽出剤は循環している(Barthet and Daun 2002, JAOCS 79:245-51)。超臨界液体抽出(SLE)を用いる抽出では、実施例4に記載のトランスジェニックアブラナ植物の種子およびBrassica napus野生型の種子を使用した。SLEでの抽出前に、まず、窒素雰囲気下で事前圧縮(ロールプレス)によって種子を0.15mmまたは0.05mmに粉砕した。
【0173】
比較のために、ヘキサンを用いる従来のソックスレー抽出を行った。この有機抽出では、主として標準条件を選択した。10gの事前圧縮された種子をセルロースフィルターに入れた。200mLの有機溶媒(ヘキサン)を含む蒸留フラスコを加熱した。蒸発した溶媒はフラスコ上に取り付けられた濃縮器で濃縮した。濃縮物は、事前圧縮された種子を入れたフィルター中に落ち、脂溶性成分を溶解した。液面が吸引管の限界に達したらすぐに、溶媒は圧力下の蒸留フラスコに流れて戻った。フィルターユニット中の抽出溶媒の色の透明度が一定のままになるとすぐに、ソックスレー抽出が完了したとみなし、それを停止した。その後、真空中での溶媒の蒸発によって抽出物を溶媒から取り出し、抽出物の質量を測定した。
【0174】
SLEでは、99.95%の純度を有するCOを使用した(Sigma Aldrich)。一方では「Spe−ed SLE」(25〜50mL、寸法15.8cm×1.4cm i.d.、製造元: Applied Chemistry, Allntown, US)を用いて実験室規模でバッチ式SLEを行い、他方ではパイロットプラント(製造元: Nova, Switzerland, 容量4L、抽出シリンダーの寸法 高さ22cm×7.5cm i.d.)を使用した(図4を参照のこと)。
【0175】
圧力、温度、抽出時間、CO処理量(流速)および種子の粉砕の程度などのパラメータを柔軟に変動させることができるように、「Spe−ed SLE」試験ユニットで実験室規模でまず実験を行った。そして、実験的に測定された最良のパラメータをパイロット規模に移した。
【0176】
底面がガラスウールで裏打ちされているパイロットプラントの抽出シリンダーに事前圧縮された種子を設置した。シリンダーを閉じる前に、事前圧縮された種子上にガラスウールを置いた。その後、シリンダーユニットに流入弁および流出弁を連結し、あらかじめ加熱されたオーブン(4Lオートクレーヴオーブン)に入れた。そして、ガラスウールで固定された事前圧縮された種子を通して、圧縮されたCOをポンプすることが可能であった。抽出シリンダーの流出の後ろで、抽出物に満ちているCOの圧力をエクスパンションバルブによって除き、分離器に放出させた。ここでサンプル材料を回収した。エクスパンションバルブから圧力を放出させ、実験室系では1barにし、パイロットプラントでは50〜70barにした。実験室系でCOを回収することはできなかった。パイロットプラントでは、分離器からの還流を用いて再びCOを高圧ポンプに供給し(図4)、したがって閉鎖系を形成させた。
【0177】
段階的アプローチで、アブラナ属種子油のできるだけ完全で穏やかな抽出に関する以下の最適化されたパラメータが示された。ギャップサイズ0.15mmのロールプレスを用いる事前圧縮粒径0.2mm未満、少なくとも300bar、良好には350barの好ましい圧力でのSLE。40〜60℃の温度を維持することが可能であった。油中の酸化的プロセスを低減するために、40℃のできるだけ低い温度がここでは好ましい。最適な収率はCO 60kg/時の抽出作業で120分後に達成された。ここに、達成可能な最大収率の90%収率を達成するために、最適なCO質量の処理量は基質の質量の80〜100倍であった。抽出時間が短いほど抽出が不完全になるが、抽出コストに関する利点を提供できた。
【0178】
アブラナ属種子の抽出に関する本明細書中でさらに発展されたSLE技術の利点は以下のようにまとめることができる。パイロット規模で本明細書中で開発された方法では、先行技術と比較して、抽出効率が明らかに最適化されている。驚くべきことに、CO SLEによって、ヘキサンを用いる慣用のソックスレー抽出に匹敵する抽出効率が本明細書中に示される条件下で達成された。ゆえに、パイロット規模で行われたCO SLEは、顕著な変更なく、例えば油800トン/年の必要とされる工業規模にスケールアップすることができる。そのような方法で抽出された本発明の植物種子油は溶媒残留物をまったく含まず、したがって、特に食品生産、好ましくはベビーフードの生産に適している。
【0179】
ヘキサン抽出を用いて得られた植物種子油では、後の精製を実施した。粗製植物油(圧縮油および抽出油から得られる混合油)の精製、および充填を完全に真空下または窒素下で行った。まず、粗製油を10%の水で水和した(85℃、45分、300rpm)。次いで、1.5%クエン酸(20%強度)での脱ガムを同様に85℃で行った(45分、300rpm、10%水)。次いで、7%強度水酸化ナトリウム溶液で洗浄(90〜95℃、20分、250rpm、10%水)することによって中和し、90℃で乾燥(11分、350rpm 〜30mbar)した。1%漂白土で漂白を行った(Tonsil Optimum 214 FF、90℃、20分、350rpm、〜20mbar)。次いで、圧力および窒素下でアセテートフィルターを用いて混合物をろ過した。脱イオン脱気水で、220℃で20分、1〜2mbarで脱臭を行う。
【0180】
植物種子油が超臨界CO抽出から得られるすべての事例で精製が必要なわけではない。上記の本発明の植物種子油の一部の用途では、SLE超臨界CO2抽出を用いて得られた油の直接使用が可能であり、すなわちこのために後の精製ステップは必要ではない。これらの製品には、小児用のミルク、ジュース、ピューレ、シロップ、キャンデーおよび発酵製品が含まれる。しかし、ベビーフードでの使用に関する上記理由のために、超臨界CO抽出によって得られた植物種子油を精製することが推奨される。
【0181】
実施例7:本発明の植物種子油の組成
本発明の植物種子油は、以下の重量パーセント(パーセント単位の、総脂肪酸含量のうちの脂肪酸の質量)の、乳児食に重要な脂肪酸を含む。
【0182】
標的脂肪酸 %
アラキドン酸(20:4 n−6) 15

必須脂肪酸:
リノール酸(18:2 n−6) 20〜25
α−リノレン酸(18:3 n−3) 3〜7

乳児に有用な追加の脂肪酸:
γ−リノレン酸(GLA)(18:3 n−6) 6〜11
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)(20:3 n−6) 4〜8
ステアリドン酸(SDA) 1〜2
エイコサペンタエン酸(EPA) 2〜4
【0183】
実施例8:本発明の植物種子油を含む乳児食
本明細書中に記載の典型的な乳児食中のARA含量を、授乳の最初の0〜12ヵ月間に母乳中で見出されたARAの総量に適合させた。追加の利点は、乳児乳にARAを補うために本発明の植物種子油を用いると、GLA、DGLA、SDAおよびEPAの値も母乳中の濃度範囲内になることにある。これは、本発明の植物種子油が3種の高級不飽和脂肪酸をほぼ母乳中でも見出された比で含むためである。ARA濃度を適合させるために本発明の植物種子油が乳児食の成分として同様に使用されると、GLA、DGLA、SDAおよびEPAは、特別な乳児食、ベビーフードおよびチャイルドフードに、対応する栄養分を利用可能にするために適当な濃度で供給される。この場合、例えば、さらにGLA、DGLA、SDAおよびEPAを含む油の例えば混合物のような油の変化は必要ではない。
【0184】
ARAを含む本発明の植物種子油を乳児食に加えた(乳児食中、ARA含有油0.5〜7.5g/総脂肪含量100g)。この添加されたARAの量は脂肪の総量(乾物100gあたり総脂肪含量約28g)の一部を構成する。本発明の植物種子油を加えることにより、以下の表7から明らかなように、母乳のLCPUFAに対して乳児食の脂肪酸パターンが決定的に近づく。表7は、米国の栄養素データベース(USDA National Nutrient Database for Standard Reference, Release 20 (2007))で報告されているように、3社の独立した製造者の乳児食の平均脂肪酸パターンを比較する。
【0185】
表7:代替母乳を調製するための乾燥粉末として市販されかつARAで補充されていない3種の市販の乳児食(カラム2, 乳児食: Mead Johnson, Enfamil, 鉄入り, 粉末, NDB No: 03805; Ross, Similac, Isomil, 鉄入り, 粉末, NDB No: 03843; Nestle, Good Start Supreme, 鉄入り, 粉末, NDB No: 03802)、ARAが添加されている3種の市販の乳児食(カラム3, 乳児食: Mead Johnson, Enfamil, Lipil, 鉄入り, 粉末(NDB No: 03808); Ross, Similac, Isomil, 鉄強化, 粉末(NDB No: 03954); PBM Products, Ultra Bright Beginnings, 粉末(NDB No: 03883))および本発明の植物種子油(カラム5に記載)を用いてARAが添加された典型的な乳児食(カラム4)の脂肪混合物の平均脂肪酸パターン。カラム6は、種々の国由来の母乳の最も重要なLCPUFAの平均含量を記載する(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【表7】

【0186】

【0187】
本明細書中で、NDBは栄養素データベースを意味する。
【0188】
乳児の毎日の脂肪吸収の一部分として、0.75%ARAの上限がUS GRAS GRN 80(www.cfsan.fda.gov/~rdb/opa-g080.html)で推奨されている。乳児食の総脂肪酸含量中の0.75%ARAの標的濃度を達成するためには、5%の本発明の植物種子油の添加が必要であり、それは、その総脂肪酸含量に基づき15%ARAを含む。それにより、1.36%の本発明の植物種子油のトータルの添加が乳児食の乾物に基づいて算出される。乳児食中のARAの、さらに高いかまたは低い標的濃度は、総脂肪混合物中の本発明の植物種子油の対応する増加または減少によって達成することができる。
【0189】
本発明の植物種子油は、乳児食だけでなく、完全食でも用いることができる。本発明の植物種子油に加えられた完全食は、母乳と類似の濃度のアラキドン酸(ARA)を含む。また、完全食は、γ−リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、ステアリドン酸(SDA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)を母乳と類似の濃度で含む。上記完全食は、例えば、乳児乳、フォローアップ人工乳、小児用飲料、フルーツジュース、穀類粥(cereal gruel)、ミルク、ヨーグルトまたは発酵製品であってよい。完全製品は、固形またはマッシュベビーフード、キャンデー、クッキーまたはゼラチン製品であってもよい。それは、例えば、正常な成長および健全な発達を支援するための乳児、小児および子供の栄養摂取を目的にする。
【0190】
乳児食または完全食に本発明の植物種子油を加えることによって、母乳に非常に類似の最も重要な不飽和脂肪酸の比が達成される(表8)。
【0191】
表8:乳児食および母乳中の最も重要なPUFA(DHAを除く)の比の比較。カラム2は、ARAおよびDHAを添加された3種の市販の乳児食(代替母乳を調製するための乾燥粉末)(乳児食: Mead Johnson, Enfamil, Lipil, 鉄入り, 粉末(NDB No: 03808); Ross, Similac, Isomil, 鉄強化, 粉末(NDB No: 03954); PBM Products, Ultra Bright Beginnings, 粉末(NDB No: 03883))の最も重要なPUFAの平均の比を示す。本発明の植物種子油(カラム4)を用いてARAを添加された典型的な乳児食の最も重要なPUFA比(カラム3)。カラム5は種々の国由来の母乳の平均PUFA比を記載する(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【表8】

【0192】
選択された例は、本発明の植物種子油の重要なPUFAであるARA、GLA、DGLA、SDAおよびEPAの有利な比(表8、カラム4)が乳児食に直接反映される(表8、カラム3および5)ことを示す。本発明の植物種子油では、アラキドン酸とγ−リノレン酸との比は約1:1〜約5:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との比は約1:1〜約5:1である。したがって、本発明の植物種子油を用いて達成される比は、非常に有利には、母乳中に存在する、アラキドン酸(ARA)とγ−リノレン酸(GLA)との2:1〜4:1の比およびアラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)との1:1〜2:1の比を含む(Yuhas et al. 2006_Lipids 41:851-8);表8、カラム5および図7を参照されたい。
【0193】
本発明の植物種子油では、アラキドン酸とステアリドン酸との比は14:1〜38:1であり、それもまた、ここに、母乳中に存在する比(ARA:SDA約7:1〜45:1)を反映する(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。さらに、本発明の植物種子油中のアラキドン酸とエイコサペンタエン酸との比は3:1〜7:1であり、それもまた、ここに、母乳中に存在する比(ARA:EPA約2:1〜7:1)を反映する(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【0194】
本発明の植物種子油はさらに、母乳と同様に、必須脂肪酸リノール酸およびα−リノレン酸を含む。また、リノール酸とα−リノレン酸との比に関して、本発明の植物種子油は母乳に非常に近くなる(表8、カラム3および5)。母乳では、該比は約7:1〜18:1である(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)。
【0195】
有利には、本発明の植物種子油を含む乳児食は、重要なPUFAであるARA、GLA、DGLA、SDAおよびEPAを添加され、濃度および比が母乳中に存在する濃度および比に適合される。さらに、このように添加された乳児食に、DHAの供給源をさらに添加することができる。
【0196】
DHAに関して、乳児の毎日の脂肪吸収の一部分として、0.5%DAHの上限がUS GRAS GRN 80(www.cfsan.fda.gov/~rdb/opa-g080.html)で推奨されている。乳児食の総脂肪酸含量中の0.5%DHAの標的濃度を達成するために、総脂肪100gあたり1.2gのDHASCO(登録商標)の添加が、例えば、必要であり、それは、その総脂肪酸含量に基づき40%DHAを含む(Arterburn et al. 2007, Lipids 42:1011-24)。それにより、0.32%DHASCO(登録商標)のトータルの添加が乳児食の乾物に基づいて算出される。製品に関して決定されるDHA含有成分の適切な増加または減少によって、乳児食中のDHAのさらに高いかまたは低い標的濃度を達成することができる。
【0197】
したがって、本発明のARA含有植物種子油(0.5〜7.5g/脂肪100g)およびDHASCO(登録商標)を乳児食に加えることができる。該例では、添加されたARA量は、総脂肪成分の5%を構成し、添加されたDHA量は総脂肪成分の1.2%を構成する(乾物100gあたり乳児食の総脂肪含量約28gの場合)。両方の油の添加により、以下の表9から明らかなように、母乳のLCPUFAに関して、乳児食の脂肪酸パターンがさらに近くなる。表9は、米国の栄養素データベース(USDA National Nutrient Database for Standard Reference, Release 20 (2007))で報告されているように、3社の独立した製造者の乳児食の平均脂肪酸パターンを比較する。
【0198】
表9:ARAおよびDHAを添加されていない3種の市販の乳児食(代替母乳を調製するために乾燥粉末)(カラム2, 乳児食: Mead Johnson, Enfamil, 鉄入り, 粉末, NDB No: 03805; Ross, Similac, Isomil, 鉄入り, 粉末, NDB No: 03843; Nestle, Good Start Supreme, 鉄入り, 粉末NDB No: 03802)、ARAを添加された3種の市販の乳児食(カラム3, 乳児食: Mead Johnson, Enfamil, Lipil, 鉄入り, 粉末(NDB No: 03808); Ross, Similac, Isomil, 鉄強化, 粉末(NDB No: 03954); PBM Products, Ultra Bright Beginnings, 粉末(NDB No: 03883))およびカラム5に記載の本発明の植物種子油を用いてARAを添加し、かつDHASCO(登録商標)(Arterburn et al. 2007, Lipids 42:1011-24)(カラム6)を用いてDHAを添加した典型的な乳児食(カラム4)の脂肪混合物の平均脂肪酸パターン。カラム7は、種々の国の母乳の最も重要なLCPUFAの平均含量を記載する(Yuhas, 上掲)。
【表9】

【0199】

【0200】
本発明の植物種子油の添加およびDHASCO(登録商標)での同時添加により、本発明の植物種子油の単独添加よりさらに母乳に類似している最も重要な不飽和脂肪酸の比が達成される(表9)。DHAの添加による乳児食と母乳とのさらなるこの適合は、他の高DHA含有油、例えばBASF粉末製品番号30056967(Dry n-3(登録商標) 5:25 C Powder Microencapsulated fish oil rich in DHA for Infant formula)を用いて達成することもできる。
【0201】
表10:乳児食および母乳中の最も重要なPUFAの比の比較。カラム2は、ARAおよびDHAを添加した3種の市販の乳児食(乳児食: Mead Johnson, Enfamil, Lipil, 鉄入り, 粉末(NDB No: 03808); Ross, Similac, Isomil, 鉄強化, 粉末(NDB No: 03954); PBM Products, Ultra Bright Beginnings, 粉末(NDB No: 03883))中の最も重要なPUFAの平均比を示す。本発明の植物種子油(カラム4)を用いてかつDHASCO(登録商標)(カラム5、Arterburn et al. 2007, Lipids 42:1011-24)を用いてARAを添加された典型的な乳児食の最も重要なPUFA比(カラム3)。カラム6は種々の国由来の母乳の平均PUFA比を記載する(Yuhas et al. 2006_Lipids 41:851-8)。
【表10】

【0202】
表10は、本発明の植物種子油の重要なPUFAであるARA、GLA、DGLA、SDA、EPAおよびDHAの有利な比(表10、カラム4)が乳児食(表10、カラム3)に直接反映されることおよび脂肪酸DHAとEPAのさらに特に有利な比が達成されることを示す。
【0203】
本発明の植物種子油およびDHASCO(登録商標)を添加された乳児食では、ARAとDHAとの比は1.5:1であり、ここに、母乳中に存在する比(ARA:DHA約0.6:1〜7.2:1)(Yuhas et al. 2006 Lipids 41:851-8)を反映する。さらに、本発明の植物種子油の好ましい実施形態では、DHAとEPAとの比は3.3:1であり、それもまた、ここに、母乳中に存在する比(DHA:EPA約2.1:1〜5.0:1)(Yuhas et al. 2006_Lipids 41:851-8)を反映する。
【0204】
本発明の植物種子油は、新生児、乳児および小児の最適な成長、視覚的および認知発達および向上した免疫の発達を支援するために開発された。それは、早産児用および0〜6ヵ月(乳児用人工乳)、0〜12ヵ月(乳児食)、および12〜24ヵ月(小児)の月齢の乳児または小児用のベビーフードの添加物として好ましい。
【0205】
以下、本発明の植物種子油を特に有利に添加される配合物を一例として列挙する。特に有利には、配合物の成分を定量比で混合して、乳児食が以下の濃度の主要な栄養分を含むようにする(g/乳児食100kcal単位の詳細):脂肪、3〜7g;タンパク質、1〜5g;炭水化物、6〜16g。さらに、乳児食は乳児または小児の対応する年齢に推奨される量のビタミンおよびミネラル、ならびに各事例で乳児食のエネルギーの0.025〜0.5%までの、または各事例で0.05〜1.0g/乳児食の脂肪100gの濃度のARAおよびDHAを含む。乳児食は、母乳に特に類似する比のGLA、DGLA、SDAおよびEPAをさらに含む。機能的脂肪酸ARA、GLA、DGLA、SDAおよびEPAは、ここに、本発明の植物種子油由来である。
【0206】
乳児食は、例えば、以下の成分から構成されることができる:低ミネラルホエイ(mineral-reduced whey)、低脂肪乳、植物油(パームオレイン(palmolein)、ダイズ、ココナツ、オレイン酸リッチヒマワリおよび低エルカ酸アブラナ油)、ラクトース、本発明の植物種子油、Crypthecodinium cohnii油または魚油、ビタミンAパルミタート、ビタミンD3、ビタミンEアセテート、ビタミンK1、チアミン塩酸塩、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB12、ナイアシンアミド、葉酸、パントテン酸カルシウム、ビオチン、アスコルビン酸ナトリウム、イノシトール、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、水酸化カリウム、亜セレン酸ナトリウム、タウリン、ヌクレオチド(アデノシン5−一リン酸、シチジン5−一リン酸、二ナトリウムグアノシン5−一リン酸、2ナトリウムウリジン5−一リン酸)、カロテノイドの供給源、プレバイオティクスの供給源およびプロバイオティクスの供給源。
【0207】
本発明の植物種子油を含む乳児食の組成物のさらなる例は、プロバイオティクスを含み、かつ、あるいはプレバイオティクスと混合されたARAを含む乳児食である。あるいは、上でさらに示されるように、ARAをドコサヘキサエン酸(DHA)とここに組み合わせてもよい。本明細書中のこの乳児食の重要な成分は、改変 無傷または部分的に加水分解されたスイートホエイ(sweet whey)タンパク質、Bifidobacteriaおよび/またはLactobacillaeの形態のプロバイオティクス、あるいは特定の単糖および二糖、オリゴ糖またはデンプンの形態のプレバイオティクスおよび本発明の植物種子油である。この乳児食は、(100kcalあたり):エネルギー含量(kcal)(100)、タンパク質(g)(カゼイン/ホエイ:30/70)(1.83)、その総脂肪含量(g)(5.3)リノール酸(g)(0.7〜0.8)、α−リノレン酸(mg)(90〜110)、ARA(mg)(5〜60)、GLA(mg)(3〜40)、DGLA(mg)(2〜30)、SDA(mg)(1〜6)、EPA(mg)(1〜12)、DHA(mg)(5〜60)、ラクトース(g)(11.2)、およびミネラル(g)(0.37)、Na(mg)(23)、K(mg)(89)、Cl(mg)(64)、Ca(mg)(62)、P(mg)(31)、Mg(mg)(7)、Mn(μg)(8)、Se(μg)(2)、ビタミンA(μg RE)(105)、ビタミンD(μg)(1.5)、ビタミンE(mg TE)(0.8)、ビタミンK1(μg)(8)、ビタミンC(mg)(10)、ビタミンB1(mg)(0.07)、ビタミンB2(mg)(0.15)、ナイアシン(mg)(16.7)、ビタミンB6(mg)(0.075)、葉酸(μg)(9)、パントテン酸(mg)(0.45)、ビタミンB12(μg)(0.3)、ビオチン(μg)(2.2)、コリン(mg)(10)、Fe(mg)(1.2)、I(μg)(15)、Cu(mg)(0.06)、Zn(mg)(0.75)を栄養分として含む。
【0208】
さらに、さらなる例は、本発明の植物種子油およびカロテノイドベータ−カロテン、リコペン、ルテインおよびゼアキサンチンを含む乳児食である。ルテイン、リコペンおよびベータ−カロテンの組み合わせは、0.05〜0.8mg/総脂肪含量または栄養配合物100gを構成する。乳児食中の油の総量の質量比は、0.01〜0.6mgのベータ−カロテン、0.01〜0.8mgのリコペンおよび0.01〜0.5mgのルテイン+ゼアキサンチンである。多価不飽和脂肪酸の割合は、乳児食の総固体中の0.05〜20重量%である。多価不飽和脂肪酸は、アラキドン酸(好ましくは)、GLA、DGLA、SDA、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸および/またはα−リノレン酸である。乳児食に含まれるARAの量は0.1〜1.0g/総脂肪100gであるか、または総エネルギーの0.05〜0.5%である。含まれるGLA、DGLA、SDAおよびEPAの量は、各事例で0.06〜0.7、0.04〜0.5、0.01〜0.1および0.02〜0.2g/総脂肪100gである。
【0209】
また、液体乳児食を調製した。このために、以下の乾燥成分:ラクトース44.5%、本発明の植物種子油(15%ARA)0.1〜1.5%、DHA含有油(40%DHA)0.1%、無脂肪(fatless)乾燥乳18.7%、オレイン酸リッチベニバナ油10.7%、モノおよびジグリセリド0.27%、ダイズ油8.2%、ホエイタンパク質4.6%、炭酸カルシウム0.35%、ヤシ油7.58%、クエン酸0.02%、クエン酸カリウム0.40%、アスコルビン酸0.29%、レシチン0.27%、塩化マグネシウム0.04%、塩化カリウム0.14%、硫酸鉄0.04%、カラゲナン0.22%、塩化コリン0.04%、ヌクレオチドおよびコリンプレ混合物0.22%、リボフラビン0.002%、L−カルニチン0.002%、水酸化カリウム1.65%、ルテイン溶液(5%活性)0.64%、水溶性ビタミンプレ混合物0.27%、ビタミン−ADEKプレ混合物20%、ビタミンA0.0007%、β−カロテン溶液(30%)0.0001%、ルテイン(1.2ppm)、リコペン(0.48ppm)で水を加工した。
【表11】

【0210】

【0211】
実施例9:動物に飼料を与えるための、本発明の植物種子油の使用
本発明の植物種子油はまた、繁殖結果を向上させるための飼料適用のためのフードサプリメント製品として適している。それは、畜産(例えばサケ、ウシ、ブタ、ニワトリの畜産)結果を向上させるため、かつペット(例えばネコおよびイヌ)の健康のための飼料添加物として使用することができる。このために、本発明の植物種子油は、若い動物または母親動物への栄養摂取にARAを添加した場合に、生殖率を向上させるために適した濃度のアラキドン酸(ARA)を含む。
【0212】
本発明の植物種子油を加えた結果として、ARAに加えて、飼料は、γ−リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、ステアリドン酸(SDA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)を加えられる。本発明の植物種子油を栄養製品に添加すると、生殖率が高くなり、若い動物の生存確率が良好になり、かつ神経学的および視覚的発達が向上する。
【0213】
実施例10:本発明の植物種子油の工業的適用
本発明の植物種子油の添加により、工業的適用のための重合成分として二重結合を含む特有の高濃度の不飽和脂肪酸を有する工業油が得られる。
【0214】
以下の適用に、単独でまたは重合剤と組み合わせて該油を用いることができる:
1. ラッカーおよびコーティング(酸化的乾燥油としての使用)
2. 床材用ポリマーまたはプラスチック(酸化的乾燥油としての使用)
3. 他の化学的適用
4. 化粧品適用
5. 電子および半導体テクノロジー分野での適用。
【0215】
上記油の利点はその特有の重合特性にある。該油は、高速かつ均一に重合し、強い3次元構造を形成し、それは、(例えばコーティングおよび床材またはプラスチックでのように)網目構造の強度、耐久性および弾性が必要な場合に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総脂肪酸含量のうち約7〜約26重量%を構成するアラキドン酸を含み、アラキドン酸とγ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1であり、アラキドン酸とジホモ−γ−リノレン酸との重量パーセント比が約1:1〜約5:1である植物種子油。
【請求項2】
リノール酸とα−リノレン酸との重量パーセント比が約3:1〜約12:1である、請求項1に記載の植物種子油。
【請求項3】
アラキドン酸とエイコサペンタエン酸との重量パーセント比が約3:1〜約7:1である、請求項1または2に記載の植物種子油。
【請求項4】
ステアリドン酸をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物種子油。
【請求項5】
ステアリドン酸が総脂肪酸含量の約0.1〜約1重量%を構成して存在する、請求項4に記載の植物種子油。
【請求項6】
配列番号15、16または17に示される核酸構築物を用いて形質転換されたトランスジェニック植物から取得可能である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物種子油。
【請求項7】
パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸を含む脂肪酸スペクトルを含む、植物種子油。
【請求項8】
総脂肪酸含量に基づき、約3.2〜5.3%のパルミチン酸、約2.2〜5.3%のステアリン酸、約10〜25%のオレイン酸、約22〜36%のリノール酸、約4〜12%のγ−リノレン酸、約3〜8%のα−リノレン酸、約0.2〜1%のステアリドン酸、約3〜9%のジホモ−γ−リノレン酸、約12〜25%のアラキドン酸および約1〜4%のエイコサペンタエン酸を含む、請求項7に記載の植物種子油。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の植物種子油と、植物油、微生物油および魚油からなる群より選択される少なくとも1種のさらなる油とを含む配合物または混合油であって、該植物油、微生物油または魚油はドコサヘキサエン酸を含む、上記配合物または混合油。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の植物種子油または請求項9に記載の配合物もしくは混合油を含む食品。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の植物種子油または請求項9に記載の配合物もしくは混合油を含むベビーフード。
【請求項12】
以下のステップ:
(a)配列番号15、16または17に示される核酸構築物を用いた形質転換によりトランスジェニック植物を作製するステップ、
(b)植物種子油の生合成を可能にする条件下でステップ(a)からのトランスジェニック植物を栽培するステップ、および
(c)植物種子を回収し、植物種子油を抽出および精製するステップ
を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の植物種子油の製造方法。
【請求項13】
前記植物種子油を、油、脂質または脂肪酸組成物として配合するステップ(d)をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記油、脂質または脂肪酸組成物をさらに配合して食品、好ましくはベビーフードを提供する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
食品、好ましくはベビーフード、化粧品、および飼料、好ましくは魚飼料、または医薬品の製造のための、請求項1〜8のいずれか1項に記載されるかもしくは請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法により製造される植物種子油の、または請求項11に記載の配合物もしくは混合油の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−519552(P2011−519552A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505517(P2011−505517)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054916
【国際公開番号】WO2009/130291
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(501383750)ビーエーエスエフ プラント サイエンス ゲーエムベーハー (17)
【Fターム(参考)】