構造物における接合部のずれ防止方法とずれ防止部材、および構造物における接合部の構造
【課題】本発明は、杭と柱等における接合部のずれ防止方法に関し、地震等による繰り返しの荷重を受けたときにずれが生じることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材1を形成し、前記ずれ防止部材1を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させる、構造物における接合部のずれ防止方法とするものである。
【解決手段】構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材1を形成し、前記ずれ防止部材1を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させる、構造物における接合部のずれ防止方法とするものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物における杭頭接合部や柱・梁接合部などの接合部のずれ防止方法と、それに使用されるずれ防止部材と、そのような構造物における接合部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、杭頭部の接合構造としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1には、杭と鋼管柱等の柱脚との内部に軸方向に伸びる棒状金物を配置して、所定以上の曲げモーメントが作用した場合、前記棒状金物の抜け出しによって杭頭接合部が半固定の状態となり、杭頭部の曲げモーメントを低減し、杭頭接合部を安価な構造とするものが記載されている。また、特許文献2に記載のように、接合部の補強筒体と杭頭部との接触部である応力集中部分に損傷が生じないように、隙間を設けるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256368号公報
【特許文献2】特開2005−290801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献1記載の発明では、鋼管柱や鉄骨柱における接合部において、柱中央部に位置する前記棒状金物により杭頭部の曲げモーメントを低減してその損傷は防止できる、また、文献2記載の発明では、補強筒体による杭頭部への応力伝達を少なくできる。しかしながら、図12に示すように、通常の鉄筋コンクリート柱の場合、柱の周囲に配置される主筋においては、地震時に繰り返し荷重を受けて、柱11に転倒モーメントによって接合部が剥離し浮き上がりが生じると、引張側の主筋12およびダボ筋13に引張による塑性伸びが生じる。(前記接合部が剥離したとき圧縮側の摩擦抵抗が不足すると、図13に示すように、荷重方向にずれが生じる。)
【0005】
このとき、繰り返しで逆方向の載荷を受けて浮き上がり側が圧縮側に転じると、圧縮側となる前記主筋12は容易に座屈し、ずれ防止には有効ではない。また、前記ダボ筋13は引張側の主筋が降伏する時点での中立軸位置に配置されていないため、接合部が剥離し引張を受けたときに鉄筋が降伏し塑性伸びを生じる。
【0006】
また、図14に示すように、杭頭接合部において、地震時に転倒モーメントで引張を受ける外周杭では浮き上がりが生じ接合部が剥離する。このとき鉄筋が伸びた状態で繰り返し逆方向の載荷を受けると、浮き上がり側が圧縮側に転じるときにずれが生じ、圧縮側となる主筋の座屈やそれに伴うかぶりコンクリートの剥離が生じる。更に、図15に示すように、耐震壁においても、大地震時には主筋が伸び降伏して足もとが浮き上がる。降伏すると残留歪みが残りそれが蓄積して、ずれが生じやすくなる。このように、繰り返し荷重を受ける接合部には、ずれが生じるおそれがあるという課題がある。本発明に係る接合部のずれ防止方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る構造物における接合部のずれ防止方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材を形成し、前記ずれ防止部材を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させることである。
また、前記ずれ防止部材は、構造物における片方の部材から他方の部材に対称にして一対毎に配置されるものであることを含むものである。
【0008】
本発明に係るずれ防止部材の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、 構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでなる部材であることである。
【0009】
本発明に係る構造物における接合部の構造の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、構造物における柱脚部の接合部,杭頭接合部,柱・梁接合部,耐震壁脚部の接合部のいずれかの接合部において、上記に記載のずれ防止部材により接合されている接合部を有することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構造物における接合部のずれ防止方法によれば、図1に示すように、地震による繰り返し荷重を受けた場合、柱11の中立軸a(引張側の主筋が降伏する時点での中立軸)の位置にずれ防止部材1の端部1aが一方の部材の圧縮側である床15に固定されて定着されているので、このずれ防止部材1の本体部1cに塑性伸びが発生しない。また、他方の部材の引張側である柱11に、前記ずれ防止部材1の端部1bが定着されている。
【0011】
そして、前記柱11が図1に示す状態から反対側に揺れ戻ったときに、伸びていない前記ずれ防止部材1の本体部1cが、この柱11の水平方向のずれを防止する。更に、図2に示すように、ずれ防止部材1を反対側にも備えることで、一方向における柱11の水平方向のずれを防止できるようになる。このようなずれ防止部材1の作用により、柱等の水平方向のずれが防止されると言う優れた効果を奏するものである。
【0012】
また、ずれ防止部材を一対毎に配置することで、一方向における水平方向のずれを防止することができる。
【0013】
本発明に係る構造物における接合部の構造によれば、ずれ防止部材により外力による接合部のずれを防止した構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】0 本発明に係る柱脚接合部のずれ防止方法を概略的に示す正面図(A)と平面図(B)説明図とである。
【図2】同本発明の接合部のずれ防止方法の一部拡大詳細説明図である。
【図3】同本発明の接合部のずれ防止方法におけるずれ防止部材1の配置の様子を示す正面図(A)とA−A線に沿った平断面図(B)とである。
【図4−A】同本発明の接合部のずれ防止方法における、平鋼板のずれ防止部材3の配置の様子を示す正面図(A)と、B−B線に沿った平断面図(B)とである。
【図4−B】同本発明のずれ防止部材を、杭頭接合部にて基礎梁フーチングに接続して配置する例を示す斜視図である。
【図4−C】同本発明のずれ防止部材1を直交させて複数の対で配置した例を示す正面図(A)と、平断面図である。
【図4−D】同本発明のずれ防止部材1を直交させて複数の対で配置した例を示す正面図(A)と、平断面図(B)とである。
【図5】柱脚接合部に平鋼板のずれ防止部材3を使用した実施例の正面図(A)と、C−C線に沿った平断面図(B)とである。
【図6】杭頭接合部において、ずれ防止部材1を配置する他の実施例を示す正面図(A)と平断面図(B)とである。
【図7】同ずれ防止部材1を杭接合部に使用した場合の、地震時の浮き上がりを示す説明図である。
【図8】同ずれ防止部材1を柱脚接合部に使用した場合の、接合部のずれとずれ防止部材1の抵抗機構を示す説明図(A),(B)である。
【図9】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、柱・梁の接合部分に適用した場合の正面図(A)と、梁4の断面図(B)である。
【図10】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、柱・梁に囲まれた耐震壁の接合部分に適用した場合の正面図(A)と、D−D線に沿った断面図(B)とである。
【図11】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、鉄骨柱に適用した場合の平面図(A)と縦断面図(B)とである。
【図12】従来例に係る柱脚接合部における柱11のずれの発生する様子を説明する説明図である。
【図13】同従来例に係る柱脚接合部のずれが生じる様子を説明する一部拡大説明図である。
【図14】同従来例において、基礎回転系による杭頭接合部のずれを説明する説明図である。
【図15】同従来例における耐震壁の変形による足もとの浮き上がり状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る構造物における接合部のずれ防止方法における技術的思想は、図1に示すように、繰り返しの荷重に対して塑性伸び(塑性ひずみ)を生じないずれ防止部材1を、引張側の主筋が降伏する時点での中立軸aに対して該中立軸aを跨って定着するように配置することであり、具体的には、当該ずれ防止部材1を接合部の境界面に沿って且つ境界面に略平行にして、前記中立軸aに跨って配置することである。
【0016】
図1に示す柱脚接合部において、柱11の中立軸aの位置に、ずれ防止部材1の一端1aを定着させ、本体部1cを圧縮側から引張側に境界面に沿って、前記中立軸aに跨って配置し、他端1bを引張側(浮き上がり側)に定着させる。このようにすることで、前記ずれ防止部材1により、図2に示すように、地震時における繰り返しの荷重による柱11の水平方向のずれに対して、効果的に抵抗するものである。
【0017】
本発明に係るずれ防止部材1は、図1に示すように、構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端(端部1a)と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部1cと、前記他方の部材に定着する他端(端部1b)とでなる部材である。本発明に係る構造物の接合構造は、接合部に上記ずれ防止部材1を設けるようにするものである。
【実施例1】
【0018】
本発明の接合部のずれ防止方法を実施するには、図3(A),(B)に示すように、ずれ防止部材1を、フーチング11aと杭14の部材による杭頭接合部において、前記一方の部材の圧縮側、例えば杭14の圧縮側と、前記他方の部材の引張側、例えばフーチング11aの引張側に本体部1cが跨って、両端部1a,1bを固定して配置する。このずれ防止部材1は、同方向に一対毎で対称に併設する。図3(B)では2対のずれ防止部材1を配置している。
【0019】
前記ずれ防止部材1は、鉄筋,平鋼板若しくは炭素繊維等である。杭頭接合部のずれ防止部材1の配置例として、図4−A(A),(B)に、平鋼板によるずれ防止部材3の実施例を示す。同じく、図4−C、図4−Dに示すように、他の配置例とすることもできる。また、図5(A),(B)は、柱脚接合部において前記ずれ防止部材3を配置した実施例を示している。更に、図6に示すように、ずれ防止部材1を、フーチング11aに配置させるばかりでなく、フーチング11aおよび基礎梁11bに亘って配置するようにすることもできる。
【0020】
前記ずれ防止部材1の施工に際しては、例えば、杭頭接合部の場合には、図3に示すように、杭14の鉄筋籠を配置するときに一緒にずれ防止部材1,1を配置し、コンクリートを打設して、余盛り部を斫り処理等で除去し、その上に基礎梁・柱11等の配置をしてコンクリートを打設するものである。他の接合部における施工も、ずれ防止部材1を配置して型枠を組立て、その型枠内にコンクリートを打設して構築するものである。
【実施例2】
【0021】
前記ずれ防止部材1は、必ず片方の部材の圧縮側と他方の部材の引張側とに跨って、即ち中立軸を跨いで配置されるものであるので、図3乃至図4−Dに示すように、接合部における中立軸中心点b若しくは中立軸中心点bの近傍を通って配置されるのが好ましい。少ない配置で、柱11などの水平方向のずれを効率的に防止することができるからである。ずれ防止部材1を少なく配置することは、コンクリートをトレミー管で杭用型枠に打設するときに、打設の邪魔にならないようにする点で有利である。
【実施例3】
【0022】
このようなずれ防止部材1を、図7乃至図8に示すように、杭頭接合部に適用することで、地震時に転倒モーメントによって引張を受ける外周杭では浮き上がり(δ)が生じて、接合部が剥離するような場合でも、図8に示すように、ずれ防止部材1の引張力と圧縮力および定着部の支圧で抵抗し、逆方向の載荷を受けたときのずれを防止できる。こうして、浮き上がり側が圧縮側に転じたときの、主筋12の座屈やそれに伴うかぶりコンクリートの剥離を防止する。
【0023】
前記杭頭接合部において、接合部にずれが生じると繰り返しで逆方向に載荷を受け、浮き上がり側が圧縮に転じると、圧縮側となる主筋12が容易に座屈してしまう。それを、ずれ防止部材1が、定着部の支圧効果と、ずれ防止部材1の引張と圧縮の抵抗とで防止するようになる。
【実施例4】
【0024】
本発明のずれ防止部材1によるずれ防止方法は、図9(A),(B)に示すように、柱11・梁4の接合部においても上記と同様にして採用することができる。前記ずれ防止部材1は、パネルゾーンにおいて直交する梁主筋5に端部1aを巻つけるようにする。この配置方法は、梁4をプレキャストコンクリートにしても良い。
【0025】
このほか、耐震壁の場合にも、ずれ防止方法を適用することができる。それには、図10に示すように、耐震壁7と基礎梁11bとの接合部に、ずれ防止部材1を一対で、配置するものである。これにより、地震時の繰り返しの揺れによる耐震壁7のずれを防止するものである。
【実施例5】
【0026】
更に、図11に示すように、鉄骨の柱脚にも適用できる。例えば、鉄骨構造の露出型柱脚部において、H型鋼,ボックス柱や鋼管柱等の鉄骨柱8が設置される位置に、ずれ防止部材1を埋め込む。そして、ベースプレート9下に高さ調節用モルタル(まんじゅう)を設置して、鉄骨柱8を建方する。アンカーボルト10で柱脚部を固定する。前記ずれ防止部材1の端部1bを前記ベースプレート9の側面に溶接して固定する。前記ベースプレート9下に無収縮モルタルを充填する。このようにして、ずれ防止部材1により鉄骨柱8に転倒モーメントが加わっても、上記実施例と同様にずれを防止できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る接合部のずれ防止方法は、効率的に接合部のずれを防止できるものであり、建物における繰り返し転倒モーメントが加わるような接合部に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ずれ防止部材、 1a 端部、
1b 端部、 1c 本体部、
3 ずれ防止部材(平鋼板)、
4 梁、
5 梁主筋、
6 スターラップ、
7 耐震壁、
8 鉄骨柱、
9 ベースプレート、
10 アンカーボルト、
11 柱、 11a フーチング、
11b 基礎梁、
12 主筋、 12a フープ筋、
13 ダボ筋、
14 杭、
15 スラブ、
a,b 中立軸。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物における杭頭接合部や柱・梁接合部などの接合部のずれ防止方法と、それに使用されるずれ防止部材と、そのような構造物における接合部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、杭頭部の接合構造としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1には、杭と鋼管柱等の柱脚との内部に軸方向に伸びる棒状金物を配置して、所定以上の曲げモーメントが作用した場合、前記棒状金物の抜け出しによって杭頭接合部が半固定の状態となり、杭頭部の曲げモーメントを低減し、杭頭接合部を安価な構造とするものが記載されている。また、特許文献2に記載のように、接合部の補強筒体と杭頭部との接触部である応力集中部分に損傷が生じないように、隙間を設けるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256368号公報
【特許文献2】特開2005−290801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献1記載の発明では、鋼管柱や鉄骨柱における接合部において、柱中央部に位置する前記棒状金物により杭頭部の曲げモーメントを低減してその損傷は防止できる、また、文献2記載の発明では、補強筒体による杭頭部への応力伝達を少なくできる。しかしながら、図12に示すように、通常の鉄筋コンクリート柱の場合、柱の周囲に配置される主筋においては、地震時に繰り返し荷重を受けて、柱11に転倒モーメントによって接合部が剥離し浮き上がりが生じると、引張側の主筋12およびダボ筋13に引張による塑性伸びが生じる。(前記接合部が剥離したとき圧縮側の摩擦抵抗が不足すると、図13に示すように、荷重方向にずれが生じる。)
【0005】
このとき、繰り返しで逆方向の載荷を受けて浮き上がり側が圧縮側に転じると、圧縮側となる前記主筋12は容易に座屈し、ずれ防止には有効ではない。また、前記ダボ筋13は引張側の主筋が降伏する時点での中立軸位置に配置されていないため、接合部が剥離し引張を受けたときに鉄筋が降伏し塑性伸びを生じる。
【0006】
また、図14に示すように、杭頭接合部において、地震時に転倒モーメントで引張を受ける外周杭では浮き上がりが生じ接合部が剥離する。このとき鉄筋が伸びた状態で繰り返し逆方向の載荷を受けると、浮き上がり側が圧縮側に転じるときにずれが生じ、圧縮側となる主筋の座屈やそれに伴うかぶりコンクリートの剥離が生じる。更に、図15に示すように、耐震壁においても、大地震時には主筋が伸び降伏して足もとが浮き上がる。降伏すると残留歪みが残りそれが蓄積して、ずれが生じやすくなる。このように、繰り返し荷重を受ける接合部には、ずれが生じるおそれがあるという課題がある。本発明に係る接合部のずれ防止方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る構造物における接合部のずれ防止方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材を形成し、前記ずれ防止部材を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させることである。
また、前記ずれ防止部材は、構造物における片方の部材から他方の部材に対称にして一対毎に配置されるものであることを含むものである。
【0008】
本発明に係るずれ防止部材の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、 構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでなる部材であることである。
【0009】
本発明に係る構造物における接合部の構造の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、構造物における柱脚部の接合部,杭頭接合部,柱・梁接合部,耐震壁脚部の接合部のいずれかの接合部において、上記に記載のずれ防止部材により接合されている接合部を有することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構造物における接合部のずれ防止方法によれば、図1に示すように、地震による繰り返し荷重を受けた場合、柱11の中立軸a(引張側の主筋が降伏する時点での中立軸)の位置にずれ防止部材1の端部1aが一方の部材の圧縮側である床15に固定されて定着されているので、このずれ防止部材1の本体部1cに塑性伸びが発生しない。また、他方の部材の引張側である柱11に、前記ずれ防止部材1の端部1bが定着されている。
【0011】
そして、前記柱11が図1に示す状態から反対側に揺れ戻ったときに、伸びていない前記ずれ防止部材1の本体部1cが、この柱11の水平方向のずれを防止する。更に、図2に示すように、ずれ防止部材1を反対側にも備えることで、一方向における柱11の水平方向のずれを防止できるようになる。このようなずれ防止部材1の作用により、柱等の水平方向のずれが防止されると言う優れた効果を奏するものである。
【0012】
また、ずれ防止部材を一対毎に配置することで、一方向における水平方向のずれを防止することができる。
【0013】
本発明に係る構造物における接合部の構造によれば、ずれ防止部材により外力による接合部のずれを防止した構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】0 本発明に係る柱脚接合部のずれ防止方法を概略的に示す正面図(A)と平面図(B)説明図とである。
【図2】同本発明の接合部のずれ防止方法の一部拡大詳細説明図である。
【図3】同本発明の接合部のずれ防止方法におけるずれ防止部材1の配置の様子を示す正面図(A)とA−A線に沿った平断面図(B)とである。
【図4−A】同本発明の接合部のずれ防止方法における、平鋼板のずれ防止部材3の配置の様子を示す正面図(A)と、B−B線に沿った平断面図(B)とである。
【図4−B】同本発明のずれ防止部材を、杭頭接合部にて基礎梁フーチングに接続して配置する例を示す斜視図である。
【図4−C】同本発明のずれ防止部材1を直交させて複数の対で配置した例を示す正面図(A)と、平断面図である。
【図4−D】同本発明のずれ防止部材1を直交させて複数の対で配置した例を示す正面図(A)と、平断面図(B)とである。
【図5】柱脚接合部に平鋼板のずれ防止部材3を使用した実施例の正面図(A)と、C−C線に沿った平断面図(B)とである。
【図6】杭頭接合部において、ずれ防止部材1を配置する他の実施例を示す正面図(A)と平断面図(B)とである。
【図7】同ずれ防止部材1を杭接合部に使用した場合の、地震時の浮き上がりを示す説明図である。
【図8】同ずれ防止部材1を柱脚接合部に使用した場合の、接合部のずれとずれ防止部材1の抵抗機構を示す説明図(A),(B)である。
【図9】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、柱・梁の接合部分に適用した場合の正面図(A)と、梁4の断面図(B)である。
【図10】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、柱・梁に囲まれた耐震壁の接合部分に適用した場合の正面図(A)と、D−D線に沿った断面図(B)とである。
【図11】本発明に係る接合部のずれ防止方法を、鉄骨柱に適用した場合の平面図(A)と縦断面図(B)とである。
【図12】従来例に係る柱脚接合部における柱11のずれの発生する様子を説明する説明図である。
【図13】同従来例に係る柱脚接合部のずれが生じる様子を説明する一部拡大説明図である。
【図14】同従来例において、基礎回転系による杭頭接合部のずれを説明する説明図である。
【図15】同従来例における耐震壁の変形による足もとの浮き上がり状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る構造物における接合部のずれ防止方法における技術的思想は、図1に示すように、繰り返しの荷重に対して塑性伸び(塑性ひずみ)を生じないずれ防止部材1を、引張側の主筋が降伏する時点での中立軸aに対して該中立軸aを跨って定着するように配置することであり、具体的には、当該ずれ防止部材1を接合部の境界面に沿って且つ境界面に略平行にして、前記中立軸aに跨って配置することである。
【0016】
図1に示す柱脚接合部において、柱11の中立軸aの位置に、ずれ防止部材1の一端1aを定着させ、本体部1cを圧縮側から引張側に境界面に沿って、前記中立軸aに跨って配置し、他端1bを引張側(浮き上がり側)に定着させる。このようにすることで、前記ずれ防止部材1により、図2に示すように、地震時における繰り返しの荷重による柱11の水平方向のずれに対して、効果的に抵抗するものである。
【0017】
本発明に係るずれ防止部材1は、図1に示すように、構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端(端部1a)と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部1cと、前記他方の部材に定着する他端(端部1b)とでなる部材である。本発明に係る構造物の接合構造は、接合部に上記ずれ防止部材1を設けるようにするものである。
【実施例1】
【0018】
本発明の接合部のずれ防止方法を実施するには、図3(A),(B)に示すように、ずれ防止部材1を、フーチング11aと杭14の部材による杭頭接合部において、前記一方の部材の圧縮側、例えば杭14の圧縮側と、前記他方の部材の引張側、例えばフーチング11aの引張側に本体部1cが跨って、両端部1a,1bを固定して配置する。このずれ防止部材1は、同方向に一対毎で対称に併設する。図3(B)では2対のずれ防止部材1を配置している。
【0019】
前記ずれ防止部材1は、鉄筋,平鋼板若しくは炭素繊維等である。杭頭接合部のずれ防止部材1の配置例として、図4−A(A),(B)に、平鋼板によるずれ防止部材3の実施例を示す。同じく、図4−C、図4−Dに示すように、他の配置例とすることもできる。また、図5(A),(B)は、柱脚接合部において前記ずれ防止部材3を配置した実施例を示している。更に、図6に示すように、ずれ防止部材1を、フーチング11aに配置させるばかりでなく、フーチング11aおよび基礎梁11bに亘って配置するようにすることもできる。
【0020】
前記ずれ防止部材1の施工に際しては、例えば、杭頭接合部の場合には、図3に示すように、杭14の鉄筋籠を配置するときに一緒にずれ防止部材1,1を配置し、コンクリートを打設して、余盛り部を斫り処理等で除去し、その上に基礎梁・柱11等の配置をしてコンクリートを打設するものである。他の接合部における施工も、ずれ防止部材1を配置して型枠を組立て、その型枠内にコンクリートを打設して構築するものである。
【実施例2】
【0021】
前記ずれ防止部材1は、必ず片方の部材の圧縮側と他方の部材の引張側とに跨って、即ち中立軸を跨いで配置されるものであるので、図3乃至図4−Dに示すように、接合部における中立軸中心点b若しくは中立軸中心点bの近傍を通って配置されるのが好ましい。少ない配置で、柱11などの水平方向のずれを効率的に防止することができるからである。ずれ防止部材1を少なく配置することは、コンクリートをトレミー管で杭用型枠に打設するときに、打設の邪魔にならないようにする点で有利である。
【実施例3】
【0022】
このようなずれ防止部材1を、図7乃至図8に示すように、杭頭接合部に適用することで、地震時に転倒モーメントによって引張を受ける外周杭では浮き上がり(δ)が生じて、接合部が剥離するような場合でも、図8に示すように、ずれ防止部材1の引張力と圧縮力および定着部の支圧で抵抗し、逆方向の載荷を受けたときのずれを防止できる。こうして、浮き上がり側が圧縮側に転じたときの、主筋12の座屈やそれに伴うかぶりコンクリートの剥離を防止する。
【0023】
前記杭頭接合部において、接合部にずれが生じると繰り返しで逆方向に載荷を受け、浮き上がり側が圧縮に転じると、圧縮側となる主筋12が容易に座屈してしまう。それを、ずれ防止部材1が、定着部の支圧効果と、ずれ防止部材1の引張と圧縮の抵抗とで防止するようになる。
【実施例4】
【0024】
本発明のずれ防止部材1によるずれ防止方法は、図9(A),(B)に示すように、柱11・梁4の接合部においても上記と同様にして採用することができる。前記ずれ防止部材1は、パネルゾーンにおいて直交する梁主筋5に端部1aを巻つけるようにする。この配置方法は、梁4をプレキャストコンクリートにしても良い。
【0025】
このほか、耐震壁の場合にも、ずれ防止方法を適用することができる。それには、図10に示すように、耐震壁7と基礎梁11bとの接合部に、ずれ防止部材1を一対で、配置するものである。これにより、地震時の繰り返しの揺れによる耐震壁7のずれを防止するものである。
【実施例5】
【0026】
更に、図11に示すように、鉄骨の柱脚にも適用できる。例えば、鉄骨構造の露出型柱脚部において、H型鋼,ボックス柱や鋼管柱等の鉄骨柱8が設置される位置に、ずれ防止部材1を埋め込む。そして、ベースプレート9下に高さ調節用モルタル(まんじゅう)を設置して、鉄骨柱8を建方する。アンカーボルト10で柱脚部を固定する。前記ずれ防止部材1の端部1bを前記ベースプレート9の側面に溶接して固定する。前記ベースプレート9下に無収縮モルタルを充填する。このようにして、ずれ防止部材1により鉄骨柱8に転倒モーメントが加わっても、上記実施例と同様にずれを防止できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る接合部のずれ防止方法は、効率的に接合部のずれを防止できるものであり、建物における繰り返し転倒モーメントが加わるような接合部に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ずれ防止部材、 1a 端部、
1b 端部、 1c 本体部、
3 ずれ防止部材(平鋼板)、
4 梁、
5 梁主筋、
6 スターラップ、
7 耐震壁、
8 鉄骨柱、
9 ベースプレート、
10 アンカーボルト、
11 柱、 11a フーチング、
11b 基礎梁、
12 主筋、 12a フープ筋、
13 ダボ筋、
14 杭、
15 スラブ、
a,b 中立軸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材を形成し、
前記ずれ防止部材を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させること、
を特徴とする構造物における接合部のずれ防止方法。
【請求項2】
ずれ防止部材は、構造物における片方の部材から他方の部材に対称にして一対毎に配置されるものであること、
を特徴とする請求項1に記載の接合部のずれ防止方法。
【請求項3】
構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでなる部材であること、
を特徴とするずれ防止部材。
【請求項4】
構造物における柱脚部の接合部,杭頭接合部,柱・梁接合部,耐震壁脚部の接合部のいずれかの接合部において、請求項3に記載のずれ防止部材により接合されている接合部を有すること、
を特徴とする構造物における接合部の構造。
【請求項1】
構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ前記境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでずれ防止部材を形成し、
前記ずれ防止部材を、構造物の片方の部材と他方の部材との定着部において当該ずれ防止部材の一端を片方の部材に定着し、本体部を境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置し、該本体部の他端を他方の部材に定着させること、
を特徴とする構造物における接合部のずれ防止方法。
【請求項2】
ずれ防止部材は、構造物における片方の部材から他方の部材に対称にして一対毎に配置されるものであること、
を特徴とする請求項1に記載の接合部のずれ防止方法。
【請求項3】
構造物の片方の部材と他方との部材とにおける接合部に定着されるものであって、前記片方の部材に定着される一端と、前記接合部における境界面に沿って且つ該境界面に略平行に配置される本体部と、前記他方の部材に定着する他端とでなる部材であること、
を特徴とするずれ防止部材。
【請求項4】
構造物における柱脚部の接合部,杭頭接合部,柱・梁接合部,耐震壁脚部の接合部のいずれかの接合部において、請求項3に記載のずれ防止部材により接合されている接合部を有すること、
を特徴とする構造物における接合部の構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4−A】
【図4−B】
【図4−C】
【図4−D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4−A】
【図4−B】
【図4−C】
【図4−D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−122371(P2011−122371A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281491(P2009−281491)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(501200837)
【出願人】(504306002)独立行政法人都市再生機構 (8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(501200837)
【出願人】(504306002)独立行政法人都市再生機構 (8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]