説明

検知装置および検知プログラム

【課題】定常的に存在している物体の近傍に位置する対象物の検知精度を向上する。
【解決手段】検知装置は、レーダを用いて移動可能な対象物を検知する。検知装置は、取得部、背景算出部、および、判定部を備える。取得部は、レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する。背景算出部は、繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体からレーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する。判定部は、受信電力値の強度の分布が背景電力値の強度の分布と異なる場合、レーダは対象物を検知したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダにより対象物を検知する技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、道路上や道路の付近の歩行者や車両をレーダで検知し、検知結果をドライバなどに通知することにより交通事故の防止を図るシステムが考えられている。このようなシステムのレーダで車両や歩行者を検知する場合、レーダの検知範囲に存在する信号、電柱などの構造物もレーダに検知される。そこで、予め、歩行者や車両によるデータが含まれない背景データが生成されることがある。この方法では、レーダによる計測データで得られた検知結果から、背景データに含まれている物体を除いて得られた物体を検知結果とする。
【0003】
このようなレーダシステムでは、Frequency-Modulated Continuous Wave(FM−CW)レーダが用いられることがある。FM−CWレーダでは、三角波で変調された送信波を用い、受信波と送信波のビート周波数の周波数成分に基づいて、距離や速度を算出する。
【0004】
また、目標射程距離での物体の有無の確率密度分布に基づいて、センサデータが目標射程距離に物体がある場合に対応するか、物体が無い場合に対応するかを決定する工程を含む車両用センサシステムも知られている。さらに、同一位置に定常的に存在している目標からの反射信号が検知されているときに、その目標からの受信信号signal-noise ratio(SN比)が目標の位置とともに表示される目標検知装置も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−206523号公報
【特許文献2】特開2006−194887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両や歩行者の情報を交通事故の防止に役立てる場合、歩行者や車両を正確に検知することが求められる。そこで、例えば、検知装置を車両などに搭載すると死角が多く発生するので、道路脇などのインフラにレーダなどのセンサを設置し、死角にいる歩行者や車両を検知することが重要となっている。しかし、検知された物体についての位置の分離分解性能が悪いと、電柱などの背景となる物体の近傍に位置する歩行者や車両などが検知されない場合がある。例えば、歩行者によるデータがレーダシステムに取得されても、歩行者の位置と電柱の位置が区別できない場合、歩行者の位置は電柱などの背景データに含まれている物体と同じ位置となってしまう。このため、検知結果と背景データを比較したときに、歩行者に起因して得られたデータも背景データと誤認されてしまい、歩行者などが検知されないことになってしまう。
【0007】
背景技術では、FM−CWレーダの例について述べたが、方式としてパルスレーダなどの他の任意のレーダにおいても、背景データに含まれている物体の近傍に位置する対象物の検知精度を向上することが望ましい。
【0008】
本発明は、定常的に存在している物体の近傍に位置する対象物の検知精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態にかかる検知装置は、レーダを用いて移動可能な対象物を検知する。検知装置は、取得部、背景算出部、および、判定部を備える。取得部は、前記レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する。背景算出部は、繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体から前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する。判定部は、前記受信電力値の強度の分布が前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記レーダは前記対象物を検知したと判定する。
【発明の効果】
【0010】
定常的に存在している物体の近傍に位置する対象物の検知精度を向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る検知装置による対象物の検知例を示す図である。
【図2】受信電力の分布の例を示す図である。
【図3】実施形態に係る検知装置の構成の一例を示す図である。
【図4】検知データの例を示す図である。
【図5】メモリプレーンの例を示す図である。
【図6】ライス分布に従った受信電力の分布と重み係数の例を示す図である。
【図7】受信電力の分布と重み係数を記録したテーブルの例を示す図である。
【図8】背景情報の生成方法の一例を説明するフローチャートである。
【図9】レーダが探知した物体の位置と背景位置プレーンの例を示す図である。
【図10】重み係数の記録方法の例を説明する図である。
【図11】判定方法の一例を説明するフローチャートである。
【図12】検知装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
【図13】背景物体の近傍の歩行者や車両が検知されるケースの例を示す図である。
【図14】SN比の異なるライス分布の比較例を示す図である。
【図15】背景テーブルの一例を示す図である。
【図16】背景重みテーブルの例を示す図である。
【図17】第2の実施形態にかかる背景情報の生成方法の一例を説明するフローチャートである。
【図18】受信電力値のヒストグラムと背景重みテーブルの例を示す図である。
【図19】第3の実施形態にかかる背景情報の生成方法の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る検知装置10による対象物の検知例を示す図である。以下の説明では、一例として、スキャン式のFM−CWレーダが用いられた場合について説明するが、用いられるレーダはノンスキャン型のレーダとすることもできる。また、レーダの方式は、FM−CWレーダに限られず、方式の違うパルスレーダを用いることもできる。なお、FM−CWレーダのスキャンは、機械的に行われるスキャンであっても電子的に行われるスキャンであっても良い。検知装置10は、FM−CWレーダの覆域1(1a、1b)に位置する物体の検知結果をFM−CWレーダから取得する。
【0013】
以下の説明では、対象物は歩行者や車両などの移動物体であるものとする。また、レーダの覆域1に位置する物体のうち、移動せず同一の位置に長い時間繰り返し検知される物体を「背景物体」と記載することがある。背景物体は、例えば、信号機などの道路構造物、電柱、歩道にある車進入防止用柱、街路樹などである。
【0014】
ケースAでは、覆域1aに位置する歩行者30は、検知装置10に検知される。ここで、3a、3bに示す黒丸は、歩行者30の検知結果を示すものとする。検知装置10が歩行者30から受信した電力強度の分布の一例を図2のAに示す。歩行者30は、移動しているため、検知装置10は、図2のAに示すようにレーリー分布状に分布した受信電力を受信する。なお、歩行者30が信号待ちなどをして立ち止まっている場合であっても、歩行者30の体が動くことが考えられる。ミリ波レーダなどを用いている場合、歩行者30の体がレーダの波長よりも大きい距離にわたって動くと、様々な位相の反射波が検知装置10で受信される。このため、歩行者30が立ち止まっている場合でも、検知装置10が歩行者から受信する電力値はレーリー分布状に分布する。
【0015】
一方、ケースBでは、覆域1aに位置する背景物体40aと覆域1bに位置する背景物体40bが検知装置10に検知される。4a〜4dに示す白丸は、背景物体40の検知結果を示すものとする。検知装置10が背景物体40aから受信した電力強度の分布の例を図2Bに示す。背景物体40は静止している物体であるため、背景物体で反射された反射波の位相は大きく変動しない。そこで、検知装置10は、背景物体40aから、仲上−ライス分布(ライス分布)状に分布した受信電力を受信する。
【0016】
ケースCでは、予め、背景物体40aと40bが検知装置10に繰り返し検知されているものとする。検知装置10は、背景物体40aと40bを背景の一部として検知位置を登録しているものとする。さらに、検知装置10は、背景物体40aと40bから受信する受信電力強度の分布が図2のBに示す分布であることも合わせて記録する。以下の説明では、背景物体の位置、および、背景物体から受信する受信電力の分布を合わせた情報を「背景情報」と記載することがある。
【0017】
背景情報の記録が終わった後に歩行者30が背景物体40aの近くに来た場合、検知装置10は、レーダの受信データを背景情報と比較する。すなわち、レーダで検知された検知物体の位置と背景物体40の位置を比較し、さらに、レーダの受信電力の強度の分布を背景情報に記録されている電力の強度の分布と比較する。ここでは、歩行者30に対応して3aの位置に物体が検知され、歩行者30と背景物体40aの両方に対応して5の位置に物体が検知されたものとする。検知装置10は、検知物体の位置を背景物体40の位置と比較すると、背景物体40aに対応する4aの近くに、3aが検知されていることを認識する。さらに、背景物体40の位置が登録されている5と4b〜4dにも物体が検知されている。
【0018】
そこで、検知装置10は、受信電力の分布を確認する。例えば、5の位置で得られた受信電力の分布は、例えば、図2Aと図2Bのグラフを合わせた形になったものとする。なお、グラフを合わせるために横軸は、ノイズの影響により真の受信電力値からずれた受信電力値から受信電力の真の電力値を引いたものとする。このとき、単位はdBであり、ノイズの影響により真の受信電力値からずれた受信電力値と受信電力の真の電力値の比である。また、3aでの受信電力の分布は、図2Aのグラフに近い形であるとする。この場合、検知装置10が位置5や3aに示す検知対象から受信した電力の分布は、検知装置10が記憶している図2のBのグラフの形状とは一致しない。そこで、検知装置10は、歩行者30などの対象物を、3aと5の位置に検知したと判定する。一方、4b〜4dに検知された物体からの受信電力の分布は、図2Bに示す受信電力の分布と同様の形状であったとする。すると、検知装置10は、4b〜4dに背景物体を検知したと判定する。
【0019】
このように、検知物体の位置の情報に加えて、検知物体から受信した電力強度の分布の情報を用いて判定することにより、背景物体40の近傍に位置する歩行者30や車両を検知することができる。
【0020】
図3は、実施形態に係る検知装置10の構成の一例を示す図である。検知装置10は、アンテナ部11、ミリ波送受信部12、アナログ部13、電源14、インタフェース部15、および、デジタル信号処理部20を備える。デジタル信号処理部20は、取得部21、背景算出部22、背景特定部23、抽出部24、判定部25、制御部27、認識処理部28を備える。また、オプションとして重み係数算出部26を備えることもできる。
【0021】
ミリ波送受信部12は、アンテナ部11を介して送信波を出力する。また、ミリ波送受信部12は、アンテナ部11を介して検知物体で反射された反射波を受信する。アナログ部13は、ミリ波送受信部12からのアナログ信号をビート信号のみに変換する処理を行う。さらにアナログ部13は、アナログ-デジタル変換回路(A/Dコンバータ)によりアナログ信号をデジタル信号に変換してデジタル信号処理部20に出力する。電源14は、アンテナ部11、ミリ波送受信部12など検知装置10に含まれる各デバイスに電力を供給する。インタフェース部15は、デジタル信号処理部20から出力されたデータを、適宜、変換して外部装置に出力する。
【0022】
取得部21は、送信波と検知物体からの受信波のビート周波数の周波数成分に基づいて、距離と速度を算出する。また、取得部21は、受信電力も算出する。図4は、取得部21によって得られた検知データの例を示す図である。図4の例では、検知データは、ヘッダ部とデータ部を備えている。ヘッダ部にはデータ数、日時、温度などが格納され、データ部には、検知された物体について、レーダからの走査角度(アジマス角度)、距離、速度、電力が記録されている。取得部21は、距離や速度などの算出結果を、背景算出部22や抽出部24に出力する。なお、取得部21は、タイマ(図示せず)を用いて、タイマがタイムアップしたときに距離や速度などの算出結果を背景算出部22と抽出部24に出力し、タイムアップしていないときは、抽出部24に算出結果を出力することもできる。
【0023】
背景算出部22は、取得部21から受け取ったデータに基づいて、検知装置10が背景物体40から受信する電力強度の分布を算出する。背景特定部23は、背景算出部22で算出された背景データを用いて、背景物体の位置を特定する。このように、取得部21から背景算出部22に検知データが出力されると、背景情報が更新される。背景情報の更新方法については後で詳しく説明する。
【0024】
抽出部24は、取得部21から得られた検知結果と背景特定部23により特定された背景物体の位置を比較し、背景物体の近傍や背景物体と同じ位置に検知された物体を抽出する。判定部25は、抽出部24で抽出された検知物体について、受信電力の分布を背景物体からの受信電力の分布と比較することにより、対象物が検知されたかを判定する。重み係数算出部26は、判定部25の判定で用いられる重み係数を計算する。認識処理部28は、判定部25の判定結果に応じて、検知物体のデータを処理し、処理結果をインタフェース部15に出力する。また、認識処理部28は、背景物体の近傍や背景物体の存在する位置に検知されなかったために抽出部24によって抽出されなかった検知データについても、同様にデータを処理し、処理結果を出力する。背景算出部22、背景特定部23、抽出部24、判定部25、重み係数算出部26の動作については、後で詳しく述べる。制御部27は、アンテナ部11、ミリ波送受信部12、アナログ部13、電源14、インタフェース部15などの動作を制御する。
【0025】
<第1の実施形態>
以下、図4に示したような検知データを処理する場合のデジタル信号処理部20の動作について説明する。また、以下の例では、デジタル信号処理部20に重み係数算出部26が含まれているものとする。
【0026】
まず、背景情報の更新方法について説明する。以下の例では、背景算出部22は、図5(a)、図5(b)に示すような、レーダからの距離とアジマス角度の各々に対応してデータを格納するメモリプレーンを備えるものとする。各々のメモリプレーンでは、予め決められた一定の距離とアジマス角度に対応付けてメモリ領域が割り当てられ、各々のメモリ領域には、割り当てられた距離およびアジマス角度で検知された物体に関するデータが記憶されるものとする。例えば、メモリプレーンは、距離方向が0.2メートル以内でアジマス角度が0.2度以内のデータを記録するメモリ領域に分割されることがある。修正プレーンに示したメモリ領域51では、例えば、距離が14.9〜15.1メートルでアジマス角度が11.9〜12.1度のデータを記録するとする。この場合、図4のNo.6の検知物に関するデータは、メモリ領域51に記録される。また、図5(b)、図5(c)に示す背景データプレーンや背景位置プレーン中のメモリ領域へのデータの記録方法も同様である。
【0027】
背景算出部22は、修正プレーン中の距離やアジマス角度の計測誤差の範囲内に同じ検知データを記録することにより、検知した対象物の距離やアジマス角度の計測誤差を修正する。以下の説明では、この処理を「修正処理」と記載することがある。誤差範囲は、予めオペレータが設定することができる。例えば、誤差範囲は、隣り合った2つのメモリ領域とすることができる。また、予め、温度などの条件と誤差範囲を対応付けたテーブルを作成し、検知データのヘッダ部に含まれている気温などのデータを用いて、制御部27がテーブルから誤差範囲を特定することもできる。
【0028】
次に、背景算出部22は、修正プレーンと背景データプレーンのデータを用いて、受信電力の平均化を行う。図5(b)は、受信電力の平均化で用いられる背景データプレーンの一例である。背景算出部22は、メモリ領域ごとに、例えば、以下の式に基づいた演算を行う。
M(t)=α×M(t−1)+β×C(t) ・・・(1)
α+β=1 ・・・(2)
ここで、M(t)は、計算対象としているメモリ領域に対応する位置から、検知装置10がt回の計測で受信した受信電力値の平均値である。また、M(t−1)は、計算対象としているメモリ領域に対応する位置から、検知装置10が1回目からt−1回目の計測で受信した受信電力値の平均値を表す。M(t)を算出するとき、背景算出部22は、計算対象のメモリ領域について、背景データプレーンに記録されている値をM(t−1)として用いる。C(t)は、修正プレーンに記録されている受信電力である。すなわち、t回目の測定で得られた受信電力に修正を加えた値である。さらに、αとβはいずれも正の係数であるものとする。背景算出部22は、算出したM(t)を背景データプレーン中のメモリ領域に記録する。
【0029】
前述の式を用いて求められたM(t)は、計測回数tが大きくなると、背景平均値が対応付けられた位置から検知装置10が受信した受信電力の平均値に収束する。例えば、修正プレーンのメモリ領域51では、100回目の測定のときにノイズよりも大きな受信電力が観測されたが、その後1000回目の測定までノイズよりも大きな受信電力が観測されなかったとする。この場合、メモリ領域51に対応する背景データプレーンのメモリ領域52で記録される受信電力の値は、ノイズレベルに収束する。一方、修正プレーンのメモリ領域53では、毎回、物体が探知されたとする。この場合、メモリ領域53に対応する背景データプレーンの領域54に含まれているメモリ領域に記録された受信電力値はノイズよりも大きな値となる。なお、以下の記載では、背景データプレーンのメモリ領域の各々に記録されている受信電力の平均値を「背景平均値」と記載することがある。
【0030】
背景特定部23は、背景算出部22で算出された背景平均値を用いて、背景物体の位置を特定する。背景特定部23は、メモリ領域ごとに、背景平均値からノイズの大きさを差し引いて得られた差分を背景閾値と比較する。背景平均値がノイズレベルよりも大きく、さらに、得られた差分が背景閾値以上の場合、そのメモリ領域に対応した距離およびアジマス角度には、背景物体が位置すると判定する。ここで、背景閾値は、背景平均値とノイズレベルとの差分が有意差となるような任意の値とすることができる。例えば、背景閾値を10dBとすることもできるが、背景閾値の値は実装に応じて任意に変更することができる。以下の説明では、背景物体が位置すると決定された領域を「背景領域」と記載することがある。背景特定部23は、特定した背景物体の位置を、例えば、図5(c)に示す背景位置プレーンにフラグを立てるなどの方法により、レーダからの距離および走査角度(アジマス角度)に対応付けて記録する。例えば、背景特定部23は、図5(c)のメモリ領域55などのように網掛で示した領域に対応する位置を背景領域と判断し、フラグを設定する。
【0031】
次に、背景算出部22は、背景領域から検知装置10が受信する受信電力の分布を推定する。すなわち、背景算出部22は、検知装置10の受信電力値が受信電力の理論値となる可能性や、理論値の周辺の値となる可能性を、背景物体が検知されたメモリ領域ごとに計算する。ここで、受信電力の理論値は、ノイズの影響が無いときに検知装置10が受信する信号の振幅の大きさである。背景算出部22は、受信電力値の理論値を背景平均値で近似し、式(3)に示すライス分布の計算式に基づいて、受信電力の分布を求めるものとする。

ここで、Aはノイズの影響が無いときに検知装置10が受信する信号の振幅の大きさである。また、Rは、信号の大きさがノイズの影響によりずれた場合の振幅の大きさであり、σはノイズの分散である。
【0032】
背景物体は、前述のとおり、道路構造物や電柱など、レーダの覆域1に入っている移動物体以外の物体である。すなわち背景物体は移動しないため、背景物体からの受信電力の分布はライス分布に従う。そこで、背景算出部22は、式(3)に示すように、背景物体からの受信電力の分布を、ライス分布に基づいて推定することができる。
【0033】
図6(a)に、例として、図5(c)の背景位置プレーンのメモリ領域56に示した位置について算出された受信電力の分布を示す。図6(a)の横軸は、検知装置10に受信される受信電力の大きさと受信電力の理論値の差分(相対的受信電力)を表す値である。ただし、図6(a)に示す相対的受信電力の単位がdBであるため、相対的受信電力は受信電力の大きさと受信電力の理論値の比となる。相対的受信電力RPは、信号の振幅を用いて、式(4)のように表される。

従って、式(4)より、A=Rの場合、相対的受信電力が0となる。すなわち、受信電力の大きさが理論値と同じ大きさである場合、図6(a)のx軸が0になる。また、受信電力の大きさが理論値より大きくなると、相対的受信電力は10dBなどの正の値を取り、受信電力の大きさが理論値より小さくなると、相対的受信電力は負の値となる。
【0034】
受信電力の分布の推定が終わると、背景算出部22は、受信電力の分布の計算結果に基づいて、図7(a)に示す背景分布推定テーブルを生成する。背景分布推定テーブルは、受信電力の実測値の分布をライス分布と比較するために用いられる。ここで、前述のとおり、受信電力値の理論値を背景平均値で近似できるので、背景算出部22は、受信電力の実測値の分布をライス分布と比較するとき、相対的受信電力値を、受信電力値から背景平均値を差し引いた値に近似する。背景算出部22は、図7(a)に示すように、分布の推定値を、背景平均値と受信電力値の差に対応付けて記録する。例えば、メモリ領域56に対応する位置に検知される物体についての分布の推定値は、図6(a)のY軸の値であり、背景平均値と受信電力値の差はX軸の値となる。
【0035】
検知装置10がメモリ領域56に対応付けられた位置の背景物体から受信する電力の分布は、図6(a)のとおりになる。つまり、検知装置10の受信電力の分布が図6(a)と異なる分布である場合、検知装置10は、歩行者や車両などの移動物体からも電力を受信していることになる。なお、図6(a)の例では、SN比が10dBの場合について計算しているが、SN比は信号の強さとノイズの強さの差が有意差となる任意の値とすることができる。SN比の求め方や受信電力の分布に及ぼす影響等については後述する。
【0036】
検知装置10は、ライス分布と受信電力値の分布を比較するために、重み係数を使用することができる。重み係数が用いられる場合、検知装置10は、重み係数算出部26を供える。重み係数算出部26は、分布の最大値が所定の値になるように、分布推定値を一定の定数で乗算もしくは除算する。例えば、重み係数算出部26は、理論値での分布推定の値が1になるように、分布推定値を、相対受信電力が0dBでの分布推定の値で割ることができる。図6の例では、相対受信電力が0dBでの分布推定値が1.8であるので、重み係数算出部26は、分布推定値を1.8で割り、図6(b)に示す重み係数を算出する。なお、重み係数算出部26は、背景平均値での分布推定の値を、実装に応じて、処理が円滑に行われると考えられる任意の数に設定することができる。図7(b)は、重み係数を記録したテーブルの例を示す図である。重み係数算出部26は、重み係数を相対受信電力と対応付けて記録する。重み係数算出部26も、背景算出部22と同様に、相対受信電力を受信電力値から背景平均値を差し引いた値に近似するものとする。
【0037】
背景平均値の重みが1となるように計算された重み係数は、検知装置10が背景物体から受信する電力値が背景平均値から離れた値になる可能性は、検知装置10が背景物体から背景平均値の電力を受信する可能性の何倍であるかを示す。図6(b)および図7(b)の例では、検知装置10が受信する電力値が背景平均値より5dBだけ小さい可能性は、検知装置10が背景平均値の電力を背景物体から受信する可能性の0.11倍であることを示している。また、図6(b)などでは、例えば、背景物体から受信する電力が背景平均値より10dB大きい可能性は0に近くなっている。
【0038】
図8は、背景情報の更新方法の一例を説明するフローチャートである。取得部21は、タイマがタイムアップすると、距離や速度などの算出結果を、背景算出部22と抽出部24に出力する(ステップS1)。背景算出部22は、算出結果が入力されると修正処理を行い、さらに、受信電力を平均化する(ステップS2、S3)。背景特定部23は、背景算出部22により算出された受信電力の平均値を背景閾値と比較して、背景物体の位置を特定する(ステップS4)。背景算出部22は、特定された背景物体の受信電力とノイズの電力差に基づいて、背景物体からの受信電力の強度の分布を推定する(ステップS5)。さらに、重み係数算出部26は、受信電力値の分布の推定結果に基づいて、重み係数を算出する(ステップS6)。一方、タイマがタイムアップしていないとき、取得部21は、距離や速度などを算出すると算出結果を抽出部24に出力するが、この場合には、背景情報の更新は行われない(ステップS1でNo)。
【0039】
次に、背景情報を用いた判定方法について説明する。抽出部24は、レーダによる検知結果と背景位置プレーンの記録を比較し、背景物体の近傍や背景物体と同じ位置に検知された物体を抽出する。さらに、抽出した物体について速度が速度閾値よりも大きいかを確認する。ここで、速度閾値は、例えば、静止している物体に対してノイズなどの影響により算出されうる速度の大きさとすることができる。これらの処理により、抽出部24は、検知位置の情報からは、背景物体が存在する位置もしくはその近傍に位置する物体のうち、静止している物体を抽出する。
【0040】
図9は、レーダが探知した物体の位置と背景位置プレーンの例を示す図である。レーダが探知した物体の位置は、図9(a)の太線で囲んだ四角のとおりであるものとする。一方、背景位置プレーンでは、図9(b)の太線で囲んだ四角のとおりであるものとする。図9(a)で検知された物体のうち、メモリ領域62、63に対応する位置に検知された物体は、背景領域と同じ位置に位置している。また、メモリ領域61に対応する位置に検知された物体は背景領域の近傍で検知されている。従ってメモリ領域61、62、63に対応する位置に検知された物体は、背景物体を検知している可能性があるが、背景物体以外の物体を検知している可能性や、背景物体と背景物体以外の物体の両方を検知している可能性もある。ここで、61〜63の位置に検知された物体の速度は、速度閾値よりも小さかったものとする。すると、抽出部24は、61〜63の位置に検知された物体を判定の対象とする。
【0041】
判定部25は、61〜63の位置に検知された物体の各々から受信した受信電力と、背景平均値の差を算出する。ここで、T回目の測定で61の位置に検知された物体のデータは図4のNo.1、62の位置に検知された物体のデータは図4のNo.2、63の位置に検知された物体のデータは図4のNo.5であるとする。例えば、ここで、速度閾値は1.0km/hであるものとすると、61〜63の位置に検知された物体の速度はいずれも速度閾値より小さいので、判定部25は、背景平均値と受信電力の差を求める。背景平均値が−30dBmであるとすると、相対的受信電力は次のようになる。
61の物体:−40dBm−(−30dBm)=−10dBm
62の物体:−38.5dBm−(−30dBm)=−8.5dBm
63の物体:−30dBm−(−30dBm)=0dBm
【0042】
判定部25は、図7(b)を参照して、相対的受信電力に対応する重み係数を求める。例えば重み係数は以下のとおりであるとする。
−10dBmの重み係数 : 0.0
−8.5dBmの重み係数: 0.0
0dBmの重み係数 : 1.0
【0043】
判定部25は、得られた重み係数を記憶する。例えば、判定部25は、図10(a)に示すようなリングバッファを複数備え、判定処理の対象が検知されたメモリ領域ごとの重み係数を書き込むことができる。図10(b)は61の位置で検知された物体、図10(c)は62の位置で検知された物体、図10(d)は63の位置で検知された物体についての重み係数を記録したリングバッファの例である。図10(a)〜図10(d)に示すリングバッファにはnビットが含まれており、2ビット目にT回目の測定結果から得られた重み係数が記録されるものとする。また、3ビット目はT−1回目の測定結果、4ビット目はT−2回目の測定結果が記録されているとする。
【0044】
判定部25は、例えば、T回目、T−1回目およびT−2回目の測定結果から得られた重み係数を用いて、受信電力の分布を示す分布係数Dを算出することができる。分布係数Dは、それぞれの測定結果で得られた重み係数と、重み係数の各々についての優先度から次式を用いて求められる。判定部25は予め優先度を記憶しているものとする。

ここで、Pは、T回目を基準にしてk番前(T−k番目)の測定結果から得られた重み係数に対する優先度であり、W(T−k)は、T−k番目の測定結果から得られた重み係数である。また、Xは分布係数の算出に用いる重み係数の総数である。優先度の決定方法は任意である。例えば、最新の測定結果に基づいて求めた重み係数が分布係数に及ぼす影響を、前の測定結果に基づいて求めた重み係数よりも大きくするために、後の測定結果に対する優先度ほど大きくなるように優先度を決定してもよい。分布係数Dが大きな値をとるほど、受信電力値の分布と、背景物体から検知装置10が受信した受信電力の分布が類似していることを示す。
【0045】
判定部25は、予め、分布閾値を記憶している。分布閾値は、受信電力値の分布と背景物体から検知装置10が受信した受信電力値の分布とが類似していると判定する分布係数の下限値を表す。分布係数が分布閾値より大きい場合、判定部は、背景物体を検知したと判定し、分布係数が分布閾値以下の場合、歩行者など、背景物体と異なるものを検知したと判定する。
【0046】
例えば、61の位置に検知された物体について、T回目、T−1回目およびT−2回目の3回の測定結果を用いた判定が行われる場合について説明する。ここで、優先度は、P=3、P=2、P=1であるものとする。すると、61の位置に検知された物体についての分布係数は、3×0+2×0+1×0.02=0.02となる。ここで、分布閾値が3である場合、61の位置に検知された物体についての分布係数は分布閾値より小さいため、判定部25は、61は背景物体ではない物体が検知されていると判定する。同様に、62の位置に検知された物体についての分布係数を求めると、3×0+2×0.58+1×0.40=1.56となる。62の位置に検知された物体についての分布係数も分布閾値よりも小さいため、判定部25は、62の位置でも背景物体ではない物体が検知されていると判定する。一方、63の位置に検知された物体の重み係数は図10(d)に示すとおりであるので、分布係数は、3×1+2×0.95+1×0.96=5.86となり、63の位置に検知された物体の分布係数は分布閾値より大きい。そこで、判定部25は、63の位置には、背景物体以外の物体を検知していないと判定する。
【0047】
前述のとおり、背景物体から検知装置10が受信した電力の大きさは、図6(a)に示すように分布する。従って、受信電力値の分布が図6(a)に示す形状とは異なっている場合、検知装置10が検知した物体には背景物体以外の物体が含まれている。判定部25は、分布係数として、受信電力値の分布が背景物体から検知装置10が受信する電力の分布と類似している程度を算出すると共に、分布係数の大きさに応じて、背景物体以外の物体が検知されているかを判定する。このように、物体が検知された位置の比較に加えて、物体から検知装置10が受信した受信電力値の分布を背景情報と比較することにより、背景物体の近傍に位置する歩行者などの移動物体を検知することができる。
【0048】
なお、背景物体の近傍の範囲は、レーダの位置の分解能や検知装置10の性能などに合わせて設定することができる。例えば、図9を参照しながら説明したように、抽出部24は、背景位置プレーンを用いて、背景物体が検知されているメモリ領域に隣接するメモリ領域に対応する領域を、背景物体の近傍とすることができる。また、背景物体が検知されているメモリ領域から所定の数のメモリ領域に対応する領域が、背景物体の近傍と判定されることもある。例えば、所定の数が2つであるとき、図9(a)の61のメモリ領域に対応する位置は、63のメモリ領域に検知された背景物体の近傍に含まれる。さらに、予め、オペレータなどが、近傍の領域をレーダからの距離やアジマス角度などを用いて決定して、抽出部24などに記憶させることもできる。例えば、背景物体を基準にして、レーダからの距離の差が0.5m、アジマス角度の差が0.1度の範囲を近傍とすることができる。この場合、抽出部24は、背景位置プレーンに記録されている背景物体の位置を、検知データに含まれている距離やアジマス角度のデータと比較する。抽出部24は、背景物体からの距離が0.5m以下で、アジマス角度の差が0.1度以下の範囲を背景物体の近傍として、データを抽出する。
【0049】
図11は、判定方法の一例を説明するフローチャートである。抽出部24は、取得部21から距離や速度などの検知データが入力されると、背景物体の位置か背景物体の近傍に検知された物体のうち、速度が速度閾値よりも小さい物体を抽出する(ステップS11)。判定部25は、抽出された物体から検知装置10が受信した受信電力と背景平均値の差分に基づいて、重み係数を求め、リングバッファに記録する(ステップS12〜S14)。判定部25は、重み係数と優先度を用いて分布係数を求め、分布閾値と比較する(ステップS15、S16)。分布係数が分布閾値以下の場合、判定部25は、背景物体ではない物体が検知されていると判定する。判定部25は、背景物体ではない物体が検知されていると判定した場合、判定結果を認識処理部28に出力する。一方、分布係数が分布閾値より大きい場合、判定部25は、背景物体以外の物体が検知されていないと判定する。このように、検知された物体は背景物体であると判定した場合、判定部25は判定結果を出力せずに処理を終了する。また、ステップS11で抽出されなかった検知物体は、背景物体とは異なる物体であるため、背景物体との比較は行われずに、認識処理部28にデータが出力される(ステップS11でNo)。なお、図11は判定方法の一例であり、例えば、ステップS16において分布係数が分布閾値より小さい場合に、判定部25が背景物体ではない物体を検知したと判定するように変形することもできる。
【0050】
図12は、検知装置10の動作の一例を説明するフローチャートである。ここで、ステップS21〜S24の処理は、例えば、背景データプレーンの1つのメモリ領域ごとに処理が行われるものとする。取得部21は、アンテナ部11、ミリ波送受信部12、アナログ部13を介して入力された信号からデータを取得する(ステップS21)。背景情報が更新される時刻である場合、背景算出部22および背景特定部23は、取得部21で取得されたデータに基づいて背景情報を更新する(ステップS22、S23)。背景情報の更新が終わると、抽出部24、判定部25、重み係数算出部26により、前述のとおり、背景物体ではない物体が検知されたかの判定が行われる(ステップS24)。また、ステップS22で背景情報が更新される時刻でないと判定された場合も、背景物体ではない物体が検知されているかの判定が行われる(ステップS22、S24)。判定部25は、背景物体ではない物体が検知されたと判定すると、判定結果を認識処理部28に出力する。
【0051】
認識処理部28は、判定部25から判定結果が出力されたメモリ領域同士で、検知された物体の距離、アジマス角度、速度を比較し、これらのデータがほぼ一致したメモリ領域をグループ化する(ステップS25)。また、認識処理部28は、各グループについて、その後の処理に用いるための識別子などを、適宜、付すことができる。さらに、認識処理部28は、ステップS25で生成したグループの各々について、位置、アジマス角度、速度を計算する(ステップS26)。ここで、例えば、グループ化されたメモリ領域の各々の位置などの平均値がグループの位置等に設定される。認識処理部28は、グループの各々について、先の検知結果と比較することにより追跡調査を行い、検知された物体を認識する(ステップS27、S28)。ここで検知される物体は、例えば、歩行者、立ち止まっている人、移動する車両などである。認識処理部28は、認識したグループの位置等のデータをインタフェース部15に出力する。インタフェース部15は、認識処理部28から受け取ったデータを、適宜変換して、外部の装置に出力する(ステップS29)。
【0052】
背景物体の近傍や背景物体と同じ位置に検知された物体について、前述の処理を行うことにより、検知装置10は、図13(a)のように、歩行者30が背景物体40aの近傍に位置するケースでも、歩行者30を検知することができる。また、道路を走行している車両31から検知装置10が取得する電力値の分布も、背景物体から検知装置10が受信する電力の分布とは異なる。そのため、図13(b)に示すように、車両31が背景物体40cの近傍を走行しているケースでも、検知装置10は、車両31を検知することができる。
【0053】
なお、以上の説明では、3個の重み係数を用いて検知物体が背景物体であるかを判定したが、判定に用いる重み係数の数は、任意の数とすることができる。例えば、判定部25は、1つの重み係数を求めるごとに、所定の閾値と比較し、比較結果に基づいて判定をすることもできる。
【0054】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、判定部25が、処理対象のメモリ領域ごとに異なる重み係数を用いる場合について説明する。ライス分布は、式(3)に示したようにノイズの影響を受ける。従って、SN比が異なると、ライス分布の形状も異なる。図14は、SN比の異なるライス分布の比較例を示す図である。図14のAは、SN比が10dBの場合、BはSN比が20dBの場合のライス分布の形状を示す。図14に示すように、SN比が大きいほど、ライス分布の分布幅は狭くなる。そこで、第2の実施形態では、背景算出部22は、背景位置プレーンのメモリ領域ごとに、そのメモリ領域に対応する位置に検知された物体からの受信電力とノイズの比(SN比)を求め、SN比に応じて受信電力の分布を求める。なお、この場合、背景算出部22は、背景領域から受信した信号の大きさを取得部21から通知されるものとする。
【0055】
背景算出部22は、背景領域からの受信した信号の大きさとノイズの大きさに応じて、SN比を以下の式から計算する。

【0056】
図15(a)は、背景テーブルの一例を示す図である。背景テーブルは、背景物体からの受信電力とSN比を背景物体の位置と対応付けたテーブルである。背景算出部22は、背景算出部22での算出結果と、背景特定部23での特定結果に基づいて、背景テーブルを作成する。ここで、背景座標は、背景位置プレーンのメモリ領域をアジマス角度とレーダからの距離に図15(b)に示すように対応付けて表した座標である。N番目のデータは、アジマス角度がi、レーダからの距離がjの位置を含むメモリ領域に対応する位置に観測された物体からの受信電力等のデータである。なお、図15(a)は、背景テーブルの例であり、背景テーブルに含まれる情報要素は変更することができる。
【0057】
次に、背景算出部22は、SN比に応じたライス分布を算出する。N番目のデータでは、SN比が10dBであるので、背景算出部22は、図14のAに示すような分布を算出する。一方、背景算出部22は、N+1番目のデータについて、SN比が20dBなので、図14のBに示すような分布を求める。背景算出部22は、図16(a)に示すように、各メモリ領域でのSN比に対応したライス分布を用いて、背景平均値と受信電力の差分と分布推定値を対応付けたテーブルを生成する。また、背景算出部22は、求めたライス分布の各々について、背景平均値での分布推定値を1とした場合の重み係数を求める。得られた重み係数は、図16(b)に示すような背景重みテーブルに記録される。なお、重み係数の求め方は、第1の実施形態で述べたとおり、実装に応じて変更することができる。図16(b)は、背景平均値での分布推定値を1とする重み係数の例を示す。
【0058】
図17は、第2の実施形態にかかる背景情報の生成方法の一例を説明するフローチャートである。ステップS41〜S44の処理は、図8を参照しながら説明したステップS1〜S4と同様である。その後、背景算出部22は、メモリ領域に対応する位置に検知された物体からの受信電力とノイズの比(SN比)を求め、背景テーブルを作成する(ステップS45)。さらに、背景算出部22は、SN比に応じたライス分布の形状を推定して重み係数を求める(ステップS46、S47)。
【0059】
得られた重み係数を用いた判定の方法は、第1の実施形態と同様である。図14に示したように、SN比が大きいほどライス分布の分布幅は狭くなる。従って、SN比に応じた重み係数を求めることにより、SN比が大きいメモリ領域では、分布幅の狭いライス分布に基づいて判定処理が行われる。すなわち、SN比が大きいメモリ領域ほど、背景平均値から離れた値の受信電力は、検知装置10が背景物体以外の物体から受信した電力である可能性が高い。第2の実施形態にかかる検知装置10では、メモリ領域ごとにSN比を求め、SN比に応じたライス分布に基づいて求めた重み係数を用いて判定するため、第1の実施形態に比べて判定の精度を向上することができる。
【0060】
<第3の実施形態>
第3の実施形態では、背景算出部22は、受信電力の実測値を用いて背景物体からの受信電力の分布を推定する。第3の実施形態では、背景算出部22は、さらに、背景物体が検知されている位置から得られた受信電力値のヒストグラムを求める。
【0061】
図18(a)は、受信電力値のヒストグラムと背景重みテーブルの例を示す図である。図18(a)は、受信電力値ごとの受信回数を、背景物体が検知されたメモリ領域の番号と対応付けて記録したヒストグラムの例である。N番目のメモリ領域では、1000回の測定のうち112回は平均背景値より2dB低い値、365回は平均背景値、180回は平均背景値より2dB高い値が観測されている。一方、N+1番目のメモリ領域では、1000回の測定のうち999回は平均背景値、1回が平均背景値より2dB高い値であったとする。重み係数算出部26は、図18(a)のヒストグラムに基づいて、図18(b)に示すような背景重みテーブルを作成する。重み係数は、例えば、背景平均値が計測された回数で、他の受信電力値が計測された回数を割った値とすることができる。
【0062】
図19は、第3の実施形態にかかる背景情報の生成方法の一例を説明するフローチャートである。ステップS51〜S54の処理は、図8を参照しながら説明したステップS1〜S4と同様である。その後、背景算出部22は、メモリ領域に対応する位置に検知された物体からの受信電力の平均値を求め、背景テーブルを作成する(ステップS55)。第3の実施形態で用いられる背景テーブルは、受信電力の平均値を背景データプレーンのメモリ領域の座標と関連付けたテーブルとすることができる。さらに、背景算出部22は、受信電力値ごとの受信回数を示すヒストグラムを作成し、ヒストグラムに基づいて重み係数を求める(ステップS56、S57)。
【0063】
得られた重み係数を用いた判定の方法は、第1の実施形態と同様である。背景物体には街路樹なども含まれることがある。前述のとおり、静止物体から検知装置10が受信する電力値の分布はライス分布に従うが、街路樹などでは、葉や枝が動く場合がある。従って、レーダの波長よりも大きい距離にわたって葉や枝が動くと、様々な位相の反射波が検知装置10で受信されることもある。このため、葉や枝などの移動している部分から受信された電力値の分布はレーリー分布状になる。すると、背景物体から検知装置10が受信する受信電力の分布はライス分布とレーリー分布を合わせた形になる場合もある。すると、第1および第2の実施形態のように、ライス分布の計算値に基づいて求めた重み係数に基づいて判定を行っても、街路樹などが背景物体に含まれているときに、誤った判定が行われるおそれがある。第3の実施形態にかかる検知装置10では、受信電力の実測値に基づいて作成されたヒストグラムによって重み係数が算出される。従って、街路樹など背景物体の一部が動く場合であっても、判定の精度の低下を防ぐことができる。
【0064】
<その他>
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、様々に変形可能である。以下にその例をいくつか述べる。
【0065】
背景平均値を求める計算方法は、第1の実施形態で説明した計算方法に限られない。例えば、背景算出部22は、Infinite impulse response(IIR)フィルタを用いて、以下の式から背景平均値を算出することができる。
M(t)={α×π×X(t)+α×π×X(t−1)−(απ−2)×M(t−1)}/(α×π+2) ・・・(7)
ここでM(t)は、計算対象としているメモリ領域に対応する位置から、検知装置10がt回の計測で受信した受信電力値の平均値であり、X(t)は、t回の計測での受信電力値である。また、背景算出部22は、Finite Impulse Response(FIR)フィルタを用いて背景平均値を求めることもできる。
【0066】
背景算出部22は、ライス分布の計算値もしくはヒストグラムで得られた回数を重み係数として用いて、判定を行うことができる。この場合に用いられる検知装置10は、重み係数算出部26を備えない。
【0067】
背景算出部22は、重み係数をライス分布によって求めた分布推定値の2乗の値とすることもできる。分布推定値の2乗の値を重み係数として用いることにより、ライス分布よりも分布幅が細いピークと受信電力の分布を比較することができる。そのため、レーリー分布に従う移動物体などの見落としを防ぎやすくすることができる。
【0068】
さらに、背景算出部22は、ライス分布のピークの高さが1になるようにライス分布の分布推定値に定数をかけた値を1から差し引いた値を重み係数とすることもできる。すなわち、ライス分布のピークの高さが1になるようにライス分布の分布推定値に定数をかけた値がf(x)であるとすると、1−f(x)を、受信電力がxであるときの重み関数とすることができる。この場合は、重み係数の値が大きいほど、受信電力値がライス分布と異なる形状に分布している可能性が大きくなる。そこで、判定部25は、重み係数が閾値よりも大きな値である場合に、検知された物体は、移動物体であると判定する。
【0069】
なお、抽出部24は、近傍で検知されている物体を抽出するために、例えば、距離閾値と角度閾値を用いることができる。この場合は、抽出部24は、メモリ領域ごとに処理対象を抽出せずに、距離閾値と角度閾値で特定できる領域ごとに、処理対象を抽出することができる。例えば、抽出部24は、背景物体の位置からの距離が距離閾値よりも短い位置に検知され、さらに、その物体のアジマス角度の大きさと背景物体のアジマス角度の差分が角度閾値よりも小さい物体を、近傍に検知された物体として抽出することができる。距離閾値と角度閾値の決め方は、検知精度や検知装置の処理能力などに応じて任意に決定することができる。
【0070】
以上の説明では、重み係数を記録するときに判定部25はリングバッファを用いているが、リングバッファは判定部25が用いるメモリの一例である。判定部25は、任意の形態のメモリを用いて重み係数の記録や分布係数の計算をすることができる。また、分布係数は、背景情報に含まれている電力値の分布と、受信電力値の相関の大きさが認識できる任意の計算方法とすることができる。例えば、複数の重み係数の積を分布係数とすることができ、また、複数の重み係数の和を分布係数とすることもできる。なお、分布閾値の大きさは、分布係数の計算方法に応じて変更されるものとする。
【0071】
また、以上の説明では、メモリプレーンにデータ等を記録する場合に、レーダからの距離とアジマス角度を用いた極座標により座標を特定していたが、検知装置10は、直交座標などの任意の座標系を用いることができる。
【0072】
なお、以上の説明では、図3に示したように、検知装置10にレーダが含まれる場合について説明したが、検知装置は、レーダを含まない装置とすることもできる。この場合、検知装置は、レーダ装置から計測結果を受信して、受信したデータを処理する。
【0073】
デジタル信号処理部20は、コンピュータで実現される場合がある。この場合、Central Processing Unit(CPU)は、プログラムを読み込むことにより、取得部21、背景算出部22、背景特定部23、抽出部24、判定部25、重み係数算出部26、制御部27、認識処理部28として動作する。プログラムは、メモリ(図示せず)に格納される。
【0074】
上述の各実施形態に対し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
レーダを用いて移動可能な対象物を検知する検知装置であって、
前記レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する取得部と、
繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体から前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する背景算出部と、
前記受信電力値の強度の分布が前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記レーダは前記対象物を検知したと判定する判定部
を備えることを特徴とする検知装置。
(付記2)
前記背景電力値に対応付けて、前記背景電力値の前記レーダでの受信確率を表す重み係数を算出する重み係数算出部をさらに備え、
前記判定部は、前記受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた前記重み係数が小さいほど、前記レーダが前記対象物を検知したと判定する確率が高くなるように判定する
ことを特徴とする付記1に記載の検知装置。
(付記3)
前記背景物体の位置を特定する背景特定部と、
前記検知物体の位置と前記背景物体の位置を比較することにより、前記背景物体の近傍、および、前記背景物体と同じ位置に位置する検知物体を抽出する抽出部
をさらに含み、
前記判定部は、前記抽出部により抽出された検知物体からの受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた前記重み係数が所定の分布閾値よりも小さい場合、前記抽出部により抽出された検知物体は前記対象物であると判定する
ことを特徴とする付記2に記載の検知装置。
(付記4)
前記取得部は、第1の測定で得られた受信電力値と、前記第1の測定の後で行われた第2の測定で得られた受信電力値を取得し、
前記抽出部により抽出された検知物体について、前記第1の測定で得られた第1の受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた第1の重み係数と、前記第2の測定で得られた第2の受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた第2の重み係数との和が、所定の累積閾値よりも小さい場合、前記判定部は、前記抽出部により抽出された検知物体は前記対象物であると判定する
ことを特徴とする付記2に記載の検知装置。
(付記5)
前記背景算出部は、前記受信電力値に含まれるノイズに対する前記受信電力値の比率を算出し、前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を前記比率の大きさに対応付けて算出し、
前記判定部は、前記受信電力値の強度の分布が、前記比率と対応付けて算出された前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記判定部は、前記レーダにより前記対象物が検知されたと判定する
ことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の検知装置。
(付記6)
前記背景算出部は、前記受信電力値の度数分布を前記背景電力値の強度の分布とし、
前記判定部は、前記受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた前記度数分布の値が小さいほど、前記レーダが前記対象物を検知したと判定する確率が高くなるように判定する
ことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の検知装置。
(付記7)
レーダを用いて移動可能な対象物を検知するコンピュータを、
前記レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する取得手段、
繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体から前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する背景算出手段、
前記受信電力値の強度の分布が前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記レーダは前記対象物を検知したと判定する判定手段
として機能させることを特徴とするプログラム。
【符号の説明】
【0075】
1 覆域
10 検知装置
11 アンテナ部
12 ミリ波送受信部
13 アナログ部
14 電源
15 インタフェース部
20 デジタル信号処理部
21 取得部
22 背景算出部
23 背景特定部
24 抽出部
25 判定部
26 重み係数算出部
27 制御部
28 認識処理部
30 歩行者
40 背景物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダを用いて移動可能な対象物を検知する検知装置であって、
前記レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する取得部と、
繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体から前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する背景算出部と、
前記受信電力値の強度の分布が前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記レーダは前記対象物を検知したと判定する判定部
を備えることを特徴とする検知装置。
【請求項2】
前記背景電力値に対応付けて、前記背景電力値の前記レーダでの受信確率を表す重み係数を算出する重み係数算出部をさらに備え、
前記判定部は、前記受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた前記重み係数が小さいほど、前記レーダが前記対象物を検知したと判定する確率が高くなるように判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記背景物体の位置を特定する背景特定部と、
前記検知物体の位置と前記背景物体の位置を比較することにより、前記背景物体の近傍、および、前記背景物体と同じ位置に位置する検知物体を抽出する抽出部
をさらに含み、
前記判定部は、前記抽出部により抽出された検知物体からの受信電力値と同じ大きさの背景電力値に対応付けられた前記重み係数が所定の分布閾値よりも小さい場合、前記抽出部により抽出された検知物体は前記対象物であると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記背景算出部は、前記受信電力値に含まれるノイズに対する前記受信電力値の比率を算出し、前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を前記比率の大きさに対応付けて算出し、
前記判定部は、前記受信電力値の強度の分布が、前記比率と対応付けて算出された前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記判定部は、前記レーダにより前記対象物が検知されたと判定する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項5】
レーダを用いて移動可能な対象物を検知するコンピュータを、
前記レーダが検知物体から受信した受信電力値を取得する取得手段、
繰り返し同じ位置に検知される検知物体を表す背景物体から前記レーダが受信する背景電力値の強度の分布を算出する背景算出手段、
前記受信電力値の強度の分布が前記背景電力値の強度の分布と異なる場合、前記レーダは前記対象物を検知したと判定する判定手段
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−209238(P2011−209238A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79689(P2010−79689)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】