説明

極細パイプの製造方法

【課題】超塑性材料からなる芯材の表面に金属被膜を積層形成し、その後、芯材を除去することによる穴つまりのない極細パイプを容易にかつ安価に製造する方法の提供。
【解決手段】芯材2の表面に金属被膜3を積層形成し、積層形成した金属被膜を残して芯材を除去することにより極細パイプ1を製造するに際し、芯材は超塑性材料からなり、芯材の表面に金属被膜を積層形成した後、芯材及び金属被膜を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で芯材を塑性変形によって除去してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、放電加工用電極や痛みを柔らげる注射針、接着剤塗布用ノズルなどに用いられる極細パイプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の極細パイプの製造方法として、芯材を準備して該芯材の表面に電気メッキや気相メッキで金属被膜を積層形成し、その後、積層形成した金属被膜を残して該芯材を化学的な溶解あるいは機械的な引抜加工により除去して極細パイプを製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−311589号公報
【特許文献2】特開平11−193485号公報
【特許文献3】特開2006−291345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこれら従来の製造方法の場合、製造すべき極細パイプの内穴が細くなるに従い、化学的な溶解により除去する方法にあっては、溶解液を細い内穴の奥まで供給することが困難なことがあり、このため、金属被膜が積層形成された芯材を短い長さに切断した後に芯材を溶解しなければならず、長さの短い極細パイプの製造に制約されることになり、又、上記芯材を機械的な押出加工又は引抜加工により変形除去する方法にあっては、押出加工においては、芯材を押出すための芯金の座屈現象が生じて実用性に欠けることがあり、引抜加工においては、引張力により芯材が破断しない様に引張強度が高い材料の芯材が使われているものの、内穴の径が50μm以下、長さが100mm以上の細くて長い極細パイプを製造しようとすると、引抜過程の途中で芯材が切断してしまうことがあり、不良発生率が高くなることがあるという不都合を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような不都合を解決することを目的とするもので、本発明のうちで、請求項1記載の発明は、芯材の表面に金属被膜を積層形成し、該積層形成した金属被膜を残して該芯材を除去することにより極細パイプを製造するに際し、上記芯材は超塑性材料からなり、該芯材の表面に金属被膜を積層形成した後、該芯材及び該金属被膜を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で該芯材を塑性変形によって除去することを特徴とする極細パイプの製造方法にある。
【0006】
又、請求項2記載の発明は、上記芯材の表面に電気メッキ、化学メッキ又は蒸着により上記金属被膜を積層形成することを特徴とするものであり、又、請求項3記載の発明にあっては、上記芯材を上記超塑性領域で引張力による塑性変形によって除去することを特徴とするものであり、又、請求項4記載の発明にあっては、上記芯材を鉛直方向に配置すると共に該芯材を上記超塑性領域で重錘の重さがもたらす引張力による塑性変形によって除去することを特徴とするものであり、又、請求項5記載の発明にあっては、上記超塑性材料からなる芯材は、Zn−22mass%Al合金であることを特徴とするものであり、又、請求項6記載の発明は、上記芯材を超塑性を示す温度域に加熱し、該芯材を超塑性現象を発現する超塑性領域で伸線加工して該芯材を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述の如く、請求項1記載の発明にあっては、超塑性材料からなる芯材の表面に金属被膜を積層形成し、その後、芯材及び金属被膜を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で芯材を塑性変形によって除去することにより極細パイプを製造することができ、芯材を超塑性変形により除去することができ、穴つまりのない極細パイプを容易にかつ安価に製造することができると共に歩留まりや作業性を高めることができる。
【0008】
又、請求項2記載の発明にあっては、上記芯材の表面に電気メッキ、化学メッキ又は蒸着により上記金属被膜を積層形成するので、金属被膜を容易に積層形成することができ、又、請求項3記載の発明にあっては、上記芯材を上記超塑性領域で引張力による塑性変形によって除去するので、芯材を確実に変形除去することができ、穴つまりのない極細パイプを製造することができ、又、請求項4記載の発明にあっては、上記芯材を鉛直方向に配置すると共に該芯材を上記超塑性領域で重錘の重さがもたらす引張力による塑性変形によって除去することにより適度に遅い良好な歪み速度をもって良好な超塑性特性の下で芯材を引き抜くことができ、芯材を確実に変形除去することができ、穴つまりのない極細パイプを製造することができ、又、請求項5記載の発明にあっては、上記超塑性材料からなる芯材は、Zn−22mass%Al合金であるから、他の超塑性材料に比べ、低い温度で超塑性特性を示し、低い温度で良好な超塑性特性を利用することができ、芯材を確実に変形除去することができ、又、請求項6記載の発明にあっては、上記芯材を超塑性を示す温度域に加熱し、芯材を超塑性現象を発現する超塑性領域で伸線加工して芯材を製造することにより、一層細い芯材を製造することができ、それだけ内穴の小さな極細パイプを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の第一形態例の極細パイプの斜視図である。
【図2】本発明の実施の第一形態例の製造過程の斜視図である。
【図3】本発明の実施の第一形態例の極細パイプの断面図である。
【図4】本発明の実施の第一形態例の製造過程の断面図である。
【図5】本発明の実施の第二形態例の製造過程の断面図である。
【図6】本発明の実施の第三形態例の極細パイプの断面図である。
【図7】本発明の実施の第四形態例の製造過程の断面図である。
【図8】本発明の実施の第五形態例の製造過程の断面図である。
【図9】本発明の実施の第五形態例の製造過程の部分平断面図である。
【図10】本発明の実施の第六形態例の製造過程の断面図である。
【図11】本発明の実施の第六形態例の製造過程の部分平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至図11は本発明の実施の形態例を示し、図1乃至図4は第一形態例、図5は第二形態例、図6は第三形態例、図7は第四形態例、図8、図9は第五形態例、図10、図11は第六形態例である。
【0011】
図1乃至図4の第一形態例において、1は極細パイプであって、この場合、図2、図3の如く、芯材2の表面に電気メッキ、化学メッキ又は蒸着などにより金属被膜3を積層形成し、図4の如く、表面に金属被膜3を積層形成した芯材2をクランプ4により挟持した状態で上記芯材2を引き抜いて芯材2を塑性変形によって除去することにより極細パイプ1を製造するようにしている。ここでいう極細パイプとは、例えば、穴径が130μm以下のもの、あるいは外径が0.5mm以下で肉厚が0.1mm以下のものを示している。
【0012】
そして、この場合、上記芯材2は超塑性材料からなり、芯材2の表面に金属被膜3を積層形成した後、上記クランプ4を加熱して、芯材2及び金属被膜3を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で芯材2を引張り、この引張力による塑性変形によって除去するようにしている。
【0013】
この場合、上記芯材2は、例えば、Zn−22mass%Al合金(亜鉛78%、アルミニウム22%の亜鉛合金、いわゆる「SPZ」と称される亜鉛合金)が用いられ、また、この二元系合金にCr、Mn、Vなどの第三元素を添加した合金、その他、超塑性を示すアルミニウム合金、銅合金などの超塑性材料が用いられることもある。
【0014】
尚、ここでいう超塑性現象とは、一定の応力下において局部的な伸びや収縮を起こすことなく、数百〜数千%以上の大きな伸びを示す現象であり、微細結晶構造に起因する合金が主であり、この現象は合金だけでなく金属間化合物にもみられる現象である。そして、各種合金固有の超塑性を示す温度域や歪み速度感受性指数などの物性により超塑性現象が発現することになる。尚、この指数が大きいほど歪み速度の影響を受け易く、また、歪み速度が小さければ変形抵抗は小さくなるが、加工スピードは遅くなり生産性が低くなる。
【0015】
ここに、上記各種合金固有の超塑性を示す温度域や歪み速度感受性指数などの物性を示すと、例えば、上記芯材2たるZn−22mass%Al合金においては、超塑性を示す温度域が200℃〜300℃、最高歪み速度感受性指数が0.45、アルミニウム合金においては、超塑性を示す温度域が550℃〜、最高歪み速度感受性指数が0.9、銅合金においては、超塑性を示す温度域が700℃〜、最高歪み速度感受性指数が0.45、ニッケル合金においては、超塑性を示す温度域が927℃〜1093℃、最高歪み速度感受性指数が0.5、チタン合金においては、超塑性を示す温度域が850℃〜900℃、最高歪み速度感受性指数が0.7となる物性を示す。一般的に超塑性を示す温度域は融点の約40%の温度域を示すようである。
【0016】
また、上記芯材2は、ダイスを用いて徐々に外径を細くしていく引抜伸線加工や押出伸線加工により製造することことができ、この芯材2の伸線加工に際し、超塑性現象は繰り返し発現し得るから、芯材2を超塑性を示す温度域に加熱し、芯材2を超塑性現象を発現する超塑性領域で伸線加工して芯材2を製造することもできる。
【0017】
また、上記金属被膜3は、例えば、上記芯材2の表面に銅やニッケルなどのメッキ材料(正極)たる金属を電解液及び通電によって電気メッキにより積層形成したり、銅合金やニッケル合金、チタン合金などの金属成分を溶かし込んだ無電解メッキ液内に芯材2を浸漬し回転させて化学メッキにより積層形成したり、融点が高い合金やタングステンカーバイトなどの金属を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着や気化した反応性ガスによる化学蒸着などの蒸着手段により積層形成したりすることになる。
【0018】
又、上記芯材2の変形除去に際して、表面に金属被膜3を積層形成した芯材2をクランプ4により挟持した状態で上記芯材2を引張り、この引張力による塑性変形によって芯材2を除去するようにしているが、上記芯材2を鉛直方向に配置すると共にこの芯材2の下端に適当な歪み速度をもたらす重量をもつ図示省略の重錘を吊下し、上記超塑性領域で重錘の重さがもたらす引張力による塑性変形によって除去することもできる。
【0019】
この実施の第一形態例は上記構成であるから、超塑性材料からなる芯材2の表面に金属被膜3を積層形成し、その後、芯材2及び金属被膜3を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で芯材2を超塑性変形により除去することができ、穴つまりのない極細パイプ1を容易にかつ安価に製造することができると共に歩留まりや作業性を高めることができる。
【0020】
この場合、上記芯材2の表面に電気メッキ、化学メッキ又は蒸着により上記金属被膜3を積層形成するので、金属被膜3を容易に積層形成することができ、又、この場合、上記芯材2を上記超塑性領域で引張力による塑性変形によって除去するので、芯材2を確実に変形除去することができ、穴つまりのない極細パイプ1を製造することができ、又、この場合、上記芯材2を鉛直方向に配置すると共に該芯材を上記超塑性領域で重錘の重さがもたらす引張力による塑性変形によって除去することにより適度に遅い良好な歪み速度をもって良好な超塑性特性の下で芯材2を引き抜くことができ、芯材2を確実に変形除去することができ、穴つまりのない極細パイプ1を製造することができ、又、この場合、上記超塑性材料からなる芯材2は、Zn−22mass%Al合金であるから、他の超塑性材料に比べ、低い温度で超塑性特性を示し、低い温度で良好な超塑性特性を利用することができ、芯材2を確実に変形除去することができ、又、この場合、上記芯材2を超塑性を示す温度域に加熱し、芯材2を超塑性現象を発現する超塑性領域で伸線加工して芯材2を製造することにより、一層細い芯材2を製造することができ、それだけ内穴の小さな極細パイプを製造することができる。
【0021】
図5の実施の第二形態例にあっては、上記第一形態例に示すクランプ4に金属被膜3に当接可能なストッパ材5を設けており、芯材2の引抜加工において、金属被膜3を残して芯材2を確実に引き抜き除去できるように構成している。
【0022】
又、図6の第三形態例にあっては、極細パイプ1が外周面及び内穴が楕円形状となっており、第一形態例のような円形断面の極細パイプに限らず、楕円形状の極細パイプ1を製造することもできることを示し、又、図7の第四形態例にあっては、予め芯材2を曲線形状に製造し、その芯材2に金属被膜3を積層形成することにより、超塑性現象をもって、芯材2を変形除去して曲管状の極細パイプ1を製造することもできることを示している。
【0023】
又、図8、図9の第五形態例及び図10、図11の第六形態例にあっては、予め芯材2の表面に部分的に凹部6を有する心材2製造し、その芯材2に金属被膜3を積層形成することにより、超塑性現象をもって、芯材2を変形除去して曲管状の極細パイプ1を製造することもできることを示している。
【0024】
これら第二形態例乃至第六形態例にあっても、上記第一形態例と同様な作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0025】
ここに、上記極細パイプ1は、放電加工用電極においては、外径が100μm以下で長さができれば200mm、少なくても100mmで、穴径は外径の半分か70%程度であり、最小外径では50μmの銅パイプあるいは銅タングステンあるいはタングステンが望まれる。また、注射器の針においては、材質がSUS304あるいはSUS316などのステンレスからなり、外径が25〜100μmで穴径が外径の50〜70%程度であって、最終的には20〜40mm程度の長さに切断されるものの、できるだけ素材としては長い方が歩留まりや作業性が良く安価になるので長いパイプが望まれる。又、接着剤塗布に用いるノズル用途の極細パイプも注射針とほぼ同じサイズである。その他の工業用途では、材質がニッケルやニッケルリンも使われる。現在実現できていない極薄い肉厚のパイプが可能になると曲げに強い新たなパイプの需要の発掘が期待できる。
【0026】
また、例えば、上記SPZ合金からなる芯材2を使用し、穴径φ25μmの極細パイプを製造する場合、芯材2の引張強さは常温時15g程度で破断するもので、実際の加工では芯材2の温度230℃(クランプの温度)で10gの重りで取り出すことにしている。尚、重力方向たる鉛直方向に配置する目的として、超塑性により細くなった芯材2が極細パイプ1にできるだけ触れない様にすると共に取り出し荷重を安定させることになるからである。
【0027】
尚、本発明は上記の形態例に限られるものではなく、例えば、上記実施例においては、上記芯材2は単芯となっているが、2以上の複数の芯材2を用いることにより複数個の内穴をもつ極細パイプを製造することもでき、又、芯材2の形状を各種の異形形状に形成することにより異形の極細パイプを製造することもでき、各種の形状、複雑な形状の極細パイプの製造に適用することができ、又、芯材2は、クランプ4に芯材2の長さ方向の例えば20〜30mm毎に複数個の加熱ヒータを設け、区切られた加熱ゾーンを形成し、この各加熱ゾーン毎に加熱ができるように設け、芯材2にそれぞれ振れ止めガイドを施した重錘を取り付け、各加熱ゾーンの加熱ヒータにより加熱を開始し、重錘の位置を検出して各加熱ゾーンの温度制御を行うようにすることもある。
【0028】
また、極細パイプ1は、内外形が丸形に限定されるものではなく、特に放電加工電極では放電摩耗と放電除去粉を排出する水あるいは油の供給路確保のバランスで決まるもので、高精度に異形状が実現できると一般に出回っている丸穴に丸外形のパイプが、例えば図6に示すような楕円状のパイプとか小判形、丸の両面を削った様な形状の極細パイプを用いることにより電極の振れや位置決めを確保しつつ放電加工効率を上げられる可能性がある。
【0029】
以上の如く、所期の目的を充分達成することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 極細パイプ
2 芯材
3 金属被膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の表面に金属被膜を積層形成し、該積層形成した金属被膜を残して該芯材を除去することにより極細パイプを製造するに際し、上記芯材は超塑性材料からなり、該芯材の表面に金属被膜を積層形成した後、該芯材及び該金属被膜を超塑性を示す温度域に加熱し、超塑性現象を発現する超塑性領域で該芯材を塑性変形によって除去することを特徴とする極細パイプの製造方法。
【請求項2】
上記芯材の表面に電気メッキ、化学メッキ又は蒸着により上記金属被膜を積層形成することを特徴とする請求項1記載の極細パイプの製造方法。
【請求項3】
上記芯材を上記超塑性領域で引張力による塑性変形によって除去することを特徴とする請求項1又は2記載の極細パイプの製造方法。
【請求項4】
上記芯材を鉛直方向に配置すると共に該芯材を上記超塑性領域で重錘の重さがもたらす引張力による塑性変形によって除去することを特徴とする請求項1又は2記載の極細パイプの製造方法。
【請求項5】
上記超塑性材料からなる芯材は、Zn−22mass%Al合金であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の極細パイプの製造方法。
【請求項6】
上記芯材を超塑性を示す温度域に加熱し、該芯材を超塑性現象を発現する超塑性領域で伸線加工して該芯材を製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の極細パイプの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−163646(P2010−163646A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5764(P2009−5764)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(595020012)柳下技研株式会社 (3)
【Fターム(参考)】