説明

構造物用空調装置

【課題】冷却用の液体を有効に使用することができる構造物用空調装置を得る。
【解決手段】構造物用空調装置としての車両用空調システム10は、ウォッシャポンプ25を作動することで内部に車室Rを有する自動車SのフロントピラーPに洗浄液を供給するウォッシャ装置24と、ウォッシャタンク22に貯留されフロントピラーPに供給される前の洗浄液の温度Twに基づいてウォッシャ装置24の作動を制御する空調ECU52とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に適用される構造物用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水槽からの水を自動車の屋根に供給して該屋根を満遍なく濡らし、この水の蒸発潜熱を屋根から奪うことで該屋根を冷却する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−83230号公報
【特許文献2】特開2002−267307号公報
【特許文献3】特開平6−159886号公報
【特許文献4】特開2003−127652号公報
【特許文献5】特開平4−56660号公報
【特許文献6】特開2005−178585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の技術では、屋根に供給する水の温度が高い場合には屋根の冷却効果が小さいが、このような場合にも屋根への給水が続けられると、冷却効果との関係で水槽の水が無駄に消費されることが懸念される。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、冷却用の液体を有効に使用することができる構造物用空調装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る構造物用空調装置は、作動することで、内部に空間を有する構造物に液体を供給する冷却装置と、前記構造物に供給される前の前記液体の温度に基づいて、前記冷却装置の作動を制御する制御装置と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の構造物用空調装置では、制御装置は、例えば液体の温度が基準温度に対し所定温度以上低い等の所定の場合に、冷却装置を作動して構造物における内部空間を囲む外壁部分(例えば、外壁内部や外表面等)に液体を供給させる。これにより構造物の外壁部分が冷却されるので、外構造物の内部空間の温度が低下し、又は温度上昇が抑制される。すなわち、空調負荷が低減される。ここで、制御装置が液体の温度に基づいて冷却装置の作動(作動可否や作動の程度)を制御するため、例えば液体温度が高い場合等の冷却効果が小さい場合に冷却装置の作動を禁止することができ、冷却用の液体が無駄に消費されることが防止される。
【0007】
このように、請求項1記載の構造物用空調装置では、冷却用の液体を有効に使用することができる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る構造物用空調装置は、請求項1記載の構造物用空調装置において、前記制御装置は、前記液体の温度及び前記構造物の温度に基づいて、前記冷却装置の作動を制御する。
【0009】
請求項2記載の構造物用空調装置では、制御装置は、液体の温度及び冷却対象である構造物の温度に基づいて冷却装置の作動を制御するため、例えば、上記基準温度として構造物の温度を用いたり(冷却体と被冷却体との温度差を利用した制御等が可能としたり)、構造物の温度が低い場合などに冷却装置の作動を禁止したりすることができ、冷却用の液体を一層有効に利用することができる。
【0010】
請求項3記載の発明に係る構造物用空調装置は、請求項1又は請求項2記載の構造物用空調装置において、前記構造物は、自動車車体であり、前記冷却装置は、作動することで前記自動車車体を構成するフロントピラーの外表面に前記液体を供給する。
【0011】
請求項3記載の構造物用空調装置では、例えば夏季等に車室に熱を伝えやすいフロントピラーを冷却することで、車室が冷却され又は車室温の上昇が抑制され、車室用空調装置の負荷が軽減される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明に係る構造物用空調装置は、冷却用の液体を有効に使用することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る構造物用空調装置が適用された車両用空調システム10について図1乃至図3に基づいて説明する。なお、図2に示す矢印FRは、車両用空調システム10が適用された自動車Sの前方向(進行方向)を、矢印UPは自動車Sの上方向を、矢印Wは車幅方向をそれぞれ示すものとする。
【0014】
図1には、車両用空調システム10の概略全体構成が示されている。この図に示される車両用空調システム10は、構造物としての自動車車体の内部空間である車室Rの空調を行う装置であって、車室Rの空調を行うための車室空調部12と、該車室Rを冷却するために補助的に車室外表面を冷却する補助冷却装置14とを有して構成されている以下、具体的に説明する。
【0015】
図1に示される如く、車両用空調システム10は、車室空調部12は、図示しないヒータコアと共に空調ケース16内に配設されたエバポレータ18を備えている。エバポレータ18は、図示しないコンプレッサ、コンデンサ、膨張弁とで冷凍サイクルを構成しており、この冷凍サイクルの実行中には図示しないブロアの作動よって空調ケース16内に導入された空調用空気を冷却するようになっている。ヒータコアは、エンジン冷却水を熱源として空調用空気を加熱するものであり、車両用空調システム10(後述する空調ECU52)は、空調要求に応じて、エバポレータ18にて冷却する空気量と、ヒータコアにて加熱する空量との割合を変化させるようになっている。
【0016】
空調ケース16には、エバポレータ18によって冷却された空調用空気から凝縮した凝縮水を貯留可能な貯液凹部16Aが形成されている。貯液凹部16Aは、凝縮水ホース(チューブ)20にてウォッシャタンク22に連通している。ウォッシャタンク22は、例えばエンジンルーム内に配設されて本発明における冷却装置としてのウォッシャ装置24を構成しており、自動車のフロントウインドシールドガラスGを洗浄するための洗浄液を貯留している。この洗浄液の主成分は水であり、上記した凝縮水を利用するようになっている。すなわち、凝縮水ホース20は、貯液凹部16Aからウォッシャタンク22に向けて単調な下り勾配を有し、重力によって凝縮水を貯液凹部16Aにウォッシャタンク22に移送する移送経路を構成している。
【0017】
ウォッシャ装置24は、ウォッシャタンク22内の洗浄液を吸い込んで吐出するためのウォッシャポンプ25を備えており、ウォッシャポンプ25の吐出部はウォッシャホース27を介してウォッシャノズル26に連通している。これにより、ウォッシャ装置24では、ウォッシャポンプ25が作動すると、ウォッシャノズル26からフロントウインドシールドガラスGに向けて洗浄液が噴射されるようになっている。
【0018】
そして、車両用空調システム10の補助冷却装置14は、ウォッシャタンク22に貯留した洗浄液(エアコン凝縮水)を本発明における構造物の外表面としてのフロントピラーPの表面に噴射させるために、ウォッシャノズル26の噴射角を変化させるウォッシャノズル可動機構28を備えている。この実施形態では、ウォッシャノズル可動機構28は、車幅方向に離間して配置された一対のワイパアーム30にそれぞれ連結されたワイパブレード32によってフロントウインドシールドガラスGを払拭するためのワイパ装置34の動力を利用する構成とされている。
【0019】
先ずワイパ装置34の構造を説明する。ワイパ装置34は、ワイパモータ36が作動してクランクアーム38が回転すると、クランクアーム38の一端に連結されたコンロッド40が一方のピボットレバ44をピボット軸46廻りに揺動させ、この揺動が略直線的に車幅方向に往復動するコンロッド42にて他方のピボットレバ44に伝達されて一対のピボット軸46がそれぞれ往復回動し、これらのピボット軸46に連結されたワイパアーム30がフロントウインドシールドガラスGに沿って揺動することで、各ワイパブレード32がフロントウインドシールドガラスGを払拭するようになっている。
【0020】
そして、ウォッシャノズル可動機構28は、図3にも示される如く、ワイパモータ36の作動によって車幅方向に往復動するコンロッド42に設けたラック48と、ウォッシャノズル26に設けられラック48に噛み合う扇形状のピニオン部50とを有する。これにより、ウォッシャノズル可動機構28では、ワイパモータ36の作動によってウォッシャノズル26からの洗浄液の噴射方向を変化させることができ、かつその射程範囲に左右のフロントピラーPが含まれる構成とされている。なお、ラック48は、コンロッド42の往復動に伴う姿勢変化によってもピニオン部50との噛み合いが維持されるように、例えばコンロッド42に対し前後方向の相対変位可能に支持されると共に車幅方向に沿ったガイドによって可動方向が車幅方向に規制されている。
【0021】
また、車両用空調システム10は、後述する所定の場合にウォッシャノズル可動機構28、ウォッシャポンプ25を作動して左右のフロントピラーPに洗浄液を噴射させる制御装置としての空調ECU52を備えている。空調ECU52は、ウォッシャタンク22内の洗浄液の温度に応じた信号を出力する液温センサ54、フロントピラーPの温度に応じた信号を出力するピラー温センサ56、車室外に気温に応じた信号を出力する外気温センサ58にそれぞれ電気的に接続されている。また、空調ECU52は、ウォッシャポンプ25、ワイパモータ36に電気的に接続されており、これらの作動・停止を切り替え得る構成とされている。
【0022】
そして、空調ECU52は、液温センサ54、ピラー温センサ56の出力信号に基づいて、フロントピラーPの温度Tpが所定の下限温度(例えば60℃)以上であって、洗浄液の温度Twが所定の上限温度(例えば40℃)以下の場合に、フロントピラーPに洗浄液を噴射させるようにウォッシャノズル可動機構28、ウォッシャポンプ25を作動する構成とされている。この制御については、本実施形態の作用と共に後述する。また、空調ECU52は、車室空調部12の制御を行うようになっているが、本制御は公知の車両空調装置の制御を適用することができるので、説明を省略する。
【0023】
さらに、車両用空調システム10では、上記制御に対応して洗浄液の水温を低く保つために、ウォッシャタンク22を被覆する断熱材60を備えている。この断熱材60によって、高温のエンジンルーム内の熱が洗浄液に伝達されることが抑制される構成である。また、ウォッシャタンク22内の洗浄液は、貯液凹部16Aから供給されるエアコン凝縮水によっても冷却されるようになっている。
【0024】
次に、実施形態の作用について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0025】
上記構成の車両用空調システム10では、空調ECU52は、ステップS10で外気温センサ58の出力信号に基づいて外気温Taが28℃以上であるか否かを判断する。空調ECU52は、外気温Taが28℃未満であると判断した場合にはステップS10に戻り、外気温Taが28℃以上であると判断した場合にはステップS12に進む。ステップS12では、ピラー温センサ56の出力信号に基づいて、ピラー温Tpが60℃以上であるか否かを判断する。
【0026】
空調ECU52は、ピラー温Tpが60℃未満であると判断した場合にはステップS10に戻り、ピラー温Tpが60℃以上であると判断した場合にはステップS14に進む。ステップS14では、外気温センサ58の出力信号に基づいて、洗浄液温Twが40℃以下であるか否かを判断する。空調ECU52は、洗浄液温Twが40℃を超えると判断した場合にはステップS10に戻り、洗浄液温Twが40℃以下であると判断した場合にはステップS16に進む。ステップS16では、ピラー冷却モードを実行する。
【0027】
すなわち、ワイパモータ36を駆動してウォッシャノズル26の洗浄液噴射方向を左右何れか一方のフロントピラーPに向け、ウォッシャポンプ25を作動して上記一方のフロントピラーPに洗浄液を集中的に噴射させる。例えば噴射開始から所定時間の経過後、ワイパモータ36を駆動してウォッシャノズル26の洗浄液噴射方向を他方のフロントピラーPに向け、ウォッシャポンプ25を作動して他方のフロントピラーPに洗浄液を集中的に噴射させる。次いで(例えば他方のピラーへの噴射開始から所定時間の経過後)、空調ECU52は、ステップS10に戻り、上記した各ステップS10、S12、S14のY条件が成立している間、ステップS16に進んでピラー冷却モード実行を繰り返す。
【0028】
以上説明したように、車両用空調システム10を備えた自動車では、車室Rへ大きな熱量を入熱させる経路であるフロントピラーPが主に洗浄液との熱交換によって冷却(顕熱冷却)されるので、車室Rへの入熱が抑制される。これにより、例えば炎天下で放置されて高温となったフロントピラーPが集中的に冷却されるので、車室空調部12の熱負荷が低減され、エンジン始動後に車室空調部12の作動により車室Rを短時間で快適な温度にすることができる(冷房の効きが早くなる)。また、洗浄液の蒸発による潜熱冷却の効果も期待できる。
【0029】
ここで、車両用空調システム10では、空調ECU52が液温センサ54の信号に基づいてピラー冷却モードの実行可否を判断するため、洗浄液温が高く(40℃を超えており)顕熱冷却によるフロントピラーPの冷却効果が小さい場合に、洗浄液を噴射して無駄に消費することが防止される。特に、車両用空調システム10では、空調ECU52が、液温センサ54の出力信号に加えてピラー温センサ56の出力信号にも基づいてピラー冷却モードの実行可否を判断するため、フロントピラーPの冷却による空調負荷低減効果が小さい場合(ピラー温Tpが60℃未満の場合)に、洗浄液を噴射して無駄に消費することが防止される。
【0030】
しかも、車両用空調システム10では、空調ECU52が外気温センサ58の出力信号にも基づいてピラー冷却モードの実行可否を判断するため、フロントピラーP等の車体外板は高温になるものの車室内が高温になりにくい場合(外気温が28℃未満の場合)、すなわち上記と同様にフロントピラーPの冷却による空調負荷低減効果が小さい場合に、洗浄液を噴射して無駄に消費することが防止される。
【0031】
このように、本発明の実施形態に係る車両用空調システム10では、ウォッシャタンク22に貯留した洗浄液を冷却用途に有効(効率的)に使用することができる。
【0032】
また、車両用空調システム10では、車室空調部12の作動に伴って生じるエアコン凝縮水をウォッシャタンク22に回収するため、エアコン凝縮水を有効利用してフロントピラーPの冷却用の冷媒を確保することができる。また、ウォッシャタンク22に断熱材60を設けたため、車両走行中の洗浄液温Twの上昇が抑制される。これにより、炎天下で駐車した場合にも洗浄液温Twが40℃以下に保たれやすくなり、上記の如く車室温を短時間で低下させることが可能になる。
【0033】
さらに、車両用空調システム10では、ウォッシャノズル可動機構28を設けたため、1つのウォッシャノズル26によって左右のフロントピラーPに洗浄液を供給することができる。しかも、ワイパ装置34を構成するワイパモータ36の動力によってウォッシャノズル26の噴射方向を変化させるので、換言すれば、ワイパ装置34とウォッシャノズル可動機構28とでワイパモータ36が共用化されているので、部品点数の増加を抑えつつ1つのウォッシャノズル26によって左右のフロントピラーPに洗浄液を供給する構成が実現された。さらに、ウォッシャノズル可動機構28を設けたため、1つのウォッシャノズル26でフロントウインドシールドガラスGの広範囲に洗浄液を供給することも可能である。
【0034】
また、車両用空調システム10では、フロントウインドシールドガラスGに洗浄液を噴射するためのウォッシャ装置24を冷却装置として用いるため、左右のフロントピラーPに液体を供給するための専用の冷却装置を設ける必要がなく、構造が簡単である。
【0035】
なお、上記実施形態では、外気温センサ58の出力信号を利用する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、外気温センサ58を備えない構成としても良い。
【0036】
また、上記実施形態では、空調ECU52がピラー温Tp、洗浄液温Twのそれぞれの閾値に基づいてピラー冷却モードの実行可否を判断する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ピラー温Tpと洗浄液温Twとの温度差が所定の温度差以上である場合にピラー冷却モードを実行する制御としても良い。
【0037】
さらに、上記実施形態では、本発明の構造物用空調装置が自動車に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、鉄道や船舶等の乗物、ビルなどの建築物などに本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用空調システムの全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用空調システムを構成する空調ECUの制御フローを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用空調システムを構成するウォッシャノズル可動機構を示す模式的な正面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 車両用空調システム(構造物揺空調装置)
12 補助冷却装置(構造物揺空調装置)
24 ウォッシャ装置(冷却装置)
52 空調ECU(制御装置)
P フロントピラー
R 車室(構造物の内部空間)
S 自動車(構造物、車体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動することで、内部に空間を有する構造物に液体を供給する冷却装置と、
前記構造物に供給される前の前記液体の温度に基づいて、前記冷却装置の作動を制御する制御装置と、
を備えた構造物用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記液体の温度及び前記構造物の温度に基づいて、前記冷却装置の作動を制御する請求項1記載の構造物用空調装置。
【請求項3】
前記構造物は、自動車車体であり、
前記冷却装置は、作動することで前記自動車車体を構成するフロントピラーの外表面に前記液体を供給する請求項1又は請求項2記載の構造物用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−253731(P2007−253731A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79180(P2006−79180)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】