説明

構造化され焼結された物品の形成方法

構造化され焼結された物品の形成方法が開示され、この方法は、焼結可能な微粒子材料およびバインダを含む混合物を提供し、その場合、上記バインダは、このバインダの総樹脂含有量の関数として少なくとも50重量%の熱可塑性バインダ材料と輻射線硬化性バインダ材料とを含み、上記混合物を、構造体を形成するように型を用いて整形し、上記構造体を冷却することによって、またはこの構造体を冷えるままに放置することによって、この構造体を硬化させ、上記構造体を離型させ、上記輻射線硬化性バインダ材料が少なくとも或る程度硬化するように、上記構造体に輻射線を照射し、かつ上記構造体のバインダを除去しかつ焼結させる諸ステップを含む。整形は、1本または複数本の開口溝を有する構造体を形成することを含んでいてもよく、かつ焼結は、少なくとも一つの追加の構造体を、上記溝を覆うまたは取り囲むように一体に接触させて焼結させることを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、「構造化され焼結された物品の形成方法」と題して2007年10月19日付けで提出された米国特許出願第11/975,414号の優先権を主張した出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、構造化され焼結された物品の形成方法に関し、特に、ガラス、セラミック、およびガラスセラミック物品の一つまたは複数を含む構造化され焼結された物品の形成方法に関するものである。開示された方法は、マイクロ流体デバイスおよび類似の構造体の製造に関して開発され、かつ特に有用なものである。
【背景技術】
【0003】
本発明者等の仲間達は、双方共に本発明の被譲渡人に譲渡されている、例えば特許文献1に開示されているような、ガラス・リブ構造を形成するための技術、ならびに関連する、例えば特許文献2に開示されているような、マイクロ流体デバイスの生産方法を先に開発した。先に開発されたこれらの方法は、他の種々のステップの中で、ガラス、ガラスセラミック、またはセラミック微粒子またはそれらの混合物と、バインダとの混合物を提供し、この混合物を成形して所望の構造体を形成し、この構造体を硬化および離型させ、かつこの構造体のバインダを除去しかつ焼結させることを含む。硬化は、熱硬化性バインダに関しては混合物を加熱することにより、熱可塑性バインダに関しては冷却または冷えるままに放置することにより、または輻射線硬化性バインダに関しては、混合物に輻射線を照射することにより行なわれる。特許文献1には、輻射線硬化性バインダは、「ハイブリッド」バインダ、すなわち輻射線硬化性バインダ材料と熱可塑性バインダ材料との混合物の形態を採り、迅速な輻射線硬化を提供し、同時に、より完全なバインダの除去、または熱可塑性バインダと同様のバインダの「焼き切り」を達成することが開示されている。純粋なUVバインダまたはハイブリッドUVバインダの実施の形態においては、構造体を急速に硬化させかつ構造体の離型を助けるために、開かれたロール型内に混合物がある間に、および/またはロール型からの混合物の離型を同時に行いながら、照射による急速な硬化が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,853,446号明細書
【特許文献2】米国特許第6,769,444号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロ流体デバイスに望ましいかなり複雑な構造体の形成に関しては、特許文献2に開示されているものに類似するフラット成形工程は、特許文献1に開示されているようなロール成形よりもより信頼性がありかつ適していることが判明している。しかしながら、フラット成形工程の欠点は、このフラット成形工程が、バインダ除去および焼結に先立って、形成されたまたは構造化された混合物の凹部の周りにパックされかつ内部に押し込まれる吸収材料を用いることを必要とすることである。この目的のために、双方とも高温に耐えることができるアルミナおよび最近では炭化カルシウムが発明者等およびその同僚達によって用いられて来た。しかしながら、後に多くの費用を要する多くの工程を追加してそれを除去しなければならず、かつ汚染源を提供することになるので、アルミナおよび炭化カルシウムを用いることは望ましくない。さらに、炭化カルシウムをガラスから取り除くために利用可能な一般的なエッチング工程は環境に優しくない。
【0006】
しかしながら、構造体を覆いかつパックする吸収材料を用いないと、構造体の形状が、必ずしも所望の程度に保持されるとは限らない。特に、未焼成の構造体の形状保持を助けるための吸収材料を使用しないと、構造体がバインダを除去されかつ焼結されるときに、構造体が鈍化または崩れる可能性がある。輻射線硬化性バインダおよび熱硬化性バインダは、バインダの除去および焼結時において熱可塑性バインダよりもずっと大きな度合いで構造体の形状を保持することができるが、型に接している状態で硬化するために輻射線硬化性バインダを用いると、所望のレベルの硬化を得るのが困難であり、かつ場合によっては硬化が妨げられるのみでなく、整形された構造体を離型させるのが困難になり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、構造化され焼結された物品の製造方法を提供し、この方法は、焼結可能な微粒子材料およびバインダを含む混合物を提供するステップであって、上記バインダは、このバインダの総樹脂含有量の関数として、少なくとも50重量%の熱可塑性バインダ材料と、少なくとも5重量%の輻射線硬化性バインダ材料とを含みむものであるステップ、上記混合物を、構造体を形成するように型を用いて整形するステップ、上記構造体を冷却することによって、またはこの構造体を冷えるままに放置することによって、この構造体を硬化させるステップ、上記構造体を離型させるステップ、および上記輻射線硬化性バインダ材料が少なくとも或る程度硬化するように、上記構造体に輻射線を照射し、かつ構造化され焼結された物品を形成するように上記構造体のバインダを除去しかつ焼結させるステップを含む。整形は、1本または複数本の開口溝を有する構造体を形成することを含んでいてもよく、かつ焼結は、少なくとも一つの追加の構造体を、上記溝を覆うまたは取り囲むように一体に接触させて焼結させることを含んでいてもよい。
【0008】
本発明による方法において、低融点バインダが望ましい上記熱可塑性バインダは一次バインダのまま残り、構造体の硬化または初期の硬化機能を演じるバインダは、離型および必要な初期の取扱いを可能にする。これは冷却または構造体を冷えるままに放置するという単純な手段によって、容易に制御されたかつ完全な硬化を提供する。上記熱可塑性バインダはまた、バインダ除去時における良好な流動および滑性を提供し、かつ一次バインダとして激しく架橋されたポリマーに生じ得るクラックおよびその他の問題の発生を最少限にすることができる。十分な量の輻射線硬化性樹脂は、熱硬化性族に属する流動性改質剤として作用し、したがって、熱可塑性バインダのバインダ除去温度範囲までの、およびその温度範囲を超える可能性のある温度においてさえも再溶融することなく効果的な流動性改質剤のままであり続け、かくして、構造体の周囲および内部へパックされる微粒子材料を用いることなしに、バインダを除去されかつ焼結される構造体の形状を維持する。
【0009】
本発明のさらなる特徴および効果は、下記の詳細な説明に記載されており、当業者であれば、その記載からその一部が直ちに明らかであり、あるいは、添付図面のみでなく、下記の詳細な説明、請求項を含む説明の通りに本発明を実施することによって認識されるであろう。
【0010】
上述の概略説明、ならびに後述の本発明の実施の形態の詳細な説明の双方は、請求項に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概観または枠組みの提供を目的とするものであることを理解すべきである。添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するために備えられたものである。図面は本発明の種々の実施の形態を示し、記述内容とともに、本発明の原理および動作の説明に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1A〜1Eは、本発明の一つまたは複数の方法により形成された工程の種々の時点における構造化され焼結された物品の一例の断面図である。
【図2】図1Dに示されたステップに有用な代替的構造の断面図である。
【図3】図1Dに示されたステップに用いることができる他の代替的構造の断面図である。
【図4】図4A、4Bは、本発明の一つまたは複数の方法により生産された、構造化され焼結された物品の他の例の断面図である。
【図5】本発明の方法の一実施の形態を示すフローチャートである。
【図6】バインダ除去後でかつ焼結以前における崩れ状態を示す、比較工程によって生産された構造化された物品のデジタル写真である。
【図7】バインダ除去後および焼結以前における形状保持状態を示す、本発明の実施の形態によって生産され構造化された物品のデジタル写真である。
【図8】バインダ除去前および除去後における3種類の構造体の高さを示すグラフであり、最初の二つは比較例で、最後の一つは本発明の方法の実施例である。
【図9】二通りの比較工程を経た構造体とともに、本発明の一つまたは複数の工程を経た構造体についての温度を関数とした降伏応力のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示された本発明の具体例を参照して、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。全図面を通して、類似の要素には可能な限り類似の参照符号を付してある。
【0013】
図1A〜1Eは、本発明の一つまたは複数の方法により形成された工程の種々の時点における構造化され焼結された物品の一例の断面図である。図1Aを参照すると、この方法は一般に、焼結可能な微粒子材料およびバインダを含む混合物20を提供することを含み、上記バインダは、このバインダの総樹脂含有量に対して、少なくとも50重量%の熱可塑性バインダ材料と、少なくとも5重量%の輻射線硬化性バインダ材料とを含む。この混合物20は、構造体26を形成するように型22を用いて整形される。
【0014】
図1の実施例においては、混合物20が基板24と接触した状態において、型22が混合物24の整形に用いられ、図1の実施例においては、上記基板24が、整形された構造体26および最終的構造体50の一部を形成する。型を用いた混合物20の整形ステップは、図1に示された、構造体26が1個または複数の開口溝28を有する特殊な形態の構造体の形成に用いるのに適している。混合物20は、必要または所望の高温において成形され、熱エネルギーは、型の加熱、混合物の予熱等の種々の方法で供給される。
【0015】
混合物20が型22を用いて成形された後、得られた構造体26は、次に構造体26を冷却することによって、または構造体26が冷えるままに放置することによって硬化される。次にこの構造体26は型22から取り外され、図1Bの整形された混合物20を含む構造体26となる。
【0016】
構造体26が型22から取り外された後、構造体26は、混合物20中の、輻射線硬化性バインダ材料が少なくとも或る程度硬化するように、図1Cの断面図に概略的に示されているように輻射線30を照射される。構造体26は、混合物20の降伏応力が結果的に100℃において少なくとも8Pa(パスカル)となるように、十分に照射されるのが望ましい。この輻射線照射は、輻射線硬化性バインダ材料を軽く架橋させて、臨界せん断降伏応力が8Paを超える形状安定性を有する整形された目的物を提供する。高い断降伏応力は、温度がバインダを除去する温度まで上昇するときに、成形された目的物が形状を保ち、かつ歪みおよび崩れを阻止するのを可能にする。架橋組織は、粒子を定位置に固定するように作用し、かつ構造体に崩れを生じさせずに、熱可塑性バインダ材料が溶融および蒸発または燃焼するのを可能にする。バインダの架橋度合いは、輻射線硬化性熱可塑性材料の比率および/または照射線量の調整によって制御可能である。
【0017】
下記の実施例に記載された方法および材料には、照射後、70℃〜120℃の範囲内の温度において100Pa以上の降伏応力を生じることができる実施例が示されている。輻射線30は必ずしも平行でなくとも、かつ必ずしも図示の方向からのみ到来するものでなくとも、基板24を透過する(図の方向において上方へ向かう)ものを含む如何なる適当な態様で導かれるものでもよい。
【0018】
硬化に用いる輻射線は紫外線が好ましいが、可視光線、電子ビーム、およびその他のものでも、本発明に用いるのに適している。輻射線硬化性バインダ材料は、アクリレート、メタクリレート、ビニル、エポキシ、チオール、スチレン、およびそれらの組み合わせ等の紫外線硬化性材料である。下記の実施例においては、アクリレートの低重合体、特にポリエステル・アクリルレートの低重合体を用いると良い特性が見られることが発見された。硬化性樹脂組成物は、遊離基誘導(free radical initiation)を用いて硬化されることが現在最も好ましいが、陽イオン硬化性組成物も可能である。
【0019】
混合物20に用いられる焼結可能な微粒子は、もし紫外線が用いられる場合には紫外線に対して透過性を有する等の、上記照射ステップに用いられる輻射線30に対して透過性を有する微粒子材料が望ましい。現在好ましい材料はガラスであり、硼珪酸ガラス、アルミナ含有硼珪酸ガラス、ガラスセラミック、セラミックおよびそれらの組み合わせ等の特に紫外線に対して透過性を有する材料が好ましく、現在最も好ましいのはガラスである。しかしながら、焼結可能な微粒子は、所望の構造体の形状および厚さが得られるならば、金属粒子等の、重合させる輻射線に対して必ずしも透過性を有していないものであってもよい。
【0020】
図1Cに示されているように、構造体26が照射された後、次に構造体26は、バインダを除去されかつ焼結されて、図1Eに断面図で示されているような、構造化され焼結された物品50を形成する。図1の物品50の場合、図1Dに示されているように、少なくとも一つの構造体32が構造体26に接触して配置される随意的なステップが含まれる。図示の実施の形態においては、随意的な追加された構造体32は、混合物20と同一または類似の成分を有する混合物20Aおよび基板24Aを含む。従って、焼結ステップは、少なくとも一つの追加された構造体32が接触している構造体26の焼結を含む。焼結中は、構造体26および32の接触面を横切る方向に、重量およびその他の力が加わる。その結果、この特定の実施の形態においては、覆われた溝34を内部に有する構造化された焼結された物品50が形成されるように、溝28が覆われる。図1の特定の実施の形態においては、図示された溝34がマイクロ流体デバイスの流体流路の一部を形成する。追加の基板の層および流路も、同じまたは必要に応じてその後の焼結ステップにおいて、同じデバイスの一部として形成される。
【0021】
図2は、図1Dに示されたステップに有用な代替的構造体32の断面図である。この構造体32は基板24A上に形成された混合物を含む。図示の混合物20Aの特殊の形態により、構造体32も開口溝28Aを備えている。これらは構造体26の溝28に正確に整列させてもさせなくともよく、マイクロ流体デバイス内のより複雑な覆われた流路を形成するのに用いられる。他の代替的構造体32が図3に示されている。手を加えていない基板24Aまたは混合物をその上に備えていない適当な構造体が用いられる。
【0022】
本発明の方法による代替的な工程が図4Aおよび図4Bに示されている。図4Aに示されているように、本発明の方法に用いられる型は、基板を用いることなしに混合物20を構造体26に形成するための型半体22Aおよび22Bの形態を採る。成形工程は、プレス成形、鋳込み成形、射出成形、真空成形、またはその他の適当な成形工程であればよい。輻射線照射およびバインダ除去および焼結後に得られた構造化され焼結された物品50は、容器または坩堝である。より複雑なまたは入り組んだ形状の部品は、特に射出成形によって成形が可能である。
【0023】
図1に示されているように、形成するデバイスが覆われた、すなわち取り囲まれた溝34を備えている場合には、図1Dにおけるように積重ねる以前に、および焼結すなわち最終的焼結に先立って、全てのバインダのうちの大部分が除去されるように、バインダの除去および/または物品の予焼結が望ましい。このことは、バインダ材料の蒸発によって生じるガスが、形成されたすなわち取り囲まれた溝34に沿って流れることなく容易に逃れるのを可能にする。
【0024】
熱可塑性バインダ材料は、多量の炭素を残留させることなく容易に気化すなわち蒸発するもの、および型離れを促進させるものであることが望ましい。現在好ましいのは、単純な単一線状蝋性アルコールまたは混合物、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等を含む一種類または複数種類の炭化水素ワックス、蝋性アルコールまたはそれらの混合物である。熱可塑性バインダ材料は、5〜40重量%の範囲内の、より好ましく5〜25%の、最も望ましくは10〜20%の輻射線硬化性バインダ材料とともに、バインダの総樹脂含有量のうちの60〜90重量%の範囲内の熱可塑性バインダ材料を含んでいることが望ましい。50%を超える輻射線硬化性バインダ材料のレベルは、一般に型離れおよび低い未焼成強度の問題を生じる。バインダはまた、使用される輻射線硬化性系に適した光重合剤を一般に含み、かつ随意的に分散剤を含む。
【0025】
シリコーン型またはシリコーン含有型は、マイクロ流体デバイスに用いられる構造体の製造に有用なことが判明しており、マイクロ流体デバイスに用いられる本発明の実施の形態においては、バインダ成分がシリコーンと相性が良いものが望ましい。このため、上記混合物は、成形工程における適当な二次成形適性のために、75℃における2.36/秒のせん断速度において25〜50パスカル秒の範囲内の粘度を有することも望ましい。
【0026】
本発明の一実施の形態による方法の諸ステップが図5のフローチャート100に表されている。ステップ102において、焼結可能な微粒子材料およびバインダを含む混合物が提供され、上記バインダは、バインダの総樹脂含有量の関数として、少なくとも50重量%の熱可塑性バインダ材料および少なくとも5重量%の輻射線硬化性バインダ材料を含む。ステップ104においては、この混合物が一つの構造物を形成するように型を用いて成形される。この混合物は、必要に応じて、図1〜図3の実施の形態におけるように基板を接触させて、または基板あるいは他の基板上で、または図4の実施の形態におけるように型構造内で単独に、または型内および/または混合物内に備えられた物体とともに、整形または成形される。ステップ106においては、この構造体が冷却されることによって、または冷えるままに放置されることによって硬化される。この構造体が硬化された後、ステップ108においてこの構造体が型から取り外され、次いでステップ110において、輻射線硬化性バインダ材料が少なくとも或る程度硬化するように輻射線を照射される。最後にステップ112において、この構造体はバインダが取り除かれかつ焼結されて、構造化され焼結された物品を形成する。
【実施例】
【0027】
下記の表1には、ワックスを主成分とするバインダの形態の熱可塑性バインダ材料およびUVバインダの形態の輻射線硬化性バインダ材料を含む、本発明の方法に有用な材料を用いた実施例(I1〜I5)のみでなく、無機微粒子に対して種々の比率を有するバインダを用いた比較例(C1〜C6)、特別の(二峰性)粒径分布を用いた比較例(C6およびC7)、および輻射線硬化性バインダを含まない多成分バインダを用いた比較例(C8〜C13)が示されており、ワックスを主成分とするバインダ中のガラス微粒子からなる系を用いて出発している。材料は、上述の図1について概略的に説明された方法によって処理されたが、バインダ除去ステップで終了し、追加の要素を用いた積み重ねまたは焼結は行なっていない。一般的な成形温度における混合物の粘度は表に示されているように測定され、硬化されかつ離型された構造体、または硬化されかつ離型され次いで輻射線照射された構造体の降伏応力は、ワックスを主成分として用いられているシステムに崩れが生じる温度である100℃において測定された。バインダ除去および/または予焼結を通じた構造体の大体の形状保持も観測された。
【0028】
比較例C1〜C5においては、モデルになった構造体の形状が、バインダ除去を通じて良好には保たれていない。図6は、比較例C4に相当する材料に上述の処理を施して形成されたバインダ除去後の四角形の稜線のデジタル写真である。図においては、当初の鋭利な四角形状の鈍化が認められる。
【0029】
比較例C6およびC7においては、二峰性粒径分布が採用された。C6の混合物を用いた場合、より高い粘度のからみもあって成形特性の反復性は最適ではなかったが、降伏応力は増大し、100℃における降伏応力が8パスカルと僅かに増大した比較例C7においてさえ、形状保持は良好であった。しかしながら、少なくともマイクロ流体デバイスを作製するのに有用なフラット成形に関して望ましい粘度は、75℃における2.36/秒のせん断速度において25〜50パスカル秒の範囲内である。したがって、これらの比較例における粘度は、好ましい限度から外れていた。
【0030】
輻射線硬化性でない多成分バインダを用いた比較例に関し、メチルメタクリレート・ポリマーを用いたいくつかの比較例(C8〜C11)がテストされ、より高い分子量のワックスが添加された比較例は多成分ワックス・バインダ(C12およびC13)を形成した。
【0031】
比較例C8〜C11において、バインダにメチルメタクリレート・ポリマーを添加すると、8パスカルを超える所望のレベルの降伏応力が提供された。しかしながら、これらの比較例の粘度は望ましくなく高かった。
【0032】
比較例C12およびC13における多成分ワックス・バインダの使用は、C1〜C5における基礎的ワックス・バインダの比較例よりも低い降伏応力しか得られなかった。また、Polywax 700 もテストされたが、結果は同様であった。
【0033】
本発明の方法による有用な材料に関して、84.05%のガラス微粒子、4.8%の紫外線硬化性樹脂、および0.05重量%の光重合剤(Irgacure 1800,チューリヒ所在のCiba Specialty Chemicals 社製)とともに、11.8重量%のワックスMK 4462(フランス、CERDEC社)を用いて実験が行なわれた。テストされたUV樹脂は、Rahn 01-554 および01-514(チューリヒ所在のRahn AG 社製)および Sartomer CN2270,CN2271 およびCN9001(米国ペンシルヴェニア州エクストン所在のSartomer 社製)を含む。離型された構造体は、Fusion F450 ユニット(Spectris 公開有限責任会社の一員である英国サリー州所在のFusion UV Systems 社製)内の「D」バルブおよびコンベアを用いて、2J/cmの照射量をもって紫外線を照射された。
【表1】

【0034】
脂肪族ウレタン・アクリレートであるSartomer CN9001 はワックスと相性が悪いことが判明した。ポリエステル・アクリレートである Rahn 01-514 は、工程中に用いたときに望ましくない量のVOCsの放出が見られることが判明した。特殊樹脂である Rahn 01-544 は、種々の工程において有用であるが、上記混合物がシリコーンを主成分とする型を膨らますのが見られたので、シリコーン型を用いる用途に関しては、最も好ましいというものではない。ポリエステル・アクリレートである Sartomer CN2270 は、混合比を変えることによって、または他の手段によって、粘度を高めることができる可能性はあるが、望ましくない低粘度となることが判明した。別のポリエステル・アクリレートである、
Sartomer CN2271 は許容し得る粘性を有し、しかも上記混合物および、ワックス熱可塑性バインダを用いた、すなわち、MX 4462 とさらにC-18(1−オクタデカノール)を用いた、ならびにシリコーン型またはシリコーンを主成分とする型を用いた工程とも相性が良いことが判明したので、現在では最も好ましい。
【0035】
本発明の実施例I1〜I5に関する具体的な実験的混合物の調製は下記の通りである。すなわち、(1)混合物の総バッチ重量200グラムに適切な量のUVバインダおよびワックス・バインダと、UVバインダの1%の光重合剤を秤量し、(2)予め100℃に熱せられた1.5リットルの遊星形ミキサ(米国ニューヨーク州 Hauppauge所在の chzrles Ross and Son 社製)にワックス・バインダおよびUVバインダを加え、低速設定において5分間混合し、(3)100℃に予熱されたガラス・フリットを混合物に加え、高速設定において3時間混合し、(4)紫外線に対して遮蔽をしながら紫外線遮蔽パッケージ内に混合物を詰めて、混合物を所望の粘度で保存する。
【0036】
Sartomer CN2271 を用いると、5重量%のUV樹脂/総樹脂において僅かな形状の崩れが観測されたが、これは潜在的に許容できるかまたはより多量の光重合剤を用いることによって潜在的に克服でき、したがって、5%は輻射線硬化性樹脂の低限と思われる。表1における本発明の実施例I1〜I5に示されているように、一般的な成形温度において、より低い粘度を提供するためには5〜25%の範囲が現在最も好ましいが、樹脂全体の10,15,16,30および50重量%も成功裡にテストされた。前述のように、50%を超えるUV樹脂においては、離型が困難になり、熱硬化されたが未照射の構造体の強度が望ましくなく低下する。
【0037】
図7は、上述の本発明の実施例I1〜I5に対応する材料とともに上述の本発明の方法を用いて形成されたた、バインダ除去後の四角形稜線のデジタル写真である。本図から明らかなように、バインダ除去後でかつ焼結以前の四角形状はなおも明確である。比較例C1〜C5におけるガラス・ワックス混合物に関しては、バインダ除去の以前および以後において、かつ本発明の実施例I1〜I5に関しては、離型の照射および未照射の双方において、図7のリブのような立ち上がった形態の高さ(μm)が測定された。その結果が図8のグラフに示されている。前後における高さはμmで表されており、ガラス・ワックス混合物202、未照射のUV樹脂を含む混合物204、および照射後のUV樹脂を含む混合物206に関して、バインダ除去の前後における高さがμmで表されている。このグラフから明らかなように、紫外線により誘起された架橋は、バインダ除去ステップを経た後であってさえ、構造体の形状保持において強力な効果を発揮する。たとえバインダ除去時におけるさらなる架橋により一時的に強化されたものであっても、この効果が維持されていることが、同じ混合物から形成された3個の構造体、すなわち、UV樹脂を含まないガラス・ワックス(菱形)、照射されていないガラス・ワックス・UV樹脂(四角形)および工程中で照射されたガラス・ワックス・UV樹脂(三角形)に関し、摂氏温度の関数として計測された降伏応力(パスカル)を示す図9のグラフによって示されている。これらの結果から、本発明の方法は、整形されたが未だ焼結されていない構造体において、70℃から120℃までの温度における100パスカルを超える降伏応力を提供し得ることも示されている。
【0038】
本発明による方法においては、低温度で溶けるワックスが望ましい熱可塑性バインダが、離型および必要な取扱いを可能にする、構造体を硬化させる機能を演ずるバインダを含む一次バインダのままである。このバインダは、冷却または構造体を冷えるままに放置するという簡単な手段によって、容易に制御されたかつ完全な硬化状態になる。上記熱可塑性バインダ、特に低温度で溶けるワックスは、バインダ除去時における良好な流動性および滑性を有する。これはクラック発生および一次バインダとして深く架橋されたポリマーに発生し勝ちな問題を最少にする。十分な量の、UV樹脂が望ましい、輻射線硬化性樹脂は、熱硬化性ファミリに属する流動性改質剤として作用し、したがって、図9に示された結果によって示唆されているように、ワックスを含むバインダの除去温度範囲までの、およびその温度範囲を超える可能性のある温度においてさえも再溶融することなく効果的な流動性改質剤のままであり続ける。
【0039】
本発明の精神および範囲から離れることなしに、本発明に対して種々の変形、変更が可能なことは、当業者には明らかであろう。したがって本発明は、添付の請求項およびそれらの均等物の範囲内で提供される本発明の変形、変更をカバーすることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
20,20A 混合物
22 型
22A,22B 型半体
24,24A 基板
26,32 構造体
28 開口溝
30 輻射線
34 覆われた溝
50 最終的な構造体(構造化され焼結された物品)
100 フローチャート
102〜112 ステップ
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化され焼結された物品の形成方法において、該方法は、
焼結可能な微粒子材料とバインダとを含む混合物を提供するステップであって、前記バインダは、少なくとも50重量%の熱可塑性バインダ材料を該バインダの総樹脂含有量の関数として含むものであるステップ、
前記混合物を、構造体を形成するように型を用いて整形するステップ、
前記構造体を冷却することによって、または該構造体が冷えるままに放置することによって、該構造体を硬化させるステップ、
前記構造体を離型させるステップ、および
構造化され焼結された物品を形成するように、前記構造体のバインダを除去しかつ焼結させるステップ、
を含み、
前記バインダはさらに輻射線硬化性バインダ材料を含み、前記方法は、前記構造体を離型させるステップの後に、前記輻射線硬化性バインダ材料が少なくとも或る程度硬化するように、前記構造体に輻射線を照射するステップをさらに含むことを特徴とする、構造化され焼結された物品の形成方法。
【請求項2】
前記整形ステップは、1本または複数本の開口溝を有する構造体を形成するように、型を用いて前記混合物を成形することをさらに含み、前記バインダの除去および焼結ステップは、内部に形成された溝を有する構造化され焼結された構造体を形成するように、少なくとも1個の追加の構造体を、前記溝を覆うまたは取り囲むように一体に接触させた状態で焼結させることをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の構造化され焼結された物品の形成方法。
【請求項3】
前記輻射線照射ステップは、前記混合物の降伏応力が100℃の温度において少なくとも8パスカルとなるように、前記構造体を十分に照射することをさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記輻射線照射ステップは、前記混合物の降伏応力が70〜120℃の範囲内の温度において少なくとも100パスカルとなるように、前記構造体を十分に照射することを含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記バインダは、60〜90重量%の範囲内の熱可塑性バインダ材料と、5〜25重量%の範囲内の輻射線硬化性バインダ材料とを含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
前記混合物を提供するステップは、75℃における2.36/秒のせん断速度において25〜50パスカル秒の範囲内の粘度を有する混合物を提供することを含むことを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
前記熱可塑性バインダ材料が、一種類または複数種類の炭化水素ワックス、蝋質アルコール、またはそれらの混合物と、アクリル酸ポリエステルを含む、輻射線硬化性バインダ材料とを含むことを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
前記混合物の整形ステップが、シリコーンを含有する型内で前記混合物を成形することを含むことを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
前記微粒子材料が、ガラス、セラミックおよびガラスセラミックのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
前記微粒子材料がガラスを含むことを特徴とする請求項9記載の方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−500499(P2011−500499A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529957(P2010−529957)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/011902
【国際公開番号】WO2009/051814
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】