説明

構造体の製造方法および構造体の製造装置

【課題】タングステン(W)を含む構造体の製造方法および構造体の製造装置を提供する。
【解決手段】構造体の製造方法は、タングステン(W)を含む導電性の材料101を準備する工程と、材料101にパターンを有するマスク層103を形成する工程と、溶融塩20中でマスク層103が形成された材料101にアノード電流を流す工程とを備えている。溶融塩20を構成するカチオンは、溶融塩20中の標準電極電位がWよりも卑である。マスク層103は、溶融塩20中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法および構造体の製造装置に関し、たとえばタングステン(W)を含む構造体の製造方法および構造体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Wを含む構造体は、耐熱性の高い金型、X線リソグラフィのためのマスク材料、半導体装置などの種々の分野で注目されている。このようなWを含む構造体の製造方法として、たとえば特開平5−136102号公報(特許文献1)には、ドライエッチングによりW膜を形成する以下の方法が開示されている。具体的には、まず、シリコン(Si)を主成分とする基板の表面に、ポリSi膜、W膜およびレジストパターンを順次形成する。次に、炭酸ガス(CO2)または一酸化炭素(CO)を反応ガスに用いて、レジストパターンから開口している領域のW膜をエッチングする。
【0003】
また、特開平6−258338号公報(特許文献2)には、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法によりW膜を形成する以下の方法が開示されている。具体的には、Siウエハの表面および裏面に酸化シリコン(SiO2)膜をプラズマCVD法により形成する。次に、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、その後、レジストパターンから開口している領域のSiO2膜を除去する。次に、選択性CVD法により、SiO2膜が除去された領域にW膜を形成する。
【0004】
また、特開2006−179514号公報(特許文献3)には、ウエットエッチングによりW膜を加工する以下の方法が開示されている。具体的には、W膜およびSi膜が積層された基板を、フッ化水素などを含む微細加工処理剤を用いてウエットエッチングによりW膜を微細加工する。
【特許文献1】特開平5−136102号公報
【特許文献2】特開平6−258338号公報
【特許文献3】特開2006−179514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドライエッチングによりW膜を形成する上記特許文献1では、反応ガスを用いたW膜へのエッチング速度が遅く、途中でW膜のエッチングがほとんど進まなくなる場合がある。このため、エッチング量が大きい膜などを形成することは難しく、形成するW膜の加工形状に制限があるという問題がある。
【0006】
また、CVD法によりW膜を形成する上記特許文献2では、Wの成膜速度が遅いため、厚みが大きい膜、構造体などを形成することは難しい。このため、加工形状に制限があるという問題がある。
【0007】
また、ウエットエッチングによりW膜を形成する上記特許文献3では、所定の形状を有するW膜を形成するためには、W膜にパターンを有するマスクを形成し、パターンから開口しているW膜を溶解する必要がある。しかし、Wは耐食性が高いため、Wを溶解させるとマスクまで溶解してしまう。このため、微細なパターンを有するW膜を形成できず加工形状に制限がある、あるいは加工する精度が悪いという問題がある。
【0008】
さらに、パターンを有するWを含む材料を切削加工により加工する方法が考えられる。しかし、Wは非常に硬く、かつ脆いため、加工の際に割れ、欠けなどが発生する。このため、加工精度が悪いという問題がある。
【0009】
それゆえ本発明の目的は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、加工精度を向上し、かつ形状の選択を増加する構造体の製造方法および構造体の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構造体の製造方法は、タングステン(W)を含む導電性の材料を準備する工程と、材料にパターンを有するマスク層を形成する工程と、溶融塩中でマスク層が形成された材料にアノード電流を流す工程とを備えている。溶融塩を構成するカチオンは、溶融塩中の標準電極電位がWよりも卑である。マスク層は、溶融塩中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体である。
【0011】
本発明の構造体の製造方法によれば、溶融塩を構成するカチオンの溶融塩中の標準電極電位がWよりも卑である。Wを含む材料にアノード電流を流すと、材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応が進行する。したがって、材料中のWを溶解することができる。また、マスク層は、溶融塩中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体である。このため、Wはマスク層よりもイオンになりやすい。材料にアノード電流を流すと、材料中のWはマスク層に優先してイオンになる。したがって、マスク層に覆われずに溶融塩に露出しているWが優先的に溶解され、マスク層が溶解することを抑制することができる。
【0012】
以上より、Wの硬さおよび脆さの性質に依存せず、かつマスク層の溶解を抑制して、マスク層から露出した材料を溶解させることができる。このため、加工精度を向上した構造体を製造することができる。また、アノード電流密度を制御することにより、材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応を制御できる。このため、材料を加工する速度を制御できるので、加工する量に依らないで、形状の選択を増加した構造体を製造することができる。
【0013】
上記構造体の製造方法において好ましくは、上記マスク層は、セラミックスである。これにより、アノード電流を流した際に、マスク層が溶解されることを効果的に抑制することができる。このため、加工精度をより向上した構造体を製造することができる。
【0014】
上記構造体の製造方法において好ましくは、上記溶融塩は、アルカリ金属とハロゲンとの塩、タングステン酸を含む塩および亜鉛を含む塩の少なくともいずれかを含んでいる。
【0015】
溶融塩がアルカリ金属とハロゲンとの塩を含んでいる場合、アノード電流を流した際に副生成物の析出を抑制することができる。溶融塩がタングステン酸を含む塩を含んでいる場合、材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応を促進することができる。溶融塩が亜鉛を含む塩を含んでいる場合、溶融塩の融点が下がり、その結果、材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応を低温で促進することができる。
【0016】
本発明の構造体の製造装置は、坩堝と、加熱部と、電源と、カソード電極とを備えている。坩堝は、標準電極電位がWよりも卑なカチオンを含む溶融塩を内部に収容し、かつ溶融塩に接するようにWを含む導電性の材料を内部に配置する。加熱部は、坩堝の内部を加熱する。電源は、上記材料にアノード電流を流す。カソード電極は、坩堝の内部に配置され、かつ電源と電気的に接続されている。
【0017】
本発明の構造体の製造装置によれば、加熱部により溶融塩を加熱するとともに、カソード電極と電気的に接続された電源を用いて材料にアノード電流を流すと、溶融塩を構成するカチオンの溶融塩中の標準電極電位がWよりも卑であるので、この材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応が進行する。したがって、この材料中のWを溶解することができる。このため、Wの硬さおよび脆さの性質に依存せず、この材料を加工することができる。また電源を用いてアノード電流密度を制御することにより、材料中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応を制御できる。このため、材料を加工する速度を制御できるので、加工する量に依存せず、加工精度を向上し、かつ形状の選択を増加した構造体を製造することができる。
【0018】
上記構造体の製造装置において好ましくは、アノード電極のアノード電位を制御するための参照極をさらに備えている。
【0019】
これにより、アノード電位のコントロールが可能となるので、アノード電極側での溶解の条件を詳細に制御することができる。このため、加工精度をより向上した構造体を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構造体の製造方法および構造体の製造装置によれば、加工精度を向上し、かつ形状の選択を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態における構造体の製造装置を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態における構造体の製造装置10について説明する。
【0023】
図1に示すように、製造装置10は、坩堝11と、加熱部12と、電源13と、カソード電極14と、参照極15とを備えている。
【0024】
坩堝11は、標準電極電位がWよりも卑なカチオンを含む溶融塩20を内部に収容している。さらに坩堝11は、溶融塩20に接するようにWを含む導電性の材料101を内部に配置している。本実施の形態では、材料101は、溶融塩20に浸漬されている。坩堝11は、たとえば炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al23)などよりなる。溶融塩20については、後述する。
【0025】
加熱部12は、坩堝11の外周を覆うように配置され、坩堝11の内部、つまり溶融塩20を加熱する。加熱部12は、たとえば高周波加熱コイルなどを用いることができる。
【0026】
電源13は、材料101およびカソード電極14と電気的に接続され、材料101にアノード電流を流す。
【0027】
カソード電極14は、坩堝11の内部に溶融塩20に接するように配置されている。カソード電極14は、溶融塩20の温度よりも融点が高い。カソード電極14は、溶融塩20中の標準電極電位がWと同じ、またはWよりも貴である。Wよりも貴な材料として、たとえばCu(銅)、Au(金)、Ag(銀)、Pt(白金)などを用いることができる。
【0028】
参照極15は、電源13と電気的に接続されており、アノード電極のアノード電位を制御する。なお、参照極15は、省略されてもよい。
【0029】
溶融塩20は、カチオンおよびアニオンが溶融している状態である。溶融塩20を構成するカチオンは、溶融塩20中の標準電極電位がWよりも卑である。このような溶融塩20として、たとえばアルカリ金属とハロゲンとの塩、タングステン酸を含む塩および亜鉛を含む塩の少なくともいずれかを含む材料を用いることができる。アルカリ金属とハロゲンとの塩としては、たとえばLiCl(塩化リチウム)−KCl(塩化カリウム)、LiCl−NaCl(塩化ナトリウム)、LiCl−NaCl−KCl、LiF(フッ化リチウム)−KF(フッ化カリウム)、LiBr(臭化リチウム)−KBr(臭化カリウム)などを用いることができる。タングステン酸を含む塩としては、たとえばNa2WO4(タングステン酸ナトリウム)−K2WO4(タングステン酸カルシウム)−Li2WO4(タングステン酸リチウム)などを用いることができる。亜鉛を含む塩としては、たとえばZnCl2(塩化亜鉛)−NaCl−KClなどを用いることができる。なお、溶融塩は上記材料に特に限定されず、たとえばLiNO3(硝酸リチウム)−NaNO3(硝酸ナトリウム)などを用いることができる。
【0030】
本実施の形態の製造装置10は、材料101と、材料101の上に形成されたパターンを有するマスク層103とが溶融塩20に接するように、材料101を坩堝11の内部に配置している。このため、製造装置10は、マスク層103に覆われていない領域を除去した構造体を製造するための装置である。しかし、本発明の構造体の製造装置は、マスク層103が形成されていないWを含む材料101のみを坩堝11の内部に配置して、材料101の厚みを薄くするように加工するための装置であってもよい。
【0031】
図2は、本実施の形態における構造体の製造方法を示すフローチャートである。図3〜図9は、本実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。続いて、図2〜図9を参照して、本実施の形態における構造体の製造方法について説明する。
【0032】
まず、図2および図3に示すように、Wを含む導電性の材料101を準備する(ステップS1)。このステップS1で準備する材料101は、Wを50wt%以上含んでいることが好ましい。Wを50wt%以上含んでいる材料101として、たとえばWを主成分とし残部が不可避的不純物のW、WC(炭化タングステン)、Cu−W系合金などを用いることができる。本実施の形態における材料101は、基板である。
【0033】
次に、図2および図3に示すように、材料101の表面101aを研磨する(ステップS2)。このステップS2では、表面101aの表面粗さRaが0.2nm以下になるように研磨することが好ましい。なお、「表面粗さRa」とは、JIS B 0601に準拠して測定される値である。
【0034】
研磨する方法は特に限定されず、たとえば電界研磨法、化学研磨法、機械研磨法などを用いる。なお、この研磨するステップS2は省略されてもよい。
【0035】
次に、図2および図4に示すように、材料101上に、レジスト102を形成する(ステップS3)。このステップS3では、コーター、スプレー方式などにより材料101上にレジスト102を塗布する。レジスト102は、たとえばアクリル樹脂、エポキシ樹脂またはノボラック樹脂などのフォトレジストを用いることができる。本実施の形態では、レジスト102は、たとえば5μmの厚みを有している。
【0036】
なお、本実施の形態では材料101の表面101a上にレジスト102を形成しているが、表面101aと反対側の裏面101bにレジスト102をさらに形成してもよい。
【0037】
次に、図2および図5に示すように、レジスト102にパターン(開口部)102aを形成する(ステップS4)。このステップS4では、所望のパターンを有するレジスト用マスクを用いて、紫外線露光をして、レジスト102に所望のパターン102aを転写する。そして、材料101上のレジスト102の露光された部分を薬液で溶かす現像を行なう。現像に用いられる薬液は特に限定されないが、たとえば一般的な電子回路形成と同様の条件や設備を使える観点から、たとえばTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、TMAHに界面活性剤を添加したアルカリ現像液などを用いることができる。これにより、図5に示すように、パターン102aを有するレジスト102を形成することができる。本実施の形態では、たとえばラインL1が200μmで、スペースL2が200μmのパターン102aを形成する。なお、パターン102aは、レジスト102の厚さ方向(積層される方向)において、孔が材料101の表面101aに到達する位置まで到達している。
【0038】
次に、図2および図6に示すように、材料101上にマスク層103を形成する(ステップS5)。このステップS5では、たとえばCVD法などにより、レジスト102のパターン102aに0.5μmの厚みを有するマスク層103を形成する。
【0039】
マスク層103は、後述するアノード電流を流すステップS7で用いる溶融塩20(図1参照)中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体である。マスク層103の融点は、後述するアノード電流を流すステップS7で用いる溶融塩20(図1参照)の温度よりも高い。また、マスク層103が絶縁体の場合には、溶融塩20に対する溶解速度が小さい。つまり、マスク層103が導電体の場合には、標準電極電位がWよりも貴であり、かつ使用する溶融塩20の温度以上の融点を有している。マスク層103が絶縁体の場合には、使用する溶融塩20の温度以上の融点を有し、かつ溶融塩20に対する溶解速度が無視できる程度に小さい。このような溶解速度は、たとえば0.1μm/h以下である。このようなマスク層103として、セラミックスを用いることが好ましく、二酸化ケイ素(SiO2)などの酸化物、BN(窒化ホウ素)などのホウ化物がより好ましい。
【0040】
次に、図2および図7に示すように、レジスト102を除去する(ステップS6)。レジスト102を除去する方法は特に限定されず、たとえばアルカリ水溶液などによるエッチング、剥離、アッシングなど任意の方法により除去することができる。これにより、図7に示すように、材料101にパターン103aを有するマスク層103を形成することができる。
【0041】
次に、材料101を溶融塩20中でアノード電流を流す(ステップS7)。このステップS7では、図1に示す製造装置10を用いる。
【0042】
具体的には、図1に示すように、坩堝11の内部に上述した溶融塩20を収容する。また図7に示す材料101および、材料101上に形成されたパターン103aを有するマスク層103と、上述したカソード電極14とをそれぞれ溶融塩20に浸漬する。そして、加熱部12により、坩堝11の内部に収容された溶融塩20を加熱する。なお、加熱する温度は、溶融塩20を構成するカチオンおよびアニオンが溶融した状態を保持できる温度以上で、カソード電極14の融点以下にすることが好ましい。その後、材料101をアノード(陰極)にするとともに、カソード電極14をカソード(陽極)として、材料101とカソード電極14との間に電源13により電圧を印加する。これにより、材料101にアノード電流を流すとともに、カソード電極14にカソード電流を流すことができる。
【0043】
カソード電極14にカソード電流を流すと、カソード電極14において、溶融塩20を構成するカチオンから電子を授受する反応が進行する。また、Wを含む材料101にアノード電流を流すと、材料101において、たとえばW→W6++6e-の反応が進行する。マスク層103は、溶融塩20中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体であるため、材料101はマスク層103よりもイオンになりやすい。このため、マスク層103は溶解されず、材料101のみが溶解される。つまり、マスク層103に覆われずに溶融塩20に露出している材料101中のWを優先的に溶解することができる。その結果、図8に示すように、材料101においてマスク層103に覆われていない領域を除去することができる。
【0044】
本実施の形態では、溶融塩20としてLiCl−KClを用い、この溶融塩20を450℃に加熱した状態で、電流密度が10A/dm2でアノード溶解している。この場合、材料101の深さ方向にたとえば1μm/分の速度で溶解させることができる。その結果、たとえば50分程度の所要時間で、ラインL1が200μmで、スペースL2が200μmで、深さHが50μmの孔を材料101に形成することができる。
【0045】
次に、図2および図9に示すように、マスク層103を除去する(ステップS8)。マスク層103を除去する方法は特に限定されず、たとえば化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)法などにより除去することができる。
【0046】
以上のステップ(S1〜S8)を実施することにより、図9に示すように、パターン101cを有する材料101よりなる構造体105を製造することができる。
【0047】
続いて、本実施の形態における構造体105の製造装置10および製造方法の効果について説明する。
【0048】
本実施の形態では、溶融塩20中で材料101にアノード電流を流している(ステップS7)。材料101を溶融塩20に接触させることにより、材料101に酸化タングステン(WO3)などの不働態膜が形成されることを抑制できる。この状態で、材料101にアノード電流を流すと、材料101中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応が進行する。したがって、材料101中のWを溶解することができる。また、マスク層103は、溶融塩20中の標準電極電位がWよりも貴な金属または絶縁体である。このため、材料101はマスク層103よりもイオンになりやすいので、材料101中のWはマスク層103よりも優先してイオンになる。また、溶融塩20は、マスク層103への腐食性が低い。したがって、マスク層103に覆われずに溶融塩20に露出している材料101が優先的に溶解され、マスク層103が溶解することを抑制することができる。
【0049】
したがって、Wの硬さおよび脆さの性質に依存せず、かつマスク層103の溶解を抑制して、マスク層103のパターン103aから露出した材料101を溶解させることができる。また、ドライエッチングでは、CO2またはCOの炭素(C)が別の物と結合して炭化フッ素などが生成され、この生成物が材料に堆積する。これに対して、本実施の形態では、電気分解により材料101を溶解しているので、副生物の生成を抑制できる。よって、加工精度を向上した構造体105を製造することができる。
【0050】
また、電源13でアノード電流密度を制御することにより、材料101中のWが電子を放出してWイオンに生成する反応を制御できる。このため、加工する速度がドライエッチング、ウエットエッチングなどの化学反応のみに依存する方法と異なり、本実施の形態では、材料101を加工する速度を人為的に制御できる。さらに、ウエットエッチングでは、材料の表面に不働態膜が形成されるため、材料の溶解が進行しない。これに対して、本実施の形態では、溶融塩20中において不働態膜が安定でないので、溶融塩20に材料101を接触させることにより、不働態膜が形成されることを抑制できるので、材料101の溶解する反応を促進することができる。よって、加工量が大きな構造体(大きな厚みを有する構造体)、微細形状を有する構造体など、形状の選択を増加した構造体105を製造することができる。
【0051】
また、Wは腐食されにくい性質を有しているので、Wを腐食させることにより材料を加工するドライエッチングでは、有毒なガスを用いる必要がある。これに対して、本実施の形態では、溶融塩20を用いているので、安全性を向上して構造体105を製造することができる。
【0052】
さらに、ドライエッチングでは大掛かりな製造設備が必要である。これに対して、本実施の形態の製造装置10は、簡易な設備である。よって、構造体105の製造コストを低減することができる。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態における構造体の製造装置を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 製造装置、11 坩堝、12 加熱部、13 電源、14 カソード電極、15 参照極、20 溶融塩、101 材料、101a 表面、101b 裏面、101c,102a,103a パターン、102 レジスト、103 マスク層、105 構造体、L1 ライン、L2 スペース、H 深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを含む導電性の材料を準備する工程と、
前記材料にパターンを有するマスク層を形成する工程と、
溶融塩中で前記マスク層が形成された前記材料にアノード電流を流す工程とを備え、
前記溶融塩を構成するカチオンは、前記溶融塩中の標準電極電位がタングステンよりも卑であり、
前記マスク層は、前記溶融塩中の標準電極電位がタングステンよりも貴な金属または絶縁体である、構造体の製造方法。
【請求項2】
前記マスク層は、セラミックスである、請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩は、アルカリ金属とハロゲンとの塩、タングステン酸を含む塩および亜鉛を含む塩の少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
標準電極電位がタングステンよりも卑なカチオンを含む溶融塩を内部に収容し、かつ前記溶融塩に接するようにタングステンを含む導電性の材料を内部に配置するための坩堝と、
前記坩堝の内部を加熱するための加熱部と、
前記材料にアノード電流を流すための電源と、
前記坩堝の内部に配置され、かつ前記電源と電気的に接続されたカソード電極とを備えた、構造体の製造装置。
【請求項5】
前記アノード電極のアノード電位を制御するための参照極をさらに備えた、請求項4に記載の構造体の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−70823(P2010−70823A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241306(P2008−241306)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】